説明

アンテナ装置

【課題】非接触で通信を行うRFIDシステムで使用するアンテナ装置において、共振周波数の変動を抑制して生産性の向上を図るとともに、通信距離の確保ないしは通信範囲の拡大を可能にするアンテナ装置を得ることを目的とする。
【解決手段】RFIDシステムで使用されるアンテナ装置1は、磁性シート2と、磁性シート2に近接して配置される基材6に設けられるスパイラル状アンテナ素子で構成されたアンテナ部3とを備え、磁性シート2の外形寸法は、アンテナ部3の外形寸法よりも大きい寸法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非接触で通信を行うRFID(Radio Frequency Identification:無線周波数識別)システムで使用するアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
RFIDシステムでは、ICカードやICタグなどの無線通信媒体とリーダーやリーダー・ライターなどの無線通信媒体処理装置とが電磁誘導方式やマイクロ波方式による通信を行うが、無線通信媒体や無線通信媒体処理装置に用いられるアンテナ装置は、例えば図1に示すように、周囲にある金属の影響を受け易い構造であるので、磁界が弱くなり、通信に必要な相互インダクタンスが不十分となって、通信距離が短くなる、あるいは、通信ができなくなるということが起こる。
【0003】
図12は、無線通信媒体や無線通信媒体処理装置に用いられる従来のアンテナ装置を説明する分解斜視図である。図12に示すように、無線通信媒体や無線通信媒体処理装置に用いられる従来のアンテナ装置101は、基材106の上に、保護部材107、フェライトなどによる磁性シート102、保護部材108をこの順に積層した構成である。つまりアンテナ装置101は、両面を保護部材107,108でコーティングした磁性シート102を基材106の上面に配置した構成である。
【0004】
基材106の上面には、所定形状のループアンテナ素子からなるアンテナ部103が設けられる。また、基材106の上面には、端子接続部105がこのアンテナ部103の一側辺に交差して設けられる。なお、符号109はスルーホールである。この端子接続部105が形成される領域が整合回路104であり、図示してないが整合素子としてチップコンデンサが設けられている。保護部材107、磁性シート102、保護部材108にそれぞれ設けてある切り欠き部は、この整合回路104に対応する領域部分である。この図12に示す従来のアンテナ装置のアンテナ部の等価回路は、図13に示すように、インダクタンスLとコンデンサCとの並列回路で表される。
【0005】
この種のアンテナ装置における上記した問題を解決するため、従来では、磁性シート102をアンテナ部103に近接させて設置する、あるいは当接させて設置することで周囲にある金属の影響を受け難くし、アンテナ部103の発する磁界を強化するなどの工夫がなされている(例えば特許文献1等)。
【0006】
一方、無線通信媒体や無線通信媒体処理装置に用いられるアンテナ装置では、通信の安定性を確保するため、共振周波数を所望の周波数(例えば13.56MHz)に合わせ込む必要がある。
【特許文献1】特開2006−41986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図12に示した構成のアンテナ装置では、アンテナ部103のコイル近傍では非常に強い磁界強度が生ずるので、磁性シート102のアンテナ部103に対する配置位置関係が僅かでもずれると、アンテナ装置101の共振周波数が大きく変化してしまうので、上記したように、周囲にある金属の影響を受け難くするために、磁性シート102をアンテナ部103に近接させ、あるいは当接させて設置する措置を採る場合、その配置位置の位置合わせが面倒であり、整合回路104のチップコンデンサを厳選して精密に共振周波数を合わせ込むことを行っているが、共振周波数ずれによる不良品が多く発生し、生産性の向上が図れないという問題がある。
【0008】
また、図12に示した構成のアンテナ装置では、アンテナ部103や磁性シート102の大きさ、磁性シート102の透磁率などによって共振周波数が容易にずれてしまうので、通信距離の向上を目的にアンテナ部103のコイルターン数を増やしたり、磁性シート102の厚みを厚くしたりすると、同様にアンテナ装置101の共振周波数の調整が困難となり、同様に生産性の向上が図れないという問題がある。
