説明

アルカリ電池

【課題】亜鉛粉末の比表面積を大きくしてもハイレート放電性能の低下を抑制したアルカリ電池を提供することにある。
【解決手段】正極2及び負極3がセパレータ4を介して電池ケース1内に収納され、正極2は、二酸化マンガン及びアルカリ電解液を含み、負極3は、亜鉛粉末、ゲル化剤、及びアルカリ電解液を含むゲル状負極からなる。亜鉛粉末は、200メッシュ未満の微粉が15質量%以上、20〜80メッシュの粗粉が10〜35質量%の範囲で含まれ、かつ、亜鉛粉末の比表面積が、0.025〜0.080m/gの範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイレート放電性能に優れたアルカリ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルカリ電池の負極は、亜鉛粉末とアルカリ電解液との混合物に、ゲル化剤を添加してゲル状にしたゲル状負極が使用されている。亜鉛粉末の粒子形態は、アルカリ電池の放電性能に影響を与えるが、例えば、亜鉛粉末の微粉量を増やして、比表面積を大きくすることによって、ハイレート放電性能が向上することが知られている(特許文献1)。
【0003】
しかし、亜鉛粉末の比表面積を大きくすると、短絡時に急激な放電反応が起こることにより、ガスや熱の発生が問題となる。このような問題に対して、特許文献2、3には、亜鉛粉末を、微粉と粗粉の両方を含む構成にすることによって、放電性能を維持しつつ、ガスや熱の発生を抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2001−512284号公報
【特許文献2】特開2006−244989号公報
【特許文献3】特開2004−253276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
亜鉛粉末の比表面積を大きくすることによってガス等が発生する問題の他に、本願発明者等は、亜鉛粉末の微粉量を増やして比表面積を大きくしていくと、一定の微粉量を超えると、ハイレート放電性能の向上が鈍化し、さらに、微粉量を増やすと、ハイレート放電性能が低下するという課題を見出した。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたもので、その主な目的は、亜鉛粉末の比表面積を大きくしてもハイレート放電性能の低下を抑制したアルカリ電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面におけるアルカリ電池は、正極及び負極がセパレータを介して電池ケース内に収納されてなるアルカリ電池であって、正極は、二酸化マンガン及びアルカリ電解液を含み、負極は、亜鉛粉末、ゲル化剤、及びアルカリ電解液を含むゲル状負極からなり、亜鉛粉末は、200メッシュ未満の微粉が15質量%以上、20〜80メッシュの粗粉が10〜35質量%の範囲で含まれ、かつ、亜鉛粉末の比表面積が、0.025〜0.080m/gの範囲にある。
【0008】
ここで、上記亜鉛粉末は、80〜800ppmの範囲のAlを含有することが好ましい。また、上記亜鉛粉末は、30〜150ppmの範囲のBiを含有することが好ましい。
【0009】
ある好適な実施形態において、上記電池ケースは、有底円筒形からなり、電池ケースの開口部は、負極端子を兼ねた封口板で封口され、電池ケースの底部は、正極端子を兼ねており、電池ケースの底部は、突起部と、電池ケースの胴体部から突起部に繋がる肩部とを備え、セパレータは、有底円筒形からなり、電池ケースの肩部とセパレータの底部との隙間が、0.5mm以下である。ここで、電池ケースの胴体部及び底部の内面には、黒鉛塗膜が形成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、200メッシュ未満の微粉が15質量%以上、20〜80メッシュの粗粉が10〜35質量%含まれ、かつ、比表面積が0.025〜0.080m/gの範囲にある亜鉛粉末を負極に用いることによって、ハイレート放電性能に優れたアルカリ電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態におけるアルカリ電池の構成を示した半断面図である。
【図2】亜鉛粉末の比表面積とハイレート放電性能との関係を示したグラフである。
【図3】本発明の課題を説明した図で、(a)は、二次加圧された正極の充填密度の差を示した図、(b)は、負極から正極への電解液の移動の差を示した図、(c)は、負極の高さの減少を示した図である。
