説明

アルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法

【課題】 機械的強度が強くて、単位面積当たりの静電容量の高い陽極箔を製造することができるアルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 アルミニウム箔を電解エッチングしてピットを生成させる前段エッチング工程と、前記前段エッチング工程により形成されたピットを拡大する後段エッチング工程とからなるアルミ電解コンデンサ用電極箔の製造方法であって、前段エッチング工程と後段エッチング工程の間に、アルミニウム箔の表面の皮膜を溶解させる酸性水溶液に浸漬する第1の中間処理工程と、アルミニウム箔の表面に皮膜を生成させる水溶液に浸漬する第2の中間処理工程を設けた製造方法としたものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はアルミ電解コンデンサの陽極箔に用いられるアルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法に関し、特に中高圧用のアルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、電子機器の小型化、高信頼性化に伴い、アルミ電解コンデンサに対するユーザからのニーズも小型化が強く要望されており、そのためにアルミ電解コンデンサ用陽極箔も従来以上に単位面積当たりの静電容量を高める必要が生じている。
【0003】一般的なアルミ電解コンデンサは、アルミニウム箔をエッチングによって実効表面積を拡大させた表面に陽極酸化により誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔とアルミニウム箔をエッチングによって実効表面積を拡大させた陰極箔とをセパレータを介して巻回することによりコンデンサ素子を構成し、このコンデンサ素子に駆動用電解液を含浸させるとともに、このコンデンサ素子を金属ケース内に封止することにより構成されている。
【0004】この種のアルミ電解コンデンサにおいて、その静電容量を高める或いは小形化を図るには、陽極箔の実効表面積を拡大し単位面積当たりの静電容量を高めることが必要不可欠になっており、陽極箔の実効表面積を拡大させるエッチング技術の開発が盛んに行われている。
【0005】上記陽極箔のエッチング方法は、硫酸、硝酸、燐酸、蓚酸などの皮膜を形成する酸を添加した塩化物水溶液中で化学的あるいは電気化学的に行われているが、中高圧用に使用される陽極箔のエッチング方法は、基本的にはエッチングピット(以下、ピットと称す)を生成させる前段エッチング工程と、このピットを使用電圧に適した径まで拡大する後段エッチング工程とからなる方法で、いかに数多くのピットを生成させて効率よくピットの径を拡大させるかが重要なポイントとなっている。
【0006】陽極箔の実効表面積を拡大する技術は、例えば、特開平9−180966号公報に記載された技術のように、直流電流を流して電気化学的にエッチングする前段エッチング工程と、塩酸、硫酸または硝酸のうち1種類以上を含む溶液中で交流電流を流してエッチングする後段エッチング工程を行うことにより、陽極箔の実効表面積の拡大と機械的強度の向上を図ることができると記載されている。
【0007】また、特開平6−176976号公報に記載された技術は、前段エッチング工程の途中に熱処理を施すことにより、ピットの分散性が良くなり陽極箔の実効表面積を拡大することができると記載されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の陽極箔のエッチング方法において、前段エッチング工程は皮膜を形成させる酸を添加してエッチングしていることから、前段エッチング工程後にアルミニウム箔の表面に不均一の薄い皮膜が形成されてしまうので、後段エッチング工程でのピット径の拡大が不均一になり、アルミニウム箔の表面も溶解してしまうので、陽極箔の実効表面積の拡大を図りにくいばかりでなく、機械的強度も弱くなるという課題を有していた。
【0009】また、上記特開平9−180966号公報に記載の技術は、後段エッチング工程を塩酸、硫酸または硝酸のうち一種類以上を含む溶液中で交流電流を流してエッチングすることにより、アルミニウム箔の表面の溶解を減少させて陽極箔の実効表面積を拡大することができると記載されているが、後段エッチング工程に交流電流を用いると、直流電流を用いたときよりもエッチング時間が長くなってしまい、生産効率が悪くなり、また、前段エッチング工程で直流電流を用い、後段エッチング工程で交流電流を用いることは生産設備が煩雑になってしまうという課題を有していた。
