説明

アクリル系エラストマー及びこれを用いた組成物

【課題】高温高湿下で優れた電気絶縁性を有し、かつ長期間の信頼性に優れたアクリル系エラストマー及びこれを用いたアクリル系エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】構造単位として、少なくとも下記一般式(I)、炭素数1−10の炭化水素基を有するアクリル系エステルモノマー、及び特定の官能基を有するアクリル系モノマーの3種を含むアクリル系エラストマー。


(Xは、炭素数5〜22の脂環式炭化水素を含む置換基を示す。R1は水素又はメチル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料用に好適に用いることのできるアクリル系エラストマー及びこれを用いたアクリル系エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、高速化に伴い、これら電子機器に搭載される半導体パッケージは高密度化が進み、また、半導体パッケージを実装する基板にも高密度化が要求されている。さらに、基板側においても配線の微細化がますます進んでいる。
【0003】
従来、半導体素子を接着する接着剤や、各種電子部品を搭載した実装基板等の電子材料には、接着性、耐熱性、電気絶縁性及び長期信頼性が要求されている。これらの要求を満たす電子材料として、アクリロニトリルブタジエン系エラストマー、アクリロニトリル含有アクリル系エラストマー等の合成ゴムにエポキシ樹脂及び硬化剤を配合した組成物が幅広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、近年の急速な半導体パッケージや実装基板の高密度化、配線の微細化に伴い、電子材料にもより厳しい信頼性が求められている。ところが、アクリロニトリルブタジエン系エラストマー、アクリロニトリル含有アクリル系エラストマーを用いた組成物では、高温高湿下での電気絶縁性に劣るという欠点が明らかになってきた。この原因の1つとしてイオン性不純物が挙げられ、これを解決するためにイオン捕捉剤を添加する技術(例えば、特許文献2参照)が提案されているが、微細配線の分野では十分に満足する効果は得られていない。また、アクリロニトリルを含まないアクリル系エラストマー(例えば、特許文献3参照)も提案されているが、吸湿率等について未だ課題が残っており、十分に満足する長期信頼性は得られていない。
【0005】
本発明者等は、これまでの検討で、炭素数5〜22の脂環式炭化水素を有する置換基を必須成分とする、アクリロニトリル非含有のアクリル系エラストマーを用いることで、高温高湿下で優れた電気絶縁性が得られることを見出した(特許文献4)。しかしながら、電気絶縁性の更なる向上が求められており、当該発明のアクリル系エラストマーでは、要求特性を必ずしも満足できなくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−283535号公報
【特許文献2】特開2002−60716号公報
【特許文献3】特許第3483161号公報
【特許文献4】特開2009−132888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高温高湿下で優れた電気絶縁性を有し、かつ長期間の信頼性に優れた電子材料用アクリル系エラストマー及びこれを用いたアクリル系エラストマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アクリロニトリル非含有のアクリル系エラストマーの必須成分として、特定の単量体を用いることで、高温高湿下で優れた電気絶縁性を有するアクリル系エラストマーとなることを見出した。
すなわち本発明は、構造単位として、少なくとも下記一般式(I)、(II)及び(III)の構造を含むアクリル系エラストマーに関するものである。
【0009】
【化1】

