説明

ちぢみ模様塗料組成物及びそれを塗布した意匠金属容器

【課題】 桐油などの乾性油を使用したアルキド樹脂に硬化剤樹脂と硬化触媒を配合したちぢみ塗料を、化粧料や食品の収納用金属缶に塗布して、ちぢみ模様を発現する際に、塗料の焼付け過程において乾性油に由来する異臭の発生を低減する。
【解決手段】 水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂、硬化剤のアミノ樹脂又はフェノール樹脂、桐油、及びスルホン酸系硬化触媒を配合したちぢみ模様塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ちぢみ模様塗料組成物及びそれを塗布した意匠金属容器に関し、具体的には、オイルフリーポリエステル樹脂と硬化剤樹脂及び乾性油の桐油を主成分とし、特殊模様であるちぢみ(縮み)模様を鮮明に発現できる塗料組成物、及びちぢみ模様意匠が付され臭気の発生が格別に少ない、化粧料用や食品用などの金属製容器としての美術缶に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
最近の消費者一般における身だしなみの多様化や個性的な化粧の嗜好傾向を反映して、化粧品分野においてヘアスプレイや毛染めなどの化粧料収納金属容器が汎用されており、それらの金属容器においては、消費者一般の高級品指向により美的化粧の付された意匠金属缶(いわゆる美術缶)が好まれる傾向が強くなっている。
【0003】
一般に美的化粧の意匠としては、エンボス模様や絞り模様など従来から種々の模様意匠が使用されているが、それらのうちのひとつとして、いわゆる「ちぢみ(縮み)模様」が知られており、建材や金属化粧板及び車両用装飾資材や飲料用金属缶などに用いられている。
化粧料収納金属容器に塗装などによりちぢみ模様を施すと、従来の単純な塗装を施した金属容器に比して、ちぢみの微小な凹凸による艶消し感やソフトフィール感(柔らかいしっとり感)が顕出されて、高級な商品感覚を呈する意匠金属缶となり、また、消費者の使用時に化粧料意匠金属缶の表面が水などで濡れていても、表面の微小凹凸により把持した指先が滑り難い効用も派生する。
【0004】
ちぢみ模様を形成するには、一般にちぢみ塗料を塗布し焼付けることにより成されている。その塗料としては、水酸基を有するポリエステル樹脂と硬化剤のメチル化メラミン樹脂及びスルホン酸系硬化促進触媒とアミン系硬化遅延触媒からなるちぢみ塗料が多用されている(例えば、特許文献1及び2を参照)。この塗料では、硬化促進触媒と硬化遅延触媒の相互作用により、塗膜表面の硬化が内部より速くなり樹脂の硬化が不均一となってちぢみ模様が発現する。
また、桐油などの成分が共役二重結合を有する乾性油を使用したアルキド樹脂にコバルト有機酸塩を配合したちぢみ塗料も以前から知られており(特許文献1)、加水分解性シリル基を有するビニル系重合体と加水分解触媒及びその触媒のブロック剤からなるちぢみ塗料(特許文献3)、ポリエステル系樹脂などにおいて、架橋機能発現温度が30℃以上異なる二種の感熱型架橋剤を使用するちぢみ塗料なども知られ(特許文献4)、更に、熱収縮性樹脂粉末を含有する樹脂粉体塗料を金属板に塗装して加熱することにより、ちぢみ模様を発現する塗装方法(特許文献5)、金属板に焼付け型の有機塗料を塗布し、その塗膜面上に溶剤を振りかけて焼付けしちぢみ模様を発現するちぢみ模様塗装法(特許文献6)なども提示され、ちぢみ塗料やちぢみ模様塗装法は多種多様に亘っている。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−177073号公報(特許請求の範囲及び第1頁右欄3〜11行)
【特許文献2】特開平11−172163号公報(要約)
【特許文献3】特開平4−126777号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平11−227097号公報(段落0017,0025)
【特許文献5】特開平1−153771号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平10−44309号公報(要約)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