【0009】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであり、非接触で通信を行うRFIDシステムで使用するアンテナ装置において、共振周波数の変動を抑制して生産性の向上を図るとともに、通信距離の確保ないしは通信範囲の拡大を可能にするアンテナ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために、この発明は、RFIDシステムで使用されるアンテナ装置であって、磁性シートと、前記磁性シートに近接して配置される基材に設けられるスパイラル状アンテナ素子で構成されたアンテナ部とを備え、前記磁性シートの外形寸法は、前記アンテナ部の外形寸法よりも大きい寸法であることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、磁性シートの外形寸法をアンテナ部の外形寸法よりも大きくするという簡単な構成で、共振周波数の変動を抑制することができる。したがって、製造工程において共振周波数のずれによる不良品の発生を減らすことができ、生産性の向上が図れ、コストの低減効果が期待できる。そして、アンテナ部に対する磁性シートの位置合わせに高精度を要さず、また基材は片面のみ使用の安価なものでよいなどの措置が採れるのでこの点からもコストの低減が図れる。加えて、通信の安定性が向上するので、通信距離の確保ないしは通信範囲の拡大が可能になる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、非接触で通信を行うRFIDシステムで使用するアンテナ装置を、高い生産性の下で、しかも低コストで得ることができ、所定の通信距離を確保することや通信範囲を拡大することが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に図面を参照して、この発明にかかるアンテナ装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1によるアンテナ装置を説明する分解斜視図である。図2は、図1に示す整合回路部分のA−A線断面図である。
【0015】
図1に示すように、無線通信媒体や無線通信媒体処理装置に用いられるこの実施の形態1によるアンテナ装置1は、基材6の上に、保護部材7、フェライトなどによる磁性シート2、保護部材8をこの順に積層した構成である。つまり、アンテナ装置1は、両面を保護部材7,8でコーティングした磁性シート2を基材6の上面に配置した構成である。
【0016】
基材6の上面には、所定形状のアンテナパターンからなるアンテナ部3が設けられる。また、基材6の上面には、端子接続部5がこのアンテナ部3の一側辺に交差して設けられる。この端子接続部5が形成される領域が整合回路4であり、図2に示す態様でチップコンデンサ12が設けられている。保護部材7、磁性シート2、保護部材8のこの整合回路4に対応する領域部分には、切り欠き部が設けられている。
【0017】
ここで、図1に示すアンテナ装置1の構成要素は、図12に示した従来のアンテナ装置101と同様であるが、この実施の形態1では、磁性シート2の外形寸法を、アンテナ部3のそれよりも大きくしてある。具体的には、磁性シート2の外形寸法は、アンテナ部3のそれよりも1mm以上大きくなっている。これによって、磁性シート2のアンテナ部3に対する貼り合わせ位置が磁性シート2の面内で多少ずれても、アンテナ装置1の共振周波数を安定化させることができる(図5参照)。つまり、磁性シート2のアンテナ部3に対する貼り合わせ作業が容易になるので、生産性の高いアンテナ装置を実現することができる。
【0018】
以下では、まず各構成要素の素性について説明し、その後、製造手順ついて説明する。磁性シート2は、フェライトやパーマロイ、センダスト、珪素合板等の金属材料をアンテナ装置1の素子を構成する形態に形成したもので、0.05mm〜3mm程度の厚さに形成されるシート状(あるいは板状、膜状、層状)のものである。
【0019】
この磁性シート2としては、軟磁性フェライトが好ましい。フェライト粉体は、乾式プレス成形し焼成することによって焼成体、高密度のフェライト焼成体とすることができるが、その密度は3.5g/cm3以上とし、その大きさは結晶粒界以上が好ましい。
【0020】
軟磁性フェライトは、Ni−ZnO3、ZnO、NiO、CuO、または、Fe23、ZnO、MnO、CuOで構成されていてもよい。また、軟磁性フェライトは、アモルファス合金、パーマロイ、電磁鋼、珪素鉄、Fe−Al合金、センダスト合金のいずれかの磁性体の単層であってもよく、フェライト、アモルファス箔、パーマロイ、電磁鋼、センダストの積層体であってもよく、また、様々な磁性体を組み合わせた積層体であってもよい。
【0021】
