説明

アクチュエータおよび制御方法

【課題】複動型シリンダを有するアクチュエータの動作を安定させる。
【解決手段】中空のシリンダと、シリンダに収容されて、シリンダと共に一対の圧力室を形成しつつ、シリンダに対して相対移動するピストンと、一対の圧力室の各々を、作動流体の圧力源または排出部に対して連通または遮断させる一対の制御弁と、シリンダに対するピストンの位置を検出する位置検出器と、一対の圧力室の各々における作動流体の圧力を個別に検出する一対の圧力検出器と、位置検出器が検出する位置が所与の目標位置に近づき、且つ、圧力検出器が検出する圧力の平均が所与の目標圧力に近づくように、制御弁を制御する制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータおよび制御方法に関する。より詳細には、作動流体により対象物を目標位置まで移動させるアクチュエータと、当該アクチュエータを制御するアクチュエータ制御方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
空気等の作動流体を用いて対象物を目標位置に向かって移動させるアクチュエータがある。アクチュエータは、シリンダとその内部に配置されたピストンにより画成された圧力室と、圧力室を供給源に結合させて作動流体を供給し、あるいは、圧力室を外部に結合させて空気を排出する制御弁とを有する。更に、アクチュエータは、対象物の位置を検出して制御弁の動作をサーボ制御する制御部を有する場合がある。
【0003】
下記の特許文献1には、ピストンを挟んで形成された一対の圧力室を有する複動型シリンダにおいて、一対の圧力室相互の間に、ピストンおよびシリンダの摺動抵抗に見合う圧力差を予め与えて、アクチュエータの応答速度を向上させることが記載される。また、下記の特許文献2には、ピストンのシリンダに対する位置に応じてサーボ利得を調整することにより、位置制御の精度を向上させることが記載される。
【0004】
更に、下記の特許文献3には、スライダに対する指令値とスライダの位置に関するサンプリング値とに基づいて補正した指令値を発生することが記載される。また更に、下記の特許文献4には、位置検出信号に基づいて圧力室の圧力を制御することにより、スライダの位置による動特性変化の非線形性を補償して、有効ストロークを拡張して安定に動作させることが記載される。
【特許文献1】特開平06−221307号公報
【特許文献2】特開平11−249746号公報
【特許文献3】特開2001−336504号公報
【特許文献4】特開2002−295404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複動型シリンダを有するアクチュエータは、サーボ弁を用いて一対の圧力室の圧力に差圧を発生させることにより制御されていた。しかしながら、圧力室からは、外部に対してある程度の作動流体の漏れが生じている。このため、双方の圧力室の圧力が共に低下した場合、目標位置に到達した対象物をその位置に止める力が弱くなり、外乱により残差が拡大して位置決め精度が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、上記課題を解決すべく、本発明の第1の形態として、中空のシリンダと、シリンダに収容されて、シリンダと共に一対の圧力室を形成しつつ、シリンダに対して相対移動するピストンと、一対の圧力室の各々を、作動流体の圧力源または排出部に対して連通または遮断させる一対の制御弁と、シリンダに対するピストンの位置を検出する位置検出器と、一対の圧力室の各々における作動流体の圧力を個別に検出する一対の圧力検出器と、位置検出器が検出する位置が所与の目標位置に近づき、且つ、圧力検出器が検出する圧力の平均が所与の目標圧力に近づくように、制御弁を制御する制御部とを備えるアクチュエータが提供される。
【0007】
また、本発明の第2の形態として、中空のシリンダと、シリンダに収容されて、シリンダと共に一対の圧力室を形成しつつ、シリンダに対して相対移動するピストンと、一対の圧力室の各々を、作動流体の圧力源または排出部に対して連通または遮断させる一対の制御弁とを備えたアクチュエータを制御する制御方法であって、シリンダに対するピストンの位置を検出する段階と、一対の圧力室の各々における作動流体の圧力を個別に検出する段階と、ピストンの位置が所与の目標位置に近づき、且つ、作動流体の平均圧力が所与の目標圧力に近づくように、制御弁を制御する段階とを備える制御方法が提供される。
【0008】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションも発明となり得る。
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決に必須であるとは限らない。
【実施例1】
【0010】
図1は、アクチュエータ100の構造を模式的に示す図である。アクチュエータ100は、対象物を移動させる動作をする作動部101と、作動部101の動作を制御する制御部102とを備える。
