説明

アルファ−シヌクレインキナーゼ

本発明は、患者脳のレヴィー小体病(LBD)関連疾患を治療するための因子および方法を提供する。このような疾患としては、パーキンソン病(PD)、びまん性レヴィー小体病(DLBD)、レヴィー小体異型アルツハイマー病(LBV)、PDとアルツハイマー病(AD)との併発、および多系統萎縮症(MSA)とみなされる症候群が挙げられる。一部の方法は、表1A、B;C、表2、表12または表13に示したキナーゼの活性または発現を調節する因子を特定し、この因子がLBDの動物モデルにおいてこの疾患を治療するのに有用な活性を示すか否かを決定するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願)
この出願は、本明細書においてその全体が参考として全ての目的のために援用される、2006年1月31日に出願された米国仮特許出願第60/764,000号に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
レヴィー小体病(LBD)の特徴は、ドーパミン作動系の変性、運動性変調、認知障害、およびレヴィー小体(LB)の形成である(非特許文献1)。LDBとしては、パーキンソン病、びまん性レヴィー小体病(DLBD)、レヴィー小体異型アルツハイマー病(LBV)、パーキンソン病(PD)とアルツハイマー病(AD)との併発、および多系統萎縮症(MSA)とみなされる症候群が挙げられる。レヴィー小体を伴う痴呆(DLB)というのは、LBD間の専門用語の相違を調整するために作られた用語である。LBを有する疾患は、依然として、高齢者における運動性疾患および認識力低下に共通する原因となっている(非特許文献2)。この疾患の発生率は増加し続けており、深刻な公衆衛生問題を生じているが、今日まで、こうした疾患に対して認可された治療法はない(非特許文献3)。LBDの原因については意見の分かれるところであり、各種の神経毒および遺伝的感受性要因などのさまざまな要因が役割を果たしていると提唱されている。
【0003】
近年、LBDの病因の理解に関して新たな可能性が浮上した。具体的には、いくつかの研究によって、(1)シナプス蛋白質アルファ−シヌクレインがLB内に蓄積すること(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)、(2)アルファ−シヌクレイン遺伝子の突然変異体が稀な家族型パーキンソン病に伴って単離されること(非特許文献7、非特許文献8)、ならびに(3)遺伝子導入マウス(非特許文献9)およびショウジョウバエ(非特許文献10)におけるその過剰発現によってPDのいくつかの病理学的側面が再現されることから、アルファ−シヌクレインはPDの病因に中心的な役割を果たしていることが分かった。すなわち、脳内のアルファ−シヌクレインの蓄積がヒト、マウス、ハエといった多様な種において同様な形態学的および神経学的変化を伴うという事実から、この分子がPD発症の一因となっていることが示唆される。
【非特許文献1】McKeith et al., Clinical and pathological diagnosis of dementia with Lewy bodies (DLB): Report of the CDLB International Workshop, Neurology (1996) 47:1113−24
【非特許文献2】Galasko et al., Clinical−neuropathological correlation in Alzheimer’s disease and related dementias. Arch. Neurol. (1994) 51:888−95
【非特許文献3】Tanner et al., Epidemiology of Parkinson’s disease and akinetic syndromes, Curr. Opin. Neurol. (2000) 13:427−30
【非特許文献4】Spillantini et al., Nature(1997)338:p839−40
【非特許文献5】Takeda et al., J. Pathol.(1998)152:p367−72
【非特許文献6】Wakabayashi et al., Neurosci. Lett.(1997)239:p45−8
【非特許文献7】Kruger et al., Nature Gen.(1998年)18:p106−8
【非特許文献8】Polymeropoulos, et al., Science(1997)276:p2045−7)
【非特許文献9】Masliah et al., Science)(2000)287:p1265−9
【非特許文献10】Feany et al., Nature(2000)404:p394−8
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の要約)
一態様として、本発明は、レヴィー小体病(LBD)を治療する活性について因子をスクリーニングする方法を提供する。このような疾患としては、パーキンソン病(PD)、びまん性レヴィー小体病(DLBD)、レヴィー小体異型アルツハイマー病(LBV)、PDとアルツハイマー病(AD)との併発、および多系統萎縮症(MSA)とみなされる症候群が挙げられる。一部の方法は、表1A、B;C、表2、表12または表13に示したキナーゼの活性または発現を調節する因子を特定し、この因子がLBDの動物モデルにおいてこの疾患を治療するのに有用な活性を示すか否かを決定するものである。一部の方法では、この調節は阻害することである。一部の方法では、工程(a)は、この因子が上記キナーゼを阻害するか否かを特定することを含む。一部の方法では、工程(a)は、このキナーゼおよび/またはアルファ−シヌクレインを発現する核酸で形質転換した細胞において行われる。一部の方法では、工程(a)はインビトロで行う。一部の方法では、工程(b)はLB疾患のトランスジェニック動物モデルにおいて行われ、このトランスジェニック動物はヒト・アルファ−シヌクレインを発現する導入遺伝子を有することができる。好ましくは、このキナーゼはAPEG1、PLK2、CDC7L1、PRKG1、MAPK13、GAK、RHOK、ADRBK1、ADRBK2、GRK2L、GRK5、GRK6、GRK7、IKBKB、CKIIおよびMETのうちの少なくとも1種であり、その調節は阻害である。より好ましくは、このキナーゼはPLK2またはGRK6であり、その調節は阻害である。このキナーゼはPLK2であることがさらに好ましい。好ましくは一部の方法において、このキナーゼはPRKG1、MAPK13またはGAKであり、その調節は賦活化することである。一部の態様として、工程(b)は、このトランスジェニック動物を上記因子と接触させ、この因子がこの因子を処置していない対照トランスジェニック動物と比較してアルファ−シヌクレインの沈着物の形成を抑制するかどうかを明らかにするものである。
【0005】
別の態様として、本発明はLBDの治療もしくは予防を行う方法を提供する。この方法のいくつかの例は、この病気に罹患しているか罹患するリスクのある患者に対して、キナーゼの活性または発現を調節するのに有効な因子の有効な療法を施行するものである。このキナーゼは、表1A、BもしくはC、表2、表12または表13に示したもののうちの1種とすることができる。また、上記因子は、このキナーゼに対する抗体、このキナーゼの発現を調節する亜鉛フィンガー蛋白質またはこのキナーゼの核酸配列に相補的な配列を有するアンチセンスRNA、siRNA、リボザイムもしくはRNAであることが好ましい。一部の方法では、この調節は阻害することであり、好ましくはこのキナーゼは以下のAPEG1、PLK2、CDC7L1、RHOK、ADRBK1、ADRBK2、GRK2L、GRK5、GRK6、GRK7、IKBKB、CKIIおよびMETのうちの少なくとも1種である。より好ましくは、このキナーゼはPLK2またはGRK6である。このキナーゼはPLK2であることがさらに好ましい。上記方法の一部では、このキナーゼはPRKG1、MAPK13およびGAKのうちの少なくとも1種であり、その調節は活性化である。
【0006】
別の態様として、本発明は、アルファ−シヌクレインを発現する細胞に対してキナーゼをコードしている遺伝子に相補的な配列を有する核酸またはこの遺伝子に特異的に結合する亜鉛フィンガー蛋白質をトランスフェクトすることによりアルファ−シヌクレインをリン酸化するキナーゼを特定する方法を提供する。このトランスフェクトした核酸または亜鉛フィンガー蛋白質はキナーゼの発現を阻害するが、このとき、この細胞のリン酸化アルファ−シヌクレインの量を、siRNAまたは該siRNAをコードしている核酸をトランスフェクトしていない対照細胞との比較で測定することができる。この場合、リン酸化アルファ−シヌクレインの減少は、このキナーゼがアルファ−シヌクレインをリン酸化することの指標となる。また、一部の方法として、この細胞により産生されたアルファ−シヌクレインの量を、上記核酸をトランスフェクトしていない対照細胞との比較で測定する方法が挙げられる。一部の方法では、この核酸は、siRNAまたはそれをコードしているDNA分子である。
【0007】
他の態様として、本発明は、シンフィリンの活性または発現を調節する因子を特定し、この因子がレヴィー小体病(LBD)の動物モデルにおいてLBDを治療するのに有用な活性を示すか否かを決定する工程によってこの疾患を治療する活性について因子をスクリーニングする方法を提供する。
【0008】
他の態様として、本発明は、細菌細胞内にアルファ−シヌクレインをコードしているプラスミドおよびPLK2をコードしているプラスミドを供給し、この細胞を培養することによりこれらのプラスミドが同時発現してアルファ−シヌクレインおよびPLK2を産生する状態にして細菌細胞内でPLK2にアルファ−シヌクレインをリン酸化させ、この細胞からリン酸化アルファ−シヌクレインを単離することによって、Ser−129リン酸化アルファ−シヌクレインを作製する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
定義
「因子」という用語は、薬理活性を有するか、有する可能性のある化合物を記述するのに用いている。因子としては、既知の薬物である化合物、薬理活性は確認されているが、さらに治療上の評価が行われている化合物、および薬理活性についてスクリーニングされることになっているコレクションおよびライブラリを構成する物質である化合物が挙げられる。
【0010】
「薬理」活性とは、因子が疾患の予防もしくは治療に有用であるか、有用である可能性を有することを示すスクリーニング系において、ある因子が活性を発現することを意味する。このスクリーニング系はインビトロ系、細胞系、動物系もしくはヒト系とすることができる。因子は、疾患の処置における実際的な予防もしくは治療的有用性を立証するにはさらに試験を必要とする可能性があるにしても、薬理活性を有すると評することができる。
【0011】
レヴィー様小体は、ヒト患者に存在するレヴィー小体の特徴の一部または全てと類似している、トランスジェニック動物に見いだされる水/界面活性剤不溶性のアルファ−シヌクレイン沈着物である。これらの特徴としては密なアルファ−シヌクレイン陽性封入体であることが好ましい。こうした封入体は年齢依存性に形成されることが好ましい。アルファ−シヌクレイン陽性封入体が形成されると、細胞病変が観察可能となり、患部神経細胞の機能が失われることになる。患部神経細胞の機能の喪失は、行動試験、神経薬理学的反応評価および電気生理学によって確認することができる。
【0012】
「特異的に結合する」という語句は、蛋白質類その他の生体物質の不均一な集団の存在下に上記蛋白質の存在を決定するような結合反応のことを意味する。すなわち、所定の条件下においては、特定のリガンドは特定の蛋白質に選択的に結合し、試料中に存在する他の蛋白質とは有意な量で結合しない。多くの場合、蛋白質に特異的に結合する抗体などの分子の結合定数は、少なくとも106M−1もしくは107M−1、好ましくは108M−1乃至109M−1、より好ましくは約1010M−1乃至1011M−1以上である。種々のイムノアッセイ方式を用いて特定の蛋白質に対し特異的な免疫反応性を示す抗体を選定することができる。例えば、蛋白質に対し特異的な免疫反応性を示すモノクロナール抗体を選定するのに固相ELISAイムノアッセイ法が日常的に用いられている。特異的な免疫反応性を測定するのに用いることができるイムノアッセイ方式および条件の解説については、例えば、Harlow、Lane(1988年)、Antibodies、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Publications、ニューヨークを参照されたい。
【0013】
配列の比較においては、通常、1つの配列を試験配列と比較する対照配列として用いる。配列比較アルゴリズムを用いる際には、試験および対照配列をコンピュータに入力し、必要な場合、部分配列座標(subsequence coordinates)を指定し、次に、配列アルゴリズム・プログラム・パラメータを指定する。次いで、指定したプログラム・パラメータに基づいて、配列比較アルゴリズムにより、対照配列に対する試験配列の配列同一性パーセントを算出する。
【0014】
比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith、Waterman、Adv. Appl. Math.、2:p482(1981年)の局所ホモロジーアルゴリズム、Needleman、Wunsch、J. Mol. Biol.、48:443(1970年)のホモロジー・アラインメント・アルゴリズム、Pearson、Lipman、Pro. Nat’l. Acad. Sci. USA、85:2444(1988年)の類似性検索法(the search for similarity method)、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実施(ウィスコンシン・ジェネティクス・ソフトウェア・パッケージ(Wisconsin Genetics Software Package)、ジェネティクス・コンピュータ・グループ(Genetics Computer Group)、575サイエンス(Science)Dr.、マジソン(Madison)、ウィスコンシン州のGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)、もしくは目視検査(visual inspection)(一般的には、Ausubelほかの上記文献参照)によって行うことができる。
【0015】
配列同一性パーセントおよび配列類似性を測定するのに適したアルゴリズムの別の例は、Altschulほか、J. Mol. Biol.、215:403−410(1990年)に記載されているBLASTアルゴリズムである。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公開されている。このアルゴリズムは、先ず、データベース配列中の同じ長さの文字列(word)と整列させた時にある正値の閾値スコアTにマッチするかこれを満たす検索(query)配列中の長さWの短い文字列を特定することによって高相同性スコア(high scoring)配列対(HSP)を同定するものである。Tは、近傍文字列スコア閾値(neighborhood word score threshold)(Altschulほか、上記文献)と呼ばれる。これらの初期の近傍文字列ヒットは、これらを含むより長いHSPを見出す検索を開始するためのシードとなる。次いで、これらの文字列ヒットは、累積アラインメント・スコアが増加し得る限り、各配列に沿って両方向に延長される。ヌクレオチド配列の場合、累積スコアは、パラメータM(一対の一致残基のスコア値(reward);常に>0)およびN(不一致残基のペナルティ値;常に<0)を用いて算出する。アミノ酸配列の場合、スコアリング・マトリクス(scoring matrix)を用いて累積スコアを算出する。文字列ヒットの各方向への延長は、以下の場合、即ち、上記累積アラインメント・スコアがその最大到達値から数量Xだけ減少した場合、この累積スコアが1つ以上のネガチブ・スコア(negative−scoring)残基アラインメントの蓄積によりゼロ以下になった場合、もしくはどちらの配列においても末端に到達した場合に停止する。ある核酸もしくはポリペプチドが本発明の範囲内にあるかどうかを確認するためには、BLASTプログラムのデフォルト・パラメータが適している。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列の場合)は、デフォルトとして、文字列長さ(W)11、期待値(E)10、M=5、N=4および両鎖の比較を用いる。アミノ酸配列の場合、BLASTNプログラムは、デフォルトとして、文字列長さ(W)3、期待値(E)10およびBLOSUM62スコアリング・マトリクスを用いる。TBLATNプログラム(ヌクレオチド配列の代わりに蛋白質配列を用いる)は、デフォルトとして、文字列長さ(W)3、期待値(E)10およびBLOSUM62スコアリング・マトリクスを用いる。(Henikoff、Henikoff、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915 (1989)参照)。
【0016】
配列同一性パーセントを算出する他に、BLASTアルゴニズムは2つの配列間の類似性の統計的な解析をも行う(例えば、Karlin、Altschul、Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA 90:5873−5787(1993年)参照)。BLASTアルゴニズムにより得られる類似性の1つの指標は、2つのヌクレオチドもしくはアミノ酸配列間の一致が偶然生じる確率の指標となる最小合計確率(sum probability)(P(N))である。例えば、試験核酸と対照核酸との比較における最小合計確率が約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、この核酸は対照配列と類似していると考えられる。
【0017】
アミノ酸置換を保存的もしくは非保存的なものとして分類するために、アミノ酸を以下のようにグループ分けする:グループI(疎水性側鎖):ノルロイシン、met、ala、val、leu、ileu;グループII(中性親水性側鎖):cys、ser、thr;グループIII(酸性側鎖):asp、glu;グループIV(塩基性側鎖):asn、gln、his、lys、arg;グループV(鎖配向に影響する残基):gly、pro;およびグループVI(芳香族側鎖):trp、tyr、phe。保存的置換は同じクラスのアミノ酸間の置換を行うものである。非保存的置換は、これらのクラスの中の1つのアミノ酸を別のクラスのアミノ酸と交換することから成る。
【0018】
通常、本発明の治療剤は好ましくない夾雑物を実質的に含まない。このことは、因子が、妨害蛋白質および夾雑物を実質的に含まないばかりでなく、通常、少なくとも約50%w/w(重量/重量)の純度であることを意味する。場合によっては、こうした因子の純度は、少なくとも約80%w/w、より好ましくは少なくとも90もしくは約95%w/wである。しかしながら、従来の蛋白質精製法を用いると、少なくとも99%w/wの均一なペプチドを得ることができる。
【0019】
「抗体」もしくは「免疫グロブリン」という用語は、完全な状態の抗体およびその結合性断片を含めて用いている。通常、断片は、それが由来する完全な状態の抗体と、個々の重鎖、軽鎖Fab、Fab’F(ab’)2、FabcおよびFvを含む抗原断片への特異的結合に対して競合する。断片は、組換えDNA法、もしくは完全な状態の免疫グロブリンの酵素的もしくは化学的切断によって作製することができる。また、「抗体」という用語は、他の蛋白質との融合蛋白質へと化学的に結合させ、もしくはこうした融合蛋白質として発現させた1種以上の免疫グロブリン鎖を含む。また、「抗体」という用語は、二重特異性抗体を含む。二重特異性もしくは二官能性抗体は、2種の重/軽鎖対および2種の結合部位を有する人工的なハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合もしくはFab’断片間の結合を含む種々の方法によって作製することができる。例えば、Songsivilai、Lachmann、Clin. Exp. Immunol. 79: 315−321 (1990年); Kostelnyほか、J. Immunol. 148: 1547−1553 (1992年)を参照されたい。
【0020】
疾患の症候とは、正常な機能、知覚または外見からの逸脱を意味する疾患を有する個体が経験する現象を意味する。
【0021】
疾患の徴候とは、疾患の存在またはリスクを意味することにつながる何らかの身体症状である。
【0022】
「患者」という用語は、予防的もしくは治療的処置を受けるヒトおよび他の哺乳動物の対象を含む。
【0023】
記載された1つ以上の要素を「含む」組成物もしくは方法には、特に記載されていない他の要素を含めることができる。例えば、アルファ−シヌクレイン・ペプチドを含む組成物は、アルファ−シヌクレイン・ペプチド単体と、より大きなポリペプチド配列の構成成分としてのアルファ−シヌクレイン・ペプチドとの両方を包含する。
【0024】
特に文脈から明らかでない限り、本発明の各実施態様、要素、工程もしくは特徴は、任意の他のものとの組み合わせで用いることができる。
【0025】
(発明の詳細な説明)
I. 概要
本発明は、アルファ−シヌクレインをリン酸化し、および/またはその産生を阻害する1種以上のキナーゼを阻害することによりレヴィー小体病(LDB)を抑制することができるという洞察に、部分的に基づいている。アルファ−シヌクレインはレヴィー小体(LB)に存在する主要な蛋白質である。本発明の実施はメカニズムの理解に左右されるものではないが、アルファ−シヌクレインのコドン129におけるリン酸化は、アルファ−シヌクレインの細胞内沈着物の形成をもたらす一連の分子事象の1つであると考えられている。ser−129でリン酸化されているアルファ−シヌクレインは、びまん性レヴィー小体病(DLBD)、多系統萎縮症(MSA)および家族型パーキンソン病(PD)のレヴィー小体(LB)に極めて多く含まれている。LBにおけるリン酸化アルファ−シヌクレインの異常な蓄積は、リン酸化シヌクレインがLB形成を駆動する病原性種であること、およびそのリン酸化に関与し、またはアルファ−シヌクレイン自体の産生を調節するキナーゼ(類)が多発性シヌクレオパチー(multiple synucleinopathies)の治療における治療上の標的(群)であることを示している。このシリーズの他の事象としては、リン酸化に続く蛋白質分解的切断が挙げられそうである(2004年5月19日出願の国際公開公報第WO2005/013889号参照)。本願では、その阻害がアルファ−シヌクレインのリン酸化の減少および/またはトータル・アルファ−シヌクレイン濃度の低下を伴う数種のキナーゼを特定したことを報告する。本発明はこれらのキナーゼの活性および発現の調節物質を特定する方法ならびにレヴィー小体病を処置する方法を提供する。
【0026】
II.本発明のキナーゼ
表1A、1Bおよび1Cには、蛋白質であって、これを阻害することによりser−129の位置のリン酸化が調節される蛋白質を示した。表1Aにはセリンおよび/またはスレオニン残基および、場合によっては、チロシンをリン酸化することができるキナーゼを示した。表1Bにはセリン残基を(知られている限り)修飾することができないチロシンキナーゼを示した。表1Cにはキナーゼ活性を有しないことが知られている蛋白質を示した。表1Aの上部からのキナーゼはアルファ−シヌクレインのser−129を直接リン酸化することができる候補である。また、表1Bの上部からのキナーゼは、アルファ−シヌクレインを間接的にリン酸化する役割を介する治療上の有用な標的である。表1Cの上部の蛋白質も、同じ理由から治療上の有用な標的である。各表の第1、2および3欄には、遺伝子名、キナーゼ名およびキナーゼのジェンバンク・アセッション番号を示した。その次の欄には、キナーゼの阻害がリン酸化を低下させる(「下降(down)」)のか、増大させる(「上昇(up)」)のかを示した。その次の3欄には、リン酸化の測定レベルが3回の独立した実験の平均値から外れる標準偏差の数を示した。最後の2欄にはキナーゼファミリー(即ち、アミノ酸特異性)および群を示した。
【0027】
表2および3には、キナーゼであって、これを阻害することによってリン酸化の割合を変えないでヒト・アルファ−シヌクレインの全体的濃度が調節されるキナーゼを示した。表2にはヒト・アルファ−シヌクレインの濃度の低下が最も強いキナーゼの全てを示した。表の欄には表1A、1Bおよび1Cと同様に名称をつけた。
【0028】
表4および5には、ヒト・アルファ−シヌクレインの全体的濃度を調節することが実施例で確認された、表1、2および3からのキナーゼを示した。実証されたキナーゼとしては、直接的または間接的にアルファ−シヌクレインをリン酸化するキナーゼであるPLK2、APEG1、CDC7L1、MET、GRK1、2、6および7が挙げられる。阻害されるとアルファ−シヌクレインのリン酸化を増大させることが見いだされたキナーゼであるPRKG1、MAPK13およびGAKは、アルファ−シヌクレインのリン酸化の負の調節因子である可能性が高い。さらに、インビトロのリン酸化研究からのデータによって、PKL2ならびにGRK2、5、6および7はインビトロでアルファ−シヌクレインをリン酸化することができるものと確認され、また、CKIIおよびIKBKBも確認された。さらに、組織培養による研究から、PKL2およびGRK6は組織培養においてアルファ−シヌクレインを直接リン酸化することができることが分かった。これらのデータは免疫組織化学を用いて裏付けられた。要約すると、PKL2および、それほどではないにせよGRK6も、アルファ−シヌクレインを直接リン酸化することができるので、レヴィー小体病における治療的介入の特に好ましい標的である。PKL2およびGRK6を阻害する因子はアルファ−シヌクレインのリン酸化も抑制するので、レヴィー小体病の治療または予防に用いることができる。また、APEG1、CDC7L1、MET、IKBKB、CKII、GRK1、GRK2、GRK6およびGRK7は、直接キナーゼの間接的な活性化因子である可能性が高いので、レヴィー小体病における治療的介入の標的である。従って、APEG1、CDC7L1、MET、IKBKB、CKII、GRK1、GRK2、GRK6およびGRK7を阻害する因子は、アルファ−シヌクレインのリン酸化も抑制し、レヴィー小体病の治療または予防に用いることができる。PRKG1、MAPK13およびGAKはアルファ−シヌクレインのリン酸化の負の調節因子である。従って、これらのキナーゼを活性化する因子はアルファ−シヌクレインのリン酸化を低下させ、レヴィー小体病の治療または予防に用いることができる。
【0029】
PKL2は、SNKとも称するが、G1細胞周期蛋白質であるポロ(Polo)様キナーゼであり、細胞内での代謝回転が速く、また、脳において発現され、ここでシナプス可塑性に関与する。一貫性を持たせるために、本特許出願の全体を通してPKL2という名称を用いる。PKL2は、活性化されると、賦活化された神経細胞の樹状突起を標的にし、そこでシナプス終末内の蛋白質をリン酸化すると考えられている。PKL2の代表的なアセッション番号は表1Aに示した。また、PKL2の配列は、Maほか、Mol. Cell. Biol.、23 (19): 6936−6943 (2003年)、Burnsほか、Mol. Cell. Biol.、23 (16): 5556−5571 (2003)、Matsudaほか、Oncogene 22 (21): 3307−3318 (2003年)、Shimizu−Yoshidaほか、Biochem. Biophys. Res. Commun.、289 (2): 491−498 (2001年)、Libyほか、DNA seq.、11 (6): 527−533 (2001年)、Holtrichほか、Oncogene 19 (42): 4832−4839、Ouyangほか、Oncogene 18 (44): 6029−6036 (1999年)およびKauselmannほか、EMBO J.、18 (20): 15528−5539のうちのいずれかに見いだすことができるが、PKL2のアミノ酸もしくは核酸配列という表現にはこれらの参考文献の全ての配列またはその対立遺伝子変異体が含まれる。
【0030】
GPK6は、GPRK6とも称するが、G蛋白質共役受容体キナーゼであり、シグナル伝達に関与している。G蛋白質共役受容体キナーゼはリガンド活性化型G蛋白質共役受容体をリン酸化し、脱感作する。これまでに、GRK6の発現は多くの脳領域においてMPTP損傷群で有意に高くなることが明らかにされている。一貫性を持たせるために、本特許出願全体を通してGRK6という名称を用いる。代表的なアセッション番号を表1Aに示した。GRK6の配列は、Teliほか、Anesthesiology 98 (2): 343−348 (2003)、Miyagawaほか、Biophys. Res. Commun. 300 (3): 669−673 (2003年)、Gaudreauほか、J. Biol. Chem. 277 (35): 31567−31576 (2002年)、Grange−Midroitほか、Brain Res. Mol. Brain Res. 101 (1−2): 39−51 (2002年)、Willetsほか、J. Biol. Chem. 277 (18): 15523−15529 (2002年)、Blaukatほか、J. Biol. Chem. 276 (44): 40431−40440 (2001年)、Zhouほか、Pharmacol. Exp. Ther. 298 (3): 1243−1251 (2001年)、Proninほか、J. Biol. Chem. 275 (34): 26515−26522 (2000年)、Tiruppathi、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 97 (13): 7440−7445 (2000年)、Premontほか、J. Biol. Chem. 274 (41): 29381−29389 (1999年)、Brenninlmeijerほか、J. Endocrinol. 162 (3): 401−408 (1999年)、Hallほか、J. Biol. Chem. 274 (34): 24328−24334 (1999年)、Lazariほか、Mol. Endocrinol. 13 (6): 866−878 (1999年)、Milcentほか、Biochem. Biophys. Res. Common. 259 (1): 224−229 (1999年)、Premont, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95 (24): 14082−14087 (1998年)、Stoffelほか、Biochemistry 37 (46): 16053−16059 (1998年)、Loudonほか、J. Biol. Chem. 272 (43): 27422−27427 (1997年)、Freedmanほか、J. Biol. Chem. 272 (28): 17734−17743 (1997年)、Bullrichほか、Cytogenet. Cell Genet. 70 (3−4): 250−254 (1995年)、Stoffelほか、J. Biol. Chem. 269 (45): 27791−27794 (1994年)、Loudonほか、J. Biol. Chem. 269 (36): 22691−22697 (1994年)、Haribabu、Snyderman、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90 (20): 9398−9402 (1993年)およびBenovic、Gomez、J. Biol. Chem. 268 (26): 19521−19527 (1993年)のうちのいずれかに記載されているが、GRK6のアミノ酸もしくは核酸配列という表現にはこれらの参考文献の全てのアミノ酸もしくは核酸配列またはその対立遺伝子変異体が含まれる。
【0031】
カゼインキナーゼII(CKII、CSNK2およびCSNKIIとも称する)はアルファ−シヌクレインをリン酸化すると報告されている。一貫性を持たせるため、本明細書ではCKIIの名称を用いる。CKIIの配列は、NM_001896およびNM_001320のアセッション番号でジェンバンクに登録され、および/または、Panasyuほか、J. Biol. Chem. 281 (42): 31188−31201 (2006年)、Salviほか、FEBS Lett. 580 (16): 3948−3952 (2006年)、Limほか、Cell 125 (4): 801−814 (2006年)、Llorensほか、Biochem. J. 394 (Pt. 1): 227−236 (2006年)、Bjorling−Poulsenほか、Oncogene 24 (40): 6194−6200 (2005年)、Schubertほか、Eur. J. Biochem. 204 (2): 875−883 (1991年)、Vossほか、J. Biol. Chem. 266 (21): 13706−13711 (1991年)、Yang−Fengほか、Genomics 8 (4), 741−742 (1990年)、Heller−Harrisonほか、Biochemistry 28 (23), 9053−9058 (1989年)、Ackermannほか、Mol. Cell. Biochern. 274 (1−2): 91−101 (2005年)、Barrios−Rodilesほか、Science 307 (5715): 1621−1625 (2005年)、Andersenほか、Nature 433 (7021), 77−83 (2005年)、Ballifほか、Mol. Cell. Proteomics, 3 (11): 1093−1101 (2004年)、Beausoleilほか、PNAS, USA 101 (33): 12130−12135 (2004年)およびMaraisほか、EMBO J. 11(1): 97−105 (1992年)のうちのいずれかに記載されている。CKIIのアミノ酸もしくは核酸配列という表現にはこれらの参考文献の全てのアミノ酸もしくは核酸配列およびその対立遺伝子変異体が含まれる。
【0032】
IKBKBおよびこれと関連のIKBKAはNFkB炎症経路の正の調節因子である。IKBKBの配列はNM_001556のアセッション番号でジェンバンクに登録されており、および/または、Caterinoほか、FEBS Lett. 580 (28−29)、6527−6532 (2006年)、Castleほか、Genome Biol. 4 (10): R66 (2003年)、Satohほか、Biochim, Biophys. Acta 1600 (103): 61−67 (2002年)、Caohuy、Pollard、J. Biol. Chem. 277 (28): 25217−25225 (2002年)、Yuほか、J. Biol. Chem; 277 (18): 15819−15827 (2002年)、Selbertほか、J. Cell. Sci. 108 (Pt.1): 85095 (1995年)、Shirvanほか、Biochemistry 33 (22): 6888−6901 (1994年)、Creutzほか、Biochem. Biophys. Res. Commun. 184 (1): 347−352 (1992年)、Megendzoほか、J. Biol. Chem. 266 (5): 3228−3232 (1991年)、Bumsほか、PNAS, USA 86 (10): 3798−3802 (1989年)のうちのいずれかに記載されている。IKBKBのアミノ酸もしくは核酸配列という表現にはこれらの参考文献の全てのアミノ酸もしくは核酸配列およびその対立遺伝子変異体が含まれる。
【0033】
シンフィリンは、アルファ−シヌクレインに結合することが分かっているシヌクレイン関連蛋白質である。シンフィリンは、キナーゼそのものではないが、特にPLK2との組合せでシヌクレインのリン酸化を促進することが本明細書で明らかにされている。このシンフィリンは、PLK2依存性にシヌクレインのリン酸化を促進するように思われた。シンフィリンの配列は、NM_005460のアセッション番号でジェンバンクに登録されており、および/または、Tanjiほか、Am. J. Pathol. 169 (2): 553−565 (2006年)、Eyalほか、PNAS, USA 103 (15): 5917−5922 (2006年)、Avrahamほか、J. Biol. Chem. 280 (52): 42877−42886 (2005年)、Bandopadhyayほか、Neurohiol. Dis. 20 (2): 401−411 (2005年)、Limほか、J. Neurosci. 25 (8): 2002−2009 (2005年)、Ribeiroほか、J. Biol. Chem. 277 (26): 23927−23933 (2002年)、Chungほか、Nat. Med. 7 (10): 1144−1150 (2001年)、Engelenderほか、Mamm. Genome 11 (9): 763−766 (2000年)およびEngelenderほか、Nat. Genet. 22 (1), 110−114 (1999年)のうちのいずれかに記載されている。シンフィリンのアミノ酸もしくは核酸配列という表現にはこれらの参考文献の全てのアミノ酸もしくは核酸配列およびその対立遺伝子変異体が含まれる。
【0034】
III. アルファ−シヌクレインの単離
ヒト・アルファ−シヌクレインは次のアミノ酸配列を有するアミノ酸140個のポリペプチドである:
【0035】
【化1】

