説明

アルカリ蓄電池、電極用複合材料およびその製造法

【課題】負極活物質として水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池において、電池としての反応性を落とすことなく、高温寿命特性を向上させる。
【解決手段】電極用複合材料としては、全組成中のNi含有量が20〜70重量%である水素吸蔵合金粉末の表面に、III族金属元素、III族金属元素の酸化物およびIII族金属元素の水酸化物の少なくとも1つからなる、平均粒径が50nm以下の粒子を配置したことを特徴とする。またその製造法として、全組成中のNi含有量が20〜70重量%である水素吸蔵合金粉末を水酸化ナトリウムおよび/あるいは水酸化カリウム水溶液を含むアルカリ水溶液に浸漬する第1の工程と、この水素吸蔵合金粉末にIII族金属元素、III族金属元素の酸化物およびIII族金属元素の水酸化物の少なくとも1つを高速衝撃させ、水素吸蔵合金粉末の表面に平均粒径が50nm以下の粒子を配置する第2の工程とを設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素吸蔵合金からなりアルカリ蓄電池に用いられる電極用複合材料に関し、より詳しくは水素吸蔵合金粉末の表面状態を改良する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
負極活物質として水素吸蔵合金を用いるニッケル水素蓄電池は、出力特性に優れる上に耐久性(寿命特性および保存特性)が高いので、電気自動車などの動力電源として注目を集めている。近年はリチウムイオン二次電池もこの用途に参入しつつあるので、ニッケル水素蓄電池の利点を際立たせる観点から、出力特性や耐久性をより向上させる必要がある。
【0003】
水素吸蔵合金としては主にCaCu5型の結晶構造を有する水素吸蔵合金が用いられているが、耐久性を高める観点から、例えばMmNi5(Mmは軽希土類元素の混合物)のNiの一部をCo、Mn、Al、Cuなどで置換する場合が多い。この水素吸蔵合金の耐久性をさらに高めるために、例えば水素吸蔵合金粉末に平均粒径が1μm以下の酸化物微粒子を混合し、微粉化を抑制する技術が提案されている(特許文献1参照)。またScおよびIII族金属元素の酸化物あるいは水酸化物の少なくとも1種で水素吸蔵合金粉末を被覆し、酸化および溶出を抑制する技術が提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平07−258703号公報
【特許文献2】特開平09−031501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2の技術を用いることにより、室温近傍での寿命特性を向上させることは可能である。しかしながら保存特性と寿命特性とを兼ね合わせた高温寿命特性については、特許文献1および2の技術をもってしても向上は困難であった。具体的には、特許文献1の技術では水素吸蔵合金粉末の表面を耐久性の高い微粒子で覆い切れないため、高温下での充放電の繰返しにより水素吸蔵合金が劣化する。また特許文献2の技術では水素吸蔵合金粉末の表面を完全に覆うため、表面に偏在するNi層を介した水素吸蔵反応が低下し、充放電を繰り返す毎に電池反応が不十分となる。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためのものであって、負極活物質として水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池において、電池としての反応性を落とすことなく、高温寿命特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を鑑みて、本発明の電極用複合材料は、全組成中のNi含有量が20〜70重量%である水素吸蔵合金粉末の表面に、III族金属元素、III族金属元素の酸化物およびIII族金属元素の水酸化物の少なくとも1つからなる、平均粒径が50nm以下の粒子を配置したことを特徴とする。
【0007】
さらにこの電極用複合材料を具現化する方法として、全組成中のNi含有量が20〜70重量%である水素吸蔵合金粉末を水酸化ナトリウムおよび/あるいは水酸化カリウム水溶液を含むアルカリ水溶液に浸漬する第1の工程と、この水素吸蔵合金粉末にIII族金属元素、III族金属元素の酸化物およびIII族金属元素の水酸化物の少なくとも1つを高速衝撃させ、水素吸蔵合金粉末の表面に平均粒径が50nm以下の粒子を配置する第2の工程とを設けたことを特徴とする。
