説明

アンモニアセンサ

【課題】400℃を越える温度で測定可能であり、耐熱安定性に優れたアンモニアセンサを提供する。
【解決手段】一対の電極2Aと、該一対の電極に接して設けられ被検出ガス中のアンモニア成分に応じて電気的に変化する感応部4とを備え、感応部4は、固体超強酸物質とn型酸化物半導体の混合物とのみからなり、走査透過電子顕微鏡を用いて20点の感応部を観察したとき、全ての観察点における感応部4中の固体超強酸物質は、担体の表面に、これより微小で非晶質成分からなる複数の微粒を結合させてなるアンモニアセンサ200Aである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃焼器や内燃機関等の燃焼ガスや排気ガスの測定に好適に用いられるアンモニアセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関の燃費向上や燃焼制御を行うガスセンサとして、排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサや空燃比センサが知られている。又、排気ガス中の窒素酸化物(NO)の浄化方法として、尿素SCR(Selective Catalytic Reduction、選択還元触媒)方式が開発されている。尿素SCR方式は、SCR触媒に尿素を添加してアンモニアを発生させ、アンモニアによりNOを還元するものであり、NOを還元するアンモニア濃度が適量かどうかを測定するためのアンモニアセンサが求められている。
【0003】
このようなアンモニアセンサとして、アンモニア濃度に応じてインピーダンスが変化する固体超強酸物質(感ガス材料)で一対の電極を被覆し、電極間に交流を印加した時のインピーダンス変化に基づいてアンモニア濃度を検出するインピーダンス式(固体酸式)のアンモニアセンサが提案されている(特許文献1,2参照)。
特許文献1には、ZrO2粉末にW溶液を加えて(含浸させて)焼成し、主成分であるZrO2に副成分となるWO3を含ませた固体超強酸物質(WO3/ZrO2)を形成し、このペーストを塗布して感ガス材料とすることが記載されている。担体であるZrO2(又はZrO2にYを添加したYSZ)に対し、これよりも微粒のWO3が化学結合しており、WO3が有する固体酸としての特性がアンモニアの選択検知に寄与すると考えられる。
又、特許文献2には、YSZ粉末とWO3粉末とを別々に作製した後、これらを混合し、ペーストを塗布して感ガス材料とすることが記載されている。YSZ粒子とWO3粒子との接触点近傍で化学結合が生じて固体超強酸物質(WO3/ZrO2)を形成し、特許文献1と同様にWO3が有する固体酸としての特性がアンモニアの選択検知に寄与すると考えられる。
【0004】
【特許文献1】特許第3950833号公報(0075〜0077、表1)
【特許文献2】特開2007−15529号公報(要約)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、センサの実使用環境では、排ガス温度が400℃を越える場合があり、400℃より高温においても安定してアンモニアを検知できるセンサが求められている。
しかしながら、上記した特許文献1記載の固体酸式アンモニアセンサは、固体酸へのアンモニアの吸着による電気抵抗の変化のみを利用したセンサであるため、高温になると感度が低下するという問題がある。この原因の1つとして、400℃よりも高温環境下では、アンモニアの吸着量が減少し、電気抵抗の変化が少なくなるためであると考える。
また、上記した特許文献2記載の固体酸アンモニアセンサは、YSZ粉末とWO3粉末とを単純に混合して作成しているため、感ガス材料には、担体であるYSZ粒子の表面にWO3粒子が化学結合して固体超強酸物質を形成したもの以外に、微粒のWO3粒子で覆われず固体超強酸物質にならない単体のYSZ粒子が存在する。
高温環境下において固体超強酸物質は、担体のYSZに微粒のWO3が存在しているので、担体の粒成長を防止できることが判明した。しかし、担体のYSZ粒子の表面に微粒のWO3が存在しない場合は、担体を構成するYSZ粒子が別個に凝集して、高温で粒成長が生じてしまい高温測定での感度や耐熱性に問題がある。
【0006】
すなわち、本発明は、400℃を越える温度で測定可能であり、耐熱安定性に優れたアンモニアセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のアンモニアセンサは、一対の電極と、該一対の電極に接して設けられ被検出ガス中のアンモニア成分に応じて電気的に変化する感応部とを備え、前記感応部は、固体超強酸物質とn型酸化物半導体の混合物とのみからなり、走査透過電子顕微鏡を用いて20点の前記感応部を観察したとき、全ての観察点における前記感応部中の固体超強酸物質は、担体の表面に、これより微小で非晶質成分からなる複数の微粒を結合させてなる。
