説明

アンジオテンシン受容体アンタゴニスト/ブロッカーおよび中性エンドペプチダーゼ(NEP)阻害剤の超構造に基づく二作用性医薬組成物

超分子複合体を含む医薬組成物の固体経口投与形態、特に錠剤が、直接圧縮法またはコンパクションプレス、例えばローラーコンパクションにより形成できる。かかる固体経口投与形態は、治療剤の速い放出を可能にする即時放出型プロファイルを特徴とする。特に有用な超分子複合体は、トリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、治療剤、例えばLCZ696を含む、固体経口投与形態に関する。かかる医薬組成物は、固体経口投与形態を形成するための直接圧縮またはコンパクション法のような乾燥製剤法により製造し得る。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
アンギオテンシンIIは、高血圧および心臓への負担をもたらし得る血管の収縮を引き起こすホルモンである。このホルモンは、標的細胞表面上の特異的受容体と相互作用する。アンギオテンシンIIの2種の受容体サブタイプ、例えば、AT1およびAT2が現在までに同定されている。最近、AT1受容体に結合する物質を同定するために大きな労力が払われている。アンギオテンシン受容体ブロッカー(ARB、アンギオテンシンIIアンタゴニスト)は、アンギオテンシンIIが血管壁におけるその受容体と結合するのを阻止し、それにより血圧を下げる。AT1受容体の阻害のために、かかるアンタゴニストは、従って、他の適応症の中で、とりわけ抗高血圧剤としてまたは鬱血性心不全の処置のために使用できる。
【0003】
中性エンドペプチダーゼ(EC3.4.24.11;エンケファリナーゼ;アトリオペプチダーゼ;NEP)は、疎水性残基のアミノ側鎖上の種々のペプチド基質を開裂する亜鉛含有メタロプロテアーゼである[Pharmacol Rev, Vol. 45, p. 87 (1993)参照]。この酵素の基質は、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP、ANFとしても既知)、脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、met−およびleu−エンケファリン、ブラジキニン、ニューロキニンA、エンドセリン−1およびサブスタンスPを含み、これらに限定されない。ANPは強力な血管弛緩剤およびナトリウム利尿剤である[J Hypertens, Vol. 19, p. 1923 (2001)参照]。正常対象へのANPの注入は、ナトリウム排泄分画、尿流率および糸球体濾過率の増加を含む、ナトリウム利尿および利尿の再現性のある、顕著な増加を引き起こす[J Clin Pharmacol, Vol. 27, p. 927 (1987)参照]。しかしながら、ANPは循環中で半減期が短く、そして腎臓皮質膜におけるNEPが、このペプチドの分解を担う主酵素であることが示されている[Peptides, Vol. 9, p. 173 (1988)参照]。故に、NEP阻害剤(中性エンドペプチダーゼ阻害剤、NEPi)は、ANPの血漿レベルを上昇させるはずであり、それ故に、ナトリウム利尿および利尿剤効果を誘発することが期待される。
【0004】
アンギオテンシン受容体ブロッカーおよび中性エンドペプチダーゼ阻害剤のような物質は高血圧の管理に有用であり得るが、本態性高血圧は多因子疾患であり、単剤療法では必ずしも適切に管理されるとは限らない。2000年に先進国で約3億3300万人の成人が、そして米国で約6500万人(成人の1/3)が高血圧を有していた[Lancet, Vol. 365, p. 217 (2005);およびHypertension, Vol. 44, p. 398 (2004)参照]。長期のそして制御されない高血圧血管疾患は、最終的に、心臓および腎臓のような標的臓器における種々の病理学的変化に至る。持続した高血圧は、同時に卒中の発生率の増加ももたらし得る。
【0005】
二作用性化合物または組み合わせ、特に異なる作用機序の2種の活性剤の超分子複合体、または異なる作用機序の2種の活性剤、すなわちアンギオテンシン受容体アンタゴニストおよび中性エンドペプチダーゼ阻害剤の結合したプロドラッグまたは特に超分子複合体が、2005年11月9日出願の米国特許出願60/735,093;2005年11月10日出願の米国特許出願60/735,541;2006年4月4日出願の米国特許出願60/789,332;および2006年8月11日出願の米国特許出願60/822,086、および国際公開WO2007/056546に記載されており、これらをその全体を引用により本明細書に包含させる。かかる超分子複合体は、種々の心血管および/または腎臓疾患の患者の処置に使用し得る。
【0006】
特に有用な治療剤は、LCZ696とも呼ばれる超分子複合体、トリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物である。
【0007】
かかる超分子複合体を、該化合物の治療的利益を、それを必要とする患者にもたらすことができるように、医薬組成物、特に固体経口投与形態に製剤する必要がある。本発明の目的は、患者が摂取できる固体経口投与形態の例を提供することである。
【0008】
錠剤は19世紀後半から広く使用されており、大多数の固体経口投与形態が錠剤として市販されている。投与形態として錠剤が普及した主な理由は、単純さ、低価格および製造速度である。他の理由は、医薬品の安定性、包装、輸送および分配の簡便さを含む。患者にとって、錠剤は投与の容易性、正確な投与量の容易性、小ささ、携帯しやすさ、および味のなさを提供する。故に、治療剤の錠剤製剤を提供することが、本発明の他の目的である。
【0009】
超分子複合体のような二作用性化合物の製剤は、典型的製剤技術が、医薬物質に負の影響を有し、例えば、無定形の増加および/または二作用性化合物の成分の解離に至る可能性があるため、簡単なことではない。一般に、製剤中に治療剤が湿気、過度の熱および/または高剪断力に曝されることを避けるべきである。これは、取り組むべき多くの製剤の問題および困難さをもたらし得る。
【発明の概要】
【0010】
発明の概要
