説明

アンテナ装置

【課題】メタマテリアルを用いた従来よりも小型のアンテナ装置を提供する。
【解決手段】アンテナ装置1は、電磁波を放射または吸収するアンテナ素子10と、アンテナ素子10を臨むように配置された負の誘電率を有するメタマテリアル93とを備える。メタマテリアル93は、アンテナ素子10と離間して配置された複数のコイル11を含む。各コイル11は、各々の周囲に生じる電磁波の略半波長またはその整数倍の長さの導電線によって形成される。各コイルの中心軸の方向は、アンテナ素子10から生じる電気力線の方向と略一致する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は負の誘電率を有するメタマテリアルを利用したアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、メタマテリアル(metamaterial)と称されるデバイスが注目されている。このメタマテリアルとは、自然界に存在する物質が有さないような電磁気的または光学的な特性をもつ人工物質である。このようなメタマテリアルの代表的な特性として、負の透磁率(μ<0)、負の誘電率(ε<0)、あるいは負の屈折率(透磁率および誘電率がいずれも負の場合)が挙げられる。
【0003】
負の誘電率を実現する手段としては、金属棒を用いる方法が代表的である。無限の(つまり、電磁波の波長に対して十分大きい)長さを持った金属棒によりプラズマ周波数を下げることによって、負の誘電率を実現することができる。有限長の金属ロッドによって負の誘電率が発生することも知られている。具体的には、電磁波の波長の半分の長さの金属ロッドを、電磁波に共振させると負の誘電率が生じる。
【0004】
このような負の誘電率を有するメタマテリアルを利用したアンテナ装置が、R. W. Ziolkowskiによって報告されている("Metamaterial-Based Efficient Electrically Small Antennas"、IEEE TRANSACTIONS ON ANTENNAS AND PROPAGATION、2006年7月、VOL.54、NO.7、p.2113-2130(非特許文献1))。この文献のアンテナ装置では、負の誘電率を有する球殻状のメタマテリアルが、小型アンテナ(Electrically Small Antenna)を囲むように配置される。負の誘電率のメタマテリアルの有する誘導特性が小型アンテナの有する容量特性を相殺し、全体としてLC共振器として振舞うので、小型アンテナ単体に比べて放射効率を高めることができる。
【0005】
アンテナ装置を小型化する他の方法として、特公平8−2005号公報(特許文献1)に記載されたヘリカル平面アンテナが知られている。このヘリカル平面アンテナは、電波の波長に比べて間隔の狭い平行金属板および、これらの平行金属平板を外周縁で短絡する金属リングで構成される導波路と、平行金属平板に挿入された多数のヘリカル円偏波素子とを含む。受信電波は多数のヘリカル円偏波素子により受信され、導波路内で同位相で合成されてプローブより出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平8−2005号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R. W. Ziolkowski、"Metamaterial-Based Efficient Electrically Small Antennas"、IEEE TRANSACTIONS ON ANTENNAS AND PROPAGATION、2006年7月、VOL.54、NO.7、p.2113-2130
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、波長より十分長い金属棒により負の誘電率を実現したメタマテリアルは、アンテナ装置に応用するにはサイズが大きすぎる。また、半波長の金属棒を用いる方法でも、メタマテリアルの小型化は難しい。たとえば、3GHzで負の誘電率を発現するメタマテリアルを作成するには、50mmの金属棒が必要になる。したがって、これらのメタマテリアルと小型アンテナ素子とを組み合わせたアンテナ装置全体のサイズも従来と比べて小型化されたものとなっていない。
【0009】
上記の特許文献に記載されたヘリカル平面アンテナの各コイルの外周長は電磁波の波長と同程度であるので、アンテナ装置のサイズはメタマテリアルを用いる場合よりも大きくなってしまう。
【0010】
この発明の目的は、メタマテリアルを用いた従来よりも小型のアンテナ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は一局面においてアンテナ装置であって、電磁波を放射または吸収するアンテナ素子と、アンテナ素子を臨むように配置された負の誘電率を有するメタマテリアルとを備える。メタマテリアルは、アンテナ素子と離間して配置された複数のコイルを含む。複数のコイルの各々は、各々の周囲に生じる電磁波の略半波長またはその整数倍の長さの導電線によって形成される。
【0012】
好ましくは、複数のコイルの各々はヘリカル状に形成される。この場合、メタマテリアルに含まれる全てのコイルの巻き方向は同一である。複数のコイルの各々の中心軸の方向は、アンテナ素子から生じる電気力線の方向と略一致する。
【0013】
さらに好ましくは、アンテナ素子に近接する側の複数のコイルの各々の端部は、電気力線と直交する等電位面に沿って配置される。
【0014】
好ましい実施の一形態において、電気力線の間隔は、アンテナ素子から離間するにつれて広がる。この場合、複数のコイルの各々のコイル半径は、アンテナ素子から離間するほど大きい。
【0015】
好ましくは、アンテナ素子に近接する側の複数のコイルの各々の端部は、アンテナ素子を覆う仮想球面に沿って配置される。
【0016】
好ましい実施の他の形態において、アンテナ素子は平面状の放射面を有する平面アンテナである。この場合、複数のコイルの各々の中心軸は放射面と直交する。
【0017】
好ましくは、放射面に近接する側の複数のコイルの各々の端部は、放射面から等距離にある。
【0018】
