説明

アントラセン誘導体、これを用いた化合物、組成物、硬化物及びその製造方法

【課題】アントラセン特有の特性、例えば、高炭素密度、高融点、高屈折率及び紫外線に対する蛍光性能等を備え、かつビスフェノール構造に起因する反応多様性を兼ね備えたアントラセン誘導体及びこの製造方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明は、下記一般式(1)にて示されるアントラセン誘導体である(式(1)中、X及びYは、それぞれ独立にヒドロキシアリール基を示す。)。上記X及びYはヒドロキシフェニル基であることが好ましい。また、当該アントラセン誘導体は、非反応性含酸素有機溶媒及び酸触媒の存在下、フェノール類と、アントラセン−9−カルボアルデヒドとを反応させる工程を有する方法で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアントラセン誘導体、これを中間体として得られる化合物、これらを含む組成物及びこの硬化物並びに上記アントラセン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アントラセンは、木材の殺虫材や保存安定剤、塗料等のほか、エポキシ樹脂やカーボンブラックの製造原料、アントラキノン染料の合成原料等の種々の用途に利用されている。
【0003】
また、このアントラセンは、ベンゼン環が3個縮合した縮合多環芳香族化合物であるため、構造的な硬さ、炭素密度の高さ、高融点、高屈折率等の特徴に加え、紫外線照射によってπ電子が作用し蛍光を発する等の有用な特性を有している。かかる特性を付加価値として更なる活用を図るべく、アントラセンの様々な応用展開が試みられている。これまでも種々のアントラセン誘導体が、多岐にわたる技術分野で付加価値の高い材料として開発されている。
【0004】
例えば、アントラセンの9,10位に(メタ)アクリレート基を導入し、重合性モノマーとすることで、光ラジカル重合の増感剤として作用する光硬化ポリマー(特開2007−99637号公報等参照)や、紫外線吸収能や難燃性を有するポリマー(特開2008−1637号公報等参照)を得ることができる。
【0005】
また、フォトレジストの分野においても、アントラセンを用い、高感度、高解像性、高エッチング耐性、低昇華性などの利点を有する感放射性樹脂組成物(特開2005−346024号公報等参照)や、レジスト樹脂とのインターミキシングを防止する反射防止膜(特開平7−82221号公報等参照)等を得ることができる。
【0006】
さらには、アントラセンを電子輸送材料又は発光材料として、有機感光体(OPC)、有機エレクトロルミネッサンス素子、有機太陽電池、有機発光ダイオードなどの用途へ応用も期待されている(特開2009−40765号公報等参照)。
【0007】
また、アントラセンが高屈折率を有するという特徴を生かして、光学材料としての利用のほか、高屈折率材料、低屈折率材料及び増感色素等を混合し、露光によって干渉縞を記録するホログラム記録材料としての利用も行われている(特開平6−295151号公報等参照)。
【0008】
一方、2個以上の芳香環を有するビスフェノール系化合物に注目すると、例えば、ビスフェノールフルオレンは、分子内の芳香環に結合する水酸基及び/又は該芳香環自体の反応性を利用して、新規な各種ポリマー、例えば、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリレート樹脂、アリール系オリゴマー等の製造に用いられている(例えば、特開平9−328534号公報等参照)。これらのビスフェノール系化合物由来の樹脂は、光学材料、電子材料等の多様な用途に適用される。このように、ビスフェノール系化合物は、反応が多様であり、多岐に亘る応用展開を可能とする汎用性を有していることから、特に注目されている。
【0009】
そのため、材料の高機能化や新たな特性の付与を可能とする新規なアントラセン骨格及びビスフェノール構造を有する化合物の開発が待ち望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−99637号公報
【特許文献2】特開2008−1637号公報
【特許文献3】特開2005−346024号公報
【特許文献4】特開平7−82221号公報
【特許文献5】特開2009−40765号公報
【特許文献6】特開平6−295151号公報
【特許文献7】特開平9−328534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる事情を背景になされたものであり、アントラセン特有の特性(高炭素密度、高融点、高屈折率及び紫外線に対する蛍光性能等)を備え、かつビスフェノール構造に起因する反応多様性を兼ね備えたアントラセン誘導体及びこの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するためになされた発明は、
下記一般式(1)にて示されるアントラセン誘導体である。
【0013】
【化1】

(式(1)中、X及びYは、それぞれ独立にヒドロキシアリール基を示す。)
【0014】
当該アントラセン誘導体は、アントラセン骨格を有するため、アントラセン特有の諸特性、例えば、高炭素密度、高屈折率及び紫外線に対する蛍光性能等を備え、さらにアントラセン骨格の9位及び10位に芳香環を有する置換基が導入されていることにより、アントラセンよりも高い融点を有する。
【0015】
当該アントラセン誘導体は、加えて、上記2つの置換基が反応活性な水酸基及び芳香環を有することから、ビスフェノール系化合物が備える多様な反応性を有する。また、当該アントラセン誘導体は、アントラセン骨格を備えることで、ビスフェノールフルオレン等のビスフェノール系化合物と比して同等以上の融点及び屈折率を有している。従って、当該アントラセン誘導体によれば、各種樹脂原料等に用いることができる等の高い汎用性を発揮することができる。
【0016】
