説明

インクジェットヘッド用基板及びインクジェットヘッド

【課題】 高品位の記録を達成することができるとともに、サイズの増大を防止することができるインクジェットヘッド用基板を提供する。
【解決手段】 インクジェットヘッド用基板上の電極配線は、第一の部分と第二の部分とを具える。第一の部分は、電極配線の電極パッドの側から基板の長手方向に延びている。第二の部分は、第一の部分の、電極パッドの側とは反対の側からエネルギー発生体に向かって長手方向に関して交差する交差方向に延び、抵抗素子が設けられている。抵抗素子の抵抗値は、各抵抗素子が設けられた電極配線の抵抗値に応じて互いに異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生体が設けられたインクジェットヘッド用基板(以下、単に「基板」とも称する)及び該基板を具えたインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されたインクジェット方式は、基板に対しインク供給口から垂直にインクを吐出する方式のインクジェット記録装置である。
【0003】
この種のインクジェット記録装置に搭載されている基板は、長方形の開口部を形成するインク供給口を基板の中央に貫通するように有している。基板は、高密度にあるいは多色のインクをインク供給口から吐出口に供給する。発熱抵抗素子は、そのインク供給口の長辺に沿って配列されており、電極パッドとの間を配線で接続し、電極パッドからの電流の供給を受ける。
【0004】
電極パッドはインク供給口の短辺と水平な基板外周の辺と垂直に設けられており、その位置で外部配線板との接続が行なわれている。基板の外周の辺に沿って、インク供給口の短辺に平行するように電極パッドが設けられると、電極パッドから発熱抵抗素子に達するまでの電極配線の長さは伸びる。電極配線の長さと電極配線の抵抗は比例するので、電極配線の長さが伸びると、電極配線の抵抗は大きくなる。この場合、同じ電極配線に接続している発熱抵抗素子を複数同時に駆動すると、同時駆動の数によって、配線部分での電圧降下差が大きく異なり、適正な発泡を得ることが困難になり、高品位な記録が困難になってしまう。
【0005】
ここで、特許文献2に記載されたインクジェット記録ヘッドは、基板上に配置している複数の発熱抵抗素子を一つのブロックとして扱っており、複数のブロックを有している。各ブロックの中から一つの発熱抵抗素子のみが同時駆動する。これをブロック時分割駆動という。これによると、発熱抵抗素子に接続される配線部分での電圧降下の差を一定にすることができるので、適正な発泡が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−95154号公報
【特許文献2】特開平10―44416号公報
【特許文献3】特開昭62−13367号公報(第4図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、基板上の電極配線の幅が太くなると、基板のサイズも増大してしまうという問題点があった。
【0008】
特許文献3には、各発熱抵抗素子の発熱温度を略一定にすることにより濃度のむらを抑制できるサーマルヘッドが開示されている。発熱抵抗素子の一端には、個別電極が接続される。発熱抵抗素子のもう一端には、共通電極が接続される。各々の発熱抵抗素子は、予め定められた間隔で並列になるように配置されている。これらの発熱抵抗素子は8つのブロックに分けられ、電流の流れを制限するためのL字型のスリットがブロック間に設けられている。L字型のスリットにより区切られた共通電極の各電流通路には、電圧を微調整するための抵抗体が配置されている。
【0009】
しかしこの場合も、抵抗体を配置するために基板上の電極配線の幅をある程度以上に太くする必要があり、基板のサイズが増大してしまうという問題点があった。
【0010】
