説明

アルカリ乾電池およびその製造方法

【課題】過放電時におけるガス発生が抑制された、高い信頼性を有するアルカリ乾電池を提供する。
【解決手段】アルカリ乾電池は、正極活物質を含む中空円筒状の正極合剤2と、正極合剤の中空部内に充填され、負極活物質を含むゲル状負極3と、正極合剤とゲル状負極との間に配されるセパレータ4と、ゲル状負極に挿入される負極集電体6と、負極集電体と電気的に接続される負極端子板7と、電解液と、を具備する。負極集電体は、平均結晶粒子径が0.015mm以上の真鍮を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次電池であるアルカリ乾電池に関し、特に、アルカリ乾電池の負極集電体の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、携帯機器等の電子機器の電源としてアルカリ乾電池が広く用いられている。
アルカリ乾電池は、正極活物質を含む中空円筒状の正極合剤と、前記正極合剤の中空部内に充填され、負極活物質を含むゲル状負極と、前記正極合剤と前記ゲル状負極との間に配されるセパレータと、前記ゲル状負極に挿入される負極集電体と、前記負極集電体と電気的に接続される負極端子板と、を具備する。負極集電体には、銅を主成分とする真鍮が用いられている。
【0003】
アルカリ乾電池が過放電状態になると、水素ガスを発生し、電解液の漏出(以下、漏液)が起こることがある。漏液のメカニズムは負極集電体の構成元素の電解液への溶出が関連していると考えられる。そこで、アルカリ乾電池の負極集電体について様々な検討が行われている。
例えば、特許文献1では、負極集電体からの水素ガス発生を抑制するため、真鍮の表面を、亜鉛、錫、および鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属でめっきすることが提案されている。これにより、負極集電体からの水素ガスの発生が抑制される。
【0004】
特許文献2では、真鍮の表面に錫めっき層を形成し、その厚みを0.05〜0.5μmとすることが提案されている。これにより、過放電時の漏液を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−13085号公報
【特許文献2】特開2006−172908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルカリ乾電池の複数個を直列に接続した組電池が過放電状態になると、組電池を構成する電池の少なくとも1つは、不可避的に転極することが知られている。例えば、電気容量の小さい電池が転極する場合がある。また、電池の電気容量が同じ場合でも、内部抵抗や活物質の表面積の違いにより、全く同じ放電履歴を経ることはなく、放電電圧の低い電池が転極する。転極した電池では、集電体を構成する真鍮から銅および亜鉛が溶出する。その結果、亜鉛の水素発生過電圧が低下し、水素ガス発生量が多くなり、転極した電池が漏液する。このような電池の漏液は、転極した電池を含む組電池の放電回路を解放した場合に、特に起こり易い。特許文献1および2の提案では、このような漏液を防ぐには不十分である。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来の問題を解決するために、過放電時のガス発生が抑制された、高い信頼性を有するアルカリ乾電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアルカリ乾電池の一局面は、正極活物質を含む中空円筒状の正極合剤と、前記正極合剤の中空部内に充填され、負極活物質を含むゲル状負極と、前記正極合剤と前記ゲル状負極との間に配されるセパレータと、前記ゲル状負極に挿入される負極集電体と、前記負極集電体と電気的に接続される負極端子板と、電解液と、を具備するアルカリ乾電池であって、
