説明

インクジェット記録装置、インクジェット記録システム及びインクジェット記録装置の保守動作方法

【課題】ユーザーに対して保守動作が行われる前に、そこで消費されるインクを考慮した正確な残りのインク量を表示し、インクタンクの交換が必要な時にはインクタンクの交換や予備インクタンクの準備を促してインク切れによる印刷ミスを減らすこと。
【解決手段】インク量検出手段によってインクタンク内部に収容されたインク量が検出され、保守動作要否判定手段によって記録ヘッドに保守動作が必要であるかの判定が行われる。保守動作が必要であれば、検出されたインク量から保守動作で用いられる分のインク量が減算されたインク量がインク量報知手段によって保守動作に先立って報知される。保守動作が必要でなければ、検出されたインク量がそのままインク量報知手段によって報知される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保守動作後のインクタンクによるインク保持量について考慮されたインクジェット記録装置、インクジェット記録システム及びインクジェット記録装置の保守動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年記録装置は、普通紙のみならず、表面にインク受容層を設けたコート紙、厚手の用紙にインク受容層を設けた光沢紙、はがき用紙、銀塩写真に類似した印刷品位を可能にした写真用紙など、さまざまな用紙への印刷が可能となってきている。特に、年賀はがきへの写真印刷やデジタルカメラの画像の写真用紙への印刷といった用途への需要が高まっている。インクジェット方式は、安価で高い画質の印刷に適応可能であるため、特にこれらの用途に使用される記録装置で広く普及している。
【0003】
インクジェット記録装置の普及に伴いユーザー層が拡大し、それに伴いどのようなユーザーにも対応できるようにユーザー操作性向上の必要性が高まっている。その一つとして、インク切れによる印刷ミスを低減することが求められている。このため、記録装置に装着されたインクタンクの保持するインク量を検出、表示して、予備インクタンクの準備やインクタンクの交換をユーザーに促す機能が多くの記録装置に備えられている。
【0004】
ところで、インクジェット記録装置においては、記録ヘッドの吐出口形成面に、インク滴、ごみ、ほこり、紙粉等の異物が付着することがあり、これがインク吐出口から吐出されるインクの吐出を乱す要因となることがある。そこで、これらの異物を除去するためにクリーニング部材により記録ヘッドの吐出口形成面のクリーニング(例えば摺擦による拭き取り)が行われている。
【0005】
また、記録ヘッドの吐出口近傍のインクが乾燥し、インクの増粘、固着および堆積などにより吐出口の目詰まりが生じることがある。さらに、吐出口に連通するインクの液路に発生した気泡やゴミ等によっても吐出口の目詰まりが生じることがある。これらの目詰まりを回復(予防、解消等)する方法としては、例えば、吐出口よりインクを強制的に排出する吸引回復方法が採られていることがある。この吸引回復方法では、記録ヘッドの吐出口形成面にキャッピング部材を密着させて密閉系を形成し、ポンプを用いてキャッピング内に負圧を発生させることにより、吐出口よりインクを強制的に吸引する。また、この吸引回復動作を行うことによって、吐出口形成面にはインクが付着することがあり、この付着したインクを除去するために、前述のクリーニング部材により吐出口形成面をクリーニング(拭き取り)することも行われている。このようにして、所定のタイミングにおいて、記録ヘッドの保守動作が行われる。これらの保守動作においては、吐出口からインクを強制的に吸引することから、インクが保守動作の際に消費されることになる。
【0006】
保守動作が行われるタイミングとしては、記録ヘッドやインクタンクの交換に伴うインク充填時(タンク交換吸引)や、ユーザー操作により吸引コマンドが送られたとき(マニュアル吸引)がある。また、それに加え、記録ヘッドからのインクの吐出回数が所定量を超えた場合(ドットカウント吸引)や保守動作が前回行われてから一定時間が経過したことにより保守動作が必要と制御手段によって判断された時(タイマー吸引)などがある。
【0007】
図6は、ドットカウント方式で保持インク量の算出を行う従来の記録装置における記録、保守動作とインク量表示動作のフローチャートである。まず、ステップS51で記録動作コマンドや保守動作コマンドが送信され、ステップS52で記録や保守動作が行われる。それから、制御手段はステップS53で予め検出されてメモリに記憶されている各インクタンクのインク保持量Rから、その記録、保守動作によって消費されたインク量Cを差し引いて新たな保持インク量Rを算出する。そして、算出された新たな保持インク量R'が再度メモリに記憶される。
