説明

Snメッキ導電材料及びその製造方法並びに通電部品

【課題】Agの使用量を少なく抑えて低コストで製作可能であるとともに、耐熱性及び耐ウィスカー性を両立させることができるSnメッキ導電材料及びその製造方法並びにこのSnメッキ導電材料を用いた通電部品を提供する。
【解決手段】導電性の金属からなる基材2の上に、Sn又はSn合金からなるSnメッキ層5が形成されたSnメッキ導電材料1であって、基材2とSnメッキ層5との積層方向に沿った断面において、Snメッキ層5の表層部分にAg−Sn粒子が凝集したAg−Sn合金層6が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置や電子・電気部品の素材として利用されるSnメッキ導電材料及びその製造方法並びにこのSnメッキ導電材料を用いて形成された端子、コネクター、リードフレーム等の通電部品に関する。
【背景技術】
【0002】
前述の電子・電気部品として、銅合金等からなる導電性の基材の上にSnメッキが施されたSnメッキ導電材料が利用されている。これら電子・電気部品の信頼性の向上を図るために、耐ウィスカー性や耐熱性に優れたSnメッキ導電材料が要求されている。
近年、環境問題から電子部品のRoHs指令対応に伴う鉛フリーの義務化により、鉛を含まない純Sn系メッキが求められている。しかし、鉛を含まない一般的なSnメッキ層付き部品では、使用環境によってSnウィスカーが発生することが知られている。
【0003】
また、鉛を含まない純Sn系メッキをリフロー処理したリフローSnメッキは、メッキ層内部の応力がリフロー処理時に解放されるので、Snウィスカーの自然発生を抑えることが可能なものである。しかしながら、たとえばコネクターのメス端子やオス端子の接触部分のように外部応力が作用する場合には、この外部応力に起因するSnウィスカーの発生を抑えることができず、電子・電気部品の信頼性が低下してしまう。
Snウィスカーを抑制する方法として、高価で貴重な資源であるAuメッキ処理を行うことが考えられるが、製作コストが非常に高くなってしまう。
【0004】
さらに、半導体リードフレームや電子部品のコネクター端子に対しては、前記の耐ウィスカー性のほかに、耐熱性(電気接触抵抗の安定性)も要求されている。Sn金属は大気中において酸化されやすいので、常に表面に硬い酸化皮膜が形成されている。そして、Snメッキ層を被覆した材料を端子材とした場合、接触している相手材はこの酸化皮膜を破って、その下の柔らかいSn金属と接触することにより電気的な接続が実現されている。ここで、Snは、他の金属との拡散合金化の反応速度が速いので、使用環境において基材中の元素とSnとの合金化反応の進行とともにSnメッキ層の膜厚は減少していくことが知られている。特に、高温環境においてSnとCuの合金化反応が促進されるため、最終的にSnメッキ層が完全に合金化され、Cu−Sn合金層がメッキ層表面に露出し、表面にSn酸化膜以外にさらにCu酸化膜が形成されてしまう。この酸化膜は、相手材と接触の時に簡単に破ることができずに、電気的な接触ができなくなってしまうという問題がある。さらに、近年では、要求される温度が150℃以上と高くなり、厳しさを増して来ている。
【0005】
そのため、Snメッキ層を厚くし、Snメッキ層が完全に合金化するまでの時間を引き延ばして信頼性を確保する方法を採らざるを得なくなる。しかし、Snメッキ層を厚くすると、Snウィスカーの発生は激しくなってしまう。また、コネクタ端子の場合、Snメッキ層を厚くすると、雄端子と雌端子間の嵌合力によってメッキ層の変形も大きくなるので、摺動抵抗力(挿抜力)が大きくなり、嵌合作業性が劣化し、嵌合不良や作業者の負荷の増大を招くことになる。
一方、Snメッキ層を薄くすれば、耐ウィスカー性については有効であるが、前記の耐熱性が低下してしまうことになる。言い換えると、Snメッキ材に対して、耐ウィスカー性と耐熱性を両立させることは非常に困難であった。
【0006】
そこで、最近、耐熱性と耐ウィスカー性の向上を図ったSnメッキ導電材料が提案されている。たとえば特許文献1には、Cu基材の表面に、中間層のCuメッキ層とSnメッキ層との間にバリアー層としてAgメッキ層を設け、リフロー処理によってAg−Sn合金層を形成したものが提案されている。
また、特許文献2、3には、Cu基材又はFe合金基材の表面にSnメッキを行った後に、さらにAgメッキを行い、続いてリフロー処理又は拡散焼鈍により、Ag−Sn合金層を形成したものが開示されている。
【特許文献1】特開2005−353542号公報
【特許文献2】特開2002−317295号公報
【特許文献3】特開2002−220682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記のAg−Sn合金層を備えたSnメッキ導電材料においては、Agメッキ層を形成した後にSnメッキ層が溶融する程度の温度でリフロー処理又は拡散焼鈍を行うことでAg−Sn合金を形成しているため、Ag−Sn合金の粒子がSnメッキ層の全体に分散されてしまうことになる。このため、耐熱性の向上を図るためには、Agの含有量を多くする必要があり、Snメッキ導電材料の製作コストが高くなってしまうといった問題があった。
【0008】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであって、Agの使用量を少なくして低コストで製作可能であるとともに、耐熱性及び耐ウィスカー性を向上させることができるSnメッキ導電材料及びその製造方法並びにこのSnメッキ導電材料を用いた通電部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、Snメッキ層の上に薄いAg層を形成し、Snが溶融する温度よりもはるかに低い温度で保持することでAgとSnとを拡散・反応させ、Snメッキ層の表層にAg−Sn合金層を形成することが可能であるとの知見を得た。
【0010】
本発明は、かかる知見に基いてなされたものであって、本発明に係るSnメッキ導電材料は、導電性を有する基材の上に、Sn又はSn合金からなるSnメッキ層が形成されたSnメッキ導電材料であって、前記基材と前記Snメッキ層との積層方向に沿った断面において、前記Snメッキ層の表層部分にAg−Sn粒子が凝集したAg−Sn合金層が形成されていることを特徴としている。
【0011】
この構成のSnメッキ導電材料によれば、Snメッキ層の表層部分にAg−Sn粒子が凝集したAg−Sn合金層が形成されているので、Snメッキ層表面のSn原子の移動を阻止し、Snウィスカーの発生を抑制できる。さらに、Ag−Sn粒子の存在がSnウィスカーの成長も抑制する。なお、Ag−Sn粒子として、導電性を有するAgSn金属間化合物が生成することになる。
また、Ag−Sn粒子が、基材とSnメッキ層との積層方向に沿った断面においてSnメッキ層の全体に分散されるのではなくSnメッキ層の表層に凝集しているので、Agの使用量を少なくしても耐ウィスカー性と耐熱性の両方を向上させることができ、このSnメッキ導電材料を低コストで製作することが可能となる。
【0012】
さらに、Snメッキ層の上にAg−Sn粒子が凝集することで形成されたAg−Sn合金層は、耐食性が高いため使用環境においてSnメッキ層の表面の酸化を抑制できる。特に、高温環境において、基材中の元素とSnメッキ層のSnとの拡散によって合金化した場合、耐食性の高いAg−Sn粒子がSnメッキ層へ拡散せず、さらに再結晶・凝集して合金化した層の上に島状に存在し、電気的接触を向上させる。また、Ag−Sn粒子として導電性を有するAgSn金属間化合物が生成されるので、Snメッキ層が完全に合金化して表面が酸化された場合でも、このAgSn金属間化合物によって電気的接触を行うことができる。
このように耐熱性を向上させることが可能となるため、Snメッキ層を必要以上に厚くしなくてもよい。これにより、Snウィスカーの発生を抑制できるとともに、嵌合型のコネクター端子等を構成した場合の挿抜性を向上させることができる。
【0013】
なお、前記基材としては、少なくても表面が導電性である材料が用いられる。例えば、CuとCu合金、またはFeとFe合金などの金属からなる導電性材料や、非導電性材料の表面に導電性材料を被覆した複合材料などが用いることができる。そのうち、導電性が高く機械的な特性も良好であるCuとCu合金材料が好適である。
【0014】
ここで、前記Ag−Sn合金層の平均厚さを、0.002〜0.2μmの範囲内に設定してもよい。
この場合、Ag−Sn合金層の平均厚さが0.002μm以上とされているので、Snメッキ層からのSnウィスカーの発生やSnメッキ層表面の酸化を抑えて、耐ウィスカー性及び耐熱性を確実に向上させることができる。一方、Ag−Sn合金層の平均厚さが0.2μm以下とされているので、Agを完全にAg−Sn合金化でき、Agの硫化変色による電気接触抵抗の上昇を抑制できるとともに半田濡れ性の劣化を防止できる。
