説明

平版印刷版前駆体及び平版印刷版の作製方法

【課題】pH12以下の現像液を用いて良好な現像特性を示し、高い耐刷性及び良好な耐傷性を有し、インキ着肉性が向上した平版印刷版前駆体を提供する。
【解決手段】基体と、該基体上に形成された、水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂を含む画像形成層とを含んで成るポジ型平版印刷版前駆体であって、前記画像形成層が、少なくとも下層及び上層を含んで成り、前記下層及び前記上層の一方、又は前記下層及び前記上層の両方の前記樹脂が、酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び側鎖にフッ素化されたアルキル又はポリエーテル基を有するジオール残基で表される単位を有するポリウレタンを含むことを特徴とするポジ型平版印刷版前駆体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版前駆体に関し、特に、デジタル信号に基づいて固体レーザー又は半導体レーザーから赤外線を照射することにより直接画像を形成できる、いわゆるコンピュータ・トゥ・プレート(CTP)版として用いられる赤外線感受性又は感熱性の平版印刷版前駆体、及び平版印刷版の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ画像処理技術の進歩に伴い、デジタル信号に対応した輻射線照射により直接感光層に画像を書き込む方法が開発されている。この方法を平版印刷版に利用し、銀塩マスクフィルムへの出力を行わずに、直接、平版印刷版前駆体に画像を形成するコンピュータ・トゥ・プレート(CTP)システムが注目されている。輻射線照射の光源として、近赤外線又は赤外線領域に最大強度を有する高出力レーザーを用いるCTPシステムは、短時間の露光で高解像度の画像が得られること、そのシステムに用いる平版印刷版前駆体が明室での取り扱いが可能であること、などの利点を有している。特に、波長760nm〜1200nmの赤外線を放射する固体レーザー及び半導体レーザーは、高出力かつ小型のものが容易に入手できるようになってきている。
【0003】
ところで、このような固体レーザー又は半導体レーザーを用いて画像を形成することが可能な平版印刷版前駆体として、該平版印刷版前駆体表面に傷が付くことを防止するために、画像記録層と該画像記録層の保護層とを基体上に備えたタイプのものが提案されている。
【0004】
例えば、特開2004−157459号公報には、水不溶性且つアルカリ可溶性のポリウレタン樹脂を含む下層と、m,p−クレゾールノボラック樹脂を含む上層とを備えた平版印刷版前駆体が記載されており、この平版印刷版前駆体は耐刷性及びプレス寿命に優れている。しかしながら、この平版印刷版前駆体は特にpHが12以下の現像液に関して現像ラチチュードが狭く、また、上層が現像中に剥離して現像槽に堆積する等の問題があり、現像特性の面で更に改善の余地があった。
【0005】
本願発明者は、これらの問題を解決すべく特開2007−17913明細書において、基体と、基体上に形成された第1の画像記録層と、第1の画像記録層上に形成された第2の画像記録層とを備えた平版印刷版前駆体において、第1の画像記録層が水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂を含み、第2の画像記録層が酸性水素原子を有する置換基を含む単位を有するポリウレタンを含む平版印刷版前駆体を提案した。
【0006】
しかし、特開2007−17913明細書において提案した平版印刷版前駆体は、特にpH11以下の現像液を用いて良好な現像特性を示し、また、高い耐刷性及び良好な耐傷性を有するが、さらにインキ着肉性の観点からの改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−157459号公報
【特許文献2】特開2007−17913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記現状に鑑み、pH12以下の現像液を用いて良好な現像特性を示し、また、高い耐刷性及び良好な耐傷性を有し、さらにインキ着肉性が向上した平版印刷版前駆体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を重ねてきた結果、画像形成層に用いる水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂が酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び下記一般式(I)の単位を有するポリウレタンを含むことにより、これらの問題を全て解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、基体と、該基体上に形成された、水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂を含む画像形成層とを含んで成るポジ型平版印刷版前駆体であって、
前記画像形成層が、少なくとも下層及び上層を含んで成り、
前記下層及び前記上層の一方が、又は前記下層及び前記上層の両方の前記樹脂が、酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び下記一般式(I):
【0011】
【化1】

【0012】
(上記式中、
fは、水素原子の少なくとも50%がフッ素化されたアルキル又はポリエーテル基であり、
1は、水素原子、又は置換型もしくは無置換型のアルキル基であり、
mは0又は1〜10であり、nは1〜30であり、そして
xは1〜4である)
で表される単位を有するポリウレタンを含むことを特徴とするポジ型平版印刷版前駆体を提供する。
【0013】
さらに本発明は、基体と、該基体上に形成された、水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂を含む画像形成層とを含んで成るポジ型平版印刷版前駆体であって、
前記ポジ型平版印刷版前駆体は、さらに光熱変換物質を含み、そして
該水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂が、酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び下記一般式(I):
【0014】
【化2】

【0015】
(上記式中、
fは、水素原子の少なくとも50%がフッ素化されたアルキル又はポリエーテル基であり、
1は、水素原子、又は置換型もしくは無置換型のアルキル基であり、
mは0又は1〜10であり、nは1〜30であり、そして
xは1〜4である)
で表される単位を有するポリウレタンを含むことを特徴とするポジ型平版印刷版前駆体を提供する。
【0016】
さらに本発明は、上述のポジ型平版印刷版前駆体を、赤外線を使用して像様露光する工程像様露光する工程;及び前記露光済みポジ型平版印刷版前駆体をアルカリ性現像液で現像して露光領域を除去し、画像領域と非画像領域を形成する工程を含んで成る平版印刷版の作製方法も提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の平版印刷版前駆体及び平版印刷版の作製方法は、高い耐刷性及び良好な耐傷性を備えており、また、pHが12以下の現像液に対しても現像ラチチュードが広く、インキ着肉性が良好である。また、多層型平版印刷版前駆体においては、画像領域を構成する下層及び上層の画像形成層が現像液によって剥離されることがないので現像中に堆積物の発生が少ない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明の1つの態様は、基体上に画像形成層を有し、当該画像形成層が、下層及び上層の少なくとも2層を含む多層型の平版印刷版前駆体である。ここで、「多層」型平版印刷版前駆体とは、画像を提供するために必要とされる画像形成層を少なくとも2層(下層、上層)有する平版印刷版前駆体を意味する。下層、上層もまた画像形成層と呼ばれる。本発明の平版印刷版前駆体を構成する多層型の画像形成層は水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂を含み、前記下層及び前記上層の一方が、又は前記下層及び前記上層の両方が、酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び下記一般式(I)の単位を有するポリウレタンを含む。当該ポリウレタンもまた水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性である。当該多層型の平版印刷版前駆体は、少なくとも2層の画像形成層以外にも非画像形成層を含んでいてもよい。例えば、下層と上層との間に分離層を含むことができる。
【0019】
本発明に用いるポリウレタンの、酸性水素原子を有する置換基を含む単位の酸性水素原子は、例えば、カルボキシル基、−SO2NHCOO−基、−CONHSO2−基、−CONHSO2NH−基、−NHCONHSO2−基等の酸性官能基に属することができるが、特にカルボキシル基に由来することが好ましい。
【0020】
本発明に用いるポリウレタンはさらに、下記一般式(I)によって表される単位を有する。
【0021】
【化3】