【0008】
以上の記録、保守動作とは個別に、インク量表示コマンドが送信されると、ステップS54で記録装置の制御手段はメモリに記憶されているインクタンクのインク保持量Rを、使用可能インク量Iとして表示する。ここで図中の記号R、C、Iに続く付加記号bk、c、m、yはそれぞれインク色であるブラック、シアン、マゼンタ、イエローを表す。
【0009】
特許文献1には、以上のようなドットカウント式による保持インク量検出手段、表示装置及び記録ヘッド保守手段を有する記録装置について記載されている。そして、無駄なインクの消費やユーザーのインクタンク交換操作の煩雑化を防ぐ手段として、1つのインクタンクがインク切れであると検出された時に、他のタンクのインク保持量が所定量以下であればそのタンクもインク切れと判定する方法が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2002−307719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来の技術では保守動作とインク量表示要求ないしインク量表示が関連付けて行われていない。このため、インク量が表示された後に保守動作が行われる場合、それによってインクが消費されて保持インク量が減少し、記録の際にインク切れによる印刷ミスが発生することがある。また、予備インクの準備が間に合わず記録ができない場合もある。
【0012】
すなわち、インクタンク内に保持されているインク量や現在交換が必要なインクタンクを、保守動作の有無とは無関係にユーザーに対して表示ないし報知している。ユーザーにとって、特に上記のドットカウント吸引やタイマー吸引などの制御手段の判定による保守動作がいつ行われるかはわからない。そのため、前回記録を終えた際にはインクタンク内にインクが残っていたが、それから次に記録を行うときまでに保守動作が行われ、そこでインクが消費されて、インク切れとなるケースが考えられる。
【0013】
図6に示す従来の制御では、保守動作が行われると、保守動作前のインク保持量から保守動作によって消費されたインク量を差し引いた新たな保持インク量が表示される。しかしながら、保持インク量の表示(S54)は保守動作とは基本的に別個に行われる。このため、表示されるインク量は、それまでに行われた保守動作については保守動作によるインク消費量が反映されたインク量が表示されるが、これから行われる保守動作については消費されるインク量が反映されないまま表示される。
【0014】
そこで本発明の目的は、保守動作によってインク量が少なくなることによる印刷ミスや記録ができないような状況が起こるのを防ぐことが可能なインクジェット記録装置を提供することである。また、上記と同様のインクジェット記録システム及びこうしたインクジェット記録装置及びインクジェット記録システムによる記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のインクジェット記録装置は、インクを記録媒体へ吐出する記録ヘッドと、前記記録ヘッドから前記記録媒体へ吐出されるインクを収容するインクタンクと、前記記録ヘッドの保守動作を行う保守手段と、を有するインクジェット記録装置において、前記インクタンク内部に収容されたインク量を検出する検出手段と、前記記録ヘッドの保守動作の要否を判定する判定手段と、前記判定手段が、保守動作が必要と判定したとき、前記検出手段によって検出されたインク量から保守動作で用いられる分のインク量を減算し、その結果のインク量に基づいた報知を前記保守動作に先立って行う報知手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、保守動作が行われる場合には、それに先立って必ず保守動作後のインク量がユーザーに表示されることになる。そのため、ユーザーは保守動作によるインク消費を見込んだインク量を知ることができる。これにより、ユーザーが関知しない保守動作が行われることによりインクが少なくなり、あるいはインク切れが生じることを防ぐことができる。その結果、このユーザーが関知しないインク切れによる記録ミス、あるいは予備インクの準備が間に合わずに記録を行うことができない事態となることを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第一の実施形態)
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第一の実施形態による記録装置について、外装を除いた記録動作機構の全体を表す。
【0018】
