説明

アンジオポエチン1、2、及びそれらの受容体TIE2のsiRNA阻害のための組成物及びその方法

【解決手段】 Ang1、Ang2、或いはTie2遺伝子から産生されたmRNAに特異的な低分子干渉RNAを用いたRNA干渉は、これらの遺伝子の発現を阻害する。例えば、炎症性及び自己免疫性疾患、糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性症、及び多くのタイプの癌などの、Ang1、Ang2、或いはTie2仲介性血管新生に関わる疾患は、前記低分子干渉RNAを投与することによって治療され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2003年4月18日に出願された米国仮出願番号第60/463,981号に対して優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、低分子干渉RNAによる、アンジオポエチン1、アンジオポエチン2、及びTie2遺伝子発現の制御に関するものであり、特に、血管新生に関する疾患若しくは状態を治療することを目的としているものである。
【背景技術】
【0003】
血管新生若しくは"新血管新生"は、既存の血管の内皮細胞(EC)からの新しい血管の形成である。この過程は、EC遊走、増殖、及び分化を含み、親血管における基底膜の限局性分解で始まる。次に、ECは、親血管から間質性細胞外マトリックス(ECM)へと遊走し、毛細管出芽を形成し、この毛細管出芽は細胞の継続的な遊走と増殖に起因して伸長する。
【0004】
血管新生は、通常厳密な制御下にあり、正常条件下では、特定の限定生理的過程においてのみ起こる。例えば、血管新生は、胚形成、出産後の成長、創傷修復、及び月経の間に起こる。しかしながら、非制御血管新生は病的状態を生じ、成長中の血管は周囲の組織を破壊する若しくは悪性度を持続する。そのような病的状態は、糖尿病性網膜症、乾癬、滲出性或いは"wet"加齢性黄斑変性症("AMD")、炎症性障害、及び全ての癌を含む。特にAMDは、臨床的に重大な血管新生病である。この状態は、高齢者の片眼若しくは両眼における脈絡叢の新血管新生によって特徴付けられ、先進工業国における失明の主な原因である。
【0005】
血管新生の鍵となる2つの制御因子は、アンジオポエチン−1("Ang1")及びアンジオポエチン−2("Ang2")である。Ang1若しくはAng2単独の阻害は新血管新生を阻止するように見えるが、これらの制御因子は、血管内皮増殖因子("VEGF")と連携して作用し血管新生を制御することができる。Ang1、Ang2、及びVEGFは、2つのVEGF受容体と"免疫グロブリン及び上皮細胞成長因子相同性ドメインを有するチロシンキナーゼ2(tyrosine kinase with immunoglobulin and epidermal growth factor homology domains 2)"若しくは"Tie2"と呼ばれている別のチロシンキナーゼとを介してECに効果を発揮する(Hackett et al.(2002),J.Cell.Phys.192:182〜187)。VEGF受容体へのVEFGFの結合は血管新生過程を開始するために不可欠であるのに対し、Ang1及びAng2はTie2へ結合し、新血管の成熟を調節する。Ang1及びAng2は、内皮細胞の統合性を維持することにも関与している(Lobov et al.(2002),Proc.Nat.Acad.Sci USA 99:11205〜11210)。以下に説明するように、Tie2受容体に結合し阻止する因子は、血管新生も阻害できる。
【0006】
Ang1及びAng2は、個別に発現され、初期の研究では、Ang1は新血管新生を促進し、Ang2は血管新生アンタゴニストであると示唆されていた。しかしながら現在、Ang2は血管の直径を増大し、基底膜のリモデリングを促進することができるという結果が示された。Ang2は、VEGF存在下で、EC増殖、遊走、及び血管の出芽を誘導することも明らかになった(Lobov et al.,2002,supra)。
【0007】
Ang1は、胚発生の間、特に細胞−間質(ストロマ)伝達の調節を通じて、及び血管の成熟や安定性を制御することによって、血管新生を促進すると報告されている(Lin P et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:8829〜8834(1998))。しかしながら、血管内皮におけるAng1及びTie2の広範囲の発現、及び静止状態の成体脈管構造におけるTie2のリン酸化によって、Ang1が出生後の血管新生に関与していると示唆されている(Takagi et al.(2003),Inv.Ophthalm.Vis.Sci.44:393〜402)。
【0008】
Ang1とTie2の詳細な発現パターンに比べて、Ang2は、血管リモデリングの部位でのみ発現されているように見える(Takagi et al.(2003),supra)。例えば、Ang2発現は、月経中の卵巣、子宮及び胎盤において著しく増加した。Ang2発現レベルも、この構造の静止状態、血管新生、血管退行のサイクルに対応する、黄体の発現の周期性パターンに従っている(すなわち、Ang2レベルは静止状態では低く、血管新生及び退行の間では高い)(Hackett et al.,2002,supra)。Ang2は、VEGFを含む低酸素サイトカインによっても誘導され、腫瘍、AMDに関連した病原性血管新生が起こっている組織、及び網膜虚血の動物モデルにおいて発現している(Takagi et al.,2003,supra.)。さらに、Ang2は、虚血性網膜障害を患った患者の網膜上膜において上方制御されているが、非虚血性網膜障害の患者からの膜では上方制御されていない。しかしながら、Ang1の発現は、虚血性若しくは非虚血性障害の患者の網膜上膜において同じである(Takagi et al.,2003,supra.)。
【0009】
Ang2及びTie2は、高度に血管新生化された領域のECにおいて共存しており、Tie2は、血管リモデリングの部位において過剰発現している。Asahara T.ら(Circ.Res.83:223〜240)は、Ang1及びAng2は、VEGFと同様な相乗効果を有しており、マウス角膜新血管新生アッセイにおける血管新生を促進すると報告していた。従って、Ang1、Ang2、及びTie2は、発生及び生体生物における正常及び病原性新血管新生の両方で重要な役割を演じている。
【0010】
従って、Ang1、Ang2、若しくはTie2は、病原性血管新生の治療に対する魅力的な治療標的である。例えば、Lin Pら((1998),supra)は、マウスモデルにおける腫瘍成長及び転移は、可溶性組換えTie2受容体の発現によって阻害されることを報告した。この組換えTie2タンパク質は、内因性Tie2受容体へのリガンド結合を阻止するが、Ang2/Tie2結合の化学量論的な減少のみを引き起こしやすい。Takagiら(2003,supra)は、Tie2の外質ドメインを有する可溶性融合タンパク質によってTie2シグナル伝達が阻害され、in vitroとin vivoの両方において低酸素誘導性網膜血管新生を抑制したと報告した。Asaharaら((1998),supra)は、可溶性Tie2受容体を投与することにより、マウス角膜における、VEGF誘導性新血管新生に対するAng1若しくはAng2の効果を消滅させることを示した。ただし、可溶性Tie2受容体などの因子に基づいた治療的戦略は好ましくなく、なぜならそのような因子は、高度に血管新生化された領域のECでは、Ang2若しくはTie2が高生産されることによって圧倒される可能性が高いからである。
【0011】
RNA干渉(以後"RNAi")は、多くの真核生物を通じて保存されている転写後遺伝子制御の方法である。RNAiは、細胞内に存在する短い(すなわち、<30ヌクレオチド)二本鎖RNA("dsRNA")分子によって誘導される(Fire A et al.(1998),Nature 391:806〜811)。これらの短dsRNA分子("低分子干渉RNA"若しくは"siRNA"と呼ばれている)は、1ヌクレオチド分解能の精度で、前記siRNAと配列相同性を共有しているメッセンジャーRNA("mRNA")の破壊を引き起こす(Elbashir SM et al.(2001),Genes Dev,15:188〜200)。このsiRNAと標的mRNAは、標的mRNAを切断する"RNA誘導サイレンシング複合体"若しくは"RISC"と結合する。siRNAは、複数回ターンオーバーする酵素のように再利用され、1個のsiRNA分子で、約1000個のmRNA分子の切断を誘導する能力を有している。従って、mRNAのsiRNA仲介性RNAi分解は、標的遺伝子の発現を阻害するための現在利用可能な技術よりも効果的である。
【0012】
Elbashir SMら((2001),supra)は、21及び22ヌクレオチド長で、短い3’オーバーハングを有する合成siRNAは、ショウジョウバエ細胞溶解液において標的mRNAのRNAiを誘導することができることを示した。培養哺乳類細胞も、合成siRNAによるRNAi分解を示し(Elbashir SM et at.(2001)Nature,411:494〜498)、合成siRNAによって誘導されたRNAi分解は、生きているマウスにおいても最近観察された(McCaffrey AP et al.(2002),Nature,418:38〜39;Xia H et al.(2002),Nat.Biotech.20:1006〜1010)。siRNA誘導性RNAi分解の治療可能性は、最近いくつかのin vitro研究で示されており、これらの中にはHIV−1感染のsiRNA誘導性阻害(Novina CD et al.(2002),Nat.Med.8:681〜686)や、神経毒性ポリグルタミン病タンパク質発現の減少(Xia H et al.(2002),supra)などが含まれている。
【0013】
従って、血管新生を効果的に減少若しくは阻止するための、触媒作用的な若しくは半化学量論的な量での、Ang1、Ang2若しくはTie2の発現を選択的に阻害する因子及び方法が必要とされている。
【発明の開示】
【発明の効果】
【0014】
本発明は、特にAng1、Ang2、若しくはTie2遺伝子を標的にし、それらのmRNAのRNAi誘導性分解を引き起こすsiRNAに関するものである。これらのsiRNAは、半化学量論的な量でAng1、Ang2、若しくはTie2 mRNAを分解する。従って、本発明のsiRNA化合物及び組成物は、血管新生を阻害するために用いられる。特に、本発明のsiRNAは、癌性腫瘍(cancerous tumors)、及び加齢性黄斑変性症や糖尿病性網膜症などの眼内新血管新生に関連した障害を治療するのに有用である。
【0015】
従って、本発明は、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNA、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を標的にした単離siRNAを提供する。前記siRNAは、RNA二本鎖を形成するセンスRNA鎖とアンチセンスRNA鎖を有している。前記センスRNA鎖は、前記標的mRNAにおける約19〜約25近接ヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列を有している。
【0016】
本発明は、本発明の前記siRNAを発現する組換えプラスミド及びウイルス性ベクターを提供し、さらに本発明のsiRNAと薬学的に許容可能な担体とからなる薬学的組成物も提供する。
【0017】
本発明はさらに、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNA、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体の発現を阻害する方法を提供し、この方法は、前記標的mRNAが分解されるように、本発明の前記siRNAの有効量を対象へ投与する工程を有している。
【0018】
本発明はさらに、対象中の血管新生を阻害する方法を提供し、この方法は、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNA、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を標的としたsiRNAの有効量を対象へ投与する工程を有している。
【0019】
本発明はさらに、血管新生病を治療する方法を提供し、この方法は、血管新生病に関連した血管新生が阻害されるように、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNA、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を標的としたsiRNAの有効量を、そのような治療を必要としている対象へ投与する工程を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
特に指示がない限り、本明細書の全ての核酸配列は、5’から3’の方向で標示されている。また、核酸配列における全てのデオキシリボヌクレオチドは、大文字(例えばデオキシチミジンは"T")で表されており、核酸配列における全てのリボヌクレオチドは、小文字(例えばウリジンは"u")で表されている。
【0021】
Ang1、Ang2、及びTie2 mRNAを標的としたsiRNAを有する組成物及び方法は、血管新生を阻害するために、特に血管新生病の治療に対して有利に用いられる。本発明の前記siRNAは、これらのmRNAのRNAi仲介性分解を引き起こし、その結果、Ang1、Ang2、若しくはTie2遺伝子のタンパク質産生がなされない或いは少ない量で産生されると考えられる。Ang1、Ang2、及びTie2は血管新生に関与するため、Ang1、Ang2、若しくはTie2 mRNAのsiRNA仲介性分解は、血管新生の過程を阻害する。
【0022】
ここで用いられたように"Ang1、Ang2、若しくはTie2 mRNAを標的とした"siRNAは、二本鎖の第1鎖が、Ang1、Ang2、若しくはTie2 mRNA配列の一部のヌクレオチド配列と実質的に同一であるsiRNAを意味している。前記siRNA二本鎖の第2鎖は、前記siRNA二本鎖の第1鎖、及びAng1、Ang2、若しくはTie2 mRNAの同一部分の両方に相補的であることが理解される。
【0023】
従って、本発明は、約17ヌクレオチド〜約29ヌクレオチド長の、好ましくは約19〜約25ヌクレオチド長の、前記標的mRNAを標的とした短い二本鎖RNAを有する単離siRNAを提供する。前記siRNAはセンスRNA鎖と相補的アンチセンスRNA鎖を有しており、これらは標準的なワトソン−クリック塩基対相互作用(以後、"塩基対")によってアニーリングされている。以下により詳細に記載するように、前記センス鎖は、前記標的mRNA内に含まれる標的配列と実質的に同一である核酸配列を有している。
【0024】
ここで用いられたように、前記標的mRNA内に含まれる標的配列と"実質的に同一"である核酸配列は、前記標的配列と同一である、若しくは前記標的配列と1若しくはそれ以上のヌクレオチドが異なる核酸配列である。標的配列と実質的に同一である核酸配列を有する本発明のセンス鎖は、そのようなセンス鎖を有するsiRNAは、前記標的配列を含むmRNAのRNAi仲介性分解を誘導するという点で特徴付けられる。例えば、本発明のsiRNAは、前記標的mRNAのRNAi仲介性分解が前記siRNAによって誘導される範囲で、標的配列と1、2、或いは3若しくはそれ以上のヌクレオチドが異なる核酸配列を有するセンス鎖を有することができる。
【0025】
本発明のsiRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖は、2つの相補的なRNA分子、一本鎖RNA分子を有する、若しくは、2つの相補的部分が塩基対をなす、一本鎖"ヘアピン"領域によって共有結合的に結合している1つの分子を有している。どんな理論によっても制限されることなく、後者のタイプのsiRNA分子の前記ヘアピン領域は、"ダイサー(Dicer)"タンパク質(若しくはその同等物)によって細胞内で切断され、2つの個別の塩基対をなすRNA分子のsiRNAを形成すると考えられる(Tuschl,T.(2002),supraを参照のこと)。以下に記載されたように、前記siRNAは、1若しくはそれ以上のリボヌクレオチド塩基の変化、置換、若しくは修飾も含む。例えば、本発明のsiRNAは、変化、置換、若しくは修飾され、1若しくはそれ以上のデオキシリボヌクレオチド塩基を含むこともできる。
【0026】
ここで用いられたように、"単離"は、合成、若しくは自然条件から人の介入を介して変化或いは除去されたことを意味する。例えば、生きている動物中に自然に存在するsiRNAは、"単離"されていないが、合成siRNA、若しくはその自然条件の共存物質から分離された部分的或いは完全なsiRNAは"単離"される。単離siRNAは、実質的に精製された形態で存在する、若しくは、例えば前記siRNAが運搬された細胞などの非自然環境で存在することができる。例によると、自然な過程によって細胞内部に産生されるが、"単離"された前駆体分子から産生されたsiRNAは、それ自身"単離"された分子である。従って、単離dsRNAは、標的細胞へ導入され、ダイサータンパク質(若しくはその同等物)によって単離siRNAへと処理される。
【0027】
ここで用いられたように"標的mRNA"は、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNA、若しくはヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNAの変異体或いは選択的スプライシング体、同族Ang1、Ang2、或いはTie2遺伝子からのmRNAを意味している。ヒトAng1、Ang2、及びTie2 mRNA配列は、それぞれGenBank Recordアクセッション番号AY124380、NM_00147、及びL06139に、cDNA同等物として記載されている。ヒトAng1、Ang2、及びTie2 mRNA配列は、本明細書においてはそれぞれ配列ID番号1、配列ID番号2、及び配列ID番号3で、cDNA同等物として表されている。当業者は、前記cDNA配列は、前記mRNAと同等であり、ここでの同じ目的、すなわちAng1、Ang2、或いはTie2の発現を阻害するためのsiRNAの生成のために用いられることを理解するであろう。
【0028】
ここで用いられたように、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2に"同族"な遺伝子若しくはmRNAは、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2に相同的である別の哺乳類種からの遺伝子若しくはmRNAである。例えば、飼い犬(Canis familiaris)のAng1 mRNAの部分配列は、GenBank Recordアクセッション番号AF345932にcDNA同等物として記載されており、ここでは配列ID番号4として表されている。Mus musculus(マウス)Ang2 mRNAは、GenBank Recordアクセッション番号NM_007426にcDNA同等物として記載されており、ここでは配列ID番号5として表されている。Mus musculus(マウス)及びRattus norvegicus(ラット)Tie2 mRNA配列は、それぞれGenBank Recordアクセッション番号NM_013690及びNW_043856にcDNA同等物として記載されている。マウス及びラットTie2 mRNA配列は、本明細書ではそれぞれ配列ID番号6及び配列ID番号7として表されている。
【0029】
ヒトAng1、Ang2、及びTie2の選択的スプライシング体も既知である。例えば、GenBank Recordアクセッション番号AY121504を参照すると、ヒトAng1のスプライス変異体がcDNA同等物として記載されている(配列ID番号8)。Kim I et al.(J.Biol.Chem.275(24),18550〜18556(2000))及びGenBank Recordアクセッション番号AF187858には、96〜148のアミノ酸が欠如したAng2タンパク質をコード化したAng2スプライス変異体が、cDNA同等物として記載されている(配列ID番号9)。さらに、GenBank Recordアクセッション番号AB086825を参照すると、上皮細胞成長因子様ドメインが欠如したTie2タンパク質をコード化したTie2のスプライス変異がcDNA同等物として記載されている(配列ID番号10)。
【0030】
ヒトAng1、Ang2、或いはTie2遺伝子から転写されたmRNAは、本分野では良く知られた技術を用いて、選択的スプライシング体でも解析される。そのような技術は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR)、ノーザンブロッティング、及びin−situ(生体内原位置)ハイブリダイゼーションが含まれる。mRNA配列を解析するための技術は、例えば、Busting SA((2000),J.Mol.Endocrinol.25:169〜193)に記載されており、その全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる。選択的スプライシングmRNAを同定するための代表的な技術も、以下に記載されている。
【0031】
例えば、既知の疾患遺伝子に関連したヌクレオチド配列を有するデータベースは、選択的スプライシングmRNAを同定するために用いられ得る。そのようなデータベースは、GenBank、Embase、及びCancer Genome Anatomy Project(CGAP)データベースを含む。例えば、CGAPデータベースは、ヒト癌の様々なタイプの発現遺伝子配列断片(ESTs)を含む。Ang1、Ang2、或いはTie2のmRNA若しくは遺伝子配列は、選択的スプライシングmRNAを表すESTsが発見されるかどうか決定するために、そのようなデータベースをクエリーするために用いられ得る。
【0032】
"RNAse protection(RNA分解酵素保護)"と呼ばれる技術も、選択的スプライシングAng1、Ang2、或いはTie2 mRNAを同定するために用いられ得る。RNAse protectionは、合成RNAへの遺伝子配列の翻訳を含み、他の細胞、例えばAng1、Ang2、或いはTie2を発現するように誘導された細胞から由来したRNAへハイブリダイズされる。ハイブリダイズされたRNAは、次にRNA:RNAハイブリッドミスマッチを認識する酵素と共にインキュベートされる。予想される断片より小さいということは、選択的スプライシングmRNAが存在することを示している。推定上の選択的スプライシングmRNAは、クローン化され、当業者には良く知られた方法によって配列決定される。
【0033】
RT−PCRも、選択的スプライシングAng1、Ang2、或いはTie2 mRNAを同定するために用いられ得る。RT−PCRにおいて、血管内皮細胞若しくはAng1、Ang2、或いはTie2を発現すると知られている他の組織の細胞からのmRNAは、本分野の範囲内である方法を用いて、酵素である逆転写酵素によってcDNAへ変換される。cDNAの完全コード配列は、次に3’非翻訳領域に位置するフォワード(前方向)プライマーと、5’非翻訳領域に位置するリバース(逆方向)プライマーPCRによって増幅される。増幅産物は、例えば、増幅産物のサイズと、正常にスプライシングされたmRNAからの予想産物のサイズとを、例えばアガロースゲル電気泳動によって比較することで、選択的スプライシング体が解析される。増幅産物のサイズにおける全ての変化は、選択的スプライシングを示している。
【0034】
変異Ang1、Ang2、或いはTie2遺伝子から産生されたmRNAも、Ang1、Ang2、或いはTie2選択的スプライシング体を同定するための上述した技術によって容易に同定され得る。ここで用いられたように"変異"Ang1、Ang2、或いはTie2遺伝子若しくはmRNAは、ここにおいて説明された前記Ang1、Ang2、或いはTie2配列とは配列の点で異なる、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2遺伝子若しくはmRNAを含む。従って、前記Ang1、Ang2、或いはTie2遺伝子、若しくはそれらから産生されたmRNAの対立遺伝子体は、本発明の目的によると"変異体"であると考えられる。さらに、国際特許第WO02/20734号公報を参照すると、Tie2のいくつかの変異体が記載されており、それらのうち1つはGenBank Recordアクセッション番号AX398356に記載されている。また、本明細書ではcDNA同等物として配列ID11に表している。
【0035】
ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNAは、その代表的な選択的スプライシング体、同族体、若しくは変異体と共通した標的配列を含むことが理解される。従って、そのような共通標的配列を有する単一siRNAは、前記共通標的配列を含むそれら異なるmRNAのRNAi仲介性分解を誘導することができる。
【0036】
本発明のsiRNAは、部分的に精製されたRNA、実質的に純粋なRNA、合成RNA、若しくは組換え的に産生されたRNA、さらに1若しくはそれ以上のヌクレオチドの付加、欠損、置換及び/若しくは変更によって天然由来のRNAとは異なる改変RNAを含むことができる。そのような改変は、前記siRNAの末端或いは前記siRNAの1若しくはそれ以上の内部ヌクレオチドなどへの非ヌクレオチド物質の付加、siRNAをヌクレアーゼ消化に耐性にする修飾(例えば、2’−置換リボヌクレアーゼの使用、或いは糖リン酸バックボーンへの修飾など)、若しくは前記siRNAにおける1若しくはそれ以上のヌクレオチドのデオキシリボヌクレアーゼでの置換、を含むことができる。血清、涙液(lachrymal fluid)、或いはヌクレアーゼが豊富な環境に曝されたsiRNA、若しくは局所的に運搬された(例えば目薬などによって)siRNAは、好ましくはそれらのヌクレアーゼ分解に対する耐性が増加するように改変されている。例えば、血管内に、或いは眼へ局所的に投与されるsiRNAは、1若しくはそれ以上のホスホロチオネート結合を有することができる。
【0037】
本発明のsiRNAの1若しくは両方の鎖は、3’オーバーハングも有することができる。ここで用いられたように、"3’オーバーハング"は、RNA鎖の3’末端から延びる少なくとも1つの不対ヌクレオチドを言及している。
【0038】
従って、1実施形態において、本発明のsiRNAは、少なくとも1つの1〜約6ヌクレオチド長、好ましくは1〜約5ヌクレオチド長、より好ましくは1〜約4ヌクレオチド長、特に好ましくは約2〜約4ヌクレオチド長の3’オーバーハング(これはリボヌクレオチド若しくはデオキシヌクレオチドを有する)を有している。
【0039】
siRNA分子の両鎖に3'オーバーハングを有している実施形態において、前記オーバーハングの長さは、各鎖で同じ若しくは異なってもよい。最も好ましい実施形態において、前記3’オーバーハングは、前記siRNAの両鎖に存在し、2ヌクレオチド長である。例えば、本発明の前記siRNAの各鎖は、ジチミジル酸("TT")若しくはジウリジル酸("uu")の3’オーバーハングを有することができる。
【0040】
本発明のsiRNAの安定性を増強するために、前記3’オーバーハングは、分解に対しても安定化される。1実施形態において、前記オーバーハングは、アデノシン或いはグアノシンヌクレオチドなどのプリンヌクレオチドを含むことによって安定化されている。
或いは、修飾類似体によるピリミジンヌクレオチドの置換(例えば、3’オーバーハングにおける2’−デオキシチミジンでのウリジンヌクレオチドの置換)は、許容性を示し、RNAi分解の効率には影響を与えない。特に、2’−デオキシチミジンにおける2’−ヒドロキシの非存在は、組織培養液において3’オーバーハングのヌクレアーゼ耐性を著しく増強する。
【0041】
特定の実施形態において、本発明のsiRNAは、AA(N19)TT若しくはNA(N21)の配列を有しており、ここでNはあらゆるヌクレオチドである。これらのsiRNAは、約30〜70%のG/Cを有しており、好ましくは約50%のG/Cを有している。前記センスsiRNA鎖の配列はそれぞれ、(N19)TT若しくはN21に対応する(すなわち3〜23位)。後者の場合、前記センスsiRNA鎖の3’末端は、TTに変換されている。この配列変換の原理は、前記センス及びアンチセンス鎖3’オーバーハングの配列組成に関して対称的な二本鎖を生成することである。次に、前記アンチセンスRNA鎖は、前記センス鎖の1〜21位に対して相補的に合成される。
【0042】
これらの実施形態における前記23ヌクレオチドセンス鎖の1位は、前記アンチセンス鎖によって配列特異的に認識されないため、前記アンチセンス鎖の3’−ヌクレオチド残基のほとんどは、慎重に選択される。しかしながら、前記アンチセンス鎖の最後から2番目のヌクレオチド(どの実施形態においても前記23−ヌクレオチドセンス鎖の2位に相補的である)は、一般的に前記標的配列に相補的である。
【0043】
別の実施形態において、本発明のsiRNAは、NAR(N17)YNNの配列を有しており、ここでRはプリン(例えばA或いはG)であり、Yはピリミジン(例えばC或いはu/T)である。従って、この実施形態の代表的な21−ヌクレオチドセンス及びアンチセンスRNA鎖は、一般的にプリンヌクレオチドで始まる。そのようなsiRNAは、最初に転写されたヌクレオチドがプリンである場合、polIIIプロモーターからのRNAの発現のみが有効であると考えられている時、ターゲティング部位における変更なしに、polIII発現ベクターから発現され得る。
【0044】
本発明のsiRNAは、いくつかの標的mRNA配列(前記"標的配列")における約19〜25近接ヌクレオチドの任意のストレッチ(伸展)を標的にすることができる。siRNAの標的配列を選択する技術は、例えば、Tuschl Tらの"The siRNA User Guide"(2002年10月11日改訂)において記載されており、この全体の開示は、この参照により本明細書に組み込まれる。"The siRNA User Guide"は、Dr.Thomas Tuschl(Department of Cellular Biochemistry,AG 105,Max−Planck−Institute for Biophysical Chemistry,37077 Gottingen,Germany)によって維持されているウェブサイトで利用可能であり、さらに、Max Planck Instituteのウェブサイトにアクセスし、キーワード"siRNA"で検索すると見つけることができる。従って、本発明のsiRNAの前記センス鎖は、前記標的mRNAにおける約19〜約25ヌクレオチドの任意の近接ストレッチと実質的に同一であるヌクレオチド配列を有する。
【0045】
一般的に、標的mRNA上の標的配列は、前記標的mRNAに一致するように、好ましくは開始コドンから50〜100nt下流(すなわち3’方向で)で開始するように、定められたcDNA配列から選択され得る。ただし、前記標的配列は、5’或いは3’非翻訳領域に、若しくは開始コドン近隣の領域に位置付けされ得る。例えば、ヒトAng2 cDNA配列における適切な標的配列は、
【0046】
【化1】

