説明

インクジェットヘッド

【課題】配線層部の反りを防止すると共に、簡易な構成で圧電素子の設置空間内と大気を連通すること。
【解決手段】インクを吐出する複数のノズル11と、各ノズルに連通され、吐出するインクを貯留する複数の圧力室41と、複数の圧力室の一壁部となる振動板50と、振動板に積層され、振動板を挟んで圧力室に対向する位置に形成された空間71を有する隔壁部材70と、空間内で振動板に設けられ、駆動電圧の印加により振動板を変位させる圧電素子60と、隔壁部材に積層され、圧電素子に駆動電圧を印加する電極61,62に接続された配線層部80と、を備え、配線層部における空間に露出する面には、空間と大気とを連通する溝89が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に備えられるインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させて記録媒体に所望の画像を記録するインクジェット記録装置が知られている。このインクジェット記録装置は、多岐にわたる用途に使用され、それぞれの目的に沿った種類のインクや記録媒体が使用可能となっている。
インクジェットヘッドには、圧電素子の変位を利用して圧力室内のインクを加圧し、圧力室に連通するノズルからインク滴を吐出する圧電方式のヘッドがある(例えば、特許文献1,2参照)。
高精細な画像を形成するためには、ノズルを高密度に配置する必要があるのだが、ノズルとこのノズルに連通した圧力室との組を2次元状に配列させたものが知られている。2次元状に配列させることで、ヘッドを小型化させることも可能となっている。
また、複数の圧力室にインクを供給するための共通流路(共通インク室)を圧力室とは異なる層に設けることで、さらなるヘッドの小型化、圧力室の高密度配置を行うことも知られている。さらに、圧電素子に接続される配線を、圧電素子が配置される層とは別の配線基板に設けることにより、多数の圧電素子を高密度に配置した場合でも十分な配線スペースを確保することも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−30361号公報
【特許文献2】特開2006−281777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の特許文献1,2に示すような圧電方式のヘッドは、複数の基材、基板を積み重ねるとともに互いを接合することにより製造される。特に、配線基板や圧電素子を設ける層に関しては、流路からのインク漏れや電気配線の断線等が生じないように高精度かつ確実に接合する必要がある。
しかし、問題として、配線基板に反りが発生することで高精度かつ確実な接合ができないことがある。具体的には、配線基板は、表裏に形成される膜の構成が異なるため、応力によって反りが発生することがある。また、配線基板は、微細な電極や孔を形成しやすくするために極力薄く形成することが好ましいが、薄くすることによって反りが発生しやすくなってしまう。このように配線基板に反りが発生すると、接合の精度が下がるのはもちろん、接合後に配線基板にかかる応力により剥がれてしまう。
【0005】
また、他の問題として、圧電素子の周囲の空間の圧力変動により、インクの吐出精度が低下することがある。具体的には、ヘッドの製造時に加熱を伴う接合を行う場合や圧電素子の駆動による熱の発生等により、圧電素子の周囲の空間の圧力が上昇してしまい、吐出性能が変化してしまう場合がある。
そこで、上記特許文献2に示すように、隔壁部材における圧電素子の設置空間内と大気を連通し、当該空間内の圧力変動を防止することが知られている。
しかし、圧電素子が設けられる隔壁部材には、インクの流路や電極等が設けられているため、これらを避けつつ全ての圧電素子について周囲の空間を大気に連通させることは構造上困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、配線基板の反りを防止すると共に、簡易な構成で隔壁部材における圧電素子の設置空間と大気を連通することができるインクジェットヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、インクジェットヘッドにおいて、
インクを吐出する複数のノズルと、
各ノズルに連通され、吐出するインクを貯留する複数の圧力室と、
前記複数の圧力室の一壁部となる振動板と、
前記振動板に積層され、前記振動板を挟んで前記圧力室に対向する位置に形成された空間を有する隔壁部材と、
前記空間内で前記振動板に設けられ、駆動電圧の印加により前記振動板を変位させる圧電素子と、
前記隔壁部材に積層され、前記圧電素子に駆動電圧を印加する電極に接続された配線層部と、を備え、
前記配線層部における前記空間に露出する面には、前記空間と大気とを連通する溝が形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記空間は、各圧電素子を個別に収容するように複数形成され、