【0010】さらに、特開平6−176976号公報に記載された技術も、前段エッチング工程の途中に熱処理を施すことによりピットの分散性は良くなるが、後段エッチング工程で硫酸イオンを含む水溶液で化学エッチングをするので、原箔ロット間での溶解性の差(ばらつき)の影響を受けやすく、均一なピット径の拡大ができないため、陽極箔の実効表面積の拡大をすることが困難であるという課題を有していた。
【0011】本発明はこのような従来の課題を解決し、実効表面積の拡大を図り、機械的強度が強くて単位面積当たりの静電容量の高い陽極箔を得ることができるアルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明は、以下の製造方法を有するものである。
【0013】本発明の請求項1に記載の発明は、特に前段エッチング工程と後段エッチング工程の間に、アルミニウム箔の表面の皮膜を溶解させる酸性水溶液に浸漬する第1の中間処理工程と、アルミニウム箔の表面に皮膜を生成させる水溶液に浸漬する第2の中間処理工程を設けた製造方法としたもので、この方法により、第1の中間処理としてアルミニウム箔の表面の皮膜を溶解する酸性水溶液中に浸漬することにより、前段エッチング工程後のアルミニウム箔の表面の不均一の皮膜が除去され、アルミニウム箔の表面を活性化することができる。その後、第2の中間処理によって活性化したアルミニウム箔の表面に均一な皮膜を生成することができるものである。この皮膜により、引き続き行う後段エッチング工程においてアルミニウム箔の表面の溶解を阻害することができるため、ピットの壁面が優先的にエッチングされ、効率よくピット径を拡大することができることから、実効表面積の拡大を図ることができ、機械的強度が強くて単位面積当たりの静電容量の高い陽極箔を得ることができるものである。
【0014】また、請求項2に記載の発明は、特に、第1の中間処理に用いるアルミニウム箔の表面に皮膜を生成しない酸性水溶液が塩酸、フッ酸、硝酸のうちから選択された少なくとも1種類の酸性水溶液を用いた製造方法とするもので、この方法によりアルミニウム箔の表面の不均一な皮膜を除去し、アルミニウム箔の表面を活性化することができるという作用を有する。
【0015】また、請求項3に記載の発明は、特に、第2の中間処理に用いるアルミニウム箔の表面に皮膜を生成する水溶液として硫酸、クロム酸、リン酸、ほう酸のうちから選択された少なくとも1種類の無機酸水溶液またはシュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸のうちから選択された少なくとも1種類の有機酸水溶液を用いた製造方法とするもので、この方法により、活性化されたアルミニウム箔の表面に均一な皮膜を生成することができるという作用効果を有する。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】本発明の前段エッチング工程は、アルミニウム箔の表面を如何に密度を高めて均一にピットを生成させるかが重要となる。このためには、塩酸水溶液もしくはその水溶液に蓚酸、硫酸、リン酸、硼酸からなる酸またはその塩の少なくとも1種類を添加したエッチング液で電気化学的にエッチングを行うようにする。
【0018】この塩酸水溶液の濃度は2〜15%の範囲が好ましく、濃度が2%未満では充分なピットを得ることができず、15%を越えるとアルミニウム箔の表面の溶解が起きてしまう。好適な範囲は4〜12%である。
【0019】また、蓚酸、硫酸、リン酸、硼酸からなる酸またはその塩の少なくとも1種類を添加することでピット生成密度をより高めることができる。この添加量としては0.1〜15%の範囲が好ましい。
【0020】上記エッチング液の温度もピット生成に重要な影響を及ぼす。温度が50℃未満ではピット生成密度が少なく、一方、100℃を越えるとアルミニウム箔の表面の溶解が起きるので、エッチング液の温度は50〜100℃の範囲が好ましい。
【0021】次に、中間処理は、アルミニウム箔の表面の皮膜を溶解させる酸性水溶液に浸漬する第1の中間処理工程と、アルミニウム箔の表面に皮膜を生成させる水溶液に浸漬する第2の中間処理工程とを有するものである。
【0022】上記第1の中間処理工程は、前段エッチング工程後のアルミニウム箔の表面の不均一の皮膜を除去し、アルミニウム箔の表面を活性化するものである。
【0023】この第1の中間処理工程は、塩酸、フッ酸、硝酸のうちから選択された少なくとも1種類の酸性水溶液が用いられ、酸性水溶液の酸濃度は2〜10%の範囲が好ましい。酸濃度が2%未満では十分な皮膜の除去が行われず、10%を越えるとアルミニウム箔の表面が溶解してしまう。また、この酸性水溶液の温度は、50〜90℃の範囲が好ましい。
