説明

Pbフリーはんだ及び電子部品内蔵モジュール

【課題】二部材を接合する際における作業性の低下を抑制しつつ、二部材を接合した後のはんだを再加熱した場合に、はんだの溶融を抑制すること。
【解決手段】第1はんだ6Hは、Pbを含まないPbフリーはんだである。第1はんだ6Hは、少なくともSnを含む第1金属6HAと、少なくともNi−Fe合金を含む第2金属6HBと、を含む。第1金属6HA及び第2金属6HBは、いずれも粒状である。第2金属6HBの平均粒子径は、3μm以上50μm以下である。第2金属6HBの割合は、第1はんだ6Hの全質量に対して5質量%以上30質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Pb(鉛)を含まないPbフリーはんだに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品内蔵モジュールは、複数の電子部品、例えば、受動素子や能動素子等をはんだによって基板に実装して、ひとまとまりの機能を持った電子部品としたものである。このような電子部品を電子機器の基板に実装する場合、電子部品内蔵モジュールの端子電極と基板の端子電極とをはんだで接合する。従来は、電子部品の接合にSnPbのはんだが使用されてきたが、環境問題を背景としてPbフリー化が進み、自動車関連や特殊な場合を除いてPbフリーはんだが使用されている。
【0003】
はんだを用いて電子部品内蔵モジュールを基板に実装する際に、はんだを溶融させるためにリフローが必要になる。このリフローの際に、電子部品内蔵モジュール内の電子部品と基板とを接合しているはんだが溶融して飛散したり、はんだが移動したりすることがある。これを回避するため、電子部品内蔵モジュールを基板に実装する際のリフロー温度で溶融しないはんだを用いて電子部品内蔵モジュール内の電子部品と基板とを接合する必要がある。例えば、特許文献1には、ろう付けすべき二部材のうちの少なくとも一方に、合金化してろう材となる異種の金属層を積層形成し、これら二部材を接触させて加熱することにより、少なくとも一つの金属層を液相とし、他方の金属層を固相の状態を含めて前記液相の金属層に溶け込ませ、任意の組成になるように合金化したろう材により二部材をろう付けすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−62561号公報(0007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術は、接合する対象の二部材の少なくとも一方に、合金化してろう材となる異種の金属層をめっき等によって積層形成する必要があるため、作業に手間を要する。特に、小型化が進んでいる電子部品の端子電極と基板の端子電極とを接合する場合には、作業に手間を要する。本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、二部材を接合する際における作業性の低下を抑制しつつ、二部材を接合した後のはんだを再加熱した場合に、はんだの溶融を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るPbフリーはんだは、少なくともSnを含む第1金属と、少なくともNi−Fe合金を含む第2金属と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明は、Snを含む第1金属に、少なくともNi−Fe合金を含む第2金属を添加してPbフリーはんだを構成する。このPbフリーはんだは、最初に溶融する過程において、第1金属のSnと第2金属のNi−Fe合金との反応が均一にかつ速やかに進行し、溶融後硬化したPbフリーはんだの組織はSn−Ni−Feを主成分とする単一相に近くなる。これによって、一旦溶融して硬化したPbフリーはんだは、最初に溶融する前と比較して融点が高くなり、耐熱性が向上する。その結果、一旦溶融して二部材を接合した後のPbフリーはんだは、その後再加熱されても、溶融が抑制される。また、本発明のPbフリーはんだは、通常のはんだと同様のプロセスで二部材を接合できるので、二部材を接合する際における作業性の低下が抑制される。
