RF特性最適化(RE)Ba2Cu3O7−δ超伝導薄膜組成物
本発明の膜は特にマイクロ波およびRF用途に関して最適化された高温超伝導(HTS)薄膜である。特に、本発明はマクロ波/RF用途に関して最適化された膜を製造するために1:2:3の化学量論からの大きなずれを有する組成に焦点を合わせる。RF/マイクロ波HTS用途はHTS薄膜が優れたマイクロ波特性、特に低い表面抵抗、Rsおよび高線形表面リアクタンスXs、すなわち高JIMDを有することを要する。そのようなものとして、本発明はその物理的組成、表面モルホロジー、超伝導特性、およびこれらの膜からつくられるマイクロ波回路の性能特性に関して特徴がある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、RF用途に関して最適化された高温超伝導組成物の薄膜およびその製造方法、特に1:2:3の化学量論から大きくずれている希土類組成物(RE)Ba2Cu3O7−δに関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本発明は、35 U.S.C.§119(e)により2004年12月23日に提出された米国仮出願第60/639043号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
希土類酸化物超伝導体および以前記録された温度より大いに高温におけるその超伝導能は、最初に1986年にJ.G.BednorzおよびR.A.Mullerによってランタン、バリウム、銅、および酸素の混合物に関して論文“Possible High Tc Superconductivity in the Ba−La−Cu−O system.”(64 Z.Phys.B.−Condensed Matter、189−193頁(1986年))において報告された。BednorzおよびMullerは、以前他の材料の種類に関して知られていた、材料が超伝導になる臨界温度の実質的な増加を提示するBa−La−Cu−O組成物を記述した。ここで、この組成物は、La5−xBaxCu5O5(3−y)(式中、x=0.75−l、y>0、かつ抵抗率の突然の変化は30ケルビンの範囲において生じる。)であった。
【0004】
この貢献は、高転移温度、好ましくは77ケルビン以上を有する材料を開発する強力な調査をもたらした。なぜなら、77ケルビン以上の転移温度は超伝導装置の冷却への液体窒素の使用を可能にするからである。1987年、ヒューストン大学のC.W.Chuおよび共働者が加圧によりLa−Ba−Cu−O化合物の開始Tcを50K超まで上昇し得ることを見つけた。(Phys.Rev.Lett.58巻、405頁(1987年);Science 235巻、567頁(1987年))。
【0005】
次にヒューストン大学およびアラバマ大学のChuと共働者は、90K付近にTc値および約70Kにゼロ抵抗状態を有する混合相Y−Ba−Cu−O系開始(onset)を発見した。この化合物は組成式Y1・2Ba0.8CuO4−δを有する(Phys.Rev.Lett.58巻、908頁(1987年))。Chuおよび共働者、並びにAT&TおよびIBMの科学者は、後にこの化合物が組成式Y2BaCuO5(「緑色」相)およびYBa2Cu3O6+x(「黒色」相)の二相からなることを示した。後者の相は、超伝導相であると決定され、前者は半導体相であると決定された(Cava等、Phys.Rev.Lett.58巻、1676頁(1987年);Hazen等、Phys.Rev.B 35巻、7238頁(1987年);Grant等、Phys.Rev.Lett.35巻、7242頁(1987年))。
【0006】
90K付近における超伝導性が、更に混合相Lu−Ba−Cu−O化合物においてMoodenbaughおよび共働者により報告された(Phys.Rev.Lett.58巻、1885頁(1987年))。Chu等は更に式ABa2Cu3O6+x(式中、A=Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Ho、Er、またはLuである。)の化合物に関して90K超の超伝導性を確認した(Phys.Rev.Lett.58巻、1891頁(1987年))。
【0007】
これらの異なる希土類(RE)BCO(RE=希土類、B=Ba、C=Cu)化合物からのデータは、この種の化合物に関して、超伝導性がc軸にのみ沿うAカチオンによって乱され得るCuO2−Ba−CuO2−Ba−CuO2平面アセンブリー(plane assembly)と関連することを示す。
【0008】
この発見に続いて、調査を高温超伝導(HTS)特性を有するYBCO種の化合物を中心に進めた。B.Batloggは、最初に、YBCO化合物の超伝導特性に関与する単結晶相を発見し、単離した(B.Batlogg、米国特許第6636603号)。組成物の単ペロブスカイト相を単離する時、Batloggはこの組成物が相分離に欠かせず、M2M’Cu3O7−δ組成物(式中、Mは二価のカチオン、好ましくはバリウムであり、M’は三価のカチオン、好ましくはイットリウムである。)を10%以内にしなければならないことを諭した。
【0009】
他の研究は、HTS組成物の超伝導特性におけるイットリウムに関する種々の希土類元素置換効果およびY:Ba:Cuの1:2:3比の変化の効果の両方を調べてきた。多くの研究が部分的にまたは完全にPr、CeおよびTbを除く希土類元素置換能力および生じる(RE)BCO組成物に関して約90KのTcを保持する能力を示してきた(S.Jin、Physica C 173巻、75−79頁(1991年))。更に、別の研究がc軸コヒーレンス長およびTc値がイットリウムに代わる希土類元素のイオン半径が増加すると共に増加することを示す(G.V.M.Williams、Physica C 258巻、41−46頁(1996年))。
【0010】
これらの発見をもとに、P.Chaudhariおよび共働者はIBMにおいて組成式(RE)(AE)2Cu3O9−y(式中、REは希土類元素であり、AEはアルカリ土類元素であり、かつyは必要とする原子価を満たすのに十分な値である。)を有する高温超伝導酸化物の薄膜製造方法を開発した(Chaudhari、米国特許第5863869号(1999年))。使用される希土類元素は、Y、ScおよびLaを含み、AEは更にBa、CaまたはSrによって置換されていてもよい。銅は、その高超伝導開始温度および酸化銅膜の滑らかで、均一な性質のため、酸素にとって好ましい遷移金属である。この成長工程を使用して、Chaudhariは、超伝導挙動を50ケルビンから77ケルビン超まで示す、超伝導開始温度が約97ケルビンであるYBCO膜を得ることができた。これらの膜はターゲットとする(RE)(AE)2Cu3O9−y組成15%以内であり、Chaudhariは高温超伝導性を得るのに厳格な組成は必要ではないことを示した。
【0011】
しかしながら、薄膜における(RE)BCOカチオン交換の別の研究において、J MacManus−Driscoll等は、Ba部位における希土類(RE)元素置換オフ組成(off−composition)膜(例えばRE(Ba2−xREx)Cu3Oy(式中、RE=ErまたはDyであり、x>0.1(14%ずれ)およびRE=Hoであり、x>0(全ずれ)である。))に関してTcが劇的に減少したことを示した(J.L MacManus−Driscoll、Physica C 232巻、288−308頁(1994年))。J.MacManus−Driscollは更に、薄膜を成長させる酸素圧が、希土類イオンの大きさと同様、REおよびBaカチオンの構造欠陥に影響を与えるようであることを報告した。より大きなBaカチオンに代わる小さな希土類カチオンは格子に大きな歪を生じ、従って生じにくそうな不安定な相を生じる。
【0012】
YBCO薄膜の1:2:3化学量論を変化させる別の研究は、大過剰のイットリウムが極小イットリウム沈殿物を形成し、表面抵抗(Rs)の増加および乏しいマイクロ波帯の原因になるが、わずかに増加させた銅およびイットリウム含量は最小表面抵抗の原因になることを示した(E.Waffenschmidt,J.Appl.Phys.77巻(1号)438−440頁)。更に、N.G.Chew等はYBCO薄膜構造および電気的性質におけるわずかな組成の変化の効果を分析し、化学量論1:2:3付近またはイットリウム過剰で成長した膜は滑らかであるが、バリウム過剰で成長した膜は表面粗さおよびa−軸配向粒子(grain)が成長することを発見した(N.Chew、Appl.Phys.Lett.57巻(19号)2016−2018頁(1990年))。これらの著者は、更に、明確なYBCO組成が存在することを見いだした(ここでTcおよびJcが最大化され、c−軸格子定数、(007)x−線ピーク幅、および表面粗さが最小化される。)。これらの量は、Ba/Y比2.22±0.05(次に2でないことを示す)およびCu/(Y+Ba+Cu)比0.5に関して最適化された。この最適組成からのカチオン比のわずかな変化は、上記パラメータの大きな悪化を生じた。
【0013】
W.Prusseit等は、YBCO膜と比較して改良された特性を有する異性体構造Dy−BCO薄膜材料を製造した。ジスプロシウムをイットリウムの代わりにし、YBCOと同一条件において成長させることによって、Prusseitは1:2:3の化学量論からわずかにしか変わらない膜を製造した。それらのYBCO膜と比較すると、これらの材料はより良好な化学的安定性および改良した遷移温度(2〜3K)を示し、更に77Kにおいてマイクロ波空洞において測定される表面抵抗(Rs)が20%減少した:10GHzにおいて〜300μΩに対して〜250μΩ(W.Prusseit、Physica C 392−396巻、1225−1228頁(2003年))。Hein(High−Temperature Superconductor Thin Films at Microwave Frequencies(Springer Tracts in Modern Physics、155巻)、ベルリン、1999年)等はYBCO薄膜の空洞測定において幾分低い表面抵抗(77K、10GHzにおいて〜200μΩ)を測定した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これらの(RE)BCO化合物の組成は、その特定の用途に関する特性を最適化するために実質的に名目の1:2:3の化学量論から変わり得る。本発明の主目的は、最も低い可能なRF表面抵抗(Rs)値並びに最も低い達成可能なRF非線形性を有する高温超伝導薄膜を提供することである。このことはしばしば1:2:3組成から大きくずれる(RE)BCO膜の製造を要求する。本発明の別の目的は、RF/マイクロ波用途に関して最適化された薄膜超伝導体を提供することである。本発明の別の目的は、この膜が低い表面抵抗を有することである。本発明の別の目的は、この膜が高度に線形RF/マイクロ波表面リアクタンスを有することである。本発明の別目的は、この膜の化学量論が標準の1:2:3の化学量論から少なくとも10%ずれ、イットリウムが希土類元素によって完全置換されていることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の要旨
本発明の膜は、とりわけマイクロ波およびRF用途に関して最適化された高温超伝導(HTS)薄膜である。高温超伝導特性を示す先行技術の(RE)BCO膜は、組成式(RE)xBayCu3O7−δ(式中、REは希土類元素、好ましくはイットリウムであり、x=1であり、y=2であり、かつ0≦δ≦1である。)を有する。この1:2:3の化学量論は、以前、希土類元素の変更、完全および部分的にRE、Ba、およびCuに代えること、酸素ドーピングおよび1:2:3の化学量論からのずれを含めて多くの研究の的であった。
【0016】
本発明は、とりわけマイクロ波およびRF用途に関して最適化されたRE HTS膜に焦点を当てる。RF/マイクロ波HTS用途は、HTS薄膜が優れたマイクロ波特性、とりわけ低い表面抵抗Rsおよび高線形表面リアクタンスXs、すなわち高JIMDを有することを必要とする。そのようなものとして、本発明は、物理組成、表面モルホロジー、超伝導特性、およびこれらの膜から製造されるマイクロ波回路の性能特性に関して特徴がある。
【0017】
特に、本発明は、マイクロ波/RF用途に関して最適化された膜を製造するために1:2:3の化学量論からの大きなずれを有する組成に焦点を当てる。これらの膜はRE:Ba比が1.8未満(これは典型的な比2から10%以上ずれている)、好ましくは1.7未満である。この研究は、かたどられた膜の表面抵抗を示す最も高い品質係数値Qが各REに関して特定のBa:RE比において頂点に達し、それらの比は1:2:3の化学量論から大きくずれることを示した。
【0018】
加えて、HTS膜の性能特性は当然RF/マイクロ波HTS用途におけるその有効性に影響を与える。低い表面抵抗Rs(77K、1.85GHzにおいて15μΩ未満)および高線形表面リアクタンスXs、すなわち高JIMD値(77Kにおいて107A/cm2超、好ましくは5×107A/cm2超)が特に望ましい。そのような特性を有するHTS薄膜は、極めて小さなサイズ(<10−cm2フィルタチップ)において極めて低い帯域内挿入損失(<1−dB、好ましくは0.2−dB)で、極めて選択的なフィルタ(0.2%相対周波数中60−dB排除〜0.02%相対周波数中100−dB排除)の製造を可能にし、このことは、望ましくない通過帯域の歪、特に相互変調歪、より特にバックグラウンドノイズレベルに相当する相互変調歪(−173.8dBm/Hz)なしに、携帯電話の基地局受信機のフロントエンド(front end)において受ける干渉電力レベル(−50dBm〜−28dBm、−12dBm〜0dBmまで、または可能であれば更に高い)に対処し得る。従って、本発明の膜は、更にその最適化されたマイクロ波およびRF特性により特徴づけられる。これらおよび他の目的、特徴および利点を以下の好ましい態様のより詳細な説明により明らかにする。
【0019】
表Iはかたどられた試験共振器を使用して測定される我々の幾つかの(RE)BCO薄膜に関して得られる〜1.85GHzにおける最大Qu値を示す。この測定は67Kおよび77K、入力−10dBmにおいて行われた。この表は、更に、これらのQu値から計算したRs値も示す。
【0020】
発明の詳細な説明
上記のように、本発明はRF/マイクロ波用途に関して最適化された組成物を有する高温超伝導(HTS)薄膜およびそのような膜の確実な製造方法に関する。そのようなものとして、本発明はその物理組成、表面モルホロジー、超伝導特性、およびこれらの膜によりつくられるマイクロ波回路(フィルタ、遅延線、カプラー等;特に帯域通過および帯域阻止フィルタ、より特に携帯電話基地局受信機の帯域通過および帯域阻止プレセレクタフィルタ)の性能特性に関して特徴を示す。先行技術のHTS (RE)BCO膜と本発明の(RE)BCO膜との違いは、1:2:3の化学量論から大きくずれる組成と新しい組成の大いに最適化されたRF特性との両方において見いだされる。
【0021】
定義
本発明の目的に関して、薄膜は、好適な支持基材に成長させられるか、付着させられるか、または適用される材料の層(通常非常に薄い)と定義される。この膜の厚さは、約1nm(10−9m)〜数ミクロン(>10−6m)厚でよい。多くの出願の薄膜厚の典型的な範囲は100nm〜1000nmである。
【0022】
高温超伝導体(HTS)は、転移温度または臨界温度(Tc)を有し、これよりも低い温度で超伝導性を有する、広い分類のセラミック材料、典型的には酸化物、より典型的には酸化銅または銅酸化物を含む。この臨界温度を超えると、高温超伝導体は通常、金属的な、つまり「ノーマルな」、伝導材料として振る舞う。HTS材料は、更に通常、約30Kを超えるTc値を有することを特徴とする。HTS材料の例は、La2CaCu2O6、Bi2Sr2CaCu2O8、YBa2Cu3O7、Tl2Ba2CaCu2O8、HgBa2CaCu2O7等を含む。これらの材料は、超伝導性になるために明確な結晶構造を有さなければならない。すなわち、これらの材料は構成原子の非常に明確な規則的配列および繰り返し配列を有さなければならない。
【0023】
