説明

γ−アミノ酪酸を多量に含有する発酵アセロラ製品及びその製造方法

【課題】本発明は、アセロラ果汁中のγ−アミノ酪酸を増加させてアセロラ果汁の付加価値をさらに高める技術を提供する。
【解決手段】本発明は、アセロラ果実又はその処理物に、アセロラ果実又はその処理物の存在下において発酵反応によりγ−アミノ酪酸を生成する能力を有する酵母又はその処理物を作用させることによりγ−アミノ酪酸含有発酵アセロラ製品を製造する方法に関する。本発明はまたかかる方法により製造されたγ−アミノ酪酸含有発酵アセロラ製品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ‐アミノ酪酸を富化したアセロラ食品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アセロラはキントラノオ科ヒイラギトラノオ属の熱帯果実で、カリブ海諸島を原産としている。アセロラ果実には約1,500mg/100gあるいはそれ以上のビタミンCが含まれ、豊富なビタミンCを含む植物として近年知られるようになり、現在では世界各国で飲料や健康食品として用いられている。
【0003】
ビタミンCは酸化防止作用、免疫増強作用、美白作用などの重要な機能を有するので、人類の生命維持に欠くことのできない重要な栄養成分の一つである。また、ビタミンCは骨代謝や骨芽細胞の分化・増殖、コラーゲンの生成と維持にもかかわっている。コラーゲンは皮、骨、腱など結合組織の主成分であるほか、ほとんどすべての組織や器官に含まれている。ビタミンCが不足すると、コラーゲンの生成が減少し、血管が脆くなり、動脈硬化を起こしたり、血圧が上昇したりする。また、コラーゲンは脳膜を包む膜をも構成しているので、ビタミンCが不足してコラーゲンが充分につくられなくなると、脳膜の働きが鈍って脳の神経細胞の働きも低下して、記憶力や思考力、判断力などが鈍り、いわゆるボケ症状が発生する。従って、人類にとってビタミンCは非常に重要な栄養成分の一つである。
【0004】
以上の理由でアセロラ果汁が健康飲料として人々に愛用され、その生産量や販売量が年々増え続いている。それと同時にアセロラ果汁に関する研究も幅広くなされて関連技術が数多く特許出願されている(特許文献1〜4)。これらの文献に記載された技術の多くはアセロラ果汁自身に含まれている成分、特にビタミンCの機能性に注目したものであり、発酵反応などによって、アセロラ果汁自身にほとんど含まれていない機能性成分を多く生成させ、アセロラ果汁の付加価値を高めるための技術は少ない。
【0005】
一方、最近、γ‐アミノ酪酸(γ−aminobutyric acid、以下GABAと略記することがある)は機能性成分として人々に認識され、広く注目されている。GABAは自然界に広く分布している非タンパク質組成のアミノ酸の1種であり、食品の成分として微量ながら各種のキノコ、果物、野菜、穀物などに含まれている。生体内では特に脳内の黒質、大脳基底核などに多く存在している。GABAの生理作用としては、血管を拡張して血圧を下げる作用、脳内血液の流れを活発にし、脳細胞への酸素供給量を増加させて代謝機能や記憶力の増強を促進させる作用など多くの作用が挙げられる。かかる好ましい作用に着目して、これまでにも各種食品材料中にGABAを生成させる技術が開示されている(特許文献5〜9)。残念なことにアセロラ果汁にGABA成分はあまり含まれておらず、アセロラ果汁のGABA含量を高める方法も未だ開発されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平5−207865号公報
【特許文献2】特開平5−344846号公報
【特許文献3】特開平6−022727号公報
【特許文献4】特開平11−206341号公報
【特許文献5】特開平9−238650号公報
【特許文献6】特開平10−295394号公報
【特許文献7】特開平11−103825号公報
【特許文献8】特開2000−210075号公報
【特許文献9】特開2003−70462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上述べたように、ビタミンCとGABAともに生体に対して重要な機能性成分であり、そして、この2つの成分の間にはいくつかの相補的な作用が見られ、食品成分として一緒に摂取できれば、それぞれの機能性を発揮できるほか、互いに相乗効果も期待できると考えられる。しかしながら、現状ではビタミンC高含有食品とGABA高含有食品がそれぞれ開発され販売されているが、1つの食品に同時にビタミンCとGABAを多量に含有するものはまだ開発されていない。人々はこれらの重要な成分を摂取するために多種の食料品を同時に摂食しなければならない。