(Xは、炭素数5〜22の脂環式炭化水素を含む置換基を示す。R1は水素又はメチル基を示す。)
【0010】
【化2】

(Yは、炭素数1〜10の炭化水素基を含む置換基を示す。R2はメチル基を示す。)
【0011】
【化3】

(Zは、OH基、若しくは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を含む置換基を示す。R3は水素又はメチル基を示す。)
【0012】
本発明のアクリル系エラストマーは、エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルと、
エステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステルと、
カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基並びに少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する官能基含有単量体と、を含有する単量体混合物を重合して得られるものが好ましい。
【0013】
本発明においては、単量体混合物として、上記エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステル5〜94.5質量部と、上記エステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステル5〜65質量部と、上記官能基含有単量体0.5〜30質量部と、これらと共重合可能な単量体0〜90質量部とを、単量体の総質量部が100質量部となるように含有する単量体混合物が好ましく用いられる。
【0014】
また本発明においては、上記炭素数5〜22の脂環式炭化水素基が、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、トリシクロデカニル基、イソボルニル基、及びアダマンチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
また本発明のアクリル系エラストマーは、飽和吸湿率が好ましくは0.6%以下である。
さらに、本発明は、得られたアクリル系エラストマーと溶媒とを含有してなる電子材料用アクリル系エラストマー組成物に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアクリル系エラストマーは、吸湿率が低く高温高湿下での体積抵抗値の変化がほとんどなく、また長期信頼性に優れている。したがって、このエラストマーを電子材料用に用いることによって、電気絶縁性及び長期信頼性の高い電子材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のアクリル系エラストマーは、構造単位として、少なくとも下記一般式(I)、(II)及び(III)の構造を含むことを特徴とする。
【0017】
【化4】

