説明

アレーアンテナ

【課題】プリント基板の製造後であっても、アンテナ素子毎の受信ウェイトを容易に変更することが可能なアレーアンテナを提供する。
【解決手段】本発明に係るアレーアンテナは、プリント基板を用いて形成される。抵抗13−1〜13−8は、基板の表面に実装される。このアレーアンテナでは、LNA12−1〜12−8へ供給されるドレイン電圧に抵抗13−1〜13−8を負荷し、状況に応じてこの抵抗13−1〜13−8を異なる抵抗値を有する抵抗に置き換えることで、受信電力にかかる受信ウェイトを制御する。これにより、アレーアンテナの使用態様に応じて、容易に抵抗を交換することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば通信又はレーダ等に用いられるアレーアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アダプティブアレーアンテナでは、各アンテナ素子で受信された信号の振幅と位相とを電波環境に応じてそれぞれ制御してサイドローブレベルを変化させる。これにより、空間的に不要波を抑圧するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、近年、アンテナ素子がプリント基板上に形成された平面状のアレーアンテナが広く用いられている。この種のアレーアンテナでは、アンテナ素子のサイドローブで受信された不要信号を低減するため、各アンテナ素子からの受信電力にそれぞれ個別の受信ウェイトをかけた後に、これらの受信電力を合成するようにしている。従来のアレーアンテナでは、受信電力を伝送するパターン配線の幅をアレーアンテナの使用に応じて変化させることで、各アンテナ素子からの受信電力毎に個別の受信ウェイトをかけるようにしていた。
【0004】
しかしながら、パターン配線の幅をアレーアンテナの使用に応じて変化させる方法では、基板製造後にこのパターン幅を再調整することは困難であった。そのため、使用環境の変化により、アンテナ素子毎にかけられる受信ウェイトを事後的に変更する旨の要求があった場合、新たなアレーアンテナを作成しなければならないという問題があった。
【特許文献1】特開昭63−166304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、従来の平面状のアレーアンテナでは、プリント基板の製造後にアンテナ素子毎の受信ウェイトを変更しようとする場合、新たなアレーアンテナを作成しなければならず、大きな負担となっていた。
【0006】
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、プリント基板の製造後であっても、アンテナ素子毎の受信ウェイトを容易に変更することが可能なアレーアンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るアレーアンテナは、基板上に形成され、無線信号を互いに独立した系統で受信する複数のアンテナ素子と、前記複数のアンテナ素子で受信された複数系統の受信信号それぞれに対して受信ウェイトをかけるものであり、前記複数系統毎に前記基板表面に実装される抵抗を備え、前記複数の抵抗のうち少なくともいずれかの抵抗値を変化させることでこの抵抗が設置された系統の受信信号にかかる前記受信ウェイトを変化させる受信ウェイト手段と、前記受信ウェイトがそれぞれかけられた複数系統の受信信号を合成する合成手段とを具備する。
【0008】
上記構成によるアレーアンテナでは、基板表面に実装された抵抗の抵抗値を変化させることにより、複数のアンテナ素子で受信された複数系統の受信信号にかかる受信ウェイトを制御するようにしている。これにより、アレーアンテナの使用態様に応じて、抵抗の抵抗値を容易に変化させることが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、プリント基板の製造後であっても、アンテナ素子毎の受信ウェイトを容易に変更することが可能なアレーアンテナを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明に係るアレーアンテナの実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るアレーアンテナの機能構成を示すブロック図である。図1に示すアレーアンテナは、積層基板を用いた薄型形状をしており、アンテナ素子11−1〜11−8、LNA(Low Noise Amplifier)12−1〜12−8、チップ抵抗13−1〜13−8及び合成部14を具備する。各アンテナ素子11−1〜11−8はLNA12−1〜12−8のそれぞれと接続する。各LNA12−1〜12−8の電源供給端子への給電パターンには抵抗13−1〜13−8がそれぞれ接続され、抵抗13−1〜13−8は積層基板の表面に実装されている。LNA12−1〜12−8は合成部14と接続する。
