説明

アルツハイマー病の診断および治療

本発明は、インスリン、インスリン様成長因子、それらの受容体、および/またはそれらの下流のシグナル伝達分子のレベルまたは機能を決定することによってアルツハイマー病(AD)を診断するための方法に関する。本発明はさらに、インスリンアゴニストおよびインスリン様成長因子アゴニストを投与することによってADを治療するための方法に関する。本発明はさらに、ADの動物モデル、およびADの治療、寛解、または予防に有用な物質をスクリーニングする方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、医学的診断法および治療法の分野に属する。特に、本発明は、インスリン、インスリン様成長因子、それらの受容体、および/またはそれらの下流のシグナル伝達分子のレベルまたは機能を決定することによってアルツハイマー病(AD)を診断するための方法に関する。本発明はさらに、インスリンアゴニストおよびインスリン様成長因子アゴニストを投与することによってADを治療するための方法にも関する。本発明はさらに、ADの動物モデル、およびADの治療、寛解、または予防に有用な物質をスクリーニングする方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
関連技術
アルツハイマー病(AD)における認知症と相関がある特徴的な神経病理学的病変および分子病変には、神経原線維変化、異栄養神経炎(dystrophic neuritis)、および神経網糸の形成をもたらす、過リン酸化およびポリユビキチン化された、tauのような微小管関連タンパク質の蓄積が含まれる。神経細胞骨格異常は、細胞および繊維の減少を伴う脳萎縮、ならびにシナプスの連絡切断に関連している。髄膜血管および皮質血管の壁、皮質神経網、ならびに神経細胞核周部の周囲および内部のアミロイドβ(Aβ)沈着の増加は、ADおよび正常な加齢の両方の特徴である。遺伝的要因により、個体は、AD型認知症におけるAβの時期尚早かつ過剰な脳沈着を発現しやすくなり得るが、大半の症例は孤発性であり、明らかな家族性のクラスタリングも遺伝的クラスタリングも提示しない。古典的ADに先行するか、または付随する生化学的異常、分子異常、および細胞異常の最近の検査によって、細胞脱落が、細胞死促進(pro-death)遺伝子およびシグナル伝達経路の活性化の増大、エネルギー代謝の障害、ミトコンドリア機能不全、長期的な酸化ストレス、ならびに脳血管疾患/脳の低灌流に関連していることが実証された。しかしながら、単一の主要な発病メカニズムのもとでこれらの現象を結び付けることができなかったため、大いに討論された様々な理論が発生および普及した。これらはそれぞれ、ADの1つの特定の構成要素が、他の公知の異常すべての発現をもたらすカスケードの引き金となり得る方法に焦点を合わせていた。しかしながら、以前の文献のいくつかを再評価することにより、脳のグルコース利用およびエネルギー代謝の機能障害が、認知機能障害の初期段階に先行するか、または付随する、極めて早期の異常に相当することが明らかになった。さらに、インスリンシグナル伝達の障害がADの病因において重要な役割を有し得るという証拠も出現しつつある。
【0003】
現在、AD、ならびに関連した脳中の神経細胞骨格病変およびAβ沈着の病因における、インスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、およびインスリン分解酵素の役割を明らかにすることへの関心が高まっている。この比較的新しい熱意の高まりは、インスリン受容体基質-2または神経細胞インスリン受容体遺伝子のいずれかを欠損したマウスにおける脳成長の低下およびtauリン酸化の増加を示す報告によって活気づけられている。(Schubert et al., J. Neurosci. 23:7084 (2003)(非特許文献1); Schubert et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:3100 (2004)(非特許文献2))。ADにおける神経内分泌系の潜在的な役割は、視床下部下垂体軸における異常が検出された、15年〜20年前に提案された。(Beal et al., Res. Publ. Assoc. Res. Nerv. Ment. Dis. 64:215 (1986)(非特許文献3); Reubi et al., J. Neurol. 233:370 (1986)(非特許文献4); Fisman et al., J. Am. Geriatr. Soc. 36:298 (1988)(非特許文献5); Hoyer, J. Neurol. 234:266 (1987)(非特許文献6); Tham et al., Acta Psychiatr. Scand. 77:719 (1988)(非特許文献7); Bucht et al., Acta Med. Scand. 213:387 (1983)(非特許文献8))。この概念は、Aβおよびtauに関する加速度的な調査の圧倒的な高まりと共にほぼ消え失せたが、現在、神経内分泌メカニズムに対して新たに関心がもたれ、内因性の中枢神経系(CNS)内分泌の機能不全ではなく全身的疾患が重要視されている。しかしながら、以前の調査において、ADにおいて生じるCNS神経変性の多くの重要な構成要素は、脳中のインスリンシグナル伝達の障害によって媒介されていることが明らかにされていた。(de la Monte et al., Cell. Mol. Life Sci. 58:1950 (2001)(非特許文献9); de la Monte et al., Cell. Mol. Life Sci. 59:882 (2002)(非特許文献10); de la Monte et al., Alcohol Clin. Exp. Res. 24:716 (2000)(非特許文献11); Xu et al., J. Biol. Chem. 278:26929 (2003)(非特許文献12))。
【0004】
【非特許文献1】Schubert et al., J. Neurosci. 23:7084 (2003)
【非特許文献2】Schubert et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:3100 (2004)
【非特許文献3】Beal et al., Res. Publ. Assoc. Res. Nerv. Ment. Dis. 64:215 (1986)
【非特許文献4】Reubi et al., J. Neurol. 233:370 (1986)
【非特許文献5】Fisman et al., J. Am. Geriatr. Soc. 36:298 (1988)
【非特許文献6】Hoyer, J. Neurol. 234:266 (1987)
【非特許文献7】Tham et al., Acta Psychiatr. Scand. 77:719 (1988)
【非特許文献8】Bucht et al., Acta Med. Scand. 213:387 (1983)
【非特許文献9】de la Monte et al., Cell. Mol. Life Sci. 58:1950 (2001)
【非特許文献10】de la Monte et al., Cell. Mol. Life Sci. 59:882 (2002)
【非特許文献11】de la Monte et al., Alcohol Clin. Exp. Res. 24:716 (2000)
【非特許文献12】Xu et al., J. Biol. Chem. 278:26929 (2003)
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
ADとインスリン/インスリン様成長因子(IGF)シグナル伝達経路の関係は、AD患者の脳におけるインスリンおよびIGF発現の障害の発見によって実証された。インスリンおよびIGFシグナル伝達の下流の介在物質がAD患者において障害されていることも見出された。これらの調査結果により、診断目的および治療目的の両方に利用され得る、ADとインスリン/IGFシグナル伝達経路の関連が明確になる。
【0006】
したがって、本発明の1つの局面は、被験者のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能の低下を検出する段階を含む、被験者のADを診断するための方法であって、健常被験者におけるレベルと比べた、1つまたは複数の該因子のレベルまたは機能の低下が、ADの診断指標である方法に関する。
【0007】
別の局面において、本発明は、被験者のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定する段階を含む、ADを発症するリスクがある被験者を同定するための方法であって、健常被験者におけるレベルと比べた、1つまたは複数の該因子のレベルの低下が、ADを発症するリスクの診断指標である方法に関する。
【0008】
本発明の1つの態様において、診断キットが、ADの診断用に提供される。これらのキットは、被験者のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定するために使用され得る。
【0009】
本発明の1つの局面において、被験者のADを治療、寛解、または予防するための方法が提供される。特定の態様において、これらの方法は、治療的有効量のインスリンアゴニストおよび治療的有効量のIGFアゴニストの被験者への投与を含む。
【0010】
本発明のさらなる局面は、治療的有効量のインスリンアゴニストおよび治療的有効量のIGFアゴニストを被験者に投与する段階を含む、ADに罹患した被験者の精神機能を改善するための方法に関する。
【0011】
本発明の別の局面は、治療的有効量のインスリンアゴニストおよび治療的有効量のIGFアゴニストを被験者に投与する段階を含む、ADに罹患した被験者における記憶力減退を軽減するための方法に関する。
【0012】
本発明のさらなる局面は、治療的有効量のインスリンアゴニストおよび治療的有効量のIGFアゴニストを含む組成物を提供する。
【0013】
本発明の別の局面は、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用である物質をスクリーニングするための方法であって、物質を動物に投与する段階、および該動物のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定する段階を含み、該物質を投与されなかった対照動物におけるレベルと比べた、1つまたは複数の該因子のレベルまたは機能の上昇により、該物質が、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用であることが示される方法を提供する。
【0014】
本発明のさらなる局面は、動物に潜在的な治療を適用する段階、および該動物のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定する段階を含む、ADに対する潜在的な治療を試験するための方法であって、該治療を適用されなかった対照動物におけるレベルと比べた、1つまたは複数の該因子のレベルまたは機能の上昇により、該治療が、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用であることが示される方法を提供する。
【0015】
本発明の別の局面は、ADの発症または進行に対する潜在的な有害作用に関して物質を試験するための方法であって、物質を動物に投与する段階、および該動物のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定する段階を含み、該物質を投与されなかった対照動物におけるレベルと比べた、1つまたは複数の該因子のレベルまたは機能の低下により、該物質がADの発症または進行に対する有害作用を潜在的に有することが示される方法を提供する。
【0016】
本発明はさらに、非ヒト動物にストレプトゾトシン(STZ)を脳内注射することによって作製されるADの動物モデルであって、該非ヒト動物が1週齢未満の時点で注射される動物モデルも提供する。別の態様において、本発明は、非ヒト動物にSTZを脳内注射することによって作製されるADの動物モデルであって、少なくとも約10mg/kg体重の用量のSTZが該非ヒト動物に注射される動物モデルを提供する。
【0017】
本発明はさらに、非ヒト動物にSTZを脳内注射することによって作製されたADの動物モデルに物質を投与する段階、および該物質を投与されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能を決定する段階を含む、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用である物質をスクリーニングするための方法であって、該物質を投与されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能の改善により、該物質が、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用であることが示される方法に関する。
【0018】
本発明はさらに、非ヒト動物にSTZを脳内注射することによって作製されたADの動物モデルに潜在的な治療を適用する段階、および該潜在的な治療を適用されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能を決定する段階を含む、ADに対する潜在的な治療を試験するための方法であって、該潜在的な治療を適用されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能の改善により、該治療が、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用であることが示される方法も提供する。
【0019】
本発明の別の局面は、非ヒト動物にSTZを脳内注射することによって作製されたADの動物モデルに物質を投与する段階、および潜在的な治療を適用されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能を決定する段階を含む、ADの発症または進行に対する潜在的な有害作用に関して物質を試験するための方法であって、該物質を投与されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能の低下により、該物質が、ADの発症または進行に対する有害作用を潜在的に有することが示される方法を提供する。
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、脳内のインスリン/IGFシグナル伝達経路がADの発生において果たしている重要な役割に関する。健常被験者と比較して、これらのシグナル伝達経路に関与しているいくつかの因子のレベルの有意な低下が、ADに罹患した被験者の脳において検出されている。したがって、本発明は、被験者のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能の低下を検出することによって、被験者のADを診断する方法に関する。本発明はさらに、治療的有効量のIGFアゴニストと組み合わせて治療的有効量のインスリンアゴニストを被験者に投与することによって、被験者のADを治療、寛解、または予防する方法に関する。
【0021】
本明細書において使用される場合、「アルツハイマー病」という用語は、神経変性疾患を意味し、かつ、家族性ADおよび孤発性ADを包含する。ヒト被験者のADを示す症状には、典型的には、軽度から重度の認知症、進行性の記憶機能障害(軽度の健忘性から見当識障害および重度の記憶力減退に及ぶ)、乏しい視空間能力、性格の変化、不十分な衝動制御、乏しい判断力、他者に対する不信、頑固さの強まり、不穏状態、乏しい計画能力、不適切な意思決定、および社会的ひきこもりが含まれるが、これらに限定されるわけではない。脳組織内部の特徴的病変には、細胞外神経突起β-アミロイド斑、神経原線維変化、神経原線維変性、顆粒空胞(granulovascular)神経細胞変性、シナプスの脱落、および大規模な神経細胞死が含まれる。
【0022】
「ADに起因する病変を呈している被験者」および「ADに起因する病変を呈すると推測される被験者」という用語は、本明細書において使用される場合、公知のADの症状および病変に基づいて、ADに罹患しているか、または罹患している可能性が高いと確認される被験者を意味する。
【0023】
「ADに起因する病変を呈するリスクがある被験者」という用語は、本明細書において使用される場合、(例えば、年齢、または被験者の家族におけるADの家族性の遺伝パターンが原因で)ADを発症するリスクがある被験者を意味する。
【0024】
1つの局面において、本発明は、被験者のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能の低下を検出する段階を含む、被験者のADを診断するための方法であって、健常被験者におけるレベルと比べた、1つまたは複数の該因子のレベルまたは機能の低下がADの診断指標である方法に関する。
【0025】
別の局面において、本発明は、被験者のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定する段階を含む、ADを発症するリスクがある被験者を同定するための方法であって、健常被験者におけるレベルと比べた、1つまたは複数の該因子のレベルの低下が、ADを発症するリスクの診断指標である方法に関する。
【0026】
本発明の特定の態様において、インスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、または6つの因子のレベルまたは機能が決定される。
【0027】
本発明の診断方法は、ADに起因する病変を呈している被験者、ADに起因する病変を呈することが疑われる被験者、およびADに起因する病変を呈するリスクがある被験者に対して実施され得る。
【0028】
本発明の1つの態様において、CNSにおけるインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能が決定される。
【0029】
1つの態様において、診断方法は、インビボで実施される。被験者のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定するために、例えば、イメージング技術(例えば、磁気共鳴画像法、コンピューター体軸断層撮影法、単一光子放射コンピューター断層撮影法、陽電子放射断層撮影法、X線、超音波)が、検出可能に標識された抗体、リガンド、酵素基質などと組み合わせて使用され得る。検出可能な標識の例には、放射性、蛍光性、常磁性、および超常磁性の標識が含まれるがこれらに限定されるわけではない。当技術分野において公知の適切な任意のインビボイメージング技術が、本発明において使用され得る。イメージング技術の例は、米国特許第6,737,247号、第6,676,926号、第6,083,486号、第5,989,520号、第5,958,371号、第5,780,010号、第5,690,907号、第5,620,675号、第5,525,338号、第5,482,698号、および第5,223,242号において開示されている。
【0030】
別の態様において、診断方法は、例えば生物試料を用いて、インビトロで実施される。生物試料は、インスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を検出するのに適した、被験者に由来する任意の組織または体液であり得る。有用な試料の例には、神経学的生検組織、血液(例えば、脳の血液)、血漿、漿液、脳脊髄液、唾液、尿、およびリンパが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0031】
検出および測定され得るインスリン/IGFシグナル伝達経路中の因子には、インスリン、インスリン様成長因子-I(IGF-I)、IGF-II、インスリン受容体、IGF-I受容体、IGF-II受容体、チロシンリン酸化インスリン受容体、チロシンリン酸化IGF-I受容体、チロシンリン酸化IGF-II受容体、インスリン受容体基質-1(IRS-1)、IRS-2、IRS-4、チロシンリン酸化IRS-1、チロシンリン酸化IRS-2、チロシンリン酸化IRS-4、ホスフォチジルイノシトール(phosphotidylinositol)3-キナーゼ(PI3キナーゼ)、PI3キナーゼのp85サブユニット、Akt、ホスホ-Akt、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3β(GSK-3β)、およびホスホ-GSK-3βが含まれるが、これらに限定されるわけではない。測定され得る機能には、インスリン受容体、IGF-I受容体、またはIGF-II受容体のリガンド結合能、インスリン受容体、IGF-I受容体、またはIGF-II受容体のキナーゼ活性、PI3キナーゼのp85サブユニットとリン酸化IRS-1、IRS-2、またはIRS-4との相互作用、成長因子受容体結合タンパク質2(Grb2)、SHPTP-2プロテインチロシンホスファターゼ、またはPI3キナーゼのp85サブユニットへのリン酸化IRS-1、IRS-2、またはIRS-4の結合、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAPKK)、Erk MAPK、Akt/プロテインキナーゼB、GSK-3βの酵素活性が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0032】
健常被験者におけるインスリン/IGFシグナル伝達経路中の因子の標準的なレベルまたは機能は、一般母集団の適切な数のメンバー、典型的には、一般母集団の少なくとも10、より好ましくは50、およびさらにより好ましくは100〜500を超えるメンバーの平均に相当し得る。1つの態様において、健常被験者における標準的レベルは、年齢を一致させた様式で決定され、例えば、本発明の方法が実施される被験者は、同じ年齢の健常被験者と比較される。
【0033】
インスリン/IGFシグナル伝達経路中の因子のレベルは、タンパク質またはRNA(例えばmRNA)レベルで測定され得る。
【0034】
生物試料中の特定のタンパク質を定量するための当技術分野において公知である任意の方法が、本発明の方法において使用され得る。例には、イムノアッセイ法、ウェスタンブロット法、免疫沈降法、免疫組織化学、ゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、カラムクロマトグラフィー、リガンド結合アッセイ法、および酵素アッセイ法が含まれるが、これらに限定されるわけではない。例えば、Harlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988); Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York 3rd Edition, (1995)を参照されたい。
【0035】
好ましい態様において、タンパク質は、イムノアッセイ法を用いて定量される。このようなアッセイ法には、同種の結合アッセイ法または異種の結合アッセイ法が含まれる。これらのアッセイ法は、非競合的結合アッセイ法、または分析物がリガンドと競合するアッセイ法の形態であり得る。分析物(例えば、関心対象のタンパク質)と反応物の結合を検出する、当業者に公知の任意の方法が、本発明において使用され得る。本発明において使用するためのアッセイ法は、好ましくは、単純かつ安価な方法であり、かつ、迅速な様式で多数の個々の試料をスクリーニングすることができるハイスループットな方法も含み得る。これには、例えば、マイクロビーズ、または多数のウェルを有するプレートを使用する方法が含まれる。
【0036】
インスリン、IGF-I、IGF-II、インスリン受容体、IGF-I受容体、IGF-II受容体、IRS-1、IRS-2、PI3キナーゼのp85サブユニット、Gsk-3β、ホスホ-Gsk-3β、Akt、およびホスホ-Aktなどのインスリン/IGF経路中の因子に対する抗体は、市販されている(例えば、Cell Signaling (Beverly, MA); Upstate Biotechnology (Lake Placid, NY)を参照されたい)。あるいは、抗体は、当技術分野において公知の標準技術を用いて産生され得る。例えば、Harlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988); Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York 3rd Edition, (1995)を参照されたい。
【0037】
インスリン、インスリン受容体、IGF-I、IGF-II、IGF-I受容体、IRSサブタイプ1〜4、リン酸化IRS、Grb-2、SHPTP-2、p85、PI3キナーゼ、Akt、およびGsk-3βを含む、インスリン/IGF経路中の因子のレベルまたは機能に関するアッセイ法の例(例えば、免疫組織化学、ラジオイムノアッセイ法、リガンド結合、タンパク質:タンパク質相互作用)は、それぞれ参照により組み入れられる、以下の文献に記載されている:

【0038】
特定のタンパク質のレベルを決定するために、当技術分野において周知である任意の同種のアッセイ法を本発明において使用することができる。例えば、ラジオアッセイ法、蛍光偏光アッセイ法、時間分解蛍光アッセイ法、ビオチン-アビジンアッセイ法、酵素結合アッセイ法、および電気化学発光アッセイ法が、すべて使用され得る。反応物が標識される場合、アッセイ法は、分析物(関心対象のタンパク質)がその反応物に結合する能力を決定する、非競合的アッセイ法であり得る。分析物が標識される場合、アッセイ法は、あるタンパク質が、反応物に結合される分析物に置き換わる能力を決定する、競合的アッセイ法であり得る。
【0039】
本発明において使用され、かつ分析物/タンパク質結合を検出するために蛍光を使用する同種の結合アッセイ法は、蛍光標識した分析物または蛍光標識した反応物を使用し得る。当業者に公知の任意の方法を用いて、関心対象のポリペプチドまたは反応物に蛍光体を結合させることができる。例えば、Richard P. Haugland, Molecular Probes: Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals 1992-1994 (5th ed., 1994, Molecular Probes, Inc.)を参照されたい。
【0040】
本発明の1つの態様は、非競合的蛍光アッセイ法に関する。このようなアッセイ法は、蛍光体に共有結合された反応物を使用する。遊離の反応物の方が、分析物に結合した反応物よりも高い蛍光強度を有する(Hwang et al., Biochemistry 31:11536 (1992))。分析物/反応物複合体が一旦形成されると、これは、より緩徐に回転およびタンブルし、かつ蛍光強度がより低い(「Introduction to Fluorescence Polarization」 Pan Vera Corp., Madison, WI, June 17, 1996; Perrin, J. Phys. Rad. 1:390 (1926))。したがって、分析物および反応物が結合する場合、標識された反応物の蛍光強度は、結合に比例して減少する。
【0041】
同種の競合的蛍光アッセイ法もまた、本発明において使用することができる。競合的アッセイ法は当技術分野において周知であり、かつ任意の方法を本発明において使用することができる。例えば、米国特許第6,511,815号では、蛍光偏光を利用して、タンパク質への試験化合物の競合的結合を定量するためのアッセイ法を説明している。
【0042】
本発明において使用するための代替の同種のアッセイ法には、米国特許第6,492,128号;米国特許第6,406,913号;米国特許第6,326,459号;米国特許第5,928,862号;米国特許第5,876,946号;米国特許第5,612,221号;および米国特許第5,556,758号において説明されているものが含まれる。
【0043】