希土類(RE)元素は、周期表の第IIIA族に存在する原子番号57〜71の15種のランタノイド元素、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、およびルテチウム、である。第IIIA族遷移金属であるイットリウム(原子番号39)はランタノイドではないが、天然鉱物中それらと共に生じ、類似した化学的性質を有するので通常REに含まれる。更に第IIIA族遷移金属であるスカンジウム(原子番号21)および周期表のアクチノイド系列の元素であるトリウム(原子番号90)も、その類似した性質のため一般にREに含まれる。
【0024】
組成
最も普遍的なHTS材料は、定められた量および配列のY、Ba、CuおよびO原子からなるYBCOである。この材料の特定の原子配列の基本的な繰り返し単位は、名目上一つのY原子、二つのBa原子、三つのCu原子および七つのO原子からなる単位格子として知られている。この化合物の斜方晶系単位格子のサイズはそれぞれa軸、b軸、c軸方向において約3.82×3.89×11.68オングストロームである。この化合物を形成するのに必要とされる原子比は化学式YBa2Cu3O7−δ(式中、酸素含量は単位格子あたり6〜7原子で可変、つまり0≦δ≦1である。)により記述される。この組成を有し、高結晶質および高純度の単層材料に関して、Tc値は、概してδの値により決定される。YBCOはδ<〜0.6に関して超伝導体であり、高Tc値を提供するためにはδの値が0近くであることが一般的に好ましい。
【0025】
YBCOは最も広く研究されているHTS材料であり、単層の形態、すなわち完全に上記組成のみからなり、他の相を含まない形態における製造方法が多く知られている。しかしながら、本出願によると同様または優れた超伝導特性を有し得る多くの他の同様の化合物もまた作成され得る。これらの化合物は1:2:3と異なるY:Ba:Cu比を有してもよく、更にYまたはBa以外の元素を含んでもよい。従って、この化合物の構造の一般化された名称はM’xMyCu3O7−δ(式中、M’は一般的に基本的に三価のイオンまたは三価のイオンの組み合わせであり、Mは基本的に二価のイオンまたは二価のイオンの組み合わせである)と書かれ得る。M’:Cu、M:Cu、およびM’:Mの比は、それぞれ更に実質的に名目上の値1:3、2:3、および1:2から変わってもよい。一連のパラメータ空間はまだ検討されていないが、この名目からカチオン比が50%ずれている化合物も超伝導性であると考えることは妥当である(例えば、1:6<M’:Cu<1:2、1:3<M:Cu<1:1、および1:4<M’:M<3:4)。しかしながら、1:2:3の化学量論から大きく変わっている組成は臨界電流密度(Jc)、標準状態の抵抗率(ρ)、臨界温度(Tc)、および表面抵抗(Rs)を含む組成物の特定の性質に影響を与える。
【0026】
高Tc値を提供するために、Baが一般的に二価元素、すなわち上記一般式におけるMとして好ましい。Baの代わりの多くの元素の完全または部分置換はTcを下げるかまたは超伝導性を全くそこなう傾向がある。これらの元素は、Sr、La、PrおよびEuを含む(Y.Xu、Physica C 341−348巻、613−4頁(2000年)およびX.S.Wu、Physica C 315巻、215−222頁(1999年))。同様に、Cu原子をCo、Zn、Ni等でドープしてもよく、それらの多くの効果は、絶対的な効果(例えば、電荷移動またはCu−O面における超伝導性の破壊)はCu(1)またはCu(2)部位が影響を受けるかどうかに依存するが、Tcを下げることである(Y.Xu、Phys.Rev.B第53巻、22号、15245−15253頁(1996年))。Y部位における幾つかの部分置換は同様の効果を有し得る(例えばCa、Ce、およびPr。)(L.Tung、Phys.Rev.B第59巻、6号、4504−4512頁(1999年)およびC.R.Fincher、Phys.Rev.Lett.67巻(20号)2902−2905頁(1991年))。しかしながら、Yに関してYBCOと同様かまたはより高いTc値をもたらす既知の部分または完全置換が存在し得る。これらの既知の置換の多くは元素の希土類族に由来する。一般的に、希土類元素はこれらの(RE)BCO化合物に高いTc値を提供する大きなイオン半径を有する(G.V.M.Williams、Physica C 258巻、41−46頁(1996年))。
【0027】
これらの関連化合物に利用可能な組成の範囲にわたって超伝導性を特徴づける特性を維持することが重要であるが、われわれの研究は、特定の用途にその特性を合わせるために組成が名目上の1:2:3の化学量論から大きく変わり得ることを示した。例えば、1:2:3近くの組成は、滑らかな薄膜表面が最も重要である多層デバイスまたは能動素子の用途に好ましい。逆に、RF用途用のHTS膜の最適化は、最低可能RF表面抵抗(Rs)値を有することと達成され得る最低RF非線形性を有することとの間の均衡をうまくとる薄膜の製造を必要とする。このことは、換言すると1:2:3の組成から大きくずれる(RE)BCO膜の作成をしばしば要求する。
【0028】
本発明のHTS薄膜はRF用途に関して最適化され、そのようなものとして本発明のHTS薄膜は可能な最低RF表面抵抗(Rs)値および可能な最低RF非線形性を有する。この最適化を達成するために、この膜組成物は組成式(RE)xBayCu3O7−δ(式中、REは既定の希土類元素の一つ、好ましくはDyであり、かつy:x比は好ましくは約1.5〜1.8、より好ましくは約1.55〜1.75、最も好ましくは約1.6〜1.7である。)を有する。
【0029】
基材
HTS材料の超伝導特性は、その結晶完全性の程度に非常に敏感である。このことは、高品質HTS膜を成長させ得る好適な基材材料の選択に厳しい制約を課す。これらの制約のうちのいくつかは結晶構造、成長過程との適合性、化学的適合性、用途との適合性、並びに性質によって課せられる他の要求を含む。
【0030】
おそらく最も重要な要求は結晶構造である。この基材は、膜のエピタキシャル成長が起こり、よく配向した膜が形成されるように、HTS膜に適合する適切な格子を有さなければならない。低い格子適合は膜におけるディスロケーション、欠陥、および誤った方向に向いた粒子の原因になり得る。一般的に、基材はこれらの要求に合うように単結晶形態で利用可能であるべきである。
【0031】
基材はHTS化合物の結晶化に必要な成長過程中の高い処理温度に耐え得なければならない。加えて、成長温度または別の次の熱サイクルからの冷却サイクル中の膜の歪および亀裂を防ぐためにHTS膜に適合する構造的完全性および妥当な熱膨張が要求される。
【0032】
基材は(RE)BCOと化学的適合性、非反応性、かつ高温において膜中への拡散性がわずかでなければならない。
【0033】
基材はHTS薄膜の意図される使用に利用可能である充分大きなサイズでなければならない。例えば、ある受動マイクロ波回路または大容量電子機器(high−volume electronics)の用途は大きな基材サイズを要求する。直径2”の極小基材がこれらの用途に典型的であるが、可能であればより大きなサイズがしばしば望ましい。基材が実測技術または用途に適合した物理的特性を有することが更に要求され得る。大部分の用途に関して基材は安定しており、機械的に強い絶縁体でなければならない。他の要求は、光の透過測定に関する赤外線における透明性、分光測定で干渉しない構成要素または構造、例えばラザフォード後方散乱(RBS)またはエネルギー分散型x線分光(EDX)、および意図される動作温度におけるマイクロ波測定および用途に関する低誘電率および低誘電正接を含み得る。
【0034】
少数の単結晶基材がこれらの要求の幾つかまたは全てに合う。それらの例は、MgO、Al2O3、LaAlO3、NdGaO3、(La0.18Sr0.82)(Al0.59Ta0.41)O3、およびSrTiO3を含む。後の四種は(RE)BCOに適合する優れた格子を有する。しかしながらSrTiO3の高誘電率および誘電正接はSrTiO3をマイクロ波用途に役に立たなくする。LaAl3およびNdGaO3はこの点に関してはより良いが、LaAlO3は双晶である傾向があり、かつこれらの双晶界面が典型的な処理温度において形成され可動性になり得るという事実を欠点としてもつ。Al2O3は低損失基材であり、幾つかの異なる配向およびサイズにおいて広く利用可能である。しかしながら、これは高温で(RE)BCOと強く反応し、適切な緩衝層の使用を必要とする。加えて、Al2O3は(RE)BCOと適合する熱膨張が小さく、膜が冷却に際して亀裂を生じる傾向がある。MgOは比較的低損失であり、(RE)BCOに適合する良好な熱膨張を有し、RF用途に関して良好な選択である。しかしながら、MgOは他の上記例よりはるかに大きな格子不整合を有するのでMgOにおける(RE)BCO膜成長が良好に配向されることを可能にするために細心の注意を払う必要がある。特に、(RE)BCO膜がMgOにおいて成長し、面内回転粒子および45°粒界を含むことは比較的一般的である(B.H.Moeckly、Appl.Phys.Lett.57巻、1687−89頁(1990年))。これらの高傾角粒界の量の最小化は良好なマイクロ波性能、特に高RF線形性に必須である。あるMgO基材表面処理は高傾角粒界の数を制御するのに役立てるために行われ得るが、これらの粒界の形成を更に抑えるのに、特にRF用途への要求に、多くの労力が必要とされる。成長方法、成長条件、および特に(RE)BCO膜の組成の全てをMgO上で成長する膜における45°粒子の量の最小化のために選択し、調節しなければならない。
【0035】
膜形態および微細構造
(RE)BCOの異方性輸送特性、その斜方晶構造、およびその小さな超伝導性可干渉距離は、(RE)BCO膜が優れた結晶構造および配向を有さなければならないことを意味する。このことは特に良好なマイクロ波特性を得るために当てはまる。従って、膜は実質的に第二の相がない状態でなければならず、それらは面内(基材表面に平行)および面外(基材表面に垂直)の両方に良好なエピタキシーを有さなければならない。典型的には、(RE)BCOのc軸は基材表面に垂直に整列される。膜中の全ての粒子をそのように整列しなければならず、それらは互いに高度に整列されなければならない。この結晶秩序の度合いは、典型的にはθ−2θx線回折走査により特徴づけられ、要求はピーク幅が狭いc軸のみ配向した(00l)スペクトル線および更にいわゆるω走査、すなわち与えられたブラッグ角についてのロッキングカーブ測定の狭いピーク幅の存在である。θ−2θ測定は更に膜中にa軸配向粒子によるスペクトルラインの存在を検出し得る。これらの粒子は更に適切なブラッグ角についてのχ走査により検出され得る。
【0036】
良好なマイクロ波特性を有する薄膜に関して、膜中のa軸粒子の量は理想的にはゼロであり、c軸配向膜に関してc軸x線ピークに対するa軸x線ピーク強度は理想的にはゼロであり、好ましくは1%よりはるかに少ない。加えて、c軸配向粒子は更に面内配向であるべきであり、それらは互いにレジストリ(registry)内にありかつ基材結晶構造と共に存在することを意味する。全体的な面内格子構造に関して回転された粒子は非ゼロ度角粒界になる。そのような非ゼロ角粒界、特に高角粒界および45°粒界を横切る超伝導輸送は、おそらく(RE)BCOの歪、高酸素移動度、および小さい可干渉距離により低下する(B.H.Moeckly等、Phys.Rev.B 47巻、400頁(1993年))。Jc、RsおよびRF非線形性は全てこれらの高角粒界の存在により悪影響を受け得る。これらの回転粒子および粒界の存在は、適切なブラッグ角についてとるφ走査x線測定により検出され得る。理想的には、非整列φ走査ピークはゼロ、好ましくは整列ピークの大きさの0.1%未満、より好ましくは0.05%未満、および最も好ましくは0.02%未満にならなければならない。
【0037】
図1は我々により製造され、RF用途に関して最適化された幾つかの700nm厚(RE)BCO膜に関するθ−2θ走査を示す。YBCOに加えて、これらの膜はRE置換Er(EBCO)、Ho(HBCO)、Dy(DBCO)、およびNd(NBCO)を含む。x線走査は膜が単相であり、高c軸整列であることおよびa軸配向粒子が膜中に存在しないことを示す(00l)ピークのみの存在を示す。(RE)BCO膜の相対ピーク強度がYBCOと異なり、異なるREイオン半径の効果を示すことに注目する。図2は(RE)BCO膜に関するわずかに異なるc軸格子パラメータを示す、異なる組成の幾つかの(RE)BCO膜に関する(005)ピーク位置対Ba/RE比を示す。図3はこれらの膜に関する(005)ピークの強度を示す。図31は異なる組成のDBCO膜に関する(005)ピーク強度をBa/Dy比の関数として示す。これらのDBCO膜は図3に示されるものを含むが、RF特性に関して最適化されている必要はない。ここで、良好な結晶性を示す高ピーク強度がグラフの実線により示される化学量論比から大きくずれるDBCO膜組成に関して得られることが観測される。図4は幾つかの(RE)BCO膜に関する代表的な(103)ピークのφ走査を示す(左側)。45°配向粒子および粒界が存在しないことを示す、45°におけるピークが全く存在しないことに注目する。図5は我々のDy−BCO膜の一つに関する、より高感度のφ走査を示す。y軸を対数スケールでプロットしており、45°においてメインピークに対して非常に弱いピークしか生じないことがわかる。この走査はこの膜が高角粒界がない度合いを示す。45°における弱いライン強度は最大中央ピークの約0.012%であり、粒子がほぼ整列を誤っていないことを示す。このことはこれらの膜のRF特性、特にそのRF非線形性の最適化に重要である。図4の右側は(RE)BCO膜に関して(104)ピークにおいて測定されたχ走査を示す。図1において示したように、これらの走査は更にa軸配向粒子が存在しないことを示す。
【0038】
(RE)BCO薄膜の表面形態は典型的には走査プローブ形状測定法(scanning probe profilometry)、原子間力顕微鏡法(atomic force microscopy)(AFM)、および走査電子顕微鏡法(SEM)により測定される。一般的に、滑らかな膜が適用に好ましいが、数度の表面粗さは別の重要な特性、例えばJcおよびRsの最適化を考慮して許容され得る。それにもかかわらず、AFMにより測定される〜10nm未満のRMS表面粗さを有することが望ましい。
【0039】
図6〜9はDy−、Ho−、Er−、およびNd−BCO膜の5μm×5μmの領域にわたる典型的なAFMイメージを示す。これらの膜はRF特性に関して最適化された。これらの膜のRMS表面粗さは数nmである。図6はRF非線形性が非常に低い高Q DBCO膜の表面形態を示す。この膜の粒度はおおよそ直径2μmであるとわかる。我々は更にこの図において明るい点として見えるいくつかのサブマイクロメートルサイズの粒子を膜表面において観測する。EDX分析はこれらの粒子の高いCuシグナルを示し、これらが酸化銅でできていることを示している。図7のHBCO膜の粒子はより小さい、より四角い外観を有し、この膜はCuO粒子が全体的に存在しない。図8に示される最適化EBCO表面は更に小さな粒度を有し、この場合もまたCuO粒子が存在する。図9のNBCO膜の粒子もまた外観が四角く、大きさが0.5μm未満である。これらの最適化(RE)BCO膜の異なる表面形態は、一般的に、異なるRE置換に関する最良RF特性を達成するのに必要とされる異なる組成および成長条件の反映である。
【0040】
膜の評価手順
(RE)BCO膜を更に、その組成および、温度の関数としての抵抗率(ρ)[ρ(T)]、Tc値および遷移幅、臨界電流密度(Jc)、およびRF表面抵抗(Rs)を含む電気的性質を測定することにより特徴づける。この膜を更に次に、我々が無負荷品質係数(Q)値、相互変調歪(IMD)、および非線形性臨界電流密度(JIMD)を測定するRF回路にかたどる。
【0041】