【図4】ゲル化剤の構造を模式的に示した図で、(a)は亜鉛粉末の比表面積が小さい場合の構造、(b)は亜鉛粉末の比表面積が大きい場合の構造を示した図である。
【図5】アルカリ電池の正極端子(突起部)の近傍を拡大して示した部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。さらに、他の実施形態との組み合わせも可能である。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態におけるアルカリ電池20の構成を示した半断面図である。有底円筒状の電池ケース1内に、セパレータ4を介して正極2とゲル状負極3とが収納されている。正極2は、二酸化マンガンとアルカリ電解液とを含有し、ゲル状負極3は、亜鉛粉末とアルカリ電解液とゲル化剤とを含有する。電池ケース1の開口部は、ガスケット5、負極端子棒6及び負極端子を兼ねる封口板7が一体化された封口体9で封口されている。また、電池ケース1は、正極の一部を兼ねており、電池ケース1の底部に、正極端子となる突起部10が形成されている。また、電池ケース1の外周面は、外装ラベル8で被覆されている。
【0014】
本発明は、ゲル状負極3を構成する亜鉛粉末の粒子形態を特徴とするものであるが、本発明を説明する前に、本発明を想到するに至った経緯をまず説明する。
【0015】
本願発明者等は、亜鉛粉末の比表面積を変えたアルカリ電池1〜7を作製して、亜鉛粉末の比表面積と、ハイレート放電性能との関係を調べた。
【0016】
表1は、その結果を示したものである。亜鉛粉末の比表面積は、200メッシュ未満の微粉の含有率(質量%)を変えることによって変化させた。なお、この亜鉛粉末には、20〜80メッシュの粗粉も含まれるが、その含有率は一定(5質量%)とした。
【0017】
【表1】

【0018】
ここで、亜鉛粉末の比表面積は、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法を用いて測定した。また、ハイレート放電性能は、電池を作製してから1ヶ月以内に、高負荷パルス放電(1.5Wで2秒間放電した後、0.65Wで28秒間放電する工程を1サイクルとして、1時間に10サイクル行う)を行って、閉路電圧が1.05Vに達するまでの放電持続時間(総サイクル数)で評価した。
【0019】
図2は、表1に示した亜鉛粉末の比表面積とハイレート放電性能との関係を示したグラフである。なお、横軸は、比表面積の代わりに、微粉量(200メッシュ未満)とした。なお、粗粉量(20〜80メッシュ)は一定なので、亜鉛粉末の比表面積とハイレート放電性能との関係は、亜鉛粉末の微粉量とハイレート放電性能との関係と一致する。
【0020】
図2に示すように、亜鉛粉末の微粉量を増やしていくと、ハイレート放電性能が向上するが、微粉量が15質量%を超えるあたりから、その向上が徐々に鈍化し、微粉量が50質量%を超えると、ハイレート放電性能が逆に低下することが分かる。
【0021】
本願発明者等は、ハイレート放電性能が低下した電池7(微粉量が60質量%)を解析したところ、以下のような現象が確認された。
【0022】
A.正極端子10側にあるゲル状負極3が、負極端子7側にあるゲル状負極3よりも、著しく硬くなっていた。
【0023】
B.ゲル状負極3の高さ(図1において、セパレータ4の底部から負極端子7側の端部までの距離)が減少していた。
【0024】
そこで、この2つの現象をさらに確認するために、表1に示した電池1〜7について、それぞれ、ゲル状負極3の高さと水分率とを測定した。なお、水分率の測定は、以下の(1)〜(8)の順序で行った。
(1)アルカリ電池を負極端子7側から分解して、封口体9を取り出す。
(2)分解した電池を元の封口体9側を下面にして10秒間保持し、電池内部で遊離している電解液を自然落下により除去する。
(3)ゲル状負極3をセパレータ4内に収納された状態で取り出す。
(4)セパレータ4の側面(正極2に接する面)を剥ぎ取り、ゲル状負極3の側面を露出させる。
(5)ゲル状負極3の負極端子7側の端面を含む部分(最上部)と正極端子10側の端面を含む部分(最下部)から、それぞれ約0.5gをシャーレに厚さが2mm以下となるように広げて採取し、精秤する。
(6)恒温層内で120℃で2時間、それぞれのゲル状負極3を乾燥させる。
(7)恒温層内から取り出して5分間の自然冷却後、再度精秤する。
(8)上記(5)と(7)の精秤から得られた質量減分をゲル状負極3の水分量とみなし、ゲル状負極3の水分率を算出する。
【0025】