【0008】
本発明者らは耐食性の高いIII族金属元素、III族金属元素の酸化物および/あるいは水酸化物の少なくとも1つを選択し、これを平均粒径が50nm以下の粒子として水素吸蔵合金粉末の表面に配置することにより、水素吸蔵合金の腐食を防ぎつつ、水素吸蔵反応が円滑に行えることを見出した。本発明の効果については鋭意解析中であるが、上述した粒子の平均粒径を50nm以下にしてこれらの粒界を多く設けたことにより、この粒界を介して水素イオン(プロトン)が水素吸蔵合金の表面に偏在するNi層に到達しやすくなったことが原因と考えられる。
【0009】
またこのような電極用複合材料を具現化するためには、第1の工程において一定量のNiを含む水素吸蔵合金粉末の表面に偏在するNi層を十分に設けた後、第2の工程において上述した組成の粒子を平均粒径が50nm以下となるように配置する必要がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電極用複合材料は、核となる水素吸蔵合金粉末の表面に設けた層が高い耐食性を有しつつ水素吸蔵反応を阻害しないので、これを負極活物質として構成したアルカリ蓄電池は、高温にて充放電を繰り返しても容量低下が小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図を用いて説明する。
【0012】
図1は本発明の電極用複合材料の表面近傍を表す模式断面図である。核となる水素吸蔵合金粉末1の表面には、水素吸蔵反応の起点となるNi層2を偏在させている。この水素吸蔵合金粉末1の上に、III族金属元素、III族金属元素の酸化物およびIII族金属元素の水酸化物の少なくとも1つからなる、平均粒径が50nm以下の粒子3を配置している。粒子3の間には粒界4が存在するのだが、本発明においては粒子3が細かいために粒界4を多く設けることができる。アルカリ蓄電池の充電反応に相当する水素吸蔵反応は、電解液中のプロトンがNi層2を介して水素吸蔵合金粉末1の内部に拡散される反応であるが、本発明においては粒界4が多く設けられているので、粒子3が水素吸蔵合金粉末1の腐食を防ぐ一方、水素吸蔵反応は円滑に行われる。
【0013】
第1の発明は、電極用複合材料に関し、全組成中のNi含有量が20〜70重量%である水素吸蔵合金粉末1の表面に、III族金属元素、III族金属元素の酸化物およびIII族金属元素の水酸化物の少なくとも1つからなる、平均粒径が50nm以下の粒子を配置したことを特徴とする。この電極用複合材料の構成要素である水素吸蔵合金粉末1、Ni層2、粒子3および粒界4の機能については上述した通りである。この機能を十分に発揮させるためには、全組成中のNi含有量が20〜70重量%である水素吸蔵合金粉末1を用い、かつ粒子3の平均粒径を50nm以下にする必要がある。
【0014】
水素吸蔵合金粉末1の全組成中のNi含有量が20重量%を下回ると水素吸蔵反応の起点となるNi層2が乏しくなり、高温寿命特性が低下する。このNi層2を多く設けるためには、水素吸蔵合金粉末1の組成比をNi占有サイトに偏らせた非化学量論組成(例えばMmNi5の場合、MmNix(X>5)とする)にするのが効果的である。しかし組成比を過剰にNi占有サイトに偏らせ、その結果として全組成中のNi含有量が70重量%を上回ると、理想的な組成からの逸脱が激しくなって水素吸蔵合金粉末1の理論容量が著しく低下し、電池反応性そのものが低下して見かけ上高温寿命特性が低下する。
【0015】
粒子3の平均粒径が50nmを超える場合、粒界4が乏しくなって水素吸蔵能力が著しく低下し、電池反応性そのものが悪化して見かけ上高温寿命特性が低下する。粒子3の平均粒径については、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察やトンネル型電子顕微鏡(T
EM)観察により、10万倍以上の倍率により確認できる。粒子3の平均粒径の下限値については、後述する実施例に示すように、TEM観察が可能な領域(例えば1nm相当)なら本発明の効果があることから、粒子状で存在し粒界4が存在する限り、無限小であると考えられる。
【0016】