【0011】
作動部101は、アクチュエータ100が設置される床等に固定された固定部111と、固定部111に対して移動する可動部112とを有する。更に、固定部111は、基盤110、支柱120、案内部130およびピストン140を含む。可動部112は、シリンダ150およびステージ160を含む。
【0012】
固定部111において、基盤110は、床等に水平に固定されて、アクチュエータ100全体の動作の基準となる。支柱120は、基盤110上の異なる位置に離間して起立し、案内部130の両端を支持する。
【0013】
案内部130は、その略中央にピストン140を保持する。また、案内部130は、支柱120からピストン140に至る途中の部分においてシリンダ150の側端面を貫通して、シリンダ150の移動方向を案内する。
【0014】
可動部112において、シリンダ150は、案内部130に両端を案内されつつ、ピストン140を内包する。シリンダ150の内部には、シリンダ150の内壁およびピストン140により画成された一対の圧力室152、154が形成される。
【0015】
圧力室152、154の内部には、ピストン140の側壁に開口した流路151、153、155、157が連通する。流路151、153は、後述するサーボ弁232、242を介して、圧力室152、154に対して個別に作動流体を供給または排出させる。これにより一対の圧力室152、154相互の間に差圧を生じさせることができる。
【0016】
圧力室152、154相互の間に差圧が生じた場合、差圧の大きさに応じて発生した推力が、シリンダ150を含む可動部112を、その質量に反比例した加速度で加速して移動させる。ステージ160は、シリンダ150に搭載されてシリンダ150と共に移動する。
【0017】
このように、アクチュエータ100においては、ピストン140が固定され、シリンダ150がステージ160と共に移動する。このような構造により、簡潔な構造で複動型シリンダを形成できる。
【0018】
圧力室152、154に連通する他の流路155、157は、基盤110に配された圧力センサ234、244に結合される。これにより、圧力センサ234、244は、圧力室152、154の内部圧力を個別に検出する。
【0019】
なお、流路155、157および圧力センサ234、244の容量は小さいので、流路155、157における作動流体の流量も小さい。従って、流路155、157および圧力センサ234、244の存在により、圧力室152、154の内部圧力が受ける影響は無視できる。ただし、作動流体の移動が頻繁な場合は、動分圧の影響を受けないように、圧力センサ234、244をシリンダ150の近傍に配置して流路155、157を短縮することが好ましい。
【0020】
可動部112側のシリンダ150は、案内部130に対して平行に装着されたリニアスケール172を更に備える。一方、固定部111側の基盤110には、エンコーダ170が配される。エンコーダ170は、シリンダ150と共に移動するリニアスケール172の目盛りを検出して、シリンダ150の移動量に対応したパルス信号を発生する。
【0021】
なお、シリンダ150に対する位置センサの構造が上記に限られるわけではなく、光学的、磁気的に位置を検出するセンサを用いてもよい。また、用途に応じて、干渉計のように精度の高いセンサを用いてもよい。更に、エンコーダは、初期値からの移動量を積算するインクリメント型と、絶対的な位置を検出するアブソリュート型とをいずれも使用できる。
【0022】
なお、図示は省いたが、シリンダ150およびピストン140の間の摺動面、並びに、シリンダ150および案内部130の間の摺動面には、作動流体の層流を利用した静圧軸受けが形成される。このため、シリンダ150および案内部130の間隙から外部へ作動流体の漏洩が生じる。
【0023】
制御部102は、サーボ弁制御部220、一対のサーボ弁アンプ230、240および一対のサーボ弁232、242を含む。更に、制御部102は、サーボ弁232、242に連通する圧力源210および排出部250を含む。
【0024】
圧力源210は、サーボ弁232、242を介して圧力室152、154に加圧された作動流体を供給する。圧力源210の直近には、圧力計212が配され、圧力源210における作動流体の圧力が監視される。圧力室152、154に供給される作動流体の圧力は、圧力源210の圧力に等しいか、それよりも低い。
【0025】
なお、圧力源210の圧力を安定させるレギュレータを更に設けてもよい。作動流体としては、例えば乾燥空気を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0026】
排出部250は、サーボ弁232、242を介して、圧力室152、154の内部から作動流体を排出する。排出部250は、大気開放により形成してもよいし、積極的に減圧した真空源を用いてもよい。また、排出部250の直近には圧力計252が配され、排出部250における排気圧力が監視される。
【0027】