背景技術の段落0003に記述したように、化粧料収納金属容器に塗装などによりちぢみ模様を施すと、高級な商品感覚を呈する意匠金属缶となり、また、使用時に金属缶の表面が水などで濡れていても、把持した指先が滑り難い効用も派生する。
そこで、化粧料収納金属容器に塗装などによりちぢみ模様を施すために、段落0004に記載した従来手法である、桐油などの成分が共役二重結合を有する乾性油を使用したアルキド樹脂にコバルト有機酸塩を配合したちぢみ塗料を使用すると、塗料の焼付け過程で乾性油に由来する臭気(異臭:油酸化臭)が発生する問題が生じ、臭気成分を揮発除去させるために繰り返し焼付けを行ったり、倉庫にて長期の保管をして臭気成分を揮散させる必要が派生して、生産性が低下する事態になっている。
しかして、本発明は、かかるちぢみ塗料の塗装過程で発生する臭気の原因成分をできるだけ低減して、生産性を向上させ、更に商品における臭気残留を抑止することを、発明が解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、化粧料収納金属容器に塗装などによりちぢみ模様を施す際に、桐油などの成分が共役二重結合を有する乾性油を使用したアルキド樹脂にコバルト有機酸塩を配合したちぢみ塗料を使用して塗布焼付けする過程において、乾性油に由来して発生する臭気の原因成分をできるだけ低減することを目指して、原因成分の解明やその低減手段の探索を行った。
【0008】
そして、乾性油中の各成分について勘案し、また、上記のちぢみ塗料の塗膜サンプルをガスクロマトグラフィ装置で分析して、その臭気の原因は、乾性油としての桐油や亜麻仁油及び脱水ひまし油などに含有される、不飽和脂肪酸のリノール酸成分が塗膜の焼付け過程で次式のように酸化分解して、例えばアルデヒド化合物である2,4−デカジエナールを発生し、これが油酸化臭の異臭を発生させることが判明した。

CH−(CH−CH=CH−CH−CH=CH−(CH−COOH――→CH−(CH−CH=CH−CH=CH−CHO
(リノール酸 ―――酸化――→ 2,4−デカジエナール)

したがって、上記の何れの乾性油にもリノール酸が含有されているので、乾性油の量を低減するか、乾性油を使用しないオイルフリーのアルキド樹脂を使用すればよいことが認識された。
【0009】
しかし、乾性油を使用しない塗料(オイルフリー塗料)ではちぢみ模様(結晶模様)は発現せず、乾性油の桐油を配合する塗料ではちぢみ模様が発現し、乾性油でも桐油を配合せず亜麻仁油又は脱水ひまし油などを配合する塗料では、ちぢみ模様は殆ど発現しない。
桐油はα−エレオステアリン酸を主成分としリノール酸とオレイン酸を副成分とする。亜麻仁油はリノレン酸を主成分としリノール酸とオレイン酸を副成分とする。脱水ひまし油はリシノール酸を主成分としリノール酸とオレイン酸を副成分とする。よって、それぞれ主成分は異なっており、リノール酸とオレイン酸を共通成分とするので、ちぢみ模様は桐油の成分であるα−エレオステアリン酸に由来するといえる。
α−エレオステアリン酸は、次式の化学式構造を有しており三連続の共役二重結合がちぢみ模様発現に重要な役割を成していると推定される。

CH−(CH−CH=CH−CH=CH−CH=CH−(CH−COOH

したがって、ちぢみ模様の発現のためには、α−エレオステアリン酸を塗料成分として配合すればよいといえるが、桐油から敢えてα−エレオステアリン酸を単離して使用しなくても、桐油をそのまま塗料成分として配合すればよい。
【0010】
以上の解析と考察からして、ちぢみ塗料において、乾性油配合量を減量するか、乾性油を使用しなければ、臭気は低減されるか、発生しないこととなり、ちぢみ模様の発現のためには、乾性油として桐油成分(乾性油の一種)のみが必要である。逆に、桐油成分の配合は臭気を発生させることとなる。
結局、臭気の低減のためには亜麻仁油などの一般乾性油及び桐油の配合は少ないほうがよく(オイルフリーが最も好ましい)、ちぢみ模様の発現のためには桐油の配合は多いほうがよいこととなって、桐油においては臭気低減と模様発現のバランスがとれる配合料の適量があるはずである。
