説明

X線トポグラフィ装置

【課題】試料の径が大きくなっても、試料に対応した大面積の面状のX線検出器を、X線トポグラフの分解能を低下させること無く、使用できるようにする。また、試料の径が大きくなったことに対応して大面積の面状のX線検出器を使用することになった場合でも、X線検出部の全体形状を大きくしなくて済むようにする。
【解決手段】試料11を線状のX線で走査したときに試料11で回折したX線をX線検出器28によって検出して平面的な回折像を得るX線トポグラフィ装置である。X線検出器28は試料11よりも大きい面積を有する円筒形状のイメージングプレート28であり、線状のX線の走査移動Fに関連させてイメージングプレート28を円筒形状の中心軸X0を中心としてα回転させる。円筒形状の中心軸X0は線状のX線の走査移動方向Fと直角方向に延在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の内部の結晶構造を平面像であるX線回折像として表示する装置であるX線トポグラフィ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線トポグラフィ(Topography)装置によって得られる平面的なX線回折像はX線トポグラフ(Topograph)と呼ばれている。このX線トポグラフに表れた形状的な特徴は、一般に、物体の構造的な特徴を表している。例えば、単結晶中の格子欠陥や歪みはX線トポグラフにおけるX線の強度変化として表れる。このため、X線トポグラフィ装置は、現在、単結晶材料に関する「結晶の完全性評価法」を実現するための装置等として広く用いられている。
【0003】
例えば、単結晶材料であるSi(シリコン)結晶の製造現場を見ると、その製品の口径は過去から現在にかけて次第に大口径化して来ており、その大口径化に伴って測定装置であるX線トポグラフィ装置も大型化して来ている。具体的には、当初のSi結晶の口径は4インチ(101.6mm)程度だったものが、最近では300mm程度までに大きくなっている。そして、近い将来、Si結晶の口径はさらに大きく、例えば450mm程度になることが予想されている。
【0004】
従来、X線トポグラフィ装置として、例えば、特許文献1及び特許文献2に開示されたものが知られている。特許文献1には、平板状のX線蛍光板や平板状の蓄積性蛍光体の上にX線トポグラフを形成するようにしたX線トポグラフィ装置が開示されている。また、特許文献2には、平板状のX線フィルムや平板状のCCD(Charge Coupled Device/電荷結合素子)センサの上にX線トポグラフを形成するようにしたX線トポグラフィ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−014564号公報(第4〜5頁、図1)
【特許文献2】特開2000−314708号公報(第5頁、図1)
【特許文献3】特開平05−289190号公報(第2〜3頁、図1)
【特許文献4】特開平10−313383号公報(第5頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
X線トポグラフィ装置には複数種類のものがある。例えば、反射法で1結晶法であるベルクバレット法や、透過法で1結晶法であるラング法や、試料以外の結晶をモノクロメータやコリメータとして使用する2結晶法等がX線トポグラフィとして知られている。今、ラング法を考えると、例えば図9(a)に示す構造のものが知られている。
【0007】
図9(a)に示すラング法に基づいたX線トポグラフィ装置は、試料結晶101へ供給されるX線を放射するX線源102と、試料結晶101の入射側に配置された入射スリット103とを有している。X線は入射スリット103によって規制されて試料結晶101へ入射する。また、試料結晶101の受光側には、回折スリット104と、平板状のX線検出フィルム106とが配置されている。試料101の口径が小さかった初期においては、例えば、ガラス基板に乳剤を50〜100μmと厚く塗った原子核乾板をX線検出フィルム106として用いていた。
【0008】
入射スリット103及び回折スリット104は位置不動に固定配置されている。試料結晶101とX線検出フィルム106とは矢印Aで示すように、互いに一体状態で試料101の試料面、すなわち被測定面に対して平行に走査移動させられる。この走査移動の際に、図9(a)の部分拡大図に示すように試料結晶101の格子面105で回折した回折X線R1によってX線検出フィルム106が走査される。
【0009】
初期のX線トポグラフィ装置では、試料結晶101で回折したX線は、X線検出フィルム106に垂直に入射するように、試料結晶101、回折スリット104及びX線検出フィルム106の位置関係が設定されていた。その理由は、X線検出フィルム106において厚く塗った乳剤に斜めにX線が入射すると、回折像がボケてしまい、分解能が低下するので、その分解能の低下を防止するためである。
【0010】
このように回折X線がX線検出フィルム106に垂直に入射するように設定するためには、回折スリット104を試料結晶101に対して斜めに配置する必要がある。他方、固定配置された回折スリット104のスリット片の幅は、散乱X線によるカブリを防止するためにX線検出フィルムの大きさに見合った幅を持たせる必要もある。このようにすると、試料結晶101及びX線検出フィルム106を走査移動させる際に試料結晶101が回折スリット104に衝突してしまうおそれがあるが、試料結晶101の口径が小さい場合には、試料結晶101とX線検出フィルム106との間隔をさほど大きくする必要はなく、問題にはならなかった。
【0011】
しかしながら、試料結晶101の口径が大きくなってくると、試料結晶101と回折スリット104との衝突を防止するために、試料結晶101とX線検出フィルム106との間隔を大きく離さなければならなかった。この場合には、試料結晶101とX線検出フィルム106との間隔が大きくなる方の端部の間隔が大きくなり過ぎてしまい、その部分におけるX線光学的な分解能が劣化するという問題が生じるに至った。
【0012】