更には、軟磁性フェライトは、フェライト、アモルファス合金、パーマロイ、電磁鋼、珪素鉄、Fe−Al合金、センダスト合金の単体、または積層体を樹脂、紫外線硬化型樹脂、可視光硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、耐熱性樹脂、合成ゴム、両面テープ、粘着層、またはフィルムの少なくとも1つの手段によりコーティングをおこなったものでもよい。加えて、軟磁性フェライトは、フェライト、アモルファス箔、パーマロイ、電磁鋼、センダスト単体および積層体が、磁性体固片の集合体であってもよい。
【0022】
それらを整合配置することにより、磁性シート2の総厚に対して磁性体を効率よく形成できる。また、全ての磁性体固片がその上下面を略同一面となるように配置することで、磁性シート2に要求される厚み寸法や、機械的強度、その他の物理的性能の範囲において磁性体の最大限の体積を利用することができ、高い磁気性能を得ることができる。
【0023】
このように、磁性シート2は、単層、多層構造、または磁性体固片からなるが、それらを両面テープまたは微粘着テープ等に固定し、ローラーによって粉砕することにより、磁性シート2に柔軟性を与えることができる。そして、磁性シート2の加工性がよくなり、加工時の負荷も少なくなるので、製品の低コスト化も実現できる。また、ローラーによって粉砕することで、磁性シート2に隙間ができるので、磁性シート2の上に樹脂を印刷する場合に、樹脂が磁性シート2に滲み込んでバインダーの役割を果たし、磁性シート2に更に柔軟性をもたせることが可能となる。
【0024】
また、磁性シート2は、樹脂、紫外線硬化型樹脂、可視光硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、耐熱性樹脂、合成ゴム、両面テープ、粘着層、またはフィルムの少なくとも1つの手段によってコーティングを行うことで、柔軟性が高くて優れた耐久性を確保することができるのに加えて、表面抵抗が高く、表面にパターン印刷やめっきなどによる回路形成を行うことが容易となる。
【0025】
また、磁性シート2は、保護部材7、8によってコーティングされるが、上記のように非常に優れた柔軟性を有しているので、パンチング等により、容易に打ち抜き成形加工ができる。したがって、複雑な形状の加工も低コストで、しかも大量に成形できる。磁性シート2を打ち抜き加工することで、図1に示されているように、磁性シート2の開口部に整合回路4、端子接続部5を設けることができる。
【0026】
そして、通常磁性シート2の焼成体は、非常に脆いので、焼成体上にアンテナ部3や整合回路4、端子接続部5を形成することはできないが、上記のように予め磁性シート2を樹脂、紫外線硬化型樹脂、可視光硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、耐熱性樹脂、合成ゴム、両面テープ、粘着層、またはフィルム等の手段(保護部材7、8)によってコーティングすることにより磁性シート2に密着する形でアンテナ部3や整合回路4、端子接続部5を形成することができるので、アンテナ装置1の小型化および薄型化を可能にしている。なお、磁性シート2は、スリットを設けることにより、磁性シート2を容易に分割することができるので、一層柔軟性及び加工性に優れた磁性シート2が実現できる。
【0027】
次に、アンテナ部3を構成するアンテナ素子は、導体をスパイラル状に形成したものである。スパイラルの構造としては、中央に開口部を備えていればよく、そのスパイラル形状は、円形または略矩形または多角形のいずれであってもよい。スパイラル構造とすることで、十分な磁界を発生させ得るので、誘導電力の発生と、相互インダクタンスによる無線通信媒体と無線通信媒体処理装置との通信とを可能にする。
【0028】
アンテナ素子の材質としては、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル等の導電性の金属製線材、金属製板材、金属製箔材、または金属製筒材等から適宜選択することができ、金属線、金属箔、導電性ペースト、めっき転写、スパッタ、蒸着、もしくは、スクリーン印刷により形成することができる。
【0029】
ここで、整合回路4は、基材6に形成されたアンテナ部3のスパイラル状アンテナ素子の導体間を橋渡しするように実装されたチップコンデンサ12とインピーダンス整合を採る分布定数線路とで構成されるので、整合回路4をスパイラル状アンテナ素子上に形成することができ、アンテナ装置1を小型化することができる。このことから、磁性シート2では、切り欠き部を整合回路4に対応する最小限の大きさとすることで、磁性特性に優れたアンテナ装置1を実現するようにしている。