本発明の膜の組成をラザフォード後方散乱(RBS)および誘導結合プラズマ分光分析法(ICP)を使用して測定した。これらの技術は高い正確度および精密度の両方が可能であるが、1%に等しい測定の正確度1σまたは2σを達成することは困難であり、これらの技術の水準より慎重さを要する。RBS分析技術において、高速軽量イオン(典型的にはHeイオンまたはα粒子)をこの試料に対して加速する。これらのイオンのいくつかを試料中の原子核からラザフォード(クーロン)散乱により後方散乱させ、それらの後方散乱粒子のエネルギースペクトルを分析する。このイオンエネルギーは典型的には数百〜数千keVであり、後方散乱イオンのエネルギーは衝突された標的イオンの重量に依存する。従って、後方散乱イオンのエネルギースペクトルは試料を構成する元素およびその割合(化学量論)の同定を可能にする。加えて、入射イオンが試料を横断する時、それらは電子との非弾性散乱によりエネルギーを失う。このエネルギー損失は既知の方法により起こり、従って、深さの関数として試料の組成の測定を可能にする。しかしながら、厚い膜に関して、測定される構成元素のスペクトルピークが、組成の抽出のためのスペクトルのフィッティングに注意を要する、オーバーラップをし、この手続は不確定さに関連し、誤りを生じ得る。従って、単純に各ピークの下で数を数えることにより最も高い正確さを得るために、RE、Ba、およびCuによるピークが完全に隔てられるように充分薄い膜を使用しなければならない。我々はこの目的に関して充分薄い(RE)BCO膜を成長させた。これらの測定の結果は組成の正確さ2σ≦±1%を示した。この測定技術は定量的であり、比較標準の使用を必要としない。
【0042】
ICP技術において、薄膜は酸性溶液において温浸(digest)し、これを次に高温(10000℃以下)プラズマ放電に導入する。プラズマは溶液中の構成原子をイオン化および励起し、これらの原子が減衰して低エネルギー状態になる時、高分解能分光計により検出され得る特徴的な波長の光を放出する。これはいわゆるICP−AES(原子発光分析または発光分析)技術である。従って、ICPは多くの元素の測定を同時に可能にする。ICP−AESは検出限界を水性溶液において典型的にはμg/Lレベルにおいて有する。この技術は非常に正確でありかつ非常に精密であり得る。慎重に測定することにより正確さ1σ<±1%が得られる。この方法は、比較標準の使用を必要とする。RBSでは薄膜厚に応じる精度限界があるのだが、これは薄膜厚に応じる精度限界がない。従って、我々の組成物を試験する時、我々はRBSおよびICPを同時に使用した。最初に、我々は、高い正確さで非常に薄い膜においてその組成を測定するために慎重なRBS測定を行った。次に我々はこれらの同じ試料におけるICP測定値がRBS数と一致することを確認した。このことは我々が厚い(RE)BCO膜のICP−AES測定がこの同じ所望の正確さ(すなわち、1σ<±1%)をもつことを信用することを可能にする。
【0043】
直流比抵抗ρを標準4探針法により測定する。高品質(RE)BCO膜の室温抵抗率は、典型的には150〜300μΩcmであるが、この値はRE元素および膜組成に応じて変化する。図10は幾つかの(RE)BCO膜の組成、特にBa/RE比に応じる室温(300K)抵抗値を示す。図32は幾つかのDBCO膜に関する室温抵抗値をBa/Dy比に応じて示す。これらのDBCO膜は図10において示されるものを含むが、RF特性に関して最適化されている必要はない。ここで、高品質膜を示す室温抵抗値は化学量論比(グラフ上実線により示される)から大きくずれるDBCO膜組成、特にBa/Dy比が約1.5〜1.8のDBCO膜組成に関して得られ、特に良好な抵抗値はBa/Dy比1.76に関して達成されることが認められる。幾つかの(RE)BCO膜に関して、抵抗率の温度依存を図11〜14において示す。良好な膜に関するρの温度依存は、これらのプロットが示すように、典型的には直線的であるかまたはわずかに下方に湾曲しているいわゆるオーバードープ挙動を示す。ρ(T)の測定を更に使用して超伝導状態への転移幅(温度)とゼロ抵抗Tc値とを決定する。これらの膜の超伝導転移領域の詳細を図11〜14の挿入図において示す。(RE)BCO膜のTc値は典型的には87〜91K(図11〜13)であるが、図14においてNBCO膜に関して示されるように、より高いイオン半径RE置換はTc値95Kを有し得る。常態から超伝導状態への転移は典型的には高品質膜に関して図が示すように0.5K以内で起こる。
【0044】
本発明の方法により製造される(RE)BCO試料のTc値は、Er、Y、Ho、Dy、およびNdに関してそれぞれ88.5(5)、88.9(5)、89.2(5)、89.6(5)、および94.5(8)Kである。これらの値を付着に続いてすぐに測定した。この膜はR−T曲線のスロープにより判断されるように酸素オーバードープ(overdope)であるので、測定Tc値はこれらの化合物に関して知られている最高値よりもわずかに低い。図15は我々のHo−、Er−、およびDy−BCO膜の異なる組成に関するTc値をプロットしている。図33は更なるDBCO膜の異なる組成に関するTc値をプロットしている。これらのDBCO膜は図15に示されるものを含むが、RF特性に関して必ずしも最適化されている必要はない。化学量論(1:2:3)値(実線で示される)から大きくずれる組成に関しても高Tc値が得られることがわかる。
【0045】
(RE)BCO薄膜のRF表面抵抗は、バルクな(かたどっていない)膜を使用する空洞共振器または平行板共振器(parallel plate resonator)技術を含む複数の方法で測定され得る。Rsは典型的には周波数数百MHz〜数10GHzにおいて測定される。Rsは更に種々の種類のかたどられた共振器(例えばマイクロストリップ素子、準集中定数素子等)のQ測定からも抽出され得る。これらの構造の測定Q値からのRsの抽出は、幾何学的媒介変数ΓQを決定するのに共振器性能の慎重なモデリングを要する。RsとQとの関係は
【数1】
(式中、ω0は共振周波数であり、ΓQは共振器形状にのみ依存するパラメータであり、Qは測定される共振器の無負荷品質係数である。)
と書かれ得る。かたどられた構造の抽出Rs値は典型的にRF空洞においてバルクな膜の直接測定により得られるRs値より高い。このことは、Q測定における別の抵抗性RF損失を加え得る欠陥を導入し得る、かたどられた膜により生じ得る。これは一般的にバルクな膜測定系において存在しないΓQにおける不確定性またはマイクロストリップ共振器における電流密度の不均一性からも更に生じ得る。
【0046】
デバイス性能特性解析
我々の(RE)BCO膜のRF特性の評価およびマイクロ波膜用途に関するこれらの材料の実用性の測定に関して、我々はマイクロ波共振器およびこれらの膜からのフィルタを作った。これらの受動装置はグラウンド層を必要とし、従って両面付着膜を要する。準集中定数素子共振器を標準フォトリソグラフィー処理および不活性イオンエッチングを用いてかたどった。我々の試験共振器の形状を図16に示す。この材料は77KにおいてMgO基材におけるかたどられた(RE)BCO共振器に関する中心周波数約1.85GHzを有するこの標準試験共振器の無負荷品質係数Quを測定することにより特徴づけられる。Quを各(RE)BCO材料の一連の組成および成長条件に関して測定し、各材料の成長条件および組成を最適化して最大Quを達成した。我々はDy−BCO、Er−BCO、Ho−BCOおよびNd−BCO薄膜に関するセル状マイクロ波用途(cellular microwave application)に十分なQu値を明らかにした。実際、700nm厚膜に関して、我々は67K、1.85GHz、および−10dBm入力においてこれら各材料を使用する我々の試験共振器構造に関して40000超の無負荷Q値を達成した。我々は次に共振器形状の電磁場分布をモデリングすることにより膜のRs値を抽出した。マイクロ波用途に関する良好なRs値は、77K、1.85GHzにおいて〜15μΩ未満、より好ましくは〜10μΩ未満、および最も好ましくは約8μΩ未満である。
【0047】
図17は我々の(RE)BCO集中素子マイクロ波共振器の無負荷Q対関連Ba/RE比を示す。これらの測定を67K、入力−10dBmにおいて行った。これらの膜のQu値は、YBCO膜で得られる我々の最高Qよりわずかに低い。Ba/RE=2における点線は1:2:3化学量論値化合物を示す。最高Q値はこの比から離れて得られることがわかる。我々のNd−BCO膜は67KにおいてYBCO膜で得られる最高Qに匹敵する80000に到達する(このプロットに示されていない)、より高いQu値を示す。77Kにおいて、Nd−BCO膜のQ値はYBCOのQ値を超え得る。データにはばらつきがあるが、図17において示される3種の材料の傾向は同様である。各(RE)BCO膜に関してQが最大であるBa:RE比の値が存在し、このQ値は各RE元素に関して最大から離れる比に関して同じように落ちる。図18はRE/Cu比の関数として測定されるこれらのQu値を示し、図19はこれらのデータをBa/Cuの関数としてプロットする。点線はこれらの量の化学量論比を示し、更にこれらの名目上の比から大きくずれる組成に関して最高Q値が得られることが観測される。表Iは我々の(RE)BCO膜から作られる試験共振器に関して得られる67Kおよび77K、入力−10dBmにおいて測定される最大Qu値を示す。この表は更にこれらのQu値から計算したRs値も示す。
【0048】
図27は、示される種々のDBCO薄膜の異なる組成に関するBa/Dy比の関数の関数としての無負荷品質係数(Qu)の別のデータを示す。これらのDBCO膜は図17において示されるものを含むが、RF特性に関して最適化されている必要はない。従って、図17は各組成において得られる最高Q値を示すのに対して、図27は各組成における一連のQ値を示す。なぜならこの膜の別の特性(例えば、成長温度、膜厚、表面形態、または結晶性)が最適化されていないかもしれないからである。これらのQu値を温度67K、入力−10dBmにおいて中心周波数約1.85GHzを有する集中素子RF共振器に関して測定した。Ba/Dy=2における実線は1:2:3の化学量論値化合物を示す。最高Q値が化学量論比から大きくずれる組成関して、特にBa/Dy比約1.5〜1.8関して得られ、より特に約1.6〜1.7の比においてピークに達することが更に観測される。図28は温度77K、入力−10dBmにおいて測定される各組成の同じDBCO薄膜に関する無負荷品質係数(Qu)をBa/Dy比の関数として示す。Tcにより近いこの温度におけるデータにおいてより多くばらつきがあるが、このデータはなお明瞭に最高Q値が化学量論比から大きくずれる組成に関して、特にBa/Dy比約1.5〜1.8に関して得られ、より特に約1.6の割合でピークに達することを示す。
【0049】
(RE)BCO膜のQ値は増加する入力に応じて低下し得る。増加する入力に応じて(RE)BCO膜が高Q値を維持する能力は高性能膜系に関する重量な要件である。図29は異なる組成のDBCO膜から作られる共振器に関する67Kにおいて測定される高(+10dBm)入力と低(−10dBm)入力との比を示す。高いQ+10dBm/Q−10dBm値は、より良好なパワー処理能力および優れた性能を示す。DBCO組成が化学量論値(Ba/Dy=2、縦方向の実線により示される。)から更にずれるにつれてますます高い比が観測されることがわかる。図30は各組成の幾つかのDBCO膜に関して77Kにおいて高入力において測定されるQ対低入力において測定されるQの比をプロットする。この図は更に化学量論値から実質的にずれる組成に関しても優れたパワー処理が得られることを示す。
【0050】
(RE)BCOフィルタに対する入力レベルは、以下に記述するように異なる量の相互変調歪を生じることにより更にその性能に影響を与える。
【0051】
我々は更に、2”MgO基材において薄膜を成長させ、それらを市販の移動体通信装置に好適なタイプの10ポールフィルタ回路(10−pole filter circuit)にかたどることにより、これらの材料を評価した。図20はこのフィルタデザインのレイアウトを示す。このフィルタを同調させ、その性能を挿入損失、反射減衰量、および帯域外拒絶(out−of−band rejection)に関して評価した。加えて、我々はこれらの10ポールフィルタを使用してその三次変調歪(IMD)に関してこれらの材料の非線形特性を測定した。この試験装置のブロック線図を図21に示す。これらの測定に関して、二つの異なる近い周波数f1とf2とにおける同じ電力のトーンを組み合わせ、特定の電力レベルにおいてフィルタに適用した。これらの入力トーンの位置は帯域内、帯域端から遠く、または帯域端近くである。次に周波数2f1−f2における三次混合生成物の出力をスペクトルスペクトルアナライザにおいて測定する。これらの周波数におけるフィルタからの出力信号の大きさがフィルタのRF非線形性の重要な尺度であり、その多くのマイクロ波用途に関する適合を決定する。相互変調歪の存在は超伝導薄膜の表面リアクタンスXsの電流濃度依存を反映する(T.Dahm & D.J.Scalapino、J.Appl.Phys.81巻(4号)、2002〜2009頁)(1997年)。対照的に、薄膜の表面抵抗Rsにおける非線形性はフィルタの挿入損失の増加に反映される。このタイプの非線形性は一般的に超伝導薄膜のRFおよびマイクロ波フィルタへの用途における制限要因ではない。
我々は三種のIMD試験を利用して我々のHTS薄膜材料のRF/マイクロ波フィルタへの適用に関する適用性を評価した。
1. 帯域内試験。 2トーン入力信号をAMPS B通過帯域(835MHz〜849MHz)の中心付近に適用する。入力周波数は各々電力レベル−20dBmにおいてf1=841.985MHzおよびf2=842.015MHzである。相互変調スプリアスプロダクト(intermodulation sprious product)を842.045MHzにおいて測定する。このフィルタの出力において測定される周波数における相互変調スプリアスプロダクト電力は−105dBm未満でなければならない。
2. 近帯域試験。 等振幅入力信号を851MHzおよび853MHzにおいて適用し、相互変調スプリアスプロダクト電力レベルを849MHzにおいて測定する。仕様(specification)は出力において電力レベル−130dBmでAMPS B通過帯域における相互変調スプリアスプロダクトを製造する入力トーンの最小電力レベルである。この入力レベルは−28dBm超でなければならない。
3. 帯域外試験。 等振幅入力信号を869.25MHzおよび894MHzにおいて適用し、相互変調プロダクトを844.5MHzにおいて測定する。要求はAMPS Bシステム通過帯域における相互変調プロダクトをフィルタの出力において−130dBmに到達させる入力トーンの最小電力レベルである。この入力試験信号電力レベルは−12dBm超でなければならない。
【0052】
我々はBバンドセル状マイクロ波フィルタを2”MgO基材上への現場での反応性同時蒸着により成長させられた幾つかの(RE)BCO薄膜から作った。各両面ウエハーが18mm×34mmのサイズを有する二つのフィルタを生じる。かたどられる(RE)BCO構造は3対の伝達零点を周波数通過帯域の両側に有する準楕円形10ポールフィルタである。図22はそのようなフィルタの典型的な応答を示す。2トーンIMD試験に関する周波数の位置を示す。
【0053】
図23は最適化Dy−BCO膜からかたどられる幾つかの10ポールBバンドフィルタに関する79.5Kにおいて測定されるIMD値をBa/Dy比の関数として示す。測定される全フィルタが要求(点線により示される)を満たすことに注目する。図24および25は、最適化Ho−BCOおよびEr−BCO膜からかたどられる幾つかの10ポールBバンドフィルタに関して79.5Kにおいて測定されるIMD値をBa/RE比の関数として示す。図26は最適化Nd−BCO膜からかたどられる4つの10ポールBバンドフィルタに関して79.5Kにおいて測定されるIMD値を示す。
HTSフィルタにおける相互変調歪が薄膜のマイクロ波表面リアクタンスXsの非線形性により生じる(R.B.Hammond等、J.Appl.Phys.84巻(10号)5662−5667頁(1998年))。一般的に、HTS薄膜中、高マイクロ波電流密度におけるXsは一定でなくなり、電流密度から独立し、電流密度の増加に伴い増加し始める。一般的に最大電流密度JIMDが存在し、そこでXsはその低電流密度値を維持し、それを超えるとXsは増加する。Hammond等によるこの書類において、測定パラメータと材料パラメータJIMDとの関係が記述されている。この関係は以下のように要約され得る
【数2】
(式中、QLは共振器の負荷品質係数であり、ω0は共振周波数であり、これらの二つの関数は理解されるフィルタ機能に依存し、ΓIMDは共振器の形状のみに依存する係数であり、かつPINおよびPOUTは相互変調測定への入力および相互変調測定からの出力である。)。
