説明

アクリル系絶縁性接着剤

【課題】電子部品を配線基板にNCF接合するための絶縁性接着剤として、低温速重合硬化性に優れ、良好な接続信頼性を実現できる、ラジカル重合性のアクリル系絶縁性接着剤を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリレートモノマー、成膜用樹脂、無機フィラー、シランカップリング剤及びラジカル重合開始剤を含有する、電子部品を配線基板に固着させるためのアクリル系絶縁性接着剤であって、無機フィラーを、(メタ)アクリレートモノマー及び成膜用樹脂の合計100質量部に対し70〜160質量部含有し、アクリル系絶縁性接着剤のラジカル重合硬化物が、150〜185℃のガラス転移点を示し且つガラス転移温度より低い温度領域で30〜35ppmの線膨張係数(α1)と、ガラス転移温度以上の温度領域で105〜125ppmの線膨脹係数(α2)とを示し、α2/α1が3.4以上を満足するアクリル系絶縁性接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICチップ等の電子部品を配線基板に接合するためのラジカル重合性のアクリル系絶縁性接着剤、この接着剤のラジカル重合硬化物で電子部品が配線基板に固着された接続構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ICチップの高集積化に伴い、ICチップのバンプ間スペースが狭ピッチ化し、またバンプ面積も狭面積化している。ICチップを配線基板に接合する際、異方性導電フィルムが広く使用されていたが、導電性粒子の粒径の下限が2μm程度であるため、高集積化したICチップと配線基板との接合に適用するには難点があった。また、狭ピッチ及び狭面積化に対応したバンプとして、ボンディングマシーンを利用して作成されるスタッドバンプを使用した場合、バンプ形状がその先端部が倒れた略コーン形状となっているため、導電性粒子の捕捉性が低いという欠点があった。このため、異方性導電フィルムを使用せずに、絶縁性接着剤を使用してICチップのバンプと配線基板の接続バッドとを直接接合(NCF接合)することが行われるようになっている。
【0003】
このようなNCF接合に使用されている絶縁性接着剤としては、従来、熱硬化反応により水酸基が発現するために、高い凝集力を示し、また、被着体に対して高い接着強度を確保できる熱硬化性エポキシ系樹脂接着剤(特許文献1)が使用されていた。しかし、熱硬化性エポキシ系樹脂接着剤は、良好な凝集力と被着体に対する良好な密着強度とを確保できる反面、重合反応温度が180〜250℃と比較的高く、また、数時間の熱硬化時間を要するため、熱硬化時にICチップがダメージを受ける可能性があり、また、接合生産性も低いという問題があった。
【0004】
そこで、比較的低温で且つ短時間でラジカル重合させることができるアクリル系絶縁性接着剤をNCF接合に利用することが試みられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−189346号公報
【特許文献2】特開2003−82034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2のアクリル系絶縁性接着剤の場合、そのラジカル重合硬化物のガラス転移温度が−30〜10℃と比較的低く、物性改善用の無機フィラーの含有量も硬化樹脂分100重量部に対し5〜40重量部と比較的少ないため、接合部の応力緩和という面では利点があるものの、凝集力や耐熱性が不充分であり、寸法安定性にも問題が生じ、結果的に良好な接続信頼性は期待できない。このため、特許文献2では、その実施例に開示されているように、ICチップを配線基板に接合する際に、接着剤にエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤とを配合し、接合時にラジカル反応ではなく、アニオン開環重合反応により接着剤を硬化させざるを得ず、依然として140℃で5時間という重合硬化条件が必要となっていた。このように、未だ、アクリル系絶縁性接着剤を低温で素早くラジカル重合硬化させて、ICチップ等の電子部品を配線基板に固着させると共にICチップのバンプと配線基板の接続バッドとを高接続信頼性で直接接合することは実現されていないのが現状であった。
【0007】