サーボ弁制御部220は、エンコーダ170および圧力センサ234、244の検出結果を参照しつつ、サーボ弁アンプ230、240に指令を発する。サーボ弁制御部220の構造は、デジタル式であってもアナログ式であってもよい。また、サーボ弁制御部220は、圧力計212、252の計測結果も併せて参照してもよい。
【0028】
サーボ弁232、242の各々は、例えば、電磁モータにより駆動されるスプール軸を備えた流量制御弁であり、スプール位置に応じた流量で作動流体を流通させる。スプール位置は、外部から受けた指令により決定される。本実施形態では、サーボ弁アンプ230、240から供給される駆動電流により動作する。なお、サーボ弁232、242がスプール位置を検出するセンサを備えてもよい。
【0029】
また、サーボ弁232、242の制御口は、流路151、153を介して圧力室152、154の各々に接続される。サーボ弁232、242の供給口は圧力源210に、サーボ弁232、242の排気口は排出部250に、それぞれ接続される。これにより、サーボ弁232、242は、圧力室152、154に対して作動流体を供給または排出させることができる。
【0030】
図2は、上記のような構造を有するアクチュエータ100の制御部102において実行される制御手順を示す流れ図である。アクチュエータ100の動作が開始されると、まず、サーボ弁制御部220に、目標位置Eおよび目標圧力Mが設定される(ステップS101)。ここで、目標位置Eは、例えば、ステージ160が到達すべき位置を意味する。また、目標圧力Mは、例えば、一対の圧力室152、154の平均圧力がとるべき圧力値を意味する。
【0031】
次に、上記目標位置Eに対する現在のステージ160の位置の差分が距離残差として算出される(ステップS102)。距離残差は、例えば、リニアスケール172の目盛りの数により表すことができる。更に、距離残差を解消させる場合に、圧力室152、154に供給すべき、または、圧力室152、154から排出すべき作動流体の量を示す、距離制御量が算出される(ステップS103)。
【0032】
上記のステップS102、S103と略同時に、圧力室152、154の現在の平均圧力と目標圧力Mとの差分が、圧力残差として算出される(ステップS104)。更に、圧力残差を解消させる場合に、圧力室152、154に供給すべき、または、圧力室152、154から排出すべき作動流体の量を示す、圧力制御量が算出される(ステップS105)。
【0033】
こうして算出された距離制御量および圧力制御量は合算され、単一の動作指令としてサーボ弁アンプ230、240に発信される(ステップS106)。ただし、一対の圧力室152、154に対応して、サーボ弁アンプ230、240も一対設けられている。このため、サーボ弁アンプ230、240には、相補的な動作を指示する指令が発信される。
【0034】
これにより、サーボ弁232、242が駆動され、圧力室152、154に対して、作動流体が供給または排出される(ステップS107)。これらの一連の動作により圧力室152、154に対する作動流体の供給または排出が完了すると、エンコーダ170の検出値に基づいて、距離残差が解消されたか否かが検査される(ステップS108)。また、距離残差が解消されていた場合(ステップS108:YES)は、圧力センサ234、244の出力に基づいて、圧力残差が解消されたか否かを検査する(ステップS109)。ステップS109により圧力残差も解消されたことが検出された場合(ステップS109:YES)は、アクチュエータ100の動作が完了する。
【0035】
一方、距離残差が残っていた場合(ステップS108:NO)は、ステップS102からステップS107までの一連の処理が再び実行される。また、圧力残差が残っていた場合(ステップS109:NO)は、ステップS104からステップS107までの処理が再び実行される。なお、ステップS108およびステップS109を実行する順序は、逆であっても、同時であっても差し支えない。
【0036】
こうした一連の処理により、アクチュエータ100は、ステージ160を目標位置に移動させる。また、移動後の圧力室152、154の平均圧力も目標圧力に一致している。
【0037】
ここで、目標圧力としては、一対の圧力室152、154に対する作動流体の圧力源210における供給圧力および排出部250における排出圧力の中央値に略等しい圧力を選択することができる。これにより、可動部112を位置決めする場合に、差圧変動を動作圧力の幅内で制御できる。従って、圧力源210の供給圧力を効率よく利用して、目標位置の選択範囲を常に広く保つことができる。また、目標位置に向かって可動部112を移動させる場合の動作が安定する。
【0038】
また、目標圧力として、作動流体の供給圧力および大気圧のうち、供給圧力により近い圧力値を選ぶこともできる。これにより、圧力室152、154の圧力が共に高く維持されるので、可動部112が静止した場合に、静止位置を維持する性能が高くなる。
【0039】
