説明

アクリル系共重合体の製造方法

【課題】アクリル酸エステル単量体に基づく構造単位とノルボルネン系単量体に基づく構造単位からなるアクリル系共重合体を、ラジカル重合開始剤を使用して該開始剤の10時間半減期温度に対して0〜30℃高い温度で製造できる方法を提供する。
【解決手段】アクリル酸エステル単量体(A)と、ノルボルネン系単量体(B)とを、
ルイス酸(C)とニッケル化合物(D)の存在下において、アゾビス系ラジカル重合開始剤を用いて、重合開始温度及び重合発熱によるピーク温度が、該ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度に対して0〜30℃高い温度で共重合させるアクリル系共重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系共重合体の製造方法に関する。さらに詳しくは、ノルボルネン系単量体とアクリル酸エステル単量体とを、特定のルイス酸とニッケル化合物の存在下にラジカル重合することにより、ノルボルネン系単量体に基づく構造単位とアクリル酸エステル系単量体に基づく構造単位を含む共重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂は、透明性等の光学特性に優れているため、照明器具、レンズ等の光学部品等の透明性を要求される成形品用樹脂として多く使用されている。しかし、アクリル系樹脂は、耐熱性が低い、および吸水性または吸湿性が高いため吸水または吸湿により変形しやすいとの問題点を有し、その使用できる用途に制限がある。
【0003】
そこで、ノルボルネン系単量体とメタクリル酸メチル単量体との共重合体が提案されている(特許文献1)。しかしながら、前記共重合体の製造においては、メタクリル酸メチル単量体とほぼ等モル量のルイス酸触媒を使用し、使用しているラジカル重合開始剤の10時間半減期温度より低い温度で重合が実施されており、長時間の重合時間を要するという製造上の問題点があった。
【0004】
また、ノルボルネン系単量体とアクリル酸エステル単量体との共重合体が提案されている(特許文献2,3)。しかしながら、前記共重合体の製造においては、重合温度が高すぎるとルイス酸に起因して前記共重合体に着色が発生するという理由により、特許文献1と同様に、重合温度は70℃以下が好ましいとされており、実際の実施例においては、使用しているラジカル重合開始剤の10時間半減期温度より低い温度で重合が実施されており、長時間の重合時間を要するという製造上の問題点があった。
【0005】
一方、周期律表第8族、第9族、および第10族からなる群から選ばれる遷移金属化合物とB、Al、Ti、Zn、Ge、Sn、およびSbからなる群から選ばれる元素のハロゲン化物と水もしくは酸を触媒として、ノルボルネン系重合体の製造方法が提案されている(特許文献4)。しかしながら、該特許文献に記載の触媒はノルボルネン系共重合体を配位重合にて製造するための触媒であり、ノルボルネン系単量体とアクリル酸エステル単量体とをラジカル重合開始剤を用いて共重合することに有用であるという記載はない。
【0006】
【特許文献1】特開平7-242711号公報
【特許文献2】特開2004-277473号公報
【特許文献3】特開2004-67985号公報
【特許文献4】特開2000-169517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような従来技術の問題点を解消するため、本発明の目的は、アクリル酸エステル単量体に基づく構造単位とノルボルネン系単量体に基づく構造単位を含むアクリル系共重合体を、ルイス酸とニッケル化合物との存在下において、アゾビス系ラジカル重合開始剤を使用して該ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度に対して0〜30℃高い温度で製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討を進めた結果、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、
アクリル酸エステル単量体(A)と、下記一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、mおよびnは独立に0〜2の整数であり、Ra、Rb、RcおよびRdは独立に水素原子;ハロゲン原子;式(1)記載の環構造に直接結合している置換もしくは非置換の炭素数1〜20の炭化水素基;式(1)記載の環構造に、酸素、窒素、イオウもしくはケイ素を含む連結基を介して結合している置換もしくは非置換の炭素数1〜20の炭化水素基;または極性基を表す]で表されるノルボルネン系単量体(B)とを、
ルイス酸(C)とニッケル化合物(D)の存在下において、アゾビス系ラジカル重合開始剤を用いて、重合開始温度及び重合発熱によるピーク温度が、該ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度に対して0〜30℃高い温度で共重合させるアクリル系共重合体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ノルボルネン系単量体とアクリル酸エステル単量体とをルイス酸とニッケル化合物との存在下において、アゾビス系ラジカル重合開始剤を用いて、重合開始温度及び重合発熱によるピーク温度が、該ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度に対して0〜30℃高い温度で重合することにより、短時間の重合時間で分子量を低下させることなくかつ収率よく、アクリル系共重合体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明について、以下に更に詳細に説明する。