【0054】
帯域外IMD試験要求はHTS薄膜における最小JIMD1×107A/cm2に対応する。DBCO膜は仕様を14dB上回り、ここでこのことは係数5に対応する。従って、DBCO膜はJIMD5×107A/cm2を有する。フィルタ用途に関してHTS薄膜におけるJIMDは1×107A/cm2超、より好ましくは2×107A/cm2超、最も好ましくは3×107A/cm2超でなければならない。
【0055】
製造方法
我々は、大面積YBCO HTS薄膜の製造にうまく使用されてきた現場での反応性同時蒸着(RCE)付着技術を使用して我々の(RE)BCO薄膜を成長させた。これはそれ自体に容易に高容量膜製造および製造可能性を与える製造技術である。RCEにより成長された膜から製造される高性能マイクロ波フィルタの収率は典型的には90%超である。この成長方法の重要な要素は内部に〜10mTorr超の酸素分圧を保持する放射ヒーター(radiative heater)の使用である。このヒーターは更に回転基材を高真空に曝すことを可能にする窓(window)を組み込み、ここで原料物質の蒸発および付着が起こる。我々の基材は典型的には窓と酸化ポケット(oxidation pocket)との間を300rpmにおいて連続して回転させられる直径2”までのMgO単結晶である。このポケットから離れたチャンバの周囲圧力は〜10−5Torrである。この配置は高Tc相の安定化に十分な酸素圧を提供するが、金属蒸発源は同時に酸化せず、蒸発種は散乱しない。希土類元素、Er、Ho、およびDyは電子ビーム源から蒸発され、NdおよびCuは電子ビーム源または抵抗源(resistive source)のどちらかから蒸発され、かつBaは熱炉(thermal furnace)または抵抗源から蒸発される。典型的な付着速度は〜2.5Å/秒である。ここで議論されるこの膜に関する付着温度は、760〜790℃であり、膜厚は約700nmである。この膜を最良の結果を達成するために現在薄い緩衝層を必要とするNd−BCO以外MgO基材上に直接付着させた。
【0056】
容易に融解するイットリウムとは異なり、いくつの希土類元素、例えばEr、Ho、およびDyは電子ビーム蒸発中昇華し、それにより組成の制御をより難しくしている。我々は通常、水晶モニタ(QCM)を主要な速度制御装置として使用する。しかしながら、昇華材料は我々の蒸発速度において全く融解しない。むしろ電子ビームは金属原料物質中に孔を掘り、プルーム(plume)形が付着試験の過程において大きく変化する。従って、QCMはRE蒸気流の量の変化を正しくモニターできない。この問題点を緩和するために、我々は中空陰極ランプ(HCL)原子吸光(AA)蒸発流センサーを用いてこれらの昇華材料をモニターおよび制御した。AAライトビームが蒸発種の全プルームを通過するので、この技術はより正確に蒸発流量をモニターできる。
【0057】
最良の結果を達成するために使用される酸素ポケット圧および付着速度は我々が研究した(RE)BCO膜に似ている。我々はEr、Ho、Dy、およびNdに関して最良の基材温度がそれぞれ780、790、790、および780℃であることを見つけた。これらの温度は我々がYBCOに関して最適なRF特性を達成するのに使用する温度760℃より大きく高い。YBCOと比較して(RE)BCO材料の異なる成長条件の使用はまさに最良のRF特性を達成するのに必須である。例えば、(RE)BCO材料に関するYBCOと比較してより高い成長温度は一般的に有害な調整不良の粒子が存在しない状態にするために必要である。この組成物は更に我々が議論したように、この目的のために最適化されていなければならない。一般的に、a)成長温度、b)成長速度、c)酸素圧、およびd)化学量論を含む膜成長の多くの局面が(RE)BCO薄膜における欠陥構造、および従ってRF特性に影響を与える。(a)、(b)、および(c)に関する特定の選択が異なる最適化特性および異なる最適化組成を生じ得る。
【0058】
上記発明を明確化および理解を目的として例として幾つか詳細に記述したが、本発明の教示を踏まえると通常の当業者は明らかに容易に、請求項の精神および範囲から離れることなく本発明の変更および改良をし得る。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1はMgO基材上に成長させた幾つかの(RE)BCO薄膜のθ−2θx線回折走査を示す。
【図2】図2は示される種々の(RE)BCO薄膜の異なる組成に関するBa/RE比の関数としての2θ(005)x線ピーク位置を示す。
【図3】図3は示される種々の(RE)BCO薄膜の異なる組成に関するBa/RE比の関数としての2θ(005)x線ピーク強度を示す。
【図4】図4はEr−、Ho−、およびDy−BCOを含む幾つかの(RE)BCO膜の代表的な(103)ピークのx線回折φ走査を示す(左側)。右側のプロットは(104)ピークあたりでとった(RE)BCO膜のχ走査を示す。
【図5】図5はDy−BCO薄膜に関する(103)ブラッグ角の高感度φ走査を示す。
【図6】図6はRF特性に関して最適化されたDy−BCO薄膜の表面の原子間力顕微鏡(AFM)走査を示す。
【図7】図7はRF特性に関して最適化されたHo−BCO薄膜の表面のAFM走査を示す。
【図8】図8はRF特性に関して最適化されたEr−BCO薄膜の表面のAFM走査を示す。
【図9】図9はRF特性に関して最適化されたNd−BCO薄膜の表面のAFM走査を示す。
【図10】図10は室温(300K)直流比抵抗値を種々の示される(RE)BCO薄膜の異なる組成に関するBa/RE比の関数として示す。
【図11】図11は直流比抵抗をRF特性に関して最適化されたDy−BCO膜に関する温度、ρ(T)の関数として示す。超伝導転移の詳細を挿入図において示す。
【図12】図12はRF特性に関して最適化されたHo−BCO膜に関するρ(T)曲線を示す。超伝導転移の詳細を挿入図において示す。
【図13】図13はRF特性に関して最適化されたEr−BCO膜に関するρ(T)曲線を示す。超伝導転移の詳細を挿入図において示す。
【図14】図14はRF特性に関して最適化されたNd−BCO膜に関するρ(T)曲線を示す。超伝導転移の詳細を挿入図において示す。
【図15】図15は示される異なる組成の種々の(RE)BCO薄膜に関するゼロ抵抗Tc値をBa/RE比の関数として示す。
【図16】図16は我々の(RE)BCO膜のQ値を測定するために使用される準集中定数素子共振器デザインの形状を示す。この共振器は、MgO基材上の膜に関して中心周波数約1.85GHzを有する。この共振器の寸法は5.08mm四方である。
【図17】図17は示される異なる組成の種々の(RE)BCO薄膜に関するBa/RE比の関数としての無負荷品質係数(Qu)を示す。これらのQu値は、温度67K、中心周波数約1.85GHzを有する集中素子RF共振器に関して入力−10dBmにおいて測定された。Ba/RE=2における点線は化学量論値1:2:3の化合物を示す。
【図18】図18はQu値を示される種々の(RE)BCO薄膜の異なる組成に関してRE/Cu比の関数として示す。これらのQu値は温度67K、中心周波数約1.85GHzを有する集中素子RF共振器に関して入力−10dBmにおいて測定された。RE/Cu=1/3における点線は化学量論値1:2:3の化合物を示す。
【図19】図19はQu値を示される異なる組成の種々の(RE)BCO薄膜に関してBa/Cu比の関数として示す。これらのQu値は温度67K、中心周波数約1.85GHzを有する集中素子RF共振器に関する入力−10dBmにおいて測定された。Ba/Cu=2/3における点線は化学量論値1:2:3の化合物を示す。
【図20】図20は我々のIMD試験に関して使用される10ポールBバンドセル状フィルタデザイン(10−pole B−band cellular filter design)のレイアウトを示す。フィルタ寸法は18mm×34mmである。
【図21】図21はHTSフィルタの相互変調歪に関するブロック線図を示す。
【図22】図22は(RE)BCO薄膜から作成される10ポールBバンドセル状RFフィルタの典型的なS11応答を示す。三つのツートーン相互変調歪試験測定値に関する入力周波数の位置を示す。
【図23】図23は79.5Kにおいて測定される相互変調歪(IMD)試験測定の結果をDy−BCO膜からかたどられる幾つかの10ポールBバンドフィルタに関するBa/Dy比の関数として示す。点線は必要とされる仕様レベル(specification level)を示す。
【図24】図24は79.5Kにおいて測定されるIMD試験測定の結果をHo−BCO膜からかたどられる幾つかの10ポールBバンドフィルタに関するBa/Ho比の関数として示す。点線は必要とされる仕様レベル(specification level)を示す。
【図25】図25は79.5Kにおいて測定されるIMD試験測定の結果をEr−BCO膜からかたどられる幾つかの10ポールBバンドフィルタに関するBa/Er比の関数として示す。点線は必要とされる仕様レベル(specification level)を示す。
【図26】図26はNd−BCO膜からかたどられる4つの10ポールBバンドフィルタに関して79.5Kにおいて測定されるIMD試験測定の結果を示す。点線は必要とされる仕様レベル(specification level)を示す。
【図27】図27は示される異なる組成の種々のDy−BCO薄膜に関する無負荷品質係数(Qu)をBa/Dy比の関数として示す。これらのQu値は温度67K、中心周波数約1.85GHzを有する集中素子RF共振器に関して入力−10dBにおいて測定された。Ba/Dy=2における実線は化学量論値1:2:3の化合物を示す。
【図28】図28は示される異なる組成の種々のDy−BCO薄膜に関する無負荷品質係数(Qu)をBa/Dy比の関数として示す。これらのQu値は温度77K、中心周波数約1.85GHzを有する集中素子RF共振器に関して入力−10dBにおいて測定された。Ba/Dy=2における実線は化学量論値1:2:3の化合物を示す。
【図29】図29は示される異なる組成の種々のDy−BCO薄膜に関する高入力(+10dBm)Q係数対低入力(−10dBm)Q係数の比を示す。ここで、Qu値は温度67Kにおいて測定された。
【図30】図30は示される異なる組成の種々のDy−BCO薄膜に関する高入力Q係数対低入力Q係数の比を示す。ここで、Qu値は温度77Kにおいて測定された。
【図31】図31は異なる組成のDy−BCO薄膜に関する2θ(005)x線ピーク強度をBa/Dy比の関数として示す。
【図32】図32は異なる組成のDy−BCO薄膜に関する室温(300K)直流比抵抗値をBa/Dy比の関数として示す。
【図33】図33は異なる組成のDy−BCO薄膜に関に関するゼロ抵抗Tc値をBa/Dy比の関数として示す。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、RF用途に関して最適化された高温超伝導組成物の薄膜およびその製造方法、特に1:2:3の化学量論から大きくずれている希土類組成物(RE)Ba2Cu3O7−δに関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本発明は、35 U.S.C.§119(e)により2004年12月23日に提出された米国仮出願第60/639043号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
希土類酸化物超伝導体および以前記録された温度より大いに高温におけるその超伝導能は、最初に1986年にJ.G.BednorzおよびR.A.Mullerによってランタン、バリウム、銅、および酸素の混合物に関して論文“Possible High Tc Superconductivity in the Ba−La−Cu−O system.”(64 Z.Phys.B.−Condensed Matter、189−193頁(1986年))において報告された。BednorzおよびMullerは、以前他の材料の種類に関して知られていた、材料が超伝導になる臨界温度の実質的な増加を提示するBa−La−Cu−O組成物を記述した。ここで、この組成物は、La5−xBaxCu5O5(3−y)(式中、x=0.75−l、y>0、かつ抵抗率の突然の変化は30ケルビンの範囲において生じる。)であった。
【0004】
この貢献は、高転移温度、好ましくは77ケルビン以上を有する材料を開発する強力な調査をもたらした。なぜなら、77ケルビン以上の転移温度は超伝導装置の冷却への液体窒素の使用を可能にするからである。1987年、ヒューストン大学のC.W.Chuおよび共働者が加圧によりLa−Ba−Cu−O化合物の開始Tcを50K超まで上昇し得ることを見つけた。(Phys.Rev.Lett.58巻、405頁(1987年);Science 235巻、567頁(1987年))。
【0005】
次にヒューストン大学およびアラバマ大学のChuと共働者は、90K付近にTc値および約70Kにゼロ抵抗状態を有する混合相Y−Ba−Cu−O系開始(onset)を発見した。この化合物は組成式Y1・2Ba0.8CuO4−δを有する(Phys.Rev.Lett.58巻、908頁(1987年))。Chuおよび共働者、並びにAT&TおよびIBMの科学者は、後にこの化合物が組成式Y2BaCuO5(「緑色」相)およびYBa2Cu3O6+x(「黒色」相)の二相からなることを示した。後者の相は、超伝導相であると決定され、前者は半導体相であると決定された(Cava等、Phys.Rev.Lett.58巻、1676頁(1987年);Hazen等、Phys.Rev.B 35巻、7238頁(1987年);Grant等、Phys.Rev.Lett.35巻、7242頁(1987年))。
【0006】
90K付近における超伝導性が、更に混合相Lu−Ba−Cu−O化合物においてMoodenbaughおよび共働者により報告された(Phys.Rev.Lett.58巻、1885頁(1987年))。Chu等は更に式ABa2Cu3O6+x(式中、A=Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Ho、Er、またはLuである。)の化合物に関して90K超の超伝導性を確認した(Phys.Rev.Lett.58巻、1891頁(1987年))。
【0007】
これらの異なる希土類(RE)BCO(RE=希土類、B=Ba、C=Cu)化合物からのデータは、この種の化合物に関して、超伝導性がc軸にのみ沿うAカチオンによって乱され得るCuO2−Ba−CuO2−Ba−CuO2平面アセンブリー(plane assembly)と関連することを示す。
【0008】
この発見に続いて、調査を高温超伝導(HTS)特性を有するYBCO種の化合物を中心に進めた。B.Batloggは、最初に、YBCO化合物の超伝導特性に関与する単結晶相を発見し、単離した(B.Batlogg、米国特許第6636603号)。組成物の単ペロブスカイト相を単離する時、Batloggはこの組成物が相分離に欠かせず、M2M’Cu3O7−δ組成物(式中、Mは二価のカチオン、好ましくはバリウムであり、M’は三価のカチオン、好ましくはイットリウムである。)を10%以内にしなければならないことを諭した。
【0009】
他の研究は、HTS組成物の超伝導特性におけるイットリウムに関する種々の希土類元素置換効果およびY:Ba:Cuの1:2:3比の変化の効果の両方を調べてきた。多くの研究が部分的にまたは完全にPr、CeおよびTbを除く希土類元素置換能力および生じる(RE)BCO組成物に関して約90KのTcを保持する能力を示してきた(S.Jin、Physica C 173巻、75−79頁(1991年))。更に、別の研究がc軸コヒーレンス長およびTc値がイットリウムに代わる希土類元素のイオン半径が増加すると共に増加することを示す(G.V.M.Williams、Physica C 258巻、41−46頁(1996年))。
【0010】