本実施形態の記録装置における記録動作機構は、図1に示すように、自動給紙部100と搬送部200とを有している。自動給紙部100は、不図示の記録媒体を装置本体内の搬送部200へと自動的に給送する。そして、搬送部200は、自動給紙部100から1枚ずつ送出される記録媒体を所望の記録位置へと導くと共に記録媒体を記録位置から排出する。また、搬送部200の下流に位置する排出部300と、搬送部200に搬送された記録媒体に所望の記録を行う記録部400を有している。そして、記録部400に搭載された記録ヘッド500に対して記録動作を正常状態に維持するための回復処理を行う回復部600とを備えている。これらの各機構部はシャーシ701を中心としてほぼ一体に構成されている。
【0019】
回復部600は、記録ヘッド500のノズルを覆うように封止するキャップと、キャップに連通され負圧を発生して記録ヘッド500のノズルからインクを吸引するポンプと、記録ヘッド500のノズル面を拭くワイパーなどからなる。また記録媒体に対向しない状態で記録ヘッド500のノズルからインクを吐出させる予備吐出動作も行われる。
【0020】
本実施形態における記録ヘッドカートリッジ501は、記録ヘッド500と、記録ヘッド500に対して着脱自在なブラックインクタンク503並びにシアン、マゼンタ及びイエローの3色のインクを収容する一体型カラーインクタンク504とからなる。また、この記録ヘッド500は、各インクタンク503、504から供給される各色インクを、記録情報に応じて所定色の吐出口から液滴として吐出させる、いわゆるインクジェット式の記録ヘッドである。インクジェット方式としてはインクを加熱した時の発泡エネルギーを利用して吐出させる方式や、電圧を圧電素子に印加して圧電素子を機械的に変形させることによりインクを吐出させる方式などが適用できる。
【0021】
記録装置の上面にはパネル基板703が備えられ、ユーザーが操作を行う電源スイッチやリセットスイッチ、あるいはユーザーに記録装置の状態を報知する発光素子704などが設けられている。
【0022】
図2は記録装置と、パーソナルコンピュータなどのホストシステムとの各機構を駆動させるための制御系のブロック図である。図1に示すパネル基板703やその他の記録動作機構に備えられた各センサ、スイッチ709、各モータ710等はメイン制御基板702に接続され、制御信号が伝達される。
【0023】
メイン制御基板702には他に、制御手段である演算回路705やメモリ706、タイマー707、ホストシステム900との間で制御信号を送受信するインターフェース708などが備えられている。メイン制御基板702から、記録ヘッド500を始めとする上述の各機構部に制御信号が伝達され、各々の機構部が連携して記録動作や記録ヘッド保守動作を実行する。
【0024】
ホストシステム900も、制御手段である演算回路905やメモリ906、タイマー907を備えた制御基板904や、ディスプレイなどの表示装置901、キーボードなどの入力装置902、ハードディスクや不揮発メモリなどの記憶装置903などから成る。そして、ホストシステム900はユーザー操作による記録命令や記録ヘッド保守動作命令を記録装置への制御信号に変換して伝達したり、記録装置の状態情報を取得して表示したりする。ホストシステム900はメイン制御基板702とともに記録装置の制御手段を構成している。また、ホストシステム900は記録装置へ記録データを送信する。
【0025】
演算回路705、905、メモリ706、906及びタイマー707、907を備えた制御手段は、記録ヘッド500の保守動作の要否を判定する。保守動作が必要である場合としては、例えば、ユーザーによる記録ヘッド500やインクタンク503、504の交換が行われるとタンク交換吸引が必要なときがある。また、ユーザー操作により吸引コマンドが送られたマニュアル吸引時がある。また、記録ヘッド500の動作状況において、メモリに保存されたドットカウント数が所定量を超えたときや、あるいは、タイマーにより計測される保守手段が前回作動してからの経過時間が所定時間を超え、タイマー吸引が必要なときなどがある。
【0026】
図3に、本実施形態に係る図1に示されるキャリッジ401と、図1には示されてはいないがインクタンク503、504の下方に形成されている記録ヘッド500の詳細を示す。ガイドシャフト402に摺動可能に支持されたキャリッジ401には、記録ヘッドカートリッジ501が記録ヘッド500を下方に向けて搭載される。記録ヘッドカートリッジ501には、ブラックインクタンク503およびカラーインクタンク504が搭載される。これらのインクタンク503、504は、筐体に設けられた固定爪と、可撓性を有するラッチとで記録ヘッドカートリッジ501に取付けられる。インクタンク503、504が搭載されると、それぞれのインクタンク503、504からの不図示のインク流路が記録ヘッドカートリッジ501に設けられた不図示のインク流路と連通して、インクタンクのインクが記録ヘッド500に供給される。