表2は、その結果を示したものである。表2に示すように、亜鉛粉末の比表面積が大きくなるにつれて、ゲル状負極3の高さが減少しているのが分かる。また、亜鉛粉末の比表面積が大きくなるにつれて、負極端子7側(最上部)にあるゲル状負極3の水分率と、正極端子10側(最下部)にあるゲル状負極3の水分率との差が大きくなっているのが分かる。これは、最下部にあるゲル状負極3が、最上部にあるゲル状負極3よりも硬くなっていることを示すものである。
【0026】
【表2】

【0027】
本願発明者等は、種々検討した結果、この現象は、アルカリ電池を製造する過程で行われる正極ペレットの二次加圧に起因していることに気がついた。
【0028】
すなわち、図1に示したアルカリ電池20の正極2は、二酸化マンガンとアルカリ電解液とを含有する正極合剤粉末を中空円筒形に加圧成形した成形体(正極ペレット)を電池ケース1に収容した後、成形体を二次加圧(再加圧)して電池ケース1に密着させたものである。この成形体の二次加圧は、成形体の中空部にセンターピンを挿入した状態で行われるが、このセンターピンは、成形体の中空部に挿入しやすくするために、先端部を細くしている。その結果、成形体端部から二次加圧すると、センターピンの先端部近傍、すなわち、正極端子10近傍の成形体の体積が増加する。加えて、負極端子7側の成形体端部から二次加圧を行うため、正極端子10近傍の成形体にはその圧力が伝達されにくい。
【0029】
以上の理由から、図3(a)に示すように、電池ケース1に収容された正極2は、矢印Bで示す正極端子10近傍の正極2は、矢印Aで示す負極端子7側にある正極2よりも低密度になっている。
【0030】
従って、図3(b)に示すように、二次加圧された成形体の内側に有底筒状のセパレータ4を配置した後、セパレータ4の内側にゲル状負極3をアルカリ電解液とともに充填したとき、正極2の充填密度の低い部分(矢印Bで示す領域)に対峙するゲル状負極3中にある電解液は、正極2の充填密度の高い部分(矢印Aで示す領域)に対峙するゲル状負極3中にある電解液よりも、より多く正極2に移動する。
【0031】
その結果、図3(c)に示すように、正極端子10側にあるゲル状負極3中の電解液が少なくなって、矢印Cで示す正極端子10側にあるゲル状負極3が、負極端子7側にあるゲル状負極3よりも、硬くなったものと考えられる。また、ゲル状負極3中の電解液が正極2に移動することによって、ゲル状負極3の高さも減少したものと考えられる。
【0032】
すなわち、上記現象Aによって、ゲル状負極3中の電解液が部分的に枯渇するとともに、上記現象Bによって、正極2とゲル状負極3との対向面積が減少することによって、ハイレート放電性能が低下したものと考えられる。
【0033】
本願発明者等は、このような知見を踏まえ、電解液の部分的な移動を抑制できれば、上記現象Aを抑制できると考えた。
【0034】
ところで、本願出願人は、亜鉛粉末の比表面積が大きくなると、ゲル化剤による電解液の保液機能が低下するという知見を、特願2008−59077の出願明細書に開示している。以下、図4(a)、(b)を参照しながら、ゲル化剤による電解液の保液機能について説明する。
【0035】
図4は、ゲル化剤(例えば、架橋型ポリ(メタ)アクリル酸(塩))の構造を模式的に示した図で、(a)は亜鉛粉末の比表面積が小さい場合の構造、(b)は亜鉛粉末の比表面積が大きい場合の構造をそれぞれ示した図である。図中の矢印で示したPは架橋点を示し、Aは架橋された空間に取り込まれたアルカリ電解液、Bは主鎖の末端部に取り込まれたアルカリ電解液をそれぞれ示している。そして、主鎖の末端部に取り込まれたアルカリ電解液Bは、架橋された空間に取り込まれたアルカリ電解液Aよりも、架橋ネットワークから分離しやすい。
【0036】
ところで、架橋型ポリ(メタ)アクリル(酸)は、主鎖にカルボキシル基を有し、親水基であるカルボキシル基は、アルカリ電解液中の水分子を吸着して取り込むだけでなく、亜鉛にも吸着する。そして、その両者に吸着する量は、カルボキシル基の基数に依存し、かつ一定である。従って、主鎖の末端部が亜鉛粉末に吸着する量は、亜鉛粉末の比表面積に依存するため、亜鉛粉末の比表面積が大きくなると、図4(a)に示した主鎖の末端部に吸着していたアルカリ電解液Bのうち、図4(b)の矢印Qに示した主鎖の末端部に吸着していたアルカリ電解液Bが開放されて、そこに亜鉛(不図示)が吸着される。すなわち、亜鉛粉末の比表面積が大きくなると、ゲル化剤による電解液の保液機能が低下する。
【0037】
そこで、表1に示した電池1、5、7に対して、それぞれ亜鉛粉末の粗粉量を増やして、相対的に比表面積を小さくしたアルカリ電池1A、5A、7Aを作製して、各電池におけるハイレート放電性能の比較を行った。