この問題を解消するため、試料結晶101の口径が大型化した場合には、図9(b)に示すように、回折スリット104及びX線検出フィルム106の両方を試料結晶101と平行に配置するようにした構成が採用されるようになった。試料結晶101の口径が100mm以上の装置に対してこの方式が広く採用されている。
【0013】
この装置においては、試料結晶101と回折スリット104との衝突は避けることができるが、回折X線R1がX線検出フィルム106に斜めから入射することになり、回折像のボケの問題が心配される。しかしながら、乳剤の厚さが薄いX線検出フィルム106を用いれば、斜め入射による分解能の劣化よりも、試料結晶101とX線検出フィルム106との間隔を小さくすることによる分解能の向上が期待できる。
【0014】
例えば、MoKα線を厚さ10μmの乳剤へ15°の斜め方向から入射して、Si400の反射を検出する場合には、分解能の劣化(すなわち、ボケ)は2.7μm程度である。試料結晶101とX線検出フィルム106との間隔は20mm程度に抑えられるので、X線光学的な分解能は10μmである。この値に対し、斜め入射効果の2.7μmは許せる範囲であり、実用上十分な分解能であると考えられる。
【0015】
X線検出フィルム106に代えて蓄積性蛍光体であるイメージングプレートをX線検出要素として用いる場合には、乳剤の厚さに相当する有感体の厚さが100μmであるので、斜め入射による分解能の劣化は27μm程度となる。イメージングプレートの読取り分解能は50μmであり、これより小さい27μmの像ボケは実用上問題ないものと考えられていた。しかしながら理論的には、回折X線はやはりイメージングプレートに対して垂直に入射するのが、高い分解能のトポグラフを得ることに関して理想的である。
【0016】
また、平板状のX線検出フィルムを用いる場合には、散乱X線のかぶり現象からX線フィルムやイメージングプレートを保護するために、回折スリット片の幅を大きく設定する必要がある。しかしながら、この場合には、回折スリット片が大きくなり、重くなり、これを支持する部材も頑丈にする必要があり、それ故、X線検出フィルム等を含んだX線検出部が大きすぎ、重すぎるという問題があった。
【0017】
ところで、静電転写装置の分野において、回転する感光体ドラムの表面上に静電潜像を形成するようにした装置が知られている(例えば、特許文献3及び特許文献4)。本発明では、試料よりも面積の大きい面状のX線検出器を円筒形状に変形して用いるが、これは静電転写装置で用いる感光体ドラムとは全く異なった部材である。
【0018】
以上のように、従来のX線トポグラフィ装置においては、次のような問題があった。
(1)平板状の面状X線検出器を回折X線が直角方向から入射する配置で使用する場合(例えば図9(a))には、試料とX線検出器との間隔が広くなる部分でX線トポグラフの分解能が低下する。試料の径が大きくなると、走査移動時における回折スリットとの衝突を回避するために試料とX線検出器との間隔をさらに広げなければならないので、分解能の低下はさらに顕著になる。
(2)平板状の面状X線検出器を回折X線が斜め方向から入射する配置で使用する場合(例えば図9(b))には、X線の斜め入射に起因してX線トポグラフの分解能が低下する。
(3)図9(a)及び(b)に示したいずれの装置においても、試料の径が大きくなったときには面状X線検出器の面積も大きくしなければならず、X線検出部が大型になって取扱いが難しくなる。
【0019】
本発明は、上記の問題点を解消するために成されたものであって、試料の径が大きくなっても、該試料に対応した大面積の面状のX線検出器を、X線トポグラフの分解能を低下させること無く、使用できるようにすることを目的とする。
また、本発明は、試料の径が大きくなったことに対応して大面積の面状のX線検出器を使用することになった場合でも、X線検出部の全体形状を大きくしなくて済むようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係るX線トポグラフィ装置は、試料を線状のX線で走査したときに当該試料で回折したX線をX線検出器によって検出して平面的な回折像を得るX線トポグラフィ装置において、前記X線検出器は前記試料よりも大きい面積を有する円筒形状の面状X線検出器であり、前記線状のX線の走査移動に関連させて前記面状X線検出器を前記円筒形状の中心軸を中心として回転させる検出器回転手段を有し、前記円筒形状の中心軸は前記線状のX線の走査移動方向と直角方向に延在することを特徴とする。
【0021】
このX線トポグラフィ装置は、望ましくは、透過法で1結晶法であるラング法のX線トポグラフィ装置である。試料は、例えば直径が300mm以上、例えば450mmのSi(シリコン)半導体の円板状の単結晶試料である。試料を線状のX線に形成するため、通常は、試料の前にスリット部材を配置する。この線状のX線は、スリット部材のスリットを湾曲形状とすることにより湾曲状のX線とすることができる。試料を線状のX線で走査することは、通常、線状のX線を固定しておいて、試料をそのX線に対して移動させることによって行う。
【0022】
本発明に係るX線トポグラフィ装置において、前記線状のX線の延在方向は当該線状のX線の走査移動方向に対して直角方向であり、前記面状X線検出器の円筒形状の中心軸は前記線状のX線の延在方向と同じ方向に平行に延在することが望ましい。この構成により、試料のX線トポグラフを試料に対して幾何学的に1対1の関係で面状X線検出器の上に形成できる。
【0023】
線状X線の延在方向とは、線状X線が直線状である場合にはその直線の延在方向であり、線状X線が湾曲状である場合には線状X線の両端を結ぶ直線の延在方向である。
【0024】
本発明に係るX線トポグラフィ装置において、前記検出器回転手段は、前記面状X線検出器の外周面の周速度と前記線状のX線の走査移動速度とが同じになるように前記面状X線検出器を回転させることが望ましい。この構成により、試料のX線トポグラフを試料に対して幾何学的に1対1の関係で面状X線検出器の上に形成できる。
【0025】
本発明に係るX線トポグラフィ装置において、前記面状X線検出器は、前記試料からの回折X線が照射される部材として円筒形状の蓄積性蛍光体を有することができる。この蓄積性蛍光体は、X線が照射された部分にエネルギを蓄積し、該部分に光が照射されたときに蓄積したそのエネルギを発光として放出する物質である。この蓄積性蛍光体は、例えばイメージングプレートの商品名で知られている。