(Xは、炭素数5〜22の脂環式炭化水素を含む置換基を示す。R1は水素又はメチル基を示す。)
【0018】
【化5】

(Yは、炭素数1〜10の炭化水素基を含む置換基を示す。R2はメチル基を示す。)
【0019】
【化6】

(Zは、OH、若しくは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を含む置換基を示す。R3は水素又はメチル基を示す。)
【0020】
本発明において、上記一般式(I)中のXで表される上記炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を含む置換基としては、炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有する置換基であれば特に制限はなく、炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するアルコキシ基、炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するアミノ基等が挙げられる。
なお、上記一般式(I)における炭素数5〜22の脂環式炭化水素基については、後述する。
【0021】
本発明において、上記一般式(II)中のYで表される上記炭素数1〜10の炭化水素基を含む置換基としては、炭素数1〜10の炭化水素基を有する置換基であれば特に制限はなく、炭素数1〜10の炭化水素基を有するアルコキシ基、炭素数1〜10の炭化水素基を有するアミノ基等が挙げられる。
なお、上記一般式(II)における炭素数1〜10の炭化水素基については、後述する。
【0022】
本発明において、上記一般式(III)中のZで表されるOH、若しくは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を含む置換基については、後述する。
【0023】
上記のアクリル系エラストマーは、エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルと、
エステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステルと、
カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基並びに少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する官能基含有単量体と、を含有する単量体混合物を重合することで得られることが好ましい。
【0024】
アクリル系エラストマーを得るために重合に使用する単量体成分の一つとして、エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステル(以下、「脂環式単量体」ともいう。)を用いることが好ましい。
炭素数が5以上であると、単量体の化学的安定性が十分となる上、得られるエラストマーの吸湿率の低減効果が十分となる。炭素数が22以下であると、得られるエラストマーのTgが満足したものとなる。これら脂環式単量体の炭素数は、6〜15であるとより好ましく、6〜10であることが最も好ましい。脂環式単量体の構造としては、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、トリシクロデカニル基、イソボルニル基、及びアダマンチル基からなる群より選ばれる脂環式炭化水素基を少なくとも1種を含む単量体が好ましい。
アクリル系エラストマーの単量体成分として、上記脂環式単量体を用いると、吸湿率を効率良く低減でき、耐電食性の点から好ましい。
【0025】
上記脂環式単量体として具体的には、アクリル酸シクロペンチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸メチルシクロヘキシル、アクリル酸トリメチルシクロヘキシル、アクリル酸ノルボルニル、アクリル酸ノルボルニルメチル、アクリル酸フェニルノルボルニル、アクリル酸シアノノルボルニル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸メンチル、アクリル酸フェンチル、アクリル酸アダマンチル、アクリル酸ジメチルアダマンチル、アクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−8−イル、アクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−4−メチル、アクリル酸シクロデシル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸ノルボルニルメチル、メタクリル酸シアノノルボルニル、メタクリル酸フェニルノルボルニル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸メンチル、メタクリル酸フェンチル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ジメチルアダマンチル、メタクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−8−イル、メタクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−4−メチル、メタクリル酸シクロデシル等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、脂環式単量体として、上記のメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルを混合して用いることも可能である。
【0026】
これらの中でも低吸湿性の点から、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ノルボルニル、アクリル酸ノルボルニルメチル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−4−メチル、アクリル酸アダマンチル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸ノルボルニルメチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸メンチル、メタクリル酸フェンチル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ジメチルアダマンチル、メタクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−8−イル、メタクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−4−メチル、メタクリル酸シクロデシル、メタクリル酸フェニルノルボルニル等が好ましい。
【0027】
さらに低吸湿性及び接着性の点からアクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ノルボルニル、アクリル酸ノルボルニルメチル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−4−メチル、アクリル酸アダマンチル等が特に好ましい。
上記脂環式単量体と併用又は代えて、炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するアクリルアミド、炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリルアミド等を上記式(I)の構造を構成するアクリル系エラストマーを得るための単量体成分として用いることも可能である。
【0028】
上記炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するアクリルアミドとして具体的には、N−シクロペンチルアクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−メチルシクロヘキシルアクリルアミド、N−トリメチルシクロヘキシルアクリルアミド、N−ノルボルニルアクリルアミド、N−ノルボルニルメチルアクリルアミド、N−フェニルノルボルニルアクリルアミド、N−シアノノルボルニルアクリルアミド、N−イソボルニルアクリルアミド、N−ボルニルアクリルアミド、N−メンチルアクリルアミド、N−フェンチルアクリルアミド、N−アダマンチルアクリルアミド、N−ジメチルアダマンチルアクリルアミド、N−トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−8−イルアクリルアミド、N−トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−4−メチルアクリルアミド、N−シクロデシルアクリルアミド等が挙げられる。
【0029】