【0024】上記第2の中間処理工程は、アルミニウム箔の表面に皮膜を生成させるもので、硫酸、クロム酸、リン酸、ほう酸の無機酸またはシュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸の有機酸のうちから選択された少なくとも1種類の水溶液を用いることができる。
【0025】この第2の中間処理工程で用いる水溶液の濃度は、0.5〜5%の範囲が好ましい。また水溶液の温度は無機酸水溶液で40〜70℃、有機酸水溶液で50〜90℃の範囲が好ましい。
【0026】なお、第2の中間処理において、皮膜を生成させる水溶液がアルカリ性水溶液や中性水溶液では、第2の中間処理後に生成する皮膜は均一ではあるがアルミニウム箔の表面だけでなくピット壁面も厚い皮膜で覆ってしまうので、引き続き行うピット径の拡大ができにくくなってしまう。従って、第2の中間処理工程は皮膜を生成させることができる酸性の水溶液を用いなければならない。
【0027】次に、後段エッチング工程は、前段エッチング工程でできたピットをアルミニウム箔の表面の溶解を抑えてピットの径拡大を行うものである。この後段エッチング工程に用いられるエッチング液は、硫酸、硝酸のいずれかに蓚酸、燐酸、クロム酸、酢酸、リン酸、クエン酸、硼酸の少なくとも1種類以上を添加したエッチング液が好ましく、またこのエッチング液の濃度は0.1〜5.0%の範囲が好ましい。濃度が0.1%未満ではアルミニウム箔の表面の溶解が起こり、5.0%を越えるとアルミニウム箔の表面に酸化皮膜が形成されすぎてピットの径拡大が起こりにくくなる。
【0028】このエッチング液中でエッチングすることにより、アルミニウム箔中の不純物や粒界の影響による表面溶解を抑えてピット径の拡大と均一化を図ることができるので、実効表面積の拡大ができ、単位面積当たりの静電容量の高い陽極箔を得ることができるものである。
【0029】(実施例1)純度99.98%、厚み100μmのアルミニウム箔を用い、液温85℃の酸性水溶液(塩酸濃度10%、硫酸濃度10%)中に浸漬し、電流密度20A/dm2の直流電流を250秒印加して前段エッチング工程を行った。
【0030】次に、中間処理として液温80℃、濃度5%の塩酸水溶液中に60秒浸漬する第1の中間処理を行った後、液温40℃、濃度0.5%の硫酸水溶液中に60秒浸漬する第2の中間処理を行った。
【0031】次に、後段エッチング工程として液温70℃、濃度3%の硝酸水溶液中に浸漬し、かつ電流密度10A/dm2の直流電流を600秒印加してピット拡大工程を行い、最後に脱Cl処理として液温50℃、濃度10%の硝酸水溶液中で1分間洗浄してエッチングされた陽極箔を作製した。
【0032】(実施例2)上記実施例1において、第1の中間処理で用いた塩酸の代わりに液温70℃、濃度10%の硝酸水溶液を用い、第2の中間処理で用いた硫酸の代わりに液温50℃、濃度1%のリン酸水溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてエッチングされた陽極箔を作製した。
【0033】(実施例3)上記実施例1において、第1の中間処理で用いた塩酸の代わりに液温50℃、濃度2%の弗酸を用い、第2の中間処理で用いた硫酸の代わりに液温70℃、濃度3%のほう酸水溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてエッチングされた陽極箔を作製した。
【0034】(実施例4)上記実施例1において、第2の中間処理で用いた硫酸の代わりに液温60℃、濃度2%のクロム酸水溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてエッチングされた陽極箔を作製した。
【0035】(実施例5)上記実施例1において、第2の中間処理で用いた硫酸の代わりに液温50℃、濃度3%のクエン酸水溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてエッチングされた陽極箔を作製した。
【0036】(実施例6)上記実施例1において、第2の中間処理で用いた硫酸の代わりに液温70℃、濃度4%のシュウ酸水溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてエッチングされた陽極箔を作製した。
【0037】(実施例7)上記実施例1において、第2の中間処理で用いた硫酸の代わりに液温80℃、濃度5%のマロン酸水溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてエッチングされた陽極箔を作製した。