【0027】
記録ヘッドカートリッジ501の筐体側面には電気的接続部となるコンタクト基板506が設けられている。コンタクト基板506の接続相手であるコネクタ405はキャリッジ401上に設けられている。そして、記録ヘッドカートリッジ501を略鉛直方向下方に移動させてコンタクト基板506をコネクタ405に差し込むことで、電気的に接続されて記録ヘッド500に電気信号が伝達される。
【0028】
キャリッジ401上には、ブラックインクタンク503の装着を検出するブラックタンク検出スイッチ406が配置される。ブラックインクタンク503はその一部がタンク検出スイッチ406のレバー406aに接触して、インクタンク503の装着が検出される。なお、図示しないがカラーインクタンク504の装着を検出するカラータンク検出スイッチも同様の形態で構成されている。
【0029】
以上のように構成される本実施形態のインクジェット記録装置では、タンク検出スイッチ406によってインクタンク503、504が装着されていないことが検出された場合、制御手段によって記録動作や保守動作を禁止する。これにより、インクタンク以外のインク流路のみにしかインクが無いのにも関わらず記録動作や保守動作が行われて記録ミスや無駄なインクの消費、記録ヘッド500の消耗などを防ぐことができる。また、インクタンク503、504の装着状況をホストシステム900に送信して表示装置901に表示できる。また、インクタンク503、504の装着に異常があるようであれば、パネル基板703上の発光素子704を用いて表示することができる。これにより、インクタンク503、504の装着が異常であることをユーザーに報知し、正常なインクタンク503、504の装着を促すことにより、使用の際には常に正常に装着された状態が保たれる。そのため、インクタンク503、504の異常な装着から起こる故障や記録ミスを防ぐことができる。
【0030】
また、インクタンク503、504のうちのどちらかの交換作業の実施が検出された場合、当該インクタンクによってインクが供給される方の記録ヘッド500に対してのみ保守動作を実施する。これにより、交換作業が実施されないインクタンクに対して保守動作を行ってしまい、インクを無駄に消費してしまうことを防ぐ。さらに、制御手段のメモリ706に記憶されている当該インクタンクのインク保持量をリセットして、インク保持量算出の基準とする。
【0031】
本実施形態に係る記録装置は、保持インク量の算出は、インクが吐出された回数によって保持インク量の算出を行うドットカウント方式によって行われる。インクタンクが交換されてからの記録量であるインクが吐出された回数は、メモリ706に記憶される。図4は、本実施形態の記録装置におけるインク量表示動作のフローチャートである。保守動作要求コマンドが送信されると、ステップS41でインク量表示要求がホストシステム900によって送信される。インク量表示要求が送信されると、後述する方法により現在のインクタンク内部503、504に収容されたインク保持量Rが検出される。それから、ステップS42で制御手段内の保守動作判定手段がメモリ706に記憶されたインクの吐出回数やタイマー707での前回の保守動作からの経過時間を参照して、記録ヘッド保守動作の要否判定を行う。記録ヘッドの保守動作が必要と判定された場合はステップS44に移り、メモリ706に記憶されている各インクタンク503、504のインク保持量Rから、保守動作が実行される際に消費される分のインク量Cが差し引かれて使用可能なインク量Iが算出される。そして、インク量Iが、表示手段に表示される。
【0032】
一方、記録ヘッド保守動作が不要と判定された場合はステップS43に移り、メモリ706に記憶されている各インクタンク503、504のインク保持量Rを使用可能なインク量Iとして表示する。ここで図4の中の記号R、C、Iに続く付加記号bk、c、m、yはそれぞれインク色であるブラック、シアン、マゼンタ、イエローを表す。
【0033】