アクリル酸エステル単量体(A)
本発明で用いるアクリル酸エステル単量体(A)の具体例としては、例えば、以下に示すものを挙げることができるが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、これらは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0013】
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸4−ターシャリーブチルシクロヘキシル、アクリル酸トリシクロデカニル、アクリル酸ジシクロペンタジエニル、アクリル酸アダマンチル。
【0014】
ノルボルネン系単量体(B)
本発明で用いるノルボルネン系単量体(B)は下記一般式(1)で表されるものである。
【0015】
【化2】

【0016】
[式中、mおよびnは独立に0〜2の整数であり、Ra、Rb、RcおよびRdは独立に水素原子;ハロゲン原子;式(1)記載の環構造に直接結合している置換もしくは非置換の炭素数1〜20の炭化水素基;式(1)記載の環構造に、酸素、窒素、イオウもしくはケイ素を含む連結基を介して結合している置換もしくは非置換の炭素数1〜20の炭化水素基;または極性基を表す]
【0017】
単量体(B)の具体例としては、例えば、以下に示すものを挙げることができるが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、これらは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0018】
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、および5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンなどのビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン誘導体。
【0019】
テトラシクロ[6.2.11,8.13,6.02,7]−ドデカ−4−エン、9−メチルテトラシクロ[6.2.11,8.13,6.02,7]−ドデカ−4−エン、9−エチルテトラシクロ[6.2.11,8.13,6.02,7]−ドデカ−4−エンなどのテトラシクロ[6.2.11,8.13,6.02,7]−ドデカ−4−エン誘導体。
【0020】
トリシクロ[5.2.1.02,6]−デカ−8−エン;5−シクロヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、および5−シクロペンチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンなどの環状置換基を有するビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン誘導体。
【0021】
まず、上記Ra〜Rdについて説明する。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子および臭素原子が挙げられる。炭素原子数1〜20の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基;メチルフェニル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基等のアルカリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;等があげられる。これらの炭化水素基の一部または全部の水素原子は置換されていてもよく、置換基としては、例えばフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基、フェニルスルホニル基等があげられる。
【0022】
また、上記の置換もしくは非置換の炭化水素基は、直接環構造に結合していてもよいし、または、酸素、窒素、イオウまたはケイ素を含む連結基(linkage)を介して環構造に結合していてもよい。該連結基としては、例えば、カルボニル基(−C(=O)−)、カルボニルオキシ基(−C(=O)O−)、オキシカルボニル基(−OC(=O)−)、スルホニル基(−SO2−)、エーテル結合(−O−)、チオエーテル結合(−S−)、イミノ基(−NH−)、アミド結合(−NHCO−,−CONH−)、シロキサン結合(−OSi(R)2−)(式中、Rはメチル、エチル等のアルキル基)等が挙げられ、これらの複数を含む連結基であってもよい。
【0023】