本発明は、治療剤、特に超分子複合体を含む医薬化合物のための固体経口投与形態に関する。本発明の一つの局面において、特筆すべき超分子複合体は、二作用性化合物である。二作用性化合物または組み合わせは、異なる作用機序の2種の活性剤の超分子複合体、または結合したプロドラッグまたは、特に異なる作用機序の2種の活性剤、すなわちアンギオテンシン受容体アンタゴニストおよび中性エンドペプチダーゼ阻害剤の超分子複合体である。本発明の他の局面において、特筆すべき超分子複合体は、トリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物である。かかる製剤で、2成分バルサルタンおよびN−(3−カルボキシ−1−オキソプロピル)−(4S)−p−フェニルフェニルメチル)−4−アミノ−2R−メチル酪酸エチルエステル単独で見られるものと、非常に異なる放出プロファイルが見られることが判明した。特に、本製剤は、バルサルタンよりも良好な暴露および故にバイオアベイラビリティを提供する。これらの予期されない利点は、新規で低投与量の治療剤の医薬組成物を製造する可能性を提供する。治療剤、特に超分子複合体を含む医薬製剤は、直接圧縮またはローラーコンパクション方法のような乾燥製剤方法により製造してよい。故に、本発明の他の局面は、治療剤と少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を混合し、続いて、該混合物を適当な装置、例えば打錠機で直接圧縮するか、該混合物を適当な装置、例えばローラーコンパクターで圧縮成型(compacting)することにより製造される、固体経口投与形態である。
【0011】
図面の簡単な説明
本明細書に包含させ、明細書の部分を成す添付の図面は、本発明の例示的態様を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】超分子複合体トリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物の5mgおよび50mgの直接圧縮した錠剤のインビトロ溶解プロファイルを記載するチャートを示す。
【図2】超分子複合体トリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物の100、200および400mgのローラー圧縮成型した(compacted)コーティング錠のpH6.8でのインビトロ溶解プロファイルを記載するチャートを示す。
【図3】超分子複合体トリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物の400mgのローラー圧縮成型したコーティング錠のpH4.5でのインビトロ溶解プロファイルを記載するチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な記載
本発明は、治療剤を含む医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は、薬学的に許容される錠剤に至る直接圧縮、または好ましくはローラーコンパクションプレスにより製造できる。
【0014】
ここで使用する、用語“治療剤”は、下記の単純化した図に示す、超分子複合体、トリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物を意味する:
【化1】

【0015】
上記治療剤は、アンギオテンシン受容体アンタゴニスト、中性エンドペプチダーゼ阻害剤(NEPi)およびカチオン、すなわち、Naを含む。この治療剤はWO2007/056546にその製造およびその特性に関して完全に記載されている。この治療剤は、同時に異なる2種の、すなわち、一方は本化合物のARB分子部分に起因するアンギオテンシン受容体遮断、そして他方は本化合物のNEPi分子部分に起因する中性エンドペプチダーゼ阻害である、作用機序を有する化合物を述べることを意図する“二作用性化合物”である。本治療剤は、医薬組成物中に、組成物の約4〜約90重量%、例えば4〜60重量%の範囲で存在し得る。
【0016】
ここで使用する用語、“超分子複合体”は、2個の薬学的活性剤、カチオンおよび任意の他の物体、例えば溶媒、特に水の、それらの間の非共有結合性の、分子間結合の手段による相互作用を説明することを意図する。この相互作用は、この複合体を複数化学種の物理的混合物と区別する、超分子複合体に存在する複数種の会合に至る。
【0017】
ここで使用する用語“医薬組成物”は、例えば、キナーゼ依存性疾患を処置するために、哺乳動物、例えば、ヒトに投与すべき、薬学的に許容される担体中に治療的有効量の治療的化合物を含む混合物を意味する。本発明によりもたらされる特に有用な医薬組成物は、薬学的に許容される錠剤である。
【0018】
ここで使用する用語“薬学的に許容される”は、合理的な医学的判断の範囲内で、合理的な利益/危険比にした、過度の毒性、刺激、アレルギー反応および他の問題となる合併症なしに、哺乳動物、特にヒトの組織と接触させるのに適当な、化合物、物質、組成物および/または投与形態を意味する。薬学的に許容される錠剤に関して、本用語はまた許容されるインビトロ溶解プロファイルも包含する。
【0019】
医薬組成物中の治療剤の濃度は、治療剤の吸収、不活性化および排出速度、ならびに当業者に既知の他の因子に依存する治療的有効量で存在する。さらに、投与量は、軽減すべき状態の重症度によっても変わることは注意すべきである。さらに、任意の特定の受け手にとって、特異的投与レジメンを、個々の要求に、および医薬組成物を投与するまたは投与を監督する者の専門的判断に従い経時的に調節すべきであることは理解されるべきである。治療的化合物は1回投与してよく、または、種々の間隔で投与される少量の多くの投与量に分割してよい。故に、適当な治療的有効量は当業者に既知である。
【0020】
例えば、治療剤の単位投与量は、1日あたり約1〜約1000、例えば40〜400mg(例えば、100mg、200mg、400mg)の範囲である。あるいはより少ない用量、例えば1日あたり0.5〜100mg;0.5〜50mg;または0.5〜20mgを与えてもよい。本出願において、バルサルタン成分を、超分子複合体のような二作用性化合物の形で投与したとき、バルサルタン自体よりも暴露が大きく、故に、バイオアベイラビリティが高いことが予期せぬことに判明した。それ故に、バルサルタン成分に関して投与量を減らすことが可能である。具体的に、Diovan(登録商標)製剤でのバルサルタンの典型的投与量は80mg、160mg、および320mgである。非常に類似した分子量を有する成分バルサルタンおよびN−(3−カルボキシ−1−オキソプロピル)−(4S)−p−フェニルフェニルメチル)−4−アミノ−2R−メチル酪酸エチルエステルを1:1非で含む超分子複合体のような二作用性化合物を考えると、本二作用性化合物の100mg、200mgおよび400mg投与量は、暴露に基づいて、Diovan(登録商標)製剤のバルサルタン単独投与量の80mg、160mgおよび320mgにそれぞれ相当することは予測できなかった。