これは費用と手間の両方の面で問題であることは言うまでもない。これら2成分が1つの食品に多量に含有されたものが提供されれば、人々の健康生活に大きく貢献できることは間違いないと考えられる。すなわち、アセロラ果汁のGABA含量を高めてアセロラ果汁の付加価値をさらに高める技術は、重要な研究課題の1つである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはアセロラ果汁にはビタミンCを多く含有しているほかにグルコースや果糖などの糖類含有量も多いことに注目し、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、アセロラ果汁にGABA高生成能を有する酵母、特にピキア属又はカンジダ属の酵母を添加して発酵させれば、他の添加物をそれほど追加しなくてもGABAを多量に生成することができること、及び発酵によってアセロラ果汁中に含まれている余分な糖質が多く消費されることで固形分に占めるビタミンCの含有割合が高くなるため、低糖分且つ高機能性のアセロラ果汁を得ることができることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)アセロラ果実又はその処理物に、アセロラ果実又はその処理物の存在下において発酵反応によりγ−アミノ酪酸を生成する能力を有する酵母又はその処理物を作用させることによりγ−アミノ酪酸含有発酵アセロラ製品を製造する方法。
(2)前記酵母がピキア属又はカンジダ属に属する酵母であることを特徴とする(1)に記載の方法。
(3)前記酵母がピキア・アノマラMR−1(受託番号FERM BP−10134)又はそのγ−アミノ酪酸を生成する能力を有する変異株である(1)又は(2)に記載の方法。
(4)発酵反応が初発pH3.0〜5.0且つ温度32〜45℃の条件において行われることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)発酵反応がグルタミン酸又はその塩の存在下で行われることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)発酵反応が窒素雰囲気下で行われることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の方法により製造されたγ−アミノ酪酸含有発酵アセロラ製品。
(8)飲料、粉末、錠剤又はゼリーの形態である(7)に記載のγ−アミノ酪酸含有発酵アセロラ製品。
(9)γ−アミノ酪酸を固形分100g当たり50mg以上含有し、且つビタミンCを固形分100g当たり500mg以上含有する食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によりGABAが富化された発酵アセロラ製品、本製品を用いた飲食品及びそれらの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をより詳細に説明する。なお本明細書において「%」とは特に断りのない限り「重量%」を意味する。
【0012】
本発明においてアセロラ果実とは可食部と種核部を含んだ果実全体を指す。アセロラ果実はビタミンCや糖類を含有している限り生産地や品種は特に限定されない。
【0013】
本発明においてアセロラ果実の処理物とはアセロラ果実を通常の処理方法で処理したものを指す。アセロラ果実の処理物としては果実に含まれるビタミンCや糖類が含まれている限り特に限定されないが、例えばアセロラピューレ、アセロラ果汁、アセロラ果実破砕物等が挙げられる。アセロラピューレとは、通常、機械的方法によってアセロラ果実を潰砕し、さらにその中に含有している種核などが除去されたものを指す。アセロラ果汁は通常、アセロラピューレをろ過精製して得られる。なお、製造コスト等を考慮すればアセロラピューレを発酵の原料とすることが好ましい。またアセロラ果実破砕物とはアセロラ果実の全体又は可食部をミキサー等で破砕・粉砕したものを指す。
【0014】
上記のアセロラ果実又はその処理物は抽出処理、凍結乾燥等の処理を適宜施すこともできる。
【0015】
本発明において原料としてアセロラピューレを使用する場合、予め前処理などの必要もなく、そのままの使用が可能であるが、反応をより速やかに行わせるため、これらのアセロラピューレ原料を滅菌水で2〜3倍に希釈してから使用することがより好適である。また、希釈時の原料のpHは約3.0〜4.0の範囲内であり、酵母による発酵反応にとり好適なpH範囲内であるので、わざわざ反応液のpHを調整する手間は必要ない。
【0016】