当業者は、同種の競合的結合アッセイ法において、放射性標識物質も使用できることを認識すると考えられる。このようなアッセイ法において、反応物(例えば抗体)は放射性標識され、かつ溶液中のタンパク質と平衡化される。次いで、試料が溶液中に導入され、かつ平衡化される。次いで、(放射性標識抗原または試料のいずれかに結合した)抗体を、未結合抗原および未結合試料から分離する。これは、シンチレーションカウンター、X線撮影法、または当技術分野において周知の他の技術によって検出することができる。
【0044】
反応物への結合を介した、関心対象のタンパク質の検出および/または定量はまた、異種のアッセイ法を用いても遂行され得る。本発明において使用するための異種のアッセイ法は、ラジオアッセイ法、蛍光偏光アッセイ法、時間分解蛍光アッセイ法、ビオチン-アビジンアッセイ法、酵素結合アッセイ法、および電気化学発光アッセイ法に基づき得る。異種のアッセイ法において、第1の構成要素は、ビーズまたは他の固体基板などの固相に結合され、かつ、1つまたは複数の付加的な構成要素は溶液中に存在する。例えば、抗原は、ビーズまたは他の固体基板に結合され得、標識抗体は、溶液として導入される。標識は、放射性標識、化学発光標識、蛍光標識、発色体標識、または当技術分野において周知の他の標識であり得る。混合物が平衡になり、かつ抗原/抗体複合体が形成された後、試料溶液が導入され、抗原/抗体複合体を形成するように平衡化される。ビーズまたは固体構成要素は、溶液から分離される。これは、例えば、ビーズが磁石である場合、磁場を用いて実施することができる。あるいは、抗原が固体基板に結合している場合は、固体基板を水または緩衝液ですすいで、未結合の標識抗体または未結合の試料を含む溶液を除去するだけで、分離は起こり得る。抗原が検出可能に標識された抗体と依然として結合している程度が測定される。このような測定は、抗原がビーズまたは固体基板に結合したままである間に、実施することができる。あるいは、このような測定は、ビーズまたは固体基板から抗原が除去された後に実施することもできる。このような競合的結合アッセイ法において、検出可能な標識と結合しているシグナルの減少は、抗体と置き換わることによって抗原に結合する、試料中の抗体の能力の増大と比例関係にある。
【0045】
当業者は、抗体もまた、ビーズまたは固体基板に結合された構成要素であり得ることを認識する。このようなアッセイ法において、標識抗原は、溶液として導入され、かつ平衡化されて抗原/抗体複合体を形成する。標識は、放射性標識、化学発光標識、蛍光標識、発色体標識、または当技術分野において周知の他の標識であり得る。次いで、試料が溶液として添加される。試料が抗体に置き換わる場合には、抗原は溶液中に後戻りし、ビーズにも固体基板にも抗体を介して結合しないと考えられる。前述したように、ビーズまたは固体基板は溶液から除去されるが、溶液は、検出可能な標識の程度を測定するために保持される。ここで、検出可能な標識に関連したシグナルの増加は、試料が抗原に結合する能力に比例している。
【0046】
本発明において使用するための固相支持体には、抗原または抗体に結合することができる、当技術分野において公知である任意の不溶性支持体が含まれる。これには、例えば、ガラス、ならびにアガロース、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然セルロースおよび修飾セルロース、ポリアクリルアミドなどの天然および合成のポリマー、ならびに磁鉄鉱が含まれる。支持体材料は、支持体に結合された分子が抗体または抗原に結合することができる限り、事実上すべての可能な構造形状を有し得る。したがって、支持体形状は、ビーズの場合のような球形、または試験管の内表面もしくは棒の外表面の場合のような円筒形、またはマイクロタイタープレートのウェルのような半球形であり得る。あるいは、表面は、シート、テストストリップなどのように平らでもよい。当業者は、抗体もしくは抗原に結合するのに適した他の多くの担体に気付くか、またはルーチンな実験法の使用によって、それを確認することができると考えられる。
【0047】
本発明において使用するための異種のアッセイ法の例は、ラジオアッセイ法である。ラジオアッセイ法の優れた説明は、Work, T. S., et al., North Holland Publishing Company, NY (1978)によるLaboratory Techniques and Biochemistry in Molecular Biology中の、Chard, Tによる「An Introduction to Radioimmune Assay and Related Techniques」という表題の章を特に参照することによって、確認され得る。他の競合的ラジオアッセイ法の例は、米国特許第3,937,799号;同第4,102,455号;同第4,333,918号、および同第6,071,705号において示されている。溶液構成要素からビーズまたは基板に結合した構成要素を分離する必要が、このようなアッセイ法にはつきものである。米国特許第3,505,019号;同第3,555,143号;同第3,646,346号;同第3,720,760号;および同第3,793,445号において例示されているものを含む、必要とされる分離を遂行する様々な方法が開発されている。当業者は、分離は、結合された基板および液相の効率的な分離を確実にするために、ろ過、遠心分離、洗浄、または固体基板からの脱液を含み得ることを認識すると考えられる。
【0048】
放射性同位体または放射性標識は、γカウンターもしくはシンチレーションカウンターの使用のような手段によって、またはオートラジオグラフィーによって、検出することができる。本発明の目的に対して特に有用である同位体は、3H、123I、125I、131I、35S、31P、14C、111In、97Ru、67Cu、67Ga、68Ga、72As、89Zr、および201Tlである。当業者は、本発明に従って使用され得る他の適切な標識について知っていると考えられる。これらの標識の抗原または抗体への結合は、当業者に一般に公知である標準技術を用いて遂行することができる。典型的な技術は、Kennedy, et al. (Clin. Chim. Acta 70:1 (1976))、およびSchurs et al. (Clin. Chim. Acta 81:1 (1977))によって説明されている。特定の態様において、抗原または抗体の、1つもしくは複数の水素原子および/または炭素原子は、当技術分野において周知の方法によって、3Hおよび14Cに置き換えられる。
【0049】
本発明の異種のアッセイ法において使用するための代替の標識には、米国特許第4,380,580号において説明されているもののような化学発光標識、および米国特許第4,492,751号において説明されているアッセイ法のような酵素基質標識が含まれる。例えば、蛍光標識が使用され得る。
【0050】
本発明において使用するための代替の異種のアッセイ法は、ビオチン/アビジンベースのアッセイ法である。本発明においてこのアッセイ法を実施することができる様々な方法の例については、例えば、Blake et al. Anal. Biochem. 272:123 (1999); Cho et al. Anal. Sci. 15:343 (1999); Choi et al. Bull. Korean Chem. Soc. 22:417 (2001);米国特許第6,096,508号;第4,863,876号;第4,228,237号を参照されたい。本発明において、アビジンは任意の標識で標識され得る。好ましくは、アビジンは、蛍光標識されるか、または酵素に結合される。検出可能に標識された任意の酵素が、本発明において使用され得る。具体的な例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、およびグルコースオキシダーゼが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0051】
特定のRNAのレベルを測定するために、核酸を検出するための、当技術分野において公知の任意のアッセイ法が本発明において使用され得る。例には、逆転写および増幅アッセイ法、ハイブリダイゼーションアッセイ法、ノーザンブロット法、ドットブロット法、インサイチューハイブリダイゼーション、ゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、およびカラムクロマトグラフィーが含まれるが、これらに限定されるわけではない。例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York 3rd Edition, (1995); Sambrook et al., Molecular Cloning -- A Laboratory Manual, 2nd ed., Vol. 1-3 (1989)を参照されたい。アッセイ法により、RNA自体、またはそのRNAの逆転写によって作製されたcDNAを検出することができる。アッセイ法は、生物試料上で直接、または試料から単離した核酸上で実施することができる。
【0052】
核酸検出アッセイ法は、サイズ、配列、およびDNAの場合には、制限エンドヌクレアーゼによる消化に対する感受性など、核酸分子の任意の特徴に基づくことができる。このようなアッセイ法の感度は、観察者に検出を報告するか、または信号で知らせる様式を変更することによって、高めることができる。したがって、例えば、アッセイ法の感度は、検出可能に標識した反応物の使用を通じて高めることができる。多種多様なこのような標識が、この目的のために使用されている。検出可能な標識には、例えば、放射性同位体、蛍光標識、化学発光標識、生物発光標識、および酵素標識が含まれる。米国特許第4,581,333号では、検出アッセイ法の感度を高めるための酵素標識の使用を説明している。放射性同位体標識は、米国特許第4,358,535号および同第4,446,237において開示されている。蛍光標識(EP144,914)、化学標識(米国特許第4,582,789号および同第4,563,417号)、および修飾塩基(EP119,448)もまた、検出が観察され得る効率を改善するために使用された。
【0053】
核酸を同定および定量する多くの現在の方法は、増幅技術および/またはハイブリダイゼーション技術に依拠している。これらのうち多くは分離段階を含むが、標識されたプライマーもプローブも反応物から分離することなく核酸を検出することを可能にするいくつかの方法が、開発された。これらの方法は、例えば、ゲル電気泳動法およびドットブロット解析のようなゲルベースの方法と比較すると多数の利点を有し、必要とする時間は少なく、ハイスループットを可能にし、キャリーオーバー汚染を防止し、かつリアルタイム検出による定量を可能にする。これら現在の方法の大半は、2種の発色団を利用する溶液ベースの蛍光法である。これらの方法は、2種の分子が互いに極めて近くにある場合、励起された蛍光部分からのエネルギーが、アクセプター分子に転移される、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)の現象を利用する。この転移は、励起された蛍光部分が光子の形態でエネルギーを放出するのを妨げて、それによって蛍光部分の蛍光を消光する。アクセプター分子が十分に近くない場合、この転移は発生せず、その場合、励起された蛍光部分は蛍光を発し得る。FRETに基づくシステムの主要な不都合点は、検出オリゴヌクレオチド中に2種の修飾ヌクレオチドの存在を要することのコスト、および与えられた一組のアッセイ条件のもとでシグナルの使用可能な差異を提供するのに、消光の効率が十分ではない場合がある可能性である。分離無しの検出を可能にする他の公知の方法は、以下のものである:感光性ランタニド金属とアクセプター色素の間でエネルギー転移が発生する、発光共鳴エネルギー転移(LRET)(Selvin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:10024 (1994));および、2つの隣接したピレンが、相補的標的の存在下でエキシマー(蛍光性2量体)を形成することができ、その結果、検出可能な程度にシフトされた蛍光ピークがもたらされる、エキシマー形成色素に由来する色変化(Paris et al., Nucleic Acids Re. 26:3789 (1998))。
【0054】
核酸分子を増幅するための様々な方法は、当業者に公知である。一般に、核酸標的分子は、ポリメラーゼによって触媒される反応においてオリゴヌクレオチドプライマーを伸長するための鋳型として使用される。例えば、Panet et al. (J. Biol. Chem. 249:5213 (1974))は、セルロースに結合されたデオキシリボポリヌクレオチド鋳型の複製を実証する。Kleppe et al. (J. Mol. Biol. 56:341 (1971))は、相補的DNAを合成するための鋳型としての、2本鎖DNA分子および1本鎖DNA分子の使用を開示する。
【0055】
他の公知の核酸増幅手順には、転写に基づく増幅システムが含まれる(Kwoh et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:1173 (1989); WO 88/10315)。ライゲーション反応産物の配列に相補的な配列を有する標的核酸の存在下での、2つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドのライゲーションに基づくスキーム(「ライゲーション連鎖反応」もまた、使用されている(Wu et al., Genomics 4:560 (1989))。相補的核酸へのアニーリング後の2つのオリゴヌクレオチドのライゲーションに基づいて核酸を増幅するための他の適切な方法は、当技術分野において公知である。
【0056】
WO89/06700では、1本鎖標的DNA(「ssDNA」)へのプロモーター/プライマー配列のハイブリダイゼーションと、それに続くその配列の多数のRNAコピーの転写に基づく、核酸配列増幅スキームを開示している。このスキームはサイクル的ではない、すなわち、結果として生じるRNA転写物から新しい鋳型は生成されない。
【0057】
EP329,822では、核酸配列に基づく増幅(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)(NASBA)と呼ばれる代替の増幅手順を開示している。NASBAは、1本鎖RNA(「ssRNA」)、ssDNA、および2本鎖DNA(dsDNA)をサイクル式に合成する段階を含む、核酸増幅プロセスである。ssRNAは、逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼ)によって伸長される第1のプライマーオリゴヌクレオチドに対する第1の鋳型である。次いで、結果として生じるDNA:RNA二重鎖から、リボヌクレアーゼH(RNaseH、DNAまたはRNAを有する二重鎖中のRNAに特異的なRNase)の作用によってRNAを除去する。結果として得られるssDNAは、第2のプライマー用の第2の鋳型である。第2のプライマーは、ssDNA鋳型にハイブリダイズするプライマー配列の5'側に位置したRNAポリメラーゼプロモーターの配列(例としてT7 RNAポリメラーゼ)を含む。次いで、このプライマーは、DNAポリメラーゼ(例として大腸菌(E.coli)DNAポリメラーゼIの大型の「Klenow」断片)によって伸長され、結果として、それらのプライマーの間に位置していた元のRNAの部分の配列と同一な配列を有し、かつ、一方の末端にプロモーター配列をさらに有する、dsDNA分子が生成する。適切なRNAポリメラーゼによってこのプロモーター配列を使用して、DNAの多くのRNAコピーを作製することができる。その場合、これらのコピーはサイクルに再度入って、極めて迅速な増幅をもたらすことができる。酵素を適切に選択することにより、各サイクルで酵素を添加せずに、等温度でこの増幅を実施することができる。このプロセスはサイクル性の性質を有するため、DNAまたはRNAどちらの形態の出発配列も選択することができる。
【0058】
米国特許第5,455,166号およびEP684 315では、鎖置換増幅法(Strand Displacement Amplification )(SDA)と呼ばれる方法を開示している。この方法は、単一の温度で実施され、かつ、ポリメラーゼ、エンドヌクレアーゼ、および修飾ヌクレオシド3リン酸の組合せを使用して、標的DNA配列の一本鎖断片を増幅する。標的配列は断片化され、一本鎖にされ、かつ、エンドヌクレアーゼに対する認識部位を含むプライマーにハイブリダイズされる。次いで、プライマー:標的複合体は、そのうち1つが修飾されているヌクレオシド3リン酸の混合物を使用して、ポリメラーゼ酵素を用いて伸長される。結果は、元の標的配列およびエンドヌクレアーゼ認識配列を含む二重鎖分子である。認識配列を構成している鎖のうちの1つは、プライマーに由来し、もう一方は、伸長反応の結果である。伸長反応は修飾ヌクレオチドを用いて実施されるため、認識部位の一方の鎖は修飾されており、かつエンドヌクレアーゼ消化に対して耐性である。次いで、結果として生じる二重鎖分子は、未修飾鎖を切断してニックを生じさせるエンドヌクレアーゼと接触させられる。ニックを形成された鎖は、5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を欠いたポリメラーゼ酵素によって伸長されて、その結果、ニックを形成された鎖が置換され、新しい二重鎖分子が生成する。次いで、新しい二重鎖分子はニッキングおよび伸長を多数回経て、標的配列の多数のコピーを生成することができる。
【0059】
核酸増幅の最も広く使用されている方法は、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)である。PCRの詳細な説明は、以下の参考文献において提供されている:Mullis et al., Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 51:263 (1986);EP50,424;EP84,796;EP258,017;EP237,362;EP201,184;米国特許第4,683,202号;同第4,582,788号;同第4,683,194号。最も単純な形態において、PCRは、標的の二本鎖核酸配列の増幅を含む。二本鎖配列は変性させられ、かつオリゴヌクレオチドプライマーが、結果として生じる一本鎖のそれぞれにアニールされる。これらのプライマーの配列は、増幅しようとする二本鎖核酸配列の部分に隣接する位置でそれらがハイブリダイズするように、選択される。オリゴヌクレオチドは、ポリメラーゼ酵素、ヌクレオチド3リン酸、および適切な補助因子を用いた反応において伸長されて、標的配列をそれぞれ含む2つの二本鎖分子を形成する。その後、変性、アニーリング、および伸長反応が1回起こるごとに、標的配列のコピー数は倍増する。これは、前の回からの伸長生成物が、後続の複製段階のための鋳型として働くためである。したがって、PCRは、分子があらかじめ精製されておらず、かつ、特定の試料中に1つのコピーしか存在しない場合でさえ、特定の配列を有する核酸分子の濃度を選択的に上昇させるための方法を提供する。この方法を使用して、一本鎖核酸または二本鎖核酸のいずれも増幅することができる。この方法の本質は、鋳型に依存し、ポリメラーゼを介した、所望の核酸分子の複製のためのプライマーとして働く2つのオリゴヌクレオチドの使用を含む。
【0060】
核酸増幅生成物を検出するための方法は、一般に、サイズの差に基づいてプライマーから増幅生成物を分離する、ゲル電気泳動法を使用する。あるいは、(例えばドットブロット解析において)遊離プローブを洗い流すことを可能にする、生成物の固定化、および従来の固相ハイブリダイゼーション法による特異的プローブのハイブリダイゼーションによって、増幅生成物を検出することもできる。プライマーもプローブも事前に分離せずに増幅プロセスをモニターするためのいくつかの方法が説明されている。これらの方法はすべて、FRETに基づいている。
【0061】
米国特許第5,348,853号およびWang et al., Anal. Chem. 67:1197 (1995)に記載されている1つの方法では、プローブ上の2種の蛍光体の間でエネルギー転移が生じるエネルギー転移系を使用する。この方法では、増幅された分子の検出は増幅反応容器中で実施され、分離段階を必要としない。Wangらの方法は、リバースプライマーに相補的な「エネルギーシンク」オリゴヌクレオチドを使用する。「エネルギーシンク」オリゴヌクレオチドおよびリバースプライマーオリゴヌクレオチドは、それぞれドナー標識およびアクセプター標識を有する。増幅に先立って、標識オリゴヌクレオチドは、エネルギー転移が自由に起こるプライマー二重鎖を形成する。次いで、標的鎖のうちの1つが著しく過剰生成される前に、対数期後期まで非対称PCRを実施する。
【0062】
プライマーおよび生成物を事前に分離せずに増幅生成物を検出するための第2の方法は、(TAQMAN(登録商標)アッセイ法とも呼ばれる)5'ヌクレアーゼPCRアッセイ法(Holland et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:7276 (1991); Lee et al., Nucleic Acids Res. 21:3761 (1993))である。このアッセイ法では、増幅反応の進行中の、二重に標識された蛍光発生プローブ(TAQMAN(登録商標)プローブ)のハイブリダイゼーションおよび切断によって、特異的なPCR生成物の蓄積を検出する。蛍光発生プローブは、蛍光性レポーター色素およびクエンチャー色素の両方で標識されたオリゴヌクレオチドからなる。PCRの進行中、このプローブは、増幅されているセグメントにそれがハイブリダイズする場合には、DNAポリメラーゼの5'-エキソヌクレアーゼ活性によって切断される。プローブの切断により、レポーター色素の蛍光強度の増加が生じる。TAQMAN(登録商標)アッセイ法において、5'から3'への加水分解が蛍光体およびクエンチャーの間で起こるという必要条件は、これら2つの部分が互いに近すぎない場合にのみ満たされるため、ドナーおよびクエンチャーは、好ましくはプローブの3'末端および5'末端に位置している(Lyamichev et al., Science 260:778 (1993))。
【0063】
増幅生成物を検出する別の方法(すなわちMOLECULAR BEACONS)は、TyagiおよびKramer(Nature Biotech.14:303(1996))によって説明された「ビーコンプローブ」を用いたエネルギー転移の使用に依拠している。この方法は、ヘアピン構造を形成することができるオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションプローブを使用する。ハイブリダイゼーションプローブの一方の末端(5'末端または3'末端のいずれか)に、ドナー蛍光体があり、もう一方の末端に、アクセプター部分がある。TyagiおよびKramerの方法の場合、アクセプター部分がクエンチャーであり、すなわち、アクセプターはドナーによって放出されたエネルギーを吸収するが、その場合、それ自体は蛍光を発しない。したがって、ビーコンが開いた(open)立体構造である場合、ドナー蛍光体の蛍光は検出可能であるのに対し、ビーコンがヘアピン(閉じた)(closed)立体構造である場合、ドナー蛍光体の蛍光は消光されている。PCRにおいて使用される場合、PCR生成物の鎖のうちの一方にハイブリダイズするビーコンプローブは、「開いた立体構造」であり、蛍光が検出されるが、ハイブリダイズされないままであるものは、蛍光を発しない。結果として、PCR生成物の量が増加するにつれて、蛍光の量が増加し、したがって、PCRの進行の尺度として使用され得る。
【0064】
エネルギー転移の使用に依拠する、増幅生成物を検出する別の方法は、NazarenkoらのSUNRISE PRIMER法である(Nucleic Acids Res.25:2516 (1997); 米国特許第5,866,336号)。SUNRISE PRIMERSは、FRETおよび非蛍光性消光の他のメカニズムに基づいている。SUNRISE PRIMERSは、5'末端にヘアピン構造を有する一本鎖プライマーからなる。ヘアピンのステムは、ドナー/クエンチャーの対で標識されている。ヘアピン配列がポリメラーゼによってアンフォールディングおよび複製されると、シグナルが生成される。
【0065】
増幅生成物を検出する別の方法は、リアルタイム定量PCR(Xu et al., J. Biol. Chem. 278:26929 (2003); Yeon et al., Hepatology 38:703 (2003))である。この技術では、蛍光レポーター(例えば、SYBR Green (Molecular Probes)のような挿入色素)が、PCR反応が生じているときにそれをモニターするのに使用される。増幅が連続的に一巡するごとに生成物が蓄積するにつれて、レポーター分子の蛍光は増加する。蛍光がベースラインを上回り感知できる程度に増加する時点を用いて、試料中の鋳型の出発量を決定することができる。
【0066】
本発明の1つの態様において、診断キットが、ADの診断用に提供される。これらのキットは、被験者から得た生物試料におけるインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定するのに使用され得る。この態様において、キットは、インスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定するのに使用され得る少なくとも1つの検出物質を含む1つまたは複数の容器と共に、提供される。検出物質には、インスリン/IGFシグナル伝達経路中の因子に特異的に結合する1つまたは複数の抗体、インスリン/IGFシグナル伝達経路中の因子をコードしているポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができる1つまたは複数のオリゴヌクレオチド、インスリン/IGFシグナル伝達経路中の因子をコードしているポリヌクレオチドを増幅するのに有用な1対もしくは複数対のプライマー、またはインスリン/IGFシグナル伝達経路中の因子によって作用を及ぼされ得る1つまたは複数の酵素基質が含まれるが、これらに限定されるわけではない。他の様々な態様において、キットはまた、例えば、緩衝剤、保存剤、またはタンパク質安定化剤も含み得る。キットはまた、検出物質(例えば、酵素または基質)を検出するのに必要な構成要素も含み得る。キットはまた、分析し、かつ試験試料と比較することができる、対照試料または対照試料の系列も含み得る。キットの各構成要素は、通常、個々の容器内に封入されており、かつ様々な容器のすべてが、試験される被験者がADに罹患しているか、またはADを発症するリスクがあるかを観察するための取扱い説明書と共に、1つのパッケージ内にある。
【0067】
本発明の1つの局面において、被験者のADを治療、寛解、または予防するための方法が提供される。特定の態様において、これらの方法は、治療的有効量のインスリンアゴニストおよび治療的有効量のIGFアゴニストの被験者への投与を含む。
【0068】
本発明のさらなる局面は、治療的有効量のインスリンアゴニストおよび治療的有効量のIGFアゴニストを被験者に投与する段階を含む、ADに罹患した被験者の精神機能を改善するための方法に関する。
【0069】
本発明の別の局面は、治療的有効量のインスリンアゴニストおよび治療的有効量のIGFアゴニストを被験者に投与する段階を含む、ADに罹患した被験者における記憶力減退を軽減するための方法に関する。
【0070】
本発明の1つの態様において、治療的有効量のインスリンアゴニストおよび治療的有効量のIGFアゴニストが、ADの初期症状、または前AD状態を示唆する症状を提示している被験者に、ADのさらなる進行またはADの発症から被験者を救済するために投与される。このような被験者には、軽度またはわずかな認知機能障害、すなわち、認知症に分類するほど重度ではない認知障害を特徴とするが、ADの前段階または初期段階である状態と診断された者が含まれる。被験者の救済が実施され得るADの初期段階には、Braak病期1〜3に対応する段階が含まれる。これらの病期では、脳中の成長因子および成長因子受容体の発現変化が始まるが、発現は、ADの重度の段階(例えば、Braak病期4〜6)において認められるレベルまでは落ちない。したがって、ADの初期段階の被験者は、成長因子および他の治療物質の投与によって、依然として救済され得る。
【0071】