【0021】
ここで使用する用語“即時放出型”は、治療的化合物の大部分、例えば、約50%以上、約55%以上、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、または約90%以上が、経口摂取後比較的短時間に、例えば、1時間、40分間、30分間または20分間以内に急速に放出されることを意味する。即時放出型の特に有用な条件は、治療的化合物の少なくとも約80%または約80%の、経口摂取後30分間以内の放出である。特異的治療的化合物の特定の即時放出型条件は、当業者に認識されているか、既知である。即時放出型プロファイルはインビトロ溶解試験から決定できる。
【0022】
ここで使用する用語“溶解”は、固体物質(ここでは活性成分)が、媒体中に分子形態で分散される工程を意味する。本発明の経口固定投与量組み合わせ薬剤の活性成分の溶解速度は、液体/固体界面、温度および溶媒組成物の標準条件下、単位時間あたりに溶液となる医薬物質の量により定義される。溶解速度は当業者に既知の方法で測定でき、薬局方USP<711>およびEP2.9.3およびJPに明示された協調された方法を参照のこと。本発明の目的で、個々の活性成分の溶解を測定するための試験を、薬局方USP<711>に従い、明記した通り、pH6.8でパドル撹拌素子を50rpm(回転/分)で使用して、あるいはpH4.5でパドル撹拌素子を75rpmで使用して行う。溶解媒体は、好ましくは緩衝液、典型的にリン酸緩衝液、特に実施例“溶解試験”に記載するものである。
【0023】
従って、本発明は、好ましくは治療的有効量のバルサルタン遊離酸、またはその薬学的に許容される塩を送達する固体経口投与形態を提供し、ここで、該経口投与形態は、USPパドル法により、約50rpmで900mLの0.05Mリン酸緩衝液でpH6.8で、37±0.5℃で測定したとき、10分後に平均約10%〜平均約100%(重量)のバルサルタン遊離酸、またはその薬学的に許容される塩が放出され、20分後に平均約30%〜平均約100%(重量)のバルサルタン遊離酸、またはその薬学的に許容される塩が放出され、30分後に平均約40%〜平均約100%(重量)のバルサルタン遊離酸、またはその薬学的に許容される塩が放出されるような、インビトロ溶解プロファイルを示す。
【0024】
さらに、本発明は、好ましくは、治療的有効量のバルサルタン遊離酸、またはその薬学的に許容される塩を送達する固体経口投与形態を提供し、ここで、該経口投与形態は、USPパドル法で1000mLのpH4.5のリン酸緩衝液中、37±0.5℃で約75rpmで測定したとき、10分後に平均約20%〜平均約100%(重量)のバルサルタン遊離酸、またはその薬学的に許容される塩が放出され、20分後に平均約30%〜平均約100%(重量)のバルサルタン遊離酸、またはその薬学的に許容される塩が放出され、30分後に平均約40%〜平均約100%(重量)のバルサルタン遊離酸、またはその薬学的に許容される塩が放出されるようなインビトロ溶解プロファイルを示す。
【0025】
本発明の一態様において、治療剤が約100mg/単位投与形態の量で存在し、そして、経口投与形態が、10分後に平均約50%のバルサルタン遊離酸が放出され、20分後に平均約85%のバルサルタン遊離酸が放出され、30分後に平均約95%のバルサルタン遊離酸が放出されるようなインビトロ溶解プロファイルを示す。他の態様において、治療剤が約200mg/単位投与形態の量で存在し、そして、経口投与形態が、10分後に平均約50%のバルサルタン遊離酸が放出され、20分後に平均約85%のバルサルタン遊離酸が放出され、30分後に平均約95%のバルサルタン遊離酸が放出されるようなインビトロ溶解プロファイルを示す。さらに他の態様において、治療剤が約400mg/単位投与形態の量で存在し、そして経口投与形態が、10分後に平均約40%のバルサルタン遊離酸が放出され、20分後に平均約70%のバルサルタン遊離酸が放出され、30分後に平均約90%のバルサルタン遊離酸が放出されるようなインビトロ溶解プロファイルを示す。
【0026】
投与すべき治療剤および特定の製剤の正確な投与量は、多くの因子、例えば、処置する状態、望む処置期間および活性剤の放出速度による。例えば、必要な活性剤の量およびその放出速度は、どの程度の時間血漿中の特定の活性剤濃度が治療効果のために許容されるレベルで残るかを測定する、既知のインビトロまたはインビボ技術を使用して決定し得る。
【0027】
驚くべきことに、バルサルタン遊離酸に関して本発明の固体経口投与形態で得られたPK/PDプロファイルは、バルサルタンのみを含む単剤製剤、特にDiovan(登録商標)製剤と非常に異なることが判明した。治療剤投与後のバルサルタン遊離酸のこの非常に明確で独特な薬物動態学的および薬力学プロファイルは、顕著に増強された経口バイオアベイラビリティ(〜1.4から1.6倍、特に1.6倍)を示し、そしてDiovan(登録商標)製剤(tmax約2.6時間)の形でのバルサルタン投与よりも速い効果の開始(tmax 1.8±0.3時間)の傾向があった。合わせて考えて、本発明の治療剤の投与形態のこの薬物動態学的および薬力学プロファイルは、心血管疾患の処置の改善のためのさらなる発展を支持する。
【0028】
従って、本発明は、治療的有効量のバルサルタン遊離酸、またはその薬学的に許容される塩、および担体媒体を送達する固体経口投与形態を提供し、ここで、該経口投与形態は、該投与形態の1投与量投与後に1〜2.2時間のtmaxでバルサルタン遊離酸の速い吸収速度を提供する。より具体的に、1.4〜2.0時間のtmaxを観察できる。これは、2.5〜4.0時間、より具体的に、2.8〜3.0時間のtmaxが観察されるDiovan(登録商標)の投与後のバルサルタンの吸収速度との明確な差異である。例えば、本発明は、約200mg トリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物、またはそれぞれの量のバルサルタン遊離酸、および担体媒体を含む固体経口投与形態を提供し、該投与形態は、該投与形態の1投与量投与後にバルサルタン遊離酸の1.5〜1.9時間のtmaxを提供する。