(配列番号:1)
(Uedaほか、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1993年) 90: 11282−6;ジェンバンク・アセッション番号:P37840)。この蛋白質は、認識される3つのドメイン、即ち、1から61番目のアミノ酸をカバーするKTKE繰返し配列ドメイン(repeat domain)、約60番目から95番目のアミノ酸に及ぶNAC(非アミロイド成分)ドメイン、および約98番目から140番目のアミノ酸に及ぶC末端酸性ドメインを有する。
【0036】
特に文脈から明らかでない限り、アルファ−シヌクレインという表現には上記の天然のヒト型アミノ酸配列ならびに天然のヒト型アルファ−シヌクレインと少なくとも90%の配列同一性を有する対立遺伝子、種および誘発変異体(例えば、E83Q、A90V、A76T)などの類似体を含める。上記の類似体と天然ヒト型アミノ酸配列とを最大限に整列させた場合、この類似体のアミノ酸にはこのヒト型アミノ酸配列の対応するアミノ酸と同じ番号が付与される。類似体は、1もしくは2カ所、または数カ所で天然ペプチドと異なるが、これは多くの場合、保存的置換によるものである。一部の対立遺伝子変異体は、遺伝性LBDと遺伝的な関連がある。「対立遺伝子変異体」という用語は、同一種の異なる個体の遺伝子間の変異およびこれらの遺伝子によりコードされている蛋白質の対応する変異のことを指して用いている。対立遺伝子変異体としては、E46K、A30P、A53T(最初の文字は配列番号:1におけるアミノ酸を示し、数字は配列番号:1におけるそのコドンの位置であり、2番目の文字は対立遺伝子変異体における対応するアミノ酸である)などの家族性突然変異体もしくは変異体が挙げられる。類似体としては対立遺伝子変異体間の任意の組合せを挙げることができる。A53Tの変異は、この突然変異を有さない病気ではない個体におけるリン酸化の基準に対する、突然変異を有する個体におけるアルファ−シヌクレインの129番目の位置のリン酸化のレベルの上昇と関連がある。
【0037】
アルファ−シヌクレイン、その断片および類似体は、固相ペプチド合成法もしくは組換え発現法によって合成することができ、または自然源から入手することができる。自動ペプチド合成機が、アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems)、フォスター・シティ(Foster City)、カリフォルニア州などの数多くの製造業者から市販されている。組換え発現では大腸菌などの細菌、酵母、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞などにおいて行うことができる。組換え発現の方法については、Sambrookほか、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (C.S.H.P.プレス、ニューヨーク、第2版、1989年)に記載されている。
【0038】
細菌発現系において野生型S−129リン酸化アルファ−シヌクレイン、突然変異体および/または家族型を大量調製する方法をここに開発した。細菌中で組換えhPLK2をアルファ−シヌクレインと同時発現させると、その細胞中に産生されたS−129リン酸化アルファ−シヌクレインは極めて高い収率および純度で回収された。これは、多くの大腸菌蛋白質と異なり、このアルファ−シヌクレインは加熱に耐えることができたからである。細菌溶解物を煮沸した後のアルファ−シヌクレインの純度はクロマトグラフィーの前に約95%に達した。
【0039】
細菌系において組換え蛋白質を同時発現させるために、各対象遺伝子を収容するプラスミドは、これらが異なる複製起点および異なる抗生物質選択性を有するようにすることによってその細菌細胞内で共存できるものを選択した。このアルファ−シヌクレイン遺伝子をpDEST24適合性ベクターであるpCDF1b中にサブクローニングした。次に、BL21−DE3菌を、pDEST24含有野生型hPLK2もしくはhPLK2構成的(constitutive)突然変異体でGST標識を有しない構造物およびpCDF1b/ASプラスミドの両者で同時形質転換した。この菌の溶解物を煮沸し、アルファ−シヌクレインを含有すると期待される上清について、抗−S129リン酸化アルファ−シヌクレイン抗体(11A5)を用いるウェスタンブロット法、シプロ・ルビー(SYPRO Ruby) (商標)およびプロZダイアモンド(ProZDiamond) (商標) 染色剤 (それぞれ、トータル蛋白質およびホスホ−Ser/Thr特異的染色剤)を用いる方法、SDS−PAGE法ならびに質量分析法によって分析した。その結果、極めて純粋なS129リン酸化アルファ−シヌクレインが単離され、これは、質量分析法での分析で95%超リン酸化されていることが明らかとなった。最終生成物が100%リン酸化されていて高純度となるように、最後の遠心の上清は11A5−セファロース−アフィニティ精製カラムを1度以上通過させた。どのような異物もHPLCを用いて除去した。
【0040】
IV.発現を調節する因子
既知の配列の任意の目的遺伝子の発現を抑制するのに、亜鉛フィンガー蛋白質、リボザイム、siRNA、アンチセンスRNAなどの特性のよく分かった一般的クラスの多くの因子を用いることができる。亜鉛フィンガー蛋白質は、目的遺伝子の発現を活性化するのに用いることもできる。抑制の対象となる遺伝子は、好ましくはPLK2またはGRK6である。何故なら、これらの遺伝子によりコードされているキナーゼはアルファ−シヌクレインを直接リン酸化するからである。PLK2が特に好ましい。また、APEG1、CDC7L1、MET GRK1、GRK2、CRK6、IKBKB、CKIIおよびGRK7は、これらが直接キナーゼの間接的活性化因子である可能性が高いので、抑制の好ましい標的である。PRKG1、MAPK13およびGAKはレヴィー小体病における活性化の好ましい候補である。何故なら、これらはアルファ−シヌクレインのリン酸化の負の調節因子であるからである。シンフィリンは抑制の好ましい標的である。何故なら、これは、キナーゼではないが、(通常、PLK2などのキナーゼの存在下に)アルファ−シヌクレインのリン酸化の増大に関係しているからである。
【0041】
亜鉛フィンガー蛋白質は、既知配列のキナーゼ遺伝子内の任意の所望標的部位に結合するように設計もしくは選択することができる。これらの蛋白質の1クラス(C2H2クラス)を特徴付ける代表的なモチーフは−Cys−(X)2−4−Cys−(X)12−His−(X)3−5−His (ただし、Xは任意のアミノ酸である)である。単一フィンガードメインはアミノ酸約30個の長さであるが、いくつかの構造研究によって、これが亜鉛を介して配位されるベータ・ターン中の2つの不変ヒスチジン残基および2つの不変システイン残基を含有するアルファヘリックスを含むことが明らかとなった。一部の方法では、その標的部位はプロモータまたはエンハンサ内にある。他の方法では、その標的部位は構造遺伝子内にある。一部の方法では、その亜鉛フィンガー蛋白質は、ヒトKOX−1蛋白質からのKRAB抑制ドメイン(Thiesenほか、New Biologist 2: 363−374 (1990年)、Margolinほか、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 4509−}513 (1994年)、Pengueほか、Nucl. Acids Res. 22: 2908−2914 (1994年)、Witzgallほか、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 4514−4518 (1994年))などの転写レプレッサーに結合する。一部の方法では、この亜鉛フィンガー蛋白質は、VIP16などの転写活性化因子に結合する。亜鉛フィンガー蛋白質により標的にするのに好適な標的部位を選択する方法および選択した標的部位に結合させるように亜鉛フィンガー蛋白質を設計する方法については国際公開公報第WO00/00388号に記載されている。ファージディスプレイを用いて標的に結合する亜鉛フィンガー蛋白質を選択する方法についてはEP.95908614.1に記載されている。亜鉛フィンガー蛋白質を設計するのに用いられる標的部位は通常9乃至19ヌクレオチドのオーダーである。
【0042】
リボザイムは酵素として働くRNA分子であり、他のRNA分子を特異的部位で切断するように設計することができる。リボザイム自体はこの過程で消費されることはなく、触媒的に作用してmRNA標的分子の多数のコピーを切断することができる。標的RNAをトランス切断するリボザイムの設計のための一般則については、Haseloff、Gerlach、(1988年) Nature 334: 585−591、Hollenbeck、(1987年) Nature 328: 596−603および米国特許第5,496,698号に記載されている。リボザイムは、通常、本発明のキナーゼをコードしている遺伝子の転写物上の2つの部位(標的亜部位)に対して相補性を示して結合する2つのフランキングセグメントおよびこれらフランキングセグメント間の触媒領域を含む。これらフランキングセグメントの長さは、通常5乃至9ヌクレオチド、最適には6乃至8ヌクレオチドである。このリボザイムの触媒領域の長さは、一般に約22ヌクレオチドである。上記mRNA標的分子は一般式NUN、好ましくはGUCを有する上記標的亜部位間のコンセンサス切断部位を含む。(Kashani−Sabet、Scanlon、(1995年) Cancer Gene Therapy 2: 213−223、Perrimanほか、(1992年) Gene (Amst.) 113: 157−163、Ruffierほか、(1990年) Biochemistry 29: 10695−10702、Birikhほか、(1997年) Eur. J. Biochem. 245: 1−16、Perrealtほか、(1991年) Biochemistry 30: 4020−4025)。リボザイムの特異性は、標的亜部位、従って、このような亜部位に相補的であるリボザイムのフランキングセグメントの選択によってコントロールすることができる。リボザイムは、RNA分子として、または複製可能なベクターの成分としてリボザイムをコードしているDNAの形で、もしくは下記のような複製可能でない形で送達することができる。
【0043】
また、標的キナーゼ遺伝子の発現は、この標的遺伝子の調節領域(即ち、標的遺伝子のプロモータおよび/またはエンハンサ)に相補的な配列を有する核酸を送達して三重らせん構造を形成させ、これにより体内の標的細胞内のこの標的遺伝子の転写を阻止することによって、低下させることができる。概して、Helene、(1991年)、Anticancer Drug Des. 6(6): 569−584、Heleneほか、(1992年)、Ann. N.Y. Acad. Sci. 60: 27−36およびMaher、(1992年)、Bioassays 14(12): 807−815を参照されたい。
【0044】
アンチセンス・ポリヌクレオチドは、センスmRNAに結合してその翻訳を妨げ、転写を妨げ、RNA前駆体のプロセッシングもしくは局在化を妨げ、mRNAの転写を抑制し、または何らかの他の機構(例えば、Sallengerほか、Nature 418: 252 (2002年)参照)により作用することによって抑制を引き起こすことができる。アンチセンス分子が発現を低下させる特定の機構が重要なのではない。通常、アンチセンス・ポリヌクレオチドは、本発明のキナーゼ遺伝子のmRNAからの配列に特異的にハイブリダイズする、少なくとも7乃至10個から典型的には20個以上のヌクレオチドの一本鎖アンチセンス配列からなる。一部のアンチセンス・ポリヌクレオチドは、長さが約10乃至約50ヌクレオチドまたは約14乃至約35ヌクレオチドである。一部のアンチセンス・ポリヌクレオチドは、約100ヌクレオチド未満または約200ヌクレオチド未満のポリヌクレオチドである。一般に、アンチセンス・ポリヌクレオチドは、安定な二本鎖を形成するのに十分長く、送達様式にもよるが、必要に応じてイン・ビボで投与するのに十分短くなければならない。標的配列への特異的なハイブリダイゼーションに必要なポリヌクレオチドの最小の長さは、いくつかの要因、例えば、G/C含量、ミスマッチ塩基(あるとすれば、その)の配置、標的ポリヌクレオチドの集団と比較した場合の配列の特異性の程度、ポリヌクレオチドの化学的性質(例えば、メチルホスホネートバックボーン、ペプチド核酸、ホスホロチオエート)などに依存している。
【0045】
siRNAは、キナーゼ転写物のような相補性mRNA転写物の発現を阻害する働きをする比較的短く少なくとも部分的に二本鎖のRNA分子である。本発明の実施ために機構の理解が必要とされるものではないが、siRNAは相補性mRNA転写物の分解を引き起こすことにより作用すると考えられる。siRNAの設計および使用の原則については概ね国際公開公報第WO99/32619号、Elbashir、EMBO J. 20: 6877−6888 (2001年)およびNykanenほか、Cell 107: 309−321 (2001年);国際公開公報第WO01/29058号に記載されている。siRNAは2本の少なくとも部分的に相補性のRNAから形成され、各鎖の好ましい長さは10乃至30、15乃至25もしくは17乃至23もしくは19乃至21ヌクレオチドである。これらの鎖はその長さ全体にわたって互いと完全に相補的であってもよいし、あるいは二本鎖分子の一端もしくは両端に一本鎖3’−オーバーハングを有するものであってもよい。一本鎖オーバーハングは、存在する場合には、通常1乃至6塩基、好ましくは1または2塩基である。siRNAのアンチセンス鎖は、本発明の遺伝子からの転写物のセグメントに対して実質的に相補性(例えば、少なくとも80、90、95%、好ましくは100%相補性)であるものを選択する。どのミスマッチ塩基もsiRNAの鎖の末端またはその近傍に生じることが好ましい。末端のミスマッチ塩基はデオキシリボヌクレオチドとすることができる。siRNAのセンス鎖は、対象遺伝子転写物のセグメントの相補体と類似の関係を示す。各鎖が完全な相補性の19塩基を有する2本の鎖を有し、センス鎖およびアンチセンスの3’末端にそれぞれ2個および1個のマッチしない塩基を有するsiRNAは特に好適である。
【0046】
siRNAを、siRNAをコードしているDNAの形とは異なって、それ自体を投与することになる場合には、siRNAの鎖には1種以上のヌクレオチド類似体を含ませることができる。このヌクレオチド類似体は、阻害活性が実質的にもたらされない位置、例えば、5’−末端および/または3’−末端の領域、特に、一本鎖オーバーハング領域に配置する。好ましいヌクレオチド類似体は糖もしくはバックボーン修飾リボヌクレオチドである。また、核酸塩基修飾リボヌクレオチド、即ち、天然型核酸塩基ではなく非天然型核酸塩基、例えば、5位を修飾したウリジンもしくはシチジン(5−(2−アミノ)プロピルウリジン、5−ブロモウリジンなど);8位を修飾したアデノシンおよびグアノシン(8−ブロモグアノシンなど);デアザヌクレオチド(7−デアザ−アデノシンなど);O−およびN−アルキル化ヌクレオチド(N6−メチルアデノシンなど)を含有するリボヌクレオチドも好適である。好ましい糖修飾リボヌクレオチドにおいては、2’OH基はH、OR、R、ハロ、SH、SR、NH2、NHR、NR2またはCN(但し、RはC1乃至C6アルキル、アルケニルもしくはアルキニルであり、ハロはF、Cl、BrもしくはIである)から選ばれる基によって置換されている。好ましいバックボーン修飾リボヌクレオチドにおいては、隣接のリボヌクレオチドに接続するリン酸エステル基は、修飾されている基によって置換されており、例えば、ホスホチオエート基である。さらに好ましい修飾は、siRNAの5’水酸化物残基にリン酸基を導入することである。このような基は、siRNAをATPおよびT4キナーゼで処理することにより導入することができる。また、天然RNAのホスホジエステル結合は、窒素もしくは硫黄ヘテロ原子のうちの少なくとも1種を含むよう修飾することができる。RNA構造の修飾は、特異的な遺伝子阻害を可能にすると同時に、dsRNAにより引き起こされる一部の生体における全般的なパニック反応が起こるのを防止するように調製することができる。同様に、塩基はアデノシン・デアミナーゼの活性をブロックするように修飾することができる。
【0047】
V.キナーゼの特定
アルファ−シヌクレインのリン酸化またはその産生を直接的もしくは間接的に調節するキナーゼは、実施例で示したように、特定することができる。一般に、潜在的阻害剤のライブラリはキナーゼ遺伝子のコレクションの既知の配列に基づいて設計される。このライブラリを構成する物質は、上述した種類の分子のいずれかとすることができる。次に、このライブラリの構成物質をアルファ−シヌクレイン発現細胞に導入する。この細胞およびアルファ−シヌクレインはいずれもヒトのものであることが好ましい。通常、このような細胞にはヒト・アルファ−シヌクレインをコードしているDNAおよび試験対象のライブラリ構成物質をコードしているDNAの両者がトランスフェクトされる。ライブラリ構成物質は個別に、または、まとめてスクリーニングすることができる。ライブラリ構成物質を導入し、このライブラリ構成物質が発現されてそのキナーゼを抑制するのに十分な期間培養した後、トータル・アルファ−シヌクレインおよびリン酸化アルファ−シヌクレインの濃度を測定し、キナーゼ発現を抑制するライブラリ構成物質を処置しなかったがその他の点では同様な対照細胞における対応する濃度と比較する。測定は、アルファ−シヌクレインのトータル濃度を測定するためのアルファ−シヌクレイン(好ましくは、ヒト・アルファ−シヌクレイン)に特異的な抗体およびリン酸化アルファ−シヌクレインの濃度を測定するためのリン酸化アルファ−シヌクレインに特異的な抗体を用いてイムノアッセイにより行った。代表的な抗体については2004年11月8日出願のPCT/US2004/037444に記載されている(引用により本明細書に組み込まれている)。通常の測定誤差の範囲から外れるという意味で有意である、処置および対照細胞間でのリン酸化アルファ−シヌクレイン濃度の低下は、この細胞に導入した阻害剤がキナーゼを阻害し、これによりアルファ−シヌクレインのリン酸化が直接的または間接的に影響を受けたことを示すものである。このキナーゼの同一性(identity)は、阻害剤を個々にスクリーニングすることにより、あるいは阻害剤をまとめてスクリーニングする場合には阻害剤をコードしている核酸の配列を決定することにより、阻害剤の同一性から決めることができる。同様に、アルファ−シヌクレインのトータル濃度に関して、そのような濃度の測定における通常の測定誤差の範囲を外れる、処置および対照細胞間での低下は、阻害剤がアルファ−シヌクレインの発現レベルに間接的に影響するキナーゼを阻害することを示すものである。
【0048】
次いで、最初のスクリーニングにより特定されたキナーゼ、特に、セリン・キナーゼであることが知られているキナーゼは、インビトロ、細胞またはトランスジェニック動物モデルにおいてアルファ−シヌクレインをリン酸化するその能力について試験することができる。インビトロ・アッセイは、アルファ−シヌクレインを直接リン酸化するかどうかを示すものであり、従って、アルファ−シヌクレインを直接リン酸化することができると考えらる、最初のスクリーニングで特定されたキナーゼにのみ有用である。細胞およびトランスジェニック動物によるアッセイは、直接的または間接的にリン酸化に影響を与えるキナーゼをスクリーニングするのに用いることができる。インビトロ・アッセイは、アルファ−シヌクレインを試験対象のキナーゼおよびATPと適当な緩衝液中で接触させることによって行う。好ましくは、ATPはγ−32P ATPであり、この場合、リン酸化アルファ−シヌクレインは放射標識され、ゲル上で検出することができる。また、リン酸化については、前述のようなリン酸化アルファ−シヌクレインに特異的な抗体を用いて測定することができる。あるいは、結合アッセイを用いてATP消費を測定することにより、間接的にリン酸化を測定することができ、このアッセイでは、Nature 78: 632 (1956年)、Mol. Pharmacol. 6: 31−40 (1970年)に記載されているようにしてADPを検出する。リン酸化の程度は、キナーゼまたはATPまたはこれらの両者を除いた対照と比較することができる。リン酸化の増大は、キナーゼがアルファ−シヌクレインを直接リン酸化することを示すものである。細胞によるアッセイは、細胞内にトランスフェクトしたアルファ−シヌクレイン、好ましくはヒト・アルファ−シヌクレインを発現する細胞で行う。キナーゼを発現することができる核酸も細胞内にトランスフェクトする。細胞内のリン酸化アルファ−シヌクレインの濃度は、このトランスフェクトキナーゼを欠く同様な対照細胞内のそれとの比較で測定する。リン酸化の増大は、キナーゼがアルファ−シヌクレインを直接的または間接的にリン酸化することを示すものである。トランスジェニック動物によるアッセイは、レヴィー小体様沈着物を形成する傾向のある、ヒト・アルファ−シヌクレインを発現するトランスジェニック動物と、キナーゼ導入遺伝子をも発現する同様な動物とを比較することによって行うことができる。導入遺伝子としてアルファ−シヌクレインのみを有するトランスジェニック動物に比し、さらにキナーゼ導入遺伝子を有するトランスジェニック動物においてリン酸化アルファ−シヌクレインおよび/またはレヴィー小体様沈着物が減少することは、このキナーゼがアルファ−シヌクレインのリン酸化に直接的または間接的に関与していることを示すものである。