本明細書において使用される場合、「インスリンアゴニスト」という用語は、インスリンのレベルもしくはインスリンに対する感受性を高めることによる糖尿病の治療用に使用されていたか、現在使用されているか、または有用であることが公知である物質を意味する。
【0072】
1つの態様において、インスリンアゴニストは、インスリン依存性のシグナル伝達経路の刺激用に使用されていたか、現在使用されているか、または有用であることが公知である、インスリン受容体の任意のアゴニストである。インスリンアゴニストの例には、精製された天然のインスリン(例えば、ILETIN)、組換え型インスリン(例えばHUMULIN)、インスリンの機能的誘導体、ならびにインスリンの類似体および模倣体(すなわち、インスリン受容体に結合し、かつインスリンによって刺激されるのと同じシグナルを1つまたは複数刺激することができる、誘導体、類似体、および模倣体)が含まれる。インスリンの類似体および模倣体の例には、インスリンアスパルト(NOVOLOG)、インスリングラルギン(LANTUS)、インスリンリスプロ(HUMALOG)、LysB28ProB29-インスリン、AspB28-インスリン、デスProB28-インスリン、デスProB28デスThrB30-インスリンデスPheB25デスThrB30-インスリン、デスTyrB26デスThrB30-インスリン、SerA21デスProB28-インスリン、GlyA21デスProB28-インスリン、GlyA21デスPheB25-インスリン、AspA21デスPheB25-インスリン、HisB25デスTyrB26デスThrB30-インスリン、AsnB25デスTyrB26デスThrB30-インスリン、AspA21デスPheB25デスThrB30-インスリン、AspB28デスPheB25-インスリン、AspB3デスPheB25-インスリン、LysB28ThrB29-インスリン、ArgB28デスLysB29-インスリン、GlyA21デスThrB27-インスリン、GlyA21ThrB3デスThrB27-インスリン、AlaA21ThrB3デスThrB27-インスリン、GlyA21AspB3デスThrB27-インスリン、AlaA21AspB3デスThrB27-インスリン、デスThrB27デスThrB30-インスリン、GluB27-インスリン、IleB12-インスリン、TyrB12-インスリン、AspA21GluB27-インスリン、AspB9-インスリン、AspA21AspB9GluB27-インスリン、AspB9GluB27-インスリン、GlyA12-インスリン、ThrA12-インスリン、GlyA12HisA19-インスリン、PheA14-インスリン、GlyA14-インスリン、ThrA12GlyA14-インスリン、ProA10TrpA13-インスリン、LysB28-インスリン、デスPheB25デスThrB30-インスリン、デスPheB25-インスリン、およびAspA21デスPheB25デスThrB30-インスリンが含まれる。このような物質のさらなる例は、それぞれ参照により組み入れられる以下の文献に記載されている:

【0073】
別の態様において、インスリンアゴニストは、インスリン抵抗性および/またはII型糖尿病の治療用に使用されていたか、現在使用されているか、または有用であることが公知である物質である。1つの態様において、物質は、インスリン増感剤である。インスリン増感剤には、(メトホルミン(GLUCOPHAGE)のような)ビグアナイド、(ロシグリタゾン(AVANDIA)、ピオグリタゾン(ACTOS)、トログリタゾン(REZULIN)、エングリタゾン、およびシグリタゾンなどの)チアゾリジンジオン、ならびにMBX-102(ハロゲナート(halogenate)の鏡像異性体)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。他の有用なチアゾリジンジオンには、米国特許第6,787,551号、同第6,288,096号、同第6,130,216号、同第6,046,202号、同第5,990,139号、同第5,965,589号、同第5,811,439号、同第5,716,975号、同第5,489,602号、同第5,478,852号、同第5,457,109号、同第5,441,971号、同第5,326,770号、同第4,725,610号、同第4,697,020号、および同第4,687,777号、ならびにHulin et al., J. Med. Chem. 35:1853 (1992)において開示されているものが含まれる。インスリン抵抗性の治療において有用な他の物質には、(レパグリニド(PRANDIN)およびナテグリニド(STARLIX)などの)メグリチニド、(トルブタミド、クロルプロパミド(DIABINASE)、トラザミド(TOLINASE)、グリブリド(MICRONASE、DIABETA)、グリピザイド(GLUCOTROL)、およびグリメピリド(AMARYL)などの)スルホニル尿素、ならびに(アカルボース(PRECOSE)およびミグリトール(GLYSET)などの)α-グルコシダーゼ阻害剤を含む、インスリン分泌促進物質が含まれる。他の有用な物質には、米国特許第6,713,514号、同第6,677,298号、同第6,462,046号、同第5,925,657号、および同第5,326,770号、ならびにCombs et al., J. Neurosci. 20:558 (2000)において開示されているような、PPAR-α、PPAR-γ、およびPPAR-δのアゴニストを含む、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)アゴニストが含まれる。AD患者におけるPPAR-δアゴニストの使用は、肥満に対する抵抗性を与え、かつ代謝プロファイルを改善し得るI型筋線維の数を、運動を欠く場合でさえ増加させるという付加的な利点を有し得る(Wang et al., PLoS Biol. 2:3294 (2004))。他の有用な物質には、β3-アドレナリン作動性受容体アゴニスト(米国特許第6,649,603号、同第6,605,618号、同第6,583,140号、同第6,569,873号、同第6,537,994号、同第6,525,202号、同第6,514,991号、同第6,509,358号、同第6,506,901号、同第6,498,170号、同第6,465,501号、同第6,458,817号、同第6,451,814号、同第6,444,685号、同第6,410,734号、同第6,395,762号、同第5,972,881号)、およびレチノイドX受容体アゴニスト(米国特許第6,593,493号、同第6,521,633号、同第6,316,404号、同第6,228,862号、同第6,028,052号)が含まれる。使用され得るその他の物質には、クロミウム、ドーパミンアゴニスト(米国特許第5,468,755号、同第5,597,832号、同第5,602,120号、同第5,602,121号)、ピルビン酸塩およびピルビン酸前駆体(米国特許第5,472,980号、同第5,283,260号)、ならびにベンゾチアジアジン(例えばジアゾキシド)が含まれる。インスリン抵抗性の治療用に有用である物質の他の例は、それぞれ参照により組み入れられる、

ならびにShinkai et al., J. Med. Chem. 41:1927(1998)において開示されている。
【0074】
本明細書において使用される場合、「IGFアゴニスト」という用語は、IGF依存性のシグナル伝達経路の刺激用に使用されていたか、現在使用されているか、または有用であることが公知である、IGF受容体の任意のアゴニストを意味する。
【0075】
IGFアゴニストの例には、精製された天然または組換え型のIGFタンパク質、IGFの機能的誘導体、ならびにIGFの類似体および模倣体(すなわち、IGF受容体に結合し、かつIGFによって刺激されるのと同じシグナルのうち1種または複数種を刺激することができる、誘導体、類似体、および模倣体)が含まれる。IGF類似体の例には、IGF-IのD類似体、長い(long)-Arg3-IGF-I、Val59-IGF-I、AlaGlu-IGF-I、Ala63-IGF-I、Ser1Ala63Val70-IGF-I、Leu24,59,60Ala31-IGF-II、Gln6Ala7Tyr18Leu19Leu27-IGF-II、Gly1-IGF-II、Leu27-IGF-II、およびGln37Gln38-IGF-IIが含まれる。また、IGF結合タンパク質へのIGFの結合に干渉して、その結果、IGF受容体への結合に利用可能な循環IGFの量を増加させる物質も含まれる。他のIGFの機能的誘導体、アゴニスト、および模倣体の例は、それぞれ参照により組み入れられる以下の文献に記載されている:

【0076】
本明細書において使用される場合、「治療的有効量」という用語は、障害の1つまたは複数の症状の寛解をもたらすか、もしくは障害の発達を予防するか、または障害の退行を引き起こすのに十分な治療物質の量を意味する。例えば、ADの治療に関して、治療的有効量は、好ましくは、本発明を用いない場合に生じたと考えられる程度と比較して、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも100%、ADの症状を低減するか、ADの症状が進行するまでの時間を延長するか、または生存期間を延長する、治療物質の量を意味する。
【0077】
本明細書において使用される場合、「予防する」、「予防すること」、および「予防」という用語は、被験者におけるAD病変の発生の減少を意味する。予防は完全であり得、例えば、被験者においてAD病変が全く存在しない。予防はまた、部分的であり得、その結果、被験者におけるAD病変の発生は、本発明を用いない場合に生じたと考えられる程度より少ない。
【0078】
本明細書において使用される場合、「相乗的な」という用語は、第1の物質および第2の物質が一緒に(例えば、同時に、または順々に)投与された場合に得られる、個別に投与された場合の第1の物質および第2の物質の相加効果より大きな効果を意味する。相乗効果により、より低用量の第1の物質および/または第2の物質を投与することが可能になるか、または同じ用量でより高い有効性が提供される。得られる相乗効果は、個別に投与された場合の第1の物質および第2の物質の相加効果より、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも125%、少なくとも150%、少なくとも175%、少なくとも200%、少なくとも250%、少なくとも300%、少なくとも350%、少なくとも400%、または少なくとも500%大きくなり得る。
【0079】
本発明の治療方法は、ADに起因する病変を呈している被験者、ADに起因する病変を呈すると推測される被験者、およびADに起因する病変を呈するリスクがある被験者に対して実施され得る。例えば、ADに対する遺伝的素因を有する被験者を予防的に治療することができる。ADの症状を提示している被験者を治療して、症状を低減するか、または症状のさらなる進行を遅延もしくは予防し得る。本明細書において、ADの重症度の上昇に伴う身体的変化は、進行性であることが示される。したがって、本発明の1つの態様において、AD病変の軽度の徴候(例えば、軽度の認知機能障害またはBraak病期1〜3に相当する)を提示している被験者を治療して、症状を改善し、かつ/または症状のさらなる進行を予防し得る。
【0080】
ADにおける認知行動(例えば、精神機能、記憶)は、いくつかの試験のうちのいずれか1つによって測定され得る(Gershon et al., Clinical Evaluation of Psychotropic Drugs: Principles and Guidelines, Prien and Robinson (eds.), Raven Press, Ltd., New York, 1994, p. 467を参照されたい)。このような試験の1つであるBCRSは、認知機能のみ:集中力、近時記憶、過去記憶、見当識、生活機能、およびセルフケアを測定するように設計されている。この試験、ならびにウェクスラー記憶検査(Weschler Memory Scale)およびアルツハイマー病関連検査(Alzheimer's Disease-Associated Scale)は、治療的処置の後の改善を判定するために使用され得る。ウェクスラー記憶検査において正常性の方向に統計学的有意差がある場合には、精神機能の上昇または記憶力減退の軽減が存在する。例えば、治療された患者の動作の試験結果は、プラセボ群のメンバーと、または同じ患者に対して実施される後続の試験間で、比較される。
【0081】
インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストは、任意の適切な様式で、例えば、脳室内に(例えば脳室内ステントを用いて)、頭蓋内に、腹腔内に、静脈内に、動脈内に、経鼻的に、または経口的に投与され得る。1つの態様において、インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストは、血液脳関門を通過することができる場合がある。ADに罹患している被験者の血液脳関門は、劣化した状態でしばしば認められ、これにより、非経口的に投与された物質が関門を横切る能力が促進される。別の態様において、物質は、血液脳関門上に受容体がある、トランスフェリンのようなターゲティング分子と結合され得る。例えば、米国特許第4,902,505号を参照されたい。別の態様において、疎水性がより高い(極性がより低い)物質の方が、より容易に血液脳関門を通過するため、極性を低めるか、または疎水性を高めるために物質を修飾することができる。例えば、米国特許第5,260,308号を参照されたい。別の態様において、疎水性(無極性)物質が、選択および使用され得る。さらに別の態様において、物質は、リポソーム、特に血液脳関門を標的とするリポソーム中で投与され得る。例えば、米国特許第6,372,250号を参照されたい。リポソーム中の薬学的物質の投与は公知である。
【0082】
1つの態様において、インスリンアゴニストおよび/またはIGFアゴニストを(例えば組換え発現によって)発現する細胞が、中枢神経系に投与され得る。別の態様において、これらの細胞は、インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストの両方を発現する。インスリンアゴニストおよび/またはIGFアゴニストを発現するように遺伝子改変され得る任意のタイプの細胞が、使用され得る。1つの態様において、これらの細胞は、幹細胞、例えば、胚性幹細胞、幼若幹細胞、または成体幹細胞、神経幹細胞、前駆細胞、および多能性細胞などである。投与される細胞は、レシピエントに対して非相同、自己由来、または異種であり得る。
【0083】
胚性幹細胞は、胚盤胞の内部細胞塊から細胞を単離し、かつ、細胞分化を阻害する増殖因子(例えば白血病抑制因子)の存在下でフィーダー細胞層(例えば線維芽細胞)上でそれらの細胞を培養することによって、得ることができる。例えば、米国特許第6,200,806号、第5,843,780号、第5,690,926号、および第5,453,357号を参照されたい。あるいは、米国特許第6,800,480号および第6,642,048号において開示されているように、単離された内部細胞塊の細胞は、フィーダー細胞によって任意で順化された培養培地の存在下で、(例えば、溶解されたフィーダー細胞層に由来する)細胞外マトリックス上で培養され得る。胚性幹細胞を単離する別の方法は、米国特許第5,166,065号において開示されている。
【0084】
神経幹細胞は、前脳、大脳皮質、小脳、中脳、海馬、脳幹、脊髄、および脳室組織、ならびにそれらの特定の下位領域、例えば、大脳基底核、前脳脳室下帯、間脳、終脳、または上衣/上衣下部位など、幹細胞を含むことが公知であるCNSの任意の部位から単離され得る。ヒト神経幹細胞は、流産胎児組織、若年または成人の臓器ドナー、神経組織生検材料、または神経外科的手術の間に除去された組織から入手され得る。神経組織から得た細胞は、好ましくは、細胞の分化を回避するための合成培地を用いて、懸濁液中または基材上で培養することによって、インビトロで増殖させることができる。上皮成長因子、アンフィレグリン、酸性線維芽細胞増殖因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、形質転換成長因子α、およびそれらの組合せなど、増殖を誘導する増殖因子が、培養物に添加され得る。神経成長因子、血小板由来増殖因子、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、形質転換成長因子β、またはインスリン様成長因子などの分化誘導増殖因子を添加することによって、細胞を、例えば、神経細胞、星状細胞、および/または乏突起膠細胞にインビトロで分化させることもできる。分化を引き起こす基材、例えば、MATRIGEL、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、またはポリ-L-リシン上で培養することによっても、細胞を分化させることができる。適切な神経幹細胞および単離方法の例には、米国特許第6,812,027号、第6,787,353号、第6,734,015号、第6,497,872号、第6,251,669号、第5,968,829号、第5,851,832号、第5,753,505号、第5,589,376号、および第5,411,883号において開示されているものが含まれる。神経細胞に分化することができる非神経幹細胞の例には、米国特許第6,749,850号および米国特許出願公開第2004/0107453号において開示されているものが含まれる。
【0085】
当技術分野において公知の任意の方法を用いて、インスリンアゴニストおよび/またはIGFアゴニストを発現するように、細胞を遺伝子操作してよい。例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York 3rd Edition, (1995); Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2nd Edition, (1989)を参照されたい。インスリンアゴニストおよび/またはIGFアゴニストをコードする核酸(DNAまたはRNA)は、合成であるか、もしくは天然に由来するか、または両方の組合せであり得、かつ、遺伝子、遺伝子の一部分、または他の有用なDNA配列、例えば、選択マーカー、もしくはプロモーターおよびエンハンサーなどの調節配列を含み得る。プロモーターは、サイトメガロウイルスもしくはサルウイルス40などの外来性プロモーター、コラーゲンなどの非特異的内在性プロモーター、またはチロシンヒドロキシラーゼ、フェニルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ、もしくはコリンアセチルトランスフェラーゼなど神経細胞に特異的なプロモーターであり得る。インスリン、IGF-I、およびIGF-IIに対するヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、容易に入手可能である。ヌクレオチド配列は、当技術分野において周知の方法によって、上記に記載したもののようなインスリンアゴニストおよび/またはIGFアゴニストをコードするように改変することができる。インスリンアゴニストおよび/またはIGFアゴニストをコードする核酸は、細胞中に送達するための任意の適切なベクター、例えば、プラスミド、ウイルス、人工染色体、および相同組換え配列などに組み込まれ得る。核酸は、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス)、または直接的なトランスフェクション(例えば、リポフェクション、リン酸カルシウムトランスフェクション、エレクトロポレーション)によって、細胞中に導入され得る。核酸構築物を調製し、かつその構築物を幹細胞、特に胚性幹細胞または神経幹細胞に送達するための方法の例は、米国特許第6,713,247号、第6,541,255号、第6,528,306号、第6,514,761号、第6,399,384号、第6,392,118号、第6,312,949号、第6,284,539号、第6,281,009号、第6,054,575号、第5,958,767号、第5,849,553号、第5,750,376号、第5,032,407号、および第4,959,313号において開示されている。
【0086】
インスリンアゴニストおよび/またはIGFアゴニストを発現する細胞は、中枢神経系に直接、例えば、脳に直接、脳室腔中に、または硬膜下に投与され得る。1つの態様において、細胞は、損傷または機能不全の領域中に移植される。治療用タンパク質または他の因子を発現させるために中枢神経系に細胞を投与する方法は、当技術分野において公知である。細胞は、好ましくは、特定の領域、好ましくは、神経変性が起こっているか、または起こった領域に投与される。細胞は、単独で、または適切な生体適合性の担体、マトリックス、物理的バリヤーなどと共に導入され得る。細胞は、1つまたは複数の部位における1回の注射または複数回の注射で投与され得る。1つの態様において、約104個〜約108個の細胞が投与される。CNSに細胞を投与するための適切な方法には、米国特許第6,497,872号、第5,871,767号、第5,762,926号、第5,650,148号、および第5,082,670号において開示されているものが含まれる。
【0087】
本発明のいくつかの態様において、治療的有効量のインスリンアゴニストおよびIGFアゴニストを投与するための方法を提供する。いくつかの態様において、インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストの組合せは、いずれかのアゴニストの単独投与と比べてより高い効果を有することが予想される。他の態様において、インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストの組合せは、いずれか1種の単独投与と比べて、相乗(すなわち、相加より高い)効果をもたらすことが予想される。
【0088】
本発明のいくつかの態様において、インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストは、別々に、例えば、2種の個別の組成物として、被験者に投与される。他の態様において、インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストは、単一の組成物の一部分として、投与される。
【0089】
本発明のいくつかの態様において、インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストは、以下の条件のうちの1つまたは複数のもとで被験者に投与される:異なる周期、異なる期間、異なる濃度、異なる投与経路など。いくつかの態様において、インスリンアゴニストは、IGFアゴニストより前に、例えば、IGFアゴニストの投与より0.5時間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、10時間、12時間、もしくは18時間、1日、2日、3日、4日、5日、もしくは6日、または1週間、2週間、3週間、もしくは4週間前に投与される。いくつかの態様において、インスリンアゴニストは、IGFアゴニストより後に、例えば、IGFアゴニストの投与後0.5時間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、10時間、12時間、もしくは18時間、1日、2日、3日、4日、5日、もしくは6日、または1週間、2週間、3週間、もしくは4週間目に投与される。いくつかの態様において、インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストは、同時であるが、異なるスケジュールで投与される。例えば、インスリンアゴニストは毎日投与されるのに対し、IGFアゴニストは、1週間に1回、2週間毎に1回、3週間毎に1回、または4週間毎に1回投与される。他の態様において、インスリンアゴニストは、1週間に1回投与されるのに対し、IGFアゴニストは、毎日、1週間に1回、2週間毎に1回、3週間毎に1回、または4週間毎に1回投与される。
【0090】
インスリンアゴニストの投与は、IGFアゴニストの投与と並行して継続され得る。さらに、インスリンアゴニストの投与は、IGFアゴニストの投与より長く継続され得、逆もまた同じである。
【0091】
本発明の特定の態様において、IGFアゴニストと組み合わせてインスリンアゴニストを投与する方法は、少なくとも1回反復され得る。この方法は、治療応答を実現または維持するのに必要なだけの回数、例えば、1回〜約10回またはそれ以上、反復され得る。この方法の各反復に関して、インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストは、その前の反復において使用したものと同じであるか、または別のものでよい。さらに、インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストを投与する時期、ならびにそれらが投与される様式は、反復毎に変わってよい。
【0092】
本発明の物質は、化合物の細胞取込みを向上させるために、担体分子に結合され得る。このような担体分子の例には、Fulda et al., Nature Med. 8:808 (2002), Arnt et al., J. Biol. Chem. 277:44236 (2002) およびYang et al., Cancer Res. 63:831 (2003)によって説明されているもののような担体ペプチド、膜融合ペプチド(例えば、米国特許第5,965,404号を参照されたい)、ならびにウイルス、ならびに空のキャプシドおよびウイルス赤血球凝集素などウイルスの一部分(例えば、米国特許第5,547,932号を参照されたい)が含まれる。他の担体分子には、アシアロ糖タンパク質のような細胞表面受容体に対するリガンド(アシアロ糖タンパク質受容体に結合する;米国特許第5,166,320号を参照されたい)、およびT細胞に特異的な抗体のような、細胞表面受容体に対する抗体、例えば、抗CD4抗体(米国特許第5,693,509号を参照されたい)が含まれる。
【0093】
本発明の範囲内の組成物には、本発明の物質が、意図する目的を達成するのに有効である量で含まれるすべての組成物が含まれる。個々の必要量は異なるものの、各成分の有効量の最適な範囲の決定は、当業者の技能の範囲内である。実際の投薬量および治療計画は、普通の熟練した内科医が、投与経路、被験者の年齢、体重、および健康状態、ならびにADの病期、および、当然、物質の任意の副作用、物質の有効性を考慮に入れ、かつ、通例の医学的処置および実践に従って、容易に決定することができる。典型的には、物質は、哺乳動物、例えばヒトに、ADを治療される哺乳動物の体重当たり1日当たり、用量0.0025mg/kg〜50mg/kgで、または薬学的に許容されるその塩の等価な量が、経口的に投与され得る。好ましくは、約0.01mg/kg〜約10mg/kgが、ADを治療、寛解、または予防するために経口投与される。筋肉内注射の場合、用量は、一般に経口投与量の約半分である。例えば、適切な筋肉内投与量は、約0.0025mg/kg〜約25mg/kg、および最も好ましくは、約0.01mg/kg〜約5mg/kgであると考えられる。特定の態様において、インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストのいずれかまたは両方は、組合せの相加効果または相乗効果の寄与により、当技術分野において使用される量より低い用量で投与され得る。
【0094】
経口単位用量は、約0.01mg〜約50mg、好ましくは約0.1mg〜約10mgの各物質を含み得る。単位用量は、約0.1mg〜約10mg、便宜的には約0.25mg〜50mgの物質をそれぞれ含む、1つまたは複数の錠剤またはカプセル剤として、毎日1回または複数回、投与され得る。
【0095】
