説明

X線CT装置

【課題】BGAやCSPなど、半田ボール等の複数の特定部位が対象物の表面ないしは内部に平面に沿って存在している回路基板等の対象物の検査において、半田ボール等が並ぶ平面による切断のための設定作業を不要としたX線CT装置を提供する。
【解決手段】CT撮影により得られた投影データを逆投影処理して求めた対象物Wの3次元画像情報から、対象物の表面または内部に平面に沿って存在するあらかじめ設定された複数の特異部位の像を捜し出し、その各特異部位の像の中心が通る平面Pを求める特異部位像配列平面算出手段と、その平面Pでスライスした断層像を3次元画像情報に基づいて作成して自動的に表示器に表示する表示手段を備えることで、半田ボール等が並ぶ平面でスライスした断層像を、オペレータによるスライス位置の設定作業を必要とすることなく直ちに表示することを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は産業用のX線CT装置に関し、特に回路基板等の検査に有効なX線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用のX線CT装置においては、一般に、X線源とX線検出器の間に、対象物を配置するための試料ステージを設け、X線源とX線検出器の対と試料ステージとを相対的に回転させ、所定の微小角度ごとに対象物のX線投影データを取り込む撮影動作の後、そのX線投影データに逆投影処理等の再構成演算を施すことによって、対象物の断層像情報を得る。
【0003】
X線源からコーンビーム状のX線を発生するとともに、これを2次元のX線検出器で検出するいわゆるコーンビームCT装置においては、一度の撮影により収集したX線投影データを用いた再構成演算により、対象物の3次元画像情報が求められる。
【0004】
対象物の3次元画像情報の表示の仕方としては、サーフェイスレンダリング法やボリュームレンダリング法が知られているが、MPR(Multi Planar Reconstruction)表示機能、換言すれば任意断面再構成機能、あるいは多断面変換表示機能等と称される機能が用いられることが多い(例えば特許文献1参照)。
【0005】
MPR表示機能は、複数の平面で切断した複数の断層像を表示する機能で、前記した相対回転の中心軸に直交するスライス面に沿った断層像(水平断層像)のみならず、任意のスライス面に沿った断層像を表示する機能であり、例えば既に表示されている対象物の水平断層像上でオペレータがライン状のカーソル等を用いて指定した面に沿った断層像を表示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−304422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、以上のようなMPR表示機能を有するX線CT装置は、BGA(Ball Grid Array)やCSP(Chip Size Package)を搭載した回路基板の検査に多用されている。BGAやCSPでは、基板の表面に多数個の半田ボールが設けられており、これらの半田ボールの検査にあっては、各半田ボールの中心を通る平面、つまり基板と平行な平面で各半田ボールを切断した断層像を表示させることが通常に行われている。そのために、オペレータは手動によるカーソル操作によって、各半田ボールのほぼ中心を通る平面を切断面として設定している。
【0008】
ここで、回路基板のCT撮影は、通常、回路基板を試料ステージ上に適当な治具や粘度等を用いて立てた状態で行われる関係上、回転軸に確実に沿った状態とはならず、従って上記した切断面の設定動作は、個々の回路基板ごとに行う必要があり、その作業が面倒であるという問題がある。
【0009】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、BGAやCSPなど、半田ボール等の複数の特定部位が対象物の表面ないしは内部に平面に沿って存在している回路基板等の対象物の検査において、上記のような切断面の設定作業を不要としたX線CT装置の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明のX線CT装置は、互いに対向配置されたX線源とX線検出器の間に、対象物を配置するための試料ステージが設けられ、上記X線源からのX線を試料ステージ上の対象物に照射しつつ、上記X線源とX線検出の対と試料ステージとを相対回転させて取り込んだ複数の投影角度でのX線投影データを再構成することにより、対象物の3次元画像情報を構築するX線CT装置において、上記3次元画像情報から、対象物の表面もしくは内部に平面に沿って存在するあらかじめ設定された複数の特異部位の像を捜し出し、当該各特異部位の像の中心が通る平面を求める特異部位像配列平面算出手段と、その求められた平面でスライスした断層像を上記3次元画像情報に基づいて作成して自動的に表示器に表示する表示手段を備えていることによって特徴付けられる(請求項1)。
【0011】
ここで、本発明においては、上記特異部位像配列平面算出手段の具体的構成例として、上記3次元画像情報を2値化し、その2値化像からあらかじめ設定されている複数の特異部位に対応する特定形状の像を抽出する特異部位像抽出手段と、その抽出された各特異部位像の重心をそれぞれ求める重心算出手段と、その算出された各重心位置を通る最適平面を算出する平面算出手段とからなるものとする構成(請求項2)を採用することができる。
【0012】
また、本発明のX線CT装置は、上記3次元画像情報から、複数の平面で切断した断層像を表示するとともに、そのいずれかの断層像上で指定された平面で切断した断層像を表示するMPR表示機能を有するものとし、上記特異部位配列平面算出手段で求められた平面で切断した断層像が、上記MPR表示機能の初期表示断層像の一つとされる構成(請求項3)を好適に採用することができる。