なお粒子3については、水素吸蔵合金粉末1の表面に配置する時点で酸化物・水酸化物あるいはこれらの混合系を選択することができる。但し本発明の電極用複合材料を負極活物質としてアルカリ蓄電池を構成した場合、高濃度のアルカリ水溶液によって酸化物が一部水酸化物に変化するため、純粋な酸化物を選択した場合でも、電池系内において酸化物および水酸化物の混合系として存在することになる。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、III族金属元素としてイットリウムおよび/あるいはエルビウムを選択したことを特徴とする。イットリウムおよびエルビウムからなる粒子3は反応抵抗が低いため、他のIII族金属元素を選択した場合と比較して高温寿命特性をより高めることができる(理由は鋭意解析中)。
【0018】
第3の発明は、第1の発明において、粒子3の配置量を、水素吸蔵合金粉末1に対し0.4〜2重量%としたことを特徴とする。粒子3の配置量が0.5重量部を下回ると、全体量が不足して粒子3による耐食効果が低減し、水素吸蔵合金粉末1の腐食がやや早まって高温寿命特性が若干低下する。逆に粒子3の配置量が2重量部を上回ると、全体量が過剰になって水素吸蔵反応がやや低下し、見かけ上高温寿命特性が若干低下する。
【0019】
第4の発明は、第1の発明において、水素吸蔵合金粉末1の結晶構造がCaCu5型であることを特徴とする。本発明では水素吸蔵合金粉末1として種々の結晶構造を有するものを選択できるが、CaCu5型(すなわちAB5型)の結晶構造を有するものは、常温で高い水素化反応性、容易な活性化という観点から好ましい。
【0020】
第5の発明は、第4の発明において、水素吸蔵合金粉末1の組成に希土類元素と、Coと、Mnと、Alとを含ませたことを特徴とする。この組成は簡略的にMm(NiCoMnAl)5と表すことができる。Mmで表される希土類元素は、安価であるという観点で好ましい。Coは水素吸蔵合金粉末1自身の耐食性を高める観点で好ましい。MnおよびAlは水素吸蔵反応を常圧下で行えるよう、水素吸蔵合金粉末1の平衡圧を下げる観点で好ましい。なおMm中には40〜50%のCeおよび20〜40%のLaを含ませ、さらにPrおよびNdを含ませるのが、耐食性と水素吸蔵反応の双方を高める観点から好ましい。なおMmの一部をNbやZrに置換するのも好ましい態様の1つである。
【0021】
第6の発明は、第5の発明において、水素吸蔵合金粉末1の組成中のCo含有量を0.5〜6重量%としたことを特徴とする。Coにより水素吸蔵合金粉末1自身の耐食性を高める観点では含有量を0.5重量%以上にするのが好ましいが、含有量が6重量%を超過すると水素吸蔵合金粉末1の理論容量が不足し、見かけ上高温寿命特性が若干低下する。
【0022】
第4〜6の発明の内容を踏まえた上で、本発明に好適な水素吸蔵合金粉末1の組成は、例えばLa0.8Nb0.2Ni2.5Co2.4Al0.1、La0.8Nb0.2Zr0.03Ni3.8Co0.7Al0.5、MmNi3.65Co0.75Mn0.4Al0.3、MmNi2.5Co0.7Al0.8、Mm0.85Zr0.15Ni1.0Al0.80.2などである。
【0023】
第7の発明は、第1の発明において、平均粒径を5〜30μmとしたことを特徴とする。電極用複合材料における粒子3の層は極めて薄いので、核となる水素吸蔵合金粉末1の平均粒径を5〜30μmとすることにより、電極用複合材料自身の平均粒径も同様の範囲とすることができる。電極用複合材料の平均粒径が5μm未満の場合、水素吸蔵合金粉末
1の表面積がやや過剰となり、相対的に粒子3の配置量が不足するので耐食性がやや低下し、高温寿命特性が若干低下する。逆に平均粒径が30μmを超える場合、水素吸蔵合金粉末1の表面積がやや過少となり、相対的に粒子3の配置量が過剰になるので水素吸蔵反応がやや低下し、見かけ上高温寿命特性が若干低下する。
【0024】
第8の発明は、第1〜7の発明に記載した電極用複合材料を負極活物質として用いたことを特徴とするアルカリ蓄電池に関する。上述した電極用複合材料を負極活物質として用いることにより、高温寿命特性に優れたアルカリ蓄電池を提供することが可能になる。
【0025】
第9の発明は電極用複合材料の製造法に関し、全組成中のNi含有量が20〜70重量%である水素吸蔵合金粉末1を水酸化ナトリウムおよび/あるいは水酸化カリウム水溶液を含むアルカリ水溶液に浸漬する第1の工程と、この水素吸蔵合金粉末1にIII族金属元素、III族金属元素の酸化物およびIII族金属元素の水酸化物の少なくとも1つを高速衝撃させ、水素吸蔵合金粉末1の表面に平均粒径が50nm以下の粒子3を配置する第2の工程とを設けたことを特徴とする。