原材料のままの化学物質として物質を投与するほかに、本発明の物質は、薬学的に使用することができる製剤に化合物を加工するのを容易にする賦形剤および補助剤を含む薬学的に許容される適切な担体を含む、薬学的製剤の一部分として投与され得る。好ましくは、これらの製剤、特に、錠剤、糖衣錠、徐放ロゼンジおよびカプセル剤、口内洗浄剤および洗口剤、ゲル剤、懸濁液剤、ヘアリンス、整髪用ジェル、シャンプーなど、経口的または局所的に投与することができ、かつ、好ましいタイプの投与用に使用することができるような製剤、ならびにまた、坐剤のような、直腸経由で投与できる製剤、ならびに、注射によって、局所的に、または経口的に投与するのに適した液剤は、約0.01〜99パーセント、好ましくは約0.25〜75パーセントの活性化合物を、賦形剤と共に含む。
【0096】
本発明の薬学的組成物は、本発明の化合物の有益な効果を経験し得る任意の被験者に投与され得る。このような被験者のうちで最も重要なのは、哺乳動物、例えばヒトであるが、本発明がそのように限定されることは意図されない。他の動物には、家畜動物(雌ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、イヌ、およびネコなど)が含まれる。
【0097】
化合物およびその薬学的組成物は、それらの意図した目的を達成する任意の手段によって投与され得る。例えば、投与は、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、経皮、口腔内、くも膜下腔内、頭蓋内、鼻腔内、または局所的な経路によってなされ得る。あるいは、または同時に、投与は、経口経路によってなされ得る。投与される投薬量は、レシピエントの年齢、健康状態、および体重、もしあれば併用治療の種類、治療頻度、ならびに所望の効果の性質に依存すると考えられる。
【0098】
本発明の薬学的製剤は、それ自体が公知である様式で、例えば、従来の混合、顆粒化、糖衣錠製造、溶解、または凍結乾燥のプロセスを用いて、製造される。したがって、経口使用するための薬学的製剤は、活性化合物を固体賦形剤と混合し、任意で、所望の場合または必要な場合は、適切な補助剤を添加した後に、得られた混合物を粉砕し、かつ顆粒混合物を加工して、錠剤または糖衣錠コアを得ることによって、得ることができる。
【0099】
適切な賦形剤は、特に、糖類、例えばラクトースもしくはスクロース、マンニトールもしくはソルビトール、セルロース調製物、および/またはリン酸カルシウム、例えばリン酸三カルシウムもしくはリン酸水素カルシウムなどの増量剤、ならびに、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、バレイショデンプンを用いたデンプン糊、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドンなどの結合剤である。所望の場合は、前述のデンプン、およびまた、カルボキシメチル-デンプン、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはアルギン酸ナトリウムのようなその塩などの崩壊剤が添加され得る。補助剤は、特に、流動調節剤および滑沢剤、例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸、またはステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸カルシウムなどその塩、および/またはポリエチレングリコールである。糖衣錠コアは、所望の場合は、胃液に抵抗性である適切なコーティングと共に提供される。この目的のために、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ならびに/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒もしくは溶媒混合物を任意で含み得る、濃縮糖溶液が使用され得る。胃液に抵抗性のコーティングを製造するために、フタル酸アセチルセルロースまたはフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど適切なセルロース調製物の溶液が使用される。染料または顔料は、例えば、活性化合物の用量の特定のため、または活性化合物の用量の組合せを明らかにするために、錠剤または糖衣錠のコーティングに添加され得る。
【0100】
経口的に使用することができる他の薬学的製剤には、ゼラチンで作られたプッシュフィット(push-fit)カプセル剤、ならびに、ゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールなどの可塑剤で作られた、密封された軟カプセル剤が含まれる。プッシュフィットカプセル剤は、ラクトースのような増量剤、スターチのような結合剤、および/またはタルクもしくはステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤、ならびに任意で安定化剤と混合され得る、顆粒の形態の活性化合物を含み得る。軟カプセル剤において、活性化合物は、好ましくは、脂肪油または液体パラフィンのような適切な液体中に溶解または懸濁されている。さらに、安定化剤が添加され得る。
【0101】
直腸経由で使用できる可能性がある薬学的製剤には、例えば、活性化合物の1種または複数種と坐剤基剤との組合せからなる坐剤が含まれる。適切な坐剤基剤は、例えば、天然または合成のトリグリセリドまたはパラフィン炭化水素である。さらに、活性化合物と基剤との組合せからなる、直腸用ゼラチンカプセル剤を使用することも可能である。可能な基剤材料には、例えば、液状トリグリセリド、ポリエチレングリコール、またはパラフィン炭化水素が含まれる。
【0102】
非経口投与に適する調剤には、水溶性の形態の活性化合物、例えば水溶性の塩の水溶液、およびアルカリ性溶液が含まれる。さらに、適切な油性の注射用懸濁剤としての活性化合物の懸濁剤も、投与され得る。適切な親油性溶媒またはビヒクルには、脂肪油、例えば、ゴマ油、または合成の脂肪酸エステル、例えば、オレイン酸エチルもしくはトリグリセリド、またはポリエチレングリコール-400が含まれる。注射用水性懸濁剤は、懸濁剤の粘度を上昇させる物質を含み得、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、および/またはデキストランが含まれる。任意で、懸濁液は、安定化剤も含み得る。
【0103】
本発明の別の局面は、物質を動物に投与する段階、および該動物のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定する段階を含む、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用である物質をスクリーニングするための方法であって、該物質を投与されなかった対照動物におけるレベルと比べた、1つまたは複数の該因子のレベルまたは機能の上昇により、該物質が、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用であることが示される方法を提供する。本発明はさらに、動物に潜在的な治療を適用する段階、および該動物のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定する段階を含む、ADに対する潜在的な治療を試験するための方法であって、該治療を適用されなかった対照動物におけるレベルと比べた、1つまたは複数の該因子のレベルまたは機能の上昇により、該治療が、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用であることが示される方法も提供する。
【0104】
本発明の別の局面は、物質を動物に投与する段階、および該動物のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定する段階を含む、ADの発症または進行に対する潜在的な有害作用に関して物質を試験するための方法であって、該物質を投与されなかった対照動物におけるレベルと比べた、1つまたは複数の該因子のレベルまたは機能の低下により、該物質が、ADの発症または進行に対する有害作用を潜在的に有することが示される方法を提供する。
【0105】
このスクリーニングアッセイ法において使用される動物は、ADの特徴を提示しない非ヒト動物(例えば、マウス、ラット、イヌ、または霊長類)を含む、任意の動物であり得る。あるいは、ADの公知の動物モデルが使用され得る。動物モデルの例は、米国特許第6,717,031号、第6,710,226号、および第5,811,633号において開示されている。最終的に、ADに罹患している個体が使用され得る。
【0106】
被験者のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定するための方法は、ADの診断に関して前述したものと同じである。レベルまたは機能は、物質の投与前および投与後に、同じ被験者において決定され得る。他の態様において、物質を投与された被験者における機能またはレベルは、その物質を投与されなかった1または複数の被験者と比較される。
【0107】
スクリーニングされ得る物質には、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、抗体、核酸、有機分子、天然産物、および化学ライブラリーなどが含まれる。
【0108】
本発明のさらなる局面は、ストレプトゾトシン(STZ)の脳内注射によって作製されるADの実験動物モデルを提供する。動物は、げっ歯動物、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、雌ウシ、ブタ、非ヒト霊長類(例えば、チンパンジー、マカク、キツネザル、オランウータン、ゴリラ、ボノボ)などの哺乳動物であり得る。1つの態様において、動物は、げっ歯動物、例えば、ラットまたはマウスである。動物は、好ましくは、若齢で、例えば、1週齢未満、例えば、2日齢、3日齢、または4日齢でSTZを注射される。STZは、動物の脳に投与するのに適した任意の調剤、例えば、生理食塩水または人工脳脊髄液中に調製され得る。注射されるSTZの量は、動物においてAD様の病変および/または症状を誘導するのに十分である。1つの態様において、STZは、少なくとも約10mg/kg体重(BW)、例えば、約20〜約80mg/kg BW、例えば、約30〜約60mg/kg BW、例えば、約40mg/kg BWの用量で注射される。STZは、マイクロシリンジ、例えば、30ゲージの針を取り付けたハミルトンマイクロリッターシリンジを用いて、両側に、例えば、ブレグマから1.0mm後方および1.0mm外側、かつ各半球の頭蓋骨表面から深さ2.5mmに、注射され得る。注射処置の精度は、メチレンブルーのような染料を注射することによって、確認され得る。STZを注射された動物に関する研究は、STZの注射の約1週間後〜約8週間後、例えば、注射の約1週間後〜約3週間後、例えば、注射の約2週間後に実施され得る。
【0109】
本発明の別の局面は、STZを注射されたAD動物モデルを用いて、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用である物質をスクリーニングするための方法を提供する。1つの態様において、ADにおける神経変性を抑制する物質をスクリーニングするための方法が提供される。別の態様において、ADにおける認知機能障害を抑制する物質をスクリーニングするための方法が提供される。本発明はさらに、STZを注射されたAD動物モデルに潜在的な治療を適用する段階を含む、ADに対する潜在的な治療を試験するための方法も提供する。これらの方法は、物質を動物に投与する段階、および該物質を投与されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能を決定する段階を含む。測定され得るADの指標には、インスリン/IGFシグナル伝達経路中の1つまたは複数の因子のレベルまたは機能、脳重量、神経変性、神経原線維変化、または班などADの組織病理学的徴候、アポトーシス関連因子または細胞死の他の指標(例えばp53)のレベル、様々な細胞型の細胞数の変化、tau、ホスホtau、ユビキチン、アミロイド前駆タンパク質、アミロイドなどADに関連したタンパク質または核酸のレベル、アセチルコリン、アセチルコリンエステラーゼ、またはコリンアセチルトランスフェラーゼのレベル、および認知機能障害が含まれる。認知機能障害は、当技術分野において公知の任意の方法によって試験され得る(例えば、モリス水迷路、記憶に関連した摂食行動、空間認識記憶、自発運動性、情動反応性、物体認識)。物質も治療も適用されなかった対照動物におけるレベルと比べて、前記指標のうちの1つまたは複数のレベルまたは機能が改善している場合は、その物質または治療が、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用であることが示唆される。レベルまたは機能は、物質または治療の適用前および適用後に、同じ動物において決定され得る。他の態様において、物質または治療を適用された動物における機能またはレベルは、物質も治療も適用されなかった1匹または複数匹の動物と比較される。
【0110】
本発明はさらに、非ヒト動物にSTZを脳内注射することによって作製されたADの動物モデルに潜在的な治療を適用する段階、および該潜在的な治療法を適用されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能を決定する段階を含む、ADに対する潜在的な治療を試験するための方法であって、該潜在的な治療を適用されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能の改善により、該治療が、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用であることが示される方法も提供する。
【0111】
本発明の別の局面は、非ヒト動物にSTZを脳内注射することによって作製されたADの動物モデルに物質を投与する段階、および該潜在的な治療を適用されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能を決定する段階を含む、ADの発症または進行に対する潜在的な有害作用に関して物質を試験するための方法であって、該物質を投与されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能の低下により、該物質が、ADの発症または進行に対する有害作用を潜在的に有することが示される方法を提供する。
【0112】
スクリーニングされ得る物質には、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、抗体、核酸、有機分子、天然産物、および化学ライブラリーなどが含まれる。
【0113】
以下の実施例は例示的であるが、本発明の方法および組成物を限定しない。臨床的治療において普通に生じ、かつ、当業者には明らかである、様々な条件およびパラメータの他の適切な修正および適合は、本発明の精神および範囲に含まれる。
【0114】
実施例1
一般的方法
組織の供給源
Massachusetts General Hospital Alzheimer Disease Research Center brain bank、the Brown University Brain Bank、およびDuke University Medical Centerのthe Kathleen Price Bryan Brain Bankから死後脳を入手した。AD(BraakおよびBraak病期5〜6)ならびに正常な加齢(BraakおよびBraak病期0〜1)の診断は、臨床歴、ならびに、前頭前皮質、側頭皮質、扁桃体、および海馬のビールショースキー染色切片、ならびにリン酸化Tau、ユビキチン、およびアミロイドβによる免疫染色切片を含む、死後脳の組織病理学的切片を再検討することによって、確認した。(Braak et al., Neurobiol. Aging 18:S85 (1997); Nagy et al., Dement. Geriatr. Cogn. Disord. 9:140 (1998))。海馬、視床下部、および前頭葉(ブロードマンの11野)から得た急速凍結組織(各約100mg)を使用して、RNAおよびタンパク質を抽出した。隣接したホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロックを免疫組織化学的染色のために使用した。合計28例のADおよび26例の対照がこの研究に含まれた。死後期間は、すべて14時間未満であった。リアルタイム定量RT-PCRによってRNA分解が検出された場合には、症例を却下した。
【0115】
リアルタイム定量RT-PCR
製造業者のプロトコールに従ってTRIzol試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて、全RNAを脳組織から単離した。260nmおよび280nmで測定した吸光度からRNA濃度を決定した。AMV First Strand cDNA合成キット(Roche Diagnostics Corporation, Indianapolis, IN)およびランダムオリゴデオキシヌクレオチドプライマーを用いて、RNA(2μg)を逆転写した。リアルタイム定量RT-PCR増幅を用いて、インスリン、IGF-I成長因子、およびIGF-II成長因子、対応するそれらの受容体、インスリン受容体基質(IRSサブタイプ1、2、および4、Tau、アミロイド前駆タンパク質(APP)、グルコース輸送担体4(GLUT4)、ならびにインスリン分解酵素(IDE)のmRNAレベルを測定した。並行反応において測定した18SリボソームのRNAレベルを用いて、各mRNA転写物の相対存在量を算出した。(Xu et al., J. Biol. Chem. 278:26929 (2003); Yeon et al., Hepatology 38:703 (2003))。
【0116】
元のRNA鋳型2.5ngから作製したcDNA、ヒト遺伝子(表1)またはラット遺伝子(表2)に対する遺伝子特異的フォワードプライマーおよびリバースプライマー各300nM、ならびに2×QuantiTect SYBR Green PCR Mix (Qiagen Inc., Valencia, CA)12.5μLを含む反応物25μL中で、PCR増幅を実施した。BIO-RAD iCycler iQ Multi-Color RealTime PCR Detection System (Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて、増幅されたシグナルを継続的に検出した。使用した増幅プロトコールは以下のとおりであった:最初の15分間、95℃で変性および酵素活性化、95℃×30秒、55℃〜60℃×45秒、および72℃×60秒を40サイクル。アニーリング温度は、iCyclerソフトウェアと共に提供される温度勾配プログラムを用いて最適化した。mRNAレベルは、研究される標的配列を含む組換えプラスミドDNA 20ngの10倍希釈系列を用いて作製した回帰直線の式を用いて決定した。mRNAの相対存在量を、個々のmRNAと18Sのng比率から決定した。(Xu et al., J. Biol. Chem. 278:26929 (2003); Yeon et al., Hepatology 38:703 (2003))。
【0117】
(表1)



【0118】
(表2)

【0119】
予備研究において、SYBR Green標識したPCR生成物をアガロースゲル電気泳動法によって評価し、かつ、各アンプリコンの確実性を核酸配列決定によって確認した。特定の標的配列を含む公知の量の組換えプラスミドDNAの希釈系列をPCR反応の標準物質として使用し、かつ、これらの標準物質のCt値から作製した回帰直線を用いて、mRNA存在量を算出した。これらのレベルは著しく高く、かつ本質的に不変であったのに対し、ハウスキーピング遺伝子は疾患の状態と共に変化していたため、18S RNAに関して結果を標準化した。算出したmRNA/18S比率を用いて、統計学的群間比較を実施した。
【0120】
ウェスタンブロット解析
ウェスタンブロット解析を用いて、Akt、ホスホ-Akt、GSK-3β、ホスホ-GSK-3β、Tau、およびβ-アクチンのレベルを評価した。プロテアーゼ阻害剤(1mM PMSF、0.1mM TPCK、1μg/mlアプロチニン、1μg/mlペプスタチンA、0.5μg/mlロイペプチン、1mM NaF、1mM Na4P2O7)およびホスファターゼ阻害剤(2mM Na3VO4)を含む、5体積量の放射性免疫沈降アッセイ法(RIPA)緩衝液(50mM Tris-HCl、pH7.5、1%NP-40、0.25%デオキシコール酸Na、150mM NaCl、1mM EDTA、2mM EGTA)中で、新鮮な凍結組織(約100mg)をホモジナイズした。ビシンコニン酸(BCA)アッセイ法(Pierce, Rockford, IL)を用いて、タンパク質濃度を決定した。タンパク質100μgを含む試料をドデシル硫酸ナトリウム、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)によって分画した。(Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (2000))。タンパク質をImmobilon-P (Millipore Corporation, Bedford, MA)PVDFメンブレンに移し、かつ非特異的結合部位をSuperBlock-TBS (Pierce, Rockford, IL)に吸着させた。1%ウシ血清アルブミンおよび0.05%Tween-20(TBST-BSA)を含むTris緩衝生理食塩水(TBS;50mM Tris、150mM NaCl、pH7.4)中に希釈した1次抗体(0.5〜1μg/ml)と共に、4℃で一晩、メンブレンをインキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合IgG(Pierce, Rockford, IL)、Western Lightning化学発光試薬(Perkin Elmer Life Sciences Inc., Boston, MA)、およびフィルムオートラジオグラフィーを用いて、免疫反応性を検出した。すべてのインキュベーションは、プラットホーム上で穏やかに攪拌して、実施した。Kodak Digital Science Imaging Station (NEN Life Sciences, Boston, MA)を用いて、免疫反応性を定量した。
【0121】
免疫沈降法
免疫沈降法による研究を用いて、PI3キナーゼのp85サブユニットとインスリン受容体基質(IRS)1型および2型の相互作用を検査した。組織試料は、プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤(1μg/mlアプロチニン、0.5μg/mlロイペプチン、1mM PMSF、0.1mM TPCK、1μg/mlペプスタチンA、2mMバナジン酸ナトリウム)を含むRIPA緩衝液中でホモジナイズし、かつ、免疫沈降法アッセイ法で使用する直前に、10mM HEPES、100mM NaCl、1mM EDTA、および0.1%Triton X-100を含むHEPES溶解緩衝液中で希釈した。前処理後、タンパク質250μgを含む試料を、4℃で2時間、常時回転させながら1次抗体と共にインキュベートした。穏やかに回転させながら4℃で2時間インキュベーションすることによって、UltraLink固定化プロテインA/G (Pierce, Rockford, IL)上で免疫複合体を捕捉した。Hepes溶解緩衝液0.5ml中で3回、免疫沈降物を洗浄し、次いでキナーゼアッセイ法でそれらを使用した。(Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (2000))。
【0122】
免疫組織化学的染色
視床下部および側頭新皮質または前頭新皮質の緩衝化したホルマリン固定パラフィン包埋切片(厚さ8μM)を、アビジンビオチン西洋ワサビペルオキシダーゼ法および色素原としてのNovaRedまたはジアミノベンジジン(Vector Laboratories, Burlingame, CA)のいずれかを用いて、インスリン受容体、IGF-I受容体、インスリン、およびIGF-Iに対する抗体で免疫染色した(de la Monte et al., Lab. Invest. 80:1323 (2000))。ヘマトキシリンで切片を対比染色し、光学顕微鏡によって検査した。
【0123】
反応物の供給源
インスリン受容体、IGF-I受容体、IRS-1、IRS-2、およびPI3キナーゼのp85サブユニットに対する抗体は、Cell Signaling (Beverly, MA)から入手した。GSK-3β、Aktに対する抗体、ならびにGSK-3βおよびAktに対するホスホ特異的抗体は、Upstate Biotechnology (Lake Placid, NY)から購入した。プロテインA/Gアガロースは、Pierce Chemical Company (Rockford, IL)から入手した。免疫組織化学的染色用の試薬は、Vector Laboratories, (Burlingame, CA)から購入した。他のすべてのファインケミカルは、CalBiochem (Carlsbad, CA) またはSigma-Aldrich (St. Louis, MO)のいずれかから購入した。
【0124】
統計学的解析
グラフ中に示すデータは、各群の平均値±標準誤差を表す。スチューデントのt検定または事後のTukey-Kramer有意差検定を伴う反復測定分散分析(ANOVA)を用いて、群間比較を実施した。ナンバークランチャー統計システム(Number Cruncher Statistical System)(Dr. Jerry L. Hintze, Kaysville, UT)を用いて、統計学的解析を行った。コンピュータソフトウェアによって得られたP値をグラフ中に示す。P値0.05未満を統計学的に有意とみなした。
【0125】
実施例2
ADにおける成長因子受容体発現の減少
リアルタイム定量RT-PCR研究により、対照脳およびAD脳の両方の大脳皮質、海馬、および視床下部中のインスリン受容体、IGF-I受容体、およびIGF-II受容体に対応するmRNA転写物が示された(図1)。インスリン受容体、IGF-I受容体、およびIGF-II受容体は、前頭皮質より、海馬および視床下部において400倍〜2000倍高いレベルで発現されていた。IGF-I受容体およびIGF-II受容体は、全般的に、インスリン受容体より豊富に発現されており、かつ、対照脳では、IGF-I受容体の方が、IGF-II受容体より豊富に発現されていた。ADにおいて、IGF-IおよびIGF-IIのmRNA転写物は、対照群でもそうであったように、IGF-I受容体がIGF-II受容体より高いレベルで発現されていた前頭皮質以外では、同様のレベルで発現されていた。インスリンおよびIGF-Iの受容体発現レベルは、対照の前頭皮質、海馬、および視床下部において、AD脳の対応する領域より有意に高かったが、IGF-II受容体mRNAの平均レベルは、対照試料およびAD試料において同様であった(図1)。領域による差異および群間差異を目立たせるためにインスリン受容体のデータを再プロットすると、海馬および視床下部におけるインスリン受容体およびIGF-I受容体のmRNA転写物の平均レベルが、ADにおいて、対照脳の対応する領域より8倍〜10倍低いことが明らかになったが、前頭皮質においては、インスリン受容体およびIGF-I受容体のmRNA転写物がADにおいて約40%減少していたため、群間差異はずっと小さかった(図1D)。
【0126】
AD脳中の組織学的に無傷な多くの神経細胞が低レベルの免疫反応性を示すか、または免疫反応性を示さなかったため、インスリン受容体およびIGF-I受容体の発現レベルの低下は、単に神経細胞の脱落に基づいて説明することはできなかった。さらに、疾患の過程の後期まで広範囲の細胞脱落も神経変性も示さない視床下部は、ADにおける受容体mRNA発現および免疫反応性の著しい低下を示した。成長因子受容体の発現レベルの低下は、シグナル伝達を障害し、かつ、脳にインスリン/IGF-I抵抗性を効果的にもたらし得る。ここで、ADの異常は、IGF-I、およびおそらくIGF-IIによって刺激されるメカニズムも明らかに伴うため、インスリンシグナル伝達経路に限定されないことを強調することが重要である。第2の結論は、成長因子によって活性化されるカスケードの異常は、受容体レベルで存在するということである。
【0127】
実施例3
AD脳における局所的な成長因子発現の減少