さらに具体的には、上記連結基がエーテル結合(−O−)である場合の環構造への置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基等のアルコキシル基;ペンタフルオロプロポキシ基、ヘプタフルオロプロポキシ基等のハロゲン置換アルコキシル基などが挙げられる。上記連結基がカルボニルオキシ基(−C(=O)O−)である場合の環構造への置換基としては、例えば、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。上記連結基がオキシカルボニル基(−OC(=O)−)である場合の環構造への置換基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、トリフルオロエトキシカルボニル基等のアルキロキシカルボニル基;および、例えばフェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、フルオレニルオキシカルボニル基、ビフェニリルオキシカルボニル基等が挙げられる。上記連結基がシロキサン結合(−OSi(R)2−)(式中、Rはメチル、エチル等のアルキル基)である場合の環構造への置換基としては、例えば、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基等が挙げられる。上記Ra〜Rdが極性基である例としては、例えば、水酸基、シアノ基(−CN)、アミド基(−CONH2)、アミノ基(−NH2)、カルボキシル基、イミド環含有基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等のトリオルガノシリル基;トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基等が挙げられる。これらの中でも、得られる重合体の耐熱性や低吸水性の点で、水素原子、炭素原子数1〜20の炭化水素基が好ましい。
【0024】
本発明において使用される単量体(A)と(B)の割合は、合計を100モルとしたとき、単量体(A)が70〜30モル、単量体(B)が30〜70モルであることが好ましい。より好ましくは単量体(A)がモル60〜40モル、単量体(B)が40〜60であり、さらに好ましくは単量体(A)が55〜45モル、単量体(B)が45〜55モルである。単量体(B)の割合が少なすぎると、耐熱性や吸水性・吸湿性に問題が生じる場合がある。
本発明のアクリル系共重合体の合成にあたっては、本発明の効果を損なわない範囲において、上記の特定単量体( A )、( B ) 以外の共重合可能な単量体( 以下、「共重合性単量体」という。) を併用してもよい。
かかる共重合性単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t − ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2 − エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸イソステアリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2− テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸2 − ヒドロキシエチル、メタクリル酸2 − ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2 − エトキシエチル、メタクリル酸4 − メトキシブチル、メタクリル酸メトキシジエチレングリコール、メタクリル酸2 − ブトキシエチル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸ベンジル、メタリル酸フェノキシエチル、メタリル酸フェノキシポリエチレン、メタリル酸ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、メタリル酸2 − ヒドロキシ− 3 − フェノキシプロピルなどのメタクリル酸エステル、スチレン、α ― メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物などが挙げられる。
また、N − メチルマレイミド、N − エチルマレイミド、N − プロピルマレイミド、N − イソプロピルマレイミド、N − ブチルマレイミド、N − イソブチルマレイミド、N − t − ブチルマレイミド、N − ペンチルマレイミド、N − ヘキシルマレイミド、N − シクロヘキシルマレイミド、N − ヘプチルマレイミド、N − オクチルマレイミド、N − ノニルマレイミド、N − デシルマレイミド、N − ウンデシルマレイミド、N − ドデシルマレイミド、N −トリデシルマレイミド、N − テトラデシルマレイミド、N − ペンタデシルマレイミド、N− ヘキサデシルマレイミド、N − ヘプタデシルマレイミド、N − オクタデシルマレイミド、N − ノナデシルマレイミド、N − エイコシルマレイミド、N − フェニルマレイミド、N− ベンジルマレイミドなども挙げることができる。
