説明

PTFE製チューブ

【課題】本発明は、従来と比べて肉厚が7〜50μmと薄いチューブを得ることを課題とする。
【解決手段】電離放射線を照射したポリテトラフルオロエチレン樹脂に押出助剤を加えた組成物を、チューブ押出機を用いたペースト押出し成形法により成形して得られるPTFE製チューブであり、前記樹脂の電離放射の吸収線量が200〜4000Gyであるとともに、前記組成物の質量混合比率が、前記樹脂:押出助剤=86〜81:14〜19(質量%)であり、前記押出機における絞り比が14000以下であり、更に肉厚寸法が7〜50μmであることを特徴とするPTFE製チューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にカテーテルや薬液供給ラインチューブに有用なPTFE製チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PTFE製の極薄肉(60μm以下)チューブの成形方法として、PTFEの水分散液を芯線となる金属線に塗布、焼付、焼結した後、芯線を抜取ることにより得る手法が用いられている。こうした手法が採用されるのは、PTFEの溶融時の粘度が1011〜1012ポイズ/380℃程度と極めて高く、通常の溶融成形やインフレーション成形等ができないことによる。
【0003】
しかし、上述した芯線を抜取る方法では、ピンホールができ易い、成形物の寸法がばらつき易い、成型品の強度が低い、長尺品、径寸法が大きいものを取得するのが難しい等の問題があった。
【0004】
一方、PTFEのファインパウダーを用い、通常のチューブあるいは電線を成形する手法として、特有の成形であるペースト押出し法を用いる手法が知られている。しかし、この手法で口径が小さな(φ3以下程度の)極薄肉チューブを成形しようとする場合、現在上市されているファインパウダーの押出機における絞り比(RR:Reduction Ratio)の上限である4000を超え、本成形方法特有の樹脂の組成変形を行う際に異常なせん断を引起し、満足な成形品を得ることができない。また、原材料樹脂の適正RR域での成形をしようとすると、φ3以下程度の場合、成形設備のシリンダー径を極めて小さくする必要があり、実用的でない。
【0005】
また、仮に成形設備のシリンダーを小さくしても原材料樹脂パウダーの流動性が悪く、予備成形時の圧力が不均一になり、押出成形体への不具合が発生する。例えば、内外径寸法の変動が大きくなったり、偏肉が発生し、場合によっては破断が発生する。更に、予備成形体自体の強度が低い為に押出シリンダー投入時に破損する等の問題がある。更には、口径が大きなチューブを成形しようとする場合は、成形金型の接触抵抗が大きくなるため、押出圧力が上昇すること、せん断不良を起こすこと等から満足な成形品を得ることができない。
【0006】
更に、発明者らが既に出願した特許においては、ポリテトラフルオロエチレンを電離放射線によって改質する手段が提供され公知となっているが、係る方法がポリテトラフルオロエチレンファインパウダーの成形性を制御するに有効な手段であることを容易に類推することは困難な状況にある。例えば、無酸素雰囲気の中で当該樹脂の融点下に電離放射線を照射して樹脂を架橋せしめる方法(特許文献1)や、成形品の機械的特性に有為な特徴を与えるために成形用のポリテトラフルオロエチレンパウダーに予め電離放射線を照射する方法(特許文献2)が知られているものの、何ら成形性の特徴を示唆するに至っていない。
【特許文献1】特開平6−116423号公報
【特許文献2】特開2001−335643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、従来と比べて肉厚を7〜50μmと薄くすることが可能なPTFE製チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、こうした状況を打開するためポリテトラフルオロエチレンファインパウダーに電離放射線を照射し、様々な条件下で極薄肉チューブ及び小径ロッドの押出し成形を繰り返し実験することにより本発明を究明するに至った。
【0009】
本発明に係るPTFE製チューブは、電離放射線を照射したポリテトラフルオロエチレン樹脂に押出助剤を加えた組成物を、チューブ押出機を用いたペースト押出し成形法により成形して得られるPTFE焼成チューブであり、前記樹脂の電離放射線の吸収線量が200〜4000Gyであるとともに、前記組成物の質量混合比率が、前記樹脂:押出助剤=86〜81:14〜19であり、前記押出機における絞り比が14000以下であり、更に肉厚寸法が7〜50μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来と比べて肉厚を7〜50μmと薄くすることが可能なPTFE製チューブが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明において、樹脂の電離放射線の吸収線量を200〜4000Gy(グレイ)とするのは、吸収線量が200Gy未満では押出圧力の低減効果が得られず、4000Gyを越えると成形品の機械的強度が低下するからである。
【0012】