このような構成とすると、担体の表面に、これより微小で非晶質成分からなる複数の微粒を結合させた固体超強酸物質が確実に形成され、また、微粒が存在しない担体を含まないため高温での担体の粒成長を抑制する。そのため、400℃を越える温度でアンモニアの測定可能となり、耐熱安定性にも優れたアンモニアセンサが得られる。さらに、感応部が固体超強酸物質のみで形成される場合と比べ、固体超強酸物質とn型酸化物半導体とからなるので、400℃よりも高温下でアンモニアの吸着量が減少しても、電気抵抗の変化が低下することを抑制できる。これは、固体超強酸物質に吸着したアンモニアが隣接するn型酸化物半導体の電子伝導性を増加させる事を利用し、高温でアンモニア感度が低下するのを抑制することできる。
【0008】
前記固体超強酸物質の前記担体は、ZrO2、TiO2、Fe2O3、HfO2、SnO2、SiO2及びAl2O3の群から選ばれる1種以上からなり、前記固体超強酸物質の前記微粒は、WO3、MoO3、B2O3、SO4、PO4の群から選ばれる1種以上からなることが好ましい。
前記固体超強酸物質は、WO3/ZrO2、SO4/ZrO2、WO3/TiO2、及びWO3/Al2O3の群から選ばれる1種以上からなることが好ましい。
前記担体は、CaO、MgO、Y2O3、YbO3、Ga2O3の群から選ばれる1種以上の安定化剤を含有することが好ましい。
前記n型酸化物半導体材料は、WO3、SnO2、TiO2、及びMoO3の群から選ばれる1種以上からなることが好ましい。
【0009】
前記n型酸化物半導体材料は、A2(WO4)3(AはAl、In、Y、Nd、又はLaのいずれか1つ)からなることが好ましい。
A2(WO4)3は複合酸化物であるため、センサの耐熱安定性をさらに向上させる。
【0010】
前記感応部全体に対し、前記n型酸化物半導体材料が合計で5〜20wt%含有されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、400℃を越える温度で測定可能であり、耐熱安定性に優れたアンモニアセンサが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るアンモニアセンサ200Aの長手方向に沿う断面図を示す。アンモニアセンサ200Aは、アンモニアを検出するセンサ素子部50Aを組み付けたアッセンブリである。アンモニアセンサ200Aは、軸線方向に延びる板状のセンサ素子部50Aと、排気管に固定されるためのねじ部139が外表面に形成された筒状の主体金具138と、センサ素子部50Aの径方向周囲を取り囲むように配置される筒状のセラミックスリーブ106と、軸線方向に貫通するコンタクト挿通孔168の内壁面がセンサ素子部50Aの後端部の周囲を取り囲む状態で配置される絶縁コンタクト部材166と、センサ素子部50Aと絶縁コンタクト部166との間に配置される複数個(図1では2つのみ図示)の接続端子110とを備えている。
【0013】
主体金具138は、軸線方向に貫通する貫通孔154を有し、貫通孔154の径方向内側に突出する棚部152を有する略筒状形状に構成されている。また、主体金具138は、センサ素子部50Aの先端側を貫通孔154の先端側外部に配置し、電極端子部30A〜34Aを貫通孔154の後端側外部に配置する状態で、センサ素子部50Aを貫通孔154に保持している。さらに、棚部152は、軸線方向に垂直な平面に対して傾きを有する内向きのテーパ面として形成されている。
【0014】
なお、主体金具138の貫通孔154の内部には、センサ素子部50Aの径方向周囲を取り囲む状態で環状形状のセラミックホルダ151、粉末充填層153、156(以下、滑石リング153、156ともいう)、および上述のセラミックスリーブ106がこの順に先端側から後端側にかけて積層されている。また、セラミックスリーブ106と主体金具138の後端部140との間には、加締めパッキン157が配置されており、セラミックホルダ151と主体金具138の棚部152との間には、滑石リング153やセラミックホルダ151を保持し、気密性を維持するための金属ホルダ158が配置されている。なお、主体金具138の後端部140は、加締めパッキン157を介してセラミックスリーブ106を先端側に押し付けるように、加締められている。
【0015】