【0012】
アンテナ素子11−1〜11−8は、無線信号を互いに独立して受信し、その受信電力をLNA12−1〜12−8へ出力する。LNA12−1〜12−8は、高利得かつ良S/N比の特性を有しており、アンテナ素子11−1〜11−8からの受信電力をそれぞれ増幅する。このとき、LNA12−1〜12−8の増幅利得は、LNA12−1〜12−8の電源供給端子への供給電圧を操作することで変化させることが可能である。これにより、受信電力の系統毎に受信電力へかかる受信ウェイトが変化することになる。
【0013】
合成部14は、例えばウィルキンソン回路から成り、LNA12−1〜12−8で増幅された信号を合成して後段へ出力する。抵抗13−1〜13−8は、LNA12−1〜12−8の電源供給端末へ供給されるドレイン電圧に対して負荷される。抵抗13−1〜13−8は、基板表面に実装されているため、状況に応じて異なる抵抗値のものに取り替えることが容易である。
【0014】
以下、抵抗13−1を例に、抵抗13−1〜13−8を抵抗値の異なる抵抗に取り替えることで受信電力にかかる受信ウェイトを制御する原理について詳細に説明する。
【0015】
抵抗13−1への入力電圧Vi1と、抵抗13−1からの出力電圧Vo1との関係は、
Vo1=Vi1−R1×I1
である。ここで、R1は抵抗13−1の抵抗値、I1は抵抗13−1に流れる電流である。つまり、出力電圧Vo1は、抵抗値R1に応じて変化する。
【0016】
本発明においては、LNAの特性上、抵抗13−1〜13−8に流れる電流I1〜I8はそれぞれ等しい。このため、LNA12−1〜12−8の電源供給端子へ供給されるドレイン電圧Vd1〜Vd8は、抵抗13−1〜13−8の抵抗値R1〜R8を変化させることにより、制御されることとなる。
【0017】
一般に、LNA12−1〜12−8の増幅利得G1〜G8とドレイン電圧Vd1〜Vd8との関係は、所定の範囲の電圧値において比例関係にあることが知られている。そのため、増幅利得G1〜G8は、電源供給端子に供給されるドレイン電圧Vd1〜Vd8を変化させることにより、制御されることとなる。
【0018】
アンテナ素子11−1〜11−8からの受信電力P1〜P8は、LNA12−1〜12−8により増幅利得G1〜G8でそれぞれ増幅されることにより、受信ウェイトw1〜w8がかけられる。受信ウェイトw1〜w8は、LNA12−1〜12−8の増幅利得G1〜G8が変化すると、その量が変化する比例関係にある。つまり、受信ウェイトw1〜w8は、増幅利得G1〜G8を変化させることで、制御可能である。図2は、受信ウェイトw1〜w8の分布図の一例を示す図である。抵抗13−1〜13−8の抵抗値R1〜R8は、抵抗13−1〜13−4では順に小さくなり、抵抗13−5〜13−8では順に大きくなるようになっている。合成部14からは、以下の式で示される合成電力Pが出力される。
【0019】
P=w1P1+w2P2+…+w8P8
次に、抵抗13−1を例に抵抗13−1〜13−8の実装について詳細に説明する。
【0020】
図3は、4層の導体層が誘電体層を介して積層されてなる積層基板に抵抗13−1が実装される例を示す模式図である。図3において、基板表面には抵抗を実装するための実装パットが設けられ、そこに抵抗13−1が実装されるようになっている。
【0021】
電源から供給される電圧は、上から2層目に位置するストリップ線路パターンにより伝搬され、スルーホールを介して抵抗13−1へ供給される。電圧は、抵抗13−1が負荷された後、スルーホールを介して上から2層目に位置するストリップ線路パターンにより伝搬され、LNA12−1の電源供給端子へ供給される。
【0022】
以上のように、上記第1の実施形態では、LNA12−1〜12−8へ供給されるドレイン電圧に抵抗13−1〜13−8を負荷し、状況に応じてこの抵抗13−1〜13−8を異なる抵抗値を有する抵抗に置き換えることで、受信電力にかかる受信ウェイトを制御するようにしている。また、これらの抵抗13−1〜13−8は、基板の表面に実装されるようになっている。これにより、アレーアンテナの使用態様に応じて、容易に抵抗を交換することが可能となる。