【0049】
VI.活性を調節する化合物
種々の化合物について、キナーゼの発現または活性を調節(通常、阻害)する能力をスクリーニングすることができる。PLK2またはGRK6は、アルファ−シヌクレインを直接リン酸化することができるキナーゼ候補であるため、阻害のための好ましいキナーゼである。PLK2は、GRK6またはここで試験した他のキナーゼよりもはるかに高レベルでアルファ−シヌクレインをリン酸化することが分かっているので、特に好ましいキナーゼである。APEG1、CDC7L1、MET GRK1、GRK2、GRK6、IKBKB、CKIIおよびGRK7も、この直接キナーゼの間接的な活性化因子である可能性が高いので、阻害のための好ましいキナーゼである。PRKG1、MAPK13およびGAKは、アルファ−シヌクレインのリン酸化の負の調節因子であるので、レヴィー小体病における活性化のための好ましいキナーゼである。あるいは、こうしたキナーゼ自体または同様な活性を有するその断片もしくは模倣剤はアルファ−シヌクレインのリン酸化の阻害剤としてそのまま用いることができる。シヌクレインは、アルファ−シヌクレインのリン酸化の阻害のための治療上の代替的な標的として用いることができる。例えば、アルファ−シヌクレインおよびPLK2発現を有するアッセイにシンフィリンを加えて、シンフィリンの阻害剤を特定することができる。
【0050】
キナーゼの発現または活性の調節能力についてスクリーニング対象となる化合物としてはセクションIVに記載した発現の調節物質が挙げられる。また、これらの化合物としては多くの既知のキナーゼ阻害剤の例が挙げられ、その一部については既に治療的使用が承認され、または通常癌の治療のための臨床試験が行われている。先導(lead)構造としてはキナゾリン類、ピリド[d]−およびピリミドール[d]ピリミジン類、ピラゾロ[d]−ピリミジン類、ピロロ[d]ピリミジン類、フェイルアミノ−ピリミジン類、1−オキソ−3−アリール−1H−インデン−2−カルボン酸誘導体類、置換インドリン−2−オン類ならびにスタウロスポリンなどの天然物類が挙げられる(Traxlerほか、Medicinal Research Reviews 21: 499−512 (2001年)参照)。そのような化合物の一部はカルビオケム−ノバビオケム社(Calbiochcm−Novabiochem Corp.)(ラ・ホーヤ(La Jolla)、カリフォルニア州)から市販されており、例えば、H89、Y27632、AT877 (塩酸ファスジル)、ロットレリン、KN62、U0123、PD184352、PD98059、SB203580、SB202190、ワートマニン、Li+、Ro318220、ケレリスレイン(chelerythrein)および10−[3−(1−ピペリジニル)プロピル]−2−トリフルオロメチル−フェノチアジンが挙げられる(Davies、Biochem. J. 351: 95−105 (2000年)参照)。現在臨床試験中の他の化合物としては、ST1571(ギルベックTM (GlivecTM)、フェニルアミノ−ピリミジン誘導体)(ノバルティス社(Novartis))、ZD1839(イレッサ)(アストラゼネカ社(AstraZeneca))、OSI−774(ロシュ/OSI社)、PKI166(ノバルティス社(Novartis))、CI1033(ファイザー/ワーナー−ランバート社(Pfizer/Wamer−Lambert))、EKB−569(ワイス−エルスト社)、SU5416(SUGEN社)、アニリン−フタラジン誘導体PTK787/ZK224584(ノバルティス/シェリングAG社(Novartis/Schering AG))、SU6668(SUGEN社)、ZD6474(アストラゼネカ社(AstraZeneca))およびCEP2583(セファロン社(Cephalon))が挙げられる。カベオリン−1はGRKキナーゼの活性を調節することが知られている化合物の1例である。PLK2/SNKキナーゼの活性を調節することが知られている化合物の例としては、hVPS18(液胞蛋白輸送関連蛋白18)のRING−H2ドメインならびにカルシウム−およびインテグリン−結合蛋白CIBが挙げられる。他の化合物は、例えば、海洋微生物、藻類、植物、真菌類などの自然源から得ることができる。試験することができる他の化合物としては、シンフィリンなどのアルファ−シヌクレインと相互作用することが知られている化合物が挙げられる。あるいは、ペプチドもしくは低分子化合物を含む因子のコンビナトリアルライブラリから、または産業において、例えば、化学、医薬品、環境、農、海洋、薬用化粧、製薬およびバイオテクノロジー産業によって合成された化学物質の既存の在庫から化合物を得ることができる。化合物としては、例えば、因子、治療剤、環境、農業もしくは工業用薬剤、汚染物質、薬用化粧品、医薬物質、有機化合物、脂質、糖質コルチコイド、抗生物質、ペプチド、蛋白質、糖、炭水化物およびキメラ分子を挙げることができる。
【0051】
コンビナトリアル・ライブラリは、段階的な方法で合成することができる多くの種類の化合物について作製することができる。このような化合物としては、ポリペプチド、蛋白質、核酸、β−ターン模倣物質、多糖類、リン脂質、ホルモン、プロスタグランジン、ステロイド、芳香族化合物、複素環式化合物、ベンゾジアゼピン、オリゴマーN−置換グリシン、およびオリゴカルバメートが挙げられる。これらの化合物の大きなコンビナトリアル・ライブラリは、アフィマックス社(Affymax)の国際公開第95/12608号、アフィマックス社(Affymax)の国際公開第93/06121号、コロンビア大学(Columbia University)の国際公開第94/08051号、ファーマコペア社(Pharmacopeia)の国際公開第95/35503号およびスクリップス社(Scripps)の国際公開第95/30642号(これらはいずれも、あらゆる目的で引用により本明細書に組み込まれている)に記載されているコード化合成ライブラリ(ESL)法によって構築することができる。また、ペプチド・ライブラリは、ファージ・ディスプレイ法によって作製することもできる。例えば、Devlinの国際公開第91/18980号を参照されたい。また、スクリーニング対象の化合物は、例えば、国立がんセンター研究所(NCI)天然物リポジトリ(Natural Product Repository)、ベセズダ(Bethesda)、メリーランド州、NCI公開合成化合物コレクション(Open Synthetic Compound Collection)、ベセズダ、メリーランド州、NCI治療開発プログラム(Developmental Therapeutics Program)などの政府系または私的供給源から入手することもできる。
【0052】
上記化合物としては、本発明のキナーゼに特異的に結合する完全な状態の抗体およびFab、Fvなどのその結合断片が挙げられる。通常、この抗体はモノクロナール抗体であるが、ポリクロナール抗体も組換え技術によって発現させることはできる(例えば、米国特許第6,555,310号参照)。発現させることができる抗体の例としては、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、合体(veneered)抗体およびヒト抗体が挙げられる。キメラ抗体は、その軽鎖および重鎖の遺伝子が、異なる種に由来する免疫グロブリン遺伝子セグメントから、通常遺伝子操作によって構築された抗体である(例えば、Boyceほか、Annals of Oncology 14: 520−535 (2003年)参照)。例えば、マウス・モノクロナール抗体からの遺伝子の可変(V)セグメントをヒト定常(C)セグメントに結合させることができる。従って、代表的なキメラ抗体は、マウス抗体のV、即ち抗原結合ドメインと、ヒト抗体のC、即ちエフェクタ・ドメインとから成るハイブリッド抗体である。ヒト化抗体は、実質的にヒト抗体(アクセプター抗体と呼ばれる)からの可変領域フレームワーク残基、および実質的にマウス抗体(ドナー免疫グロブリンと呼ばれる)からの相補性決定領域を有する。Queenほか、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 10029−10033 (1989年)ならびに国際公開第WO90/07861号、米国特許第5,693,762号、米国特許第5,693,761号、米国特許第5,585,089号、米国特許第5,530,101およびWinter、米国特許第5,225,539号を参照されたい。また、定常領域は、もし存在させる場合、実質的または完全にヒト免疫グロブリンからのものとする。抗体は、とりわけ、従来のハイブリドーマ法、ファージ・ディスプレー法(例えば、Dowerほか、国際公開第WO 91/17271号およびMcCaffertyほか、国際公開第WO 92/01047号参照)、ならびにヒト免疫系を有する遺伝子導入マウスの使用(Lonbergほか、国際公開第W093/12227号 (1993年))によって得ることができる。免疫グロブリン鎖をコードしている核酸は、ハイブリドーマもしくは抗体産生細胞株から、または公表文献中の免疫グロブリンの核酸もしくはアミノ酸配列に基づいて得ることができる。
【0053】
VII. レヴィー小体病のトランスジェニック動物モデル
トランスジェニック動物モデルは、上記のようにアルファ−シヌクレインをリン酸化し、レヴィー様小体を形成するキナーゼの能力を試験するのに有用である。また、トランスジェニック動物は、アルファ−シヌクレインのリン酸化または産生を調節する際の活性について因子をスクリーニングするのにも有用である。特に好ましい因子は、PLK2およびGRK6、またはAPEG1、CDC7L1、MET GRK1、GRK2、GRK6、IKBKB、CKIIおよびGRK7を含むキナーゼを阻害するか阻害すると考えられる因子である。また、キナーゼPRKG1、MAPK13およびGAKを活性化するか活性化すると考えられる因子も好ましい。さらに、ノックアウト動物(即ち、siRNA、亜鉛フィンガー蛋白質などによる挿入不活化またはトランス抑制によって内因性キナーゼが不活化されている動物)は動物に対するキナーゼ活性除去の効果を確認するのに有用である。例えば、PLK2−ノックアウトマウスを分析することによって、PLK2阻害剤が何らかの副作用を示すかどうかが分かる。類似のノックアウトマウスによれば、他のキナーゼについての同様の情報が明らかとなる。
【0054】
一般に、遺伝子導入モデルは、アルファ−シヌクレイン導入遺伝子をその発現を確実にするための1種以上の調節配列と動作可能に連鎖する形で含むゲノムを有する。この導入遺伝子が発現されると、アルファ−シヌクレインのレヴィー様沈着物がこの動物の脳内に形成されることになる。数種のこのようなトランスジェニック動物が科学および特許文献に記載されている(Masliahほか、Am. J. Pathol. (1996年) 148: 201−106およびFeanyほか、Nature (2000年) 404: 394−8))、(突然変異型APPを有するトランスジェニック動物に関する)米国特許第5,811,633号参照)。一部のトランスジェニック動物は、アルファ−シヌクレインの家族性突然変異体A30P、A53TおよびE46Kなどのアルファ−シヌクレイン変異体または突然変異体を発現する。一部のトランスジェニック動物は、上述のようなキナーゼをコードしている導入遺伝子などの更なる導入遺伝子を有する。また、アルファ−シヌクレイン蛋白質を発現する導入遺伝子を有するトランスジェニック動物は、アルツハイマー病のモデルなどの神経原性疾患の他の遺伝子導入モデルと交配させることもできる。例えば、切断型アルファ−シヌクレイン蛋白質を発現する導入遺伝子を有するトランスジェニック動物は、例えば、Gamesほか、Nature 373:523(1995年): McConlogueほか、米国特許第5,612,486号; Hsiaoほか、Science 274:99(1996年); Staufenbielほか、Proc. Natl. Acad Sci USA94:13287−13292(1997年); Sturchler−Pierratほか、Proc. Natl. Acad Sci USA 94:13287−13292(1997年); Borcheltほか、Nature 19:939−945(1997年)に記載されている、導入遺伝子により発現されるFAD突然変異を含むAPPを有するトランスジェニック動物と交配させることができる。このような交配を実施する方法については、例えば、Masliahほか、PNAS USA98:12245−12250(2001年)に記載されており、これには完全長のアルファ−シヌクレインを発現する遺伝子導入マウスとGames他により記載されているようなPDAPPマウスとの交配が報告されている。本発明のトランスジェニック動物は、好ましくは、マウス、ラットなどの齧歯動物、もしくはショウジョウバエなどの昆虫である。トランスジェニック動物は生殖細胞段階で導入遺伝子を導入することによって作製することができ、この場合、このトランスジェニック動物の細胞の全てもしくは(体細胞突然変異によるまれな損失を除き)実質的に全てがゲノムに組み込まれた導入遺伝子を含む。導入遺伝子は微量注入、核移植またはウイルス感染によって細胞または動物内に導入することができる。レンチウイルスは後者において特に好適である。あるいは、導入遺伝子は、ウイルス感染によって動物の脳内に導入することができる。このような導入遺伝子はレシピエント動物の生殖細胞の一部ではなく、病気に関与する脳の領域(例えば、黒質)を標的にすることができる。このような動物モデルはアルファ−シヌクレインを脳細胞のゲノムに組み入れており、LDB病の少なくとも1つの特徴を生じる傾向がある。レンチウイルスは脳内にアルファ−シヌクレイン導入遺伝子をそのように導入するための好適な伝達体となる(Brain Pathology 13: 364−372 (2003年); Bjorklund、Trends Neurosci. 26, 386−92 (2003年); Lothariusほか、J. Biol. Chem. 277: 38884−94 (2002年); Zhouほか、Brain Research 866: 33−43 (2000年)参照)。また、トランスジェニック動物には、アルファ−シヌクレインを発現する導入遺伝子の代わりに、またはこれと共に、本発明のキナーゼのうちの1種を発現することができる導入遺伝子(例えば、このキナーゼを、動物の脳内でのその発現を確実にするための調節エレメントと動作可能に連鎖する形でコードしている核酸)を組み込むこともできる。必要に応じて、シンフィリンを発現する導入遺伝子を組み込むこともできる。
【0055】
また、レヴィー小体病の細胞モデルも本発明のスクリーニング方法に用いることができる。アルファ−シヌクレインをトランスフェクトした細胞は凝集アルファ−シヌクレインを含む封入体を形成する。この形質転換細胞はGT1−7神経細胞(Hsueほか、Am. J. Pathol. 157: 401−410 (2000年))、PC12細胞またはSY5Y神経芽腫細胞などの神経細胞であることが好ましい。PEAKおよび/またはHCC細胞を用いることもできる(実施例11参照)。細胞はヒト細胞であることが好ましい。アルファ−シヌクレインを、その発現の発現を確実にする1種以上の調節配列に動作可能なように連結した形をコードしているセグメントを含むベクターを細胞中にトランスフェクトする。また、細胞には、上記のような本発明のキナーゼをコードしている核酸をトランスフェクトすることもできる。トランスフェクト細胞は、アルファ−シヌクレイン封入体の除去における活性について因子をスクリーニングするのに用いることができる。代表的な細胞モデルを実施例11で確認するが、この実施例では、LB形成に対応するシヌクレインの凝集およびリン酸化が起こるようにHCC神経細胞にシヌクレインおよびPLK2をトランスフェクトする。キナーゼの阻害剤を特定するために、阻害剤をシヌクレインおよびPLK2と共に発現させ、リン酸化および/または凝集の量の減少を確認する。
【0056】
VIII.調節因子の特定
アルファ−シヌクレインを直接的または間接的にリン酸化するキナーゼの発現または活性を調節する因子は種々のアッセイによって特定することができる。特に好ましい因子は、キナーゼPLK2もしくはGRK6、またはAPEG1、CDC7L1、MET GRK1、GRK2、GRK6、IKBKB、CKIIおよびGRK7を阻害する因子、あるいはPRKG1、MAPK13およびGAKを活性化させる因子である。発現を調節する因子は細胞を利用したアッセイで特定することができるが、このアッセイでは、アルファ−シヌクレイン、およびアルファ−シヌクレインを直接または間接的にリン酸化するかトータル・アルファ−シヌクレインの濃度を調節するキナーゼを発現する細胞中に試験対象の因子を導入する。必要に応じて、特にPLK2の場合、さらにシンフィリンを発現させることによりこのキナーゼの活性を増強することができる。この因子は、直接、またはこの因子をコードし発現することができる核酸の形で導入することができる。細胞は自然界でアルファ−シヌクレインおよびキナーゼを発現することができ、あるいはこれらの片方または両方を適当な核酸のトランスフェクトによって細胞内に導入することができる。この因子のキナーゼ発現に対する効果は、このキナーゼもしくはそのmRNAの濃度から直接的に、あるいは前述のように、リン酸化アルファ−シヌクレインまたはトータル・アルファ−シヌクレインの濃度を測定することにより間接的に測定することができる。キナーゼmRNAの濃度はハイブリダイゼーション型アッセイによって分析することができる。キナーゼの濃度はイムノアッセイによって分析することができる。必要に応じて、キナーゼは、検出を容易にするためにフラッグ(Flag)(商標)などのペプチド標識で標識する(Hoppほか、BioTechnology 6: 1204−1210 (1988年))。キナーゼの濃度を低下させ、アルファ−シヌクレインのリン酸化のレベルを減少させ、および/または因子を処置されていない同様な対照細胞との比較でトータル・アルファ−シヌクレインの濃度を低下させる因子は、レヴィー小体病の治療に有用な可能性のある薬理活性を有する。
【0057】
また、アルファ−シヌクレインをリン酸化し、またはアルファ−シヌクレインのトータル濃度を増加させると考えられるキナーゼの活性を調節する活性について因子をスクリーニングする。最初のスクリーニングは、キナーゼに特異的に結合することができる因子のサブセットを選択するために行う。このようなアッセイは、単離キナーゼまたはキナーゼ活性を有するその断片を用いてインビトロで行うことができる。
【0058】
次に、このようなスクリーニングにより特定した因子については機能的なアッセイを行うことができる。また、因子は、上記結合アッセイを行わずに、機能的アッセイに直接かけることもできる。アルファ−シヌクレインを直接リン酸化するキナーゼの場合、調節剤は、このキナーゼ、アルファ−シヌクレイン、ATPおよび調節剤を併用するインビトロアッセイによって、この調節剤を除外した対照との比較でスクリーニングすることができる。必要に応じて、特にキナーゼがPLK2である場合には、リン酸化を増大させるためにシンフィリンを含めることもできる。調節剤は、対照との比較で通常の実験誤差の範囲を超えてリン酸化のレベルを低下させる場合には、有用な可能性のある薬理活性を有する。
【0059】
