説明

X線分析装置

【課題】
X線マイクロビーム分析装置において、より簡便な方法でX線マイクロビームの試料上での照射位置を目視観察しながらX線マイクロビーム分析を行えるX線分析装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
X線源とX線が照射される試料台との間にX線透過部を有する反射ミラーを有し、前記X線源と反射ミラーの間に、X線集光用光学素子を有するX線分析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を用いて試料の構造・組成評価を行う分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ビーム径を10μm未満に微小化したX線ビーム(以下、「X線マイクロビーム」と記載する)を用いて試料の局所分析を行う手法(X線マイクロビーム分析法)の研究が進み, 各種分析装置の開発も行われている。分析時に、試料上の測定したい領域にX線マイクロビームを確実に照射するため, X線マイクロビーム光学系と、試料表面を観察するための位置決め用顕微鏡(以下、「位置決め用光学系」と記載する)の光軸および焦点を一致させ、位置決め用光学系の観察領域と同じ位置にX線を照射することにより, X線マイクロビームの照射位置を直接観測することができる方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、図5に示すように、斜鏡3(3Aまたは3B)を用いてX線集光光学系と光学観察系の光軸を一致させ、試料上にあるX線の焦点位置をX線の集光方向から目視観察する方法について開示されている。斜鏡3は光学観察系により試料の観察位置を決める場合は3Aの位置に設置し, またX線マイクロビームにより試料の分析を行う場合は3Bの位置に設置し、両者の位置を自由に移動することができる。
光学観察系により試料の観察位置を特定する場合、斜鏡3を3Aの位置に移動するとともに、照明手段4a、ハーフミラー4b、斜鏡3A、X線集光光学手段2Bを用いて試料Sに可視光又は紫外光又は赤外光を照射し, 試料Sにより散乱された光をX線集光光学手段2B及び斜鏡3Aにより観察光学手段4 に導くことにより試料の照射領域を観察する。
また、X線集光光学系を用いて試料の分析を行う場合、X線の発生点1より発生したX線を遮らないように斜鏡3を3Bの位置に移動すると共に、X線集光光学手段2Bを用いてX線を集光位置Pに集光し, 試料から発生するX線や電子等を検出器5によって検出することにより試料の分析を行う。
予め光学観察系の試料側の焦点位置およびX線集光光学系の集光位置を5に一致させておくことにより,光学観察系で観察した試料の特定箇所をX線マイクロビームで照射し, X線マイクロビームで特定箇所の分析を行うことができる。
【0004】
また、特許文献2では、図6に示すように、X線源Aから発生したX線を、X線集光素子1と可視光用対物レンズ5を一体化したものを用いて集光点Bに集光させるマイクロビームの走査方法について開示されている。
可視光用光学系は試料からの散乱光の発生点、可視光用対物レンズ5, 試料観察用可視光反射鏡8,観察用可視光による像の位置Cに置かれた十字線7から構成されている。またX線マイクロビーム光学系はX線源A, X線を集光するための光学素子であるゾーンプレート1, X線マイクロビームの集光点Bから構成されている。
次に特許文献2の方法を用いたX線マイクロビーム分析の位置決め方法について述べる。試料を適当な照明光学系で照明することにより(図示していない)、試料から生じた散乱光は可視光用対物レンズ5により集められ, 試料観察用可視光反射鏡8を通じて点Bの像位置Dに焦点を結ぶ。この焦点に生じた試料の像を観察することにより, 試料のX線マイクロビーム照射位置を求めることができる。
また、マイクロビーム光学系において、ゾーンプレート1の焦点位置を可視光用対物レンズ5の焦点位置と同じ位置になるように組み込むことが可能であれば, X線マイクロビーム光学系により形成されたX線マイクロビームの集光位置Bは可視光用対物レンズの焦点と一致する。この結果, 可視光用光学系により決定した試料上の位置とX線マイクロビーム分析で照射する領域は一致し, 試料上の測定領域を可視光による可視光用光学系を用いて観察しながらX線マイクロビーム光学系で集光したX線マイクロビームを用いた分析が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-101404号公報