さらに好ましくは、メタマテリアルは、放射面に積層された複数の絶縁層をさらに含む。この場合、複数のコイルの各々は、複数の絶縁層上にそれぞれ形成された1ターン未満の巻数の複数のストリップライン電極を有する。複数の絶縁層の積層方向に隣接したストリップライン電極は、絶縁層を貫通する導体によって互いに接続される。
【0019】
上記の実施の一形態および他の形態において好ましくは、メタマテリアルは、各々が電気力線と交差する複数の導電板をさらに含む。この場合、複数のコイルの各々の少なくとも一方の端部には複数の導電板のいずれか1つが接続される。
【0020】
好ましい実施のさらに他の形態において、複数のコイルの各々は、ミアンダ状の導電線路を含む。この場合、メタマテリアルは、複数のコイルにそれぞれ対応する複数の一対の導電板を含む。複数の一対の導電板の各々は、対応のコイルの両端に1つずつ接続され、電気力線と交差するように配置される。
【0021】
好ましくは、複数の一対の導電板の各々および対応のコイルに含まれるミアンダ状の導電線路は、ミアンダ状の導電線路が一対の導電板で挟まれるような配置で互いに平行に設けられる。
【0022】
好ましい実施のさらに他の形態において、メタマテリアルは、互いに積層された複数の部分層によって構成される。この場合、複数の部分層の各々は、複数のコイルのうち少なくとも1つを含む。アンテナ素子から相対的に離間する部分層は、アンテナ素子に相対的に近接する部分層に比べて多くのコイルを含む。
【0023】
好ましくは、複数のコイルの各々は、ヘリカル状に形成される。この場合、複数のコイルの各々の中心軸の方向は、複数の部分層の積層方向と略一致する。
【0024】
この発明は他の局面においてアンテナ装置であって、絶縁性の基板上に膜状に形成され、電磁波を放射または吸収するアンテナ素子と、各々がアンテナ素子と離間して基板上にミアンダ状に形成された複数のコイルとを備える。複数のコイルの各々の中心線の方向は、アンテナ素子から生じる電気力線の方向と略一致する。複数のコイルの各々は、各々の周囲に生じる電磁波の略半波長またはその整数倍の長さの導電線によって形成される。
【0025】
好ましくは、アンテナ素子に近接する側の複数のコイルの各々の端部は、電気力線と直交する等電位面と基板の表面との交線に沿って配置される。
【0026】
さらに好ましくは、基板の表面に沿う電気力線の間隔は、アンテナ素子から離間するにつれて広がる。この場合、複数のコイルの各々において、中心線に垂直な方向の幅は、アンテナ素子から離間するほど長い。
【0027】
上記の一局面および他の局面において、複数のコイルは、複数のグループに分割される。この場合、互いに同一のグループに属するコイルは、同一の長さの導電線によって形成される。互いに異なるグループに属するコイルは、異なる長さの導電線によって形成される。
【発明の効果】
【0028】
この発明によれば、メタマテリアルは、ヘリカル状またはミアンダ状に形成された複数のコイルを含む。そして、各コイルは、電磁波の略半波長またはその整数倍の長さの導電線によって形成される。このため、従来よりも小型のアンテナ装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の実施の形態1によるアンテナ装置1の構成を示す斜視図である。
【図2】図1のアンテナ装置1の断面構造を模式的に示す図である。
【図3】図1のメタマテリアル93の特性を説明するための図である。
【図4】図3に示すコイル100の比誘電率を示す図である。
【図5】図3に示すコイル100の比透磁率を示す図である。
【図6】(A)はコイル100が正の誘電率を示す場合の電界の方向を説明するための図であり、(B)はコイル100が負の誘電率を示す場合の電界の方向を説明するための図である。
【図7】図6(B)の場合におけるコイル100の周囲の電界分布を詳細に示す図である。
【図8】図2のアンテナ装置1の変形例であるアンテナ装置1Aの断面構造を模式的に示す図である。
【図9】シミュレーションの対象としたアンテナ装置の構造を示す図である(コイルが1個の場合)。
【図10】シミュレーションの対象としたアンテナ装置の構造を示す図である(コイルが複数の場合)。
【図11】この発明の実施の形態2によるアンテナ装置2の構成を示す斜視図である。
【図12】図11のアンテナ装置2の断面構造を模式的に示す図である。
【図13】この発明の実施の形態3によるアンテナ装置3の構成を示す図である。
【図14】実施の形態3の変形例1によるアンテナ装置3Aの構成を示す図である。
【図15】実施の形態3の変形例2によるアンテナ装置3Bの構成を示す図である。
【図16】この発明の実施の形態4によるアンテナ装置4の構成を示す斜視図である。
【図17】図16のアンテナ装置4の断面構造を模式的に示す図である。
【図18】アンテナ装置4の製造方法を説明するための図である。
【図19】図18に示す絶縁層54A〜54Dの平面図である。
【図20】実施の形態4の変形例によるアンテナ装置4Aの構成を示す斜視図である。
【図21】この発明の実施の形態5によるアンテナ装置5の構成を示す斜視図である。
【図22】図21の各コイルユニット69の構成を示す図である。
【図23】図22の絶縁シート64B〜64Fの平面図である。
【図24】この発明の実施の形態6によるアンテナ装置6の構成を示す斜視図である。
【図25】図24のアンテナ装置6の側面図である。
【図26】実施の形態6の変形例によるアンテナ装置6Aの構成を示す斜視図である。
【図27】図26のアンテナ装置6Aの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
【0031】
<実施の形態1>
[アンテナ装置1の構成]
図1は、この発明の実施の形態1によるアンテナ装置1の構成を示す斜視図である。
【0032】
図2は、図1のアンテナ装置1の断面構造を模式的に示す図である。図1、図2を参照して、アンテナ装置1は、アンテナ素子10と、メタマテリアル93としての複数のヘリカル状のコイル11と、絶縁性の基板15上に形成されたグランドプレーン12と、給電線13と、複数のコイル11を固定するための絶縁性の支持部材14とを含む。基板15および支持部材14は誘電性を有していることが望ましい。図解を容易にするために支持部材14は輪郭線のみが示される。
【0033】
