説明

PLL回路

【課題】拡散周波数が未知の拡散信号から拡散周波数成分を除去できるPLL回路を提供する。
【解決手段】一の信号の位相と他の信号の位相との差分に応じた差分信号を出力する位相比較器1、差分信号に応じた電流信号を生成するチャージポンプ回路2、電流信号を平滑化して信号n1を生成するループフィルタ9、信号n1をフィルタリングして信号n2、n5を生成するノッチフィルタ5、信号n1の位相と信号n2の位相との差分に基づいて、ノッチフィルタ5によって遮断される遮断周波数を調整する遮断周波数調整回路6、信号n5に基づいて所定の周波数の信号を発振する電圧制御発振回路3によってPLL回路を構成する。ノッチフィルタ5は、ループフィルタ9によって遮断される周波数よりも低い周波数の範囲に上限値と下限値が含まれる所定の範囲の周波数を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広い周波数帯域で安定した動作を行うことができるPLL回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、多くのオーディオデバイスや携帯電話等の機器の内部でPLL(Phase Locked Loop)回路が使用されている。機器内部のPLL回路は、クロック信号を出力するIC(Integrated Circuit)から信号を入力し、入力された信号と出力信号との位相差を検出し、入力信号に正確に同期した出力信号を出力することができる。PLL回路には、多くの場合、入力信号のノイズを除去して同期すべき適正な信号を得るためのフィルタが設けられている。
【0003】
フィルタを備えたPLL回路の従来例としては、例えば、特許文献1が挙げられる。特許文献1には、ある帯域の周波数の信号だけを通さない、リジェクションフィルタを備えたPLL周波数シンセサイザが記載されている。
ところで、近年、出力される信号によるノイズを制限するため、規格により信号のパワーを制限することがなされている。このような制限に対応するため、出力すべき信号の総パワーを一定にしたままで周波数を拡散させる、FM(Frequency Modulation)変調という方式が採用されている。
【0004】
図15は、FM変調を説明するための模式図である。図示した例では、例えばパワーP、周波数が100MHzの信号を出力すべき場合、周波数を+1〜−1MHzの範囲bで拡散させ、各周波数の信号のパワーをパワーP’以下に下げている。
クロック信号がFM変調によって拡散されている場合、PLL回路では、拡散された入力信号(以降、拡散信号とも記す)のうち、本来入力されるべき周波数(以降、中心周波数とも記す)の信号(例えば、図15において100MHzの信号)の周辺の周波数(以降、拡散周波数とも記す)を除去する必要がある。
【0005】
特許文献1として挙げたPLL周波数シンセサイザのリジェクションフィルタは、遮断周波数を変更することができる。遮断周波数の変更は、遮断周波数に対応する電圧値をリジェクションフィルタのバラクタVDに印加することによって実現できる。
このため、特許文献1記載の技術であっても、中心周波数や拡散周波数が既知でさえあれば、理論的にはFM変調された拡散信号の拡散周波数成分を除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−173524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、FM変調の具体的な方式には、クロックを出力する機器のメーカーや設計等に応じて多数のバリエーションがある。また、FM変調の方式については、メーカーによる独自の技術やノウハウがあって、具体的な拡散周波数の範囲やFM変調の仕方が開示されていない場合もある。
特許文献1のPLLシンセサイザは、遮断周波数に応じたデジタル値が予めROMに記憶されており、D/A変換機がデジタル値に応じた電圧値を出力してバラクタVDに印加する。このため、特許文献1は、遮断周波数が既知でなければノイズを除去することができない。したがって、従来技術は、遮断周波数が未知の拡散信号のノイズ除去には対応することができないことになる。