なお、Ag−Sn合金層は、0.002〜0.2μmと非常に薄く形成されているので、孔のない緻密な膜として存在するのではなく、Ag−Sn金属間化合物の微粒子集合体または不連続な薄片が表面に分散している状態である。このように不均一に形成されたAg−Sn合金層の平均厚さとは、Ag−Sn合金層(Ag−Sn粒子)の付着量をSnメッキ層上の付着領域面積で平均化した厚さをいうものとする。
【0015】
また、前記基材と前記Snメッキ層との間に、Cu又はCu合金からなるCuメッキ層を形成してもよい。
この場合、Cuメッキ層によって前記基材表面の化学状態を均一にし、その上にSnメッキ層を形成することで、基材の元素のSnメッキ層への拡散を防止し、Snメッキ層の均一性を向上させることができる。なお、このCuメッキ層の形成方法は、特に限定はなく、電気メッキ、無電解メッキ、置換メッキでもよい。
【0016】
さらに、前記基材の上に、前記基材中の元素の拡散を防止するための拡散防止層を形成してもよい。
この場合、拡散防止層によって、基材中の元素とSnとの拡散合金化を防止でき、このSnメッキ導電材料の耐熱性及びSnメッキ層と基材との接合強度を向上させることができる。なお、拡散防止層をなす元素は、前記基材中の元素と反応しにくいものであればよい。ここで、例えばCuまたはCu合金からなる基材の場合、拡散防止層として、Ni、Cr、Mo、W、Al、Ti、Zr,V、Ta、Nb等、またはこれらの合金を適用することができる。
【0017】
本発明に係るSnメッキ導電材料の製造方法は、前述のSnメッキ導電材料の製造方法であって、導電性を有する基材の上に、Sn又はSn合金からなるSnメッキ層を形成するSnメッキ層形成工程と、前記Snメッキ層の上に、Ag又はAg合金からなるAg層を形成するAg層形成工程と、前記Ag層を形成した状態で、10℃以上100℃未満の温度で2秒以上保持し、前記Ag層のAgと前記Snメッキ層のSnとを反応させてAg−Sn合金層を形成するAg−Sn合金層形成工程と、を備えていることを特徴としている。
【0018】
この構成のSnメッキ導電材料の製造方法によれば、Ag−Sn合金層形成工程によってSnとAgとが反応してAg−Sn粒子(AgSn金属間化合物)が生成し、Snメッキ層の表面にこのAg−Sn粒子が凝集したAg−Sn合金層が形成される。ここで、Ag−Sn合金層形成工程における温度条件が10℃以上とされているので、AgとSnとの反応を促進することができる。また、Ag−Sn合金層形成工程における温度条件が 100℃未満とされているので、AgとSnとの必要以上の反応を抑制でき、Ag−Sn粒子(AgSn金属間化合物)が、基材とSnメッキ層との積層方向に沿った断面においてSnメッキ層の全体に分散されることを防止でき、Snメッキ層の表層にAg−Sn粒子を凝集させることが可能となる。
【0019】
また、前記Snメッキ層形成工程の前に、前記基材の上にCuまたはCu合金からなるCuメッキ層を形成するCuメッキ層形成工程を備えていてもよい。
この場合、Cuメッキ層形成工程によって基材とSnメッキ層との間にCuメッキ層を形成することができる。このCuメッキ層によって、基材表面の化学状態が均一になり、その上のSnメッキ層の品質を向上させることができる。なお、このCuメッキの形成方法は、特に限定はなく、電気メッキ、無電解メッキ、置換メッキでもよい。
【0020】
また、前記Snメッキ層形成工程の前に、前記基材の上に前記基材中の元素の拡散を防止するための拡散防止層を形成する拡散防止層形成工程を備えてもよい。
この場合、拡散防止層形成工程によって基材とSnメッキ層との間に拡散防止層を形成することができる。この拡散防止層により、基材からSnメッキ層への基材元素の拡散を阻止し、このSnメッキ導電材料の耐熱性及びSnメッキ層と基材との密着性が向上される。なお、この拡散防止層の形成方法は特に限定がなく、湿式法の電気メッキ、無電解メッキ、置換メッキ、化成処理(クロメート処理など)でもよいし、乾式の蒸着法、スパッタ法でもよい。また、前述のCuメッキ層形成工程を有している場合には、Cuメッキ層形成工程前に拡散防止層形成工程を備えることが好ましい。
【0021】
ここで、前記Ag層形成工程を、電気メッキ法、無電解メッキ、置換メッキ及び蒸着法から選択されるメッキ法によって、平均厚さ0.001〜0.1μmの前記Ag層を形成するものとしてもよい。
この場合、Ag層の平均厚さが0.001μm以上とされているので、AgとSnとを反応させてAg−Sn合金層を確実に形成することができる。一方、Ag層の平均厚さが0.1μm以下とされているので、形成されたAg層中のすべてのAgを反応させることができ、残存Agの硫化変色による電気接触抵抗の上昇を抑制できるとともに、半田濡れ性の劣化を防止できる。
なお、Ag層は、0.001〜0.1μmと非常に薄く形成されているので、緻密な結晶性連続膜ではなく、微粒子またはその微粒子の凝集体としてSnメッキ層に均一に分散している状態である。このように不均一に形成されたAg層の平均厚さとは、Agの付着量をSnメッキ層上の付着領域面積で平均化した厚さをいうものとする。
【0022】
また、前記Snメッキ層形成工程の後に、このSnメッキ層に加熱処理を施すリフロー処理工程を有していてもよい。リフロー処理は、Sn金属の融点まで加熱してSnメッキ層の表層を溶融処理するものである。
この場合、Snメッキ層形成工程においてSnメッキ層に発生した内部応力をリフロー処理によって解放させることができ、この内部応力に起因するSnウィスカーの発生を防止することができる。
【0023】
さらに、前記基材を所定の形状に加工した後に、前記Snメッキ層及び前記Ag−Sn合金層を形成してもよい。
【0024】
本発明の通電部品は、前述のSnメッキ導電材料を用いたことを特徴としている。
前述のSnメッキ導電材料を用いて、たとえばコネクター端子、接点、リードフレーム等の通電部品を構成することで、これら通電部品の使用時における耐ウィスカー性及び耐熱性を向上させることができ、信頼性の高い通電部品を提供することができる。このような通電部品は、Ag−Sn合金層が形成されたSnメッキ導電材料を加工することで作製することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、Snメッキ層の上にAg層を形成し、これらAgとSnとを反応させることで、Snメッキ層の表層にAg−Sn粒子を凝集させたAg−Sn合金層を形成し、耐ウィスカー性及び耐熱性に優れたSnメッキ導電材料及びその製造方法並びに通電部品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の第1の実施形態であるSnメッキ導電材料1について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態であるSnメッキ導電材料1は、図1に示すように、基材2と、この基材2の表面に形成されたNiメッキ層3と、Niメッキ層3の表面に形成されたCuメッキ層4と、Cuメッキ層4の表面に形成されたSnメッキ層5と、Snメッキ層5の表面に形成されたAg−Sn合金層6とを備えている。
【0027】
基材2は、導電性を有する金属で構成されており、本実施形態では、基本的に各種銅合金で構成されているが、鉄系合金も用いられる。
Niメッキ層3は、基材2の元素の拡散防止層とし、Ni又はNi合金で構成されており、基材2の表面に電気メッキ法によって形成されている。このNiメッキ層3の厚さは、0.01〜1.0μmの範囲内に設定されている。
【0028】
Cuメッキ層4は、NiとSnの合金化の拡散防止層とし、Cu又はCu合金で構成されており、Niメッキ層3の表面に電気メッキ法によって形成されている。Cuメッキ層4は、Niメッキ層3のNiがSnメッキ層5に拡散することを防止する作用を有している。具体的には、Cuメッキ層4の厚さは0.1〜1.0μmの範囲内に設定されている。
【0029】
Snメッキ層5は、Sn又はSn合金で構成されており、電解メッキ又は無電解メッキによって形成されている。このSnメッキ層5の厚さは、基本的に半田濡れ性を満足すればよく、その用途により0.3〜10μmの範囲内に設定されている。このSnメッキ層5には、後述するリフロー処理(溶融処理)が施されており、メッキ層5内部の応力が解放されている。
【0030】
Ag−Sn合金層6は、基材2とSnメッキ層5との積層方向に沿った断面において、Snメッキ層5の表層部分にAg−Sn粒子が凝集することによって形成されている。なお、Ag−Sn粒子は、導電性を有するAgSn金属間化合物である。Ag−Sn合金層6の平均厚さは、0.002〜0.2μmの範囲内に設定されている。ここで、Ag−Sn合金層6は、その厚さが0.002〜0.2μmと非常に薄く形成されているので、緻密な結晶性連続膜ではなく、微粒子またはその微粒子の凝集体としてSnメッキ層に均一に分散している状態である。
【0031】