【0029】
さらに、本発明は、治療的有効量のバルサルタン遊離酸、またはその薬学的に許容される塩、および担体媒体を送達する固体経口投与形態を提供し、ここで、該経口投与形態は、該投与形態の1投与量投与後に、230〜400ng・時間/mL/mg等量の投与量正規化平均血漿暴露(AUC0−24)を提供する。より具体的に、270〜320ng・h/mL/mg等量の投与量正規化幾何平均暴露AUC0−24が観察できる。Diovan(登録商標)の形でのバルサルタン投与により観察される対応する暴露は、遙かに低い。結果として、本発明は、Diovan(登録商標)の形での投与後のバルサルタンと比較して、140〜185%、例えば150〜165%の平均相対的バイオアベイラビリティを有する、治療的有効量のバルサルタン遊離酸、またはその薬学的に許容される塩、および担体媒体を送達する固体経口投与形態を提供する。例えば、本発明は、約200mg トリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物、またはそれぞれの量のバルサルタン遊離酸、および担体媒体を含む固体経口投与形態を提供し、該投与形態は、該投与形態の1投与量投与後に、16,000〜18,000、例えば16,970ng・h/mLの平均血漿暴露(AUC0−24)を提供する。
【0030】
故に、本発明の固体経口投与形態で、Diovan(登録商標)よりも速い吸収速度だけでなく、より大きな程度の吸収を達成できる。これらの薬物動態学的特性は、バルサルタンのそれ自体の投与を超える治療的利点をもたらすことが期待される。
【0031】
上記の固体経口投与形態は、
バルサルタンまたはその塩および
(2R,4S)−5−ビフェニル4−イル−5−(3−カルボキシ−プロピオニルアミノ)−2−メチル−ペンタン酸または(2R,4S)−5−ビフェニル4−イル−5−(3−カルボキシ−プロピオニルアミノ)−2−メチル−ペンタン酸エチルエステルエチルエステルまたはその塩
の部分を含む。
【0032】
用語“部分”は、成分がそれ自体で存在するか、または好ましくは超分子複合体の形で存在することを意味する。最も好ましくは、本固体経口投与形態は、トリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物を含み、これは、両方の部が一つの二作用性分子または超分子複合体で存在することを意味する。
【0033】
ここで使用する用語“賦形剤”は、固体経口投与形態の製造に使用する薬学的に許容される不活性成分を意味する。賦形剤の種類の例は、結合剤、崩壊剤、平滑剤、流動促進剤、安定化剤、増量剤および希釈剤を含み、これに限定されない。賦形剤は医薬製剤の加工特性を増強でき、すなわち、製剤を、流動性および/または凝集性の増加により直接圧縮するのにより適切にする。
【0034】
ここで使用する、用語“直接圧縮”は、医薬製剤中の成分(すなわち、治療剤および賦形剤)を、治療剤の物理的および化学的特性を変えることなく直接圧縮する一般的な方法を意味する。薬学的に許容される賦形剤と共に粉末の形にある治療剤は、低剪断装置、例えばツイン・シェル・ブレンダー(twin shell blender)で混合する。次いで、混合した組成物をダイに入れ、パンチで直接圧縮する。打錠は、例えば、この圧縮工程により達成できる。直接圧縮法に有用な賦形剤は増量剤、結合剤、平滑剤および流動促進剤を含み、これらに限定されない。直接圧縮は、0.5mg〜200mgの治療剤の濃度を有する固体経口投与形態に特に適切である。
【0035】
ここで使用する、用語“コンパクション”は、錠剤を形成するための乾燥造粒の一般的な方法を意味する(例えば、スラッギング(slugging)またはローラーコンパクションによる)。治療剤および薬学的に許容される賦形剤をスラグ(スラッギングにおけるような)またはリボン(ローラーコンパクションにおけるような)に形作る。ローラーコンパクションプレスは、全ての空気を除くことにより粉末を緻密化する。次いで、緻密化された物質を均一な顆粒サイズまで小さくし、続いて圧縮する。ローラーコンパクションプレスにおける有用な賦形剤は、増量剤、結合剤、平滑剤、崩壊剤および流動促進剤を含み、これらに限定されない。ローラーコンパクションは、50〜800mgの治療剤の濃度を有する固体経口投与形態に特に適切である。
【0036】
ローラーコンパクションが、医薬物質の品質に妥協することなく、適当な錠剤サイズで治療剤を提供するための、高投与量のために特定の利点を提供する。特に、作用性化合物の過剰な無定形ならびに成分の分離を最小化でき、または防止できる。
【0037】
本発明の固体経口投与形態は、当該投与形態に通常の添加剤を含む。錠剤製剤において一般的に使用される打錠助剤(tabletting aid)を使用でき、この主題の広範な文献を参照でき、例えば、本明細書に引用により包含させるFiedler's “Lexicon der Hilfstoffe”, 4th Edition, ECV Aulendorf 1996を参照のこと。これらは崩壊剤、結合剤、平滑剤、流動促進剤、安定化剤、増量剤または希釈剤、界面活性剤などを含み、これらに限定されない。
【0038】
薬学的に許容される崩壊剤の例は、デンプン類;クレイ類;セルロース類;アルギネート類;ガム類;架橋ポリマー類、例えば、架橋ポリビニルピロリドンまたはクロスポビドン、例えば、International Specialty Products(Wayne, NJ)のPOLYPLASDONE XL;架橋ナトリウムカルボキシメチルセルロースまたはクロスカルメロースナトリウム、例えば、FMCのAC-DI-SOL;および架橋カルシウムカルボキシメチルセルロース;大豆ポリサッカライド類;およびグアーガム、最も好ましくは架橋ポリビニルピロリドンまたはクロスポビドンを含み、これらに限定されない。崩壊剤は、組成物(所望のコーティングをする前)の約0〜約65重量%;例えば、約1〜約40重量%;(例えば、約0.05〜約10重量%)の濃度で存在し得る。
【0039】