【0026】
本発明に係るX線トポグラフィ装置において、前記面状X線検出器は暗箱の中に設けることができる。該暗箱の中であって前記面状X線検出器の周囲には、読取り装置及び消去装置を設けることができる。読取り装置は、前記面状X線検出器に記憶された像を読取る装置である。消去装置は、前記面状X線検出器に記憶された像を消去する装置である。この構成によれば、面状X線検出器としての蓄積性蛍光体をX線トポグラフィ装置から取り外すことなく、記憶データの読取り処理及び消去処理を行うことができ、複数のX線トポグラフを連続して取得できる。
【0027】
本発明に係るX線トポグラフィ装置において、前記面状X線検出器は、前記試料で回折したX線が当該面状X線検出器の円筒表面に対して法線方向から入射する位置に、設けられていることが望ましい。この構成により、散乱X線が面状X線検出器に到達することを防止するための回折スリットのスリット片の幅を可能な限りに小さくできる。また、X線の斜め入射に起因して発生するボケをX線を垂直入射させることによって解消して、X線トポグラフの分解能を向上できる。
【0028】
本発明に係るX線トポグラフィ装置は、X線を受光して信号を出力する複数のCCD素子を平面的に並べて成る2次元CCDセンサと、前記面状X線検出器と前記2次元CCDセンサとのいずれかを前記試料からの回折X線を検出する位置に選択的に配置させる手段とを有することが望ましい。この構成により、面状X線検出器を用いた測定とCCDセンサを用いた測定とを必要に応じて選択的に行うことができる。一般に、CCDセンサを用いた測定では高分解能のトポグラフを得ることができるので、面状X線検出器を用いて全体的なトポグラフを求めた後に、詳細な情報を得たい部分的な所をCCDセンサを用いた測定によって詳細に測定する、という測定を行うことができる。
【0029】
CCDセンサを用いた本発明に係るX線トポグラフィ装置においては、前記複数のCCD素子の動作を制御して各CCD素子の出力信号に基づいてX線強度を決めるCCD制御手段を有することができ、該CCD制御手段はTDI(Time Delay Integration)方式に基づいて複数のCCD素子を制御することができる。
【0030】
TDI方式の制御方法とは、一定速度で移動する対象物に対して、その移動方向及び移動速度と、CCDセンサにおける電荷転送方向及び電荷転送速度とを一致させて撮像を行う、CCDセンサの読出し方法である。この方法により、移動する対象物の同じ個所からの回折X線をCCDセンサの個々の垂直ラインに重ねて露光することができ、そのため、高速で高感度の撮像を行うことができる。TDI方式のCCD駆動方法の詳細は、例えば特開2006−071321に説明されている。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、円筒形状の面状X線検出器を回転させながらX線トポグラフを撮像することにしたので、試料の径が大きくなったことに対応して面状のX線検出器を大面積にした場合でも、試料と面状X線検出器との間隔を小さく維持でき、それ故、X線トポグラフの分解能を低下させること無く、大面積の面状X線検出器を使用できる。
【0032】
また、本発明によれば、円筒形状の面状X線検出器を回転させながらX線トポグラフを撮像することにしたので、試料の径が大きくなったことに対応して大面積の面状のX線検出器を使用することになった場合でも、X線検出部の全体形状を大きくする必要が無い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るX線トポグラフィ装置の一実施形態の正面図である。
【図2】図1のX線トポグラフィ装置の平面図であり、イメージングプレート測定時の状態を示す図である。
【図3】図1のX線トポグラフィ装置の光学系を示す図であり、(a)は平面図、(b)は斜視図である。
【図4】試料ホルダの一例を示す分解斜視図である。
【図5】図1のX線トポグラフィ装置の平面図であり、カメラ撮影時の状態を示す図である。
【図6】図1のX線トポグラフィ装置の平面図であり、CCD撮像時の状態を示す図である。
【図7】図1のX線トポグラフィ装置の制御系の構成の一例を示すブロック図である。
【図8】図7の制御系によって行われる制御の流れを示すフローチャートである。
【図9】従来のX線トポグラフィ装置を示す図であり、(a)は回折X線をX線検出フィルムに直角に入射する装置を示し、(b)は試料と回折スリットとを平行に配置させる装置を示している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係るX線トポグラフィ装置を実施形態に基づいて説明する。本実施形態のX線トポグラフィ装置は、例えば、450mm程度の大口径のSi半導体ウエーハ等といった単結晶材料に欠陥があるか否かを検査するためのX線トポグラフを得るために用いられる。
【0035】
なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、これ以降の説明では図面を参照するが、その図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で各構成要素を示す場合がある。
【0036】
(ゴニオメータ)
図1は本実施形態のX線トポグラフィ装置の正面構造を示している。図2は同X線トポグラフィ装置の平面構造を示している。なお、図2では構成要素を適宜に省略している。本実施形態のX線トポグラフィ装置は、透過専用のラング法に基づいたX線トポグラフィ装置である。図1及び図2において、床面等といった基面1上に架台2が位置不動に固定され、架台2上にベース3が位置不動に固定されている。ベース3の上面の架台2に対する高さは調節可能である。また、ベース3の上面は水平となるように調節可能である。
【0037】
ベース3の上に2θ回転台4が設けられている。2θ回転台4と同軸の位置関係でベース3上にω回転台5が設けられている。ω回転台5上に走査ステージ6が設けられている。走査ステージ6の上にφ回転デバイス7が設けられている。φ回転デバイス7は試料ホルダ8を支持している。試料ホルダ8は手動操作によってφ回転デバイス7に対して着脱可能である。試料ホルダ8の中に試料結晶11が位置不動に収納、すなわち装着されている。
