説明

PLL回路

【課題】位相比較回路と、チャージポンプと、ループフィルタと、電圧制御発振回路とがこの順に接続されてなるPLL回路において、ループ帯域幅に変動が起こっても容易に対応できるPLL回路を提供する。
【解決手段】位相比較回路は、電圧制御発振回路から出力される帰還信号と、外部より入力される基準信号とが接続される2入力を備え、チャージポンプは種々の利得に対応した電流源を備え、基準信号と位相比較回路の出力からPLLがロックしたときのロック信号を出力するPLLロック検出回路と、基準信号をカウントするカウント回路と、ロック信号とカウンタ回路のカウンタ信号からロック時のカウンタ信号をラッチするラッチ回路と、基準信号を入力する前に一定の利得に対応した電流源のコードに設定され、基準信号を入力後ロック信号及びラッチされたカウンタ信号から適切な利得に対応した電流源のコードを選択して出力する選択手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりPLL回路は広く利用されているが、その基本的な回路構成を図3に示した。PLL回路1は一般に、位相比較回路(PFD)2と、チャージポンプ20と、ループフィルタ(LF)3と、電圧制御発振回路(VCO)4より構成されている。位相比較回路2には外部からの基準信号REFと電圧制御発振回路(VCO)4からの帰還信号FBが入力しており、この位相比較回路2によりその位相差信号がチャージポンプ20を介して、ループフィルタ3に接続される。ループフィルタ3では位相差信号の不要成分を取り除いて、その出力に応じて直流電圧に変換し、電圧制御発振回路4に駆動入力する。この発振回路4では、直流電圧によって周波数の変化した信号を出力し、これがPLL回路1の出力となる。又この出力は、帰還信号FBとして位相比較回路2に入力している。基準信号REFを入力してから、このPLL回路1では信号がループを繰返し、最終的に、PLL回路1の安定した出力となる。この出力が安定するまでの期間をロックアップタイムという。このPLL回路は、シンセサイザ、データ伝送での復調回路、FM復調回路、あるいはモータ回転数制御など多様に応用されている。
【0003】
このようなPLL回路は一般に、PLL回路が安定して出力される周波数帯域を示すループ帯域幅を決めて設計される。
【0004】
公知文献を以下に示す。
【特許文献1】特開2008−177645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PLL回路は、通常半導体集積回路としてウェハープロセスにより製造される。そしてウェハープロセスで、製造のバラツキにより、ループ帯域幅にバラツキが生じることが起こっていた。また、温度等の使用環境により、ループ帯域幅が変動することもあった。このため、設計のマージンが小さくなり、設計仕様を満足できないことが起こっていた。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するもので、ウェハープロセスで、製造のバラツキにより、あるいは環境の変化により、ループ帯域幅に変動が起こっても、容易に変動に対応できるPLL回路を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる課題に鑑みなされたもので、請求項1の発明は、
少なくとも、位相比較回路と、チャージポンプと、ループフィルタと、電圧制御発振回路とがこの順に接続されてなるPLL回路において、
位相比較回路は、電圧制御発振回路から出力される帰還信号と、外部より入力される基準信号とが接続される2入力を備え、チャージポンプは種々の利得に対応した電流源を備え、さらに、基準信号と位相比較回路の出力からPLLがロックしたときのロック信号を出力するPLLロック検出回路と、基準信号をカウントするカウント回路と、ロック信号とカウンタ回路のカウンタ信号からロック時のカウンタ信号をラッチするラッチ回路と、基準信号を入力する前に一定の利得に対応した電流源のコードに設定され、基準信号を入力後ロック信号及びラッチされたカウンタ信号から適切な利得に対応した電流源のコードを選択して出力する選択手段と、
を備えたことを特徴とするPLL回路。
としたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は以上のような構成であるので、ループ帯域幅に変動が起こっても、容易に変動に対応できるPLL回路とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を実施するための最良の形態につき説明する。
【0010】
PLLループ帯域幅はそのオープンループ利得が0dBになるときの周波数であり、伝達関数は、
G(s)=Kp×Kv×Z(s)/s
と表すことができる。
ここで、KvはVCO制御電圧利得、Kpはチャージポンプを含めた位相比較回路の利得(CP利得)、Z(s)はローパスフィルタLPFの伝達関数である。ゆえに変動が起こっても、PLLループ帯域幅を一定の値にするためには、KpとKvの積を一定にすればよい。本発明のPLLは、このKpとKvの積を一定にすることで、課題を解決するものである。その積を一定にする手法としてKv変動差に対して、Kpをフィードバックする。本発明の特徴は、オープンループ利得の変動については回路設計により最適化するのではなく、実動作上のKvのばらつきに応じて、最適なKpをデジタルコードで選択することにある。
【0011】