【0008】
本発明の望ましい態様としては、前記第1金属及び前記第2金属は、粒状であることが好ましい。このようにすれば、第1金属と第2金属との接触面積が増加するため、SnとNi−Feとがより均一に反応するようになる。これによって、一度溶融して硬化したPbフリーはんだの組織は、Sn−Ni−Feの単一相になりやすくなるので、溶融後硬化したPbフリーはんだの融点をより確実に上昇させることができる。
【0009】
本発明の望ましい態様としては、前記第2金属の平均粒子径は、3μm以上50μm以下であることが好ましい。これによって、第2金属の粒子の製造や取り扱いが容易になるとともに、一旦溶融して硬化したPbフリーはんだの耐熱性を確実に向上させることができる。
【0010】
本発明の望ましい態様としては、前記Pbフリーはんだの全質量に対して、前記第2金属の割合は5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。これによって、一旦溶融して硬化したPbフリーはんだの耐熱性を確実に向上させることができるとともに、Pbフリーはんだが最初に溶融したときには適度なぬれ性を確保できるので、電子部品内蔵モジュールを構成する電子部品の実装に好適である。
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るパッケージ部品は、電子部品と、当該電子部品が実装される基板と、を含み、前記電子部品の端子と前記基板の端子とは、前記記載のPbフリーはんだにより接合されることを特徴とする。このパッケージ部品は、前記Pbフリーはんだによって電子部品の端子と基板の端子とが接合されるので、電子部品の端子の接合不良等が発生するおそれを低減できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、二部材を接合する際における作業性の低下を抑制しつつ、二部材を接合した後のはんだを再加熱した場合に、はんだの溶融を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、電子部品内蔵モジュールの断面図である。
【図2】図2は、電子部品内蔵モジュールを電子機器等の基板に取り付けた状態を示す側面図である。
【図3】図3は、本実施形態に係るPbフリーはんだの概念図である。
【図4】図4は、本実施形態に係るPbフリーはんだの概念図である。
【図5】図5は、本実施形態係るPbフリーはんだが溶融したときの変化を示す概念図である。
【図6】図6は、第1金属にNiとFeとを別個に添加したPbフリーはんだが溶融したときの変化を示す概念図である。
【図7】図7は、第2金属の平均粒子径と吸熱量との関係を示す概略図である。
【図8】図8は、第2金属の平均粒子径の好ましい範囲を評価した結果を示す図である。
【図9】図9は、第2金属の添加量に対する評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態は、本発明を限定するものではない。また、下記の実施形態で開示された構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0015】
図1は、電子部品内蔵モジュールの断面図である。図2は、電子部品内蔵モジュールを電子機器等の基板に取り付けた状態を示す側面図である。図1に示すように、電子部品内蔵モジュール1は、複数の電子部品2を基板3に実装して、ひとまとまりの機能を持つ電子部品としたものである。電子部品2は、基板3の表面に実装されていてもよいし、基板3の内部に実装されていてもよい。本実施形態において、電子部品内蔵モジュール1を構成する電子部品2としては、例えば、コイルやコンデンサ、あるいは抵抗等の受動素子があるが、ダイオードやトランジスタ等の能動素子やIC(Integral Circuit)等も電子部品2として基板3の表面や基板3の内部に実装されてもよい。また、電子部品2は、これらに限定されるものではない。