また、上記炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリルアミドとして具体的には、N−シクロペンチルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルメタクリルアミド、N−メチルシクロヘキシルメタクリルアミド、N−トリメチルシクロヘキシルメタクリルアミド、N−ノルボルニルメタクリルアミド、N−ノルボルニルメチルメタクリルアミド、N−フェニルノルボルニルメタクリルアミド、N−シアノノルボルニルメタクリルアミド、N−イソボルニルメタクリルアミド、N−ボルニルメタクリルアミド、N−メンチルメタクリルアミド、N−フェンチルメタクリルアミド、N−アダマンチルメタクリルアミド、N−ジメチルアダマンチルメタクリルアミド、N−トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−8−イルメタクリルアミド、N−トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−4−メチルメタクリルアミド、N−シクロデシルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0030】
また、アクリル系エラストマーを得るために重合に使用する単量体成分の一つとして、エステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステルを用いることが好ましい。これは、上記式(II)の構造を構成する。
炭素数が10以下であると、電気絶縁性が十分となり、また、単量体の融点及び材料の計量・仕込みの作業性の点で満足いくものとなる。これらメタクリル酸エステルのエステル部分の炭素数は、2〜8であるとより好ましく、4〜8であることが最も好ましい。上記炭化水素基の構造としては、直鎖状でも、分岐があっても、環状でもよいが、環状構造以外の部分に3級炭素を有する構造では、より低い温度で、熱分解による質量減少が起こりやすくなり、耐熱性の点で好ましくない。従って、炭素数が1〜10であり、かつ直鎖状炭化水素基、3級炭素を有さない分岐状炭化水素基を有するメタクリル酸エステルが好ましい。
アクリル系エラストマーの単量体成分として、上記メタクリル酸エステルを用いると、耐電食性がさらに向上するため、好ましい。
【0031】
エステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステルとして具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸デシル等が挙げられる。
なお、エステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステルの炭素数1〜10の炭化水素基としては、脂肪族基であることが好ましい。
【0032】
これらの中でも、得られるエラストマーのTgの点から、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等が特に好ましい。
【0033】
上記エステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステルと併用又は代えて、炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリルアミド等を上記式(II)の構造を構成するアクリル系エラストマーを得るための単量体成分として用いることも可能である。
【0034】
炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリルアミドとして具体的には、N−メチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N,N−ジ−n−プロピルメタクリルアミド、N−i−プロピルメタクリルアミド、N,N−ジ−i−プロピルメタクリルアミド、N−n−ブチルメタクリルアミド、N,N−ジ−n−ブチルメタクリルアミド、N−i−ブチルメタクリルアミド、N,N−ジ−i−ブチルメタクリルアミド、N−sec−ブチルメタクリルアミド、N,N−ジ−sec−ブチルメタクリルアミド、N−ペンチルメタクリルアミド、N,N−ジペンチルメタクリルアミド、N−n−ヘキシルメタクリルアミド、N,N−ジ−n−ヘキシルメタクリルアミド、N−n−オクチルメタクリルアミド、N,N−ジ−n−オクチルメタクリルアミド、N−2−エチルヘキシルメタクリルアミド、N,N−ジ−2−エチルヘキシルメタクリルアミド、N−デシルメタクリルアミド、N,N−ジデシルメタクリルアミド等が挙げられる。
なお、炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリルアミドの炭素数1〜10の炭化水素基としては、脂肪族基であることが好ましい。
【0035】
また、アクリル系エラストマーを得るために重合に使用する単量体成分の一つとして、分子内に、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基と、少なくとも1つの重合性の炭素−炭素二重結合と、を有する官能基含有単量体を用いることが好ましい。官能基含有単量体は、上記式(III)の構造を構成する。
【0036】
上記官能基含有単量体としては、例えば、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−メタクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸等のカルボキシル基含有モノマー(上記式(III)において、Z=「カルボキシル基を含む置換基」となる);
アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸モノマー(上記式(III)において、Z=OHとなる);
アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシブチル、シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のヒドロキシル基含有モノマー(上記式(III)において、Z=「ヒドロキシル基を含む置換基」となる);
無水トリメリット酸アクリロイルオキシエチルエステル、無水トリメリット酸メタクリロイルオキシエチルエステル、シクロヘキサントリカルボン酸無水物アクリロイルオキシエチルエステル、シクロヘキサントリカルボン酸無水物メタクリロイルオキシエチルエステル等の酸無水物基含有モノマー(上記式(III)において、Z=「酸無水物基を含む置換基」となる);
アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル、メタクリル酸−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジニル等のアミノ基含有モノマー(上記式(III)において、Z=「アミノ基を含む置換基」となる);
アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有モノマー(上記式(III)において、Z=「アミノ基を含む置換基」となる);
N−アクリロイルグリシンアミド等のアミド基含有モノマー(上記式(III)において、Z=「アミド基を含む置換基」となる);
アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、α−n−プロピルアクリル酸グリシジル、α−n−ブチルアクリル酸グリシジル、2−(2,3−エポキシプロポキシ)エチルアクリレート、2−(2,3−エポキシプロポキシ)エチルメタクリレート、3−(2,3−エポキシプロポキシ)プロピルアクリレート、3−(2,3−エポキシプロポキシ)プロピルメタクリレート、4−(2,3−エポキシプロポキシ)ブチルアクリレート、4−(2,3−エポキシプロポキシ)ブチルメタクリレート、5−(2,3−エポキシプロポキシ)ペンチルアクリレート、5−(2,3−エポキシプロポキシ)ペンチルメタクリレート、6−(2,3−エポキシプロポキシ)ヘキシルアクリレート、6−(2,3−エポキシプロポキシ)ヘキシルメタクリレート、アクリル酸−3,4−エポキシブチル、メタクリル酸−3,4−エポキシブチル、アクリル酸−4,5−エポキシペンチル、メタクリル酸−4,5−エポキシペンチル、アクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、メタクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、α−エチルアクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、アクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、メタクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、アクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、メタクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、アクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル、メタクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル、アクリル酸−β−メチルグリシジル、メタクリル酸−β−メチルグリシジル、α−エチルアクリル酸−β−メチルグリシジル、アクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、メタクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、アクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、メタクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、アクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル、メタクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル等のエポキシ基含有モノマー(上記式(III)において、Z=「エポキシ基を含む置換基」となる);等を使用することができる。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