インク量を表示すると、必要に応じてインク量Iを基に、インクタンク503、504のそれぞれの交換要否の判定を行う。インク量Iが負の値かゼロ、もしくは正であってもゼロに近い値であれば、該当する方のインクタンクの交換が必要なので、インクタンクの交換が必要な旨の表示を行う必要がある。従って、表示されたインク量Iが所定値以下の場合に、インクタンクの交換が必要な旨の表示が行われる。また、交換が必要となる所定のインク量を予め定めておいて、インク量Iが予め定めたインク量の所定値以下であればインクタンク503、504の交換を行うこととしても良い。この表示によってインクタンク503、504の交換が必要であれば、ユーザーがインクタンク503、504の交換を行う。ここで、インク量表示をしてからのインクタンク交換要否判定及びインクタンク交換の工程は、インク量の表示を基に、ユーザー自身が判断して適宜行っても良い。なお、本実施形態においては、インク量Iの表示後、インク量Iが所定値以下であれば、インクタンクの交換が必要な旨の表示が行われることとしたが、インク量Iが表示されずに、インクタンクの交換が必要な旨の表示が行われることとしても良い。
【0034】
保守動作要否判定においては、制御手段は保守動作の要否の判定のみを行い、保守動作が必要と判定された場合でも記録装置が直ちに保守動作を作動させるわけではない。本実施形態では、印刷コマンドが送信されてインクジェット記録装置が受信した受信時に初めて保守動作を行う。そして、このまま印刷コマンドが送信されない状態が続けば、保守動作も行われないままである。これにより、時間の経過等によって保守動作が必要とされている場合に、インク量表示要求があっただけで、保守動作が行われインクが自動的に無駄に消費されてしまうことを防ぐことができる。
【0035】
なお、保守動作が長期間に亘って行われずに増粘が進んでしまい、さらに保守動作が必要となる場合が考えられる。しかしながら、本実施形態においては、印刷コマンドが送信されたときに増粘の度合いに応じて保守動作の強度を調節する。従って、保守動作が行われないままに長期間経過した後には、強力な保守動作が行われることで、増粘に応じた保守動作が行われる。保守動作の強度は、インク吸引の吸引力と予備吐出のインク量とを変化させることでその調節が行われる。
【0036】
本実施形態によれば、保守動作が行われる場合には、それに先立って必ず保守動作後のインク量がユーザーに表示されることになる。そのため、ユーザーは保守動作によるインク消費を見込んだインク量を知ることができる。これにより、ユーザーが関知しない保守動作が行われることによりインクが少なくなり、あるいはインク切れが生じることを防ぐことができる。その結果、このユーザーが関知しないインク切れによる記録ミス、あるいは予備インクの準備が間に合わずに記録を行うことができない事態となることを防ぐことができる。
【0037】
なお、本実施形態においては、印刷コマンドが送信されたときに初めて保守動作を行うこととしたが、印刷コマンドではなく、保守動作の実行を了承する別のコマンド操作(指示)を行うこととしても良い。この場合には、保守動作後のインク量が表示され、その後ユーザーにより保守動作の実行を了承するコマンドが送信されることで保守動作が行われる。そして、その後に印刷を行うのであれば、ユーザーによって印刷コマンドが送信されて、印刷が行われる。本実施形態では、印刷コマンドが送信されると保守動作が行われるように設定されていることで、ユーザーによる操作が煩雑にならないようにしている。
【0038】
また、本実施形態では、メモリ706に記憶されるインク保持量Rは、実際のインク保持量であって、保守動作が実際に行われて終了するまではインク保持量Rから保守動作によるインク消費量Cを減算した新たな値にはならない。制御手段ではインク保持量Rからインク消費量Cの減算が行われないので、続けてインク量表示コマンドが送信されて減算が何度も行われるようなことが無く、実際のインク保持量と算出されたインク保持量との間にずれが生じることが無い。従って、インク量表示コマンドが何度も送信されても正確に使用可能インク量Iを表示することができる。
【0039】
本実施形態においては、インクタンク503、504のインク保持量や、保守動作の要否判定の基準となる前回の保守動作以後に行った記録動作の量は、記録装置のメイン制御基板702に設けられたメモリ706に記憶される。また前回の保守動作あるいは記録動作からの時間経過は、記録装置のメイン制御基板702に設けられたタイマー707で計数される。保守動作の要否の判定及び使用可能インク量Iの算出は、記録装置のメイン制御基板702に設けられた演算回路705で行われる。
【0040】