リアルタイム定量RT-PCR研究により、高齢の対照脳およびAD脳における、インスリン、IGF-I、およびIGF-IIのmRNA発現を検出した。最も高レベルの成長因子発現は、海馬および視床下部において観察され、これらの平均レベルは、前頭皮質より30倍〜50倍高かった(図2)。インスリン遺伝子発現は海馬において最も高かったが、前頭皮質においては検出不可能であった。IGF-I mRNA発現は、視床下部または前頭皮質より、海馬において10倍〜30倍多かった。IGF-II mRNAは、海馬および視床下部において同様に高いレベルで発現され、両方とも、前頭皮質と比べて約40倍高かった。領域に基づくデータ再解析により、海馬において比較的高レベルのインスリンおよびIGF-II、ならびに視床下部および前頭皮質におけるIGF-II>IGF-I>>>インスリンの発現が実証された(図2)。
【0128】
ADでは、海馬および視床下部におけるインスリン遺伝子発現は、対照に比べて有意に減少していた(インスリン遺伝子発現は、前頭皮質においては検出されなかった)。海馬および視床下部中のインスリンmRNA転写物の平均レベルは、対照におけるレベルより4倍〜5倍低かった。ADの視床下部および前頭皮質におけるIGF-I遺伝子発現の平均レベルは、対照脳の対応する領域より有意に(4倍〜5倍)低かった(図2)。最後に、IGF-II mRNAレベルもまた、ADの前頭皮質、海馬、および視床下部において有意に低下していた。やはり、最大の群間差異(4倍〜5倍)が、海馬および視床下部において観察されたが、前頭皮質では、IGF-II発現はADにおいて少し減少(約35%)しただけであった。
【0129】
したがって、局所的なCNS成長因子産生の有意な欠乏もあるため、ADにおいて、問題は、単にインスリン/IGF-I抵抗性ではない。CNS成長因子遺伝子発現の不足により、成長因子シグナル伝達が実質的に障害されることが確実に予想されるはずである。さらに、局所的な成長因子産生にCNSが依存していた場合には、供給が減少することにより、神経細胞死の十分に確立したメカニズムである、成長因子中止(withdrawal)の状態が生じると考えられる。インスリン/IGF-I依存性のCNS機能の完全性を維持するためには、受容体感受性もしくは発現レベルのいずれかが増大されなければならないか、またはCNSによる末梢血からの成長因子取込みを増加させるためのメカニズムが活性化もしくは増強されなければならない。1)関連する成長因子も影響を受けているため、ADの問題は、単にインスリン抵抗性ではないこと;ならびに2)インスリン、IGF-I、およびおそらくはIGF-II抵抗性は、CNS成長因子産生の障害、および対応する受容体遺伝子の下方調節またはそれらの受容体を有する神経細胞の進行性の脱落のいずれかに関連した問題から生じることが、強調されるべきである。
【0130】
実施例4
AD脳における神経細胞のインスリン、IGF-I、インスリン受容体、およびIGF-I受容体の免疫反応性の低下
14例のAD脳および10例の対照に由来する前頭皮質、海馬、および視床下部のホルマリン固定パラフィン包埋切片を免疫組織化学的染色することによって、インスリン、IGF-I、および対応する受容体の細胞分布を検査した。インスリンポリペプチドまたはIGF-Iポリペプチドに対応する免疫反応性が、神経細胞および神経突起において観察されたのに対し、インスリン受容体およびIGF-I受容体は、実質血管および軟膜血管の両方の神経細胞、神経網神経突起、グリア、および平滑筋細胞において発現されることが発見された。リアルタイム定量RT-PCRの結果に一致して、インスリン陽性神経細胞、IGF-I陽性神経細胞、インスリン受容体陽性神経細胞、およびIGF-I受容体陽性神経細胞は、正常な高齢の対照海馬試料と比較して、ADにおいて量が少なかった(図3)。AD症例における神経細胞標識の減少は、神経細胞の脱落、ならびに成長因子および対応する成長因子受容体の神経細胞による発現の減少に起因していた。後者は、組織学的に完全な外観の神経細胞において観察された陰性の免疫染色反応から明らかであった(図3)。一方、血管中の成長因子受容体標識の程度は、AD試料および対照試料において同様であった。
【0131】
免疫組織化学的染色研究により、CNS神経細胞における成長因子および成長因子受容体の両方の発現が実証された。成長因子免疫反応性は主に神経細胞において確認されたが、グリアを含む他の細胞型もまた、これらの同じ成長因子ならびに対応する受容体を発現し得る。ADにおいて観察される、対照脳と比べた成長因子および受容体の発現プロファイルの変化の1つの有望な説明は、細胞脱落と組み合わさったグリア細胞活性化がある役割を果たし得るというものである。インスリンおよびIGF-Iの受容体発現は、血管系、ならびに脈絡叢上皮細胞、神経細胞、およびグリアにおいて検出された。血管系におけるインスリン/IGF-I受容体発現は以前に報告されており、CNS血管が循環成長因子のレベルの変化に応答性であり得ることが示唆されている。血管における成長因子受容体発現に関して、AD群および対照群の間に明らかな差異は無く、インスリンまたはIGF-Iの末梢血レベルの変化が、正常な加齢と比べてADにおいて、より大きくCNS機能に不利な影響を及ぼす可能性は無いことが示唆された。その代わりに、局所的な内因性CNS産生が、成長因子によるCNS神経細胞機能の調節に関して最も重要である可能性がある。
【0132】
実施例5
初代培養神経細胞中のインスリン、IGF-I、IGF-II、および対応する受容体のmRNA転写物の検出
CNSにおける神経細胞成長因子および成長因子受容体の発現の発見を確認するために、ラット遺伝子に特異的なプライマー(表2)を使用するリアルタイム定量RT-PCRにより、培養したCNS神経細胞中の同じmRNA転写物のレベルを測定することによって、調査を拡大した。以前に説明されているように、胎児ラットの大脳皮質、視床下部、および海馬、ならびに生後ラットの小脳顆粒神経細胞から初代培養神経細胞を作製した(de la Monte et al., Cell. Mol. Life Sci. 58:1950 (2001); de la Monte et al., Cell. Mol. Life Sci. 59:882 (2002); Xu et al., J. Biol. Chem. 278:26929 (2003); Chen et al., J Alzheimers Dis. 5:209 (2003); Nillni et al., Endocrinology 137:5651 (1996))。採取時、これらの神経細胞は有糸分裂後であり、かつ分化細胞に特徴的なプロセスを多数有していた。リアルタイム定量RT-PCR研究により、培養された神経細胞におけるインスリン、IGF-I、IGF-II、インスリン受容体、IGF-I受容体、およびIGF-II受容体のmRNA転写物の発現が実証された(図4)。インスリン受容体、IGF-I受容体、およびIGF-II受容体は、大脳に由来する神経細胞と比較すると、小脳顆粒神経細胞において著しく高いレベルで発現された(図4A〜4C)。大脳構成物のうちで、インスリン受容体およびIGF-I受容体は、皮質神経細胞において、より高いレベルで発現され、次に視床下部神経細胞が続き、海馬神経細胞のインスリン受容体およびIGF-I受容体発現レベルは最も低かった。皮質培養物、海馬培養物、および視床下部培養物において、IGF-II受容体発現は同様に低レベルであったが、皮質神経細胞において最も高レベルであった。成長因子受容体発現の領域による差異を目立たせるためにデータをさらに解析することにより、小脳においては、インスリン受容体発現が最も大量であり、続いてIGF-I受容体、次いでIGF-II受容体の順であるのに対し、皮質および視床下部の神経細胞においては、受容体の存在量の順序は、IGF-I>IGF-II>インスリンであることが実証された(図4Dおよび4E)。海馬神経細胞においては、IGF-II受容体のmRNAが最も大量であり、続いてインスリン受容体、次いでIGF-I受容体の順であった。
【0133】
インスリン、IGF-I、およびIGF-IIの遺伝子は、海馬、視床下部、または大脳皮質から単離された神経細胞と比較すると、小脳神経細胞において有意に高いレベルで発現されていた。研究した大脳構成物のうちで、インスリン遺伝子発現は、海馬神経細胞において最も高く、続いて視床下部神経細胞の順であった(図5A)。皮質神経細胞におけるインスリン遺伝子発現は非常に低かったが、それでもなお検出可能であった。一方、IGF-I mRNA転写物は、海馬および視床下部の神経細胞において比較的低いレベルで発現され、かつ、培養された皮質神経細胞において高レベルで発現された(図5B)。IGF-II遺伝子発現は、海馬神経細胞において最も高く、続いて皮質神経細胞、および視床下部神経細胞の順であった(図5C)。成長因子遺伝子発現の領域による差異をさらに解析することにより、IGF-IIが、小脳神経細胞および海馬神経細胞の両方において最も大量に発現された成長因子であり、続いてIGF-Iおよびインスリンの順であることが明らかになった。皮質神経細胞および視床下部神経細胞において、成長因子のmRNA存在量の順序は、IGF-I>IGF-II>インスリンであった(図5Dおよび5E)。
【0134】
実施例6
インスリン/IGF-I受容体の下流の重要なシグナル伝達分子の解析
インスリンおよびIGF-Iは、細胞表面受容体へのリガンド結合および付随する内因性受容体チロシンキナーゼの活性化によって開始される複雑な細胞内シグナル伝達経路を活性化することによって、それらの作用を媒介する(Ullrich et al., Nature 313:756 (1985); Myers et al., Trends Biochem. Sci. 19:289 (1994); O'Hare et al., Int J Biochem 22:315 (1990))。インスリン/IGF-I受容体チロシンキナーゼは、IRS分子をリン酸化する。(Myers et al., Trends Biochem. Sci. 19:289 (1994); Sun et al., Nature 352:73 (1991); White et al., Nature 318:183 (1985); Sun et al., Mol. Cell. Biol. 13:7418 (1993))。チロシルリン酸化IRS-1(PY-IRS-1)は、IRS-1のC末端領域に位置する特異的なモチーフを介して、src-ホモロジー2(SH2)を含む下流の分子と相互作用し、それに付随してErk MAPKおよびPI3キナーゼ/Aktを活性化し、かつGSK-3βを阻害することによって、成長、代謝機能、および生存を媒介する細胞内シグナルを伝達する。(Giovannone et al., Diabetes Metab. Res. Rev. 16:434 (2000))。これに関して、PY-IRS-1がp85に結合することにより、グルコース輸送が刺激され、かつAkt/プロテインキナーゼBを活性化するか、またはGSK-3βを阻害することによって、アポトーシスが抑制される(Kulie et al., Mol. Cell. Biol. 17:595 (1997); Dudek et al., Science 275:661 (1997); Burgering et al., Nature 376:599 (1995); Delcommenne et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:11211 (1998); Kido et al., J. Clin. Endocrinol. Metab. 86:972 (2001))。Aktキナーゼは、GSK-3βおよびBADをリン酸化して、それらを不活性状態にすることによって、アポトーシスを抑制する。(Delcommenne et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:11211 (1998); Datta et al., Cell 91:231 (1997); Kennedy et al., Mol. Cell. Biol. 19:5800 (1999); Brunet et al., Cell 96:857 (1999))。低レベルのAktキナーゼ、および高レベルのGSK-3β活性または活性化BADは、神経細胞におけるアポトーシスの増加およびミトコンドリア機能不全に関連している。BADは、ミトコンドリア膜透過性を乱し、かつ、カスパーゼを活性化するシトクロムcの放出を促進する。(Kennedy et al., Mol. Cell. Biol. 19:5800 (1999); Brunet et al., Cell 96:857 (1999))。ミトコンドリア膜透過性の混乱により、ミトコンドリアDNAの損傷を引き起こし、ミトコンドリアの機能に障害を与え、かつプロアポトーシスのカスケードを活性化する、細胞のフリーラジカルが増加し得る。(Jaeschke et al., Toxicol. Sci. 65:166 (2002); Pastorino et al., J. Biol. Chem. 273:7770 (1998))。
【0135】
インスリン/IGF-Iによって活性化されるシグナル伝達経路の完全性を検査するために、IRS-1、IRS-2、およびIRS-4の遺伝子発現を測定した。IRS-3は、げっ歯動物脂肪組織においてしかアイソフォームが発現されないため、検査しなかった。IRSを介した下流のインスリン/IGF-Iシグナル伝達によって活性化される重要なシグナル伝達経路のうちの1つは、IRSタンパク質のカルボキシル末端領域内に位置する特異的なモチーフにPI3キナーゼのp85サブユニットが結合することによって媒介されるPI3キナーゼ-Aktであるため、本発明者らは、ADにおけるこの経路の完全性を調査した。(Giovannone et al., Diabetes Metab. Res. Rev. 16:434 (2000))。これは、チロシンリン酸化(PY)インスリンおよびIGF-II受容体のレベル、インスリンおよびIGF-Iタンパク質の発現、ならびにPI3キナーゼのp85サブユニットとPY-IRSの相互作用の程度を、免疫沈降法/ウェスタンブロット解析によって検査することによって遂行した(図6)。Akt、ホスホ-Akt、GSK-3β、ホスホ-GSK-3β、およびβ-アクチン(対照)のレベルを、デジタル画像濃度測定を伴う直接的ウェスタンブロット解析によって評価した(図7)。さらに、tauおよびアミロイド前駆タンパク質のmRNAレベルを測定した(図8)。これは、両方の分子がADにおいて異常に発現または処理されており、かつ以前の研究により、tauの発現はインスリン/IGF-I刺激によって調節されるが、APP発現は調節されないことが実証されていたためである(de la Monte et al., Cell. Mol. Life Sci. 60:2679 (2003); Hong et al., J. Biol. Chem. 272:19547 (1997))。前頭皮質と比較して成長因子および成長因子受容体の発現が比較的高レベルであることを考慮して、解析は、海馬領域および視床下部領域に焦点を合わせた。
【0136】
IRS-1のmRNA転写物は、IRS-2またはIRS-4より有意に豊富であった(P<0.001)。IRS-4は次に多く、IRS-2は、非常に低レベルで発現された(図6A〜6C)。ADにおいて、前頭皮質、海馬、および視床下部のIRS-1 mRNAレベルは、対照と比べて有意に低かったが、IRS-4発現は、AD試料および対照試料において同様であった。免疫沈降法/ウェスタンブロット解析により、チロシンリン酸化インスリン受容体およびIGF-I受容体のレベルの有意な低下、ならびにインスリン受容体およびIGF-I受容体の発現の減少が実証された(図6E〜6G)。予想されたように、チロシンリン酸化インスリン/IGF-I受容体および受容体タンパク質発現のレベルの低下は、対照の海馬組織および視床下部組織と比べた、AD中のp85結合IRS-1のレベルの有意な低下に関連しており(図6D)、IRS分子を介した下流のシグナル伝達の障害を反映していた。IRS-2およびIRS-4とp85との相互作用は、発現レベルが低いために、ウェスタンブロット解析によってこれらの分子を検出することが困難であるため、追究しなかった。
【0137】
インスリンおよびIGF-Iによって刺激される生存シグナル伝達メカニズムのさらなる調査を、海馬組織試料および視床下部組織試料を用いて実施した。これらを使用したのは、前頭皮質と比較して相対的に高いレベルで成長因子および成長因子受容体を発現するためである。PI3キナーゼの下流の生存シグナル伝達は、ホスホ-Aktおよびホスホ-GSK-3βのレベルの上昇に関連している。これは、リン酸化により、Aktキナーゼが活性化され、かつGSK-3β活性が抑制されるためである。濃度測定を伴うウェスタンブロット解析により、海馬組織において、ホスホ-Akt(図7A)およびホスホ-GSK-3β(図7C)の平均レベルは有意に低下しているが、全Akt(図7B)および全GSK-3β(図7D)タンパク質の平均レベルは同様であることが実証された。同様の結果が、海馬組織試料を用いて得られた。ホスホ(phosphor-)Aktおよびホスホ-GSK-3βの相対的に低いレベルは、ADにおいて構成的に低レベルなAktキナーゼ活性および高レベルなGSK-3β活性を反映している。一方、β-アクチン発現は、高齢の対照脳に比べて、ADにおいて有意には減少していなかったた(図7E)。
【0138】
tau発現はインスリン/IGF-Iによって調節され、かつ、Aβ代謝回転は、インスリン分解酵素(IDE)によって部分的に媒介されるため、tauおよびIDEのmRNAレベルを測定するための研究を実施した。さらに、グルコース取込みおよび利用は、GLUT4を含むグルコース輸送担体分子によって部分的に調節されており、かつ、APP発現の増大が、脳におけるAβ蓄積の原因であり得るため、リアルタイムRT-PCR研究を拡張して、海馬組織および視床下部組織におけるGLUT4およびAPPのmRNA転写物のmRNAレベルを測定した。これらの研究により、対照症例と比べて、ADにおいて有意に低いレベルのtau mRNA転写物および有意に高いレベルのAPP mRNA転写物が実証された(図8A〜8D)。一方、GLUT4のmRNA転写物においてもIDEのmRNA転写物においても、AD群と対照群の間で平均レベルの有意な差異は観察されなかった(図8E〜8H)。
【0139】
これらの研究により、IRS-1 mRNAが、IRS-2またはIRS-4より大量に発現されており、かつ、ADにおいては、IRS-1 mRNAのレベルが有意に低下していることが実証された。IRS-1発現の減少のメカニズムは公知ではないが、神経細胞株における探査的研究により、IRS-1発現が、インスリンおよびIGF-Iの刺激によって調節されていることが実証された(Carter, et al., 2004, 未発表)。IRS-1遺伝子発現レベルの著しい低下は、インスリンによって刺激される成長および生存のシグナル伝達を障害されたことが原因で脳および体重の減少を示す、IRS-1およびインスリン受容体のノックアウトマウスモデルを連想させる。(Schubert et al., J. Neurosci. 23:7084 (2003); Doublier et al., Growth Horm. IGF Res. 10:267 (2000); Nishiyama et al., Gene 141:187 (1994))。さらに、2型糖尿病およびX症候群に罹患しているヒトのIRS-1発現レベルは、有意に低く、これは、PI3キナーゼおよびAktを介する下流のインスリンシグナル伝達の障害に関連している。(Smith et al., Ann. NY Acad. Sci. 892:119 (1999))。
【0140】
インスリンおよびIGF-Iは、IRS分子を介して生存促進および成長促進のシグナル伝達を伝達するため、IRS発現レベルの低下は、CNSにおける成長因子抵抗性の一因となり得る。成長因子、成長因子受容体、およびIRS遺伝子発現のレベルの低下に一致して、下流のシグナル伝達経路のさらなる解析により、(p85結合IRS-1のレベルの低下によって反映される)IRSに関連したPI3キナーゼ活性のレベルの低下、(Akt活性の低下を反映する)ホスホ-Aktのレベルの低下、および(GSK-3β活性の増大を反映する)ホスホ-GSK-3βのレベルの低下が実証された。したがって、成長因子および受容体の発現の障害は、ADにおける生存シグナル伝達メカニズムの障害に関連していた。
【0141】
以前の研究により、IGF-Iおよびインスリンが神経細胞におけるtau mRNA発現を調節することが実証されているため(de la Monte et al., Cell. Mol. Life Sci. 60:2679 (2003))、ADにおけるtau mRNAのレベル低下の発見は、関心対象である。したがって、低レベルのtau mRNAは、インスリンおよびIGF-Iシグナル伝達メカニズムの障害と相互に関係している。さらに、GSK-3βは、過ホスホtauを司る主要なキナーゼのうちの1つであるため、AD脳におけるホスホtauレベルの上昇は、GSK-3β活性のレベルが付随して上昇するインスリン/IGF-Iシグナル伝達の障害も反映し得る。(Hong et al., J. Biol. Chem. 272:19547 (1997))。AD脳におけるAPP mRNAレベルの上昇は、脳におけるアミロイドβ沈着の増加に関する転写に基づくメカニズムを示唆するため、関心対象である。この結果は、APP発現が酸化ストレスと共に増加するという以前の証明(Chen et al., J Alzheimers Dis.5:209 (2003))、およびアミロイドβレベルの上昇は神経毒性であり得るという以前の証明(Lorenzo et al., Ann. NY Acad. Sci. 777:89 (1996); Niikura et al., J. Neurosci. Res. 70:380 (2002); Tsukamoto et al., J. Neurosci. Res. 73:627 (2003))にも一致している。インスリンシグナル伝達の障害は、神経細胞における酸化ストレスの増大およびミトコンドリアの機能不全に既に関係付けられている(de la Monte et al., Cell. Mol. Life Sci. 59:882 (2002); Hoyer et al., Ann. NY Acad. Sci. 920:256 (2000); Hoyer et al., Ann. NY Acad. Sci. 893:301 (1999))。さらなる研究により、インスリン/IGF-Iシグナル伝達メカニズムにおけるADに関連した異常が、GLUT4の発現の減少もIDEの発現の減少も伴わないことが実証された。全体的に見れば、これらの結果により、インスリン/IGF-Iによって刺激される生存シグナル伝達の障害および付随する長期的酸化ストレスが、ADの主要な異常に相当することが示唆される。
【0142】
実施例7
ADの進行中の成長因子受容体発現の減少
AD重症度が様々な程度である死後脳組織を検査することによって、成長因子受容体発現の減少をさらに解析した。前前頭皮質から得た急速凍結組織(各約100mg)を使用して、RNAおよびタンパク質を抽出した。試料を以下の4群に分けた:対照(Braak0〜1)、Braak2〜3、Braak4〜5、およびBraak6。リアルタイム定量RT-PCR研究により、対照脳およびAD脳の両方から得た前頭皮質中のインスリン受容体、IGF-I受容体、およびIGF-II受容体に対応するmRNA転写物が示された(図X)。Braak0〜1の症例のうちでは、IGF-I受容体のmRNA転写物が最も大量であり、IGF-II受容体遺伝子よりほぼ10倍多く、インスリン受容体より500倍多かった。Braak病期/ADの神経変性の重症度が進行するにつれ、インスリンおよびIGF-Iの受容体mRNAの平均レベルは低下し、かつ、疾患重症度がBraak2〜3である脳においてさえ、対照より有意に低かった(図9Aおよび9B)。インスリンおよびIGF-Iの受容体発現の平均レベルの最低値は、ADのBraak6の脳において観察された。したがって、インスリンおよびIGF-Iの受容体mRNAの平均レベルは、Braak4〜5およびBraak6に比べてBraak2〜3群において有意に高かった。IGF-II受容体発現は、対照と比べて、AD群のいずれにおいても有意に変化していなかった(図9C)。
【0143】
ADにおいてインスリンおよびIGF-Iの受容体発現が減少しているという知見は、対照脳と比べて、AD後期に両方のmRNA転写物のレベルが有意に低下していることを実証する以前の研究からの結果と一致している。この研究では、インスリンおよびIGF-Iの受容体がCNS神経細胞において発現されており、かつ、ADにおいては、受容体発現の減少が、神経細胞脱落およびそれらの遺伝子の下方調節の両方に関係しているという証拠も得られた。これらの発見は、本明細書において、インスリンおよびIGF-Iの受容体を有する神経細胞の脱落は、AD神経変性の過程の早期に生じるが、大半の急な減少は、Braak病期6または疾患末期で明らかであることを示唆する。成長因子受容体発現レベルの低下は、シグナル伝達を障害し、かつ、脳にインスリン/IGF-I抵抗性を効果的に引き起こし得る。重要なことには、これらの結果により、ADの異常は、IGF-Iによって刺激されるメカニズムも明らかに伴うため、インスリンシグナル伝達経路に限定されないという証拠が提供される。
【0144】
実施例8
ADの進行中の成長因子発現の減少
リアルタイム定量RT-PCR研究により、高齢の対照脳およびAD脳中のインスリン、IGF-I、およびIGF-IIポリペプチドのmRNA転写物を検出した(図10A〜10C)。Braak0〜1の脳においては、IGF-II mRNAのレベルが最も高く、続いてインスリン、次いでIGF-Iの順であった。インスリンおよびIGF-II両方の遺伝子発現の著しく、かつ有意な減少が、Braak病期2〜3の症例において観察され、かつ、これらのレベルは、ADの重症度が進行するにつれさらに低下したが、Braak2〜3と比べて有意には低下しなかった(図10Aおよび10C)。IGF-I mRNA発現は、Braak2〜3群ではわずかしか減少しなかったが、Braak4〜5群およびBraak6群の両方においては、対照と比べて実質的かつ有意に減少した(図10B)。
【0145】
これらの研究により、AD神経変性の重症度の進行に伴う、成長因子遺伝子発現の漸進的な減少が実証された。したがって、局所的なCNS成長因子産生の欠乏もあるため、ADにおいて、問題は、単にインスリン/IGF-I抵抗性ではない。重要なことには、レベルが有意に低下した成長因子遺伝子発現は、Braak病期2〜3の脳において検出され、疾患の過程の早期に異常が生じることが示唆された。
【0146】
成長因子遺伝子発現の疾患重症度に伴う減少により、これらの異常が疾患の進行と共に悪化することが示唆される。少なくともインスリンおよびIGF-IIに関しては、成長因子遺伝子発現の相対的減少は、対応する受容体発現よりも急であり、これは、局所的な成長因子中止が、成長因子受容体を有する神経細胞の脱落の前に起こり得ることを示唆する。局所的な成長因子遺伝子発現の不足により、CNSにおける成長因子シグナル伝達が実質的に障害され得る。さらに、局所的な成長因子産生にCNSが依存していた場合には、供給が減少することにより、神経細胞死の十分に確立したメカニズムである、成長因子中止の状態が生じると考えられる。インスリン/IGF-I依存性のCNS機能の完全性を維持するためには、受容体感受性もしくは発現レベルのいずれかを増大させなければならないか、またはCNSによる末梢血からの成長因子取込みを増加させるためのメカニズムを活性化もしくは増強しなければならない。
【0147】
実施例9
ADの進行中のTauおよびアミロイド前駆タンパク質の発現変化
リアルタイムRT-PCR研究により、tau mRNA転写物が、Braak0〜1の対照症例において最も大量であり、かつ、これらのレベルは、Braak病期、すなわちAD神経変性の重症度が進行するにつれ、徐々に、かつ有意に低下し(図11A)、インスリンおよびIGF-Iポリペプチド遺伝子に関して観察された傾向と一致していることが発見された。Braak病期0〜1群のAPP mRNA平均レベルが最も低かった。Braak病期2またはそれ以降の脳において、APP mRNAレベルは同様に上昇しており、対照より約4倍高かった(図11B)。