また、因子は、アルファ−シヌクレイン、試験対象のキナーゼ、および、必要に応じて、特にキナーゼがPLK2である場合、シンフィリンを発現する細胞でスクリーニングすることもできる。このようなスクリーニングは、キナーゼが直接的または間接的にアルファ−シヌクレインをリン酸化するか、そうではなくアルファ−シヌクレインの濃度に影響するかにかかわらず、効果的である。細胞を因子と接触させ、トータル・アルファ−シヌクレインおよびリン酸化アルファ−シヌクレインの濃度を、この因子を処置しなかった対照細胞との比較で上述のようにして測定する。リン酸化アルファ−シヌクレインまたはトータル・アルファ−シヌクレインの濃度が通常の実験誤差の範囲を超えて、上記因子を処置しなかった対照細胞の対応する濃度と比較して低下することは、この化合物がレヴィー小体病の治療に有用な可能性のある薬理活性を有することを示すものである。
【0060】
また、因子は、レヴィー小体病のトランスジェニック動物モデル単独または上述の他のアッセイとの組合せでスクリーニングすることもできる。アルファ−シヌクレイン、リン酸化アルファ−シヌクレインあるいはレヴィー様小体またはレヴィー小体病変もしくは症状の他のインディカのトータル濃度を、試験対象因子を処置したトランスジェニック動物において、この因子を処置しなかった同様な対照動物における対応する濃度との比較で測定する。これらの濃度のうちの1つ以上が低下することは、この因子がレヴィー小体病の治療に有用な可能性のある薬理活性を有することを示すものである。
【0061】
上記アッセイならびに細胞および遺伝子導入モデルに用いるキナーゼは、本願に示した参考文献またはアセッション番号のうちの1つに配列が記載されているヒト・キナーゼであることが好ましい。しかしながら、このようなキナーゼの対立遺伝子変異体(種内の変異体)および種変異体(種間の変異体)も、変異体がそのようなキナーゼに対して少なくとも90%の配列同一性を有し得るので、用いることができる。その後の臨床使用においては、このようなアッセイによって特定された因子は天然のキナーゼ、好ましくはヒトに存在する型のキナーゼの活性または発現を調節することができる。
【0062】
IX.レヴィー小体病
レヴィー小体病(LBD)の特徴は、ドーパミン作動系の変性、運動性変調、認知障害、およびレヴィー小体(LB)の形成である。(McKeithほか、Clinical and pathological diagnosis of dementia with Lewy bodies (DLB): Report of the CDLB International Workshop, Neurology (1996年) 47:1113−24)。レヴィー小体は神経細胞に見出される球状の蛋白質沈着物である。これが脳内に存在すると、アセチルコリン、ドーパミンなどの化学的メッセンジャーの作用が遮断されて脳の正常な機能が妨げられる。レヴィー小体病としては、(特発性パーキンソン病(PD)を含む)パーキンソン病、レヴィー小体を有する痴呆(DLB)としても知られるびまん性レヴィー小体病(DLBD)、アルツハイマー病とパーキンソン病との併発、および多系統萎縮症(MSA)が挙げられる。DLBDは、アルツハイマーおよびパーキンソン病の症状を共有する。DLBDは、主にレヴィー小体の存在部位がパーキンソン病と異なる。DLBDではレヴィー小体は主として皮質に形成される。パーキンソン病ではこれは主として黒質に形成される。他のレヴィー小体病としては、自律神経失調症、レヴィー小体性燕下困難(Lewy body dysphagia)、偶発性LDB、遺伝性LDB(例えば、アルファ−シヌクレイン遺伝子の突然変異体PARK3およびPARK4)ならびに多系統萎縮症(例えば、オリーブ橋小脳萎縮症、線条体黒質変性症およびシャイ・ドレーガー症候群)が挙げられる。
【0063】
X.治療方法
本発明は、レヴィー小体病に罹患しているか、罹患するリスクを有する患者においてこの疾患を予防もしくは治療するいくつかの方法を提供する。治療剤としては、アルファ−シヌクレインのリン酸化を阻害し、および/またはアルファ−シヌクレインのトータル濃度を低下させる上記因子の全てが挙げられる。
【0064】
治療の対象となる患者としては、現在LBDの症状を示している患者ばかりでなく、LBDに罹患するリスクを有するが、症状は出ていない者も含まれる。従って、本方法は、LBDの遺伝的リスクを有することが分かっている個体に予防的に施行することができる。このような個体としては、本疾患に罹患したことのある血縁者を有する個体、および遺伝子もしくは生化学的マーカーの解析によってリスクが明らかにされている個体が挙げられる。PDに対するリスクの遺伝子マーカーとしては、アルファ−シヌクレインもしくはパーキン(Parkin)、UCHLI、LRRK2およびCYP2D6遺伝子の突然変異;特に、アルファ−シヌクレイン遺伝子の30および53番目の位置の突然変異が挙げられる。PDに対するリスクの別の遺伝子マーカーにはそのレベルまたはSNCA量もしくは転写の測定がある。現在パーキンソン病に罹患している個体は、静止振戦、筋固縮、運動緩徐および姿勢の不安定を含む臨床症状によって見分けることができる。
【0065】
一部の方法では、上記患者は、レヴィー小体を特徴とする疾患以外のどんなアミロイド生成性疾患の臨床症状もしくはリスク要因も有さない者である。一部の方法では、上記患者は、細胞外アミロイド沈着を特徴とするどんな疾患の臨床症状もしくはリスク要因も有さない者である。
【0066】
一般的には、治療は、ある期間にわたって多回投与することを必要とする。治療は、治療すべき疾患の徴候や症状を治療開始前のベースライン測定値との比較で測定することによってチェックすることができる。一部の方法では、因子の投与により細胞内の凝集アルファ−シヌクレインのレベルが低下する。一部の方法では、因子の投与によりリン酸化のレベルが低下する。一部の方法では、因子の投与により、パーキンソン病の場合の運動もしくは認識機能のようなLBDの臨床症状が改善する。
【0067】
予防的な適用では、医薬用組成物もしくは因子を、LBDに罹りやすいか、それとも罹るリスクのある患者に対して、そのリスクを除去もしくは低下させ、その重症度を軽減し、あるいはこの疾患の生理学的、生化学的、組織学的および/または行動上の症状、その合併症ならびにこの疾患の進行中に発現する中間的な病理学的表現型を含むこの疾患の発現を遅らせるのに十分な投与量および投与頻度のこの組成物もしくは因子を含む治療法において投与する。治療的な適用では、組成物もしくは因子を、そのような疾患が疑われるか、すでに罹患している患者に対して、その合併症およびこの疾患の進行中に発現する中間的な病理学的表現型を含むこの疾患の(生理学的、生化学的、組織学的および/または行動上の)症状を治すか、少なくとも部分的に抑えるのに十分な投与量および投与頻度のこの組成物を含む治療法において投与する。治療的もしくは予防的処置を遂行するのに適切な量は、治療的もしくは予防的有効用量と定義される。治療的もしくは予防的処置を遂行するのに適切な量および投与頻度の組み合わせは、治療的もしくは予防的有効療法と定義される。
【0068】
上述の症状の処置のための本発明の組成物の有効用量は、多くの種々の要因、例えば、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトか動物か、他の投与因子、および処置が予防的なものか治療的なものかによって異なる。通常、患者はヒトであるが、トランスジェニック動物を含む非ヒト哺乳動物も処置することができる。処置用量は、安全性および有効性を最適化するために漸増する必要がある。
【0069】
投与量および投与頻度は、処置が予防的なものか治療的なものかによっても異なることがある。指針は、キナーゼ阻害剤の投与スケジュールから、または他の適応についての臨床試験において得ることができる。0.1乃至1000mg、好ましくは10乃至500mgの範囲の投与量。投与頻度(例えば、日、週または月当たり)は薬物の半減期によって変わる。予防的適用では、比較的低用量を長期間比較的低頻度の間隔で投与する。一部の患者では、その後の生涯にわたって処置が継続される。治療的適用では、疾患の進行が低減するか停止するまで、好ましくは患者が疾患の症状の部分的もしくは完全な寛解を示すまで、比較的短い間隔で比較的高用量を投与することが必要な場合がある。その後は、この患者に予防療法を施行することができる。
【0070】
治療剤は、予防的および/または治療的処置において、非経口的、局所的、経静脈的、経口的、経皮下的、経動脈的、経頭蓋内的、経髄腔内的、経腹腔内的、経鼻腔内的もしくは経筋肉内的手段によって投与することができる。一部の方法では、因子を、沈着物が蓄積している特定の組織に直接注射(例えば、頭蓋内注射)する。一部の方法では、因子を、徐放組成物もしくはデバイス、例えば、メディパッド(Medipad)(商標)デバイスとして投与する。血液脳関門を十分に通過する小分子は、通常経口的に投与されるが、静脈内投与することもできる。
【0071】
必要に応じて、本発明の因子は、LBDの処置に少なくとも部分的に有効である他の因子との併用で投与することができる。また、本発明の因子は、脳血液関門に対する本発明の因子の通過を促進する他の因子と併用して投与することもできる。
【0072】
多くの場合、本発明の因子は、有効な治療剤および各種の他の医薬用として許容可能な成分を含む医薬用組成物として投与する。Remington’s Pharmaceutical Science(第15版、Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania、1980年)を参照されたい。好ましい形態は、所望の投与様式および治療用途によって決まる。また、この組成物には、所望の製剤に応じて、動物もしくはヒトへの投与用の医薬用組成物を処方するために一般的に用いられる賦形剤と定義される、医薬用として許容可能で毒性のない担体もしくは希釈剤を含めることができる。この希釈剤は、その組み合わせの生物活性に影響を与えないように選択する。このような希釈剤の例としては、蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、ブドウ糖液、およびハンクス液がある。さらに、この医薬用組成物もしくは製剤は、他の担体、アジュバント、もしくは毒性がなく治療用ではない非免疫原性の安定化剤なども含むことができる。
【0073】
また、医薬用組成物には、蛋白質、キトサンなどの多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸および(ラテックス官能化セファロース(latex functionalized Sepharose)(商標)、アガロース、セルロースなどの)コポリマー、アミノ酸重合体、アミノ酸共重合体、ならびに(油滴、リポソームなどの)脂質凝集物などの大きくてゆっくりと代謝される高分子を含めることもできる。
【0074】
非経口投与の場合、本発明の因子は、水、油、生理食塩水、グリセロール、エタノールなどの滅菌液とすることができる医薬用担体を含む生理的に許容可能な希釈剤を用いたこの物質の溶液もしくは懸濁液として、注射可能な用量を投与することができる。さらに、湿潤剤、乳化剤、界面活性剤、pH緩衝剤などの補助剤を組成物に加えることができる。医薬用組成物の他の成分としては、石油、動物、植物もしくは合成由来の成分、例えば、ピーナッツ油、大豆油および鉱油がある。一般に、プロピレングリコール、ポリエチレン・グリコールなどのグリコール類が、特に注射用溶液には好ましい液体担体である。抗体は、有効成分の持続放出を可能にするように処方することができるデポー注射剤もしくは植込み製剤の形で投与することができる。例示的な組成物は、50mMのL−ヒスチジンおよび150mMのNaClからなり、HClでpH6.0に調整した水性緩衝液に配合したモノクロナール抗体を5mg/mL含む。通常、非経口投与用の組成物は、実質的に無菌で、実質的に等張であり、FDAもしくは同様な機関のGMP条件下に製造される。
【0075】
通常、組成物は溶液もしくは懸濁液の形の注射剤として調製するが、注射に先立って液体溶媒に溶解もしくは懸濁するのに適した固形物として調製することもできる。また、この製剤は、上述のアジュバント効果を増強するために、リポソームもしくはポリラクチド、ポリグリコリド、コポリマーなどの微粒子を用いて乳化もしくは封入することもできる(Langer、Science 249:1527(1990年)およびHanes、Advanced Drug Delivery Reviews 28:97−119(1997年)参照)。本発明の因子は、有効成分の持続もしくはパルス放出を可能にするように処方することができるデポー注射剤もしくは植込み製剤の形で投与することができる。
【0076】
他の投与様式に適した別の製剤としては、経口用、鼻腔内用および呼吸器用(pulmonary)製剤、坐剤ならびに経皮投与剤(transdermal application)が挙げられる。坐剤の場合、結合剤および担体としては、例えば、ポリアルキレン・グリコールもしくはトリグリセリドが挙げられ、このような坐剤は、本有効成分を0.5%乃至10%、好ましくは1%乃至2%含む混合物から作製することができる。経口用製剤は、医薬品グレードのマンニトール、乳糖、でんぷん、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン・ナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの賦形剤を含む。この組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放製剤もしくは散剤の形をとり、有効成分を10%乃至95%、好ましくは25%乃至70%含む。
【0077】
局所に適用すると、経皮的に、もしくは皮内から送達させることができる。本剤をコレラトキシンまたはその無毒化誘導体もしくはサブユニットあるいは他の同様な細菌毒素と同時投与することにより局所投与を容易にすることができる(Glennほか、Nature 391:851(1998年))。同時投与は、これらの成分を混合物として、または化学的架橋結合もしくは融合蛋白質としての発現により得られる結合分子として用いることにより達成することができる。あるいは、スキン・パス(skin path)もしくはトランスフェロソーム(transferosome)を用いて経皮的送達を達成することができる(Paulほか、Eur. J. Immunol.)25:3521−24(1995年); Cevcほか、Biochem. Biophys. Acta 1368:201−15(1998年))。
【0078】
以下の実施例では、細胞に対するsiRNAのトランスフェクトおよび特異的キナーゼ標的のノックダウンを行ってアルファ−シヌクレインのリン酸化を直接的または間接的に調節するキナーゼを特定した。その後のインビトロおよび組織培養の実験ではこれらのキナーゼのうちの2種、PLK2およびGRK6が直接的かつ特異的にアルファ−シヌクレインのセリン129をリン酸化することが分かった。さらに行った実験から、PLK2によるアルファ−シヌクレインのセリン129のリン酸化の程度はGRK6や本明細書に記載した他のキナーゼのそれをはるかに超えるものであった。従って、PLK2はシヌクレインキナーゼである可能性が非常に高い。
【実施例】
【0079】
(実施例)
実施例1:アルファ−シヌクレインのリン酸化を調節するキナーゼのスクリーニング
α−シヌクレインをセリン129においてリン酸化するキナーゼもしくはキナーゼ類を特定するために、定量化可能な量のリン酸化α−シヌクレインを含む細胞を用いてsiRNAキナーゼ・ライブラリ(アンビオン社)をスクリーニングした。CMVプロモータの制御下にあるヒトの野生型α−シヌクレインを安定的にトランスフェクトしたヒト胎児腎細胞株HEK293細胞(PEAK細胞)(PEAK−Syn細胞)に対して、597種のヒト・キナーゼを標的とするsiRNAを100nMトランスフェクトし、ELISAアッセイにより測定してトータルおよびリン酸化シヌクレイン濃度を定量した。リン酸化アルファ−シヌクレインの割合を変えるsiRNAに対して95種のキナーゼが特定された(表1乃至3参照)。このうち28種はセリン残基をリン酸化するキナーゼのクラスに属し、従って、α−シヌクレインをセリン129において直接リン酸化することができた。その他はチロシンキナーゼであった。チロシンキナーゼはα−シヌクレインをser−129において直接リン酸化しないが、アルファ−シヌクレインキナーゼの上流調節剤として作用することができる。これらのser/thrキナーゼのうちの2種、カゼインキナーゼ2およびカルシウム/カルモジュリン依存性蛋白質キナーゼIIはα−シヌクレインをインビトロでリン酸化することが報告されており(Proninほか、J. Biol. Chem. 275: 26515−26522 (2000年); Okochoaほか、J. Biol. Chem. 275: 390−397 (2000年); Nakajoほか、Eur. J. Biochem. 217: 1057−1063 (1993年))、カゼインキナーゼ2阻害剤は細胞内のリン酸化シヌクレイン濃度を増加させることが報告されている(Okochoaほか、2000年)。GRKファミリーの構成キナーゼのうちの数種は(GRKではないが)アルファ−シヌクレインをインビトロでリン酸化することが報告されている(Proninほか、2000年)。ハエにおけるGRK2の発現はリン酸化シヌクレイン濃度を増加させることが報告されている(Chen、Feany、Nature Neurosci. 8: 657−663 (2005年))。
【0080】
リン酸化シヌクレイン濃度を低下させるキナーゼの他に、そのsiRNAがPEAK−Syn細胞内のトータルα−シヌクレイン濃度を変化させる99種のキナーゼが特定され(表2)、このようなものとしてはフコキナーゼ(FUK)、ジェンバンク番号NM_145059;プロテインキナーゼN1(PRKCL1、PKN1)、ジェンバンク番号NM_002741;ダブルコルチンおよびCaMキナーゼ様−1(DCAMKL1)NM_004734;分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼキナーゼ(BCKDK)、NM_005881;オーロラキナーゼC(AURKC、STK13)、NM_003160;ras2のキナーゼサプレッサー(FLJ25965)、NM_173598;FLJ32704;MAP2K6;ならびにタウズルド(Tousled)様キナーゼ2(TLK2)、NM_006842が挙げられた。作用メカニズムは、アルファ−シヌクレインの代謝回転または合成を調節するものであると考えられる(表3参照)。
【0081】
表1A、1Bおよび1Cには、キナーゼであって、その阻害によりser−129の位置のリン酸化が調節されるキナーゼを示した。各表の上部の正常型は、キナーゼの発現が阻害されるとリン酸化が低下するようなキナーゼを示し、各表の下部の陰影型のものは、キナーゼが阻害されるとリン酸化が増大するようなキナーゼを示した。表1A、BおよびCはキナーゼの種類が異なる。表1Aにはセリン残基および、多くの場合、チロシンおよび/またはスレオニンをもリン酸化することができるキナーゼを示した。表1Bにはセリン残基を(知られている限り)修飾することができないチロシンキナーゼを示した。表1Cにはキナーゼ活性を有しないことが知られている蛋白質を示した。表1Aの上部のキナーゼはアルファ−シヌクレインのser−129を直接リン酸化する候補である。また、表1Bの上部のキナーゼは、アルファ−シヌクレインを間接的にリン酸化する役割を介する有用な治療上の標的である。表1Cの上部の蛋白質も同じ理由で有用な治療上の標的である。各表の第1、2および3欄には、遺伝子名、キナーゼ名およびキナーゼのジェンバンク・アセッション番号を示した。その次の欄にはそのキナーゼの阻害がリン酸化を低下させる(「下降(down)」)のか増大させる(「上昇(up)」)のかを示した。その次の3欄にはリン酸化の測定レベルが3回の独立した実験の平均値から外れる標準偏差の数を示した。最後の2欄にはキナーゼファミリー(即ち、アミノ酸特異性)および群を示した。
【0082】
表2および3には、キナーゼであって、これを阻害することによってリン酸化の割合を変えないでヒト・アルファ−シヌクレインの全体的濃度が調節されるキナーゼを示した。表2にはヒト・アルファ−シヌクレインの濃度の低下が最も強いキナーゼの全てを示した。表の欄には表1A、1Bおよび1Cと同様に名称をつけた。
【0083】
表1A−C:リン酸化を低下させるキナーゼ候補の完全リスト
表1A:セリン/スレオニンキナーゼ
【0084】
【表1−1】