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、拡散周波数が未知の拡散信号から拡散周波数成分を除去できるPLL回路を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、本発明の請求項1のPLL回路は、一の信号の位相と、他の信号の位相との差分に応じた差分信号を出力する位相比較器(例えば図1に示したPC1)と、前記位相比較器から出力された差分信号に応じた電流信号を生成するチャージポンプ回路(例えば図1に示したCHP2)と、前記チャージポンプ回路から出力された電流信号を平滑化して第1制御信号を生成する第1フィルタ(例えば図1に示したループフィルタ9)と、前記第1制御信号をフィルタリングして第2制御信号を生成する遮断周波数可変の第2フィルタ(例えば図1に示したノッチフィルタ5)と、前記第1制御信号の位相と、前記第1制御信号が前記第2フィルタによってフィルタリングされた後の信号の位相との差分に基づいて、前記第2フィルタによって遮断される遮断周波数を調整する遮断周波数調整回路(例えば図1に示した遮断周波数調整回路6)と、前記第2制御信号に基づいて、所定の周波数の信号を発振する発振回路(例えば図1に示したVCO3)と、を備え、前記第2フィルタは、前記第1フィルタによって遮断される周波数よりも低い周波数の範囲に上限値と下限値が含まれる所定の範囲の周波数を遮断するノッチフィルタであることを特徴とする。
【0009】
請求項2のPLL回路は、請求項1において、前記遮断周波数調整回路が、前記第1制御信号と、前記第1制御信号が前記第2フィルタによってフィルタリングされた後の信号とを乗算して前記ノッチフィルタの遮断周波数を制御する遮断周波数制御信号を生成する乗算器(例えば図1に示した乗算器7)を含むことを特徴とする。
請求項3のPLL回路は、請求項2において、前記乗算器が、排他的OR回路、または排他的NOR回路であることを特徴とする。
【0010】
請求項4のPLL回路は、請求項2または3において、前記遮断周波数調整回路が、前記遮断周波数制御信号をフィルタリングし、前記遮断周波数制御信号を一定の電圧値を持った信号にするフィルタ回路(例えば図1に示したLPF8)を含むことを特徴とする。
請求項5のPLL回路は、請求項1〜4のいずれか1項において、前記第2フィルタは、前記第1フィルタから信号が入力される容量素子(例えば図3に示した容量素子12)と、前記容量素子に直列に接続されるインダクタンス素子(例えば図3に示したインダクタンス素子11)と、を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項6のPLL回路は、請求項5において、前記容量素子が容量を変更可能な可変キャパシタであって、前記遮断周波数制御信号は、前記可変キャパシタの容量を変更する信号であることによって前記第2フィルタの遮断周波数を制御することを特徴とする。
請求項7のPLL回路は、請求項1〜6のいずれか1項において、前記遮断周波数調整回路を所定の期間だけ稼働させ、前記所定の期間を除く期間には電源(例えば図14に示した電源21)による電力供給を停止する電力供給制御手段(例えば図14に示した制御回路20)をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明は、第1フィルタと、第1フィルタによって遮断される周波数よりも低い周波数の範囲に上限値と下限値が含まれる所定の周波数を遮断するノッチフィルタとを備えるため、入力信号に含まれる任意の周波数のうち、任意の範囲の周波数をフィルタリングして除去することができる。また、第2フィルタであるノッチフィルタの遮断周波数を調整することができるので、入力された拡散信号の拡散周波数が未知である場合にも、ノッチフィルタによって拡散周波数成分を除去し、拡散のない、出力すべき周波数の信号を発振回路から出力させることができる。
【0013】