【0038】
φ回転デバイス7は、試料ホルダ8に装着された試料結晶11の中心軸に対応する軸X1を中心として、試料ホルダ8を回転、いわゆる面内回転させる。この面内回転は、試料結晶11に入射するX線に対する試料結晶11の格子面の角度を調節するために行われる。
【0039】
走査ステージ6は電動によって移動して、試料ホルダ8を支持したφ回転デバイス7を水平平面内で往復直線移動させる。例えば、走査ステージ6は、±250mmの範囲で電動移動する。この走査ステージ6の平行移動により、後述する湾曲スリット44を通過した湾曲線状のX線が試料結晶11の被測定面、すなわち試料面を走査する。また、走査ステージ6の平行移動により、試料結晶11に当たるX線の位置を所望の位置に調節することもできる。
【0040】
ω回転台5は、試料ホルダ8及びφ回転デバイス7を支持した走査ステージ6を、面内回転の中心軸X1に対して直角な軸X2を中心として回転させる。この回転はω回転と呼ばれる回転であり、試料結晶11に入射するX線の入射角度を変化させるために行われる。ω回転は、粗設定及びタンジェントバー方式での電動での微設定ができるようになっている。
【0041】
ω回転台5、走査ステージ6及びφ回転デバイス7のそれぞれの動作は、図7の制御装置12によって制御される。制御装置12は、例えば、コンピュータを含んだ制御回路によって構成されている。コンピュータはメモリを含んでおり、そのメモリ内には、X線トポグラフィ装置によってX線トポグラフを得るためにX線トポグラフィ装置を構成する各機器に一連の動作を行わせるためのプログラムソフトが格納されている。ω回転台5、走査ステージ6及びφ回転デバイス7はそのプログラムソフトに従って機能する。
【0042】
(試料ホルダ)
試料ホルダ8は、例えば、図4に示すように、ホルダ基板14上に設けた高張力フィルム15と、カバーリング16の全周にわたって設けた高張力フィルム17とによって試料結晶11を挟んだ上で、クランプ部材18によってカバーリング16をホルダ基板14に固定することによって形成されている。作業者は取っ手19をつかんで試料ホルダ8を保持し、図1のφ回転デバイス7まで持ち運んでそれに装着する。
【0043】
(2θ回転台)
2θ回転台4は、試料結晶11の後方に位置する回折スリット21と、回折スリット21の後方に位置するカメラ移動装置22と、カメラ移動装置22の後方に位置する検出器進退移動装置24とを支持している。カメラ移動装置22によってセッティング用テレビユニット23が支持されている。検出器進退移動装置24は検出器ユニット25及びIP回転駆動装置27を支持している。
【0044】
2θ回転台4は試料結晶11の試料面を垂直方向に通る軸X2を中心として回転できる。この回転により、2θ回転台4に支持された検出器進退移動装置24、IP回転駆動装置27、検出器ユニット25、回折スリット21、及びセッティング用テレビユニット23の全体を一体的に、試料結晶11を通る軸X2を中心として回転させることができる。この回転は、検出器ユニット25に格納されているイメージングプレート28の試料結晶11に対する角度を調節するための回転であり、2θ回転と呼ばれている。2θ回転は、目盛りと目指しにより設定される。ω回転にかかわる軸X2と2θ回転に関る軸X2は理想的には完全に一致した軸であるが、部品誤差や機構組立て誤差の関係で実用上許容される範囲内でわずかに異なることがある。
【0045】
検出器ユニット25の中には、回転ドラム26及びその回転ドラム26に巻き付けられた(例えば貼着によって巻き付けられた)イメージングプレート28が格納されている。回転ドラム26はIP回転駆動装置27によって駆動されて中心軸X0を中心として回転する。イメージングプレート28は回転ドラム26と一体に回転する。本実施形態では、イメージングプレート28のこの回転をα回転と呼ぶことにする。イメージングプレート28は展開状態で長方形又は正方形であり、その面積は試料結晶11の全体を含むことができる大きさである。
【0046】
α回転は、例えば、図7の制御装置12によって次のように制御される。すなわち、トポグラフの撮像時は低速回転であって走査ステージ6の移動と同期連動させられ、読取り処理時は高速回転であり、そして消去処理時は低速の1回転である。なお、制御装置12は、走査ステージ6による試料結晶11の直線往復移動と、イメージングプレート28のα回転と、高さ制限スリット43の高さ変化移動と、ω回転台5のω回転とが互いに連動するように制御する。
【0047】
検出器進退移動装置24は、図2の矢印C−C’で示すように検出器ユニット25の全体を回折スリット21に対してその略直角方向へ進退移動させる。図2は検出器ユニット25を矢印C方向へ進行移動した状態を示しており、図5は矢印C’方向へ退避移動した状態を示している。
【0048】
カメラ移動装置22は、図2の矢印D−D’で示すようにセッティング用テレビユニット23の全体を回折スリット21に対してその略平行方向へ進退移動させる。図2は矢印D’方向へ退避移動した状態を示しており、図5は矢印D方向へ進行移動した状態を示している。
【0049】
テレビユニット23の中には2次元CCDセンサ52及び蛍光板56が設けられている。カメラ移動装置22及び検出器進退移動装置24は、イメージングプレート28と2次元CCDセンサ52と蛍光板56とのいずれかを試料結晶11からの回折X線を検出する位置に選択的に配置させる手段として機能する。カメラ移動装置22及び検出器進退移動装置24は、図7において、制御装置12内のメモリ内に格納されたプログラムソフトに従って動作する。
【0050】
(検出器ユニット)
図1及び図2において、検出器ユニット25は、検出器進退移動装置24に支持された暗箱29を有している。暗箱29の中には円筒状の回転ドラム26が設けられ、その回転ドラム26の外周面にイメージングプレート28が巻き付けられて円筒形状を成している。イメージングプレート28は所定厚さのシート状の蓄積性蛍光体によって形成されている。暗箱29の回折スリット21に対向する部分には、X線を透過させることができる物質、例えば黒紙によってX線入射窓32が設けられている。
