説明

RFパウダーとその製造方法

【課題】大量の粒子から成りかつ集合的形態をとるパウダー(粉状体)として使用される特性を有し、パウダーを成す大量の粒子の各々は現在のICタグチップに比較してサイズ的により小型でありかつICタグチップと実質的に同等の機能を有する素子としての使用され、その使用態様が個別的な素子としての使用ではなくパウダーとして使用され、取り扱いが容易であり、各粒子の単価の面で製作コストが極めて安価であり、実用性が非常に高いRFパウダーとその製造方法を提供する。
【解決手段】RFパウダー11は、パウダーの態様で使用され、パウダーの各粒子11aは基板12上に形成された集積回路13とこの集積回路上に形成された絶縁層14とこの絶縁層上に形成されたアンテナ素子15とを有するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFパウダーとその製造方法に関し、特に、パウダーとして使用し、紙等に含有させ、外部から与えられる高周波電磁界(無線)により情報の読み取り等ができるRFパウダーとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ICタグはユビキタス時代の入り口にある商品と考えられている。RF−ID(超小型無線認識)として名札やスイカカード、FeRAMカードなど、以前から開発が行われている。ICタグの市場は将来必ず大きいものに成長すると、多数の人が期待している。しかし、未だに期待しているほどには市場は育っていない。その理由として、コスト、セキュリティー、機密の問題など、社会的に解決しなくてはならない技術以外の課題があるからである。
【0003】
ICタグのコストは、ICタグチップのサイズを小さくすることにより安くすることができる。それは、ICタグチップのサイズを小さくすれば、1枚のウェハから得られるICタグチップの数量を多くすることができるからである。現在のところ、0.4mm角のICタグチップが開発されている。このICタグチップは、チップ内の128ビットのメモリデータを2.45GHzのマイクロ波で読み取ることができる(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、1枚のウェハから超小型のサイズのICタグチップを製造する場合、従来の製造方法によれば、次に述べるような問題があった。
【0005】
従来のICタグチップの製造方法は、例えば特許文献1の従来技術の箇所に記載されている。この製造方法によれば、表面上にICが形成されたウェハに対してバックグラインディング工程を実行し、ウェハの裏面を研磨してウェハの厚みを減少する。その後、ウェハに対してダイシング工程を実行し、所定形状のICタグチップを多数分離する。このダイシング工程では、ウェハはダイシングソーにより切削され、多数のICタグチップに分離される。ウェハをダイシングラインに沿ってダイシングソーで切削するという分離方法では、切削に使用される相当な領域面積および切削加工の影響を受ける領域面積等のウェハ部分は、ICタグチップの製作に使用することができない。さらにICタグチップがより小型になると、ダイシングラインの数もさらに増え、その結果、使用不能な領域がウェハ全体の面積に占める割合が大きくなり、ウェハを有効に使用することができなくなる。すなわち、1枚のウェハから切り取ることのできるICタグチップの数が減少する。
【0006】
そこで特許文献1では、新しい半導体素子分離方法を提案し、上記問題を解決している。特許文献1の半導体素子分離方法によれば、回路が形成されたウェハの表面側から、半導体素子を分離する分離位置をエッチングすることによりハーフカットを形成し、ウェハの表面側にテープ材を貼着し、その後、ウェハの裏面を表面のハーフカットと連通しないよう残部を設けて所定の厚さだけ機械的に研磨し、ウェハの裏面側からエッチングまたは化学機械研磨を施し、ウェハを個々の半導体素子に分離する。このように、エッチングによりハーフカットを形成したため、ハーフカットの幅を狭くできると共に削り取られる部分を少なくでき、1枚のウェハから採れる半導体素子数を増大させることができる。
【特許文献1】特開2003−179005
【非特許文献1】宇佐美光雄、『超小型無線ICタグチップ「ミューチップ」』、応用物理、Vol.73、No.9、2004、p.1179−p.1183
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に開示されるICタグチップは、本来的に、個別的に取り扱われる半導体素子である。しかし、ICタグチップは代表的に0.4mm程度の超小型の半導体素子であるので、実際の取り扱いにおいて1つ1つ個別的に取り扱うのは容易ではない。さらにコスト的にもそれほど安価なものではない。
