説明

イオンセンサ付フレキシブル基板

【課題】製造コストの低減が可能なイオンセンサ付フレキシブル基板を提供する。
【解決手段】イオンセンサ付フレキシブル基板1は、可撓性を有するフレキシブル基板2と、このフレキシブル基板2上にマトリクス状に配置された、イオン濃度を検出するためのセンサとなる複数の薄膜トランジスタ3とより成る。フレキシブル基板2が参照電極を備え、各薄膜トランジスタ3は、フレキシブル基板2上でゲート領域を互いで挟むように形成されたソース電極4及びドレイン電極5と、フレキシブル基板2のゲート領域上に積層された有機半導体材料より成る有機半導体層6と、ソース電極4、ドレイン電極5及び有機半導体層6を覆いつつフレキシブル基板2上に積層されたゲート絶縁膜7と、このゲート絶縁膜7上に積層されたイオン感応膜8と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中のイオン濃度を分析するための溶液分析機器に用いられるイオンセンサ付フレキシブル基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、溶液分析機器には、イオン濃度を検出するためのセンサとしてイオン感応性電界効果型トランジスタ(ISFET;Ion Sensitive Field Effect Transistor)が用いられる。このISFETでは、ISFETのゲート上のイオン感応膜に溶液が接すると、溶液中のイオン濃度に応じて界面電位が発生することから、これを利用して溶液中のイオン濃度を検出できる。
【0003】
近年では、溶液分析機器が備える溶液槽の湾曲した内壁面に沿ってISFETを取り付けたり、溶液分析機器の探触子にISFETを取り付けたりすることができるように、可撓性を有するフレキシブル基板上に薄膜のISFET(以下、「薄膜トランジスタ」と記すことがある)を配備したイオンセンサ付フレキシブル基板が提供されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
このイオンセンサ付フレキシブル基板での薄膜トランジスタは、フレキシブル基板上でゲート領域を互いで挟むように形成されたソース電極及びドレイン電極と、フレキシブル基板のゲート領域上に積層された半導体層と、ソース電極、ドレイン電極及び半導体層を覆いつつフレキシブル基板上に積層されたゲート絶縁膜と、このゲート絶縁膜上に積層されたイオン感応膜と、を含み、そのイオン感応膜が溶液に接せられる。ここでの半導体層はシリコン等の無機半導体材料より成り、ソース電極とドレイン電極との間でゲート絶縁膜に積層されている部分がチャネル層として機能する。
【0005】
また、ここでのフレキシブル基板は、溶液に接せられる参照電極を備える。イオンセンサ付フレキシブル基板は、そのような薄膜トランジスタを含めて構成され、全体として、ある程度自由な屈曲を許容できる。
【特許文献1】特開2004−144705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した従来のイオンセンサ付フレキシブル基板では、薄膜トランジスタの構成要素である半導体層が無機半導体材料より成ることから、その製造プロセスにおいて、高温プロセスを要するし、クリーンルームや真空装置等をそろえた大規模な設備も必要となる。従って、製造コストの低減が困難である。
【0007】
そこで本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、製造コストの低減が可能なイオンセンサ付フレキシブル基板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明によるイオンセンサ付フレキシブル基板は、可撓性を有するフレキシブル基板と、このフレキシブル基板上に配置された、イオン濃度を検出するためのセンサとなる薄膜トランジスタと、より成り、前記フレキシブル基板が参照電極を備え、前記薄膜トランジスタは、前記フレキシブル基板上でゲート領域を互いで挟むように形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記フレキシブル基板の前記ゲート領域上に積層された、無機半導体材料より成る無機半導体層と、前記ソース電極、前記ドレイン電極及び前記無機半導体層を覆いつつ前記フレキシブル基板上に積層されたゲート絶縁膜と、このゲート絶縁膜上に積層されたイオン感応膜と、を含むイオンセンサ付フレキシブル基板において、次の点を特徴とする。複数の前記薄膜トランジスタがフレキシブル基板上にマトリクス状に配置されていて、前記各薄膜トランジスタは、前記無機半導体層に代えて、有機半導体材料より成る有機半導体層を含み、前記有機半導体層を構成する前記有機半導体材料がペンタセンであり、前記ソース電極及び前記ドレイン電極の材料が金であり、前記フレキシブル基板の材料がポリマー樹脂である。
【0009】
このような構成にすると、薄膜トランジスタの構成要素である半導体層が有機半導体材料より成ることから、有機物の特長を活かし、有機物を溶媒に溶かすことにより、輪転機やインクジェット等の印刷技術を活用して簡単に回路を作製することが可能であり、特に薄膜トランジスタの作製は、低温プロセスで行える。