【0047】
従って、配列ID番号12を標的とし、3’uuオーバーハング(オーバーハングは太字で示してある)を各鎖に持つ本発明のsiRNAは、
【0048】
【化2】

【0049】
配列ID番号12を標的とするが、3’TTオーバーハング(オーバーハングは太字で示してある)を各鎖に持つ本発明のsiRNAは、
【0050】
【化3】

【0051】
ヒトAng2 cDNA配列からの別の標的配列は、
【0052】
【化4】

【0053】
従って、配列ID番号17を標的とし、3’uuオーバーハング(オーバーハングは太字で示してある)を各鎖に持つ本発明のsiRNAは、
【0054】
【化5】

【0055】
配列ID番号17を標的とするが、3’TTオーバーハング(オーバーハングは太字で示してある)を各鎖に持つ本発明のsiRNAは、
【0056】
【化6】

【0057】
ヒトAng1 cDNA配列における適切な標的配列は、
【0058】
【化7】

【0059】
従って、配列ID番号22を標的とし、3’uuオーバーハング(オーバーハングは太字で示してある)を各鎖に持つ本発明のsiRNAは、
【0060】
【化8】

【0061】
配列ID番号22を標的とするが、3’TTオーバーハング(オーバーハングは太字で示してある)を各鎖に持つ本発明のsiRNAは、
【0062】
【化9】

【0063】
ヒトAng1 cDNAからの別の標的配列は、
【0064】
【化10】

【0065】
配列ID番号27を標的とするが、3’uuオーバーハング(オーバーハングは太字で示してある)を各鎖に持つ本発明のsiRNAは、
【0066】
【化11】

【0067】
配列ID番号27を標的とするが、3’TTオーバーハング(オーバーハングは太字で示してある)を各鎖に持つ本発明のsiRNAは、
【0068】
【化12】