【0008】
また特許文献1によって提案される半導体素子分離方法によれば、仮に0.4mm角以下の超小型の大量の半導体素子によって成るRFパウダーを製造するとき、ウェハを分離して大量の半導体素子を作った後に、粒子である極めて微細な半導体素子の各々に対して保護膜を均一に付けるのは非常に困難である。
【0009】
なお上記「RFパウダー」とは、パウダー(粉状体または粉粒体)を形成する大量の粒子の各々が無線(高周波電磁界)を介して外部のリーダ・ライタ装置との間で信号(情報)の送受を行う電気回路要素を有し、通常の使用態様が集合的形態であるパウダーとして使用されるものを意味する。
【0010】
本発明の目的は、上記の課題を鑑み、大量の粒子から成りかつ集合的形態をとるパウダー(粉状体)として使用される特性を有し、パウダーを成す大量の粒子の各々は現在のICタグチップに比較してサイズ的により小型でありかつICタグチップと実質的に同等の機能を有する素子としての使用され、その使用態様が個別的な素子としての使用ではなくパウダーとして使用され、取り扱いが容易であり、各粒子の単価の面で製作コストが極めて安価であり、実用性が非常に高いRFパウダーとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るRFパウダーとその製造方法は、上記の目的を達成するために、次のように構成される。
【0012】
第1のRFパウダー(請求項1に対応)は、パウダーの態様で使用され、パウダーの各粒子は基板上に形成された集積回路とこの集積回路上に形成された絶縁層とこの絶縁層上に形成されたアンテナ素子とを有するように構成される。
【0013】
上記のRFパウダーは、個別のICチップという概念で扱われるのではなく、常にパウダー(粉状体)として集合的に使用・管理され、使用時には複数の粒子を同時に使用する。複数の粒子はそれぞれが集積回路素子を含み、外部のリーダ・ライタとの間において高周波電磁界を介して所要の情報の送受を行う機能を有している。
【0014】
第2のRFパウダー(請求項2に対応)は、パウダーの態様で使用され、パウダーの各粒子は基板上に形成されかつ外部からの電磁界に感応する共振器を有するように構成される。この構成では、RFパウダーの各粒子は、集積回路素子は有さず、外部からの高周波電磁界に感応する共振器によって所要の情報の送受を行う機能を有する。
【0015】
第3のRFパウダー(請求項3に対応)は、上記の構成において共振器は、基板上に形成されたアンテナ素子、または基板上の絶縁層上に形成されたアンテナ素子であることを特徴とする。
【0016】
第4のRFパウダー(請求項4に対応)は、上記のRFパウダーにおいて、パウダーの各粒子を無検査のまま、媒体に混入し、使用することを特徴とする。
【0017】
さらに第5のRFパウダー(請求項5に対応)は、上記のRFパウダーにおいて、パウダーの各粒子はパウダーの状態で収容容器に保存・管理されることを特徴とする。
【0018】
第6のRFパウダー(請求項5に対応)は、上記の各RFパウダーにおいて、好ましくは、粒子における最長辺を含む矩形平面の大きさが0.30mm角以下0.05mm角以上であることを特徴とする。
【0019】
第7のRFパウダー(請求項7に対応)は、上記の第3のRFパウダーにおいて、好ましくは、粒子における最長辺を含む矩形平面の大きさが0.15mm角であることを特徴とする。
【0020】
第1のRFパウダーの製造方法(請求項8に対応)は、1つの粒子が基板上に形成された集積回路とこの集積回路上に形成された絶縁層とこの絶縁層上に形成されたアンテナ素子とを有し、大量の当該粒子から成るRFパウダーを製造する方法であり、平行光線またはX線による露光を利用してウェハ上に粒子になるべきアンテナ付き集積回路素子を大量に作製する工程と、ウェハにおけるアンテナ素子が形成された側の表面でアンテナ付き集積回路素子を分離するための位置に切溝を形成するガスダイシング工程と、アンテナ付き集積回路素子の周囲を保護膜で覆う保護膜形成工程と、保護膜を形成したウェハの表面側に接着剤により強化プレートを貼り付ける強化工程と、ウェハの裏面を切溝まで研磨する研磨工程と、接着剤を除去し強化プレートを取り除いてアンテナ付き集積回路素子を分離する分離工程とを有する方法である。
【0021】