本発明におけるGABA生成反応は糖類を反応基質とする。上記のアセロラ果実又はその処理物には糖類(主にグルコースと果糖などの単糖類)が含まれている(例えばアセロラピューレには約2〜3%の糖類が含まれている)ため、本発明におけるGABA生成反応は糖類の存在下で行われるから、アセロラ果実又はその処理物に更に糖類を添加する必要はない(試験例1)。従って、本発明の方法は手順が非常に簡易であり、より低コストでGABA含有発酵アセロラ製品の大量生産が可能となる。
【0017】
アセロラ果実又はその処理物に所定の酵母のみを添加すれば、他の反応促進剤などを追加しなくてもGABA成分を多量に生成することができるのであるが、GABAの生成量をより高めるためには、反応原料にグルタミン酸又はその塩(例えばグルタミン酸ナトリウム塩)を追加することが好ましい。グルタミン酸又はその塩の添加量は特に制限はないが、例えば試験例3に示されるように、アセロラピューレ50%及び所定の酵母(水分約80%)10%が含まれる反応混合物に対しては、約0.4〜0.8%の濃度範囲内であれば好適である。これ以上にグルタミン酸の添加量を増加させてもGABA生成量の更なる増加があまり期待できないだけでなく、GABA含有発酵アセロラ製品中に過剰なグルタミン酸又はその塩が残留してアセロラ風味に悪影響を及ぼすことがある。
【0018】
上記のアセロラ果実又はその処理物に、アセロラ果実又はその処理物の存在下において発酵反応によりγ−アミノ酪酸を生成する能力を有する酵母又はその処理物を作用させることによりγ−アミノ酪酸含有発酵アセロラ製品を得ることができる。このような能力を有する酵母としては通常市販されるパン酵母、ビール酵母、清酒酵母などサッカロミセス属に属する酵母のほか、ピキア属又はカンジダ属に属する酵母が挙げられ、ピキア属又はカンジダ属に属する酵母が特に好ましい。より具体的には、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)(例えばピキア・アノマラ MR−1(受託番号FERM BP−10134、2004年9月28日付けで独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託)、ピキア・アノマラNBRC−10213、ピキア・アノマラ NBRC−100267)、ピキア・ジャジニ(Pichia jadinii,anamorph:Candida utilis)(例えばピキア・ジャジニNBRC−0987)、カンジダ・ユチリス(Candida utilis)(例えばカンジダ・ユチリスNBRC−10707)が挙げられるがこれには限定されない。ピキア・アノマラ MR−1が特に好ましい。γ−アミノ酪酸を生成する能力を有する限り、ピキア・アノマラMR−1の変異株もまた好適に使用される。変異誘発処理は任意の適当な変異原を用いて行われ得る。ここで、「変異原」なる語は、その広義において、例えば変異原効果を有する薬剤のみならずUV照射のごとき変異原効果を有する処理をも含むものと理解すべきである。適当な変異原の例としてエチルメタンスルホネート、UV照射、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、ブロモウラシルのようなヌクレオチド塩基類似体及びアクリジン類が挙げられるが、他の任意の効果的な変異原もまた使用され得る。これらの酵母はいずれも、酵母菌体自体の懸濁液として本発明の方法に使用することができる。これらの酵母は、適当な担体に担持させた、いわゆる固定化酵母の形態で使用することもできる。本発明における酵母の「処理物」としては例えばこの固定化酵母が挙げられる。
【0019】
本明細書中で実験データは示していないが、ピキア・アノマラMR−1によるGABA生成反応は以下の特徴を有する。(1)糖類又は糖代謝中間体さえ存在すれば、グルタミン酸又はその塩がほとんど存在しない条件下でもGABAの多量生成が認められる。(2)糖類又は糖代謝中間体の存在下でGABAが多量に生成されるだけでなく、他の成分、例えば遊離のアラニンも生成される。(3)糖類又は糖代謝中間体が存在しない条件下で、グルタミン酸又はその塩を追加しでもGABAの多量生成がほとんど認められない。(4)糖類又は糖代謝中間体の存在下でのGABA生成反応液中にエタノール成分が多量に検出される。(5)菌体を2日間以上凍結保管させてからGABAの生成反応に使用した場合、GABAの生成量は同じ日数で冷蔵保管した菌体のそれより、約50%程度以上に大きく減少する。
【0020】