【特許文献2】特開平5-164987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
X線は目に見えないことから, 試料上のX線照射位置を特定することが容易でないという問題点がある。このため測定領域を決定する際には、X線マイクロビームにより仮測定を行い, 得られた元素分布イメージを元に再度測定領域を決定するという手法が多く取られてきた。この手法では同一試料を何度も測定する必要があり, X線マイクロビーム分析のスループットの低下, 放射線損傷による生体試料の破壊等の問題があった。そのため、上述した特許文献1又は2のような方法がとられていた。
【0007】
しかし、上記で述べた手段においては下記のような問題により試料の測定領域を特定することが困難である。
最初に特許文献1における問題点について述べる。
特許文献1においては光学観察系とX線集光光学系の一部である斜鏡3を共有していることにより, 光学観察系の空間分解能が劣化するという問題がある。以下にその詳細を説明する。
光学観察系の空間分解能δは光学系を構成する光学素子の開口数NAを用い, 式(1), (2)で求めることができる。
【式1】
【0008】
NA=nsinθ
【式2】
【0009】

ここで,
NAは開口数と呼ばれる量であり, 光学素子に入射する(または光学素子から出てくる)光の開き角θに屈折率を掛けた量,
nは使用する波長に対する屈折率であり, 今回は空気中または真空中で測定することから1となる。
また光学系全体の空間分解能は光学系で用いられている各光学素子において, 式(1)および式(2)で求められる分解能のうち一番大きな値で制限される。式(2)から明らかなように空間分解能を小さくするためには開口数NAを大きくするか, 使用する波長を短くすることが有効であることが判る。しかしながら可視光の場合は波長が通常サブミクロンメーター程度であることから, 高分解能を得るためにはレンズ等を用いてなるべく開口数NAを大きくすることが有効である。
一方、X線の場合, 波長自体が1nm以下と短いことから, NAが小さい光学素子を用いても充分な空間分解能を得ることができる。
ところが特許文献1のようにX線集光光学系と光学観察系の一部を共有させた光学系の場合, 上述したように、光学系全体の空間分解能は光学系で用いられている各光学素子において求められる分解能のうち一番大きな値で制限されるため、光学観察系の空間分解能はX線集光光学系の分解能を決めるX線集光光学手段2Bの開口数NAにより制限される。通常可視光の開口数NAは0.5程度であるのに対し, X線の反射ミラーの場合開口数NAは10-3程度となることから, 特許文献1のようにX線集光光学系と光学観察系の光学素子を一部共有させると光学観察系の空間分解能が通常よりも2〜3桁低下してしまうという問題が発生する。例えばX線の波長として0.1nm, 可視光の波長として0.5μmを用いた場合を考えると, X線集光光学系では式(2)より理想的な場合には約60nmの分解能が得られるのに対し, 可視光では300μmの分解能しか得られない。従って、試料にX線マイクロビームを照射する際に, X線が照射されているエリアの大きさに対して光学観察系で観察可能なエリアが約5000倍大きくなり、光学観察系を用いてもX線マイクロビームの照射位置を充分な精度で特定することができないという問題が生じる。
【0010】
次に、特許文献2における問題点について述べる。
特許文献2では、試料の照射位置を確定させるための可視光用光学系の対物側の焦点とX線マイクロビームを形成するためのマイクロビーム光学系の集光点を一致させることにより常に照射領域を確認しながらX線マイクロビーム分析を行えるという利点がある。しかし特許文献2の方法を実際に実現するためには下記の問題を解決する必要がある。
最初に、X線集光素子として図6に示しているようにゾーンプレート1を利用する場合の問題点を示す。通常ゾーンプレートは円形の形状をしており光軸に垂直方向のサイズが直径200μm程度, 試料までの距離は20cm程度となる。一方、可視光用対物レンズ5で利用されるレンズは通常直径20〜40mm程度であることから、 ゾーンプレート1を組み込むためには原理的にはレンズの中心に200μm程度の穴を空け, X線が通過することが可能な光路を設ければ良いことになる。しかし, 市販されているゾーンプレートは半導体リソグラフィ技術で作製された精密な光学部品であることから, 直径200μmのゾーンプレートを単体で取り扱うことは非常に困難であり, 実際にはゾーンプレートの周囲に支持用の基板(10mm角程度)が設けられている。