本発明は、電子部品を配線基板にNCF接合するための絶縁性接着剤として、低温速重合硬化性に優れ、良好な接続信頼性を実現できる、ラジカル重合性のアクリル系絶縁性接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、(メタ)アクリレートモノマー、成膜用樹脂、無機フィラー、シランカップリング剤及びラジカル重合開始剤から構成したアクリル系絶縁性接着剤において、無機フィラーの含有量を従来に比べて多量に含有させ、また、ガラス転移温度を従来に比べ非常に高いものとし、しかも、そのガラス転移温度の前後での線膨脹係数をそれぞれ特定の範囲に設定することにより、本願発明の目的を達成できることを見出し、本願発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、(メタ)アクリレートモノマー、成膜用樹脂、無機フィラー、シランカップリング剤及びラジカル重合開始剤を含有する、電子部品を配線基板に固着させるためのアクリル系絶縁性接着剤であって、
無機フィラーを(メタ)アクリレートモノマー及び成膜用樹脂の合計100質量部に対し70〜160質量部含有し、
アクリル系絶縁性接着剤のラジカル重合硬化物が、150〜185℃のガラス転移点を示し且つガラス転移温度より低い温度領域で30〜35ppmの線膨張係数(α1)と、ガラス転移温度以上の温度領域で105〜125ppmの線膨脹係数(α2)とを示し、更に以下式(1)
【0010】
【数1】

を満足するアクリル系絶縁性接着剤、並びにこのアクリル系絶縁性接着剤のラジカル重合硬化物を提供する。
【0011】
また、本発明は、電子部品と配線基板とが、上述のラジカル重合性のアクリル系絶縁性接着剤のラジカル重合硬化物で固着され、該電子部品のバンプが配線基板の接続パッドに直接接合されている接続構造体を提供する。
【0012】
本発明は、更に、上述の接続構造体の製造方法であって、
配線基板に上述のラジカル重合性のアクリル系絶縁性接着剤を供給し、配線基板の接続パッドに対し、電子部品のバンプを位置合わせし、電子部品を加熱加圧することによりアクリル系絶縁性接着剤をラジカル重合硬化させて電子部品を配線基板に固着させると共に、電子部品のバンプと配線基板の接続パッドとを直接接合する製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアクリル系絶縁性接着剤は、(メタ)アクリレートモノマー、成膜用樹脂、無機フィラー、シランカップリング剤及びラジカル重合開始剤から構成され、しかも無機フィラーの含有量が従来に比べて多量であり、また、そのガラス転移温度が従来に比べ非常に高いものとなっており、しかも、そのガラス転移温度の前後での線膨脹係数がそれぞれ特定の範囲に設定されているので、160〜200℃という比較的低温で、5〜10秒という加熱時間で、ラジカル重合硬化が可能となる。しかも、応力緩和性にも優れているので、良好な接続信頼性を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のラジカル重合性のアクリル系絶縁性接着剤は、電子部品を配線基板に固着させるための接着剤であり、(メタ)アクリレートモノマー、成膜用樹脂、無機フィラー、シランカップリング剤及びラジカル重合開始剤を含有することを特徴とする。
【0015】
本発明のアクリル系絶縁性接着剤の構成成分の一つである(メタ)アクリレートモノマーは、接着剤の重合硬化物に主として凝集力を与え、機械的特性を付与することができる。ここで、(メタ)アクリレートモノマーとは、アクリレートモノマーまたはメタクリレートモノマーを意味する。
【0016】
(メタ)アクリレートモノマーとしては、単官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートモノマー、あるいはそれらにエポキシ基、ウレタン基、アミノ基、エチレンオキサイド基、プロピレンオキサイド基等を導入した変性単官能または多官能(メタ)アクリレートモノマーを使用することができる。なお、本発明においては、(メタ)アクリレートモノマーとして単官能(メタ)アクリレートモノマーだけを使用してもよいが、接着剤の重合硬化物のガラス転位温度を比較的高めに設定し、更に凝集力を高めるために、好ましくは少なくとも一部を、より好ましくはすべてを多官能(メタ)アクリレートモノマーを使用する。
【0017】
単官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、少なくとも1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート樹脂やこれらの変性物等が挙げられる。また、それらの変性物としては、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、メチルメタクリルアクリレート、エチルメタクリルアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート等が挙げられる。
