説明

アルミ合金製品の断熱構造

【課題】エンジンの冷却損失の低減等に利用することができる断熱構造体を提供する。
【解決手段】アルミ合金製母材11の表面に陽極酸化処理によるポーラス層12を形成し、該ポーラス層12の上に上記母材11よりも熱伝導率が低い被覆層13を設けた構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミ合金製品の断熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ合金(アルミニウム合金)は、各種製品の素材として利用され、耐熱強度が高いことから、ピストン、シリンダヘッド等のエンジン部品にもアルミ合金が採用されている。また、エンジン部品のような高温ガスに晒されるアルミ合金製品の場合、高温ガスからの熱伝達を抑制するために、そのアルミ合金製母材の表面に断熱層を形成することも行なわれる。例えば、特許文献1には、エンジンのピストンをアルミ合金製とすること、そして、そのピストン頂面に母材のアルミ合金よりも熱伝導性が低い複合焼結体を鋳込むことが記載されている。特許文献2には、エンジンのシリンダをアルミ合金製とすること、そして、該シリンダ壁面にセラミックス等によって気泡を有する断熱膜を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−267158号公報
【特許文献2】特開2009−243355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車の燃費を高めるために、車体の軽量化、エンジンの熱効率の改善、機械抵抗の低減、電気負荷の低減、排気エネルギーの回収・利用等が図られている。このうち、エンジンの熱効率に関しては、理論的には、幾何学的圧縮比を高めるほど、また、作動ガスの空気過剰率を大きくする(比熱比を高める)ほど、その熱効率が高くなることが知られている。しかし、実際には、圧縮比を大にするほど、また、空気過剰率を大にするほど、冷却損失(外部に熱として奪われるエネルギー)が大きくなるため、圧縮比や空気過剰率の増大による熱効率の改善は頭打ちになる。
【0005】
すなわち、冷却損失は、作動ガスからエンジン燃焼室壁への熱伝達率、その伝熱面積、並びにガス温と壁温との温度差に依存する。そのうち、熱伝達率はガス圧及び温度の関数である。従って、圧縮比及び空気過剰率の増大によりガス圧及び温度が高くなると、熱伝達率が高くなり、冷却損失が大きくなる。また、壁温とガス温との温度差も大きくなるから、そのことによっても、冷却損失が大きくなる。このため、例えば圧縮比20以上の超高圧縮比にすることは、高膨張比にもなり、排気損失の低減に有効であるにも拘わらず、上記冷却損失のために実現できていないのが現状である。
【0006】
一方、圧縮比を大きく高めるのではなく、排気エネルギーを回収することによってエンジンの効率化(燃費改善)を図ることも考えられる。しかし、この場合も、冷却損失が大きいときには、それだけ排気エネルギーが小さくなるから、圧縮比を高める場合と同じく、冷却損失の低減が重要になる。
【0007】
そこで、本発明は、上記エンジンの冷却損失の低減等に利用することができる、アルミ合金製品の断熱構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルミ合金製品の場合、陽極酸化処理によって断熱性が高いポーラス層を形成することができる点に着目し、このポーラス層と低熱伝導率の被覆層とを組み合わせた。
【0009】
すなわち、ここに提示するアルミ合金製品の断熱構造は、アルミ合金製母材の表面に陽極酸化処理によるポーラス層が形成され、該ポーラス層の上に上記母材よりも熱伝導率が低い被覆層が設けられていることを特徴とする。
【0010】
上記ポーラス層は、アルミ合金製母材の陽極酸化処理によって形成されたものであるから該母材との結合力が強く、また、空孔を有することにより、母材よりも熱伝導率が低く且つ比熱容量(単位質量あたりの熱容量)又は容積比熱(単位容量あたりの熱容量)も小さい。そして、このポーラス層とこれを覆う低熱伝導率の被覆層とにより、高い断熱効果が得られる。
【0011】
上記ポーラス層の気孔率は、熱伝導率及び容積比熱の低減の観点から30vol%以上であることが好ましく、強度確保の観点から70vol%以下であることが好ましい。
【0012】
また、好ましいのは、上記被覆層が母材よりも熱伝導率が低く且つ比熱容量(容積比熱)も小さいことである。そのような被覆層としては、金属酸化物、例えば、ZrOを含有するジルコニア系溶射皮膜が好ましい。特に多孔質溶射皮膜とすれば、断熱性向上に有利になる。