前記負極集電体は、平均結晶粒子径が0.015mm以上の真鍮を含むことを特徴とする。
【0009】
前記真鍮の平均結晶粒子径は、好ましくは0.030mm以上0.1mm以下、より好ましくは、0.045mm以上0.1mm以下である。
前記負極集電体は釘型であり、前記ゲル状負極に挿入される丸棒状の胴部、および前記胴部の一方の先端に設けられた頂部を有し、前記頂部は、前記負極端子板に溶接されており、前記胴部の径は、0.95〜1.35mmであるのが好ましい。
前記真鍮は、亜鉛を30〜40重量%含むのが好ましい。
【0010】
前記正極活物質は、二酸化マンガンおよびオキシ水酸化ニッケルの少なくとも一方を含むのが好ましい。
前記負極活物質は、亜鉛または亜鉛合金を含むのが好ましい。
前記亜鉛合金は、Alを150〜500ppm含むのが好ましい。
前記正極合剤の容量Cpに対する前記ゲル状負極の容量Cnの比:Cn/Cpは、0.95〜1.10であるのが好ましい。
【0011】
本発明のアルカリ乾電池の製造方法の一局面であり、
(1)真鍮を含む釘型成形体を得る工程と、
(2)前記成形体を300℃以上に加熱する工程と、
(3)前記工程(2)の後、前記成形体を10℃/秒以下の速度で冷却し、前記真鍮の平均結晶粒子径が0.015mm以上である負極集電体を得る工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、過放電時におけるガス発生が抑制された、高い信頼性を有するアルカリ乾電池が得られる。電池間に容量ばらつきがある複数個のアルカリ乾電池を直列に接続した組電池において、容量の小さい電池が転極した場合でも、転極した電池のガス発生が抑制され、電池の耐漏液性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る単3形アルカリ乾電池の一部を断面とする正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、従来の過放電時の真鍮の溶出に伴うガス発生のメカニズムについて説明する。
アルカリ乾電池の放電開始時には、下記式(1)および(2)の反応が進行する。正極では、二酸化マンガンの還元反応が進行する。負極では、亜鉛が溶解し、生成した酸化亜鉛が、亜鉛の表面に析出する。
正極: MnO2+H++e-→MnOOH (1)
負極: Zn+4OH-→Zn(OH)42-+2e- (2)
Zn(OH)42-→ZnO+H2O+2OH-
【0015】
アルカリ乾電池の放電末期には、負極内の水分が減少するため、亜鉛へのOH-の供給が追いつかなくなり、亜鉛表面近傍のOH-濃度が低下する。亜鉛表面近傍が局部的に酸性となり、亜鉛が不働態化する。このため、負極電位が急激に上昇し、電池電圧は急激に低下する。負荷が一定の場合、電流値も急激に低下する。
【0016】
以下、複数個のアルカリ乾電池を直列に接続した組電池を放電する場合の一例を示す。
2個の電池AおよびBを直列に接続した組電池に、抵抗を接続して回路を閉じると、組電池は放電する。電池Aは電池Bよりも容量が小さい場合、電池Aでは、電池Bよりも先に、亜鉛が不導態化し、電池電圧が急激に低下し、放電末期の状態となる。さらに組電池の放電が進行すると、電池Aでは、電池電圧がマイナスの値を示し(0V以下の値となり)、転極が起こる。
転極した電池Aでは、亜鉛が不働態化しているにも関わらず、負極側から電子を取り出す必要がある。この電子を供給するため、負極集電体から金属がイオンとして溶出する。例えば、負極集電体が真鍮からなり、錫めっきを有する場合、負極集電体表面に析出した亜鉛等の金属(活物質から溶出した金属)、錫、真鍮中の亜鉛、真鍮中の銅の順で溶出する。負極集電体から溶出する金属の大部分は真鍮を構成する銅や亜鉛である。
【0017】
転極した電池Aを含む放電回路を開くと、亜鉛の不働態化は解消され、負極電位は低下し、亜鉛本来の電位に近づく。このとき、負極電位は、水素ガス発生電位を下回り、水素ガスが発生し易い状態となる。