請求項2の発明は、遮断周波数調整回路が、第1制御信号と第1制御信号が第2フィルタによってフィルタリングされた後の信号とを乗算して遮断周波数制御信号を生成することができる。このため、第1制御信号と第1制御信号が第2フィルタによってフィルタリングされた後の信号との位相のずれに基づいて第2フィルタのフィルタ特性を決定することができる。
【0014】
請求項3の発明は、乗算器を排他的OR回路、または排他的NOR回路とすることにより、比較的簡易な論理で第1制御信号と第1制御信号が第2フィルタによってフィルタリングされた後の信号との位相のずれを判定することができる。
請求項4の発明は、前記遮断周波数調整回路は、前記遮断周波数制御信号をフィルタリングし、前記遮断周波数制御信号を一定の電圧値を持った信号にする。このため、遮断周波数制御信号の扱いが簡易になって、遮断周波数調整回路の構成を簡易化することが可能になる。
【0015】
請求項5の発明は、第1フィルタから信号が入力される容量素子と、容量素子に直列に接続されるインダクタンス素子とによって第2フィルタを構成することができる。このため、比較的簡易な構成で第2フィルタを実現することができる。
請求項6の発明は、可変キャパシタの容量を変更することにより、比較的簡易に第2フィルタの遮断周波数を調整することができる。
請求項7の発明は、遮断周波数調整回路を所定の期間だけ稼働させ、前記所定の期間を除く期間には電源の供給を停止させることができる。このため、PLL回路を省力化し、小型化に有利な機器を提供することに寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1のPLL回路を説明するための回路図である。
【図2】図1に示したPLL回路によって除去される周波数を説明するための図である。
【図3】図1に示したノッチフィルタを説明するための図である。
【図4】図1に示したノードN5の信号を説明するための図である。
【図5】図1に示したノードN2の信号を説明するための図である。
【図6】図1に示した乗算器の構成例を示した図である。
【図7】図1に示したローパスフィルタの構成例を示した図である。
【図8】図1に示した各ノードについて、拡散周波数が、ノッチフィルタの遮断周波数に一致している場合の信号を説明するための図である。
【図9】図1に示した各ノードについて、ノッチフィルタの遮断周波数が、拡散周波数よりも低い場合の信号を説明するための図である。
【図10】図1に示した各ノードについて、ノッチフィルタの遮断周波数が、拡散周波数よりも高い場合の信号を説明するための図である。
【図11】図8に示した矩形波に対応するアナログ波を示した図である。
【図12】図9に示した矩形波に対応するアナログ波を示した図である。
【図13】図10に示した矩形波に対応するアナログ波を示した図である。
【図14】実施形態2のPLL回路を説明するための回路図である。
【図15】FM変調を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図を参照して本発明に係るPLL回路の実施形態1、実施形態2を説明する。
・実施形態1
(回路構成)
図1は、実施形態1のPLL回路を説明するための回路図である。
図1に示したPLL回路は、位相比較器(図中、PC(Phase Comparator)と記す)1、可変チャージポンプ回路(図中、CHP(Charge pump)と記す)2、ループフィルタ(図中、Loop Filterと記す)9、電圧制御発振回路(図中、VCOと記す)3、可変分周器(図中、DIV(divider)と記す)4を備えている。ループフィルタ9は、ローパスフィルタとして機能するフィルタである。
【0018】
また、実施形態1に示したPLL回路は、遮断周波数が変更可能である(遮断周波数可変の)ノッチフィルタ5を備え、ノッチフィルタ5は、入力された信号の拡散周波数によらずノッチフィルタ5がノイズを除去できるよう調整する、遮断周波数調整回路6を備えている。ノッチフィルタ5、遮断周波数調整回路6については後に詳述する。