これらの発見をもとに、P.Chaudhariおよび共働者はIBMにおいて組成式(RE)(AE)2Cu3O9−y(式中、REは希土類元素であり、AEはアルカリ土類元素であり、かつyは必要とする原子価を満たすのに十分な値である。)を有する高温超伝導酸化物の薄膜製造方法を開発した(Chaudhari、米国特許第5863869号(1999年))。使用される希土類元素は、Y、ScおよびLaを含み、AEは更にBa、CaまたはSrによって置換されていてもよい。銅は、その高超伝導開始温度および酸化銅膜の滑らかで、均一な性質のため、酸素にとって好ましい遷移金属である。この成長工程を使用して、Chaudhariは、超伝導挙動を50ケルビンから77ケルビン超まで示す、超伝導開始温度が約97ケルビンであるYBCO膜を得ることができた。これらの膜はターゲットとする(RE)(AE)2Cu3O9−y組成15%以内であり、Chaudhariは高温超伝導性を得るのに厳格な組成は必要ではないことを示した。
【0011】
しかしながら、薄膜における(RE)BCOカチオン交換の別の研究において、J MacManus−Driscoll等は、Ba部位における希土類(RE)元素置換オフ組成(off−composition)膜(例えばRE(Ba2−xREx)Cu3Oy(式中、RE=ErまたはDyであり、x>0.1(14%ずれ)およびRE=Hoであり、x>0(全ずれ)である。))に関してTcが劇的に減少したことを示した(J.L MacManus−Driscoll、Physica C 232巻、288−308頁(1994年))。J.MacManus−Driscollは更に、薄膜を成長させる酸素圧が、希土類イオンの大きさと同様、REおよびBaカチオンの構造欠陥に影響を与えるようであることを報告した。より大きなBaカチオンに代わる小さな希土類カチオンは格子に大きな歪を生じ、従って生じにくそうな不安定な相を生じる。
【0012】
YBCO薄膜の1:2:3化学量論を変化させる別の研究は、大過剰のイットリウムが極小イットリウム沈殿物を形成し、表面抵抗(Rs)の増加および乏しいマイクロ波帯の原因になるが、わずかに増加させた銅およびイットリウム含量は最小表面抵抗の原因になることを示した(E.Waffenschmidt,J.Appl.Phys.77巻(1号)438−440頁)。更に、N.G.Chew等はYBCO薄膜構造および電気的性質におけるわずかな組成の変化の効果を分析し、化学量論1:2:3付近またはイットリウム過剰で成長した膜は滑らかであるが、バリウム過剰で成長した膜は表面粗さおよびa−軸配向粒子(grain)が成長することを発見した(N.Chew、Appl.Phys.Lett.57巻(19号)2016−2018頁(1990年))。これらの著者は、更に、明確なYBCO組成が存在することを見いだした(ここでTcおよびJcが最大化され、c−軸格子定数、(007)x−線ピーク幅、および表面粗さが最小化される。)。これらの量は、Ba/Y比2.22±0.05(次に2でないことを示す)およびCu/(Y+Ba+Cu)比0.5に関して最適化された。この最適組成からのカチオン比のわずかな変化は、上記パラメータの大きな悪化を生じた。
【0013】
W.Prusseit等は、YBCO膜と比較して改良された特性を有する異性体構造Dy−BCO薄膜材料を製造した。ジスプロシウムをイットリウムの代わりにし、YBCOと同一条件において成長させることによって、Prusseitは1:2:3の化学量論からわずかにしか変わらない膜を製造した。それらのYBCO膜と比較すると、これらの材料はより良好な化学的安定性および改良した遷移温度(2〜3K)を示し、更に77Kにおいてマイクロ波空洞において測定される表面抵抗(Rs)が20%減少した:10GHzにおいて〜300μΩに対して〜250μΩ(W.Prusseit、Physica C 392−396巻、1225−1228頁(2003年))。Hein(High−Temperature Superconductor Thin Films at Microwave Frequencies(Springer Tracts in Modern Physics、155巻)、ベルリン、1999年)等はYBCO薄膜の空洞測定において幾分低い表面抵抗(77K、10GHzにおいて〜200μΩ)を測定した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これらの(RE)BCO化合物の組成は、その特定の用途に関する特性を最適化するために実質的に名目の1:2:3の化学量論から変わり得る。本発明の主目的は、最も低い可能なRF表面抵抗(Rs)値並びに最も低い達成可能なRF非線形性を有する高温超伝導薄膜を提供することである。このことはしばしば1:2:3組成から大きくずれる(RE)BCO膜の製造を要求する。本発明の別の目的は、RF/マイクロ波用途に関して最適化された薄膜超伝導体を提供することである。本発明の別の目的は、この膜が低い表面抵抗を有することである。本発明の別の目的は、この膜が高度に線形RF/マイクロ波表面リアクタンスを有することである。本発明の別目的は、この膜の化学量論が標準の1:2:3の化学量論から少なくとも10%ずれ、イットリウムが希土類元素によって完全置換されていることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の要旨
本発明の膜は、とりわけマイクロ波およびRF用途に関して最適化された高温超伝導(HTS)薄膜である。高温超伝導特性を示す先行技術の(RE)BCO膜は、組成式(RE)xBayCu3O7−δ(式中、REは希土類元素、好ましくはイットリウムであり、x=1であり、y=2であり、かつ0≦δ≦1である。)を有する。この1:2:3の化学量論は、以前、希土類元素の変更、完全および部分的にRE、Ba、およびCuに代えること、酸素ドーピングおよび1:2:3の化学量論からのずれを含めて多くの研究の的であった。
【0016】
本発明は、とりわけマイクロ波およびRF用途に関して最適化されたRE HTS膜に焦点を当てる。RF/マイクロ波HTS用途は、HTS薄膜が優れたマイクロ波特性、とりわけ低い表面抵抗Rsおよび高線形表面リアクタンスXs、すなわち高JIMDを有することを必要とする。そのようなものとして、本発明は、物理組成、表面モルホロジー、超伝導特性、およびこれらの膜から製造されるマイクロ波回路の性能特性に関して特徴がある。
【0017】
特に、本発明は、マイクロ波/RF用途に関して最適化された膜を製造するために1:2:3の化学量論からの大きなずれを有する組成に焦点を当てる。これらの膜はRE:Ba比が1.8未満(これは典型的な比2から10%以上ずれている)、好ましくは1.7未満である。この研究は、かたどられた膜の表面抵抗を示す最も高い品質係数値Qが各REに関して特定のBa:RE比において頂点に達し、それらの比は1:2:3の化学量論から大きくずれることを示した。
【0018】
加えて、HTS膜の性能特性は当然RF/マイクロ波HTS用途におけるその有効性に影響を与える。低い表面抵抗Rs(77K、1.85GHzにおいて15μΩ未満)および高線形表面リアクタンスXs、すなわち高JIMD値(77Kにおいて107A/cm2超、好ましくは5×107A/cm2超)が特に望ましい。そのような特性を有するHTS薄膜は、極めて小さなサイズ(<10−cm2フィルタチップ)において極めて低い帯域内挿入損失(<1−dB、好ましくは0.2−dB)で、極めて選択的なフィルタ(0.2%相対周波数中60−dB排除〜0.02%相対周波数中100−dB排除)の製造を可能にし、このことは、望ましくない通過帯域の歪、特に相互変調歪、より特にバックグラウンドノイズレベルに相当する相互変調歪(−173.8dBm/Hz)なしに、携帯電話の基地局受信機のフロントエンド(front end)において受ける干渉電力レベル(−50dBm〜−28dBm、−12dBm〜0dBmまで、または可能であれば更に高い)に対処し得る。従って、本発明の膜は、更にその最適化されたマイクロ波およびRF特性により特徴づけられる。これらおよび他の目的、特徴および利点を以下の好ましい態様のより詳細な説明により明らかにする。
【0019】
表Iはかたどられた試験共振器を使用して測定される我々の幾つかの(RE)BCO薄膜に関して得られる〜1.85GHzにおける最大Qu値を示す。この測定は67Kおよび77K、入力−10dBmにおいて行われた。この表は、更に、これらのQu値から計算したRs値も示す。
【0020】
発明の詳細な説明
上記のように、本発明はRF/マイクロ波用途に関して最適化された組成物を有する高温超伝導(HTS)薄膜およびそのような膜の確実な製造方法に関する。そのようなものとして、本発明はその物理組成、表面モルホロジー、超伝導特性、およびこれらの膜によりつくられるマイクロ波回路(フィルタ、遅延線、カプラー等;特に帯域通過および帯域阻止フィルタ、より特に携帯電話基地局受信機の帯域通過および帯域阻止プレセレクタフィルタ)の性能特性に関して特徴を示す。先行技術のHTS (RE)BCO膜と本発明の(RE)BCO膜との違いは、1:2:3の化学量論から大きくずれる組成と新しい組成の大いに最適化されたRF特性との両方において見いだされる。
【0021】
定義
本発明の目的に関して、薄膜は、好適な支持基材に成長させられるか、付着させられるか、または適用される材料の層(通常非常に薄い)と定義される。この膜の厚さは、約1nm(10−9m)〜数ミクロン(>10−6m)厚でよい。多くの出願の薄膜厚の典型的な範囲は100nm〜1000nmである。
【0022】
高温超伝導体(HTS)は、転移温度または臨界温度(Tc)を有し、これよりも低い温度で超伝導性を有する、広い分類のセラミック材料、典型的には酸化物、より典型的には酸化銅または銅酸化物を含む。この臨界温度を超えると、高温超伝導体は通常、金属的な、つまり「ノーマルな」、伝導材料として振る舞う。HTS材料は、更に通常、約30Kを超えるTc値を有することを特徴とする。HTS材料の例は、La2CaCu2O6、Bi2Sr2CaCu2O8、YBa2Cu3O7、Tl2Ba2CaCu2O8、HgBa2CaCu2O7等を含む。これらの材料は、超伝導性になるために明確な結晶構造を有さなければならない。すなわち、これらの材料は構成原子の非常に明確な規則的配列および繰り返し配列を有さなければならない。
【0023】
希土類(RE)元素は、周期表の第IIIA族に存在する原子番号57〜71の15種のランタノイド元素、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、およびルテチウム、である。第IIIA族遷移金属であるイットリウム(原子番号39)はランタノイドではないが、天然鉱物中それらと共に生じ、類似した化学的性質を有するので通常REに含まれる。更に第IIIA族遷移金属であるスカンジウム(原子番号21)および周期表のアクチノイド系列の元素であるトリウム(原子番号90)も、その類似した性質のため一般にREに含まれる。
【0024】
組成
最も普遍的なHTS材料は、定められた量および配列のY、Ba、CuおよびO原子からなるYBCOである。この材料の特定の原子配列の基本的な繰り返し単位は、名目上一つのY原子、二つのBa原子、三つのCu原子および七つのO原子からなる単位格子として知られている。この化合物の斜方晶系単位格子のサイズはそれぞれa軸、b軸、c軸方向において約3.82×3.89×11.68オングストロームである。この化合物を形成するのに必要とされる原子比は化学式YBa2Cu3O7−δ(式中、酸素含量は単位格子あたり6〜7原子で可変、つまり0≦δ≦1である。)により記述される。この組成を有し、高結晶質および高純度の単層材料に関して、Tc値は、概してδの値により決定される。YBCOはδ<〜0.6に関して超伝導体であり、高Tc値を提供するためにはδの値が0近くであることが一般的に好ましい。
【0025】
YBCOは最も広く研究されているHTS材料であり、単層の形態、すなわち完全に上記組成のみからなり、他の相を含まない形態における製造方法が多く知られている。しかしながら、本出願によると同様または優れた超伝導特性を有し得る多くの他の同様の化合物もまた作成され得る。これらの化合物は1:2:3と異なるY:Ba:Cu比を有してもよく、更にYまたはBa以外の元素を含んでもよい。従って、この化合物の構造の一般化された名称はM’xMyCu3O7−δ(式中、M’は一般的に基本的に三価のイオンまたは三価のイオンの組み合わせであり、Mは基本的に二価のイオンまたは二価のイオンの組み合わせである)と書かれ得る。M’:Cu、M:Cu、およびM’:Mの比は、それぞれ更に実質的に名目上の値1:3、2:3、および1:2から変わってもよい。一連のパラメータ空間はまだ検討されていないが、この名目からカチオン比が50%ずれている化合物も超伝導性であると考えることは妥当である(例えば、1:6<M’:Cu<1:2、1:3<M:Cu<1:1、および1:4<M’:M<3:4)。しかしながら、1:2:3の化学量論から大きく変わっている組成は臨界電流密度(Jc)、標準状態の抵抗率(ρ)、臨界温度(Tc)、および表面抵抗(Rs)を含む組成物の特定の性質に影響を与える。
【0026】
高Tc値を提供するために、Baが一般的に二価元素、すなわち上記一般式におけるMとして好ましい。Baの代わりの多くの元素の完全または部分置換はTcを下げるかまたは超伝導性を全くそこなう傾向がある。これらの元素は、Sr、La、PrおよびEuを含む(Y.Xu、Physica C 341−348巻、613−4頁(2000年)およびX.S.Wu、Physica C 315巻、215−222頁(1999年))。同様に、Cu原子をCo、Zn、Ni等でドープしてもよく、それらの多くの効果は、絶対的な効果(例えば、電荷移動またはCu−O面における超伝導性の破壊)はCu(1)またはCu(2)部位が影響を受けるかどうかに依存するが、Tcを下げることである(Y.Xu、Phys.Rev.B第53巻、22号、15245−15253頁(1996年))。Y部位における幾つかの部分置換は同様の効果を有し得る(例えばCa、Ce、およびPr。)(L.Tung、Phys.Rev.B第59巻、6号、4504−4512頁(1999年)およびC.R.Fincher、Phys.Rev.Lett.67巻(20号)2902−2905頁(1991年))。しかしながら、Yに関してYBCOと同様かまたはより高いTc値をもたらす既知の部分または完全置換が存在し得る。これらの既知の置換の多くは元素の希土類族に由来する。一般的に、希土類元素はこれらの(RE)BCO化合物に高いTc値を提供する大きなイオン半径を有する(G.V.M.Williams、Physica C 258巻、41−46頁(1996年))。
【0027】
これらの関連化合物に利用可能な組成の範囲にわたって超伝導性を特徴づける特性を維持することが重要であるが、われわれの研究は、特定の用途にその特性を合わせるために組成が名目上の1:2:3の化学量論から大きく変わり得ることを示した。例えば、1:2:3近くの組成は、滑らかな薄膜表面が最も重要である多層デバイスまたは能動素子の用途に好ましい。逆に、RF用途用のHTS膜の最適化は、最低可能RF表面抵抗(Rs)値を有することと達成され得る最低RF非線形性を有することとの間の均衡をうまくとる薄膜の製造を必要とする。このことは、換言すると1:2:3の組成から大きくずれる(RE)BCO膜の作成をしばしば要求する。
【0028】
本発明のHTS薄膜はRF用途に関して最適化され、そのようなものとして本発明のHTS薄膜は可能な最低RF表面抵抗(Rs)値および可能な最低RF非線形性を有する。この最適化を達成するために、この膜組成物は組成式(RE)xBayCu3O7−δ(式中、REは既定の希土類元素の一つ、好ましくはDyであり、かつy:x比は好ましくは約1.5〜1.8、より好ましくは約1.55〜1.75、最も好ましくは約1.6〜1.7である。)を有する。
【0029】
基材
HTS材料の超伝導特性は、その結晶完全性の程度に非常に敏感である。このことは、高品質HTS膜を成長させ得る好適な基材材料の選択に厳しい制約を課す。これらの制約のうちのいくつかは結晶構造、成長過程との適合性、化学的適合性、用途との適合性、並びに性質によって課せられる他の要求を含む。
【0030】
おそらく最も重要な要求は結晶構造である。この基材は、膜のエピタキシャル成長が起こり、よく配向した膜が形成されるように、HTS膜に適合する適切な格子を有さなければならない。低い格子適合は膜におけるディスロケーション、欠陥、および誤った方向に向いた粒子の原因になり得る。一般的に、基材はこれらの要求に合うように単結晶形態で利用可能であるべきである。