【0026】
粒子3を配置する前に、第1の工程として水素吸蔵合金粉末1をアルカリ水溶液に浸漬することにより、水素吸蔵合金粉末1の表面に、組成中で偏在化したNiからなるNi層2を多く設け、水素吸蔵反応の起点として効率的に機能させることができる。また水素吸蔵合金粉末1に上述した酸化物あるいは水酸化物を高速衝撃させることにより、これを水素吸蔵合金粉末1の表面に平均粒径が50nm以下の粒子3として配置できる。
【0027】
第1の工程は、例えば昇温が可能な金属容器に上述したアルカリ水溶液を投入し、十分に昇温した後に水素吸蔵合金粉末1を添加することで、具現化が可能である。ここでアルカリ水溶液を80℃以上とし、アルカリ塩(KOH、NaOH)濃度を30〜48重量%とすれば、Ni層2を迅速に設けることができるので好ましい。
【0028】
第2の工程は、株式会社奈良機械製作所製のハイブリタイゼーションシステムNHS−3型(商品名)などを用いることにより具現化が可能であるが、この装置の最適条件(回転数、処理時間など)は用いる水素吸蔵合金粉末1の粒径や硬さにより異なるので、水素吸蔵合金粉末1が微粉化されないように注意を払い設定する必要がある。
【0029】
なお第1の工程と第2の工程との間に、水洗工程を設けることが望ましい。水素吸蔵合金粉末1を含んだ水洗水のpHが9以下になるまで水洗することにより、水素吸蔵合金粉末1の表面に残存する不純物(希土類元素の水酸化物など)を排除できるので好ましい。また水洗後の水素吸蔵合金粉末1を、水中で酸化剤と混合して酸化することが望ましい。水素吸蔵合金粉末1を含んだ分散液のpHを7以上にして酸化することにより、水洗後に水素吸蔵合金粉末1に残存する微量の水素を除去して空気中の酸素との反応を回避することができるので好ましい。酸化の一例として、合金粉末を分散させたpH7以上の水中に過酸化水素水を攪拌投入する方法が挙げられる。投入時の過酸化水素は、水素吸蔵合金粉末1を100重量部として0.005〜1重量部であることが好ましい。
【0030】
第10の発明は、第9の発明において、第1の工程の前工程として、水素吸蔵合金粉末1を水と混合する湿潤工程を設けたことを特徴とする。湿潤工程を設けることにより、水素吸蔵合金粉末1を湿った状態でアルカリ水溶液と接触させることができるので、高濃度のアルカリ水溶液に急速に接するために起こる水素吸蔵合金粉末1の過剰な酸化が回避できる観点で好ましい。特に水素吸蔵合金の粗粒子を乾式粉砕して水素吸蔵合金粉末1を得る場合や、アトマイズ法などで直に所望の粒径を有する水素吸蔵合金粉末1を得る場合は、まず湿潤工程を経た後で、第1の工程に導入するのが好ましい。
【0031】
第11の発明は、第10の発明において、湿潤工程において水素吸蔵合金粉末1を平均粒径5〜30μmとなるよう粉砕することを特徴とする。請求項7に示したように、本発明の電極用複合材料の平均粒径は5〜30μmが最適範囲であるが、上述した湿潤工程においてこの平均粒径となるよう粉砕すれば効率的である。なお水素吸蔵合金粉末1の粉砕が可能な湿潤工程としては、湿式ボールミル粉砕などが挙げられる。
【0032】
続いて、本発明の電極用複合材料を負極活物質として用いたアルカリ蓄電池について説明する。
【0033】
正極は、公知の焼結式のニッケル正極を用いることができる。
【0034】
本発明の電極用複合材料を用い、導電剤、増粘剤さらに結着剤を加えてアルカリ蓄電池用負極を作製する。負極に用いる導電剤は、電子伝導性を有する材料であれば特に限定されない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛、膨張黒鉛などのグラファイト類や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカ−ボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、銅などの金属粉末類、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などを用いればよい。中でも人造黒鉛、ケッチェンブラック、炭素繊維が好ましいが、これらの材料を混合して用いてもよい。また、電極材料に対してこれらの材料を機械的に表面被覆させてもよい。上記導電剤の添加量は特に限定されず、例えば電極材料100重量部に対して1〜50重量部の範囲が好ましく、1〜30重量部の範囲がより好ましい。