【0018】
本発明のアクリル系絶縁性接着剤においては、本発明の効果を損なわない限り、(メタ)アクリレートモノマーとラジカル共重合可能な他のモノマーを併用することができる。このような他のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル、スチレン、塩化ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。
【0019】
本発明のアクリル系絶縁性接着剤は、成膜用樹脂を含有する。成膜用樹脂は、ガラス転移温度が50℃以上の常温で固体の樹脂であって、(メタ)アクリレートモノマーと相溶する樹脂であり、アクリル系絶縁性接着剤のラジカル重合硬化物のガラス転移温度を上昇させるためのものである。このような成膜用樹脂としては、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アルキル化セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。中でも、分子量が10000〜100000であって、分子内にフルオレン骨格を有するフェノキシ樹脂が好ましい。このようなフルオレン骨格を有する成膜用樹脂の具体例としては、FX293(東都化成社製)等が挙げられる。
【0020】
本発明において、成膜用樹脂の使用量は、少なすぎるとアクリル系絶縁性接着剤の成膜性が不充分となり、多すぎると相対的に(メタ)アクリレートモノマーの使用量が減少しすぎて凝集力を損なうこととなるので、(メタ)アクリレートモノマー100質量部に対し、好ましくは50〜100質量部である。
【0021】
本発明のアクリル系絶縁性接着剤は、溶融粘度の調整、難燃性の改善、寸法安定性の改善等のために無機フィラーを含有する。このような無機フィラーとしては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、アルミナ粉末、結晶性シリカ、非結晶性シリカ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素粉末、ホウ酸アルミウイスカ等が使用できる。中でも、非結晶性シリカを好ましく使用することができる。これらは、球状などの定形や不定形であってもよい。
【0022】
無機フィラーの粒径は、小さすぎるとバインダーの増粘を引き起こし良好な塗布ができなくなり、大きすぎるとフィラーアタックの原因となるので、好ましくは0.005〜15μm、より好ましくは0.01〜1μmである。
【0023】
本発明において、無機フィラーの使用量は、少なすぎると良好な導通信頼性が得られず、多すぎるとバインダーの増粘を引き起こし良好な塗布ができなくなるので、(メタ)アクリレートモノマー及び成膜用樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは70〜160質量部であり、または使用した樹脂100質量部に対して50〜150質量部である。
【0024】
本発明のアクリル系絶縁性接着剤は、接着剤の重合硬化物とICチップや配線基板あるいは無機フィラーとの密着性を改善するために、シランカップリング剤を含有する。シランカップリング剤としては、γ−グリシドプロピルトリメトキシシラン,γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。中でも、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを好ましく使用することができる。
【0025】
本発明において、シランカップリング剤の使用量は、少なすぎると接着力不十分となり、多すぎると加熱硬化時の気泡の原因となるので、(メタ)アクリレートモノマー及び成膜用樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは0.1〜5質量部である。
【0026】
本発明のアクリル系絶縁性接着剤は、(メタ)アクリレートモノマーと、ラジカル重合させるためにラジカル重合開始剤とを含有する。このようなラジカル重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリル等のアゾビス系化合物を挙げることができる。中でも、ベンゾイルパーオキサイドを好ましく使用することができる。
【0027】
本発明において、ラジカル重合開始剤の使用量は、少なすぎると短時間硬化が不可能となり、多すぎると硬化物が硬くなり密着性が低下するので、(メタ)アクリレートモノマー及び成膜用樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは1〜10質量部である。