ピキア・アノマラMR−1によるGABA生成が、乳酸菌におけるGABA生成のように特定の酵素による単純な酵素反応に基づくものであると仮定すれば、細胞が死細胞であっても生細胞であっても関連する酵素が失活しない限りGABA生成量に大きな差異はないはずであるが、それでは上記(5)の現象は説明できない。従って、ピキア・アノマラMR−1によるGABA生成は、菌体内における代謝機能が組み合わされて起こる一種の発酵によるものと推定される。このことは、上記(2)及び(4)に記載したように、Alaやエタノールが同時に生成されることからも支持される。従って、本発明の方法によりGABAを生成する場合、他の有用成分もまた同時に生成することができるものと期待される。また、ピキア・アノマラMR−1によるGABA生成は、通常の酵母のようなアセトン処理などの予備的処理は不要であり、生菌体そのまま利用できるという点でも有利である。ピキア属又はカンジダ属酵母の生菌体によるGABA生成能は試験例6に示す通り他の酵母と比較して極めて高い。本発明に好適に使用される他の酵母菌株、例えばピキア・アノマラ NBRC−10213、ピキア・アノマラ NBRC−100267、ピキア・ジャジニ NBRC−0987、カンジダ・ユチリス NBRC−10707によるGABA生成もまた同様に発酵反応によるものと推測される。
【0021】
本発明に用いられる酵母の添加濃度については、後記試験例1及び例2(ピキア・アノマラMR−1酵母を使用)に示されるように、反応液総量に対して、酵母生菌体(水分約80%)の添加量は約4〜15重量%の範囲内であれば充分である。これ以上に酵母の添加量を増加させても、GABA生成量の顕著な増加があまり期待できず、逆に酵母添加量の大幅増加によって酵母臭が顕著となり、アセロラ果実特有の風味を損なう恐れがある。
【0022】
本発明の方法において、反応溶液中の初発pHは好ましくは3.0〜5.0、より好ましくは3.0〜4.0である。
【0023】
本発明の酵母による発酵反応における反応温度は所望の量のGABAを生成できる条件であれば特に限定されないが、32〜53℃の範囲が好ましく、32〜45℃の範囲がより好ましい。
【0024】
本発明における発酵反応においては酵母細胞が増殖しにくい条件、すなわち酵母が実際に増殖停止状態にある条件下で行われた方がより多量のGABAが生成されることが分っている。酵母細胞の増殖は温度に依存する。例えば本発明の反応条件では、40℃以上(特に40℃以上45℃以下)の“高温”条件下では増殖が抑制されてGABA生成量が高まり、40℃未満の“低温”条件下では酵母細胞の増殖が見られてGABA生成量が抑制される。そこで細胞の増殖を有効に抑制してGABA生成量を高めるという観点からは40℃以上、特に40〜45℃の温度条件が好ましい。
【0025】
なお、40℃以上の“高温”条件下では、機能性成分のビタミンC、カロテノイド、ポリフェノールなどの有用成分が酸化され、破壊され易くなる。一方、40℃以下の“低温”では、酵母菌はアセロラ果実中の有機成分を栄養素として顕著に増殖し、期待されるほどの高いGABA生成量が得られなくなる場合がある。このような問題がある場合は、反応混合物を開始前に適宜窒素充填して発酵反応を一定の窒素雰囲気下で行い、酵母の増殖や有用成分の酸化を抑制することが可能である。窒素充填の程度は特に限定されないが酵母による発酵反応を抑制しない程度であることが好ましい。発酵反応の程度、温度及び時間等の諸事情を合わせて考えれば、窒素を充填した場合には32〜40℃の温度範囲内で24〜48時間、窒素を充填しない場合には40〜45℃の温度範囲内で12〜24時間での反応が好適である。
【0026】
本発明はまた上記の方法で得られたGABA含有発酵アセロラ製品に関する。GABA含有発酵アセロラ製品は上記の方法により得られた発酵反応物又はその処理物を包含する。ここに言う処理物とは、例えば加熱等の方法による失活処理や、遠心分離、ろ過等の通常の分離精製処理を施したもの、減圧濃縮等により所望濃度にまで適宜濃縮したもの、或いは、凍結乾燥、噴霧乾燥等により粉末化したものを指す。
【0027】
本発明により得られた発酵アセロラ製品はアセロラ果実に元々含まれるビタミンCを豊富に有すると同時に、機能性成分であるGABAも多量に有しているため健康食品や医薬品として広く使用することができる。さらに、ビタミンCとGABAとの両成分が適当な配合で組み合わされているために種々の優れた作用(例えば血圧降下作用)を発揮することもできる。
【0028】
本発明のGABA含有発酵アセロラ製品は更に、必要に応じて適当な担体等を利用して各種の食品形態又は製剤形態に常法に従って調製することもできる。
【0029】