(上記式中、
fは、水素原子の少なくとも50%がフッ素化されたアルキル又はポリエーテル基であり、
1は、水素原子、又は置換型もしくは無置換型のアルキル又基であり、
mは0又は1〜10であり、nは1〜30であり、そして
xは1〜4である)。
【0022】
上記式中、Rfは、炭素原子数1〜20の、少なくとも50%がフッ素化されたアルキル又はポリエーテル基である。フッ素化率が50%未満であると、耐傷性及び/またはインキ着肉性が不足となり、好ましくない。典型的には、Rfは少なくとも75%フッ素化されている。このことは、Rfを構成する水素原子の少なくとも75%がフッ素原子によって置換されていることを意味する。いくつかの態様の場合、Rfは完全にフッ素化されている(100%フッ素化)。例えばRfは、−(CF2nCF3によって表すことができ、式中nは1〜30である。典型的にはnは5〜25である。
【0023】
一般式(I)において、mは0又は1〜10であり、典型的には0、1、2、又は3である。また、xは1〜4であり、典型的には、xは1又は2である。−(CH2)−基内の水素原子のうちの1つ又は2つ以上を、1つ又は2つ以上の他の置換基、例えば分枝を生成するためのアルキル基によって、又はオキシアルキレン基によって置換することもできる。
【0024】
また一般式(I)において、R1は、水素又はそれぞれ炭素原子数1〜10の、置換型又は無置換型のアルキル基であり、そして当該基は、分枝状又は線状であってよい。このようなR1基は、上記のように部分的又は完全にフッ素化された炭素原子数最大10の1つ又は2つ以上のRfで置換することもできる。典型的には、R1は、炭素原子数1〜4の置換型又は無置換型のアルキル基である。一般式(I)において、−O−部分は、ウレタン部分に結合する。
【0025】
酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び式(I)の単位を有するポリウレタンは、酸性水素原子を有する置換基を含むジオール、式(I)単位を有するジオール、必要に応じて他のジオールと、ジイソシアナートとを反応させる方法、或いは、上記の方法に用いる各ジオール及び各ジイソシアナートを必要に応じて組み合わせたものを反応させる方法によって合成することができる。酸性水素原子を有する置換基を含む単位としては、例えば、カルボキシル基を有するジオール類が挙げられる。
【0026】
カルボキシル基を有するジオールとしては、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオン酸、2,2−ビス(3−ヒドロキシプロピルプロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)酢酸、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)酢酸、4,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、酒石酸などが挙げられるが、特に、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸がイソシアネートとの反応性の点でより好ましい。
【0027】
式(I)単位を有するジオールとしては、下記一般式(II)によって表されるジオールとなることができる。
【0028】
【化4】

(上記式中、Rf、R1、m、n及びxは、前記一般式(I)で規定されているものと同じである)。
【0029】
式(II)に含まれるジオールには、例えば、以下のジオールが含まれる。
【0030】
【化5】

【0031】
他のジオールとしては、ジメチロールプロパン、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエステルポリオール、ポリマーポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、1,6−ヘキサンジオール、ポリブタジエンポリオールなどが挙げられる。
【0032】
ジイソシアナートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、ナフチレン−1,5−ジイソシアナート、テトラメチルキシレンジイソソアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、トルエン−2,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアナート、水添キシリレンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、ノルボルネンジイソシアナート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、ダイマー酸ジイソシアナートなどが挙げられる。
【0033】
本発明に用いるポリウレタンにおいて、カルボキシル基を有するジオールの単位の占めるモル%は、10〜70モル%、好ましくは、30〜50モル%である。10モル%未満では、現像不良となり好ましくなく、70モル%を超えると、インキ着肉性不良や耐刷不良となり好ましくない。本発明に用いるポリウレタンにおいて、式(I)で表されるジオールの単位の占めるモル%は、0.1〜30モル%、好ましくは、0.3〜15モル%である。0.1モル%未満では、耐傷性やインキ着肉性が不足となり好ましくなく、30モル%を超えると、現像不良となり好ましくない。ポリマー末端にイソシアネート基が残存した場合、アルコール類又はアミン類等で処理することにより、最終的にイソシアネート基が残存しない形で合成することができる。
【0034】
酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び式(I)の単位を有するポリウレタンの重量平均分子量は、2,000〜100,000の範囲が好ましい。ポリウレタンの重量平均分子量が2,000未満では、画像形成して得られる画像部が弱く、インキ着肉性に劣る傾向にある。一方、ポリウレタンの重量平均分子量が100,000を超えると、感度が劣る傾向にある。
【0035】
画像形成層中の酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び式(I)の単位を有するポリウレタンの含有量は当該層の固形分に対して2〜99.4質量%の範囲が好ましく、10〜90質量%の範囲がさらに好ましい。酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び式(I)の単位を有するポリウレタンの含有量が2質量%未満では、現像スピードが不足となり不都合であり、99.4質量%を超えると、保存安定性が不良となり好ましくない。また、必要に応じて、2種以上の酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び2種以上の式(I)の単位を有するポリウレタンを併用してもよい。
【0036】
本発明の画像形成層は、上述の酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び式(I)の単位を有するポリウレタンに加えて、当該ポリウレタン以外の水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂を含むことができる。アルカリ性水溶液に可溶性又は分散可能であるために、前記樹脂は少なくとも、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、イミド基、アミド基等の官能基を有することが好ましい。したがって、水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂は、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、イミド基、アミド基及びその組合せ等の官能基を有するエチレン性不飽和モノマーを1つ以上含むモノマー混合物を重合することによって好適に生成することができる。
【0037】
前記エチレン性不飽和モノマーは下式:
【化6】