前記溝は、複数の空間に連通されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記溝を直線状に形成したことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記配線層部は、
前記電極に駆動電圧を印加して前記圧電素子を変位させるために電極を通す電極用貫通孔と、
インクを前記圧力室に導く流路を形成する流路用貫通孔と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、配線層部には溝が形成されているので、応力により配線層部に反りが発生しても溝で吸収することができる。これにより、配線層部の反りを防止することができ、接合時の配線層部の位置ずれを防止し、高精度で接合することができる。また、配線層部の反りを防止することで、接合後の配線層部の剥がれを防止することができる。
さらに、溝は配線層部における空間に露出する面に形成されているので、簡易な構成で隔壁部材の空間と大気を連通することができる。これにより、配線層部の反りを防止する溝が隔壁部材の空間の圧力変動を抑える連通口としても機能する。よって、隔壁部材の空間と大気とを連通するためだけの連通孔を別個に設ける必要がなく、隔壁部材の小型化、薄型化を図ることができる。また、空間内の空気が膨張して圧力変動が生じても、溝は大気と連通されているので、圧電素子の動作に悪影響を与えることがなく、インクの吐出不良、吐出量の変化の問題を解消することができる。
よって、配線層部に形成した溝は、配線層部の反りを防止すると共に、簡易な構成で圧電素子の設置空間内と大気を連通することができるという二つの効果を奏することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、溝は複数の空間に連通されているので、一つの溝で隔壁部材の複数の空間と大気とを連通することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、溝を直線状にすることにより、溝の形成の際の加工を容易にすることができる。また、直線状とすることで、配線層部の反りを防止する効果が高くなる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、配線層部に電極用貫通孔と流路用貫通孔を形成することで、配線層部と圧力室を積層することができ、ノズルを密集させて配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】インクジェット記録装置の要部を示す模式図。
【図2】インクジェットヘッドの斜視図。
【図3】ノズルプレートの下面図。
【図4】インクジェットヘッドの縦断面図。
【図5】図4において圧電素子の周囲を拡大視した図。
【図6】溝と圧電素子と隔壁部の空間との配置を示した配線層部の下面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、インクジェットヘッドについて説明する。本発明に係るインクジェットヘッドは、インクジェット記録装置に備えられている。
<インクジェット記録装置>
図1は、インクジェット記録装置1の要部を示す模式図である。
図1に示すように、インクジェット記録装置1は、記録媒体Pを矢印Zの方向(以下、搬送方向Zという)へ搬送する搬送部2を備えている。記録媒体Pとしては、紙や布帛のほか、インク吸収性の無いプラスチックフィルムや金属類等を用いることが可能であり、特に限定されない。なお、ここでの紙とは、インク吸収性を有するインクジェットプリンタ専用紙は勿論のこと、インク吸収性の弱いコート紙やアート紙、及び普通紙を含むものである。
【0017】
搬送部2の上方には、搬送部2上の記録媒体Pへインク滴Dを吐出するインクジェットヘッド3が配設されている。このインクジェットヘッド3には、インク滴Dを吐出する複数のノズル11が、図中のX方向及びY方向に配列されている(図2参照)。
搬送部2、インクジェットヘッド3は、制御部5に接続されており、この制御部5により制御される。
【0018】
図2は、インクジェットヘッド3の斜視図である。
この図に示すように、インクジェットヘッド3はその下端にインク滴Dを吐出する複数のノズル11が形成されたノズルプレート20を備えている。
図3は、ノズルプレート20の下面図である。
図3に示すように、ノズル11は、X方向に8個並設されてノズル列11aを構成しており、このノズル列11aがY方向に8列並設されてノズルグループ11bを構成している。より詳しくは、ノズルグループ11bは、全てのノズル列11aにおける各ノズル11のX方向の位置が1列おきに僅かずつ重なるとともに、全体として全てのノズル11のX方向の位置が僅かずつ重なるように、各ノズル11のX方向の位置をずらして構成されている。そして、このノズルグループ11bがY方向に2組並設されている。