食品形態としては、飲料、固形食品、半固形食品等であってよい。飲料としては、例えば、果汁飲料、清涼飲料、アルコール飲料等が挙げられる。固形又は半固形食品としては、例えば錠剤(タブレット)、糖衣錠、顆粒、粉末飲料、粉末スープ等の粉末状食品、ビスケット等のブロック菓子類、カプセル、ゼリー等の形態が挙げられる。また必要に応じて、食品の調製に慣用されている各種添加剤を配合することもできる。このような添加剤としては、例えば、安定化剤、pH調整剤、糖類、甘味料、香料、各種ビタミン類、ミネラル類、抗酸化剤、賦形剤、可溶化剤、結合剤、滑沢剤、懸濁剤、湿潤剤、皮膜形成物質、矯味剤、矯臭剤、着色料、保存剤等を例示することができる。
【0030】
本発明に係る食品は好ましくは固形分100g当たり50mg以上(「50mg/100g固形分以上」と表記する)、より好ましくは75mg/100g固形分以上の量のGABAを含有し、且つ500mg/100g固形分以上、より好ましくは750mg/100g固形分以上の量のビタミンCを含有する。本発明に係る食品は上記の通り飲料等の液体又は半液体の形態であってもよく、その場合は例えば10mg/100ml以上、より好ましくは15mg/100ml以上の量のGABAを含有し、且つ50mg/100ml以上、より好ましくは100mg/100ml以上の量のビタミンCを含有する。本発明において食品中の成分の分析は「五訂 日本食品標準成分表」(科学技術庁資源調査会編)収載の方法に従って行う。例えば固形分含量(g/100g)については、まず水分含量(g/100g)を常圧加熱乾燥法(105℃、恒量)で測定し、続いて固形分含量(g/100g)=100g/100g−水分含量(g/100g)の式により固形分含量を算出する。またGABA含量(mg/100ml)は例えば試験例1に記載の通りの方法で測定する。ビタミンC含量(mg/100ml)は、還元型のアスコルビン酸を酸化させて全てのアスコルビン酸を酸化型とし、誘導体化後に高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて測定する。こうして測定された固形分含量(g/100g)、GABA含量(mg/100ml)、及びビタミンC含量(mg/100ml)に基づいて固形分当たりのGABA含量及びビタミンC含量を求めることができる。
【0031】
製剤形態への調製は、常法に従って行うことができ、その際に利用できる担体や賦形剤、結合剤、防腐剤、酸化安定剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、希釈剤も、慣用されている各種のものから適宜選択することができる。形態には、特に制限はなく、必要に応じ適宜選択されるが、一般には錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、丸剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤等の経口剤、又は注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、経鼻剤、経腸剤、貼付剤、軟膏剤等の非経口剤として製剤化される。
【実施例】
【0032】
以下、アセロラピューレを原料とし、ピキア属又はカンジダ属の酵母、特にピキア・アノマラMR−1菌体を用いたGABA生成反応を具体的に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0033】
[試験例1]
アセロラピューレ(ブラジル産、水分90.0%、炭水化物9.0%、pH3.2)を滅菌蒸留水で2倍に希釈してから、滅菌した200ml容の三角フラスコにそれぞれ50mlを注入した。次に各フラスコに表1所定濃度のMR−1菌体(水分含量79.8%)を添加してから、窒素ガスを300ml/minの流速で1分間充填した。三角フラスコの出口をゴム栓で密閉してから、37℃において振とうしながら2日間発酵反応を行わせた。反応混合液を85℃にて15分間加熱失活した後、遠心分離し、得られた上清液をそれぞれ25mlまでに減圧濃縮し、GABA成分を含む遊離アミノ酸含量の分析に供した。なお、遊離アミノ酸の分析には日本電子(株)社製の全自動アミノ酸分析装置(JLC−500/V)を使用した(以下同)。以上で得られた各濃縮液中のGABA含量の分析結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
以上の結果より、本発明のMR−1酵母のみを添加しても多量のGABAを生成できることがわかった。また、MR−1酵母添加量の増加につれて、生成したGABAの量も大きく増加したが、菌体添加濃度は15%より多ければ、酵母臭が顕著となり、アセロラ果汁特有の風味が損なわれる恐れがあるので、好ましくない。
【0036】
なお以下の試験例及び実施例において用いたアセロラピューレ及びMR−1菌体は特に断りのない限り本試験例1で用いたものと同一である。