そして、本発明者らは、実験試行と実証検討によって、後記の実施例と比較例の対照により明確なように、臭気低減と模様発現のバランスが取れる、樹脂組成と桐油配合料の適量をも見い出すことができ、結果として、化粧料収納金属容器に塗装などによりちぢみ模様を施す際に、桐油などの成分が共役二重結合を有する乾性油を配合したちぢみ塗料を使用しても、臭気が格別に低減され、ちぢみ模様は鮮明に発現する、ちぢみ模様塗料組成物の本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして、本発明のちぢみ模様塗料組成物は、具体的な構成として、(A)水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂、(B)硬化剤としての樹脂、(C)桐油、及び(D)硬化触媒を含有することを特徴とする、塗料(被覆剤)組成物であり、配合成分の適量要件として、(A)水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂を固形分として25〜88重量部、(B)硬化剤樹脂を固形分として5〜60重量部、(C)桐油を7〜20重量部、及び(D)硬化触媒を固形分として0.2〜2重量部を含有する、ちぢみ模様塗料組成物となる。
【0012】
本発明における特有の構成の要件とそれによる格別の特徴を列記すると、(i)化粧料や食品などを収納する金属容器としての美術缶にちぢみ塗料の塗装によりちぢみ模様を施し、(ii)それにより高級な商品感覚を呈する意匠金属缶となり、また、使用時に金属缶の表面が水などで濡れていても、把持した指先が滑り難い効用も派生する。(iii)乾性油として適量の桐油を配合し、水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂に硬化剤樹脂と硬化触媒を配合したちぢみ塗料を使用し、(iv)それにより塗料の焼付け過程で乾性油に由来する臭気の発生が格別に低減され、(v)臭気の発生が実質的に無いのに、ちぢみ模様が鮮明に発現する。(vi)臭気成分を揮発除去させるために繰り返し焼付けを行ったり、倉庫にて長期の保管をして臭気成分を揮散させる必要が無くなり、焼付け時間も数分以下の短時間で済み、生産性が向上し、更に商品における臭気残留も無い。
【0013】
本発明においてはより具体的には、水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂がオイルフリーアルキド樹脂であり、硬化剤がアミノ樹脂又はフェノール樹脂であり、桐油がα−エレオステアリン酸を主成分とし、硬化触媒がスルホン酸系触媒であり、溶剤を使用することをも特徴とする。更に、アミノ樹脂がメチル化メラミン樹脂であることも特徴とする。
本発明におけるちぢみ塗料の塗布方法は、(A)主剤のオイルフリーアルキド樹脂、(B)硬化剤であるアミノ樹脂又はフェノール樹脂、(C)乾性油の桐油、(D)硬化触媒のスルホン酸系触媒、及び(E)溶剤を含有する、ちぢみ模様塗料組成物を基材に塗布し90〜130℃の温度にて低温焼付けを行い、次いで160℃以上の温度にて高温焼付けを行う。その際に、基材に下地処理及び/又は印刷を施してから、ちぢみ模様塗料を塗布し、必要により上塗りを行ってもよい。
【0014】
ところで、段落0004〜0005において記述した、ちぢみ塗料及びちぢみ模様塗装法に係る従来技術の特許文献を顧みても、また、その他の特許文献を精査しても、段落0012において記載した本発明における特有の新規な構成及び特徴(作用効果)に関する記載を見い出すことはできず、本発明は、注目されるべき新しい、臭気のない意匠性金属缶の技術を生み出したものといえよう。
なお、先の特許文献1における第1頁の右欄に、乾性油として桐油を配合し、アルキド樹脂に硬化剤樹脂と硬化触媒を配合した、従来のちぢみ塗料の記載が見られるが、段落0012に記載した本発明の特有の(iii)における構成の要件とは異なるものであり、(i)〜(vi)における特有の構成の要件と格別の特徴を窺わせるものでもない。
【0015】
以上において、発明の課題を解決するための手段として、本発明の創作される経緯並びに本発明の基本的な構成及び特徴に沿って、本発明を概観的に記述したので、ここで、本発明全体を俯瞰して明確に記載すると、本発明は、次の発明単位群から構成されるものであって、[1]及び[6]の発明を基本発明とし、それ以外の発明は、基本発明を具体化ないしは実施態様化するものである。なお、発明群全体をまとめて「本発明」という。
【0016】
[1](A)水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂、(B)硬化剤樹脂、(C)桐油、及び(D)硬化触媒を含有することを特徴とする、被覆剤組成物。