【0013】
本発明は、半田ボール等の特異部位が並ぶ平面を装置が自動的に算出して当該平面で切断した断層像を表示することで、課題を解決するものである。
【0014】
すなわち、例えば半田ボールなど、他の部位と識別可能な特異部位が平面に沿って存在する、例えばBGAやCSPなどを備えた回路基板等を対象物としたとき、CT撮影と再構成演算により求めた対象物の3次元画像情報から、その半田ボール等の特異部位が並ぶ平面を自動的に求め、その平面で切断した断層像を表示器に表示する。これにより、CT撮影と再構成演算が終了した後、オペレータは切断すべき面を設定することなく、所要の平面で切断した断層像が表示される。
【0015】
特異部位が並ぶ平面の算出の仕方は、請求項2に係る発明のように、再構成演算で得た対象物の3次元画像情報を2値化し、その2値化像からあらかじめ設定されている複数の特異部位に対応する特定形状の像を抽出し、その抽出した各特異部位像の重心を求め、各重心を通る最適平面を算出する手法、例えば各重心からと平面との距離の総和が最も小さくなるような平面を算出する手法などを採用することができる。
【0016】
そして、MPR表示機能を有する装置にあっては、上記のようにして求めた平面で切断した断層像を、初期表示画像のうちの一つとすることで、BGAなどの半田ボールの検査を直ちに行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、BGAやCSPを備えた回路基板など、半田ボール等の他の部位と識別可能な複数の特異部位が平面状に存在する対象物の検査に際して、CT撮影の後、その特異部位が並ぶ平面に沿った断層像が自動的に表示されるので、このような対象物の検査における操作の簡略化を図ることが可能となる。また、所要断層像の決定にオペレータの関与が不要となることから、インライン装置等への展開も可能となる。
【0018】
また、MPR表示機能を有する装置にあっては、請求項3に係る発明のように、上記のようにして求めた平面で切断した断層像を、初期表示画像のうちの一つとすることで、複数の半田ボール等の特異部位の断面を含む断層像をもとに、異常嫌疑のある特異部位を更に任意の平面で切断した断層像を表示させる等、速やかな検査を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の構成図で、機械的構成を表す模式図とシステム構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の動作手順の例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態においてCT撮影の後に最初に表示される断層像の例を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 X線発生装置
2 X線検出器
3 試料ステージ
4 コンピュータ
5 操作部
6 表示器
7 X線コントローラ
8 軸制御部
R 回転軸
W 対象物
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態の構成図を示すものであり、X線発生装置1はそのX線光軸が水平方向を向くように配置され、そのX線発生装置1に水平方向に対向してX線検出器2が設けられている。そして、これらの間に、対象物Wを搭載するための試料ステージ3が設けられている。この例においては、試料ステージ3がX線光軸に直交する鉛直の回転軸Rを中心として回転する。また、この試料ステージ3は移動機構(図示略)の駆動によりX線光軸を含む互いに直交する3軸方向に移動させることができ、この移動により撮影倍率や撮影範囲等を設定することができる。また、X線発生装置1はコーンビーム状のX線を発生し、X線検出器2は2次元X線検出器である。
【0022】
CT撮影は、X線発生装置1からのX線を対象物Wに向けて照射しつつ、試料ステージ3を回転させ、その微小回転角度ごとにX線検出器2の出力をコンピュータ4に収集することによって行われる。コンピュータ4は、後述するように収集したX線検出器2の出力、つまりX線投影データに、前処理を施した後、逆投影処理によって対象物Wの3次元画像情報を演算し、メモリないしはハードディスクに記憶する。
【0023】
コンピュータ4には、キーボード、マウス、ジョイスティック等からなる操作部5が接続されており、この操作部5を操作することにより、記憶している対象物Wの3次元画像情報を基に、任意の平面に沿った断層像を表示器6にMPR表示する。そして、この実施の形態においては、コンピュータ4は、特異部位が平面状に並んでいる対象物、例えばBGAやCSPなど、複数の半田ボールが平面状に配列されている対象物の検査に際し、操作部5の操作により当該特異部位の形状、例えば半田ボールの場合には球形、を設定しておくことにより、その半田ボールが配列されている平面を自動的に算出し、その平面でスライスした断層像をMPR表示の初期画像の一つとして表示する。
【0024】
コンピュータ4は、また、X線発生装置1に対して供給すべき管電流や管電圧を制御するX線コントローラ7を制御下に置いているとともに、試料ステージ3の回転機構並びに移動機構についても、軸制御部8を介して制御する。このような制御に関する指令や設定等についても、前記した操作部5の操作で行うことができる。
【0025】
次に、図2のフローチャートを参照しつつ、本発明の実施の形態の動作について説明する。
対象物Wを試料ステージ3上に搭載した状態でCT撮影を開始する。CT撮影中においては、試料ステージ3の微小回転角度ごとにX線検出器2の出力がコンピュータ4に取り込まれ、各投影角度でのX線投影データとしてメモリもしくはハードディスクに記憶されていく。
【0026】