これらのうち、保存安定性の点でエポキシ基含有モノマーが好ましく、メタクリル酸グリシジルがより好ましい。
【0037】
本発明においては、アクリル系エラストマーを得るために重合に使用する単量体成分として、上記脂環式単量体、上記エステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステル並びに上記官能基含有単量体の他に、これらの単量体と共重合可能な、その他の単量体を用いることができる。
【0038】
共重合可能な単量体は、基本的に重合体の低吸湿性、耐熱性及び安定性を損なわないものであれば、特に限定されず、具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸ナフチル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のアクリル酸エステル類;
メタクリル酸ブトキシエチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸ナフチル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル等のメタクリル酸エステル類;
4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−フルオロスチレン、α−クロルスチレン、α−ブロモスチレン、フルオロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、メチルスチレン、メトキシスチレン、(o−、m−、p−)ヒドロキシスチレン、スチレン等の芳香族ビニル化合物;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;
無水マレイン酸、等の不飽和ジカルボン酸無水物類;
N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−i−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−i−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のN−置換マレイミド類;
酢酸ビニル;等が挙げられ、その中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルがより好ましい。これらは1種又は2種以上で使用してもよい。
【0039】
なお、本発明においては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物(ニトリル系単量体)は、高温高湿下での電気絶縁性が保持されず、耐電食性に劣るようになるため、使用しない方が好ましい。
【0040】
本発明において、各単量体の混合割合としては、脂環式単量体5〜94.5質量部、エステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステル5〜65質量部、官能基含有単量体0.5〜30質量部、及びこれらと共重合可能な単量体0〜90質量部を、単量体の総質量部が100質量部となるように混合した割合が好ましい。
【0041】
本発明における脂環式単量体の配合量は、5〜94.5質量部であることが好ましいが、10〜80質量部であることが吸湿性の点でより好ましい。脂環式単量体の配合量が5質量部以上であると、吸湿性が満足でき、94.5質量部以下であると、機械的強度が十分である。
【0042】
本発明におけるエステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステルの配合量は、5〜65質量部であることが好ましいが、15〜55質量部であることが耐電食性と柔軟性の点でより好ましい。エステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステルの配合量が5質量部以上であると、耐電食性の向上効果が十分であり、65質量部以下であると、Tgが満足できる。
【0043】
本発明における官能基含有単量体の配合量は0.5〜30質量部であることが好ましいが、1〜20質量部であることがより好ましい。この配合量が0.5質量部以上であると接着性及び強度が十分となり、30質量部以下であると共重合する際に架橋反応を起こしてしまうこともなく、また保存安定性が良好である。
【0044】
本発明において、エラストマーを製造するための重合方法としては塊状重合、懸濁重合、溶液重合、沈殿重合、乳化重合等の既存の方法を適用できる。中でもコストの面で懸濁重合法がもっとも好ましい。
【0045】
懸濁重合は、水性媒体中で行われ、懸濁剤を添加して行う。懸濁剤としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子;リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難溶性無機物質;等があり、中でもポリビニルアルコール等の非イオン性の水溶性高分子が好ましい。イオン性の水溶性高分子や難溶性無機物質を用いた場合には、得られたエラストマー内にイオン性不純物が多く残留する傾向がある。この水溶性高分子は、単量体の総量100質量部に対して0.01〜1質量部使用することが好ましい。
【0046】
本発明において重合を行う際には、ラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート等の有機過酸化物;
アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサノン−1−カルボニトリル、アゾジベンゾイル等のアゾ化合物;
過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性触媒;
及び過酸化物あるいは過硫酸塩と還元剤の組み合わせによるレドックス触媒;等、通常のラジカル重合に使用できるものはいずれも使用することができる。重合開始剤は、単量体の総量100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲で使用されることが好ましい。
【0047】
本発明において、「単量体混合物」とは、脂環式単量体、エステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステル、官能基含有単量体、必要によりこれらと共重合可能な単量体を含んだものであることが好ましい。
また、連鎖移動剤として、メルカプタン系化合物、チオグリコール、四塩化炭素、α−メチルスチレンダイマー等を必要に応じて添加することができる。
熱重合による場合、重合温度は、0〜200℃の間で適宜選択することができ、40〜120℃が好ましい。
【0048】
上記のようにして製造されるエラストマーは、その分子量について特に限定するものではないが、重量平均分子量(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによるポリスチレン換算)が10,000〜2,000,000の範囲であることが好ましく、100,000〜1,500,000の範囲であることが特に好ましい。重量平均分子量が10,000以上であると接着性や強度が十分となり、2,000,000以下であれば、溶剤への溶解性がよく加工性が良好である。
【0049】
本発明のアクリル系エラストマーは、飽和吸湿率が0.6%以下であることが好ましい。飽和吸湿率が0.6%以下であると、高温高湿下における電気絶縁性の低下を抑制できる。飽和吸湿率を0.6%以下とするには、各単量体成分を適宜選択し、配合量を調整することで達成できる。
【0050】
本発明において飽和吸湿率は、乾燥状態のアクリル系エラストマーの質量を測定した後、温度85℃、湿度85%にて質量が一定になるまで吸湿させ、次式により算出される値とする。
【0051】
【数1】