上記アントラセン誘導体は、上記X及びYが、ヒドロキシフェニル基であるとよい。当該アントラセン誘導体は、特に高い融点及び屈折率を発揮することができ、また効率よく製造することができる。
【0017】
また、上記アントラセン誘導体を中間原料として得られる化合物も、各官能基を導入することで更なる特有の性質が付与され、様々な樹脂を合成する樹脂原料等として用いることができる。
【0018】
従って、上記アントラセン誘導体又は上記アントラセン誘導体を中間体として得られる化合物を含む組成物は、高い汎用性と付加価値を有する様々な樹脂を合成する樹脂原料組成物等として用いることができる。また、この組成物を硬化して得られる硬化物は、アントラセン骨格を有することで、高屈折率、高融点、蛍光性能等を備えることができ、多分野へ応用可能な樹脂等として使用することができる。
【0019】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、非反応性含酸素有機溶媒及び酸触媒の存在下、フェノール類と、アントラセン−9−カルボアルデヒドとを反応させる工程を有する下記式(1)にて示されるアントラセン誘導体の製造方法である。
【0020】
【化2】

(式(1)中、X及びYは、それぞれ独立にヒドロキシアリール基を示す。)
【0021】
当該製造方法によれば、副反応の発生を抑えることができ、またフェノール類の種類を選択することによって、所望する当該アントラセン誘導体を効率よく製造することができる。例えば、上記フェノール類としてフェノールを選択することで、上記式(1)におけるX及びYが共にヒドロキシフェニル基であるアントラセン誘導体を製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明のアントラセン誘導体は、アントラセンやビスフェノール系化合物と同等以上の高い融点を有し、かつアントラセン特有の諸特性、例えば、高炭素密度、高屈折率及び紫外線に対する蛍光性能等を備えている。さらに、当該アントラセン誘導体は、アントラセン特有の諸特性を備えた上で、ビスフェノール系化合物が備える多様な反応性を示すため、各種樹脂原料に用いることができる等の高い汎用性を発揮することができる。
【0023】
従って、本発明のアントラセン誘導体、当該アントラセン誘導体を中間体として得られる化合物、これらを含む組成物及び硬化物は、材料の高機能化や新たな特性の付与に極めて効果的であり、高い汎用性と付加価値を有する樹脂原料、例えば、エポキシ樹脂原料、ポリカーボネート樹脂原料、アクリル樹脂原料、積層材、塗料等のコーティング材料、レンズ、光学シート等の光学材料、ホログラム記録材料等の記録材料、有機感光体、フォトレジスト材料、反射防止膜、半導体封止材等の高機能材料、分子磁気メモリー等の磁性材料、有機太陽電池、有機EL素子等として多岐の技術分野での応用展開をはかることができる。
【0024】
さらに、本発明の製造方法によれば所望する当該アントラセン誘導体を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1の反応終了後のHPLCチャートを示す図である。
【図2】実施例1の目的物のH−NMRチャートを示す図である。
【図3】実施例1の目的物の13C−NMRチャートを示す図である。
【図4】実施例1の目的物の吸収スペクトルを示す図である。
【図5】実施例1の目的物の蛍光スペクトルを示す図である。
【図6】実施例2の反応終了後のHPLCチャートを示す図である。
【図7】実施例3の目的物の吸収スペクトルを示す図である。
【図8】実施例3の目的物の蛍光スペクトルを示す図である。
【図9】実施例4の目的物のH−NMRチャートを示す図である。
【図10】実施例4の目的物の13C−NMRチャートを示す図である。
【図11】実施例4の目的物の吸収スペクトルを示す図である。
【図12】実施例4の目的物の蛍光スペクトルを示す図である。
【図13】比較例1の化合物の吸収スペクトルを示す図である。
【図14】比較例1の化合物の蛍光スペクトルを示す図である。
【図15】比較例2の反応終了後のHPLCチャートを示す図である。
【図16】比較例3の反応終了後のHPLCチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を、アントラセン誘導体、これを用いて得られる化合物等、及びその製造方法の順に詳説する。
<アントラセン誘導体>
本発明のアントラセン誘導体は、上記一般式(1)で示される。
【0027】
上記アントラセン誘導体は、アントラセン骨格を有することによりアントラセン特有の諸特性である高炭素密度、高屈折率及び紫外線に対する蛍光性能等を備え、かつ芳香環を有する置換基(ヒドロキシアリール基)がアントラセン骨格の9位及び10位に導入されていることにより、アントラセンよりも高い融点を有する。
【0028】
当該アントラセン誘導体は、更に上記2つのヒドロキシアリール基が反応活性な水酸基及び芳香環を有することから、アントラセン特有の諸特性を備えた上で、ビスフェノール系化合物が備える多様な反応性を有する。例えば当該アントラセン誘導体は、アリル化、グリシジル化、アクリル化、メチロール化、ベンゾオキサジン化されることができる。
【0029】
また、当該アントラセン誘導体は、ビスフェノールフルオレン等のビスフェノール系化合物と比しても、アントラセン骨格を備えていることで同等以上の高融点及び高屈折率を有している。具体的には、当該アントラセン誘導体の融点は218℃以上300℃以下であり、屈折率は1.6以上2.0以下である。当該アントラセン誘導体の融点及び屈折率は、X及びYで示される置換基を選択することで調整することができる。
【0030】