【0085】
【表1−2】

【0086】
【表1−3】

表1B:チロシンキナーゼ
【0087】
【表1−4】

表1C:蛋白質リン酸化活性なし
【0088】
【表1−5】

【0089】
【表1−6】

表2:阻害することによりシヌクレイン濃度が調節されるキナーゼ
【0090】
【表2−1】

【0091】
【表2−2】

【0092】
【表2−3】

【0093】
【表2−4】

【0094】
【表2−5】

【0095】
【表2−6】

【0096】
【表2−7】

実施例2:再スクリーニングおよびqRT−PCRによるアルファ−シヌクレインリン酸化調節の確認
アルファ−シヌクレインのリン酸化の増大または低下を示した実施例1のキナーゼについて、アルファ−シヌクレインに対する効果を確認するために再試験した。この確認のためのスクリーニングは、実施例1で特定した標的および対象とする数種の別のキナーゼに対して10nMのsiRNAを用いて行った。実施例1でより高い濃度のsiRNAを用いたのは、不完全に設計されたsiRNAに引き起こされるほんの僅かのノックダウンも観察することができるようにするためであった。この確認スクリーニングではるかに低いsiRNA濃度を用いることによって、候補のリストを極めて特異的な調節を示すものにのみ絞ることができた。アンビオン社によってその後無効であると報告された一部のsiRNAについても再スクリーニングした(下記のリプレースメントライブラリ・スクリーニング参照)。最後に、いく種かの新たに特定したキナーゼについてスクリーニングし、これらの結果をすでにプールされている結果に加えた。候補として特定したキナーゼを定量的RT−PCR(qRT−PCR)によって試験することにより、これらが実際にPEAK−Syn細胞内に存在すること確認した(実施例6参照)。この確認および再スクリーニングの実験方法および結果は以下の通りであった。
【0097】
確認スクリーニング
確認スクリーニングの結果は下記に示す4つのカテゴリーにグループ分けした。
【0098】
完全確認:このカテゴリーには、3つのsiRNAの全てが10nMスクリーニングおよび100nMスクリーニングにおいて同一の表現型を生じるキナーゼを含めた。
【0099】
大部分確認:このカテゴリーには、これらのsiRNAの2/3が10nMスクリーニングおよび100nMスクリーニングにおいて同一の表現型を生じるが、3分の1は生じないキナーゼ、あるいは、1つのsiRNAの結果は再現されるが、2番目のsiRNAの場合に表現型は同じであるものの最初のスクリーニングに用いたのとsiRNAが異なる傾向があるキナーゼを含めた。
【0100】
部分的確認:このカテゴリーには、これらのsiRNAの1/3が10nMスクリーニングおよび100nMスクリーニングにおいて同一の表現型を生じるキナーゼを含めた。
【0101】
確認できず:このカテゴリーには、以下のいずれかまたは両方が認められるキナーゼを含めた:
a)3つのsiRNAのいずれも10nMでリン酸化シヌクレイン濃度に何ら影響を及ぼさない、および/または
b)これらのsiRNAが100nMでの一次スクリーニングで認められたのと逆の表現型を生じる。
【0102】
それぞれのカテゴリーに分類されるキナーゼの数を集計し、その結果を表4に示した。7種のキナーゼが「完全確認」され、これらを表5に一覧表示した。これら7種のうち、3種のみがアルファ−シヌクレインをser−129で直接リン酸化するキナーゼの良い候補になる質の高さを有すると見なされた。これは、3種のみがいずれもser/thrキナーゼであり、このキナーゼの濃度を特異的siRNAにより低下させるとリン酸化アルファ−シヌクレインの濃度を低下させたからである。これらのものとしては、平滑筋の増殖および分化において役割を果たしていると考えられているAPEG1、脳で発現され、正常な細胞分裂において役割を果たしていると考えられているPLK2(SNK)ならびにキナーゼ活性を有する細胞分裂周期蛋白質であるCDC7L1があった。これら3種のうち、PLK2は、細胞、特に活性化神経細胞におけるその役割および局在のため、最も興味深いものであった。アルファ−シヌクレインは、シナプス可塑性および小胞輸送に関与していると考えられているシナプス関連蛋白質である。このため、PLK2はアルファ−シヌクレインを直接リン酸化するキナーゼの極めて良好な候補とみなされた。
【0103】
表4:10nM確認スクリーニングからの該当候補の内訳
【0104】
【表4】