【0016】
図1に示すように、電子部品内蔵モジュール1は、電子部品2が実装される基板3と、電子部品2を覆う絶縁樹脂4と、絶縁樹脂4の表面を被覆するシールド層5と、を含んで構成される。なお、電子部品内蔵モジュール1は、シールド層5を有していなくてもよい。電子部品2の端子電極と基板3の端子電極とは、本実施形態に係るPbフリーはんだ(以下、第1はんだという)6Hによって接合される。これによって、電子部品2が基板3に実装される。このように、第1はんだ6Hは、電子部品2の端子電極と基板3の端子電極という二部材を接合するものである。
【0017】
図1に示すように、電子部品内蔵モジュール1は、基板3に実装された電子部品2が絶縁樹脂4で覆われる。電子部品内蔵モジュール1は、電子部品2が実装される側の基板3の表面(部品実装面という)も同時に絶縁樹脂4で覆われる。このように、電子部品内蔵モジュール1は、絶縁樹脂4で複数の電子部品2及び部品実装面を覆うことで、基板3及び複数の電子部品2を一体化するとともに、強度を確保する。
【0018】
複数の電子部品2を覆った絶縁樹脂4の表面には、シールド層5が形成される。本実施形態において、シールド層5は導電材料(導電性を有する材料であり、本実施形態では金属)で構成されている。本実施形態では、シールド層5は単数の導電材料で構成されてもよいし、複数の導電材料の層で構成されてもよい。シールド層5は、絶縁樹脂4の表面を被覆することにより、絶縁樹脂4の内部に封入された電子部品2を電子部品内蔵モジュール1の外部からの高周波ノイズや電磁波等から遮蔽したり、電子部品2から放射される高周波ノイズ等を遮蔽したりする。このように、シールド層5は、電磁気シールドとして機能する。本実施形態において、シールド層5は、絶縁樹脂4の表面全体を被覆している。しかし、シールド層5は、電磁気シールドとして必要な機能を発揮できるように絶縁樹脂4を被覆すればよく、必ずしも絶縁樹脂4の表面全体を被覆する必要はない。したがって、シールド層5は、絶縁樹脂4の表面の少なくとも一部を被覆していればよい。
【0019】
電子部品内蔵モジュール1は、例えば、次のような手順で製造される。
(1)基板3の端子電極に第1はんだ6Hを含むはんだペーストを印刷する。
(2)実装装置(マウンタ)を用いて電子部品2を基板3に搭載する。
(3)電子部品2が搭載された基板3をリフロー炉に入れて前記はんだペーストを加熱することにより、前記はんだペーストの第1はんだ6Hが溶融し、硬化することにより電子部品2の端子電極と基板3の端子電極とを接合する。
(4)電子部品2や基板3の表面に付着したフラックスを洗浄する。
(5)絶縁樹脂4で電子部品2及び基板3を覆う。
【0020】
基板3は、部品実装面の反対側に、端子電極(モジュール端子電極)7を有する。モジュール端子電極7は、電子部品内蔵モジュール1が備える電子部品2と電気的に接続されるとともに、図2に示す、電子部品内蔵モジュール1が取り付けられる基板(例えば、電子機器の基板であり、以下、装置基板という)8の端子電極(装置基板端子電極)9とはんだ(以下、第2はんだという)6Lによって接合される。これによって、電子部品内蔵モジュール1は、電子部品2と装置基板8との間で電気信号や電力をやり取りする。
【0021】
図2に示す装置基板8は、電子部品内蔵モジュール1が実装される基板であり、例えば、電子機器(車載電子機器、携帯電子機器等)に搭載される。装置基板8に電子部品内蔵モジュール1を実装する場合、例えば、装置基板端子電極9に第2はんだ6Lを含むはんだペーストを印刷し、実装装置を用いて電子部品内蔵モジュール1を装置基板8に搭載する。そして、電子部品内蔵モジュール1が搭載された装置基板8をリフロー炉に入れて前記はんだペーストを加熱することにより、前記はんだペーストの第2はんだ6Lが溶融し、硬化することによりモジュール端子電極7と装置基板端子電極9とを接合する。その後、電子部品内蔵モジュール1や装置基板8の表面に付着したフラックスを洗浄する。
【0022】
