説明

アクチュエータ

【課題】ロック機構に環状弾性体を使用する構成としても、極力、円滑に、ピストンロッドを前進移動させることができるアクチュエータを提供する。
【解決手段】アクチュエータ31は、シリンダ32と、シリンダ内を前進移動するピストンロッド50と、前進移動したピストンロッドの後退移動を規制するロック機構61とを備える。ピストンロッドは、ピストン部51と、ピストン部から延設される支持ロッド部55とを備える。ロック機構は、内周縁62aをシリンダの内周面33dより突出させて配設される環状弾性体62と、ピストン部51の外周面に沿って配設されて、環状弾性体を嵌合させる係止溝51aとを備える。支持ロッド部は、環状弾性体の内径寸法よりも小径とされたロッド本体部57と、支持ロッド部のピストン部側端部に配設されて、ピストン部に向かってピストン部の外径寸法まで漸次拡径していくテーパ面58aを有した拡径部58とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用安全装置に使用されるアクチュエータに関し、例えば、保護対象物としての歩行者を受け止める際のフードパネルを持ち上げる等の作動に使用されるアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される自動車用安全装置のアクチュエータとしては、フードパネルの塑性変形時のエネルギー吸収を利用して、フードパネル自体で歩行者を受け止めることができるように、フードパネルの後端側を上昇させるものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このフードパネルを上昇させるアクチュエータとしては、迅速に作動できるように、ガス発生器の作動時に発生するガスを駆動源とするピストンシリンダタイプとして構成されて、ガス発生器の作動により発生する作動用流体としてのガスをシリンダ内に充填させ、シリンダ内に収納したピストンロッドを上昇させて、ピストンロッドの上端側に接続させたフードパネルを上昇させるように構成されるものがあった。なお、ピストンロッドは、ピストンとピストンから延びてフードパネルを支持可能な支持ロッドとを一体化したような構造としていた。また、ピストンシリンダタイプとして構成されるアクチュエータには、シリンダ内にガス発生器からのガスを充填させてフードパネルを上昇させた後にフードパネルを下降させないように、上昇したピストンロッドのシリンダに対する下降移動を規制するロック機構が、内蔵されていた。
【0004】
なお、ガス発生器としては、作動信号の入力により火薬やガス発生剤を着火させるマイクロガスジェネレータが使用されており、このようなガス発生器では、火薬の燃焼ガスやガス発生剤の化学反応(酸化反応・酸化燃焼反応)によって生ずるガスを、ピストンロッドを移動させるガスに利用していた。
【特許文献1】特開2004−330913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のアクチュエータでは、ロック機構の構造として、シリンダの内周面側に、縮径方向に弾性変形するスナップリング等の環状弾性体を配設させ、ピストンロッドの外周面側を、シリンダの略全長にわたる内周面に対して、摺動可能とし、そして、ピストンロッドの外周面におけるロックさせたい位置に、環状弾性体を嵌合させる係止溝を配設させる構造としていた。
【0006】
このような従来のアクチュエータでは、ロッドの略全長にわたる外周面をシリンダの内周面に摺動させる構造としているため、シリンダの内周面側に配設された環状弾性体が、ピストンロッドの上昇移動中、常時、ピストンロッドの外周面を縮径方向に押圧していた。この押圧力は、ピストンロッドの上昇に対して摺動抵抗として作用するため、ピストンロッドの円滑な前進移動(上昇移動)が妨げられていた。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、ロック機構に環状弾性体を使用する構成としても、極力、円滑に、ピストンロッドを前進移動させることができるアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るアクチュエータは、自動車用安全装置に使用され、