更に、目標圧力として、作動流体の供給圧力および大気圧のうち、大気圧により近い圧力値を選ぶこともできる。これにより、圧力室152、154の圧力が低く維持されるので、作動流体の外部への漏出が減少する。
【0040】
また更に、目標圧力を、位置信号が示す可動部112の位置、圧力源210における作動流体の供給圧力等の変化に応じて目標圧力を変化させてもよい。例えば、稼動部112の位置によって作動流体の漏出量が変化するような場合に、目標値を変化させてそれを補償できる。従って、可動部112の状態の如何にかかわらずアクチュエータ100の動作を安定させて、アクチュエータ100の制御性を向上させることができる。
【0041】
図3は、上記のような処理を実行する制御部102の構造を模式的に示すブロック図である。なお、以下に説明する制御部102は、デジタル信号処理により制御を実行する。但し、アナログ信号処理によって制御しても構わない。また、以下の説明においては、圧力室152に関する信号を符号「a」により、圧力室154に関する信号を符号「b」により識別するが、図1に示した参照番号も随時参照する。
【0042】
サーボ弁232、242における作動流体の質量流量をGa、Gbとした場合、圧力室152、154の各々に供給される作動流体の質量は、サーボ弁232、242における作動流体の流量Ga、Gbの積分値に相当する。
【0043】
ただし、シリンダ150においては作動流体の漏出がある。そこで、圧力室152からの漏出量Da、および、圧力室154からの漏出量Dbと、圧力室152、154に既存の作動流体の質量m0a、m0bと、流量Ga、Gbの積分値との総和により、圧力室152、154の各々における作動流体の質量が判る。
【0044】
圧力室152、154の容積は、シリンダ150の位置xに応じて変化する。よって、シリンダ150の位置xの関数Va(x)、Vb(x)として表される。作動流体が空気等の気体である場合は、圧力室152、154の各々における作動流体の圧力Pa、Pbは、状態方程式RT/Va(x)、RT/Vb(x)に従って決まる。
【0045】
圧力室152、154における受圧面積Sa、Sbを圧力Pa、Pbに乗ずることにより、圧力室152、154の各々で発生する推力Fa、Fbが決定される。更に、推力Fa、Fbの差分が、可動部112を移動させる推力Fを生じる加速度となる。なお、圧力室152、154における受圧面積Sa、Sbが相互に等しい場合、推力Fは圧力Pa、Pbの差圧Pに等価となる。
【0046】
推力Fは、可動部112の質量に反比例した加速度特性(m/s)で可動部112を加速する。可動部112の加速度を時間積分すると、移動する可動部112の速度v(m/s)となる。また、速度vを積分すると可動部112の移動量x(m)が得られる。移動量x(m)は、リニアスケール172、エンコーダ170で形成されるリニアエンコーダによって観測することができる。
【0047】
上記のような特性を有する作動部101に対して、制御部102は、以下のような処理を実行する。エンコーダ170からは、可動部112の位置を示す移動量xを示す位置センサ信号が入力される。位置センサ信号は、デジタル変換されて位置信号として演算される。なお、エンコーダ170が位置センサ信号をパルス信号として発生する場合は、パルスカウント値をそのまま位置信号として処理することもできる。
【0048】
位置信号から、目標位置を示す値を減算することにより、目標位置に対する現在位置の差分を示す位置残差信号Sig_pと、位置残差信号Sig_pを積分した積分帰還信号Sig_iとが生成される。これにより、Sig_pの積分値を帰還して、定常偏差に対する利得を向上させることができる。
【0049】
また、位置信号を微分し、更にデジタルフィルタにより位相補償演算することにより、可動部112の速度vを示す速度信号Sig_vが生成される。なお、デジタル処理における微分演算は、制御計のサンプリング周期毎に、位置センサが取り込んだ位置信号を、サンプリング周期の時間で除する。
【0050】
即ち、作動流体として圧縮流体を用いる制御では積分項が3次となり、安定な帰還系を構築するには位置信号の2階微分値が帰還される。上記の例では、微分演算と位相補償演算により2階微分値の帰還と等価な系を形成している。これにより、安定な位置決め特性が得られる。
【0051】
これら、位置残差信号Sig_p、積分帰還信号Sig_iおよび速度信号Sig_vに、それぞれの利得倍率(Kv、Kp、Ki)を乗算することにより、位置目標信号Sig_Eが生成される。なお、位置目標信号Sig_Eは、下記の式1のように表すことができる。
Sig_E=Kp*Sig_p
+Ki*Sig_i
+Kv*Sig_v・・・式1
【0052】
一方、圧力センサ234、244から受けた圧力センサ信号も、デジタル変換されて演算される。圧力センサ234、244から受けた圧力センサ信号Sig_Pa、Sig_Pbから、平均圧力Pmが生成される。平均圧力Pmは、ゲイン倍率Kabを用いて下記の式2ように表すことができる。
Pm=Kab*(Sig_Pa+Sig_Pb)・・・式2
【0053】