アンテナ素子10はモノポールアンテナであり、その全長が電磁波の波長の1/10以下の小型アンテナ(Electrically Small Antenna)である。送信時にはアンテナ素子10から電磁波が放射され、受信時にはアンテナ素子10によって電磁波が吸収される。アンテナ素子10の一端は、基板15およびグランドプレーン12を貫通して設けられた給電線13に接続される。図1、図2では、グランドプレーン12はXY平面に沿って設けられ、アンテナ素子10としてのモノポールアンテナの中心軸線がZ軸に沿って設けられる。
【0034】
複数のヘリカル状のコイル11は、アンテナ素子10を臨むような配置(アンテナ素子に向き合うような配置、またはアンテナ素子を覆うような配置)で、アンテナ素子10と離間して設けられる。各コイル11は、アンテナ素子10から放射される電磁波の波長の略半分の長さの導電線によって形成される。これによって各コイル11は電磁波の周波数で共振する。コイル11が互いの電磁特性を打ち消しあわないように、全てのコイル11の巻き方向を同一にするのが好ましい。
【0035】
図2に示すように各コイル11の中心軸の方向はアンテナ素子10から生じる電気力線90の方向と略一致する。アンテナ素子10に近接する側の各コイル11の端部11Aは、アンテナ素子10を囲む仮想的な半球面(図2の場合は、支持部材14の内面14A)に沿って設けられる。
【0036】
支持部材14は、各コイル11が上記の配置となるように各コイル11を固定する。支持部材14としてシリコン樹脂やテフロン(登録商標)樹脂などを用いることができる。支持部材14の形状は、各コイル11を固定できるのであれば図2のような形状に限るものでない。たとえば、支持部材14の内側に図2のような中空部16を設けずに、中空部16の部分にシリコン樹脂などを充填してもよい。
【0037】
なお、誘電体材料である支持部材14の誘電率によって電磁波の波長が変化する。したがって、各コイル11を構成する導電線の長さは支持部材14の誘電率を考慮して決定する必要がある。
【0038】
上記のような配置の複数のコイル11によって負の誘電率を示すメタマテリアル93が実現できる。以下、メタマテリアル93が負の誘電率を示す理由について説明する。
【0039】
[メタマテリアル93の特性]
図3は、図1のメタマテリアル93の特性を説明するための図である。図3には、1個のヘリカル状のコイル100が示される。コイル100は、信号線200とグランドプレーン220との間に配置され、信号線200およびグランドプレーン220と接触しないように支持部材120によって固定される。信号線200には所定の周波数の交流電流Iが流れる。これによって、信号線200とグランドプレーン220との間には交流電界Eが生じる。
【0040】
図3のコイル100の第1の特徴は、信号線200を流れる交流電流Iの波長の略半分の長さの導電線によってコイル100が形成される点である。第2の特徴は、コイル100の中心軸110の方向が信号線200とグランドプレーン220との間に生じる交流電界Eの方向(すなわち、電気力線の方向)と一致する点である。これらの特徴によって、コイル100は、信号線200およびグランドプレーン220と交流電界Eによって静電結合することにより、交流電界Eの周波数で共振する。
【0041】
図4は、図3に示すコイル100の比誘電率を示す図である。
図5は、図3に示すコイル100の比透磁率を示す図である。図4、図5に示す比誘電率および比透磁率の計算では、コイル100を形成する導電線の長さ(以下、「コイル線長」と称する)を13mmとした。
【0042】
図4に示すように、図3の信号線200に流す交流電流Iの周波数を次第に増加させた場合、比誘電率は、周波数6.5GHz付近(図4の参照符号91)で最大値を示し、周波数6.6GHz付近(図4の参照符号92)で最小値を示す。比誘電率が最小値を示すとき、その値は負である。一方、比透磁率は、周波数6.5GHz付近で最小値を示し、周波数6.6GHz付近で最大値を示すが、周波数に対する変化量は小さく、その値はほぼ1であり負にはならない。
【0043】
図6(A)はコイル100が正の誘電率を示す場合の電界の方向を説明するための図であり、図6(B)はコイル100が負の誘電率を示す場合の電界の方向を説明するための図である。図6(A),(B)では、信号線200を流れる交流電流Iによって、グランドプレーン220から信号線200に向かう外部電界がコイル100に印加された状態になっているとする。
【0044】
図6(A)の場合には、下方(グランドプレーン220側)から上方(信号線200側)に向かう外部電界によって、コイル100の下端部100Bに負電荷が誘起され、コイル100の上端部100Aに正電荷が誘起される。一方、コイル100が共振状態にある図6(B)の場合には、誘起される電荷の極性が逆転し、コイル100の下端部100Bに正電荷が誘起され、コイル100の上端部100Aに負電荷が誘起される。このとき誘起されるコイル100の上端部100Aの電荷およびコイル100の下端部100Bの電荷は、共振によりそれぞれ上方の信号線200の電荷、および下方のグランドプレーン220の電荷より大きくなっている。このため、図6(A)の場合と比較するとコイル100の上下に発生する電界Eの方向が逆転する。すなわち、コイル100は負の誘電率特性を示す。なお、誘電率の正負を論じるにあたっては、コイル100の上下の電界の方向が重要である。コイル100内に発生する電界E’の方向も逆転するが、コイル100は導体なので、電界E’の大きさはコイル100の上下に発生する電界Eよりも小さい。
【0045】
図7は、図6(B)の場合におけるコイル100の周囲の電界分布を詳細に示す図である。図7に示されるように、信号線200からコイル100の上端部に向かう下向きの電界、およびコイル100の下端部からグランドプレーン220に向かう下向きの電界が生じていて、コイル100が負の誘電率を示していることがわかる。
【0046】
なお、図6(A),(B)に示すように、コイル100の上端部100Aおよび下端部100Bには正または負の電荷が蓄積されるので、共振に関係する実質的なコイル線長は、外形上のコイル線長よりも短くなる。この結果、外形上のコイル線長から予測される共振周波数よりも実際の共振周波数は高くなる。このため、上記の性質を考慮して外形上のコイル線長を電磁波の波長の半分よりもやや長めに設計する必要がある。実際には、シミュレーションまたは実験を行なうことによって、適切な共振周波数を有するようにコイル線長が決定される。