上記したPLL回路において、位相比較器1は、入力信号と、可変分周器4とから出力される分周信号との位相を比較し、アップ信号(位相進み信号)UPまたはダウン信号(位相遅れ信号)DNを生成する。生成されたアップ信号UP、あるいはダウン信号DNは、可変チャージポンプ回路2に入力される。可変チャージポンプ回路2は、位相比較器1からのアップ信号UPまたはダウン信号DNに基づいて電流(チャージポンプ電流)を入出力するとともに、そのチャージポンプ電流の値を任意の値に設定することができる。
【0019】
ループフィルタ9は、ローパスフィルタであって、可変チャージポンプ回路2の出力信号を平滑化して制御電圧を生成して出力する。この制御電圧により、ループフィルタ9を透過できない高周波成分が出力信号から除去されることになる。制御電圧は、ループフィルタ9からノッチフィルタ5に入力される。
電圧制御発振回路3は、ノッチフィルタ5から出力される制御電圧の値に基づいて固有周波数をもつ発振信号を生成し、出力する。可変分周器4は、電圧制御発振回路3からの出力信号を分周数Nで1/Nに分周し、分周信号を位相比較器1に出力する。
【0020】
なお、図1中示したN1〜N5は、各々PLL回路のノードを特定する符号である。各ノードの信号については、後に説明する。
図2は、図1に示したPLL回路によって除去される信号の周波数成分を説明するための図である。図2に示した周波数の範囲のうち、範囲a2の周波数はループフィルタ9によって除去される周波数成分である。また、範囲a1にある周波数成分は、ノッチフィルタ5によって除去される。範囲a1の周波数成分は遮断周波数調整回路6によって拡散信号の拡散周波数に合わせて自動的に変更される。なお、拡散信号の中心周波数は、範囲a2の範囲に含まれている。このため、実施形態1では、ノッチフィルタ5に範囲a1の周波数成分の信号に関する成分だけが入力される。
【0021】
(ノッチフィルタ)
図3(a)、(b)、(c)は、図1に示したノッチフィルタ5を説明するための図である。図3(a)のように、実施形態1のノッチフィルタ5は、アンプ10、インダクタンス素子11、容量素子12を備えている。ノッチフィルタ5は、ループフィルタ9から信号が入力される容量素子12と、容量素子12に直列に接続されるインダクタンス素子11と、を含んでいる。容量素子12は、容量が可変であって、容量が小さいほどノッチフィルタ5の特性(ノッチフィルタ5によって遮断される周波数成分の範囲)を高帯域に設定することができる。なお、図3に示したノッチフィルタ5のうち、アンプ10は必須の構成ではない。ただし、アンプ10を設けることにより、ループフィルタ9の定数と独立にL・Cの値を決定することが可能になる。
【0022】
図3(b)、(c)は、容量素子12の具体的な構成を例示した図である。図3(b)に示した容量素子には、ノードN4の信号が制御信号として入力されている。ノード4の信号の電圧値が高いほど、容量素子12の容量値が大きく、電圧値が低いほど、容量素子12の容量値が小さく設定される。また、図3(c)に示した容量素子は、スイッチと容量素子との対を複数設け、容量値に合わせてスイッチがオン、オフされるよう構成されている。
【0023】
ここで、図3(a)に示したノードN5、ノードN2に出力される信号について説明する。図4は、図1に示したノードN5の信号を説明するための図であって、図4(a)はノードN5の信号のゲイン特性を示している。また、図4(b)は、ノードN5の信号の位相特性を示している。また、図5は、ノードN2の信号を説明するための図であって、図5(a)はノードN2の信号のゲイン特性を示している。また、図5(b)は、ノードN2の信号の位相特性を示している。
【0024】
図4、図5から明らかなように、ノードN5の信号は、ノッチフィルタ5によって遮断される周波数成分を中心にして位相が−90度から+90度に急激にシフトする。このため、ノードN5の信号は、位相検出に適さない。一方、ノードN2の信号では、ノッチフィルタ5によって遮断される周波数成分を境に位相が連続して変化するから、位相が90度変化する周波数成分を簡易に検出することができる。このため、実施形態1では、ノードN2の信号をノッチフィルタ5から遮断周波数調整回路6に入力し、ノードN1の信号の位相とノードN2信号の位相とを合わせこむように、ノッチフィルタ5の遮断周波数が制御される。