【0038】(実施例8)上記実施例1において、第2の中間処理で用いた硫酸の代わりに液温90℃、濃度5%のコハク酸水溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてエッチングされた陽極箔を作製した。
【0039】(比較例)上記実施例1において、第1の中間処理と第2の中間処理を実施しないようにしてエッチングされた陽極箔を作製した。
【0040】上記した本発明の実施例1〜8および比較例のエッチングされた陽極箔について、液温90℃、濃度8%のほう酸水溶液中で500V化成を行い、それらの各試料について静電容量と折曲げ強度(φ1.0mm、50g荷重、折曲げ角度90度の条件下で1往復を1回とする)を測定した。その結果を(表1)に示す。
【0041】
【表1】


【0042】(表1)から明らかなように、本発明の実施例1〜4による陽極箔は、第2の中間処理に無機酸水溶液を用いることにより、比較例と比べて静電容量が高く機械的強度も強い陽極箔を得ることができる。
【0043】また、上記実施例5〜8による陽極箔は、第2の中間処理に有機酸水溶液を用いても、比較例と比べて静電容量が高く機械的強度も強い陽極箔を得ることができる。
【0044】
【発明の効果】以上のように本発明のアルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法によれば、アルミニウム箔を電解エッチングしてピットを生成させる前段エッチング工程と、上記前段エッチング工程により生成されたピットを拡大する後段エッチング工程とからなるアルミ電解コンデンサ用電極箔の製造方法であって、前段エッチング工程と後段エッチング工程の間に、アルミニウム箔の表面の皮膜を溶解させる酸性水溶液に浸漬する第1の中間処理工程と、アルミニウム箔の表面に皮膜を生成させる水溶液に浸漬する第2の中間処理工程を設けた製造方法としたもので、この方法により、第1の中間処理としてアルミニウム箔の表面の皮膜を溶解する酸性水溶液中に浸漬することにより、前段エッチング工程後のアルミニウム箔の表面の不均一の皮膜が除去され、アルミニウム箔の表面を活性化することができる。その後、第2の中間処理によって活性化したアルミニウム箔の表面に均一な皮膜を生成することができるものである。この皮膜により、引き続き行う後段エッチング工程においてアルミニウム箔の表面の溶解を阻害することができるため、ピットの壁面が優先的にエッチングされ、効率よくピット径を拡大することができることから、機械的強度が強くて、単位面積当たりの静電容量の高い電極箔を得ることができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルミニウム箔を電解エッチングしてピットを生成させる前段エッチング工程と、上記前段エッチング工程により生成されたピットを拡大する後段エッチング工程とからなるアルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法であって、前段エッチング工程と後段エッチング工程の間に、アルミニウム箔の表面の皮膜を溶解させる酸性水溶液に浸漬する第1の中間処理工程と、アルミニウム箔の表面に皮膜を生成させる水溶液に浸漬する第2の中間処理工程を設けたアルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法。
【請求項2】 第1の中間処理工程が塩酸、フッ酸、硝酸のうちから選択された少なくとも1種類の酸性水溶液を用いて行う請求項1に記載のアルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法。
【請求項3】 第2の中間処理工程が硫酸、クロム酸、リン酸、ほう酸のうちから選択された少なくとも1種類の無機酸水溶液またはシュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸のうちから選択された少なくとも1種類の有機酸水溶液を用いて行う請求項1に記載のアルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法。

【公開番号】特開2001−297950(P2001−297950A)
【公開日】平成13年10月26日(2001.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−114884(P2000−114884)
【出願日】平成12年4月17日(2000.4.17)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】