【0047】
[アンテナ装置1の作用効果]
再び図1、図2を参照して、実施の形態1のアンテナ装置1では、メタマテリアル93として、略半波長のコイル線長を有するコイル11が多数配置される。既に説明したように、各コイル11はアンテナ素子と離間して設けられ、各コイル11の中心軸の方向はアンテナ素子10から生じる電気力線90の方向と略一致するので、各コイル11はアンテナ素子10と静電結合する。この結果、各コイル11が共振状態にあるときには、メタマテリアル93は負の誘電率を示す。
【0048】
一般に、アンテナ素子10を小型化するほど、アンテナ素子10の入力インピーダンスは、抵抗成分が小さくなるとともに容量成分が大きくなるので、アンテナ素子10と信号源との整合が困難になる。この結果、アンテナの放射効率が低下するという問題がある。そこで、アンテナ素子10を臨むように(アンテナ素子と向き合うように、またはアンテナ素子を覆うように)、負の誘電率を有するメタマテリアル93を配置することによって、メタマテリアル93の有する誘導特性によってアンテナ素子の容量特性を相殺させる。これによってアンテナ素子10と信号源との整合が容易になるので、アンテナ素子10単体の場合に比べて放射効率を高めることができる。特に、実施の形態1の場合には、各コイル11のサイズを電磁波の波長に比べて十分に小さくできるので、アンテナ装置1全体を小型化することができる。
【0049】
アンテナ装置1の放射効率を高めるためには、アンテナ素子10に近接した側の各コイル11の端部11Aが電気力線90に垂直な等電位面に沿って周期的に配置されるようにすることが望ましい。さらに好ましくは、図2に示すように電気力線90の間隔がアンテナ素子10から離間するにつれて広がる場合には、各コイル11のコイル半径がアンテナ素子から離間するほど大きくなるようにする。これによって、メタマテリアル93が設けられた半球状の領域内でコイル11の占める領域を増やすことができる。なお、図3に示すように、コイル半径とは、コイル100上の点から中心軸110までの距離CRをいう。
【0050】
[変形例]
上記では、各コイル11のコイル線長は電磁波の波長の略半分であるとしたが、コイル線長が略半波長の整数倍の長さであっても、各コイル11は電磁波の周波数で共振するので、負の誘電率を示すメタマテリアルを実現することができる。ただし、アンテナ装置1の小型化の観点からは、コイル線長を略半波長にするのが望ましい。
【0051】
メタマテリアル93を構成する複数のコイル11をグループ化し、異なるグループに属するコイル11同士ではコイル線長が異なるようにしてもよい。これによってメタマテリアル93は複数の共振周波数を有するようになるので、アンテナ装置1の帯域を広げることができる。なお、このようにコイル線長を異ならせる場合は、各コイル11を形成する導電線の直径、コイル半径、コイルの巻数、および支持部材14の誘電率などをグループごとに変更することによって、各コイルの外観上の大きさが大きく異ならないようにすることが望ましい。
【0052】
各コイル11の形状は円錐面に沿うように金属線が巻かれたものに限られない。たとえば、四角錐に沿うように金属線が巻かれたような形状であってもよい。
【0053】
上記では、アンテナ素子10はモノポールアンテナであるとしたが、これに限るものでない。たとえば、アンテナ素子をダイポールアンテナとした場合には、グランドプレーン12は設けられずに、メタマテリアルとしての複数のコイル11がダイポールアンテナを取り囲むように球状に配置される。
【0054】
アンテナ素子10と各コイル11との静電結合の効率を高めるために、アンテナ素子10としてのモノポールアンテナの先端部の形状を図8に示すように半球状にしてもよい。
【0055】
図8は、図2のアンテナ装置1の変形例であるアンテナ装置1Aの断面構造を模式的に示す図である。図8に示すように、先端部10Aの形状が半球状となっているので、先端部10Aから各コイル11の端部11Aまでの距離を揃えることができる。
【0056】
[シミュレーション結果]
以下、図8のアンテナ装置1Aについてシミュレーション結果を、比較例のアンテナ装置のシミュレーション結果と対比しながら説明する。
【0057】
図9、図10は、シミュレーションの対象としたアンテナ装置の構造を示す図である。図9(A)は、コイル11が1個で、コイル11とアンテナ素子10の先端部10Aとが非接続(静電結合)の場合である。図9(B)は、コイル11が1個で、コイル11とアンテナ素子10の先端部10Aとが接続された場合である。図10(A)は、コイル11が7個で、各コイル11とアンテナ素子10の先端部10Aとが非接続(静電結合)の場合である。図10(B)は、コイル11が7個で、各コイル11とアンテナ素子10の先端部10Aとが接続された場合である。図10(C)は、コイル11が13個で、各コイル11とアンテナ素子10の先端部10Aとが非接続(静電結合)の場合である。図10(A)、図10(C)が本実施の形態の場合であり、図9(A)、図9(B)、図10(B)が比較例である。図9、図10のいずれの場合も、各コイル11は、直径1mm、長さ20mmの金属線で形成され、シリコン樹脂の中に埋め込まれる。各アンテナ装置に対して、共振周波数、反射電力、および放射効率を求めた結果を下表に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
まず、コイル11の個数が1個の場合、ヘリカルコイルに直接給電する従来のアンテナ(図9(B))と、モノポールアンテナの近傍に1本の略半波長のコイルを静電結合させたアンテナ(図9(A))とを比較すると、直接給電する従来のアンテナ(図9(B))のほうが放射効率が高い。すなわち、コイルの個数が1個の場合は、コイル11とアンテナ素子の先端部10Aとを離間させるメリットはない。
【0060】