転極中に溶出した銅等の金属は、亜鉛の水素発生過電圧を低下させる。このため、水素ガス発生速度が増大し、水素ガス発生量が多くなり、電池内圧が上昇する。電池内圧が所定値を上回ると、所定の安全弁が破断し、漏液する。
【0018】
本発明のアルカリ乾電池の一実施形態を、図1を参照しながら説明する。図1は、単3形アルカリ乾電池(LR6)の一部を断面とする正面図である。図1中の矢印Xは、電池(正極合剤)の軸方向を示す。
有底円筒形の電池ケース1内に、中空円筒状の正極合剤2が収納されている。正極合剤2は、電池ケース1の内面に密着し、正極集電体を兼ねる電池ケースと電気的に接触している。電池ケース1の内面には、正極合剤との接触抵抗を低減するため、黒鉛塗膜層が形成されている。電池ケース1の底部には、凸状の正極端子1aが設けられている。電池ケース1は、例えば、ニッケルめっき鋼板を所定の寸法、形状にプレス成型することにより得られる。
【0019】
正極合剤2の中空部内には、有底円筒形のセパレータ4を介して、ゲル状負極3が充填されている。セパレータ4には、例えば、ポリビニルアルコール繊維およびレーヨン繊維を主体として混抄した不織布が用いられる。
【0020】
電池ケース1の開口部は、封口ユニット9により封口されている。封口ユニット9は、釘型の負極集電体6と、安全弁を備える樹脂製のガスケット5と、負極集電体6と電気的に接触している負極端子板7とにより構成される。
負極端子板7は、中央の平担部および前記平坦部の周縁部に設けられた鍔部を有する。負極端子板7は、鍔部と平坦部との境界部に、電池内のガスを外部に放出させるための孔7aを有する。負極端子板7は、例えば、ニッケルめっき鋼板またはスズめっき鋼板を所定の寸法、形状にプレス成形することにより得られる。
【0021】
負極集電体6は、略円柱状の胴部6a、および胴部6aの一方の先端に設けられた頂部6bを有する。負極集電体の頂部6bは、負極端子板7の平担部に溶接されている。
負極集電体6の胴部6aは、その軸方向がX方向と略平行になるように、ゲル状負極3の中心部に所定の長さだけ挿入されている。胴部6aのX方向に垂直な断面は、略円形状である。
【0022】
負極集電体6は平均結晶粒子径が0.015mm以上の真鍮からなる。真鍮の平均結晶粒子径を0.015mm以上に大きくすることにより、粒界の面積、すなわち、真鍮の反応面積(金属の溶出が起こる面積)が減少する。よって、過放電時における真鍮の電解液への溶出が抑制される。これにより、真鍮の溶出による亜鉛の水素発生過電圧の低下が抑制され、電池の耐漏液性が向上する。
真鍮の溶出を効果的に抑制するためには、少なくとも負極集電体の胴部の表面から0.2mmまでの深さの領域で、平均結晶粒子径が、0.015mm以上であることが好ましい。
【0023】
また、真鍮の平均結晶粒子径が0.015mm以上と大きいため、負極集電体の柔軟性が改善される。このため、封口ユニット作製時において、負極集電体をガスケットの貫通孔に圧入する際、負極集電体が僅かに曲がっても、矯正される。よって、生産性が向上する。
電池の過放電時の耐漏液性向上および生産性向上の観点から、真鍮の平均結晶粒子径は、好ましくは0.030mm以上であり、より好ましくは0.045mm以上である。真鍮の平均結晶粒子径は最大で0.1mm程度である。
【0024】
真鍮の平均結晶粒子径は、例えば、以下の方法により求められる。
偏光顕微鏡等で、胴部6aの軸方向Xに垂直な断面像を得る。表面から所定深さ(例えば、表面から深さ0.03〜0.2mm)までの領域を設定し、その領域内の任意の位置に所定長さP(例えば、50〜100μm)の線分を描く。この線分によって完全に区切られる結晶粒子の数Qを求める。そして、下記式より結晶粒子径Rを求める。
結晶粒子径R=線分の長さP/結晶粒子数Q