【0031】
基材はHTS化合物の結晶化に必要な成長過程中の高い処理温度に耐え得なければならない。加えて、成長温度または別の次の熱サイクルからの冷却サイクル中の膜の歪および亀裂を防ぐためにHTS膜に適合する構造的完全性および妥当な熱膨張が要求される。
【0032】
基材は(RE)BCOと化学的適合性、非反応性、かつ高温において膜中への拡散性がわずかでなければならない。
【0033】
基材はHTS薄膜の意図される使用に利用可能である充分大きなサイズでなければならない。例えば、ある受動マイクロ波回路または大容量電子機器(high−volume electronics)の用途は大きな基材サイズを要求する。直径2”の極小基材がこれらの用途に典型的であるが、可能であればより大きなサイズがしばしば望ましい。基材が実測技術または用途に適合した物理的特性を有することが更に要求され得る。大部分の用途に関して基材は安定しており、機械的に強い絶縁体でなければならない。他の要求は、光の透過測定に関する赤外線における透明性、分光測定で干渉しない構成要素または構造、例えばラザフォード後方散乱(RBS)またはエネルギー分散型x線分光(EDX)、および意図される動作温度におけるマイクロ波測定および用途に関する低誘電率および低誘電正接を含み得る。
【0034】
少数の単結晶基材がこれらの要求の幾つかまたは全てに合う。それらの例は、MgO、Al2O3、LaAlO3、NdGaO3、(La0.18Sr0.82)(Al0.59Ta0.41)O3、およびSrTiO3を含む。後の四種は(RE)BCOに適合する優れた格子を有する。しかしながらSrTiO3の高誘電率および誘電正接はSrTiO3をマイクロ波用途に役に立たなくする。LaAl3およびNdGaO3はこの点に関してはより良いが、LaAlO3は双晶である傾向があり、かつこれらの双晶界面が典型的な処理温度において形成され可動性になり得るという事実を欠点としてもつ。Al2O3は低損失基材であり、幾つかの異なる配向およびサイズにおいて広く利用可能である。しかしながら、これは高温で(RE)BCOと強く反応し、適切な緩衝層の使用を必要とする。加えて、Al2O3は(RE)BCOと適合する熱膨張が小さく、膜が冷却に際して亀裂を生じる傾向がある。MgOは比較的低損失であり、(RE)BCOに適合する良好な熱膨張を有し、RF用途に関して良好な選択である。しかしながら、MgOは他の上記例よりはるかに大きな格子不整合を有するのでMgOにおける(RE)BCO膜成長が良好に配向されることを可能にするために細心の注意を払う必要がある。特に、(RE)BCO膜がMgOにおいて成長し、面内回転粒子および45°粒界を含むことは比較的一般的である(B.H.Moeckly、Appl.Phys.Lett.57巻、1687−89頁(1990年))。これらの高傾角粒界の量の最小化は良好なマイクロ波性能、特に高RF線形性に必須である。あるMgO基材表面処理は高傾角粒界の数を制御するのに役立てるために行われ得るが、これらの粒界の形成を更に抑えるのに、特にRF用途への要求に、多くの労力が必要とされる。成長方法、成長条件、および特に(RE)BCO膜の組成の全てをMgO上で成長する膜における45°粒子の量の最小化のために選択し、調節しなければならない。
【0035】
膜形態および微細構造
(RE)BCOの異方性輸送特性、その斜方晶構造、およびその小さな超伝導性可干渉距離は、(RE)BCO膜が優れた結晶構造および配向を有さなければならないことを意味する。このことは特に良好なマイクロ波特性を得るために当てはまる。従って、膜は実質的に第二の相がない状態でなければならず、それらは面内(基材表面に平行)および面外(基材表面に垂直)の両方に良好なエピタキシーを有さなければならない。典型的には、(RE)BCOのc軸は基材表面に垂直に整列される。膜中の全ての粒子をそのように整列しなければならず、それらは互いに高度に整列されなければならない。この結晶秩序の度合いは、典型的にはθ−2θx線回折走査により特徴づけられ、要求はピーク幅が狭いc軸のみ配向した(00l)スペクトル線および更にいわゆるω走査、すなわち与えられたブラッグ角についてのロッキングカーブ測定の狭いピーク幅の存在である。θ−2θ測定は更に膜中にa軸配向粒子によるスペクトルラインの存在を検出し得る。これらの粒子は更に適切なブラッグ角についてのχ走査により検出され得る。
【0036】
良好なマイクロ波特性を有する薄膜に関して、膜中のa軸粒子の量は理想的にはゼロであり、c軸配向膜に関してc軸x線ピークに対するa軸x線ピーク強度は理想的にはゼロであり、好ましくは1%よりはるかに少ない。加えて、c軸配向粒子は更に面内配向であるべきであり、それらは互いにレジストリ(registry)内にありかつ基材結晶構造と共に存在することを意味する。全体的な面内格子構造に関して回転された粒子は非ゼロ度角粒界になる。そのような非ゼロ角粒界、特に高角粒界および45°粒界を横切る超伝導輸送は、おそらく(RE)BCOの歪、高酸素移動度、および小さい可干渉距離により低下する(B.H.Moeckly等、Phys.Rev.B 47巻、400頁(1993年))。Jc、RsおよびRF非線形性は全てこれらの高角粒界の存在により悪影響を受け得る。これらの回転粒子および粒界の存在は、適切なブラッグ角についてとるφ走査x線測定により検出され得る。理想的には、非整列φ走査ピークはゼロ、好ましくは整列ピークの大きさの0.1%未満、より好ましくは0.05%未満、および最も好ましくは0.02%未満にならなければならない。
【0037】
図1は我々により製造され、RF用途に関して最適化された幾つかの700nm厚(RE)BCO膜に関するθ−2θ走査を示す。YBCOに加えて、これらの膜はRE置換Er(EBCO)、Ho(HBCO)、Dy(DBCO)、およびNd(NBCO)を含む。x線走査は膜が単相であり、高c軸整列であることおよびa軸配向粒子が膜中に存在しないことを示す(00l)ピークのみの存在を示す。(RE)BCO膜の相対ピーク強度がYBCOと異なり、異なるREイオン半径の効果を示すことに注目する。図2は(RE)BCO膜に関するわずかに異なるc軸格子パラメータを示す、異なる組成の幾つかの(RE)BCO膜に関する(005)ピーク位置対Ba/RE比を示す。図3はこれらの膜に関する(005)ピークの強度を示す。図31は異なる組成のDBCO膜に関する(005)ピーク強度をBa/Dy比の関数として示す。これらのDBCO膜は図3に示されるものを含むが、RF特性に関して最適化されている必要はない。ここで、良好な結晶性を示す高ピーク強度がグラフの実線により示される化学量論比から大きくずれるDBCO膜組成に関して得られることが観測される。図4は幾つかの(RE)BCO膜に関する代表的な(103)ピークのφ走査を示す(左側)。45°配向粒子および粒界が存在しないことを示す、45°におけるピークが全く存在しないことに注目する。図5は我々のDy−BCO膜の一つに関する、より高感度のφ走査を示す。y軸を対数スケールでプロットしており、45°においてメインピークに対して非常に弱いピークしか生じないことがわかる。この走査はこの膜が高角粒界がない度合いを示す。45°における弱いライン強度は最大中央ピークの約0.012%であり、粒子がほぼ整列を誤っていないことを示す。このことはこれらの膜のRF特性、特にそのRF非線形性の最適化に重要である。図4の右側は(RE)BCO膜に関して(104)ピークにおいて測定されたχ走査を示す。図1において示したように、これらの走査は更にa軸配向粒子が存在しないことを示す。
【0038】
(RE)BCO薄膜の表面形態は典型的には走査プローブ形状測定法(scanning probe profilometry)、原子間力顕微鏡法(atomic force microscopy)(AFM)、および走査電子顕微鏡法(SEM)により測定される。一般的に、滑らかな膜が適用に好ましいが、数度の表面粗さは別の重要な特性、例えばJcおよびRsの最適化を考慮して許容され得る。それにもかかわらず、AFMにより測定される〜10nm未満のRMS表面粗さを有することが望ましい。
【0039】
図6〜9はDy−、Ho−、Er−、およびNd−BCO膜の5μm×5μmの領域にわたる典型的なAFMイメージを示す。これらの膜はRF特性に関して最適化された。これらの膜のRMS表面粗さは数nmである。図6はRF非線形性が非常に低い高Q DBCO膜の表面形態を示す。この膜の粒度はおおよそ直径2μmであるとわかる。我々は更にこの図において明るい点として見えるいくつかのサブマイクロメートルサイズの粒子を膜表面において観測する。EDX分析はこれらの粒子の高いCuシグナルを示し、これらが酸化銅でできていることを示している。図7のHBCO膜の粒子はより小さい、より四角い外観を有し、この膜はCuO粒子が全体的に存在しない。図8に示される最適化EBCO表面は更に小さな粒度を有し、この場合もまたCuO粒子が存在する。図9のNBCO膜の粒子もまた外観が四角く、大きさが0.5μm未満である。これらの最適化(RE)BCO膜の異なる表面形態は、一般的に、異なるRE置換に関する最良RF特性を達成するのに必要とされる異なる組成および成長条件の反映である。
【0040】
膜の評価手順
(RE)BCO膜を更に、その組成および、温度の関数としての抵抗率(ρ)[ρ(T)]、Tc値および遷移幅、臨界電流密度(Jc)、およびRF表面抵抗(Rs)を含む電気的性質を測定することにより特徴づける。この膜を更に次に、我々が無負荷品質係数(Q)値、相互変調歪(IMD)、および非線形性臨界電流密度(JIMD)を測定するRF回路にかたどる。
【0041】
本発明の膜の組成をラザフォード後方散乱(RBS)および誘導結合プラズマ分光分析法(ICP)を使用して測定した。これらの技術は高い正確度および精密度の両方が可能であるが、1%に等しい測定の正確度1σまたは2σを達成することは困難であり、これらの技術の水準より慎重さを要する。RBS分析技術において、高速軽量イオン(典型的にはHeイオンまたはα粒子)をこの試料に対して加速する。これらのイオンのいくつかを試料中の原子核からラザフォード(クーロン)散乱により後方散乱させ、それらの後方散乱粒子のエネルギースペクトルを分析する。このイオンエネルギーは典型的には数百〜数千keVであり、後方散乱イオンのエネルギーは衝突された標的イオンの重量に依存する。従って、後方散乱イオンのエネルギースペクトルは試料を構成する元素およびその割合(化学量論)の同定を可能にする。加えて、入射イオンが試料を横断する時、それらは電子との非弾性散乱によりエネルギーを失う。このエネルギー損失は既知の方法により起こり、従って、深さの関数として試料の組成の測定を可能にする。しかしながら、厚い膜に関して、測定される構成元素のスペクトルピークが、組成の抽出のためのスペクトルのフィッティングに注意を要する、オーバーラップをし、この手続は不確定さに関連し、誤りを生じ得る。従って、単純に各ピークの下で数を数えることにより最も高い正確さを得るために、RE、Ba、およびCuによるピークが完全に隔てられるように充分薄い膜を使用しなければならない。我々はこの目的に関して充分薄い(RE)BCO膜を成長させた。これらの測定の結果は組成の正確さ2σ≦±1%を示した。この測定技術は定量的であり、比較標準の使用を必要としない。
【0042】
ICP技術において、薄膜は酸性溶液において温浸(digest)し、これを次に高温(10000℃以下)プラズマ放電に導入する。プラズマは溶液中の構成原子をイオン化および励起し、これらの原子が減衰して低エネルギー状態になる時、高分解能分光計により検出され得る特徴的な波長の光を放出する。これはいわゆるICP−AES(原子発光分析または発光分析)技術である。従って、ICPは多くの元素の測定を同時に可能にする。ICP−AESは検出限界を水性溶液において典型的にはμg/Lレベルにおいて有する。この技術は非常に正確でありかつ非常に精密であり得る。慎重に測定することにより正確さ1σ<±1%が得られる。この方法は、比較標準の使用を必要とする。RBSでは薄膜厚に応じる精度限界があるのだが、これは薄膜厚に応じる精度限界がない。従って、我々の組成物を試験する時、我々はRBSおよびICPを同時に使用した。最初に、我々は、高い正確さで非常に薄い膜においてその組成を測定するために慎重なRBS測定を行った。次に我々はこれらの同じ試料におけるICP測定値がRBS数と一致することを確認した。このことは我々が厚い(RE)BCO膜のICP−AES測定がこの同じ所望の正確さ(すなわち、1σ<±1%)をもつことを信用することを可能にする。
【0043】
直流比抵抗ρを標準4探針法により測定する。高品質(RE)BCO膜の室温抵抗率は、典型的には150〜300μΩcmであるが、この値はRE元素および膜組成に応じて変化する。図10は幾つかの(RE)BCO膜の組成、特にBa/RE比に応じる室温(300K)抵抗値を示す。図32は幾つかのDBCO膜に関する室温抵抗値をBa/Dy比に応じて示す。これらのDBCO膜は図10において示されるものを含むが、RF特性に関して最適化されている必要はない。ここで、高品質膜を示す室温抵抗値は化学量論比(グラフ上実線により示される)から大きくずれるDBCO膜組成、特にBa/Dy比が約1.5〜1.8のDBCO膜組成に関して得られ、特に良好な抵抗値はBa/Dy比1.76に関して達成されることが認められる。幾つかの(RE)BCO膜に関して、抵抗率の温度依存を図11〜14において示す。良好な膜に関するρの温度依存は、これらのプロットが示すように、典型的には直線的であるかまたはわずかに下方に湾曲しているいわゆるオーバードープ挙動を示す。ρ(T)の測定を更に使用して超伝導状態への転移幅(温度)とゼロ抵抗Tc値とを決定する。これらの膜の超伝導転移領域の詳細を図11〜14の挿入図において示す。(RE)BCO膜のTc値は典型的には87〜91K(図11〜13)であるが、図14においてNBCO膜に関して示されるように、より高いイオン半径RE置換はTc値95Kを有し得る。常態から超伝導状態への転移は典型的には高品質膜に関して図が示すように0.5K以内で起こる。
【0044】
本発明の方法により製造される(RE)BCO試料のTc値は、Er、Y、Ho、Dy、およびNdに関してそれぞれ88.5(5)、88.9(5)、89.2(5)、89.6(5)、および94.5(8)Kである。これらの値を付着に続いてすぐに測定した。この膜はR−T曲線のスロープにより判断されるように酸素オーバードープ(overdope)であるので、測定Tc値はこれらの化合物に関して知られている最高値よりもわずかに低い。図15は我々のHo−、Er−、およびDy−BCO膜の異なる組成に関するTc値をプロットしている。図33は更なるDBCO膜の異なる組成に関するTc値をプロットしている。これらのDBCO膜は図15に示されるものを含むが、RF特性に関して必ずしも最適化されている必要はない。化学量論(1:2:3)値(実線で示される)から大きくずれる組成に関しても高Tc値が得られることがわかる。
【0045】
(RE)BCO薄膜のRF表面抵抗は、バルクな(かたどっていない)膜を使用する空洞共振器または平行板共振器(parallel plate resonator)技術を含む複数の方法で測定され得る。Rsは典型的には周波数数百MHz〜数10GHzにおいて測定される。Rsは更に種々の種類のかたどられた共振器(例えばマイクロストリップ素子、準集中定数素子等)のQ測定からも抽出され得る。これらの構造の測定Q値からのRsの抽出は、幾何学的媒介変数ΓQを決定するのに共振器性能の慎重なモデリングを要する。RsとQとの関係は
【数1】
(式中、ω0は共振周波数であり、ΓQは共振器形状にのみ依存するパラメータであり、Qは測定される共振器の無負荷品質係数である。)
と書かれ得る。かたどられた構造の抽出Rs値は典型的にRF空洞においてバルクな膜の直接測定により得られるRs値より高い。このことは、Q測定における別の抵抗性RF損失を加え得る欠陥を導入し得る、かたどられた膜により生じ得る。これは一般的にバルクな膜測定系において存在しないΓQにおける不確定性またはマイクロストリップ共振器における電流密度の不均一性からも更に生じ得る。
【0046】
デバイス性能特性解析