[2][1]における被覆剤組成物において、(A)水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂を固形分として25〜88重量部、(B)硬化剤樹脂を固形分として5〜60重量部、(C)桐油を7〜20重量部、及び(D)硬化触媒を固形分として0.2〜2重量部を含有することを特徴とする、ちぢみ模様塗料組成物。
[3]水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂が水酸基を有するオイルフリーアルキド樹脂であり、硬化剤樹脂がアミノ樹脂又はフェノール樹脂であり、桐油がα−エレオステアリン酸を主成分とし、硬化触媒がスルホン酸系触媒であり、溶剤を使用することを特徴とする、[2]におけるちぢみ模様塗料組成物。
[4]アミノ樹脂がメチル化メラミン樹脂を主成分とすることを特徴とする、[3]におけるちぢみ模様塗料組成物。
[5]桐油中のリノール酸の酸化に由来する、臭気成分の2,4−デカジエナールの発生が低減されることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかにおけるちぢみ模様塗料組成物。
[6](A)主剤の水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂、(B)硬化剤であるアミノ樹脂又はフェノール樹脂、(C)乾性油の桐油、(D)硬化触媒のスルホン酸系触媒、及び(E)溶剤を含有する、ちぢみ模様塗料組成物を基材に塗布し、90〜130℃の温度にて低温焼付けを行い、次いで160℃以上の温度にて高温焼付けを行うことを特徴とする、ちぢみ模様塗料組成物の塗布方法。
[7]基材に下地処理及び/又は印刷を施してから、ちぢみ模様塗料組成物を塗布し、必要により上塗りを行うことを特徴とする、[6]におけるちぢみ模様塗料組成物の塗布方法。
[8]ちぢみ模様塗料組成物の塗布焼付けが、基材の成形加工前又は成形加工後に行われることを特徴とする、[6]又は[7]におけるちぢみ模様塗料組成物の塗布方法。
[9][1]〜[5]におけるちぢみ模様塗料組成物が塗布焼付けされたことを特徴とする、ちぢみ模様意匠が付され、臭気の発生が格別に少ない金属製容器。
[10]金属製の容器が化粧料収納金属缶であることを特徴とする、[9]における金属製容器。
[11]金属製の容器が飲食品収納金属缶であることを特徴とする、[9]における金属製容器。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、金属容器にちぢみ塗料の塗装によりちぢみ模様を施し、それにより高級な商品感覚を呈する意匠金属缶となり、また、使用時に金属缶の表面が水などで濡れていても、把持した指先が滑り難い効用も派生する。
また、塗料の焼付け過程で乾性油に由来する臭気の発生が格別に低減され、臭気の発生が実質的に無いのにちぢみ模様が鮮明に発現する。
更に、臭気成分を揮発除去させるために繰り返し焼付けを行ったり、倉庫にて長期の保管をして臭気成分を揮散させる必要が無くなり、焼付け時間も数分以下の短時間で済み、生産性が向上し、商品における臭気残留も無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明については、本発明の課題を解決するための手段として、本発明の基本的な構成に沿って以上において記述したが、以下においては、本発明群の発明についての実施の形態を具体的に詳しく説明する。
【0019】
1.ちぢみ模様
ちぢみ(縮み)模様は、美的化粧の意匠であり、エンボス模様や皮革模様などと共に従来から使用されている模様意匠である。塗膜に微細な凹凸や皺或いは絞りなどが形成され、艶消し感も伴う「ちぢみ模様感」を呈するものである。
化粧料収納用などの金属容器に塗装などによりちぢみ模様を施すと、従来の単純な塗装を施した金属容器に比して、ちぢみの微小な凹凸による艶消し感やソフトフィール感(柔らかいしっとり感)が顕出されて、高級な商品感覚を呈する意匠金属缶となり、また、消費者の使用時に化粧料意匠金属缶の表面が水などで濡れていても、表面の微小凹凸により把持した指先が滑り難い効用も派生する。
本発明においては、ちぢみ模様を形成するには本発明のちぢみ塗料組成物を塗布し焼付けることにより成される。
【0020】
2.ちぢみ模様塗料組成物における材料