シリンダと、シリンダ内を前進移動可能に配置されるピストンロッドと、前進移動したピストンロッドの後退移動を規制するロック機構と、を備え、
ピストンロッドが、
作動時に前進移動するピストン部と、
ピストン部から前進方向に延設され、シリンダの先端壁部から突出して保護対象物を受け止める受止材を支持する支持ロッド部と、
を備えて構成され、
ロック機構が、
シリンダの内周面側におけるピストンロッドの前進移動後の配置位置に、内周縁をシリンダの内周面より突出させて配設され、復元可能に拡径する環状弾性体と、
ピストン部の外周面に沿って配設されて、前進移動したピストンロッドの後退移動を規制可能に、環状弾性体を嵌合させる係止溝と、
を備えて構成されるアクチュエータであって、
支持ロッド部が、
環状弾性体の内径寸法よりも小径として、前進移動時にシリンダの先端壁部から突出するロッド本体部と、
支持ロッド部のピストン部側端部に配設されて、ピストン部に向かってピストン部の外径寸法まで漸次拡径していくテーパ面を有した拡径部と、
を備えて構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るアクチュエータでは、前進移動時にシリンダの先端壁部から突出するロッド本体部の外径が、環状弾性体の内径よりも小径に構成されていることから、アクチュエータが作動して、シリンダ内に配置されたピストンロッドのピストン部が前進移動する際、ピストン部から延びる支持ロッド部におけるロッド本体部の外周面が環状弾性体の内周面に圧接しない。すなわち、ピストンロッドの前進移動時に、環状弾性体の有する縮径方向の弾性力により、ロッド本体部が押圧されることがないため、ピストンロッドは円滑に前進移動することができる。
【0010】
その後、支持ロッド部の拡径部が環状弾性体の配設位置を通過する際には、拡径部が、環状弾性体の内径をピストン部の外径寸法まで徐々に拡径させるため、環状弾性体は、ピストン部の係止溝に嵌合するための縮径方向の付勢力を有する状態となる。ついで、ピストンロッドが前進移動を完了した際には、環状弾性体が縮径方向に復元してピストン部の係止溝に嵌合し、ピストンロッドの後退移動を規制することができる。そして、拡径部は、環状弾性体を円滑にピストン部の外径寸法まで拡径させるような角度のテーパ面を備えていれば、支持ロッド部の全長に設ける必要はなく、短い長さ寸法で構成できる。そのため、拡径部の長さを短くすることに比例して、ピストンロッドは、支持ロッド部が環状弾性体に拡径部を接触させるまで、一層迅速に前進移動することができることとなる。
【0011】
したがって、本発明に係るアクチュエータでは、ロック機構に環状弾性体を使用する構成としても、極力、円滑に、ピストンロッドを前進移動させることができる。
【0012】
なお、本願の環状弾性体としては、例えば、ばね鋼等からなるスナップリングが例示できる。また、保護対象物としては、歩行者、乗員等の人に限らず、バンパ等の車体の部品が例示できる。
【0013】
また、ピストンロッドを移動させる駆動源としては、油、水、空気等の気体(ガス)等の作動用流体の流体圧、ソレノイドの吸引力、圧縮させたばねの付勢力(復元力)等を利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明すると、図1〜4に示すように、実施形態のアクチュエータ31は、車両Vに搭載される自動車用安全装置としての歩行者保護装置M1におけるフード跳ね上げ装置(以下、跳ね上げ装置と略す)FUに使用されるものであり、この跳ね上げ装置FUは、アクチュエータ31の作動時に、フードパネル15の後端15cを上昇させる。そして、実施形態のアクチュエータ31は、車両Vのフードパネル15の後端15c付近における左右両縁の左縁15d付近と右縁15e付近との下方に配設されている。歩行者保護装置M1は、歩行者を受け止めることとなる受止材としてのフードパネル15の後端15cを上昇させるための跳ね上げ装置FUと、フロントピラー4から歩行者を保護するエアバッグ10を有したエアバッグ装置ABと、を備えて構成されている。
【0015】