【0051】
暗箱29は、例えばステンレス鋼等といった金属によって形成されており、イメージングプレート28が散乱X線で露光されることを防止する。暗箱29の背面はプラスチックであっても良い。
【0052】
回転ドラム26及びイメージングプレート28は図1に示すIP回転駆動装置27によって駆動されて中心軸X0を中心として回転するようになっている。暗箱29内であってイメージングプレート28の周囲には、読取りヘッド34及びヘッド昇降移動装置35を備えた読取り装置36と、消去ランプ37とが設けられている。
【0053】
IP回転駆動装置27、読取り装置36及び消去ランプ37の動作は図7の制御装置12によって制御される。制御装置12の出力ポートにはプリンタ39及び画像表示装置40が接続されている。読取りは、例えば50μmごとに行われる。読取り装置36によって読取られた結果のデータは、プログラムソフトによって所定のデータ処理を受けた後に、プリンタ39や画像表示装置40によってX線トポグラフとして可視像化される。
【0054】
(入射側光学系)
図1において、ベース3によって入射スリット部42が支持されている。入射スリット部42の内部には高さ制限スリット43及び幅制限のための湾曲スリット44が設けられている。高さ制限スリット43の高さ方向のスリット長さは図7の制御装置12によって調節可能である。高さ制限スリット43及び湾曲スリット44の詳細は、例えば、特開平11−014564号公報に記載されている。
【0055】
架台2から離れた基面1上にX線源45が設けられている。X線源45と入射スリット部42との間は遮蔽部材46によって覆われており、この覆われた部分にX線パスが形成されている。本実施形態ではこのX線パスは真空排気されないが、必要に応じて真空排気するようにしても良い。X線源45は、フィラメント等といった陰極と、回転ターゲット等といった陽極とを含んで構成されている。陽極は、例えばMo(モリブデン)によって形成され、該陽極からMoKαの特性線を含んだX線が放射される。
【0056】
陽極から放射されたX線を外部へ取出す方法として、X線をポイントフォーカスで取出す方法と、X線をラインフォーカスで取出す方法とがあることが知られている。ポイントフォーカスは、断面が円形状、略円形状、正方形状又は略正方形状の焦点のことである。ラインフォーカスは、断面が一方向に長い矩形状の焦点のことである。本実施形態では、X線をポイントフォーカスで取出すものとする。
【0057】
(セッティング用テレビユニット及びカメラ移動装置)
図2において、セッティング用テレビユニット23は、その先端にTDI・CCDユニット50を備えており、その後部にTVカメラユニット51を備えている。TDI・CCDユニット50は、X線を直接に受光する複数のCCD(Charge Coupled Device)素子を平面的に並べて成る2次元CCDセンサ52と、その2次元CCDセンサをTDI(Time Delay Integration)方式で動作させるためのTDI駆動回路を内蔵したCCD制御回路53とを有している。各CCD素子の出力信号はCCD制御回路53の出力端子から取り出すことができる。
【0058】
2次元CCDセンサ52は、そのX線受光面が試料結晶11に対向するように配置されている。2次元CCDセンサのX線受光面の平面サイズは例えば10mm×10mmであり、その中のCCD素子の数、すなわちピクセル数は例えば1024×1024個である。TDI方式の駆動方法とは、一定速度で移動する対象物に対して、その移動方向及び移動速度とCCDの電荷転送方向及び電荷転送速度とを一致させて撮像を行う、CCDの読出し方法である。この方法により、移動する対象物の同じ個所からの回折X線をCCDの個々の垂直ラインに重ねて露光することができ、そのため、高速で高感度の撮像を行うことができる。TDI方式のCCD駆動方法の詳細は、例えば特開2006−071321に説明されている。
【0059】
TVカメラユニット51は、X線像を光像に変換する蛍光板56と、蛍光板56の後方に配置された反射鏡57と、反射鏡57で反射する光の光路上に配置されたレンズ58と、反射鏡57の反射像を撮影するテレビカメラ59とを有している。反射鏡57は光路を90°曲げる作用を奏する。レンズ58は、反射鏡57で反射した光像をテレビカメラ59の撮像面に結像する。
【0060】
セッティング用テレビユニット23の先端部の背後にシールド板60が設けられている。シールド板60は、カメラ移動装置22の適所に取り付けられている。このシールド板60は、テレビカメラ59を用いた種々の調整処理の際に、回折X線がイメージングプレート28に入射することを防止する。シールド板60の大きさは、X線入射窓32から出たX線がイメージングプレート28を照射しないように遮蔽するのに十分な大きさである。例えば、シールド板60の幅は100mm程度であり、高さはイメージングプレート28の有感高さである500mmを越える600mm程度である。また、シールド板60の厚さは、回折X線を遮蔽するのに十分な厚さであり、例えば真鍮であれば2〜3mmの厚さである。
【0061】
テレビカメラ59の映像信号は図7において制御装置12によって必要な処理を受けた後、画像表示装置40の信号入力端子に伝送される。蛍光板56に形成された画像は反射鏡57で反射してレンズ58を通してテレビカメラ59で撮影され、必要に応じて画像表示装置40の画面上に表示される。反射鏡57で像を反射すると画像の左右が反転する。この反転を元に戻すため、再び反射鏡を用いて像反転を行ったり、画像信号の処理過程において画像フレームデータを左右反転させる、等の処理を行う。
【0062】
図1に関連して説明したように、セッティング用テレビユニット23はカメラ移動装置22によって駆動されて回折スリット21に対して進退移動する。具体的には、セッティング用テレビユニット23は、図2に示す退避位置と、図5に示すテレビ撮影位置と、図6に示すCCD撮像位置との間で水平に平行移動する。
【0063】
図2の退避位置は、イメージングプレート28が回折スリット21に近接する所定のX線受光位置に置かれることを邪魔しない位置である。図5のテレビ撮影位置は、蛍光板56を回折スリット21の背面位置であって回折スリット21を通過した回折X線を受光する位置に置く位置である。図6のCCD撮像位置は、2次元CCDセンサ52を回折スリット21の背面位置であって回折スリット21を通過した回折X線を受光する位置に置く位置である。