【0028】
本発明のアクリル系絶縁性接着剤は、以上説明した成分の他に、接続信頼性を向上させるために応力緩和剤を含有することが好ましい。応力緩和剤としては、成膜樹脂や(メタ)アクリルモノマーの重合硬化物と相溶するゴムや熱可塑性エラストマーを使用することができる。このようなゴムや熱可塑性エラストマーとしては、アクリルゴム、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム(PB)等を挙げることができ、二種以上を併用することもできる。
【0029】
本発明において応力緩和剤を使用する場合、その使用量は、少なすぎると充分な応力緩和効果が得られず、多すぎると非相溶となるので、(メタ)アクリレートモノマー及び成膜用樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは1〜10質量部である。
【0030】
本発明のアクリル系絶縁性接着剤は、以上の成分の他に、必要に応じてトルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等の溶剤、着色料、酸化防止剤、老化防止剤等を含有することができる。
【0031】
本発明のアクリル系絶縁性接着剤は、そのラジカル重合硬化物が150〜185℃、好ましくは155〜175℃のガラス転移点を示す。ガラス転移点が150℃未満であると加熱時の接続信頼性が損なわれる。ここで、ラジカル重合硬化条件としては、比較的低温の130℃程度から可能であるが、実用的な重合速度を得る点からは、160〜200℃の加熱温度が挙げられる。その場合の加熱時間は5〜10秒である。
【0032】
本発明のアクリル系絶縁性接着剤は、そのラジカル重合硬化物がガラス転移温度より低い温度領域(即ち、ラジカル重合硬化物を適用した接続構造体の使用温度)、具体的には0〜50℃で30〜35ppmの線膨張係数(α1)と、ガラス転移温度以上の温度領域(即ち、半田リフロー処理温度)、具体的には185〜200℃で105〜125ppmの線膨脹係数(α2)とを示すものである。線膨張係数(α1)が35ppmを超えると、接続信頼性が損なわれるので好ましくない。また、線膨張係数(α2)が125ppmを超えると、接続信頼性が損なわれるので好ましくない。
【0033】
また、本発明のアクリル系絶縁性接着剤は、更に以下式(1)
【0034】
【数2】

を満足する必要がある。これは、α2/α1が3.4未満であると接続信頼性が損なわれるからである。
【0035】
このような特性を有する本発明のアクリル系絶縁性接着剤のラジカル重合硬化物も、本発明の一部である。
【0036】
本発明のアクリル系絶縁性接着剤は、ICチップを配線基板にNCF接合する際に好ましく適用できる。具体的には、電子部品と配線基板とが、本発明のアクリル系絶縁性接着剤のラジカル重合硬化物で固着され、該電子部品のバンプが配線基板の接続パッドに直接接合されている接続構造体に好ましく適用できる。この接続構造体も本発明の一態様である。
【0037】
電子部品としては、バンプを備えたICチップ、バンプを備えた発光ダイオードチップ等が挙げられる。バンプとしては、特に限定されないが、狭ピッチ、狭面積化に寄与するスタッドバンプを好ましく使用できる。このようなスタッドバンプの好ましい高さは、30〜100μmである。また、配線基板としては、銅やアルミなどの接続パッドを備えた、ガラスエポキシ配線基板、ガラス基板、フレキシブル配線基板等が挙げられる。
【0038】
このような接続構造体は、配線基板に本発明のアクリル系絶縁性接着剤をディスペンサー等の公知の供給手段で供給し、配線基板の接続パッドに対し、電子部品のバンプを公知の手法で位置合わせし、電子部品を加熱加圧することによりアクリル系絶縁性接着剤をラジカル重合硬化させて電子部品を配線基板に固着させると共に、電子部品のバンプと配線基板の接続パッドとを直接接合することにより製造できる。ここで、好ましい加熱加圧条件としては、160〜200℃の加熱温度、5〜10秒の加熱時間、10〜100g/バンプの圧力が挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0040】
実施例1〜4、比較例1〜6
(1)アクリル系絶縁性接着剤の調製
表1に示す配合の成分を混合機により均一に混合することによりアクリル系絶縁性接着剤を調製した。但し、比較例5ではエポキシ系絶縁性接着剤を調製した。また、比較例6ではアクリル系異方性導電接着剤を調製した。
【0041】