現在多く使用されているPbフリーはんだの溶融温度は約220℃であり、リフロー時における最高温度は240℃〜260℃程度である。電子部品内蔵モジュール1を構成する電子部品2を基板3に実装する際に用いられる第1はんだ6Hは、上述したように、電子部品内蔵モジュール1が装置基板8へ実装される際にリフローされることから、このリフローにおける温度で溶融しないはんだ(高温はんだ)が使用される。
【0023】
Pbを使用するはんだには、溶融温度が300℃程度のはんだがあるが、Pbフリーはんだでは溶融温度が260℃以上かつ適切な特性を有するものはない。このため、Pbフリーはんだを用いる場合、電子部品内蔵モジュール1を構成する電子部品2の接合に用いるはんだ(第1はんだ6H)、及び電子部品内蔵モジュール1を装置基板8へ実装する際に用いるはんだ(第2はんだ6L)に、両者の溶融温度差が少ないものを使用せざるを得ない。
【0024】
電子部品内蔵モジュール1を構成する電子部品2の接合に用いるはんだがリフロー時に再溶融すると、第1はんだ6Hの移動や、はんだフラッシュ(はんだの飛散)といった不具合が発生する。その結果、短絡や電子部品2の接触不良を招くおそれがある。このため、電子部品内蔵モジュール1の電子部品2を接合するはんだには、電子部品内蔵モジュール1を実装する際のリフロー時において再溶融しないもの、あるいは再溶融が第1はんだ6Hの移動やはんだフラッシュを招かない程度であるものを使用することが望まれている。溶融温度の高いはんだの代替として導電性接着材(Agペースト等)もあるが、機械的な強度が低く、電気抵抗も高く、コストも高い等の課題があり、はんだの代替とはなっていない。本実施形態において電子部品内蔵モジュール1を構成する電子部品2の接合に用いる第1はんだ6Hは、このような要求を満たすPbフリーはんだである。
【0025】
図3、図4は、本実施形態に係るPbフリーはんだの概念図である。本実施形態に係るPbフリーはんだ、すなわち第1はんだ6Hは、使用前(溶融する前)において、少なくともSn(スズ)を含む第1金属6HAと、少なくともNi(ニッケル)−Fe(鉄)合金を含む第2金属6HBと、を含む。図3に示す第1はんだ6Hは、粒状の第1金属6HAと粒状の第2金属6HBとをペースト材料PEに分散させてはんだペーストとしたものである。図4に示す第1はんだ6Hは、第2金属6HBを芯として、その外側を第1金属6HAで被覆し、針金状のはんだとしたものである。このように、第1はんだ6Hは、溶融する前において、第1金属6HAに、少なくともNi−Fe合金を含む第2金属6HBが添加された状態であればよい。
【0026】
第1金属6HAは、少なくともSnを含むが、第1はんだ6HはPbフリーはんだであるため、Pbは含まない。本実施形態において、第2金属6HBは、Ni−Fe合金を少なくとも含んでいる。すなわち、第2金属6HBは、Ni−Fe合金を必須とし、この他にCo(コバルト)、Mo(モリブデン)、Cu(銅)、Cr(クロム)のうち少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0027】
本実施形態においては、第1金属6HAとしてSn−Ag(銀)系やSn−Cu(銅)系(Snが90質量%以上)のハンダ(Pbフリーハンダ)を用いる。例えば、第1金属6HAとしては、Sn−3.5%AgやSn−3%Ag−0.5%Cu、Sn−0.75%Cuを用いることができる。このようなはんだは、リフロー後における組織はSn層が大半を占めるので、複数回リフローするとSn層が再溶融する。このため、本実施形態では、リフロー時にSnと化合物を作りやすい金属として、少なくともNi−Fe合金を含む第2金属6HBを第1金属6HAに添加する。このように、第1金属6HAには、Ni−Fe合金が添加される。これによって、最初に第1はんだ6Hが溶融したときに第1金属のSnと第2金属のNi−Feとを反応させて、第1はんだ6Hが硬化したときに耐熱性の高い組織を作る。そして、例えば、再度のリフロー等によって第1はんだ6Hが加熱された場合でも、第1はんだ6Hの再溶融を抑制する。