【0052】
本発明のアクリル系エラストマーは、Tgが15℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましく、5℃以下であることが更に好ましい。Tgが高くなると、柔軟性、接着性が低下してしまう傾向にある。得られるエラストマーのTgは、単量体成分の種類及び/又は配合量を適宜調整することによって設計することができる。
【0053】
本発明のアクリル系エラストマーは、溶媒に溶解して、溶液状のアクリル系エラストマー組成物として、半導体装置用、配線基板用等の電子材料用として提供することもできる。
【0054】
溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン等、一般的な有機溶媒を用いることができる。作業性に支障のない粘度になるように、溶剤の使用量を変えることができる。その使用量は、アクリル系エラストマーとの合計量に対し、アクリル系エラストマーの含有割合(固形分濃度)が、5〜45質量%となる量が好ましく、10〜40質量%となる量がより好ましい。
【0055】
本発明のアクリル系エラストマーは、必要に応じてエポキシ樹脂、さらにエポキシ樹脂硬化剤と混合し、ポリマーアロイとし、電子材料として使用することができる。これらエポキシ樹脂、及びエポキシ樹脂硬化剤は特に制限されることはなく市販の材料を用いることができる。
【0056】
また、反応性、接着性、強度を向上させるために充填剤、硬化促進剤、シランカップリング剤、各種フィラー等の材料を併用することができる。電子材料の形態はフィルム状でもペースト状でも溶液状でもよい。
【0057】
本発明のアクリル系エラストマーとエポキシ樹脂の混合割合には特に制限はなく、例えば前者/後者(質量比)で10/90〜90/10の割合で使用することが可能である。
【0058】
上記エポキシ樹脂としては、硬化して接着作用を呈するものであればよく、一般に二官能以上(1分子中にエポキシ基を2個以上含有)のエポキシ樹脂が使用できる。二官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型又はビスフェノールF型エポキシ樹脂等が例示される。また、三官能以上(1分子中にエポキシ基を3個以上含有)の多官能エポキシ樹脂を用いてもよく、三官能以上の多官能エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が例示される。
【0059】
エポキシ樹脂硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として通常用いられているものを使用でき、アミン、ポリアミド、酸無水物、ポリスルフィド、三弗化硼素、及びフェノール性水酸基を1分子中に2個以上有する化合物であるビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSや、フェノール樹脂等が使用できる。吸湿時の耐電食性に優れる点からはフェノールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂又はクレゾールノボラック樹脂等を用いることが好ましい。
【0060】
エポキシ樹脂硬化剤は、一般に、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して、エポキシ樹脂硬化剤のエポキシ基と反応する基が0.6〜1.4当量となるように使用することが好ましく、0.8〜1.2当量となるように使用することがより好ましい。エポキシ樹脂硬化剤が適量であると耐熱性が満足できる。
【0061】
さらにエポキシ樹脂硬化剤とともに硬化促進剤を用いることもでき、硬化促進剤としては、各種イミダゾール類等が挙げられる。硬化促進剤を使用する場合の配合量は好ましくは、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤の合計100質量部に対して0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜15質量部である。0.1質量部以上であると硬化速度が十分となり、また20質量部以下であれば可使期間が満足できる。
【0062】
フィルム状にする場合の手法には特に制限はなく、例えば基材フィルム上に各種塗工装置を用いて上記半導体装置接着剤のワニスを塗工し乾燥して製造することができる。
【0063】
本発明のアクリル系エラストマーは、フィルム状接着剤等の半導体用接着剤、フレキシブル配線板用基板材料及びそれに用いられる接着剤、回路接続用接着フィルム等の電子材料に好ましく用いられる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0065】
(実施例1)
アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル(日立化成工業(株)製、FA−513A)300g、アクリル酸ブチル(BA)350g、メタクリル酸エチル(EMA)300g、メタクリル酸グリシジル(GMA)50gを混合し、得られた単量体混合物にさらに過酸化ラウロイル5g、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン0.45gを溶解させて、混合液とした。
【0066】
撹拌機及びコンデンサを備えた5Lのオートクレーブに懸濁剤としてポリビニルアルコールを0.04g、イオン交換水を2000g加えて撹拌しながら上記混合液を加え、撹拌回転数250rpm、窒素雰囲気下において60℃で5時間、次いで90℃で2時間重合させ、樹脂粒子を得た(重合率は、質量法で99%であった)。この樹脂粒子を水洗、脱水、乾燥し、メチルエチルケトンに加熱残分が35質量%となるように溶解し、樹脂ワニスを作製した。次いで樹脂ワニス200質量部、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、エピコート828)15質量部、フェノール樹脂(DIC(株)製、LF2882)15質量部、硬化促進剤として1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール(四国化成工業(株)製、キュアゾール2PZ−CN)0.5質量部からなる混合溶液を、厚さ500μmのアルミニウム板上に塗布し、170℃で3時間乾燥して膜厚が150μmのフィルムを作製した。
【0067】
(実施例2)
表1に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製した。
(実施例3)
表1に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製した。
【0068】
(実施例4)
表1に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製した。
(実施例5)
表1に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製した。
【0069】
(実施例6)
表1に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製した。
(実施例7)
表1に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製した。
【0070】
(比較例1)
市販のアクリロニトリルを使用し、表2に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製した。
(比較例2)
脂環式単量体及びエステル部分の炭素数が1〜10であるメタクリル酸エステルを使用せず、表2に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製した。
【0071】
(比較例3)
エステル部分の炭素数が1〜10であるメタクリル酸エステルを使用せず、表2に示す組成比率とした以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製した。
(比較例4)
エステル部分の炭素数が12であるメタクリル酸エステルを使用し、表2に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製した。
【0072】
実施例1〜7、比較例1〜4の樹脂、及びフィルムについて、重量平均分子量、ガラス転移温度(Tg)、吸湿率、体積抵抗値、耐電食性等を測定し、表1及び表2に示した。なお、各評価は下記に示す方法を用いて行った。
【0073】
(1)重量平均分子量
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(溶離液:THF、カラム:Gelpack GL−A100M、ポリスチレン換算)を用いて測定した。
【0074】
(2)ガラス転移温度(Tg)
DSC((株)リガク製、Termo Plus DSC 8230型)を用いて、窒素雰囲気下で−60〜80℃の範囲(昇温速度:10℃/min)で測定を行った。
【0075】
(3)吸湿率
樹脂の乾燥後の質量を測定した後、温度85℃、湿度85%の状態にて質量が一定になるまで吸湿させ、次式により吸湿率を算出した。
【0076】
【数2】