第2のRFパウダーの製造方法(請求項9に対応)は、1つの粒子が、基板上に形成されかつ外部からの電磁界に感応する共振回路を有し、大量の当該粒子から成るRFパウダーを製造する方法であり、平行光線またはX線による露光を利用してウェハ上に粒子になるべき回路素子を大量に作製する工程と、ウェハにおける共振回路が形成された側の表面で回路素子を分離するための位置に切溝を形成するガスダイシング工程と、回路素子の周囲を保護膜で覆う保護膜形成工程と、保護膜を形成したウェハの表面側に接着剤により強化プレートを貼り付ける強化工程と、ウェハの裏面を切溝まで研磨する研磨工程と、接着剤を除去し強化プレートを取り除いて回路素子を分離する分離工程とを有する方法である。
【0022】
第3のRFパウダーの製造方法(請求項10対応)は、上記の各製造方法において、好ましくは、接着剤は有機溶剤に溶ける材料であることを特徴とする。この接着剤は接着機能と固化機能を有する。有機溶剤に溶ける材料としては、例えばパラフィン、ワックス、ろう等である。
【0023】
第4のRFパウダーの製造方法(請求項11に対応)は、上記の各製造方法において、好ましくは、強化プレートはセラミックプレートであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、1つの個別のICタグチップ等として用いるのではなくRFパウダーとして用いるため取り扱いが容易であり、かつ安価に製造することができる。また本発明によれば、粒子の周囲を保護膜で覆う保護膜形成工程を粒子として分離してしまう前に設けたので、各粒子に保護膜を均一に付けることができる。
【0025】
またウェハからRFパウダーの各粒子を分離するため、事前処理としてウェハ裏面を研磨するとき、ウェハ表面にパラフィン等を塗布してセラミックプレートを貼り付け、さらにウェハ表面に形成した分離用切溝の内部にパラフィン等を充填して固化させたため、割れ・ひび等を生じることなく切溝の底部に到るまで機械研磨で研磨を行うことができる。このため、RFパウダーの製造工程の全体が簡素化され、製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0027】
図1〜図6は本発明に係るRFパウダーの第1の実施形態を示す。図1はRFパウダーの使用および保管・管理の態様を示している。図1では瓶等の容器1内にRFパウダー11が収容されている様子を示している。本発明に係るRFパウダー11は、常にパウダー(粉状体または粉粒体)として使用される態様にある。
【0028】
図2は、容器1の中からRFパウダー11のうちの複数の粒子11aを取り出し、矩形の紙等のシート状部材2の上に置き、各粒子11aを拡大して示した図である。図2では、RFパウダー11を成す各粒子11aの大きさを誇張して図示している。なおシート状部材2には厚みは誇張して図示していない。以下、当該「粒子11a」を「パウダー粒子11a」と記す。
【0029】
図3は、図2で示した複数のパウダー粒子11aのうちの1つ分の要部縦断面を示す。図3では、RFパウダー11のパウダー粒子11aは、その厚みを誇張して示されている。パウダー粒子11aは、外側表面での複数の矩形平面に関して、最長辺を含む矩形平面が0.30mm角以下0.05mm角以上の大きさを有し、より好ましくは0.15mm角の大きさを有する3次元的な形状を有している。この実施形態のパウダー粒子11aでは、図3中の手前側の辺Lが0.15mm(150μm)となっている。
【0030】
RFパウダー11を形成する大量のパウダー粒子11aの各々は、シリコン等の基板12上に形成されたFeRAMなどのメモリ機能を備えた集積回路(IC)13と、この集積回路13の上に形成された30μm程度の厚みを有する絶縁層14と、この絶縁層14上に形成された特定の周波数(例えば2.45GHz)の電磁界に感応するアンテナ素子15を有している。図3では、電気回路要素の一例として、集積回路13を構成するトランジスタ16,17と、トランジスタ16,17と接続する配線18と、アンテナ素子15と集積回路13を接続する配線19を示している。配線19は絶縁体14内に埋め込まれている。
【0031】
図4は、RFパウダー11の各パウダー粒子11a内に設けられる集積回路13の回路構成の一例を示す。集積回路13は、例えば、整流回路20、電圧抑制器21、初期設定回路22、クロック回路23、制御レジスタ24、デコーダ25、およびメモリ26を備えている。これらの回路要素は次のような機能を有している。
【0032】
整流回路20は、外部から到来する高周波の電磁波を直流電源電圧に整流する機能を有する。アンテナ15およびアンテナ端子27を介して導入される例えば2.45GHzの電磁波は、整流回路20により、内部のアナログ回路やデジタル回路を動作させるための電圧に変換される。電圧抑制器21は、RFパウダー11のパウダー粒子11aがリーダ・ライタ32(図5参照)に近づき当該リーダ・ライタ32から過大の電磁波エネルギを受けて整流回路20が過大な電圧を発生させるとき、この電圧を抑制し、集積回路13内の半導体素子が破壊されるのを防止する。初期設定回路22は回路動作の開始と終了を制御し、クロック回路23はクロック波形を復調する。またメモリ26は例えば識別番号を格納したFeRAM等である。メモリ26の内容は制御レジスタ24とデコーダ25により選択されて、リーダ・ライタ32に送信される。