薬学的に許容される結合剤の例は、デンプン類;セルロース類およびその誘導体、例えば、微結晶性セルロース、例えば、FMC(Philadelphia, PA)からのAVICEL PH、ヒドロキシプロピルセルロース、特に低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、例えば5〜16重量%のヒドロキシプロピル含量および80000〜1150000、より具体的に140000〜850000のMwを有するヒドロキシプロピルセルロース、例えばLH21、ヒドロキシルエチルセルロースおよびDow Chemical Corp. (Midland, MI)からのヒドロキシルプロピルメチルセルロースMETHOCEL;スクロース;デキストロース;コーンシロップ;ポリサッカライド類;およびゼラチン、最も好ましくはセルロース類、例えばヒドロキシプロピルセルロース、特に低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含み、これらに限定されない。結合剤は、直接圧縮法を用いるならば組成物(所望のコーティングをする前)の約1〜約60重量%;例えば、5〜約40重量%、特に10〜約40重量%、またはローラーコンパクションを用いるならば組成物(所望のコーティングをする前)の5〜約30重量%の濃度で存在し得る。いくつかの賦形剤はまた崩壊剤とも見なされ得るが、本発明の目的で、これらは単に結合剤と見なす。
【0040】
薬学的に許容される増量剤および薬学的に許容される希釈剤の例は、粉砂糖、圧縮性糖、デキストレート類、デキストリン、デキストロース、ラクトース、マンニトール、微結晶性セルロース、特にセルロースMK GR、粉末化セルロース、ソルビトール、およびスクロース、特に微結晶性セルロースを含み、これらに限定されない。増量剤は、組成物(所望のコーティングをする前)の約4〜約60重量%;例えば約20〜約40重量%の濃度で存在し得る。
【0041】
薬学的に許容される平滑剤および薬学的に許容される流動促進剤の例は、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、デンプン類、タルク、三塩基性リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ポリエチレングリコール、粉末化セルロース、ベヘン酸グリセリル、ステアリン酸、水素化ヒマシ油、グリセリルモノステアレート、およびナトリウムステアリルフマレートを含み、これらに限定されない。流動促進剤は、0〜10%、例えば2%まで、例えば約0.1%(所望のコーティングをする前)の濃度で存在し得る。平滑剤は、0〜5%;例えば、約0.5%〜約5%(所望のコーティングをする前)の量で存在し得る。
【0042】
比較的少量の添加剤しか含まず、活性剤の高含量を可能とするのが、本発明の好ましい固体経口投与形態の特徴である。これは、物理的に小さい単位投与形態の製造を可能にする。ある単位投与量中の添加剤の総量は、固体経口投与形態(所望のコーティングをする前)の総重量に基づき、約65重量%以下、より具体的に約55重量%以下であり得る。好ましくは添加剤含量は、約35〜55重量%、より具体的に40〜45重量%の範囲である。
【0043】
各添加剤の絶対量および他の添加剤に対する相対的量は、同様に、固体経口投与形態の望む特性により、当業者はまた過度の負荷なく、日常的な実験により選択し得る。例えば、固体経口投与形態は、活性剤放出の量的管理を行い、または行わずに、活性剤の加速されたおよび/または遅延された放出を示し得る。
【0044】
故に、加速された放出、例えば10分以内、より具体的に5分間での約90%の放出が望まれるとき、例えば、特に1000000を超える分子量を有する、より具体的に400ミクロン未満または74ミクロン未満の粒子径分布を有する登録商標名Polyplasdone(登録商標)XLまたはKollidon(登録商標)CLとして既知である、架橋ポリビニルピロリドンのような、崩壊剤、または水存在下で錠剤の急速な崩壊をさせる反応性添加剤(起沸性混合物)、例えば、水中で塩基を含む化学的に結合した二酸化炭素、例えば炭酸水素ナトリウムまたは炭酸ナトリウムに働き、二酸化炭素を遊離する、固体形態の酸、典型的にクエン酸を含む、いわゆる発泡性錠剤を用い得る。
【0045】
一方で遅延放出が望まれるならば、当分野で一般的なペレットコーティング法、ワックスマトリックスシステム、ポリマーマトリックス錠剤またはポリマーコーティングを用い得る。
【0046】
活性剤の放出の量的管理は、当分野で既知の慣用技術により達成できる。かかる投与形態は、経口浸透系(OROS)、コーティング錠、マトリックス錠剤、プレスコーティング錠、多層錠剤などとして既知である。
【0047】
活性剤が、二作用性化合物トリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物の全体から成る固体経口投与形態において、好ましい添加剤は微結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、ステアリナ酸のMg塩、Ca塩またはAl塩、無水コロイド状シリカおよびタルクである。用いる添加剤の量は、どの程度活性剤を使用するかによる。ステアリン酸塩、例えばステアリン酸Mgは、好ましくは1.0〜6.0重量%、例えば1.5%〜4.0重量%(所望のコーティングをする前)の量で用いる。一方でシリカは、好ましくは0.1〜2重量%の量で用いる。微結晶性セルロースは、好ましくは10〜30%、例えば20〜21%の量で存在する。クロスポビドンは、好ましくは1〜20%、より好ましくは5〜15%、例えば8〜10%の量で存在する。
【0048】
本発明の固体経口投与形態は糖衣錠の形でよく、この場合、固体経口投与形態は、典型的に、当分野で完全に慣習的な糖、シェラックまたは他のフィルムコーティングを施されている。当分野で用いられているコーティングの多くの既知方法、例えば、Accela Cota法による穿孔パンにおける、Aeromatic、Glatt、WursterまたはHuettlinから入手可能な装置を使用した、例えば流動床での噴霧コーティング、またはサブマージド・スウォード・コーティング法(submerged sword coating method)に注意すべきである。糖衣に一般的に使用される添加剤をかかる方法において用いる。
【0049】
本発明は、その別の局面で、前記の固体経口投与形態の製造方法を提供する。かかる固体経口投与形態は、前記で定義した適当量の最終組成物を混ぜ合わせ、単位投与形態を形成することにより製造し得る。