【0023】
したがって、本発明に係るアレーアンテナでは、プリント基板の製造後であっても、アンテナ素子毎の受信ウェイトを容易に変更することができる。
【0024】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係るアレーアンテナの機能構成を示すブロック図である。図4に示すアレーアンテナは、積層基板を用いた薄型形状をしており、アンテナ素子21−1〜21−8、LNA22−1〜22−8、抵抗23−1〜23−8及び合成部24を具備する。各アンテナ素子21−1〜21−8はLNA22−1〜22−8のそれぞれと接続する。抵抗23−1〜23−8は、LNA22−1〜22−8と合成部24との間にそれぞれ配置され、積層基板の表面に実装される。
【0025】
アンテナ素子21−1〜21−8は、無線信号を互いに独立して受信し、その受信電力をLNA22−1〜22−8へ出力する。LNA22−1〜22−8は、高利得かつ良S/N比の特性を有しており、アンテナ素子21−1〜21−8からの受信電力をそれぞれ増幅する。抵抗23−1〜23−8はLNA22−1〜22−8で増幅された受信電力に対して負荷され、合成部24は抵抗23−1〜23−8で減衰された受信電力を合成して後段へ出力する。アレーアンテナは、抵抗23−1〜23−8の抵抗値を変化させて受信電力の減衰量を変化させることで、受信電力へかかる受信ウェイトを系統毎に変化させる。
【0026】
以下、抵抗23−1〜23−8を抵抗値の異なる抵抗に取り替えることで受信電力にかかる受信ウェイトを制御する原理について詳細に説明する。
【0027】
一般に電力に抵抗を負荷した場合、その電力値は、減衰することが知られている。アンテナ素子21−1〜21−8からの受信電力P1〜P8は、LNA12−1〜12−8でそれぞれ増幅された後、抵抗23−1〜23−8が負荷される。このとき、受信電力には、抵抗23−1〜23−8でその電力値を減衰させることで、受信ウェイトw1〜w8がかけられる。受信ウェイトw1〜w8は、抵抗23−1〜23−8による減衰量α1〜α8と同一の値とすることができるため、受信ウェイトw1〜w8は、減衰量α1〜α8を変化させることで、制御されることとなる。合成部24からは、以下の式で示される合成電力Pが出力される。
【0028】
P=w1P1+w2P2+…+wnPn
次に、抵抗23−1を例に抵抗23−1〜23−8の実装について詳細に説明する。
【0029】
図5は、4層の導体層が誘電体層を介して積層されてなる積層基板に抵抗23−1が実装される例を示す模式図である。図5において、基板表面には抵抗を実装するための実装パットが設けられ、そこに抵抗23−1が実装されるようになっている。
【0030】
LNA22−1から供給された電力は、上から2層目に位置するストリップ線路パターンにより伝搬され、スルーホールを介して抵抗23−1へ供給される。電力は、抵抗13−1から出力された後、スルーホールを介して上から2層目に位置するストリップ線路パターンにより伝搬され、合成部24へ供給される。
【0031】
以上のように、上記第2の実施形態では、合成部24へ供給される電力に対して抵抗23−1〜23−8を負荷し、状況に応じてこの抵抗23−1〜23−8を異なる抵抗値を有する抵抗に置き換えることで、受信電力にかかる受信ウェイトを制御するようにしている。また、これらの抵抗23−1〜23−8は、基板の表面に実装されるようになっている。これにより、アレーアンテナの使用態様に応じて、容易に抵抗を交換することが可能となる。
【0032】
したがって、本発明に係るアレーアンテナでは、プリント基板の製造後であっても、アンテナ素子毎の受信ウェイトを容易に変更することができる。
【0033】
なお、この発明は上記第2の実施形態に限定されるものではない。例えば、上記第2の実施形態では、アンテナ素子21−1〜21−8からの受信電力をLNA22−1〜22−8により増幅した後、抵抗23−1〜23−8へ出力する例について説明したが、LNA22−1〜22−8が必ずしも必要なわけではない。このとき、アンテナ素子21−1〜21−8からの受信電力を抵抗23−1〜23−8へ直接出力する場合であっても同様に実施可能である。
【0034】
また、上記第2の実施形態では、抵抗23−1〜23−8を実装する例について説明しているが、抵抗23−1〜23−8の代わりにアッテネータを実装する場合であっても同様に実施可能である。このとき、アッテネータの減衰値を変化させることにより、受信電力にかかる受信ウェイトを制御することとなる。