【0069】
本発明のsiRNAを導くことができる別のAng1、Ang2、及びTie2標的配列は、ここに示したものを含む。適切なヒトAng1標的配列は、配列ID番号32〜227を含み、適切なヒトAng2標的配列は、配列ID番号228〜427を含み、適切なヒトTie2標的配列は、配列ID番号428〜739を含む。ここに示された前記標的配列は、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 cDNAを参照しており、従ってこれらの配列は、"T"で表されたデオキシチミジンを含むことが理解される。当業者は、前記mRNAの実際の標的配列において、デオキシチミジンは、ウリジン("u")で置換され得ることが理解されるであろう。同様に、本発明のsiRNA内に含まれる標的配列は、デオキシチミジンの代わりにウリジンも含むことができる。
【0070】
本発明のsiRNAは、当業者に知られた多くの技術を用いて得られる。例えば、前記siRNAは、化学的に合成される、若しくは、ショウジョウバエin vitroシステム(Tuschlらの米国特許出願公開第2002/0086356号に記載されており、その全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる)など、本分野で知られた方法を用いて組換え技術的に産生される。
【0071】
好ましくは、本発明のsiRNAは、適切に保護されたリボヌクレオシドホスホラミダイト、及び従来のDNA/RNA合成機を用いて化学的に合成される。前記siRNAは、2つの分離した相補的RNA分子として、若しくは2つの相補的領域を有する1つのRNA分子として合成され得る。合成RNA分子若しくは合成試薬の商業的供給元としては、Proligo(Hamburg,ドイツ)、Dharmacon Research(Lafayette,コロラド州、米国)、Pierce Chemical(Perbio Scienceの一部、Rockford、イリノイ州、米国)、Glen Research(Sterling、バージニア州、米国)、ChemGenes(Ashland、マサチューセッツ州、米国)及びCruachem(Glasgow,英国)を含む。
【0072】
或いは、siRNAは、任意の適切なプロモーターを用いて、組換え環状若しくは直線DNAプラスミドからも発現され得る。プラスミドから本発明のsiRNAを発現するために適切なプロモーターは、例えば、U6若しくはH1 RNA pol IIIプロモーター配列、及びサイトメガロウイルスプロモーターを含む。他の適切なプロモーターの選択は、当業者の技術範囲内である。本発明の前記組換えプラスミドは、特定の組織内若しくは特定の細胞内環境において、前記siRNAの発現を誘導可能な或いは制御可能なプロモーターも有することができる。
【0073】
組換えプラスミドから発現された前記siRNAは、標準的な技術によって培養細胞発現システムから単離され得る、若しくは細胞内的に発現され得る。本発明の前記siRNAをin vivoで細胞へ運搬するための組換えプラスミドの使用は、以下により詳細に説明されている。
【0074】
本発明のsiRNAは、組換えプラスミドから2つの分離した相補的RNA分子として、若しくは2つの相補的領域を有する1つのRNA分子として発現され得る。
【0075】
本発明のsiRNAを発現するために適したプラスミドの選択、前記siRNAを発現するために前記プラスミドへ核酸配列を挿入するための方法、及び目的の細胞へ前記組換えプラスミドを運搬する方法は、当業者の技術の範囲内である。例えば、Tuschl,T.(2002),Nat.Biotechnol,20:446〜448、Brummelkamp TR et al.(2002),Science 296:550〜553、Miyagishi M et al.(2002,Nat.Biotechnol.20:497〜500、Paddison PJ et al.(2002),Genes Dev.16:948〜958、Lee NS et al.(2002),Nat.Biotechnol.20:500〜505、及びPaul CP et al.(2002),Nat.Biotechnol.20:505〜508を参照のこと。また、これらの全体の開示は、この参照によって本明細書に組み込まれる。
【0076】
1実施形態において、本発明のsiRNAを発現するプラスミドは、ヒトU6 RBAプロモーターの制御下で、polyT終止配列と操作可能に連結した配列をコード化するセンスRNA鎖と、ヒトU6 RBAプロモーターの制御下で、polyT終止配列と操作可能に連結した配列をコード化するアンチセンスRNA鎖とを有している。そのようなプラスミドは、本発明のsiRNAを発現するための組換えアデノ随伴ウイルスベクターを産生する際に用いられ得る。
【0077】
ここで用いられたように、"polyT終止配列と操作可能に連結した"とは、前記センス鎖若しくはアンチセンス鎖をコード化した核酸配列が、5’方向で前記polyT終止シグナルにすぐに隣接していることを意味している。前記プラスミドからの前記センス鎖若しくはアンチセンス鎖の転写の間、前記polyT終止シグナルは、転写を終了するように働く。
【0078】
ここで用いられたように、プロモーターの"制御下"とは、前記センス鎖若しくはアンチセンス鎖をコード化した核酸配列は、前記プロモーターが前記センス鎖若しくはアンチセンス鎖コード配列の転写を開始できるように、前記プロモーターの3’に位置付けられていることを意味する。
【0079】
本発明のsiRNAは、組換えウイルスベクターから細胞内にin vivoで発現され得る。本発明の前記組換えウイルスは、本発明のsiRNAをコード化した配列と、前記siRNAを発現するための適切なプロモーターとを有している。適切なプロモーターは、例えば、U6若しくはH1 RNA pol IIIプロモーター配列、及びサイトメガロウイルスプロモーターを含む。他の適切なプロモーターの選択は、当業者の技術範囲内である。本発明の前記組換えウイルスは、特定の組織内若しくは特定の細胞内環境において前記siRNAの発現を誘導可能若しくは制御可能なプロモーターも有することができる。本発明のsiRNAを細胞へin vivoで運搬するための組換えウイルスの使用は、以下により詳細に説明されている。
【0080】
本発明のsiRNAは、2つの分離された相補的RNA分子として、若しくは2つの相補的領域を有する1つのRNA分子として、組換えウイルスベクターから発現され得る。
【0081】
発現される前記siRNA分子に対するコード配列を許容する能力を有するウイルスベクターは、例えば、アデノウイルス(AV)、アデノウイルス随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス(例えば、レンチウイルス(LV)、ラブドウイルス、マウス白血病ウイルス)、ヘルペスウイルス、及びその同等物から由来したベクターが用いられ得る。ウイするベクターの指向性は、エンベロープタンパク質を有する前記ベクターのシュードタイピング、或いは他のウイルスからの他の表面抗原によって、若しくは異なるウイルスキャプシドタンパク質で置換することによって、適切に修飾され得る。
【0082】
例えば、本発明のレンチウイルスは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、狂犬病、エボラ、モコラ(Mokola)、及びその同等物からの表面タンパク質でシュードタイピング化され得る。本発明のAAVベクターは、異なるキャプシドタンパク質血清型を発現するようにベクターを操作することによって異なる細胞を標的にするように作成され得る。例えば、血清型2ゲノム上の血清型2キャプシドを発現するAAVベクターは、AAV 2/2と呼ばれる。AAV 2/2ベクターにおけるこの血清型2キャプシド遺伝子は、血清型5キャプシド遺伝子によって置換され、AAV 2/5ベクターを産生する。異なるキャプシドタンパク質血清型を発現するAAVベクターを構築するための技術は、当業者の技術範囲内であり、例えば、Rabinowitz JE et al.(2002),J Virol 76:791〜801を参照のこと(この全体の開示は、この参照によって本明細書に組み込まれる)。
【0083】
本発明の使用に適した組換えウイルスベクターの選択、前記siRNAを発現するために核酸配列をベクターへ挿入する方法、及び前記ウイルスベクターを目的の細胞へ運搬する方法は、当業者の技術範囲内である。例えば、Dornburg R(1995),Gene Therap.2:301〜310、Eglitis MA(1988),Biotechniques 6:608〜614、Miller AD(1990),Hum Gene Therap.1:5〜14、Anderson WF(1998),Nature 392:25〜30、及びRubinson DA et al.,Nat.Genet.33:401〜406を参照し、これら全体の開示は、この参照によって本明細書に組み込まれる。
【0084】
好ましいウイルスベクターは、AV及びAVVから由来したものである。特に好ましい実施形態において、本発明のsiRNAは、2つの分離された相補的一本鎖RNA分子として、例えばU6或いはH1 RNAプロモーター、若しくはサイトメガロウイルス(AMV)プロモーターを有する組換えAAVベクターから発現される。
【0085】
本発明のsiRNAを発現するのに適切なAVベクター、前記組換えAVベクターを構築するための方法、及び標的細胞へ前記ベクターを運搬するための方法は、Xia H et al.(2002),Nat.Biotech.20:1006〜1010に記載されている。
【0086】
本発明のsiRNAを発現するために適切なAVベクター、前記組換えAVベクターを構築するための方法、及び、標的細胞へ前記ベクターを運搬するための方法は、Samulski R et al.(1987),J.Virol.61:3096〜3101、Fisher KJ et al.(1996),J.Virol.,70:520〜532、Samulski R et al.(1989),J.Virol.63:3822〜3826、米国特許番号第5,252,479号、米国特許番号第5,139,941号、国際特許番号第WO 94/13788号明細書、及び国際特許番号第WO 93/24641号明細書に記載されており、これら全体の開示は、この参照により本明細書に組み込まれる。
【0087】
前記標的mRNAのRNAi仲介性分解を引き起こす所定の標的配列を含むsiRNAの能力は、細胞内のRNA若しくはタンパク質のレベルを測定するための標準的な技術を用いて評価され得る。例えば、本発明のsiRNAは、培養細胞へ運搬され得、標的mRNAのレベルは、ノーザンブロット或いはドットブロッティング技術によって、若しくは定量的RT−PCRによって測定され得る。或いは、培養細胞におけるAng1、Ang2、若しくはTie2タンパク質のレベルは、ELISA若しくはウエスタンブロットによって測定され得る。培養細胞へのsiRNAの運搬に適切なプロトコール、及び培養細胞内におけるタンパク質及びmRNAレベルを検出するためのアッセイは、以下の実施例に示されている。
【0088】
例えば、Ang1、Ang2、若しくはTie2を自然に発現した細胞、若しくは、Ang1、Ang2、若しくはTie2を発現するように誘導された細胞は、例えば、12或いは25ウェル培養プレート或いは96ウェルマイクロタイタープレートなどの適切な細胞培養容器においてコンフルエンスまで増殖される。本発明のsiRNAは、Ang1、Ang2、若しくはTie2発現細胞の第1の群へ投与され得る。非特異的siRNA(若しくはsiRNAなし)は、Ang1、Ang2、若しくはTie2発現細胞の第2の群へ、対照として投与され得る。前記細胞は洗浄され、マイクロタイタープレートウェルへ1〜2%パラホルムアルデヒドで直接固定される。マイクロタイタープレートの非特異的結合部位は、2%ウシ血清アルブミンでブロックされ、前記細胞は、Ang1、Ang2若しくはTie2特異的モノクローナル抗体とインキュベートされる、Ang1、Ang2、若しくはTie2抗体の結合は、例えば、1:1000倍希釈のビオチン化ヤギ抗マウスIgG(Bethesda Research Laboratories,Gaithersberg,メリーランド州)と1時間37℃で、さらに1:1000倍希釈のベータ−ガラクトシダーゼ共役ストレプトアビジン(Bethesda ResearchLaboratories)と1時間37℃でインキュベーションすることによって検出され得る。Ang1、Ang2、若しくはTie2特異的モノクローナル抗体へのベータ−ガラクトシダーゼ結合の量は、例えば、マイクロタイタープレートを3.3mM クロロフェノールレッド−ベータ−D−ガラクトピラノシド、50mM リン酸ナトリウム、1.5mM MgClの溶液(pH7.2)中、2〜15分37℃で展開し、ELISAプレートリーダーにおいて575nMで結合した抗体の濃度を測定することによって決定される。
【0089】
Ang1、Ang2、若しくはTie2発現を下方制御する本発明のsiRNAの能力も、当業者の技術範囲内の技術を用いて、ウシ網膜内皮細胞(BRECs)による管腔形成を測定することによってin vitroで評価され得る。管腔形成の阻害は、本発明のsiRNAによるAng1、Ang2、若しくはTie2の下方制御を示している。
【0090】
適切なBREC管腔形成アッセイは、5.5mM グルコース、10%血小板由来ウマ血清(PDHS;Wheaton,Pipersville,ペンシルバニア州)、50mg/mLヘパリン、及び50U/mL内皮細胞増殖因子(Roche Molecular Biochemicals)を有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を含むフィブロネクチン−コーティングディッシュ上でBRECsを培養する工程を有する。管腔形成アッセイで使用するのに適したBRECsは、因子VIII抗原に対する免疫反応性によって内皮均一性を示し、光学顕微鏡で確認されたように、これらの条件下で形態学的に変化せずにいるものである。
【0091】
管腔形成アッセイは、King GL et al.,J.Clin.Invest.75:1028〜1036(1985)、及びOtani A et al.,Circ.Res.82:619〜628(1998)に記載されたように実行され得、これら全体の開示は、この参照により本明細書に組み込まれる。簡潔には、5マイクログラム/mLフィブロネクチン及び5マイクログラム/mLラミニンを含む、10X RPMI培地(Gibco BRL,Gaithersburg,メリーランド州)中にVitrogen 100(Celtrix,Palo Alto,カリフォルニア州)、0.2N NaOH、及び200mM HEPESを8:1:1(400マイクロリットル)で含む混合液を24ウェルプレートに添加する。ゲルの重合後、1.0x10の培養BRECsを前記ウェルへ播種し、20% PDHSを含むDMEMで24時間37℃でインキュベートした。当業者には既知であるように、その形状と管の長さを最適化するために細胞数を数えた(King GL et al.,1985,supra、及びOtani A et al.,1998,supraを参照のこと)。次に培地を除去し、追加のコラーゲンゲルを細胞層の上へ投入した。BRECsによって形成された管状構造の表面積あたりの密度を測定するために、コラーゲンゲルになる前に、各ウェルの底の中央領域に基準点をランダムにマークした。次に、VEGF若しくは低酸素条件培地を前記ウェルに添加し、管腔形成を誘導した。次に、本発明の1若しくはそれ以上のsiRNAは、任意の最適な手順によって(以下参照)特定のウェルのBRECsへ導入された。他のウェルは、対照として、siRNAなし若しくは非特異的siRNAで処理された。対照ウェルと比較した場合の、siRNAで処理されたウェルにおける管腔形成の阻害は、標的RNAの発現が阻害されたことを示している。
【0092】
本発明のsiRNAによるAng1、Ang2、若しくはTie2 mRNAのRNAi仲介性分解は、網膜症の未熟度("ROP")若しくは脈絡叢新血管新生("CNV")ラット或いはマウスモデルなどの、新血管新生の動物モデルでも評価され得る。例えば、CNVラット或いはマウスにおける新血管新生の領域は、以下の実施例6にあるように、本発明のsiRNAの投与前後で測定され得る。前記siRNAの投与による新血管新生領域の減少は、標的mRNAの下方制御、及び血管新生の阻害を示している。標的mRNAの下方制御及び血管新生の阻害は、以下のような、ストレプトゾトシン誘導糖尿病性網膜症ラットモデル(実施例3)、VEGF誘導網膜血管透過性及び白血球増多症(leukostasis)のラットモデル(実施例4)、及び角膜/角膜縁損傷によって誘導された眼球新血管新生のラットモデル(実施例5)でも例示されている。
【0093】
Takagiら(2003,supra)で記載されたように、虚血誘導網膜新血管新生のマウスモデルは、Ang1、Ang2、若しくはTie2の本発明のsiRNAによるRNAi仲介性分解を検出するためにも用いられ得る。簡潔には、7日齢("出産後日数7"若しくは"P7")C57BL/6Jマウスのリターは、75%±2%酸素に5日間さらされ、次にP12で部屋の空気に戻され、網膜新血管新生を形成した。部屋の空気で維持された同年齢のマウスは、対照として用いた。最大網膜新血管新生は、一般的にP17で観察され、5日後部屋の空気に戻された。本発明の1若しくはそれ以上のsiRNAは、網膜下で各処理動物の1つの眼に、P12とP14で注入された。siRNAなし、若しくは非特異的siRNAは、反対側の眼に対象として注入された。P17で、前記マウスはPBS中の4%パラホルムアルデヒド(1mL)による心臓灌流によって殺戮され、眼は脱核され、パラフィン包埋する前に、4%パラフォルムアルデヒドによって、4℃、オーバーナイトで固定された。前記パラフィン包埋された眼の連続的な切片は、網膜における新血管新生の程度を観察するために得られる。対照と比較した場合、本発明の1若しくはそれ以上のsiRNAで処理された眼の網膜における新血管新生の減少は、標的mRNAの発現の阻害を示している。
【0094】
上で議論したように、本発明のsiRNAは、Ang1、Ang2、若しくはTie2 mRNA、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体のRNAi仲介性分解を引き起こすことができる。本発明のsiRNAによる標的mRNAの分解は、Ang1、Ang2、及び/若しくはTie2遺伝子からの機能的遺伝子の産生を減少する。従って、本発明は、対象におけるAng1、Ang2、若しくはTie2の発現を阻害する方法を提供し、この方法は、標的mRNAが分解されるように、本発明のsiRNAの有効量を対象へ投与する工程を有している。Ang1、Ang2、若しくはTie2遺伝子の産生が血管新生に関与しているので、本発明は、本発明のsiRNAによる標的mRNAのRNAi仲介性分解による、対象における血管新生を阻害する方法も提供する。
【0095】
本発明の方法の実施において、Ang1、Ang2、若しくはTie2 mRNAに異なる標的配列を有する2若しくはそれ以上のsiRNAは、対象に投与され得る。同様に、異なる標的mRNA(すなわち、Ang1、Ang2、及びTie2 mRNA)からの標的配列をそれぞれ有している2若しくはそれ以上のsiRNAは、対象へ投与され得る。
【0096】
上述したように、Tie2と結合したAng1若しくはAng2は、VEGF存在下で血管新生を促進するように見え、Tie2と結合したAng2は、低酸素条件下で血管新生を促進するように見える。しかしながら、VEGF及び/若しくは低酸素条件がAng1、Ang2、及びTie2仲介性血管新生に必要とされているかどうかは、明らかではない。従って、本発明の方法の実施において、VEGF若しくは低酸素の存在を検証する必要はない。
【0097】
ここで用いられたように、"対象"とは、ヒト、若しくは非ヒト動物を含む。好ましくは、前記対象はヒトである。
【0098】
ここで用いられたように、siRNAの"有効量"とは、標的mRNAのRNAi仲介性分解を引き起こすのに十分な量、若しくは対象内の血管新生の進行を阻害するのに十分な量である。
【0099】
前記標的mRNAのRNAi仲介性分解は、上述したように、mRNA若しくはタンパク質を単離し定量するための標準的な技術を用いて、対象の細胞内の前記標的mRNA若しくはタンパク質のレベルを測定することによって検出され得る。
【0100】
血管新生の阻害は、対象における病原性若しくは非病原性血管新生の進行を直接測定することによって、例えば、本発明のsiRNAで処理する前後の新血管新生領域のサイズを観察することによって、評価され得る。もし新血管新生領域のサイズが同じ若しくは減少していれば、血管新生の阻害を示している。対象内の新血管新生領域のサイズを観察し測定するための技術は、当業者の技術範囲内であり、例えば、脈絡叢新血管新生の領域は検眼鏡検査によって観察され得る。
【0101】
血管新生の阻害は、血管新生に関連した病的状態の変化若しくは逆転を観察することを通じても推測され得る。例えば、AMDにおいて、失明の遅延、停止、若しくは逆転は、脈絡叢における血管新生の阻害を示している。腫瘍に対しては、腫瘍成長の遅延、停止、或いは逆転、若しくは腫瘍転移の遅延或いは停止は、腫瘍部位での若しくはその周辺での血管新生の阻害を示している。非病原性血管新生の阻害は、例えば、本発明のsiRNAの投与に対して脂肪消失若しくはコレステロールレベルの減少などからも推測され得る。
【0102】
本発明のsiRNAは、半化学量論的な量で、RNA干渉を仲介(及び血管新生を阻害)できることが理解される。あらゆる理論で束縛されることなく、本発明のsiRNAは、触媒作用的方法で前記標的mRNAを分解するためにRISCを誘導すると考えられる。従って、細胞接着若しくは細胞接着仲介性病状に対する標準的な治療法と比較して、治療的効果を得るために必要とされる、対象に投与するsiRNAは著しく少ない。
【0103】
当業者は、対象のサイズ及び体重、新血管新生の程度若しくは病状進行度、年齢、対象の健康や性別、投与経路、及び、投与が局所的か全身的かどうか、などの要因を考慮にいれることによって、ある対象に投与される本発明のsiRNAの有効量を容易に決定できる。一般的に、本発明のsiRNAの有効量は、新血管新生部位或いはその周辺の細胞間濃度で約1ナノモル(nM)〜約100nM、好ましくは約2nM〜約50nM、より好ましくは約2.5nM〜約10nMを含む。特に好ましい本発明のsiRNAの有効量は、新血管新生部位或いはその周辺の細胞間濃度で約1nM、約5nM、若しくは約25nMを含むことができる。siRNAのより多くの或いはより少ない有効量を投与され得ることも考えられる。