【0148】
以前の研究により、神経細胞のtau mRNA発現が、IGF-Iおよびインスリン刺激によって調節されていることが実証されていたため、ADにおいて観察されるtau発現の減少は、関心対象である。したがって、ADに関連したtau mRNAの減少は、ADにおける、レベルが有意に低下したインスリンおよびIGF-Iポリペプチドならびに受容体の遺伝子発現と相関があった。ADの病期に関連したインスリンおよびインスリン受容体の発現の減少が、tauに関する傾向に類似していることは、特に注目に値した。
【0149】
本研究は、Braak病期2〜3の疾患においてAPP発現が有意に高く、この異常がADの過程の早期に生じることが示唆されることを示す。これに関して、AD脳において一般的であるアミロイドβ沈着の増加は、高レベルのAPP mRNAによって媒介され得る。これは、より大量の転写物により、潜在的に異常な酵素切断およびタンパク質のプロセッシングのための付加的な基質が提供されると考えられるためである。以前の研究により、APPの発現および切断が酸化ストレスと共に増加すること、ならびにインスリンシグナル伝達の障害が、神経細胞における酸化ストレスおよびミトコンドリアの機能不全を引き起こすことが実証された。高レベルのアミロイドβは神経毒性であり得るため、酸化ストレスによって誘導されたAPP発現は、アミロイドβの蓄積に続いて、二次的にAD神経変性カスケードを増強し得る。全体的に見れば、これらの結果により、インスリン/IGF-Iによって刺激されるシグナル伝達の障害および付随する長期的酸化ストレスが、ADの過程の早期に発現する主要な異常に相当することが示唆される。
【0150】
実施例10
ADの進行中の成長因子受容体へのリガンド結合の解析
インスリンおよびIGF-Iは、対応する細胞表面受容体へのリガンド結合によって開始される複雑な細胞内シグナル伝達経路を活性化することによって、それらの作用を媒介する。したがって、効果的なリガンド結合はシグナル伝達カスケードに極めて重要であり、かつ、神経細胞生存の減少、GSK-3β活性化の増大、およびtauリン酸化の増加を含む、ADに罹患した脳において既に確認されているインスリンシグナル伝達障害の下流の影響のうちの多くは、CNSにおけるインスリン結合の減少によって媒介され得る。成長因子シグナル伝達のこの特徴を検査するために、トレーサーとしての[125I]標識したインスリン、IGF-I、またはIGF-II、および受容体供給源としての死後の前頭葉組織の膜抽出物を用いて、競合的な平衡および親和性結合アッセイ法を実施した。
【0151】
プロテアーゼ(1mM PMSF、0.1mM TPCK、1μg/mlアプロチニン、1μg/mlペプスタチンA、0.5μg/mlロイペプチン、1mM NaF、1mM Na4P2O7)およびホスファターゼ(2mM Na3VO4)阻害剤を含む、5体積量の放射性免疫沈降アッセイ法(RIPA)緩衝液(50mM Tris-HCl、pH7.5、1%NP-40、0.25%デオキシコール酸Na、150mM NaCl、1mM EDTA、2mM EGTA)中で、新鮮な凍結組織(約100mg)をホモジナイズした。ビシンコニン酸(BCA)アッセイ法(Pierce, Rockford, IL)を用いて、タンパク質濃度を決定した。予備研究により、20%の特異的結合を実現するのに必要なタンパク質量および放射性標識リガンド濃度を決定した。
【0152】
タンパク質200μgを用いてインスリン受容体結合アッセイ法を実施した。IGF-I結合アッセイ法には試料当たりタンパク質25μgを要し、かつ、IGF-II受容体結合アッセイ法は、タンパク質10μgを用いて実施した。平衡結合アッセイ法を用いて、AD病期の重症度に関して成長因子結合レベルを評価した。過剰な非放射性リガンドの存在下または不在下で、一定量の放射性リガンドと共に4℃で一晩、タンパク質試料をインキュベートし、次いで、全結合に対応する値から、非特異的結合に関して得られた値を引くことにより、正味の特異的結合を決定することによって、これを遂行した。全結合を測定するために、個々のタンパク質試料を、結合緩衝液(100mM HEPES、pH8.0、118mM NaCl、1.2mM MgSO4、8.8mMデキストロース、5mM KCl、1%ウシ血清アルブミン)および100nCi/ml[125I](2000Ci/mmol;50pM)のインスリン、IGF-I、またはIGF-IIを含む反応物100μl中でインキュベートした。非特異的結合を測定するために、0.1μM非標識(コールド)リガンドを添加して、前述したようにレプリケート試料を調製した。
【0153】
AD病期の重症度に関して最高レベル(最大)の結合および結合親和力を評価するために、飽和結合アッセイ法を実施した。Braak病期の群当たり8〜12例の脳から得た試料を等しい比率でプールし、かつ結合カーブを作製するのに使用した。BCAアッセイ法を用いて、プールしたホモジネートのタンパク質濃度を決定した。デュプリケートの試料を、結合緩衝液および0.0031〜1μCi/ml[125I](2000Ci/mmol)のインスリン、IGF-I、またはIGF-IIを含む反応体積100μl中でインキュベートした。非特異的結合を測定するために、デュプリケートな反応物を、同濃度の放射性標識リガンド、さらに0.1μMの非標識(コールド)競合的リガンドと共にインキュベートした。これらのデータをグラフ化し、ソフトウェアGraphPad Prism4を用いて解析して、Bmax、kD(解離定数)、ならびにそれらの標準偏差および95%信頼区間を算出した。
【0154】
反応は、4℃で16時間、プラットホーム上で穏やかに攪拌しながら1.5ml Eppendorff試験管中で実施した。次いで、0.15%ウシγグロブリン(100mM Tris-HCl、pH8.0中で調製)500μl、続いて37.5%ポリエチレングリコール6000(PEG-6000;100mM Tris-HCl、pH8.0中で調製)400μlを各チューブに添加し、試料を入念にボルテックスし、かつそれらを氷上で少なくとも2時間インキュベートすることによって、結合した放射性標識トレーサーリガンドを沈殿させた。15,000×g、室温で15分間、これらの試料を遠心分離することによって、沈殿物を回収した。未結合(遊離)リガンドを含む上清画分の全体をそのまま、個別のγ計数試験管(Sarstedt)に移した。沈殿物を含むEppendorff試験管の先端部を切断し、別々のγ計数試験管中に直接放出した。LKB CompuGamma CS Gammaカウンター中で各1分間、これらの試料を計数した。非特異的結合のCPMまたはfmol、すなわち、非放射性リガンドの存在下で結合された量を、(非標識競合的リガンドの不在下で)結合された全CPMまたはfmolから引くことによって、特異的結合を算出した。データが2サイトモデルではなく1サイトモデルに適合することを判定した後、これらの結果を非直線回帰によって解析して、ソフトウェアGraph Pad Prism 4 (GraphPad Software, Inc., San Diego, CA)を使用する、飽和結合および結合親和力を測定するために実施されるスキャッチャード解析を用いて、飽和結合(Bmax)および結合親和力(kD)を算出した。
【0155】
平衡結合研究により、AD脳に比べて対照脳(Braak0〜1)において、インスリン受容体への特異的結合のレベルが有意に高いことが実証された。Braak病期2〜3の脳において結合の有意な減少が検出され、かつ、ADの重症度が進行するにつれ、インスリン結合の平均レベル(fmol/mgタンパク質)はさらに低下した(図12A)。IGF-I結合もまた、ADのBraak2〜3病期または後期と比較して、Braak0〜1において有意に多かった。しかしながら、ADの進行に伴う受容体発現のさらなる減少が中程度であるか、または無いことと一致して、IGF-I結合の平均レベル(fmol/mg)もまた、神経変性の重症度と共に有意には低下しなかった(図12B)。IGF-II結合に関するADに関連したプロファイルは、インスリンに関して既に説明されているものに、より類似していた。対照脳(Braak0〜1)のIGF-II結合の平均レベル(fmol/mg)は、他のすべてのAD群と比較して、有意に高かった(図12C)。さらに、AD神経変性の進行と共に、IGF-II結合の平均レベルは低下し、その結果、Braak6の症例において最も低いレベルが観察された。IGF-II結合は、対照脳と比べて、AD脳において減少していなかった。その代わりに、Braak2〜3またはさらに進行した病期のADに罹患した脳において、特異的結合の平均レベルの有意な上昇が検出された(図12C)。インスリン結合に関して得られた調査結果と対照的に、ADの重症度の進行に伴うIGF-I結合の漸進的な減少は、観察されなかった(図12B)。
【0156】
スキャッチャード解析を用いて、受容体発現の減少に加えて、リガンド結合のレベルの低下が、受容体結合親和力の変化に関連しているかどうかを判定した。スキャッチャードプロットにより、すべてのADにおいて、対照群に比べてインスリン、IGF-I、およびIGF-IIに対するBmax(最高レベル)結合が低いことが明らかになった(図13A〜13Lおよび表3〜5)。ADの重症度の進行に伴うBmaxレベルの漸進的な低下の傾向は、インスリンおよびIGF-IIの両方について統計学的に有意であった(P<0.001)。ソフトウェアGraphpad Prism4を用いて、受容体結合親和力(kD)を算出した。解析により、ADにおいて、対照脳に比べてより高いインスリン、IGF-I、およびIGF-II受容体の結合親和力(低いkD)が示された。さらに、相関解析により、Braak病期とインスリンまたはIGF-IIの結合親和力の間の有意な負の関連が明らかになった。すなわち、進行度の高いADは、レベルのより低い最大/飽和結合およびより高い結合親和力(低いkD)と相関関係があった(表3〜5)。一方、これらの傾向線は、IGF-I受容体のBmaxまたはkDに関しては、統計学的に有意ではなかった。
【0157】
(表3) 脳におけるインスリン結合のスキャッチャード解析

*ピアソンの相関解析検定による、AD病期に関連したBMAXの低下(最高レベルの結合の減少)およびKDの低下(親和力の増加)のP値が0.001未満。
【0158】
(表4) 脳におけるIGF-I結合のスキャッチャード解析

*ピアソンの相関解析検定による、AD病期に関連したBMAXの低下(最高レベルの結合の減少)およびKDの低下(親和力の増加)のP値が0.001未満。
【0159】
(表5) 脳におけるIGF-II結合のスキャッチャード解析

*ピアソンの相関解析検定による、AD病期に関連したBMAXの低下(最高レベルの結合の減少)およびKDの低下(親和力の増加)のP値が0.001未満。
【0160】
これらの研究により、ADにおけるインスリン受容体、IGF-I受容体、およびIGF-II受容体に対する飽和(最大)結合は、対照脳に比べて有意に減少していることが実証された。インスリンおよびIGF-IIの結合レベルは、ADの重症度の段階に伴って低下したのに対し、IGF-I結合の平均レベルは、AD神経変性の様々な段階を通して同様に低下した。インスリン、IGF-I、およびIGF-IIデータのスキャッチャード解析によって、ADにおいて、より低レベルの飽和結合および受容体発現と共に、より高い結合親和力(より低い解離定数kD)が実証された。したがって、ADにおけるインスリン、IGF-I、およびおそらくはIGF-IIのシグナル伝達メカニズムの障害は、結合親和力の低下ではなく、受容体発現の減少ならびにリガンドの局所的な利用可能性の低下によって媒介される可能性が高い。
【0161】
実施例11
ADの進行中のコレステロール含有量の変化
膜コレステロール含有量は、細胞表面受容体へのリガンド結合に影響し得る。例えば、膜中のコレステロール含有量の減少または増加は、成長因子結合およびシグナルトランスダクションの変化および障害に関連付けられている。観察された受容体結合親和力の差異が、膜コレステロール含有量と相関していたかどうかを判定するために、Amplex Redアッセイキット(Molecular Probes, Eugene, Oregon)を製造業者のプロトコールに従って用いて、前頭葉抽出物中のコレステロールレベルを測定した。手短に言えば、前述したように、RIPA緩衝液中で組織ホモジネートを調製した。これらの試料を1×反応緩衝液(キットと共に供給される)中で段階的に希釈し、かつ、150μM Amplex Red試薬、1U/ml西洋ワサビペルオキシダーゼ、1U/mlコレステロールオキシダーゼ、および0.1U/mlコレステロールエステラーゼと共に、最終反応体積100μl中でインキュベートした。反応物を37℃で30分間インキュベートし、かつ、Fluorocountマイクロプレートリーダー(Packard Instrument Co., Meriden, CT) (Ex 560nm/Em 590nm)中で蛍光測定した。キットと共に提供されるコレステロール標準物質を用いて、同時に検量線を作成した。試料中のタンパク質濃度に対してコレステロールのレベルを標準化した。予備研究により、測定されるコレステロールレベルおよび群間差異は、製造業者によって示されるように、RIPA緩衝液抽出物と比較して脂質抽出物において同じであることが実証された。したがって、脂質抽出物を用いて分析を実施する必要はなかった。これらの研究により、Braak病期0〜1または2〜3の脳に対して、Braak病期4〜5または6の脳において、コレステロールのレベルが有意に上昇していることが実証された(図14A)。平均コレステロールレベルは、ADのBraak病期4〜5およびBraak病期6の脳において同様であった。
【0162】
実施例12
ADの進行中のATPレベルの変化
インスリンおよびIGF-Iのシグナル伝達の障害は、ミトコンドリアの機能、エネルギー代謝、およびATP生成の低減をもたらし得る。ADにおけるインスリンおよびIGF-I機能の障害の影響を調査するために、ATPLiteアッセイシステム(Perkin Elmer, Boston, MA)を用いて、前頭皮質ホモジネート中の定常状態のATPレベルを測定した。溶解物を段階希釈し、かつ溶解物150μl当たりATP基質50μlを添加した。急速凍結した脳組織試料を、20mMグリシン、50mM MgSO4、および4mM EDTAを含む3体積量のPBS中でPolytron(Glen Mills Inc., Clifton, New Jersey)によってホモジナイズした。100μlのアリコートを96ウェルのブラックプレートに移し、かつATPLite溶解緩衝液50μlを各試料に添加した。これらのプレートを接着性のプラスチックシートで覆い、かつ、700rpm、室温で5分間、攪拌した。次いで、ATPLite基質50μlを各試料に添加し、かつ、シールしたプレートをアルミニウム箔で覆い、(700rpm、室温で)さらに5分間攪拌した。TopCount機(Packard Instrument Co., Meriden, CT)で発光を測定し、かつATP発光値をタンパク質濃度に対して標準化した。これらの研究により、AD(全群)において、対照脳に比べてATPのレベルが有意に低下(約50%)していることが実証された(図14B)。ADでは、平均ATPレベルは一貫して低く、かつ、神経変性の進行に伴う有意な低下も、神経変性の重症度に伴う有意な低下も起こらなかった。
【0163】
実施例13
アルツハイマー病の診断的アッセイ法
ADに起因する病変を呈しているか、またはADに起因する病変を呈するリスクがある被験者を、ADの診断のためにスクリーニングする。各被験者から脳組織の試料を採取する。次に、これらの試料からRNAを単離し、かつ上記の実施例2および3において前述したようにリアルタイム定量RT-PCRに供して、脳組織中のインスリン、IGF-I、IGF-II、インスリン受容体、IGF-I受容体、およびIGF-II受容体の発現レベルを決定する。次いで、測定した発現レベルを、年齢を一致させた健常被験者における発現レベルと比較する。測定した因子のうち2つまたはそれ以上の測定した発現レベルが、健常被験者の発現レベルより少なくとも2倍低いことが判明した場合、試験被験者は、ADに罹患しているとみなされる。
【0164】
実施例14
アルツハイマー病の動物モデル
以前の研究において、脳内ストレプトゾトシン(ic-STZ)処置を用いて、成体ラットにおけるAD型神経変性のモデルが作製された。Plaschke et al., Int. J. Dev. Neurosci. 11:477 (1993); Duelli et al., Int. J. Dev. Neurosci. 12:737 (1994); Hoyer et al., J. Neural Transm. Suppl. 44:259 (1994); Lannert et al., Behav. Neurosci. 112:1199 (1998)。STZの化学名は、2-デオキシ-2{[メチル-ニトロソアミノ)カルボニル]アミノ}D-グルコピラノース(C8H15N3O7)であり、分子量は265ダルトンである。STZは、代謝された場合に、膵島中のβ細胞を優先的に破壊し、かつ糖尿病を生じさせる細胞毒性生成物を生じる、グルコサミン-ニトロソ尿素化合物である。細胞毒性の正確なメカニズムは理解されていないが、STZ代謝生成物のアルキル化特性により、反応性の酸素種が生成し、かつ、酸化ストレスおよびDNA損傷が引き起こされる。このような影響があるため、神経変性のモデルを作製するために、脳室内STZが使用されるようになった。成体ラットにおいて、STZを脳室内注射すると、大脳皮質および海馬におけるグルコースおよびグリコーゲンの代謝の長期的な低下(10〜30%)が引き起こされる。Plaschke et al., Int. J. Dev. Neurosci. 11:477 (1993)。これらの影響は、脳の酸化的代謝の有意な低下(Duelli et al., Int. J. Dev. Neurosci. 12:737 (1994))、インスリン受容体機能の阻害(Hoyer et al., Ann. NY Acad. Sci. 920:256 (2000))、および学習、記憶、認知行動、脳のエネルギー平衡の進行性の欠損(Lannert et al., Behav. Neurosci. 112:1199 (1998); Hoyer et al., Ann. NY Acad. Sci. 893:301 (1999)に関連付けられている。したがって、このモデルは、ADにおいて発生する生化学的異常および生理学的異常との少なくとも部分的な一致をもたらす。しかしながら、以前の研究では、インスリンおよびIGF-1のシグナル伝達に関係する神経病理学、分子病理学、遺伝子発現の異常も、膵臓の構造および膵臓におけるインスリン発現が損なわれていないことも、明らかにされなかった。
【0165】
本発明の実施例は、若年動物の脳内(ic)STZ処置により、インスリンおよびIGF両方のシグナル伝達メカニズムの機能障害を含む、孤発性ADの分子的特徴および病理学的特徴と著しい類似点を有する神経変性が生じることを実証する。このモデルと以前に特徴付けられたic-STZモデルを区別する主要な特徴は、このラットが、成体ラットの代わりに仔ラットであるということである。仔ラットを使用する理論的根拠は以下のとおりである。本発明者らは、妊娠期の長期的なエタノール曝露によって引き起こされる小脳形成不全が、インスリンシグナル伝達およびインスリン遺伝子発現の機能障害に関連していることを既に見出していたため、ic-STZモデルを作製する際の本発明者らの最初の目的は、小脳が発達する間のインスリンおよびIGFシグナル伝達の極めて重要な役割を実証することであった。de la Monte et al., Cell Mol.Life Sci. 62:1131 (2005)。しかしながら、本発明者らがこれらの脳を神経病理学的に評価したところ、ic-STZ処置ラットの大脳皮質において、著しい大脳萎縮、神経細胞脱落、および老人斑様の構造体が明らかになった。これらの観察結果に刺激されて、本発明者らは、神経病理学的異常および分子異常に関して、かつ、ヒトAD脳における本発明者らの最近の調査結果と関連して、ic-STZモデルをさらに特徴づけることによって、この方向の調査を遂行することにした。Rivera et al., J. Alzheimers Dis. 7 (2005), (印刷中); Steen et al., J. Alzheimers Dis. 7:63 (2005)。
【0166】
実験モデル
3日齢のLong Evans仔ラットの脳の両側にSTZを脳内(ic)注射した。30ゲージの針を取り付けたハミルトンマイクロリッターシリンジを用いて、ブレグマから1.0mm後方および1.0mm外側、かつ各半球の頭蓋骨表面から深さ2.5mmに、STZを注射した。対照ラットには、無菌生理食塩水を同様に注射した。最初の研究では、糖尿病のモデルを作製するために以前に報告されているように、5mg/kg〜70mg/kgの範囲の様々な用量のSTZの影響を評価した。Andican et al., Clin. Exp. Pharmacol. Physiol. 32:663 (2005); Saad et al., Arch. Toxicol. (2005); Srinivasan et al., Pharmacol. Res. 52:313 (2005); Karabatas et al., Pancreas 30:318 (2005); Mabley et al., Pancreas 28:E39 (2004)。予備研究により、試験したすべての用量でのSTZによる神経変性が実証されたが、安定した結果は、少なくとも25mg/kgによって実現された。本明細書において示す結果は、40mg/kgのic-STZ処置した仔ラットから得られた。注射は3分以内に完了し、かつ、針は脳からゆっくりと引き抜いた。すべての仔ラットはすぐに回復し、したがって、直ちに母ラットのもとに戻され、母ラットによって100%受け入れられた。注射処置の精度は、皮質下の白質中および側脳室内に局在化して見出されるメチレンブルー色素を注射することによって確認した。すべての動物が注射後に生き残った。STZ処置または生理食塩水処置後7日目、14日目、または21日目に屠殺するまで、これらの動物を毎日モニターした。
【0167】
実験の終了時に、これらのラットを計量し、次いでイソフルオロラン(isofluorane)吸入によって屠殺した。心臓穿刺によって血液を採取して、OneTouch Ultra Blood Glucose Meter (Lifescan, Inc)を用いてグルコース濃度を測定した。膵臓を採取し、かつ、パラフィン包埋するために、Histofix(Amresco Corp, Solon, OH)中で浸漬固定した。新鮮な脳を計量し、次いで、冠状面で切断して、漏斗に隣接する厚さ約3mmの薄片を得た。3mmの脳薄片を2枚の厚いドライアイスの間で急速凍結し、かつ、後でRNAおよびタンパク質を抽出するために-80℃で保存した。残りの組織を浸漬固定(Histofix)し、かつ、組織病理学的研究および免疫組織化学的染色のためにパラフィン包埋した。症例のうち約20%において、脳を計量し、全体を浸漬固定し、次いで、パラフィン包埋および組織病理学的切片化のために、標準化した目印に沿って冠状面に切断した。180匹の仔ラットを用いて、4つの独立した実験においてic-STZモデルを作製した。同程度の数の対照を並行して研究した。
【0168】
組織病理学的染色調査および免疫組織化学的染色調査
パラフィン包埋した膵臓の組織学的切片(厚さ5μm)および脳の組織学的切片(厚さ8μm)を、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色し、かつ、組織病理学的病変、すなわち、炎症、ネクローシス、および膵島細胞変性について検査した。膵臓の隣接切片を免疫染色して、膵島におけるインスリン免疫反応性を検出した。ホスホtau、Aβ、p53、ユビキチン、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)、およびアセチルコリンエステラーゼ(AChE)に対するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体で脳のパラフィン切片を免疫染色して、ic-STZによって誘発されるAD型の神経変性の性質を特徴付けた。免疫染色反応に関する陰性対照として、1次抗体を除外するか、またはB型肝炎ウイルスに対する無関係なモノクローナル抗体を、関連する抗体の代わりに使用した。
【0169】
免疫染色する前に、脱パラフィンし、再水和させた組織切片を、室温で20分間、リン酸緩衝化生理食塩水(10mMリン酸ナトリウム、0.9%NaCl、pH7.4;PBS)中0.1mg/mlサポニンで順次、処理した。10分間、メタノール中3%過酸化水素で組織切片を処理することによって、内因性のペルオキシダーゼ活性を停止し、かつ、室温、SuperBlock-TBS(Pierce Chemical Co., Rockford, IL)中で30分間インキュベーションすることによって、非特異的結合部位をブロックした。(製造業者の推奨に従って)0.1μg/ml〜1μg/mlに希釈した抗体と共に4℃で一晩インキュベーションした後、ラット組織に予め吸着させたビオチン化二次抗体、アビジンビオチン西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体(ABC)試薬、および色素原としてのジアミノベンジジン(Vector Laboratories, Burlingame, CA)を用いて、免疫反応性を検出した。de la Monte et al., Lab. Invest. 80:1323 (2000)。これらの切片をヘマトキシリンで対比染色し、かつ、封入剤およびカバーグラスを用いて保存した。すべての切片を記号の下で検査した。
【0170】
RT-PCR
前述したような、かつ表6に示すプライマーを使用するリアルタイム定量RT-PCR増幅によって、インスリン、IGF-I成長因子、およびIGF-II成長因子、対応するそれらの受容体、インスリン受容体基質(IRS)サブタイプ1、2、および4、tau、アミロイド前駆タンパク質(APP)、AChE、ならびにChATのmRNAレベルを測定した。さらに、ADの以前の研究において説明されたic-STZによる神経変性に関連した、細胞型における病理学的変化を検出するための研究も実施した。Steen et al., J Alzheimers Dis 7:63 (2005)。手短に言えば、表6に示すHu(神経細胞)、GFAP(星状細胞)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG-1;乏突起膠細胞)、およびアログラフト炎症因子-1(AIF-1;小膠細胞)のmRNA転写物を検出するように設計された遺伝子特異的プライマー対を用いて、リアルタイム定量RT-PCRを実施した。
【0171】
(表6)




【0172】
受容体結合アッセイ法
ic-STZ処置により、脳におけるインスリン、IGF-I、およびIGF-IIの受容体結合が障害されるかどうかを判定するために研究を実施した。プロテアーゼ(1mM PMSF、0.1 mM TPCK、1μg/mlアプロチニン、1μg/mlペプスタチンA、0.5μg/mlロイペプチン、1mM NaF、1mM Na4P2O7)およびホスファターゼ阻害剤(2mM Na3VO4)を含む、5体積量のNP-40溶解緩衝液(50mM Tris-HCl、pH7.5、150mM NaCl、1mM EDTA、2mM EGTA、1%NP-40)中でPolytron(Glen Mils Inc., Clifton, New Jersey)によってホモジナイズすることによって、新鮮な側頭葉凍結組織(約100mg)から膜タンパク質を抽出した。10,000×g、4℃で15分間、試料を遠心分離した後に得られた上清画分を、結合アッセイ法において使用した。Steen et al., J Alzheimers Dis 7:63 (2005)。ビシンコニン酸(BCA)アッセイ法(Pierce, Rockford, IL)を用いて、タンパク質濃度を測定した。
【0173】