【0025】
(遮断周波数調整回路)
(1)構成
遮断周波数調整回路6は、図1に示したように、乗算器7とローパスフィルタ(図中、LPF(low-pass filter)と記す)8とによって構成されている。乗算器7は、ノードN1の信号とノードN2の信号とを乗算する排他的NOR(EX−NOR(Exclusive NOR))回路である。また、ローパスフィルタ8は、乗算された信号の高周波成分を除去する回路である。
図6は、図1に示した乗算器7の構成例を示した図である。図示した乗算器7は、Δアナログ乗算回路(ギルバートセル)である。図中に示したVCには、ノードN1、ノードN2にかかるDC電圧に等しい電圧が印加される。また、図7は、図6に示した電位VCを生成するためのローパスフィルタ18の構成例を示した図である。図7に示したローパスフィルタ18により、ノードN1、ノードN2の電位と等しい電位VCが決定される。電位VCは、各ノードの信号の基準となる電位である。なお、このローパスフィルタ18は、拡散周波数成分を除去するために十分低い遮断周波数をもったフィルタであればどのような構成であってもよい。
【0026】
(2)動作
以下、図8〜図10を用い、図1に示したPLL回路のノードN1、N2、N3、N4の信号を示し、実施形態1の遮断周波数調整回路6がノッチフィルタ5の遮断周波数を調整する動作を説明する。なお、実施形態1では、説明の簡単のため、図8〜図10の信号を矩形波で示して説明するものとする。
図8は、拡散周波数が、ノッチフィルタ5の遮断周波数に一致している場合の各ノードの信号を説明するための図である。図8(a)は、ノードN1の信号を示し、(b)はノードN2の信号を示し、(c)はノードN3の信号を示し、(d)はノードN4の信号を示している。以降、説明の簡単のため、ノードN1の信号を信号n1、ノードN2の信号を信号n2、ノードN3の信号を信号n3、ノードN4の信号を信号n4とも記すものとする。
【0027】
図8(a)に示した信号n1がノードN1からノッチフィルタ5に入力された場合、ノッチフィルタ5の遮断周波数が信号n1の周波数に一致していれば、図4(a)に示したように、ノードN5の信号が減衰される。このとき、ノードN2からは図8(b)に示した信号n2が出力される。信号n2の位相は、図5(b)に示したように、信号n1に対して90度分だけずれることになる。
信号n1と信号n2とは、乗算器7に入力される。前記したように、乗算器7は排他的NOR回路であるから、乗算器7からは信号n1と信号n2とのhigh、またはLowが一致している場合にhigh、不一致の場合にLowの信号が出力される。乗算器7から出力される信号を、ノードN3の信号n3として図8(c)に示す。
【0028】
信号n3は、LPFに入力される。LPFでは、図8(c)に示した高周波成分が除去されて、図8(d)に示した信号n4が生成される。信号n4は、図8(d)に示したように、一定の電圧値、(1/2)VDDを持つ信号である。信号n4は、ノッチフィルタ5の遮断周波数を制御する制御信号となる。
信号n4は、ノッチフィルタ5に容量素子の容量を調整する信号として入力される。実施形態1では、信号n4の電圧値が(1/2)VDDである場合、ノッチフィルタ5が図3に示した容量素子12の容量を維持するよう制御される。このため、ノッチフィルタ5の遮断周波数が拡散周波数に一致した場合、ノッチフィルタ5の遮断周波数が固定される。
【0029】
図9は、ノッチフィルタ5の遮断周波数が、拡散周波数よりも低い場合の各ノードの信号を説明するための図である。図9(a)は、ノードN1の信号n1を示し、(b)はノードN2の信号n2を示し、(c)はノードN3の信号n3を示し、(d)はノードN4の信号n4を示している。
図9(a)に示した信号n1がノードN1からノッチフィルタ5に入力された場合、ノッチフィルタ5の遮断周波数が信号n1の周波数よりも低ければ、ノードN2から図9(b)に示した信号n2が出力される。信号n2の位相は、図5(b)に示したように、信号n1に対して90度〜180度の範囲で遅れることになる。なお、図9(a)、(b)は、180度ずれた例を示している。