【0038】
表3は、その結果を示したものである。表3に示すように、もともと比表面積の小さな電池1に対して、亜鉛粉末の粗粉量を増やして、相対的に比表面積を小さくした電池1Aとは、ハイレート放電性能に差はほとんどなかった。一方、比表面積の大きな電池5、7に対して、亜鉛粉末の粗粉量を増やして、相対的に比表面積を小さくした電池5A、7Aは、ハイレート放電性能が向上していた。
【0039】
これは、表3に示すように、電池5A、7Aにおいて、ゲル状負極3の高さの減少が抑制され、かつ、水分率の差も減少していたことから、亜鉛粉末の比表面積を小さくすることによって、ゲル化剤による電解液の保液機能が向上し、これにより負極から正極への電解液の移動を抑制する効果が発揮されたことによるものと考えられる。併せ、ゲル状負極の立体的骨格を形成する亜鉛粉末の粗粉量を増やすことによって、負極から正極へ電解液が移動しても、ゲル状負極の収縮を抑制する効果が加重的に発揮されたものと考えられる。
【0040】
【表3】

【0041】
このような知見に基づき、本願発明者等は、ハイレート放電性能を向上させるために、比表面積の比較的大きな亜鉛粉末を負極に用いたアルカリ電池において、亜鉛粉末の比表面積の最適な範囲、及び亜鉛粉末の粗粉量の最適な範囲を検証する実験を行った。
【0042】
表4は、その結果を示したものである。なお、亜鉛粉末の比表面積は、微粉(200メッシュ未満)の量と、粗粉(20〜80メッシュ)の量との混合比で決まるため、本実験では、粗粉量を所定の範囲(0〜37質量%)に変えて、それに対して、微粉量を調整して、一定の比表面積の亜鉛粉末を得た。
【0043】
【表4】

【0044】
表4に示すように、比表面積が0.085m/gの電池8〜10では、表1に示した比表面積が同じ電池4に対して、粗粉量を相対的に増やしても、ハイレート放電性能の向上は見られなかった。これは、比表面積が非常に大きくなると、表4にも示すように、ゲル状負極の水分率の差が5質量%と大きくなって、もはや、粗粉量を増やすことによる効果が発揮できない状態になっているためと考えられる。
【0045】
比表面積が0.080m/gの電池11〜15では、粗粉量を10〜35質量%の範囲にした電池12〜14において、ハイレート放電性能の向上が見られた。同様に、比表面積が0.050m/gの電池16〜20、及び、比表面積が0.025m/gの電池21〜25でも、粗粉量を10〜35質量%の範囲にした電池17〜19、及び電池22〜24において、それぞれハイレート放電性能の向上が見られた。
【0046】
しかし、どの比表面積の電池においても、粗粉量を37質量%にさらに増やしても、ハイレート放電性能の向上は得られなかった。これは、電池14と電池15、電池19と電池20、電池24と電池25の3組のゲル状負極3の充填直後からの下降寸法に大きな差がないことからも、ゲル状負極3の立体的骨格を維持するのに必要な粗粉量は35質量%と考えられる。そして、粗粉量をこれ以上増やすと、逆に微粉量の減少に直結するため、ハイレート放電性能の向上に寄与する比表面積の維持に支障をきたすものと考えられる。
【0047】
一方、比表面積が0.020m/gの電池26〜28では、比表面積が小さすぎるため、粗粉量を増やしても、十分なハイレート放電性能は得られなかった。
【0048】
以上の結果から、比表面積の比較的大きな亜鉛粉末を負極に用いたアルカリ電池において、ハイレート放電性能を向上させるために、亜鉛粉末は、20〜80メッシュの粗粉が10〜35質量%含まれ、かつ、亜鉛粉末の比表面積が、0.025〜0.080m/gの範囲にあることが好ましい。
【0049】
すなわち、上記の範囲を満たす亜鉛粉末を負極に用いることによって、亜鉛粉末の比表面積を小さくすることによる電解液の保液機能を向上させる効果と、亜鉛粉末の粗粉量を増やすことによるゲル状負極の収縮を抑制する効果が加重的に発揮された結果、アルカリ電池のハイレート放電性能が向上したものと考えられる。
【0050】
なお、上記範囲を満たす亜鉛粉末を用いることによるハイレート放電性能を向上させる効果は、図2に示したように、亜鉛粉末の微粉量を増やしていくと微粉量が15質量%を超えるあたりから、ハイレート放電性能の向上が徐々に鈍化することから、亜鉛粉末に、200メッシュ未満の微粉が15質量%以上含まれている場合に発揮される。すなわち、このような量の微粉を含む亜鉛粉末を負極に用いた電池において、表4に示したように、亜鉛粉末の粗粉量及び比表面積を上記所定の範囲(電池12〜15、17〜19、22〜24)にすることによって(電池22における微粉量が最低の15質量%)、ハイレート放電性能を向上させる効果が発揮される。