【0028】
図5は、本実施形態係るPbフリーはんだが溶融したときの変化を示す概念図である。図6は、第1金属にNiとFeとを別個に添加したPbフリーはんだが溶融したときの変化を示す概念図である。本実施形態係るPbフリーはんだである第1はんだ6Hが加熱され、溶融すると、図5に示すように、SnとNi−Fe合金との反応が均一に進行し、溶融後、硬化した第1はんだ6Hの組織はSn−Ni−Feを主成分とする単一相に近くなる。これによって、溶融後硬化した第1はんだ6Hは、溶融前と比較して融点が高くなるので、溶融後の第1はんだ6Hがリフローにより再加熱されても、第1はんだ6Hは溶融しない、又は溶融が抑制される。
【0029】
また、組織がSn−Ni−Feの単一相に近くなった第1はんだ6Hは、その後融点より低い温度で何度再加熱しても絶縁樹脂4のクラックやはんだフラッシュその他の欠陥は発生しないことが確認されたので、耐久性も向上する。特に、電子部品内蔵モジュール1が図1に示すシールド層5を有する場合、リフロー時の再加熱によってはんだフラッシュが発生しやすいが、第1はんだ6Hを用いれば、このはんだフラッシュを効果的に抑制できる。このように、電子部品内蔵モジュール1がシールド層5を有する場合に第1はんだ6Hを用いると、電子部品内蔵モジュール1の品質向上及び耐久性向上に対して特に有効である。
【0030】
さらに、本実施形態では、Snを基材とした第1金属6HAに、Snと反応しやすいNi−Fe合金を含む第2金属6HBを添加する。これによって、リフローに要する短い時間でSnとNi−Fe合金との反応を迅速に進行させることができるので、硬化後においては第1はんだ6Hの組織を、Sn−Ni−Feの単一相にしやすくなる。
【0031】
図6に示す第1ハンダ106Hのように、第1金属106HAにニッケル106HNと鉄106HFとをそれぞれ別個に添加した場合には、第1ハンダ106Hが加熱され、溶融すると、SnとNi(ニッケル)、SnとFe(鉄)それぞれの反応が優先して進行する。このため、反応し切らないSnが単相で残る割合が多く、均一な組織にならない。その結果、溶融後硬化した第1ハンダ106Hは溶融温度の低いSn相が多く残り、溶融前と比較して融点は高くならないので、溶融後の第1ハンダ106Hがリフローにより再加熱されると溶融してしまう。本実施形態では、第1金属6HAにNi−Fe合金を添加することにより、一度第1ハンダ6Hが溶融した後は、溶融前よりも融点を上昇させて溶融の回避、あるいは溶融の抑制を実現する。
【0032】
溶融後、硬化した第1はんだ6Hの融点を上昇させるためには、溶融中にSnとNi−Feとをより均一に反応させ、硬化した後における第1はんだ6Hの組織を、よりSn−Ni−Feの単一相にする必要がある。このため、溶融前の第1はんだ6Hを構成する第1金属6HAと第2金属6HBとは、図3に示すように粒状とすることが好ましい。このようにすれば、第1金属6HAと第2金属6HBとの接触面積が増加するため、SnとNi−Feとがより均一に反応するようになる。これによって、一度溶融して硬化した第1はんだ6Hの組織は、Sn−Ni−Feの単一相になりやすくなるので、溶融後硬化した第1はんだ6Hの融点をより確実に上昇させることができる。図4に示すように、溶融前の第1はんだ6Hを針金状とする場合、少なくとも第2金属6HBを粒状とすることが好ましい。
【0033】
図7は、第2金属の平均粒子径と吸熱量との関係を示す概略図である。図7には、第1はんだ6Hを構成する第2金属6HBの直径を変化させて複数の第1はんだ6Hを作製し、それぞれを加熱して溶融させ、硬化させた後に、240℃〜260℃のリフロー温度の下で再度加熱した際の吸熱量を求めた結果を示している。吸熱量は、熱流束示差走査熱量計((株)島津製作所 DSC−50)を用いて測定した。図7の破線は、第2金属6HBの割合が、第1はんだ6Hの全質量(第1金属6HAの質量と第2金属6HBの質量との和)に対して10質量%の結果であり、実線は25質量%の結果である。吸熱量が負の値を取る場合、第1はんだ6Hは加熱による熱エネルギーを吸収し、その熱エネルギーを自身が溶融するために用いていることになる。そして、吸熱量が負の値を取り、かつその絶対値が大きくなると、第1はんだ6Hはより多くの熱エネルギーを吸収してより溶融しやすくなる。