なお、車両Vのフロントバンパ5には、図1に示すように、保護対象物としての歩行者との衝突を検知若しくは予測可能なセンサ6が、配設されており、センサ6からの信号を入力させている図示しない作動回路が、センサ6からの信号に基いて車両Vの歩行者との衝突を検知若しくは予測した際、エアバッグ装置ABのインフレーター11(図4参照)と、跳ね上げ装置FUのアクチュエータ31における駆動源としてのガス発生器48(図6参照)と、を作動させるように構成されている。
【0016】
また、本明細書では、前後と上下の方向は、それぞれ、車両Vの前後と上下の方向と一致し、左右の方向は、車両Vの前方側から後方側を見た際の左右の方向に一致させている。
【0017】
フードパネル15は、図1〜4に示すように、車両VにおけるエンジンルームERの上方を覆うように配設されるもので、左右方向の両縁側における後端15c近傍に配置されるヒンジ部16により、車両Vのボディ1に対して、前開きで開閉可能に連結されている。フードパネル15は、アルミニウム(アルミニウム合金)等からなる板金製として、上面側のアウタパネル15aと、下面側に位置してアウタパネル15aより強度を向上させたインナパネル15bと、から構成されている。フードパネル15は、歩行者を受け止めた際に、歩行者の運動エネルギーを吸収できるように、塑性変形するものであり、変形量を増大させるように、車両Vの歩行者との衝突時、跳ね上げ装置FUのアクチュエータ31を作動させて、エンジンルームERの上方に大きな空間を空けることを目的として、後端15cを上昇させることとなる。また、実施形態の跳ね上げ装置FUでは、フードパネル15の後端15cを持ち上げて、カウル7とフードパネル15の後端15cとの間に、エアバッグ10を突出させる大きな隙間S(図4参照)を設ける役目も果たしている。
【0018】
ヒンジ部16は、フードパネル15の後端15c側における左縁15dと右縁15eとに配設され(図1参照)、それぞれ、ボディ1側のフードリッジリインホース2に連結される取付フランジ2aに固定されるヒンジベース17、フードパネル15側に固定される取付ブラケット20、及び、ヒンジベース17と取付ブラケット20とに連結されるヒンジアーム19、を備えて構成されている(図3参照)。各ヒンジアーム19は、図2,3に示すように、板金製のアングル材を下向きに突出させるように略半円弧状に湾曲させた形状として構成され、ヒンジベース17側の元部端19aが、支持軸18を利用してヒンジベース17に対して回動可能に連結され、元部端19aから離れる先端19bが、取付ブラケット20に溶接等を利用して結合されている。各支持軸18は、それらの軸方向を車両Vの左右方向に沿って配設させている。そのため、フードパネル15を開く際には、図3の実線から二点鎖線に示すように、左右の支持軸18を回転中心として、各ヒンジアーム19の先端19b側とともに、フードパネル15の前端15f側(図1参照)を前開きで上昇させることとなる。
【0019】
なお、ヒンジアーム19の先端19b近傍付近は、アクチュエータ31の作動時における支持ロッド部55のフードパネル15の後端15cの押し上げ時、塑性変形する塑性変形部19cとしている(図4参照)。ちなみに、フードパネル15の前端f側には、通常閉塞用として、前端15fに配置された図示しないフードロックストライカを係止するラッチ機構が配設されており、フードパネル15の後端15cの上昇時でも、前端15f側は、図示しないフードロックストライカを係止するラッチ機構により、ボディ1側から外れることはない。
【0020】
エアバッグ装置ABは、図3,4に示すように、エアバッグ10、エアバッグ10に膨張用ガスを供給するインフレーター11、エアバッグ10とインフレーター11とを収納するケース12、及び、エアバッグ10とインフレーター11とを収納したケース12を開き可能に覆うエアバッグカバー13、を備えて構成され、フードパネル15の後端15cにおける左縁15dと右縁15eとの下方付近のカウル7の部位に搭載されている。エアバッグ装置ABは、跳ね上げ装置FUが作動してフードパネル15の後端15cを上昇させた際、その後端15cとカウル7との間の隙間Sから、エアバッグ10を突出させるように、インフレーター11が作動して、折り畳まれたエアバッグ10に膨張用ガスが供給される。そして、エアバッグ10は、膨張用ガスを流入させると、ケース12の後部側の開口12aを覆っていたエアバッグカバー13の扉部13aを押し開いて展開膨張し、左右のフロントピラー4,4の前面側を覆うこととなる(図1参照)。