【0051】
また、上記の範囲を満たす亜鉛粉末を負極に用いた場合、ゲル状負極中の最上部に含まれる水分率と最下部に含まれる水分率との差は、2.5質量%以下である。
【0052】
本発明における亜鉛粉末は、例えば、純度が99.99以上の亜鉛を約500℃に加熱して溶融し、これをアトマイズ法により高圧ガスを噴射することにより得ることができるが、この方法に限定されるものではない。また、亜鉛粉末は、インジウム、ビスマス、アルミニウム等の元素を含む亜鉛合金粉末であってもよく、このような亜鉛合金粉末を用いることにより、亜鉛の腐食反応の進行を抑制して、水素ガスの発生を防止することができる。
【0053】
ところで、亜鉛にAlを添加して亜鉛合金を形成すると、亜鉛合金粉末の表面が平滑化される効果がある。従って、同じ粒度分布の場合には、Alの添加量を増やすことによって、亜鉛合金粉末の比表面積を実効的に小さくすることができる。これにより、アルカリ電解液の保液機能を向上させることができる。
【0054】
また、Biは亜鉛合金の粒界に偏析しやすいため、一定量以上のBiが添加されると、偏析したBiが亜鉛合金粉末の表面に点在して、表面が凹凸化される。従って、同じ粒度分布の場合には、Biの添加量を減らすことによって、亜鉛合金粉末の比表面積を実効的に小さくすることができる。これにより、アルカリ電解液の保液機能を向上させることができる。
【0055】
表5は、亜鉛にAlとBiとを添加した亜鉛合金粉末をゲル状負極に用いて作製したアルカリ電池のハイレート放電性能、及びゲル状負極の高さ、水分率を測定した結果を示したものである。ここで、比較する基準電池として、表3に示した電池12の結果も示している。
【0056】
【表5】

【0057】
表5に示すように、亜鉛粉末の粗粉量と微粉量とを一定の割合にした場合、電池12に対して、Alの添加量を増やした電池29、30では、比表面積が小さくなっており、それに伴い、ハイレート放電性能が電池12よりもさらに向上しているのが分かる。このことから、亜鉛粉末は、80〜800ppmの範囲のAlを含有することが好ましい。
【0058】
また、表5に示すように、亜鉛粉末の粗粉量と微粉量とを一定の割合にした場合、電池12に対して、Biの添加量を減らした電池31、32では、比表面積が小さくなっており、それに伴い、ハイレート放電性能が電池12よりもさらに向上しているのが分かる。このことから、亜鉛粉末は、30〜150ppmの範囲のBiを含有することが好ましい。
【0059】
ところで、図3(a)、(b)に示したように、正極2の充填密度の低い部分(矢印Bで示す領域)に対峙するゲル状負極3中にある電解液は、正極2の充填密度の高い部分(矢印Aで示す領域)に対峙するゲル状負極3中にある電解液よりも、より多く正極2に移動する。
【0060】
図5は、図1に示したアルカリ電池の正極端子となる突起部10の近傍を拡大して示した部分断面図である。通常、電池ケース1の底部は、正極端子となる突起部10と、電池ケース1の胴体部から突起部10に繋がる肩部11とを備えている。また、セパレータ4は、有底円筒形からなり、電池ケース1の肩部11とセパレータ4の底部とには、矢印で示した隙間Sがある。
【0061】
この隙間Sには、セパレータ4を透過した電解液が溜まるため、ここに溜まった電解液は、正極2の充填密度の低い部分に移動する。従って、この移動を抑制できれば、ゲル状負極3中にある電解液が正極2に移動する量も全体的に抑制することができる。
【0062】
また、通常、電池ケース1の胴体部の内面には、正極2と電池ケース1との接触抵抗を低くするために、黒鉛塗膜が形成されている。この黒鉛塗膜は、撥水性を有するため、電池ケース1の胴体部の内面だけでなく、肩部11を含む底部の内面に形成しておけば、図5に示した隙間Sに電解液が溜まりにくくなる。その結果、隙間Sに溜まった電解液が正極2の充填密度の低い部分に移動するのを抑制できる。
【0063】
表6は、電池ケース1の肩部11とセパレータ4の底部との隙間(ギャップ)を変えて作製したアルカリ電池、及び電池ケース1の底部の内面にも黒鉛塗膜を形成して作製したアルカリ電池のハイレート放電性能、及びゲル状負極の高さ、水分率を測定した結果をそれぞれ示したものである。ここで、比較する基準電池として、表3に示した電池12の結果も示している。
【0064】
【表6】

【0065】
表6に示すように、電池12に対して、電池ケース1の肩部11とセパレータ4の底部との隙間を小さくした電池33、30では、ハイレート放電性能が電池12よりもさらに向上しているのが分かる。このことから、電池ケース1の肩部11とセパレータ4の底部との隙間は、0.5mm以下であることが好ましい。