【0034】
図7の結果から分かるように、第2金属6HBの平均粒子径が小さいほど第1はんだ6Hは熱エネルギーを吸収しなくなる傾向を示す。この傾向は、第2金属6HBの割合が変化しても同様である。第2金属6HBの平均粒子径が小さくなるほど、溶融時には第1金属6HAと第2金属6HBとの接触面積が増加するので、SnとNi−Fe合金との反応が進行しやすくなる。その結果、硬化後における第1はんだ6Hの組織は、より単一相に近くなるので、より高い融点が得られる。一方、第2金属6HBの平均粒子径が小さくなるにしたがって、第2金属6HBの粒子の製造や取り扱いが困難になる。硬化後における第1はんだ6Hの組織がより単一相に近くなること、及び第2金属6HBの粒子の製造や取り扱いのしやすさを考慮して、第2金属6HBの平均粒子径を評価した。平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製 SALD−2200)を用いて測定した。
【0035】
図8は、第2金属の平均粒子径の好ましい範囲を評価した結果を示す図である。評価は○以上が許容である。この結果から、第2金属6HBの平均粒子径が50μmを超えて60μmになると、硬化後における第1はんだ6Hの組織は異相の割合が多くなり、第1はんだ6Hが溶融して硬化した後における融点の上昇が小さくなる。このため、再度のリフローにおける不具合の発生が予想されるので、評価は許容できないとした。また、第2金属6HBの平均粒子径が3μmを下回ると、第2金属6HBの粒子の製造や取り扱いが困難になるので、取り扱い等の観点から第2金属6HBの平均粒子径は3μm以上必要であると判断した。第2金属6HBの平均粒子径が5μmより小さいと、粒子径に対する表面積が大きい結果、酸化しやすくなる傾向があるので、リフロー時の再加熱によって溶融せず、酸化粒子として基板上に残留するものが生じるおそれがある。第2金属6HBの平均粒子径を5μm以上とすると、酸化粒子の残留を抑制できるため、より好ましい。
【0036】
したがって、本実施形態において、第2金属6HBの平均粒子径は、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上30μm以下がより好ましい。このような範囲の第2金属6HBの粒子を用いれば、硬化した第1はんだ6Hの組織はSn−Ni−Feの単一相により近くなるので、溶融後硬化した第1はんだ6Hの融点を効果的に上昇させることができる。本実施形態において、第1金属6HAの平均粒子径は特に規定するものではないが、第2金属6HBの平均粒子径の範囲と同等とすることができる。なお、本実施形態では、第1金属6HAの平均粒子径を、25μmから36μmの範囲としている。
【0037】
図9は、第2金属の添加量に対する評価結果を示す図である。評価は○以上が許容である。第1はんだ6Hの全質量(第1金属6HAの質量と第2金属6HBの質量との和)に対する第2金属6HBの割合(添加割合)を変化させて作製した複数の第1はんだ6Hを評価した結果を図9に示す。評価項目は、第1はんだ6Hを溶融させ、硬化させた後、リフロー時の加熱温度で再加熱したときにおける溶融の程度、及び第1金属6HAに第2金属6HBが添加された状態の第1はんだ6Hを最初に溶融させたときにおけるぬれ性の2項目である。第2金属6HBの添加量は、上述した添加割合(質量%)である。
【0038】
図9の結果から分かるように、第2金属6HBの添加量が増加するほど、再加熱時における第1はんだ6Hの溶融は少なくなる。第2金属6HBの添加量が5%である場合、再加熱によって第1はんだ6Hは多少溶融する。しかし、第2金属6HBの添加量が5%の第1はんだ6Hを用いて、実際に図1に示す電子部品2を実装した電子部品内蔵モジュール1を装置基板8に搭載してリフローしても、電子部品内蔵モジュール1内にはんだフラッシュの発生や第1はんだ6Hの移動はみられなかったので、許容とした。