【0033】
次に、図5と図6を参照して、第1の実施形態に係るRFパウダー11の実際の使用例を説明する。
【0034】
RFパウダー11のうちの相当数のパウダー粒子11aを、紙などの媒体であるシート部材30に含ませる。図5では、シート部材30の厚みを誇張し拡大して示している。紙幣等のシート部材30に含ませるときには、例えば、RFパウダー11を含んだ接着固定剤入りの水溶液(インキやペンキ等)を、スポイトなどによってシート部材30にしみ込ませる。それにより、RFパウダー11をシート部材30の表面に付着させたり、シート部材30の内部にしみ込ませたりすることができる。このとき、各パウダー粒子11aは無検査のまましみ込ませる。すなわち、各パウダー粒子11aについては、それが正常であるかまたは異常であるかを特別に検査する必要がない。図5では、シート部材30の内部にRFパウダー11の複数のパウダー粒子11aをしみ込ませて配列した状態を示している。なお、紙などの媒体にパウダー粒子11aを混入するときに、紙などの媒体を製造する段階でパウダー粒子11aを混入するようにしてもよい。
【0035】
RFパウダー11の複数のパウダー粒子11aを含ませたシート部材30を、コンピュータ31に接続されたリーダ・ライタ32によって走査し、複数のパウダー粒子11aの各々に含まれる情報を読み込む。コンピュータ31は、表示装置31aと本体31bとキーボード31c等を備えている。
【0036】
上記リーダ・ライタ32は読込み端子33(図6参照)を有し、この読込み端子33によって2.45GHzを含む特定の周波数帯域の高周波電磁波(RF)を利用して各パウダー粒子11aから提供される情報を読み込む。複数のパウダー粒子11aの各々で使用されている周波数はそれぞれ異なり、例えば1.9GHz、2GHz、2.50GHz、2.54GHzである。従って、リーダ・ライタ32は、上記の特定の周波数帯域としては例えば1.9〜2.54GHzの周波数帯域の電磁波を適宜なタイミングで読み取るように構成されている。リーダ・ライタ32は、読込み端子33を介してシート部材30における複数のパウダー粒子11aの各々から情報を読み込むため、シート部材30の表面に沿って一定の方向に走査動作すると共に、送受信のために使用される周波数について特定の周波数帯域内で周波数を変化させる。
【0037】
図6は、RFパウダー11に含まれる1つの或るパウダー粒子11aの存在場所において、リーダ・ライタ32から与えられる高周波電磁波に基づき信号(情報)の送受を行う状態を示している。リーダ・ライタ32の走査移動でその下面に設けられた読込み端子33が走査動作を行い、RFパウダー11のパウダー粒子11aの上方に位置したとする。この場合において、読込み端子33は、異なるいくつかの周波数の高周波電磁波を放射し、パウダー粒子11aが感応する周波数の電磁波が放射されたとき(図6中、矢印34で示す)、パウダー粒子11aは、その高周波電磁波を受信し、そのエネルギに基づいて集積回路13を動作し、メモリ26からの情報を取り出し、高周波電磁波として放射する(図6中、矢印35で示す)。パウダー粒子11aが放射した電磁波は、リーダ・ライタ32の読込み端子33によって受信される。リーダ・ライタ32の読込み端子33は、パウダー粒子11aから受信した情報をコンピュータ31に対して送り、パウダー粒子11aが存在する場所において、当該パウダー粒子11aから提供される情報はコンピュータ31のメモリに記憶される。
【0038】
図5で示したシート部材30の内部および表面の全体に渡ってリーダ・ライタ32が走査を行うことにより、シート部材30の走査領域の全域に存在するRFパウダー11(多数のパウダー粒子11a)の各々に書き込まれた情報が読み出され、コンピュータ31のメモリに記憶される。コンピュータ31のメモリに記憶された情報は、必要に応じて、その表示装置31aに表示される。
【0039】
上記のような方法で、例えば紙幣に上記RFパウダー11を含ませて作ったり、公文書等の重要書類、免許証、保険証、その他の重要カード等にRFパウダー11を含ませることにより、紙幣の偽造判別、重要書類の認証等にRFパウダー11を利用することができる。またこのとき、1つのICタグチップとして用いるのではなく、複数または多数のパウダー粒子11aを集合的に利用するパウダー(粉状体)として用いるため、取り扱いが容易である。