この作業を複数回(例えば、5〜10回)繰り返し実施し、それぞれ結晶粒子径Rを求める。その平均値を、平均結晶粒子径とする。
【0025】
真鍮は、銅および亜鉛を含む合金である。ただし、真鍮は、錫、燐、およびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種を、さらに含むことができる。真鍮における銅および亜鉛以外の元素の含有量は0.05〜3重量%であるのが好ましい。
集電性および強度の観点から、真鍮は、亜鉛を30〜40重量%を含むのが好ましい。真鍮の亜鉛含有量が30重量%未満であると、真鍮の機械的強度が低下し、負極集電体が過度に曲がり易くなり、生産性が低下する。また、コストが高くなる。真鍮の亜鉛含有量が40重量%を超えると、真鍮が脆くなり、加工性が低下する。
【0026】
集電性および強度の観点から、胴部6aの径は、0.95〜1.35mmが好ましい。胴部6aの径が1.35mm以下であると、負極集電体のゲル状負極(電解液)との接触面積が小さくなり、負極集電体からのガス発生が大幅に抑制される。胴部6aの径が0.95mm未満であると、機械的強度が低下して、負極集電体が過度に曲がり易くなり、生産性が低下する。
(胴部6aのゲル状負極へ挿入される部分の長さ)/(胴部6aの全長)は、0.72〜0.86が好ましい。(胴部6aのゲル状負極へ挿入される部分の長さ)/(ゲル状負極の充填高さ)は、0.72〜0.86が好ましい。これにより、負極集電体6のゲル状負極3内に挿入される部分において、ゲル状負極3と負極集電体6とが十分に接触し、良好な集電効果が得られる。
【0027】
本発明のアルカリ乾電池において、負極集電体は、以下の方法により作製することができる。すなわち、本発明のアルカリ乾電池の製造方法は、
(1)真鍮を含む釘型成形体を得る工程と、
(2)前記成形体を300℃以上に加熱する工程と、
(3)前記工程(2)の後、前記成形体を10℃/秒以下の速度で冷却し、前記真鍮の平均結晶粒子径が0.015mm以上である負極集電体を得る工程と、
を含む。
【0028】
工程(1)では、常法により、例えば、真鍮からなる線材を所定寸法の釘型にプレス加工し、釘型成形体を得る。
工程(2)および(3)は、非酸化性雰囲気(例えば、アルゴン等の不活性ガス雰囲気)で実施するのが好ましい。
工程(2)は、真鍮を再結晶させるために実施する。
成形体の変形を防ぐため、工程(2)の加熱温度は400℃以下が好ましい。
【0029】
工程(3)での加熱後の冷却速度を調整することにより、真鍮の平均結晶粒子径を容易に制御することができる。工程(3)では、1秒間における温度の低下幅を10℃以内に制御して、徐々に冷却する。
工程(3)では、成形体を室温まで冷却するのが好ましい。生産性の観点から、工程(3)の冷却速度は0.5℃/秒以上が好ましい。工程(3)の冷却速度は、より好ましくは0.5〜3.3℃/秒、特に好ましくは0.5〜1.7℃/秒である。
【0030】
真鍮の電解液への溶出を抑制するため、さらに、工程(3)の後、負極集電体の表面に、錫、インジウム、およびビスマスからなる群より選択される少なくとも1種を含む保護層を形成する工程(4)を含むのが好ましい。保護層は、めっき法により形成するのが好ましい。
保護層の厚みは、0.03〜2μmが好ましい。保護層の厚みが0.03μm未満であると、電池未使用時に集電体からの水素ガス発生により漏液し易くなる。保護層が錫を含む場合、保護層の厚みが2μm超であると、過放電時に錫が溶出し、亜鉛の水素発生過電圧が低下し、水素ガスが発生し易くなる。保護層がインジウムおよびビスマスの少なくとも一方を含む場合、保護層の厚みが2μm超であると、コスト低減が困難となる。
【0031】
ガスケット5は、中央筒部5a、外周筒部5b、および中央筒部5aと外周筒部5bとを連絡する連絡部からなる。中央筒部5aの貫通孔に、負極集電体6の胴部6aが圧入されている。