【0021】
なお、カウル7は、図3に示すように、ボディ1側の剛性の高い金属製(板金製)のカウルパネル7aと、カウルパネル7aの上方のカウルルーバ7bと、を備えて構成されている。カウルルーバ7bは、合成樹脂製として、後端側をフロントウインドシールド3の下部3a側に連ならせるように配設されている。フロントウインドシールド3の左右には、図1,2に示すように、フロントピラー4,4が配設されている。
【0022】
そして、実施形態の場合、カウルパネル7aには、エアバッグ装置ABのケース12が取り付けられている。また、カウルルーバ7bは、エアバッグカバー13とアクチュエータ31の上方を覆うアクチュエータカバー24とが、他の一般部とともに、一体的に成形されて製造されている。アクチュエータカバー24は、左右のアクチュエータ31の上方に配置されて、円筒状のスリーブ部25で囲まれたエリアに、作動時のアクチュエータ31における支持ロッド部55の頭部56に押されて開く扉部26を配設させて構成されている。カウルルーバ7bは、柔軟性を異ならせた部位を設けて成形されており、硬質部8と、硬質部8より柔軟性を有した軟質部9と、を備えて構成されている。軟質部9は、既述のエアバッグカバー13と、アクチュエータカバー24の扉部26を含めたスリーブ部25付近と、を構成している。
【0023】
跳ね上げ装置FUは、図3〜5に示すように、アクチュエータ31とフードパネル15側に配設される受け座22とを備えて構成されている。アクチュエータ31は、図1に示すように、フードパネル15の左右のヒンジ部16の二箇所に対応して、フードパネル15の左右両縁の後端15cの下方に配設されて、図6に示すように、それぞれ、ガス発生器48の作動時に発生する作動用ガスGを駆動源とするピストンシリンダタイプとして、シリンダ32内にピストンロッド50が収納されて構成されている。受け座22は、フードパネル15の後端15cの下面に配設された取付ブラケット20の部位に取り付けられて、下面22aが、アクチュエータ31の上昇移動する支持ロッド部55の先端の頭部56を受け止め可能に構成されている。
【0024】
実施形態のアクチュエータ31は、図3〜5に示すように、フードリッジリインホース2に連結された取付フランジ2bに対してボルト29止めされる断面U字状の取付ブラケット28により保持されて、フードパネル15の左右両縁の後端15cの下方に配設されている。そして、各アクチュエータ31は、図6,7に示すように、シリンダ32と、シリンダ32内に摺動可能に収納したピストンロッド50と、前進移動(実施形態の場合には、上昇移動)したピストンロッド50の後退移動(実施形態の場合には、下降移動)を規制するロック機構61と、を備えて構成されている。
【0025】
シリンダ32は、図6〜8に示すように、略円筒状の周壁33と、周壁33の上下端にそれぞれ固定される上側キャップ36、下側キャップ44と、を備えて構成されている。周壁33の上端側内周面には、周方向の全周にわたって凹む凹部33cが形成され、凹部33cの底面側を、円環状として、環状弾性体62が配設される配設段部34としている。配設段部34は、上昇移動後のピストンロッド50のピストン部51における係止溝51aの位置と略一致する位置に設けられ、上面34aによって、環状弾性体62を支持することとなる。
【0026】
環状弾性体62は、ピストンロッド50の前進移動(実施形態では、上昇移動)後に、ピストン部51の係止溝51aに嵌合して、ピストンロッド50の後退移動(実施形態では、下降移動)を規制するロック機構61を構成するもので、内周縁62aをシリンダ32の周壁33の内周面33dより突出させて、復元可能にピストン部51の外径寸法まで拡径可能な状態で、配設段部34に配設されている。なお、実施形態の場合には、環状弾性体62は、ばね鋼製のスナップリング(Cリング)から構成されている。
【0027】