このため、 ゾーンプレートを対物レンズに組み込むためには10mm角程度の支持用基板のサイズの穴をレンズ中心に空ける必要がある。また、ゾーンプレート1と可視光用対物レンズ5の焦点位置を光軸方向及び/又は試料表面上において一致させるための調整機構が必要なことを考慮するとレンズ中心に空ける必要のあるスペースはさらに大きくなる。このため, 可視光用対物レンズ5で試料を観察する場合, 試料から発生する散乱光のうち、収差が小さく分解能の良い光軸近傍の散乱光を利用することができず, 収差が大きく空間分解能が悪くなるレンズの周辺部のみを用いて像を観測する必要があり, 可視光用光学系で必要な空間分解能を得ることができず、試料の観察に適した像を得ることができないという問題が生じる。
【0011】
またX線集光光学系でX線マイクロビームを得るために特許文献1に示されるようなX線集光光学手段2Bを用いる場合は, ミラー自体のサイズが100mm程度あることから可視光用対物レンズ5の一部をなすレンズに組み込むことが不可能であり, この方法を利用することができない。
【0012】
そこで、本発明では、X線マイクロビーム分析装置において、より簡便な方法でX線マイクロビームの試料上での照射位置を目視観察しながらX線マイクロビーム分析を行えるX線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のX線分析装置は、X線源とX線が照射される試料台との間にX線透過部を有する反射ミラーを有し、前記X線源と反射ミラーの間に、X線集光用光学素子を有することを特徴とする。
また、X線集光用光学素子は、斜入射ミラーであることが好ましい。
また、X線透過部は、反射ミラーに設けられた空隙であることが好ましい。
また、反射ミラーと試料の間にX線透過部を有する対物レンズを設けることが好ましい。
また、前記X線透過部の周囲にガイドチューブを設けることが好ましい。
また、前記対物レンズに設けられたX線透過部の光軸方向に垂直な方向の大きさは、前記反射ミラーに設けられたX線透過部よりも小さいことが好ましい。
また、X線分析装置に試料観察部を有し、前記反射ミラーと前記対物レンズの間に設けられたX線透過部を有する第1のレンズと、前記反射ミラーと試料観察部の間に設けられた第2のレンズとを設けることが好ましい。
また、前記第1のレンズに設けたX線透過部の光軸に垂直な方向の大きさは、前記対物レンズに設けられたX線透過部より大きく前記反射ミラーに設けられたX線透過部より小さいことが好ましい。
また、反射ミラーと試料の間に球面ミラーまたは非球面ミラーを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のX線分析装置では、より簡便な方法で試料上の測定領域を精度良く決定することができるため, これまで多大な時間が必要であったX線マイクロビーム分析における試料上の照射位置の確認作業を短縮することができ、多数の試料を効率良く測定でき, 生体材料・半導体材料等の特性向上に寄与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のX線分析装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明のX線分析装置の別の例を示す概略図である。
【図3】本発明のX線分析装置の別の例を示す概略図である。
【図4】本発明のX線分析装置の別の例を示す概略図である。
【図5】X線分析装置における試料照射領域を求めるための従来手段を説明するための概略図である。
【図6】マイクロビーム走査装置分析における試料照射領域を求めるための別の従来手段を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について図を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下に示す形態は一例であって、本発明を限定するものではなく、記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等についても本発明を限定するものではない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。また、説明を簡略化するために、同一の構成要件には同一の符号を付し、その説明を一部省略する。また、図中の符号のうちアルファベットのものは、種々の面を示している。
なお、図1乃至4では、X線集光光学系のX線を実線で、光学観察系の光線を点線で示す。
【0017】
(実施例1)