以下に、このSnメッキ導電材料1の製造方法について、図3に示すフロー図を参照にして説明する。
まず、基材2の表面に電気メッキによってNiメッキ層3を形成する(Niメッキ層形成工程S1)。
次に、Niメッキ層3の表面に電気メッキによってCuメッキ層4を形成する(Cuメッキ層形成工程S2)。
そして、Cuメッキ層4の上にSnメッキ層5を電解メッキ又は無電解メッキによって形成する(Snメッキ層形成工程S3)。
このようにSnメッキ層5をメッキにて形成した後に、Sn金属の融点以上に加熱してSnを溶融させるリフロー処理を行う(リフロー処理工程S4)。この時点で、Cuメッキ層4の一部または全部がCu−Sn合金となる。
【0032】
次に、図2に示すように、リフロー処理が施されたSnメッキ層5の表面に、電気メッキ法、無電解メッキ、置換メッキ及び蒸着法から選択されるメッキ法によって、厚さ0.001〜0.1μmのAg又はAg合金からなるAg層7を形成する(Ag層形成工程S5)。
【0033】
そして、Snメッキ層5の表面にAg層7を形成した状態で10以上100℃未満に調整された温水浴中に浸漬して5〜20秒間保持し、Ag層7のAgとSnメッキ層5のSnとを反応させてAg−Sn粒子(AgSn金属間化合物)を生成させてAg−Sn合金層6を形成する(Ag−Sn合金層形成工程S6)。このとき、Ag層7のAgすべてがSnと反応してAg−Sn合金になり、Ag層7は残存しない。
【0034】
以上のようにして、本実施形態であるSnメッキ導電材料1が製造される。このSnメッキ導電材料1は、例えば図4に示すように、互いに嵌合するオス端子8Aとメス端子8Bとからなるコネクター端子8に加工されて使用される。また、コネクター端子8のみでなく接点、リードフレーム等の通電部品としても使用することができる。
【0035】
本実施形態であるSnメッキ導電材料1によれば、Snメッキ層5の表層部分にSnより硬いAg−Sn粒子(AgSn金属間化合物)が凝集したAg−Sn合金層6が形成されているので、Snメッキ層5のSnの移動と局部集中を阻害し、Snウィスカーの発生を抑制できる。また、このAg−Sn粒子がSnウィスカーの成長を阻害し、このSnメッキ導電材料1の耐ウィスカー性を向上させることができる。
また、Ag−Sn粒子(AgSn金属間化合物)が、Snメッキ層5の表層に凝集しているので、Agの使用量を少なくしても耐ウィスカー性を向上させることができ、このSnメッキ導電材料1を低コストで製作することができる。
【0036】
さらに、高温での使用環境において、Cuメッキ層4のCuがSnメッキ層5に拡散することによってCu−Sn合金が表面まで成長して酸化されるとしても、表面に備えたAg−Sn合金層6を構成するAg−Sn粒子(AgSn金属間化合物)は酸化しにくいので、Ag−Sn合金層6によって電気的に接触させることが可能となり、このSnメッキ導電材料1の耐熱性を向上させることができる。このように耐熱性を向上させることできるので、Snメッキ層5を薄くすることが可能となり、Snウィスカーの発生を抑制できるとともに、図4に示すようなコネクター端子8を構成した場合に、その挿抜性を向上させることができる。
【0037】
また、Ag−Sn合金層6の平均厚さが、0.002〜0.2μmの範囲内に設定されているので、Snメッキ層5からのSnウィスカーの発生を確実に抑えることができ、耐ウィスカー性及び耐熱性を確実に向上させることができるとともに、Ag−Sn合金層6が緻密になれずに半田濡れ性が低下することを防止できる。また、Agの使用量を抑えることでこのSnメッキ導電材料1を低コストで製作することができる。
【0038】
さらに、基材2とSnメッキ層5との間に、基材2の元素の拡散防止層としてNi又はNi合金からなるNiメッキ層3が形成されているので、このNiメッキ層3によって、基材2のCu等の元素がSnメッキ層5へと拡散することを防止でき、Snメッキ導電材料1の耐熱性を向上させることができる。さらに、Snメッキ層の5の半田濡れ性が低下することを防止することができる。
また、Niメッキ層3の上に、Ni拡散防止層としてCuメッキ層4が形成されているので、このCuメッキ層4によってNiがSnメッキ層5中に拡散することを防止でき、Snメッキ層5の半田濡れ性の劣化を防止することができる。
【0039】
また、本実施形態であるSnメッキ導電材料1は、基材2の表面にNi又はNi合金からなるNiメッキ層3を形成するNiメッキ層形成工程S1と、Niメッキ層の上にCu又はCu合金からなるCuメッキ層を形成するCuメッキ層形成工程S2と、Cuメッキ層4の上にSn又はSn合金からなるSnメッキ層5を形成するSnメッキ層形成工程S3と、Snメッキ層5に加熱処理を施すリフロー処理工程S4と、このSnメッキ層形成工程によって形成されたSnメッキ層5の上に、Ag又はAg合金からなるAg層7を形成するAg層形成工程S5と、10℃以上100℃未満で2秒以上保持し、Ag層7のAgとSnメッキ層5のSnとを反応させてAg−Sn合金層6を形成するAg−Sn合金層形成工程S6と、によって製造される。
【0040】
ここで、Ag−Sn合金層形成工程S6における温度条件が10℃以上とされているので、AgとSnとの反応を促進することができる。また、Ag−Sn合金層形成工程S6における温度条件が100℃未満とされているので、AgとSnとの必要以上の反応を抑制でき、Ag−Sn粒子(AgSn金属間化合物)が、基材2とSnメッキ層5との積層方向に沿った断面においてSnメッキ層5の全体に分散されてしまうことを防止でき、Snメッキ層5の表層にAg−Sn粒子を凝集させることが可能となる。また、水浴に浸漬することでAg−Sn合金層形成工程S6を行うことができ、高温加熱炉等を使用することなく低コストでSnメッキ導電材料1を製造することができる。
【0041】
また、Ag層形成工程S5が、電気メッキ法、無電解メッキ及び蒸着法から選択されるメッキ法によって厚さ0.001〜0.1μmのAg層7を形成するものとされているので、AgとSnとの反応を促進させてAg−Sn粒子を生成し、Ag−Sn合金層6を確実に形成することができるとともに、Ag層7のAgの全てを反応させることができ、Snメッキ層5の表面にAg層7が残存することを防止できる。このようにAg層7のAgの全てを反応させてSnメッキ層5表面に純Agを残さないことにより、表面の変色と電気接触抵抗の上昇を防止することができる。
【0042】
また、Snメッキ層形成工程S3の後に、このSnメッキ層5に加熱処理を施すリフロー処理工程S4を有しているので、Snメッキ層形成工程S3においてSnメッキ層5に発生した内部応力をリフロー処理によって解放させることができ、この内部応力に起因するSnウィスカーの自然発生を防止することができる。
【0043】
次に、本発明の第2の実施形態であるSnメッキ導電材料11について図5を参照して説明する。
本実施形態であるSnメッキ導電材料11は、基材12が部品の形状に応じて加工されており、この基材12の表面に形成されたCuメッキ層14と、Cuメッキ層14の表面に形成されたSnメッキ層15と、Snメッキ層15の表面に形成されたAg−Sn合金層16とを備えている。
【0044】
基材12は、第1の実施形態と同様に、基本的に各種銅合金で構成されるが、鉄系合金も用いられる。
Cuメッキ層14は、基材12の表面に電気メッキ法または無電解メッキ法等によって形成させたCu又はCu合金から構成される。Cuメッキ層14の厚さは0.01〜1.0μmの範囲内に設定されている。
【0045】
Snメッキ層15は、Sn又はSn合金で構成されており、電解メッキ又は無電解メッキによって形成されている。このSnメッキ層15の厚さは、基本的に半田濡れ性を満足すればよく、その用途により0.3〜10μmの範囲内に設定されている。なお、この第2の実施形態においては、実用の場合を想定して、Snメッキ層15が基材12の必要部分にのみ局所的に形成されており、Snメッキ層15の内部応力の解放を目的としたSnの溶融温度までのリフロー処理を施さないこととした。
【0046】
Ag−Sn合金層16は、基材12とSnメッキ層15との積層方向に沿った断面において、Snメッキ層15の表層部分にAg−Sn粒子が凝集することによって形成されている。Ag−Sn合金層16の平均厚さは、0.002〜0.2μmの範囲内に設定されている。
【0047】
以下に、このSnメッキ導電材料11の製造方法について、図6に示すフロー図を参照にして説明する。
まず、基材12を部品の形状に応じて加工する(基材加工工程S´0)。
次に、基材12のうちSnメッキ層15を形成しない部分にマスキングを行う(マスキング工程S´1)。
【0048】
次に、露出している基材12の表面に、基材12の拡散防止層としてCuメッキ層14を電気メッキまたは無電解メッキにより形成する(Cuメッキ層形成工程S´2)。
Cuメッキ層14の上にSnメッキ層15を電気メッキまたは無電解メッキにより形成する(Snメッキ層形成工程S´3)。
【0049】