【0030】
信号n1と信号n2とは、乗算器7に入力される。乗算器7から出力される信号を、ノードN3の信号n3として図9(c)に示す。信号n3は、LPFに入力される。LPFからは図9(d)に示した信号n4が生成される。信号n4は、図9(d)に示したように、0Vの電圧値を持っている。前述したように、ノッチフィルタ5は信号n4が低いほど容量素子の容量値が小さくなって遮断周波数が高くなる。このため、信号n4が(1/2)・VDD以下の電圧値を持つ場合、ノッチフィルタ5の遮断周波数は、より高帯域にシフトされる。
【0031】
図10は、ノッチフィルタ5の遮断周波数が、拡散周波数よりも高い場合の各ノードの信号を説明するための図である。図10(a)は、ノードN1の信号n1を示し、(b)はノードN2の信号n2を示し、(c)はノードN3の信号n3を示し、(d)はノードN4の信号n4を示している。
図10(a)に示した信号n1がノードN1からノッチフィルタ5に入力された場合、ノッチフィルタ5の遮断周波数が信号n1の周波数よりも高ければ、ノードN2から図10(b)に示した信号n2が出力される。信号n2の位相は、図5(b)に示したように、信号n1に対して0度〜90度の範囲で遅れることになる。なお、図10(a)、(b)は、位相のずれがない(位相のずれが0度)例を示している。
【0032】
信号n1と信号n2とは、乗算器7に入力される。乗算器7から出力される信号を、ノードN3の信号n3として図10(c)に示す。信号n3は、LPFに入力される。LPFからは図10(d)に示した信号n4が生成される。信号n4は、図10(d)に示したように、VDDの電圧値を持っている。前述したように、ノッチフィルタ5は信号n4が高いほど容量素子の容量値が大きくなって遮断周波数が低くなる。このため、信号n4が(1/2)・VDD以上の電圧値を持つ場合、ノッチフィルタ5の遮断周波数は、より低帯域にシフトされる。
【0033】
図8〜図10では、信号n1、n2、n3、n4を矩形波で示した。しかし、実際の信号n1〜n4はアナログ波である。このため、図8に示した矩形波に対応するアナログ波を図11、図9に示した矩形波に対応するアナログ波を図12、図10に示した矩形波に対応するアナログ波を図13に示す。
図11(a)、(b)、(c)に示すように、ノッチフィルタ5の遮断周波数が信号n1の周波数に一致している場合、信号n2は信号n1の位相と位相が90度ずれた形で出力される。このとき、信号n3は、以下の式(1)で導出できる。式(1)によれば、信号n3は、信号n1、信号n2の2倍の周波数を持ち、DC成分が0の信号となる。
sinωt×cosωt=(1/2)×sin(2ω)t+0 …式(1)
【0034】
また、図12(a)、(b)、(c)に示すように、信号n2が信号n1の位相と位相が90〜180度の範囲でずれた形で出力される(図12では位相が180度ずれた例を示している)。このとき、信号n3は、以下の式(2)で導出できる。式(2)によれば、信号n3は、図12(c)に示すように、信号n1、信号n2の2倍の周波数を持ち、DC成分が−1/2の信号となる。信号n3は、図12(d)に示すように、ローパスフィルタ8によってDC成分の−1/2Vだけの信号n4になる。
sinωt×−sinωt=−(sinωt)2=−(1/2)(1−cos2ωt)
=−(1/2)+cos2ωt …式(2)
【0035】
また、図13a)、(b)、(c)に示すように、信号n2が信号n1の位相と位相が0〜90度の範囲でずれた形で出力される(図13では位相が一致している例を示している)。このとき、信号n3は、以下の式(3)で導出できる。式(3)によれば、信号n3は、図13(c)に示すように、信号n1、信号n2の2倍の周波数を持ち、DC成分が1/2の信号となる。信号n3は、図13(d)に示すように、ローパスフィルタ8によってDC成分の1/2Vだけの信号n4になる。
sinωt×sinωt=(sinωt)2=(1/2)(1−cos2ωt)