本実施例のX線分析装置は、少なくともX線マイクロビーム光学系と位置決め光学系を有している。両者の光学系は、部分的に光軸が一致している。
X線マイクロビーム光学系は、X線源20, X線集光用光学素子21及びX線マイクロビームの集光点22から構成されている。X線マイクロビームの集光点22の近傍に試料台23が設置されている。X線源20から発生したX線はX線集光用光学素子により集光されX線マイクロビームが形成される。X線マイクロビームは、集光点22付近の試料台23に配置された試料に照射される。X線マイクロビームが照射された試料表面で散乱されたX線または電子を検出器24で観測し、X線マイクロビーム分析を行う。なお、本実施例においては、X線集光用光学素子としてX線集光用の斜入射ミラーを用いる。斜入射ミラーを用いることにより、X線を反射させて集光し、X線マイクロビームを形成することができる。
位置決め用光学系は、試料からの散乱光の発生点22、 散乱した光を集光し観察像を拡大するための対物レンズ26、散乱した光を位置決め用光学系の焦点に集光するための反射ミラー27、位置決め用光学系の結像側焦点28a及び観察用カメラ28bから構成されている。なお、反射ミラー27は、試料観察用として機能するものである。試料に照明25を用いて可視光又は紫外光又は赤外光を照射し、散乱した光を対物レンズ26及び反射ミラー27を用いて位置決め用光学系の結像側焦点28aに集光し、観察用カメラ28bで試料表面を観察する。なお、試料からの散乱光の発生点22は、X線マイクロビームの集光点22と略同じ位置にあり、その大きさは異なっていてもよい。X線マイクロビームの集光点と試料からの散乱光の発生点を略同じ位置とすることで試料表面を観察しながらX線マイクロビームの照射位置を決定することができる。
S1, P1, M1はそれぞれ位置決め用光学系の光軸に直交する試料の表面, 対物レンズ26の中心を通る面及び反射ミラー27の中心を通る面を示す。Z1は位置決め用光学系とX線マイクロビーム光学系の光軸が一致する部分における光軸を含む面, R1は位置決め用光学系の焦点を通り反射ミラー27と結像側焦点28aを結ぶ光軸に直交する面を示す。また、各部材間の距離を示す場合には、「P1-S1」のように面を示す符号をハイフンでつなぎ記載する。
また、反射ミラー27から試料までの間においては、X線マイクロビーム光学系と、位置決め用光学系の光軸は略一致している。
【0018】
本実施例においては、X線集光用光学素子21により形成されたX線マイクロビームが、位置決め用光学系の光軸と略一致するように、反射ミラー27の位置決め用光学系の光軸の周囲にX線透過部29aが設けられている。言い換えると、X線源20と、位置決め用光学系の光軸の周囲にX線透過部29aを有する反射ミラー27との間に、X線集光用光学素子21が設けられている。
なお、本明細書において「光軸が一致する」とは、必ずしも全く一致することを示すものではなく、本発明の効果が得られる範囲で若干のずれが生じてもよい。
【0019】
X線透過部は、X線マイクロビームの光軸上に設けられたX線が通過可能なX線の通路であり、X線集光用光学素子から試料までの間に設けられた部材に空隙を設けるか、X線が透過可能な物質で構成されることが好ましい。
また、X線透過部は、反射ミラー27から試料の間において設けられることが好ましい。本実施例においては、反射ミラーに設けられたX線透過部29aに加えて、対物レンズに設けられたX線透過部29bも有している。複数のX線透過部、例えば、反射ミラーに設けられたX線透過部29a及び対物レンズに設けられたX線透過部29bを包括してX線透過部29と記載することがある。
【0020】
X線透過部29は、少なくとも位置決め光学系の光軸の周囲に設けることが好ましい。X線透過部29の光軸方向に垂直な方向の大きさは、X線マイクロビームのビーム径よりも若干大きいサイズにすれば充分であり、X線マイクロビームを遮らない範囲でなるべく小さくすることが好ましい。通常のX線マイクロビーム光学系では、X線源から発生した数百μmのビームを数μm以下に集光することが多い。このことを考慮すると, X線透過部29の具体的な大きさとしては、位置決め光学系の光軸を中心として直径1mm程度に設けることで充分である。X線透過部29が大きすぎると、対物レンズとして機能する領域が狭くなり、レンズの収差が大きく空間分解能が悪い周辺部を用いて像を観測しなければならなくなる。そうすると、観察に適当な試料表面の像得られなくなってしまう。しかし、直径1mm程度の大きさであれば得られた像を容易に確認することができ好ましい。
【0021】