(2)ガラス転移温度の測定
190℃−30分間熱プレスにより完全硬化サンプルを作成し、長さ20mm、幅2mm、高さ0.05mmのテストピースを作成した。得られたテストピースはJISK7244に従ってガラス転移温度を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0042】
(3)線膨張係数の測定
190℃−30分間熱プレスにより完全硬化サンプルを作成し、長さ5mm、直径が1.5mmの円柱のテストピースについて、JISK7197に従ってガラス転移温度より低い0〜50℃の温度領域の線膨張係数(α1)と、ガラス転移温度より高い185〜200℃の温度領域の線膨張係数(α2)を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0043】
(4)接続構造体の作成
接続銅パッドが形成された0.5mm厚の評価用ガラスエポキシ基板の接続パッド面に接着剤を貼り付けた。他方、信頼性用TEG(Test Element Group)が形成された0.4mm厚の評価用ICチップの表面にボンディングマシーンで高さ70μmのスタッド金バンプを形成した。この評価用ICチップのスタッドバンプ面を、評価用ガラスエポキシ基板の接続パッド面に対向させ、バンプと接続パッドとを位置合わせした後、50μm厚のパーフルオロエチレンシートで挟持して以下の熱圧着条件A又はBで熱圧着した。
【0044】
熱圧着条件A:190℃、5秒、12.8kgf/ティプ(80gf/バンプ)
熱圧着条件B:190℃、10秒、12.8kgf/ティプ(80gf/バンプ)
【0045】
<評価1(接続信頼性評価)>
4端子法により接続構造体の初期、吸湿リフロー処理後(85℃、85%RH環境下に24時間放置し、続いて最高温度260℃のリフロー炉に3回通過させた後)、及びPCT試験後(121℃の飽和水蒸気環境中に96時間放置した後)の接続抵抗値を測定した。
得られた結果を表1に示す。
【0046】
<評価2(吸湿剥離試験評価)>
接続構造体の初期、吸湿リフロー処理後(85℃、85%RH環境下に24時間放置し、続いて最高温度260℃のリフロー炉に3回通過させた後)、又はPCT試験後(121℃の飽和水蒸気環境中に96時間放置した後)に、評価用ICチップの剥離が生じたか否かを超音波映像装置(SAT)にて観察し、剥離が観察されない場合を[A]、観察された場合を[B]と評価した。得られた結果を表1に示す。
【0047】
<総合評価>
また、上述の評価1及び評価2の両方の結果を総合し、吸湿リフロー後とPCT試験後のそれぞれについて、以下の基準にて評価した。得られた結果を表1に示す。
【0048】
非常に良好[Exc]: 接続抵抗値(評価1)が0.02Ω以下であり、剥離(評価2)が観察されない場合
良好[G] : 一部剥離(評価2)が観察されるが、接続抵抗値(評価1)が0.02Ω以下であり、実用特性上問題がない場合
不良[NG] : 剥離(評価2)が観察されるかに関わらず、接続抵抗値(評価1)が0.02Ωを超える(open含む)場合
【0049】
【表1】

【0050】
表1注:
*1:エポキシ−エステル樹脂、共栄社化学社
*2:トリシクロデカンジメタクリレート、新中村化学工業社
*3:トリイソシアヌレート、東亜合成社
*4:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン社
*5:フルオレン型フェノキシ樹脂、東都化成工業社
*6:ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、東都化成工業社
*7:水酸基含有アクリルゴム、長瀬ケムテックス社
*8:不定形シリカ粒子、平均粒径0.5μm、アドマテックス社
*9:アクリレート系シランカップリング剤、信越化学工業社
*10:エポキシ系シランカップリング剤、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社
*11:有機過酸化物(ラジカル硬化剤)、日本油脂社
*12:潜在性イミダゾール系硬化剤、旭化成ケミカルズ社
*13:φ5μm導電性粒子、積水化学工業社
【0051】
表1からわかるように、実施例1〜5の場合、熱圧着条件A及びBの双方で、初期、吸湿リフロー処理後、PCT試験後であっても接続信頼性試験の結果は良好であり、吸湿剥離試験の結果は実用上問題がなかった。
【0052】
他方、(メタ)アクリレートモノマーと成膜用樹脂との合計100質量部に対して無機フィラーの使用量が70質量部未満となると、吸湿リフロー処理後及びPCT試験後に一部剥離が生じ、PCT試験後に接続抵抗値が上昇してopenとなり、実用特性上、不良と評価された。
