説明

アスファルト舗装路の補修方法

【課題】このアスファルト舗装の補修は、従来は既設アスファルト舗装体の基層、表層部をすべて切削機によって切削除去し、そこに新しいアスファルト合材を敷き均す方法や切削除去したアスファルト混合物を再利用する方法であるが、廃棄する量が多くなり環境の観点から好ましくないか、十分な性能、機能は得られないことが多い。そこで、アスファルト舗装面を簡単に補修でき、且つ透水性を付与し事故の軽減にも寄与する補修方法を提供する。
【解決手段】アスファルト舗装路の上部2〜6cmを切削し、該切削部分に防水層としてのアスファルト乳剤を塗布し、その上に製鋼スラグを粗骨材とするアスファルト混合物を舗設する方法であって、該製鋼スラグのサイズは5〜20mmの範囲であり、該アスファルト混合物は透水性を有し、且つその空隙率は17〜25%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト舗装路の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスファルト舗装路は、舗装路では最も汎用されているものであるが、老朽化すると道路に凹部やクラックが生じ事故の原因ともなる。また、アスファルト骨材が離脱、飛散することにより、道路の断面が露出するようになり、骨材の飛散がより加速することになる。
また、最近では車道でのスリップ事故を軽減するため、道路は透水性を持ち、表面に水がたまらないようにしてきている。よって、既設の非透水性道路もできるだけ透水性を付与したい。
【0003】
このような目的で舗装路は補修される。このアスファルト舗装の補修は、従来既設アスファルト舗装体の基層、表層部をすべて切削機によって切削除去し、そこに新しいアスファルト合材を敷き均して行なっていた。しかし、この方法では、どうしても廃棄する量が多くなり環境の観点から好ましくないばかりか、新規導入する量も多いため、コスト高になる。
【0004】
これらを防止するため、切削除去したアスファルト混合物を再利用する方法も考えられている。しかし、このような方法ではどうしても十分な性能、機能は得られないことが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、アスファルト舗装面を簡単に補修でき、且つ透水性を付与し事故の軽減にも寄与する補修方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上のような現状に鑑み、本発明者は鋭意研究の結果本発明アスファルト舗装路の補修方法を完成したものであり、その特徴とするところは、アスファルト舗装路の上部2〜6cmを切削し、該切削部分に防水接着層としてのアスファルト乳剤を塗布し、その上に製鋼スラグを粗骨材とするアスファルト混合物を舗設する方法であって、該製鋼スラグのサイズは5〜20mmの範囲であり、該アスファルト混合物は透水性を有し、且つ水を貯める保水性舗装としても機能し、その空隙率は17〜25%である点にある。
【0007】
ここでいうアスファルト舗装路は、歩道、車道等アスファルトを使用した舗装路であればよい。また補修とは、既設のアスファルト舗装路に対して改善措置をとることをいう。
【0008】
既存のアスファルト舗装路の上部を2〜6cm切削する。この2〜6cmは、表層のみでも、基層もふくめてもよい。2〜6cmにしているのは、2cm以下では補修の意味がなく、6cm以上するまでもないし、かえってコスト高になるためである。切削は、通常の方法で行なえばよい。ロータ式の切削機等が好適である。
【0009】
この切削表面に塗布(散布)する防水層としてのアスファルト乳剤は、通常のものではなく、次のような高接着性アスファルト乳剤を使用するのが好ましい。
【0010】
この高接着性アスファルト乳剤は、ストレートアスファルト100重量部に対して、芳香族系石油樹脂15〜25重量部、水60〜100重量部、乳化剤0.1〜3.5重量部を混合したものである。
【0011】
ストレートアスファルトとは、原油の減圧蒸留でえられたそのままのものをいう。芳香族系石油樹脂とは、ベンゼン環を有する炭化水素の混合物であり、重量平均分子量は1600〜2500程度である。この芳香族系石油樹脂を加えることによって、硬化後常温時には強い接着性と靭性を有するのである。
【0012】
芳香族系石油樹脂の添加量は、ストレートアスファルト100重量部に対して、芳香族系石油樹脂は15〜25重量部である。15以下では効果が少なく、25重量部以上加えても有効でない。
この樹脂を加えたことにより、乳剤として被施工面に塗布し、分解後、表面の合材の熱によって軟化し、骨材やクラック等の間隙に十分浸透する。また、舗設後、常温に戻った時には強い被膜を形成する。それによって、層間剥離を軽減するととに、クラックの上昇(リフレクションクラック)を防止する。
【0013】
水の量がストレートアスファルト100重量部と芳香族系石油樹脂15〜25重量部に対して、60〜100重量部である。即ち、乳剤の全体量に対して40重量%以下にしているのである。換言すると、蒸発残留分が60重量%以上ということである。
このように蒸発残留分を多くすることによって、乳剤としての粘度を高くできるので、散布量を多くでき(0.8リットル/m以上)クラックへの浸透が増し、分解後の膜厚が厚くできるため、クラック防止機能や遮水機能が向上するのである。
【0014】