周壁33の上端側の上側キャップ36は、作動前のピストンロッド50の支持ロッド部55における頭部56が収容される頭部収容凹部37aを有した先端壁部37と、先端壁部37より外径寸法を小径とされて下方に延設され、シリンダ32の上端側内周面を構成する略円筒状の内壁部38と、を備えて構成されている。内壁部38は、上下方向に貫通されて、支持ロッド部55のロッド本体部57を挿通させる挿通孔39と、挿通孔39の下方に配設されて、上昇移動したピストンロッド50の拡径部58を収容可能な拡径部収容凹部40と、を有している。
【0028】
また、上側キャップ36の内壁部38は、外周面38bに、シリンダ32の周壁33における上端内周に設けられた雌ねじ33aに螺合する雄ねじ38aを備えている。そして、上側キャップ36は、挿通孔39に支持ロッド部53のロッド本体部57を挿通させて、内壁部38の雄ねじ38aを周壁33の雌ねじ33aに螺合させて、周壁33に取り付けられている。ロック機構61を構成する環状弾性体62は、内壁部38の下端面38cと配設段部34の上面34aとの間で、シリンダ32の周壁33の内周面33dより内周縁62aを突出させた状態で、拡径と縮径との変形を許容されて保持されている。
【0029】
なお、頭部収容凹部37aの内周面には、支持ロッド部55の頭部56に圧接されるOリング41が配設される。これにより、シリンダ32内の気密性が確保され、かつ、支持ロッド部55の頭部56のがたつきが防止されている。
【0030】
周壁33の下端側の下側キャップ44は、周壁33の下端を塞ぐように配設される元部端壁部45と、元部端壁部45の外周縁から上方に延びる略円筒状の周壁部46と、を備えて構成されている。元部端壁部45には、上下方向に貫通した挿通孔45aの周縁を利用して、ガス発生器48が取り付けられている。周壁部46は、内周面に、シリンダ32の周壁33における下端外周に設けられた雄ねじ33bに螺合する雌ねじ46aを備えている。そして、下側キャップ44は、元部端壁部45にガス発生器48を取り付けた状態で、雌ねじ46aを雄ねじ33bに螺合させて、周壁33に取り付けられている。
【0031】
ガス発生器48は、マイクロガスジェネレータが使用されており、下端面には、図示しない制御回路からの電気信号を入力させるリード線49が結線されている。ガス発生器48は、図示しない制御回路からの電気信号を入力させると、内蔵されている火薬に点火させ、さらに、その点火された火薬の着火によってガス発生剤を燃焼させて燃焼ガスを発生させ、そのガス(燃焼ガス)を作動用ガスGとしてシリンダ32内のピストン部51の下面51b側へ供給することとなる。
【0032】
ピストンロッド50は、アクチュエータ31の作動時、シリンダ32内に流入される作動用ガスGにより前進移動するピストン部51と、ピストン部51から前進方向(実施形態では、上昇方向)に同軸的に延設され、シリンダ32の先端壁部37から突出し、保護対象物を受け止める受止材としてのフードパネル15を支持する支持ロッド部55と、を備えて構成されている。
【0033】
ピストン部51は、円盤状として、外周面に、周方向の全周にわたって凹んだ係止溝51aが形成されている。係止溝51aは、ピストンロッド50の前進移動(実施形態では、上昇移動)完了後、シリンダ32の周壁33における配設段部34に配設された環状弾性体62に嵌合されて、ピストンロッド50の後退移動(実施形態では、下降移動)を規制するロック機構61を構成している。なお、ピストン部51の係止溝51aより下方の外周面には、シリンダ32の周壁33の内周面33dに圧接されるピストンリング52が配設され、シリンダ32内のピストン部51とガス発生器48との間の気密性を確保している。
【0034】
支持ロッド部55は、前進移動(実施形態では、上昇移動)時にシリンダ32の先端壁部37から突出するロッド本体部57と、ピストン部51側の端部に配設されて、環状弾性体62を拡径させる拡径部58と、を備えて構成されている。なお、支持ロッド部55は、ロッド本体部57の上端に、上昇移動時にフードパネル15の後端15cの取付ブラケット20に設けられた受け座22に当接して、フードパネル15の後端15cを押し上げる円柱状の頭部56を備えている。
【0035】
ロッド本体部57は、上下方向に長い円柱状とされ、アクチュエータ31の作動時、先端壁部37から突出して、フードパネル15の後端15cの持ち上げストロークを確保するもので、図5に示すように、塑性変形可能に、鋼等の金属材から構成されている。また、ロッド本体部57の外周面が環状弾性体62の内周面と圧接することがないように、外径寸法D0を環状弾性体62の内径寸法dより小径とされている(図8のA参照)。