【0010】
また、上記目的を達成するために本発明によるイオンセンサ付フレキシブル基板は、可撓性を有するフレキシブル基板と、このフレキシブル基板上にマトリクス状に配置された、イオン濃度を検出するためのセンサとなる複数の薄膜トランジスタと、より成り、前記フレキシブル基板が参照電極を備え、前記各薄膜トランジスタは、前記フレキシブル基板上でゲート領域を互いで挟むように形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記フレキシブル基板の前記ゲート領域上に積層された、有機半導体材料より成る有機半導体層と、前記ソース電極、前記ドレイン電極及び前記有機半導体層を覆いつつ前記フレキシブル基板上に積層されたゲート絶縁膜と、このゲート絶縁膜上に積層されたイオン感応膜と、を含む。
【0011】
このような構成にすると、薄膜トランジスタの構成要素である半導体層が有機半導体材料より成ることから、有機物の特長を活かし、有機物を溶媒に溶かすことにより、輪転機やインクジェット等の印刷技術を活用して簡単に回路を作製することが可能であり、特に薄膜トランジスタの作製は、低温プロセスで行える。
【0012】
ここで、前記有機半導体層を構成する前記有機半導体材料がペンタセンであることが好ましい。また、前記ソース電極及び前記ドレイン電極の材料が金であることが好ましい。また、前記フレキシブル基板の材料がポリマー樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のイオンセンサ付フレキシブル基板によれば、低温プロセスで作製できるため、製造コストの低減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明のイオンセンサ付フレキシブル基板の一実施形態について、図面を参照しながら詳述する。図1は本発明の一実施形態であるイオンセンサ付フレキシブル基板の斜視図、図2はそのイオンセンサ付フレキシブル基板における薄膜トランジスタ部分の断面図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態のイオンセンサ付フレキシブル基板1は、大きくは、可撓性を有するフレキシブル基板2と、このフレキシブル基板2上にマトリクス状に配置された複数の薄膜トランジスタ3と、より構成される。なお図1では、薄膜トランジスタ3が3行×4列に配列されている例を示している。
【0016】
ここで、フレキシブル基板2の材料としては、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリマー樹脂が例示される。
【0017】
また、各薄膜トランジスタ3は、それぞれがイオン濃度を検出するためのセンサとして機能するものであり、図2に示すように、大きくは、ソース電極4と、ドレイン電極5と、半導体層6と、ゲート絶縁膜7と、イオン感応膜8と、を含む。ソース電極4及びドレイン電極5は共にフレキシブル基板2上に形成されていて、フレキシブル基板2上でゲート領域をあけてそのゲート領域を互いで挟み込むように形成されている。ソース電極4及びドレイン電極5の材料としては、金や銀等の金属が例示される。
【0018】
半導体層6は、フレキシブル基板2におけるソース電極4とドレイン電極5との間のゲート領域上に積層されており、ゲート絶縁膜7は、ソース電極4、ドレイン電極5及び半導体層6を覆いつつフレキシブル基板2上に積層されている。ここでの半導体層6は有機半導体材料より成り、ソース電極4とドレイン電極5との間でゲート絶縁膜7に積層されている部分6aがチャネル層として機能する。その有機半導体材料としては、ペンタセン、銅ニロシアニン、オリゴチオフェン、ポリチオフェン等が例示される。
【0019】
なお、実際には、ソース電極4とゲート絶縁膜7との間、ドレイン電極5とゲート絶縁膜7との間に、1nm以下の薄さで有機材料の自己組織化単分子膜4a、5aを介在させることが好ましい。特にソース電極4からシャネル層9aに直接電子が流れるようになるため、電子移動度が向上し、その結果薄膜トランジスタ3の性能が向上するからである。ここでいう自己組織化単分子膜4a、5aは、所定の処理を施すと、化学反応により、有機分子が自ら1分子分だけ付着していくという性質を利用した膜である。
【0020】
イオン感応膜8はゲート絶縁膜7上に積層されており、このイオン感応膜8が溶液に接せられる。また、ここでのフレキシブル基板2は、図示は省略しているが、溶液に接せられる参照電極を備える。
【0021】
このような薄膜トランジスタ3では、有機物の特長を活かし、有機物を溶媒に溶かすことにより、輪転機やインクジェット等の印刷技術を活用して簡単に回路を作製することが可能である。もっとも、薄膜トランジスタ3の構成要素である半導体層6が有機半導体材料より成ることから、イオンセンサ付フレキシブル基板1の作製、特に薄膜トランジスタ3の作製は、低温プロセスで行える。そのため、製造コストの低減が可能となる。
【0022】