また、X線透過部は、位置決め用光学系からの散乱光が無視できる場合は、図1に示すように反射ミラーに設けられた空隙で構成されていてもよい。この方法によると、簡便な方法で、X線透過部を有する反射ミラーを得ることができ好ましい。なお、図4に示すように、X線透過部29の周囲にガイドチューブ34を設けてもよい。ガイドチューブ34は、X線マイクロビーム光学系及び位置決め光学系で用いられる波長の光を透過させない材料で形成されることが好ましい。ガイドチューブ34は、例えば、金属、黒鉛、黒色塗装したアルミニウム、黒色アルマイト等が挙げられる。このような材料のガイドチューブを用いることにより、可視光、紫外光又は赤外光の余分な散乱を防止することができ好ましい。また、ガイドチューブの導電性は限定されない。
ガイドチューブを設ける場合には、その光軸方向の長さとしては、反射ミラー27よりもX線源20側から、試料と対物レンズ26の間まで設けられることが好ましい。最も好ましくは、X線集光用光学素子21から対物レンズ26の間にかけて設けられるものである。可視光又は紫外光又は赤外光の余分な散乱を確実に防ぐことができ、位置決め光学系での試料表面の観察を確実に行うことができる。
また、ガイドチューブ34を支持するための機構としては、反射ミラー27や対物レンズ26に設けられた孔で支持されていてもよいし、別の部材が設けられていてもよい。別の部材を設ける場合には、X線マイクロビーム光学系及び位置決め光学系の光を遮らないように設けることが好ましく、例えば、反射ミラー27よりもX線源20側に設けられることが好ましい。
【0022】
本実施例においては、X線透過部29は、反射ミラー27に加えて、対物レンズ26にも設けられている。X線透過部29bを有する対物レンズを設けることで位置決め用光学系を用いた試料の観察を行うことができる。
対物レンズに設けられたX線透過部29bは、反射ミラー27に設けられたX線透過部29aと同様の構成、大きさで設けることができる。対物レンズに設けられたX線透過部29bの光軸方向に垂直な方向の大きさは、反射ミラー27に設けられたX線透過部29aよりも小さいことが好ましい。これにより、試料から発生する散乱光のうち、収差が小さく分解能の良い光軸近傍の散乱光を利用することができ、試料の観察に適した像を得ることができる。
X線透過部を有する部材としては、これらのものには限定されず、用いる光学系によって構成部材に適宜透過部を設けることが可能である。
【0023】
例えば、本実施例のX線分析装置では、位置決め用光学系の構成要素である対物レンズ26で用いるレンズの直径を20mm, 試料と対物レンズ26との間の距離(P1-S1)を10mmとするとNAとして0.7程度を得ることが可能となる。この場合, 位置決め用光学系の結像側焦点28aと対物レンズ26との間の距離(P1-M1)+(Z1-R1)を20mm程度とすると、NAは0.43程度が得られ, 位置決め用光学系の使用波長が0.5μmの場合、理論上の分解能を式(2)より求めると約0.7μmとなる。このとき反射ミラー27を設置するために(P1-M1)+(Z1-R1)の距離を30mm程度にしてもNAは、0.31程度が得られ、理論分解能は約1μmとなり, この場合でもX線マイクロビーム光学系で得られるビームサイズとおおよそ同様の分解能を得ることができる。
【0024】
このように本発明の実施例1に示すようなX線マイクロビーム光学系と位置決め用光学系を用いることにより, 位置決め用光学系により求めた照射領域とX線マイクロビーム光学系の照射領域をほぼ一致させることができ, 従来と比較すると位置精度の高いX線マイクロビーム分析が可能となる。
【0025】
その他の部材について説明する。
X線集光用光学素子21としては、斜入射ミラーの他、フレネルゾーンプレート等を用いてもよい。
反射ミラー27としては、可視光又は紫外光又は赤外光を反射する多層コーティングミラーを用いることができる。
また、X線照射により試料から有機物等の飛散物が生じるような場合は, 透明または半透明な光学系防護用箔を試料と両光学系の間に設置しても良い。光学系防護用膜は、位置決め光学系の照明光の波長に対して透光性のものであればよく、例えばPETフィルムやポリイミドフィルムのような高分子薄膜が挙げられる。具体的には、マイラー(登録商標)、カプトン(登録商標)等を用いることができる。もしくは、X線の通過部に穴を開けたガラスを用いることもできる。
【0026】
(実施例2)
本実施例のX線分析装置について、図2を参照しながら説明する。本実施例のX線分析装置は、位置決め用光学系にリレー光学系を用いた点が実施例1と異なる。対物レンズ26の焦点30の焦点距離を延ばすことで結像側焦点28aで試料観察を行うことができ、調整の利便性を向上させることができる。