【0038】
(式中、R4は、水素原子、C1-22の直鎖状、分枝状又は環状アルキル基、C1-22の直鎖状、分枝状、又は環状置換アルキル基、C6-24のアリール基又は置換アリール基であって、置換基はC1-4アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、ケト基、エステル基、アルコキシ基、又はシアノ基から選択され;Xは、O、S、及びNR5であり、R5は水素、C1-22の直鎖状、分枝状又は環状アルキル基、C1-22の直鎖状、分枝状又は環状置換アルキル基、C6-24のアリール基又は置換アリール基であって、置換基はC1-4アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、ケト基、エステル基、アルコキシ基、又はシアノ基から選択され;Yは、単結合、或いは、C1-22の直鎖状、分枝状又は環状アルキレン、アルキレンオキシアルキレン、ポリ(アルキレンオキシ)アルキレン、アルキレン−NHCONH−であり;Zは水素原子、ヒドロキシ基、カルボン酸、−C64−SO2NH2、−C63−SO2NH2(−OH)、又は下式
【0039】
【化7】

又は
【化8】

【0040】
で表される基である)で表される化合物又はその混合物とすることができる。
【0041】
前記エチレン性不飽和モノマーの例には、アクリル酸、メタクリル酸の他に、下式で表される化合物及びその混合物が含まれる。
【0042】
【化9】

【0043】
【化10】

【0044】
前記モノマー混合物は、その他のエチレン性不飽和コモノマーを含むことができる。その他のエチレン性不飽和コモノマーとしては、例えば、以下のモノマーが挙げられる。
【0045】
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸-t-オクチル、クロロエチルアクリレート、2,2−ジメチルヒドロキシプロピルアクリレート、5−ヒドロキシペンチルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ペンタエリスリトールモノアクリレート、グリシジルアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、テトラヒドロアクリレート等の、アクリル酸エステル類;
フェニルアクリレート、フルフリルアクリレート等の、アリールアクリレート類;
【0046】
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、アリルメタクリレート、アミルメタクリレートヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、クロロベンジルメタクリレート、オクチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、5−ヒドロキシペンチルメタクリレート、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ペンタエリスリトールモノメタクリレート、グリシジルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等の、メタクリル酸エステル類;
【0047】
フェニルメタクリレート、クレジルメタクリレート、ナフチルメタクリレート等の、アリールメタクリレート類;
【0048】
N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−ヘプチルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−ベンジルアクリルアミド等の、N−アルキルアクリルアミド類;
N−フェニルアクリルアミド、N−トリルアクリルアミド、N−ニトロフェニルアクリルアミド、N−ナフチルアクリルアミド、N−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等の、N−アリールアクリルアミド類;
【0049】
N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジブチルアクリルアミド、N,N−ジブチルアクリルアミド、N,N−ジイソブチルアクリルアミド、N,N−ジエチルヘキシルアクリルアミド、N,N−ジシクロヘキシルアクリルアミド等の、N,N−ジアルキルアクリルアミド類;
【0050】
N−メチル−N−フェニルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルアクリルアミド等の、N,N−アリールアクリルアミド類;
【0051】
N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N−t−ブチルメタクリルアミド、N−エチルヘキシルメタクリルアミド、N−ヒドリキシエチルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルメタクリルアミド等の、N−アルキルメタクリルアミド類;
【0052】
N−フェニルメタクリルアミド、N−ナフチルメタクリルアミド等の、N−アリールメタクリルアミド類;
【0053】
N,N−ジエチルメタクリルアミド、N,N−ジプロピルメタクリルアミド、N,N−ジブチルメタクリルアミド等の、N,N−ジアルキルメタクリルアミド類;
【0054】
N,N−ジフェニルメタクリルアミド等の、N,N−ジアリールメタクリルアミド類;
【0055】
N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド、N−メチル−N−フェニルメタクリルアミド、N−エチル−N−フェニルメタクリルアミド等の、メタクリルアミド誘導体;
【0056】
酢酸アリル、カプロン酸アリル、カプリル酸アリル、ラウリン酸アリル、パルチミン酸アリル、ステアリン酸アリル、安息香酸アリル、アセト酢酸アリル、乳酸アリル、アリルオキシエタノール等の、アリル化合物類;
【0057】
ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、1−メチル−2,2−ジメチルプロピルビニルエーテル、2−エチルブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、ブチルアミノエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニルトリルエーテル、ビニルクロロフェニルエーテル、ビニル−2,4−ジクロロフェニルエーテル、ビニルナフチルエーテル、ビニルアントラニルエーテル等の、ビニルエーテル類;
【0058】
ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルトリメチルアセテート、ビニルジエチルアセテート、ビニルバレート、ビニルカプロエート、ビニルクロロアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルブトキシアセテート、ビニルフェニルアセテート、ビニルアセトアセテート、ビニルラクテート、ビニル−β−フェニルブチレート、ビニルシクロヘキシルカルボキシレート、安息香酸ビニル、サリチル酸ビニル、クロロ安息香酸ビニル、テトラクロロ安息香酸ビニル、ナフトエ酸ビニル等の、ビニルエステル類;
【0059】
スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ドデシルスチレン、ベンジルスチレン、クロロメチルスチレン、トリフルオロメチルスチレン、エトキシメチルスチレン、アセトキシメチルスチレン、メトキシスチレン、4−メトキシ−3−メチルスチレン、ジメトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレン、テトラクロロスチレン、ペンタクロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ヨードスチレン、フルオロスチレン、2−ブロモ−4−トリフルオロメチルスチレン、4−フルオロ−3−トリフルオロメチルスチレン等の、スチレン類;
【0060】
クロトン酸ブチル、クロトン酸ヘキシル、クロトン酸、グリセリンモノクロトネート等の、クロトン酸エステル類;
【0061】
イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル等の、イタコン酸ジアルキル類;
【0062】
ジメチルマレート、ジブチルフマレート等の、マレイン酸あるいはフマール酸のジアルキル類;
【0063】
N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−2−メチルフェニルマレイミド、N−2,6−ジエチルフェニルマレイミド、N−2−クロロフェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミド等の、マレイミド類;
【0064】
N−ビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の、その他の窒素原子含有モノマー。
【0065】
これらの他のエチレン性不飽和コモノマー単量体のうち、好適に使用されるのは、例えば(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、マレイミド類、(メタ)アクリロニトリル類である。
【0066】
本発明に用いる多層型平版印刷版前駆体の画像形成層では、酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び前記式(I)の単位を有するポリウレタンを、下層又は上層の一方に含んでもよく、また下層及び上層の両方に含んでもよい。以下の説明では、酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び前記式(I)の単位を有するポリウレタンが、上層に含まれる態様に関して具体的に説明するが、本発明の多層型の平版印刷版前駆体が、この態様に限定されるものでないことは明らかである。
【0067】
<下層>
下層は、典型的には、基体上に直接的に配置される。本発明の平版印刷版前駆体の画像形成層を構成する下層は、ポリウレタン以外の上述した水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂を含むことができる。アルカリ性水溶液に可溶性溶解または分散可能であるために、前記樹脂は少なくとも、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、イミド基、アミド基等の官能基を有することが好ましい。したがって、水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂は、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、イミド基、アミド基およびその組合せ等の官能基を有するエチレン性不飽和モノマーを1つ以上含むモノマー混合物を重合することによって好適に生成することができる。
【0068】
<上層>
本発明の平版印刷版前駆体を構成する上層は、酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び上述した式(I)の単位を有するポリウレタンを含む。さらに当該ポリウレタンに加えて、下層に用いた水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂を含むこともできる。
【0069】
上層中の、酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び上述した式(I)の単位を有するポリウレタンの含有量は、当該上層の固形分に対して2〜99.4質量%の範囲が好ましく、10〜90質量%の範囲がさらに好ましい。このポリウレタンの含有量が2質量%未満では、現像スピードが不足となり不都合であり、99.4質量%を超えると、保存安定性が不足となり好ましくない。また、必要に応じて、2種以上の酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び上述した式(I)の単位を有するポリウレタンを併用してもよい。
【0070】
<光熱変換物質>
前記下層及び/又は上層は、光熱変換物質を含有する。光熱変換物質は、下層又は上層の一方に含んでもよく、また下層及び上層の両方に含んでもよい。また、光熱変換物質は、下層、上層以外の層に含まれていてもよく、例えば、下層と上層との間に分離層が存在する場合は、当該分離層内に含まれていてもよい。本発明のポジ型平版印刷版前駆体は、1種又は2種以上の光熱変換物質を含有することができる。本明細書で用いる光熱変換物質とは電磁波を熱エネルギーに変換することのできる任意の物質を意味しており、最大吸収波長が近赤外線から赤外線領域にある物質、具体的には最大吸収波長が760nm〜1200nmの領域にある物質である。このような物質としては、例えば、種々の顔料又は染料が挙げられる。
【0071】
本発明で使用される顔料としては、市販の顔料、及び、カラーインデックス便覧「最新顔料便覧日本顔料技術協会編、1977年刊」、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)等に記載されている顔料が利用できる。顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、その他ポリマー結合染料等が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染め付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。
【0072】
これらの中でも、特に、近赤外線から赤外線領域の輻射線を効率よく吸収し、しかも経済的に優れた物質として、カーボンブラックが好ましく用いられる。また、このようなカーボンブラックとしては、種々の官能基を有する分散性のよいグラフト化カーボンブラックが市販されており、例えば、「カーボンブラック便覧第3版」(カーボンブラック協会編、1995年)の167ページ、「カーボンブラックの特性と最適配合及び利用技術」(技術情報協会、1997年)の111ページ等に記載されているものが挙げられ、いずれも本発明に好適に使用される。
【0073】
これらの顔料は表面処理をせずに用いてもよく、また公知の表面処理を施して用いてもよい。公知の表面処理方法としては、樹脂やワックスを表面コートする方法、界面活性剤を付着させる方法、シランカップリング剤やエポキシ化合物、ポリイソシアネート等の、反応性物質を顔料表面に結合させる方法などが挙げられる。これらの表面処理方法については、「金属石鹸の性質と応用」(幸書房)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)に記載されている。本発明で使用される顔料の粒径は、0.01〜15マイクロメートルの範囲にあること
が好ましく、0.01〜5マイクロメートルの範囲にあることがさらに好ましい。
【0074】
本発明で使用される染料としては、公知慣用のものが使用でき、例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編、昭和45年刊)、「色材工学ハンドブック」(色材協会編、朝倉書店、1989年刊)、「工業用染料の技術と市場」(シーエムシー、1983年刊)、「化学便覧応用化学編」(日本化学会編、丸善書店、1986年刊)に記載されているものが挙げられる。より具体的には、アゾ染料、金属鎖塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、インジゴ染料、キノリン染料、ニトロ系染料、キサンテン系染料、チアジン系染料、アジン染料、オキサジン染料等の染料が挙げられる。
【0075】
また、近赤外線又は赤外線を効率よく吸収する染料としては、例えば、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム染料、ピリリウム塩、金属チオレート錯体(例えば、ニッケルチオレート錯体)等の染料を用いることができる。中でも、シアニン染料が好ましく、特開2001−305722号公報の一般式(I)で示されたシアニン染料、特開2002−079772号の[0096]〜[0103]で示されている化合物を挙げることができる。
【0076】
光熱変換物質としては、特に、下記式:
【化11】