【0064】
テレビカメラ59の視野は高さ方向で100mm程度である。口径450mmの試料結晶11からの回折像を上下方向の全域で観察するため、カメラ移動装置22は、セッティング用テレビユニット23を図5の符号Eで示すように上下方向(すなわち垂直方向)で平行移動、すなわち昇降移動させることができる。回折X線の幅は1mmであり、数mmの回折X線の湾曲を考慮しても、テレビカメラ59の幅方向の視野は20mm程度あれば十分である。
【0065】
(光学系の説明)
図3(a)及び図3(b)は、図1のX線トポグラフィ装置のX線光学系を分り易く示している。これらの図において、ゴニオメータはω回転と2θ回転の2軸構成である。X線源45からポイントフォーカス、すなわち点状で取り出されたX線R0は、湾曲スリット44のスリット部分によって規制される。具体的には、X線R0は、水平方向では方向づけされると共に幅を制限されて試料結晶11に入射し、垂直方向では発散X線となって試料結晶11に入射する。従って、入射X線は、試料結晶11の帯状の領域に照射される。この領域を照射野と言うことにする。X線源45と試料結晶11との間の距離は、試料結晶11の径が450mmであることを考慮して、例えば2250mm程度である。
【0066】
入射X線R0に対し、試料結晶11内の格子面で回折条件を満足するように結晶面内の回転とX線入射角(ω角)が調整されると、X線は照射野全域でブラッグの条件を満足し、回折を起こす。本実施形態ではMoKα線が回折するように条件設定される。
【0067】
回折スリット21は試料結晶11を透過して来た1次X線を遮蔽すると共に、回折X線だけを通すようにスリットの幅が狭められている。この回折スリット21の作用により、散乱X線によるバックグランドが低減される。回折X線は円筒状のイメージングプレート28の外周面に入射し、電位的な像として記録される。イメージングプレート28は2θ回転の回転系の上で図1のIP回転駆動装置27によって駆動されてα回転する。
【0068】
走査ステージ6による試料結晶11の走査移動Fは、試料結晶11の両端で反転する往復移動である。イメージングプレート28は試料結晶11の走査移動Fと同期して、すなわち試料結晶11と同じ方向へ同じ周速度で往復移動すると共に、自身の中心軸X0を中心としてα回転する。このα回転は走査移動Fと同期した反復の往復回転移動である。
【0069】
イメージングプレート28の外周面の半径を“r”とすると、試料結晶11の移動量ΔXに対し、
ΔX=r・Δα
となる回転角Δαでイメージングプレート28を回転させれば、試料結晶11の径と同じ寸法のX線回折像(すなわちトポグラフ)をイメージングプレート28の面上に記録することができる。
【0070】
試料結晶11の移動量Xが500mmであれば、α角1回転(360°)でトポグラフを撮像するためには、イメージングプレート28の径は、r=79.577mmである。イメージングプレート28の径がこの値より大きくなると、トポグラフの幅が試料結晶11の径より大きくなる。例えば、r=80mmで製作すると、X=450mmは452.38mmの幅になって撮影される。
【0071】
ラング法のX線トポグラフィでは、トポグラフの縦方向の寸法は、試料サイズより少し大きくなる。それは、縦方向の入射X線は発散していて回折X線も同様に発散するからである。具体的には、X線源45とイメージングプレート28との間の距離と、X線源45と試料結晶11との間の距離との比に従って大きくなる。より具体的には、トポグラフは縦長の楕円になる。
【0072】
なお、直径450mmの試料結晶11に対して測定が行われるとき、試料結晶11と回折スリット21との間の距離は15〜35mm程度の間の適宜の値に設定される。また、試料結晶11とイメージングプレート28との間の距離は20〜40mm程度の間の適宜の値に設定される。上記の各距離が決まると、測定している最中はそれらの距離が一定に保持される。
【0073】
イメージングプレート28の半径“r”を調整すれば、トポグラフの歪みを緩和することができる。このことは、原理的に言って、イメージングプレート28の回転速度を調整することと同じである。イメージングプレート28には試料結晶11の裏面から見た像が記録される。従って、イメージングプレート28から読取った画像データには、例えば図2の読取り装置36又は図7の制御装置12によって、左右を反転する画像処理を施すことが望ましい。
【0074】
図3(a)において、回折スリット21は回折X線R1に対して垂直に配置されている。これにより、スリット開口を形成している回折スリット21のスリット片の幅を必要最小限の幅にすることがでできる。
【0075】
円筒状のイメージングプレート28のα回転は、トポグラフ撮影のための回転と撮影されたデータの読取りのための回転とを兼ねている。画像形成後のイメージングプレート28のα回転の際に、図2のヘッド昇降移動装置35によって読取りヘッド34を上下動させることにより、記憶された像の全体を読取りヘッド34によって読み取ることができる。また、読取り処理後のイメージングプレート28へ消去ランプ37によって光照射することにより、イメージングプレート28の全面に記憶されたデータを消去できる。
【0076】
イメージングプレート28のα回転は、トポグラフ撮影のときに低速回転であり、読取りのときに高速回転である。このα回転は、図1のIP回転駆動装置27によって実現される。IP回転駆動装置27の具体的な構成は必要に応じた適宜の構成とされる。例えば、回転速度の制御が可能な1つの電動モータを用いたフィードバック制御を採用しても良いし、走査用のモータと読取り用のモータを別々に用意しておいてそれらを切替えて用いても良い。
【0077】
(X線トポグラフの測定動作)
図7の制御装置12は、例えば図8のフローチャートに示すように、まず、X線トポグラフィ装置の各構成要素を所定の初期値にセットする(ステップS1)。次に、必要に応じて、セッティング処理(ステップS2、S3)、IP測定処理(ステップS4、S5)及びCCD観察処理(ステップS6、S7)の各処理を実行する。各処理を行うか否かは測定者が図7の入力装置61、例えばキーボード、マウス、タッチパネル等を操作することによって設定される。