【0027】
位置決め用光学系は、対物レンズの焦点30, 対物レンズの焦点30に形成された像をそのまま伝達するためのリレー光学系を構成する第1のレンズ31および第2のレンズ32を有する以外は、実質的に実施例1と同様である。本実施例において、第1のレンズは、反射ミラーと対物レンズの間に設けられ、第2のレンズは、反射ミラーと試料観察部の間に設けられている。
試料に照明25を用いて可視光、紫外光又は赤外光を照射し、散乱した光を対物レンズ26、第1のレンズ31、反射ミラー27及び第2のレンズ32を用いて位置決め用光学系の結像側焦点28aに集光し、観察用カメラ28bで試料表面を観察する。
またS2, P2, Q2, R2, M2はそれぞれ位置決め用光学系の光軸に直交する試料の表面, 対物レンズ26の中心を通る面, 対物レンズ26の焦点を通る面, リレー光学系の第1のレンズ31の中心を通る面, 反射ミラー27の中心を通る面を示す。Z2, T2, W2は位置決め用光学系とX線マイクロビーム光学系の光軸が一致する部分における光軸を含む面, リレー光学系の第2のレンズ32の中心を通る面, 結像側焦点28aを通りリレー光学系の光軸に直交する面を示す。
【0028】
本実施例においても、実施例1と同様に, X線マイクロビーム光学系により形成されたX線マイクロビームが、反射ミラー27よりも試料側において位置決め用光学系の光軸の周囲を通過することができるように、反射ミラー27及び対物レンズの位置決め用光学系の光軸の周囲にX線マイクロビーム通過用のX線透過部29a及び29bを設ける。このときのX線透過部29の光軸方向に垂直な方向の大きさは、上述したように、X線マイクロビーム光学系ではX線源から発生したビームを数μm以下に集光することを考慮し、実施例1と同様に1mm程度にすれば充分であり, 光学部品加工上での問題は特にない。
【0029】
また、本実施例では、リレー光学系を構成する第1のレンズ31にもX線透過部29cが設けられている。X線透過部29cも、上述した反射ミラー27に設けられたX線透過部29aや対物レンズ26に設けられたX線透過部29bと同様の構成、大きさで設けることができる。
またこのとき、第1のレンズ31に設けたX線透過部29cの光軸に垂直な方向の大きさは、対物レンズ26に設けられたX線透過部29bより大きく反射ミラー27に設けられたX線透過部29aより小さいことが好ましい。これにより、確実にX線を試料に照射することができると共に、レンズにおいて光軸近傍の散乱光を利用することができ、好適に観察を行うことができる。
【0030】
実施例1よりも位置決め用光学系の空間分解能を上げるためには式(2)に示すようにNAを大きくする必要がある。しかし、X線マイクロビーム光学系では、X線は反射ミラーに対する入射角が大きいと反射しないため、入射角を小さくする必要がある。その結果、NAは小さくなってしまい、空間分解能を上げることができないことがある。
例えば、X線集光用光学素子21の焦点距離(X線集光用光学素子21の中心からX線マイクロビームの集光点22までの距離)が100mmの場合で考える。X線集光用光学素子21へのX線の入射角が0.25°、入射するX線ビームのビーム径が300μmとすると、X線集光用光学素子21の光軸方向(Z2に沿う方向)の長さは約70mm程度必要になる。X線集光用光学素子21の中心と端との距離はX線集光用光学素子の長さの半分である約35mmとなり, X線集光用光学素子21の焦点距離100mmからX線集光用光学素子21自体の大きさ35mmを除くと、X線集光用光学素子21の端から集光点22(試料)までの距離は65mmとなる。
また、位置決め用光学系について実施例1と同様の光学系(但し対物レンズと像焦点W2までの距離を30mmとする)を用いる場合, 試料と対物レンズ26の間の距離(S2-P2)は10mmとなる。 上記より、X線集光用光学素子21の端面から集光点22(試料)までの距離は65mmとなるので、その距離から試料と対物レンズ26の間の距離(S2-P2) 10mmを除くと、対物レンズ26の光軸方向の厚さを無視したとしても約55mmのスペースに反射ミラー27を設置する必要がある。しかし、実用上は、反射ミラー27の取り付けおよび角度調整機構を考慮すると反射ミラー27の設置位置は反射ミラーの中心が少なくとも対物レンズ26から数十mm以上になるようにする必要がある。例えば、対物レンズ26と反射ミラー27の中心までの距離(P2-M2)を20mmにすると, 観察用カメラ28bは光軸面Z2から10mm以内に設置する必要があり,X線集光用光学素子21の厚さおよび取り付け調整機構の占めるスペースを考慮すると, 観察用カメラ28bとX線集光用光学素子21が機械的に干渉してしまうため, 観察用カメラ28bを焦点位置に設置することが困難であるという問題が生じる。