【0040】
次に、図7と図8を参照して、第1実施形態に係る上記RFパウダー11の製造方法を説明する。
【0041】
図7はRFパウダー11を製造する全体工程を示し、図8は各工程に対応するウェハまたはパウダー粒子11aの縦断面構造を示す。
【0042】
RFパウダー11の製造方法は、素子形成工程(ステップS11)と、レジストパターン形成工程(ステップS12)と、ガスダイシング工程(ステップS13)と、保護膜形成工程(ステップS14)と、セラミックプレート貼付け工程(ステップS15)と、研磨工程(ステップS16)と、分離工程(ステップS17)から構成される。
【0043】
上記の工程S11〜S17の各々を概説する。素子形成工程S11は、ウェハ上に極めて多数(大量)のアンテナ付き集積回路素子(39)を作製するための工程である。レジストパターン形成工程S12は、多数のアンテナ集積回路素子が形成されたウェハ表面上にレジストパターンを形成するための工程である。ガスダイシング工程S13は、ガスを利用して切溝を形成するための工程である。保護膜形成工程S14は、各アンテナ付き集積回路素子ごとに保護膜を形成するための工程である。セラミック貼付け工程S15は、パラフィン、ワックス、またはろう等の有機溶剤で溶ける接着剤によりセラミックプレート等の強化プレートをウェハの表面側に貼り付けるための工程である。研磨工程S16は、上記切溝の底部に到達するまでウェハの裏面を研磨する工程である。分離工程S17は、パラフィン等の接着剤を薬品溶解してアンテナ付き集積回路素子すなわちパウダー粒子11aを分離し大量のパウダー粒子11aを作るための工程である。以下に、上記の各工程をさらに詳しく説明する。
【0044】
上記の素子形成工程S11では、シリコン等で作られたウェハの表面上においてダイシングラインを除く表面領域を利用して極めて多数(大量)の集積回路を形成し、さらにその集積回路が形成されたウェハ表面の上に絶縁膜(酸化膜等)を約30μmの厚みで形成し、さらに絶縁膜の上にインダクタなどから成るアンテナ素子を形成する。アンテナ素子は集積回路ごとに対応して形成され、かつ対応する集積回路とアンテナ素子とは絶縁体の内部に形成された埋込み配線で電気的に接続される。前述したアンテナ付き集積回路素子は、1組の集積回路とこれに対応する1組のアンテナ素子と配線等とから構成される半導体デバイスである。図8では、符号39でアンテナ付き集積回路素子を示している。ウェハの表面上に超小型の多数の集積回路を作り、さらにウェハ表面上に堆積された30μmの厚みを有する絶縁体上にアンテナ素子を作るために使用される露光技術としては、一般的には平行光線による露光技術、さらに好ましくはX線による露光技術が使用される。30μmの厚みで上記絶縁膜を形成すると当該絶縁膜の表面は凹凸が形成され、焦点深度のある通常の縮小投影光露光技術では転写が不可能であるが、平行光線(X線)の露光技術を利用することにより、アンテナ素子を形成するためのマスクパターンのレジストへの転写を正確に行うことが可能となる。これにより、アンテナ素子を正確に作ることができる。アンテナ素子は銅材(銅めっき)で作られる。さらに絶縁体の内部に形成される上記埋込み配線も銅材が用いられる。
【0045】
なお、ウェハに形成される大量のアンテナ付き集積回路39の数としては、例えば、300mmウェハでは300万個であり、200mmウェハでは140万個である。
【0046】
次に、レジストによるマスクパターン形成工程S12が実行される(図8の(a))。図8の(a)に示されたウェハ40の表面近傍領域には上記素子形成工程S11により多数の上記集積回路が形成され、さらにウェハ40の表面上の絶縁膜の上には集積回路ごとに対応させてアンテナ素子が形成されている。素子形成工程S11によって多数の集積回路とアンテナ素子が形成されたウェハ40上に、リソグラフィー工程により、幅が50μmよりも小さい、好ましくは約10μm〜約30μm程度の範囲に含まれる幅寸法のダイシングライン41を抜いたレジストマスクパターン42を形成する。図8の(a)において、複数のレジストマスクパターン42のそれぞれが、1組の集積回路、すなわち上記のアンテナ付き集積回路素子39に対応している。
【0047】
図8の(b)では、ウェハ40に対してガスダイシング工程S13が実行された結果の状態が示されている。ガスダイシング工程S13によれば、ウェハ40の表面において、レジストマスクパターン42に基づいて設定されたダイシングライン41の部分をプラズマエッチング等によって50〜100μmの深さで深堀エッチングする。ガスダイシング工程S13は、ウェハ40を切断・分離するのではなく、アンテナ付き集積回路素子39の長辺の例えば2倍程度またはそれ以上の深さまで溝40aを形成するために実行される。この溝40aを「切溝」と呼ぶことにする。図8の(b)に示されるごとく、このガスダイシング工程S13によって、ウェハ40で後の工程でアンテナ付き集積回路素子39を分離するための切溝40aが矩形網目状に多数形成されることになる。