【0077】
【化12】

(式中、Phはフェニル基を表す)
を有する染料が好ましい。
【0078】
光熱変換物質は、上層及び下層を有する(必要な場合は、上層と下層との間に分離層を有する)画像形成層に対し0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜20質量%、特に好ましくは1〜15質量%の割合で存在することができる。添加量が0.01質量%未満であると感度が低くなり、また50質量%を超えると印刷時非画像部に汚れが発生するおそれがある。これらの光熱変換物質は、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0079】
<基体>
基体としては、例えば、アルミニウム、亜鉛、銅、ステンレス、鉄等の金属板;ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ポリエチレン等のプラスチックフィルム;合成樹脂を溶融塗布あるいは合成樹脂溶液を塗布した紙、プラスチックフィルムに金属層を真空蒸着、ラミネート等の技術により設けた複合材料;その他印刷版の基体として使用されている材料が挙げられる。これらのうち、特にアルミニウム及びアルミニウムが被覆された複合基体の使用が好ましい。
【0080】
アルミニウム基体の表面は、保水性を高め、画像形成層又は必要に応じて設けられる中間層との密着性を向上させる目的で表面処理されていることが望ましい。そのような表面処理としては、例えば、ブラシ研磨法、ボール研磨法、電解エッチング、化学的エッチング、液体ホーニング、サンドブラスト等の粗面化処理、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、特に電解エッチングの使用を含む粗面化処理が好ましい。
【0081】
電解エッチングの際に用いられる電解浴としては、酸、アルカリ又はそれらの塩を含む水溶液あるいは有機溶剤を含む水性溶液が用いられる。これらの中でも、特に、塩酸、硝酸、又はそれらの塩を含む電解液が好ましい。
【0082】
さらに、粗面化処理の施されたアルミニウム基体は、必要に応じて酸又はアルカリの水溶液にてデスマット処理される。このようにして得られたアルミニウム基体は、陽極酸化処理されることが望ましい。特に、硫酸又はリン酸を含む浴で処理する陽極酸化処理が望ましい。
【0083】
また、必要に応じて、ケイ酸塩処理(ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム)、フッ化ジルコニウム酸カリウム処理、ホスホモリブデート処理、アルキルチタネート処理、ポリアクリル酸処理、ポリビニルスルホン酸処理、ポリビニルホスホン酸処理、フィチン酸処理、親水性有機高分子化合物と2価の金属との塩による処理、スルホン酸基を有する水溶性重合体の下塗りによる親水化処理、酸性染料による着色処理、シリケート電着等の処理を行うことができる。
【0084】
また、粗面化処理(砂目立て処理)及び陽極酸化処理後、封孔処理が施されたアルミニウム支持体も好ましい。封孔処理は、熱水、及び無機塩又は有機塩を含む熱水溶液へのアルミニウム支持体の浸漬、又は水蒸気浴等によって行われる。
【0085】
本発明のもう1つの態様は、基体上に1つの画像形成層を有する単層型の平版印刷版前駆体である。本発明の平版印刷版前駆体を構成する単層の画像形成層は、水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂を含み、酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び下記一般式(I)の単位を有するポリウレタンを含むことを必須とする。「単層」型平版印刷版前駆体は、画像を提供するために必要とされる層(画像形成層)を1層のみ有する平版印刷版前駆体を意味する。
【0086】
単層型の平版印刷版前駆体の画像形成層は、酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び上述した式(I)の単位を有するポリウレタンを含む。酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び上述した式(I)の単位を有するポリウレタンは、既に詳細に説明したので、ここでは繰り返さない。さらに当該ポリウレタンに加えて、上述した水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂を含むことができる。アルカリ性水溶液に可溶性溶解または分散可能であるために、前記樹脂は少なくとも、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、イミド基、アミド基等の官能基を有することが好ましい。したがって、水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂は、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、イミド基、アミド基およびその組合せ等の官能基を有するエチレン性不飽和モノマーを1つ以上含むモノマー混合物を重合することによって好適に生成することができる。これらの樹脂の詳細は、多層型の画像形成層のところで詳細に説明したので、ここでは、再度繰り返さない。
【0087】
画像形成層中の酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び式(I)の単位を有するポリウレタンの含有量は当該層の固形分に対して2〜99.4質量%の範囲が好ましく、10〜90質量%の範囲がさらに好ましい。酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び式(I)の単位を有するポリウレタンの含有量が2質量%未満では、現像スピードが不足となり不都合であり、99.4質量%を超えると、保存安定性が不良となり好ましくない。また、必要に応じて、2種以上の酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び2種以上の式(I)の単位を有するポリウレタンを併用してもよい。
【0088】
<光熱変換物質>
前記画像形成層は、1種又は2種以上の光熱変換物質を含有することができる。光熱変換物質は、画像形成層に対し0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜20質量%、特に好ましくは1〜15質量%の割合で画像形成層中に添加することができる。添加量が0.01質量%未満であると感度が低くなり、また50質量%を超えると印刷時非画像部に汚れが発生するおそれがある。これらの光熱変換物質は、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
光熱変換物質は、画像形成層内に含まれるが、追加の非画像形成層に含まれていてもよい。すなわち単層の画像形成層と接触している非画像形成層内に配置されていてもよい。光熱変換物質の具体例は、多層型の画像形成層のところですでに詳細に説明したので、ここでは繰り返さない。
【0089】
本発明の平版印刷版前駆体は、画像形成層の成分を、有機溶剤に溶解又は分散させた溶液又は分散液を基体上に塗布し、これを乾燥して基体上に画像形成層を形成させることによって製造される。多層型の平版印刷版前駆体では、1つの態様では、下層及び上層の構成成分を有機溶剤に溶解又は分散させた溶液又は分散液を基体上に順次塗布し、これを乾燥して基体上に下層及び上層を形成させることによって製造される。
【0090】
画像形成層の構成成分を溶解又は分散させる有機溶剤としては、公知慣用のものがいずれも使用できる。中でも、沸点40℃〜200℃、特に60℃〜160℃の範囲のものが、乾燥の際における有利さから選択される。画像形成層が下層及び上層から成る場合も、同様の有機溶剤を用いることができる。
【0091】