上記平均圧力Pmを、サーボ弁制御部220に設定された目標圧力Ptgtから減算することにより、平均圧力誤差信号Sig_Pmが得られる。更に、平均圧力誤差信号Sig_Pmに倍率Kmを乗ずることにより、目標圧力信号Sig_Mが生成される。倍率Kabを0.5とした場合、目標圧力信号Sig_Mは、シリンダ150における平均圧力となる。目標圧力信号Sig_Mは、下記の式3のように表すことができる。
Sig_M=Km*Sig_Pm
=Km*(Ptgt−Pm)・・・式3
【0054】
なお、目標圧力値の設定は、圧力源210側の圧力と、排出部250側の圧力との略中央に設定することが好ましい。これにより、可動部112を位置決めする場合の差圧変動を、動作圧力の範囲内で制御できる。
【0055】
また、圧力目標値の設定は、可動部112の位置に応じて変更してもよい。即ち、可動子位置に応じて作動流体の漏れが増減する場合には、可動部112の位置に応じて圧力目標値を増減させてもよい。
【0056】
上記のようにして生成した位置目標信号Sig_Eおよび圧力目標信号Sig_Mに基づいて、サーボ弁232、242の駆動信号を生成される。即ち、サーボ弁アンプ230への指令信号のSig_Aは、例えば、下記の式4に示す演算により生成される。
Sig_A=Sig_M+Sig_E・・・式4
【0057】
この場合、サーボ弁アンプ240への指令信号Sig_Bは、下記の式5に示す演算により生成される。
Sig_B=Sig_M−Sig_E・・・式5
【0058】
サーボ弁アンプ230、240は、それぞれ、サーボゲインKsa、Ksbを有し、入力された指令信号Sig_A、Sig_Bに従って、サーボ弁232、242への指令電流を発生する。サーボ弁232、242は、各々の流量特性g(S)に従って、指令電流に応じた流量で、圧力室152、154の作動流体を供給または排出する。
【0059】
上記のような制御部102の処理によれば、圧力室152、154の平均圧力を制御するので、シリンダ150から作動流体が漏出している場合でも安定した位置決め精度を維持できる。従って、作動流体の漏出量が変化した場合も残差の収束が変化することがなく、更に、圧力室152、154の内圧も安定する。
【0060】
なお、サーボ弁232、242が圧力制御弁である場合、圧力室152、154の内圧は圧力制御弁の背圧と平衡するので、作動流体の漏出は無視できる。しかしながら、圧力制御弁は、作動流体を排気側に常時流すことにより安定な背圧を得ている。従って、作動流体の消尽が大きい。これに対して、上記のアクチュエータ100は、流量制御弁を用いているので、シリンダ150からの漏出に対して精度を安定させつつ、作動流体の消費も抑制している。
【0061】
図4は、ここまでに説明した作動部101および制御部102を備えたアクチュエータ100のステップ応答を示す図である。なお、ここでは、ピストン140およびシリンダ150の間における作動流体の漏洩が全く無い場合を示す。また、図5は、アクチュエータ100におけるシリンダ150の圧力変化を示す図である。
【0062】
図4に示す通り、位置目標値として20000μmを設定した場合に、1.2秒程度で残差が略零に収束していることが判る。また、図5に示すように、シリンダ150の内部圧力が略一定に維持されていることが判る。
【0063】
図6は、ここまでに説明したアクチュエータ100と同じ構造を有するが、シリンダ150からの作動流体の漏出があるアクチュエータ100のステップ応答を示す図である。また、図5は、当該アクチュエータ100におけるシリンダ150の圧力変化を示す図である。
【0064】
図6に示す通り、位置目標値として20000μmを設定した場合に、1・1秒程度で残差が略零に収束していることが判る。また、図7に示すように、シリンダ150の内部圧力が略一定に維持されていることが判る。
【0065】
図8は、ここまでに説明したアクチュエータ100と同じ構造を有するが、シリンダ150からの作動流体の漏出が更に大きなアクチュエータ100のステップ応答を示す図である。また、図9は、当該アクチュエータ100におけるシリンダ150の圧力変化を示す図である。
【0066】
図8に示す通り、位置目標値として20000μmを設定した場合に、1.05秒程度で残差が略零に収束していることが判る。また、図9に示すように、シリンダ150の内部圧力が略一定に維持されていることが判る。
【0067】
このように、位置目標値と共に、圧力目標値を設定してアクチュエータ100を制御することにより、シリンダ150からの作動流体の漏洩量にかかわらずステップ応答が変化せず、アクチュエータ100の動作が安定していることが判る。また、シリンダ150には、圧力源210による供給圧力に近い圧力で作動流体が供給されるので、ステップ応答特性が向上している。更に、シリンダ150内の圧力も安定するので、上記安定性は、アクチュエータ100の稼動期間を通じて継続的に維持されることが判る。