次に、Snメッキ層15の表面に、電気メッキ法、無電解メッキ、置換メッキ及び蒸着法から選択されるメッキ法によって、厚さ0.001〜0.1μmのAg又はAg合金からなるAg層を形成する(Ag層形成工程S´5)。
そして、Snメッキ層15の表面にAg層を形成した状態で10以上100℃未満に調整された温水浴中に浸漬して5〜20秒間保持し、Ag層のAgとSnメッキ層15のSnとを反応させてAg−Sn粒子(AgSn金属間化合物)を生成させてAg−Sn合金層16を形成する(Ag−Sn合金層形成工程S´6)。このとき、Ag層のAgすべてをSnと反応させ、Ag層が残存しないようにAg−Sn合金化させる。
【0050】
このような構成とされた第2の実施形態であるSnメッキ導電材料11によれば、前述した第1の実施形態と同様に、Ag−Sn合金層16により、Snウィスカーの発生を抑制することができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態であるSnメッキ導電材料について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
基材の表面にNiメッキ層を形成したもの(第1の実施形態)やCuメッキ層を形成したもの(第2の実施形態)で説明したが、これらに限定されることはなく、基材の表面に直接Snメッキ層を形成してもよい。
【0052】
また、基材を金属導電材料で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、非金属材料表面に導電性を有する材料を被覆したもので構成してもよい。具体的には、Cu−Ni−Si系銅合金、Cu−Mg−P系銅合金、Cu−Fe−P系銅合金、Cu−Zn系銅合金、Cu−Cr−Sn−Zn系銅合金、SUS、Fe−42Ni合金などの金属導電材料、有機フィルム材や半導体、ガラスとセラミックス材料の表面にCu等の導電性金属膜を被覆した非金属材料が挙げられる。
【0053】
また、Ag−Sn合金層形成工程では、温度10℃以上100℃未満に調整された温水浴中に2秒以上浸漬させるものとして説明したが、これに限定されることはなく、温水浴以外の手段で、Snメッキ層の表面にAg層が形成された状態で温度10℃以上100℃未満で2秒以上保持してAgとSnとを反応させてAg−Sn粒子を生成すればよい。
【0054】
さらに、Snメッキ層を電解メッキ又は無電解メッキによって形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、Snメッキ層をHotDip法で形成してもよい。また、Snメッキ層を形成した後にリフロー処理したものとして説明したが、図6に示すように、リフロー処理を行うことなくAg層を形成してもよい。
また、第2の実施形態においては、リフロー処理を行わないものとして説明したが、部品の形状に加工してSnメッキ層を形成した後にリフロー処理を行ってもよい。また、Snメッキ導電材料11に加熱処理を行わないものとして説明したが、用途に応じてSnが溶融しない温度(例えば120〜200℃)で加熱処理をしてもよい。
【0055】
また、本実施形態の模式図では、基材の一方の面にSnメッキ層及びAg−Sn合金層を形成したもので説明したが、これに限定されることはなく、基材の全面にSnメッキ層及びAg−Sn合金層を形成してもよい。
さらに、本実施形態の模式図では、基材の表面全部にSnメッキ層及びAg−Sn合金層を形成したものとしたが、これに限定されることはなく、Snメッキ層及びAg−Sn合金層が局部的に形成されていてもよい。
【実施例1】
【0056】
以下に、本発明の有効性を検証するために行った確認実験の結果について説明する。
まず、前述の第1の実施形態のNi/Cu/Sn3層メッキを利用した実施例として、高強度端子材の代表であるNi;2.0%、Zn;1.0%、Sn;0.5%、Si;0.5を含有した板厚0.25mmの銅合金板を基材とし、Niメッキ層、Cuメッキ層、Snメッキ層を形成し、リフロー処理を行った後に、Snメッキ層の上にAgメッキ層を形成し40℃の温水に10秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片を作製した。また、比較例としてAg−Sn合金層を形成しない試験片を作製した。これらの試験片を用いて耐ウィスカー性及び耐熱性を評価した。
【0057】
耐ウィスカー性の評価については、外部応力の影響を調べる場合に外部圧子法を、メッキ層の内部応力の影響を調べる場合に自然保持法を用いた。
それで、外部圧子法により、静止状態で先端がφ0.1mm圧子で荷重300gを室温で120時間かけて加速試験を行った後、電子顕微鏡(SEM)によりSnウィスカーの発生状態を確認し、Snウィスカー最長のSnウィスカー長さで耐ウィスカー性を評価した。
また、自然保持法では、自然環境で6ヶ月以上放置した後に、電子顕微鏡(SEM)によりSnウィスカーの発生状態を確認し、Snウィスカー最長のSnウィスカー長さで耐ウィスカー性を評価した。
【0058】
また、耐熱性については、160℃×1000時間、180℃×1000時間の加熱試験を行うとともに、これらの加熱試験前後の電気接触抵抗をJIS−C−5402に準処し、4端子接触抵抗試験機(山崎精機研究所製:CRS−113−AU)により、摺動式(1mm)で0から50gまでの荷重変化―接触電気抵抗を測定した。
【0059】
本発明例1〜4と比較例1,2のメッキ層構成及び耐ウィスカー性と耐熱性の評価結果を表1に示す。なお、耐ウィスカー性の評価においては、自然保持法による評価結果を()内に示した。また、本発明例1のメッキ直後の試験片の電子顕微鏡写真を図7に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
図7に示すように、Snメッキ層表面に10〜50nmの微粒子または不連続な薄片からなるAg−Sn合金層が形成されていることが確認される。このAg−Sn粒子は、後述のようにXRD測定によりAgSn金属間化合物と判定され、純Snより高い硬さと耐食性を有することが確認された。また、このAg−Sn粒子層が、室温において、長時間(半年以上)置いてもSnメッキ層内に全面分散することもなく、非常に安定であることが確認された。このように本発明の製造方法によって、基材とSnメッキ層との積層方向に沿った断面において、Snメッキ層の表層部分にAg−Sn粒子が凝集したAg−Sn合金層を備えたSnメッキ導電材料を製造することができることが確認された。
【0062】
図8には、外部応力によったウィスカー発生状況の例として、表面にAg−Sn合金層を形成した本発明例4とAg−Sn合金層を形成していない比較例2のメッキサンプルのウィスカー評価後のSEM観察結果を示す。本発明の表面にAg−Sn合金層を形成したサンプルは、電気回路の短絡問題となる針状なSnウィスカーが見られない。それに対して、表面にAg−Sn合金層を形成していない通常のSnメッキ(比較例2)では、多くの針状ウィスカーが発生した。また、Snウィスカーの最長の長さで比較してみると、本発明例4で約7μmと短く、比較例2が約62 μmまでの長いSnウィスカーが成長したことから、本発明はSnウィスカー発生の抑制において非常に有効であることが分かる。
【0063】
また、表1に示すように、Ag−Sn層を形成した本発明例1〜4では、Snウィスカーの最長の長さは、Ag−Sn合金層厚さの減少とともに多少長くなるが、いずれも10μm未満と短く、Snウィスカーの発生が抑制されている。一方、Ag−Sn合金層を形成していない比較例1,2では、22μm,62μmと非常に長く、ウィスカー問題があることがわかる。特に、本発明例1と比較例1、本発明例4と比較例2の最長ウィスカー長さからみると、Snメッキ層が厚い場合ではウィスカー発生の抑制効果はより高いことが確認された。
【0064】
耐熱性については、本発明例1〜4では、表面に形成したAg−Sn合金層が薄いため、メッキ直後(初期)の電気接触抵抗値は、比較例1,2とほぼ同じであるが、加熱試験後に導電性に大きな差が確認された。特に、表面にAg−Sn合金層を形成した本発明例1〜4では、電気接触抵抗値が、Ag−Sn合金層厚さの増加とともに減少し、いずれも1000時間加熱試験をしても初期の値よりの大幅な上昇は認められず、優れる耐熱性を有することが分かる。一方、Ag−Sn合金層を形成していない比較例1,2では、1000時間加熱試験後に電気接触抵抗値が初期値より大幅に上昇し、長期の耐熱性を持たないことがわかる。なお、本発明例1と本発明例4とを比較すると、Snメッキ層の厚さが厚い方が耐熱性が良いことがわかる。
【実施例2】
【0065】