有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−又はイソ−プロピルアルコール、n−又はイソ−ブチルアルコール、ジアセトンアルコール等の、アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルヘキシルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセチルアセトン等の、ケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン等の、炭化水素類;エチルアセテート、n−又はイソ−プロピルアセテート、n−又はイソ−ブチルアセテート、エチルブチルアセテート、ヘキシルアセテート等の、酢酸エステル類;メチレンジクロライド、エチレンジクロライド、モノクロルベンゼン等の、ハロゲン化物;イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、ジオキサン、ジメチルジオキサン、テトラヒドロフラン等の、エーテル類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、メトキシエトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコ−ルメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール等の、多価アルコールとその誘導体;ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、乳酸メチル、乳酸エチル等の、特殊溶剤などが挙げられる。これらは単独であるいは混合して使用される。そして、塗布する溶液又は分散液中の固形分の濃度は、2〜50質量%とするのが適当である。本発明でいう固形分とは、有機溶剤を除く成分のことである。
【0092】
画像形成層の構成成分の溶液又は分散液の塗布方法としては、例えば、ロールコーティング、ディップコーティング、エアナイフコーティング、グラビアコーティング、グラビアオフセットコーティング、ホッパーコーティング、ブレードコーティング、ワイヤドクターコーティング、スプレーコーティング、ダイコーティング等の方法が用いられる。塗布量は、10ml/m2〜100ml/m2の範囲が好適である。
【0093】
基体上に塗布された前記溶液又は分散液の乾燥は、通常、加熱された空気によって行われる。乾燥温度(加熱された空気の温度)は30℃〜200℃、特に、40℃〜140℃の範囲が好適である。乾燥方法としては、乾燥温度を乾燥中一定に保つ方法だけでなく、乾燥温度を段階的に上昇させる方法も実施し得る。
【0094】
また、乾燥風は除湿することによって好ましい結果が得られる場合もある。加熱された空気は、塗布面に対し0.1m/秒〜30m/秒、特に0.5m/秒〜20m/秒の割合で供給するのが好適である。
【0095】
画像形成層の被覆量は、乾燥質量で通常、約0.5〜約5g/m2 の範囲である。多層型の場合、下層及び上層の被覆量は、それぞれ独立して、乾燥質量で通常、約0.1〜約5g/m2 の範囲である。
【0096】
<その他の画像形成層の構成成分>
本発明の平版印刷版前駆体の画像形成層(多層型の場合も含む)には、必要に応じて、公知の添加剤、例えば、着色材(染料、顔料)、界面活性剤、可塑剤、安定性向上剤、現像促進剤、現像抑制剤、滑剤(シリコンパウダー等)を加えることができる。
【0097】
好適な染料としては、例えば、クリスタルバイオレット、マラカイトグリーン、ビクトリアブルー、メチレンブルー、エチルバイオレット、ローダミンB等の、塩基性油溶性染料などが挙げられる。市販品としては、例えば、「ビクトリアピュアブルーBOH」〔保土谷化学工業(株)製〕、「オイルブルー#603」〔オリエント化学工業(株)製〕、「VPB−Naps(ビクトリアピュアブルーのナフタレンスルホン酸塩)」〔保土谷化学工業(株)製〕、「D11」〔PCAS社製〕等が挙げられる。顔料としては、例えば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ジオキサジンバイオレット、キナクリドンレッド等が挙げられる。
【0098】
界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
【0099】
可塑剤としては、例えば、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリ(2−クロロエチル)、クエン酸トリブチル等が挙げられる。
【0100】
さらに、公知の安定性向上剤として、例えば、リン酸、亜リン酸、蓚酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、ジピコリン酸、ポリアクリル酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等も併用することができる。
【0101】
その他の安定性向上剤として、公知のフェノール性化合物、キノン類、N−オキシド化合物、アミン系化合物、スルフィド基含有化合物、ニトロ基含有化合物、遷移金属化合物を挙げることができる。具体的には、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、p−クレゾール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2−メルカプトベンズイミダゾール、N−ニトロソフェニルヒドロキシアミン第一セリウム塩等が挙げられる。
【0102】
現像促進剤としては、酸無水物類、フェノール類、有機酸類が挙げられる。酸無水物類としては環状酸無水物が好ましく、具体的に環状酸無水物としては米国特許第4,115,128号明細書に記載されている無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドオキシ−テトラヒドロ無水フタル酸、テトラクロル無水フタル酸、無水マレイン酸、クロル無水マレイン酸、α−フェニル無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸などが使用できる。非環状の酸無水物としては無水酢酸などが挙げられる。フェノール類としては、ビスフェノールA、2,2'−ビスヒドロキシスルホン、p−ニトロフェノール、p−エトキシフェノール、2,4,4′−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、4,4′,4″−トリヒドロキシトリフェニルメタン、4,4′,3″,4″−テトラヒドロキシ−3,5,3′,5′−テトラメチルトリフェニルメタンなどが挙げられる。
【0103】
更に、有機酸類としては、特開昭60−88942号、特開平2−96755号公報などに記載されている、スルホン酸類、スルフィン酸類、アルキル硫酸類、ホスホン酸類、リン酸エステル類及びカルボン酸類などがあり、具体的には、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチル硫酸、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、リン酸フェニル、リン酸ジフェニル、安息香酸、イソフタル酸、アジピン酸、p−トルイル酸、3,4−ジメトキシ安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エルカ酸、ラウリン酸、n−ウンデカン酸、アスコルビン酸などが挙げられる。
【0104】
現像抑制剤としては、前記アルカリ可溶性樹脂と相互作用を形成し、未露光部においては該アルカリ可溶性樹脂の現像液に対する溶解性を実質的に低下させ、且つ、露光部においては該相互作用が弱まり、現像液に対して可溶となり得るものであれば特に限定はされないが、特に4級アンモニウム塩、ポリエチレングリコール系化合物等が好ましく用いられる。また前述の赤外線吸収剤、着色剤のなかにも現像抑制剤として機能する化合物があり、それらもまた好ましく挙げられる。そのほか、オニウム塩、o−キノンジアジド化合物、芳香族スルホン化合物、芳香族スルホン酸エステル化合物等の、熱分解性であり、且つ、分解しない状態では、アルカリ可溶性樹脂の溶解性を実質的に低下させる物質も挙げられる。
【0105】