【0078】
(セッティング処理)
セッティング処理は、図5の状態でテレビカメラ59を用いて得た試料結晶11の映像を観察して、結晶の軸立て、回折スリットの幅設定、結晶の端検出、湾曲補正データの設定、その他の種々の項目の調整を行う処理である。
【0079】
セッティング処理が選択されると、図2において検出器ユニット25を矢印C’方向へ後退移動させて図5に示す退避位置まで移動させる。そして次に、セッティング用テレビユニット23を矢印D方向へ進行移動させて図5に示すテレビ撮影位置まで移動させる。
【0080】
この状態でセッティング用テレビユニット23を矢印Eのように昇降移動させながら、蛍光板56によってX線を受けて蛍光像を形成する。そして、その蛍光像をテレビカメラ59で撮影して、得られた撮影像をディスプレイ上で観察することにより、X線トポグラフィ装置に関する諸調整を行う。
【0081】
(イメージングプレートを用いた測定)
その後、セッティング用テレビユニット23を図2に示す退避位置へ退避させて回折スリット21の後方部分に空間を形成し、さらにその空間にイメージングプレート28を検出器ユニット25と共に移動させる。試料結晶11とイメージングプレート28との間の距離はメモリ内の所定場所にプリセット値として設定されており、イメージングプレート28は所定位置に自動的に配置される。なお、プリセット値は所望の値に変更できる。
【0082】
イメージングプレート28が図2に示す測定位置にあるとき、そのイメージングプレート28に対してトポグラフ撮影が行われる。具体的には、まず、走査ステージ6によって試料結晶11を試料面と平行に移動することにより、湾曲スリット44によって形成される線状のX線によって試料結晶11の試料面を走査する。そして、円筒形状のイメージングプレート28を図1のIP回転駆動装置27によって試料11の走査移動に同期して、すなわち同じ方向へ同じ周速度で中心軸X0を中心として回転させる。これにより、試料結晶11の全体にわたる回折像(すなわちトポグラフ)がイメージングプレート28の表面上に幾何学的に1対1の位置関係をもって平面的な像として記録される。
【0083】
そして、イメージングプレート28が図5又は図6に示す退避位置に置かれているとき、読取り装置36を用いた記憶像の読取り処理及び消去ランプ37を用いた記憶像の消去処理が行われる。イメージングプレート28に対して読取り処理を行っている最中に、試料結晶11の交換や、セッティング用テレビユニット23を用いた軸立て等の調整を行うことができる。
【0084】
(CCD観察)
イメージングプレート28を用いて試料結晶11の全体にわたるトポグラフ像を取得して、そのトポグラフ像を見たときに、興味ある欠陥像が発見された場合には、その欠陥像の付近を特定してCCDセンサ52を用いて高分解能の観察を行うことができる。この場合には、図6に示すように、セッティング用テレビユニット23をCCD撮像位置にセットする。そして、予め行ったイメージングプレート28の測定結果に基づいて測定希望箇所を指定し、矢印Eで示す昇降移動及び図1の走査ステージ6による平面移動を行って試料結晶11の測定希望位置を観察位置に移動する。
【0085】
本実施形態ではTDI方式に従ってCCDセンサ52によって試料結晶11を撮像するので、分解能25μm又はそれ以下の分解能を目指すことができる。これにより、イメージングプレート28を用いた測定では捕らえることができないような微細な欠陥を発見できる。
【0086】
図9(a)に示した従来の装置においては、X線の斜め入射による像のボケを防止するために、試料結晶101とX線検出フィルム106とを互いに傾けて配置することにより、試料結晶101からの回折X線をX線検出フィルム106に直角に入射させていた。このため、試料結晶101とX線検出フィルム106との一方の端部での間隔が大きく広がり、その部分での分解能が低下するという問題があった。特に、試料結晶101の径が450mmのように大きくなった場合には、一方の端部での間隔が非常に大きくなるため、分解能の低下が著しかった。
【0087】
これに対し、本実施形態では、円筒形状のイメージングプレート28を回転させて試料結晶11のX線トポグラフを測定することにしたので、試料結晶11からの回折X線をイメージングプレート28に直角に、すなわちイメージングプレート28の接線に対して直角に入射させるようにした場合でも、試料結晶11とイメージングプレート28との間隔をイメージングプレート28の全面にわたって常に一定に維持できる。このため、分解能が一定であるトポグラフをイメージングプレート28上に得ることができるようになった。しかも、X線はイメージングプレート28に常に直角方向から入射するので、斜め入射の場合に見られていた像のボケが発生せず、よって、分解能の高い像を得ることができる。
【0088】
さらに、本実施形態では、イメージングプレート28を円筒形状にしたため、回折スリット21のスリット片の幅寸法を大幅に小さくしても、散乱X線がイメージングプレート28に到達することを防止できるようになった。このように回折スリット21のスリット片の幅を小さくできるということは、試料結晶11と回折スリット21との間隔を狭く設定した場合でも、走査移動する試料結晶11と回折スリット21との衝突を避けることができるということである。
【0089】
このようにして試料結晶11と回折スリット21との間隔を狭く設定できるということは、とりもなおさず試料結晶11とイメージングプレート28との間隔を狭く設定できるということであり、その結果、分解能の高いX線トポグラフを得ることができるということである。
【0090】
以上のように、本実施形態によれば、X線の斜め入射に起因するボケの発生が無く、高分解能であり、しかも全体にわたって分解能が一定であるX線トポグラフを得ることができるようになった。
【0091】
なお、本発明は、試料結晶11からの回折X線がイメージングプレート28へ斜め方向から入射するという技術も含むものであるが、その場合でも、試料結晶11とイメージングプレート28との間隔を狭くすることによる分解能の向上と、試料結晶11とイメージングプレート28との間隔がイメージングプレート28の全面にわたって一定であることによる分解能の均一性を得ることができる。