【0068】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。また、上記実施の形態に、多様な変更または改良を加え得ることが当業者に明らかである。更に、その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】アクチュエータ100の構造を模式的に示す図である。
【図2】制御部102において実行される制御手順を示す流れ図である。
【図3】アクチュエータ100の動作を示すブロック図である。
【図4】アクチュエータ100のステップ応答を示す図である。
【図5】アクチュエータ100におけるシリンダ150の圧力変化を示す図である。
【図6】アクチュエータ100のステップ応答を示す図である。
【図7】アクチュエータ100におけるシリンダ150の圧力変化を示す図である。
【図8】アクチュエータ100のステップ応答を示す図である。
【図9】アクチュエータ100におけるシリンダ150の圧力変化を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
100 アクチュエータ、101 作動部、102 制御部、110 基盤、111 固定部、112 可動部、120 支柱、130 案内部、140 ピストン、150 シリンダ、151、153、155、157 流路、152、154 圧力室、160 ステージ、170 エンコーダ、172 リニアスケール、210 圧力源、212、252 圧力計、220 サーボ弁制御部、230、240 サーボ弁アンプ、232、242 サーボ弁、234、244 圧力センサ、250 排出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空のシリンダと、
前記シリンダに収容されて、前記シリンダと共に一対の圧力室を形成しつつ、前記シリンダに対して相対移動するピストンと、
前記一対の圧力室の各々を、作動流体の圧力源または排出部に対して連通または遮断させる一対の制御弁と、
前記シリンダに対する前記ピストンの位置を検出する位置検出器と、
前記一対の圧力室の各々における前記作動流体の圧力を個別に検出する一対の圧力検出器と、
前記位置検出器が検出する前記位置が所与の目標位置に近づき、且つ、前記圧力検出器が検出する圧力の平均が所与の目標圧力に近づくように、前記制御弁を制御する制御部と
を備えるアクチュエータ。
【請求項2】
前記制御弁は、流量制御弁を含む請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記制御部は、前記位置検出器により検出される位置の変化または前記圧力源における作動流体の圧力の増減に応じて、前記目標圧力を増減させる請求項1または請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記制御部は、前記圧力源における前記作動流体の圧力と、前記排出部における前記作動流体の圧力との中央値に略等しい前記目標圧力を与えられる、請求項1から請求項3までの何れか一項に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記制御部は、前記圧力源における前記作動流体の圧力と、前記圧力室の外部雰囲気の圧力とのうち、前記作動流体の圧力により近い前記目標圧力を設定される請求項1から請求項4までの何れか一項に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記制御部は、前記圧力源における前記作動流体の圧力と、前記圧力室の外部雰囲気の圧力とのうち、前記外部雰囲気の圧力により近い前記目標圧力を設定される請求項1から請求項4までの何れか一項に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記ピストンは固定され、前記シリンダが移動する請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項8】
中空のシリンダと、
前記シリンダに収容されて、前記シリンダと共に一対の圧力室を形成しつつ、前記シリンダに対して相対移動するピストンと、
前記一対の圧力室の各々を、作動流体の圧力源または排出部に対して連通または遮断させる一対の制御弁と
を備えたアクチュエータを制御する制御方法であって、
前記シリンダに対する前記ピストンの位置を検出する段階と、
前記一対の圧力室の各々における前記作動流体の圧力を個別に検出する段階と、
前記ピストンの前記位置が所与の目標位置に近づき、且つ、前記作動流体の平均圧力が所与の目標圧力に近づくように、前記制御弁を制御する段階と
を備える制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−7703(P2010−7703A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164980(P2008−164980)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】