【0036】
拡径部58は、縦断面を略台形状として、ロッド本体部57の下端外周からピストン部51の上端外周縁に向かって、ピストン部51の外形寸法D1(図8のB参照)まで漸次拡径するテーパ状の外周面(以下、「テーパ面」という)58aを有している。テーパ面58aは、図7に示すように、ピストンロッド50の上昇移動時において、支持ロッド部55のロッド本体部57が環状弾性体62を通過した後、環状弾性体62の内周面と圧接し始める。その後、拡径部58は、ピストンロッド50の上昇移動に伴って、徐々に、環状弾性体62の内径寸法dをピストン部51の外径寸法D1まで拡径させることとなる。
【0037】
そして、図6、図7に示すように、拡径部58のテーパ面58aの上方側の部位が、拡径部収容凹部40の上縁側の内周縁(挿通孔39の下端の内周縁)40aに当接して、ピストンロッド50の上昇移動が停止すると、拡径された状態の環状弾性体62は、自身の持つ縮径方向の弾性力による弾性変形によって、ピストン部51の係止溝51aに嵌合して、ピストンロッド50の後退移動を規制することとなる。すなわち、ロック機構61を構成する環状弾性体62は、拡径状態の外径寸法D2から、ピストン部51の係止溝51aとシリンダ32の周壁33の配設段部34とに跨るような外径寸法D3(図8のB参照)となるように復元し、ロック機構61を構成する係止溝51aに嵌合されることとなり、その位置で、ピストンロッド50の後退移動が規制されることとなる。
【0038】
なお、図6のAに二点鎖線で示したように、シリンダ32の上側キャップ36における拡径部収容凹部40を構成する内周面40bは、ピストンロッド50の拡径部58におけるテーパ面58aと平行なテーパ状としてもよい。この場合、拡径部58のテーパ面58aの略全面が、内周面(テーパ面)40bに当接してピストンロッド50の上昇移動を完了させるため、ピストンロッド50は、上昇移動を安定して完了させることができる。
【0039】
また、実施形態では、ピストン部51と、拡径部58と、ロッド本体部57とを一体として構成しているが、勿論、それぞれを別体として構成してもよい。別体とした場合には、支持ロッド部は、例えば、ピストン部に対して、ねじ孔への締め付けと取り外しによって、取り替え可能に組み付ける構成とすることができる。そして、支持ロッド部の塑性変形による歩行者の運動エネルギー吸収量を大きくしたり小さくしたりする場合には、ロッド本体部を太くして、曲げ剛性を高くした支持ロッド部に変更したり、あるいは、ロッド本体部を細くして、曲げ剛性を低くした支持ロッド部に取り替えればよい。また、支持ロッド部の塑性変形応力を調整するためには、材質を変更してもよい。
【0040】
この実施形態の歩行者保護装置M1では、センサ6からの信号により、図示しない作動回路が、車両Vの歩行者との衝突を検知若しくは予測した際に、各跳ね上げ装置FUのアクチュエータ31におけるガス発生器48を作動させるとともに、エアバッグ装置ABのインフレーター11を作動させる。
【0041】
そして、アクチュエータ31のガス発生器48が作動されれば、図3、図4、及び、図6のA,Bに示すように、発生した作動用ガスGがシリンダ32の周壁33内のピストン部51を押し上げ、ピストン部51から延びる支持ロッド部55の上端の頭部56が、アクチュエータカバー24の扉部26を押し開いて、受け座22に当接し、さらに、フードパネル15の後端15cを上昇させ、後端15c側に、フードパネル15とカウル7との間に隙間Sを形成する。また、エアバッグ装置ABのインフレーター11が作動すれば、図1,2の二点鎖線や図4に示すように、折り畳まれて収納されていたエアバッグ10は、インフレーター11からのガスを流入させて、エアバッグカバー13の扉部13aを押し開いてケース12から突出し、さらに、隙間Sを経て、フロントウインドシールド3の上方側に突出するように膨張する。膨張を完了させたエアバッグ10は、フロントピラー4の前方側を覆うこととなる。
【0042】