本発明は、高品位の記録を達成することができるとともに、サイズの増大を防止することができるインクジェットヘッド用基板及び該基板を具えたインクジェットヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のインクジェットヘッド用基板は、インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生する複数のエネルギー発生体が設けられたインクジェットヘッド用基板であって、前記複数のエネルギー発生体は前記基板の長手方向に列状に設けられており、前記長手方向に関して交差する交差方向に延びた、前記基板の辺、の近くに配され、前記基板の外部と電気的な接続を行うための電極パッドと、前記複数のエネルギー発生体と前記電極パッドとを電気的に接続するための複数の電極配線と、該複数の電極配線にそれぞれ設けられた複数の抵抗素子と、を有し、前記複数の電極配線はそれぞれ、各電極配線の前記電極パッドの側から前記長手方向に延びた第一の部分と、該第一の部分の、前記電極パッドの側とは反対の側から前記エネルギー発生体に向かって前記交差方向に延び前記抵抗素子が設けられた第二の部分とを具え、複数の前記抵抗素子の抵抗値は、各抵抗素子が設けられた電極配線の抵抗値に応じて互いに異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、調整用の抵抗素子によってエネルギー発生体と電極パッドとの間の電位差を互いに同等とすることができるので、各吐出口からのインクの吐出が安定して高品位の記録を達成することができる。また、基板の長手方向に延びた電極配線は最小の幅で配置することができるので、インクジェットヘッド用基板のサイズ(幅)の増大を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態におけるインクジェット記録システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態におけるインクジェット記録装置を示すブロック図である。
【図3】(A)は本実施形態におけるインクジェット記録ヘッドを示す斜視図である。(B)は本実施形態におけるインクジェット記録装置を示す斜視図である。
【図4】(A)は本実施形態におけるインクジェットヘッド用基板の上面図である。(B)は本実施形態におけるインクジェットヘッド用基板の回路図である。
【図5】本実施形態におけるインクジェットヘッド用基板を製造する手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。まず、本発明を適用可能なインクジェット記録装置の構成例について説明する。図1は本実施形態におけるインクジェット記録システムの構成を示すブロック図である。本インクジェット記録システムはホストコンピュータなどのホスト装置210及びインクジェット記録装置200を有している。
【0015】
ホスト装置210は、インクジェット記録装置200と接続しており、画像などの記録データを示す記録データ信号をインクジェット記録装置200に送信する。ホスト装置210とインクジェット記録装置200との接続は、USB(Universal Serial Bus)ケーブルなどのケーブル220を介した接続であってもよい。または、ホスト装置210とインクジェット記録装置200との接続は、Bluetooth(登録商標)などの無線あるいは赤外線による接続であってもよい。
【0016】
インクジェット記録装置200は、ホスト装置210から記録データ信号を受信すると、熱エネルギーの発生などインクの液滴を吐出するための処理を行なって、記録データを記録用紙307に記録する。
【0017】
図3(B)は本実施形態におけるインクジェット記録装置300の斜視図である。インクジェット記録装置300は、ヘッド移動機構302、キャリッジ303、ガイドシャフト304、用紙搬送機構306、及び記録ヘッド400を有している。
【0018】
インクジェット記録装置300は印字方式の一例としてシリアルスキャンタイプの記録装置である。このインクジェット記録装置300は、矢印Xに示される主走査方向に記録ヘッド400を往復移動させることにより、記録データを記録用紙に記録する。
【0019】
インクジェット記録装置200は自由に着脱できる記録ヘッド400をキャリッジ303上に更に搭載している。このキャリッジ303は、ガイドシャフト304などにより支持されており、ヘッド移動機構302の駆動により記録ヘッド400と共にガイドシャフト304上を主走査方向に移動する。
【0020】