この問題を解決するため本実施例は、観察用カメラ28bの設置位置を変更できるようにするために位置決め用光学系の中にリレー光学系を組み込むものである。
【0031】
リレー光学系を構成する第1のレンズ31及び第2のレンズ32を用いることにより, 対物レンズの焦点30に一旦形成された像は反転して再度位置決め用光学系の結像側焦点28aに形成される。このときリレー光学系の第1のレンズ31及び第2のレンズ32の間では試料により散乱された光は平行となり, リレー光学系の入射側と出射側の間の距離(R2-M2)+(Z2-T2)を自由に変更することができる。従って観察用カメラ28bを位置決め用光学系の結像側焦点28aに設置する場合にも, X線マイクロビーム光学系及び位置決め光学系の光軸と結像側焦点28aの間の距離(Z2-T2)を自由に変更することができ, 前述のような観察用カメラ28bとX線集光用光学素子21の干渉を避けることができる。
なおこの場合,対物レンズ26と対物レンズの焦点30の距離(P2-Q2), 対物レンズの焦点30と第1のレンズ31の間の距離(Q2-R2)及び第2のレンズ32と位置決め用光学系の結像側焦点28aの間の距離(T2-W2)を適当に取ってやることにより, 対物レンズ26の空間分解能を低下させずに試料表面を観測することが可能となる。
例えば、試料と対物レンズ26の距離(S2-P2)を10mm, 対物レンズ26と対物レンズの焦点30の距離(P2-Q2)を5mm, 対物レンズの焦点30と第1のレンズ31の間の距離(Q2-R2)を5mmとすると反射ミラー27の設置スペースは65mm-20mm=45mmとなり, 実施例1と比較して反射ミラー37の設置機構の設計が容易となる。またリレー光学系を使用する場合, リレー光学系内部の距離(R2-T2)+(Z2-M2)は無視することができるため, 第2のレンズ32と置決め用光学系の結像側焦点28aの間の距離(T2-W2)を例えば5mmになるように光学系を設計すれば, 位置決め用光学系の分解能を低下させずに観察用カメラ28bを自由に設置することができる。
【0032】
以上、本実施例のような構成を用いることにより, 実施例1の効果に加えて試料上の観察位置の決定を高倍率で行うことができ、より微小な試料を観察することが可能になる。
【0033】
(実施例3)
本実施例のX線分析装置について、図3を参照しながら説明する。本実施例のX線分析装置は、位置決め用光学系の光学素子として、対物レンズ26の代わりに散乱した光を集光し観察像を拡大する回転楕円面ミラー33a及び33bを用いた点が実施例1と異なる。
【0034】
位置決め用光学系は、試料に照明25を用いて可視光又は紫外光又は赤外光を照射し、散乱した光を回転楕円面ミラー33a及び33b及び反射ミラー27を用いて位置決め用光学系の結像側焦点28aに集光し、観察用カメラ28bで試料表面を観察する。
また、S3, P3, M3はそれぞれ位置決め用光学系の光軸に直交する試料の表面, 回転楕円面ミラー33a及び33bの中心を通る面, 反射ミラー27の中心を通る面を示す。 Z3は位置決め用光学系とX線マイクロビーム光学系の光軸が一致する部分における光軸を含む面, R3は位置決め用光学系の結像側焦点28aを通り, 反射ミラー27と結像側焦点28aの間の光軸に直交する面を示す。
【0035】
本実施例においても、実施例1と同様に、X線マイクロビーム光学系により形成されたX線マイクロビームが、反射ミラー27よりも試料側において位置決め用光学系の光軸もしくはその周囲を通過することができるように、反射ミラー27の位置決め用光学系の光軸の周囲にX線マイクロビーム通過用のX線透過部29aを設ける。本実施例では、位置決め用光学系の光学素子として回転楕円面ミラー33a及び33bを用いているため, 対物レンズ26を省くことができる。位置決め光学系にX線透過部を設ける手間も省くことができる。
【0036】
本実施例において、回転楕円ミラー33a及び33bの対物側の焦点22を回転楕円ミラー33a及び33bに可能な限り近づけるとともに位置決め光学系の結像側焦点28aを回転楕円ミラー33a及び33bから離すことで位置決め用光学系の分解能を向上させることができる。X線では反射ミラーに対する入射角が大きいとX線が反射しないが、可視光は、そのような制限が小さいためこの条件を満足することが可能である。