従って、当該アントラセン誘導体によれば、各種樹脂原料等に用いることができる等の高い汎用性を発揮することができる。特に、当該アントラセン誘導体は、このフェノール骨格がアントラセン環の9位及び10位に配置されていることで、対称性が高く、また、樹脂原料として使用する場合にポリマー主鎖への導入が可能となる等の優れた応用展開が可能となる。特に、当該アントラセン誘導体は、アントラセン骨格の短軸となる9位及び10位にフェノール骨格が配置されているため、ポリマー主鎖へ導入された際の、当該ポリマーが極めて高い炭素密度を有する、又結晶性が高くなる等の特有な機能が発揮されることが期待される。
【0031】
上記ヒドロキシアリール基とは、少なくとも1つのヒドロキシ基を有し、その他の置換基を有してもよい芳香族炭化水素の芳香環から1つの水素を除いた置換基である。上記ヒドロキシアリール基の具体例としては、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基等及びこれらの芳香環上の水素原子が、アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシル基、アリール基、アルケニル基、アミノ基、メルカプト基等の置換基へ置換されたものが挙げられる。なお、当該芳香環上の置換基は、複数であってもよい。
【0032】
アルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、単環状若しくは縮合多環状アルキル基、又は炭素が−O−で置換されている直鎖状、分岐鎖状、単環状若しくは縮合多環状アルキル基等が挙げられる。直鎖状、分岐鎖状、単環状または縮合多環状アルキル基の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、tert−オクチル基、ネオペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基、ボロニル基、4−デシルシクロヘキシル基等が挙げられる。また、1個以上の−O−で中断されている直鎖状、分岐鎖状アルキル基の具体例としては、−CH−O−CH、−CH−CH−O−CH−CH、−CH−CH−CH−O−CH−CH、−(CH−CH−O)n1−CH(ここでn1は1〜8の整数である)、−(CH−CH−CH−O)m1−CH(ここでm1は1〜5の整数である)、−CH−CH(CH)−O−CH−CH−、−CH−CH−(OCH等が挙げられる。
【0033】
アルコキシル基としては、直鎖状、分岐鎖状、単環状若しくは縮合多環状アルコキシル基、又は1個以上の−O−で中断されている直鎖状、分岐鎖状、単環状若しくは縮合多環状アルコキシル基等が挙げられる。直鎖状、分岐鎖状、単環状若しくは縮合多環状アルコキシル基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、イソペンチルオキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、sec−ペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、tert−オクチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、アダマンチルオキシ基、ノルボルニルオキシ基、ボロニルオキシ基、4−デシルシクロヘキシルオキシ基等を挙げることができる。また、1個以上の−O−で中断されている直鎖状、分岐鎖状アルコキシル基の具体例としては、−O−CH−O−CH、−O−CH−CH−O−CH−CH、−O−CH−CH−CH−O−CH−CH、−O−(CH−CH−O)n2−CH(ここでn2は1〜8の整数である)、−O−(CH−CH−CH−O)m2−CH(ここでm2は1〜5の整数である)、−O−CH−CH(CH)−O−CH−CH−、−O−CH−CH−(OCH等を挙げることができる。
【0034】
アリール基としては、置換基を有していてもよい芳香環から1つの水素を除いた基が挙げられ、具体例としてはフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アンスリル基、9−アンスリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、9−フェナントリル基、1−ピレニル基、5−ナフタセニル基、1−インデニル基、2−アズレニル基、1−アセナフチル基、2−フルオレニル基、9−フルオレニル基、3−ペリレニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,5−キシリル基、メシチル基、p−クメニル基、p−ドデシルフェニル基、o−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、3,4,5−トリメトキシフェニル基、p−シクロヘキシルフェニル基、4−ビフェニル基、o−フルオロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−ブロモフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、m−カルボキシフェニル基、o−メルカプトフェニル基、p−シアノフェニル基、m−ニトロフェニル基、m−アジドフェニル基等を挙げることができる。
【0035】
アルケニル基としては、直鎖状、分岐鎖状、単環状または縮合多環状アルケニル基等が挙げられ、それらは構造中に複数の炭素−炭素二重結合を有していてもよく、具体例としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、4−ヘキセニル基、5−ヘキセニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、1,3−ブタジエニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロペンタジエニル基等を挙げることができる。
【0036】
上記ヒドロキシアリール基として、置換基を有するヒドロキアリール基を備えるアントラセン誘導体は、当該アントラセン誘導体の特徴を維持したまま、さらに機能を付加又は調整することができる。