【0037】
[試験例2]
各反応系にグルタミン酸のナトリウム塩を1%濃度追加した以外は試験例1と同じ条件でGABAの生成反応を行い、濃縮液各25mlを調製した。こうして得られた各濃縮液中のGABA生成量を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
以上の結果より、アセロラピューレにグルタミン酸のナトリウム塩を添加した場合、GABAの生成量をさらに大きく増加させることが可能であることがわかった。
【0040】
[試験例3]
アセロラピューレ50%濃度、MR−1菌体10%濃度を含む反応混合液50mlにそれぞれ所定濃度のグルタミン酸ナトリウム塩を添加し、試験例1と同じ条件でGABA生成反応を行った後、濃縮液各25mlを調製した。こうして得られた各濃縮液中のGABA生成量を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
以上の結果より、MR−1菌体の添加濃度が10%の場合では、グルタミン酸ナトリウム塩の最適添加濃度は約0.4〜0.8%の範囲内であり、これ以上にグルタミン酸ナトリウム塩の添加濃度を高めてもより多量のGABA生成があまり期待できないことがわかった。
【0043】
[試験例4]
pH3.0〜6.0の各種クエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液(0.1Mクエン酸−0.2Mリン酸水素ニナトリウム)に、それぞれアセロラピューレを50%濃度、MR−1菌体を10%濃度、グルタミン酸ナトリウム塩を1%濃度になるように添加して50mlに定容してから、試験例1と同じ条件でGABA生成反応を行った後、濃縮液各25mlを調製した。各濃縮液中のGABA生成量を表4に示す。
【0044】
【表4】

【0045】
以上の結果より、pH3.0〜5.0の範囲内でGABAは多量に生成され得るが、最適pHは約3.0〜4.0であり、これ以上にpHを上げると、GABAの生成量が減少する傾向にあることがわかった。
【0046】
[試験例5]
アセロラピューレ50%濃度、MR−1菌体10%濃度、グルタミン酸ナトリウム塩1%濃度、及び表5に示す各種糖類5%を含む反応混合液を各50mlに調製し、試験例1と同じ条件でGABA生成反応を行った後、濃縮液各25mlを調製した。各濃縮液中のGABA生成量を表5に示す。
【0047】
【表5】

【0048】
以上の結果より、原料のアセロラピューレに各種糖類を追加しても、GABAの生成量がさらに増加することはほとんど期待できないことがわかった。
【0049】
[試験例6]
アセロラピューレ50%濃度、グルタミン酸ナトリウム塩1%濃度、及び表6に示す各種酵母菌体(そのうち、市販パン酵母はオリエンタル酵母工業(株)製)10%濃度を含む反応混合液各50mlを調製し、試験例1と同じ条件でGABA生成反応を行った後、濃縮液各25mlを調製した。各濃縮液中のGABA生成量を表6に示す。
【0050】
【表6】

【0051】
以上の結果より、ピキア属及びカンジダ属に属する酵母は高濃度のGABA生成能を有するのに対して、サッカロミセス属の酵母はGABA生成能が低く、40〜50mg/100ml程度しか見られないこと、また、同じピキア属の酵母であっても、本発明者らによって分離されたMR−1酵母は特に高いGABA生成能を有することがわかった。
【0052】
[試験例7]
アセロラピューレ50%濃度、グルタミン酸ナトリウム塩1%濃度、及びMR−1酵母10%濃度を含む反応混合液各50mlを調製し、試験例1と同じように窒素を充填してから、37℃においてそれぞれ24、48、72時間でGABA生成反応を行った後、濃縮液各25mlを調製した。各濃縮液中のGABA生成量を表7に示す。
【0053】
【表7】

【0054】
以上の結果より、本酵母によるアセロラピューレ中のGABA生成の最適反応時間は約48〜72時間の範囲内である。ただし、製造コストと発酵アセロラ製品の品質(GABA含量)の相違を総合的に考慮すれば、反応時間は48時間程度が望ましいと考えられる。
【0055】
[試験例8]
20ml容のL字型試験管12本にそれぞれ、アセロラ果汁(アセロラピューレ原料を遠心分離して得られた上清部分)50%、MR−1菌体15%、グルタミン酸ナトリウム塩1%を含む反応液10mlを添加し、窒素ガスを100ml/minの流速で1分間充填した後、20rpmで振とうしながら15〜60℃の温度勾配で3日間反応させた。その後、試験例1と同じように分離、精製し、濃縮し、濃縮液各5mlを調製した。各濃縮液中のGABA濃度を表8に示す。