注:以下の全ての表に対して
***は、リプレースメントsiRNAについて検討し、無効なsiRNAからのデータの代わりにこの新たなデータを用いた箇所を意味する。
陰影付けの意味:
【0105】
【化2】

表5:完全確認該当
【0106】
【表5】

表5には10nMで結果が完全に再現された7種の候補を示した。最初の3種のみが直接キナーゼである可能性が強いと見なされた。というのは、これらは、キナーゼ濃度の低下時にリン酸化シヌクレイン濃度を低下させるser/thrキナーゼであるからである。
【0107】
29種のキナーゼが大部分確認のカテゴリーに分類され、このうちの12種が直接キナーゼの候補であった。これらは表6に一覧表示した。17種の別のキナーゼが10nMで大部分確認された。これらは直接キナーゼではないと思われるが、直接キナーゼの調節において役割を果たすことができたものであり、表7に一覧表示した。22種のキナーゼが部分的確認のカテゴリーに分類された。リン酸化アルファ−シヌクレインを減少させたser/thrキナーゼ(即ち、可能なアルファ−シヌクレインの直接キナーゼ)を表8に一覧表示し、残りの潜在的に調節性のキナーゼを表9に一覧表示した。
【0108】
表6:10nMのsiRNAで「大部分確認」であった可能な直接セリン/スレオニンキナーゼ
【0109】
【表6−1】

【0110】
【表6−2】

表6に示したser/thrキナーゼは、キナーゼ濃度の低下時にリン酸化シヌクレイン濃度を有意に低下させるので、アルファ−シヌクレインをリン酸化する直接キナーゼである可能性を有すると見なされた。siRNAの2/3は10nMで100nMの場合と同一の結果をもたらし、従って、「大部分確認」該当とした。
【0111】
表7のキナーゼは、siRNAの2/3が10nMおよび100nM濃度のsiRNAで同一の結果をもたらしたので、「大部分確認」とした。しかしながら、これらは、適切な表現型を生じなかったか、間違ったクラスのキナーゼ(即ち、ser/thrキナーゼとは違い、tyrもしくは非蛋白質キナーゼ)であったので、アルファ−シヌクレインのser−129をリン酸化する直接キナーゼではないと思われると認定された。それよりむしろ、これらはアルファ−シヌクレインのリン酸化の上流調節因子であるかもしれない。
【0112】
表7: 10nMのsiRNAで「大部分確認」であったその他のキナーゼ
【0113】
【表7−1】

【0114】
【表7−2】

表8: 10nMのsiRNAで「部分的確認」であった可能な直接セリン/スレオニンキナーゼ
【0115】
【表8】

表8に示したser/thrキナーゼは、キナーゼ濃度の低下時にリン酸化シヌクレイン濃度を有意に低下させるので、アルファ−シヌクレインをリン酸化する直接キナーゼである可能性を有すると見なされた。siRNAの1/3のみが10nMで100nMの場合と同一の結果をもたらし、従って、「部分的確認」該当とした。
表9: 10nMのsiRNAで「部分的確認」であったその他のキナーゼ
【0116】
【表9−1】

【0117】
【表9−2】

表9のキナーゼは、アルファ−シヌクレインのser−129でのリン酸化における直接キナーゼである可能性は少ないと見なされたが、アルファ−シヌクレインのリン酸化の上流調節因子であるかもしれない。siRNAの1/3が10nMで100nMの場合と同一の結果をもたらし、従って、「部分的確認」該当とした。しかしながら、いく種かは、矛盾する結果を生じ、従って、アルファ−シヌクレインの直接キナーゼである可能性は少ないと見なされた。
【0118】
42種のキナーゼは、最初の結果が10nMで確認されなかった。これらのうち、19種は上記に掲載されたカテゴリーa)に分類され、表10に一覧表示した。10nMでは、10nMの3種のsiRNAのいずれもリン酸化アルファ−シヌクレインの表現型に何らの変化ももたらさず、100nMスクリーニングからのこれらのキナーゼの結果は標的から外れた効果によるものであったことが分かった。23種のキナーゼ(表11)は100nMよりも10nMでリン酸化アルファ−シヌクレイン濃度に対して逆の効果を生じた。10nMでの結果は、100nMでは結果が的外れの効果によってマスクされることがあるという事実のために真の効果であった可能性がある。このことは、はるかに高いsiRNA濃度でも起こり得る。あるいは、この真の効果は高濃度でみられたかもしれない。とにかく、これらのキナーゼは、アルファ−シヌクレインの直接キナーゼである可能性は低いとみなされた。
【0119】
表10に示した19種のキナーゼは10nMで対照に比し有意な反応性を示さなかった。従って、100nMで認められたリン酸化シヌクレイン濃度の変化は高濃度のsiRNAにより引き起こされた標的から外れた効果によるものであった可能性がある。GPRK5およびGPRK7は最初の100nMスクリーニングでは候補ではなかったが、アルファ−シヌクレインのリン酸化におけるこれらの役割に特別な関心があったため10nMで検討した。
【0120】
表10:10nMのsiRNAで反応性を示さなかったキナーゼ
【0121】
【表10−1】

【0122】
【表10−2】

表11のキナーゼの結果は、10nMではリン酸化シヌクレイン濃度に対して100nMでみられたのと逆の効果を示したので、「確認されず」であった。しかしながら、10nMのsiRNAでの結果は真の結果であり、siRNAの高濃度(100nM)は真の効果をマスクしていた可能性がある。また、100nMでみられた最初の効果が真の効果である可能性もある。これらはアルファ−シヌクレインの直接キナーゼであるらしいとみなし、後日さらに試験するために取って置くこととした。
【0123】
表11:結果が一次スクリーニングと逆であったキナーゼ
【0124】
【表11−1】

【0125】
【表11−2】

リプレースメントおよび更新ライブラリのスクリーニング
最初のスクリーニングで使用した一部のsiRNAは質が劣るとみなされたので、リプレースメントsiRNAを用いて両濃度でスクリーニングを行った。リプレースメントsiRNAのデータは、最初のスクリーニングからの特異的siRNAで得られた結果のデータと取替えるために用いた。統計データは各キナーゼの3種のsiRNAについて一覧にし、これを用いて、9種の別のキナーゼを一次スクリーニングとしてとらえ損ねた、最初のスクリーニングからの候補と認定した。これらを再試験したところ、このうちの2種のキナーゼが10nMのsiRNAで「部分的確認」であった。これらはBCKDKおよびFLJ25965(KSR2)であった。
【0126】
この過程において多くの新たなキナーゼが特定され、siRNAが利用可能になった。これらは、アンビオン・アップデーツ(AMBION Up−Dates)ライブラリおよび新規キナーゼ候補が特定されるので、実施例1と同様に試験した。これらの新たに特定されたキナーゼの多くはGO(遺伝子オントロジーコンソーシアム(Gene Ontology Consortium))分類に入るものであった。従って、これらのキナーゼの一部については詳細な情報を見いだすことは困難であった。このカテゴリーに含まれる遺伝子のうちの数種は真のキナーゼではなく、キナーゼ結合蛋白質、即ち、アダプター蛋白質であった。10nMのsiRNAでは、13種のキナーゼがアルファ−シヌクレインに直接作用する候補であることが確認された。これらのうちの2種は直接キナーゼである可能性のある候補であった。表12を参照されたい。残りの11種は、リン酸化シヌクレイン濃度に対する、考えられる間接的調節因子とみなされた。表12を参照されたい。表12には、2005年11月1日現在でジェンバンクに登録されているこれらキナーゼ配列のジェンバンク・アセッション番号を示した。
【0127】
表12: アンビオン・アップデーツ・ライブラリからの可能な該当キナーゼ
【0128】
【表12−1】

【0129】
【表12−2】

実施例1および2で特定され立証されたキナーゼsiRNAを示す結果を要約して表13および14に示した。これらの結果から、PLK2、APEG1、CDC7L1、MET、IKBKB、CKIIならびにGRK1、2、6および7は、アルファ−シヌクレインを直接または間接的にリン酸化する可能性が極めて高いキナーゼとして特定された。アルファ−シヌクレインのリン酸化を増大させるsiRNAを有すると見なされたキナーゼ(PRKG1、MAPK13およびGAK)は、ひょっとするとアルファ−シヌクレインのリン酸化の負の調節因子であるかもしれない。
【0130】
表13および14:確認研究のまとめ
【0131】
【表13】

表14
GRKの結果−「大部分確認」、「部分的確認」および「確認できず」の混成
【0132】
【表14】

以下の実施例では、実施例1および2で特定された多くの標的と考えられるキナーゼについてインビトロでキナーゼアッセイを行った。
【0133】
実施例3: インビトロにおけるアルファ−シヌクレインの直接的リン酸化の確認
上記のsiRNAスクリーニングからのキナーゼのどれがアルファ−シヌクレインを直接リン酸化するのかを明らかにするために、精製キナーゼをアルファ−シヌクレインとインキュベートしてインビトロのキナーゼ反応を行わせた。この結果から、PLK2ならびにGRK2、5、6および7 (GPRK2、5、6および7)は全てアルファ−シヌクレインを特異的にセリン129でリン酸化することができ、インビトロではセリン87をリン酸化しないことが示され、これらがアルファ−シヌクレインを直接リン酸化することができることが分かった。また、MET、CDC7L1およびIKBKBはアルファ−シヌクレインを直接リン酸化することができないことが示された(図1A乃至C)。
【0134】
組換えアルファ−シヌクレインのセリン129に対して組換えキナーゼの活性を試験するアッセイ条件を確立し、この条件はイムノブロットおよびELISA分析により再現性があることが分かった。可能な場合、市販の組換えキナーゼを用いた。市販されていないものについては組換え手段により、示したようにして作製した。
【0135】
図1A乃至Cでは、各反応でアルファ−シヌクレイン基質に対してキナーゼを一定のモル比に標準化(予想成熟蛋白質のMWから誘導)することにより組換えキナーゼをインビトロのアルファ−シヌクレイン(AS)アッセイに用いた(1:200;キナーゼ:rAS)。−対照、+キナーゼ;図1Aでは、各反応において等価の基質(equivalent substrate)を示すトータル・アルファ−シヌクレイン(AS)のプローブ(mAb Syn−1;0.1μg/mL)を用い;図1Bでは、S129リン酸化について平行ブロットをプローブした(mAb 11A51μg/mL)。目立ったシグナルは(これまで活性標準化によって試験されていない)GRK6、CKI、CKIIおよびPLK2によってもたらされた。図1Cでは、S87リン酸化について平行ブロットをプローブした(pAb、ELADW−110 5μg/mL)。シグナルはCKIリン酸化の場合にのみ検出された。
【0136】
図1D乃至Fでは、各反応でアルファ−シヌクレイン(AS)基質に対してキナーゼを一定のモル比に標準化(予想成熟蛋白質のMWから誘導)することによるインビトロのASアッセイ(1:200;キナーゼ:rAS)に、GPCR受容体キナーゼ(GRK)ファミリーからの組換えキナーゼおよびPLK2を用いてさらに的を絞った検討を含めた。−対照、+キナーゼ;CAMキナーゼは負の対照であり、同時にCKIおよびCKIIは正の対照である。図1Dでは、各反応において等価の基質(equivalent substrate)を示すトータルASのプローブ(mAb Syn−1;0.1μg/mL)を用い;図1Eでは、S129リン酸化について平行ブロットをプローブした(mAb 11A51μg/mL)。目立ったシグナルは、GRK7を除く全てのGRK類によってもたらされた。シグナルによってGRK類間に特異性をみることができた。その特異性は、CKI>GRK6>PLK2>GRK4>GRK5>GRK2と表すことができる。図1Fでは、S87リン酸化について平行ブロットをプローブした(pAb、ELADW−110 5μg/mL)。シグナルはCKIリン酸化の場合にのみ検出された。
【0137】
このアッセイ条件は表15にまとめてあり、試験した全てのキナーゼについて一定に保った。リストアップしたキナーゼの全ては、CDC7L1、PRKG1およびAPEG以外は標識/組換え蛋白質として入手可能であった。それらの推定標的はインビトロの翻訳系で発現させ、蛋白質濃度もしくは活性を測定することなくインビトロASアッセイで試験した。
【0138】
【表15−1】