(1)水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂
水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂は、水酸基において硬化剤のアミノ系樹脂などにより三次元状に架橋され結合され硬化する。
本発明でいうオイルフリーとは、変性油としての桐油や亜麻仁油及び脱水ひまし油などの天然油脂の乾性油を、少量のみ含有するか或いは全く含有しないことを意味する。
【0021】
水酸基含有ポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコール成分とのエステル化物からなる重合体である。
多塩基酸成分としては、例えば無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸、イタコン酸などが使用される。安息香酸などの一塩基酸や、無水トリメリット酸などの多塩基酸を併用してもよい。
多価アルコール成分としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの二価アルコールが主に用いられ、更にグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコールを併用することができる。
【0022】
塗料組成物中の水酸基含有ポリエステル樹脂の量は、段落0016の[2]の組成配合において、樹脂固形分として好適には、25〜88重量部、より好ましくは40〜70重量部である。この範囲外では、塗膜形成性や塗装性が劣る。
【0023】
(2)水酸基を有するオイルフリーアルキド樹脂
アルキド樹脂の名称はポリエステル樹脂と同義で使用される場合もあるが、通常は、乾性油などの天然油脂やロジンなどの天然樹脂を配合した変性ポリエステル樹脂を意味し、本発明においては乾性油変性ポリエステル樹脂を意味する。そして本発明ではオイルフリーなので、変性油としての桐油や亜麻仁油及び脱水ひまし油などの天然油脂の乾性油を、少量のみ含有するか、或いは全く含有しない。
水酸基を有するオイルフリーアルキド樹脂は、水酸基において硬化剤のアミノ系樹脂などにより三次元状に架橋され結合され硬化する。
【0024】
(3)硬化剤樹脂
硬化剤は通常のアミノ樹脂又はフェノール樹脂であり、水酸基を有するオイルフリーの、ポリエステル樹脂及びアルキド樹脂を水酸基において三次元状に架橋して硬化する。
アミノ樹脂は、メラミンやベンゾグアナミンとホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒドなどを重合して製造する、メチロール基を有するメラミン樹脂などであり、フェノール樹脂はフェノールとホルムアルデヒドなどを重合して製造するメチロール基を有するフェノール樹脂などである。アミノ樹脂とフェノール樹脂とでは、アミノ樹脂の方が黄変などが少なく外観上の観点から好ましい。
【0025】
好適には、塗料組成物中の硬化剤樹脂の量は、段落0016の[2]の組成配合において、樹脂固形分として、5〜60重量部、より好ましくは15〜45重量部である。これより少ないと硬化が不足し、これより多いと形成された塗膜の加工性が劣る。
【0026】
(4)桐油
桐油は通常の天然油脂である天然の桐油が使用され、アブラギリやシナアブラギリなどの種子より得られる。
α−エレオステアリン酸の不飽和酸を主成分として60〜80%程度含有し、リノール酸とオレイン酸を副成分として含有する乾性油である。
段落0009に前記したとおりに、ちぢみ模様発現のための必須の塗料成分である。
【0027】
塗料組成物中の桐油の量は、段落0016の[2]の組成配合において、好適には7〜20重量部、より好ましくは10〜15重量部である。これより少ないとちぢみ模様の発現が充分ではなく、これより多いと臭気の発生が多くなる。
【0028】
(5)硬化触媒
硬化触媒は、硬化剤のアミノ樹脂又はフェノール樹脂が、水酸基を有するオイルフリーの、ポリエステル樹脂及びアルキド樹脂を水酸基において三次元状に架橋して硬化する反応を促進する触媒である。
スルホン酸系触媒が好適に使用され、その他Co−Zr系などの金属ドライアーが使用される。
【0029】
(6)その他
本発明の塗料組成物においては、通常の塗料溶媒を使用してよく、トルエンやキシレンなどの芳香族系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、エタノールなどのアルコール系溶剤が代表的に例示される。