【0019】
<インクジェットヘッドの構成>
図4は、インクジェットヘッドの縦断面図であり、図5は、図4において圧電素子の周囲を拡大視した図である。
【0020】
(ノズルプレート)
図4,5に示すように、インクジェットヘッド3は、インクを吐出する複数のノズル11が形成されたノズルプレート20を有している。ノズルプレート20は、ノズル11からインクと下方に吐出する際にインクジェットヘッド3の最下層に位置する。ノズルプレート20は、シリコンを基材としており、ドライエッチングにより、インク流路12及びノズル11が形成されている。
【0021】
(中間プレート層部)
ノズルプレート20には、中間プレート層部30が積層され、陽極接合されている。ここで、陽極接合とは、中間プレート層部30を加熱(300℃〜500℃)し、ノズルプレート20と中間プレート層部30との間に電圧を印加し、静電引力により両者を接合する方法である。陽極接合を用いることにより、両者を接着するための接着剤が不要となり、インク溶剤による耐久性劣化の恐れがなく、信頼性を高めることができる。
中間プレート層部30は、ガラスを基材としており、ノズル11へのインク流路31がサンドブラストにより当該中間プレート層部30の厚さ方向に貫通するように形成されている。インク流路31は、中間プレート層部30をノズルプレート20に積層した際に、インク流路12に連通する位置に形成されている。
【0022】
(圧力室層部)
中間プレート層部30には、圧力室層部40が積層され、陽極接合されている。ここでの陽極接合も上記中間プレート層部30の接合と同じ方法である。圧力室層部40には、ノズル11から吐出するインクを貯留する圧力室41が圧力室層部40の厚さ方向に貫通するように形成されている。圧力室層部40は、シリコンを基材としており、ドライエッチングにより圧力室41が形成されている。圧力室41は、圧力室層部40を中間プレート層部30に積層した際に、インク流路31に連通する位置に形成されている。
圧力室層部40には、圧力室41へのインク流路となるインレット(絞り流路)42が当該圧力室層部40の厚さ方向に貫通するように形成されている。インレット42は、ドライエッチングにより、他のインク流路より細くなるように形成されている。このことにより、流路抵抗をインレット42で規定することになり、所望の吐出特性(液滴径、吐出周波数等)を実現することが可能となる。また、インレット42における流路抵抗等のパラメータが吐出特性に影響するが、インレット42を高精度加工が可能なシリコンを基材とする圧力室層部40に形成しているので、加工のばらつきも少なく、吐出特性も良好なものとなる。
圧力室41とインレット42は、圧力室層部40においては互いに独立するように形成されているが、中間プレート層部30に圧力室層部40を積層した際に、中間プレート層部30に形成されたインク流路32を介して連通される。従って、インクは、インレット42、インク流路31を通って圧力室41に貯留される。
【0023】
(振動板)
圧力室層部40には、振動板50が積層され、接合されている。振動板50は、インレット42を回避しつつ、圧力室41の開口を覆うように圧力室層部40に接合されている。すなわち、振動板50は、圧力室41の一壁部を構成している。
【0024】
(圧電素子)
振動板50には、当該振動板50を挟んで圧力室41に対向する位置に圧電素子60が設けられている。
圧電素子60は、PZT(lead zirconate titanate)からなるアクチュエータである。圧電素子60は、上面側及び下面側から二つの電極61,62により挟まれ、下面側の電極61が振動板5上に設けられている。圧電素子60及び電極61,62は、振動板50にエッチング等の方法でパターニング形成することにより設けられている。
電極61,62に駆動電圧を印加すると、電極61,62に挟まれた圧電素子60が変位し、圧電素子60の変位により振動板50も変位する。この振動板50の動作により、圧力室41内のインクがノズルからインク滴D(図1参照)として吐出される。
【0025】
(隔壁部)
振動板50には、隔壁部70が積層され、接合されている。隔壁部70は、感光性接着剤(例えば、感光性ドライフィルム)により構成されることが好ましい。
隔壁部70には、当該振動板50を挟んで圧力室41に対向する位置に圧電素子60及び電極61,62を収容する空間71が隔壁部70の厚さ方向に貫通するように形成されている。空間71は、各圧電素子60を個別に収容するように複数形成されている。すなわち、隔壁部70は、各圧電素子60を隔離する隔壁部材としても機能する。
隔壁部70には、空間71とは独立してインク流路72が隔壁部70の厚さ方向に貫通するように形成されている。インク流路72は、振動板50に隔壁部70を積層した際に、インレット42に連通するように形成されている。