さらに、式: R O C O C H = C H C O O R ( 式中、R およびR は独立に炭素原子数1 〜 2 0 のアルキル基である) で示されるフマル酸エステルまたはマレイン酸エステル類が挙げられ、前記R 、R としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t − ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、t − ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、2 − エチルヘキシル基、3 , 5 ,5 − トリメチルヘキシル基などが挙げられる。これらの基のうち、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t − ブチル基、イソペンチル基、t − ペンチル基、シクロヘキシル基、2 − エチルヘキシル基が好ましい。特に、イソプロピル基、イソブチル基、t − ブチル基、イソペンチル基、t − ペンチル基、シクロヘキシル基が好ましい。これら嵩高い置換基を有する共重合性単量体を用いると、重合の停止反応速度が小さくなり、より高分子量の環状オレフィン系共重合体が得られることから好ましい。
また、アルキルオレフィン化合物も共重合性単量体として使用できる。具体的には、プロピレン、1 − ブテン、1 − ペンテン、1 − ヘキセン、1 − ヘプテン、1 − オクテン、1 −ノネン、1− デセン、1 − ウンデセン、1 − ドデセン、1 − トリデセン、1 − テトラデセン、1 − ペンタデセン、1 − ヘキサデセン、1 − ヘプタデセン、1 − オクタデセン、1 −ノナデセン、1 −エイコセン、1 − ヘンエイコセン、1 − ドデセン、イソブテン、2 − メチル− 1 − ブテン、2 − メチル− 1 − ペンテン、2 − メチル− 1 − ヘキセン、2 − メチル− 1 − ヘプテン、2 − メチル− 1 − オクテン、2 − メチル− 1 − ノネン、2 − メチル− 1− デセン、2 −メチル− 1 − ウンデセン、2 − メチル− 1 − ドデセン、2 − メチル− 1 −トリデセン、2 − メチル− 1 − テトラデセン、2 − メチル− 1 − ペンタデセン、2 − メチル− 1 − ヘキサデセン、2 − メチル− 1 − ヘプタデセン、2 − メチル− 1 − オクタデセン、2 − メチル− 1 − ノナデセン、2 − メチル− 1 − エイコセン、2 − メチル− 1 − ヘンエイコセン、2 − メチル− 1 − ドデセン、2 − エチル− 1 − ブテン、2 − エチル− 1 − ペンテン、2 − エチル− 1 − ヘキセン、2 − エチル− 1 − ヘプテン、2 − エチル− 1 − オクテン、2 − エチル− 1 − ノネン、2 − エチル− 1 − デセン、2 − エチル− 1 − ウンデセン、2 − エチル− 1 − ドデセン、2 − エチル− 1 − トリデセン、2 − エチル− 1 − テトラデセン、2 − エチル− 1 − ペンタデセン、2 − エチル− 1 − ヘキサデセン、2 − エチル− 1 −ヘプタデセン、2 − エチル− 1 − オクタデセン、2 − エチル− 1 − ノナデセン、2 − エチル− 1 − イコセン、2 − エチル− 1 − ヘンイコセン、2 − エチル− 1 − ドデセン、2 − プロピル− 1 − ペンテン、2 − プロピル− 1 − ヘキセン、2 − プロピル− 1 − ヘプテン、2− プロピル− 1 − オクテン、2 − プロピル− 1 − ノネン、2 − プロピル− 1 − デセン、2− プロピル− 1 − ウンデセン、2 − プロピル− 1 − ドデセン、2 − プロピル− 1 − トリデセン、2 − プロピル− 1 − テトラデセン、2 − プロピル− 1 − ペンタデセン、2 − プロピル− 1 − ヘキサデセン、2 − プロピル− 1 − ヘプタデセン、2 − プロピル− 1 − オクタデセン、2 − プロピル− 1 − ノナデセン、2 − プロピル− 1 − イコセン、2 − プロピル− 1− ヘンイコセン、2 − プロピル− 1 − ドデセンなどを挙げることができる。
また、これらの共重合性単量体を用いる場合の使用量は、上記特定単量体( A ) 、( B )の合計1 0 0 モルに対して、通常、5 〜 2 0 モル程度である。
【0025】
ルイス酸(C)
ルイス酸(C)の具体例としては、例えば、以下に示すものを挙げることができるが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、これらは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0026】
三塩化アルミニウム、エチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムクロリド、エトキシアルミニウムジクロリド、トリエチルアルミニウム、三沃化アルミニウム、三臭化アルミニウム、五塩化アンチモン、トリエチルアルミニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラt− ブトキシジルコニウム、テトラアセチルアセトンジルコニウム、四塩化スズ、三塩化アンチモン、三塩化鉄、四塩化チタン、二塩化亜鉛、二塩化水銀、二塩化カドミウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三沃化ホウ素および、これらのルイス酸と水との反応物などが挙げられる。これらのルイス酸のうち、エチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、トリエチルアルミニウム、三塩化アルミニウムを用いると特定単量体(A)および(B)の単独重合体の生成が有効に抑制できるため、共重合反応が促進される。
【0027】