連絡部は、所定の安全弁として機能する薄肉部5cを有する。電池内圧が異常に上昇した時に、ガスケット5の連絡部に設けられた薄肉部5cが破断し、負極端子板7の孔7aより外部にガスを放出させることができる。
ガスケット5は、例えば、ナイロンまたはポリプロピレンを所定の寸法、形状に射出成形することにより得られる。
【0032】
電池ケース1の開口端部は、ガスケット5の外周筒部5bを介して負極端子板7の周縁部(鍔部)にかしめつけられている。これにより、電池ケース1の開口部が封口されている。電池ケース1の外表面は、外装ラベル8により被覆されている。
【0033】
正極合剤2、セパレータ4、およびゲル状負極3は、アルカリ電解液を含む。アルカリ電解液は、例えば、水酸化カリウム水溶液である。電解液中の水酸化カリウムの濃度は、30〜40重量%が好ましい。電解液は、さらに酸化亜鉛を含んでもよい。電解液中の酸化亜鉛の濃度は、1〜3重量%が好ましい。
【0034】
正極合剤2は、正極活物質として、二酸化マンガンおよびオキシ水酸化ニッケルの少なくとも一方を含む。正極合剤2は、例えば、正極活物質、導電剤、およびアルカリ電解液の混合物からなる。導電剤には、黒鉛粉末が用いられる。
【0035】
ゲル状負極3は、負極活物質として、亜鉛または亜鉛合金を含む。ゲル状負極3は、例えば、アルカリ電解液にゲル化剤を加えたゲル状電解液、およびゲル状電解液に分散する粉末状の負極活物質からなる。ゲル化剤には、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムが用いられる。
【0036】
ゲル状負極3の耐食性を改善するためには、亜鉛合金は、150〜500ppmのAlを含むのが好ましい。Alは活物質粒子の表面に存在するので、過放電時に不働態となり、亜鉛の溶解を遅らせる。亜鉛合金のAl含有量が150ppm未満では、ゲル状負極3の耐食性の改善効果が十分に得られない。亜鉛合金のAl含有量が500ppm超では、放電時にAlがセパレータ上に析出し、微小短絡を生じる場合がある。
さらに、ゲル状負極の耐食性を改善するためには、亜鉛合金は、50〜500ppmのインジウム、30〜200ppmのビスマス、および150〜500ppmのアルミニウムを含むのが、より好ましい。
【0037】
正極合剤の容量Cpに対するゲル状負極の容量Cnの比(以下、Cn/Cp)は、0.95〜1.10が好ましい。ここでいう容量は、活物質量に基づいて算出される理論容量を示す。
Cn/Cpが小さいほど、放電時の負極活物質の利用率は向上し、放電末期の未反応の亜鉛量が減少し、ゲル状負極からのガス発生量が減少する。ゲル状負極からのガス発生を大幅に抑制するには、Cn/Cpは1.10以下であり、小さいほど好ましい。ただし、Cn/Cpが0.95未満であると、正極活物質利用率が低くなりすぎて、放電性能が低下する場合がある。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
《実施例1〜9および比較例1〜2》
下記の手順により、図1の単3形アルカリ乾電池(LR6)を作製した。
【0039】
(1)負極集電体の作製
銅65重量%および亜鉛35重量%を含む真鍮線条(サンエツ金属(株)製)をプレス加工して、釘型成形体(全長:38.0mm、胴部の直径:1.15mm)を得た。
得られた成形体を非酸化性雰囲気にて300℃で10分間加熱した。その後、成形体を25℃になるまで、徐々に冷却した。このとき、成形体を冷却する速度を表1に示す値に変えた。このようにして、平均結晶粒子径の異なる負極集電体を得た。
その後、めっき法により、負極集電体の表面に錫層(厚さ1.5μm)を形成した。
【0040】
[負極集電体の平均結晶粒子径の測定]
(a)前処理
負極集電体を包囲するエポキシ樹脂を硬化させ、負極集電体をエポキシ樹脂硬化物に埋め込んだ。硬化物とともに、負極集電体の胴部を、その軸方向と垂直な方向に切断した。その切断面を研磨紙およびバフを用いて研磨し、鏡面状態とした。