また、通常の塗料用各種添加剤を配合してもよく、染料、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、充填剤、レベリング剤、シリカ微粉末ちぢみ模様調整剤などが例示される。
【0030】
3.ちぢみ模様塗料組成物の塗装方法
(1)塗装方法
本発明においては、ちぢみ模様塗料組成物の塗装方法として、(A)主剤の水酸基を有するオイルフリーポリエステルないしはアルキド樹脂、(B)硬化剤であるアミノ樹脂又はフェノール樹脂、(C)乾性油の桐油、(D)硬化触媒のスルホン酸系触媒、及び(E)溶剤を含有する、ちぢみ模様塗料組成物を金属などの基材に塗布し90〜130℃の温度にて低温焼付けを行い、タックフリーにするために、次いで160℃以上の温度にて高温焼付けを行う。焼付け時間としては、例えば、低温焼付けでは1〜2分、高温焼付け(例えば180℃)では2〜10分程度である。
本発明の塗料組成物は、この二段階の焼付けを行うことによって、大きなセル状の枠模様の内に細かい線状模様を有する特異的なちぢみ模様を充分に鮮明に発現させることができる。
【0031】
基材に通常の下地処理及び/又は印刷を施してから、ちぢみ模様塗料を塗布し、必要により上塗りを行ってもよく、ちぢみ塗料の塗布焼付けが、基材の成形加工前又は成形加工後に行われる。
金属板や金属缶に直接に塗布する代わりに、金属缶のラミネートフィルムに塗布してもよい。なお、塗装をする金属缶の金属基材としては、ブリキやTFS及びアルミニウム合金板などの缶用金属材を使用できる。
【0032】
(2)塗布方法
塗布方法は、通常の各種塗布方法が使用され、ロールコーターなどの各種の塗布装置が使用される。
塗布後の焼付けは、シートオーブンやピンオーブン、マットオーブンなどが使用できる。
【0033】
4.ちぢみ模様塗料組成物の利用
本発明においては、ちぢみ模様塗料組成物の利用の態様として、好適には、ちぢみ模様塗料組成物が塗布焼付けされて、ちぢみ模様意匠が付され臭気の発生が格別に少ない金属製容器、及び金属製の容器が化粧料収納金属缶であり、又は金属製の容器が飲食品収納金属缶である各種の製品である。
化粧品分野におけるヘアスプレイや毛染めなどの化粧料収納金属容器の塗装に最適に利用され、最近の消費者における高級品指向傾向に合致した美的化粧の付された意匠金属缶(いわゆる美術缶)として商品化される。
【実施例】
【0034】
以下において、本発明をより具体的にかつ明確に説明するために、本発明を実施例及び比較例との対照において記載し、本発明の構成の要件の合理性と有意性及び従来例に対する卓越性を実証する。
【0035】
[実施例−1]
KA−1062(荒川化学工業・製:オイルフリーポリエステル樹脂 固形分50%)140部、サイメル350(三井サイテック(株)・製:メチロールメラミン樹脂 固形分100%)15部、桐油15部をよく混合し、更にキャタリスト600(三井サイテック(株)・製:ドデシルベンゼンスルホン酸 固形分70%)0.71部を加え均一に撹拌する。
その後、キシレン/ブチルセロソルブ=1/1の混合溶剤により粘度70秒(フォードカップ#4,25℃)固形分60%に調整し塗料とした。(なお、「部」は重量部を表わす。)
【0036】
[実施例−2〜6]
後記の表1に示す配合組成で粘度調整する以外は実施例−1と同様に行い、粘度70秒(フォードカップ#4,25℃)固形分58〜62%の塗料を得た。
【0037】
[比較例−1]
アラキード5301X−50(荒川化学工業・製:大豆変性アルキッド樹脂 油長40% 固形分50%)130部、サイメル350(三井サイテック(株)・製:メチロールメラミン樹脂 固形分100%)15部、桐油20部をよく混合し、更にキャタリスト600(三井サイテック(株)・製:ドデシルベンゼンスルホン酸 固形分70%)0.71部を加え均一に撹拌する。その後、キシレン/ブチルセロソルブ=1/1の混合溶剤により粘度70秒(フォードカップ#4,25℃)固形分62%に調整し塗料とした。
【0038】
[比較例−2]
後記の表2に示す配合組成で粘度調整する以外は比較例−1と同様に行い、粘度70秒(フォードカップ#4,25℃)固形分61%の塗料を得た。
【0039】
[比較例−3〜9]
後記の表2に示す配合組成で粘度調整する以外は比較例−1と同様に行い、粘度70秒(フォードカップ#4,25℃)固形分58〜62%の塗料を得た。