本実施形態における使用可能インク量Iは、ホストシステム900に送信してディスプレイなどの表示装置901を利用して表示しても良いし、記録装置に設けられた発光素子や液晶ディスプレイなどの表示装置に表示しても良い。このとき、保守動作が必要であると判断され、且つ、ホストシステム900に電源が入ってないあるいはオフラインの場合には、ユーザーは保守動作が行われることを知ることができない。そのため、保守動作が行われることをユーザーが知ることができる環境を得、ユーザーによる保守動作の実行を了承するコマンドを送信した後に保守動作が行われるように設定されている。また、記録装置のパネル基板703に設けられたインク量表示用スイッチのユーザーによる押下によって、使用可能インク量印刷コマンドが発令され、記録装置が記録動作を行って記録媒体P上に使用可能インク量Iを印刷することとしても良い。また、記録装置上のリセットスイッチを所定の手順でユーザーが押下することにより、使用可能インク量印刷コマンドが発令され、記録装置が記録動作を行って記録媒体P上に使用可能インク量Iを印刷する形態をとっても良い。この場合はホストシステム900がなくても、また記録装置に液晶ディスプレイなどの表示装置が備えられていなくても、使用可能インク量Iを詳細にユーザーに報知することができる。
【0041】
ここで、本実施形態で用いられる制御系について、図2を用いて説明する。保守動作の要否判定の基準となる前回の保守動作以後に行った記録動作の量は、記録装置のメイン制御基板702に設けられたメモリ706とホストシステム900の記憶装置903との双方に記憶される。さらに、保持インク量検出手段により検出されたインクタンク503、504の保持インク量Rもホストシステム900に送信され、記憶装置903に記憶される。また前回の保守動作あるいは記録動作からの時間経過は、記録装置のメイン制御基板702に設けられたタイマー707とホストシステム900の制御基板904に設けられたタイマー907との双方で計数される。
【0042】
ユーザー操作により、あるいは印刷コマンド送信などによりホストシステム900からインク量表示コマンドが送信されると、ホストシステム900は記録装置に対し使用可能なインク量を算出してホストシステム900に送信するよう要求する。記録装置がホストシステム900に接続されて電源が投入されている場合には、記録装置に設けられた演算回路705で使用可能インク量の算出が行われ、ホストシステム900に送信される。
【0043】
なお、記録装置が電源オフやオフラインの時のみ、ホストシステム900が使用可能インク量を算出することとしても良いし、また、記録装置が電源オフやオフラインの時だけでなく、常に、記録装置が使用可能インク量を算出し表示を行うこととしても良い。その場合、記録装置のメモリ706にはインクタンク503、504の保持インク量や保守動作の要否判定の基準を記憶しなくても良い。また、保守動作の要否判定をドットカウントのみで行うこととし、タイマー707を持たないということにしても良い。これにより、記録装置のメイン制御基板702を簡略化してコストを削減することができる。
また、ホストシステム900の演算回路905を利用してドットカウント式保持インク量算出を行い、算出された保持インク量Rをホストシステム900の記憶装置903に記憶し、更にホストシステム900が使用可能インク量Iの算出及び表示を行っても良い。
【0044】
また、カラーインクタンク504はシアン、マゼンタ及びイエローの3色の使用可能インク量Ic、Im、Iyをそれぞれ表示しても良いし、Ic、Im、Iyのうち最も少ない値をカラーインクタンク504の使用可能インク量として表示しても良い。そして、最も少ないインクタンクのインク量を表示する場合には、そのインク量が所定量を下回った場合にカラーインクタンク504を交換するよう促す表示を行ってもよい。
【0045】
また各色のインクを収容するそれぞれ独立したインクタンクを備えた記録装置においても、本発明を応用できることは自明である。
【0046】
(第二の実施形態)
図5は、本発明の第二の実施形態に係る保持インク量検出手段の説明図である。第一の実施形態においては保持インク量の検出はドットカウント方式だったが、第二の実施形態において保持インク量検出手段は、いわゆる光学式検出手段である。光学式検出手段は、主にインクタンク503、504の上方に配置された発光部581と、インクタンク503、504の下方に配置された受光部582とで構成される。受光部582は、発光部581から照射され液体インク収納室を通過した光の光量を検出するので、受光部582の出力は図5(b)に示すように液体インク収容室に収容されたインク量に応じて変化する。制御手段は、受光部582からの出力に基づいてインクタンク503、504に保持しているインク量や、初期インク量からの消費率などを算出する。
【0047】