ルイス酸(C)の使用量は、特定単量体(A)および(B)の合計を100モルとしたとき、1〜100モルであることが好ましい。より好ましくは1〜50モル、さらに好ましくは10〜20モルである。ルイス酸の使用量が少なすぎると、特定単量体(A)、(B)の単独重合体が副生し、得られる環状オレフィン系共重合体の成型品が白濁したり、光学的に不均一になるなどの欠陥を生じることがあるので好ましくない。また、ルイス酸使用量が多すぎるとルイス酸の除去工程が困難となり好ましくない。
【0028】
ニッケル化合物(D)
本発明で用いるニッケル化合物(D)の具体例としては、例えば、以下に示すものを挙げることができるが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、これらは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0029】
酢酸ニッケル、トリフルオロ酢酸ニッケル、2−エチルヘキサン酸ニッケル、n−オクタン酸ニッケル、デカン酸ニッケル、ステアリン酸ニッケル、オクタデカ−9−エン酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル、オクタデカン酸ニッケル、シクロヘキサンカルボン酸ニッケル、ベンゼンカルボン酸ニッケル、2−メチルベンゼンカルボン酸ニッケル、4−メチルベンゼンカルボン酸ニッケル、ナフタレンカルボン酸ニッケルなどの炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和カルボン酸のニッケルカルボン酸塩や、β−ジケト化合物を配位子として有するニッケル化合物としてニッケルビス(2,4−ペンタジオナート)、ニッケルビス(1−エトキシ−1,3−ブタジオナート)、ニッケルビス(1,1,1−トリフルオロ−5,5,5,−トリフルオロ−2,4−ペンタジオナート)、ニッケルビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタ-3,5−ジオナート)が挙げられる。
【0030】
ニッケル化合物(D)の使用量は、好ましくはルイス酸(C)の使用量を100モルとしたとき、0.001〜10モルである。この条件であれば、高温で重合した場合において短時間の重合時間でも分子量が低下することなく、かつ収率よくアクリル系共重合体を得ることができる。ニッケル化合物(D)の使用量は、より好ましくはルイス酸(C)の使用量を100モルとしたとき、0.01〜5モルである。ニッケル化合物の使用量が多すぎると、ルイス酸(C)が失活したり、特定単量体(B)の単独重合体が副生し、得られるアクリル系共重合体の成形品が白濁したり、光学的に不均一になるなどの欠陥を生じることがあるので好ましくない。また、ニッケル化合物の使用量が少なすぎると得られる共重合体が低分子量体のものしか得られない可能性があるため好ましくない。
【0031】
ラジカル重合開始剤
本発明のアクリル系共重合体の重合においては、ルイス酸との親和性が高く、ルイス酸を失活させる可能性がある酸素分子をほとんどもしくは全く含まないアゾビス系のラジカル重合開始剤を用いる。
アゾビス系ラジカル重合開始剤の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4− ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{2−(1−ヒドロキシブチル)}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェート・ジハイドレート、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−{1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル}プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシチル)−2−メチル− プロピオンアミジン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドキシム)、ジメチル2,2’−アゾビスブチレート、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)などが挙げられる。
【0032】
これらのラジカル重合開始剤は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。ラジカル重合開始剤の使用量は、全単量体合計量100モルに対して、0.01〜5モルであることが好ましい。より好ましくは0.01〜1モル、さらに好ましくは0.05〜0.2モルである。開始剤量が少なすぎると単量体の反応率が低くなり生産上好ましくない。また、開始剤量が多すぎると得られるアクリル系共重合体の分子量が小さくなり、靱性が低下することから好ましくない。
【0033】
重合開始温度及び重合発熱によるピーク温度
本発明のアクリル系共重合体の重合においては、重合開始温度及び重合発熱によるピーク温度が使用するアゾビス系ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度に対して、0〜30℃高い温度である。より好ましくは1〜25℃高い温度、さらにより好ましくは5〜20℃高い温度である。重合開始温度及び重合発熱によるピーク温度が該ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度より低い場合、長時間の重合時間が必要となり生産上好ましくない。