【0030】
なお、磁性シート2の表面抵抗が大きいことから、磁性シート2の表面もしくは磁性シート2の内部に直接回路を形成できるので、従来は別体で形成する必要があったアンテナ部3や整合回路4、端子接続部5を磁性シート2と一体で形成することが可能である。これによって、非常に薄型のアンテナ装置1を形成することが可能となる。
【0031】
次に、基材6は、ポリイミド、PET、ガラエポ基板等で形成することが可能であり、ポリイミド、PET等に形成することで薄くて柔軟性を有するアンテナ部3を形成することができる。また、ポリイミド、PET等のフィルムはコストが安いことから、低価格のアンテナ装置1を作製することが可能となる。
【0032】
この基材6は、アンテナ部3を形成し整合回路を設けるとしても、片面だけでの配線で済むので、スルーホールの必要がなくなり、安価に構成することができ、低コスト化を実現できる。
【0033】
次に、整合回路4は、整合素子として使用するチップコンデンサ12をスパイラル状アンテナ素子の導体間を橋渡しするように実装し、図3に示すように実装するチップコンデンサ12の数に応じてインピーダンスの整合が図れるように構成できるので、不整合による定在波の発生を抑制して動作の安定した損失の少ないアンテナ装置1を実現する。
【0034】
図3は、図1に示すアンテナ部を構成するスパイラル状アンテナ素子が4ターンである場合の整合回路の構成例を示す拡大図である。図3に示すように、整合回路4は、分布定数線路として構成され、スパイラル状アンテナ素子が4ターンであるので、インピーダンスの整合を図るスタブ13が4個設けられている。各分布定数線路をレーザーやルーター等の機械加工によりトリミングを行うことで、アンテナ装置1の共振周波数を調整することができる。また、整合回路4上に形成された端子上にチップコンデンサ12やチップインダクタを搭載することによってもアンテナ装置1の共振周波数を調整することも可能である。
【0035】
図4は、図1に示すアンテナ部を構成するスパイラル状アンテナ素子が4ターンである場合のアンテナ部の等価回路図である。スパイラル状アンテナ素子が4ターンである場合には、4つのチップコンデンサを実装するので、アンテナ部3の等価回路は、図4に示すように、従来例(図13)で示したインダクタンスLとコンデンサCとの並列回路の4個を直列に接続した構成となる。直列に接続された4個のコンデンサCは、それぞれチップコンデンサ12に対応し、整合回路4において、4個のチップコンデンサ12の容量を個別に調整することで、共振周波数の微調整が可能となり、生産性が向上する。
【0036】
次に、端子接続部5は、金、銀、銅、アルミ、ニッケル等の導電性の金属製線材、金属製板材、金属製箔材、または金属製筒材等から適宜選択することができ、金属線、金属箔、導電性ペースト、めっき転写、スパッタ、蒸着、もしくは、スクリーン印刷により形成することができる。
【0037】
この端子接続部5は、スパイラル状アンテナ素子のパターンを跨ぐように形成してもよく、スパイラル状アンテナ素子のパターンを跨がずに端部で対向するように形成してもよい。なお、前記したように、磁性シート2の表面抵抗が大きいことから、この端子接続部5は、磁性シート2の表面に直接形成できる。
【0038】
最後に、保護部材7,8は、樹脂、紫外線硬化型樹脂、可視光硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、耐熱性樹脂、合成ゴム、両面テープ、粘着層、またはフィルムの少なくとも1つの手段が用いられる。アンテナ装置1およびアンテナ装置1を構成する各部品の曲げや撓み等に対する柔軟性だけではなく、耐熱性、耐湿性等の耐候性を考慮して選定を行う。また、アンテナ装置1およびアンテナ装置1を構成する各部品の片面、両面、片側面、両側面または全面を、保護部材7,8によってコーティングしてもよい。
【0039】
特に磁性シート2の焼成体は、そのままでは、通常、曲げや撓み等に対して破壊されてしまうのに対して、焼成体の磁性シート2の片面、両面、片側面、両側面または全面が、樹脂、紫外線硬化型樹脂、可視光硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、耐熱性樹脂、合成ゴム、両面テープ、粘着層、またはフィルム等の手段(保護部材7,8)によってコーティングされていると、優れた柔軟性を有するようになる。しかも、表面抵抗が高くなるので、表面にパターン印刷やめっきなどによる回路形成を行うことが容易になる。
【0040】