【0104】
本発明の方法は、非病原性な血管新生、すなわち、対象における正常な過程に起因する血管新生を阻害するために用いられ得る。非病原性血管新生の例としては、子宮内膜新血管新生、及び脂肪組織或いはコレステロールの産生に関与する過程などがある。従って、本発明は、例えば、体重をコントロールする或いは脂肪消失を促進する、コレステロールレベルを減少する、月経周期の阻害、若しくは堕胎薬としてなどの目的で、非病原性血管新生を阻害するための方法を提供する。
【0105】
本発明の方法は、血管新生病、すなわち、病原性が不適切な或いは無制御な血管新生を導く疾患、に関連した血管新生も阻害することができる。例えば、多くの癌性固体腫瘍は、その主要部位やその周辺に血管新生を誘導することによって、それら自身のために十分な血液供給を生む。この腫瘍誘導性血管新生は、腫瘍成長にしばしば必要とされ、転移細胞が血流に入ることを可能にする。
【0106】
他の血管新生病は、AMD、乾癬、リウマチ性関節炎、及び他の炎症性疾患を含む。これらの疾患は、新血管新生の領域における新しい血管の形成によって起こる正常組織の破壊によって特徴付けられる。例えば、AMDのwet型において、脈絡叢は毛細血管に浸潤され破壊されている。AMDにおける脈絡叢の血管新生−駆動型の破壊は、最終的に部分的或いは完全な失明を引き起こす。
【0107】
別の実施形態において、本発明は、本発明のsiRNAによる標的mRNAのRNAi仲介性分解によって、I型糖尿病から生じる合併症を有する対象を治療する方法を提供する。好ましくは、本発明の方法によって治療されるI型糖尿病から生じた合併症は、糖尿病性網膜症、糖尿病性ニューロパチー、糖尿病性腎症、及び大血管性疾患(冠動脈疾患、脳血管疾患、及び末梢血管疾患)である。
【0108】
好ましくは、本発明のsiRNAは、例えば、乳癌、肺癌、頭頚部癌、脳癌、腹腔癌、大腸癌、直腸結腸癌、食道癌、胃腸癌、神経膠腫、肝癌、舌癌、神経芽細胞腫、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、網膜芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、多発性骨髄腫、皮膚癌(例えば黒色腫)、リンパ腫、及び血液癌などの癌に関連した固体腫瘍の成長若しくは転移を阻害するために用いられる。
【0109】
より好ましくは、本発明のsiRNAは、糖尿病性網膜症、糖尿病性ニューロパチー、糖尿病性腎症、及び大血管性疾患などのI型糖尿病から生じる合併症を治療するために用いられる。
【0110】
特に好ましくは、本発明のsiRNAは、例えば、AMDにおける脈絡叢新血管新生を阻害するためなど、眼球新血管新生を阻害するために用いられる。
【0111】
血管新生病を治療するために、本発明のsiRNAは、本発明のsiRNAとは異なる医薬品との組み合わせで、対象に投与され得る。或いは、本発明のsiRNAは、血管新生病を治療するように設計された別の治療方法と組合わせて、対象に投与され得る。例えば、本発明のsiRNAは、癌を治療するために或いは腫瘍転移を阻止するために従来用いられている治療方法(例えば、放射線療法、化学療法、及び手術)と組合わせて投与され得る。腫瘍を治療するために、本発明のsiRNAは、好ましくは、放射線療法を組合わせて、若しくはシスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ダウノルビシン、若しくはタモキシフェンなどの化学療法薬と組合わせて、対象へ投与される。
【0112】
本発明において、本発明のsiRNAは、裸のsiRNAとして、運搬試薬と併せて、若しくは前記siRNAを発現する組換えプラスミド或いはウイルス性ベクターとして、対象へ投与され得る。
【0113】
本発明のsiRNAと併せて投与するための適切な運搬試薬は、Mirus Transit TKO親油性試薬、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、或いはポリカチオン(例えば、ポリリシン)、若しくはリポソームを含む。好ましい運搬試薬は、リポソームである。
【0114】
リポソームは、網膜若しくは腫瘍組織など、特定の組織への前記siRNAの運搬に役立ち、前記siRNAの血液半減期も増加する。本発明における使用に適したリポソームは、中性若しくは負に荷電したリン脂質やコレステロールなどのステロールを一般的に含む、標準的なベシクル(小胞)形成脂質から形成される。脂質の選択は、望ましいリポソームサイズや血流におけるリポソームの半減期などの要因を考慮することによって一般的に導かれる。リポソームを調整するための様々な方法は既知であり、例えば、Szoka et al.(1980),Ann.Rev.Biophys.Bioeng.2:467、及び米国特許番号第4,235,871号、第4,501,728号、第4,837,028号、及び第5,019,369号に記載されており、これら全体の開示は、この参照により本明細書に組み込まれる。
【0115】
好ましくは、本発明のsiRNAを被包するリポソームは、血管新生部位で或いはその周辺でAng1、Ang2、若しくはTie2を発現している内皮細胞などの細胞を前記リポソームが標的とすることができるようなリガンド分子を有している。例えば、EC表面の抗原に結合したモノクローナル抗体などの、血管ECに広く存在する受容体(レセプター)に結合したリガンドが好ましい。
【0116】
特に好ましくは、本発明のsiRNAを被包する前記リポソームは、単核マクロファージ及び細網内皮性システムによって排除されることを避けるために、例えば、構造の表面に結合したオプソニン化阻害部分を有するように、修飾される。1実施形態において、本発明のリポソームは、オプソニン化阻害部位とリガンドの両方を有することができる。
【0117】
本発明のリポソームを調整する際に用いるオプソニン化阻害部位は、リポソーム膜に結合された一般的に大きい親水性ポリマーである。ここで用いられたように、例えば、膜自体へ脂質可溶性アンカーを挿入することによって、或いは、膜脂質の活性基へ直接結合することによって、それが前記膜に化学的に若しくは物理的に接着した場合、オプソニン化阻害部位は、リポソーム膜に"結合されている"。これらのオプソニン化阻害親水性ポリマーは、マクロファージ−単球システム("MMS")及び、細網内皮性システム("RES")によるリポソームの取り込みを著しく減少する保護表面層を形成する(例えば、米国特許番号第4,920,016号に記載されており、この全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる)。従って、オプソニン化阻害部位で修飾されたリポソームは、修飾されていないリポソームより、より長く循環する。この理由のために、そのようなリポソームは、時々"ステルス(stealth)"リポソームと呼ばれる。
【0118】
ステルスリポソームは、多孔性若しくは"漏出性"の微小血管系から栄養を供給されている組織内で蓄積することで知られている。従って、そのような微小血管系の欠損によって特徴付けられている組織、例えば固体腫瘍などは、これらリポソームを効果的に蓄積するであろう(Gabizon,et al.(1988),P.N.A.S.,USA,18:6949〜53を参照のこと)。加えて、RESによって減少された取り込みは、肝臓や脾臓における深刻な蓄積を阻害することによって、ステルスリポソームの毒性を低くする。従って、オプソニン化阻害部位で修飾された本発明のリポソームは、本発明のsiRNAを腫瘍細胞へ運搬するために特に適している。
【0119】
リポソームを修飾するために適したオプソニン化阻害部位は、好ましくは約500〜約40,000ダルトン、より好ましくは約2,000〜約20,000ダルトンの平均分子量を有する水溶性ポリマーである。そのようなポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、若しくはポリプロピレングリコール(PPG)誘導体、例えば、メトキシPEG、及びPEG或いはPPGステアレート、ポリアクリルアミド或いはポリN−ビニルピロリドンなどの合成ポリマー、直線、分岐、或いはデンドリメリック(dendrimeric)ポリアミドアミン、ポリアクリル酸、例えばカルボキシル基或いはアミノ基が化学的に結合されたポリビニルアルコールやポリキシリトールなどのポリアルコール、及びガングリオシドGMなどのガングリオシドを含む。PEG、メトキシPEG、若しくはメトキシPEGのコポリマー、若しくはそれらの誘導体も適している。加えて、前記オプソニン阻害ポリマーは、PEGのブロックコポリマー、及びポリアミノ酸、多糖類、ポリアミドアミン、ポリエチレンアミン、若しくはポリヌクレオチドであり得る。前記オプソニン化阻害ポリマーは、例えば、ガラクツロン酸、グルコロン酸、マンヌロン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ノイラミン酸、アルギン酸、カラゲナン、アミン化多糖類或いはオリゴ糖(直線或いは分岐)、若しくはカルボキシル化多糖類或いはオリゴ糖(例えばカルボン酸の誘導体と反応した結果、カルボキシル酸と結合している)などの、アミノ酸もしくはカルボキシル酸を含む天然多糖類でもあり得る。
【0120】
好ましくは、前記オプソニン化阻害部位は、PEG、PPG、若しくはそれらの誘導体である。PEG若しくはPEG誘導体で修飾されたリポソームは、時々"PEG化リポソーム"と呼ばれる。
【0121】
前記オプソニン化阻害部位は、多数のよく知られた技術の任意の1つによってリポソーム膜へ結合され得る。例えば、PEGのN−ヒドロキシスクシニミドエステルは、ホスファチジル−エタノールアミン脂質可溶性アンカーへ結合され、次に膜へ結合され得る。同様に、デキストランポリマーは、Na(CN)BH及びテトラヒドロフランと水(30:12の割合)などの溶媒混合液を用いて、60℃で、還元性アミノ化を介してステアリルアミン脂質可溶性アンカーで誘導体化され得る。
【0122】
本発明のsiRNAを発現する組換えプラスミドは、上で説明された。そのような組換えプラスミドは、直接、若しくはMirus Transit LT1親油性試薬、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェチン、ポリカチオン(例えばポリリシン)、若しくリポソームを含む適切な運搬試薬との組み合わせでも投与され得る。本発明のsiRNAを発現する組換えウイルス性ベクターも、上述されており、Ang1、Ang2、若しくはTie2を発現している対象の細胞へそのようなベクターを運搬するための方法は、当業者の技術範囲内である。
【0123】
本発明のsiRNAは、Ang1、Ang2、若しくはTie2を発現している細胞へ前記siRNAを運搬するために適した任意の手段によって、対象へ投与され得る。例えば、前記siRNAは、遺伝子銃、電気穿孔法によって、若しくは他の適切な非経口的或いは経腸性経路によって、投与され得る。
【0124】
適切な経腸性投与経路は、経口、直腸、若しくは鼻腔内運搬を含む。
【0125】
適切な非経口的投与経路は、血管内投与(例えば静脈内大量瞬時投与、静脈内注入、動脈内大量瞬時投与、動脈内注入、及び脈管腔増へのカテーテル滴下)、組織周囲及び組織内投与(例えば、腫瘍周囲及び腫瘍内注射、網膜内注射、或いは網膜下注射)、皮下注射或いは(例えば浸透圧性ポンプによる)皮下注入を含む堆積、例えばカテーテル或いは他の配置装置(例えば角膜ペレット或いは坐薬、目薬、若しくは多孔性、非多孔性、或いはゼラチン物質からなる移植片)などの新血管新生部位の或いはその周辺の領域への直接的(例えば局所的)施用、及び吸引を含む。適切な配置装置は、眼球移植片(米国特許番号第5,902,598号、及び第6,375,972号に記載されている)、及び生物分解性眼球移植片(米国特許番号第6,331,313、号に記載されており、これら全体の開示は、この参照により本明細書に組み込まれる)を含む。そのような眼球移植片は、Control Delivery Systems,Inc.(Watertown,マサチューセッツ州)及びOculex Pharmaceuticals,Inc.(Sunnyvale,カリフォルニア州)から利用可能である。
【0126】
好ましい実施形態において、前記siRNAの注射若しくは注入は、親血管新生部位で、或いはその周辺で行われる。例えば、本発明のsiRNAは、眼の網膜色素上皮細胞へ運搬され得る。好ましくは、前記siRNAは、例えば、下眼瞼或いは結膜円蓋に対しては液体或いはゲル形態で、若しくは電気穿孔法或いはイオン注入によって、眼へ局所的に投与され、これは当業者の技術範囲内である(例えば、Acheampong AA et al,2002,Drug Metabol.and Disposition 30:421〜429を参照のこと、この全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる)。
【0127】
一般的に、本発明のsiRNAは、約5マイクロリットル〜約75マイクロリットル、好ましくは約10マイクロリットル〜約30マイクロリットルの容量で、眼へ局所的に投与される。本発明のsiRNAは、水溶性溶液に非常に可溶し、75マイクロリットル以上の容量でのsiRNAの眼への局所的滴下は、流出や排出による眼からのsiRNAの損出を生じることが理解される。従って、約5マイクロリットル〜約75マイクロリットルの容量での眼への局所的滴下によって、高濃度のsiRNA(例えば約10〜約200mg/ml、若しくは約100〜約1000nM)を投与することが好ましい。
【0128】
特に好ましい非経口的投与経路は、眼内投与である。本発明のsiRNAの眼内投与は、この投与経路によると前記siRNAが眼へ入ることが可能である限り、眼への注射或いは直接(例えば局所的)投与によって達成され得る。上述した眼への局所的経路の投与に加えて、適切な眼内経路の投与は、硝子体内、網膜下、テノン嚢下(subtenon)、眼窩周囲及び眼窩後、トランス−角膜、及びトランス−強膜投与を含む。そのような眼内投与経路は、当業者の技術範囲内であり、例えば、Acheampong AA et al,2002,supra、Bennett et al.(1996),Hum.Gene Ther.7:1763〜1769、及びAmbati J et al.,2002,Progress in Retinal and Eye Res.21:145〜151を参照のこと(これら全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる)。
【0129】
本発明のsiRNAは、単一用量で、若しくは複数用量で投与され得る。本発明のsiRNAの投与が注入によるものである場合、前記注入は単一持続性用量であり得る、若しくは複数注入によって運搬され得る。
【0130】
当業者は、本発明のsiRNAを所定の対象へ投与するための適切な用量も容易に決定できる。例えば、前記siRNAは、新血管新生部位へ或いはその周辺へ、単一注射或いは堆積によって対象へ1度投与され得る。或いは、前記siRNAは、毎日若しくは毎週、複数回対象へ投与され得る。例えば、前記siRNAは、約3〜約28週間、より好ましくは約7〜約10週間の期間で1週間に1回、対象へ投与され得る。好ましい用量において、前記siRNAは、1週間に1回で7週間、新血管新生部位へ或いはその周辺へ(例えば硝子体内で)注射される。不確定の長さの期間に対する本発明のsiRNAの周期的な投与は、wet AMD或いは糖尿病性網膜症などの慢性的な新血管新生疾患を患っている対象に対して必要とされることが理解される。
【0131】
用量が複数投与である、或いはそれぞれが異なる標的配列を有している2若しくはそれ以上のsiRNAの投与である場合、対象へ投与されるsiRNAの有効量は、全体の用量以上に投与されるsiRNAの総量を有することができることが理解される。
【0132】
本発明のsiRNAは、本分野では既知である技術に従って、対象へ投与される前に、好ましくは薬学的組成物として処方される。本発明の薬学的組成物は、少なくとも無菌で発熱物質がないものとして特徴付けられる。ここで用いられたように、"薬学的製剤"は、ヒト及び獣医学使用に対する製剤を含む。本発明の薬学的組成物を調整するための方法は、当業者の技術範囲内であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Science(17th ed.,Mack Publishing Company,Easton,ペンシルバニア州(1985))に記載されており、この全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる。
【0133】
本発明の薬学的処方は、生理学的に許容可能な担体媒体と混合された、本発明のsiRNA(例えば0.1〜90重量%)若しくはそれらの生理学的に許容可能な塩類を含む。好ましい生理学的に許容可能な担体媒体は、水、緩衝化水、正常生理食塩水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸、及びそれらの同等物である。
【0134】
本発明の薬学的組成物は、従来の薬学的賦形剤及び/若しくは添加物も有することができる。適切な薬学的賦形剤は、安定剤、抗酸化剤、重量モル浸透圧濃度調整剤、緩衝液、及びpH調整剤を含む。適切な添加物は、生理学的な生体適合性緩衝液(例えばトロメタミン塩酸塩)、キレート(chelants)の添加物(例えば、DTPA若しくはDTPAビスアミドなど)或いはカルシウムキレート複合体(例えばカルシウムDTPA、CaNaDTPAビスアミド)、若しくは任意に、カルシウム或いはナトリウム塩(例えば、塩酸カルシウム、アルコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、或いは乳酸カルシウム)を含む。本発明の薬学的組成物は、液体形態での使用に対しては包装され得る、若しくは凍結乾燥され得る。
【0135】
眼への局所的投与に対して、従来の眼内運搬試薬を用いることができる。例えば、局所的眼内運搬に対する本発明の薬学的組成物は、上述したように、生理食塩水、角膜浸透増強剤、不溶性粒子、ワセリン或いは他のゲルベース軟膏、ポリマー、眼への滴下用に粘性が増加されたポリマー、若しくは粘膜付着性ポリマーを有することができる。好ましくは、眼内運搬試薬は、角膜浸透を増加する、若しくは粘性効果を介して、或いは角膜上皮を覆うムチン層との物理化学的相互作用によってsiRNAの眼球前面保持を延長する。
【0136】
局所的眼内運搬に適切な不溶性粒子は、リン酸カルシウム粒子(Bellらによる米国特許番号第6,355,271号に記載されており、この全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる)を含む。眼への滴下用に粘性が増加されたポリマーは、例えば、poloxamer 407(例えば25%の濃度で)、セルロースアセトフタレート(例えば30%の濃度で)、若しくは例えばGelrite(登録商標)(CP Kelco,Wilmington,デラウェア州で購入可能)などの低級アセチルゲル化(gellan)ガムなどのポリエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーを含む。適切な粘膜付着性ポリマーは、例えばカルボキシル基、ヒドロキシル基、アミド基及び/若しくは硫酸基などの複数の親水性機能基を有する親水コロイド、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸、高分子量ポリエチレングリコール(例えば>200,000平均分子量)、デキストラン、ヒアルロン酸、ポリガラクツロン酸、及びキシロカン(xylocan)を含む。適切な角膜浸透増強剤は、シクロデキストリン、ベンザルコニウム塩化物、ポリオキシエチレングリコールラウリルエーテル(例えばBrij(登録商標)35)、ポリオキシエチレングリコールステアリルエーテル(例えばBrij(登録商標)78)、ポリオキシエチレングリコールオレイルエーテル(例えばBrij(登録商標)98)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジギトニン、タウロコール酸ナトリウム、サポニン、及びCremaphor ELなどのポリオキシエチレン化ヒマシ油を含む。
【0137】
固体組成物のために、例えば、薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、炭酸マグネシウム、及びそれらの同等物など、従来の非毒性固体担体が使用され得る。
【0138】
例えば、経口投与のための固体薬学的組成物は、上述した任意の担体及び賦形剤、及び10〜95%、好ましくは25%〜75%の本発明の1若しくはそれ以上のsiRNAを含むことができる。エアロゾル(吸引)投与のための薬学的組成物は、上述したようにリポソームで被包された、0.01〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の本発明の1若しくはそれ以上のsiRNA、及び噴霧剤を有することができる。担体は、例えば、鼻腔内運搬に対してレシチン、など要望通りに含まれることもできる。
【0139】
本発明は以下の限定されない実施例によって説明される。
【実施例1】
【0140】
Ang2 mRNAを標的としたsiRNAによる培養ヒト細胞におけるAng2発現の阻害
ヒト胚性腎細胞(HEK−293細胞)を24ウェルプレートにおいて、37℃、5%CO、オーバーナイトで標準増殖培地中で培養した。細胞が約70%コンフルエンスになった次の日に形質転換を行った。HEK−293細胞を、CaPi形質転換試薬と混合したヒトAng2("hANG2")mRNAを標的にした12の異なるsiRNA(各25nM)で別々に形質転換した。これら12のsiRNAは、表1に記載した配列を標的にしており、全てのsiRNAは3’TTオーバーハングを各鎖に有している。対照細胞は、CaPi形質転換試薬と混合したsiRNAのないCaPi形質転換試薬で、若しくは高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP siRNA)を標的とした非特異的siRNAで形質転換した。形質転換48時間後、増殖培地を全てのウェルから除去し、Quantiline human ANG2 ELISAプロトコールに記載されたように(この全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる)、ヒトANG2 ELISA(R&D systems,Minneapolis,ミネソタ州)を実行した。ELISA結果は、AD340プレートリーダー(Beckman Coulter)で解析し、図1に報告した。
【0141】
【表1】