【0035】
負極に用いる増粘剤は、電極合剤ペーストに粘性を付与できるものを用いることができる。一例として、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと略記)およびその変性体、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキシドなどが挙げられる。
【0036】
負極に用いる結着剤は、電極合剤が集電体に結着した状態を維持できる限り、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれを用いてもよい。例えば、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(以下、SBRと略記)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体Na+イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体Na+イオン架橋体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体Na+イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体Na+イオン架橋体などを、単独あるいは混合して用いることができる。
【0037】
セパレータは、ポリプロピレン製不織布セパレ―タなどを用いることができる。
【0038】
電解液は、比重1.30の水酸化カリウム水溶液に40g/Lの水酸化リチウムを溶解させた電解液などを用いることができる。
【0039】
以上の構成要素を組み合わせることにより、本発明のアルカリ蓄電池を構成することが
できる。
【0040】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0041】
(実施例1−1)
(i)水素吸蔵合金粉末の作製
Mm、NiおよびMnの単体を所定の割合で混合したものを高周波溶解炉で溶解し、組成がMmNi1.5Mn3.5(組成中のNiが20重量%)の水素吸蔵合金のインゴットを作製した。このインゴットを1060℃のアルゴン雰囲気下で10時間加熱した後、粗粒子となるよう粉砕した。得られた粗粒子を、湿式ボールミルを用いて粉砕した後、湿潤状態でメッシュ径が75μmの篩でふるい、平均粒径20μmの水素吸蔵合金粉末を得た。
【0042】
(ii)第1の工程
上述した水素吸蔵合金粉末を、水酸化ナトリウムを40重量%含む100℃のアルカリ水溶液と50分間接触させた。この工程の後、温水を用いてpHが9以下になるまで水素吸蔵合金粉末を洗浄し、脱水後に乾燥した。
【0043】
(iii)第2の工程
株式会社奈良機械製作所製のハイブリタイゼーションシステムNHS−3型(商品名)の試料投入部に、第1の工程を経た水素吸蔵合金粉末800gを投入した後、純度4Nの酸化イットリウム粉末を試料投入部に投入し、ローターの回転速度を5000rpm(rpmは1分間当りの回転数)として10分間運転した。このようにして得られた電極用複合材料に占める酸化イットリウムの配置量をICP分析法(JiS K0116に規定)により分析した結果、水素吸蔵合金粉末に対して1重量%であった。またこの酸化イットリウムの形状をSEM観察した結果、図1で模式的に示されるように粒子状であり、かつ酸化イットリウム粒子の平均粒径は30nmであった。
【0044】
(iv)負極の作製
上述した電極用複合材料100重量部に対して、カルボキシメチルセルロース(CMC、エーテル化度0.7、重合度1600)0.15重量部、カーボンブラック(AB)0.3重量部およびスチレンブタジエン共重合体(SBR)0.7重量部を加え、さらに水を添加して練合し、ペーストを得た。このペーストを、ニッケルメッキを施した鉄製パンチングメタル(厚み60μm、孔径1mm、開孔率42%)からなる芯材の両面に塗着した。ペーストの塗膜は、乾燥後、芯材とともにローラでプレスした。こうして、厚み0.4mm、幅35mm、容量2200mAhの負極を得た。なお負極の長手方向に沿う一端部には、芯材の露出部を設けた。
【0045】
(v)ニッケル水素蓄電池の作製