一方、図1に示すように、主体金具138の先端側(図1における下方)外周には、センサ素子部50Aの突出部分を覆うと共に、複数の孔部を有する金属製(例えば、ステンレスなど)二重の外部プロテクタ142および内部プロテクタ143が、溶接等によって取り付けられている。
【0016】
そして、主体金具138の後端側外周には、外筒144が固定されている。また、外筒144の後端側(図1における上方)の開口部には、センサ素子部50Aの電極端子部30A〜34Aとそれぞれ電気的に接続される5本のリード線146(図1では3本のみ)が挿通されるリード線挿通孔161が形成されたグロメット150が配置されている。
【0017】
また、主体金具138の後端部140より突出されたセンサ素子部50Aの後端側(図1における上方)には、絶縁コンタクト部材166が配置される。なお、この絶縁コンタクト部材166は、センサ素子部50Aの後端側の表面に形成される電極端子部30A〜34Aの周囲に配置される。この絶縁コンタクト部材166は、軸線方向に貫通するコンタクト挿通孔168を有する筒状形状に形成されると共に、外表面から径方向外側に突出する鍔部167が備えられている。絶縁コンタクト部材166は、鍔部167が保持部材169を介して外筒144に当接することで、外筒144の内部に配置される。そして、絶縁コンタクト部材166側の接続端子110と、センサ素子部50Aの電極端子部40A〜44Aとが電気的に接続され、リード線146により外部と導通するようになっている。
【0018】
次に、センサ素子部50Aの構成について図2を用いて説明する。センサ素子部50Aは長尺板状であり、排気ガス中のアンモニアガスを検出する検知部10Aが表面51Aの先端部に露出し、表面51Aとは反対側に位置する裏面52Aを構成する最外層に、後述する緻密絶縁層12Aが形成されている。又、センサ素子部50Aの後端部には、電極端子部40A〜44Aがそれぞれ露出している。
【0019】
図3は図2のIII−III線に沿う断面図である。センサ素子部50Aは固体酸材料を用いた抵抗変化(インピーダンス)式の板状アンモニアセンサである。
センサ素子部50Aは、アルミナ製の絶縁層24A、26Aを積層して本体部分とし、絶縁層24A表面左端に一対の櫛歯電極(請求項の「一対の電極」に相当)2Aが配置されている。一対の櫛歯電極2Aから絶縁層24Aの長手方向に沿ってそれぞれリード30A,31Aが延び、リード30A,31A上に絶縁層20Aが被覆され、絶縁層20Aがセンサ素子部の表面51Aを形成している。但し、リード30A,31Aの右端は絶縁層20Aで被覆されずに露出し、それぞれ電極端子部40A、41Aを形成している。
一対の櫛歯電極2Aは、例えば金を主成分とし、それぞれ櫛状の2つの電極が離間して配置されている。また、リード30A,31Aは、例えば白金を主成分とする材料で構成している。
【0020】
櫛歯電極2A上には、櫛歯電極2Aを完全に覆う感応部(請求項の「感応部」に相当)4が形成され、櫛歯電極2Aと感応部4とによって検知部10Aが構成されている。感応部4はアンモニア濃度に応じてインピーダンス(Z)が変化する感ガス材料であり、固体酸物質を用いることができる。
櫛歯電極2A間に交流を印加することにより、電極2A間に埋設された感応部4のインピーダンス(Z)が変化するので、インピーダンス変化に基づいて排ガス中のアンモニア濃度を検出することができる。
なお、絶縁層20Aは電極2Aの側縁を被覆しているが、感応部4の上面は絶縁層20Aで被覆されずに露出し、排ガス雰囲気に曝されるようになっている。つまり、検知部10A(感応部4を含む)はセンサ素子部の表面51Aに露出している。
【0021】
一方、絶縁層26Aの外側(図3の下面)には、測温抵抗体である温度検出手段(温度センサ)14Aが配置され、絶縁層24Aと絶縁層26Aの間にはセンサ素子部50Aを加熱する抵抗体であるヒータ16Aが介装されている。さらに、温度検出手段14Aから絶縁層26Aの長手方向に沿ってそれぞれリード32A,33Aが延びている。また、ヒータ16Aから絶縁層26Aの長手方向に沿ってそれぞれリード35A、36Aが延びており、絶縁層26Aに形成されたスルーホールを介して、電極端子部42A、44Aに接続している。ヒータ16Aは、温度検出手段14Aの測温結果に基づいて加熱され、センサ素子部50A(の検知部10A)を活性温度に昇温して動作を安定化させるために用いられる。
温度検出手段14A、ヒータ16A、リード32A,33A、35A、36Aは、それぞれ例えば白金を主成分とする。
【0022】
温度検出手段14Aの外表面は、薄い緻密絶縁層12Aで被覆されているが、リード32A,33Aの右端は絶縁層12Aで被覆されずに露出し、それぞれ電極端子部42A、43Aを形成している。