乳化剤は、通常のアスファルト乳剤に使用するものでよい。例えば、カチオン系界面活性剤と塩酸塩や酢酸塩である。代表的には、硬化牛脂アルキルポリアミンやステアリルプロピレンジアミン等の塩酸塩や酢酸塩が好適である。また、アニオン系界面活性剤では、高級アルコールの硫酸塩等である。
混合量はストレートアスファルト100重量部に対して、0.1〜3.5重量部である。
【0015】
このアスファルト乳剤を、前記した切削部に散布する。散布量としては、0.8〜1.5リットル/m2程度が好適である。通常は、0.4リットル/m2であるが、本発明ではこのように多量に散布するのがポイントの1つである。場合によっては、前もって、0.3リットル/m程度を予備撒布、浸透させる。
これによって、下方のクラックや骨材間隙にも十分乳剤が浸透し、乳剤による層が下層と十分接着し、その間での剥離が防止される。
【0016】
この防水層が作業車が入れる程度硬化した後、次のような製鋼スラグを骨材として用いたアスファルト混合物を舗設(敷き均し)する。アスファルト混合物とはアスファルトに骨材等を混合したアスファルト合材である。
この混合物のバインダーは、通常のアスファルトでもよいが、スラグ用の特別なバインダーがより好ましい。そのバインダーについて説明する。
【0017】
そのバインダーは、ストレートアスファルト100重量部に対して、改質用ポリマーを5〜15重量部、石油系炭化水素を1〜5重量部、更に界面活性剤を0.1〜0.5重量部混合したものである。
【0018】
改質用ポリマーとは、SBS(スチレン・ブタジエンブロック共重合体)、SBR(スチレン・ブタジエン共重合体)、SIS(スチレン・イソプレン共重合体)等であり、その重合度や分子量は通常アスファルトの改質用に使用されている程度のものでよい。なかでも、SBSが好適であった。
この改質ポリマーの混合量は、ストレートアスファルト100重量部に対して、5〜15重量部である。5以下では効果がなく15以上では粘度が高くなりすぎるためである。
【0019】
石油系炭化水素とは、常温で液体又は半固体であり引火点が200℃以上の炭化水素であり、パラフィン系、ナフテン系とアロマ系がある。なかでもパラフィン系又はナフテン系の300℃以上の引火点のものが好ましい。
本発明はこの炭化水素を混合することがポイントであり、従来のバインダーにはないものである。これを加える目的は、改質アスファルトの常温付近の粘弾性性質を損ねることなく、改質アスファルトの高温時の粘性を適度に下げることができるためである。また、ポーラス混合物の耐久性や強度を低下させることなく、製鋼スラグの多孔質表面に浸透しやすく均一な皮膜を形成できる。
【0020】
この石油系炭化水素の混合量は1〜5重量部である。1重量部以下では、ほとんど効果がなく、5重量部以上では粘度が下がりすぎる。
【0021】
ここでいう界面活性剤は、両性界面活性剤か、又はカチオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤との混合物かである。両性界面活性剤は、分子内にプラスイオンとマイナスイオンの両方を有するものである。例えば、アミノ酸の塩が代表的なものである。
【0022】
また、両性界面活性剤に代えて、カチオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤との混合物でもよい。即ち、1分子内にはマイナスイオンかプラスイオンしかないが、混合物にすると同じように同性が存在すると考えられるためである。よって、カチオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とは同じモル数が望ましい。例えば、アミン系界面活性剤と、高級脂肪酸等である。
【0023】
このような両性の界面活性剤を使用するのは、スラグ表面のマイナスとプラスの両方に吸着でき、スラグに耐水性の高い被覆を形成できるためである。これにより剥離が大きく軽減できる。
【0024】
この界面活性剤は0.1〜0.5重量部混合する。0.1以下では効果がなく、0.5以上は骨材表面に必要な量を超えて過剰なため逆効果である。
【0025】
次に本発明バインダーの製造方法について説明する。
ストレートアスファルトを180〜190℃に昇温し、ポリマー、界面活性剤を投入し、十分に攪拌し均一に混合する。ポリマーが相溶し、熟成(養生)が完成する間際に炭化水素及び界面活性剤を混合し完成である。
【0026】
このアスファルト混合物の粗骨材は製鋼スラグである。この製鋼スラグを用いることが大きな特徴である。
製鋼スラグとは、製鋼工程で生成するスラグである。粗鋼1tあたり110kg程度の製鋼スラグが生成するといわれている。製鋼スラグは、通常の天然石骨材と比較して表面のキメが多孔質で凹凸があるため、アスファルトがスラグ表面に十分に被覆されないという性質がある。また、製鋼スラグは天然骨材に含まれるSiO、Alのほかに、天然石骨材よりCaO成分が非常に多く、表面電位が−と+(酸性と塩基性)の両性であるため、酸性に効果のあるアミン系界面活性剤では水による剥離を防止できない。このため上記した特別のバインダーが好ましいのである。
【0027】
この製鋼スラグのなかでも、5〜20mmのサイズのもののみを使用する。勿論、1粒もこれ以外のものがない等ということは不可能であるが、ほとんど即ち99重量%はこのサイズに含まれるということである。
5〜20mmのなかでも、5〜8、5〜10、5〜13mmのものが好適である。この骨材のサイズを揃えるのは、低騒音効果と透水性の確保のためである。
【0028】