次に、アンテナ装置1の製造手順について説明する。まず、磁性シート2の焼成体は、Ni−Zn系フェライトまたはMn−Zn系フェライトのいずれかである。ここでは、磁性シート2の焼成体は、Ni−Zn系フェライトであるとするが、このNi−Zn系フェライトは、Fe23を48.5mol%、ZnOを20.55mol%、NiOを20.55mol%、CuOを10.40mol%の組成比率で配合し、750℃から900℃の範囲にて4時間焼成したものである。
【0041】
このような組成の磁性仮焼粉体3000gと、水溶性結合材としてメトローズ60SH4000(信越化学工業製)135gと、油性可塑材としてセラミゾールC−08(日本油脂製)270gと、蒸留水340gとをミキサーにて20分混合し、さらに3本ロールを3回パスさせて、はい土とし、このはい土を5℃にて96時間保存、熟成した後、真空押し出し成型装置にて厚さ約3mmのシートを作製する。
【0042】
そして、このシートを95℃のドラム式乾燥機の表面をパスさせることで乾燥させ、所定の寸法に切断し、厚さ0.9mmのシートを作製し、900℃にて3時間焼成して厚み0.8mmの焼成体を作製する。
【0043】
その後、この焼成体を両面テープに貼り付け、焼成体の上に保護テープを貼り合わせてローラーを通過させ焼成体を粉砕する。焼成体を粉砕することで磁性シート2に柔軟性を持たせると同時に磁性シート2が柔らかくなるので加工性がよくなり、加工時の負荷も少なくなる。
【0044】
この粉砕した磁性シート2にプレス加工機等により打ち抜き加工を行って、磁性シート2の外形寸法をアンテナ部3の外形寸法よりも1mm以上大きな寸法にすると同時に、切り欠き部を形成する。そして、磁性シート2の両面テープ側の保護シート(保護部材7)を剥がし、基材6上に予め形成して置いたアンテナ部3のスパイラル状アンテナ素子とチップコンデンサ12とを半田にて一体化したアンテナ部品を磁性シート2の両面テープ側に貼り付ける。磁性シート2の外形寸法が大き目になっているので、この貼り付け作業では、高精度の位置合わせが要求されず、所望の共振周波数を安定的に得ることでき(図5参照)、共振周波数ずれの不良品が減るので生産性が向上する。
【0045】
最後に、整合回路4の一部である分布定数線路を必要に応じてレーザー加工装置にてトリミングを行ってアンテナ装置1の共振周波数の調整を行う。このような工程を経てアンテナ装置1が完成する。このアンテナ装置1を携帯電話機等の小型端末に搭載する場合には、スパイラル状アンテナ素子が形成された基材6に両面テープ、接着剤、粘着層、または樹脂等を塗布することで、小型携帯端末の必要な箇所に貼り付ける。
【0046】
ここで、図5を参照して、この実施の形態1によるアンテナ装置1にて実現している共振周波数の特性について説明する。図5は、図1に示す磁性シートの外形寸法をアンテナ部の外形寸法の前後に変化させたときの共振周波数の変化特性を示す図である。図5では、横軸がアンテナ部3の外形寸法に対する差分で表した磁性シート2の寸法(mm)であり、縦軸が共振周波数変動係数(kHz/μm)である。
【0047】
図5に示す測定結果から、アンテナ部3に対して磁性シート2の外形寸法を1mm以上大きくすると、アンテナ装置1の共振周波数の変動係数が小さくなり、共振周波数が安定することが解る。これによって、共振周波数のずれによる不良品の発生を減らすことができ、また、上記のように作業性が向上するので、アンテナ装置の生産性を向上させることができ、コストの低減効果が期待できる。加えて、通信の安定性が向上する。
【0048】
(実施の形態2)
図6は、本発明の実施の形態2によるアンテナ装置の構成を示す断面図である。なお図6では、図2(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号が付されている。ここでは、この実施の形態2に関わる部分を中心に説明する。
【0049】
図6に示すように、この実施の形態2によるアンテナ装置では、図2(実施の形態1)に示した構成において、基材6と保護部材7を介した磁性シート2との間に、低透磁率層9が設けられている。
【0050】
低透磁率層9は、樹脂、紫外線硬化型樹脂、可視光硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、耐熱性樹脂、合成ゴム、両面テープ、粘着層、またはフィルムの少なくとも1つの手段で構成される。
【0051】