【0048】
その後の保護膜形成工程S14では、上記レジストマスクパターン42が除去されたウェハ40の表面側部分に対して、例えばプラズマCVDによってシリコン窒化膜(SiN)等の保護膜43を所要の厚みで形成する(図8の(c))。保護膜43は切溝40aの内部表面まで形成される。なお図8では、保護膜形成工程S14の前段に位置するレジストパターン42を除去する工程は省略されている。
【0049】
さらに、その後のセラミックプレート貼付け工程S15では、ウェハ表面に例えば接着・固化剤として作用する例えばパラフィン44を塗布し(図8の(d))、所要の強度を有するセラミックプレート45にウェハ40を貼り付ける(図8の(e))。パラフィン44は、望ましい状態として、上記の切溝40aの内部全体に充填され、すべての切溝40aにはパラフィン44が埋め込まれる。パラフィン44は冷却後には固化する。なお上記のパラフィン44の代わりに、一般的に、有機溶剤で溶ける接着・固化材料を用いることができる。
【0050】
次の研磨工程S16では、ウェハ40の裏面46の側を研磨する。この研磨工程S16による研磨では、ウェハ40の裏面46の部分は、表面側に形成された切溝40aの底部47に到達し、当該底部47のパラフィン44が露出するまで研磨される(図8の(f))。この裏面研磨では、通常、機械的研磨が使用される。機械的研磨を行うだけで研磨工程を終了することができる。その理由は、切溝40aの底部まで研磨したとしても、切溝40aの内部には固化した上記パラフィン44が埋設されているので、割れやひび等の問題は生じないからである。なお裏面研磨では、機械的研磨だけに限定されず、その他のエッチングや化学機械研磨等を用いることができ、これらの各種の研磨を組み合わせることができるのは勿論である。
【0051】
最後の分離工程S17では上記パラフィン44を温度を上げて薬品溶解する。パラフィン44が溶解すると、セラミックプレート45が取り除かれ、かつウェハ40におけるアンテナ付き集積回路素子39が形成された部分が、前述したパウダー粒子11aとなって分離される(図8の(g))。こうして1つのウェハ40から大量のパウダー粒子11aが作られる。各パウダー粒子11aは、集積回路とアンテナ素子等から成るアンテナ付き集積回路素子39を有しており、さらにこのアンテナ付き集積回路素子39は保護膜43で保護されている。
【0052】
以上のようにして、図1〜図6で説明した第1実施形態に係るRFパウダー11を作製することができる。この製造方法によれば、パウダー粒子11aにおけるアンテナ付き集積回路素子39の周囲を保護膜43で覆う保護膜形成工程S14を、パウダー粒子11aを分離する前に設けたので、各パウダー粒子11aに設けられたアンテナ付き集積回路素子39に対して保護膜43を均一に付けることができる。なお、本実施形態では、レジストによるマスクパターン形成方法を例示したが、感光性ポリイミド等によるマスクパターン形成方法によっても同様の効果を奏する。
【0053】
次に、図9〜図11を参照して、本発明に係るRFパウダーの第2の実施形態を説明する。
【0054】
図9〜図11において、前述の第1の実施形態で説明した要素と同一の要素には同一の符号を付している。
【0055】
図9は、1つのパウダー粒子50についての一部を断面にした外観斜視図である。このパウダー粒子50は、図1で示されたような容器1で保管・管理され、図2で示した使用態様で使用される粒子である。パウダー粒子50の大きさは前述のパウダー粒子11aと同じである。パウダー粒子50は、シリコン等の基板51上に形成された共振器52を有している。共振器52は、アンテナと絶縁体を利用して、容量素子と誘導素子で形成される。図中の符号51aは、SiN等の保護膜である。この共振器52は、特定の周波数、例えば2.45GHzの高周波電磁界によく感応する機能を有している。リーダ・ライタをインダクタンス素子で形成したとき、接近度に応じて相互インダクタンスのため、感応周波数は変化する。リーダ・ライタはこれを考慮して設計される。感応周波数を特定値に固定するときは、集積回路により能動的に固定することも設計的に可能である。
【0056】
図10と図11を参照して第2実施形態に係るRFパウダーの実際の使用例を説明する。図10は前述した図5と同様な図であり、図11は前述した図6と同様な図である。本実施形態に係るRFパウダーの多数のパウダー粒子50は、前述した第1実施形態と同様に、シート部材30の表面に付着され、またはその内部に埋設される。