【0037】
例えば、置換基としてアルキル基を有するヒドロキシアリール基を備える当該アントラセン誘導体によれば、当該アントラセン誘導体の多様な反応性を低下させることなく、屈折率や融点等を調整することができる。なお、当該置換アルキル基としては、当該アントラセン誘導体の立体配置安定性の点から、低分子量であることが好ましく、具体的には炭素数が5以下のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基が特に好ましい。
【0038】
また、2以上のヒドロキシ基を有するヒドロキシフェニル基又はヒドロキシナフチル基を備える当該アントラセン誘導体によれば、1つの芳香族環上に複数のヒドロキシ基が存在するので、例えば架橋反応性が向上するなど、更なる応用展開が可能となる。
【0039】
当該ヒドロキシアリール基の中でも、高屈折性、高融点及び反応多様性の点から、無置換のヒドロキシフェニル基及び無置換のヒドロキシナフチル基が好ましく、無置換のヒドロキシフェニル基が特に好ましく、4−ヒドロキシフェニル基が最も好ましい。またXとYとは、異なっていてもよいが、高屈折性、製造の容易さ等の点から、同一であることが好ましい。
【0040】
本発明のアントラセン誘導体は、上記の構造を有するため、直接又は反応中間体として用いて、エポキシ樹脂原料、ポリカーボネート樹脂原料、アクリル樹脂原料等の各種合成樹脂原料等として用いることができる。また、合成樹脂原料以外にも、例えば農薬中間体や、医薬中間体として用いることができる。
【0041】
<アントラセン誘導体を中間体として得られる化合物>
当該アントラセン誘導体を中間体として得られる化合物は、当該アントラセン誘導体をアリル化、グリシジル化(例えば、9−(4−ヒドロキシベンジル)−10−(4−ヒドロキシフェニル)アントラセンジグリシジルエーテル等)、アクリル化、メチロール化、ベンゾオキサジン化等を行うことで得ることができる。これらの化合物は、エポキシ樹脂原料、アクリル樹脂原料等の樹脂原料として用いることができる。当該アントラセン誘導体を中間体として得られるこれらの化合物も、アントラセン骨格を有しているため、高融点、高屈折率、蛍光性能等のアントラセン特有の性質を備えている。従って、当該化合物から得られる樹脂も高屈折率、蛍光性能等の機能を有するなど更なる付加価値を有することができる。
【0042】
<組成物>
当該アントラセン誘導体、又はこのアントラセン誘導体を中間体として得られる化合物を含む組成物は、エポキシ樹脂原料、ポリカーボネート樹脂原料、アクリル樹脂原料等の樹脂原料や、接着剤、塗料等に用いることができる。当該組成物における他の成分としては、各樹脂を製造する際に使用される公知のものが挙げられる。この他の成分としては、溶媒、無機充填剤、顔料、揺変性付与剤、流動性向上剤、他のモノマー等を挙げることができる。
【0043】
上記溶媒としては、組成物構成によって異なるが、例えば、エーテル類、ジエチレングリコールアルキルエーテル類、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネート類、芳香族炭化水素類、ケトン類、エステル類等を挙げることができる。
【0044】
また、無機充填剤としては、球状あるいは破砕状の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、水和アルミナ等が挙げられ、また、顔料としては、有機系又は無機系の体質顔料、鱗片状顔料等が挙げられる。揺変性付与剤としては、シリコン系、ヒマシ油系、脂肪族アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス、有機ベントナイト系等を挙げることができ、流動性向上剤としては、フェニルグリシジルエーテル、ナフチルグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0045】
<硬化物>
また、この組成物を硬化して得られる硬化物は各種樹脂として使用することができる。これらの硬化物は、アントラセン骨格に由来する高融点、高屈折率、及び蛍光性能といった様々な特性を付与する高汎用性の材料として様々な用途に用いることができる。なお、当該硬化物は、上記の組成物を光照射、加熱等の各組成に対応した公知の方法を用いることによって得ることができる。
【0046】
これらの硬化物は、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の各種合成樹脂として、更には、機能性を活かしてレンズ、光学シート等の光学材料、ホログラム記録材料等の記録材料、有機感光体、フォトレジスト材料、反射防止膜、半導体封止材等の高機能材料等として用いることができる。
【0047】
<アントラセン誘導体の製造方法>
本発明のアントラセン誘導体は、非反応性含酸素有機溶媒及び酸触媒の存在下にて、フェノール類とアントラセン−9−カルボアルデヒドとを反応させる工程を有する方法により製造される。当該反応の反応機構は定かではないが、非反応性含酸素有機溶媒により、アントラセン−9−カルボアルデヒドの特定の炭素上の電子が局在化され、フェノール系化合物との反応が生じること等が考えられる。
【0048】
上記フェノール類とは芳香環上にヒドロキシ基を有する化合物をいい、フェノール系化合物、ナフトール系化合物等がある。フェノール系化合物とは、フェノール及び芳香環上の水素が他の置換基に置換されたフェノールをいう。当該置換基としては、アルキル基やヒドロキシ基等が挙げられる。この置換基の数としては、アントラセン−9−カルボアルデヒドとの反応性から、4以下が好ましく、2以下が更に好ましく、0が特に好ましい。また、アントラセン−9−カルボアルデヒドとの反応性から、ヒドロキシ基のパラ位に置換基が配置されていないことが好ましい。
【0049】