このようにして、センサ素子部50Aにおける裏面52Aの最外層に薄い緻密絶縁層12Aが形成され、緻密絶縁層12Aの直下に温度検出手段14Aが配置される。
【0023】
そして、図示しない温度制御装置(回路ユニット)により、温度検出手段14Aの測定値に基づいてヒータ16Aの印加電圧が制御され、センサ素子部50Aの検知部10Aが最適温度(活性化温度)に加熱制御される。
【0024】
次に、センサ素子部50Aの製造方法の一例を、展開図4を参照して簡単に説明する。まず、センサ素子部の本体となる比較的厚い(例えば300μm)グリーンシートのアルミナ絶縁層24A1,26Aを用意し、絶縁層26A上にPt、アルミナ(共素地として用いる無機酸化物)バインダ及び有機溶剤を含む電極ペースト(以下、「Pt系ペースト」という)をスクリーン印刷してヒータ16A(及びこれから延長するリード35A,36A)を形成する。
【0025】
一方、絶縁層26Aの下面にPt系ペーストをスクリーン印刷して温度検出手段14A(及びこれから延長するリード32A、33A、34A、及び電極端子部42A、43A、44A)を形成し、温度検出手段14A表面にアルミナ、バインダ及び有機溶剤を含むペーストをスクリーン印刷して絶縁層12Aを形成する、なお、絶縁層12Aの厚みは、ペーストの塗布量や塗布回数によって調整することができる。
【0026】
次いで、絶縁層24A1上にPt系ペーストをスクリーン印刷してリード30A,31A,電極端子部40A、41Aを形成し、リード30A,31Aの左端に隣接して絶縁層24A1上に薄い多孔質層25を形成する。多孔質層25は、絶縁層24A1上を粗面化して櫛歯電極2Aとの密着性を高めるためのものであり、図3では特に表示されていない。
さらに、リード30A,31Aを覆うように絶縁層24A1上に絶縁材料(アルミナ等)、バインダ及び有機溶剤を含むペーストをスクリーン印刷して絶縁層20Aを形成する。そして、絶縁層24A1の下に絶縁層24A2を形成した後、絶縁層24A2と絶縁層26Aとを合わせて積層圧着し、さらに、所定形状に切断し、所定温度(例えば約400℃)で脱バインダ後、所定温度(例えば1520℃)で焼成する。なお、絶縁層24A2は、絶縁層24A1と絶縁層26Aとの密着性を高めるものであり、図3では、絶縁層24A1、24A2を合わせて絶縁層24Aと図示している。
【0027】
その後、リード30A,31Aの左端にそれぞれ接続するようにして、Au、バインダ及び有機溶剤を含む電極ペーストをスクリーン印刷して櫛歯電極2Aを形成し、所定温度(例えば、250℃)で脱バインダ後、所定温度(例えば、1000℃)で焼成する。
【0028】
さらに、櫛歯電極2Aを覆って感応部4を形成する。感応部4の形成方法は、次のようにして行うことができる。
【0029】
(固体超強酸物質の作製)
まず、例えば特開2005−114355号公報(例えば段落0075〜0078)に記載されたA法に基づき、固体超強酸物質からなる粉末を作製する。固体酸酸物質材料としてWがZrOに含有したもの(WO3/ZrO2)を例として説明する。
オキシ硝酸ジルコニウムをH2Oに溶解させ、アンモニア水を加えてpH8に調整する。得られた水酸化ジルコニウムを吸引濾過し、洗浄する。その後、乾燥機にて、110℃で24時間乾燥後、電気炉にて、400℃で24時間焼成し、表面積の大きなZrO2粉末を得る。
一方、タングステン酸アンモニウムをH2Oに溶解させ、アンモニア水を加えて、pH10〜11に調整された溶液(W溶液)を得る。
そして、前記の方法にて得られたZrO2粉末とW溶液とを用い、W量とZrO2量とを調整して、例えば、W量がWO3換算で(WO3量及びZrO2量の合計量を100重量%としたときに)2〜40重量%の範囲の所定値となるように調整して、るつぼに入れる。その後、乾燥機にて、120℃で24時間乾燥後、電気炉にて、800℃で5時間焼成する。これにより、担体のZrOの表面に微粒で非晶質のWOが複数個化学結合した固体超強酸物質を得る。
【0030】
(感応部4材料の調整)
次に、得られた固体超強酸物質の粉末と、酸化タングステン粉末(n型酸化物半導体材料)を所定の割合で混合する。
【0031】
さらに、この混合粉末をバインダ及び有機溶剤と混合してスラリーとし、櫛歯電極2A上に塗布後、所定温度(例えば600℃)で焼成して感応部4を形成する。その後、得られたセンサのエージング(例えば、高温、所定の雰囲気、水熱処理等)を施し、感応材料の安定化(粒子間をなじませる)を図っても良い。
【0032】
以上のようにして得られた感応部4は、固体超強酸物質とn型酸化物半導体の接触部での抵抗変化を利用して、400℃を越える温度でアンモニアの測定が可能となる。また、固体超強酸の担体であるZrOが微粒のWoに覆われているため、耐熱安定性にも優れたアンモニアセンサが得られる。