【0050】
一つの態様において、前記の固体経口投与形態の製造方法であって、
(a) 二作用性化合物と少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を混合して混合物を形成させ;
(b) 該混合物を固体経口投与形態に直接圧縮する
工程を含む、方法を提供する。
【0051】
本発明のさらに好ましい態様は、二作用性化合物の高投与量のための、本発明の固体経口投与形態の製造方法である。かかる固体経口投与形態は、二作用性化合物と少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を混合して混合物を形成させ;該混合物を圧縮成型、例えばローラー圧縮成型し;所望によりさらなる薬学的に許容される賦形剤と混合し、そして所望により該最終混合物を固体経口投与形態に圧縮する工程を含む、方法により製造できる。
【0052】
より具体的に、該方法は
(a) 二作用性化合物および薬学的に許容される賦形剤を篩い、篩過物質を形成させ;
(b) 該篩過物質を混合して物質混合物を形成させ;
(c) 物質混合物を圧縮成型、例えばローラー圧縮成型して、圧縮成型物質を形成させ;
(d) 圧縮成型物質を粉砕して、顆粒と呼ぶ粉砕物質を形成させ;
(e) 所望により粉砕物質と外相、すなわち、薬学的に許容される賦形剤を混合して、最終混合物を形成させ;
(f) 所望により最終混合物を圧縮して、錠剤を形成させ、そして
(g) 所望によりフィルムコーティング錠を得るためにフィルミコーティングを適用する
工程を含む。
【0053】
本方法は、水の非存在下で行い、すなわち乾燥圧縮法である。相対的湿度は、好ましくは<55%である。温度は、好ましくは環境温度(20〜25℃)であるが、65℃まで、例えば40℃まで上げてよい。これらの条件は、治療剤の個々の成分へのまたは無定形への分解を避けるために好ましい。
【0054】
圧縮体(coprimate)を形成するためのコンパクションは、乾燥粉砕した成分のコンパクションを必要とする。コンパクションは、スラッギング技術または好ましくは、ローラーコンパクションを使用して行い得る。ローラーコンパクション装置は伝統的であり、本質的に互いに回転する2個のローラーを使用する。粉砕粒子に対する圧縮成型力を発揮するための一方のローラーの他方に対する水撃力(hydraulic ram force)を、スクリューコンベアシステムを通してローラーコンパクターに強熏する。20〜60kN、より好ましくは20〜40kNのコンパクション力を好ましくは使用する。この範囲のコンパクション力で、治療剤が個々の成分にまたは無定形にほどんと分解することなく、製剤できることが驚くべきことに判明した。特定の最適コンパクション力は、ある製剤中の活性剤含量により、それ故に、また存在する添加剤の量および性質にもよる。
【0055】
相対的に弱い非共有結合的力が治療剤の複数成分を一体化して維持しているにもかかわらず、上記製剤技術は、治療剤を完全なままにし、適当な固体経口投与形態の信頼できる製造方法を可能にする。
【0056】
次の実施例は説明的であり、ここに記載した本発明の範囲を限定するために提供するものではない。実施例は、本発明を実施する方法を示唆することしか意図しない。
【0057】
各実施例において使用する成分の量は、各々医薬組成物の重量パーセントで示すが、各記載の後に存在する各表に記載される。
【0058】
実施例1および2
この実施例の治療剤は、トリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物である。表1は、各々5mgおよび50mgの治療剤を有する実施例1および2の製剤について示す。
【表1】

【0059】
治療剤を、最初に40メッシュ篩を篩過させる。治療剤に微結晶性セルロースおよびクロスポビドンを添加し、混合物を20メッシュ篩を篩過させる。次いで、混合物をビン・ブレンダー中約100回転混合する。次いで、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよびコロイド状二酸化ケイ素をビン・ブレンダーに添加し、それをさらに100回転させる。次いでタルクを混合物に添加し、ビン混合する。最終添加はステアリン酸マグネシウムである。次いで、粉末化混合物を、実施例1については約115mgおよび実施例2については約575mg重量の錠剤に圧縮する。pH6.8でのこれらの実施例の溶解プロファイルを図1に示す。
【0060】
実施例3〜6
この実施例における治療剤はトリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物である。表2および3は、各々40mg、100mg、200mgおよび400mgの治療剤を有する実施例3〜6の製剤を示す。
【表2】

【表3】

【0061】
ステアリン酸マグネシウム、タルク、コロイド状二酸化ケイ素および微結晶性セルロースを、最初に30メッシュ篩を篩過させる。次いで上記混合物、治療剤、クロスポビドンおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを、ビン・ブレンダーで約120回転混合する。その後、得られた混合物を30メッシュ篩を篩過させる。次いで、篩過混合物を、ビン・ブレンダーで約120回転混合する。混合物を、ローラーコンパクターBEPEX 50を使用し、30kNのコンパクション力で圧縮成型する。コンパクション後、混合物を、Frewitt Oscillatorを使用して粉砕し、18メッシュ篩を篩過させて、最終内相または顆粒を得る。顆粒をクロスポビドンおよびタルク(外的賦形剤)と混合し、30メッシュ篩を篩過させ、ビン・ブレンダーで約50回転する。その後、得られた混合物をステアリン酸マグネシウム(外的賦形剤)と混合し、30メッシュ篩を篩過させ、ビン・ブレンダーで約50回転する。次いで、得られた最終混合物を、Fette 3090装置を使用して錠剤に圧縮する。Opadryコーティングポリマーを使用してコーティングを適用し、コーティング錠を得た。pH6.8での実施例3〜5の溶解プロファイルを図2に示し、pH4.5での実施例6の溶解プロファイルを図3に示す。
【0062】
実施例:溶解試験
実施例の錠剤を、900mlのpH6.8 リン酸緩衝液中の溶解について、50rpmのパドルを用いて試験する。