図4は、PLLロックアップ時間とPLLループ帯域幅との特性を模式的に示した図で、横軸がロックアップ時間(単位s)、縦軸がPLLループ帯域幅(単位Hz)である。図で示したように、PLLロックアップ時間TLとPLLループ帯域幅fcとの間には、一般に、
L≒4/fc
の関係が成り立つ。すなわち、PLLロックアップ時間TLはPLLループ帯域幅fcに反比例する。これから本願発明では、KpとKvの積を一定にする手法としてロックアップ時間の変動差に対して、Kpをフィードバックすることによって、PLLループ帯域幅を一定の値(図4の目標値)にする。
【0012】
すなわち、オープンループ利得の変動ついては回路設計により最適化するのではなく、PLL実動作上のロックアップ時間のばらつきによって、最適なKpをデジタルコードで選択することに特徴がある。
【0013】
図1及び図2は、本願発明のPLL回路の一実施の形態例である。
【0014】
本例のPLL回路1は、位相比較回路PFD2と、チャージポンプCP20と、ループフィルタ(ローパスフィルタLPF3)と、電圧制御発振回路VCO4とがこの順に接続されている。位相比較回路PFD2は、電圧制御発振回路VCO4から出力される帰還信号FBと、外部より入力される基準信号REFとが接続される2入力を備え、チャージポンプ20は種々の利得に対応した電流源(図示せず)を備えている。さらに、基準信号REFと位相比較回路PFDの出力からPLLがロックしたときのロック信号を出力するPLLロック検出回路5と、基準信号REFをカウントするカウント回路6と、ロック信号とカウンタ回路のカウンタ信号からロック時のカウンタ信号をラッチするラッチ回路7と、基準信号REFを入力する前に一定の利得に対応した電流源のコード(デフォルト値)に設定され、基準信号REFを入力後ロック信号及びラッチされたカウンタ信号から適切な利得に対応した電流源のコードを選択して出力する選択手段(本例ではマルティプレクサ回路MUX8)と、を備えている。
【0015】
以下に本回路の動作を説明する。PLL回路に基準信号REFを入力する前は、選択手段のコードは、本例ではPLLループ帯域幅の設計値の利得に対応した電流源のコード(デフォルト値)に設定されている。基準信号REFを入力すると、基準信号REFの基準クロックに従ってロックアップに向け、動作する。PLLロック検出回路は、基準信号と位相比較回路の出力からロック検出を開始する。またカウンタ回路では、基準クロックのカウントを開始する。このような動作から、PLL回路がロックするとPLLロック検出回路でロックを検知し、ラッチ信号をラッチ回路に出力する。ラッチ回路では、カウンタ回路から入力されたカウント値をラッチし、MUXに出力する。MUXには、ロックした時にPLLロック検出回路からロック信号が入力され、ラッチしたクロック回路のカウントにより適切なKpの電流源のコードを選択し、CPへ選択したコードに切り替えて出力をする。
【0016】
以下に、適切なKpの電流源のコードを選択することについて述べる。図5(a)は、本例のPLL回路のロックアップ時間とループ帯域幅との特性を模式的に示した説明図で、図5(b)は、カウンタ値とロック信号出力との関係を模式的に示した説明図である。図5(a)で、PLLループ帯域幅が設計値と一致している場合、ロックアップ時間はPLLループ帯域幅が目標値(設計値)となる時間となる。しかし、図5(b)で示されるように、PLLループ帯域幅が設計値より小さい場合、ロックアップ時間は長くなり、カウンタ値も大きくなる。また、PLLループ帯域幅が設計値より大きい場合、ロックアップ時間は短くなり、カウンタ値も小さくなる。従って、ロックアップ時間が設計値に対し変動した場合は、カウンタ値もそれに従って一義的に変動した値となる。そしてロックアップ時間でPLLロック検出回路からロック信号が出力され、カウンタ値はこの時間でラッチ回路にラッチされ、MUXに入力される。この変動したカウンタ値に対応して、PLLループ帯域幅が設計値の値となるようにKpの電流源のコードをCPに設けておく。このコードをMUXで選択することによって、PLLループ帯域幅を設計値とする回路を構成することが出来る。したがって本PLL回路は、ループ帯域幅に変動が起こっても、容易に変動に対応できるPLL回路とすることができる。
【0017】
図6(a)は、PLLロック検出回路の例である。位相比較回路(PFD回路)とチャージポンプとでループフィルターをチャージするPLLでは、図1に示すように充電するUP信号と放電するDOWN信号を出力する。そしてその信号に従ってループフィルターのスイッチを動作し、充放電する。PLLがロックした場合、UP信号とDOWN信号(UP、DNと記載する)のパルス幅は最小値で同じ値となる。従ってUP、DOWNのパルス幅が最小値で同じ値となる時間を検出すれば、ロックアップ時間が検出できる。
【0018】
図7は、図1に示した一般的なチャージポンプ型のPFD回路の構成の例を示した説明図である。2つのリセット付のD型フリップフロップ(以下D−FFと記載)51、52とAND回路53で構成され、D端子には論理「1」(一般には高電圧High Voltage)、クロックにはそれぞれ比較する信号A、Bを入力する。D−FFは、クロックパルスの立ち上がりで動作する。D−FF51、52の出力Qは、それぞれUP、DNが出力される。これらの2出力は、AND回路53に入力され、その出力はリセット信号としてD−FF51、52に入力している。
【0019】
本PLLロック検出回路では、このようなPFD回路よりUP、DN、CK、P_RSTの信号の供給を受ける。P_RSTはリセット信号で、CKはリセット信号をわずかに早くした信号で、PFD回路のいずれかの部位から供給する。本回路では、2つのOR回路11、12にそれぞれ、UPとP_RST、DNとP_RSTとが供給される。その出