【0013】
また、好ましいのは、上記ポーラス層の表面が凹凸に形成されていることである。このポーラス層表面の凹凸によるアンカリング効果により、該ポーラス層と上記被覆層との密着性が高くなる。好ましい実施形態では、上記被覆層の表面は平滑に形成される。
【0014】
好ましい実施形態では、上記アルミ合金製母材はエンジン部品を構成し、該エンジン部品のエンジン燃焼室に臨む面、吸気ポート内壁面又は排気ポート内壁面が上記ポーラス層及び被覆層よりなる断熱層で形成される。
【0015】
エンジン部品のエンジン燃焼室に臨む面が上記ポーラス層及び被覆層よりなる断熱層で形成されている場合は、エンジンの冷却損失の低減に有利になる。
【0016】
シリンダヘッドの吸気ポート内壁面が上記ポーラス層及び被覆層よりなる断熱層で形成されている場合は、吸気が筒内に吸入されるまでにシリンダヘッドによって加熱されることを抑制することができる。すなわち、筒内への吸気の充填効率を高くする上で有利になる。或いは、幾何学的圧縮比が高い(例えばε=20〜50程度)エンジンにおいて、圧縮前の筒内ガス温度を低くすることができ、異常燃焼(早期着火)の防止に有利になり、また、燃焼温度が異常に高温になること(そのことによって冷却損失が大きくなること、NOxが発生し易くなること)を防止する上で有利になる。
【0017】
シリンダヘッドの排気ポート内壁面が上記ポーラス層及び被覆層よりなる断熱層で形成されている場合は、燃焼排ガスを温度が高い状態で排出することができ、排気エネルギーの回収に有利になる。
【0018】
上記エンジン部品としては、ピストン、シリンダヘッド、シリンダブロック、シリンダライナ、吸気バルブ又は排気バルブがあげられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アルミ合金製母材の表面に陽極酸化処理によるポーラス層が形成され、該ポーラス層の上に上記母材よりも熱伝導率が低い被覆層が設けられているから、母材との結合力が強く且つ断熱性が高い断熱層(ポーラス層及び被覆層)が得られ、例えば、エンジン部品に適用して冷却損失の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジン構造を示す断面図である。
【図2】仕様が相異なるエンジンの幾何学的圧縮比と図示熱効率との関係を示すグラフ図である。
【図3】仕様が相異なるエンジンの空気過剰率λと図示熱効率との関係を示すグラフ図である。
【図4】本発明の実施形態に係るアルミ合金製ピストンの断熱構造を示す断面図である。
【図5】同ピストンのポーラス層表面の凹凸パターンを示す平面図である。
【図6】同ピストンの断熱層の拡大断面図である。
【図7】同ピストンのポーラス層を一部断面にして示す斜視図である。
【図8】ポーラス層の表面に形成する円形凹部の直径と配列ピッチとアンカリング保持面積率との関係を示すグラフ図である。
【図9】ポーラス層の表面に形成する円形凸部の直径と配列ピッチとアンカリング保持面積率との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0022】
この実施形態は、図1に示すエンジンのアルミ合金製ピストン1に本発明に係る断熱構造を採用したものである。
【0023】
<エンジンの特徴>
図1において、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はシリンダヘッド3の吸気ポート5を開閉する吸気バルブ、6は排気ポート7を開閉する排気バルブ、8は燃料噴射弁である。エンジンの燃焼室は、ピストン1の頂面、シリンダブロック2、シリンダヘッド3、吸排気バルブ4,6の傘部前面(燃焼室に臨む面)で形成される。ピストン1の頂面には、キャビティ9が形成されている。なお、点火プラグの図示は省略している。
【0024】
このエンジンは、幾何学的圧縮比ε=20〜50とされ、少なくとも部分負荷域での空気過剰率λ=2.5〜6.0で運転されるリーンバーンエンジンである。このため、先に説明したように、エンジンの冷却損失を大幅に低減させなければ、すなわち、エンジンの断熱性を高くしなければ、その圧縮比ε及び空気過剰率λに見合う所期の熱効率を得ることができない。この点をモデル計算による図示熱効率に基いて説明する。すなわち、圧縮比εを増大させていったとき、燃焼室を断熱構造にするか否かで、また、空気過剰率λの大小で、図示熱効率がどのように影響されるかをモデル計算した。
【0025】