前述の第1の実施形態のNi/Cu/Sn3層メッキを利用した実施例として、高導電端子材の代表であるMg;0.7%、P;0.005%を含有した板厚0.4mmの銅合金板を基材とし、Niメッキ層、Cuメッキ層、Snメッキ層を形成し、リフロー処理を行った後に、Snメッキ層の上にAgメッキ層を形成し40℃の温水に10秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片を作製した。また、比較例としてAg−Sn合金層を形成しない試験片を作製した。これらの試験片を用いて耐ウィスカー性及び耐熱性を評価した。評価方法は、実施例1と同様とした。
【0066】
本発明例5〜7と比較例3のメッキ層構成及びウィスカーと耐熱性の評価結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
耐ウィスカー性については、Ag−Sn合金層を形成した本発明例5〜7は、Ag−Sn合金層を形成していない比較例3に比べて、最長のSnウィスカーがいずれも短い突起状のものとなり、Snウィスカーの発生と成長が抑制されることがわかる。
耐熱性については、表面にAg−Sn合金層を形成した本発明例5〜7では、長期間加熱試験においても初期の値よりの大幅な上昇は認められず、優れる耐熱性を有することが分かる。一方、Ag−Sn合金層を形成していない比較例3では、加熱試験後に電気接触抵抗は大きく上昇したことが認められる。
【実施例3】
【0069】
前述の第1の実施形態のNi/Cu/Sn3層メッキを利用した実施例として、一般端子材の代表であるCu−Zn合金の板厚0.64mmのものを基材とし、Niメッキ層、Cuメッキ層、Snメッキ層を形成し、リフロー処理を行った後に、Snメッキ層の上にAgメッキ層を形成し40℃の温水に10秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片を作製した。また、比較例としてAg−Sn合金層を形成しない試験片を作製した。これらの試験片を用いて耐ウィスカー性及び耐熱性を評価した。評価方法は、実施例1、2と同様とした。
【0070】
本発明例8と比較例4のメッキ層構成及びウィスカーと耐熱性の評価結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
Ag−Sn合金層を形成した本発明例8は、Ag−Sn合金層を形成していない比較例4に比べて、Snウィスカーの成長が抑制されている。
また、耐熱性については、通常のリフローSnメッキであるAg−Sn合金層を形成していない比較例4では、長時間の加熱試験において、Snメッキ層の薄膜化によって、電気接触抵抗が明らかに上昇したことが認められる。一方、Ag−Sn合金層を形成している本発明例8では、長時間加熱試験をしても、電気接触抵抗の大幅な上昇が認められなく、Snメッキ層を薄くした場合にも長期耐熱性を明確に改善できることが確認された。
【実施例4】
【0073】
次に、Cu/Sn2層メッキを利用した実施例として、高強度端子材の代表であるNi;2.0%、Zn;1.0%、Sn;0.5%、Si;0.5を含有した板厚0.25mmの銅合金板を基材とし、Cuメッキ層、Snメッキ層を形成し、リフロー処理を行った後に、Snメッキ層の上にAgメッキ層を形成し40℃の温水に10秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片を作製した。また、比較例としてAg−Sn合金層を形成しない試験片を作製した。これらの試験片を用いて耐ウィスカー性及び耐熱性を評価した。評価方法は、ウィスカー評価が実施例1〜3と同じ外部応力法を利用し、耐熱性評価が160℃と180℃でそれぞれ120時間保持した。さらに、本発明例9の加熱試験後の試験片を電子顕微鏡(FE−SEM)により表面と断面観察した。
【0074】
本発明例9〜11と比較例5のメッキ層構成及びウィスカーと耐熱性の評価結果を表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
Ag−Sn合金層を形成した本発明例9〜11は、Ag−Sn合金層を形成していない比較例5に比べて、Snウィスカーの成長が抑制されている。Cu/Snの2層リフローSnメッキに対しても、Snウィスカーの発生を抑制できることが確認された。
また、耐熱性については、通常の2層リフローSnメッキであるAg−Sn合金層を形成していない比較例5では、素材からのCu拡散が進みCu−Sn合金化が進行し、120時間の短時間加熱試験においても、電気接触抵抗が明らかに上昇し、電気導電性が明確に悪化することが認められた。一方、Ag−Sn合金層を形成している本発明例9〜11では、同じ加熱試験をしても、電気接触抵抗の大幅な上昇が認められなく、耐熱性が明確に改善されていることが確認された。
【0077】
図9には、本発明例9で作製したサンプルを180℃で、120時間加熱試験後の表面と断面を示す。表面写真により、メッキ直後の数十ナノメートルのAg−Sn合金微粒子は、高温での拡散により0.5〜2μmの塊として凝集し、Cu−Sn合金層の表面に均一に分散することが確認された。また、断面写真により、SnがCu−Snの合金化によりCuSnからCuSnまで変化し、最終的に完全にCuSnになるが、AgSnの塊はCu−Snの合金化の進行によらず常に表面層に島状に存在することが確認された。このAgSn粒子は耐酸化性がCu−Sn合金より強いため、高温でも安定し、材料の表面導電性の劣化防止に重要な役割を果たしている。たとえ長期の高温でSn成分が完全にSnO/CuSnになったとしても、表面に酸化しにくいAgSn粒子が存在することにより相手材と接触する際に電気通路として働き、電気的に安定に接触することが可能である。
【実施例5】
【0078】
Cu/Sn2層メッキを利用した実施例として、高導電端子材の代表であるMg;0.7%、P;0.005%を含有した板厚0.6mmの銅合金板を基材とし、Cuメッキ層、Snメッキ層を形成し、リフロー処理を行った後に、Snメッキ層の上にAgメッキ層を形成し40℃の温水に10秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片を作製した。ここで、Snメッキ層膜厚の影響を調べるために、Snメッキ膜厚を薄く設定した。
また、比較例6としてAg−Sn合金層を形成しない試験片を作製した。さらに、比較例7として、Snメッキ層の上に形成するAgメッキ層の厚さを厚くして、Ag−Sn合金層の上にAgメッキ層を残存させた試験片を作成した。
これらの試験片を用いて耐ウィスカー性及び耐熱性を評価した。評価方法は、実施例4と同様とした。さらに、これらの試験片の結晶構造をXRD測定によって評価した。
【0079】
本発明例12〜14と比較例6,7のメッキ層構成及びウィスカーと耐熱性の評価結果を表5に示す。XRD測定結果を図10に示す。
【0080】
【表5】

【0081】
Ag−Sn合金層を形成した本発明例12〜14及び比較例7においては、Ag−Sn合金層を形成していない比較例6に比べて、Snウィスカーの成長が抑制されている。なお、Snメッキ層が薄い場合、Snウィスカーの成長がより抑制することが確認された。
また、耐熱性については、Ag−Sn合金層を形成していない比較例6では、薄いSnメッキ層が短時間の加熱試験で完全にCu−Sn合金になってしまうため、電気接触抵抗が初期より遥かに上昇し、電気導電性が明確に悪化することが認められた。一方、Ag−Sn合金層を形成している本発明例9〜11では、Snメッキ層が同様に完全にCu−Sn合金になっても、電気接触抵抗の大幅な上昇が認められない。即ち、本発明は、Snメッキ層を薄くした場合でも、耐熱性の改善と耐ウィスカー性の向上を両立させることができた。
【0082】
図10には、本発明例12−14と比較例7で作製したメッキ直後サンプルをX線回折により分析した結果を示す。AgとAg合金の結晶構造を同定するために、縦軸の強度スケールがAg−Sn合金のピーク強度に合わせた。本発明例12−14では、いずれも純Ag金属ピークを見られなく、AgSn金属間化合物として存在することがわかった。すなわち、AgとSn金属の拡散速度と反応性が高いため、メッキ工程を終わった時点で、すでに完全にAg−Sn合金になったことが確認された。一方、比較例7では、Agメッキ層が厚いため、通常の条件で完全にAg−Sn合金化できず、Snメッキ層表面に純Ag金属層として残留することが認められる。
また、表5に示すように、Agメッキ層を厚くした比較例7では、Snウィスカーの発生には効果があるが、耐熱試験において表面のAgは硫化又は酸化し、電気接触抵抗が劣化することが確認された。
【実施例6】
【0083】
単層Snメッキを利用した実施例として、高強度端子材の代表であるNi;2.0%、Zn;1.0%、Sn;0.5%、Si;0.5を含有した板厚0.4mmの銅合金板を基材とし、Snメッキ層を形成し、リフロー処理を行った後に、Snメッキ層の上にAgメッキ層を形成し40℃の温水に10秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片を作製した。また、比較例としてAg−Sn合金層を形成しない試験片を作製した。これらの試験片を用いて耐ウィスカー性及び耐熱性を評価した。評価方法は、実施例4、5と同様とした。