フェノール系化合物としては例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、2,3,5−トリメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2−エチルフェノール、4−エチルフェノール、2−イソプロピルフェノール、4−イソプロピルフェノール、2−tert−ブチルフェノール、4−tert−ブチルフェノール、2−シクロヘキシルフェノール、4−シクロヘキシルフェノール、2−フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、チモール、2−tert−ブチル−5−メチルフェノール、2−シクロヘキシル−5−メチルフェノール、レゾルシン、2−メチルレゾルシン、カテコール、4−メチルカテコール、ハイドロキノン、ピロガロール等が挙げられる。
【0050】
ナフトール系化合物とは、ナフトール及び芳香環上の水素が他の置換基に置換されたナフトールをいう。当該置換基としては、アルキル基やヒドロキシ基等が挙げられる。この置換基の数としては、アントラセン−9−カルボアルデヒドとの反応性の点から、6以下が好ましく、2以下が更に好ましく、0が特に好ましい。
【0051】
ナフトール系化合物としては、1−ナフトール、2−ナフトール、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。
【0052】
当該フェノール類は、特にこれらに限定されるものではなく、所望する上記アントラセン誘導体の構造に応じて適宜選択される。例えば、上記フェノール類としてフェノールを選択することで、上記式(1)におけるX及びYがヒドロキシフェニル基であるアントラセン誘導体を製造することができる。なお、これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
また、このフェノール類の配合量の下限としては、アントラセン−9−カルボアルデヒド1モルに対し2モルが好ましく、4モルがさらに好ましい。このフェノール類の配合量の上限としては、アントラセン−9−カルボアルデヒド1モルに対し100モルが好ましく、50モルがさらに好ましく、20モルが特に好ましい。フェノール類の配合量が上記下限未満では、原料の高次縮合物が生成する為精製に多大なエネルギーを要し、逆に上記上限を超えると未反応のフェノール類を除去するのに多大なエネルギーを要する為、共に非経済的である。
【0054】
本製造方法においては、反応溶媒として、分子中に1以上の酸素原子を備える非反応性含酸素有機溶媒を用いる。なお「非反応性」とは、この反応系におけるフェノール類、アントラセン−9−カルボアルデヒド及び合成されるアントラセン誘導体とは反応しないことをいう。当該非反応含酸素有機溶媒としては、例えばアルコール類、多価アルコール系エーテル、環状エーテル類、多価アルコール系エステル、ケトン類、エステル類、スルホキシド類、カルボン酸類等を用いることができる。
【0055】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の一価アルコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の二価アルコール、グリセリン等の三価アルコールが挙げられる。
【0056】
多価アルコール系エーテルとしては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノペンチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル類が挙げられる。
【0057】
環状エーテル類としては、例えば、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。多価アルコール系エステルとしては、例えば、エチレングリコールアセテート等のグリコールエステル類が挙げられる。ケトン類としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。エステル類としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。スルホキシド類としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等が挙げられる。カルボン酸類としては、例えば、酢酸、無水酢酸等が挙げられる。
【0058】
これらの中でもアルコール類及び多価アルコール系エーテルが好ましく、メタノール、エチレングリコール及びエチレングリコールモノメチルエーテルが特に好ましい。
【0059】
非反応性含酸素有機溶媒は、前記の例示に限定されず、また、それぞれを単独又は2種以上を混合して用いても良い。非反応性含酸素有機溶媒の配合量の下限としては、フェノール類100質量部に対して、1質量部が好ましく、5質量部が更に好ましく、10質量部が特に好ましい。また、非反応性含酸素有機溶媒の配合量の上限としては、フェノール類100質量部に対して、1000質量部が好ましく、500質量部が更に好ましく、10質量部が特に好ましい。非反応性含酸素有機溶媒の配合量が上記下限未満であると、反応副生物の生成が顕著となり、生産性が低下するおそれがある。逆に、非反応性含酸素有機溶媒の配合量が上記上限を超えると、反応速度が低下し、生産性が低下するおそれがある。
【0060】
本発明における酸触媒としては、塩酸、硫酸、リン酸、過塩素酸などの無機酸、蓚酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フェノールスルホン酸などの有機酸、強酸性イオン交換樹脂等の樹脂酸などの強酸を挙げることが出来る。これらの触媒は、単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、メルカプト酢酸等の反応助触媒を併用しても良い。酸触媒の使用量としては、反応が過激で危険とならない範囲でかつ反応促進の為少なすぎない量を設定すればよいが、一般的には、フェノール類の質量に対して、0.1〜20質量%である。