装置は次のものから成る:ガラス製または他の不活性、透明物質製の蓋付容器;モーター、および撹拌素子として刃およびシャフトから形成されたパドル。容器を、任意の通常のサイズの適当な水浴に一部分浸し、加熱ジャケットに入れる。水浴または加熱ジャケットは、試験中、容器内の温度を37±0.5°に維持し、浴液の一定で滑らかな動きを維持する。装置が置かれている環境を含み、環境のいかなる部分も、滑らかに回転している回転素子によるもの以上の顕著な動き、撹拌または震動を起こさない。試験中の試料および撹拌素子を可能にする装置は、次の寸法および容積を有する:高さは160mm〜210mmであり、その内径は98mm〜106mmである。その内側は、頂部でフランジが付いている。適合したカバーを使用して蒸発を遅らせてよい。シャフトは、その軸が容器の垂直軸のどこからも2mmを超えて離れず、著しいぐらつきなしで滑らかに回転するように配置する。刃の垂直中心線は、刃がシャフトの底と同一平面になるようにシャフトの軸を通る。パドルのデザインはUSP<711>、図2に示す。刃と容器の内底の間の25±2mmの距離を試験中維持する。金属製または適当な不活性の、硬い刃およびシャフトが一つの物体を構成する。適当な2部品脱着可能デザインも、この装置が試験中硬く組み合わさったままであるならば、使用できる。パドル刃およびシャフトを適当な不活性コーティングでコーティングしてよい。投与量単位を容器の底に沈め、その後刃の回転を開始させる。針金螺旋の数巻きを超えないような小さい、粗い不活性物質を、そうしなければ浮くならば、投与単位に付着してよい。他の有効な重り装置を使用してよい。
【0063】
pH6.8±0.05に調節した1Lの緩衝化水性溶液(6.805gのリン酸二水素カリウムおよび0.896gの水酸化ナトリウムを水に溶かし、1000mlに調節し、0.2M 水酸化ナトリウムまたは1M リン酸を使用してpHを6.80±0.05に調節することにより得た0.05M リン酸緩衝溶液;以後“溶解媒体と呼ぶ”)を、装置の容器に入れ、装置を組み立て、溶解媒体を37±0.5°に平衡化し、温度計を外す。1投与形態(例えば錠剤またはカプセル)を、投与形態単位の表面から気泡を除くことに気をつけながら装置に入れ、直ぐに装置を50+2rpmの速度で操作する。特定の間隔(例えば10、20、30、45、60、90および120分)、または記載した各時間に、試料(>1ml)を、溶解媒体の表面と、回転している刃の頂部の中間部分、容器壁から1cm以上である部分から取る。[注 − 分析用に取った一定量を37°で溶解媒体と置き換えるか、または媒体の置き換えが必要ではないことが示され得るならば、体積変化を計算で補正する。容器は試験の間中蓋をし、適当な時間に試験下の混合物の温度を確認する。]。試料を適当なフィルター、例えば0.45μm PVDFフィルター(Millipore)で濾過し、濾液の最初の数ml(2〜3ml)を捨てる。分析をHPLCまたはUV検出で行う。試験を少なくとも6回、さらなる投与形態単位で繰り返す。
【0064】
その溶解プロファイルを図1および図2に示す。90%を超える治療剤が、10分未満で実施例1および実施例2の錠剤両方の錠剤から放出され、70%を超える治療剤が、20分以内に実施例3〜5の錠剤で放出される。
【0065】
実施例の錠剤を、pH4.5で、上記の方法を、下記の修飾を加えて行うことによりまた試験できる:
pH4.5 リン酸緩衝溶液の製造を、13.61gのリン酸二水素カリウムを750mlの水に溶解し、必要であればpHを0.1M 水酸化ナトリウムまたは0.1M 塩酸で調節し、水で1000.0mlに希釈することにより達成する。
pH4.5での溶解試験条件:
条件
回転速度 75±3rpm
試験媒体 リン酸緩衝溶液 pH4.5
試験媒体体積 1000ml
【0066】
実施例6のpH4.5での溶解プロファイルを図3に示す。80%を超える治療剤が、実施例6の錠剤から20分未満で放出される。
【0067】
実施例:薬物動態学的パラメーターの測定
1) 5〜80mg投与量:
この試験を、FDA診査−INDガイダンスに基づき投与量を選択した、2期間、平行群、上行性一投与量(5、20、80mgのLCZ696および40mg Diovan(登録商標)(バルサルタンの市販製剤))、プラセボ対照設計を用いる。LCZ696の投与量は、上記の通り製造した、5mgおよび50mg 錠剤の使用により、20mgおよび80mg投与量については、5mgおよび/または50mg濃度の複数錠剤を用いて得る。
【0068】
種々の投与量レベルでのLCZ696とDiovan(登録商標)の間のバルサルタンへの暴露の比較を可能にするために、バルサルタンへの暴露(AUC)およびCmax値を、投与した無水塩−遊離−バルサルタンの実際の量に対して標準化する(mg等量により標準化)。AUC0−24値をバルサルタンのng*時間/ml/mg等量として計算し、幾何平均を比較する。LCZ696投与によるバルサルタンの平均相対的バイオアベイラビリティは、Diovan(登録商標)より相当高く、3LCZ696コホートの幾何平均の比率は107%〜249%の範囲であった。LCZ696投与後のバルサルタン暴露は直線状であり、3コホートの間で投与量標準化したバルサルタン暴露に統計学的に有意な偏差が無かったため、全3コホートのデータを合わせて(n=24)、プールしたLCZ696についてのバルサルタンの概算した相対的バイオアベイラビリティを得て、40mg Diovan(登録商標)と比較した。無水塩−遊離−バルサルタンのmg等量に対して標準化した暴露(AUC)およびCmax値を表4に要約する。
【0069】
LCZ696でのバルサルタンの吸収の速度および程度は、Diovan(登録商標)より大きい。バルサルタンの投与量等量標準化Cmaxは、Diovan(登録商標)投与よりもLCZ696投与後に高い(AUCの幾何平均の比率は161%、90%CI:140−185%)。また、LCZ696投与後にバルサルタンについて、Diovan(登録商標)投与後(平均2.4−3.0時間)よりも短いtmax(平均1.3−1.8時間)の傾向が観察される。
【0070】
表4 各コホートについてのおよびプールしたデータについてのバルサルタンの投与量正規化薬物動態学的パラメーター
【表4】

バルサルタンへの投与量標準化暴露に基づき、コホート間の統計学的有意差はなく、故に、3コホートからのデータをプールした
【0071】