図2はその結果を示す。同図において、「断熱なし」は、燃焼室に断熱構造を採用していない従来のエンジンを意味し、「断熱あり」は、「断熱なし」の従来のエンジンよりも燃焼室の断熱率を50%高めたエンジンを意味する。「200kPa」及び「500kPa」はエンジン負荷の大きさを表す。
【0026】
まず、「断熱なし 200kPa λ=1」の場合、圧縮比εの増大に伴って図示熱効率が増大しているが、圧縮比ε=50を越えても図示熱効率は大きく改善せず、圧縮比ε=50での理論効率は80%程度であるから、当該エンジンの図示熱効率はかなり低い。この差の大部分は冷却損失及び排気損失である。
【0027】
「断熱なし 200kPa λ=2」の場合、空気過剰率の増加により比熱比が小さくなるため、図示熱効率が高くなっているが、それでも、理論効率からみれば低い。「断熱なし 200kPa λ=4」及び「断熱なし 200kPa λ=6」をみると、圧縮比εが15又は25を越えると、該圧縮比εが大きくなるほど図示熱効率が低下している。これは、空気過剰率λが大きい(混合気の空気密度が高い)ことから、高圧縮比になると燃焼時のガス圧が非常に高くなり、ガス圧及び温度の関数である熱伝達率が高くなって冷却損失が大きくなるためである。すなわち、空気過剰率λの増大(比熱比の増大)による熱効率の上昇を上回って冷却損失が大きくなるためである。
【0028】
これに対して、「断熱あり 200kPa λ=2.5」では、圧縮比εの増大に伴って図示熱効率が増大している。空気過剰率λを高めた「断熱あり 200kPa λ=6」では、圧縮比εが40を越えると、図示熱効率が若干下がり気味になるものの、図示熱効率は圧縮比ε=20〜50において非常に高い値になっている。エンジン負荷を高めた「断熱あり 500kPa λ=2.5」でも、図示熱効率は圧縮比ε=20〜50において高い値になっている。
【0029】
図3は空気過剰率λと図示熱効率との関係をみたグラフである。「断熱なし 200kPa ε=15」では、空気過剰率λ=4.5付近で図示熱効率がピークになり、それよりも空気過剰率λが増大するほど図示熱効率が低下している。これに対して、「断熱あり 200kPa ε=40」では、空気過剰率λ=6.0付近で図示熱効率がピークになっている。圧縮比εが高いことと、断熱による冷却損失抑制の効果である。
【0030】
上記リーンバーンエンジンの場合、少なくとも部分負荷域では空気過剰率λ=2.5以上で運転するから、NOx発生の抑制に有利になる。圧縮比εが高くなると、燃焼温度が高くなるが、空気過剰率λをエンジン負荷が高くなるほど大きくなるように制御することにより、燃焼最高温度が1800Kを越えないようにしてNOx発生を抑制することができる。
【0031】
また、図示は省略するが、上記エンジンの吸気系には吸気を冷却するインタークーラーが設けられている。これにより、圧縮開始時の筒内ガス温度が低くなり、燃焼時のガス圧及び温度の上昇が抑えられ、冷却損失の低減(図示熱効率の改善)に有利になる。
【0032】
<断熱構造>
そこで、以下では、上記超高圧縮比ε=20〜50及び高空気過剰率λ=2.5〜6.0で運転されるエンジンにおける、図示熱効率を高める上で必要となる冷却損失低減のための断熱構造について説明する。
【0033】
図4はアルミ合金製ピストン1の断熱構造を示す。すなわち、ピストン1は、エンジンの燃焼室を形成する頂面に断熱層を備えている。その断熱層は、アルミ合金製ピストン母材11の頂面を全面にわたって陽極酸化処理することによって形成されたポーラス層12と、該ポーラス層12を覆う低熱伝導性の被覆層13とよりなる。図5及び図6に示すように、ポーラス層12の表面は凹凸に形成されている。すなわち、多数の凸部12aが全面にわたって散点状に設けられている。一方、被覆層13の表面は平滑に形成されている。
【0034】
ポーラス層12の厚さは100〜400μm、凹凸高さは5〜20μm、被覆層13の厚さは100〜1000μmである。熱伝導率は、アルミ合金製母材11が150W/(m・K)、ポーラス層12が24〜63W/(m・K)、被覆層13が0.40〜0.94W/(m・K)であり、容積比熱は、アルミ合金製母材11が2317kJ/(m・K)、ポーラス層12が887〜2069kJ/(m・K)、被覆層13が2215〜1921kJ/(m・K)である。
【0035】
−凹凸の形成−