【0142】
図1から分かるように、増殖培地に分泌されたhANG2タンパク質のレベルは、hANG2#2、#3、#4、#9及び#10 siRNAで形質転換したHEK−293細胞において減少した。非特異的siRNAでのHEK−293細胞の形質転換は、hANG2タンパク質レベルに影響を与えなかった。
【0143】
各ウェルから増殖培地を除去した後、細胞毒性アッセイを以下のように各細胞に行った。10% AlamarBlue(Biosource,Camarillo,カリフォルニア州)を含む完全な増殖培地を各ウェルに添加し、5%CO、37℃で3時間インキュベーションした。細胞増殖は、AlamarBlueを含む培地の色の変化(細胞代謝活性に起因する)を検出することによって測定された。細胞毒性アッセイ結果は、AD340プレートリーダー(Beckman Coulter)で解析し、図2に報告した。
【0144】
図2から分かるように、hANG2#8及び#12 siRNAでのHEK−293細胞の形質転換は、対照細胞と比較すると、細胞増殖のわずかな減少を生じた。残りのhANG2 siRNAは、対照細胞と比較しても細胞毒性は見られなかった。
【0145】
細胞毒性アッセイを行った後、各ウェルにおけるAlamarBlue含有培地を完全に除去し、RNAqueous RNA単離キット(Ambion,Austin,テキサス州)を用いてRNA抽出を行った。HEK−293細胞におけるhANG2 mRNAのレベルは、定量的逆転写酵素/ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR)アッセイによって測定した。ヒトグリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素(GAPDH)mRNAを、内部対象として用いた。HEK−293細胞におけるhANG2 mRNAのレベルは、対照と比較すると、hANG2 siRNAでの形質転換によって減少し、これは図1に示したhANG2タンパク質の減少と一致するパターンを示した。
【実施例2】
【0146】
培養ヒト細胞におけるhAng2#2及び#3の用量反応
HEK−293細胞は、上述した実施例1の通り、約70%コンフルエンスになるまで増殖させた。次に細胞を、CaPi形質転換試薬において1ナノモル("nM")、5nM、或いは25nM用量のhANG2#2或いは#3 siRNAで、若しくは形質転換試薬のみで形質転換した。hANG2タンパク質レベルは、実施例1に記載したようにANG2 ELISAによって、形質転換48時間後の増殖培地において測定し、その結果は図3に示した。
【0147】
図3から分かるように、hANG2タンパク質レベルは、hANG2#2及び#3 siRNAで形質転換されたHEK−293細胞において、用量依存的に減少した。全ての用量のhANG2#2 siRNA及び5nMと25nM用量のhANG2#3は、対照細胞と比較して、増殖培地に分泌されたhANG2タンパク質のレベルが減少した。1nM用量のhANG2#3 siRNAは、形質転換試薬のみでニセ形質転換された対照細胞と比較して、hANG2タンパク質レベルは減少しなかった。しかしながら、1nM hANG2#3 siRNAで形質転換された細胞から分泌されたhANG2タンパク質のレベルは、非特異的siRNAで形質転換された対照細胞と比較して、わずかに減少した。非特異的siRNAでの形質転換は、hANG2タンパク質レベルに影響を及ぼさなかった。
【0148】
対照HEK−293細胞と、異なる用量のhANG2#2、#3 siRNAで形質転換されたHEK−293細胞とに、上の実施例1に記載したように細胞毒性アッセイを行った。図4から分かるように、5nM hANG2#2 siRNAでのHEK−293細胞の形質転換は、形質転換試薬のみでニセ形質転換された対照細胞と比較すると、わずかに細胞増殖を減少した。非特異的siRNAで形質転換された対照細胞と比較して、5nM hANG2#2 siRNA用量によっては、細胞毒性は生じなかった。残りの用量のhANG2#2若しくは#3 siRNAは、非特異的siRNAで、或いは形質転換試薬のみで形質転換した対照細胞と比較して、明らかな細胞毒性は見られなかった。
【実施例3】
【0149】
Ang1、Ang2、若しくはTie2を標的としたsiRNAでのストレプトゾトシン誘導性糖尿病性網膜症の治療
糖尿病性網膜症を患った個人の網膜における血管漏出及び非灌流は、空間的に及び時間的に白血球静止(leukocyto stasis)に関連している(Miyamoto K et al.(1999),Proc.Nat.Acad.Sci.USA 96(19):10836〜41を参照し、この全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる)。Ang1、Ang2、若しくはTie2を標的としたsiRNAの硝子体内注射は、糖尿病ラットにおける白血球静止を減少し、さらに網膜血管透過性も減少するであろうと予想された。
【0150】
Miyamoto K et al.(1999),supraに記載されたように、ロングエバンスラット(約200g)に、糖尿病を誘導するために、オーバーナイト後、クエン酸緩衝液中のストレプトゾトシンを硝子体内に注射した。ロングエバンスラット(約200g)は、対照として、オーバーナイト後、クエン酸緩衝液のみ注射した。毎日、血清血糖を測定し、血圧を記録した。対照動物と比較して、血清血糖のレベルの上昇は、糖尿病であると考えられる。
【0151】
Ang1、Ang2、若しくはTie2("実験的siRNA")を標的としたsiRNAの硝子体内注射は、各ラットにおいてODを実行する。非特異的siRNAは、対照OSとして注射される。全体の群スキームは、表2に示される通りである。
【0152】
【表2】