図10(A)、図10(C)のようにコイル線長が略半波長であるコイル11の個数を増やし、多数のコイル11でモノポールアンテナを覆うような構造にすると、コイル11の個数を増やすにつれて整合がとれるようになって、放射効率がよくなることがわかる。この場合は、コイル11とアンテナ素子とを接続する場合(図10(B))よりも、離間させた場合(図10(A)、図10(C))のほうが効率が良くなることがわかる。
【0061】
単一のモノポールアンテナであれば先端の電界が集中する部分から主に放射するが、実施の形態1のアンテナ装置1Aでは、コイル線長が略半波長のコイル11の集合体がアンテナ素子の先端部10Aと静電結合して共振し、半球面全体から放射するようになることが、放射効率が良くなる原因と考えられる。この結果、アンテナ装置全体を小型化しても整合がとりやすくなるので、放射効率のよい小型のアンテナ装置を実現できる。
【0062】
<実施の形態2>
図11は、この発明の実施の形態2によるアンテナ装置2の構成を示す斜視図である。
【0063】
図12は、図11のアンテナ装置2の断面構造を模式的に示す図である。図11、図12を参照して、アンテナ装置2を構成するメタマテリアル94は、各コイル11の両端に接続された円盤状の平板電極21A,21B(導電板)をさらに含む点で、実施の形態1のメタマテリアル93と異なる。平板電極21A,21Bは電界によってアンテナ素子10と静電結合するように電気力線90と交差させる必要がある。平板電極21A,21Bと電気力線90とを直交させると、最も効率的に静電結合させることができる。その他の点については、アンテナ装置2はアンテナ装置1Aと同一であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0064】
実施の形態2のメタマテリアル94は、静電容量がアンテナ素子10の先端部10Aとアンテナ素子10に近接する側の平板電極21Bとの間に付加されるため、共振周波数が下がる。すなわち、容量発生により波長短縮が図られるので、ある共振周波数を得るために必要なコイル11のコイル線長が短くてすむことになる。したがって、平板電極21Bを有さない実施の形態1のメタマテリアル93に比べてさらに小型化でき、この結果アンテナ装置2全体も小型化できる。さらに、アンテナ素子から離反する側に設けられた平板電極21Aの直径をコイル径(コイルの直径)より大きくすることによって放射面が広くなるので、アンテナの放射効率が高くなる。平板電極21A,21Bはいずれか一方のみが設けられていてもよい。
【0065】
<実施の形態3>
図13は、この発明の実施の形態3によるアンテナ装置3の構成を示す図である。図13(A)が平面図であり、図13(B)が側面図である。実施の形態3のアンテナ装置3は、実施の形態1のアンテナ装置1,1Aを2次元にしたものに相当する。実施の形態1のヘリカル状のコイル11には、ミアンダ状のコイル31が対応する。実施の形態1の場合と同様に、ミアンダ状のコイル31のコイル線長は電磁波の波長の略半分である。
【0066】
アンテナ装置3は、絶縁性の基板35の主面35A上に膜状に形成されたアンテナ素子30および複数のミアンダ状のコイル31と、裏面35B上に膜状に形成されたグランドプレーン32とを含む。基板35は誘電性を有することが望ましい。電磁波の放射を妨害しないように、グランドプレーン32はミアンダ状のコイル31の裏面側には設けられない。アンテナ素子30、複数のコイル31、およびグランドプレーン32は印刷法などを用いて容易に作製することができる。
【0067】
アンテナ素子30は、基板35上に線状に形成され、その一端30Bが給電線と接続される。アンテナ素子30の他端30Aは半円状に形成される。このアンテナ素子30の他端30Aに対して、ミアンダ状に形成された各コイル31の一端31Aが近接するように配置される。各コイル31の中心線39の方向は、アンテナ素子30から生じる電気力線の方向と略一致する。図13の場合には、複数のコイル31の中心線39はアンテナ素子30の他端30Aから広がる。このような場合、各コイル31において、中心線39に垂直な方向の幅は、アンテナ素子30から離間するほど長くなるようにするのが望ましい。アンテナ素子30に近接する側の各コイル31の端部31Aは、アンテナ素子30の他端30Aから等距離の位置に設けられる。これを別の観点から見ると、各コイル31の端部31Aは、電気力線と直交する等電位面と基板35の主面35Aとの交線に沿って配置されることになる。
【0068】
上記のようにアンテナ装置3を構成することによって、実施の形態1の場合と同様に、小型で放射効率のよいアンテナ装置を実現することができる。さらに、アンテナ装置3は平面状に形成されるので、実施の形態1の場合と比べるとアンテナ装置3の作製が容易である。
【0069】
<実施の形態3の変形例1>
図14は、実施の形態3の変形例1によるアンテナ装置3Aの構成を示す図である。図14のアンテナ装置3Aでは、グランドプレーン38が基板35の裏面35Bに設けられず、別の絶縁性の基板37の表面に設けられる。そして、アンテナ素子30および複数のコイル31が形成された基板35が、グランドプレーン38が形成された基板37と垂直になるように配置される。この場合、アンテナ素子30としてのモノポールアンテナの軸方向が基板37上に設けられたグランドプレーン38と直交する。基板37およびグランドプレーン38には貫通孔が形成され、この貫通孔を通して給電線33がアンテナ素子30の基端部に接続される。
【0070】
<実施の形態3の変形例2>
図15は、実施の形態3の変形例2によるアンテナ装置3Bの構成を示す図である。図15(A)が平面図であり、図15(B)が側面図である。図13のアンテナ装置3の場合と同様に、アンテナ装置3Bは、絶縁性の基板35の主面35A上に膜状に形成されたアンテナ素子40および複数のミアンダ状のコイル41と、裏面35B上に膜状に形成されたグランドプレーン42とを含む。
【0071】
図15のアンテナ装置3Bは、アンテナ素子40の形状が矩形状である点で、図13のアンテナ装置3と異なる。各コイル41の一端41Aは、矩形上のアンテナ素子40の一辺から等距離の位置に配置される。各コイルの41の中心線49の方向は、アンテナ素子40から生じる電気力線の方向と略一致する。図15の場合には、各コイル41の中心線49の方向は、矩形状のアンテナ素子40の一辺と垂直方向になる。この場合、各コイル41において、中心線49に垂直な方向の幅は一定になる。