【0033】
ここで、本発明における「固体超強酸物質」は、担体の表面に、これより微小で非晶質成分からなる複数の微粒を結合させてなる。ここで、単に担体と非晶質成分との混合物として存在しているのではなく、担体の表面に、非晶質成分が化学結合して超強酸性が発揮されると推定される。特開2005−114355号公報によれば、固体超強酸物質は、ハメットの酸度関数HOにして−11.93以下であり、且つ、ゼオライトを除くものとしている。ハメットの酸度関数HOは、あるハメット塩基[B]に溶媒がプロトンを与える能力の尺度となるものである。
なお、上記した微粒のWOは、担体のZrOの表面に結合していると考えられるが、担体が例えば10〜30nm程度と極めて微小である。従って、本発明においては、走査透過電子顕微鏡(STEM)を用いて20点の感応部4を観察したとき、全ての観察点における感応部において、担体(ZrO等)の表面に、これより微小で非晶質成分からなる微粒(WO)が付着していることが観察されれば、これを固体超強酸物質であるとみなし、具体的な酸度関数HOの測定等は必要としない。又、非晶質であることはラマン分光測定を用いて判別することができる。非晶質WOであれば、800〜1000cm-1にブロードなピークが発生し、結晶質WOの場合には、723、819cm-1にシャープなピークが発生する。
【0034】
例えば、STEMの測定倍率500万倍、視野18nm×25nm程度で固体超強酸物質の測定を行うことができる。この場合、上記したように、担体が通常10〜30nm程度であるので、固体超強酸物質もほぼ同じ大きさであり、1視野がほぼ固体超強酸物質の粒1つに対応し、20点の視野とは、固体超強酸物質20粒について観察することに対応する。従って、固体超強酸物質の粒がこれより大きい場合は、少なくとも1視野が固体超強酸物質の粒1つに対応するよう、視野を変えることが好ましい。
又、感応部4は、固体超強酸物質とn型酸化物半導体との混合物のみからなることが必要である。固体超強酸物質とn型酸化物半導体とが混合物であることの確認は、上記と同様にSTEMを用いて感応部4を観察して行うことができる。なお、STEM観察により、各粒子が単に混合した形態であり混合物であることがわかる。又、上記した担体に結合している微粒は、単なる混合物としては存在しないので(単体で存在する微粒は凝集して径が大きくなる)、上記混合物と区別できる。
【0035】
上記した担体は、ZrO2、TiO2、Fe2O3、HfO2、SnO2、SiO2及びAl2O3の群から選ばれる1種以上からなり、上記微粒は、WO3、MoO3、B2O3、SO4、PO4の群から選ばれる1種以上からなることが好ましい。なお、微粒が担体に化学結合して固体超強酸物質になると、微粒の性質(例えば、WO3であればn型酸化物半導体)を示さなくなる。又、担体の粒径は通常10〜30nm程度であり、微粒の粒径は通常1nm以下程度であるがこれらに限られるわけではない。
前記固体超強酸物質は、WO3/ZrO2、SO4/ZrO2、WO3/TiO2、及びWO3/Al2O3の群から選ばれる1種以上からなることが好ましい。このうち、表記「WO3/ZrO2」は、WO3が微粒、ZrO2が担体を表す。主成分である担体は通常、固体超強酸物質の94.2mol%程度を占める。
担体は、CaO、MgO、Y2O3、YbO3、Ga2O3の群から選ばれる1種以上の安定化剤を含有してもよい。
上記n型酸化物半導体は、WO3、SnO2、TiO2、及びMoO3の群から選ばれる1種以上からなることが好ましく、A2(WO4)3(AはAl、In、Y、Nd、又はLaのいずれか1つ)からなることがより好ましい。なお、上記n型酸化物半導体は結晶質であり、通常、1μm程度以上の粒径を有する。
【0036】
感応部(固体酸材料とn型酸化物半導体材料)全体に対し、n型酸化物半導体が合計で5〜20wt%含有されていることが好ましい。n型酸化物半導体の含有量が5wt%未満であると、高温で十分な感度を生じさせることが困難となる場合がある。又、n型酸化物半導体材料の含有量が20wt%を超えると、n型酸化物半導体材料の特性が強くなり過ぎ、感応部のアンモニア選択性が低下する場合がある。
【0037】
感応部4の形成方法としては上記した粉末混合の他、比表面積が小さな(BET法で少なくとも40m2/g以下の)担体の粉末を調製し、この粉末に微粒の材料となるもの(n型酸化物半導体等、但し、この「n型酸化物半導体」は、最終的に得られた感応部に含まれる固体超強酸物質とn型酸化物半導体との混合物とは異なる)を含む溶液を含浸させた後、焼成することもできる。