キャリッジ303上に支持されている記録ヘッド400と対向する位置には、用紙搬送機構306が配置されている。用紙搬送機構306はプラテンローラ305を有しており、このプラテンローラ305の駆動によって、記録用紙307が矢印Yに示される副走査方向に順次搬送される。
【0021】
図3(A)は本実施形態におけるインクジェット記録ヘッドを示す斜視図である。TABテープ201がインクタンク204の壁面に接合され、そのインナーリード部が封止剤205で封止されている。さらに、TABテープ201はインクタンク204の壁面に沿って折り曲げられ、コンタクトパッド202が設けられている部分がインクタンク204の壁面に密着固定されている。なお、図3(A)では基板203を上に向けた状態を示しているが、記録ヘッドがインクジェット記録装置に装着される際は、基板203は下向きの姿勢となる。
【0022】
図2は本実施形態におけるインクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。インクジェット記録装置200は、ヘッド移動機構302、用紙搬送機構306、移動制御回路311、制御部312、データ入力回路313、及び記録ヘッド400を有している。
【0023】
移動制御回路311は、用紙搬送機構306と接続しており、また、ヘッド移動機構302を介して記録ヘッド400と接続している。記録ヘッド400は、データ入力回路313と接続しており、また、ヘッド移動機構302を介して移動制御回路311と接続している。制御部312は移動制御回路311及びデータ入力回路313と接続している。また、制御部312は、通信I/F(Interface)315に接続されたケーブル220を介してホスト装置210と接続している。
【0024】
制御部312は、ホスト装置210(不図示)から記録データ信号を受信すると、データ入力回路313に記録データ信号を出力すると共に、ヘッド移動機構302及び用紙搬送機構306の制御を開始し、ヘッド移動機構302と用紙搬送機構306の同期を取る。データ入力回路313は、ヘッド移動機構302及び用紙搬送機構306と同期して、制御部312からの記録データ信号を記録ヘッド400に出力し、記録ヘッド400による記録データの記録が行なわれる。
【0025】
記録ヘッド400はインクタンク(不図示)から常時供給されるインクを保持している。記録ヘッド400には、記録ロジック回路(不図示)が設けられている。記録ロジック回路は、データ入力回路313から記録データを受け取ると、インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生する複数のエネルギー発生体が駆動される。本実施形態では、エネルギー発生体として後述する多数の発熱抵抗素子(不図示)を選択し、発熱抵抗素子(不図示)を発熱させる。選択された発熱抵抗素子の発熱により、保持しているインクが発泡され、選択された発熱抵抗素子に対応する吐出口からインクの液滴が吐出される。この液滴が記録用紙307(不図示)の表面に付着することによって、ドットマトリクスの画像が形成される。
【0026】
本実施形態の記録ヘッド400は、インクジェット記録基板401と、インクの吐出口が設けられた部材と、を有する。図4(A)は本実施形態におけるインクジェットヘッド用基板401の上面図である。図4(B)は本実施形態におけるインクジェットヘッド用基板の回路図である。
【0027】
基板401は、電極パッド402、インク供給口403、発熱抵抗素子405、駆動素子406、電極配線410A,410B、及び電圧を調整するための抵抗素子(以下、「調整抵抗素子」とも称する)411を有している。
【0028】
基板401の上層に、インクを吐出するための複数のインク流路とそのインク流路に連通する吐出口(不図示)とがフォトリソグラフィ技術により形成される。また、基板401の下部に、インクタンクからインク供給口403にインクを供給するためのインク供給部(不図示)が連結される。
【0029】
基板401は、Si(Silicon)基板が用いられる。この基板には少なくとも一つのインク供給口403が設けられている。このインク供給口403はインク供給部からインク流路にインクを供給するため、基板を貫いている。
【0030】