【0072】
図15のアンテナ装置3Bは、図13のアンテナ装置3と同様に、小型で放射効率がよく、作製も容易である。
【0073】
<実施の形態4>
図16は、この発明の実施の形態4によるアンテナ装置4の構成を示す斜視図である。
【0074】
図17は、図16のアンテナ装置4の断面構造を模式的に示す図である。図16、図17を参照して、アンテナ装置4は、絶縁性の基板55の主面55A上に設けられた平面状のアンテナ素子50およびグランドプレーン52と、メタマテリアル95としての複数のヘリカル状のコイル51と、給電線53と、複数のコイル51を固定するための絶縁性の支持部材54とを含む。図解を容易にするために支持部材54は輪郭線のみが示される。基板55および支持部材54は誘電性を有していることが望ましい。グランドプレーン52は、アンテナ素子50を取り囲むように配置される。アンテナ素子50は、基板55を貫通して設けられた給電線53と接続される。
【0075】
実施の形態1の場合と同様に、各コイル51のコイル線長は、アンテナ素子50から放射される電磁波の波長の略半分である。これによって、各コイル51は電磁波の周波数で共振する。また、全てのコイル51の巻き方向は同一である。各コイル51のコイル半径は一定である。
【0076】
図16、図17のアンテナ装置4は、アンテナ素子50が平面状の放射面50Aを有する平面アンテナである点に特徴がある。この場合、アンテナ素子50から生じる電気力線90の方向がアンテナ素子50の放射面50Aと垂直な方向(Z軸方向)になる。したがって、各コイル51の中心軸の方向をZ軸方向に揃えて作製すれば、各コイル51の中心軸の方向を電気力線90の方向と一致させることができる。さらに、ヘリカル状の各コイル51の一端51Aを、アンテナ素子50の放射面50Aから等距離の位置になるように作製すれば、各コイル51の一端51Aを電気力線90に垂直な等電位面に沿って並べることができる。
【0077】
このように、アンテナ素子50が平面状であり、各コイル51の中心軸の方向がZ軸方向に揃っているので、アンテナ素子50および各コイル51を印刷法などを用いて容易に作製することができる。
【0078】
図18は、アンテナ装置4の製造方法を説明するための図である。図18を参照して、アンテナ装置4を構成する支持部材54は、平面状のアンテナ素子50に積層された複数の絶縁層54A〜54Dによって構成される。図18の場合は一例として4層構造の場合を示すが、積層数はコイル51の巻数に応じて適宜設定される。絶縁層54A〜54Dの各面には1ターン未満の巻数のストリップライン電極が形成されており、これらのストリップライン電極が積層方向に電気的に接続されることによって各コイル51が形成される。
【0079】
図19は、図18に示す絶縁層54A〜54Dの平面図である。図19を参照して、絶縁層54A〜54Dの表面には、1ターン未満の巻数のストリップライン電極56A〜56Dが印刷法などによりそれぞれ形成される。図19には、簡単のために各絶縁層の表面に2個のストリップライン電極が示されているが、実際には作製するコイル51の個数だけ設けられる。
【0080】
絶縁層の積層方向(Z方向)に隣接したストリップライン電極は、絶縁層を貫通するビアホールに形成された導電部材によって相互に接続される。具体的に、ストリップライン電極56Aの一方端には、Z方向に隣接したストリップライン電極56Bの一方端と接続するためのビアホール57Aが形成される。同様に、ストリップライン電極56Bの他方端には、Z方向に隣接するストリップライン電極56Cの一方端と接続するためのビアホール57Bが形成される。さらに、ストリップライン電極56Cの他方端には、Z方向に隣接するストリップライン電極56Dの一方端と接続するためのビアホール57Cが形成される。このようにして、中心軸がZ方向に延びるコイル51が形成される。
【0081】
<実施の形態4の変形例>
図20は、実施の形態4の変形例によるアンテナ装置4Aの構成を示す斜視図である。図20のアンテナ装置4Aは、グランドプレーン59が基板55の裏面55Bに形成されている点で、図16のアンテナ装置4と異なる。さらに、アンテナ装置4Aは、アンテナ素子50に接続される給電線として、基板55の主面55A上に形成されたストリップライン58を含む点で、図16のアンテナ装置4と異なる。その他の点については、図20のアンテナ装置4Aの構成は図16アンテナ装置4の構成と同一であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0082】
<実施の形態5>
図21は、この発明の実施の形態5によるアンテナ装置5の構成を示す斜視図である。図21を参照して、アンテナ装置5は、アンテナ素子60としてのモノポールアンテナと、グランドプレーン62と、メタマテリアル96としての複数のコイルユニット69とを含む。各コイルユニット69は、ミアンダ状の導電線路61と、ミアンダ状の導電線路61の両端に電気的に接続された一対の導電板66A,66Bを含む。導電板66A,66Bは、アンテナ素子60から生じた電気力線と交差するように配置される。
【0083】
図22は、図21の各コイルユニット69の構成を示す図である。図22(A)が斜視図であり、図22(B)が側面図である。図22を参照して、各コイルユニット69は、一対の導電板66A,66Bと、一対の導電板66A,66Bに挟まれるように設けられたミアンダ状の導電線路61と、導電線路61の一端と導電板66Aを接続する導電部67Aと、導電線路61の他端と導電板66Bとを接続する導電部67Bと、これらを支持固定するための絶縁性の支持部材64とを含む。一対の導電板66A,66Bおよび導電線路61は、XY平面に沿って互いに平行に設けられる。支持部材64は、誘電性を有していることが望ましい。
【0084】
導電線路61および導電部67A,67Bは、実施の形態1のコイル11に対応し、全長が図21のアンテナ素子60から放射される電磁波の波長の略半分の長さになるように形成される。これによって、導電線路61および導電部67A,67Bの全体が、電磁波の周波数で共振する。さらに、前述のように一対の導電板66A,66Bは、アンテナ素子60から生じる電気力線と交差するように配置されるので、コイルユニット69はアンテナ素子60と静電結合する。この結果、複数のコイルユニット69からなるメタマテリアル96は負の誘電率を示す。