n型酸化物半導体がWO3である場合を例として説明する。
まず、担体の粉末として、オキシ硝酸ジルコニウムと硝酸イットリウムをH2Oに溶解させ、アンモニア水を加えpH8に調整する。得られた沈殿を、吸引濾過・洗浄し、乾燥し800℃で仮焼し、比表面積が約40m2/gのYSZを得る。
次に、WO3含有量がYSZに対して約20wt%となるようタングステン酸アンモニウム溶液(W溶液)を調製し、得られたYSZ粉末に含浸させ、蒸発乾固させた後、800℃で5時間本焼成する。
【0038】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
【実施例】
【0039】
(1)センサの作製
(1−1)実施例1〜5:上記実施形態(図1〜図3)に係るアンモニアセンサを作製した。感応部4は以下のようにして作製した。
(固体超強酸物質の粉末)
まず、オキシ硝酸ジルコニウムと硝酸イットリウムをH2Oに溶解させ、アンモニア水を加えpH8に調整した。このとき、硝酸イットリウムは、最終的なYSZ(ZrO2−Y23)粉末に対するYの含有量が、Y23換算で4mol%となる様に調合した。得られた沈殿を、吸引濾過・洗浄し、乾燥機にて110℃で24時間乾燥し、その後マッフル炉にて400℃で24時間の焼成を行い、(担体となる)比表面積の大きなYSZ粉末を得た。
次に、所定量のYSZに対して、最終的なWO3/YSZ粉末におけるWの含有量がWO3換算で10重量%となる様に、タングステン酸アンモニウムを計り取り、H2Oに溶解させ、アンモニア水を加え、pH10〜11に調整した。この溶液に前記所定量のYSZ粉末を加え、十分に攪拌し懸濁液としたものを、ロータリーエバポレーターにて蒸発乾固させた。得られた固体を、乾燥機にて120℃で24時間乾燥し、マッフル炉にて800℃で5時間の焼成を行った。
以上により、10重量%WO3/YSZ粉末(固体超強酸物質)を得た。この粉末の比表面積をBET法で測定したところ約50m2/gであり、平均一次粒子径は約30〜50nm、平均二次粒子径は約10μmであった。なお、一次粒子径はSTEM観察結果から得られ、二次粒子径は粒度分布測定(レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置 HORIBA製LA−750)から得られた。
【0040】
(感応部4の材料粉末の作成)
次に、n型酸化物半導体としてWO3(高純度化学製、99.9%、粒径=約1μm、非晶質)と、上記の固体超強酸物質(WO3/YSZ)の粉末とを所定の割合で混合し、混合粉末を得た。
【0041】
さらに、この混合粉末をバインダ及び有機溶剤と混合してスラリーとし、櫛歯電極2A上に塗布後、600℃で焼成して感応部4を形成した。
【0042】
比較例1:上記実施形態(図1〜図3)に係るアンモニアセンサにおいて、n型酸化物半導体を混合せず、10重量%WO3/YSZ粉末(固体超強酸物質)のみを用いて感応部を形成した。
比較例2:上記実施形態(図1〜図3)に係るアンモニアセンサにおいて、n型酸化物半導体とYSZ粉末との混合材料を用いて感応部を形成した。
【0043】
(2)走査透過電子顕微鏡(STEM)による感応部の観察
走査透過電子顕微鏡(STEM;日立ハイテク社製HD−2000)を用い、実施例2及び比較例2のアンモニアセンサの感応部4表面から微量の感応部を採取し、異なる20点の視野を観察した。測定倍率500万倍、視野18nm×25nmで測定を行った。1視野がほぼ大きな粒1つに対応したため、大きな粒の20粒について観察を行ったこととなった。
実施例2について観察した各粒(WO3単体の粒を除く)の成分を同定したところ、すべての粒の表面に、1nm以下の成分が付着していることが判明した。そして、この付着物は微粒のWO3であることが同定された。又、各粒自体がYSZであることも同定された。これより、各粒に微粒が付着したものが固体超強酸物質であると判定した。
一方、比較例2の観察対象の成分を同定したところ、上記した固体超強酸物質(WO3/YSZ)も観察されたが、大きな粒のうち2個の粒の表面にはWO3がまったく付着せず、YSZ単体であることが判明した。
【0044】
(3)センサの特性評価
モデルガス発生装置を使用し、センサ特性の評価を行った。モデルガス発生装置のガス組成は、O2=10% CO2=5% H2O=5% N2=bal. NH3=0又は100ppm C3H6=0又は100ppmとした。そして、モデルガス発生装置のガス流中にセンサを配置し、ガス温度280℃, センサ素子部の制御温度550℃とし、400Hzの交流電圧をセンサに印加して、センサのインピーダンス値を測定した。NH3=0ppmで得られる抵抗をベースインピーダンス値とし、NH3ガスを100ppm混入したときのインピーダンス値の変化でNH3の検知を行った。ここで、センサ感度は、下記算出式を用いた。