=(1/2)−cos2ωt …式(3)
【0036】
以上のようにして、実施形態1は、ノッチフィルタ5の遮断周波数を信号n1及び信号n2の位相の相違によってノッチフィルタ5の遮断周波数を変更し、信号n1の周波数を効果的に減衰させることができる。実施形態1では、拡散周波数を除く入力信号と出力信号との位相の相違に基づく周波数の相違がループフィルタによって除去される。このため、ノッチフィルタ5には拡散周波数によって生じる位相の相違分だけが入力され、ここで信号n1を十分減衰させることにより、電圧制御発振回路を、拡散周波数を含まない出力信号を発振させるように制御することができる。
【0037】
また、実施形態1は、以上のような構成に限定されるものではない。例えば、ループフィルタ、ノッチフィルタ5、乗算器7、ローパスフィルタ8のいずれもが、実施形態1で図示した構成に限定されるものではなく、実施形態1で説明した機能を有する構成であれば、どのような回路に置き換えることも可能である。
特に乗算器7として機能する排他的NOR回路は、排他的OR回路とすることも可能である。ただし、この場合、例えば制御信号の電圧値が高いほど容量素子の容量を小さく、制御信号の電圧値が低いほど容量素子の容量を大きく設定する等の実施形態の変更が必要になる。
【0038】
・実施形態2
(構成)
次に、本発明の実施形態2について説明する。実施形態2は、PLL回路が携帯電話機や音楽プレーヤー等の携帯機器に組み込まれる際、消費電力の低減が重要になることに鑑みてなされたものである。また、ノッチフィルタ5の遮断周波数は、温度に依存して変化することが知られている。しかし、一般的な屋外、あるいは屋内環境において機器の環境温度が大きく変化するケースは多くないと思われる。
実施形態2は、この点に着目し、ノッチフィルタ5の遮断周波数が入力信号の拡散周波数に一致した場合、以降は遮断周波数調整回路6への電力供給を停止し、省力化に有利なPLL回路を提供するものである。
【0039】
図14は、本発明の実施形態2を説明するための図である。実施形態2のPLL回路は、遮断周波数調整回路6を所定の期間だけ稼働させ、所定の期間を除く期間には電源21の供給を停止する制御回路20を備えている。
すなわち、実施形態2では、電源21から供給される電力がs1、s2の二系統に分岐される。そして、系統s2を遮断周波数調整回路6に電力を供給するものとし、系統s1を、PLL回路の遮断周波数調整回路6を除く部分(以降、PLL回路本体とも記す)に電力を供給するものとする。このように構成することにより、所定の期間には系統s1、s2を使って遮断周波数調整回路6及びPLL回路本体の両方に電力が供給される。また、他の期間には、系統s1からPLL回路本体にのみ電力を供給することができる。
【0040】
なお、所定の期間とは、例えば、PLL回路が動作を開始してからノッチフィルタ5の遮断周波数が拡散周波数に一致すると思われる十分な時間が考えられる。このように構成する場合、制御回路20は動作開始から図示しないタイマを使って動作時間を計時し、計時が完了したタイミングで系統s2の電力供給を停止する。なお、タイマの計時時間は、PLL回路の仕様や拡散周波数の範囲等によって決定される。
さらに、上記のように構成した場合、系統s2による電力供給を停止した後、所定の時間の経過後に繰返し系統s2から電力を供給し、遮断周波数調整回路6を動作させてもよい。このようにすれば、消費電力低減の効果は低下するものの、ノッチフィルタ5の拡散周波数除去に対する信頼性を高めることができる。
【0041】
また、所定の期間として、一定の時間を定めるものでなく、ノッチフィルタ5の遮断周波数が拡散周波数と一致したことを制御回路20が検出して遮断周波数調整回路6を停止するようにしてもよい。このような制御は、例えば、以下のようにして実現できる。すなわち、ノッチフィルタ5の遮断周波数が適正な周波数にロックされた場合、乗算器7に出力される信号のDC成分が0になり、乗算器7には常に0の信号が出力される。