競合的平衡結合アッセイ法を用いて、ic-STZ処置に関して成長因子結合を評価した。全結合量を得るために、デュプリケートの個々のタンパク質試料を、結合緩衝液(100mM HEPES、pH8.0、118mM NaCl、1.2mM MgSO4、8.8mMデキストロース、5mM KCl、1%ウシ血清アルブミン)および100nCi/ml[125I](2000Ci/mmol; 50pM)のインスリン、IGF-I、またはIGF-IIを含む反応物100μl中でインキュベートした。非特異的結合を測定するために、0.1μM非標識(コールド)リガンドを添加した以外は同様にしてレプリケート試料を調製した。探査的研究によって、20%の特異的結合を実現するのに必要なタンパク質量および放射性標識リガンド濃度を決定した。タンパク質100μgを用いてインスリン受容体結合アッセイ法を実施した。IGF-I結合アッセイ法には試料当たりタンパク質25μgを要し、かつ、IGF-II受容体結合アッセイ法は、タンパク質10μgを用いて実施した。
【0174】
反応はすべて、1.5ml Eppendorff試験管中で実施し、かつ、インキュベーションは、4℃で16時間、プラットホーム上で穏やかに攪拌しながら実施した。次いで、0.15%ウシγグロブリン(100mM Tris-HCl、pH8.0中で調製)500μl、続いて37.5%ポリエチレングリコール8000(PEG-8000;100mM Tris-HCl、pH8.0中で調製)400μlを各チューブに添加することによって、結合した放射性標識トレーサーを沈殿させた。これらの試料をボルテックスすることによって十分に混合し、次いで、それらを氷上で少なくとも2時間インキュベートした。15,000×g、室温で5分間、これらの試料を遠心分離することによって、沈殿物を回収した。未結合(遊離)リガンドを含む上清画分を、ガンマ計数試験管(Sarstedt, Newton, NC)に移した。沈殿物を含むEppendorff試験管の先端部を切断し、別々のガンマ計数試験管中に直接放出した。LKB CompuGamma CS Gammaカウンター中で1分間、各試料を計数した。非特異的結合のfmol、すなわち、過剰な非放射性リガンドの存在下で結合された量を、(非標識競合的リガンドの不在下で)結合された全fmolから引くことによって、特異的結合を算出した。ソフトウェアGraphPad Prism4 (GraphPad Software, Inc., San Diego, CA)を用いて、結合アッセイ法の結果を解析した。
【0175】
ウェスタンブロット解析
前述したように、ウェスタンブロット解析を用いて、tau、ホスホtau、ユビキチン、GSK-3β、ホスホ-GSK-3β、GFAP、およびβ-アクチンのレベルを評価した。
【0176】
ic-STZ処置後、膵島は完全なままである
ic-STZ処置またはビヒクル処置後に様々な間隔で脳および膵臓を検査したが、ic-STZ処置後少なくとも7日目までは、顕著なAD型神経変性、およびインスリン/IGFシグナル伝達の障害の分子指標が一貫して検出されなかったため、提示したデータの大半は、14日目に屠殺したラットから得た。認知機能障害およびAD型神経変性の病因における1型糖尿病および2型糖尿病の役割を特徴付けることに対する関心が高まったため、ic-STZによる神経変性が、40mg/kgのSTZ非経口投与の後に特徴的に生じるような、膵島における炎症、変性、ネクローシス、およびインスリン免疫反応性の低下に関連しているかどうかを判定するために研究が実施された。Mythili et al., Microsc. Res. Tech. 63:274 (2004)。組織病理学的研究により、対照ラットおよびic-STZ処置ラットの両方において、外分泌構造および内分泌構造は完全であり、炎症、ネクローシス、または島細胞変性の徴候は無いことが実証された(図15Aおよび15B)。さらに、免疫組織化学的染色により、対照ラットおよびic-STZ処置ラットの両方において、すべての膵島における顕著なインスリン免疫反応性が実証された(図15Cおよび15D)。これに対応して、ic-STZ処置ラットのランダムな血中グルコース濃度の平均は、対照ラットに比べて高くなく(図16A)、かつ、ランダムな血中グルコース濃度が180mg/dlを上回るic-STZ処置ラットは無かった。実際は、ic-STZ処置群の平均血中グルコースレベルは、対照より有意に低く、これは、それらの平均体重も有意に減少していたため(P=0.04;図16B)、おそらくは摂食の減少に起因する。
【0177】
ic-STZは神経変性を引き起こす
ic-STZ処置群の平均脳重量は、対照に比べて有意に少なかった(P=0.002;図16C)。ic-STZ注射した脳は、顕著に小さく、かつ、急性くも膜下出血の多数の小さな病巣を有する傾向があり(図16D)、脳血管の脆弱性の増大が示唆された。この現象に対する1つの有望な説明は、Aβ免疫反応性の増大(下記を参照されたい)により、血管が、外傷性の損傷および血流による(flow-related)損傷の影響をより受けやすくなったとするものである。しかしながら、ic-STZ処置ラットにおいても対照ラットにおいても、脳内出血は発生しなかった。
【0178】
ic-STZ処置ラットにおいて、大脳半球および小脳半球の両方ともサイズが著しく縮小していたが、小脳は、対照に比べて極度に縮小していた(図16D)。ic-STZによる神経変性に対して小脳の易傷性が高いのは、げっ歯動物において、生後の最初の10日以内にこの構造体が最初に発達することに起因する可能性が高い。Sotelo et al., Philos. Trans. R. Soc. Lond. B Biol. Sci. 331:307 (1991)。組織病理学的研究により、1)リボン状の皮質の広汎な狭小化;2)脳白質体積の減少;3)視床および視床下部のサイズの縮小;4)ならびに脳室拡大、すなわち水頭症、おそらくは外水頭症を含む、著しい異常が、ic-STZ処置ラットの大脳半球において明らかになった(図17A〜17D)。STZ処置ラットの小脳において観察された最も顕著な異常は、1)皮質の葉状構造の減少および単純化;2)外顆粒細胞層および内顆粒細胞層の両方の形成不全または無形成;3)プルキンエ細胞層の拡大および組織崩壊;ならびに4)皮質下の白質線維/白質路の希薄化であった(図17E〜17H)。処置後7日目の試料の免疫組織化学的染色により、ic-STZ処置脳の全体にわたって、ただし、特に、側頭皮質、海馬、視床下部/視床、白質、および小脳において、p53免疫反応性(プロアポトーシス分子)の顕著な増加が明らかになった(図17I〜17J)。しかしながら、処置後14日目および21日目の時点で、ic-STZ処置脳のp53免疫反応性のレベルは、対照に比べてわずかしか上昇しておらず、アポトーシスの急増が、早期に、かつAD型神経変性の分子指標より前に、起こることが示唆された。
【0179】
神経変性は、構造の変化および実質組織の再構築にしばしば関連しているため、インサイチューの組織学的方法を用いて、細胞脱落および損傷に対する細胞応答を特徴づけ、かつ定量することは困難である。例えば、組織萎縮をもたらす細胞脱落は、再構築に起因する、見かけ上正常であるか、または増加した細胞密度に関連している場合がある。この問題を回避するために、特定の細胞型において発現される遺伝子のmRNA相対存在量を測定することによる、脳中の損傷または変性に関連した、細胞型における病理学的変化を検出および定量する分子的方法が開発された。Steen et al., J Alzheimers Dis 7:63 (2005)。本発明の研究では、神経細胞(Hu)、星状細胞(GFAP)、小膠細胞(AIF-1)、および乏突起膠細胞(MAG-1)において選択的に発現される遺伝子の発現レベルを検査した。18Sレベルを分母として使用したため、このアプローチにより、特定の細胞型の相対存在量がic-STZ処置によって減少するか、または増加するかを判定することが可能になった。これらの結果により、ic-STZ処置脳において、Hu(図18A)およびMAG-1(図18B)の遺伝子発現が有意に減少し、かつ、GFAP(図18C)およびAIF-1(図18D)の発現が有意に増大していることが実証された。一方、18SリボソームRNAの平均レベルには有意な群間差異はなかった(図18E)。
【0180】
ic-STZは、脳中のインスリンおよびインスリン様成長因子のシグナル伝達メカニズムを障害する
探査的研究により、STZが、視床下部、海馬、側頭皮質、および小脳を含む、いくつかの脳領域における成長因子および成長因子受容体の発現を有意に障害することが実証された。したがって、側頭葉試料を用いて得られた結果を、全般的な傾向の代表として提示する。さらに、遺伝子発現の変化は、ic-STZ処置後の最初の7日間の間はいくらか変動したが、14日目〜21日目の間は安定なままであったため、処置後14日目に採取した脳からの結果を示し、かつ考察する。
【0181】
リアルタイム定量RT-PCR研究により、対照ラットおよびic-STZ処置ラットの両方の側頭皮質における、インスリン受容体、IGF-I受容体、およびIGF-II受容体に対応するmRNA転写物の発現が実証された。しかしながら、ic-STZ処置群に由来する脳において、インスリン受容体およびIGF-I受容体両方の発現レベルが対照に比べて有意に低下していた(図19Aおよび19B)のに対し、同様のレベルのIGF-II受容体mRNA転写物が、ic-STZ処置脳および対照脳において測定された(図19C)。対照脳およびic-STZ処置脳の両方において、インスリン、IGF-I、およびIGF-IIポリペプチドのmRNA転写物が検出されたが、インスリン(図19D)およびIGF-II(図19F)のmRNA転写物の平均レベルは、対照脳に比べて、ic-STZ処置脳において有意に低下していた。一方、IGF-I mRNA転写物は、ic-STZ処置群および対照群において同様に豊富であった(図19E)。
【0182】
インスリン/IGF-Iによって活性化されるシグナル伝達経路の完全性を検査するために、IRS-1、IRS-2、およびIRS-4の発現レベルを測定した。IRS-3は、げっ歯動物脂肪組織においてしか発現されないため、検査しなかった。リアルタイム定量RT-PCRにより、対照脳およびic-STZ処置脳の両方におけるIRS-1、IRS-2、およびIRS-4のmRNA転写物の発現を検出した。以前に報告されているように、IRS-1のmRNA転写物は、IRS-2およびIRS-4より有意に豊富であった(P=0.001)。ic-STZ処置脳において、IRS-1 mRNAの平均レベルは対照に比べて有意に低かった(P=0.004)のに対し、IRS-2およびIRS-4の平均レベルは対照と同様であった(図19G〜19I)。
【0183】
成長因子受容体へのリガンド結合の解析
効果的なリガンド結合はシグナル伝達カスケードに極めて重要であり、かつ、神経細胞生存の減少、GSK-3β活性化の増大、およびtauリン酸化の増加を含む、ADにおいて既に確認されているインスリンシグナル伝達障害の下流の影響のうちの多くは、CNSにおけるインスリンまたはIGF受容体結合の減少によって媒介され得る。ic-STZ注射した脳における成長因子シグナル伝達のこの特徴を検査するために、トレーサーとしての[125I]標識したインスリン、IGF-I、またはIGF-II、および受容体供給源としての側頭葉組織の膜抽出物を用いて、競合的な平衡結合アッセイ法を実施した。これらの結果により、ic-STZ処置脳に比べて、対照脳において、インスリン受容体への特異的結合のレベルが有意に高いことが実証された。ic-STZ処置脳におけるインスリン受容体への平均平衡結合は、対照脳に比べて約85%減少していた(図20A)。IGF-II結合もまた、ic-STZ処置脳において有意に減少していた(図20C)のに対し、IGF-I結合は増加していたが、平均値の標準誤差が大きかったため、その差異は統計学的には有意ではなかった(図20B)。
【0184】
ic-STZ処置後のAD型神経変性
ic-STZによって誘発された神経変性が、GSK-3β活性化の増大(ホスホ-GSK-3β/全GSK-3βの比率の減少)およびホスホtauレベルの上昇に関連しているかどうかを判定するための研究を実施した。AD型神経変性の特徴的な特質には、tauを含むタンパク質のユビキチン化の増加(Godbolt et al., Arch.Neurol. 62:1097 (2005); Kosik et al., Biochim. Biophys. Acta 1739:298 (2005); de Vrij et al., Prog.Neurobiol. 74:249 (2004))および細胞脱落を伴う神経膠症も含まれるため、ウェスタンブロット解析を用いて、ユビキチンおよびGFAP免疫反応性も同様に測定した。β-アクチン発現を陰性対照として測定した。
【0185】
ウェスタンブロット解析により、ic-STZ処置脳において、対照脳に比べて、GFAP、全GSK-3β、ホスホtau、およびユビキチンのレベルが有意に上昇し、かつホスホ-GSK-3βのレベルが有意に低下していることが実証された(図21および表7)。一方、tauおよびβ-アクチンのタンパク質発現は、2群で同様であった(図21および表7)。ホスホ-GSK-3β/全GSK-3βおよびホスホtau/tauの算出した(濃度測定装置)平均比率もまた、ic-STZ処置群において有意に低く(表7)、GSK-3βの有意な活性化およびtauリン酸化の増加が反映された。免疫組織化学的染色により、ic-STZ処置脳におけるGFAP免疫反応性の全体的な増大が実証されたが、著しく増大したp53免疫反応性の分布に一致して、側頭葉(図22Aおよび22B)、海馬、視床下部/視床、および小脳における標識が顕著であった。ic-STZ処置脳では、側頭皮質、海馬、視床下部/視床、および小脳皮質において、ホスホtauおよびユビキチン免疫反応性の増大が観察された。ホスホtau免疫反応性の増大は、大脳皮質中に分布した神経細胞体および神経網神経突起の集団中に局在していた(図22Cおよび22D)。ホスホtau免疫反応性の神経細胞内封入体(神経原線維変化)は観察されなかった。ユビキチン免疫反応性の増大は、様々な細胞型において灰白質および白質の双方に局在していた。細胞標識の密度がより高いことは別として、ic-STZ群と対照群の主要な差は、ic-STZ処置脳の核におけるユビキチン免疫反応性の局在化の増大であった(図22Eおよび22F)。
【0186】
(表7)

値は任意の濃度測定装置に対応する(平均値±標準誤差)。スチューデントのt検定を用いて、データを解析した。
【0187】
リアルタイムRT-PCR研究により、ic-STZ処置脳においてtau(図23A)およびAPP(図23B)のmRNAレベルが有意に高いことが実証された。さらに、免疫組織化学的染色により、ic-STZ処置脳において、対照脳に比べて、神経細胞(図23Cおよび23D)、軟膜血管、脳微細血管(図23Eおよび23F)におけるAβ免疫反応性が増大しており、かつ、細胞外に斑様沈着物が散在している(図23F)ことが実証された。斑様沈着物は、H&E染色によって可視化され、かつ、ic-STZ処置脳すべてにおいて様々な程度で存在していた。Aβ免疫反応性の斑様沈着物は、神経突起または原線維の形態ではなく、有芯であった。「斑」は、大脳皮質、特に(注射部位からかなり離れた)側頭葉に主に分布していたが、これらは、視床下部/視床を含む皮質下構造体中にも存在していた。皮質および皮質下灰白質構造体ならびに大脳白質の両方に分布した多数の薄壁の微細血管のAβ免疫反応性は増大していた。しかしながら、ADとは違って、Aβ沈着物は、隣接した血管周囲腔中に局在していなかった。Aβ血管障害に関連して、軟膜微小出血が時折観察されたが、実質内の出血も、明らかな虚血性病変も出血性病変も、ic-STZ処置脳において検出されなかった。
【0188】
ic-STZ処置脳における、インスリン/IGFシグナル伝達の障害とアセチルコリン産生の関係
ADにおける認知機能障害の主要な相関物は、大脳皮質におけるアセチルコリン欠乏である。最近、ChAT遺伝子発現が、インスリンおよびIGF-1刺激によって調節されること、および、AD脳において、インスリン/IGF-1シグナル伝達メカニズムの障害が、アセチルコリン産生の欠乏と相関していることが実証された。Steen et al., J Alzheimers Dis 7:63 (2005)。したがって、ic-STZ処置脳のChAT発現レベルが低下していたかどうかを判定することが関心対象であった。側頭葉組織のリアルタイム定量RT-PCR解析により、ic-STZ処置脳において、対照脳と比べて、ChAT mRNA転写物のレベルが有意に低く、かつ、AChE mRNA転写物のレベルが有意に高いことが実証された(図24Aおよび24B)。免疫組織化学的染色研究により、ic-STZ処置脳において、対照脳と比べたChAT免疫反応性のレベルの低下(図24Cおよび24D)ならびにAChE免疫反応性のレベルの上昇(図24Eおよび24F)が実証されたことによって、リアルタイムRT-PCRの結果が裏付けられた。ChATおよびAChE発現の同様の変化が、ic-STZ処置したラットの視床下部、海馬体、および小脳皮質において観察された。
【0189】
結論
以前の報告において、神経変性の媒介物としての酸化ストレスの役割に重点を置いて、成体げっ歯動物の孤発性ADモデルを作製するために、ic-STZが使用された。これらの研究では、インスリンおよびIGFシグナル伝達経路中の遺伝子に対するic-STZの影響を調査し、かつ、ADに関して最近報告された内容に照らして、関連する分子病理学を検討した。これに関しては、これらの結果により、ic-STZ処置は、インスリン、IGF-II、インスリン受容体、およびIGF-I受容体を発現する細胞のCNSにおける欠乏を引き起こすが、高血糖症も、膵島の変性も、膵臓におけるインスリン免疫反応性の低下も引き起こさないことが実証された。したがって、ic-STZモデルはCNS疾患をもたらすが、膵臓疾患はもたらさず、インスリンの末梢供給源およびCNS供給源が別々に、かつ区別して調節されていることが示唆される。さらに、このモデルにより、CNS中のインスリン/IGFシグナル伝達メカニズムの障害が、インスリン/IGFの生合成および機能に末梢性の異常が全く無い場合に起こり得るという優れた証拠が提供される。最後に、処置後4週間またはそれ以上、生存させたラットの最近の予備研究において、モリス水迷路試験により、ic-STZ処置群において、対照と比べて、学習および記憶に著しい障害があることが明らかになった。全体的に見て、このモデルは、孤発性ADが、インスリンおよびIGFポリペプチド遺伝子ならびに受容体発現および応答性(抵抗性)のCNSにおける内因性の欠乏によって引き起こされる、神経内分泌疾患であるという仮説を支持する。
【0190】
要するに、ic-STZモデルを用いて得られる結果により、脳中のインスリン/IGF作用の機能障害が、孤発性ADにおいて特徴的に観察される神経変性の分子指標および病理学的指標を厳密に再現する、認知症に関連した顕著な異常に結び付けられる。さらに、この研究により、インスリン/IGFシグナル伝達の機能障害および対応する成長因子の欠乏が、1型糖尿病または2型糖尿病に無関係にCNSにおいて発生し得るという決定的な証拠が提供される。これに関しては、データは、AD型神経変性が、局所的なインスリン産生の欠乏を含む、インスリンおよびIGFシグナル伝達メカニズムの選択的な機能障害によって引き起こされる内因性の神経内分泌疾患であるという概念を支持する強い証拠である。調査のこの部分から生じる3つのさらなる概念は、以下のものである:1)tau発現およびリン酸化の異常は、インスリンおよびIGFシグナル伝達の機能障害によって媒介され得る;2)APP遺伝子の上方調節は、孤発性AD、および孤発性ADに似たic-STZ実験モデルの両方に付随して起こる;ならびに3)小膠細胞の活性化に伴う持続性の酸化ストレスは、ADの神経変性カスケードを増悪および永続化させる上で極めて重要な役割を果たし得る初期の事象である。ic-STZモデルは、孤発性AD型神経変性のカスケードを研究するための優れたインビボの道具と思われ、かつ、ADを治療または予防するための薬物の合理的設計用に使用され得る。本明細書において説明するic-STZ表現型の著しい特徴は、真に進行性神経変性のモデルであるということである。初期事象は、プロアポトーシス分子の活性化であった(3日目〜5日目)。インスリン/IGFシグナル伝達および関連遺伝子の発現の機能障害が続いて起こった。これは、AD型神経変性が、脳中のインスリンおよびIGF産生細胞の脱落に続いて発生することを示唆する。ic-STZ実験モデルおよび初期ADにおける所見の両方によって与えられる証拠により、孤発性ADの治療および予防において著しい進歩を遂げるためには、インスリン/IGFシグナル伝達の障害のメカニズムおよび病因に取り組まなければならないことが示唆される。
【0191】
STZは、D-グルコースのC2位に結合されたニトロソアミドメチルニトロソウレア(MNU)である。MNUは、DNA損傷を引き起こすアルキル化剤として機能し、グルコース部分は、インスリン(および、おそらくは同様にIGF)産生細胞中にグルコースとして取り込まれる。代謝された後、N-ニトロソウレイドが遊離されて、スーパーオキシド、過酸化水素、および一酸化窒素などの反応性酸素種の生成を通じてDNA損傷を引き起こす。ic-STZは、ミトコンドリアのDNA損傷および代謝機能不全に加えて、脳中のインスリンおよびIGFシグナル伝達メカニズムの著しい機能障害を引き起こすため、神経変性のic-STZモデルは、酸化ストレスに誘発されたCNS損傷の影響とは異なる。真性のADに罹患したヒト脳は、酸化ストレス、ミトコンドリアの機能不全、およびDNA損傷の明白な証拠を示し、かつ、酸化ストレスの多くの指標が疾患の過程の早期に検出可能であるため、酸化による損傷は、ADの病因において、決定的ではないとしても重要な役割を果たしている可能性が高い。この方向の推論は、酸化ストレス、低酸素、または虚血の実験モデルにおけるAD型の生化学的異常および分子異常、ならびに、ADを引き起こすには十分ではない、脳のAβ沈着増加に関連した、酸化ストレスの増大の知見によって支持された。それでもなお、酸化ストレスが答であるという推論に向かう見かけ上論理的なステップにおいて立ち止まる3つの理由がある:1)ヒト脳における低酸素、虚血、または急性虚血-再灌流によって引き起こされる神経病理学的病変は、ADにおける認知機能障害に関連した神経変性変化と明らかに区別可能であること;2)低酸素損傷および虚血性損傷は、全体的であるか、または、それらは、細胞型に対する選択性が比較的小さな血管領域をたどるのに対し、ADは、脳中の辺縁皮質構造体中の神経細胞を優先的に損傷すること;ならびに、3)ADに罹患したヒト脳の最近の研究により、疾患の過程の早期に始まり、かつ疾患の進行と共に悪化する、インスリンおよびIGFシグナル伝達メカニズムの顕著な機能障害が実証されたこと。
【0192】
インスリンおよびIGF-Iのシグナルを伝達するCNS神経細胞のインスリン受容体またはIRS-2を実験的に欠乏させると、ADにおいて観察されるものに類似した分子異常および生化学的異常が引き起こされるが、関連する神経病理学は、ADとは明らかに異なる。遺伝的なインスリン受容体欠乏モデルは、ADの病因において中心となっている、脳の老化およびミトコンドリアの機能不全を欠くということが、この説明であり得る。さらに、これらの研究により、インスリンシグナル伝達メカニズムおよびIGFシグナル伝達メカニズムの両方が、ADにおいて、ならびに、ADに似た本発明者らのic-STZモデルにおいて障害されていることが示された。最後に、シナプス可塑性の障害に対する役割が、仮説に基づく方程式に組み入れなければならない。ADは、以下の3つの重要なCNS機能障害を要することが示唆されている:1)栄養因子の欠乏および/またはインスリン抵抗性によって引き起こされる、インスリン/IGFシグナル伝達の混乱;2)ミトコンドリアの機能不全を伴う連続的な酸化ストレス;ならびに3)アセチルコリンの生合成および恒常性の阻害によって引き起こされる神経細胞可塑性の障害。本発明の研究において利用するic-STZモデルは、その処置により、1)脳中の、特定の成長因子産生細胞、続いて成長因子応答性細胞を選択的に死滅させることにより、インスリン/IGFシグナル伝達が障害され;2)薬物のアルキル化特性によって、連続的な酸化ストレス、DNA損傷、およびミトコンドリアの機能不全が引き起こされ;3)CNS神経細胞可塑性の極めて重要な期間中のアセチルコリン産生が阻害されたため、孤発性型のAD表現型をもたらしたと仮定される。STZのアルキル化特性は、ミトコンドリアの機能およびミトコンドリアDNAの完全性に対する加齢の影響をおそらくは模倣し、かつ、成体ラットの代わりに仔ラットを使用することは、生後初期の発達期間中に存在するCNS神経細胞の可塑性のレベルが天然に高いため、この表現型を作製する助けとなり得た。
【0193】
以上、本発明を十分に説明したが、本発明またはその任意の態様の範囲に影響を及ぼすことなく、広範かつ等価な範囲の条件、式、および他の変数の範囲内で同じことを実施できることが、当業者には理解されると考えられる。本明細書において引用するすべての特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照により本明細書に完全に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1】図1A〜1Dは、リアルタイム定量RT-PCRを用いて実証した、AD脳におけるインスリン、IGF-I、およびIGF-IIの受容体発現レベルの低下を示す。グラフは、前頭皮質(A)、海馬(B)、および視床下部(C)に関して得られた結果の平均値±標準誤差を示す。(D)インスリン受容体発現の群間差異および領域による差異をより良く示すために、一定の比率で縮尺してこれらのデータを再グラフ化した。有意なP値(トレンドを含む)を棒グラフの上に示す。
【図2】図2A〜2Dは、リアルタイム定量RT-PCRを用いて実証した、AD脳におけるインスリン、IGF-I、およびIGF-IIの発現の変化を示す。グラフは、前頭皮質(A)、海馬(B)、および視床下部(C)に関して得られた結果の平均値±標準誤差を示す。(D)インスリン遺伝子発現の群間差異および領域による差異をより良く示すために、一定の比率で縮尺してこれらのデータを再グラフ化した。有意なP値(トレンドを含む)を棒グラフの上に示す。
【図3】図3A〜3Hは、免疫組織化学的染色を用いて、AD(A、C、E、G)および高齢の対照(B、D、F、H)の海馬におけるインスリン(A〜B)、IGF-I(C〜D)、インスリン受容体(E〜F)、およびIGF-I受容体(G〜H)の免疫反応性の局在性を示す。矢印は標識された神経細胞の方向を指す。
【図4】図4A〜4Eは、生後ラットの小脳皮質(CBM)、ならびに胎児ラットの大脳皮質(CTX)、海馬(HIPPO)、および視床下部(HYPO)から作製された有糸分裂後の分化した初代培養神経細胞における、インスリン、IGF-I、およびIGF-IIの受容体発現の検出を示す。グラフは、インスリン受容体(A)、IGF-I受容体(B)、およびIGF-II受容体(C)の発現レベルに関して得られた結果の平均値±標準誤差を示す。(D、E)成長因子受容体の発現の群間差異および領域による差異をより良く示すために、小脳神経細胞(D)、または皮質神経細胞、海馬神経細胞、および視床下部神経細胞(E)に対応するデータを一定の比率で縮尺して再グラフ化した。
【図5】図5A〜5Eは、生後ラットの小脳皮質(CBM)、ならびに胎児ラットの大脳皮質(CTX)、海馬(HIPPO)、および視床下部(HYPO)から作製された有糸分裂後の分化した初代培養神経細胞における、インスリン、IGF-I、およびIGF-IIの遺伝子発現の検出を示す。グラフは、インスリン(A)、IGF-I(B)、およびIGF-II(C)の発現レベルに関して得られた結果の平均値±標準誤差を示す。(D、E)成長因子発現の群間差異および領域による差異をより良く示すために、小脳神経細胞(D)、または皮質神経細胞、海馬神経細胞、および視床下部神経細胞(E)に対応するデータを一定の比率で縮尺して再グラフ化した。
【図6】図6A〜6Gは、AD脳におけるインスリン受容体基質1型(IRS-1)のレベルの低下、ならびにインスリンおよびIGF-Iシグナル伝達メカニズムの障害を示す。リアルタイム定量RT-PCRを用いて、ADの前頭皮質(A)、海馬(B)、および視床下部(C)、ならびに高齢の対照脳中のIRS-1、IRS-2、およびIRS-4のmRNAレベルを測定した。チロシンリン酸化(PY)されたインスリン受容体(E)およびIGF-I受容体(G)の定常状態レベルならびにPI3キナーゼの触媒的に活性なp85サブユニットとIRS-1の結合(D;PY-IRS-1に結合されたPI3キナーゼ活性を反映)を、免疫沈降物のウェスタンブロット解析により、海馬組織試料において評価した。インスリン受容体(INR;F)およびIGF-I受容体(IGFI-R;H)タンパク質発現を、直接的なウェスタンブロット解析によって、海馬組織試料において検査した。有意なP値を棒グラフの上に示す。