【0153】
Miyamoto K et al.(1999),supraに記載されているように、処理7日後、ラットはアクリジンオレンジ白血球蛍光光度分析(Acridine Orange Leukocyte Fluorography、AOLF)にさらされた。簡潔には、ラットに麻酔し、その瞳孔をトロピカミドで拡張した。次にラットに、無菌生理食塩水と懸濁したアクリジンオレンジを硝子体内に注射した。血球静止に対して、各眼の基底を観察し、スキャニングレーザー検眼鏡(光源としてオレゴンブルーレーザー)で画像化した。次にラットは、蛍光デキストランで灌流され、眼をさらに画像化した。白血球静止の密度は、10ディスク直径半径における光輝(bright)ピクセルのパーセンテージとして計算された。この白血球静止の密度は、終了点として用いられた。
【0154】
同じ7日目、Miyamoto K et al.(1999),supra.に記載されたように、ラットにアイソトープ希釈技術を施し、血管漏出を定量化した。簡潔には、ラットに、第1点においてBSA中のI125を硝子体内に注射し、第2点においてI131を注射した。ラットは、第2の注入数分後に屠殺し、網膜を単離し、動脈サンプルをとった。網膜と動脈サンプルは、ヨウ素クリアランスの定量的インデックスを用いて網膜における活性を補正した後、γ−分光計を用いて解析した。次に、測定値を、投与された正確な用量、体重及び組織重量に対してノーマライズ(正常化)した。γ活性の補正された量は、網膜における血管漏出のマーカーとして用いた(第2の終了点)。γ活性は、実験動物の網膜において減少し、血管漏出の減少を示すと予想された。
【実施例4】
【0155】
Ang1、Ang2、若しくはTie2を標的としたsiRNAでのVEGF誘導性血管透過性及び白血球静止の治療
眼におけるVEGFの存在は、網膜白血球静止を引き起こし、これは網膜における血管透過性の増加と毛細血管非灌流を引き起こす。例えば、Miyamoto K et al.(2000),Am.J.Pathol.156(5):1733〜9を参照のこと(この全体の開示は、この参照により本明細書に組み込まれる)。Ang1、Ang2、或いはTie2を標的としたsiRNAの硝子体内注射は、ラットにおいてVEGFを硝子体内に注射することによって生じた透過性と白血球静止を減少するのではないかと予想された。
【0156】
ロングエバンスラット(約200g)に麻酔をし、緩衝液OU中のVEGFを硝子体内に注射した。Ang1、Ang2、或いはTie2を標的としたsiRNA("実験的siRNA")を、硝子体内注射によって各ラットへ同時に運搬した(OD)。非特異的siRNAは、対照として硝子体内に注射した(OS)。付加的な対照としては、緩衝液のみ(VEGFなし)を注射したラットを含む。全体の群スキームは、表3に示した通りである。
【0157】
【表3】