【0061】
上記アントラセン誘導体の製造は、上記のフェノール類、アントラセン−9−カルボアルデヒド、非反応性含酸素有機溶媒及び酸触媒を反応容器に投入して、所定時間撹拌して行われる。なお、上記反応容器への投入物の投入順序は問わない。
【0062】
当該製造方法の反応工程における反応温度は、通常0〜100℃、好ましくは、25〜60℃の範囲で行われる。反応温度が低すぎると、反応時間が長くなる可能性があり、一方、反応温度が高すぎると、高次縮合物及び異性体等の反応副生物の生成が助長され、当該アントラセン誘導体の純度が低下する可能性がある。
【0063】
当該製造方法の反応工程における反応容器内の圧力は、通常は常圧であるが、加圧又は減圧で行っても良く、具体的には内部圧力(ゲージ圧)が−0.02〜0.2MPaの範囲であることが好ましい。
【0064】
当該製造方法の反応工程における反応時間は、用いるフェノール類、非反応性含酸素有機溶媒の種類と量、モル比、反応温度、圧力等に左右され、一概に定める事は出来ないが一般的には、1〜48時間の範囲であることが好ましい。
【0065】
当該製造方法の反応終了後、酸触媒の除去を行う。この触媒除去の方法としては、一般的には、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の非水溶性有機溶媒に生成物を溶解し、水洗により除去を行うが、その他中和処理を行った後析出した中和塩を濾別する方法や、イオン交換樹脂等の樹脂酸を直接濾別除去する方法、アニオン製充填剤の詰まったカラムに反応液を通過させる方法等、特に制限はない。
【0066】
当該製造方法においては触媒除去後、精製により当該アントラセン誘導体を取り出す。一般的には、目的物に対して貧溶媒として作用し、その他の副生成物や未反応原料には良溶媒として作用する有機溶媒を添加し、析出させた後濾別、乾燥する方法によって目的物である当該アントラセン誘導体を得ることができる。
【実施例】
【0067】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、本実施例によってなんら限定されるものではない。なお、得られたアントラセン誘導体、このアントラセン誘導体を中間体とする化合物及び硬化物の測定は下記測定機器及び測定方法により行った。
【0068】
<GPC純度>
GPC純度は、東ソー製HLC−8220型GPC、RI検出器、TSK−Gel SuperHZ2000+HZ1000+HZ1000(4.6mmφ×150mm)カラムを用い、展開溶媒としてテトラヒドロフランを0.35ml/分で送液し、目的物ピークの面積比によって求めた。
【0069】
<HPLC純度>
HPLC純度及び反応の終点確認は、島津製作所製HPLC Promineceシリーズ、UV検出器SPD−20A(246nm)、GLサイエンス製ODS−3(4.6mmφ×250mm)カラムを用い、展開溶媒として水/アセトニトリル=40/60を1.0ml/分で送液し、目的物ピークの面積比によって求めた。
【0070】
<融点及びガラス転移温度(Tg)>
融点は、リガク製DSC8230型示差走査熱量計にて、窒素雰囲気下5℃/分の昇温速度によるピークトップ法にて求めた。また、ガラス転移温度は同様の条件で測定し、中点ガラス転移温度を求めた。
【0071】
<線膨張率係数>
線膨張係数は、寸法安定性を確認するための測定であり、硬化物を2.5mm×3.0mm×15.0mmの試験片に切り出し、リガク製TMA8141BS型熱機械測定装置にて、Air雰囲気下5℃/分の昇温速度で300℃までの試験片の長さの測定を行い、30℃〜280℃の範囲の平均熱膨張率(ppm/℃)を求めた。
【0072】
<吸水率>
吸水率は、硬化物を10mm×10mm×2.5mmの試験片に切り出し、8時間熱水中で煮沸した後の質量増加量(質量%)を測定して求めた。
【0073】
<残炭率>
残炭率と酸素指数とは比例関係があり、一般的に難燃性の高い樹脂は残炭率が高いと言われている(下記文献1参照)。この文献を参照し、難燃性の指標として残炭率を測定した。測定方法は、リガク製TG8230型示差熱天秤にて、窒素雰囲気下10℃/分の昇温速度で830℃までの測定を行い、質量減少率(%)を100%から減じた数値で求めた。
(文献1)『Krevelen酸素指数と高分子の炭化の程度(Char Residue)に直線関係がある事を確認した。D.W.van Krevelen,polymer,16,p615(1975)D.W.van Krevelen,Chimia,28,p504(1974)』
【0074】
H−NMR及び13C−NMR>
H−NMR及び13C−NMRは、バリアン社製UNITY−INOVA 400MHzを用い、TMSを基準物質としてDMSO−d6溶媒で測定した。
【0075】
<屈折率>
屈折率は、京都電子工業製RA−520N型屈折率計を用い、25℃にて1質量%、5質量%及び10質量%の各濃度でプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解して測定し検量線を作成して100質量%時の換算屈折率を求めた。
【0076】
<吸収スペクトル及び蛍光スペクトル>
吸収スペクトルは、日本分光製分光光度計V−570を用いて1×10−5mol/L濃度でDMSOに溶解して測定を行い、蛍光スペクトルは、日立ハイテクノロジーズ社製蛍光分光光度計F−4010を用い、1×10−5mol/L濃度でDMSOに溶解して極大波長で励起させて測定を行った。また、アズワン製ハンディーUVランプSLUV−4を用いて、365nmの紫外線を照射し、発光の有無を観察した。
【0077】
[実施例1]