基板401の上面には、インク供給口403の長辺にそって複数の発熱抵抗素子405が基板の長手方向に延びる様にインク供給口403の両側に一列ずつ列状に配されている。また、その外側に駆動素子406が列状に配されている。
【0031】
電極パッド402は、インク供給口403の短辺と平行な基板外周の辺(基板の長手方向に関して交差する交差方向に延びた辺)に沿って近くに配列しており、外部配線板(不図示)と電気的に接続している。本実施形態では、基板の長手方向とそれに交差する交差方向とが直角を形成している。電極パッド402上のバンプ(不図示)と電気配線テープの電極リード(不図示)は熱圧着法などによって電気接合されている。
【0032】
発熱抵抗素子405は一端を電極配線401Aに、他方を駆動素子406に接続している。駆動素子406はもう一方を電極配線410Bに接続している。すなわち、電極配線410Bと発熱抵抗素子405との間には、発熱抵抗素子405を駆動するための駆動素子406が設けられている。電極配線410Bは、駆動素子406を介在させた状態で複数の発熱抵抗素子405と電極パッド402とを電気的に接続している。本願において「電気的に接続」するとは、この様に素子を介在させた状態で接続している場合も含む表現として用いることとする。電極配線401は電極パッド402付近で電極配線A401Aと電極配線B401Bそれぞれに一つにまとめられており、異なる電極パッド402に接続されている。電極配線401はインク供給口を挟んで1対ずつある。反対側の基板外周の辺に配列されている電極パッド(不図示)につながる電極配線(不図示)が同様にある。そのため本実施例に於いては、一つのインク供給口に対し4対の電極配線401(4つの電極配線401Aと4つの電極配線401B)をもっている。
【0033】
電極パッド402は、その他にデータ入力回路313から記録ロジック回路(不図示)に、電気信号を送る為にも用いる。記録ロジック回路はその信号で、選択された駆動素子406を動かし、電極配線401を通じて発熱抵抗素子405に電流を流す。
【0034】
インク供給口403からのインクはインク流路から吐出口まで充填されている。電流を流すことにより発熱抵抗素子405を発熱させ、発熱によって発生した熱エネルギーをインク流路中のインクに伝えてインク中に気泡を発生させる。この気泡の発生によって、吐出口からインクの液滴が吐出される。
【0035】
以下に電極配線410に関する部分について詳細に述べる。
【0036】
発熱抵抗素子405は複数のブロック(一例としてブロック1からブロック6)に分類されている。記録ロジック回路による駆動素子406の駆動の制御によって、同じブロック内の各発熱抵抗素子405が同時に駆動されることはない。本実施形態は、便宜上、ブロック内に4個の発熱抵抗素子405が基板上に配置されている例を示しているが、一般的には16個以上の発熱抵抗素子405が基板上に配置される。
【0037】
電極配線410Aの第一の部分410A−1(不図示)は、電極配線A用の電極パッド402から、発熱抵抗素子405の列と平行に、発熱抵抗素子405の外側にある駆動素子406の上部まで伸びている。電極配線410Aの第二の部分410A−2(不図示)は、第一の部分410A−1に連続的に形成しており、発熱抵抗素子の列と垂直に、駆動素子406の上部からインク供給口403に向かって伸びて、発熱抵抗素子405の一端と接続している。発熱抵抗素子405のもう一端は、駆動素子406を介して電極配線410Bの第二の部分410B−2に接続している。電極配線410Bの第一の部分410B−1は、第二の部分410B−2のもう一端と連続的に形成しており、インク供給口403に沿うように、電極配線410B用の電極パッド402と接続している。
【0038】
それぞれの電極配線はブロックごとに長さが異なるので、電極配線410の抵抗値がブロックごとで変わってしまう。この抵抗値を調整せずに印字が行なわれると、発熱抵抗素子405に印加される電圧が各ブロックでばらつき、適正な熱エネルギーを発生させることができない。熱エネルギーが低過ぎれば、インクの液滴が形成されず、インクは吐出されない。一方、熱エネルギーが高過ぎれば、インクの液滴の大きさが変化したり発熱抵抗素子405が早期に断線したりしてしまう。そのため、電極配線の幅を互いに異ならせることでそれぞれの配線抵抗値をブロック同士で一致させておくのが好ましい。