そして、実施形態のアクチュエータ31では、前進移動時にシリンダ32の先端壁部37から突出するロッド本体部57の外径寸法D0が、環状弾性体62の内径寸法dよりも小径に構成されていることから、アクチュエータ31が作動して、シリンダ32内に配置されたピストンロッド50のピストン部51が前進移動する際、ピストン部51から延びる支持ロッド部55におけるロッド本体部57の外周面が環状弾性体62の内周面に圧接しない。すなわち、ピストンロッド50の前進移動時に、環状弾性体62の有する縮径方向の弾性力により、ロッド本体部57が押圧されることがないため、ピストンロッド50は円滑に前進移動することができる。
【0043】
その後、支持ロッド部55の拡径部58が環状弾性体62の配設位置を通過する際には、拡径部58が、環状弾性体62の内径をピストン部51の外径寸法D1まで徐々に拡径させるため、環状弾性体62は、ピストン部51の係止溝51aに嵌合するための縮径方向の付勢力を有する状態となる。ついで、ピストンロッド50が前進移動を完了した際には、環状弾性体62が縮径方向に復元してピストン部51の係止溝51aに嵌合し、ピストンロッド50の後退移動を規制することができる。そして、拡径部58は、環状弾性体62を円滑にピストン部51の外径寸法D1まで拡径させるような角度α(図6のA参照)のテーパ面58aを備えていれば、支持ロッド部55の全長に設ける必要はなく、短い長さ寸法で構成できる。そのため、拡径部58の長さを短くすることに比例して、ピストンロッド50は、支持ロッド部55が環状弾性体62に拡径部58を接触させるまで、一層迅速に前進移動することができることとなる。なお、拡径部58は、ピストンロッド50が迅速に前進移動できるように、支持ロッド部55における前進移動ストローク距離の約3分の1以下の範囲の長さ寸法で構成されることが望ましい(実施形態では約8分の1としている)。また、テーパ面58aは、環状弾性体62を円滑に拡径でき、かつ、拡径部58の長さ寸法を長くしないように、支持ロッド部55の移動方向を基準として30度から45度前後(実施形態では30度としている)の角度αに設定されることが望ましい。
【0044】
したがって、実施形態のアクチュエータでは、ロック機構61に環状弾性体62を使用する構成としても、極力、円滑に、ピストンロッド50を前進移動させることができる。
【0045】
なお、実施形態では、受止材としてのフードパネル15が保護対象物としての歩行者を受け止める際、フードパネル15が、塑性変形して、歩行者の運動エネルギーを吸収し、衝撃を緩和して歩行者を受け止めることができ、さらに、図5に示すように、適宜、支持ロッド部55のロッド本体部57も、曲げ変形等のように塑性変形して、歩行者の運動エネルギーを吸収することから、フードパネル15の変形に加えて、支持ロッド部55の変形により、一層、衝撃を緩和して歩行者を受け止めることができることとなる。
【0046】
また、実施形態のアクチュエータ31では、前進移動を上昇させる移動とし、後退移動を下降させる移動とした場合を示したが、作動方向は、これに限定されず、例えば、水平方向の作動方向に本発明のアクチュエータを使用してもよく、また、本発明のアクチュエータが使用される自動車用安全装置は、歩行者保護装置M1以外の装置に使用してもよい。例えば、図9に示すように、運転者の膝をニーパネルにより受け止める自動車用安全装置としての膝保護装置M2に、アクチュエータ31を使用してもよい。
【0047】
この膝保護装置M2は、保護対象物としての運転者DRの膝Kを受け止めて、運転者DRの膝Kを保護するものであり、車両の前面衝突時、アクチュエータ31が作動し、インストルメントパネル71に配設された膝受止材72を後方側に押し出し、膝Kが前進して膝受止材72と衝突した際、支持ロッド部55のロッド本体部57を曲げ塑性変形させて、運転者DRの運動エネルギーを、膝Kを受け止めつつ吸収することとなる。なお、膝受止材72は、下端72b側を、インストルメントパネル71に取り付けられたヒンジ部73に軸支されて、アクチュエータ31の作動時、上端72aがヒンジ部76を回転中心として後方側に押し出されることとなる。
【0048】
また、実施形態のアクチュエータ31では、ピストンロッド50を前進移動させる駆動源として、ガス発生器48が発生する作動用ガスGを使用したが、勿論、水、油、空気等を作動用流体として、それらの水圧、油圧、エア圧等を利用してもよい。