硬化物から露出する負極集電体の切断面をエッチング液に10秒程度浸漬し、その切断面を化学処理した後、十分水洗した。エッチング液には、アンモニア水(29重量%)と、水と、過酸化水素水(33重量%)とを、1:1:0.02の重量比で混合したものを用いた。その後、乾燥し、水分を除去した。
【0041】
(b)平均結晶粒子径の測定
偏光顕微鏡(Nicon(株)製、Metaphont)にて、切断面の像を得た。
切断面の所定領域における任意の位置に、長さ100μmの線分を描いた。所定領域は、負極集電体の表面から深さ0.2mmまでの間の領域すなわち、切断面における最外周から内周側にかけて0.2mm幅のリング状の領域とした。この線分により完全に区切られる結晶粒子の数をカウントした。(100μm/結晶粒子数)の値を粒子径として求めた。上記の作業を5回繰り返し実施し、その平均値を平均結晶粒子径とした。
【0042】
(2)正極ペレットの作製
二酸化マンガン粉末(平均粒径:35μm)と黒鉛粉末(平均粒径:10μm)とを92.8:6.2の重量比で混合した。そして、この混合物と、アルカリ電解液とを、99:1の重量比で混合し、充分に攪拌した後、圧縮成形してフレーク状の造粒合剤を得た。正極ペレット作製用のアルカリ電解液には、水酸化カリウム水溶液(KOH濃度:35重量%、ZnO濃度:2重量%)を用いた。
ついで、フレーク状の造粒合剤を粉砕して顆粒状とし、これを篩によって分級し、10〜100メッシュのものを中空円筒状に加圧成形して、正極ペレットを得た。
【0043】
(3)ゲル状負極の調製
負極活物質として亜鉛合金粉末(平均粒径:170μm)と、アルカリ電解液としてアルカリ水溶液と、ゲル化剤としてポリアクリル酸ナトリウム粉末とを、63.9:35.4:0.7の重量比で混合し、ゲル状負極3を得た。亜鉛合金には、50ppmのAl、150ppmのBi、および200ppmのInを含む亜鉛合金を用いた。ゲル状負極作製用のアルカリ電解液には、水酸化カリウム水溶液(KOH濃度:35重量%、ZnO濃度:2重量%)を用いた。
【0044】
(4)封口ユニットの作製
6、12−ナイロンを所定の寸法、形状に射出成型してガスケット5を得た。ニッケルめっき鋼板(厚み0.4mm)を所定の寸法、形状にプレス加工して負極端子板7を得た。負極端子板7の中央の平坦部に負極集電体6の頂部6bを電気溶接した後、負極集電体6の胴部6aをガスケット5の中央の貫通孔に圧入して、封口ユニット9を作製した。
【0045】
(4)アルカリ乾電池の組立て
正極ペレットを、電池ケース1内に2個挿入し、加圧治具により正極ペレットを加圧して電池ケース1の内壁に密着させ、正極合剤2(10.4g)を得た。正極合剤2内側に有底円筒形のセパレータ4(厚み250μm)を配置した。セパレータ4内にアルカリ電解液(1.45g)を注入した。注液用のアルカリ電解液には、水酸化カリウム水溶液(KOH濃度:35重量%、ZnO:2重量%)を用いた。
【0046】
所定時間経過した後、ゲル状負極3(6.00g)を、セパレータ4を介して正極合剤2の中空部に充填した。セパレータ4には、ポリビニルアルコール繊維およびレーヨン繊維を主体として混抄した不織布を用いた。電池ケース1の開口端部を、封口ユニット9を用いて封口した後、電池ケース1の外表面を外装ラベル8で被覆した。
なお、正極合剤2の容量Cpは2.741Ahであった。ゲル状負極3の容量Cnは3.134Ahであった。すなわち、Cn/Cpは1.14であった。
【0047】
[評価]
(1)封口ユニットの組立て試験
各負極集電体を45000個ずつ準備した。これらの負極集電体を用いて封口ユニットを組立てた。このとき、封口ユニット組立て時における、ガスケットの貫通孔への負極集電体の圧入時に、負極集電体の先端が貫通孔に挿入されずに、負極集電体の胴部が曲がった数をカウントし、封口ユニット構成時の不良発生率を求めた。これは、負極集電体の先端がガスケットの貫通孔の周辺に当たり、曲がりを生じる際、微小な曲がりが矯正されることなく、この状態で負極集電体の胴部がガスケットに押し付けられることにより起こる。