【0057】
多数のパウダー粒子50を含むシート部材30を、コンピュータ31に接続されたリーダ・ライタ53で読み込む。このリーダ・ライタ53は、電磁波放射部53aと電磁波検出部53bを有している。電磁波放射部53aはシート部材30の上側に配置され、電磁波検出部53bはシート部材30の下側に配置されている。電磁波放射部53aと電磁波検出部53bは、シート部材30を間に置いた位置関係で、上下で同一位置に位置しており、同一の位置関係で所定方向に移動される。リーダ・ライタ53において、さらに、電磁波放射部53aは電磁波放射端子54aを有し、電磁波検出部53bは電磁波検出端子54bを有する。電磁波放射部53aの電磁波放射端子54aと、電磁波検出部53bの電磁波検出端子54bとは、シート部材30の表面および裏面に沿って同期して移動し、シート部材30を走査する。リーダ・ライタ53は、走査する各位置で、前述した特定の周波数帯域に含まれる周波数を用いて検出動作を行う。
【0058】
図11は、本実施形態に係るRFパウダーに含まれる或る1つのパウダー粒子50の存在場所において、リーダ・ライタ53との間の高周波電磁界の結合関係を示している。電磁波放射部53aの電磁波放射端子54aが走査動作を行ってパウダー粒子50の上側の位置に到達したとき、周波数を変えて高周波電磁界を放射し、パウダー粒子50が感応する周波数の電磁界が放射されたとき、パウダー粒子50では共振器52が共振し、パウダー粒子50に電磁界エネルギ(矢印55)が吸収される。さらにパウダー粒子50では、の電磁波吸収作用で強度が低減した電磁波(矢印56)を、電磁波検出部53bの電磁波検出端子54bにより検出する。電磁波検出部53bで検出された検出値に係る情報はコンピュータ31に送られ、そのメモリに、その走査位置での電磁波吸収量のデータが記憶される。
【0059】
図10に示されたシート部材30の全体に渡ってリーダ・ライタ53が走査し、これによりシート部材30の全域でのRFパウダー(多数のパウダー粒子50)による電磁気吸収量に係るデータがコンピュータ31に記憶される。コンピュータ31のメモリに記憶された情報は、必要に応じて、その表示装置31aに表示される。
【0060】
第2実施形態に係るRFパウダーによれば、前述した第1実施形態に係るRFパウダーと同様に、紙幣の偽造判別や、重要書類の認証等に利用することができる。この場合において、パウダーとして用いるため取扱いが容易である。
【0061】
第2実施形態に係るRFパウダーの製造方法は、前述した第1実施形態に係るRFパウダー11の製造方法における素子形成工程S11において集積回路素子を作製する代わりに共振器を作製する点のみが異なり、その他の工程は前述の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0062】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および各構成の組成(材質)については例示にすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のRFパウダーは、書類の認証や紙幣等の偽造判別に用いるための情報記録媒体等としての粉末要素として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るRFパウダーの使用・管理の態様を示す図である。
【図2】第1実施形態に係るRFパウダーのうちの一部のパウダー粒子を取り出して誇張し拡大して示す図である。
【図3】第1実施形態に係るRFパウダーの1つのパウダー粒子の要部を断面にして示す立体図である。
【図4】第1実施形態に係るRFパウダーの1つのパウダー粒子に含まれる集積回路の回路構成例を示すブロック図である。
【図5】第1実施形態に係るRFパウダーの実際の使用応用例を説明する装置構成図である。
【図6】1つのパウダー粒子の存在場所でのリーダ・ライタとの高周波電磁波の送受関係を示す図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係るRFパウダーの製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第1実施形態に係るRFパウダーの製造方法の各工程に対応するウェハとパウダー粒子の構造断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係るRFパウダーの1つのパウダー粒子の一部を断面として示す斜視図である。
【図10】第2実施形態に係るRFパウダーの実際の使用応用例を説明する図である。