【0039】
より長い印字幅を達成するために発熱抵抗素子を増やして基板401のサイズを長くすると、一番太い幅を有する電極配線よりもさらに太い幅を有する電極配線を増やすことになる。その太い幅を有する電極配線であっても他の電極配線と同じ数(図では4つ)の発熱抵抗素子405を接続できるに過ぎない。従って、印字幅の長さを伸ばそうとすると基板の幅が急激に増大し、記録ヘッドに搭載することが困難となる。
【0040】
本実施形態によれば、電極配線410の第一の部分410A−1,410B−1は全て同じ幅になっており、基板の幅が増大することを防止している。この場合、分岐した電極配線410の第一の部分410A−1,410B−1では、各ブロックで配線抵抗412の抵抗値が異なっており、このままでは適正な熱エネルギーを同時に発生させることができない。そこで、本実施形態では、調整抵抗素子411を基板401上に新たに設けることによって、異なる配線抵抗412の抵抗値が同じになるように調整している。本実施形態では、同じ電極パッドと接続されている電極配線の中で、電極パッドから最も遠いブロックと接続されている電極配線には調整抵抗素子が設けられていない。また、電極パッドに最も近いブロックに接続されている電極配線の調整抵抗素子の抵抗値が最大とされている。すなわち、複数の発熱抵抗素子405のうち電極パッド402からの距離が小さい発熱抵抗素子405ほど、対応して設けられた調整抵抗素子411の抵抗値が大きい。調整抵抗素子411について、図4の実施形態では電極配線の第二部分410B−2における発熱抵抗素子405寄り(図4における右側寄り)の位置に設けられている。が、位置はこれに限られず、電極配線の第二部分410B−2における他の位置に設けられてもよい。
【0041】
調整抵抗素子411としては、電極配線410とは別の層のポリシリコンなどの抵抗素子を用いることが考えられる。しかし、配線層間の絶縁層を通過するためのスルーホールが必要となり、また、電極配線の下に積層されている駆動素子や選択回路など他の素子の配線層を避けなければならない。また、基板内に導電型不純物を拡散した拡散層を利用した拡散層抵抗を用いる場合、基板に拡散抵抗を配置するためのスペースを確保する必要がある。
【0042】
本実施形態では、基板401は発熱抵抗素子405となる部分を含む抵抗層の別の部分を調整抵抗素子411とする。これによれば、発熱抵抗素子405を形成する抵抗層と電極配線とは間に絶縁層を持たない連続した層として成膜されるので、発熱抵抗素子405を形成する際に、配線層間のスルーホールが不要となる。また、他の配線層に影響を与えることもない。
【0043】
図5は本実施形態におけるインクジェットヘッド用基板を製造する手順を示す図である。
【0044】
まず、Si基板500に駆動素子と選択回路(いずれも不図示)を形成する。続いて、プラズマCVD(ChemicalVapor Deposition)法を用いて、電極配線との層間の絶縁膜となるSiO膜501を形成する(図5A)。スルーホールを設けた後、発熱抵抗素子405の材料となるTaSiN層502をスパッタリング法によって約500Åの厚さに形成し、その後、電極配線層となるAL層503を約3500Åの厚さに形成する(図5B)。TaSiN層とAL層とをフォトリソグラフィ法によって予め定められた形状にパターニングする。BCl3ガスを用いたドライエッチングによって、AL層とTaSiN層を同時にパターニングした形状にする(図5C)。発熱抵抗素子405の配置部分と電極配線410の調整抵抗の配置部分とを、フォトリソグラフィ法によって、予め定められた形状にパターニングする。リン酸を主成分とするウェットエッチングによって、発熱抵抗素子405の配置部分と電極配線410の調整抵抗の配置部分をパターニングした形状にする(図5D)。
【0045】
さらに、プラズマCVD法によって、保護膜となるSiN膜504を約3000Åの厚さに形成する(図5E)。スパッタリング法によって、耐キャビテーション膜となるTa膜を約2000Åの厚さに形成する。そして、フォトリソグラフィ法によって、Ta膜505及びSiN膜をドライエッチングして、予め定められた形状とする(図5F)。最後に、フォトリソグラフィ法を用いることによって、インク流路を有機樹脂層によって3次元的に形成する。このような手順に沿って、基板401の製造が行なわれる。