【0158】
注射後24時間で、ラットをAOLFにさらし、実施例3で記載したようにアイソトープ希釈技術を行った。
【実施例5】
【0159】
Ang1、Ang2、若しくはTie2を標的としたsiRNAでの角膜/角膜縁損傷にさらされた眼における新血管新生の治療
眼球表面の損傷は、角膜の角膜縁幹細胞の破壊を引き起こすことがある。これらの細胞の破壊は、失明を引き起こす可能性があるVEGF依存性角膜新血管新生を誘導する。新血管新生を促進するVEGFは、眼球表面の損傷後に角膜を浸潤する好中球及び単球によって供給される。例えば、Moromizato Y et al.(2000),Am.J.Pathol.157(4):1277〜81を参照のこと(この全体の開示は、この参照により本明細書に組み込まれる)。Ang1、Ang2、或いはTie2を標的としたsiRNAは、角膜縁損傷後の角膜へ適用すると、マウスにおける角膜の新血管新生の領域が結果として減少すると予想される。新血管新生の領域は、直接測定され得る。或いは、角膜新血管新生の減少は、角膜内のVEGF産生性多形核細胞の数が減少することから推測され得る。
【0160】
Moromizato Y et al.supra.に記載されたように、角膜新血管新生は、角膜縁を損傷することによってC57B1/6中に誘導される。簡潔には、マウスを麻酔し、水酸化ナトリウムを角膜に適用した。角膜及び角膜縁上皮を、角膜ナイフを用いて切除した(OU)。Ang1、Ang2、或いはTie2を対象としたsiRNAを除去後すぐに、角膜表面へ適用し(OD)、これを1日3回、実験期間(7日間)行った。非特異的siRNAは、対照として、同じ用量で投与された(OS)。
【0161】
Moromizato Y et al.,supra.に記載されたように、角膜及び角膜縁上皮の除去後2、4、及び7日目に、マウスの角膜新血管新生の程度を評価した。簡潔には、内皮特異的、フルオレセイン共役レクチンを硝子体内に注射した。注射30分後、マウスを屠殺し、眼を回収し、24時間ホルマリンで固定した。角膜のフラットマウントを、蛍光性顕微鏡観察下で採取し、解析するためにOpenlabソフトウェアへ取り込んだ。Openlabソフトウェアを用いて、蛍光の閾値レベル、すなわち血管のみが見える範囲以上で設定した。蛍光性血管の領域及び角膜の領域(角膜縁アーケードによって分画される)を計算した。血管の領域は、総角膜領域によって分割され、この値は新血管領域のパーセンテージと同等である。新血管領域のパーセンテージは、処理群と対照群で比較した。
【0162】
Moromizato Y et al.,supra.に記載されたように、角膜及び角膜縁上皮の除去後2、4、及び7日目に、角膜多形核細胞(PMNs)を定量化するために付加的なマウスを屠殺した。簡潔には、マウスを屠殺し、眼を回収し、24時間ホルマリンで固定した。ホルマリン固定の後、脱核された眼をパラフィンで被包し、切片化した。角膜の解剖学的中心と一致するような1つのパラフィン切片を各眼から選択し、毛顕微鏡観察に用いた。この1つの切片上のPMNs(多小葉細胞として同定される)を計測し、この切片におけるPMNsの数は、処理群と対照群で比較した。
【実施例6】
【0163】
Ang1、Ang2、或いはTie2を標的としたsiRNAでのレーザー誘導性脈絡叢新血管新生の治療
ブルッフ(Bruch’s)膜を破壊するレーザー光凝固は、wet黄斑性分解に見られるのと同様に、脈絡叢新血管新生(CNV)を誘導する。Ang1、Ang2、或いはTie2を標的としたsiRNAの硝子体内注射は、マウスにおけるレーザー誘導性CNVを減少すると予想された。
【0164】
Sakurai E et al.(2003),Invest.Ophthalmol.&Visual Sci.44(6):2743〜9(この全体の開示は、この参照により本明細書に組み込まれる)に記載された手順によって、マウスにCNVを誘導した。簡潔には、C57B1/6マウスを麻酔し、それらの瞳孔をトロピカミドで拡張した。マウスの網膜に、各網膜の9、12、及び3時の位置で1レーザースポットずつレーザー光凝固化した(OU)。レーザー光凝固化に続いてすぐに、Ang1、Ang2、或いはTie2を標的としたsiRNAを硝子体内に注射した(OD)。非特異的siRNAは、対照として、硝子体内に注射した(OS)。
【0165】
Sakurai E et al.(2003),supra.に記載されたように、レーザー光凝固後14日で、マウスを屠殺し、CNV領域を定量化するための網膜フラットマウントを調整した。簡潔には、マウスを麻酔し、胸部を開き、下行大動脈をクロスクランプ(cross−clamped)した。次に、右心房を挟み、蛍光標識デキストランを、左心室へゆっくりと注射した。
【0166】
蛍光標識デキストランの注射後、眼を脱核し、パラホルムアルデヒドで24時間固定した。次に、前眼房及び網膜を除去し、各脈絡叢のフラットマウントを解析のために調整した。脈絡叢フラットマウントは、蛍光顕微鏡観察下でそれぞれの写真を撮ることによって解析し、Openlabソフトウェアにその写真を取り込んだ。Openlabソフトウェアを用いて、新血管新生の領域の輪郭を描き、定量化し、既知のレーザー位置が蛍光タフトと比較されていることを確認した。処理された動物の新血管領域は、対照動物の新血管領域と比較した。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】図1は、siRNA候補のサイレンシング効果を示した柱状グラフである。これらは、hANG2 mRNAを標的とした12の異なるsiRNA(hANG2#1〜hANG12)、高感度緑色蛍光タンパク質("EGFP")を標的とした対照非特異的siRNA、若しくは、siRNAを含まない形質移入試薬("なし")で形質移入(トランスフェクト)されたHEK−293細胞を含む組織培養ウェルから除去された増殖培養液中のヒトアンジオポエチン2("hANG2")タンパク質のレベルによって測定されたものである。hANG2タンパク質レベルは、増殖培養液の1ミリリットル当たり何ピコグラムのタンパク質が含まれているかで標示しており(pg/ml)、これは形質移入後48時間でhANG2 ELISAを用いて測定された。
【図2】図2は、hANG2 mRNAを標的とした12の異なるsiRNA(hANG2#1〜hANG2#12)で形質移入されたHEK−293細胞において細胞毒性がないことを示した柱状グラフである。対照細胞は、高感度緑色蛍光タンパク質("EGFP")を標的とした非特異的siRNA、若しくはsiRNAを含まない形質移入試薬で形質移入された("なし")。細胞毒性は、形質移入試薬のみで処理した細胞に対するsiRNAで処理した細胞の増殖パーセンテージとして測定した。
【図3】図3は、HEK−293細胞によって分泌されたhANG2タンパク質のレベルにおけるhANG2#2及びhANG2#3の増加用量のサイレンシング効果を示した柱状グラフである。HEK−293細胞は、1ナノモル("nM")、5nM、若しくは25nMのhANG2#2或いはhANG2#3 siRNAで形質移入された。対照細胞は、高感度緑色蛍光タンパク質("EGFP")を標的とした非特異的siRNA、若しくはsiRNAを含まない形質移入試薬で形質移入された("なし")。hANG2タンパク質レベルは、増殖培養液の1ミリリットル当たり何ピコグラムのタンパク質が含まれているかで標示しており(pg/ml)、これは形質移入後48時間でhANG2 ELISAを用いて測定された。
【図4】図4は、hANG2#2及びhANG2#3 siRNAの増加用量で形質移入されたHEK−293細胞において細胞毒性がないことを示した柱状グラフである。対照細胞は、高感度緑色蛍光タンパク質("EGFP")を標的とした非特異的siRNA、若しくはsiRNAを含まない形質移入試薬で形質移入された("なし")。細胞毒性は、形質移入試薬のみで処理した細胞に対するsiRNAで処理した細胞の増殖パーセンテージとして測定した。
【配列表】































































































