【0056】
【表8】

【0057】
以上の結果より、GABAは33〜53℃の温度範囲内で比較的多量に生成され、最適反応温度は36℃付近であることがわかった。なお、温度が40℃以上の場合でも多量のGABAが生成されたが、アセロラ発酵液の色調変化やビタミンC含量の酸化による減少などを考慮すれば40℃以上の“高温”での発酵反応はなるべく避けたほうがよいと思われる。
【0058】
[実施例1]
10リットル容のジャーファーメンターにアセロラピューレ原料(ブラジル産、水分90.0%)4kgを注入し、滅菌蒸留水で2倍に希釈した。この希釈液のpHは3.2であるため、そのままpH調整せずにMR−1酵母菌体1.2kg(15%濃度)を添加し、分散させた後、37℃において軽く攪拌しながら同温度で48時間発酵させた。発酵反応液を85℃に30分間加熱失活した後、遠心分離し、上清液約8kgを得た。これらの上清液をさらに精密濾過して減圧濃縮し、濃縮アセロラ発酵液4kgを得た。この濃縮アセロラ発酵液中のGABA含有量は173.2mg/100mlであって、発酵前アセロラピューレ原料中の6.8mg/100mlに対して、約25倍増加した。
【0059】
なお、発酵前後における各種有機成分の含量変化を表9に示す。これらの結果より、原料中のグルコ−スやフルクト−スなどの単糖類の含量は発酵によってほぼ完全に消費され、同時にコハク酸や乳酸などの有機酸成分が新たに生成されたことがわかった。なお、機能性成分のビタミンC含量について、2日間の発酵によって約2割程度減少したが、アセロラピューレ原料中のグルコ−スやフルクト−スなどの固形分が消費されたことにより、アセロラ発酵液中の固形分に占めるビタミンCの相対含量は、アセロラピューレ原料中のそれと比較してむしろ増加した。
【0060】
【表9】

【0061】
[実施例2]
グルタミン酸ナトリウム塩を40g(0.5%濃度)添加した以外、実施例1と同じ条件でアセロラピューレを発酵させ、精製し、濃縮アセロラ発酵液4kgを調製した。これらのアセロラピューレ原料及びアセロラ発酵液中の各種遊離アミノ酸含量を測定した。結果を図1に示す。アセロラ発酵液中のGABA含有量は285.9mg/100mlであって、発酵前アセロラピューレ原料中の6.8mg/100mlに対して、約42倍に多く増加した。また、得られたアセロラ発酵液中の他の各種遊離アミノ酸含量も図1のように多く増加し、特にAla、Pro、Asp、Ser、Leu、Lys含量の増加がより顕著であることがわかった。なお、Gluの含量は図1に示していないが、濃縮アセロラ発酵液の重量を基準として約0.36%残存していた。
【0062】
[実施例3]
GABA含有アセロラ飲料(100ml)の製造
下記の配合で、イオン交換水、果糖ぶどう糖液糖、実施例1又は実施例2で得られた精製アセロラ発酵液、酸味料(クエン酸及びクエン酸ナトリウム)を順次調合タンクに投入し、攪拌により全体を均一化した。こうして得られた製品を無菌濾過し、飲料用の100ml容器に熱間充填し、それぞれ実施品1及び実施品2とした。
【0063】
また、比較のために、アセロラ発酵液の代わりに、アセロラ発酵液製造の原料であるアセロラピューレを発酵反応させない以外はアセロラ発酵液の精製方法と同様の方法で精製したものを用いて、上述と同じ配合及び同じ製造方法でアセロラ飲料を製造し、飲料用の100ml容器に熱間充填し、比較品1とした。
【0064】
(配合)
アセロラ発酵液: 10%
果糖ぶどう糖液糖: 11%
クエン酸: 0.3%
クエン酸ナトリウム: 0.1%
イオン交換水: 78.6%
(%表記はすべて重量%)
【0065】
以上の各アセロラ飲料中のGABA含量を表10に示す。実施品1及び2のGABA含量はそれぞれ比較品1の約25倍及び42倍以上高く、動物試験において両者共に明らかに血圧降下作用があることが認められた。風味については、両者は共にまろやかで良好であったが、実施品2は残存するグルタミン酸ナトリム塩の影響で若干の雑味が感じられた。従って、飲料としては実施品1の方がより好適であると考えられる。
【0066】
【表10】

【0067】
[実施例4]
GABA含有アセロラゼリー(150g)の製造
攪拌機付ジャケットニーダー式調合タンクにイオン交換水を適当量投入し加温してから、クエン酸ナトリウム、グラニュー糖、加温したイオン交換水に高速攪拌タンクを用いて均一に分散させた市販のゲル化剤(三栄源FFI社製)、リンゴ果汁、パイナップル果汁、実施例1又は実施例2で得られた精製アセロラ発酵液を順次投入した。次に、酸味料(クエン酸、リンゴ酸)を適量のイオン交換水に溶解した後、同様に調合タンクに投入した。その後、イオン交換水で所定重量に調整してから、攪拌により均一化し、80℃まで加温し同温度で10分間攪拌した。こうして調製した製品を、カップ充填機を用いて適宜ゼリー用の容器にホットパックし、それぞれ実施品1及び実施品2とした。最後に、80℃の温水に30分浸漬させ、容器を含めた加熱殺菌を行った。