ピストン母材11の頂面の凹凸は種々の方法で形成することができ、その一例としてフォトエッチング法を説明する。まず、凹凸パターンに関するデータをもとに作成したCADデータを使って原版を作成する。フォトレジストをピストン母材11の頂面にコーティングする。原版の凹凸パターンをフォトレジストに焼き付ける(露光)。次いで、凹凸パターン以外のレジストを除去する(現像)。次いでピストン母材11の露出した部分のエッチングを行なう。しかる後、残ったレジストを除去する。以上により、ピストン母材11の頂面に上記凹凸パターンによる凹凸を形成することができる。
【0036】
−ポーラス層の形成−
陽極酸化処理によるポーラス層12の形成において、電解方法としては、直流電解法、交流電解法、交直重畳法及びパルス電解法のいずれをも採用することができる。特に交直重畳法の採用が好ましい。以下、好ましい交直重畳電解法を説明する。
【0037】
水酸化ナトリウム及び硝酸によりピストン母材11の頂面の脱脂・エッチング・デスマットを行なう(前処理)。前処理後のピストン母材11を酸性浴に浸漬し、白金板あるいはチタン板による電極をピストン母材11の頂面に対向するように配置し電解処理を行なう。酸性浴としては、硫酸、シュウ酸、燐酸、硼酸、クロム酸等の水溶液、又はこれらの混合溶液を用いることができる。特に、硫酸浴及びシュウ酸浴が好ましい。電解処理においては、基底電流密度を1.0〜12.0A/dmの範囲、振幅を1.0〜7.0A/dmの範囲で経時的に変化させるようにすればよい。周波数は0.5〜2.0kHzの範囲で設定すればよい。波形については、正弦波、三角波、矩形波等の任意の波形とすることができる。
【0038】
上記陽極酸化処理により、図7に示すように、ピストン母材11の表面から略垂直に延びる多数の細孔15(孔径10〜50nm)を有する気孔率30vol%以上70vol%以下、厚さ100〜400μmのポーラス層12を得ることができる。
【0039】
−被覆層の形成−
上記ポーラス層12の表面にY安定化ZrO(YSZ)粉末をプラズマ溶射し、被覆層13を形成する。ポーラス層12の細孔15は被覆層13によって塞がれた状態になる。得られた被覆層13の表面はポーラス層12の表面の凹凸が反映されて凹凸状になる。そこで、この被覆層13の表面を平滑になるように仕上げ加工する。この場合、プラズマ溶射条件の調整によって多孔質被覆層13(多孔質熱遮蔽コーティング)とすることができる。
【0040】
以上により、空気が閉じこめられた多数の細孔15を有する断熱性が高いポーラス層12と、該ポーラス層12を覆う低熱伝導率且つ低容積比熱の被覆層13とからなる断熱層がピストン頂面に形成される。
【0041】
アルミ合金ADC10を用いた一実施例では、熱伝導率は、アルミ合金製母材11が150W/(m・K)、ポーラス層12が43W/(m・K)、被覆層13が0.94W/(m・K)であり、容積比熱は、アルミ合金製母材11が2317kJ/(m・K)、ポーラス層12が1478kJ/(m・K)、被覆層13が2215kJ/(m・K)である。被覆層13は多孔質とした場合、例えば、気孔率10%では熱伝導率が0.87W/(m・K)、気孔率25%では熱伝導率が0.77W/(m・K)になる。
【0042】
上記アルミ合金製ピストンの断熱構造によれば、エンジンの冷却損失の低減に有利になる。すなわち、ポーラス層12及び被覆層13の熱伝導率が低いことから、燃料の燃焼によって発生するエネルギーが熱としてピストン1を介して外部に奪われる量が少なくなる。また、被覆層13の容積比熱が小さいことから、ピストン1の頂部の表面温度自体は燃料の燃焼による燃焼室温度の上昇に伴って速やかに上昇する。よって、燃焼室のガス温とピストン頂部の表面温度との差が大きくならず、冷却損失が少なくなる。
【0043】
−ポーラス層表面の凹凸について−
上記アルミ合金製ピストンの断熱構造によれば、ポーラス層12の表面に凹凸が形成されているため、該凹凸によるアンカリング効果により、ポーラス層12と被覆層13との密着性が強くなる。この凹凸の形成には、従来より溶射皮膜の密着性確保のために行なわれているショットブラストを採用することもできるが、上述のフォトエッチングによれば、所望の凹凸パターンを形成することができる利点がある。そこで、このフォトエッチングによる適切な凹凸パターンについて説明する。
【0044】
まず、従来のショットブラストでは、深さ20μm程度の多数の凹部が溶射面全体に対して20%程度の面積率で形成されており、そのような凹凸であれば、溶射皮膜の密着性が確保されている。
【0045】