我々の(RE)BCO膜のRF特性の評価およびマイクロ波膜用途に関するこれらの材料の実用性の測定に関して、我々はマイクロ波共振器およびこれらの膜からのフィルタを作った。これらの受動装置はグラウンド層を必要とし、従って両面付着膜を要する。準集中定数素子共振器を標準フォトリソグラフィー処理および不活性イオンエッチングを用いてかたどった。我々の試験共振器の形状を図16に示す。この材料は77KにおいてMgO基材におけるかたどられた(RE)BCO共振器に関する中心周波数約1.85GHzを有するこの標準試験共振器の無負荷品質係数Quを測定することにより特徴づけられる。Quを各(RE)BCO材料の一連の組成および成長条件に関して測定し、各材料の成長条件および組成を最適化して最大Quを達成した。我々はDy−BCO、Er−BCO、Ho−BCOおよびNd−BCO薄膜に関するセル状マイクロ波用途(cellular microwave application)に十分なQu値を明らかにした。実際、700nm厚膜に関して、我々は67K、1.85GHz、および−10dBm入力においてこれら各材料を使用する我々の試験共振器構造に関して40000超の無負荷Q値を達成した。我々は次に共振器形状の電磁場分布をモデリングすることにより膜のRs値を抽出した。マイクロ波用途に関する良好なRs値は、77K、1.85GHzにおいて〜15μΩ未満、より好ましくは〜10μΩ未満、および最も好ましくは約8μΩ未満である。
【0047】
図17は我々の(RE)BCO集中素子マイクロ波共振器の無負荷Q対関連Ba/RE比を示す。これらの測定を67K、入力−10dBmにおいて行った。これらの膜のQu値は、YBCO膜で得られる我々の最高Qよりわずかに低い。Ba/RE=2における点線は1:2:3化学量論値化合物を示す。最高Q値はこの比から離れて得られることがわかる。我々のNd−BCO膜は67KにおいてYBCO膜で得られる最高Qに匹敵する80000に到達する(このプロットに示されていない)、より高いQu値を示す。77Kにおいて、Nd−BCO膜のQ値はYBCOのQ値を超え得る。データにはばらつきがあるが、図17において示される3種の材料の傾向は同様である。各(RE)BCO膜に関してQが最大であるBa:RE比の値が存在し、このQ値は各RE元素に関して最大から離れる比に関して同じように落ちる。図18はRE/Cu比の関数として測定されるこれらのQu値を示し、図19はこれらのデータをBa/Cuの関数としてプロットする。点線はこれらの量の化学量論比を示し、更にこれらの名目上の比から大きくずれる組成に関して最高Q値が得られることが観測される。表Iは我々の(RE)BCO膜から作られる試験共振器に関して得られる67Kおよび77K、入力−10dBmにおいて測定される最大Qu値を示す。この表は更にこれらのQu値から計算したRs値も示す。
【0048】
図27は、示される種々のDBCO薄膜の異なる組成に関するBa/Dy比の関数の関数としての無負荷品質係数(Qu)の別のデータを示す。これらのDBCO膜は図17において示されるものを含むが、RF特性に関して最適化されている必要はない。従って、図17は各組成において得られる最高Q値を示すのに対して、図27は各組成における一連のQ値を示す。なぜならこの膜の別の特性(例えば、成長温度、膜厚、表面形態、または結晶性)が最適化されていないかもしれないからである。これらのQu値を温度67K、入力−10dBmにおいて中心周波数約1.85GHzを有する集中素子RF共振器に関して測定した。Ba/Dy=2における実線は1:2:3の化学量論値化合物を示す。最高Q値が化学量論比から大きくずれる組成関して、特にBa/Dy比約1.5〜1.8関して得られ、より特に約1.6〜1.7の比においてピークに達することが更に観測される。図28は温度77K、入力−10dBmにおいて測定される各組成の同じDBCO薄膜に関する無負荷品質係数(Qu)をBa/Dy比の関数として示す。Tcにより近いこの温度におけるデータにおいてより多くばらつきがあるが、このデータはなお明瞭に最高Q値が化学量論比から大きくずれる組成に関して、特にBa/Dy比約1.5〜1.8に関して得られ、より特に約1.6の割合でピークに達することを示す。
【0049】
(RE)BCO膜のQ値は増加する入力に応じて低下し得る。増加する入力に応じて(RE)BCO膜が高Q値を維持する能力は高性能膜系に関する重量な要件である。図29は異なる組成のDBCO膜から作られる共振器に関する67Kにおいて測定される高(+10dBm)入力と低(−10dBm)入力との比を示す。高いQ+10dBm/Q−10dBm値は、より良好なパワー処理能力および優れた性能を示す。DBCO組成が化学量論値(Ba/Dy=2、縦方向の実線により示される。)から更にずれるにつれてますます高い比が観測されることがわかる。図30は各組成の幾つかのDBCO膜に関して77Kにおいて高入力において測定されるQ対低入力において測定されるQの比をプロットする。この図は更に化学量論値から実質的にずれる組成に関しても優れたパワー処理が得られることを示す。
【0050】
(RE)BCOフィルタに対する入力レベルは、以下に記述するように異なる量の相互変調歪を生じることにより更にその性能に影響を与える。
【0051】
我々は更に、2”MgO基材において薄膜を成長させ、それらを市販の移動体通信装置に好適なタイプの10ポールフィルタ回路(10−pole filter circuit)にかたどることにより、これらの材料を評価した。図20はこのフィルタデザインのレイアウトを示す。このフィルタを同調させ、その性能を挿入損失、反射減衰量、および帯域外拒絶(out−of−band rejection)に関して評価した。加えて、我々はこれらの10ポールフィルタを使用してその三次変調歪(IMD)に関してこれらの材料の非線形特性を測定した。この試験装置のブロック線図を図21に示す。これらの測定に関して、二つの異なる近い周波数f1とf2とにおける同じ電力のトーンを組み合わせ、特定の電力レベルにおいてフィルタに適用した。これらの入力トーンの位置は帯域内、帯域端から遠く、または帯域端近くである。次に周波数2f1−f2における三次混合生成物の出力をスペクトルスペクトルアナライザにおいて測定する。これらの周波数におけるフィルタからの出力信号の大きさがフィルタのRF非線形性の重要な尺度であり、その多くのマイクロ波用途に関する適合を決定する。相互変調歪の存在は超伝導薄膜の表面リアクタンスXsの電流濃度依存を反映する(T.Dahm & D.J.Scalapino、J.Appl.Phys.81巻(4号)、2002〜2009頁)(1997年)。対照的に、薄膜の表面抵抗Rsにおける非線形性はフィルタの挿入損失の増加に反映される。このタイプの非線形性は一般的に超伝導薄膜のRFおよびマイクロ波フィルタへの用途における制限要因ではない。
我々は三種のIMD試験を利用して我々のHTS薄膜材料のRF/マイクロ波フィルタへの適用に関する適用性を評価した。
1. 帯域内試験。 2トーン入力信号をAMPS B通過帯域(835MHz〜849MHz)の中心付近に適用する。入力周波数は各々電力レベル−20dBmにおいてf1=841.985MHzおよびf2=842.015MHzである。相互変調スプリアスプロダクト(intermodulation sprious product)を842.045MHzにおいて測定する。このフィルタの出力において測定される周波数における相互変調スプリアスプロダクト電力は−105dBm未満でなければならない。
2. 近帯域試験。 等振幅入力信号を851MHzおよび853MHzにおいて適用し、相互変調スプリアスプロダクト電力レベルを849MHzにおいて測定する。仕様(specification)は出力において電力レベル−130dBmでAMPS B通過帯域における相互変調スプリアスプロダクトを製造する入力トーンの最小電力レベルである。この入力レベルは−28dBm超でなければならない。
3. 帯域外試験。 等振幅入力信号を869.25MHzおよび894MHzにおいて適用し、相互変調プロダクトを844.5MHzにおいて測定する。要求はAMPS Bシステム通過帯域における相互変調プロダクトをフィルタの出力において−130dBmに到達させる入力トーンの最小電力レベルである。この入力試験信号電力レベルは−12dBm超でなければならない。
【0052】
我々はBバンドセル状マイクロ波フィルタを2”MgO基材上への現場での反応性同時蒸着により成長させられた幾つかの(RE)BCO薄膜から作った。各両面ウエハーが18mm×34mmのサイズを有する二つのフィルタを生じる。かたどられる(RE)BCO構造は3対の伝達零点を周波数通過帯域の両側に有する準楕円形10ポールフィルタである。図22はそのようなフィルタの典型的な応答を示す。2トーンIMD試験に関する周波数の位置を示す。
【0053】
図23は最適化Dy−BCO膜からかたどられる幾つかの10ポールBバンドフィルタに関する79.5Kにおいて測定されるIMD値をBa/Dy比の関数として示す。測定される全フィルタが要求(点線により示される)を満たすことに注目する。図24および25は、最適化Ho−BCOおよびEr−BCO膜からかたどられる幾つかの10ポールBバンドフィルタに関して79.5Kにおいて測定されるIMD値をBa/RE比の関数として示す。図26は最適化Nd−BCO膜からかたどられる4つの10ポールBバンドフィルタに関して79.5Kにおいて測定されるIMD値を示す。
HTSフィルタにおける相互変調歪が薄膜のマイクロ波表面リアクタンスXsの非線形性により生じる(R.B.Hammond等、J.Appl.Phys.84巻(10号)5662−5667頁(1998年))。一般的に、HTS薄膜中、高マイクロ波電流密度におけるXsは一定でなくなり、電流密度から独立し、電流密度の増加に伴い増加し始める。一般的に最大電流密度JIMDが存在し、そこでXsはその低電流密度値を維持し、それを超えるとXsは増加する。Hammond等によるこの書類において、測定パラメータと材料パラメータJIMDとの関係が記述されている。この関係は以下のように要約され得る
【数2】
(式中、QLは共振器の負荷品質係数であり、ω0は共振周波数であり、これらの二つの関数は理解されるフィルタ機能に依存し、ΓIMDは共振器の形状のみに依存する係数であり、かつPINおよびPOUTは相互変調測定への入力および相互変調測定からの出力である。)。
【0054】
帯域外IMD試験要求はHTS薄膜における最小JIMD1×107A/cm2に対応する。DBCO膜は仕様を14dB上回り、ここでこのことは係数5に対応する。従って、DBCO膜はJIMD5×107A/cm2を有する。フィルタ用途に関してHTS薄膜におけるJIMDは1×107A/cm2超、より好ましくは2×107A/cm2超、最も好ましくは3×107A/cm2超でなければならない。
【0055】
製造方法
我々は、大面積YBCO HTS薄膜の製造にうまく使用されてきた現場での反応性同時蒸着(RCE)付着技術を使用して我々の(RE)BCO薄膜を成長させた。これはそれ自体に容易に高容量膜製造および製造可能性を与える製造技術である。RCEにより成長された膜から製造される高性能マイクロ波フィルタの収率は典型的には90%超である。この成長方法の重要な要素は内部に〜10mTorr超の酸素分圧を保持する放射ヒーター(radiative heater)の使用である。このヒーターは更に回転基材を高真空に曝すことを可能にする窓(window)を組み込み、ここで原料物質の蒸発および付着が起こる。我々の基材は典型的には窓と酸化ポケット(oxidation pocket)との間を300rpmにおいて連続して回転させられる直径2”までのMgO単結晶である。このポケットから離れたチャンバの周囲圧力は〜10−5Torrである。この配置は高Tc相の安定化に十分な酸素圧を提供するが、金属蒸発源は同時に酸化せず、蒸発種は散乱しない。希土類元素、Er、Ho、およびDyは電子ビーム源から蒸発され、NdおよびCuは電子ビーム源または抵抗源(resistive source)のどちらかから蒸発され、かつBaは熱炉(thermal furnace)または抵抗源から蒸発される。典型的な付着速度は〜2.5Å/秒である。ここで議論されるこの膜に関する付着温度は、760〜790℃であり、膜厚は約700nmである。この膜を最良の結果を達成するために現在薄い緩衝層を必要とするNd−BCO以外MgO基材上に直接付着させた。
【0056】
容易に融解するイットリウムとは異なり、いくつの希土類元素、例えばEr、Ho、およびDyは電子ビーム蒸発中昇華し、それにより組成の制御をより難しくしている。我々は通常、水晶モニタ(QCM)を主要な速度制御装置として使用する。しかしながら、昇華材料は我々の蒸発速度において全く融解しない。むしろ電子ビームは金属原料物質中に孔を掘り、プルーム(plume)形が付着試験の過程において大きく変化する。従って、QCMはRE蒸気流の量の変化を正しくモニターできない。この問題点を緩和するために、我々は中空陰極ランプ(HCL)原子吸光(AA)蒸発流センサーを用いてこれらの昇華材料をモニターおよび制御した。AAライトビームが蒸発種の全プルームを通過するので、この技術はより正確に蒸発流量をモニターできる。
【0057】
最良の結果を達成するために使用される酸素ポケット圧および付着速度は我々が研究した(RE)BCO膜に似ている。我々はEr、Ho、Dy、およびNdに関して最良の基材温度がそれぞれ780、790、790、および780℃であることを見つけた。これらの温度は我々がYBCOに関して最適なRF特性を達成するのに使用する温度760℃より大きく高い。YBCOと比較して(RE)BCO材料の異なる成長条件の使用はまさに最良のRF特性を達成するのに必須である。例えば、(RE)BCO材料に関するYBCOと比較してより高い成長温度は一般的に有害な調整不良の粒子が存在しない状態にするために必要である。この組成物は更に我々が議論したように、この目的のために最適化されていなければならない。一般的に、a)成長温度、b)成長速度、c)酸素圧、およびd)化学量論を含む膜成長の多くの局面が(RE)BCO薄膜における欠陥構造、および従ってRF特性に影響を与える。(a)、(b)、および(c)に関する特定の選択が異なる最適化特性および異なる最適化組成を生じ得る。
【0058】
上記発明を明確化および理解を目的として例として幾つか詳細に記述したが、本発明の教示を踏まえると通常の当業者は明らかに容易に、請求項の精神および範囲から離れることなく本発明の変更および改良をし得る。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1はMgO基材上に成長させた幾つかの(RE)BCO薄膜のθ−2θx線回折走査を示す。
【図2】図2は示される種々の(RE)BCO薄膜の異なる組成に関するBa/RE比の関数としての2θ(005)x線ピーク位置を示す。
【図3】図3は示される種々の(RE)BCO薄膜の異なる組成に関するBa/RE比の関数としての2θ(005)x線ピーク強度を示す。
【図4】図4はEr−、Ho−、およびDy−BCOを含む幾つかの(RE)BCO膜の代表的な(103)ピークのx線回折φ走査を示す(左側)。右側のプロットは(104)ピークあたりでとった(RE)BCO膜のχ走査を示す。
【図5】図5はDy−BCO薄膜に関する(103)ブラッグ角の高感度φ走査を示す。
【図6】図6はRF特性に関して最適化されたDy−BCO薄膜の表面の原子間力顕微鏡(AFM)走査を示す。
【図7】図7はRF特性に関して最適化されたHo−BCO薄膜の表面のAFM走査を示す。
【図8】図8はRF特性に関して最適化されたEr−BCO薄膜の表面のAFM走査を示す。
【図9】図9はRF特性に関して最適化されたNd−BCO薄膜の表面のAFM走査を示す。
【図10】図10は室温(300K)直流比抵抗値を種々の示される(RE)BCO薄膜の異なる組成に関するBa/RE比の関数として示す。
【図11】図11は直流比抵抗をRF特性に関して最適化されたDy−BCO膜に関する温度、ρ(T)の関数として示す。超伝導転移の詳細を挿入図において示す。
【図12】図12はRF特性に関して最適化されたHo−BCO膜に関するρ(T)曲線を示す。超伝導転移の詳細を挿入図において示す。
【図13】図13はRF特性に関して最適化されたEr−BCO膜に関するρ(T)曲線を示す。超伝導転移の詳細を挿入図において示す。