【0085】
図22(B)に示すように、支持部材64は、Z方向に積層された6層の絶縁シート64A〜66Fによって構成される。このような構成にすることによって、ミアンダ状の導電線路61および一対の導電板66A,66Bを印刷法などによって容易に作製することができる。
【0086】
図23(A)〜(E)は、図22の絶縁シート64B〜64Fの平面図である。図23を参照して、絶縁シート64Bの表面に導電板66Bが形成され、絶縁シート64Dの表面にミアンダ状の導電線路61が形成され、絶縁シート64Fの表面に導電板66Aが形成される。さらに、絶縁シート64B,64Cを貫通するように導電部67Bが形成され、この導電部67Bによって導電板66Bと導電線路61の一端とが接続される。同様に、絶縁シート64D,64Eを貫通するように導電部67Aが形成され、この導電部67Aによって導電板66Aと導電線路61の他端とが接続される。
【0087】
<実施の形態6>
図24は、この発明の実施の形態6によるアンテナ装置6の構成を示す斜視図である。
【0088】
図25は、図24のアンテナ装置6の側面図である。図24、図25を参照して、アンテナ装置6は、アンテナ素子70としてのモノポールアンテナと、グランドプレーン72と、Z方向に積層されたメタマテリアル97A,97Bを含む。すなわち、図24、図25のアンテナ装置6は、メタマテリアル全体が互いに積層された部分層97A,97Bによって構成される。
【0089】
アンテナ素子70に近接して設けられたメタマテリアル97Aは、1個のヘリカル状のコイル81を含む。コイル81のコイル線長は、アンテナ素子70から放射される電磁波の波長の略半分である。コイル81は絶縁性の支持部材86によって固定される。図解を容易にするために、支持部材86は輪郭線のみが示される。
【0090】
図24、図25に示すように、コイル81の中心軸110の方向はZ軸方向であり、モノポールアンテナ70の軸線方向と一致し、グランドプレーン72と直交する。コイル81は、上方(Z軸方向)から見るとアンテナ素子70を覆うように、アンテナ素子70の直上に設けられる。このような配置にすることによって、アンテナ素子70とコイル81との静電結合が強められる。
【0091】
メタマテリアル97Bは、4個のヘリカル状のコイル82A〜82Dを含む。コイル82A〜82Dの各コイル線長は、アンテナ素子70から放射される電磁波の波長の略半分である。コイル82A〜82Dは絶縁性の支持部材87によって固定される。図解を容易にするために、支持部材87は輪郭線のみが示される。
【0092】
図24、図25に示すように、コイル82A〜82Dの各々の中心軸110の方向はZ軸方向であり、モノポールアンテナ70の軸線方向と一致し、グランドプレーン72と直交する。上方(Z軸方向)から見ると、コイル82A〜82Dはコイル81を囲むように配置される。側面(X方向またはY方向)から見ると、コイル81の上端とコイル82A〜82Dの下端とが、ほぼ同一面上となるように配置される。このような配置にすることによって、コイル81とコイル82A〜82Dとの静電結合が強められる。
【0093】
上記のアンテナ装置6の構成によれば、コイル81,82A〜82Bの各中心軸がアンテナ素子70から生じた電気力線にほぼ沿うように配置されることになる。したがって、コイル81,82A〜82Dはアンテナ素子70と効率よく静電結合する。さらに、コイル81,82A〜82Dの各コイル線長は、アンテナ素子70から放射された電磁波の波長の略半分であるので、コイル81,82A〜82Dは電磁波の周波数で共振する。この結果、メタマテリアル97A,97Bの全体は負の誘電率を示し、小型かつ高効率のアンテナ装置6を実現することができる。
【0094】
さらに、アンテナ装置6では、コイル81,82A〜82Dの中心軸の方向がZ軸方向(メタマテリアル97A,97Bの積層方向)で揃っているので、実施の形態4のアンテナ装置4の場合と同様の印刷法を用いてコイル81,82A〜82Dを容易に作製できるというメリットがある。
【0095】
<実施の形態6の変形例>
図26は、実施の形態6の変形例によるアンテナ装置6Aの構成を示す斜視図である。
【0096】
図27は、図26のアンテナ装置6Aの側面図である。図26、図27を参照して、アンテナ装置6Aは、メタマテリアル97Bの上方(+Z方向)に積層されたメタマテリアル97Cをさらに含む点で、図24、図25のアンテナ装置6と異なる。アンテナ装置6Aのその他の点はアンテナ装置6と同一であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0097】
メタマテリアル97Cは、9個のヘリカル状のコイル83A〜83Iを含む。コイル83A〜83Iの各コイル線長は、アンテナ素子70から放射される電磁波の波長の略半分である。コイル83A〜83Iは絶縁性の支持部材88によって固定される。図解を容易にするために、支持部材88は輪郭線のみが示される。
【0098】
図26、図27に示すように、コイル83A〜83Iの各々の中心軸110の方向はZ軸方向であり、モノポールアンテナ70の軸線方向と一致し、グランドプレーン72と直交する。上方(Z軸方向)から見ると、コイル83A〜83Iのうちの4個のコイルが、コイル82A〜82Dのうちのいずれか1個のコイルを囲むように配置される。側面(X方向またはY方向)から見ると、コイル82A〜82Dの上端とコイル83A〜83Iの下端とが、ほぼ同一面上となるように配置される。このような配置にすることによって、コイル82A〜82Dとコイル83A〜83Iとの静電結合が強められる。
【0099】
アンテナ装置6Aでは、メタマテリアルの積層数を増やすことによって、さらに、放射効率を高めることができる。
【0100】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0101】