【0084】
本発明例15と比較例8のメッキ層構成及びウィスカーと耐熱性の評価結果を表6に示す。
【0085】
【表6】

【0086】
Ag−Sn合金層を形成した本発明例15は、Ag−Sn合金層を形成していない比較例8に比べて、Snウィスカーの成長が抑制されている。
また、Ag−Sn合金層を形成した本発明例15では、加熱試験後においても電気接触抵抗の大幅な上昇は認められない。一方、Ag−Sn合金層を形成していない比較例8では、加熱試験後において、基材のCuの拡散により電気接触抵抗が明らかに上昇することが確認された。
【実施例7】
【0087】
ここで、本発明例1〜15、比較例1〜8の試験片の表面硬さを、微小硬度計(島津製:DUH−W501)を用いて、1gfでの低荷重で測定した。その結果、各メッキサンプルの平均表面硬さは、それぞれ、第1の実施形態の実施例であるAg−Sn合金層を形成した発明例1〜15で約70 Hv、Ag−Sn合金層を形成していない比較例1〜8で約40Hvであることが確認された。
すなわち、本発明においてSnメッキ層表面に硬いAgSn金属間化合物から構成されたAg−Sn合金層は、Snメッキ層表面を硬化させる効果が確認された。この硬度の高いAg−Sn合金層がSnメッキ層の表面を押え込むことにより、Snウィスカーの発生と成長を抑制する。また、本発明のAg−Sn合金層を形成したSnメッキ材料を端子材とする場合、表面硬化の効果により、挿抜力を小さくでき、嵌合作業性を改善する効果が得られる。
【実施例8】
【0088】
次に、前述の第2の実施形態として記載した図6に示すフロー図に示すように、基材を部品の所定形状に加工した後に、各メッキ工程を実施し、Snメッキ層にリフロー処理を施せずにAg−Sn合金層を形成する実施例を用いて、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
リードフレーム材の代表であるFe;2.4%、Zn;0.13%、P;0.1%を含有した板厚0.125mmの銅合金を基材とし、Cuメッキ層、Snメッキ層を形成し、Snメッキ層の上にAgメッキ層を形成し40℃の温水に10秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片を作製した。また、比較例9としてAg−Sn合金層を形成しない試験片を作製した。
ここで、Snメッキ層の厚さは、ウイスカー発生の差をはっきりさせるために、リフロー処理をしないとSnウィスカーの発生が最も激しいと知られる膜厚範囲(2〜4μm)内の2.6μmに設定した。さらに、Ag−Sn粒子の分散状態の比較例10として、Snメッキ層の上にAgメッキ層を形成した後に、Snメッキ層を溶融する温度(300℃×8秒)でリフロー処理を行った試験片を作製した。これらの試験片を用いてウィスカー及び耐熱性を評価した。
ウィスカーの評価法は、メッキ層の内部応力の影響を調べるために、自然保持法で6ヶ月以上保持して電顕観察を行った。耐熱評価方法は前述の実施例4〜6と同様、160℃と180℃で120時間の加熱試験法とした。また、本発明例16のメッキ直後の表面と断面、及び比較例10の断面をFE−SEMにより観察した。
【0089】
本発明例16〜18と比較例9,10のメッキ層構成及びウィスカーと耐熱性の評価結果を表7に示す。本発明例16のメッキ直後の表面と断面観察結果を図11に、比較例10の断面観察結果を図12に示す。さらに、本発明例16と比較例9の6ヶ月自然保持後の表面観察結果を図13に示す。
【0090】
【表7】

【0091】
図11に示すように、粗大なSn結晶粒子から構成されるSnメッキ層の表面にAg−Sn微粒子が均一に被覆していることが確認された。特に、表面のAg−Sn合金層は、1ヶ月以上経過した断面観察の時点でも部分的な凝集とSnメッキ層内部への拡散現象が起きず、化学的にも物理的にも安定であることが認められる。また、CuとSn拡散は室温でも起き、部分的にCu−Sn金属間化合物を形成したことが認められた。
【0092】
比較として、図12に従来Agメッキ後にリフロー処理を行った比較例10の断面写真を示す。Agメッキ後にリフロー処理を行った場合、元々Snメッキ層表面に形成したAg−Sn粒子は、高温により凝集が促進された上に、Snメッキ層内の深さ方向に全面に拡散してしまい、Snメッキ層表面にAg−Sn粒子がほとんど存在しないことがわかる。
【0093】
メッキ層内部応力によるウィスカー発生状況の例として、図13には、本発明例16と比較例9のサンプルを6ヶ月自然保持した後の表面状態を示す。一般的に、リフロー無しの膜厚2〜4μmのSnメッキ層は、メッキ層の内部応力により2〜3日の間でもSnウィスカーが発生することが知られている。従って、Snメッキ層表面にAg−Sn合金層を形成していない比較例9の場合、6ヶ月を経過した後に大量な針状Snウィスカーが自然に発生し、最長約68μmまで大きく成長したことが確認された。それに対して、Snメッキ層表面にAg−Sn合金層を形成した本発明例16の場合、6ヶ月の長時間を経過しても、表面状態はメッキ直後の初期状態と同じ、Snウィスカーの発生がまったく認められず、優れる耐ウィスカー性を有することが確認された。
【0094】
表7には、本発明例16〜18と比較例9,10のウィスカーと耐熱性の評価結果を示す。Snメッキ層表面にAg−Sn合金層を形成した本発明例16〜18は、6ヶ月自然保持した後にいずれもSnウィスカーの発生が認められず、Snウィスカーの発生を抑制する効果のあることが確認された。
また、耐熱性については、Snメッキ層表面にAg−Sn合金層を形成した本発明例16〜18は、いずれも加熱試験後の電気接触抵抗の上昇が認められない。一方、Ag−Sn合金層を形成していない比較例9では、加熱試験の後に電気接触抵抗の大幅な上昇が認められた。特に、Agメッキ後にリフロー処理を施した比較例10では、メッキ応力を解放したためSnウィスカーは自然に発生しないが、全体リフロー処理したため、Cu−Sn合金化を促進し、加熱試験後の電気接触抵抗の上昇(電気導電性の劣化)は進んでいることが確認される。
【実施例9】
【0095】
Ni/Cu/Sn3層メッキを利用した実施例として、リードフレーム材の代表であるFe;2.4%、Zn;0.13%、P;0.1%を含有した板厚0.15mmの銅合金板を基材とし、Niメッキ層、Cuメッキ層、Snメッキ層、Agメッキ層を形成し40℃の温水に10秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片を作製した。また、比較例11としてAg−Sn合金層を形成しない試験片を作製した。これらの試験片を用いて耐ウィスカー性及び耐熱性を評価した。なお、耐熱評価方法は実施例1〜3と同様、耐ウィスカー評価方法は、実施例7と同様である。
【0096】
Snメッキ層表面にAg−Sn合金層を形成した本発明例19と比較例11のメッキ層構成及び耐ウィスカーと耐熱性の評価結果を表8に示す。
【0097】
【表8】

【0098】
Snメッキ層表面にAg−Sn合金層を形成した本発明例19では、室温放置の状態ではSnウィスカーの発生が認められない。一方、Ag−Sn合金層を形成していない比較例11では、室温放置であってもSnウィスカーが大きく成長している。
また、Ag−Sn合金層を形成した本発明例19では、1000時間の加熱熱試験後においても電気接触抵抗の大幅な上昇は認められない。一方、Ag−Sn合金層を形成していない比較例11では、加熱試験後に電気接触抵抗の大幅な上昇が認められる。
【実施例10】
【0099】
Cu/Sn2層メッキを利用した実施例として、リードフレーム材の代表であるCr;0.3%、Sn;0.2%、Zn0.2%を含有した板厚0.127mmの銅合金板を基材とし、Cuメッキ層、Snメッキ層、Agメッキ層を形成し40℃の温水に10秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片を作製した。また、比較例12としてAg−Sn合金層を形成しない試験片を作製した。これらの試験片を用いて耐ウィスカー性及び耐熱性を評価した。なお、耐熱性とウィスカー評価方法は実施例7と同様である。
【0100】
Ag−Sn合金層を形成した本発明例20と比較例12のメッキ層構成及び耐ウィスカーと耐熱性の評価結果を表9に示す。
【0101】
【表9】

【0102】
Snメッキ層表面に、Ag−Sn合金層を形成した本発明例20では、室温放置の状態ではSnウィスカーの発生が認められない。一方、Ag−Sn合金層を形成していない比較例12では、室温放置であってもSnウィスカーが大きく成長している。
また、Ag−Sn合金層を形成した本発明例20では、120時間の加熱熱試験後においても電気接触抵抗の大幅な上昇は認められない。一方、Ag−Sn合金層を形成していない比較例12では、加熱試験後に電気接触抵抗の大幅な上昇が認められる。
【実施例11】
【0103】