これら各種の添加剤の添加量は、その目的によって異なるが、通常、画像形成層の固形分の0〜30質量%の範囲が好ましい。多層型の場合は、下層及び上層の合計の固形分の0〜30質量%の範囲が好ましい。
【0106】
その他、本発明の平版印刷版前駆体の画像形成層には、必要に応じて他のアルカリ可溶性又は分散性の樹脂を併用することもできる。他のアルカリ可溶性又は分散性の樹脂としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸等の、アルカリ可溶性基含有のモノマーと他のモノマーとの共重合体、ポリエステル樹脂、アセタール樹脂などが挙げられる。
【0107】
本発明の平版印刷版前駆体は、合紙剥離性向上や自動給版装置の版搬送性向上を目的に、上層中にマット剤を含有しても良く、或いは、上層上にマット層を設けても良い。
【0108】
<露光・現像>
本発明の赤外線感受性又は感熱性の平版印刷版前駆体は、コンピュータ等からのデジタル画像情報を基に、レーザーを使用して直接版上に画像書き込みができる、いわゆるコンピュータ・トゥ・プレート(CTP)版として使用できる。
【0109】
本発明で用いられるレーザー光源としては、近赤外線から赤外線領域に最大強度を有する高出力レーザーが最も好ましく用いられる。このような近赤外線から赤外線領域に最大強度を有する高出力レーザーとしては、760nm〜1200nmの近赤外線から赤外線領域に最大強度を有する各種レーザー、例えば、半導体レーザー、YAGレーザー等が挙げられる。
【0110】
本発明の平版印刷版前駆体は、画像形成層にレーザーを用いて画像を書き込んだ後、これを現像処理して非画像領域が湿式法により除去する画像形成方法を用いて平版印刷版を作製する。すなわち、本発明の平版印刷版の作製方法は、本発明の平版印刷版前駆体を、赤外線を使用して像様露光する工程;及び前記露光済み平版印刷版前駆体を現像して露光領域を除去し、画像領域と非画像領域を形成する工程を含んで成る。
【0111】
現像処理に使用される現像液としては、アルカリ性水溶液(塩基性の水溶液)が挙げられる。アルカリ性水溶液のpHとしては12以下が好ましく、具体的には、6〜12が好ましく、8〜11.5がより好ましく、10〜11が特に好ましい。
【0112】
現像液に用いられるアルカリ剤としては、通常、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、第二又は第三リン酸のナトリウム、カリウム又はアンモニウム塩、メタケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等の、無機のアルカリ化合物;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンイミン、エチレンジアミン等の、有機のアルカリ化合物が挙げられる。本発明の平版印刷版の作製方法においては、実質的にケイ酸塩を含まない現像液が好ましい。
【0113】
現像液中のアルカリ剤の含有量は、0.005〜10質量%の範囲が好ましく、0.05〜5質量%の範囲が特に好ましい。現像液中のアルカリ剤の含有量が0.005質量%より少ない場合、現像が不良となる傾向にあり、また、10質量%より多い場合、現像時に画像部を浸食する等の悪影響を及ぼす傾向にあるので好ましくない。
【0114】
現像液には有機溶剤を添加することもできる。現像液に添加することができる有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸ベンジル、エチレングリコールモノブチルアセテート、乳酸ブチル、レブリン酸ブチル、メチルエチルケトン、エチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ベンジルアルコール、メチルフェニルカルビトール、n−アミルアルコール、メチルアミルアルコール、キシレン、メチレンジクロライド、エチレンジクロライド、モノクロロベンゼン、などが挙げられる。現像液に有機溶媒を添加する場合の有機溶媒の添加量は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0115】
さらにまた、上記現像液中には必要に応じて、亜硫酸リチウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸マグネシウム等の、水溶性亜硫酸塩;アルカリ可溶性ピラゾロン化合物、アルカリ可溶性チオール化合物、メチルレゾルシン等の、ヒドロキシ芳香族化合物;ポリリン酸塩、アミノポリカルボン酸類等の、硬水軟化剤;イソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム、n−ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、N−メチル−N−ペンタデシルアミノ酢酸ナトリウム、ラウリルサルフェートナトリウム塩等の、アニオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の、各種界面活性剤や各種消泡剤を添加することができる。
【0116】
現像液としては、実用上は、市販されているネガ型PS版用又はポジ型PS版用の現像液を用いることができる。具体的には、市販されている濃縮型のネガ型PS版用又はポジ型PS版用の現像液を1〜1000倍に希釈したものを、本発明における現像液として使用することができる。
【0117】
現像液の温度は、15〜40℃の範囲が好ましく、浸漬時間は1秒〜2分の範囲が好ましい。必要に応じて、現像中に軽く表面を擦ることもできる。
【0118】
現像を終えた平版印刷版は、水洗及び/又は水系の不感脂化剤(フィニッシングガム)による処理が施される。水系の不感脂化剤としては、例えば、アラビアゴム、デキストリン、カルボキシメチルセルロース等の、水溶性天然高分子;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等の、水溶性合成高分子、などの水溶液が挙げられる。必要に応じて、これらの水系の不感脂化剤に、酸や界面活性剤等が加えられる。不感脂化剤による処理が施された後、平版印刷版は乾燥され、印刷刷版として印刷に使用される。
【0119】
得られた平版印刷版の耐刷性の向上を目的として、現像処理後、平版印刷版にバーニング処理を施すこともできる。
【0120】
バーニング処理は、まず、(i)前述の処理方法によって得られた平版印刷版を水洗し、リンス液やガム液を除去したのちスキージし、(ii)次いで、整面液を版全体にムラなく引き伸ばし、乾燥させ、(iii)オーブンで180℃〜300℃の温度条件下、1分〜30分間バーニングを行い、(iv)版が冷めた後、整面液を水洗により除去し、ガム引きして乾燥する、という工程により実施される。
【0121】
以上説明した本発明の平版印刷版前駆体にあっては、赤外線レーザーを用いて高解像度のポジ画像を提供することができ、また、多層型の場合は、下層自体が耐溶剤性となることができるために、UVインキ洗浄溶媒に対する耐性に優れ、UVインキ印刷にも適している。
【実施例】
【0122】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0123】
[ポリウレタン合成例1]
濃縮器及び攪拌機を備えた容量500mlの丸底三口フラスコ内に29.1gの4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、20.2gのトルエン−2,4−ジイソシアネート、6.3gのネオペンチルグリコール、23.7gの2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、以下に示す構造式によって表されるフッ素基を有する10.7gのポリネオペンチルグリコール及び、270gの3−ペンタノンを導入した。0.3gのジブチル錫ジドデカノエートを添加し、反応混合物を撹拌しながら80℃に加熱した。反応を80℃で6時間継続した。こうしてポリウレタン(1)を得た。GPCによる重量平均分子量は22000であった。酸価は110であった。
【0124】
【化13】