【0039】
第1はんだ6Hのぬれ性は、第2金属6HBの添加量が増加するにしたがって高くなる。すなわち、第1はんだ6Hは広がりやすくなる。第2金属6HBの添加量が30%を超え、35%となると、ぬれ性が劣化して、リフロー時における電子部品2のセルフアライメント効果が低下するおそれがある。このため、ぬれ性に関しては、第2金属6HBの添加量が30%を上限とした。本実施形態において、第2金属6HBの添加割合は、5質量%以上30質量%以下が好ましい。この範囲であれば、電子部品内蔵モジュール1の基板3に第1はんだ6Hを用いて電子部品2を実装した後、電子部品内蔵モジュール1を装置基板8に実装する際に再度のリフローをしたとしても、はんだフラッシュの発生や第1はんだ6Hの移動を抑制できる。また、基板3に第1はんだ6Hを用いて電子部品2を実装する場合も、適切なセルフアライメント効果が得られるので、電子部品2の位置決めができる。このように、第2金属6HBの添加割合が上記範囲であれば、電子部品内蔵モジュール1を構成する電子部品2の実装に好適である。
【0040】
第2金属6HBの粉末は、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法等の金属粉末製造方法によって作製される。水アトマイズ法を用いた場合、作製された粉末の表面が酸化する。第2金属6HBの粉末の表面が酸化した状態で第1金属6HAに添加し、第1はんだ6Hとすると、酸化膜の影響により、溶融した状態において、第2金属6HBの粉末が硬化した第1はんだ6Hの表面に集まってしまう。その結果、第1金属6HAと第2金属6HBとがほとんど分離してしまうので、第1金属6HAと第2金属6HBとの反応が促進されず、第1はんだ6Hの融点上昇は望めない。
【0041】
したがって、金属粉末が製造される過程で第2金属6HBが酸化した場合、例えば、水素雰囲気中でこれを還元してから、第1金属6HAに添加する。これによって、第1金属6HAは、最初の溶融中に第1金属6HAと第2金属6HBとの反応が促進されるので、組織はSn−Ni−Feの単一相に近くなる。その結果、溶融後硬化した第1はんだ6Hは、溶融前と比較して高い融点を確保できる。
【0042】
第2金属6HBの粉末に含まれる酸素量をパラメータとして、第1金属6HAと第2金属6HBとの反応促進を評価した。その結果、第2金属6HBの粉末中に含まれる酸素の割合が1.5質量%では、第1金属6HAと第2金属6HBとの反応促進が不十分であり、第1はんだ6Hの融点上昇は望めない。一方、第2金属6HBの粉末中に含まれる酸素の割合が0.24質量%まで低下すれば、第1金属6HAと第2金属6HBとの反応が促進されて、第1はんだ6Hの融点が上昇する。
【0043】
第2金属6HBに占めるFeの割合は、8質量%以上あれば溶融後硬化した第1はんだ6Hの融点の上昇が認められる。前記割合が5質量%以上であれば、溶融後硬化した第1はんだ6Hの融点は、再度のリフロー温度(240℃〜260℃)よりも高くなる。一方、16質量%を超えるとSn−Ni−Feを主成分とする相が単一相として占める割合が減少して、第1はんだ6Hの溶融温度も低下してしまう。したがって、第2金属6HBに占めるFeの割合は、5質量%以上16質量%以下が好ましく、8質量%以上16質量%以下がより好ましい。
【0044】
少なくともSnを含む第1金属6HAに、少なくともNi−Fe合金を含む第2金属6HBを添加した第1はんだ6Hは、最初に溶融して硬化した後に熱処理を施すことが好ましい。この熱処理は、所定温度に所定時間保持する熱処理であり、例えば、溶融後硬化した第1はんだ6Hを180℃以上の温度に20分〜30分保持するものである。これによって、第1金属6HA中のSnと第2金属6HB中のNi−Fe合金との反応が促進される。その結果、第1はんだ6Hの組織はSn−Ni−Feの単一相にさらに近くなるので、第1はんだ6Hの融点を確実に高くすることができる。
【0045】