【0048】
(2)過放電時のガス発生量の測定
上記で作製した電池を2個準備した。2個の電池を直列に接続した組電池に10Ωの抵抗を接続し、組電池を20℃環境下で放電させた。放電時の各電池の閉路電圧を監視した。3日経過後、抵抗を取り外した。転極した電池を取り出し、45℃の恒温槽中にて1週間保存した。保存時に発生したガス量を水上置換法により測定した。
評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
負極集電体の平均結晶粒子径が0.015mm以上である実施例1〜9の電池では、過放電時のガス発生が抑制された。負極集電体の平均結晶粒子径が0.015mm未満である比較例1および2の電池では、過放電時に多量のガスが発生した。
負極集電体の平均結晶粒子径が0.030mm以上である実施例4〜9の電池では、過放電時のガス発生量がより減少した。特に、負極集電体の平均結晶粒子径が0.045mm以上である実施例7〜9の電池では、過放電時のガス発生量が大幅に減少した。
【0051】
実施例1〜9の電池に用いられる負極集電体は、比較例1および2の電池に用いられる負極集電体と比べて、封口ユニット構成時の不良発生率が低下した。これは、実施例1〜9の電池に用いられる負極集電体は、比較例1および2の電池に用いられる負極集電体と比べて、平均結晶粒子径が大きく、柔軟性を有するため、負極集電体をガスケットの貫通孔に圧入する際に、負極集電体の先端が微小に曲がっても、矯正され易くなったためであると考えられる。
実施例4〜9の電池に用いられる、平均結晶粒子径が0.030mm以上の負極集電体では、不良発生率がより低下した。特に、実施例7〜9の電池に用いられる、平均結晶粒子径が0.045mm以上の負極集電体では、不良が発生しなかった。
【0052】
《実施例10〜15》
負極集電体の胴部の径を変えた以外、実施例1と同様の方法により電池を作製した。上記と同様の方法により過放電時のガス発生量を求めた。
評価結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
胴部の径が小さいほど、ゲル状負極(電解液)との接触面積が減少するため、過放電時のガス発生量は減少した。特に、負極集電体の胴部の径が0.95〜1.35mmである実施例2および10〜13の電池では、過放電時のガス発生量が大幅に減少した。
【0055】
《実施例16〜20》
負極活物質に表3に示す組成の亜鉛合金を用いた以外、実施例1と同様の方法により電池を作製した。上記と同様の方法により過放電時のガス発生量を求めた。
【0056】
また、下記条件の放電試験Aを実施した。
20℃環境下にて、3.9Ωの負荷で5分間放電した。この放電を1日あたり1回実施した。電池の閉路電圧が0.9Vに達するまで、上記放電を繰り返し実施した。そして、電池の閉路電圧が0.9Vに達するまでの放電時間の合計を求めた。放電時間を、実施例2の放電時間を100として指数として表した。放電性能指数が80以上であれば、放電性能は良好であると判断した。
評価結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
いずれの電池も、過放電時のガス発生量が減少した。特に、亜鉛合金中のAl含有量が150〜500ppmである実施例17〜19の電池では、過放電時のガス発生量が大幅に減少するとともに、良好な放電性能を示した。
【0059】
《実施例21〜25》
負極容量/正極容量(Cn/Cp)の比を変えた。具体的には、表4に示すように、正極合剤中の二酸化マンガン量を一定にし、ゲル状負極中の亜鉛合金量を変えた。これ以外は、実施例1と同様の方法により電池を作製した。上記と同様の方法により過放電時のガス発生量を求めた。