ここで、実施例1の場合と同様に図4のステップS41で保守動作要求コマンドが送信され、次いでステップS42でインク量表示コマンドが送信されると、ステップS43で保守動作判定手段はメモリやタイマーを参照して記録ヘッド保守動作の要否判定を行う。記録ヘッド保守動作が必要と判定された場合にはステップS44に移る。そして、受光部582からの出力に基づいて算出された各インクタンク503、504のインク保持量Rから、該保守動作が実行される際に消費されるインク量Cを差し引いて使用可能なインク量Iが算出される。それから、表示手段にインク量Iが表示される。
【0048】
一方、記録ヘッド保守動作が不要と判定された場合はステップS43に移り、上記受光部582からの出力に基づいて算出された各インクタンク503、504のインク保持量Rを使用可能なインク量Iとして表示する。ここで図中の記号R、C、Iに続く付加記号bk、c、m、yはそれぞれインク色であるブラック、シアン、マゼンタ、イエローを表す。その後の制御フローについては、第一の実施形態と同様なので、説明を省略する。
【0049】
このとき制御手段は保守動作の要否の判定のみを行い、保守動作が必要と判定された場合でも実際に保守手段を作動させないので、インク量表示コマンドが送信されただけでインクを無駄に消費してしまうことがない。
【0050】
本実施形態においては、受光部582が発光部581から照射され液体インク収納室を通過した光の光量を検出する光学検出方式を用いて保持インク量を検出する場合を例に説明を行った。しかし、別の形態の光学検出方式が用いられても良い。
【0051】
(他の実施形態)
なお、上記の実施形態においてはインクタンクが保持しているインクの量をドットカウント方式、及び光学式検出手段を用いて検出を行った。しかし、保持インク量を検出する記録装置においては、電極検出方式、その他いずれのインク量検出方式を用いても良い。
【0052】
また、上記の実施形態におけるインク量表示要求のコマンドは、保守動作要求コマンド送信の後のタイミングで自動的にホストシステム900から送信されることとしたが、ユーザー操作によりホストシステム900から送信されても良い。また、印刷コマンド送信後などの別のタイミングで自動的にホストシステム900から送信されても良いし、さらには記録装置に設けられたインク量表示用スイッチのユーザーによる押下でも良い。また、リセットスイッチを所定の手順でユーザーが押下することにより発令されても良い。
【0053】
また、保守動作が行われるのは印刷コマンドの送信の後としたが、印刷コマンドとは別に保守動作の実行を了承するコマンドを設定しても良い。
【0054】
また、本実施形態に係る記録システムは、1台のインクジェット記録装置に対して複数のホストシステム900が接続されてもよい。その場合、記録動作や記録ヘッド保守動作が行われるたびに、それらの情報は記録装置から各々のホストシステム900に送信される。そして、インクタンク503、504の保持インク量Rや保守動作の要否判定の基準が、各々のホストシステム900の記憶装置903に記憶される。インク量表示要求が発令されると、ホストシステム900はタイマー907及び記憶装置903を参照して記録ヘッド保守動作の要否判定を行い、判定結果に基づいて使用可能インク量Iを算出し、それぞれのホストシステムにおける表示装置901に表示する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】第一の実施形態におけるインクジェット記録装置における記録動作機構部の斜視図である。
【図2】インクジェット記録装置内の制御部及びインクジェット記録装置とデータの送受信を行うホストシステムの概念図である。
【図3】図1に示すキャリッジ及び記録ヘッドカートリッジの断面図である。
【図4】第一の実施形態におけるインクジェット記録装置の制御のフローチャートである。
【図5】第二の実施形態におけるインクジェット記録装置のインク量検出の説明図である。
【図6】従来のインクジェット記録装置の制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0056】
500 記録ヘッド
503 ブラックインクタンク
504 カラーインクタンク
900 ホストシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを記録媒体へ吐出する記録ヘッドと、前記記録ヘッドから前記記録媒体へ吐出されるインクを収容するインクタンクと、前記記録ヘッドの保守動作を行う保守手段と、を有するインクジェット記録装置において、
前記インクタンク内部に収容されたインク量を検出する検出手段と、
前記記録ヘッドの保守動作の要否を判定する判定手段と、