長手方向に沿う一端部に幅35mmの芯材の露出部を有する容量1500mAhの焼結式ニッケル正極を用い、4/5Aサイズで公称容量1500mAhのニッケル水素蓄電池を作製した。具体的には、正極と負極とを、スルホン化処理したポリプロピレン不織布からなるセパレータ(厚み100μm)を介して捲回し、円柱状の極板群を作製した。極板群では、正極合剤を担持しない正極芯材の露出部と、負極合剤を担持しない負極芯材の露出部とを、それぞれ反対側の端面に露出させた。正極芯材が露出する極板群の端面には正極集電板を溶接した。負極芯材が露出する極板群の端面に負極集電板を溶接する一方、正極リードを介して封口板と正極集電板とを導通させた。負極集電板を下方にして極板群を円筒形の有底缶からなる電池ケースに収容した後、負極集電板と接続された負極リードを電池ケースの底部と溶接した。さらに比重1.3の水酸化カリウム水溶液に40g/Lの
濃度で水酸化リチウムを溶解させた電解液を注入した後、周縁にガスケットを具備する封口板にて電池ケースの開口部を封口し、ニッケル水素蓄電池を作製した。これを実施例1−1とする。
【0046】
(実施例1−2)
水素吸蔵合金粉末の組成をMmNi5(組成中のNiが70重量%)としたこと以外は、実施例1−1と同様に作製したニッケル水素蓄電池を、実施例1−2とする。
【0047】
(実施例1−3)
水素吸蔵合金粉末の組成をMmNi3.7Mn1.3(組成中のNiが50重量%)としたこと以外は、実施例1−1と同様に作製したニッケル水素蓄電池を、実施例1−3とする。
【0048】
(実施例1−4〜6)
第2の工程におけるハイブリタイゼーションシステムの回転数を8000、6000および3000rpmとし、酸化イットリウム粒子の平均粒径を1nm(実施例1−4)、10nm(実施例1−5)および50nm(実施例1−6)としたこと以外は、実施例1−3と同様にニッケル水素蓄電池を作製した。なお実施例1−4の酸化イットリウムの平均粒径は、TEM観察にて確認した。
【0049】
(比較例1−1)
水素吸蔵合金粉末の組成をMmNi1.4Mn3.6(組成中のNiが18重量%)としたこと以外は、実施例1−1と同様に作製したニッケル水素蓄電池を、比較例1−1とする。
【0050】
(比較例1−2)
水素吸蔵合金粉末の組成をMmNi5.1(組成中のNiが73重量%)としたこと以外は、実施例1−1と同様に作製したニッケル水素蓄電池を、比較例1−2とする。
【0051】
(比較例1−3)
第2の工程におけるハイブリタイゼーションシステムの回転数を2500rpmとし、酸化イットリウム粒子の平均粒径を60nmとしたこと以外は、実施例1−3と同様に作製したニッケル水素蓄電池を、比較例1−3とする。
【0052】
以上の各実施例および比較例を、以下に示す方法にて評価した。結果を(表1)に示す。
【0053】
(高温寿命特性)
各実施例および比較例のニッケル水素蓄電池を、40℃環境下にて10時間率(150mA)で15時間充電し、5時間率(300mA)で電池電圧が1.0Vになるまで放電した。この充放電サイクルを100回繰り返した。2サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の比率を、容量維持率として百分率で求め、(表1)に記した。
【0054】
【表1】

水素吸蔵合金粉末の全組成中のNi含有量が20重量%を下回った比較例1−1は、水素吸蔵反応の起点となるNi層が乏しくなった影響で高温寿命特性が低下した。逆に組成比をNi過剰にして全組成中のNi含有量が70重量%を上回った比較例1−2は、水素吸蔵合金粉末1の理論容量が著しく低下し、電池反応性そのものが低下して見かけ上高温寿命特性が低下した。また酸化イットリウム粒子の平均粒径が50nmを超えた比較例1−3は、粒子間の粒界が乏しくなって水素吸蔵能力が著しく低下し、電池反応性そのものが悪化して見かけ上高温寿命特性が低下した。
【0055】
これら比較例に対して、水素吸蔵合金粉末の全組成中のNi含有量および酸化イットリウム粒子の平均粒径を適正化した実施例1−1〜6は、比較的良好な高温寿命特性を示した。中でも酸化イットリウムの平均粒径が1nmである実施例1−6は、粒子間の粒界が多く存在する影響で良好な高温寿命特性を示した。
【実施例2】
【0056】
(実施例2−1〜5)