CT撮影が終了すると、メモリないしはハードディスクに記憶した各X線投影データが読み出され、前処理を施された後、逆投影処理に供される。なお、前処理は、感度補正、歪み補正処理並びにフィルタ処理等によって構成される。
【0027】
逆投影処理により求められた対象物Wの3次元画像情報はコンピュータ4のメモリないしはハードディスクに記憶される。そして、その3次元画像情報は、あらかじめ設定されているしきい値を用いて2値化され、3次元の2値化像が求められる。
【0028】
次に、その2値化像から、あらかじめ設定されている特定形状を有する特異部位の像が抽出される。例えばBGAやCSPなどを含む回路基板の半田ボールの検査にあっては、特異部位として半田ボールを設定し、その特定形状として球形を設定しておく。この設定により、2値化像から球形またはほぼ球形の像、従って回路基板中の半田ボールの像が抽出される。
【0029】
次に、抽出された半田ボールの各像の重心の3次元座標がそれぞれに算出される。そして、算出された各重心を通る平面Pを算出する。この平面Pの算出は、例えば、各重心からの距離の総和が最小となるような平面を求める等の、公知の手法によって求めることができる。ここで、例えばBGAやCSP等では半田ボールが基板表面に配置されているため、上記のようにして算出された平面Pは、基板表面と平行で、かつ、各半田ボールのほぼ中心を通る面となる。
【0030】
このようにして算出した各半田ボールの重心を通る平面Pに沿ってスライスした断層像を、MPR表示の初期画像のうちの一つ、つまりCT撮影後に最初に表示される複数の断層像のうちの一つとして表示器6に表示する。すなわち、算出した平面Pの式から、MPR表示用のパラメータを計算し、その計算したパラメータをMPR表示のための表示ソフトウウェアに設定し、平面Pでスライスした断層像を表示する。
【0031】
この実施の形態における初期画像の例を図3(A)〜(C)に示す。図3(A)はあらかじめ設定されている上下方向位置で切断した水平断層像CHであり、(B)は同じくあらかじめ設定されている水平方向位置で切断した鉛直断層像CVであって、(C)は上記した平面Pで切断した断層像CPであり、これらの断層像が表示器6の同一画面上に同時に表示される。
【0032】
各断層像の画面には、それぞれ他の断層像のスライス面に相当するカーソルCh,CvおよびCpが表示される。すなわち、水平断層像CH上には、鉛直断層像CVのスライス位置を表すカーソルCvと平面Pでスライスした断層像CPのスライス位置を表すカーソルCpが表示され、鉛直断層像CV上には、水平断層像CHのスライス位置を表すカーソルChと、断層像CPのスライス位置を表すカーソルCpが表示されるとともに、断層像CP上には、水平断層像CHのスライス位置を表すカーソルChと、鉛直断層像CVのスライス位置を表すカーソルCvが表示される。
【0033】
このようなMPR表示が、CT撮影後に最初に表示されることにより、オペレータは断層像CPを見ながら直ちに半田ボールの欠陥の有無を判断することができる。また、断層像CP上で必要に応じてカーソルCh,Cvを移動させることにより、注目する半田ボールの他の面による断層像を表示させることで、正確な検査を行うことができる。
【0034】
以上のように、オペレータは従来のように半田ボールの配列に沿った平面、換言すれば基板と平行な面で、かつ、各半田ボールのほぼ中心を通る平面を手動で設定する必要がなくなり、操作の簡略化を図ることができる。
【0035】
なお、以上の実施の形態においては、試料ステージ3を、X線発生装置1とX線検出器2に対して回転させた例を示したが、X線発生装置1とX線検出器2の対を試料ステージの回りに回転させる構造であってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向配置されたX線源とX線検出器の間に、対象物を配置するための試料ステージが設けられ、上記X線源からのX線を試料ステージ上の対象物に照射しつつ、上記X線源とX線検出の対と試料ステージとを相対回転させて取り込んだ複数の投影角度でのX線投影データを再構成することにより、対象物の3次元画像情報を構築するX線CT装置において、
上記3次元画像情報から、対象物の表面もしくは内部に平面に沿って存在するあらかじめ設定された複数の特異部位の像を捜し出し、当該各特異部位の像を通る平面を求める特異部位像配列平面算出手段と、その求められた平面でスライスした断層像を上記3次元画像情報に基づいて作成して自動的に表示器に表示する表示手段を備えていることを特徴とするX線CT装置。
【請求項2】
上記特異部位像配列平面算出手段が、上記3次元画像情報を2値化し、その2値化像からあらかじめ設定されている複数の特異部位に対応する特定形状の像を抽出する特異部位像抽出手段と、その抽出された各特異部位像の重心をそれぞれ求める重心算出手段と、その算出された各重心位置を通る最適平面を算出する平面算出手段によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のX線CT装置が、上記3次元画像情報から、複数の平面で切断した断層像を表示するとともに、そのいずれかの断層像上で指定された平面で切断した断層像を表示するMPR表示機能を有し、上記特異部位配列平面算出手段で求められた平面で切断した断層像が、上記MPR表示機能の初期表示断層像の一つとされることを特徴とするX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−80944(P2011−80944A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235121(P2009−235121)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】