【0068】
また、比較のために、アセロラ発酵液の代わりに、実施例3と同様に、アセロラ発酵液製造の原料であるアセロラピューレを発酵反応させない以外はアセロラ発酵液の精製方法と同様の方法で精製したものを用いて、上述と同じ配合及び同じ製造方法でアセロラゼリー(150g)を製造し、比較品1とした。
【0069】
(配合)
アセロラ発酵液:10%
グラニュー糖:17%
クエン酸:0.3%
クエン酸ナトリウム0.1%
リンゴ酸:0.1%
ゲル化剤(三栄源FFI製):1.2%
イオン交換水:71.3%
(%表記はすべて重量%)
【0070】
以上の各アセロラゼリー中のGABA含量を表11に示す。実施品1及び2のGABA含量はそれぞれ比較品1の約28倍及び48倍以上である。風味については、実施品1はまろやかで良好であり、実施品2は若干のうまみが感じられた。
【0071】
【表11】

【0072】
[実施例5]
GABA含有アセロラ錠剤の製造
以下の配合で、実施例1又は実施例2で得られた精製アセロラ発酵液の粉末化品、還元麦芽糖水飴、セルロース、ショ糖エステル、二酸化珪素、貝カルシウムを粉体混合機に順次投入し、完全に均一となるよう混合した。その後、1錠当たり500mgの量で打錠成型機により打錠成型し、実施品1及び実施品2とした。また、比較のために、アセロラ発酵液の代わりに、実施例3と同様に、アセロラ発酵液製造の原料であるアセロラピューレを発酵反応させない以外はアセロラ発酵液の精製方法と同様の方法で精製したものを用いて得られた粉末からも上述と同じ配合及び同じ製造方法で1錠当たり500mgのアセロラ錠剤を製造し、比較品1とした。
【0073】
以上の各アセロラ錠剤のGABA含量を表12に示す。実施品1及び2のGABA含量はそれぞれ比較品1の約25倍及び43倍以上である。
【0074】
【表12】

【0075】
(配合)
アセロラ発酵液を粉末化したもの:70%
還元麦芽糖水飴:14%
セルロース:10%
ショ糖エステル:5%
二酸化珪素:1%
(%表記はすべて重量%)
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】発酵前後におけるアセロラ処理物中の各種遊離アミノ酸含量の変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセロラ果実又はその処理物に、アセロラ果実又はその処理物の存在下において発酵反応によりγ−アミノ酪酸を生成する能力を有する酵母又はその処理物を作用させることによりγ−アミノ酪酸含有発酵アセロラ製品を製造する方法。
【請求項2】
前記酵母がピキア属又はカンジダ属に属する酵母であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酵母がピキア・アノマラMR−1(受託番号FERM BP−10134)又はそのγ−アミノ酪酸を生成する能力を有する変異株である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
発酵反応が初発pH3.0〜5.0且つ温度32〜45℃の条件において行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
発酵反応がグルタミン酸又はその塩の存在下で行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
発酵反応が窒素雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により製造されたγ−アミノ酪酸含有発酵アセロラ製品。
【請求項8】
飲料、粉末、錠剤又はゼリーの形態である請求項7に記載のγ−アミノ酪酸含有発酵アセロラ製品。
【請求項9】
γ−アミノ酪酸を固形分100g当たり50mg以上含有し、且つビタミンCを固形分100g当たり500mg以上含有する食品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−204259(P2006−204259A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23979(P2005−23979)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(505126610)株式会社ニチレイフーズ (71)
【Fターム(参考)】