【図14】図14はRF特性に関して最適化されたNd−BCO膜に関するρ(T)曲線を示す。超伝導転移の詳細を挿入図において示す。
【図15】図15は示される異なる組成の種々の(RE)BCO薄膜に関するゼロ抵抗Tc値をBa/RE比の関数として示す。
【図16】図16は我々の(RE)BCO膜のQ値を測定するために使用される準集中定数素子共振器デザインの形状を示す。この共振器は、MgO基材上の膜に関して中心周波数約1.85GHzを有する。この共振器の寸法は5.08mm四方である。
【図17】図17は示される異なる組成の種々の(RE)BCO薄膜に関するBa/RE比の関数としての無負荷品質係数(Qu)を示す。これらのQu値は、温度67K、中心周波数約1.85GHzを有する集中素子RF共振器に関して入力−10dBmにおいて測定された。Ba/RE=2における点線は化学量論値1:2:3の化合物を示す。
【図18】図18はQu値を示される種々の(RE)BCO薄膜の異なる組成に関してRE/Cu比の関数として示す。これらのQu値は温度67K、中心周波数約1.85GHzを有する集中素子RF共振器に関して入力−10dBmにおいて測定された。RE/Cu=1/3における点線は化学量論値1:2:3の化合物を示す。
【図19】図19はQu値を示される異なる組成の種々の(RE)BCO薄膜に関してBa/Cu比の関数として示す。これらのQu値は温度67K、中心周波数約1.85GHzを有する集中素子RF共振器に関する入力−10dBmにおいて測定された。Ba/Cu=2/3における点線は化学量論値1:2:3の化合物を示す。
【図20】図20は我々のIMD試験に関して使用される10ポールBバンドセル状フィルタデザイン(10−pole B−band cellular filter design)のレイアウトを示す。フィルタ寸法は18mm×34mmである。
【図21】図21はHTSフィルタの相互変調歪に関するブロック線図を示す。
【図22】図22は(RE)BCO薄膜から作成される10ポールBバンドセル状RFフィルタの典型的なS11応答を示す。三つのツートーン相互変調歪試験測定値に関する入力周波数の位置を示す。
【図23】図23は79.5Kにおいて測定される相互変調歪(IMD)試験測定の結果をDy−BCO膜からかたどられる幾つかの10ポールBバンドフィルタに関するBa/Dy比の関数として示す。点線は必要とされる仕様レベル(specification level)を示す。
【図24】図24は79.5Kにおいて測定されるIMD試験測定の結果をHo−BCO膜からかたどられる幾つかの10ポールBバンドフィルタに関するBa/Ho比の関数として示す。点線は必要とされる仕様レベル(specification level)を示す。
【図25】図25は79.5Kにおいて測定されるIMD試験測定の結果をEr−BCO膜からかたどられる幾つかの10ポールBバンドフィルタに関するBa/Er比の関数として示す。点線は必要とされる仕様レベル(specification level)を示す。
【図26】図26はNd−BCO膜からかたどられる4つの10ポールBバンドフィルタに関して79.5Kにおいて測定されるIMD試験測定の結果を示す。点線は必要とされる仕様レベル(specification level)を示す。
【図27】図27は示される異なる組成の種々のDy−BCO薄膜に関する無負荷品質係数(Qu)をBa/Dy比の関数として示す。これらのQu値は温度67K、中心周波数約1.85GHzを有する集中素子RF共振器に関して入力−10dBにおいて測定された。Ba/Dy=2における実線は化学量論値1:2:3の化合物を示す。
【図28】図28は示される異なる組成の種々のDy−BCO薄膜に関する無負荷品質係数(Qu)をBa/Dy比の関数として示す。これらのQu値は温度77K、中心周波数約1.85GHzを有する集中素子RF共振器に関して入力−10dBにおいて測定された。Ba/Dy=2における実線は化学量論値1:2:3の化合物を示す。
【図29】図29は示される異なる組成の種々のDy−BCO薄膜に関する高入力(+10dBm)Q係数対低入力(−10dBm)Q係数の比を示す。ここで、Qu値は温度67Kにおいて測定された。
【図30】図30は示される異なる組成の種々のDy−BCO薄膜に関する高入力Q係数対低入力Q係数の比を示す。ここで、Qu値は温度77Kにおいて測定された。
【図31】図31は異なる組成のDy−BCO薄膜に関する2θ(005)x線ピーク強度をBa/Dy比の関数として示す。
【図32】図32は異なる組成のDy−BCO薄膜に関する室温(300K)直流比抵抗値をBa/Dy比の関数として示す。
【図33】図33は異なる組成のDy−BCO薄膜に関に関するゼロ抵抗Tc値をBa/Dy比の関数として示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、および
該基材上に配置され、組成式REzBayCu3Ox(式中、REは希土類であり、yは実質的に2.1未満であり、かつy/z比は1.65±10%である。)を有する薄膜
を含有する超伝導物品。
【請求項2】
yが実質的に2.1未満であり、かつy/z比が1.65±6%である、請求項1記載の物品。
【請求項3】
yが実質的に2.1未満であり、y/z比が1.65±3%である、請求項1記載の物品。
【請求項4】
77K、850MHzにおけるJIMDが0.8×107A/cm2超である、請求項1記載の物品。
【請求項5】
77K、1.85GHzにおけるRsが15μΩ未満である、請求項1記載の物品。
【請求項6】
該物品が45度粒界を濃度1%未満において含む、請求項1記載の物品。
【請求項7】
該薄膜が反応性同時蒸着により基材上に付着させられる、請求項1記載の物品。
【請求項8】
該薄膜が超伝導転移温度87K超を有する、請求項1記載の物品。
【請求項9】
該基材が表面積3平方インチ超を有する、請求項1記載の物品。
【請求項10】
該薄膜が高Q回路素子を有する高周波回路にかたどられる、請求項1記載の物品。
【請求項11】
基材、および
該基材上に配置され、組成式REzBayCu3Ox(式中、REはイットリウムでない希土類である。)を有する薄膜
を含有する改良されたマイクロ波帯を有する超伝導物品であって、77KにおけるJIMDが0.8×107A/cm2超である物品。
【請求項12】
77KにおけるJIMDが1.5×107A/cm2超である、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
77KにおけるJIMDが3×107A/cm2超である、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
基材、および
該基材上に配置され、組成式REzBayCu3Ox(式中、REはイットリウムでない希土類である。)を有する薄膜
を含有する改良されたマイクロ波帯を有する超伝導物品であって、77K、1.85GHzにおいて測定されるRsが15μΩ未満である物品。
【請求項15】
77K、1.85GHzにおいて測定されるRsが10μΩ未満である、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
77K、1.85GHzにおいて測定されるRsが8μΩ未満である、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
基材、および
該基材上に配置され、組成式DyzBayCu3Ox(式中、yは実質的に2.1未満であり、かつy/z比は1.65±10%である。)を有する薄膜
を含有する超伝導物品。
【請求項18】
yが実質的に2.1未満であり、かつy/z比が1.65±6%である、請求項17記載の物品。
【請求項19】
yが実質的に2.1未満であり、かつy/z比が1.65±3%である、請求項18記載の物品。
【請求項20】
77K、850MHzにおけるJIMDが0.8×107A/cm2超である、請求項17記載の物品。
【請求項21】
77K、1.85GHzにおけるRsが15μΩ未満である、請求項17記載の物品。
【請求項22】
該物品が濃度1%未満において45度粒界を含む、請求項17記載の物品。
【請求項23】
該薄膜が反応性同時蒸着により基材上に付着させられる、請求項17記載の物品。
【請求項24】
該薄膜が87K超の超伝導転移温度を有する、請求項17記載の物品。
【請求項25】
該基材が3平方インチ超の表面積を有する、請求項17記載の物品。
【請求項26】
該薄膜が高Q回路素子を有する高周波回路にかたどられる、請求項17記載の物品。
【請求項27】
基材、および
基材上に配置させられた組成式NdzBayCu3Ox(式中、yは実質的に2.1未満であり、y/z比は1.65±10%である。)を有する薄膜
を含有する超伝導組成物。
【請求項28】
77K、850MHzにおけるJIMDが0.8×107A/cm2超である、請求項27記載の物品。
【請求項29】
77K、1.85GHzにおけるRsが15μΩ未満である、請求項27記載の物品。
【請求項30】
該物品が濃度1%未満において45度粒界を含む、請求項27記載の物品。
【請求項31】
該薄膜が反応性同時蒸着により基材上に付着させられる、請求項27記載の物品。
【請求項32】
該薄膜が87K超の超伝導転移温度を有する、請求項27記載の物品。
【請求項33】
該基材が3平方インチ超の表面積を有する、請求項27記載の物品。
【請求項34】
該薄膜が高Q回路素子を有する高周波回路にかたどられる、請求項27記載の物品。
【請求項35】
基材、および
該基材上に配置され、組成式REzBayCu3Ox(式中、REはイットリウムでない希土類であり、y/z比は1.65±10%である。)を有する薄膜
を含有し、
1%未満の濃度において45度粒界を含む、超伝導物品。
【請求項1】
基材、および
該基材上に配置され、組成式REzBayCu3Ox(式中、REは希土類であり、yは実質的に2.1未満であり、かつy/z比は1.65±10%である。)を有する薄膜
を含有する超伝導物品。
【請求項2】
yが実質的に2.1未満であり、かつy/z比が1.65±6%である、請求項1記載の物品。
【請求項3】
yが実質的に2.1未満であり、y/z比が1.65±3%である、請求項1記載の物品。
【請求項4】
77K、850MHzにおけるJIMDが0.8×107A/cm2超である、請求項1記載の物品。
【請求項5】
77K、1.85GHzにおけるRsが15μΩ未満である、請求項1記載の物品。
【請求項6】
該物品が45度粒界を濃度1%未満において含む、請求項1記載の物品。
【請求項7】
該薄膜が反応性同時蒸着により基材上に付着させられる、請求項1記載の物品。
【請求項8】
該薄膜が超伝導転移温度87K超を有する、請求項1記載の物品。
【請求項9】
該基材が表面積3平方インチ超を有する、請求項1記載の物品。
【請求項10】
該薄膜が高Q回路素子を有する高周波回路にかたどられる、請求項1記載の物品。
【請求項11】
基材、および
該基材上に配置され、組成式REzBayCu3Ox(式中、REはイットリウムでない希土類である。)を有する薄膜
を含有する改良されたマイクロ波帯を有する超伝導物品であって、77KにおけるJIMDが0.8×107A/cm2超である物品。
【請求項12】
77KにおけるJIMDが1.5×107A/cm2超である、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
77KにおけるJIMDが3×107A/cm2超である、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
基材、および
該基材上に配置され、組成式REzBayCu3Ox(式中、REはイットリウムでない希土類である。)を有する薄膜
を含有する改良されたマイクロ波帯を有する超伝導物品であって、77K、1.85GHzにおいて測定されるRsが15μΩ未満である物品。
【請求項15】
77K、1.85GHzにおいて測定されるRsが10μΩ未満である、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
77K、1.85GHzにおいて測定されるRsが8μΩ未満である、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
基材、および
該基材上に配置され、組成式DyzBayCu3Ox(式中、yは実質的に2.1未満であり、かつy/z比は1.65±10%である。)を有する薄膜
を含有する超伝導物品。
【請求項18】
yが実質的に2.1未満であり、かつy/z比が1.65±6%である、請求項17記載の物品。
【請求項19】
yが実質的に2.1未満であり、かつy/z比が1.65±3%である、請求項18記載の物品。
【請求項20】
77K、850MHzにおけるJIMDが0.8×107A/cm2超である、請求項17記載の物品。
【請求項21】
77K、1.85GHzにおけるRsが15μΩ未満である、請求項17記載の物品。
【請求項22】
該物品が濃度1%未満において45度粒界を含む、請求項17記載の物品。
【請求項23】
該薄膜が反応性同時蒸着により基材上に付着させられる、請求項17記載の物品。
【請求項24】
該薄膜が87K超の超伝導転移温度を有する、請求項17記載の物品。
【請求項25】
該基材が3平方インチ超の表面積を有する、請求項17記載の物品。
【請求項26】
該薄膜が高Q回路素子を有する高周波回路にかたどられる、請求項17記載の物品。
【請求項27】
基材、および
基材上に配置させられた組成式NdzBayCu3Ox(式中、yは実質的に2.1未満であり、y/z比は1.65±10%である。)を有する薄膜
を含有する超伝導組成物。
【請求項28】
77K、850MHzにおけるJIMDが0.8×107A/cm2超である、請求項27記載の物品。
【請求項29】
77K、1.85GHzにおけるRsが15μΩ未満である、請求項27記載の物品。
【請求項30】
該物品が濃度1%未満において45度粒界を含む、請求項27記載の物品。
【請求項31】
該薄膜が反応性同時蒸着により基材上に付着させられる、請求項27記載の物品。
【請求項32】
該薄膜が87K超の超伝導転移温度を有する、請求項27記載の物品。
【請求項33】
該基材が3平方インチ超の表面積を有する、請求項27記載の物品。
【請求項34】
該薄膜が高Q回路素子を有する高周波回路にかたどられる、請求項27記載の物品。
【請求項35】
基材、および
該基材上に配置され、組成式REzBayCu3Ox(式中、REはイットリウムでない希土類であり、y/z比は1.65±10%である。)を有する薄膜
を含有し、
1%未満の濃度において45度粒界を含む、超伝導物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【公表番号】特表2008−546131(P2008−546131A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548590(P2007−548590)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/047147
【国際公開番号】WO2006/071899
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(591087035)スーパーコンダクター・テクノロジーズ・インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】SUPERCONDUCTOR TECHNOLOGIES INCORPORATED
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/047147
【国際公開番号】WO2006/071899
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(591087035)スーパーコンダクター・テクノロジーズ・インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】SUPERCONDUCTOR TECHNOLOGIES INCORPORATED
【Fターム(参考)】
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