【0139】
【表15−2】

【0140】
【表15−3】

標準条件は、40mM MOPS−NaOH; 1mM EDTA MgCl 10mM pH8.0、0.1%BME; 0.01% Brij−35; 5ug BSA、100uM ATP (5x [基質])、100uL容; 300ng r−wt−AS (208 nM)、(1:200 キナーゼ:ASまたは標準化活性0.03U/反応液、34C; 17時間であった。さらに、スクリーニングデータの組合せからの種々のレベルの意義(significance)/確認を有するこれらのキナーゼは、組換え標識蛋白質として購入し、注記を付け、(合成基質から製造者により決定された)活性単位またはMWおよび反応容量から求めた基質:酵素モル比への標準化に基づいて比較可能なインビトロ・アッセイを確立するために図表形式に組み入れた。反応条件の詳細は表15に明記した。Kin.=キナーゼ。確認に関しては、大部分=大部分確認、部分的=部分的確認、欠落=確認欠落、確認=確認。
【0141】
キナーゼ活性は、最初、非天然基質(ペプチドまたはカゼイン)から求められる活性単位でASに対して試験した。この方法は、キナーゼ間の特異性およびASがキナーゼ・パネルのインビトロ基質となるかどうかについておおよその見積を得るために用いた。この検討の結果は図2および3に含まれている。この実験のときには、入手可能なキナーゼのうちのほんの一部を入手し、「最も確からしい7種の「確認」」からの2/3のキナーゼを含めた(PLK2は試験しなかった)。最も顕著な結果はGRK6(G蛋白質共役受容体キナーゼ6)によってもたらされた。CKIでは適度な活性が得られ、CKIIは検出可能ではなかった。両CKキナーゼはS129ASをリン酸化することが知られているので、活性単位での標準化は、ASに対して試験基質への比活性がより高いキナーゼに対してバイアスがかかっていた。このことが、活性単位を限定するペプチド基質よりも基質としてASを好んだと考えられるGRK6の事情と思われる。
【0142】
以下の実施例では、実施例1および2で特定された多くの標的と考えられるキナーゼについてインビトロでキナーゼ・アッセイを行った。上記活性バイアスを補正するために、キナーゼを再試験し、新たに入手したキナーゼについてモル濃度に関して標準化したアッセイを行った。これによって、酵素と基質間の化学量論的比率の測定が良好となり、このため、AS/キナーゼ相互作用の関数としてリン酸化事象が記録された。これは、非関連基質/キナーゼ・リン酸化が測定される事象とは対照的であった。図3A乃至Cには、CKI、CRK6およびPLK2(7種の高度「確認」のうちの1種)との間でリン酸化ser−129の濃度がほぼ同等のASリン酸化のより実際的な図を示す。CKIIは数分の1の低下を示したが、これは同様なアッセイ条件を用いた以前のELISAのデータと一貫している。CKIを除き、試験したキナーゼのいずれもASをser−87残基でリン酸化することができなかった。この観察結果から、これらのキナーゼがser−129部位に対して特異的/選択的であり、ser−87部位に対しては特異性/選択性は低いことが確認された。しかしながら、CKIは両部位をリン酸化することが報告されている。
【0143】
アッセイ結果に対する酸性リン脂質の影響
上記インビトロ・アッセイにおけるGRK6およびPLK2(GRKファミリーと系統的に関連のあるポロ様キナーゼ)による活性の有意なレベルは、上記RNAiスクリーニングにおけるリン酸化の低下因子としてのPLK2、GRK2およびGRK1の特定と相俟って、他のGRK類のさらに包括的な調査を促進した。図4AおよびBには、このインビトロ・アッセイで比較したGRK2、4、5、6および7ならびにPLK2の結果を示した。これらの結果は、デンシトメトリー比較においてS129リン酸化に対する特異性が明確であることを示すものである。この選択性は、CKI>GRK6>PLK2>GRK4>GRK5>GRK2と表すことができる。GRK7は容易に検出できるほどのレベルでリン酸化することができなかった。酸性配列フランキングアミノ酸129に特異性を示す全てのGRK類はser−87をリン酸化することはできなかった。こうした反応はELISA測定により定量化して確認した。これらの値は、GRK類に対してPLK2濃度の明らかな減少を示すイムノブロットデータとおおよそ一致した。AS基質の大部分は上記アッセイデザインに基づいて使い果たされた(リン酸化された)のであり、その測定値は反応における最大OD/基質を表すものと考えられる。
【0144】
ASのリン酸化に対する酸性リン脂質のプラス効果についてはこれまでにProninほか、JBC 275(34):26515−26522(2000年)により報告されており、GRK2および5に対する顕著な効果が認められた。この報告および酸性リン脂質がASの立体構造を調節することを示した多くの研究があることから、ホスファチジルコリン(PC):ホスファチジルセリン(PS):ホスファチジルイノシトール3−リン酸(PIP3)の混合物を作製し、上記で確立したインビトロ・アッセイに組み入れた。その結果、この脂質混合物は試験したキナーゼのほぼ全てのシグナルを増加させることがわかった。脂質環境を追加することにより、細胞の膜表面が模倣される可能性が高く、そこでASとGRK類が結合するように思われる。以下の理論に拘束されるわけではないが、これは、脂質がASのN末端ヘリックスに結合するとASのC末端が良好に暴露されることによるものと考えられる。面白いことに、(CKI反応にみられるような)ser−87リン酸化に対する脂質効果はリン酸化のレベルの低下をもたらした。これは、ヘリックスが相互作用するとser−87が埋められる場合には、脂質との相互作用によりエピトープ・マスキングが起こる結果であろう。
【0145】
実施例4:細胞株におけるアルファ−シヌクレインの直接的リン酸化の確認
キナーゼは細胞内におけるよりもインビトロでより無規律となり得るので、アッセイを細胞株を用いて行うことによりアルファ−シヌクレインとの直接的相互作用を確認した。実施例3からのインビトロでアルファ−シヌクレインをリン酸化したキナーゼのcDNAをPEAK−Syn細胞株中にトランスフェクトしてどのキナーゼが細胞内でアルファ−シヌクレインのser−129をリン酸化することができるかを調べた。その結果から、GRK6および、さらに著しくはPLK2が細胞内でアルファ−シヌクレインのリン酸化を媒介することができることが分かった(図5)。
【0146】
PLK2、GPRK6、APEG1、CDC7およびPRKG1のcDNAクローンはオリジーン社(Origene)から入手した。このcDNAをリポフェクタミン(Lipofectamine)2000(商標)(インビトロジェン社(Invitrogen))を用いて細胞内に転写、トランスフェクトした。検討する各cDNAについて、96穴プレートの12穴でトランスフェクトを行い、そのほかに、細胞にトランスフェクトしていない12穴を対照とした。ELISAスクリーニングプロトコルに従いトランスフェクト後48時間に細胞を採取してELISAによってトータルおよびリン酸化シヌクレインを分析し、値をトータル蛋白質に対して標準化した。組換え蛋白質として市販されていない標的キナーゼ(例えば、APEG、PRKGIおよびCDC7LI)については、インビトロ網状赤血球無細胞系(プロメガ社(Promega))を用いてヒト完全長cDNAクローン(オリジーン社)から蛋白質を発現させた。正しい配列を決定し、DNAを調製した。また、PLK2およびGRK6cDNAについても陽性対照として本検討に加えた。
【0147】
トランスフェクトしていない細胞におけるリン酸化シヌクレインの割合は7.8%と計算された。APEG1、CDC7およびPRKGlcDNAでトランスフェクトした細胞のリン酸化シヌクレインの割合は8.9%とトランスフェクトしていない細胞よりもごくわずかに高かった。これらのキナーゼはリン酸化シヌクレイン濃度を変えることにおいて否定的な結果を生じたと考えられ、他のキナーゼが受けているのと同じトランスフェクトの困難さに曝されているので、実験のための負の対照と考えられた。PLK2に対するcDNAは293−シヌクレイン細胞にトランスフェクトした。細胞はトランスフェクト後48時間に採取しELISAによりトータルおよびリン酸化シヌクレイン濃度を分析した。ELISA値はトータル蛋白質濃度に対して補正した。PLK2が過剰発現すると、リン酸化シヌクレイン濃度は劇的に増加し、その結果、リン酸化シヌクレインの発現がトランスフェクトしていない細胞での発現より4.3倍上昇した。
【0148】
α−シヌクレインをリン酸化する直接キナーゼを細胞内に導入すると、リン酸化シヌクレイン濃度の上昇がみられる可能性は高い。このことはGPRK6およびPLK2のいずれについても当てはまった(図6)。GPRK6 cDNAでトランスフェクトした細胞のリン酸化シヌクレインの割合は8.9%から18.9%へ劇的に増加した。この増加は、陰性キナーゼの場合に認められるリン酸化シヌクレインのパーセンテージより9.25標準偏差分だけ上の値まで有意である。PLK2トランスフェクト細胞のリン酸化シヌクレイン濃度の増加は、さらに劇的であり、リン酸化シヌクレインの割合はほぼ4倍の33.2%まで増加した。これは極めて有意な変化、即ち、陰性キナーゼの場合に認められるリン酸化シヌクレイン濃度より22.75標準偏差分だけ上への増加である。この劇的な増加は、このアッセイの使用時にこれまでに認められた格段に大きな変化であった。このデータは、GPRK6および、特にPLK2がα−シヌクレインのリン酸化に関与する直接キナーゼとしての極めて確かな候補であることを強く示唆するものである。すなわち、図6に示したように、GPRK6 cDNAをHEK−シヌクレイン細胞にトランスフェクトすると、リン酸化シヌクレインの発現が2倍になる。PLK2 cDNAを細胞内に導入すると、リン酸化シヌクレインの発現はさらに劇的に増加し、その変化は対照値のほぼ4倍になる。
【0149】
実施例5:PLK2(SNK)GRK6、CKIIおよびIKBKBによるリン酸化
別の会社(ダーマコン(Dharmacon))製のPLK2 siRNAもアルファ−シヌクレインのリン酸化を阻害することを示すことによって、実施例4のデータはPLK2についてさらに裏付けられた。このことは、PLK2がアルファ−シヌクレインをセリン129で直接リン酸化する細胞キナーゼとしての有望な候補であることを示すデータ(表2および13)を補強するものであった。
【0150】
アルファ−シヌクレインを安定的にトランスフェクトしたHEK293細胞を10nMおよび100nMのスマートプール(SmartPool)siRNAをトランスフェクトした。スマートプールsiRNAには特異的標的に対する4つの個々のsiRNAが含まれる。従って、これら4種のsiRNAの各々の実際の濃度は、それぞれ2.5nMおよび25nMであった。図7の結果から、PLK2はリン酸化シヌクレイン濃度を有意に減少させ、その変化は約25%であることが分かる。10nMではGPRK6はリン酸化シヌクレインのパーセンテージを対照の陰性キナーゼの場合の平均値よりも1標準偏差分だけ増加させたが、100nMではそうはならなかった(図7)。これは、一次siRNAスクリーニングで先に認められたのと逆の効果であり、最初または2番目のアッセイに用いたsiRNAの品質によるのかも知れない。これらの結果は免疫組織化学によって確認した。
【0151】
異なる供給源からの種々のsiRNAによるリン酸化シヌクレイン濃度の有意なノックダウンは、独立してデータを裏付け、強固なものにし、α−シヌクレインをリン酸化する直接キナーゼとしてのPLK2の役割を立証するものである。次いで、これらの実験を、対象とするべきスクリーニングで特定した2種の他のキナーゼ、カゼインキナーゼII(CKII)およびIKBKBを用いて行った。
【0152】
本明細書に示したインビトロのデータから、CKIIはアルファ−シヌクレインをリン酸化するが、そのリン酸化はPLK2ほど効率的ではないことが示唆される。個々のCKII触媒サブユニットは一次siRNAスクリーニングのヒットであり(実施例1および表1B照)、10mM siRNAスクリーニングで確認された。個々のCKIIサブユニットα1およびα’は、PLK2または互いと共に同時トランスフェクトするとアルファ−シヌクレインのリン酸化に対して相加効果を示すかどうかを明らかにすることは興味深いことであった。トランスフェクトは、個別のCKIIサブユニットA(α1)およびB(α’)を用い、PLK2または互いと同時トランスフェクトして行った。これらの触媒サブユニットを過剰発現させると、リン酸化シヌクレイン濃度はそれぞれ1.75および1標準偏差分だけ増加した(その効果は相加的ではなかった)。個々のサブユニットの各々をPLK2と同時トランスフェクトさせると、リン酸化シヌクレインの濃度は1.75標準偏差分だけPLK2単独の場合(18.6%リン酸化シヌクレイン)より増加してそれぞれ22.8%リン酸化シヌクレインとなった。しかしながら、両サブユニットをPLK2と同時トランスフェクトすると、リン酸化シヌクレインの濃度はPLK2単独の場合(21.4%リン酸化シヌクレイン)より有意に増加しなかった。
【0153】
IKBKB siRNAをノックダウンすると、アルファ−シヌクレインのリン酸化が有意に低下したので、この遺伝子のアルファ−シヌクレインリン酸化能について試験した。トランスフェクトおよびELISA分析は標準手順に従って実施した。これまでのインビトロ実験の結果、IKBKBは直接キナーゼ・アッセイでシヌクレインをリン酸化しなかった(実施例3参照)ので、直接シヌクレインキナーゼではないが、シヌクレインリン酸化の上流調節因子であるかもしれないことが分かった。従って、IKBKBをHEK−syn細胞で過剰発現させてシヌクレインのリン酸化に対する効果を確認した。IKBKB cDNAの細胞内への導入後、シヌクレインリン酸化は負(空ベクター)の対照の8.3%から21.5%へ2.6倍の増加を示した。これはほぼ53標準偏差分の有意なシヌクレインリン酸化の増加である。PLK2正対照ではシヌクレインリン酸化は65.8%と、ほぼ8倍の増加を示した(230標準偏差分で有意)。シヌクレインリン酸化に対する効果はIKBKBの場合よりも関連キナーゼのIKBKAの場合でずっと更にわずかであった(1.2倍)が、それでも1.4標準偏差分で有意であった。
【0154】
実施例6:代替的な治療標的としてのシヌクレイン
シンフィリンは、アルファ−シヌクレインを結合することが明らかにされているシヌクレイン関連蛋白質である。シンフィリンの存在がアルファ−シヌクレインのリン酸化を増強することができるかどうかを明らかにするために、アルファ−シヌクレインおよびPLK2を含むHEK細胞と含まないHEK細胞内にこれを過剰発現させた。標準的プロトコルに従ってトランスフェクトを行った後、アルファ−シヌクレインのELISAおよび分析を実施した。また、細胞を採取してウエスタンブロット分析を行った。トランスフェクトした細胞の溶解物について、1H7抗体を用いてトータルシヌクレイン、11A5抗体を用いてセリン129リン酸化シヌクレインを分析した。細胞内にトランスフェクトされたDNAの総量は96穴プレートの穴当たり0.16μgと一定のままであった。細胞内に導入されるDNAの種類は、DNAの完全な割り当て(quota)を形成するのに用いるべき空のベクターによってさまざまに異なる。種々の濃度のアルファ−シヌクレイン、PLK2およびシンフィリンcDNAを未処置のHEK細胞内に導入した。これら3種の全てをトランスフェクトした細胞はトータルシヌクレインのわずかな増加を示した。リン酸化シヌクレインについては、トランスフェクトしていない細胞中の濃度は定量限界未満であった。アルファ−シヌクレインを単独で導入すると、5.2%のリン酸化シヌクレインが得られ、これはシヌクレインとシンフィリンの同時トランスフェクトの場合(5.4%のリン酸化シヌクレイン)よりもわずかに少なかった。PLK2とシヌクレインを同時トランスフェクトすると、60%リン酸化シヌクレインと、HEK−syn安定細胞内にPLK2をトランスフェクトした場合に認められたのと同様な濃度が得られた。驚くべきことに、3種のDNA(PLK2、シヌクレインおよびシンフィリン)の全てを同時に過剰発現させると、HEK細胞中のリン酸化シヌクレイン濃度は83.3%となった。従って、PLK2、シヌクレイン過剰発現HEK細胞においてシンフィリンはシヌクレインのリン酸化を増大させた。
【0155】
シンフィリンの存在下にアルファ−シヌクレインのリン酸化が増大することは、シンフィリンがPLK2ポロ−ボックスに結合することによりPLK2によるシヌクレインのリン酸化を促進することによって説明することができる。
【0156】
実施例7: アルファ−シヌクレインおよびアルファ−シヌクレインの家族性突然変異体のPLK2活性によるリン酸化
アルファ−シヌクレインの多くの既知家族性突然変異体のPLK2によるリン酸化を検討するために、インビトロトランスフェクト研究を行い、アルファ−シヌクレインおよびその突然変異体のリン酸化を分析した。これらの家族性突然変異体(FPD)はA30P、A53TおよびE46Kであった。
【0157】
全てのインビトロ反応は以下の条件で行った:10mMのMgCl2、100μMのATP、27mMのHEPES、250 ng/mlのPLK2、プロテアーゼ阻害剤溶液(反応緩衝液1ml中1錠)の50倍希釈液、40nMニトロフェニルリン酸、1mg/mlの95%大豆由来II型ホスファチジルコリン、および10、100または1,000nMアルファ−シヌクレイン(AS)。反応は37°Cで培養した。活性はオートラジオグラフィーにより分析した。
【0158】
トランスフェクトは、293細胞をプレートに播き、リポフェクタミン2000(商標)含有オプチ−MEM(Opti−MEM)(商標)中(トータルDNAを一定に保つために空のベクターを用いて)種々の量のPLK2およびアルファ−シヌクレインDNAで処理することによって行った。細胞は、2日後にウエスタンブロット用にサンプル緩衝液中に、または11A5抗体使用ELISA用にプロテアーゼ阻害剤含有0.5Mグアニジン中に採取した。
【0159】
PLK2はベータシヌクレインよりも野生型アルファ−シヌクレインに対して効力がより強いことが分かった。さらに、アルファ−シヌクレイン突然変異体は、所定の濃度(特に、低濃度で)野生型(WT)よりもより多くリン酸化された。その活性のレベルは突然変異体に対する選択および突然変異体がWTよりも低いKmを有することを反映している。PLK2活性の傾向はPLK2活性がFPD突然変異体で最も高く、これに野生型アルファ−シヌクレインが続き、ベータシヌクレインに対して最も低いことと関連づけられた。この順序は、アルファ−シヌクレインのリン酸化がレヴィー小体の形成およびその後の病状を駆動するメカニズムと整合している。
【0160】
実施例8:HEK−シヌクレインおよびSY5Y−シヌクレイン細胞中のキナーゼの存在の確認
対象キナーゼがHEK−シヌクレインおよびSY5Y−シヌクレイン細胞で発現されるかどうかを明らかにするためにqRT−PCRを行った。表16では、全てのサンプルはGAPDH発現に対して標準化した。さらに、陰性キナーゼのうちの2種は各実験で対照として分析した。直接キナーゼである可能性のある24種の候補のうち、HEK293−シヌクレイン細胞ではPLK2を含む20種が検出された。従って、残る「完全確認」キナーゼが上記細胞内に検出された(図9)。試験した直接キナーゼである可能性のあるもののうち、4種、即ち、GPRK1、GPRK7、ERK8およびRIPK3は検出されなかった。GPRK6は辛うじて検出可能であった。
【0161】
qRT−PCRは以下の通り行った:mRNAレベルはGAPDH mRNA発現レベルに標準化した。キアーゲン社(QIAGEN)RNeasy Kitおよびプロトコルを用いて細胞ペレットからトータルRNAを精製した。直接キナーゼと考えられるものおよび4種の間接「完全確認」キナーゼの24種のプライマー/プローブセットは、逆転写酵素、リボヌクレアーゼ阻害剤および標準PCR試薬と共に、アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems)(タックマン遺伝子発現アッセイ)に注文した。以下のサイクリング条件により20ngまたは200ngのトータルRNAを用いて各プライマー/プローブセットにつき、ABPI7500リアルタイムPCR機で一段RT−PCR/qRT−PCR反応を行った:48°C/30分(RT−PCR工程)、95°C/10分(変性)、その後、95°C/15秒、60°C/1分の40サイクル。各プライマー/プローブセットにつき、RTネガチブ反応およびPCRネガチブ反応を行った。精製RNAに混入しているDNA(RNAではない)のバックグラウンド増幅のためのRTネガチブ対照。PCRネガチブ対照は、PCR試薬の全てが混入しているRNAおよびDNAを含まず、シグナルを有さないことを保証するためのものである。
【0162】
「完全確認」の直接キナーゼと考えられるもののうちの3種の全ては、4種の「完全確認」の間接キナーゼと共に、SY5Y−シヌクレイン細胞中に容易に検出され、このことから、この細胞株がキナーゼの更なる実験的分析のための神経由来細胞株の実行可能な選択肢であることが分かった。
【0163】
表16 HEK−シヌクレインおよびSY5Y−シヌクレイン細胞中のキナーゼの存在のqRT−PCRによる証明
【0164】
【表16】

実施例9:293細胞および神経由来細胞株中におけるアルファ−シヌクレインのリン酸化増大の確認
アルファ−シヌクレインを安定的にトランスフェクトした293細胞にPLKおよびGRKを過剰発現させた。ELISAおよびウエスタンブロットを行ってPLKおよびGRKキナーゼによるリン酸化シヌクレインの増加を確認し、リン酸化の増大を証明した。別の方法を用いてその増大を、293細胞に対して免疫染色にELISAで使用するのと同じビオチン化抗体(11A5)を用いることにより確認した。この方法では、PLK2および、程度は少ないがGRKをトランスフェクトした細胞中のリン酸化シヌクレインの増加も証明された。この増加は11A5で明るく染色される少数の細胞で検出され、全ての細胞での全般的な増加がみられるのではない。トータルシヌクレインの量(5C12抗体を用いて測定)は変化しないように思われた。これは293細胞内のリン酸化の有意な増大であった。従って、こうした結果が神経芽腫細胞で再現され得るかどうかを調べることは重要であった。
【0165】
PLK2およびGPRK6を用いて認められたリン酸化シヌクレインの劇的な上方調節が神経由来細胞にも存在することを確認するために、同じ実験をヒト神経芽腫細胞(SY5Y細胞)で行った。免疫染色の結果から、PLK2が293細胞実験と極めてよく似たパターンで少数の細胞内にリン酸化シヌクレインの増加を引き起こすことが明らかとなった。定量は2つの方法でアレイスキャン(ArrayScan)(商標)を用いる免疫組織化学により行った。先ず、全ての細胞をカウントしたところ、何らの相違もみられなかった。次いで、明るい細胞のみをカウントしたところ、この分析から、PLK2をトランスフェクトした11A5陽性細胞の数は約5乃至10倍増加し、GRK6の場合でもわずかに増加することが分かった。
【0166】
HCC細胞でcDNAトランスフェクト実験を繰り返し、PLK2およびGPRK6をトランスフェクトした細胞に対して種々のアルファ−シヌクレイン抗体を用い、免疫組織化学を行った。このような方法で、この細胞内に封入体形成および/またはアルファ−シヌクレイン凝集が観察される。封入体/凝集を探すのに用いる抗体としては、LB509、SYN−1、11A5およびELADW−110が挙げられる。
【0167】
次に、マウスモデルへの標的の導入に向けて一次培養神経細胞内にPLK2およびGPRK6 siRNAのcDNAをトランスフェクトする。この方法は実施例1と同様にして行う。qRT−PCRはSY5Y−シヌクレインRNAを用いて(実施例1と同様にして)実施する。SY5Y−シヌクレイン細胞は神経芽腫細胞由来であり、WT−シヌクレイン・ベクターを用いて安定的にトランスフェクトされている。
【0168】
実施例10: 細胞周期の調節におけるPLK2の関与の確認
PLK2はG1相細胞周期調節蛋白質であるので、アルファ−シヌクレインのPLK2によるリン酸化が細胞周期調節に変化をもたらすかどうかを確認することは重要である。細胞がより集密的に増殖するにつれて細胞内のリン酸化シヌクレインの割合が減少することは、以前に(増殖が減速するに従って)観察された。このことは、アルファ−シヌクレインをリン酸化する1種以上の直接キナーゼが細胞周期の調節に関与していることと極めてよく一致している。従って、PLK2に対する1種以上の抗体を用いてウエスタンブロットにより標準化蛋白質濃度を分析することによって、PLK2濃度の減少がこの観察されたリン酸化シヌクレイン濃度の減少および細胞の集密化と相関しているかどうかを明らかにする