【特許請求の範囲】
【請求項1】
センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を有する単離siRNAであって、
前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、RNA二本鎖を形成しており、前記センスRNA鎖は、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2における約19〜約25の近接ヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有するものである、単離siRNA。
【請求項2】
請求項1のsiRNAにおいて、
前記ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNA配列の同族体は、配列ID番号4、配列ID番号5、配列ID番号6、若しくは配列ID番号7である。
【請求項3】
請求項1のsiRNAにおいて、
前記センスRNA鎖は、1つのRNA分子を有し、前記アンチセンスRNA鎖は、1つのRNA分子を有するものである。
【請求項4】
請求項1のsiRNAにおいて、
前記二本鎖を形成するセンスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、一本鎖ヘアピンによって共有結合的に結合されているものである。
【請求項5】
請求項1のsiRNAにおいて、
前記siRNAは、非ヌクレオチド物質をさらに有するものである。
【請求項6】
請求項1のsiRNAにおいて、
前記siRNAは、1若しくはそれ以上のヌクレオチドの付加、欠損、置換若しくは変換をさらに有するものである。
【請求項7】
請求項1のsiRNAにおいて、
前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、ヌクレアーゼ分解に対して安定である。
【請求項8】
請求項1のsiRNAであって、さらに、
3’オーバーハングを有するものである。
【請求項9】
請求項8のsiRNAにおいて、
前記3’オーバーハングは1〜約6ヌクレオチドを有するものである。
【請求項10】
請求項8のsiRNAにおいて、
前記3’オーバーハングは、約2ヌクレオチドを有するものである。
【請求項11】
請求項3のsiRNAにおいて、
前記センスRNA鎖は、第1の3’オーバーハングを有しており、前記アンチセンスRNA鎖は、第2の3’オーバーハングを有するものである。
【請求項12】
請求項11のsiRNAであって、
前記第1と第2の3’オーバーハングは、独立して1〜約6ヌクレオチドを有するものである。
【請求項13】
請求項12のsiRNAにおいて、
前記第1の3’オーバーハングは、ジヌクレオチドを有しており、前記第2の3’オーバーハングは、ジヌクレオチドを有するものである。
【請求項14】
請求項13のsiRNAにおいて、
前記第1と第2の3’オーバーハングを有する前記ジヌクレオチドは、ジチミジル酸(TT)若しくはジウリジル酸(uu)である。
【請求項15】
請求項8のsiRNAにおいて、
前記3’オーバーハングは、ヌクレアーゼ分解に対して安定である。
【請求項16】
センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を有するsiRNAを発現するための核酸配列を有する組換えプラスミドであって、
前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、RNA二本鎖を形成し、前記センスRNA鎖は、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNAにおける約19〜約25の近接ヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有するものである、組換えプラスミド。
【請求項17】
請求項16の組換えプラスミドにおいて、
前記siRNAを発現するための前記核酸配列は、誘導可能な、或いは制御可能なプロモーターを有するものである。
【請求項18】
請求項16の組換えプラスミドにおいて、
前記siRNAを発現するための前記核酸配列は、ヒトU6 RNAプロモーターの制御下でpolyT終止配列と操作可能に連結した配列をコード化したセンスRNA鎖、及びヒトU6 RNAプロモーターの制御下でpolyT終止配列と操作可能に連結した配列をコード化したアンチセンスRNA鎖を有するものである。
【請求項19】
請求項16の組換えプラスミドにおいて、
前記プラスミドは、CMVプロモーターを有するものである。
【請求項20】
センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を有するsiRNAを発現するための核酸配列を有する組換えウイルスベクターであって、
前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、RNA二本鎖を形成し、前記センスRNA鎖は、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNAにおける約19〜約25の近接ヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有するものである、組換えウイルスベクター。
【請求項21】
請求項20の組換えウイルスベクターにおいて、
前記siRNAを発現するための前記核酸配列は、誘導可能な、或いは制御可能なプロモーターを有するものである。
【請求項22】
請求項20の組換えウイルスベクターにおいて、
前記siRNAを発現するための前記核酸配列は、ヒトU6 RNAプロモーターの制御下でpolyT終止配列と操作可能に連結した配列をコード化したセンスRNA鎖、及びヒトU6 RNAプロモーターの制御下でpolyT終止配列と操作可能に連結した配列をコード化したアンチセンスRNA鎖を有するものである。
【請求項23】
請求項20の組換えウイルスベクターにおいて、
前記組換えウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルス、レトロウイルスベクター、及びヘルペスウイルスベクターからなる群から選択されるものである。
【請求項24】
請求項20の組換えウイルスベクターにおいて、
前記組換えウイルスベクターは、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、若しくはモコラ(Mokola)ウイルスからの表面タンパク質でシュードタイピングされるものである。
【請求項25】
請求項23の組換えウイルスベクターにおいて、
前記組換えウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスベクターを有するものである。
【請求項26】
siRNA及び薬学的に許容可能な担体を有する薬学的組成物であって、
前記siRNAは、センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を有しており、前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、RNA二本鎖を形成しており、前記センスRNA鎖は、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNAにおける約19〜約25の近接ヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有するものである、薬学的組成物。
【請求項27】
請求項26の薬学的組成物であって、さらに、
リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、ポリカチオン、若しくはリポソームを有するものである。
【請求項28】
請求項16のプラスミド、若しくはそれらの生理学的に許容可能な塩類、及び薬学的に許容可能な担体を有する薬学的組成物。
【請求項29】
請求項28の薬学的組成物であって、さらに、
リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェチン、ポリカチオン、若しくはリポソームを有するものである。
【請求項30】
請求項20のウイルスベクター、及び薬学的に許容可能な担体を有する薬学的組成物。
【請求項31】
ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNA、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体の発現を阻害するための方法であって、
前記ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNA、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体が分解されるように、センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を有するsiRNAの有効量を対象に投与する工程を有しており、
前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、RNA二本鎖を形成しており、前記センスRNA鎖は、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNAにおける約19〜約25の近接ヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有するものである、方法。
【請求項32】
請求項31の方法において、前記対象は、ヒトである。
【請求項33】
請求項31の方法において、
前記siRNAは、運搬試薬との組み合わせで投与されるものである。
【請求項34】
請求項33の方法において、
前記運搬試薬は、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェチン、ポリカチオン、及びリポソームからなる群から選択されるものである。
【請求項35】
請求項34の方法において、前記運搬試薬は、リポソームである。
【請求項36】
請求項35の方法において、
前記リポソームは、Ang1、Ang2、或いはTie2を発現している細胞を前記リポソームの標的とするリガンドを有するものである。
【請求項37】
請求項36の方法において、前記細胞は、内皮細胞である。
【請求項38】
請求項37の方法において、前記リガンドは、モノクローナル抗体を有するものである。
【請求項39】
請求項35の方法において、
前記リポソームは、オプソニン化阻害部位で修飾されているものである。
【請求項40】
請求項39の方法において、
前記オプソニン化阻害部位は、PEG、PPG、若しくはそれらの誘導体を有するものである。
【請求項41】
請求項31の方法において、
前記siRNAは、組換えプラスミドから発現されるものである。
【請求項42】
請求項31の方法において、
前記siRNAは、組換えウイルスベクターから発現されるものである。
【請求項43】
請求項42の方法において、
前記組換えウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、若しくはヘルペスウイルスベクターを有するものである。
【請求項44】
請求項43の方法において、
前記組換えウイルスベクターは、水疱口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、若しくはモコラ(Mokola)ウイルスからの表面タンパク質でシュードタイピングされるものである。
【請求項45】
請求項42の方法において、
前記組換えウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスベクターを有するものである。
【請求項46】
請求項31の方法において、
2若しくはそれ以上のsiRNAが対象へ投与され、各siRNAは、異なるAng1、Ang2、或いはTie2 mRNA標的配列に実質的に同一なヌクレオチド配列を有するものである。
【請求項47】
請求項31の方法において、
2若しくはそれ以上のsiRNAが対象へ投与され、投与された各siRNAは、異なる標的mRNAからの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列を有するものである。
【請求項48】
請求項31の方法において、
前記siRNAは、経腸的投与経路によって投与されるものである。
【請求項49】
請求項48の方法において、
前記経腸的投与経路は、経口、直腸、及び鼻腔内からなる群から選択されるものである。
【請求項50】
請求項31の方法において、
前記siRNAは、非経口的投与経路によって投与されるものである。
【請求項51】
請求項50の方法において、
前記非経口的投与経路は、血管内投与、組織周辺及び組織内投与、皮下注射或いは堆積、皮下灌流、眼球内投与、及び新血管新生の部位へ或いはその周辺への直接適用からなる群から選択されるものである。
【請求項52】
請求項51の方法において、
前記血管内投与は、静脈内大量瞬時投与注射、静脈内注入、動脈内大量瞬時投与注射、動脈内注入、及び脈管腔増へのカテーテル滴下からなる群から選択されるものである。
【請求項53】
請求項51の方法において、
前記組織周辺及び組織内注射は、腫瘍周辺注射、腫瘍内注射、網膜内注射、及び網膜下注射からなる群から選択されるものである。
【請求項54】
請求項51の方法において、
前記眼球内投与は、硝子体内、網膜内、網膜下、テノン嚢下(subtenon)、眼窩周辺及び眼窩後、トランス角膜、若しくはトランス強膜投与を有するものである。
【請求項55】
請求項51の方法において、
新血管新生部位へ或いはその周辺への前記直接適用は、カテーテル、角膜ペレット、目薬、坐薬、多孔性物質を有する移植片、非多孔性物質を有する移植片、若しくはゼラチン物質を有する移植片による適用を有するものである。
【請求項56】
請求項55の方法において、
前記新血管新生部位は眼の中にあり、新血管新生部位へ或いはその周辺への前記直接適用は、目薬により適用を有するものである。
【請求項57】
対象における血管新生を阻害する方法であって、
センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を有するsiRNAの有効量を対象へ投与する工程を有しており、
前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、RNA二本鎖を形成しており、前記センスRNA鎖は、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNAにおける約19〜約25の近接ヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有するものである、方法。
【請求項58】
請求項57の方法において、前記血管新生は、病原性である。
【請求項59】
請求項57の方法において、前記血管新生は、非病原性である。
【請求項60】
請求項59の方法において、
前記非病原性血管新生は、脂肪組織の産生、若しくはコレステロール産生に関連するものである。
【請求項61】
請求項59の方法において、
前記非病原性血管新生は、子宮内膜新血管新生を有するものである。
【請求項62】
対象における血管新生病を治療する方法であって、
血管新生病に関連した血管新生を阻害するように、センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を有するsiRNAの有効量を、そのような治療が必要な対象へ投与する工程を有しており、
前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、RNA二本鎖を形成しており、前記センスRNA鎖は、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNAにおける約19〜約25の近接ヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有するものである、方法。
【請求項63】
請求項62の方法において、
前記血管新生病は、癌に関連した腫瘍を有するものである。
【請求項64】
請求項63の方法において、
前記癌は、乳癌、肺癌、頭頚部癌、脳癌、腹腔癌、大腸癌、直腸結腸癌、食道癌、胃腸癌、神経膠腫、肝癌、舌癌、神経芽細胞腫、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、網膜芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、多発性骨髄腫、皮膚癌、リンパ腫、及び血液癌からなる群から選択されるものである。
【請求項65】
請求項62の方法において、
前記血管新生病は、糖尿病性網膜症、及び加齢性黄斑変性症からなる群から選択されるものである。
【請求項66】
請求項65の方法において、前記血管新生病は、加齢性黄斑変性症である。
【請求項67】
請求項62の方法において、
前記siRNAは、血管新生病を治療するための医薬品との組み合わせで投与されるものであり、この医薬品は前記siRNAとは異なるものである。
【請求項68】
請求項67の方法において、
前記血管新生病は癌であり、前記医薬品は、化学療法薬を有するものである。
【請求項69】
請求項68の方法において、
前記化学療法薬は、シスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ダウノルビシン、及びタモキシフェンからなる群から選択されるものである。
【請求項70】
請求項62の方法において、
前記siRNAは、血管新生病を治療するように設計された別の治療方法との組み合わせで、対象へ投与されるものである。
【請求項71】
請求項70の方法において、
前記血管新生病は癌であり、前記siRNAは、放射線療法、化学療法、若しくは手術との組み合わせで投与されるものである。
【請求項72】
対象においてI型糖尿病から生じる合併症を治療する方法であって、
センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を有するsiRNAの有効量を、そのような治療が必要な対象へ投与する工程を有しており、
前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、RNA二本鎖を形成しており、前記センスRNA鎖は、ヒトAng1、Ang2、或いはTie2 mRNAにおける約19〜約25の近接ヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有するものである、方法。
【請求項73】
請求項72の方法において、
I型糖尿病から生じる前記合併症は、糖尿病性網膜症、糖尿病性ニューロパチー、糖尿病性腎症、及び大血管性疾患からなる群から選択されるものである。
【請求項74】
請求項73の方法において、
前記大血管性疾患は、冠動脈疾患、脳血管疾患、若しくは末梢血管疾患である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−523464(P2006−523464A)
【公表日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−513132(P2006−513132)
【出願日】平成16年4月19日(2004.4.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/012072
【国際公開番号】WO2004/094606
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(500429103)ザ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ペンシルバニア (102)
【Fターム(参考)】