【0026】
(配線層部)
隔壁部70には、配線基板を有する配線層部80が積層され、接合されている。
配線層部80は、シリコン製の配線基板であるインターポーザ81を備えている。インターポーザ81の下面には、2層の酸化シリコンの絶縁層部82,83が形成され、上面には、同じく酸化シリコンの絶縁層部84が形成されている。絶縁層部82,83のうち、下方に位置する絶縁層部83は、隔壁部70の上面に積層され、接合されている。
インターポーザ81には、電極61,62に駆動電圧を印加して圧電素子60を変位させるために貫通電極85を通す電極用貫通孔(スルーホール)86が配線層部80の厚さ方向に形成されている。貫通電極85の下端には、水平方向に延在するアルミ配線87の一端が接続されており、このアルミ配線87の他端には、圧電素子60上面の電極62に設けられたスタッドバンプ63が、空間71内に露出した半田64を介して接続されている。アルミ配線87は、インターポーザ81下面の2層の絶縁層部82,83によって挟まれて保護されている。
配線層部80には、インクを圧力室41に導くための流路用貫通孔88が配線層部80の厚さ方向に貫通するように形成されている。流路用貫通孔88は、隔壁部70に配線層部80を積層した際に、インク流路72に連通するように形成されている。
【0027】
図6は、溝と圧電素子と隔壁部70の空間との配置を示した配線層部の下面図である。
図5,6に示すように、配線層部80には、隔壁部70に形成された空間71に露出する面に溝89が形成されている。具体的には、溝89は、配線層部80のインターポーザ81及び絶縁層部82,83にわたって形成されている。
溝89は、空間71とヘッド外部の大気とを連通するものであり、矩形状のインクジェットヘッド3の対向する外縁に貫通するように形成されている。溝89は、複数の空間71に連通するように形成されている。例えば、図6に示すように、一直線状に並ぶノズル列毎に一つの溝89が各ノズル列に対応する空間71を連通している。溝89の深さは、配線層部80の厚さの10〜50%であることが好ましい。溝89の幅は、当該溝89の深さの10〜100%であることが好ましい。
このように、溝89は、配線層部80の反りを防止する効果を高めるために直線状に形成することが好ましい。また、直線状に形成することで、配線層部80に応力が作用した場合に配線層部80の反りを溝89で吸収する。
【0028】
(保護層部)
配線層部80には、感光性樹脂材料等で構成された保護層部90が積層され、接合されている。保護層部90は、配線層部80の上面に設けられた銅配線91を覆うと共に、インターポーザ81の絶縁層部84の上面に積層され、接合されている。保護層部90は、上方の共通インク室100を積層、接合する感光性の接着剤であるとともに、銅配線91を保護する保護層となっている。銅配線91は、水平方向に延在されて、一端が貫通電極85の上端に接続されるとともに、他端がフレキシブル基板110に接続されている(図4参照)。フレキシブル基板110はドライバ120に接続され、ドライバ120による制御の下、圧電素子60を駆動(変位)させる。
保護層部90には、インクを圧力室41に導くためのインク流路92が保護層部90の厚さ方向に貫通するように形成されている。インク流路92は、配線層部80に保護層部90を積層した際にインク流路88に連通するように形成されている。
【0029】
(共通インク室)
保護層部90には、共通インク室100が設けられている。共通インク室100は、保護層部90により配線層部80に接着、固定されている。
共通インク室100は、各層部におけるインク流路を介して圧力室41に連通されている。共通インク室100は、全ての圧力室41にインク流路を介して連通されており、全ての圧力室41にインクを供給することができるように形成されている。
【0030】
<溝の機能>
次に、配線層部80に形成された溝89の機能について説明する。
溝89は、配線層部80の反りを防止する機能を有している。
配線層部80に応力が作用した場合、配線層部80は、全て同じ材料で構成されているわけでもなく、均一な構成でもないため、反りが発生しようとする。このような場合において、配線層部80の撓みを溝89が吸収する。すなわち、配線層部80の応力による撓みは、溝89の幅が変化することによって吸収される。これにより、配線層部80は、反りが発生することもないので、下層の隔壁部70、上層の保護層部90から剥がれることもない。
溝89は、隔壁部70に形成された空間71内の圧力変動を防止する機能を有する。