フォトエッチングによって円形凹部を形成する場合、全体に占める凹部の面積率、すなわち、アンカリング保持効果が得られる面積率は、凹部の直径と、該凹部を縦横に配列するピッチとで定まる。ここでのピッチとは、凹部の円中心とそれに最近接する円との中心間距離とし、これを正方の位置に配列させた矩形パターンを展開して凹部を並べる。図8はその凹部の直径を100μm〜1500μmの範囲で設定するときの、配列ピッチとアンカリング保持面積率との関係を示す。凹部の場合は、上記ピッチを小さくするほど上記面積率が大きくなり、凹部を密充填状態に配列したときに上記面積率が最大(約78.5%)になる。深さ20μm程度のエッチングで窪んだ箇所を20%以上のアンカリング保持面積率で形成すれば、ショットブラストと同等以上のアンカリング効果を得ることができるが、フォトエッチングで窪んだ箇所をより多く除去するとエッチング液の損耗量も多くなるためアンカリング保持面積率は20〜30%の範囲が望ましい。
【0046】
一方、フォトエッチングによって円形凸部を形成する場合、相対的に凹部となる部分がアンカリング保持効果を発揮すると便宜上考えると、円形凹部を形成する場合とは逆に、円形凸部を縦横に配列するピッチを大きくするほどアンカリング保持面積率大きくなる。図9はその凸部の直径を100μm〜1500μmの範囲で設定するときの、配列ピッチとアンカリング保持面積率との関係を示す。凸部の場合は、上記ピッチを大きくするほど上記面積率が大きくなり、凹部を密充填状態に配列したときに上記面積率が最少になる。ここでのピッチとは、凸部の円中心とそれに最近接する円との中心間距離とし、これを正方の位置に配列させた矩形パターンを展開して凸部を並べる。深さ20μm程度のエッチングで窪んだ箇所を20%以上のアンカリング保持面積率で形成すれば、ショットブラストと同等以上のアンカリング効果を得ることができるが、フォトエッチングで窪んだ箇所をより多く除去するとエッチング液の損耗量も多くなるためアンカリング保持面積率は20〜30%の範囲が望ましい。
【0047】
なお、ポーラス層の凹凸としては、上述の凹部又は凸部を散点状に設けたものに限らず、ポーラス層の表面に溝状凹部或いは凸条を多数設けたものであってもよい。
【0048】
また、上記実施形態ではポーラス層の表面に凹凸を形成したが、凹凸を設けることなく、該ポーラス層と被覆層との間に自溶性合金層を設けることによって、ポーラス層に対する被覆層の結合力を高めるようにしてもよい。もちろん、ポーラス層の表面に凹凸を形成し、その凹凸表面に自溶性合金層を介して被覆層を設けるようにしてもよい。そのような自溶性合金としては、例えばCrを20質量%含有するNi基合金を採用することができる。この自溶性合金層は被覆層と同じく溶射によって形成することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 ピストン(アルミ合金製品の一例)
2 シリンダブロック(エンジン部品の一例)
3 シリンダヘッド(エンジン部品の一例)
4 吸気バルブ(エンジン部品の一例)
5 吸気ポート
6 排気バルブ(エンジン部品の一例)
7 排気ポート
8 燃料噴射弁
9 キャビティ
11 ピストン母材(アルミ合金製母材の一例)
12 ポーラス層
13 被覆層
15 細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ合金製母材の表面に陽極酸化処理によるポーラス層が形成され、該ポーラス層の上に上記母材よりも熱伝導率が低い被覆層が設けられていることを特徴とするアルミ合金製品の断熱構造。
【請求項2】
請求項1において、
上記ポーラス層の表面が凹凸に形成されていることを特徴とするアルミ合金製品の断熱構造。
【請求項3】
請求項2において、
上記ポーラス層の凹凸を有する表面に設けられた上記被覆層は、その表面が平滑に形成されていることを特徴とするアルミ合金製品の断熱構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記被覆層はZrOを含有することを特徴とするアルミ合金製品の断熱構造。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
上記アルミ合金製母材はエンジン部品を構成し、該エンジン部品のエンジン燃焼室に臨む面、吸気ポート内壁面又は排気ポート内壁面に上記ポーラス層及び被覆層が形成されていることを特徴とするアルミ合金製品の断熱構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−72745(P2012−72745A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220096(P2010−220096)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】