【0066】
また、表6に示すように、電池12、34に対して、電池ケース1の底部の内面にも黒鉛塗膜を形成した電池35、36では、ハイレート放電性能が電池12、34よりもさらに向上しているのが分かる。このことから、電池ケース1の胴体部及び底部の内面に、黒鉛塗膜が形成されていることが好ましい。
【0067】
ところで、ゲル状負極3に含まれるゲル化剤は、上述したように、ゲル状負極3中の電解液を保液する機能を有するが、本来、放電反応に寄与しないものである。従って、亜鉛粉末の比表面積と、粗粉及び微粉の量を所定の範囲にした上で、ゲル化剤の添加量を減らせば、ハイレート放電性能を向上させることができる。
【0068】
表7は、ゲル状負極3に含まれるゲル化剤の含有率を変えて作製したアルカリ電池のハイレート放電性能、及びゲル状負極の高さ、水分率を測定した結果を示したものである。ここで、比較する基準電池として、表3に示した電池12の結果も示している。
【0069】
【表7】

【0070】
表7に示すように、電池12に対して、ゲル化剤の含有率を少なくした電池37、38では、ハイレート放電性能が電池12よりもさらに向上しているのが分かる。このことから、負極3は、ゲル状負極中のアルカリ電解液に対して1.8〜2.65質量%の範囲のゲル化剤を含むことが好ましい。
【0071】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、ハイレート放電用のアルカリ電池に有用である。
【符号の説明】
【0073】
1 電池ケース
2 正極
3 ゲル状負極
4 セパレータ
5 ガスケット
6 負極端子棒
7 負極端子(封口板)
8 外装ラベル
9 封口体
10 正極端子(突起部)
11 肩部
20 アルカリ電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極及び負極がセパレータを介して電池ケース内に収納されてなるアルカリ電池であって、
前記正極は、二酸化マンガン及びアルカリ電解液を含み、
前記負極は、亜鉛粉末、ゲル化剤、及びアルカリ電解液を含むゲル状負極からなり、
前記亜鉛粉末は、200メッシュ未満の微粉が15質量%以上、20〜80メッシュの粗粉が10〜35質量%の範囲で含まれ、かつ、前記亜鉛粉末の比表面積が、0.025〜0.080m/gの範囲にある、アルカリ電池。
【請求項2】
前記亜鉛粉末は、80〜800ppmの範囲のAlを含有する、請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項3】
前記亜鉛粉末は、30〜150ppmの範囲のBiを含有する、請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項4】
前記電池ケースは、正極の一部を兼ねた有底円筒形からなり、前記電池ケースの開口部は、負極端子を兼ねた封口板で封口されており、
前記電池ケースの底部は、正極端子となる突起部と、前記電池ケースの胴体部から前記突起部に繋がる肩部とを備え、
前記セパレータは、有底円筒形からなり、前記電池ケースの肩部と前記セパレータの底部との隙間が、0.5mm以下である、請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項5】
前記電池ケースの胴体部及び底部の内面に、黒鉛塗膜が形成されている、請求項4に記載のアルカリ電池。
【請求項6】
前記負極は、前記ゲル状負極中のアルカリ電解液に対して1.8〜2.65質量%の範囲のゲル化剤を含む、請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項7】
前記ゲル状負極中の最上部に含まれる水分率と最下部に含まれる水分率との差は、2.5質量%以下である、請求項1に記載のアルカリ電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−60440(P2011−60440A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205587(P2009−205587)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【特許番号】特許第4560129号(P4560129)
【特許公報発行日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】