本発明において、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)と押出助剤の混合比を86〜81:14〜19とするのは、押出助剤の混合比が14未満では押出圧力が上昇しせん断異常が発生し、押出助剤の混合比が19を超えると押出圧力は降下するものの機械的強度や寸法精度が低下するので好ましくないからである。
【0013】
本発明において、チューブ押出機における絞り比を14000以下にするのは、絞り比が14000を超えると、押出圧力が高くなり過ぎ、せん断不良を引き起こし、これにより例えばチューブ表面への傷、偏肉等の不具合が発生する傾向があるからである。なお、上記絞り比に設定することにより、高い絞り比であるにも係わらず、適正な圧力下で極薄肉チューブを押出すことができる。
【0014】
前記チューブ押出機における絞り比について、図1を参照して説明する。図中の符番1はシリンダーを示し、該シリンダー1の下部にシールリング2を介してダイ3が配置されている。また、このダイ3の下部には、外周部にバンドヒーター4が巻かれたダイス5が配置されている。前記シリンダー1の内側には、ラム6やラムヘッド7を介してマンドレル8が配置されている。前記マンドレル8の下部には、チップ9が連結されている。一般的には、前記ダイス5の先端部(下端部)には、センターリングブッシュ10が挿着される。
なお、前記ダイ3における中央部の傾斜した傾斜角(θ)は30〜60°である。高RRにて成形する場合においては、傾斜角(θ)は10〜20°とする。また、ダイス部分はバンドヒーター4等により温度:50〜60℃に加熱される。
【0015】
こうした構成の押出機において、図1に示すように、シリンダー−マンドレル部の断面積をS、ダイス−チップの断面積をSとしたとき、前記RRはS/Sとなり、RRが高いほど絞り比が大きくなる。
【0016】
図2は、芯線入りチューブ押出機の概略断面図を示す。但し、図1と同部材は同符番を付して説明する。図中の符番11はガイドチューブであり、このガイドチューブ11内に芯線12が挿入される。ダイ5のストレート部とガイドチューブ11間には、クリアランスが設けられている。なお、図中の符番14は、2分割された筒状の枠体15a,15bを固定する環状のクランプを示す。
【0017】
本発明において、前記電離放射線としては、電磁波としてのX線,γ線,荷電粒子としてのβ線,陽電子,電子,α線,陽子,重陽子,重イオン,中間子、その他荷電を持たない素粒子の単独あるいはこれらの混合放射線が挙げられる。本発明においては、照射に必要な吸収線量が極めて少ないことと、一般的な照射設備として大量の粉末に対して均一な吸収線量を一度に照射することができるので、γ線が推奨される。
【0018】
本発明において、前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂は、乳化重合によって得られるファインパウダーであることが好ましい。
本発明において、前記押出助剤としては、ポリテトラフルオロエチレンが濡れてペースト状になり、且つ400℃程度の加熱により蒸発し炭素分を残さない有機溶剤であればその種類を選ばないが、例えば汎用されるソルベントナフサ(例えば、登録商標:IsoperE、エクソン化学社製)、ホワイトオイル、炭素数6〜12の流動パラフィン(例えば、登録商標:カクタスノルマルパラフィンN−10、(株)ジャパンエナジー製)の少なくとも何れか1つであることが好ましい。
【0019】
(作用)
本願発明によれば、以下のようなメリットが得られる。
(1)7〜50μmの薄肉のチューブが得られる。
(2)成形品の表面の外観傷、成形自体の破れ等の発生を低減できる。
(3)粉体同士の凝集が緩和されるため、PTFEファインパウダーの流動性が上がる。
その結果、生産性即ち1バッチあたりの条長を長くすることが可能となり、外観傷、破れ等の不良品の発生を削減することができる。
【0020】
次に、実施例により、さらに本発明を詳述する。
【0021】
(実施例1)
下記表1−2に示すような条件で薄肉チューブを得た。即ち、まず、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)としては、三井・デュポンフロロケミカル社製のテフロン(登録商標)640−Jを使用した。この樹脂にCo60(電離放射線)を線源とするγ線を3000Gyの吸収線量にて照射処理した。次に、電離放射線を照射した樹脂パウダー100重量部に対してナフサ21重量部を加えた後、ターブラーミキサーを用いて常温にて混合した。つづいて、この混合物を予備成形機にて円筒状に成形した後、φ2.6ダイス及びφ2.58コアピンを取り付けたペースト押出機に投入し、押出成形した。更に、この押出された成形品を180〜200℃に設定した加熱炉にて押出助剤を除去した後、380〜400℃に設定した加熱炉を通し焼成させ、外径φ2.24mm,肉厚7μmのチューブを得た。
【0022】
RR、焼成後の肉厚、押出圧力、未焼成引張強さ、未焼成伸び、外観は、下記表1−2に示すとおりである。実施例1によれば、外観の良い薄肉チューブを得ることができた。
【0023】
(実施例2〜22、比較例1,2)
上記実施例1と同様な手順で下記表1−1、表1−2に示す条件で薄肉チューブを得た。その結果、実施例7、18、19、22は外観に若干の不具合があったが、他の実施例は良好な外観を示した。これ対し、比較例1,2の場合は、押出機による押出しができなかった。
【表1−1】