水素吸蔵合金粉末の組成をMmNi4.1Mn0.4Al0.3Co0.4(組成中のNiが55重量%、Coが5重量%)とし、第2の工程において上述した水素吸蔵合金粉末の表面に、III族金属元素の酸化物として酸化イットリウム(実施例2−1)、酸化エルビウム(実施例2−2)、酸化ツリウム(実施例2−3)、酸化イットリビウム(実施例2−4)および酸化ルテチウム(実施例2−5)を実施例1−1と同様の条件で配置した(平均粒径30nm、配置量1重量%)。その他は実施例1−1と同様にニッケル水素蓄電池を作製した。
【0057】
(実施例2−6〜10)
第2の工程におけるハイブリタイゼーションシステムの回転数を8000、6000および3000rpmとし、酸化イットリウム粒子の配置量を水素吸蔵合金粉末に対して0.3重量%(実施例2−6)、0.4重量%(実施例2−7)、0.5重量%(実施例2−8)、2重量%(実施例2−9)および2.2重量%(実施例2−10)としたこと以外は、実施例2−1と同様にニッケル水素蓄電池を作製した。
【0058】
(実施例2−11〜14)
水素吸蔵合金粉末の組成をMmNi4.28Mn0.4Al0.3Co0.02(実施例2−11、組成中のNiが59重量%、Coが0.3%)、MmNi4.27Mn0.4Al0.3Co0.03(実施例2−12、組成中のNiが60重量%、Coが0.5%)、MmNi3.86Mn0.4
0.3Co0.44(実施例2−13、組成中のNiが53重量%、Coが6%)およびMmNi3.78Mn0.4Al0.3Co0.52(実施例2−14、組成中のNiが52重量%、Coが7%)としたこと以外は、実施例2−1と同様にニッケル水素蓄電池を作製した。
【0059】
(実施例2−15〜19)
水素吸蔵合金の粗粒子を、湿式ボールミルの粉砕時間を60分、50分、40分、25分および15分とし、水素吸蔵合金粉末の平均粒径を3μm(実施例2−15)、5μm(実施例2−16)、10μm(実施例2−17)、30μm(実施例2−18)および35μm(実施例2−19)としたこと以外は、実施例2−1と同様にニッケル水素蓄電池を作製した。これら各実施例について、実施例1と同様の方法にて高温寿命特性を評価した。結果を(表2)に示す。
【0060】
【表2】

III族金属元素の酸化物として酸化イットリウムおよび酸化エルビウムを用いた実施例2−1および2−2は、他のIII族金属元素の酸化物を用いた実施例2−3〜5と比較して、より良好な高温寿命特性を示した。この理由として、酸化イットリウム粒子および酸化エルビウム粒子は反応抵抗が低いため、電池反応が活発化したことが挙げられる。
【0061】
酸化イットリウム粒子の配置量が水素吸蔵合金粉末に対して0.4重量%を下回った実施例2−6は、その全体量が不足して耐食効果が低減し、水素吸蔵合金粉末の腐食がやや早まったために高温寿命特性が若干低下した。逆に酸化イットリウム粒子の配置量が2重量%を上回った実施例2−10は、その全体量が過剰になって水素吸蔵反応がやや低下し、見かけ上高温寿命特性が若干低下した。以上の結果から、III族金属元素酸化物粒子の配置量の好適範囲は、水素吸蔵合金粉末に対して0.4〜2重量%であることがわかる。
【0062】
水素吸蔵合金粉末の組成中のCo含有量が0.5重量%を下回った実施例2−11は、水素吸蔵合金粉末1自身の耐食性がやや不足したことにより高温寿命特性が若干低下した。逆にCo含有量が6重量%を上回った実施例2−14は、水素吸蔵合金粉末の理論容量が不足したことにより見かけ上高温寿命特性が若干低下した。以上の結果から、水素吸蔵
合金粉末組成中のCo含有量の好適範囲は、0.5〜6重量%であることがわかる。
【0063】
電極用複合材料の平均粒径が5μm未満である実施例2−15は、水素吸蔵合金粉末の表面積がやや過剰となり、相対的に酸化イットリウム粒子の配置量が不足するので耐食性がやや低下し、高温寿命特性が若干低下した。逆に平均粒径が30μmを超える実施例2−19は、水素吸蔵合金粉末の表面積がやや過少となり、相対的に酸化イットリウム粒子の配置量が過剰になるので水素吸蔵反応がやや低下し、見かけ上高温寿命特性が若干低下した。以上の結果から、平均粒径の好適範囲は5〜30μmであることがわかる。
【0064】
なお各実施例のニッケル水素蓄電池の一部を高温寿命特性評価前に分解したところ、III族金属元素の酸化物粒子の一部は酸化物から水酸化物に転じていることが明らかになった。このことから、水素吸蔵合金粉末の表面に配置するIII族金属元素の化合物は、酸化物・水酸化物のいずれであってもその効果は同じであることがわかる。
【実施例3】
【0065】