【0092】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
【0093】
例えば、上記実施形態では1結晶法の透過法であるラング法に本発明を適用したが、その他の原理に基づくX線トポグラフィ装置であっても円筒形状の面状X線検出器を適用できるものであれば本発明の適用の可能性がある。
【0094】
上記実施形態では、図3(a)において、回折X線R1をイメージングプレート28に法線方向、すなわち直角方向から照射する場合を例示したが、回折X線R1は斜め方向からイメージングプレート28へ照射されても良い。
【0095】
上記実施形態ではイメージングプレート28以外にTDI・CCDユニット50及びTVカメラユニット51を像形成手段として用いる例を示したが、TDI・CCDユニット50及びTVカメラユニット51を使用せず、イメージングプレート28だけを用いる場合も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0096】
上記実施形態では試料結晶11を走査する線状のX線を湾曲X線としたが、単なる直線状のX線とすることもできる。
【符号の説明】
【0097】
1.基面、 2.架台、 3.ベース、 4.2θ回転台、 5.ω回転台、 6.走査ステージ、 7.φ回転デバイス、 8.試料ホルダ、 11.試料結晶、 12.制御装置、 14.ホルダ基板、 15.高張力フィルム、 16.カバーリング、 17.高張力フィルム、 18.クランプ部材、 19.取っ手、 21.回折スリット、 22.カメラ移動装置、 23.セッティング用テレビユニット、 24.検出器進退移動装置、 25.検出器ユニット、 26.回転ドラム、 27.IP回転駆動装置、 28.イメージングプレート、 29.暗箱、 32.X線入射窓、 34.読取りヘッド、 35.ヘッド昇降移動装置、 36.読取り装置、 37.消去ランプ、 39.プリンタ、 40.画像表示装置、 42.入射スリット部、 43.高さ制限スリット、 44.湾曲スリット、 45.X線源、 46.遮蔽部材、 47.X線源、 48.遮蔽部材、 50.TDI・CCDユニット、 51.TVカメラユニット、 52.2次元CCDセンサ、 53.TDI駆動回路、 54.CCD処理回路、 56.蛍光板、 57.反射鏡、 58.レンズ、 59.テレビカメラ、 60.シールド板、 61.入力装置、 R0,R1.X線、 X0.イメージングプレート中心軸、 X1.試料結晶中心軸、 X2.ω軸、2θ軸、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を線状のX線で走査したときに当該試料で回折したX線をX線検出器によって検出して平面的な回折像を得るX線トポグラフィ装置において、
前記X線検出器は前記試料よりも大きい面積を有する円筒形状の面状X線検出器であり、
前記線状のX線の走査移動に関連させて前記面状X線検出器を前記円筒形状の中心軸を中心として回転させる検出器回転手段を有し、
前記円筒形状の中心軸は前記線状のX線の走査移動方向と直角方向に延在する
ことを特徴とするX線トポグラフィ装置。
【請求項2】
前記線状のX線の延在方向は当該線状のX線の走査移動方向に対して直角方向であり、前記面状X線検出器の円筒形状の中心軸は前記線状のX線の延在方向と同じ方向に平行に延在することを特徴とする請求項1記載のX線トポグラフィ装置。
【請求項3】
前記検出器回転手段は、前記面状X線検出器の外周面の周速度と前記線状のX線の走査移動速度とが同じになるように前記面状X線検出器を回転させることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のX線トポグラフィ装置。
【請求項4】
前記面状X線検出器は、
前記試料からの回折X線が照射される部材として円筒形状の蓄積性蛍光体を有しており、
該蓄積性蛍光体はX線が照射された部分にエネルギを蓄積し、該部分に光が照射されたときにそのエネルギを発光として放出する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のX線トポグラフィ装置。
【請求項5】
前記面状X線検出器は暗箱の中に設けられており、
該暗箱の中であって前記面状X線検出器の周囲には読取り装置及び消去装置が設けられており、
前記読取り装置は前記面状X線検出器に記憶された像を読取り、
前記消去装置は前記面状X線検出器に記憶された像を消去する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載のX線トポグラフィ装置。
【請求項6】
前記面状X線検出器は、前記試料で回折したX線が当該面状X線検出器の円筒表面に対して法線方向から入射する位置に、設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1つに記載のX線トポグラフィ装置。
【請求項7】
X線を受光して信号を出力する複数のCCD素子を平面的に並べて成る2次元CCDセンサと、
前記面状X線検出器と前記2次元CCDセンサとのいずれかを前記試料からの回折X線を検出する位置に選択的に配置させる手段と、
を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1つに記載のX線トポグラフィ装置。
【請求項8】
前記複数のCCD素子の動作を制御して各CCD素子の出力信号に基づいてX線強度を決めるCCD制御手段を有しており、該CCD制御手段はTDI方式に基づいて複数のCCD素子を制御することを特徴とする請求項7記載のX線トポグラフィ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−141148(P2011−141148A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−932(P2010−932)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】