300mlの環流管付き反応容器にフェノール(112.8g,1.20mol)、アントラセン−9−カルボアルデヒド(49.4g,0.24mol)及びメタノール(11.3g)を入れ、40℃にて溶解した。濃硫酸(5.6g)を投入し、40℃で24時間反応を行い、HPLCにてアントラセン−9−カルボアルデヒドピークの消失と、主として目的物が生成していることを確認した。反応終点のHPLCチャートを図1に示す。次いで、反応液をメチルイソブチルケトン(169.2g)に溶解し、蒸留水(56.4g)にて水洗を数回行って触媒を除去した。減圧下にて、メチルイソブチルケトン及びフェノールを留去した後、キシレン(169.2g)及び蒸留水(11.3g)投入して10℃で攪拌した。析出した結晶を濾別後、減圧乾燥を行って、淡黄色結晶48.3g(収率53.3%)を得た。
【0078】
得られた結晶は、GPC純度100%、HPLC純度99.4%、融点238℃、換算屈折率1.701(25℃)であり、H−NMR(400MHz,DMSO−d6,δ,ppm/4.9,2H,−C−/6.6,6.9,7.1,7.2,8H,Phenyl−/7.3,7.5,7.7,8.4,8H,Anthryl−/9.2,9.8,2H,−O)及び13C−NMR(400MHz,DMSO−d6,δ,ppm/32.1,−−/115.4,115.6,128.8,129.1,131.4,132.3,155.7,157.1,−Phenyl/125.2,125.3,125.8,127.5,129.7,130.2,131.4,132.8,136.6,−Anthryl)にて9−(4−ヒドロキシベンジル)−10−(4−ヒドロキシフェニル)アントラセンであることを確認した。図2にH−NMRチャート、図3に13C−NMRチャートを示す。また、UVランプ(365nm)照射時の青色の発光を目視にて確認した。図4に吸収スペクトル、図5に蛍光スペクトル(励起波長:380nm)を示す。
【0079】
[実施例2]
実施例1において、メタノールをエチレングリコール(11.3g)とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、淡黄色の結晶49.9g(収率55.0%)を得た。反応終点のHPLCチャートを図6に示す。
【0080】
得られた結晶は、GPC純度100%、HPLC純度99.5%、融点238℃でありUVランプ(365nm)照射時の青色の発光を目視にて確認した。
【0081】
[実施例3]
実施例1において、フェノールを2−ナフトール(172.8g,1.20mol)とし、メタノールをエチレングリコールモノメチルエーテルとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、淡黄色の結晶57.1g(収率50.0%)を得た。
【0082】
得られた結晶は、GPC純度96.7%、HPLC純度99.4%、融点221℃、換算屈折率1.665(25℃)であり、H−NMR(400MHz,DMSO−d6,δ,ppm/5.0,2H,−C−/6.6,6.8,6.95,7.05,7.1,7.2,7.3,12H,Naphtyl−/7.4,7.5,7.7,8.4,8H,Anthryl−/9.1,9.7,2H,−O)にて9−{(2−ヒドロキシ−1−ナフチル)メチル}−10−(2−ヒドロキシ−1−ナフチル)アントラセンである事を確認した。また、UVランプ(365nm)照射時の青色の発光を目視にて確認した。図7に吸収スペクトル、図8に蛍光スペクトル(励起波長:380nm)を示す。
【0083】
[実施例4(アントラセン誘導体を中間原料とした化合物の合成)]
1Lの環流管付き反応容器に実施例1と同様の方法で得られた結晶(56.4g,0.15mol)、メタノール56.4g、エピクロロヒドリン(222.0g,2.4mol)を入れ、60℃で溶解した後、48%苛性ソーダ(25.0g,0.30mol)を滴下ロートより30分かけて滴下し、60℃で9時間反応を行った。次いで、114gの純水にて4回水洗した後、有機層を減圧下にて濃縮し、樹脂状の目的物を得た。放置冷却した樹脂状物を、乳鉢にて粗砕し、540gメタノールとともに撹拌して結晶を析出させ、濾過、乾燥して淡黄色の結晶67.7gを得た。
【0084】
得られた結晶は、GPC純度94.3%、HPLC純度99.0%、融点155℃、換算屈折率1.653(25℃)、エポキシ当量248であり、H−NMR(400MHz,DMSO−d6,δ,ppm/2.6,2.76,2.78,2.9,3.2,3.4,6H,Oxirane−H/3.7,4.0,4.2,4.4,4H,−O−CH−Oxirane/5.0,2H,−CH−/6.8,7.1,7.2,7.3,8H,Phenyl−H/7.4,7.5,7.6,8.3,8H,Anthryl−H)及び13C−NMR(400MHz,DMSO−d6,δ,ppm/32.0,−CH−/44.0,44.1,49.9,50.0,Oxirane−C/69.1,69.3,−O−CH−Oxirane/114.7,114.8,129.2,129.7,132.4,132.8,156.7,157.9,−Phenyl/125.3,125.4,126.0,127.3,130.1,130.8,133.6,136.1,−Anthryl)にて9−(4−ヒドロキシベンジル)−10−(4−ヒドロキシフェニル)アントラセンジグリシジルエーテルであることを確認した。図9にH−NMRチャート、図10に13C−NMRチャートを示す。また、UVランプ(365nm)照射時の青色の発光を目視にて確認した。図11に吸収スペクトル、図12に蛍光スペクトル(励起波長:381nm)を示す。
【0085】
[実施例5(組成物の調製及び硬化物の形成)]
実施例4で得られた結晶20.0g、硬化剤として無水メチルヘキサヒドロフタル酸(12.2g)を量り取り、180℃の熱板上で溶融混合した。さらに硬化促進剤として1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール(0.1g)を加え、充分に撹拌、脱泡して組成物を得た。
【0086】