【0040】
各実施例と各比較例による塗料の性能を、以下の試験方法にて測定し表1,2に掲載する。
[試験塗装板の作成]
ブリキ板(板厚 0.18mm)に、乾燥膜厚が8μmとなるように塗装し、焼付けて試験塗装板を作成した。なお、この際、熱風循環オーブンを使用し110℃で2分間焼付け、その直後に190℃で7分間の焼付けを行った。
【0041】
[試験方法]
臭気:
パネラー(10名)により、通常の仕上げワニス塗装板と上記の試験塗装板の臭気を目隠しの状態で評価した。
臭気成分のGC分析:
実施例4、比較例1,8,9に関しては、熱脱着冷却捕集(TCT)ガスクロマトグラフィー(GC)質量分析(MS)にて臭気成分量を評価した。具体的には上記の試験塗装板の切片を80度で10分間加熱し、揮発した臭気成分を−110℃にて冷却捕集し、GC−MS分析を行った。
パネラーによる臭気の試験結果は下記の基準で評価し、表1,2に掲載した。
○:臭気(油臭)を殆ど感じない。(通常塗装板と同等の臭気である。)
△:多少臭気(油臭)を感じる。
×:強く臭気(油臭)を感じる。
【0042】
ちぢみ模様:
塗装面の外観を肉眼と顕微鏡で観察し下記の基準で評価し、表1,2に掲載した。
○:ちぢみ模様の発現が均一で、一次模様と二次模様の凹凸が強い。
△:ちぢみ模様の発現が不均一で、一次模様と二次模様の凹凸が弱い。
×:ちぢみ模様が一次模様だけしか発現しないか、何も発現しない。
(なお、一次模様とは、ちぢみ模様の中で、大きなセル状の枠の部分の模様である。二次模様とは、一次模様の内に発現する更に細かい線状及びジグザグ状の模様である。)
【0043】
加工性:
カッピングプレスを用い塗装面を外側にして、直径25mm・高さ15mmのカップに成形し、塗装の加工性度合いを下記の基準で評価した。
○:成形カップ端からの塗膜剥離が3mm以内である。
△:成形カップ端からの塗膜剥離が3〜8mmである。
×:成形カップ端からの塗膜剥離が8mm以上である。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
なお、実施例4及び比較例1,8,9における、異臭の原因物質である2,4−デカジエナールなどの低分子化合物生成量を評価した結果を図1にグラフ図として掲示する。低分子化合物生成量の測定は、TCT−GC−MS分析により行った。塗装サンプル切片を80℃で10分間加熱し、揮発成分をコールドトラップして評価した。
【0047】
[各実施例と各比較例の対照による考察]
表1に掲載されているとおりに、各実施例においては、本発明の構成における「(A)水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂、(B)硬化剤樹脂、(C)桐油、及び(D)硬化触媒を含有する」の要件を全て備えているので、(また、オイルフリー樹脂を使用して総オイル配合量を大幅に減少させ、桐油配合量は中程度に減少させているので)、臭気とちぢみ模様発現及び加工性の全ての性能が良好である。
すなわち、臭気(油臭)は殆ど認められず、ちぢみ模様の発現がやや弱い実施例があるとしても、大略において、ちぢみ模様は発現が均一であり、一次と二次の模様の凹凸も強く鮮明であって、缶への成形時に塗膜の剥離が殆ど無く加工性も良好である。
【0048】
表2に掲載されているとおりに、各比較例においては、本発明の構成における「(A)水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂、(B)硬化剤樹脂、(C)桐油、及び(D)硬化触媒を含有する」の要件を全ては備えていないか、配合量が適正でないので、臭気とちぢみ模様発現及び加工性の性能のいずれかが劣る結果になっている。
すなわち、比較例1,2では、オイルフリーポリエステル樹脂が使用されず、従来のオイル含有アルキド樹脂が使用されているので、ちぢみ模様発現と加工性は良好であるが、臭気の発生が抑制されていない。
比較例3では、桐油の使用割合が少な過ぎて、臭気の発生が殆ど無いとしても、ちぢみ模様の発現が無く劣っている。
比較例4,5では、オイルフリーポリエステル樹脂が使用されず、アルキド樹脂の使用量が少ないが、ちぢみ模様は発現されるとしても、臭気の発生が充分には抑制されず、加工性も不充分である。