以上、本実施形態では、少なくともSnを含む第1金属に、少なくともNi−Fe合金を含む第2金属を添加してPbフリーはんだ(上述した第1はんだ6H)を構成する。このPbフリーはんだが最初に溶融する過程においては、第1金属のSnと第2金属のNi−Fe合金との反応が均一にかつ速やかに進行する。溶融後硬化したPbフリーはんだの組織はSn−Ni−Feの単一相に近くなるので、最初に溶融した後、硬化したPbフリーはんだは、最初に溶融する前と比較して融点が高くなり、耐熱性が向上する。その結果、一旦溶融した後のPbフリーはんだがその後のリフローにより再加熱されても、Pbフリーはんだは溶融しない、又は溶融が抑制される。
【0046】
このようなPbフリーはんだを、電子部品内蔵モジュールを構成する電子部品の接合に用いることにより、電子部品内蔵モジュールを装置基板等に実装する際のリフローにおいて、電子部品内蔵モジュール内ではんだフラッシュやはんだの移動が発生するおそれを低減できる。このようなPbフリーはんだを用いた電子部品内蔵モジュールは、電子部品の端子の接合不良等が発生するおそれを低減できるので、歩留が向上する。
【0047】
また、本実施形態に係るPbフリーはんだは、一旦溶融して硬化した後は融点が上昇するため、耐熱性が要求される部分の接合等にも有効である。この場合、本実施形態に係るPbフリーはんだが最初に溶融するときの温度は、Sn系(Snを基材とするはんだであり、例えば、Sn−3.5%Agはんだ等)のはんだと同等(220℃程度)なので、接合時における作業性の低下を招くことはない。また、本実施形態に係るPbフリーはんだは、これまで用いられてきたはんだ付けの工程と同一の工程を用いることができるので、合金化してろう材となる異種の金属層をめっき等によって端子電極へ積層形成しておく必要はない。このため、上述した特許文献1に開示された技術と比較して、作業性が大幅に向上する。さらに、本実施形態に係るPbフリーはんだは、Sn、Ni、Feという比較的安価な金属を用いるので、また、Ag、Auを用いることもある特許文献1に開示された技術と比較して、電子部品内蔵モジュール等の製造コストの上昇を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明に係るPbフリーはんだは、一度溶融して硬化した後の融点を上昇させ、その後の耐熱性を向上させることに有用である。
【符号の説明】
【0049】
1 電子部品内蔵モジュール
2 電子部品
3 基板
4 絶縁樹脂
5 シールド層
6H、106H 第1はんだ
6L 第2はんだ
6HA、106HA 第1金属
6HB 第2金属
7 モジュール端子電極
8 装置基板
9 装置基板端子電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともSnを含む第1金属と、
少なくともNi−Fe合金を含む第2金属と、
を含むことを特徴とするPbフリーはんだ。
【請求項2】
前記第1金属及び前記第2金属は、粒状である請求項1に記載のPbフリーはんだ。
【請求項3】
前記第2金属の平均粒子径は、3μm以上50μm以下である請求項2に記載のPbフリーはんだ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のPbフリーはんだの全質量に対して、前記第2金属の割合は5質量%以上30質量%以下であるPbフリーはんだ。
【請求項5】
電子部品と、当該電子部品が実装される基板と、を含み、
前記電子部品の端子と前記基板の端子とは、請求項1から4のいずれか1項に記載のPbフリーはんだにより接合されることを特徴とする電子部品内蔵モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−152581(P2011−152581A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17145(P2010−17145)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】