【0046】
これによれば、電極配線410の第一の部分410A−1,410B−1の配線抵抗412の抵抗値を調整する調整抵抗素子411は発熱抵抗素子405と同じ層で形成されるので、工程数を増やさずに基板401を製造することができる。また、上述したように駆動素子や選択回路の配置に影響を与えることもない。
【0047】
上述した工程により、発熱抵抗素子層の抵抗値には350Ω/□程度のシート抵抗が形成されており、電極配線層の抵抗値には80mΩ/□程度のシート抵抗が形成されている。シート抵抗とは、一様の厚さを持つ薄い膜の正方形のパターンにおいて、一辺より並行なもう一辺までの間に電流を流したときの抵抗である。
【0048】
発熱抵抗素子405が600dpi(Dots Per Inch)の密度で配置されると、1インチは25.4mmであるので、発熱抵抗素子405が配置されるピッチは25.4÷600=0.0423mm(42.3μm)となる。一つの電極配線に16個の発熱抵抗素子405が接続されていると、そのために必要な幅は0.0423mm×16個=0.6773mm(677μm)となる。この677μmが時分割駆動されるブロック1つ分の長さとなり、この長さは隣接する電極配線の長さの差に等しい。電極配線層における配線シートの抵抗は上述したように80mΩ/□である。一本の電極配線が、ブロック1つ分の長さで持つ抵抗値は、例えば電極配線の幅が6μmとすると、677μm÷6μm×80mΩ/□≒10Ωとなる。
【0049】
図4(A)では、電極配線410Bは発熱抵抗素子405に接続されている6つのブロック(ブロック1からブロック6)に分かれており、また、電極パッド402の付近は1ブロックの長さと等しい(ブロック0)となっている。
【0050】
このとき図4(B)の回路図をみると、電極配線A410Aの部分に於いては配線抵抗412と調整抵抗411がブロック毎につながっている。各ブロックにつながる電極配線A410Aは、6μmと同じ幅となっている。配線抵抗412の抵抗値は電極パッド402から各ブロックまでの長さと比例している。前述のように1つのブロックの長さによる抵抗値の差が10Ωとすると、配線抵抗412は、ブロック1では10Ω、ブロック2では20Ωとなり、ブロック6では60Ωである。
【0051】
このとき、どのブロックでも調整抵抗411と配線抵抗値412の和が、ブロック6の配線抵抗412の抵抗値と等しくなるように調整する。調整抵抗411はブロック1で一番大きく50Ω、ブロック2では40Ωとなり、ブロック6では0Ωとなる。つまり、調整抵抗411の抵抗値が最少となるようにすると、図4(B)のように調整抵抗がいらなくなる。
【0052】
このように調整抵抗411の抵抗値を調整することで、調整抵抗411と配線抵抗412の和が1〜6ブロックで等しく60Ωとなり、どのブロックの発熱抵抗体405でも適正な熱エネルギーを発生させることができる。
【0053】
ここで、調整抵抗素子411を発熱抵抗素子層で形成しようとすると、以下のような問題がある。
【0054】
電極配線410の第一の部分410B−1の幅と電極配線410の第二の部分410B−2の幅が例えば6μmとする。一方、発熱抵抗素子405の幅は、インクの吐出量から予め決まっており、一般的には10μm以上であり、例えば12μmとする。この場合、電極配線410の第一の部分410B−1の抵抗に発熱抵抗素子層で用いた抵抗をそのまま使うと、同じ電流がおよそ発熱抵抗素子405の半分の幅をもつ電極配線410B−1に流れ込む。それによって、電流密度が2倍となり単位面積あたりのエネルギーは4倍になる。電極配線410は、インクに触れて冷却されることもないため、発熱抵抗素子405より先に断線してしまうなど信頼性が低下してしまう。
【0055】
ここで、発熱抵抗層を用いた調整抵抗素子411を、電極配線410の第一の部分410B−1に形成した場合を考える。電極配線410の第一の部分410B−1の幅が上述の6μmであれば、調整抵抗素子の長さは6μm×10Ω÷350Ω/□≒0.2μmとなる。このような調整抵抗素子411は、ウェットエッチングでは形成が困難である。