【0053】
なお、アクリル系絶縁性接着剤ではなく、エポキシ系絶縁性接着剤を使用した比較例5の場合、熱圧着時間が不足しているため、初期・吸湿リフロー後で接続抵抗が高く、特にPCT試験後の接続抵抗値が0.5Ωを超えてしまった。また、導電性粒子を追加した比較例6の場合、スタッドバンプと電極パッドとの間に、導電性粒子が十分に捕捉されていないと考えられるため、PCT試験後の接続抵抗値が0.5Ωを超えてしまった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のラジカル重合性のアクリル系絶縁性接着剤は、160〜200℃という比較的低温の加熱温度条件下、5〜10秒という加熱時間で、ラジカル重合硬化が可能であり、しかも、応力緩和性にも優れているので、ICチップ等の電気部品を配線基板にNCF接合に用いる接着剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレートモノマー、成膜用樹脂、無機フィラー、シランカップリング剤及びラジカル重合開始剤を含有する、電子部品を配線基板に固着させるためのアクリル系絶縁性接着剤であって、
無機フィラーを(メタ)アクリレートモノマー及び成膜用樹脂の合計100質量部に対し70〜160質量部含有し、
アクリル系絶縁性接着剤のラジカル重合硬化物が、150〜185℃のガラス転移点を示し且つガラス転移温度より低い温度領域で30〜35ppmの線膨張係数(α1)と、ガラス転移温度以上の温度領域で105〜125ppmの線膨脹係数(α2)とを示し、更に以下式(1)
【数1】

を満足するアクリル系絶縁性接着剤。
【請求項2】
(メタ)アクリレートモノマー100質量部に対し成膜用樹脂を50〜100質量部、シランカップリング剤を(メタ)アクリレートモノマー及び成膜用樹脂の合計100質量部に対し0.1〜5質量部及びラジカル重合開始剤を(メタ)アクリレートモノマー及び成膜用樹脂の合計100質量部に対し1〜10質量部含有する請求項1記載のアクリル系絶縁性接着剤。
【請求項3】
更に、応力緩和剤を(メタ)アクリレートモノマー及び成膜用樹脂の合計100質量部に対し1〜10質量部含有する請求項1又は2記載のアクリル系絶縁性接着剤。
【請求項4】
成膜用樹脂が、フェノキシ樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系絶縁性接着剤。
【請求項5】
応力緩和剤が、アクリルゴム、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム(PB)のいずれか1種以上を含む請求項3記載のアクリル系絶縁性接着剤。
【請求項6】
(メタ)アクリレートモノマー、成膜用樹脂、無機フィラー、シランカップリング剤及びラジカル重合開始剤を含有する、電子部品を配線基板に固着させるためのアクリル系絶縁性接着剤のラジカル重合硬化物であって、
無機フィラーを(メタ)アクリレートモノマー及び成膜用樹脂の合計100質量部に対し70〜160質量部含有し、
150〜185℃のガラス転移点を示し且つガラス転移温度より低い温度領域で30〜35ppmの線膨張係数(α1)と、ガラス転移温度以上の温度領域で105〜125ppmの線膨脹係数(α2)とを示し、更に以下式(1)
【数2】

を満足するラジカル重合硬化物。
【請求項7】
電子部品と配線基板とが、請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系絶縁性接着剤のラジカル重合硬化物で固着され、該電子部品のバンプが配線基板の接続パッドに直接接合されている接続構造体。
【請求項8】
電子部品が、スタッドバンプを備えたICチップである請求項7記載の接続構造体。
【請求項9】
請求項7記載の接続構造体の製造方法であって、
配線基板に請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系絶縁性接着剤を供給し、配線基板の接続パッドに対し、電子部品のバンプを位置合わせし、電子部品を加熱加圧することによりアクリル系絶縁性接着剤をラジカル重合硬化させて電子部品を配線基板に固着させると共に、電子部品のバンプと配線基板の接続パッドとを直接接合する製造方法。

【公開番号】特開2010−106244(P2010−106244A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202141(P2009−202141)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】