フッ素基を有するポリネオペンチルグリコール
【0125】
[ポリウレタン合成例2〜11]
表1に示すジイソシアネート及びジオールを使用する以外は合成例1と同様にしてポリウレタン(2)から(11)を得た。
【0126】
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

【表1−5】

【0127】
<画像形成層が2層の例>
[発明例1]
<基体>
アルミニウムシートの表面を2%の塩酸にて電解粗面化処理を行った。平均粗さRaは0.5μmであった。更に20%硫酸水溶液中で陽極酸化処理を行い、酸化皮膜量を2.7g/m2とした。その後、陽極酸化処理されたアルミニウムシートを、ケイ酸ナトリウム2.5重量%水溶液に70℃で30分間浸漬して、水洗後、乾燥した。
【0128】
<画像形成層>
上記のようにして得られた基体に表2に示す下層被覆溶液1をバーコーターにて被覆重量が1.4g/m2となるように塗布し、135℃で40秒間乾燥した後、35℃まで冷却した。その後、表3に示す上層被覆溶液1をバーコーターにて被覆重量が0.6g/m2となるように塗布し、140℃で40秒間乾燥後、ゆっくりと20から26℃まで冷却した。こうして、平版印刷版前駆体を得た。
【0129】
【表2】

【0130】
【化14】

【0131】
【表3】

【0132】
[発明例2〜9]
ポリウレタン(1)に代えて合成例2〜9で得られたポリウレタン(2)〜(9)を使用する以外は、発明例1と同様にして平版印刷版前駆体を得た。
【0133】
[発明例10]
上層被覆溶液1に代えて表4に示す上層の被覆溶液2を使用する以外は発明例1と同様にして平版印刷版前駆体を得た。
【0134】
【表4】

【0135】
[発明例11]
上層被覆溶液1に代えて表5に示す上層被覆溶液2を使用する以外は発明例1と同様にして平版印刷版前駆体を得た。
【0136】
【表5】

【0137】
[発明例12〜13]
ポリウレタン1に代えて、合成例2、3から得られたポリウレタン2、3をそれぞれ使用する以外は発明例11と同様にして平版印刷版前駆体を得た。
【0138】
[発明例14]
上層被覆溶液1に代えて表6に示す上層被覆溶液4を使用する以外は発明例1と同様にして平版印刷版前駆体を得た。
【0139】
【表6】

【0140】
[発明例15]
上層被覆溶液1に代えて表7に示す上層被覆溶液5を使用する以外は発明例1と同様にして平版印刷版前駆体を得た。
【0141】
【表7】

【0142】
[比較例1]
ポリウレタン(1)に代えて合成例11で得られたポリウレタン(11)を使用する以外は発明例1と同様にして平版印刷版前駆体を得た。
【0143】
[比較例2]
上層被覆溶液1に代えて表8に示す上層被覆溶液6を使用する以外は発明例1と同様にして平版印刷版前駆体を得た。
【0144】
【表8】