【0034】
本発明の共重合体の製造における重合形態としては特に制限はなく、公知の重合形態を採用することができる。例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、適当な溶媒を使用した溶液重合、及びスラリー重合等を採用することができる。
【0035】
共重合体の製造において溶媒を使用する場合、各種の溶媒を使用できる。例えば、ベンゼン、トルエン、o,m,p−キシレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、二塩化エチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶媒;アセトン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ベンゾニトリル、アセトニトリル等のニトリル系溶媒;1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル等のエーテル系溶媒;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
その他、共重合体の分子量を調節するために、メルカプタン化合物、α−メチルスチレンダイマー、テルペノイド化合物等、公知の連鎖移動剤を添加してもよい。
【0037】
なお、本発明の共重合体を各種用途に使用するに際し、この共重合体に、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の劣化防止剤、可塑剤、安定化剤、増粘剤、粘着付与樹脂等を添加してもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例、比較例において、各種測定は以下のように行った。
<共重合体の組成比>
1H−NMR(日本電子製、JNM−EX270)により測定した(溶媒:重クロロホルム)。共重合体中の組成比は1H−NMRにおけるアクリル酸メチル(以下、「MA」と表すことがある)由来のメトキシ基の水素とノルボルネン(以下、「NB」と表すことがある)由来の炭化水素のピークとの積分比から算出した。
<重合体の数平均分子量及び分子量分布>
ポリメタクリル酸メチルをスタンダードとした。クロロホルムを溶媒として用い、40℃にて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した溶出曲線から、数平均分子量(以下、「Mn」と表すことがある)および重量平均分子量(以下、「Mw」と表すことがある)を求め、分子量分布(Mw/Mn)を決定した。
【0039】
[実施例1]
窒素置換した300ml四つ口フラスコに冷却管、温度計を取り付け、三塩化アルミニウム3.1g(23.2mmol)を加えた。ここに、アクリル酸メチル(MA)10g(116mmol)、トルエン10gを加えて50℃に加熱し、10分攪拌した。更に、ステアリン酸ニッケル0.145g(0.232mmol)を添加し、次いでノルボルネン(NB)10.94g(116mmol)、トルエン10gを加えて、70℃に加熱し、15分攪拌した。ついで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.05g(0.304mmol;10時間半減期温度65℃)を添加し、重合開始温度70℃で3時間、反応させた。このとき重合発熱によるピーク温度は73℃であった。
その後、反応液をトルエン84gで希釈し、希釈した反応液を2Lのメタノールに投入し、析出物をろ過して白色固体を得た。この白色固体をメタノールで洗浄し、100℃、24時間、真空乾燥を行い、共重合体15g(収率 72%)を得た。
1H-NMRで分析したところ、共重合体中のMA由来骨格/NB由来骨格の組成比は、52/48(mol%/mol%)であった。また、この共重合体の数平均分子量(Mn)は43600、重量平均分子量(Mw)は105400、分子量分布(Mw/Mn)は2.4であった。
【0040】
[実施例2]
ステアリン酸ニッケル0.289g(0.464mmol)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(以下、「AIBN」と表す)0.03g(0.182mmol)としたこと以外は、実施例1と同様に重合を行った。このとき、重合発熱によるピーク温度は84℃であった。実施例1と同様に重合後の処理を行い、共重合体13.6g(収率 65%)を得た。
1H-NMRで分析したところ、共重合体中のMA由来骨格/NB由来骨格の組成比は、50/50(mol%/mol%)であった。また、この共重合体の数平均分子量(Mn)は37650、重量平均分子量(Mw)は74600、分子量分布(Mw/Mn)は2.0であった。
【0041】
[実施例3]
ステアリン酸ニッケル0.578g(0.928mmol)としたこと以外は、実施例1と同様に重合を行った。このとき、重合発熱によるピーク温度は76℃であった。実施例1と同様に重合後の処理を行い、共重合体11.5 g(収率 55%)を得た。