制御回路20は、乗算器7に信号0が出力されたことを検出し、遮断周波数調整回路6への電力供給を停止するようにしてもよい。このようにすれば、電圧制御発振回路3から適正な周波数の信号が出力されたタイミングで遮断周波数調整回路6を停止し、効果的に消費電力を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のPLL回路は、携帯電話機や音楽プレーヤーといった音声信号を処理し、かつ小型化することが望ましい機器に特に適している。また、本発明のPLL回路は、FM変調された入力信号を処理する構成に適していて、特に、FM変調の拡散周波数や周波数の拡散方式が未知の場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 位相比較器
2 可変チャージポンプ回路
3 電圧制御発振回路
4 可変分周器
5 ノッチフィルタ
6 遮断周波数調整回路
7 乗算器
8 ローパスフィルタ
9 ループフィルタ
10 アンプ
11 インダクタンス素子
12 容量素子
20 制御回路
21 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の信号の位相と、他の信号の位相との差分に応じた差分信号を出力する位相比較器と、
前記位相比較器から出力された差分信号に応じた電流信号を生成するチャージポンプ回路と、
前記チャージポンプ回路から出力された電流信号を平滑化して第1制御信号を生成する第1フィルタと、
前記第1制御信号をフィルタリングして第2制御信号を生成する遮断周波数可変の第2フィルタと、
前記第1制御信号の位相と、前記第1制御信号が前記第2フィルタによってフィルタリングされた後の信号の位相との差分に基づいて、前記第2フィルタによって遮断される遮断周波数を調整する遮断周波数調整回路と、
前記第2制御信号に基づいて、所定の周波数の信号を発振する発振回路と、
を備え、
前記第2フィルタは、前記第1フィルタによって遮断される周波数よりも低い周波数の範囲に上限値と下限値が含まれる所定の範囲の周波数を遮断するノッチフィルタであることを特徴とするPLL回路。
【請求項2】
前記遮断周波数調整回路は、前記第1制御信号と、前記第1制御信号が前記第2フィルタによってフィルタリングされた後の信号とを乗算して前記ノッチフィルタの遮断周波数を制御するための遮断周波数制御信号を生成する乗算器を含むことを特徴とする請求項1に記載のPLL回路。
【請求項3】
前記乗算器が、排他的OR回路、または排他的OR回路であることを特徴とする請求項2に記載のPLL回路。
【請求項4】
前記遮断周波数調整回路は、前記遮断周波数制御信号をフィルタリングし、前記遮断周波数制御信号を一定の電圧値を持った信号にするフィルタ回路を含むことを特徴とする請求項2または3に記載のPLL回路。
【請求項5】
前記第2フィルタは、前記第1フィルタから信号が入力される容量素子と、前記容量素子に直列に接続されるインダクタンス素子と、を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のPLL回路。
【請求項6】
前記容量素子が容量を変更可能な可変キャパシタであって、前記遮断周波数制御信号は、前記可変キャパシタの容量を変更する信号であることによって前記第2フィルタの遮断周波数を制御することを特徴とする請求項5に記載のPLL回路。
【請求項7】
前記遮断周波数調整回路を所定の期間だけ稼働させ、前記所定の期間を除く期間には電源による電力の供給を停止する電力供給制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のPLL回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−49963(P2011−49963A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198225(P2009−198225)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(303046277)旭化成エレクトロニクス株式会社 (840)
【Fターム(参考)】