【0024】
【表1−2】

また、上記実施例、比較例以外に、チューブ寸法、組成物の質量混合比、RRを種々変えて、γ線を照射しないで薄肉チューブの製作を試みたところ、良好なチューブが得られなかった。
【0025】
なお、実施例1〜22及び放射線処理しない(未処理)場合における押出圧力、押出不良品の発生等は下記表2に示すとおりである。
【表2】

【0026】
(実施例23)
まず、PTFEとしては、三井・デュポンフロロケミカル社製のテフロン(登録商標)640−Jを使用した。この樹脂にCo60(電離放射線)を線源とするγ線を3000Gyの吸収線量にて照射処理した。次に、電離放射線を照射した樹脂パウダー100重量部に対してナフサ21重量部を加えた後、ターブラーミキサーを用いて常温にて混合した。つづいて、この混合物を予備成形機にて円筒状に成形した後、φ2.6ダイス、またガイドチューブ(チップ)を取り付けた押出機に投入し、ガイドチューブの内径から外径φ2.58の銀メッキした銅線を芯材として通し、押出と同調させて引張り、180〜200℃に設定した加熱炉にて押出助剤を除去した。次いで、380〜400℃に設定した加熱炉を通り焼成させ、芯線の上にPTFE層が被覆された成形品を得た。この後、この成形品を定尺にカットし、芯材である銀メッキされた銅線を両端から引張り、引き伸ばし、被覆したPTFE層から引き抜いて内径φ2.58mm、肉厚7〜8μmのチューブを得た。
【0027】
実施例23の芯線入り押出チューブは、押出チューブのみで製造する場合と比較して次の利点を有する。即ち、押出チューブに芯線を入れて押し出すことによって、チューブ内径、外径の寸法の安定の向上、即ちチューブ形状が安定化する。具体的には、押出し圧力が低下するので、より薄い肉厚のチューブを押し出すことが可能となる。また、未焼成押出チューブ成形後に焼成炉に移動する工程でチューブに外圧がかかり、チューブが変形するのを抑制することができる。
【0028】
(比較例3)
まず、PTFEの水性分散液としては、旭硝子(株)製のテフロン(登録商標)AD−912を使用した。この水性分散液に界面活性剤と蒸留水を添加し、PTFE成分濃度を54wt%になるように調整したものに外径φ2.58の銀メッキされた銅線を浸し、一定の速度で引き上げた。つづいて、140〜180℃に設定した加熱炉にて水分を除去し、さらに380〜400℃に設定した加熱炉にて焼成させ、芯材の上にPTFE層が被覆された成形品を得た。この後、この成形品の芯材である銀メッキされた銅線を両端から引張、引き伸ばし、被覆したPTFE層から引き抜いて、内径φ2.58、肉厚20μmのチューブを得た。
【0029】
このようにして得られたチューブの外観を目視にて確認したところ、特に目立った表面の凹凸やキズは見受けられなかった。また、得られたチューブを引張試験機にて長さ方向へ引張試験した結果、引張強さ14.5MPa、伸び130%であり、ペースト押出法にて得られたチューブのものと比較して明らかに低く、測定値のバラツキ、破断状態の観察からピンホールの発生によるものと推測された。
【0030】
なお、この発明は、上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施の形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るチューブ押出機の概略断面図。
【図2】本発明に係る芯線入りチューブ押出機の概略断面図。
【符号の説明】
【0032】
1…シリンダー、2…シールリング、3…ダイ、4…バンドヒーター、5…ダイス、6…ラム、7…ラムヘッド、8…マンドレル、9…チップ、10…センターリングブッシュ、11…ガイドチューブ、12…芯線、14…クランプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電離放射線を照射したポリテトラフルオロエチレン樹脂に押出助剤を加えた組成物を、チューブ押出機を用いたペースト押出し成形法により成形して得られるPTFE製チューブであり、
前記樹脂の電離放射線の吸収線量が200〜4000Gyであるとともに、前記組成物の質量混合比率が、前記樹脂:押出助剤=86〜81:14〜19(質量%)であり、
前記押出機における絞り比が14000以下であり、更に肉厚寸法が7〜50μmであることを特徴とするPTFE製チューブ。
【請求項2】
前記電離放射線は、電磁波としてのX線,γ線,荷電粒子としてのβ線,陽電子,電子,α線,陽子,重陽子,重イオン,中間子、その他荷電を持たない素粒子の単独、又は2以上の混合電離放射線であることを特徴とする請求項1記載のPTFE製チューブ。
【請求項3】
前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂は、乳化重合によって得られるファインパウダーであることを特徴とする請求項1記載のPTFE製チューブ。
【請求項4】
前記押出助剤は、ソルベントナフサ、ホワイトオイルあるいは炭素数6〜12のパラフィン系炭化水素の単独又は2つ以上の混合物であることを特徴とする請求項1記載のPTFE製チューブ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−237597(P2007−237597A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64381(P2006−64381)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(502381771)株式会社プラクト (3)
【出願人】(000211156)中興化成工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】