この低透磁率層9は、次のような手順で設けてある。即ち、実施の形態1にて説明した製造手順において、磁性シート2の寸法と切り欠き部とを定めた磁性シート2の両面テープ側の保護シート(保護部材7)を剥がした後、基材6上に予め形成して置いたアンテナ部3のスパイラル状アンテナ素子とチップコンデンサ12とを半田にて一体化したアンテナ部品上に30μmの両面テープを貼り付けて低透磁率層9を形成し、この上に磁性シート2の両面テープ側の剥がしておいたシートを貼り付けることで、低透磁率層9をアンテナ部3と磁性シート2との間に介在させてある。
【0052】
このように、アンテナ部3と磁性シート2との間を低透磁率にすることで、アンテナ装置の共振周波数の変動を低く抑えることができる(図7参照)。図7では、アンテナ部3と磁性シート2との間に低透磁率層9を設けた場合とアンテナ部3と磁性シート2とを密着させた場合とにおいて、磁性シート2の外形寸法をアンテナ部3の外形寸法の前後に変化させたときの共振周波数の変化特性を比較して示されている。
【0053】
図7において、横軸は、アンテナ部3の外形寸法に対する差分で表した磁性シート2の寸法(mm)であり、縦軸が共振周波数(MHz)である。符号20は、アンテナ部3と磁性シート2とを密着させた場合の特性曲線であり、符号21は、アンテナ部3と磁性シート2との間に低透磁率層9を設けた場合の特性曲線である。図7に示す測定結果から、アンテナ部3と磁性シート2とを密着させるよりもアンテナ部3と磁性シート2との間に低透磁率層9を設けた方が、共振周波数の変動が小さくなることが解る。
【0054】
したがって、この実施の形態2によるアンテナ装置では、アンテナ部と磁性シートとの間を低透磁率にして実施の形態1によるアンテナ装置よりも共振周波数の安定性を向上させるので、実施の形態1と同様に共振周波数ずれによる不良品の発生を減らすことができるので、アンテナ装置の生産性を向上させることができる。また、実施の形態1によるアンテナ装置よりも、一層通信距離の安定性を高めることができる。
【0055】
(実施の形態3)
図8は、本発明の実施の形態3によるアンテナ装置の構成を示す断面図である。なお図8では、図2(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号が付されている。ここでは、この実施の形態3に関わる部分を中心に説明する。
【0056】
図8に示すように、この実施の形態3によるアンテナ装置では、図2(実施の形態1)に示した構成において、磁性シート2の図中上面を被覆する保護部材8の上に、低透磁率層10と金属部材11とがこの順に積層されている。
【0057】
低透磁率層10は、低透磁率層9と同様に、樹脂、紫外線硬化型樹脂、可視光硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、耐熱性樹脂、合成ゴム、両面テープ、粘着層、またはフィルムの少なくとも1つの手段で構成される。
【0058】
この低透磁率層10と金属部材11は、次のような手順で設けてある。即ち、実施の形態1にて説明した製造手順において、磁性シート2の寸法と切り欠き部とを定めた磁性シート2の両面テープ側の保護シート(保護部材7)を剥がし、基材6上に予め形成して置いたアンテナ部3のスパイラル状アンテナ素子とチップコンデンサ12とを半田にて一体化したアンテナ部品上に磁性シート2の両面テープ側の剥がしておいたシートを貼り付けた後、その磁性シート2の上(具体的には保護部材8の上)に30μmの両面テープを貼り付けて低透磁率層10を形成し、その上に金属部材11を貼り付けることで、低透磁率層10と金属部材11とをこの順に積層してある。
【0059】
このような構成とすることで、金属部材11がシールドの役割を有するので、アンテナ部3から発せられる磁界の外部に向けての漏洩を防止できる。そして、磁性シート2と金属部材11との間を低透磁率に維持するので、アンテナ装置の共振周波数の変動を低く抑えることができる(図9参照)。
【0060】
図9では、図8に示す磁性シート2と金属部材11との間に低透磁率層10を設けた場合と磁性シート2と金属部材11とを密着させた場合とにおいて、磁性シート2の外形寸法をアンテナ部3の外形寸法の前後に変化させたときの共振周波数の変化特性を比較して示す図が示されている。
【0061】
図9において、横軸は、アンテナ部3の外形寸法に対する差分で表した磁性シート2の寸法(mm)であり、縦軸が共振周波数(MHz)である。符号23は、磁性シート2と金属部材11とを密着させた場合の特性曲線であり、符号24は、磁性シート2と金属部材11との間に低透磁率層10を設けた場合の特性曲線である。図9に示す測定結果から磁性シート2と金属部材11とを密着させるよりも磁性シート2と金属部材11との間に低透磁率層10を設けた方が、共振周波数の変動が小さくなることが解る。
【0062】