【0077】
(4)体積抵抗値
ハイレジスタンスメータ(ヒューレット・パッカード社製、4329A)を用いてフィルムの体積抵抗値を測定した。
(5)耐電食性
作製したフィルムを温度85℃、湿度85%下に120時間放置し、体積抵抗値を測定した。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
表中に示される単量体の詳細は、以下の通りである。
FA−513A:アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル(日立化成工業(株)製、)、
MMA:メタクリル酸メチル
EMA:メタクリル酸エチル、
BMA:メタクリル酸ブチル、
2EHMA:メタクリル酸2−エチルヘキシル、
LMA:ラウリルメタクリレート、
GMA:メタクリル酸グリシジル、
EA:アクリル酸エチル、
BA:アクリル酸ブチル、
【0081】
本発明における脂環式単量体、エステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステル並びに官能基含有単量体を用いた実施例1〜7では、吸湿率が小さいエラストマーが得られ、それらのエラストマーを用いることにより、体積抵抗値及び耐電食性が共に高いフィルムが得られた。
【0082】
これに対し、本発明における脂環式単量体を用いていない比較例1並びに本発明における脂環式単量体及びエステル部分の炭素数が1〜10であるメタクリル酸エステルを用いていない比較例2のエラストマーは、得られたフィルムは耐電食性が劣っていた。特に、アクリロニトリルを使用した比較例1のエラストマーは、吸湿率が高くなった。また、エステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステルを用いていない比較例3並びに比較例4のエラストマーは、吸湿率は小さいものの、各実施例と比較して、体積抵抗値が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明により、高温高湿下で優れた電気絶縁性を有し、かつ長期間の信頼性に優れたアクリル系エラストマー及びこれを用いたアクリル系エラストマー組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造単位として、少なくとも下記一般式(I)、(II)及び(III)の構造を含むアクリル系エラストマー。
【化1】