インクジェットヘッド3の製造時に加熱を伴う接合を行う際や、圧電素子60の駆動により発生する熱の影響により、空間71内の空気が膨張、加圧して振動板50を変形させる恐れがある。このような場合において、溝89はインクジェットヘッド3の外の大気と空間71とを連通しているので、膨張した空気は、溝89からインクジェットヘッド3の外へ排出され、振動板50を押圧することがない。これにより、振動板50が不必要に変位して圧力室41を押圧し、インクの吐出不良や定められた吐出量に変化を生じさせることがない。
【0031】
<作用効果>
以上のように、インクジェットヘッド3によれば、配線層部80には溝89が形成されているので、応力により配線層部80に反りが発生しても溝89で吸収することができる。これにより、配線層部80の反りを防止することができ、接合時の配線層部80の位置ずれを防止し、高精度で配線層部80を接合することができる。また、配線層部80の反りを防止することで、接合後の配線層部80の剥がれを防止することができる。
さらに、溝89は配線層部80における隔壁部70の空間71に露出する面に形成されているので、簡易な構成で隔壁部70の空間71と大気を連通することができる。これにより、配線層部80の反りを防止する溝89が隔壁部70の空間71の圧力変動を抑える連通口としても機能する。よって、隔壁部70の空間71と大気とを連通するためだけの連通孔を別個に設ける必要がなく、隔壁部70の小型化、薄型化を図ることができる。また、空間71内の空気が膨張して圧力変動が生じても、溝89は大気に連通されているので、圧電素子60の動作に悪影響を与えることがなく、インクの吐出不良、吐出量の変化の問題を解消することができる。
よって、配線層部80に形成した溝89は、配線層部80の反りを防止すると共に、簡易な構成で圧電素子60の設置空間内と大気を連通することができるという二つの効果を奏することができる。
【0032】
また、溝89は複数の空間71に連通されているので、一つの溝89で隔壁部70の複数の空間71と大気とを連通することができる。
また、溝89を直線状にすることにより、溝89の形成の際の加工を容易にすることができる。また、直線状とすることで、配線層部80の反りを防止する効果が高くなる。
また、配線層部80に電極用貫通孔86と流路用貫通孔88を形成することで、配線層部80と共通インク室100と圧力室41を積層することができ、ノズル11を密集させて配置することができる。
【0033】
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、発明の本質的部分を変更しない範囲内で自由に設計変更が可能である。
例えば、上記実施形態においては、溝は、ノズル列の一方向にのみ沿って形成したが、あらゆる方向からの応力の作用を考慮して、複数の溝が交差するように配線層部に形成しても良い。
また、一つの空間を一つの溝が通るのではなく、同じ方向に沿って複数の溝が通るように構成して配線層部の反りへの耐性を向上させてもよい。
【符号の説明】
【0034】
3 インクジェットヘッド
11 ノズル
41 圧力室
50 振動板
60 圧電素子
61 電極
62 電極
70 隔壁部(隔壁部材)
71 空間
81 インターポーザ(配線層部)
86 電極用貫通孔
88 流路用貫通孔
89 溝
100 共通インク室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数のノズルと、
各ノズルに連通され、吐出するインクを貯留する複数の圧力室と、
前記複数の圧力室の一壁部となる振動板と、
前記振動板に積層され、前記振動板を挟んで前記圧力室に対向する位置に形成された空間を有する隔壁部材と、
前記空間内で前記振動板に設けられ、駆動電圧の印加により前記振動板を変位させる圧電素子と、
前記隔壁部材に積層され、前記圧電素子に駆動電圧を印加する電極に接続された配線層部と、を備え、
前記配線層部における前記空間に露出する面には、前記空間と大気とを連通する溝が形成されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記空間は、各圧電素子を個別に収容するように複数形成され、
前記溝は、複数の空間に連通されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記溝を直線状に形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記配線層部は、
前記電極に駆動電圧を印加して前記圧電素子を変位させるために電極を通す電極用貫通孔と、
インクを前記圧力室に導く流路を形成する流路用貫通孔と、
を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−115972(P2011−115972A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273373(P2009−273373)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】