Cu/Sn2層メッキを利用した実施例として、リードフレーム材の代表であるNi;42%を含有した板厚0.127mmの鉄合金の板材を基材とし、Cuメッキ層、Snメッキ層、Agメッキ層を形成し40℃の温水に10秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片を作製した。また、比較例13としてAg−Sn合金層を形成しない試験片を作製した。これらの試験片を用いて耐ウィスカー性及び耐熱性を評価した。なお、耐熱性とウィスカー評価方法は実施例7と同様である。
【0104】
本発明例21と比較例13のメッキ層構成及び耐ウィスカーと耐熱性の評価結果を表10に示す。
【0105】
【表10】

【0106】
Snメッキ層表面にAg−Sn合金層を形成していない比較例13では、鉄合金基材とSnメッキ層との大きい膨張係数の存在により、多くの針状Snウィスカーの成長が確認された。それに対し、Snメッキ層表面にAg−Sn合金層を形成した本発明例21では、6ヶ月を経過しても、小さい突起状のSnウィスカーの発生が認められるものの、耐ウィスカー性を向上したことが確認された。
また、耐熱性についてはSnメッキ層表面にAg−Sn合金層を形成した本発明例21では、加熱試験後においても電気接触抵抗の大幅な上昇は認められない。一方、Ag−Sn合金層を形成していない比較例13では、加熱試験後に電気接触抵抗の上昇が認められた。
【実施例12】
【0107】
以下に、本発明のSnメッキ導電材料の半田濡れ性に関して評価した結果について説明する。
半田濡れ性の評価については、JIS−C−0050に準拠し、動的濡れ性試験器(RHESCA CO.,LTD製:WET−6000)を用いてメニスコ試験法により評価した。具体的には、ロジンフラックスに2秒浸漬した後に、所定温度の半田槽に、速度10mm/秒、深さ2mmまで10秒間浸漬して、最大濡れ応力及び濡れ応力がゼロになる時の時間(ゼロクロス時間)を測定した。このゼロクロス時間が短いほど半田濡れ性が良好となる。
【0108】
まず、現行のSn−Pb系の半田を利用した場合を想定して、Sn−37%Pb共晶半田(共晶点180℃)を用いて、半田槽の温度を通常の評価温度である230℃に設定して評価した結果について説明する。
前述の第1実施形態におけるNi下地メッキを省略したCu/Sn2層メッキを利用した実施例として、高強度端子材の代表であるCu−Ni−Si合金の板厚0.25mmの銅合金板及び高導電端子材の代表であるCu−Mg−P合金の板厚0.40mmの銅合金板を基材とし、Cuメッキ層とSnメッキ層を形成し、リフロー処理を行った後に、Snメッキ層の上に同じ0.04μm膜厚のAgメッキ層を形成し、40℃の温水に10秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片を作製した。また、比較例としてAg−Sn合金層を形成していない試験片を作製した。これらの試験片から幅10mmの条を切り出して、5枚ずつ半田槽に浸漬し、ゼロクロス時間及び最大濡れ応力を測定して平均値を算出した。測定結果を表11に示す。
【0109】
【表11】

【0110】
Snメッキ層表面にAg−Sn微粒子からなるAg−Sn合金層を形成した本発明例22、23は、Ag−Sn合金層を有しない比較例14、15に比べ、平均ゼロクロス時間が多少長くなる傾向が認められるが、いずれも製品として要求される濡れ性の規格値(2秒)より短いため、通常の使用には支障がないことが確認された。この平均ゼロクロス時間の延滞は、半田濡れ性を評価する際に、半田がAgSn(融点480℃)粒子からなるAg−Sn合金層を経由してその下側の純Sn(融点232℃)と融合するまでの時間が長くなるためと考えられる。これは、Pbフリー半田の一種であるAg−Sn系半田の挙動と類似である。
また、比較例15は、比較例14に対してSnメッキ厚さが1/2とされており、平均ゼロクロス時間は約2倍となっている。これに対して、比較例14とSnメッキ厚さが同一であってAg−Sn合金層を有する本発明例22は、比較例14に対して平均ゼロクロス時間は約1.4倍となっている。このことから、半田濡れ性に対してAg−Sn合金層の影響はSnメッキ層膜厚の影響より小さいことがわかる。
【実施例13】
【0111】
次に、環境負荷が小さいPbフリー半田を利用した場合を想定して、Sn−3%Ag−0.5%Cu半田(融点232℃)を用いて、半田槽の設定温度を240℃にして評価した結果について説明する。なお、通常、Pbフリー半田を使用する場合、Sn−Pb共晶と同じ程度の濡れ性(ゼロクロス時間)を得るために、活性フラックスによって前処理を行い、半田槽温度を250℃に上げることが一般的であるが、本実施例では、Agメッキ前後による半田濡れ性をより明確に判別するために、予備試験の結果より、通常のロジンフラックス処理を利用し、半田槽設定温度が通常より低い240℃で行うことにした。また、他の半田濡れ性の評価条件は実施例12と同じとした。
前述の第1実施形態のNi/Cu/Sn2層メッキを利用した実施例として、高導電端子材の代表であるCu−Mg−P合金の板厚0.40mmの銅合金板を基材とし、Niメッキ、Cuメッキ層とSnメッキ層を形成し、リフロー処理を行った後に、Snメッキ層の上に0.01〜0.08μm膜厚のAgメッキ層を形成し45℃の温水に10秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片を作製した。なお、半田濡れ性の評価条件は実施例12と同じとした。評価結果を表12及び図14に示す。
【0112】
【表12】

【0113】
Pbフリー半田は、前述のSn−Pb共晶半田と比べて融点が高いため、平均ゼロクロス時間が全体的に長くなるが、表面にAg−Sn微粒子からなるAg−Sn合金層が形成された本発明例24〜27のゼロクロス時間はいずれもAg−Sn合金層を被覆していない比較例16のものよりも短く、Pbフリー半田に対しては濡れ性が良いことがわかる。これは、本発明のAg−Sn合金層の化学組成が、Sn−3%Ag−0.5%Cu半田とは同じ元素同士であるため、相性が良いことに起因するものであると推察される。すなわち、Pbフリー半田を用いて同じ程度の濡れ性を得る場合、本発明のAg−Sn合金層を備えるSnメッキ材料は、通常のリフローSnメッキより低い半田温度で使用できる可能性があると考えられる。また、本発明のAg−Sn合金層を備えたSnメッキ導電材料のゼロクロス時間は、Agメッキ膜厚の増加とともに、最初に大幅に短くなり、0.04〜0.05μmの辺りにおいて最低値で安定することがわかる。これは、Ag−Snメッキ層とSn−3%Ag−0.5%Cu半田の総合的な組成はAg−Sn結晶系の共晶点組成(3.8at%Ag―232℃)に近いためであると考えられる。
【実施例14】
【0114】
さらに、本発明のSnメッキ導電材料の耐Snウィスカー性のメカニズムについて理論的に検証するためにAgメッキ前後のSn層の応力を測定・解析した。その結果について説明する。
【0115】
Snメッキ層の応力測定については、微小焦点X線応力測定装置( 理学製、PSPC/MSF、40kV/30mA、CrKα )により測定し、所定のSn結晶面のピーク強度からSinψ法によりSn膜の応力を計算した。なお、測定と応力計算用のSnメッキ層のSn結晶面に関しては、熱処理前後のSnの結晶状態に応じて、それぞれ、リフローSnメッキではSn(312) 面、通常のSnメッキではSn(440)面を選定した。
【0116】
リフローSnメッキを利用した実施例として、Cu−Mg−P合金及びCu−Zn合金の板厚0.64mmの銅合金板を基材とし、Niメッキ層、Cuメッキ層を形成し、それぞれSnメッキ層を1.0μm、1.5μm、2.0μm膜厚に形成し、リフロー処理を行った。その後、それらのリフローSnメッキ層の上に、それぞれ、Agメッキ層を0.03μm、0.05μm、0.07μm膜厚に形成し、40℃の温水に10秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片を作製した。また、比較例としてAg−Sn合金層を形成していないSnメッキ試験片を作製した。これらの試験片を3枚ずつ応力測定した。評価結果を表13及び図15に示す。
【0117】
【表13】

【0118】
比較例17〜19では、Sn膜の溶融によりメッキ応力が解放され、小さい引張応力(プラス値)を示し、膜厚の増加とともに小さくなる。一方、Ag−Sn合金層を形成した本発明例28〜36は、いずれもAg−Sn合金層を形成していない比較例17〜19よりも大きい引張応力を持ち、Sn膜の厚いほど応力の増加効果が大きくなることが確認された。この引張応力は、Agメッキ工程におけるAgの析出又はAgからAgSnまで合金化が、平面状に成長することにより生じるものと推察される。また、この引張応力は、最初Ag−Sn合金層の膜厚の増加とともに大きくなるが、膜厚が0.05μm以上に厚くなると再び小さくなる。これは、Ag及びAgSnの平面状成長の余地が小さくなっていくためと推察される。すなわち、最大の引張応力を得るためには適切な厚さのAg合金層を形成することが必要であると考えられる。