【0049】
さらに、ピストンロッドを前進移動させる駆動源としては、ソレノイドの吸引力を利用したり、圧縮させたばねの付勢力(復元力)等を利用することができる。例えば、ソレノイドの吸引力を利用する場合には、可動鉄心をピストンロッドとしてシリンダ内に配設し、シリンダ内の可動鉄心の周囲に配置させた励磁コイルに通電すれば、ピストンロッドを前進移動させることができる。また、ばねを利用する場合には、圧縮させたコイルばねの自由端側にピストンロッドを接続させるとともに、引き込み可能にソレノイド等から構成するストッパで、ピストンロッド若しくは圧縮コイルばねの先端を係止させておき、係止を解除させるようにストッパを引き込ませれば、ピストンロッドが圧縮コイルばねの復元する付勢力により、前進移動することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態のアクチュエータを使用した歩行者保護装置を搭載させた車両の斜視図である。
【図2】実施形態のアクチュエータを使用した歩行者保護装置を搭載させた車両の拡大部分平面図である。
【図3】実施形態の歩行者保護装置における車両前後方向に沿った概略縦断面図であり、図2のIII−III部位に対応する。
【図4】実施形態の歩行者保護装置の作動時を示す概略縦断面図である。
【図5】実施形態のアクチュエータの支持ロッド部の塑性変形状態を示す概略図である。
【図6】実施形態のアクチュエータの概略縦断面図であり、作動前と作動完了時とを示す。
【図7】実施形態のアクチュエータの拡大部分縦断面図であり、環状弾性体が拡径部により拡径されて、係止溝に嵌合するまでを示す。
【図8】実施形態のアクチュエータのロック機構を構成する弾性環状体の部位における概略横断面図であり、作動前と作動完了時とを示し、図6のVIII−VIII部位に対応する。
【図9】実施形態の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
15…(受止材)フードパネル、
31…アクチュエータ、
32…シリンダ、
33…(シリンダの)周壁、
37…先端壁部、
50…ピストンロッド、
51…ピストン部、
51a…係止溝、
55…支持ロッド部、
57…ロッド本体部、
58…拡径部、
58a…テーパ面、
61…ロック機構、
62…環状弾性体、
62a…内周縁、
G…(作動用流体)作動用ガス、
M1…(自動車用安全装置)歩行者保護装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用安全装置に使用され、
シリンダと、該シリンダ内を前進移動可能に配置されるピストンロッドと、前進移動した前記ピストンロッドの後退移動を規制するロック機構と、を備え、
前記ピストンロッドが、
作動時に前進移動するピストン部と、
該ピストン部から前進方向に延設され、前記シリンダの先端壁部から突出して保護対象物を受け止める受止材を支持する支持ロッド部と、
を備えて構成され、
前記ロック機構が、
前記シリンダの内周面側における前記ピストンロッドの前進移動後の配置位置に、内周縁を前記シリンダの内周面より突出させて配設され、復元可能に拡径する環状弾性体と、
前記ピストン部の外周面に沿って配設されて、前進移動した前記ピストンロッドの後退移動を規制可能に、前記環状弾性体を嵌合させる係止溝と、
を備えて構成されるアクチュエータであって、
前記支持ロッド部が、
前記環状弾性体の内径寸法よりも小径として、前進移動時に前記シリンダの先端壁部から突出するロッド本体部と、
前記支持ロッド部のピストン部側端部に配設されて、前記ピストン部に向かって前記ピストン部の外径寸法まで漸次拡径していくテーパ面を有した拡径部と、
を備えて構成されていることを特徴とするアクチュエータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−208694(P2009−208694A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55551(P2008−55551)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】