2) 50〜1200mg投与量:
この試験は混交、一および多上行性投与量設計(無作為化、二重盲検式、プラセボ太守、時間差、平行群)を使用し、健常ボランティアにおけるLCZ696の安全性、耐容性および薬物動態学的を評価する。この試験の投与量は次の通りである:一投与量コホートについて200、600、900、および1200mg;14日間続く多投与量コホートについて50、200、600、および900mg。
全検体から概算した平均tmaxおよびt1/2は、上記低投与量一投与量で得られた先の発見に一致する(すなわち、上記試験)。
【0072】
蓄積が極小であることは、50−900mg LCZ696を1日1回14日間投与した後に全検体について明らかであった。
【表5】

【0073】
【表6】

【0074】
本発明は、詳細な記載と関連して記載しているが、前記記載は本発明を説明することを意図とし、本発明の範囲を限定する意図はなく、当該範囲は添付の特許請求の範囲により規定されることは理解されるべきである。他の局面、利点および修飾は、特許請求の範囲の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 組成物の約4〜約90重量%の濃度の二作用性化合物;および
(b) 少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤
を含む、固体経口投与形態。
【請求項2】
(a) 単位投与量あたり100、200または400mgの量の二作用性化合物;および
(b) 少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤
を含む、固体経口投与形態。
【請求項3】
該二作用性化合物が超分子複合体である、請求項1または2に記載の固体経口投与形態。
【請求項4】
該超分子複合体がトリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物である、請求項3に記載の固体経口投与形態。
【請求項5】
該固体経口投与形態が錠剤である、請求項4に記載の固体経口投与形態。
【請求項6】
該錠剤が即時放出型製剤である、請求項5に記載の固体経口投与形態。
【請求項7】
固体経口投与形態の製造方法であって:
(a) 二作用性化合物と少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を混合して混合物を形成させ;
(b) 該混合物を固体経口投与形態に直接圧縮し、
工程を含む、方法。
【請求項8】
固体経口投与形態の製造方法であって、二作用性化合物と少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を混合して混合物を形成させ;該混合物を圧縮成型、例えばローラー圧縮成型し;所望によりさらなる薬学的に許容される賦形剤と混合し、そして所望により該最終混合物を固体経口投与形態に圧縮する工程を含む、方法。
【請求項9】
該二作用性化合物が超分子複合体である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
該超分子複合体がトリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載の方法により得られる、錠剤。
【請求項12】
ローラーコンパクションにより得られる、請求項11に記載の錠剤。
【請求項13】
治療的有効量のバルサルタン遊離酸、またはその薬学的に許容される塩を送達する、
バルサルタンまたはその塩および
(2R,4S)−5−ビフェニル4−イル−5−(3−カルボキシ−プロピオニルアミノ)−2−メチル−ペンタン酸または(2R,4S)−5−ビフェニル4−イル−5−(3−カルボキシ−プロピオニルアミノ)−2−メチル−ペンタン酸エチルエステルエチルエステルまたはその塩
の部分を含む固体経口投与形態であって、30分後に平均約10%〜平均約100%(重量)のバルサルタン遊離酸、またはその薬学的に許容される塩が放出されるようなインビトロ溶解プロファイルを示す、固体経口投与形態。
【請求項14】
トリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物を含む、請求項13に記載の固体経口投与形態。
【請求項15】
治療的有効量のバルサルタン遊離酸、またはその薬学的に許容される塩、および担体媒体を送達する、
バルサルタンまたはその塩および
(2R,4S)−5−ビフェニル4−イル−5−(3−カルボキシ−プロピオニルアミノ)−2−メチル−ペンタン酸または(2R,4S)−5−ビフェニル4−イル−5−(3−カルボキシ−プロピオニルアミノ)−2−メチル−ペンタン酸エチルエステルエチルエステルまたはその塩
の部分を含む固体経口投与形態であって、該投与形態の1投与量投与後に1〜2.2時間のtmaxのバルサルタン遊離酸の吸収を提供するおよび/または該投与形態の1投与量投与後に230〜400ng・時間/mL/mg等量の投与量正規化平均血漿暴露(AUC0−24)を提供する、固体経口投与形態。
【請求項16】
トリナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3'−メチル−2'−(ペンタノイル{2"−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4'−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミペンタ水和物を含む、請求項15に記載の固体経口投与形態。
【請求項17】
バルサルタン遊離酸の吸収速度および/または暴露を高める方法であって、それを必要とする患者に、請求項15または16に記載の固体経口投与形態を投与することを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−503082(P2011−503082A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533185(P2010−533185)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2008/082324
【国際公開番号】WO2009/061713
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】