(実施例3−1〜5)
水素吸蔵合金粉末の組成をMmNi4.1Mn0.4Al0.3Co0.4(組成中のNiが55重量%、Coが5重量%)とし、第2の工程において上述した水素吸蔵合金粉末の表面に、III族金属元素としてイットリウム(実施例3−1)、エルビウム(実施例3−2)、ツリウム(実施例3−3)、イットリビウム(実施例3−4)およびルテチウム(実施例3−5)を実施例1−1と同様の条件で配置した(平均粒径30nm、配置量1重量%)。その他は実施例1−1と同様にニッケル水素蓄電池を作製した。これら各実施例について、実施例1と同様の方法にて高温寿命特性を評価した。結果を(表3)に示す。
【0066】
【表3】

酸化物や水酸化物に代えてIII族金属元素を用いた場合でも、効果は同様であることがわかる。なお理由は不明であるが、イットリウムおよびエルビウム以外の金属元素を用いても、実施例2に見られたような顕著な差は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明を活用することにより、アルカリ蓄電池の高温寿命特性を大幅に改善できるので、あらゆる機器の電源として利用可能性がある上に、過酷な環境下で使用されるハイブリッド自動車用電源などの分野において多大な効果をもたらすことが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の電極用複合材料の表面近傍を表す模式断面図
【符号の説明】
【0069】
1 水素吸蔵合金粉末
2 Ni層
3 粒子
4 粒界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ蓄電池に用いる電極用複合材料であって、
全組成中のNi含有量が20〜70重量%である水素吸蔵合金粉末の表面に、III族金属元素、III族金属元素の酸化物およびIII族金属元素の水酸化物の少なくとも1つからなる、平均粒径が50nm以下の粒子を配置したことを特徴とする、電極用複合材料。
【請求項2】
前記III族金属元素としてイットリウムおよび/あるいはエルビウムを選択したことを特徴とする、請求項1記載の電極用複合材料。
【請求項3】
前記粒子の配置量を、前記水素吸蔵合金粉末に対し0.4〜2重量%としたことを特徴とする、請求項1記載の電極用複合材料。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金粉末の結晶構造がCaCu5型であることを特徴とする、請求項1記載の電極用複合材料。
【請求項5】
前記水素吸蔵合金粉末の組成に希土類元素と、Coと、Mnと、Alとを含ませたことを特徴とする、請求項4記載の電極用複合材料。
【請求項6】
前記水素吸蔵合金粉末の組成中のCo含有量を0.5〜6重量%としたことを特徴とする、請求項5記載の電極用複合材料。
【請求項7】
平均粒径を5〜30μmとしたことを特徴とする、請求項1記載の電極用複合材料。
【請求項8】
請求項1〜7記載の電極用複合材料を負極活物質として用いたことを特徴とするアルカリ蓄電池。
【請求項9】
アルカリ蓄電池に用いる電極用複合材料の製造法であって、
全組成中のNi含有量が20〜70重量%である水素吸蔵合金粉末を、水酸化ナトリウムおよび/あるいは水酸化カリウム水溶液を含むアルカリ水溶液に浸漬する第1の工程と、前記水素吸蔵合金粉末にIII族金属元素、III族金属元素の酸化物およびIII族金属元素の水酸化物の少なくとも1つを高速衝撃させ、前記水素吸蔵合金粉末の表面に平均粒径が50nm以下の粒子を配置する第2の工程とを設けたことを特徴とする、電極用複合材料の製造法。
【請求項10】
前記第1の工程の前工程として、前記水素吸蔵合金粉末を水と混合する湿潤工程を設けたことを特徴とする、請求項9記載の電極用複合材料の製造法。
【請求項11】
前記湿潤工程において、前記水素吸蔵合金粉末を平均粒径5〜30μmとなるよう粉砕することを特徴とする、請求項10記載の電極用複合材料の製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−165277(P2007−165277A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171109(P2006−171109)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】