したがって、この実施の形態3によるアンテナ装置では、磁性シートのアンテナ部と反対側にシールド効果を持つ金属部材を配置する場合に、磁性シートと金属部材との間を低透磁率にして共振周波数の安定性を確保するので、実施の形態1と同様に共振周波数ずれによる不良品の発生を減らすことができ、アンテナ装置の生産性を向上させることができる。また、通信距離の安定性を高めることができる。
【0063】
そして、金属部材を設けることで、アンテナ部から発せられる磁界の外部に向けての漏洩を防止できるので、例えば当該アンテナ装置の内側のみに存在する無線通信媒体のみとのやり取りを行いたい場合に好適なアンテナ装置が実現できる。
【0064】
(実施の形態4)
図10は、本発明の実施の形態4によるアンテナ装置の構成を示す断面図である。なお、図10では、図2(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号が付されている。ここでは、この実施の形態4に関わる部分を中心に説明する。
【0065】
図10に示すように、この実施の形態4によるアンテナ装置では、図2(実施の形態1)に示した構成において、基材6と保護部材7を介した磁性シート2との間に、低透磁率層9が設けられている。また、磁性シート2の図中上面を被覆する保護部材8の上に、低透磁率層10と金属部材11とがこの順に積層されている。
【0066】
低透磁率層9,10の素性については、実施の形態2,3に説明した通りである。製造手順も「実施の形態2+実施の形態3」である。即ち、実施の形態1にて説明した製造手順において、磁性シート2の寸法と切り欠き部とを定めた磁性シート2の両面テープ側の保護シート(保護部材7)を剥がした後、基材6上に予め形成して置いたアンテナ部3のスパイラル状アンテナ素子とチップコンデンサ12とを半田にて一体化したアンテナ部品上に30μmの両面テープを貼り付けて低透磁率層9を形成し、この上に磁性シート2の両面テープ側の剥がしておいたシートを貼り付けることで、低透磁率層9をアンテナ部3磁性シート2との間に介在させる。
【0067】
そして、この磁性シート2の上(具体的には保護部材8の上)に30μmの両面テープを貼り付けて低透磁率層10を形成し、その上に金属部材11を貼り付けることで、低透磁率層10と金属部材11とをこの順に積層する。
【0068】
このような構成とすることで、金属部材11がシールドの役割を有するので、アンテナ部3から発せられる磁界の外部に向けての漏洩を防止できる。そして、アンテナ部3と磁性シート2との間及び磁性シート2と金属部材11との間を、それぞれ低透磁率に維持するので、アンテナ装置の共振周波数の変動を低く抑えることができる(図11参照)。
【0069】
図11では、図8に示すアンテナ部と磁気シートとの間及び磁性シートと金属部材との間にそれぞれ低透磁率層を設けた場合とそれぞれの間に低透磁率層を設けずに密着させた場合とにおいて、磁性シートの外形寸法をアンテナ部の外形寸法の前後に変化させたときの共振周波数の変化特性を比較して示す図が示されている。
【0070】
図11において、横軸は、アンテナ部3の外形寸法に対する差分で表した磁性シート2の寸法(mm)であり、縦軸が共振周波数(MHz)である。符号25は、アンテナ部3と磁性シート2との間及び磁性シート2と金属部材11との間をそれぞれ密着させた場合の特性曲線であり、符号26は、アンテナ部3と磁性シート2との間及び磁性シート2と金属部材11との間に低透磁率層9,10をそれぞれ設けた場合の特性曲線である。図11に示す測定結果から、アンテナ部3と磁性シート2との間及び磁性シート2と金属部材11との間をそれぞれ密着させるよりも、アンテナ部3と磁性シート2との間及び磁性シート2と金属部材11との間を、それぞれ低透磁率に維持する方が、共振周波数の変動が小さくなることが解る。
【0071】
したがって、この実施の形態4によるアンテナ装置では、磁性シートのアンテナ部と反対側にシールド効果を持つ金属部材を配置する場合に、アンテナ部と磁性シートとの間及び磁性シートと金属部材との間をそれぞれ低透磁率にして共振周波数の安定性を確保するので、実施の形態1と同様に共振周波数ずれによる不良品の発生を減らすことができ、アンテナ装置の生産性を向上させることができる。また、通信距離の安定性を高めることができる。
【0072】
そして、シールド効果を有する金属部材を設けることで、アンテナ部から発せられる磁界の外部に向けての漏洩を防止できるので、例えば当該アンテナ装置の内側のみに存在する無線通信媒体のみとのやり取りを行いたい場合に好適なアンテナ装置が実現できる。
【0073】