(Xは、炭素数5〜22の脂環式炭化水素を含む置換基を示す。R1は水素又はメチル基を示す。)
【化2】

(Yは、炭素数1〜10の炭化水素基を含む置換基を示す。R2はメチル基を示す。)
【化3】

(Zは、OH、若しくは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を含む置換基を示す。R3は水素又はメチル基を示す。)
【請求項2】
エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルと、
エステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステルと、
カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基並びに少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する官能基含有単量体と、を含有する単量体混合物を重合して得られる請求項1記載のアクリル系エラストマー。
【請求項3】
前記エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステル5〜94.5質量部と、前記エステル部分に炭素数1〜10の炭化水素基を有するメタクリル酸エステル5〜65質量部と、前記官能基含有単量体0.5〜30質量部と、これらと共重合可能な単量体0〜90質量部とを、単量体の総質量部が100質量部となるように含有する単量体混合物を重合して得られる請求項1又は2に記載のアクリル系エラストマー。
【請求項4】
前記炭素数5〜22の脂環式炭化水素基が、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、トリシクロデカニル基、イソボルニル基、及びアダマンチル基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1乃至3のいずれかに記載のアクリル系エラストマー。
【請求項5】
飽和吸湿率が0.6%以下である請求項1乃至4のいずれかに記載のアクリル系エラストマー。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のアクリル系エラストマーと溶媒とを含有してなるアクリル系エラストマー組成物。

【公開番号】特開2012−31380(P2012−31380A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51741(P2011−51741)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】