【実施例15】
【0119】
次に、第2実施形態の外装Snメッキを応用した実施例として、Cu−Fe−P合金の板厚0.15mmの銅合金板を基材とし、Cu下地メッキの後に、それぞれ、Snウィスカーが出やすい薄いSnメッキ層(3μm)とSn厚メッキ層(15μm)の上に、同じ厚さ0.05μmのAgメッキ層を形成し40℃の温水に10秒間浸漬してAg−Sn合金層を形成して試験片を作製した。また、比較例としてAg−Sn合金層を形成していないSnメッキ試験片を作製した。これらの試験片を3枚ずつ応力測定した。評価結果を表14及び図16に示す。
【0120】
【表14】

【0121】
加熱処理をしない通常のSnメッキは、メッキ条件と添加剤の影響により大きい引張応力を生じているが、前述の実施例14と同様に、本発明例37、38,39は比較例20、21、22より大きい引張応力を示すことも確認された。また、リフローSnメッキの場合と異なり、通常のSnメッキに応用する場合には、その引張応力はSn膜の厚さの増加とともに大きくなるが、Agメッキにより与えた引張応力の増分(+Δσ)はSnメッキ膜の厚さによらずほぼ同じ値であることが確認された。すなわち、Snメッキ層に対する引張応力の増加はAgメッキ層の厚さのみに依存することがわかる。この引張応力は、リフローSnメッキと同じ、Agの析出又はAg−Snの合金化により生じるものと推察される。
【0122】
Snウィスカの発生原因に関しては、過去から様々な研究が行われ、基本的にメッキ膜自体の応力、Cu−Sn合金化に伴い生じる内部圧縮応力、外部端子により加える局部的な機械的応力およびメッキ膜と基材との熱膨張率の差による熱応力などの各種応力が駆動力となると思われる。その内、外部応力によるウィスカーの発生を抑制するのは最も困難な課題だと思われている。ここで、本発明に係るSnメッキ導電材料のSnウィスカー発生の抑制理由に関して説明する。
通常の純Snメッキに関しては、リフロー有りの場合には外部圧子の局部応力から、又はリフロー無しの場合にはCu−Sn合金の内部応力からSn膜に圧縮応力を加え、Snを押し出してウィスカーが発生してしまうと考えられる。一方、本発明のに係るSnメッキ導電材料は、AgメッキとのAg−Sn合金化によりSn膜に引張応力を与え、この引張応力は、外部から機械的に加えられる外部圧縮応力又はメッキ層自体のCu−Sn合金化による内部圧縮応力とを相殺し、針状Snウィスカーの発生と成長を抑制すると考えられる。また、表面のAgSn微粒子はSn粒界への凝集・遷移により嵌合部などの応力を分散・緩和できると考えられる。更に、AgSn微粒子はSn原子の移動と遷移を妨害し、単結晶である針状Snウィスカーの生成と成長に対して物理的に抑えることも考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
Agの使用量を少なくして低コストで製作可能であるとともに、耐熱性及び耐ウィスカー性を向上させることができるSnメッキ導電材料及びその製造方法並びにこのSnメッキ導電材料を用いた通電部品を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明の第1の実施形態であるSnメッキ導電材料の説明図である。
【図2】図1に示すSnメッキ導電材料のAg−Sn合金形成工程前の状態を示す説明図である。
【図3】図1に示すSnメッキ導電材料の製造方法の工程フロー図である。
【図4】図1に示すSnメッキ導電材料を用いたコネクター端子の説明図である。
【図5】本発明の第2の実施形態であるSnメッキ導電材料の説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態であるSnメッキ導電材料の製造方法を示す工程フロー図である。
【図7】本発明例1のメッキ直後の(a)表面と(b)断面電子顕微鏡写真である。
【図8】(a)本発明例4と(b)比較例2の外部応力によるウィスカー評価試験後の表面写真である。
【図9】本発明例9の180℃、120時間で耐熱試験後の(a)表面と(b)断面の電子顕微鏡写真である。
【図10】本発明例12〜14と比較例7のメッキ直後のXRD測定結果である。
【図11】本発明例16のメッキ直後の(a)表面と(b)断面の電子顕微鏡写真である。
【図12】比較例10のリフロー処理後の断面写真である。
【図13】(a, b)本発明例16と(c, d)比較例9の6ヶ月自然保持後の表面SEM写真である。
【図14】比較例16、本発明例24−27の半田濡れ性評価結果を示すグラフである。
【図15】比較例17−19、本発明例28−36の応力測定結果を示すグラフである。
【図16】比較例20−22、本発明例37−39の応力測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0125】
1 Snメッキ導電材料
2 基材
3 Niメッキ層
4 Cuメッキ層
5 Snメッキ層
6 Ag−Sn合金層
7 Ag層
8 コネクター端子(通電部品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する基材の上に、Sn又はSn合金からなるSnメッキ層が形成されたSnメッキ導電材料であって、
前記基材と前記Snメッキ層との積層方向に沿った断面において、前記Snメッキ層の表層部分にAg−Sn粒子が凝集したAg−Sn合金層が形成されていることを特徴とするSnメッキ導電材料。
【請求項2】
前記Ag−Sn合金層の平均厚さが、0.002〜0.2μmの範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のSnメッキ導電材料。
【請求項3】
前記基材と前記Snメッキ層との間に、Cu又はCu合金からなるCuメッキ層が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のSnメッキ導電材料。
【請求項4】
前記基材の上に、前記基材中の元素の拡散を防止するための拡散防止層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のSnメッキ導電材料。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のSnメッキ導電材料の製造方法であって、
導電性を有する基材の上に、Sn又はSn合金からなるSnメッキ層を形成するSnメッキ層形成工程と、
前記Snメッキ層の上に、Ag又はAg合金からなるAg層を形成するAg層形成工程と、
前記Ag層を形成した状態で、10℃以上100℃未満の温度で2秒以上保持し、前記Ag層のAgと前記Snメッキ層のSnとを反応させてAg−Sn合金層を形成するAg−Sn合金層形成工程と、
を備えていることを特徴とするSnメッキ導電材料の製造方法。
【請求項6】
前記Snメッキ層形成工程の前に、前記基材の上に、Cu又はCu合金からなるCuメッキ層を形成するCuメッキ層形成工程を備えていることを特徴とする請求項5に記載のSnメッキ導電材料の製造方法。
【請求項7】
前記Snメッキ層形成工程の前に、前記基材の上に前記基材中の元素の拡散を防止するための拡散防止層を形成する拡散防止層形成工程を備えていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のSnメッキ導電材料の製造方法。
【請求項8】
前記Ag層形成工程は、電気メッキ法、無電解メッキ、置換メッキ及び蒸着法から選択されるメッキ法によって、平均厚さ0.001〜0.1μmの前記Ag層を形成することを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載のSnメッキ導電材料の製造方法。
【請求項9】
前記Snメッキ層形成工程の後に、前記Snメッキ層に加熱処理を施すリフロー処理工程を有することを特徴とする請求項5から請求項8のいずれか1項に記載のSnメッキ導電材料の製造方法。
【請求項10】
前記基材を所定の形状に加工した後に、前記Snメッキ層及び前記Ag−Sn合金層を形成することを特徴とする請求項5から請求項9のいずれか1項に記載のSnメッキ導電材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のSnメッキ導電材料を用いたことを特徴とする通電部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−57630(P2009−57630A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185061(P2008−185061)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】