センサ感度=
{Z(ガス中NH3=0ppm)−Z(ガス中NH3=100ppm)}/Z(ガス中NH3=0ppm)×100
但し、Zはセンサが示すインピーダンス値
【0045】
感応材料の組成、NH3感度及びC3H6感度を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1から明らかなように、固体超強酸物質にn型酸化物半導体を混合させて感応部の材料粉末を調製した各実施例の場合、従来より高温(550℃)においてもアンモニア感度が40以上であった。
但し、感応部中、n型酸化物半導体の割合が20wt%を超えた実施例5の場合、C3H6感度がアンモニア感度より大きくなり、他の実施例に比べてアンモニア選択性が劣化した。これは、n型酸化物半導体材料の含有量が20wt%を超えると、n型酸化物半導体材料の特性の影響が強くなり過ぎるためと考えられる。このようなことから、感応部中のn型酸化物半導体の割合が20wt%以下であることが好ましい。
【0048】
一方、n型酸化物半導体を加えずに固体超強酸物質のみからなる粒を感応部の材料粉末に用いた比較例1の場合、高温(550℃)でのアンモニア感度が大幅に低下した。なお、このものについて、400℃でアンモニア感度を同様に測定したところ、50以上であった。
又、n型酸化物半導体の粉末と担体(YSZ)の粉末とを単純に混合して感応部に用いた比較例2の場合、高温(550℃)にて感度50以上となった。但し、比較例2は後述するように耐熱性に劣る。
【0049】
(4)加熱耐久試験
次に、実施例2と比較例2について初期段階のNH3感度と、机上ヒータに載置して700℃で50時間加熱した後のNH3感度について、それぞれ調査した。結果を図5、図6に示す。
【0050】
図5、図6に示されるように、初期のNH3感度は実施例2と比較例2とが略同等であるのに対し、加熱耐久試験後は、実施例2のNH3感度に比べて比較例2のNH3感度がかなり低下していた。
【0051】
(4)感応部の材料のキャラクタリゼーション
それぞれ実施例2及び比較例2の感応部に用いた材料粉末のx線回折(XRD)及びラマン分光測定を行った結果を図7及び図8に示す。
図7より、実施例2の感応部材料は、結晶質WO3を含有することがわかる。また、図8より、実施例2の感応部材料において、結晶質WO3に由来する、723、819cm-1付近のピークと、非晶質WO3に由来する800〜1000cm-1のブロードなピークが確認された。
以上より、実施例2の感応部材料においてWO3は、結晶質WO3(n型酸化物半導体)と非晶質WO3(固体超強酸物質)の二つの形態からなっていることがわかる。実施例1〜3、実施例5についても同様な結果が得られた。
【0052】
一方、比較例1の感応部材料の場合、結晶質WO3が観察されず、WO3(n型酸化物半導体材料)が存在しないことを裏付けた。
なお、各実施例において、高温(550℃)でもアンモニア感度が高い理由は明確ではないが、固体超強酸物質の固体酸点(非晶質WO3)と、固体超強酸物質表面のn型酸化物半導体材料領域(結晶質WO3)の界面近傍において、固体酸点に吸着したNH3により結晶質WO3が僅かに還元され、Wの価数変化に伴う電子伝導性を増加させ、固体超強酸物質の抵抗を減少させるものと考えられる。
【0053】
(5)n型酸化物半導体材料の複合酸化物化による効果
n型酸化物半導体を複合酸化物化し、以下のようにセンサの耐熱安定性の向上効果を調査した。なお、複合酸化物であることは、蛍光X線分析等によりわかる。例えば、以下のAl2(WO4)3の場合、AとWの成分が検出される。
(複合酸化物の調製)
複合酸化物としてAl2(WO4)3を調製した。まず、Al(NO3)2・9H2Oを100mlの水に溶解し、必要量のタングステン酸アンモニウム溶液200mlを加えた。このものを蒸発乾固し、70℃で一晩真空乾燥した後、500℃で24時間仮焼して粉砕し、1000℃で本焼した。
(感応部4材料粉末の作成)
次に、実施例1〜5の上記の固体超強酸物質(WO3/YSZ)の粉末と、上記Al2(WO4)3粉末とを所定の割合で混合し、混合粉末を得た。
【0054】
さらに、この粉末をバインダ及び有機溶剤と混合してスラリーとし、櫛歯電極2A上に塗布後、600℃で焼成して感応部を形成した。