【図11】第2実施形態における1つのパウダー粒子の存在場所でのリーダ・ライタとの高周波電磁波の送受関係を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1 容器
11 RFパウダー
11a パウダー粒子
12 基板
13 集積回路(IC)
14 絶縁層
15 アンテナ素子
16,17 トランジスタ
18,19 配線
30 シート部材
32 リーダ・ライタ
39 アンテナ付き集積回路素子
40 基板
40a 切溝
43 保護膜
44 パラフィン
45 セラミックプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パウダーの態様で使用され、前記パウダーの各粒子は基板上に形成された集積回路とこの集積回路上に形成された絶縁層とこの絶縁層上に形成されたアンテナ素子とを有することを特徴とするRFパウダー。
【請求項2】
パウダーの態様で使用され、前記パウダーの各粒子は基板上に形成されかつ外部からの電磁界に感応する共振器を有することを特徴とするRFパウダー。
【請求項3】
前記共振器は、前記基板上に形成されたアンテナ素子、または前記基板上の絶縁層上に形成されたアンテナ素子であることを特徴とする請求項2記載のRFパウダー。
【請求項4】
前記パウダーの各粒子を無検査のまま、媒体に混入し、使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のRFパウダー。
【請求項5】
前記パウダーの各粒子は前記パウダーの状態で収容容器に保存・管理されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のRFパウダー。
【請求項6】
前記粒子における最長辺を含む矩形平面の大きさが0.30mm角以下0.05mm角以上であることを特徴とする請求項1または2記載のRFパウダー。
【請求項7】
前記粒子における最長辺を含む前記矩形平面の大きさが0.15mm角であることを特徴とする請求項6記載のRFパウダー。
【請求項8】
1つの粒子が基板上に形成された集積回路とこの集積回路上に形成された絶縁層とこの絶縁層上に形成されたアンテナ素子とを有し、大量の前記粒子から成るRFパウダーを製造する方法であって、
平行光線またはX線による露光を利用してウェハ上に前記粒子になるべきアンテナ付き集積回路素子を大量に作製する工程と、
前記ウェハにおける前記アンテナ素子が形成された側の表面で前記アンテナ付き集積回路素子を分離するための位置に切溝を形成するガスダイシング工程と、
前記アンテナ付き集積回路素子の周囲を保護膜で覆う保護膜形成工程と、
前記保護膜を形成した前記ウェハの表面側に接着剤により強化プレートを貼り付ける強化工程と、
前記ウェハの裏面を前記切溝まで研磨する研磨工程と、
前記接着剤を除去し前記強化プレートを取り除いて前記アンテナ付き集積回路素子を分離する分離工程と、
を有することを特徴とするRFパウダーの製造方法。
【請求項9】
1つの粒子が、基板上に形成されかつ外部からの電磁界に感応する共振回路を有し、大量の前記粒子から成るRFパウダーを製造する方法であって、
平行光線またはX線による露光を利用してウェハ上に前記粒子になるべき回路素子を大量に作製する工程と、
前記ウェハにおける前記共振回路が形成された側の表面で前記回路素子を分離するための位置に切溝を形成するガスダイシング工程と、
前記回路素子の周囲を保護膜で覆う保護膜形成工程と、
前記保護膜を形成した前記ウェハの表面側に接着剤により強化プレートを貼り付ける強化工程と、
前記ウェハの裏面を前記切溝まで研磨する研磨工程と、
前記接着剤を除去し前記強化プレートを取り除いて前記回路素子を分離する分離工程と、
を有することを特徴とするRFパウダーの製造方法。
【請求項10】
前記接着剤は有機溶剤で溶ける材料であることを特徴とする請求項8または9記載のRFパウダーの製造方法。
【請求項11】
前記強化プレートはセラミックプレートであることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載のRFパウダーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−128433(P2007−128433A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322371(P2005−322371)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(305054854)株式会社フィルテック (45)
【Fターム(参考)】