比較例6では、硬化触媒が使用されず、比較例7では、硬化触媒の使用量が少な過ぎるので、臭気の発生が殆ど無く加工性も良いとしても、共にちぢみ模様の発現が不足している。
比較例8,9では、比較例1に比して桐油量を減らしてもオイルフリーポリエステル樹脂が使用されていないので、臭気の発生が抑制されず、ちぢみ模様の発現も不充分である。
【0049】
なお、図1に示されるように、実施例4では、比較例1,8,9に比べて、臭気成分の2,4−デカジエナールなどの揮発が大幅に減少している。
【0050】
以上における、各実施例と各比較例の結果及び考察からして、本発明の構成の各要件の合理性と有意性が実証され、さらに本発明の従来技術に対する格別の卓越性も明らかにされている。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例及び比較例における、異臭の原因物質である2,4−デカジエナールなどの低分子化合物生成量を評価したグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂、(B)硬化剤樹脂、(C)桐油、及び(D)硬化触媒を含有することを特徴とする、被覆剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載された被覆剤組成物において、(A)水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂を固形分として25〜88重量部、(B)硬化剤樹脂を固形分として5〜60重量部、(C)桐油を7〜20重量部、及び(D)硬化触媒を固形分として0.2〜2重量部を含有することを特徴とする、ちぢみ模様塗料組成物。
【請求項3】
水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂が水酸基を有するオイルフリーアルキド樹脂であり、硬化剤樹脂がアミノ樹脂又はフェノール樹脂であり、桐油がα−エレオステアリン酸を主成分とし、硬化触媒がスルホン酸系触媒であり、溶剤を使用することを特徴とする、請求項2に記載されたちぢみ模様塗料組成物。
【請求項4】
アミノ樹脂がメチル化メラミン樹脂を主成分とすることを特徴とする、請求項3に記載されたちぢみ模様塗料組成物。
【請求項5】
桐油中のリノール酸の酸化に由来する、臭気成分の2,4−デカジエナールの発生が低減されることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載されたちぢみ模様塗料組成物。
【請求項6】
(A)主剤の水酸基を有するオイルフリーポリエステル樹脂、(B)硬化剤であるアミノ樹脂又はフェノール樹脂、(C)乾性油の桐油、(D)硬化触媒のスルホン酸系触媒、及び(E)溶剤を含有する、ちぢみ模様塗料組成物を基材に塗布し、90〜130℃の温度にて低温焼付けを行い、次いで160℃以上の温度にて高温焼付けを行うことを特徴とする、ちぢみ模様塗料組成物の塗布方法。
【請求項7】
基材に下地処理及び/又は印刷を施してから、ちぢみ模様塗料組成物を塗布し、必要により上塗りを行うことを特徴とする、請求項6に記載されたちぢみ模様塗料組成物の塗布方法。
【請求項8】
ちぢみ模様塗料組成物の塗布焼付けが、基材の成形加工前又は成形加工後に行われることを特徴とする、請求項6又は請求項7に記載されたちぢみ模様塗料組成物の塗布方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載されたちぢみ模様塗料組成物が塗布焼付けされたことを特徴とする、ちぢみ模様意匠が付され、臭気発生が格別に少ない金属製容器。
【請求項10】
金属製の容器が化粧料収納金属缶であることを特徴とする、請求項9に記載された金属製容器。
【請求項11】
金属製の容器が飲食品収納金属缶であることを特徴とする、請求項9に記載された金属製容器。

【図1】
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【公開番号】特開2008−195796(P2008−195796A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31148(P2007−31148)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(502314920)バルスパーロック株式会社 (4)
【Fターム(参考)】