上記にて調製した組成物を金型に流し込み、100℃で45分間減圧脱気した後、常圧から0.01kgf/cmの圧力をかけ、100℃(3時間)、次いで150℃(5時間)かけて硬化させた後、220℃で3時間アフターキュアを行って硬化物を得た。
【0087】
得られた硬化物を各種測定方法のサイズに切り取り、特性の評価を行ったところ、ガラス転移温度211℃、線膨張係数93ppm/℃、吸水率0.55%、残炭率12.74%であった。
【0088】
[比較例1]
ビスフェノールフルオレンの市販品であるBPAF[商品名:JFEケミカル製/9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン]の分析を行い、実施例1のビスフェノールアントラセン、実施例2のビスナフトールアントラセンと比較を行った所、HPLC純度98.6%、融点223℃、換算屈折率1.664(25℃)であった。UVランプ(365nm)照射を行ったが、目視では発光は確認できず、蛍光分光光度計による蛍光強度も非常に弱いものであった。図13に吸収スペクトル及び図14に蛍光スペクトル(励起波長:275nm)を示す。
【0089】
[比較例2]
実施例1において、メタノールをトルエン(11.3g)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。反応終了時のHPLC測定にて、目的物以外の副生成物が大量にある事を確認した。HPLCチャートを図15に示す。引き続き、実施例1と同様の方法で結晶の取り出しを試みたが、結晶化を行う事は出来なかった。
【0090】
[比較例3]
実施例1において、メタノールをシクロヘキサン(11.3g)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。反応終了時のHPLC測定にて、目的物以外の副生成物が大量にある事を確認した。HPLCチャートを図16に示す。引き続き、実施例1と同様の方法で結晶の取り出しを試みたが、結晶化を行う事は出来なかった。
【0091】
本実施例で示されるように、実施例1〜実施例3で合成された本発明に係るアントラセン誘導体は、アントラセン(融点218℃)より高い融点及び同等以上の屈折率を有し、アントラセンと同様の紫外線に対する蛍光性を有することが示された。また、実施例1のアントラセン誘導体を、同様にビスフェノール構造を有するビスフェノールフルオレン(比較例1)と比較すると、融点及び屈折率が高いことが示された。また、当該アントラセン誘導体の製造は、非反応性含酸素有機溶媒下で効率よく合成されることが示された。
【0092】
また、実施例1で合成された本発明に係るアントラセン誘導体を中間原料として得られた実施例4の化合物も蛍光特性等のアントラセン特有の性質を有することが示された。また、実施例4の化合物は反応性にも優れ、この化合物を含む組成物から得られる実施例5の硬化物は、高耐熱性、高難燃性、高寸法安定性、高耐湿性などの優れた性質を備えていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のアントラセン誘導体及びこれを中間体として得られる化合物は、高炭素密度、高融点、高屈折率、及び蛍光性能といった様々な特性を付与する高汎用性材料を提供することができ、例えばエポキシ樹脂原料、ポリカーボネート樹脂原料、アクリル樹脂原料等の樹脂原料に用いることができる。これらの当該アントラセン誘導体を原料とした樹脂等は、例えば積層材、塗料等のコーティング材料、レンズ、光学シート等の光学材料、ホログラム記録材料等の記録材料、有機感光体、フォトレジスト材料、反射防止膜、半導体封止材等の高機能材料、分子磁気メモリー等の磁性材料等に用いることができ、これらは、例えば有機太陽電池、有機EL素子、液晶表示素子などの材料として使用することができる。また、本発明のアントラセン誘導体は、樹脂原料のみならず、例えば医薬品中間体や染料中間体として利用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)にて示されるアントラセン誘導体。
【化1】

(式(1)中、X及びYは、それぞれ独立にヒドロキシアリール基を示す。)
【請求項2】
上記X及びYが、ヒドロキシフェニル基である請求項1に記載のアントラセン誘導体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のアントラセン誘導体を中間体として得られる化合物。
【請求項4】
請求項1若しくは請求項2に記載のアントラセン誘導体又は請求項3に記載の化合物を含む組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の組成物を硬化して得られる硬化物。
【請求項6】
非反応性含酸素有機溶媒及び酸触媒の存在下、フェノール類と、アントラセン−9−カルボアルデヒドとを反応させる工程を有する下記一般式(1)にて示されるアントラセン誘導体の製造方法。
【化2】

(式(1)中、X及びYは、それぞれ独立にヒドロキシアリール基を示す。)
【請求項7】
上記フェノール類が、フェノールである請求項6に記載のアントラセン誘導体の製造方法。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図13】
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【図14】
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【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−105699(P2011−105699A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100406(P2010−100406)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000117102)旭有機材工業株式会社 (235)
【Fターム(参考)】