【0169】
実施例11: ヒト培養皮質細胞内のレンチウイルス発現アルファ−シヌクレインの分布−レヴィー小体病の細胞モデル
重要なのはレヴィー小体病および/またはPD病状の細胞モデルの特定であった。このため、イン・ビボでアルファ−シヌクレイン沈着のモデルを確立するために、ヒト培養皮質細胞においてアルファ−シヌクレインのレンチウイルス媒介発現を行った。従って、ドナーおよび野生型および変異型アルファ−シヌクレインを過剰発現するHCC細胞で実験を行い、細胞を断片化して細胞内の野生型アルファ−シヌクレインおよび変異型アルファ−シヌクレインの場所を特定した。以下の結果から、HCC細胞はLB病に合致する仕方でアルファ−シヌクレインの凝集を示したことが分かる。さらに、PLK2を発現させると、その凝集だけでなくアルファ−シヌクレインのリン酸化も増大した。
【0170】
培養を延長することにより過剰発現されたシヌクレインの蓄積が増大して細胞がストレスを受け、このことがシヌクレイン沈着または毒性にとって好都合に働くかどうかを確認する実験をさらに実施した。そこで、HCCをWT、A53T、S129AまたはA53/S129Aアルファ−シヌクレイン突然変異体を発現するウイルスベクターで形質転換した。形質転換後、細胞を9、16または23日間インビトロで増殖させ、その後、回収して断片化した。ELISAの結果を蛋白質濃度に対して標準化したところ、この結果から、時間がたつと共に可溶性画分にシヌクレインが蓄積することが分かった。S129A突然変異体ではややより多くの蓄積が認められた。
【0171】
さらに、wt、119−切断型およびE46K ASで実験を行ったところ、その結果は以下の通りであった。野生型の発現が高いほど可溶性画分に回収されるアルファ−シヌクレインの部分は大きかった。E46Kシヌクレインではリン酸化アルファ−シヌクレインの量に50乃至100%の増加がみられた。しかしながら、このE46K突然変異体では膜結合または不溶性画分に回収される相対量は著しくは影響されなかった。119アルファ−シヌクレインを発現させると、不溶性画分に蓄積する相対量がわずかに(WTに対して約3倍)増加した。この増加は、切断型シヌクレインが完全長型よりもインビトロではるかにより容易にフィブリルを形成することを示唆する公表結果(Murray、2003年 Biochemistry 42:8530)を考えると、予想されるものである。119切断の結果、N−末端ドメインが脂質二重層との結合に関与していることと一致した膜との結合の増大が生じた。この膜との結合の増大により、上記の可溶性蛋白質が凝集する傾向の増大が緩和されるかも知れない。過剰発現時の可溶性シヌクレイン濃度の増加および切断に対する上記不溶性画分の反応から、これを用いることによって神経細胞内環境における凝集に影響を与える因子を特定する方法が得られることが示唆される。
【0172】
CHAPS抵抗性、UTC抽出性アルファ−シヌクレインがPD/またはDLB病変(レヴィー封入体)と共通点があるかどうかを明らかにするために別の実験を行う。例えば、同実験をベータ−シヌクレインを用いて行った。というのは、ベータ−シヌクレインはレヴィー封入体と結合せず、またインビトロで凝集しないからである。
【0173】
可溶性コンパートメントのアルファ−シヌクレインが増加すると、アルファ−シヌクレインがより脆弱である可能性のあるコンパートメントに移されるとも考えられ、このことが沈着の増加をもたらし得る変化につながる。アルファ−シヌクレインをSer−129でリン酸化すると提唱されているキナーゼは可溶性であるので、可溶性アルファ−シヌクレインもまたリン酸化により利用されやすいと思われる。
【0174】
細胞モデルでリン酸化および/または凝集の阻害剤を発現させ、リン酸化および/または凝集の低下を確認することにより、この細胞においてこの阻害剤を確認するために別の実験を行った。
【0175】
実施例12: アルファ−シヌクレインKOマウスにおける内因性キナーゼ活性の分析
推定アルファ−シヌクレインキナーゼの確認のためにアルファ−シヌクレインノックアウト(アルファ−シヌクレインKO)マウス脳を利用することは、以下の点でsiRNAスクリーニングよりも有利である: 1) 脳材料を用いることにより、HEK細胞株では得られないと思われる適切で恐らくより高いレベルの脳特異的キナーゼ活性が得られること、2)脳には、上記細胞には存在しないと思われる補因子(脂質、蛋白質など)が存在すること、および3)リン酸化ASとして検出される可能性のある如何なる内因性アルファ−シヌクレインも存在しないこと。測定可能なキナーゼ活性が粗材料中に存在するかどうかを明らかにするために、組換えアルファ−シヌクレイン(rAS)含有(可溶性および界面活性剤可溶性)抽出物25乃至50μgの封入体を250μMのATPを用いて評価した。図8AはrASの対応する使用量を表す各反応におけるトータルアルファ−シヌクレインを示す。図8Bでは、ser−129リン酸化アルファ−シヌクレインの濃度を調べた。TBS(蔗糖可溶性)およびTX抽出物の両者中のrASがリン酸化され、TBS材料からのシグナルのレベルはTX材料からのそれのほぼ2倍であった(但し、反応は蛋白質に対して標準化しなかった)。リン酸化レベルはCKIの添加によって増大したが、大豆由来リン脂質の添加では有意な影響を受けなかった。図9のser−87リン酸化では同一のブロットをプローブした。このpAbは100ngのrASと交差反応性を示すので、バックグラウンドを超えるレベルはS87部位での真のリン酸化を表す。TBSおよびTX反応のいずれにおいても、この部位での有意なリン酸化は認められなかったが、CKIスパイクは測定可能なレベルのリン酸化に達した。これらの実験から、測定可能な紛れもないキナーゼ活性(類)がKOマウス脳の可溶性および膜画分に存在し、S87に比しS129に対して特異的であることが示唆される。アルファ−シヌクレインには他のセリンまたはスレオニン部位におけるリン酸化の可能性が存在するが、そのような修飾を検出するための抗体はまだ利用可能ではない。このように、測定可能なレベルのser−129特異的キナーゼ活性/活性類がアルファ−シヌクレインKOマウス脳抽出物に存在するので、このような活性を有するものを脳からのキナーゼ精製の原料とすることができるかも知れない。
【0176】
図8A、8B、9Aおよび9Bでは、アルファ−シヌクレインKOマウス脳の皮質をダンス型ホモジナイザーによりホモジナイズして、プロテアーゼおよびホスファターゼのインヒビターが存在する200mM蔗糖可溶性および0.1%トリトンX−100可溶性抽出物を得た。サンプル20μl(反応液の総容量100μl)を、陽性対照としてのカゼインキナーゼI(CKI)1,000単位および/またはキナーゼ活性(類)を増大させるためのホスファチジルコリン(PC;大豆レシチン)の存在下または非存在下にwt−rAS 2.4μgとインキュベートした。反応はSDS−PAGE上に負荷し(総AS量130ng)、Syn−1(総Syn;0.1ug/ml)、11A5(ser−129リン酸化;1μg/ml)またはELADW110(ser−87リン酸化;2μg/ml)でイムノブロットした。
【0177】
上記のデータから、PLK2その他の直接および/または間接キナーゼ(GRK6など)ならびにシンフィリンなどの調節因子はDLBおよびPDにおける治療的介入の新規な標的であることが分かる。PLK2は、アルファ−シヌクレインをser−129で直接リン酸化することができるので、好ましい標的である。
【0178】
以上の実施例は単に例示的なものであり、本発明を限定するものではない。従って、他の変形形態がありうることは当業者には容易に理解されよう。本発明の範囲は、これにより付与される全ての特許の請求範囲によってカバーされる。従って、本発明の範囲は、上記の説明を参照するのではなく、付与される特許請求の範囲をその均等物の全範囲と共に参照して決定されるべきである。本出願において引用した全ての刊行物、参考文献および特許文献は、個々の刊行物もしくは特許文献がそれぞれ、そのようにして個別に示されている場合と同程度に、あらゆる目的で全文引用により本明細書に組み込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1A】図1A乃至Cは、種々の組換えキナーゼによるアルファ−シヌクレインのリン酸化に関するインビトロ・リン酸化アッセイの結果を示す。図1Aはトータル・アルファ−シヌクレインを示し、図1Bはアルファ−シヌクレインのpser−129のリン酸化を示し、図1Cはアルファ−シヌクレインのpser−87のリン酸化を示す。
【図1B】図1A乃至Cは、種々の組換えキナーゼによるアルファ−シヌクレインのリン酸化に関するインビトロ・リン酸化アッセイの結果を示す。図1Aはトータル・アルファ−シヌクレインを示し、図1Bはアルファ−シヌクレインのpser−129のリン酸化を示し、図1Cはアルファ−シヌクレインのpser−87のリン酸化を示す。
【図1C】図1A乃至Cは、種々の組換えキナーゼによるアルファ−シヌクレインのリン酸化に関するインビトロ・リン酸化アッセイの結果を示す。図1Aはトータル・アルファ−シヌクレインを示し、図1Bはアルファ−シヌクレインのpser−129のリン酸化を示し、図1Cはアルファ−シヌクレインのpser−87のリン酸化を示す。
【図1D】図1D乃至Fは、GPCR受容体キナーゼ(GRK)ファミリーからの組換えキナーゼおよびPLK2を用いた更に的を絞った検討結果を示す。図1Dはトータル・アルファ−シヌクレインを示し、図1Eはアルファ−シヌクレインのpser−129(ホスホ−ser−129)のリン酸化、図1Fはアルファ−シヌクレインのpser−87のリン酸化(ホスホ−ser−87)を示す。
【図1E】図1D乃至Fは、GPCR受容体キナーゼ(GRK)ファミリーからの組換えキナーゼおよびPLK2を用いた更に的を絞った検討結果を示す。図1Dはトータル・アルファ−シヌクレインを示し、図1Eはアルファ−シヌクレインのpser−129(ホスホ−ser−129)のリン酸化、図1Fはアルファ−シヌクレインのpser−87のリン酸化(ホスホ−ser−87)を示す。
【図1F】図1D乃至Fは、GPCR受容体キナーゼ(GRK)ファミリーからの組換えキナーゼおよびPLK2を用いた更に的を絞った検討結果を示す。図1Dはトータル・アルファ−シヌクレインを示し、図1Eはアルファ−シヌクレインのpser−129(ホスホ−ser−129)のリン酸化、図1Fはアルファ−シヌクレインのpser−87のリン酸化(ホスホ−ser−87)を示す。
【図2A】図2AおよびBは、各種キナーゼにおけるインビトロでのキナーゼ活性の測定結果を示す。図2AはトータルASを示す。図2Bはセリン129を示す。
【図2B】図2AおよびBは、各種キナーゼにおけるインビトロでのキナーゼ活性の測定結果を示す。図2AはトータルASを示す。図2Bはセリン129を示す。
【図3A】図3A乃至Cは各種キナーゼにおけるインビトロでのキナーゼ活性の測定結果を示す。図3AはトータルASを示す。図3Bはセリン129を示す。図3Cはセリン87を示す。
【図3B】図3A乃至Cは各種キナーゼにおけるインビトロでのキナーゼ活性の測定結果を示す。図3AはトータルASを示す。図3Bはセリン129を示す。図3Cはセリン87を示す。
【図3C】図3A乃至Cは各種キナーゼにおけるインビトロでのキナーゼ活性の測定結果を示す。図3AはトータルASを示す。図3Bはセリン129を示す。図3Cはセリン87を示す。
【図4A】図4AおよびBは、図3Aおよび3Bのアッセイ結果に及ぼすリン脂質の影響を示す。図4AはトータルASを示す。図4Bはセリン129を示す。
【図4B】図4AおよびBは、図3Aおよび3Bのアッセイ結果に及ぼすリン脂質の影響を示す。図4AはトータルASを示す。図4Bはセリン129を示す。
【図5】図5は、PLK2のcDNAを293−シヌクレイン細胞中にトランスフェクトした結果を示す。細胞は、ELISAによってトータルおよびリン酸化シヌクレイン濃度について分析した。
【図6】図6は、GPRK6およびPLK2のcDNAをHEK−シヌクレイン細胞中にトランスフェクトした結果を示す。
【図7】図7は、別の供給源からのPLK2 siRNAのノックダウンがリン酸化シヌクレインの発現の劇的な減少をもたらすことを示す。
【図8】図8Aおよび8Bならびに9Aおよび9Bは、アルファ−シヌクレインKOマウス脳内の推定キナーゼ標的によるアルファ−シヌクレインのインビトロ・リン酸化を示す。
【図9】図8Aおよび8Bならびに9Aおよび9Bは、アルファ−シヌクレインKOマウス脳内の推定キナーゼ標的によるアルファ−シヌクレインのインビトロ・リン酸化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レヴィー小体病(LBD)を治療する活性について因子をスクリーニングする方法であって、
(a)表1A、B;C、表2、表12または表13に示したキナーゼの活性または発現を調節する因子を同定する工程、および
(b)該因子がLBDの動物モデルにおいて該疾患を治療するのに有用な活性を示すか否かを決定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記調節が阻害である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)は、前記因子が前記キナーゼを阻害するか否かを特定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)が、前記キナーゼおよび/またはアルファ−シヌクレインを発現する核酸で形質転換した細胞において行われる、請求項3の方法。
【請求項5】
前記細胞が神経細胞である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)がインビトロで行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)がLB疾患のトランスジェニック動物モデルにおいて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞がヒト・アルファ−シヌクレインを発現する導入遺伝子を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記アルファ−シヌクレインがアルファ−シヌクレインの家族性突然変異体である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記家族性突然変異体がA30P、A53TおよびE46Kからなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記キナーゼがAPEG1、PLK2、CDC7L1、PRKG1、MAPK13、GAK、RHOK、ADRBK1、ADRBK2、GRK2L、GRK5、GRK6、GRK7、CKIIA2、CKIIA1、IKBKBおよびMETからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記キナーゼがAPEG1、PLK2、CDC7L1、RHOK、ADRBK1、ADRBK2、GRK2L、GRK5、GRK6、GRK7、CKIIA2、CKIIA1、IKBKBおよびMETからなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記キナーゼがPRKG1、MAPK13およびGAKからなる群から選ばれ、前記調節が活性化である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記キナーゼがPLK2、IKBKBおよびGRK6からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記キナーゼがPLK2である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記キナーゼがIKBKBである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記同定工程がシンフィリンの存在下に前記因子をPLK2蛋白質と接触させることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
工程(b)が前記トランスジェニック動物を前記因子と接触させ、該因子が、該因子を処置しなかった対照トランスジェニック動物と比べてアルファ−シヌクレインの沈着物の形成を阻害するか否かを決定することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項19】
前記動物モデルがA30P、A53TおよびE46Kからなる群より選択される突然変異を有するアルファ−シヌクレイン導入遺伝子を含むトランスジェニック動物である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
LB疾患の治療もしくは予防を行う方法であって、
該疾患に罹患しているか罹患するリスクのある患者に対して、表1A、BもしくはC、表2、表12または表13に示したキナーゼの活性または発現を調節するのに有効な因子の有効な療法を施行する工程を含み、該因子が
該キナーゼに対する抗体、
該キナーゼの発現を調節する亜鉛フィンガー蛋白質、
該キナーゼの核酸配列に相補的な配列を有するアンチセンスRNA、siRNA、リボザイムもしくはRNA
である、方法。
【請求項21】
前記調節が阻害である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記キナーゼがAPEG1、PLK2、CDC7L1、RHOK、ADRBK1、ADRBK2、GRK2L、GRK5、GRK6、GRK7、CKIIA2、CKIIA1、IKBKBおよびMETからなる群より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記キナーゼがPLK2、IKBKBおよびGRK6からなる群より選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記キナーゼがPLK2である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記キナーゼがIKBKBである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
さらにシンフィリンの存在下にPLK2を調節する因子を特定することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記キナーゼがPRKG1、MAPK13およびGAKからなる群から選ばれ、前記調節が活性化である、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
アルファ−シヌクレインをリン酸化するキナーゼを同定する方法であって、
アルファ−シヌクレインを発現する細胞に対してキナーゼをコードしている遺伝子に相補的な配列を有する核酸または該遺伝子に特異的に結合する亜鉛フィンガー蛋白質をトランスフェクトする工程であって、これによって該トランスフクトされた核酸または亜鉛フィンガー蛋白質が該キナーゼの発現を阻害する、工程、および
該細胞のリン酸化アルファ−シヌクレインの量を、siRNAまたは該siRNAをコードしている核酸をトランスフェクトしていない対照細胞と比較して測定する工程であって、リン酸化アルファ−シヌクレインの減少が該キナーゼがアルファ−シヌクレインをリン酸化する指標を提供する、工程
を包含する、方法。
【請求項29】
さらに、前記核酸をトランスフェクトしていない対照細胞と比較して、前記細胞により産生されるアルファ−シヌクレインの量を測定することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記核酸がsiRNAまたは該siRNAをコードしているDNA分子である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記アルファ−シヌクレインがアルファ−シヌクレインの家族性突然変異体である、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記家族性突然変異体がA30P、A53TおよびE46Kからなる群より選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
レヴィー小体病(LBD)を治療する活性について因子をスクリーニングする方法であって、
(a)シンフィリンの活性または発現を調節する因子を同定する工程、および
(b)該因子がLBDの動物モデルにおいて該疾患を治療するのに有用な活性を示すか否かを決定する工程
を包含する、方法。
【請求項34】
Ser−129リン酸化アルファ−シヌクレインを産生するための方法であって、
細菌細胞内にアルファ−シヌクレインをコードしているプラスミドおよびPLK2をコードしているプラスミドを提供する工程、
該細胞を培養し、それにより該プラスミドが同時発現してアルファ−シヌクレインおよびPLK2を産生する工程であって、それにより該PLK2が細菌細胞内でアルファ−スイ(alpha−suy)をリン酸化する、工程、ならびに
該細胞からリン酸化アルファ−シヌクレインを単離する工程
を包含する、方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図1D】
image rotate

【図1E】
image rotate

【図1F】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2009−525046(P2009−525046A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−553336(P2008−553336)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/002685
【国際公開番号】WO2007/089862
【国際公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(399013971)エラン ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド (75)
【Fターム(参考)】