【図7】図7A〜7Eは、AD脳における生存シグナル伝達メカニズムの障害を示す。(A)ホスホ-Akt(p-Akt)、(B)全Akt、(C)ホスホグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(p-GSK-3β)、(D)全GSK-3β、および(E)β-アクチンの定常状態レベルを、ウェスタンブロット解析によって、海馬標本において評価した。有意なP値を棒グラフの上に示す。
【図8】図8A〜8Hは、リアルタイム定量RT-PCRを用いて実証した、AD、ならびに対照の海馬(A、C、E、G)および視床下部(B、D、F、H)における、tau(A、B)、アミロイド前駆タンパク質(APP;C、D)、グルコース輸送担体4(GLUT4;E、F)、およびインスリン分解酵素(IDE;G、H)遺伝子発現の測定を示す。有意なP値を棒グラフの上に示す。
【図9】図9A〜9Cは、リアルタイムRT-PCRを用いて実証した、ADの進行に伴うインスリン受容体およびIGF受容体の発現レベルの低下を示す。グラフは、インスリン受容体(A)、IGF-I受容体(B)、およびIGF-II受容体(C)に関して得られた結果の平均値±標準誤差を示す。事後のTukey-Kramer有意差検定を伴うANOVAを用いて、データを統計学的に解析した。有意なP値を棒グラフの上に示す。
【図10】図10A〜10Cは、リアルタイム定量RT-PCRを用いて実証した、ADの進行に伴うインスリン、IGF-I、およびIGF-IIの発現の減少を示す。グラフは、インスリン(A)、IGF-I(B)、およびIGF-II(C)ポリペプチドの遺伝子に関して得られた結果の平均値±標準誤差を示す。事後のTukey-Kramer有意差検定を伴うANOVAを用いて、データを統計学的に解析した。有意なP値を棒グラフの上に示す。
【図11】図11A〜11Cは、リアルタイム定量RT-PCRを用いて実証した、ADの進行とtau(A)またはアミロイド前駆タンパク質(APP;B)のmRNA発現の関係を示す。グラフは、tau(A)およびAPP(B)遺伝子に関して得られた結果の平均値±標準誤差を示す。事後のTukey-Kramer有意差検定を伴うANOVAを用いて、データを統計学的に解析した。有意なP値を棒グラフの上に示す。
【図12】図12A〜12Cは、AD神経変性の進行に伴う成長因子結合の減少を示す。グラフは、インスリン(A)、IGF-I(B)、およびIGF-II(C)の結合に関して得られた結果の平均値±標準誤差を示す。事後のTukey-Kramer有意差検定を伴うANOVAを用いて、データを統計学的に解析した。有意なP値を棒グラフの上に示す。
【図13】図13A〜13Lは、ADの進行に伴う成長因子飽和結合レベルの低下を示す。グラフは、AD Braak病期が0〜1(A、E、I)、2〜3(B、F、J)、4〜5(C、G、K)、または6(D、H、L)である脳におけるインスリン(A〜D)、IGF-I(E〜H)、およびIGF-II(I〜L)の結合に対応する、特異的結合(fmol/mgタンパク質)±95%CIを示す。
【図14】図14A〜14Bは、AD進行と脳膜のコレステロール含有量(A)または定常状態のATPレベル(B)との関係を示す。グラフは、蛍光単位(FLU)/μgタンパク質(A)または発光(B)の平均値±標準誤差を示す。事後のTukey-Kramer有意差検定を伴うANOVAを用いて、データを統計学的に解析した。有意なP値(トレンドを含む)を棒グラフの上に示す。
【図15】図15A〜15Dは、ic-STZモデルにおいて膵島の破壊が無いことを示す。(A、B)対照の膵臓(A)およびic-STZ処置した膵臓(B)のヘマトキシリンおよびエオシン染色切片により、両方の群における完全な組織構造および正常な外観の膵島(矢印)が実証される。(C、D)インスリンに対するモノクローナル抗体で、隣接切片を免疫染色した。色素原としてジアミノベンジジン(茶色沈殿物)を使用するABC法によって、免疫反応性を明らかにした。これらの切片をヘマトキシリンで軽く対比染色した。対照ラット(C)およびic-STZ処置ラット(D)両方の膵島(矢印)において、顕著なインスリン免疫反応性が検出された。挿入図(パネルCおよびDの右下側)は、インスリン免疫反応性の膵島の高拡大率画像を示す。
【図16】図16A〜16Dは、血中グルコースレベル、体重、および脳サイズに対するic-STZの影響を示す。(A)One-Touch Ultra Blood Glucose Meterを用いて、屠殺の直前(14日目)に血中グルコース濃度(mg/dl)を測定した。屠殺時に(B)体重(g)および(C)脳重量(mg)を測定した。グラフは、群当たり20匹のラットにおいて測定した、血中グルコースレベル、体重、および脳重量の平均値±標準偏差を示す。スチューデントのt検定を用いて、群間比較を実施した(有意なP値を棒グラフの上に示す)。(D)対照のラット脳(左)および処置後14日目のic-STZ処置したラット脳の代表的な肉眼写真。ic-STZ処置した脳中の極めて小さな小脳(矢印)および多数の小さな髄膜出血(矢先が2つの矢印)に注目されたい。
【図17】図17A〜17Jは、ic-STZの神経病変を示す。対照ラット(左パネル)およびic-STZラット(右パネル)(14日目)から採取した脳を固定し、組織病理学用に処理した。パラフィン切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。尾状核-被殻(cp)(A、B)、ならびに海馬体および視床を伴う側頭葉(C、D)、ならびに小脳皮質(E、F)を含む、前頭葉を通る冠状切片を、対照ラット(A、C、E)およびic-STZ処置ラット(B、D、F)について示す。これらは同じ拡大率で撮影した。大脳のサイズが小さいのは、ic-STZ処置脳における、脳室(V)の拡張、側頭皮質(T)の著しい薄化、ならびに基底核(bg)、海馬(h)、視床下部および視床(Th)のサイズ減少に関連していた。ic-STZ処置ラットの小脳は、対照(E、G)と比べてサイズが著しく縮小していた(F)。ic-STZ処置ラットの小脳は、内部(igl)および外部(egl)の顆粒細胞層および分子層が存在しないため、不明確な単純化された薄層(folia)、および破壊された皮質層を有していた。その代わりに、ic-STZ小脳皮質は、プルキンエ細胞(Pc)に似ている大型の錐体神経細胞/神経芽細胞要素の破壊された集団で満たされていた(F、H)。p53に対するモノクローナル抗体で、隣接切片を免疫染色した。色素原(茶色沈殿物)としてDABを用いるABC法によって、免疫反応性を検出した。顕微鏡写真は、対照の側頭葉(I)およびic-STZの側頭葉(J)の代表的な標識を示す。対照の皮質神経細胞(I)におけるほとんど検出不可能な標識と比較して、ic-STZ皮質神経細胞(J)におけるp53免疫反応性が増大していることに注目されたい。
【図18】図18A〜18Dは、ic-STZ処置脳(14日目)の側頭葉における、神経細胞および乏突起膠細胞の脱落、ならびに星状細胞および小膠細胞集団の増加を示す。(A)Hu神経細胞RNA結合タンパク質、(B)ミエリン関連糖タンパク質-1(MAG-1)、(C)星状細胞グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、および(D)小膠細胞AIF-1に対応するmRNA転写物レベルを用いて、ic-STZ処置後の脳細胞型における病理学的変化を検出した。グラフは、群当たり8〜10個の試料から得られた結果の平均値±標準誤差を示す。スチューデントのt検定を用いて、データを統計学的に解析した。有意なP値を棒グラフの上に示す。
【図19】図19A〜19Iは、インスリンおよびインスリン様成長因子(IGF)の遺伝子および受容体(14日目)のCNS発現に対するic-STZの影響を示す。グラフは、(A)インスリン受容体(InR)、(B)IGF-I受容体(IGF-IR)、(C)IGF-II受容体(IGF-IIR)、(D)インスリン、(E)IGF-I、(F)IGF-II、(G)インスリン受容体基質1型(IRS-1)、(H)IRS-2、および(I)IRS-4から得られた結果の平均値±標準誤差を示す。スチューデントのt検定を用いて、データを統計学的に解析した。有意なP値を棒グラフの上に示す。
【図20】図20A〜20Cは、ic-STZ処置ラットにおけるCNS成長因子結合の減少を示す。グラフは、(A)インスリン、(B)IGF-I、および(C)IGF-IIの特異的結合に関して得られた結果の平均値±標準誤差を示す。スチューデントのt検定を用いて、データを統計学的に解析した。有意なP値を棒グラフの上に示す。
【図21】図21A〜21Gは、ウェスタンブロット解析によって実証した、ic-STZ処置脳における神経変性の指標の増大を示す。ウェスタンブロット解析によって側頭葉組織において検出された、(A)グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、(B)ホスホグリコーゲン合成酵素キナーゼ3(p-GSK-3β/β(Ser21/9))、(C)全GSK-3β、(D)ホスホtau(pTau)、(E)tau、(F)ユビキチン、および(G)β-アクチン(陰性対照)の定常状態での発現レベルを示す代表的な結果である。各パネルの左側を指す矢印は、各矢印の下に示した分子量マーカーの位置を示す。
【図22】図22A〜22Fは、免疫組織化学的染色によって実証した、ic-STZ処置脳における神経変性の指標の増大を示す。対照脳(A、C、E)に比べた、ic-STZ処置脳(B、D、F)における神経膠症、tauリン酸化、およびユビキチン結合タンパク質の増加を実証するために、(A、B)GFAP、(C、D)ホスホtau、または(E、F)ユビキチンに対するモノクローナル抗体を用いて、脳のパラフィン包埋切片を免疫染色した。すべてのパネルは、側頭葉における代表的な標識の分布を示す。(A、B)GFAP免疫反応性は、星状細胞および神経網グリア線維中に局在していた。(C、D)pTau免疫反応性は、ic-STZの皮質神経細胞の核周部において増大していた。(E、F)ユビキチン免疫反応性は、ic-STZの皮質神経細胞ならびに他の細胞型において増大していた。
【図23】図23A〜23Fは、ADにおける研究結果と同様に、ic-STZによって、脳におけるアミロイド前駆タンパク質(APP)発現およびAβ蓄積が増大することを示す。18S rRNAに対して標準化した値を用いるリアルタイム定量RT-PCRによって、(A)Tauおよび(B)APPの遺伝子発現を測定した。グラフは、結果の平均値±標準誤差を示す。スチューデントのt検定を用いて、データを統計学的に解析した。有意なP値を棒グラフの上に示す。(C)対照脳は、Aβに対して最小限の免疫反応性を提示するか、または免疫反応性を提示しなかったが、ic-STZ処置脳(D〜F)は、(D)神経細胞体(矢印)、(E、F)(D)実質微細血管(bv)、および(E、F)細胞外の有芯の斑様構造体(矢印)において顕著なAβ免疫反応性を有していた。
【図24】図24A〜24Fは、神経細胞の脱落およびインスリン/IGFシグナル伝達メカニズムの障害が、ic-STZ処置脳におけるコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)の発現の低下と相関があることを示す。同じ試料において測定した18SリボソームRNAに対して標準化した値を用いるリアルタイム定量RT-PCRによって、(A)ChATおよび(B)アセチルコリンエステラーゼ(AChE)のmRNA転写物を検出および定量した。グラフは、(A)ChATおよび(B)AChE遺伝子に関して得られた結果の平均値±標準誤差を示す。スチューデントのt検定を用いて、データを統計学的に解析した。有意なP値を棒グラフの上に示す。ic-STZによって誘導された、ChATおよびAChE発現の変化を特徴付けるために、(C、D)ChATまたは(E、F)AchEに対する抗体を用いて、脳のパラフィン包埋切片を免疫染色した。ビオチン標識した二次抗体、ABC試薬、およびDABを用いて免疫反応性を検出した。対照脳(C、E)において、ic-STZ処置脳(D、F)において観察された反応性と比べて、ChAT免疫反応性は相対的に高かったのに対し、AChE免疫反応性は低かった。対照の皮質神経細胞(C;矢印)においては、ChAT免疫反応性が検出されたのに対し、ic-STZ処置脳において、高レベルのAchEが神経網線維および皮質神経細胞において検出された(D;矢印)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能の低下を検出する段階を含む、被験者のアルツハイマー病(AD)を診断するための方法であって、健常被験者におけるレベルと比べた、1つまたは複数の該因子のレベルまたは機能の低下がADの診断指標である方法。
【請求項2】
被験者が、ADに起因する病変を呈する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
被験者が、ADに起因する病変を呈する疑いがある、請求項1記載の方法。
【請求項4】
被験者が、ADに起因する病変を呈するリスクがある、請求項1記載の方法。
【請求項5】
検出段階が、被験者に由来する神経学的生検組織に対して実施される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
検出段階が、被験者に由来する脳脊髄液に対して実施される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
検出段階が、被験者に由来する血液に対して実施される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
検出段階が、インビボで実施される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
インスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子が、インスリン、インスリン様成長因子-I(IGF-I)、IGF-II、インスリン受容体、IGF-I受容体、IGF-II受容体、チロシンリン酸化インスリン受容体、チロシンリン酸化IGF-I受容体、チロシンリン酸化IGF-II受容体、インスリン受容体基質-1(IRS-1)、IRS-2、IRS-4、チロシンリン酸化IRS-1、チロシンリン酸化IRS-2、チロシンリン酸化IRS-4、ホスフォチジルイノシトール(phosphotidylinositol)3-キナーゼ(PI3キナーゼ)、PI3キナーゼのp85サブユニット、Akt、ホスホ-Akt、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3β(GSK-3β)、およびホスホ-GSK-3βからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
インスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子の機能が、インスリン受容体、IGF-I受容体、もしくはIGF-II受容体のリガンド結合能、インスリン受容体、IGF-I受容体、もしくはIGF-II受容体のキナーゼ活性、PI3キナーゼのp85サブユニットとリン酸化IRS-1、IRS-2、もしくはIRS-4との相互作用、成長因子受容体結合タンパク質2(Grb2)、SHPTP-2プロテインチロシンホスファターゼ、もしくはPI3キナーゼのp85サブユニットへのリン酸化IRS-1、IRS-2、もしくはIRS-4の結合、またはマイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAPKK)、Erk MAPK、Akt/プロテインキナーゼB、もしくはGSK-3βの酵素活性からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
インスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルが、因子ポリペプチドのレベルを測定することによって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
因子ポリペプチドのレベルが、イムノアッセイ法、免疫沈降法、免疫組織化学、またはウェスタンブロット法によってエクスビボで決定される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
インスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルが、生物試料中の該因子をコードするRNAのレベルを測定することによって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項14】
因子をコードするRNAのレベルが、逆転写および増幅、ノーザンブロット法、またはインサイチューハイブリダイゼーションによってエクスビボで決定される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
被験者のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定する段階を含む、ADを発症するリスクがある被験者を同定するための方法であって、健常被験者におけるレベルと比べた、1つまたは複数の該因子のレベルの低下が、ADを発症するリスクの診断指標である方法。
【請求項16】
インスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定するのに使用され得る少なくとも1つの検出物質を含む1つまたは複数の容器を含む、ADを診断するための診断キット。
【請求項17】
インスリン/IGFシグナル伝達経路中の因子に特異的に結合する1つまたは複数の抗体を含む、請求項16記載の診断キット。
【請求項18】
インスリン/IGFシグナル伝達経路中の因子をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズする1つまたは複数のオリゴヌクレオチドを含む、請求項16記載の診断キット。
【請求項19】
インスリン/IGFシグナル伝達経路中の因子をコードするポリヌクレオチドを増幅するための1対もしくは複数対のプライマーを含む、請求項16記載の診断キット。
【請求項20】
インスリン/IGFシグナル伝達経路中の因子によって作用を及ぼされ得る1つまたは複数の酵素基質を含む、請求項16記載の診断キット。
【請求項21】
診断検査を実施するための1組の取扱い説明書をさらに含む、請求項16記載の診断キット。
【請求項22】
治療的有効量のインスリンアゴニストおよび治療的有効量のIGFアゴニストを被験者に投与する段階を含む、被験者のADを治療、寛解、または予防するための方法。
【請求項23】
被験者が、ADに起因する病変を呈する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
被験者が、ADに起因する病変を呈する疑いがある、請求項22記載の方法。
【請求項25】
被験者が、ADに起因する病変を呈するリスクがある、請求項22記載の方法。
【請求項26】
被験者が、ADの初期段階にあるか、またはわずかな認知機能障害を示す、請求項22記載の方法。
【請求項27】
インスリンアゴニストが、天然のインスリン、またはその機能的誘導体、類似体、もしくは模倣体である、請求項22記載の方法。
【請求項28】
インスリンアゴニストが、インスリン増感剤である、請求項22記載の方法。
【請求項29】
インスリン増感剤が、ビグアナイドまたはチアゾリジンジオンである、請求項28記載の方法。
【請求項30】
インスリンアゴニストが、メグリチニド、スルホニル尿素、α-グルコシダーゼ阻害剤、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アゴニスト、β3-アドレナリン作動性受容体アゴニストレチノイドX受容体アゴニスト、クロミウム、ドーパミンアゴニスト、ピルビン酸塩、ピルビン酸前駆体、およびベンゾチアジアジン(benzothidiazine)からなる群より選択される、請求項22記載の方法。
【請求項31】
IGFアゴニストが、天然のIGF、またはその機能的誘導体、類似体、もしくは模倣体である、請求項22記載の方法。
【請求項32】
インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストが別々に投与される、請求項22記載の方法。
【請求項33】
インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストが単一の組成物中で共に投与される、請求項22記載の方法。
【請求項34】
インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストが、脳室内に、頭蓋内に、腹腔内に、静脈内に、動脈内に、経鼻的に、または経口的に投与される、請求項22記載の方法。
【請求項35】
インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストが、異なる周期で、異なる期間で、異なる濃度で、または異なる投与経路によって投与される、請求項22記載の方法。
【請求項36】
インスリンアゴニストおよび/またはIGFアゴニストを発現する細胞を被験者に投与する段階を含む、被験者のADを治療、寛解、または予防するための方法。
【請求項37】
細胞が、インスリンアゴニストおよびIGFアゴニストの両方を発現する、請求項36記載の方法。
【請求項38】
細胞が幹細胞または前駆細胞である、請求項36記載の方法。
【請求項39】
幹細胞が胚性幹細胞または神経幹細胞である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
細胞が、インスリンアゴニストおよび/またはIGFアゴニストを組換えによって発現する、請求項36記載の方法。
【請求項41】
治療的有効量のインスリンアゴニストおよび治療的有効量のIGFアゴニストを被験者に投与する段階を含む、ADに罹患した被験者の精神機能を改善するための方法。
【請求項42】
治療的有効量のインスリンアゴニストおよび治療的有効量のIGFアゴニストを被験者に投与する段階を含む、ADに罹患した被験者における記憶力減退を軽減するための方法。
【請求項43】
治療的有効量のインスリンアゴニストおよび治療的有効量のIGFアゴニストを含む組成物。
【請求項44】
ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用である物質をスクリーニングするための方法であって、物質を動物に投与する段階、および該動物のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定する段階を含み、該物質を投与されなかった対照動物におけるレベルと比べた、1つまたは複数の該因子のレベルまたは機能の上昇により、該物質が、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用であることが示される方法。
【請求項45】
動物に潜在的な治療を適用する段階、および該動物のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定する段階を含む、ADに対する潜在的な治療を試験するための方法であって、治療を適用されなかった対照動物におけるレベルと比べた、1つまたは複数の該因子のレベルまたは機能の上昇により、該治療が、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用であることが示される方法。
【請求項46】
ADの発症または進行に対する潜在的な有害作用に関して物質を試験するための方法であって、物質を動物に投与する段階、および該動物のインスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定する段階を含み、該物質を投与されなかった対照動物におけるレベルと比べた、1つまたは複数の該因子のレベルまたは機能の低下により、該物質が、ADの発症または進行に対する有害作用を潜在的に有することが示される方法。
【請求項47】
非ヒト動物にストレプトゾトシン(STZ)を脳内注射することによって作製されるADの動物モデルであって、該非ヒト動物が1週齢未満の時点で注射される動物モデル。
【請求項48】
非ヒト動物にSTZを脳内注射することによって作製されるADの動物モデルであって、該非ヒト動物に少なくとも約10mg/kg体重の用量のSTZが注射される動物モデル。
【請求項49】
非ヒト動物がラットまたはマウスである、請求項47または48記載の動物モデル。
【請求項50】
非ヒト動物が2日齢〜4日齢で注射される、請求項47または48記載の動物モデル。
【請求項51】
非ヒト動物に少なくとも約10mg/kg体重の用量のSTZが注射される、請求項47記載の動物モデル。
【請求項52】
STZの用量が約40mg/kg体重である、請求項48または51記載の動物モデル。
【請求項53】
ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用である物質をスクリーニングするための方法であって、請求項46記載の動物モデルに物質を投与する段階、および該物質を投与されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能を決定する段階を含み、該物質を投与されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能の改善により、該物質が、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用であることが示される方法。
【請求項54】
物質が、STZの注射の約1週間後〜約3週間後に投与される、請求項53記載の方法。
【請求項55】
物質が、STZの注射の約2週間後に投与される、請求項54記載の方法。
【請求項56】
ADの指標が、インスリン/IGFシグナル伝達経路中の少なくとも1つの因子である、請求項53記載の方法。
【請求項57】
ADの指標が神経変性である、請求項53記載の方法。
【請求項58】
ADの指標が認知機能障害である、請求項53記載の方法。
【請求項59】
請求項46記載の動物モデルに潜在的な治療を適用する段階、および潜在的な治療を適用されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能を決定する段階を含む、ADに対する潜在的な治療を試験するための方法であって、潜在的な治療を適用されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能の改善により、該治療が、ADの治療、寛解、または予防に潜在的に有用であることが示される方法。
【請求項60】
請求項46記載の動物モデルに物質を投与する段階、および潜在的な治療を適用されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能を決定する段階を含む、ADの発症または進行に対する潜在的な有害作用に関して物質を試験するための方法であって、該物質を投与されなかった対照動物におけるレベルと比べた、ADの少なくとも1つの指標のレベルまたは機能の低下により、該物質が、ADの発症または進行に対する有害作用を潜在的に有することが示される方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公表番号】特表2008−522199(P2008−522199A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−544579(P2007−544579)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【国際出願番号】PCT/US2005/043856
【国際公開番号】WO2006/060753
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(507183930)
【Fターム(参考)】