しかも、低温プロセスであるため、フレキシブル基板2がポリマー樹脂で構成される場合、薄膜トランジスタ3はそのフレキシブル基板2との相性が良好である。従って、イオンセンサ付フレキシブル基板1は、薄膜トランジスタ3を含めた全体として、しなやかな自由な屈曲を許容できるようになる。
【0023】
また、このようなイオンセンサ付フレキシブル基板1は、溶液分析機器が備える溶液槽の湾曲した内壁面に沿って取り付けたり、溶液分析機器の探触子に取り付けたりすることができる。溶液の分析に際しては、各薄膜トランジスタ3において、イオン感応膜8に溶液が接すると、溶液中のイオン濃度に応じて、イオン感応膜8と半導体層6のチャネル層6aとの間に界面電位が発生し、その結果、ドレイン電極5とソース電極4との間にそのイオン濃度に応じた電流が流れる。そして、その電流値を検出することで溶液中のイオン濃度を検出できる。その上、薄膜トランジスタ3をマトリクス状に複数備えているため、個々の薄膜トランジスタ3によって、各々が接する溶液中のイオン濃度を検出することが可能であり、広範囲での検出が行えるし、高い検出精度を得られるという利点もある。
【0024】
その他本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、溶液分析機器に用いられるイオンセンサ付フレキシブル基板に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態であるイオンセンサ付フレキシブル基板の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態であるイオンセンサ付フレキシブル基板における薄膜トランジスタ部分の断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 イオンセンサ付フレキシブル基板
2 フレキシブル基板
3 薄膜トランジスタ
4 ソース電極
5 ドレイン電極
6 有機半導体層
7 ゲート絶縁膜
8 イオン感応膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するフレキシブル基板と、このフレキシブル基板上に配置された、イオン濃度を検出するためのセンサとなる薄膜トランジスタと、より成り、
前記フレキシブル基板が参照電極を備え、
前記薄膜トランジスタは、前記フレキシブル基板上でゲート領域を互いで挟むように形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記フレキシブル基板の前記ゲート領域上に積層された、無機半導体材料より成る無機半導体層と、前記ソース電極、前記ドレイン電極及び前記無機半導体層を覆いつつ前記フレキシブル基板上に積層されたゲート絶縁膜と、このゲート絶縁膜上に積層されたイオン感応膜と、を含むイオンセンサ付フレキシブル基板において、
複数の前記薄膜トランジスタがフレキシブル基板上にマトリクス状に配置されていて、
前記各薄膜トランジスタは、前記無機半導体層に代えて、有機半導体材料より成る有機半導体層を含み、
前記有機半導体層を構成する前記有機半導体材料がペンタセンであり、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極の材料が金であり、
前記フレキシブル基板の材料がポリマー樹脂であることを特徴とするイオンセンサ付フレキシブル基板。
【請求項2】
可撓性を有するフレキシブル基板と、このフレキシブル基板上にマトリクス状に配置された、イオン濃度を検出するためのセンサとなる複数の薄膜トランジスタと、より成り、
前記フレキシブル基板が参照電極を備え、
前記各薄膜トランジスタは、前記フレキシブル基板上でゲート領域を互いで挟むように形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記フレキシブル基板の前記ゲート領域上に積層された、有機半導体材料より成る有機半導体層と、前記ソース電極、前記ドレイン電極及び前記有機半導体層を覆いつつ前記フレキシブル基板上に積層されたゲート絶縁膜と、このゲート絶縁膜上に積層されたイオン感応膜と、を含むことを特徴とするイオンセンサ付フレキシブル基板。
【請求項3】
前記有機半導体層を構成する前記有機半導体材料がペンタセンであることを特徴とする請求項2に記載のイオンセンサ付フレキシブル基板。
【請求項4】
前記ソース電極及び前記ドレイン電極の材料が金であることを特徴とする請求項2又は3に記載のイオンセンサ付フレキシブル基板。
【請求項5】
前記フレキシブル基板の材料がポリマー樹脂であることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載のイオンセンサ付フレキシブル基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−178134(P2007−178134A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373708(P2005−373708)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】