【0035】
(その他の実施形態)
なお、この発明は上記各実施形態に限定されるものではない。例えば上記各実施形態では、8個のアンテナ素子が設置される例について説明したが、8個に限定されるわけではない。
【0036】
また、上記各実施形態では、積層基板を用いてアレーアンテナを形成する例について説明したが、本発明は積層基板を用いて形成されたアレーアンテナに限定されるものではない。
【0037】
さらに、この発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るアレーアンテナの機能構成を示すブロック図である。
【図2】図1のLNAによる受信ウェイトの分布図を示す図である。
【図3】図1の抵抗の実装例を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るアレーアンテナの機能構成を示すブロック図である。
【図5】図4の抵抗の実装例を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
11−1〜11−8…アンテナ素子
12−1〜12−8…LNA
13−1〜13−8…抵抗
14…合成部
21−1〜21−8…アンテナ素子
22−1〜22−8…LNA
23−1〜23−8…抵抗
24…合成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成され、無線信号を互いに独立した系統で受信する複数のアンテナ素子と、
前記複数のアンテナ素子で受信された複数系統の受信信号それぞれに対して受信ウェイトをかけるものであり、前記複数系統毎に前記基板表面に実装される抵抗を備え、前記複数の抵抗のうち少なくともいずれかの抵抗値を変化させることでこの抵抗が設置された系統の受信信号にかかる前記受信ウェイトを変化させる受信ウェイト手段と、
前記受信ウェイトがそれぞれかけられた複数系統の受信信号を合成する合成手段と
を具備することを特徴とするアレーアンテナ。
【請求項2】
前記受信ウェイト手段は、
前記複数のアンテナ素子で受信された複数系統の受信信号それぞれを増幅して出力するものであり、電源供給端子から供給されるドレイン電圧に応じて前記受信信号の増幅量を決定する複数の電力増幅器をさらに備え、
前記複数の抵抗は、同系統の前記電力増幅器に供給されるドレイン電圧に対して負荷されることを特徴とする請求項1記載のアレーアンテナ。
【請求項3】
前記複数の抵抗は、同系統の前記アンテナ素子で受信された受信信号に負荷されることを特徴とする請求項1記載のアレーアンテナ。
【請求項4】
前記受信ウェイト手段は、
前記複数のアンテナ素子で受信された複数系統の受信信号それぞれを増幅して出力する複数の電力増幅器をさらに備え、
前記複数の抵抗は、同系統の前記電力増幅器で増幅されて出力された受信信号に負荷されることを特徴とする請求項1記載のアレーアンテナ。
【請求項5】
前記複数の抵抗は、着脱自在であることを特徴とする請求項1記載のアレーアンテナ。
【請求項6】
基板上に形成され、無線信号を互いに独立した系統で受信する複数のアンテナ素子と、
前記複数のアンテナ素子で受信された複数系統の受信信号それぞれに対して受信ウェイトをかけるものであり、前記複数系統毎に前記基板表面に実装される減衰器を備え、前記複数の減衰器のうち少なくともいずれかの減衰値を変化させることでこの減衰器が設置された系統の受信信号にかかる前記受信ウェイトを変化させる受信ウェイト手段と、
前記受信ウェイトがそれぞれかけられた複数系統の受信信号を合成する合成手段と
を具備することを特徴とするアレーアンテナ。
【請求項7】
前記複数の減衰器は、同系統の前記アンテナ素子で受信された受信信号に負荷されることを特徴とする請求項6記載のアレーアンテナ。
【請求項8】
前記受信ウェイト手段は、
前記複数のアンテナ素子で受信された複数系統の受信信号それぞれを増幅して出力する複数の電力増幅器をさらに備え、
前記複数の減衰器は、同系統の前記電力増幅器で増幅されて出力された受信信号に負荷されることを特徴とする請求項6記載のアレーアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−161475(P2010−161475A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−938(P2009−938)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】