そして、この感応部を有する、上記実施形態(図1〜図3)と同様な構成のアンモニアセンサを作製し、実施例6とした。なお、感応部における固体超強酸物質の割合を77wt%とし、上記複合酸化物の割合を23wt%とした。
【0055】
モデルガス発生装置を使用し、実施例6のセンサ特性の評価を行った。モデルガス発生装置のガス組成は、O2=10% CO2=5% H2O=5% N2=bal. NH3=0又は100ppm C3H6=0又は100ppmとした。そして、モデルガス発生装置のガス流中にセンサを配置し、ガス温度280℃, センサ素子部の制御温度550℃とし、400Hzの交流電圧をセンサに印加して、センサのインピーダンス値を測定した。NH3=0ppmで得られる抵抗をベースインピーダンス値とし、NH3ガスを100ppm混入したときのインピーダンス値の変化でNH3の検知を行った。センサ感度の算出式は上記した通りである。
次に、このセンサを所定の机上ヒータに載置し、700℃で50時間加熱した後、上記と同様にセンサ特性の評価を行った。
【0056】
実施例6のセンサの初期のアンモニア感度と加熱試験後のアンモニア感度を図9に示す。
図5と、図9を比較した場合、n型酸化物半導体として複合酸化物を用いた実施例6の場合、実施例2に比べて加熱試験後のアンモニア感度の低下が少なく、センサの耐熱安定性が向上することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るガスセンサ(アンモニアセンサ)の長手方向に沿う断面図である。
【図2】センサ素子部50Aの構成を示す斜視図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】センサ素子部50Aの展開図である。
【図5】実施例2のセンサの初期と加熱試験後のアンモニア感度を示す図である。
【図6】比較例2のセンサの初期と加熱試験後のアンモニア感度を示す図である。
【図7】感応部に用いた材料粉末のx線回折(XRD)ピークを示す図である。
【図8】感応部に用いた材料粉末のラマン分光測定によるピークを示す図である。
【図9】実施例6のセンサの初期と加熱試験後のアンモニア感度を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
2A 一対の電極
4 感応部(感応部)
6 固体電解質層
10A 検知部
50A センサ素子部
200A アンモニアセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、該一対の電極に接して設けられ被検出ガス中のアンモニア成分に応じて電気的に変化する感応部とを備え、前記感応部は、固体超強酸物質とn型酸化物半導体との混合物のみからなり、
走査透過電子顕微鏡を用いて20点の前記感応部を観察したとき、全ての観察点における前記感応部中の前記固体超強酸物質は、担体の表面に、これより微小で非晶質成分からなる複数の微粒を結合させてなるアンモニアセンサ。
【請求項2】
前記固体超強酸物質の前記担体は、ZrO2、TiO2、Fe2O3、HfO2、SnO2、SiO2及びAl2O3の群から選ばれる1種以上からなり、前記固体超強酸物質の前記微粒は、WO3、MoO3、B2O3、SO4、PO4の群から選ばれる1種以上からなる請求項1記載のアンモニアセンサ。
【請求項3】
前記固体超強酸物質は、WO3/ZrO2、SO4/ZrO2、WO3/TiO2、及びWO3/Al2O3の群から選ばれる1種以上からなる請求項1又は2記載のアンモニアセンサ。
【請求項4】
前記担体は、CaO、MgO、Y2O3、YbO3、Ga2O3の群から選ばれる1種以上の安定化剤を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のアンモニアセンサ。
【請求項5】
前記n型酸化物半導体は、WO3、SnO2、TiO2、及びMoO3の群から選ばれる1種以上からなる請求項1〜4のいずれかに記載のアンモニアセンサ。
【請求項6】
前記n型酸化物半導体は、A2(WO4)3(AはAl、In、Y、Nd、又はLaのいずれか1つ)からなる請求項5記載のアンモニアセンサ。
【請求項7】
前記感応部全体に対し、前記n型酸化物半導体が合計で5〜20wt%含有されている請求項1〜6のいずれかに記載のアンモニアセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−71658(P2010−71658A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236040(P2008−236040)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】