上記粗骨材以外に細骨材を混合する。細骨材は通常2.5mm以下であるが、この細骨材を混合すればバインダーの補強になる。これは天然の砂のようなものでもよいが、溶融スラグを用いてもよい。
ごみを焼却したときに発生する灰を高温(1000℃以上)で解かし、それを水の中に入れて急冷すると0.5〜5mmの細かいガラス状の物質になる。これが溶融スラグである。
【0029】
次にバインダーと骨材の混合比率について説明する。
粗骨材:70〜85重量%
細骨材:10〜20重量%
バインダー:3〜8重量%
この比率は、混合物が硬化した後に十分な透水性(好ましくは1000cc/15秒・m以上)を、確保できるようにする。空隙率も17〜25%が好ましい。
【0030】
上記したとおりアスファルト乳剤(防水層)が、作業車が入れる程度硬化した後、このアスファルト混合物を舗設する。このとき、アスファルト混合物は、160〜180℃に加熱して舗設する。この温度によって、上記した防水層のアスファルトが融解し、舗設したアスファルト混合物の骨材に沿って毛細管現象によって上昇し、骨材をしっかりと掴むようになる。これによって、層間接着が著しく増大する。
【発明の効果】
【0031】
本発明には、次のような大きな利点がある。
(1) 表層に舗設した合材の骨材が強固に固着されているため、透水性アスファルトの目詰まり除去に強力なバキューム車を使用できる。
(2) 舗設したアスファルト合材の骨材に比重の大きな製鋼スラグを使用しているため、骨材の飛散が少ない。
(3) 上記合材に使用されるは骨材は、粗骨材として比較的小さなもので、粒度の揃ったものを使用しているため、透水性が大きいだけでなく、騒音軽減効果が大きい。
(4) 防水層として高接着性アスファルト乳剤を使用すると、止水効果が大きいと共にリフレクションクラックを防止し、保水性舗装とすることも可能である。これにより温暖化軽減の効果を有する舗装になる。
(5) 骨材として製鋼スラグや溶融スラグを使用しているため、コストが安いだけでなく、二酸化炭素の量として1mあたり0.9kg〜1.2kgの削減となり環境にやさしい工法である。
(6) 舗装路の修復工事で、舗装断面の下部にまでクラックが生じている時は表層のみならず基層あるいは路盤もしくは、路床から再施工しなければならない。必要な工期は、1週間は要する。本発明方法では、防水層として高接着性乳剤を使用すれば、クラック内に十分浸透し結合補強するため表層部のみの施工で即日に道路回復ができる。
(7) 従来の舗装用施工機械を使用できる。小型機械を使えるため狭小道路(1m以上)での施工が可能である。
(8) 製鋼スラグを用いたポーラス舗装の制動距離は、通常のポーラス舗装に比べ、すべり抵抗値が高いため制動距離が短かくなる(車速60km/hで7m減少)。また、骨材のスラグが硬質なため耐磨耗性に優れ通常骨材に比べ耐久的で延命効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下好適な実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0033】
図1は本発明方法の1例を示す断面図である。(a)は、既存のアスファルト舗装路の表層部1(5cm)を描いた断面図である。クラック2が2本存在する。(b)は、この表層部の上部3cmを切削したところである。(c)は、(b)の切削表面にアスファルト乳剤3を散布したところである。ここでアスファルト乳剤がクラック内に十分浸透している。
【0034】
図1(d)は、(c)のアスファルト乳剤が硬化した後、透水性アスファルト合材4を舗設したところである。高温で加熱して舗設しているため、硬化しているアスファルト乳剤3が再度融解、ブリージングして、舗設したアスファルト合材の骨材5としっかり固着する。
【0035】
図2は、図1(d)の部分拡大図である。融解したアスファルト乳剤が上下によく上昇(ブリージング)浸透しているのがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明方法の手順を示す断面図である。
【図2】図1(d)の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0037】
1 アスファルト舗装の表層
2 クラック
3 アスファルト乳剤
4 アスファルト合材
5 骨材




【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルト舗装路の上部2〜6cmを切削し、該切削部分に防水接着層としてのアスファルト乳剤を塗布し、その上に製鋼スラグを粗骨材とするアスファルト混合物を舗設する方法であって、該製鋼スラグのサイズは5〜20mmの範囲であり、該アスファルト混合物は透水性を有し、且つその空隙率は17〜25%であることを特徴とするアスファルト舗装路の補修方法。






【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−7353(P2010−7353A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167473(P2008−167473)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(506384497)
【出願人】(502217997)昭和瀝青工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】