前記判定手段が、保守動作が必要と判定したとき、前記検出手段によって検出されたインク量から保守動作で用いられる分のインク量を減算し、その結果のインク量に基づいた報知を保守動作に先立って行う報知手段と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記保守手段は、前記判定手段によって保守動作が必要と判定された後で印刷コマンド受信時に保守動作を行うことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記判定手段によって保守動作が必要と判定され、保守動作で用いられる分のインク量が減算された結果のインク量が予め定められた値以下の場合には、前記インクタンクの交換を促す表示が行われる請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記判定手段によって保守動作が必要でないと判定されたときは、前記インク量検出手段によって検出されたインク量がそのまま前記報知手段によって報知されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記保守手段は、前記判定手段によって保守動作が必要と判定された後でユーザーからの保守動作の実行を了承する指示があったときに保守動作を行うことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記判定手段は、前回の保守動作からの経過時間により保守動作の要否を判定することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前回の保守動作からの記録量により保守動作の要否を判定することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
インクを記録媒体へ吐出する記録ヘッドと、前記記録ヘッドから前記記録媒体へ吐出されるインクを収容するインクタンクと、前記記録ヘッドの保守動作を行う保守手段と、を有するインクジェット記録装置と、
前記インクジェット記録装置へ記録データを送信するホストシステムと、
を有するインクジェット記録システムにおいて、
前記インクジェット記録装置は、前記インクタンク内部に収容されたインク量を検出する検出手段を備え、
前記ホストシステムは、前記記録ヘッドの保守動作の要否を判定する判定手段と、前記判定手段によって保守動作が必要と判定されたとき、前記検出手段によって検出されたインク量から保守動作で用いられる分のインク量を減算し、その結果のインク量に基づいた報知を前記保守動作に先立って行う報知手段を備えたことを特徴とするインクジェット記録システム。
【請求項9】
インクを記録媒体へ吐出する記録ヘッドと、前記記録ヘッドから前記記録媒体へ吐出されるインクを収容するインクタンクと、前記記録ヘッドの保守動作を行う保守手段と、を有するインクジェット記録装置と、
前記インクジェット記録装置へ記録データを送信するホストシステムと、
を有するインクジェット記録システムにおいて、
前記インクジェット記録装置は、前記インクタンク内部に収容されたインク量を検出する検出手段と、前記記録ヘッドの保守動作の要否を判定する判定手段と、を備え、
前記ホストシステムは、前記判定手段によって保守動作が必要と判定されたとき、前記検出手段によって検出されたインク量から保守動作で用いられる分のインク量を減算し、その結果のインク量に基づいた報知を前記保守動作に先立って行う報知手段を備えたことを特徴とするインクジェット記録システム。
【請求項10】
インクを記録媒体へ吐出する記録ヘッドと、前記記録ヘッドから前記記録媒体へ吐出されるインクを収容するインクタンクと、前記記録ヘッドの保守動作を行う保守手段と、前記記録ヘッドの保守動作の要否の判定を行う判定手段と、前記インクタンクの内部に収容されているインク量を検出する検出手段と、インク量を報知する報知手段とを有するインクジェット記録装置の保守動作方法において、
前記検出手段によって前記インクタンク内部に収容されたインク量が検出されると共に、前記判定手段によって前記記録ヘッドの保守動作の要否判定が行われ、
保守動作が必要であると判定された場合には、検出されたインク量から保守動作で用いられる分のインク量が減算されたインク量に基づいた報知が、前記報知手段によって前記保守動作に先立って報知されることを特徴とするインクジェット記録装置の保守動作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−149517(P2008−149517A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338102(P2006−338102)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】