【0056】
上述の問題を電極パッド402付近の面積を増やすることにより、電極パッド402付近に幅の広い調整抵抗素子411を精度よく形成できたとしよう。この場合、調整抵抗素子411と配線抵抗412とを合わせた抵抗値の半分以上が、電極パッド402に集中してしまう。
【0057】
この場合、電極パッド402付近(ブロック0)の抵抗値は、調整抵抗素子の抵抗値を考慮して210Ω(=10Ω+20Ω+30Ω+40Ω+50Ω+60Ω)となる。一方、一つの電極パッドから6本の電極配線が分岐しており、電極配線の全体の抵抗値は、調整抵抗素子の抵抗を含めれば一番長い電極配線の抵抗値に電極配線の本数を乗算した360Ω(=60Ω×6本)である。従って、210Ω/360Ω≒58%の割合の抵抗が電極パッド402部に集中する。しかも、上述したようにインクに触れて冷却されることもないため、基板の電極パッド402の付近が非常に高い温度になり、基板の熱の分布が偏ってしまう。
【0058】
また、温度変化によるインクの粘度の変化も大きな問題である。基板401の温度が異常に上昇するとインクの粘度が下がり、同じ熱エネルギーをインクに加えても、吐出されるインクの量が増えてしてしまう。一般的には、基板全体で一律に発熱抵抗素子405に電圧を印加する時間を短くしてエネルギーを抑え、適性な吐出量に補正する制御が行なわれる。しかし、電極パッド402の付近のように一部だけが高い温度になったときは、基板全体での制御では適正にできない。その結果、温度分布により吐出量がばらつき濃度のムラが発生し、品質が低下してしまう。
【0059】
このように調整抵抗素子411を電極パッド402付近に配置すると、信頼性や品質の低下といった問題を引き起こしてしまう。本実施形態では、電極配線410の第二の部分に調整抵抗素子411を設けることにしている。発熱抵抗素子405の密度が600dpiであり、発熱抵抗素子405が1ブロック内に16個含まれているとする。この場合、1ブロックの幅は、25.4÷600×16=0.677mm(677μm)となる。従って、配線間のスペースを考慮しても、調整抵抗素子411に約600μmの幅が確保できる。これは発熱抵抗素子411の少なくとも16倍より広い幅であり、流れる電流密度も発熱抵抗素子411の1/16より少ない。面積あたりのエネルギーが大幅に減少する為、発熱抵抗素子411の16倍の回数電流が流れても、発熱抵抗体411より高い信頼性を確保できる。
【0060】
また、発熱抵抗層におけるシート抵抗は上述したように350Ω/□であり、調整抵抗素子411に約600μmの幅が確保されれば、幅が600μmの電極配線410の第二の部分410B−2の長さは、600μm×10Ω÷350Ω/□≒20μmとなる。20μmの長さを確保することができれば、ウェットエッチングでも安定的に調整抵抗素子411を形成することができる。また、ブロックごとに調整抵抗素子411の抵抗値を変えなければいけないが、20μmほどの長さがあれば調整抵抗素子411の長さを変更して抵抗を調整できる。そのため、基板の長さに対する影響が抑制され、基板のサイズが増大することを防止できる。
【0061】
また、調整抵抗素子411が基板内に分散して配置されるため、発熱も分散される。例えば、上述の計算結果を用いると、ブロック0の発熱抵抗素子に接続されている配線の抵抗値の和はそれぞれ60Ω(=10Ω×6)となる。電極配線全体の抵抗は360Ωであるので、全体の約17%が電極パッド付近に集中しており、上述の58%と比較すると全体の抵抗に対する割合が大幅に減少している。
【0062】
また、一番抵抗値が高くなるブロック1の調整抵抗素子411の抵抗値は、60Ω(ブロック1の発熱抵抗素子に接続される配線の抵抗値)−10Ω(ブロック0の部分での配線抵抗の抵抗値)=50Ωとなる。また、ブロック2からブロック6の発熱抵抗素子405に接続される配線のブロック1における抵抗値の総和は、5本(ブロック1から後の配線本数)×10Ω(ブロック1の部分での配線抵抗の抵抗値)=50Ωである。
【0063】