【0060】
また、下記条件の放電試験Bを実施した。
20℃の環境下にて、電池の閉路電圧が0.9Vに達するまで、10Ωの負荷で連続放電した。その時の放電時間を求めた。放電時間を、実施例2の放電時間を100とした指数として表した。放電性能指数が80以上であれば、放電性能は良好であると判断した。
評価結果を表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
いずれの電池も、過放電時のガス発生量が減少した。特に、Cn/Cpが0.95〜1.10である実施例21〜24の電池では、過放電時のガス発生量が大幅に減少するとともに、良好な放電性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のアルカリ乾電池は、携帯機器等の電子機器の電源として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0064】
1 電池ケース
2 正極合剤
3 ゲル状負極
4 セパレータ
5 ガスケット
6 負極集電体
7 負極端子板
8 外装ラベル
9 封口ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む中空円筒状の正極合剤と、
前記正極合剤の中空部内に充填され、負極活物質を含むゲル状負極と、
前記正極合剤と前記ゲル状負極との間に配されるセパレータと、
前記ゲル状負極に挿入される負極集電体と、
前記負極集電体と電気的に接続される負極端子板と、
電解液と、
を具備するアルカリ乾電池であって、
前記負極集電体は、平均結晶粒子径が0.015mm以上の真鍮を含むことを特徴とするアルカリ乾電池。
【請求項2】
前記真鍮の平均結晶粒子径が0.030mm以上0.1mm以下である請求項1記載のアルカリ乾電池。
【請求項3】
前記真鍮の平均結晶粒子径が0.045mm以上0.1mm以下である請求項1記載のアルカリ乾電池。
【請求項4】
前記負極集電体は釘型であり、前記ゲル状負極に挿入される略円柱状の胴部、および前記胴部の一方の先端に設けられた頂部を有し、
前記頂部は、前記負極端子板に溶接されており、
前記胴部の径は、0.95〜1.35mmである請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ乾電池。
【請求項5】
前記真鍮は、亜鉛を30〜40重量%含む請求項1〜4のいずれかに記載のアルカリ乾電池。
【請求項6】
前記正極活物質は、二酸化マンガンおよびオキシ水酸化ニッケルの少なくとも一方を含む請求項1〜5のいずれかに記載のアルカリ乾電池。
【請求項7】
前記負極活物質は、亜鉛または亜鉛合金を含む請求項1〜6のいずれかに記載のアルカリ乾電池。
【請求項8】
前記亜鉛合金は、Alを150〜500ppm含む請求項7記載のアルカリ乾電池。
【請求項9】
前記正極合剤の容量Cpに対する前記ゲル状負極の容量Cnの比:Cn/Cpは、0.95〜1.10である請求項1〜8のいずれかに記載のアルカリ乾電池。
【請求項10】
(1)真鍮を含む釘型成形体を得る工程と、
(2)前記成形体を300℃以上に加熱する工程と、
(3)前記工程(2)の後、前記成形体を10℃/秒以下の速度で冷却し、前記真鍮の平均結晶粒子径が0.015mm以上である負極集電体を得る工程と、
を含むアルカリ乾電池の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−76978(P2011−76978A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229672(P2009−229672)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】