1,1A,2,3,3A,3B,4,4A,5,6,6A アンテナ装置、10,30,40,50,60,70 アンテナ素子、11,31,41,51,81,82A〜82D,83A〜83I コイル、14 支持部材、15 基板、21A,21B 平板電極、50A 放射面、54 支持部材、54A〜54D 絶縁層、56A〜56D ストリップライン電極、61 ミアンダ状の導電線路、64 支持部材、64A〜64F 絶縁シート、66A,66B 導電板、69 コイルユニット、90 電気力線、93〜96,97A,97B,97C メタマテリアル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を放射または吸収するアンテナ素子と、
前記アンテナ素子を臨むように配置された負の誘電率を有するメタマテリアルとを備え、
前記メタマテリアルは、前記アンテナ素子と離間して配置された複数のコイルを含み、前記複数のコイルの各々は、各々の周囲に生じる前記電磁波の略半波長またはその整数倍の長さの導電線によって形成される、アンテナ装置。
【請求項2】
前記複数のコイルの各々はヘリカル状に形成され、
前記メタマテリアルに含まれる全てのコイルの巻き方向は同一であり、
前記複数のコイルの各々の中心軸の方向は、前記アンテナ素子から生じる電気力線の方向と略一致する、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記アンテナ素子に近接する側の前記複数のコイルの各々の端部は、前記電気力線と直交する等電位面に沿って配置される、請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記電気力線の間隔は、前記アンテナ素子から離間するにつれて広がり、
前記複数のコイルの各々のコイル半径は、前記アンテナ素子から離間するほど大きい、請求項2または3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記アンテナ素子に近接する側の前記複数のコイルの各々の端部は、前記アンテナ素子を覆う仮想球面に沿って配置される、請求項4に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記アンテナ素子は平面状の放射面を有する平面アンテナであり、
前記複数のコイルの各々の中心軸は前記放射面と直交する、請求項2または3に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記放射面に近接する側の前記複数のコイルの各々の端部は、前記放射面から等距離にある、請求項6に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記メタマテリアルは、前記放射面に積層された複数の絶縁層をさらに含み、
前記複数のコイルの各々は、前記複数の絶縁層上にそれぞれ形成された1ターン未満の巻数の複数のストリップライン電極を有し、
前記複数の絶縁層の積層方向に隣接したストリップライン電極は、絶縁層を貫通する導体によって互いに接続される、請求項6または7に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記メタマテリアルは、各々が前記電気力線と交差する複数の導電板をさらに含み、前記複数のコイルの各々の少なくとも一方の端部には前記複数の導電板のいずれか1つが接続される、請求項2〜8のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記複数のコイルの各々は、ミアンダ状の導電線路を含み、
前記メタマテリアルは、前記複数のコイルにそれぞれ対応する複数の一対の導電板を含み、
前記複数の一対の導電板の各々は、対応のコイルの両端に1つずつ接続され、前記電気力線と交差するように配置される、請求項2または3に記載のアンテナ装置。
【請求項11】
前記複数の一対の導電板の各々および対応のコイルに含まれる前記ミアンダ状の導電線路は、前記ミアンダ状の導電線路が一対の導電板で挟まれるような配置で互いに平行に設けられる、請求項10に記載のアンテナ装置。
【請求項12】
前記メタマテリアルは、互いに積層された複数の部分層によって構成され、
前記複数の部分層の各々は、前記複数のコイルのうち少なくとも1つを含み、
前記アンテナ素子から相対的に離間する部分層は、前記アンテナ素子に相対的に近接する部分層に比べて多くのコイルを含む、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項13】
前記複数のコイルの各々は、ヘリカル状に形成され、
前記複数のコイルの各々の中心軸の方向は、前記複数の部分層の積層方向と略一致する、請求項12に記載のアンテナ装置。
【請求項14】
絶縁性の基板上に膜状に形成され、電磁波を放射または吸収するアンテナ素子と、
各々が前記アンテナ素子と離間して前記基板上にミアンダ状に形成された複数のコイルとを備え、
前記複数のコイルの各々の中心線の方向は、前記アンテナ素子から生じる電気力線の方向と略一致し、
前記複数のコイルの各々は、各々の周囲に生じる前記電磁波の略半波長またはその整数倍の長さの導電線によって形成される、アンテナ装置。
【請求項15】
前記アンテナ素子に近接する側の前記複数のコイルの各々の端部は、前記電気力線と直交する等電位面と前記基板の表面との交線に沿って配置される、請求項14に記載のアンテナ装置。
【請求項16】
前記基板の表面に沿う電気力線の間隔は、前記アンテナ素子から離間するにつれて広がり、
前記複数のコイルの各々において、前記中心線に垂直な方向の幅は、前記アンテナ素子から離間するほど長い、請求項14または15に記載のアンテナ装置。
【請求項17】
前記複数のコイルは、複数のグループに分割され、
互いに同一のグループに属するコイルは、同一の長さの導電線によって形成され、
互いに異なるグループに属するコイルは、異なる長さの導電線によって形成される、請求項1〜16のいずれか1項に記載のアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2011−97334(P2011−97334A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248888(P2009−248888)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】