1H-NMRで分析したところ、共重合体中のMA由来骨格/NB由来骨格の組成比は、53/47(mol%/mol%)であった。また、この共重合体の数平均分子量(Mn)は50000、重量平均分子量(Mw)は93700、分子量分布(Mw/Mn)は1.9であった。
【0042】
[実施例4]
ステアリン酸ニッケルの代わりに、酢酸ニッケル0.289g(1.16mmol)を用いたこと以外は、実施例1と同様に重合を行った。このとき、重合発熱によるピーク温度は74℃であった。実施例1と同様に重合後の処理を行い、共重合体13.6 g(収率 65%)を得た。
1H-NMRで分析したところ、共重合体中のMA由来骨格/NB由来骨格の組成比は、53/47(mol%/mol%)であった。また、この共重合体の数平均分子量(Mn)は30100、重量平均分子量(Mw)は57500、分子量分布(Mw/Mn)は1.9であった。
【0043】
[比較例1]
ステアリン酸ニッケルを用いなかったこと以外は、実施例1と同様に重合を行った。このとき、重合発熱によるピーク温度は98℃であった。実施例1と同様に重合後の処理を行い、共重合体11 g(収率 52%)を得た。
1H-NMRで分析したところ、共重合体中のMA由来骨格/NB由来骨格の組成比は、52/48(mol%/mol%)であった。また、この共重合体の数平均分子量(Mn)は21700、重量平均分子量(Mw)は70400、分子量分布(Mw/Mn)は3.3であった。
【0044】
[比較例2]
AIBNを用いなかったこと以外は、実施例1と同様に重合を行ったが、共重合体は得られなかった。
【0045】
[比較例3]
重合開始温度50℃で重合させたこと以外は、実施例1と同様に重合を行った。このとき、重合発熱によるピーク温度は52℃であった。実施例1と同様に重合後の処理を行い、共重合体 2.6g(収率 12%)を得た。
1H-NMRで分析したところ、共重合体中のMA由来骨格/NB由来骨格の組成比は、54/46 (mol%/mol%)であった。また、この共重合体の数平均分子量(Mn)は47000、重量平均分子量(Mw)は520600、分子量分布(Mw/Mn)は11.1であった。
【0046】
[比較例4]
AIBNの代わりに過酸化ベンゾイル(BPO)0.07g(0.289mmol)を用い、重合開始温度80℃で重合させたこと以外は、実施例1と同様に重合を行ったが、共重合体は得られなかった。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の製造方法により得られる共重合体は、その優れた耐熱性、成形性、溶剤溶解性等を活用して、電気・電子分野、自動車分野、医療分野等におけるエラストマー、透明耐熱性樹脂、シート、フィルム、チューブ、ホース、光学材料、シーリング剤、接着剤、粘着剤、封止剤、塗料、コーティング剤、自動車部品、電気部品、航空・宇宙部品、電子部品、電池部品、エレクトロニクス関連部品、マルチメディア関連部品、フォトレジストなど、各種成形品、部品、樹脂材料として有用である。さらには、極性基を付与したオレフィン系樹脂であるという観点からも、ポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等に添加することにより、その耐衝撃性、塗装性、印刷適性、耐候性等を改良することも可能である。さらには、ポリオレフィン系樹脂とアクリル系樹脂との相溶化剤、密着性改良剤など異なる樹脂間の相溶化剤としての利用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸エステル単量体(A)と下記一般式(1)で表されるノルボルネン系単量体(B)とを、ルイス酸(C)とニッケル化合物(D)の存在下において、アゾビス系ラジカル重合開始剤を用いて、重合開始温度及び重合発熱によるピーク温度が、該ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度に対して0〜30℃高い温度で共重合させるアクリル系共重合体の製造方法。
【化1】

[式中、mおよびnは独立に0〜2の整数であり、Ra、Rb、RcおよびRdは独立に水素原子;ハロゲン原子;式(1)記載の環構造に直接結合している置換もしくは非置換の炭素数1〜20の炭化水素基;式(1)記載の環構造に、酸素、窒素、イオウもしくはケイ素を含む連結基を介して結合している置換もしくは非置換の炭素数1〜20の炭化水素基;または極性基を表す]
【請求項2】
ルイス酸が三塩化アルミニウムである請求項1記載のアクリル系共重合体の製造方法。
【請求項3】
ニッケル化合物が、炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和カルボン酸のニッケルカルボン酸塩、ニッケルビス(2,4−ペンタジオナート)、ニッケルビス(1−エトキシ−1,3−ブタジオナート)、ニッケルビス(1,1,1−トリフルオロ−5,5,5−トリフルオロ−2,4−ペンタジオナート)、またはニッケルビス(2,2,6,6-テトラメチルヘプタ-3,5-ジオナート)である請求項1又は2記載のアクリル系共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−260891(P2008−260891A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106143(P2007−106143)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】