力が2つのD−FF13、14のデータ信号Dとして入力している。この2つのD−FF13、14のクロック信号としてはPFD回路よりCKが供給される。さらに2つのD−FF13の出力信号は、OR回路15に入力している。OR回路15の出力U_LOCKと、各入力信号のタイミングチャートを図6(b)、(c)に示した。図6(b)は、ロックされる前の状態が、DNのパルス幅がUPのパルス幅より大きい場合、(c)は、UPのパルス幅がDNのパルス幅より大きい場合を示す。破線で示すパルスが、ロックされる前の状態である。
【0020】
図6(b)のように、UPのパルス幅が最小幅で、DNがそれより広い場合、クロックCKが入力すると、DNが論理「1」であることから、出力U_LOCKは「1」となる。DNが最小幅になった場合、CKはリセット信号P_RSTよりわずかに早く、UP、DNともに論理「0」であることから、出力U_LOCKは「0」となる。
【0021】
図6(c)のように、DNのパルス幅が最小幅で、UPがそれより広い場合、クロックCKが入力すると、UPが論理「1」であることから、出力U_LOCKは「1」となる。UPが最小幅になった場合、CKはリセット信号P_RSTよりわずかに早く、UP、DNともに論理「0」であることから、出力U_LOCKは「0」となる。
【0022】
以上のように、PLLがロックしてUP、DNともにパルス幅が最小値となり、論理「1」となると、出力U_LOCKは「0」となる。しかし、一般にはこのロックする状態は図6(d)で示すように、不安定である。図は、横軸を時間、縦軸にVCO周波数とし、この周波数変化を模式的に示している。このため、図6(a)に示す回路では、リセット機能を具備したカウンタ回路16とD−FF17を設けている。カウンタ回路16の入力には、リファレンス信号を入力し、リセット端子にはU_LOCKを入力している。D−FF17のクロック端子には、カウンタ回路16の出力が入力し、データ端子Dには、論理「1」が、リセット端子にはU_LOCKを入力している。このような回路構成から、回路がロックせず、U_LOCKが論理「1」のときはカウンタ回路16とD−FF17は、リセット状態である。そしてU_LOCKが論理「0」になると、カウンタ回路がカウンタを開始し、定められたカウントTになってD−FF17にクロック信号を入力しD−FF17からロック信号LOCKを出力する。ここで、定められたカウントTを図6(d)で示す不安定な時間となるように設計しておくことで、安定したロック時間が得られる。また、カウンタ回路に入力するリファレンス信号も、このようなカウント値を満足するものであれば、特に限定されない。
【0023】
以上のようにして、本PLLロック検出回路では、安定したロックアップ時間を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のPLL回路の一例のKp確定前の回路図である。
【図2】本発明のPLL回路の例のKp確定後の回路図である。
【図3】従来のPLL回路の一例の基本的な回路構成図である。
【図4】PLLループ帯域幅とロックアップタイムとの関係を模式的に示した図である。
【図5】図5(a)は、本例のPLL回路のロックアップ時間とループ帯域幅との特性を模式的に示した説明図で、図5(b)は、カウンタ値とロック信号出力との関係を模式的に示した説明図である。
【図6】PLLロック検出回路の例を示した説明図である。
【図7】図1に示した一般的なチャージポンプ型のPFD回路の構成の例を示した説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1・・・・PLL回路
2・・・・位相比較回路
20・・・チャージポンプ
3・・・・ループフィルタ
4・・・・電圧制御発振回路
5・・・・PLLロック検出回路
6、16・・・・カウンタ回路
7・・・・ラッチ回路
8・・・・マルティプレクサ回路
11、12、15・・・・OR回路
13、14、17、51、52・・・・D型フリップフロップ回路
53・・・・AND回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、位相比較回路と、チャージポンプと、ループフィルタと、電圧制御発振回路とがこの順に接続されてなるPLL回路において、
位相比較回路は、電圧制御発振回路から出力される帰還信号と、外部より入力される基準信号とが接続される2入力を備え、チャージポンプは種々の利得に対応した電流源を備え、さらに、基準信号と位相比較回路の出力からPLLがロックしたときのロック信号を出力するPLLロック検出回路と、基準信号をカウントするカウント回路と、ロック信号とカウンタ回路のカウンタ信号からロック時のカウンタ信号をラッチするラッチ回路と、基準信号を入力する前に一定の利得に対応した電流源のコードに設定され、基準信号を入力後ロック信号及びラッチされたカウンタ信号から適切な利得に対応した電流源のコードを選択して出力する選択手段と、
を備えたことを特徴とするPLL回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−154211(P2010−154211A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330025(P2008−330025)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】