また、以上説明した実施の形態1〜4では、複数の整合用チップコンデンサを設けることで、個々のチップコンデンサが与える周波数への影響度が下がるので、高精度コンデンサや選別工程などが不要となり、生産性の向上と低コスト化が図れる。加えて、アンテナ部と整合回路とを同一面上で構成できるので、基材には安価な片面基板が使用でき、この点からも低コストのアンテナ装置が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のように、この発明にかかるアンテナ装置は、非接触で通信を行うRFIDシステムで使用する場合に、共振周波数の変動を抑制して生産性の向上を図り、低コスト化を可能にするのに有用であり、特に、所定の通信距離を確保することや通信範囲を拡大するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施の形態1によるアンテナ装置を説明する分解斜視図
【図2】図1に示す整合回路部分のA−A線断面図
【図3】図1に示すアンテナ部を構成するスパイラル状アンテナ素子が4ターンである場合の整合回路の構成例を示す拡大図
【図4】図1に示すアンテナ部を構成するスパイラル状アンテナ素子が4ターンである場合のアンテナ部の等価回路図
【図5】図1に示す磁性シートの外形寸法をアンテナ部の外形寸法の前後に変化させたときの共振周波数の変化特性を示す図
【図6】本発明の実施の形態2によるアンテナ装置の構成を示す断面図
【図7】図6に示すアンテナ部と磁性シートとの間に低透磁率層を設けた場合とアンテナ部と磁性シートとを密着させ場合とにおいて、磁性シートの外形寸法をアンテナ部の外形寸法の前後に変化させたときの共振周波数の変化特性を比較して示す図
【図8】本発明の実施の形態3によるアンテナ装置の構成を示す断面図
【図9】図8に示す磁性シートと金属部材との間に低透磁率層を設けた場合と磁性シートと金属部材とを密着させた場合とにおいて、磁性シートの外形寸法をアンテナ部の外形寸法の前後に変化させたときの共振周波数の変化特性を比較して示す図
【図10】本発明の実施の形態4によるアンテナ装置の構成を示す断面図
【図11】図8に示すアンテナ部と磁気シートとの間及び磁性シートと金属部材との間にそれぞれ低透磁率層を設けた場合とそれぞれの間に低透磁率層を設けずに密着させた場合とにおいて、磁性シートの外形寸法をアンテナ部の外形寸法の前後に変化させたときの共振周波数の変化特性を比較して示す図
【図12】無線通信媒体や無線通信媒体処理装置に用いられる従来のアンテナ装置を説明する分解斜視図
【図13】図12に示す従来のアンテナ装置のアンテナ部の等価回路を示す図
【符号の説明】
【0076】
1 アンテナ装置
2 磁性シート
3 アンテナ部
4 整合回路
5 端子接続部
6 基材
7,8 保護部材
9,10 低透磁率層
11 金属部材
12 チップコンデンサ
13 スタブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RFIDシステムで使用されるアンテナ装置であって、磁性シートと、前記磁性シートに近接して配置される基材に設けられるスパイラル状アンテナ素子で構成されたアンテナ部とを備え、
前記磁性シートの外形寸法は、前記アンテナ部の外形寸法よりも大きい寸法であることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記アンテナ部と前記磁気シートとの間に低透磁率層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記磁性シートの前記アンテナ部の反対側に金属部材が設けられ、
前記磁性シートと前記金属部材との間に低透磁率層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記磁性シートの前記アンテナ部の反対側に金属部材が設けられ、
前記磁性シートと前記アンテナ部との間、及び、前記磁性シートと前記金属部材との間に、それぞれ低透磁率層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記磁性シートの外形寸法は、前記アンテナ部の外形寸法よりも1mm以上大きい寸法であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−325054(P2007−325054A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154279(P2006−154279)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】