本実施例のような構成を用いることにより, 実施例1と同様に、位置決め用光学系により求めた照射領域とX線マイクロビーム光学系の照射領域をほぼ一致させることができ, 従来と比較すると位置精度の高いX線マイクロビーム分析を行うことができる。
【0037】
なお、本実施例では、位置決め用光学系用光学素子として回転楕円面ミラー33a及び33bを用いたが, 反射ミラーと試料の間には、種々の球面ミラーまたは非球面ミラーを任意に用いることが可能である。例えば、本実施例と同様に、2枚の回転放物面ミラーを用いてもよいし、数枚の球面ミラーを用いてもよい。また、球面と非球面ミラーを組み合わせて用いてもよい。また、一軸回転球面ミラー、一軸回転非球面ミラー等を単独あるいは組み合わせて使用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の分析装置を用いることにより、近年盛んに利用が進んでいるX線マイクロビーム分析を用い、X線を照射することにより生じる蛍光X線を測定しマイクロメートル領域の元素・組成分析をすることが可能である。例えば、毛髪中の重元素の蓄積量の測定, 半導体デバイスのドーパント元素のマイクロレベルの空間分布とデバイス特性の関係解明, 生体細胞の硫黄元素の分布変化による病理分析等に用いることができる。
【符号の説明】
【0039】
20・・・X線源
21・・・X線集光用光学素子
22・・・X線マイクロビームの集光点、試料からの散乱光の発生点、位置決め光学系の対物側焦点
23・・・試料台
24・・・検出器
25・・・照明
26・・・対物レンズ
27・・・反射ミラー
28a・・・結像側焦点
28b・・・観察用カメラ
29・・・X線透過部
30・・・対物レンズの焦点
31・・・リレー光学系を構成する第1のレンズ
32・・・リレー光学系を構成する第2のレンズ
33・・・回転楕円面ミラー
34・・・ガイドチューブ
S・・・位置決め用光学系の光軸に直交する試料の表面
P・・・位置決め用光学系の光軸に直交し対物レンズの中心を通る面
M・・・位置決め用光学系の光軸に直交し反射ミラーの中心を通る面
Z・・・位置決め用光学系とX線マイクロビーム光学系の光軸が一致する部分における光軸を含む面
R・・・位置決め用光学系の焦点を通りZ面と平行な面
Q・・・位置決め用光学系の光軸に直交しレンズの焦点を通る面
T・・・Z面と平行かつリレー光学系のレンズの中心を通る面,
W・・・Z面と平行かつ位置決め用光学系の焦点を通る面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源とX線が照射される試料台との間にX線透過部を有する反射ミラーを有し、前記X線源と反射ミラーの間に、X線集光用光学素子を有することを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
前記X線集光用光学素子は、斜入射ミラーである請求項1に記載のX線分析装置。
【請求項3】
前記X線透過部は、前記反射ミラーに設けられた空隙である請求項1又は2に記載のX線分析装置。
【請求項4】
前記反射ミラーと試料の間にX線透過部を有する対物レンズを設ける請求項1乃至3のいずれか1項に記載のX線マイクロビーム分析装置。
【請求項5】
前記X線透過部の周囲にガイドチューブを設ける請求項1乃至4のいずれか1項に記載のX線分析装置。
【請求項6】
前記対物レンズに設けられたX線透過部の光軸方向に垂直な方向の大きさは、前記反射ミラーに設けられたX線透過部よりも小さい請求項4又は5に記載のX線分析装置。
【請求項7】
X線分析装置に試料観察部を有し、前記反射ミラーと前記対物レンズの間に設けられたX線透過部を有する第1のレンズと、前記反射ミラーと試料観察部の間に設けられた第2のレンズとを設ける請求項4乃至6のいずれか1項に記載のX線分析装置。
【請求項8】
前記第1のレンズに設けたX線透過部の光軸に垂直な方向の大きさは、前記対物レンズに設けられたX線透過部より大きく前記反射ミラーに設けられたX線透過部より小さい請求項7に記載のX線分析装置。
【請求項9】
前記反射ミラーと試料の間に球面ミラーまたは非球面ミラーを有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−242313(P2011−242313A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115930(P2010−115930)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】