従って、ブロック1の抵抗値は100Ω(=50Ω+50Ω)となり、電極配線410の全体の抵抗は360Ωであるので、全体の約28%にすぎない。これにより、抵抗の分布が均一となり、それに伴って均一な熱の分布が得られる。これによれば、調整抵抗素子411は、基板に広く配置され温度が局部的に上昇することを防くので、濃度ムラの発生が抑制される。また、印字を中断する時間が軽減されるので、印字速度を維持できる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態によれば、調整抵抗素子411を基板に設けることによって、温度分布が均一になり、インクの濃度のムラによる印字品位や温度の上昇による印字速度の低下を防ぐことができる。また、分岐した電極配線は最小の幅で配置することができるので、基板のサイズの増大を防止することができる。
【0065】
なお、本実施形態では、電極配線410Aおよび電極配線410Bそれぞれに調整抵抗素子411を設けている例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。他の例として、どちらか一方の電極配線だけに調整抵抗素子411を用いて、電極配線410A及び電極配線410Bの双方の抵抗値を調節してもよい。
【符号の説明】
【0066】
200 インクジェット記録装置
210 ホスト装置
302 ヘッド移動機構
306 用紙搬送機構
311 移動制御回路
312 制御部
313 データ入力回路
315 I/F部
400 記録ヘッド
401 インクジェット記録基板
402 電極パッド
403 インク供給口
405 発熱抵抗素子
406 駆動素子
410 電極配線
411 調整抵抗素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生する複数のエネルギー発生体が設けられたインクジェットヘッド用基板であって、
前記複数のエネルギー発生体は前記基板の長手方向に列状に設けられており、
前記長手方向に関して交差する交差方向に延びた、前記基板の辺、の近くに配され、前記基板の外部と電気的な接続を行うための電極パッドと、前記複数のエネルギー発生体と前記電極パッドとを電気的に接続するための複数の電極配線と、該複数の電極配線にそれぞれ設けられた複数の抵抗素子と、を有し、
前記複数の電極配線はそれぞれ、各電極配線の前記電極パッドの側から前記長手方向に延びた第一の部分と、該第一の部分の、前記電極パッドの側とは反対の側から前記エネルギー発生体に向かって前記交差方向に延び前記抵抗素子が設けられた第二の部分とを具え、
複数の前記抵抗素子の抵抗値は、各抵抗素子が設けられた電極配線の抵抗値に応じて互いに異なることを特徴とするインクジェットヘッド用基板。
【請求項2】
前記抵抗素子は、前記エネルギー発生体となる部分を含む抵抗層の別の部分からなる請求項1に記載のインクジェットヘッド用基板。
【請求項3】
前記電極パッドと前記複数のエネルギー発生体との間に、前記複数のエネルギー発生体をそれぞれ駆動するための複数の駆動素子が設けられている請求項1または2に記載のインクジェットヘッド用基板。
【請求項4】
複数の前記第一の部分は互いに前記交差方向に関する幅が等しく、前記抵抗素子が設けられていない請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェットヘッド用基板。
【請求項5】
前記複数のエネルギー発生体のうち前記電極パッドからの距離が小さいエネルギー発生体ほど、対応して設けられた前記抵抗素子の抵抗値が大きい請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットヘッド用基板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載されたインクジェットヘッド用基板と、
該基板に接して設けられ、前記エネルギー発生体に対応して設けられたインクの吐出口が設けられた部材と、
を有するインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−23503(P2010−23503A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143532(P2009−143532)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】