【0145】
[比較例3]
上層を設けない以外は発明例1と同様にして平版印刷版前駆体を得た。
【0146】
<画像形成層が単層の例>
[発明例16]
<画像形成層>
発明例1と同様にして得られた基板に表9に示す被覆溶液1をバーコーターにて被覆重量が1.5g/m2となるように塗布し、135℃で40秒間乾燥した後、ゆっくりと20から26℃まで冷却した。こうして、平版印刷版前駆体を得た。
【0147】
【表9】

【0148】
[発明例17]
被覆溶液1に代えて表10に示す被覆溶液2を使用する以外は発明例16と同様にして平版印刷版前駆体を得た。
【0149】
【表10】

【0150】
<平版印刷版前駆体の評価>
波長830nm、出力40Wのレーザー備えたCREO Trendsetterサーマル露光装置を用いて発明例1−15及び比較例1−3の平版印刷版前駆体を像様露光した。露光された各平版印刷版前駆体を、PSプロセッサーPK−910(大日本スクリーンMfg株式会社製)を用いて、下記表11に示す組成を有する水希釈された現像液で現像処理した。現像条件30℃で、12秒間現像を行った。希釈現像液のpHは10.7から10.0であった。フィニッシングガムPF−2(コダックポリクロームグラフィックス株式会社製)をフィニッシング液として使用した。
【0151】
【表11】

【0152】
<現像ラチチュード>
平版印刷版前駆体を120mJ/cm2の露光エネルギー量で露光し、異なる希釈率を有するいくつかの現像液を用いて現像した。レーザー露光領域の現像性と画像領域の状態を評価した。現像ラチチュードを、良好な画像特性を示す希釈率の範囲によって評価した。現像液の最適な希釈率は現像ラチチュード幅の中央に存在する。
【0153】
<耐傷性>
直径1.0mmのサファイア針を有する引掻き試験機を用いて荷重をかけながら、平版印刷版前駆体の表面を引掻いた。その後、この平版印刷版を、最適な現像液を用いて現像し、引掻いた部分で傷がつかなかった最大荷重値を求めた。
【0154】
<インキ着肉性>
平版印刷版前駆体を120mJ/cm2の露光エネルギー量で露光し、最適な現像液を用いて現像した。こうして得られた平版印刷版をローランドR−201印刷機に搭載し、インキ着肉性を評価した。
【0155】
<耐刷性>
平版印刷版原版を120mJ/cm2の露光エネルギー量で露光し、最適な現像液を用いて現像した。こうして得られた平版印刷版をローランドR−201印刷機に搭載し、耐刷性を評価した。
【0156】
現像ラチチュード、耐傷性、インキ着肉性及び、耐刷性の評価結果を表12に示す。
【0157】
【表12】

【0158】
【表13】

【0159】
表12、表13に示す結果から明らかなように、比較例1−3の平版印刷版前駆体と比較すると、発明例1−17の平版印刷版前駆体が、pH12以下の現像液を用いて、良好な現像特性を示し、また、良好な耐傷性、良好なインキ着肉性、そして高い耐刷性及びを有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体上に形成された、水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂を含む画像形成層とを含んで成るポジ型平版印刷版前駆体であって、
前記画像形成層が、少なくとも下層及び上層を含んで成り、
前記下層及び前記上層の一方、又は前記下層及び前記上層の両方の前記樹脂が、酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び下記一般式(I)で表される単位を有するポリウレタンを含むことを特徴とするポジ型平版印刷版前駆体。
【化1】

(上記式中、
fは、水素原子の少なくとも50%がフッ素化されたアルキル又はポリエーテル基であり、
1は、水素原子、又は置換型もしくは無置換型のアルキル基であり、
mは0又は1〜10であり、nは1〜30であり、そして
xは1〜4である)。
【請求項2】
前記ポリウレタンが、1種又は2種以上のジイソシアネート成分と、一般式(II)によって表されるジオールと、酸性水素原子を有する置換基を含むジオールとを含むジオール成分との反応から誘導されるポリマーである請求項1に記載のポジ型平版印刷版前駆体。
【化2】

(上記式中、
fは、水素原子の少なくとも50%がフッ素化されたアルキル又はポリエーテル基であり、
1は、水素原子、又は置換型もしくは無置換型のアルキル基であり、
mは0又は1〜10であり、nは1〜30であり、そして
xは1〜4である)
【請求項3】
前記酸性水素原子を持つ置換基が、カルボキシル基、−SO2NHCOO−基、−CONHSO2−基、−CONHSO2NH−基、−NHCONHSO2−基から成る群より選ばれ、そして
一般式(I)中の、Rfが、少なくとも75%フッ素化されており、R1が、炭素原子数1〜4のアルキル基であり、
mは0、1、2、又は3であり、そしてxは1又は2である
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のポジ型平版印刷版前駆体。
【請求項4】
前記上層が前記ポリウレタンを含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポジ型平版印刷版前駆体。
【請求項5】
前記上層中に含まれる前記ポリウレタンの量が、上層の総乾燥質量を基準として10%〜90%であることを特徴とする、請求項4に記載のポジ型平版印刷版前駆体。
【請求項6】
前記下層及び前記上層の一方が、又は前記下層及び前記上層の両方が、光熱変換物質を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポジ型平版印刷版前駆体。
【請求項7】
前記上層が光熱変換物質を含むことを特徴とする、請求項6に記載のポジ型平版印刷版前駆体。
【請求項8】
基体と、該基体上に形成された、水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂を含む画像形成層とを含んで成るポジ型平版印刷版前駆体であって、
前記ポジ型平版印刷版前駆体は、さらに光熱変換物質を含み、そして
該水不溶性且つアルカリ性水溶液に可溶性又は分散性の樹脂が、酸性水素原子を有する置換基を含む単位及び下記一般式(I)で表される単位を有するポリウレタンを含むことを特徴とするポジ型平版印刷版前駆体。
【化3】

(上記式中、
fは、水素原子の少なくとも50%がフッ素化されたアルキル又はポリエーテル基であり、
1は、水素原子、又は置換型もしくは無置換型のアルキル基であり、
mは0又は1〜10であり、nは1〜30であり、そして
xは1〜4である)。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポジ型平版印刷版前駆体を、赤外線を使用して像様露光する工程;及び
前記露光済みポジ型平版印刷版前駆体をアルカリ性現像液で現像して露光領域を除去し、画像領域と非画像領域を形成する工程
を含んで成る平版印刷版の作製方法。
【請求項10】
前記アルカリ性現像液のpHが12以下であることを特徴とする、請求項9に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項11】
前記アルカリ性現像液が、当該現像液の総質量に対して20%以下の量で、有機溶媒を含むことを特徴とする、請求項9又は10に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項12】
前記アルカリ性現像液が、実質的にケイ酸塩を含まないことを特徴とする、請求項9〜11のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。

【公開番号】特開2013−104896(P2013−104896A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246507(P2011−246507)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】