説明

インク劣化の特定を容易にするインクジェット記録装置

【課題】インク劣化に対して、操作パネル画面にインク粒子の帯電効率を波形化した結果を表示させることで、その原因を容易に特定できるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】加圧インクをノズルから噴出させ、このノズルを一定周期で振動させることによってノズルから噴出したインクをインク粒子に分離すると共に、分離されたインク粒子を帯電電極により帯電させ、帯電したインク粒子を偏向電極により形成される偏向電界中を飛行させることにより偏向して被印字物に文字を印字するインクジェット記録装置において、インク粒子を位相探索用帯電電圧で帯電させたインク粒子の電荷量に応じた電圧が誘起されるセンサから出力されるアナログ信号形態の位相検出信号をA/Dコンバータでデジタル信号形態に変換してメモリに記憶して保存し、また表示装置に表示するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
荷電制御型のインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
荷電制御型のインクジェット記録装置は、ノズルから噴出するインクを粒子化するタイミングに同期させて、インク粒子に加電圧することにより電荷を付与する。インク粒子は電荷に応じて静電偏向電界を通過することにより目的の位置に付着する。この時、印字対象物はインク粒子偏向方向と直角に相対移動することで印字を形成する。
【0003】
インク粒子の偏向量は、インク粒子の電荷量によって決まることから、インク粒子へ付与する電荷量を正確に制御する必要があり、そのためには、インクが粒子化するタイミングに合わせて電荷を加えるタイミングを正確に把握することが必要である。
【0004】
そのため、従来は、インクが粒子化するタイミングを検出するために、非印字中にインク粒子が発生する1周期を分割し、各々位相にて帯電効率が最も良い位相を探索するための位相探索用帯電パルスを発生させ、インク粒子に帯電させ各位相毎に帯電されたインク粒子の電荷量に応じた電圧が誘起されるセンサを設け、このセンサに誘起される位相検出信号に基づいて正常な帯電を行うことができる位相を判定し、その位相でインク粒子へ帯電することにより高い印字品質を維持するように構成している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−220707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、インクジェット記録装置を長期間稼動させると、空気中のほこりや水分を吸い込むことによりインク劣化が発生し、正常な印字ができなくなる。印字不良が生じる原因としては様々なものがあり、その印字不良の原因を特定するために、現在は実際に紙などに印字を行って、目視判断をしている。その作業の煩雑さは作業効率を低下させる原因となっている。
【0007】
本発明の目的は、インク劣化に対して、操作パネル画面にインク粒子の帯電効率を波形化した結果を表示させることで、その原因を容易に特定できるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する為、例えば、加圧インクをノズルから噴出させ、このノズルを一定周期で振動させることによってノズルから噴出したインクをインク粒子に分離すると共に、分離されたインク粒子を帯電電極により帯電させ、帯電したインク粒子を偏向電極により形成される偏向電界中を飛行させることにより偏向して被印字物に文字を印字するインクジェット記録装置において、インク粒子を位相探索用帯電電圧で帯電させたインク粒子の電荷量に応じた電圧が誘起されるセンサから出力されるアナログ信号形態の位相検出信号をA/Dコンバータでデジタル信号形態に変換してメモリに記憶して保存し、また表示装置に表示するように構成する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、印字不良原因の特定を容易に行うことにより、生産ラインの生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】インクジェット記録装置の構成図
【図2】インク粒子の形状図
【図3(a)】インク粒子状態と帯電タイミングと印字結果の関係のうち、正常な帯電状態で印字される例
【図3(b)】インク粒子状態と帯電タイミングと印字結果の関係のうち、異常な帯電状態で印字される一例
【図3(c)】インク粒子状態と帯電タイミングと印字結果の関係のうち、異常な帯電状態で印字される他の例
【図4】位相探索用帯電信号を発生する図
【図5】位相検出信号波形(正常)
【図6】位相検出信号波形(異常)
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図で参照して説明する。図1は、本発明になるインクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。
このインクジェット記録装置は、インクジェット記録装置本体100と印字ヘッド200を備え、印字ヘッド200は、生産ラインのコンベア300によって搬送される被印字物400の搬送軌道に対向するように設置する。
【0012】
インクジェット記録装置本体100において、101は、インクジェット記録装置全体を制御するマイクロプロセシングユニット(以下、MPUという)である。102は、前記MPU101が動作するのに必要な制御用プログラムおよびデータを記憶する読み出し専用のメモリである。103は、MPU101がプログラム実行中に必要となるデータを一時的に記憶する書き換え可能なメモリである。104は、印字内容や設定値等を入力する入力パネル、105は、入力されたデータおよび印字内容等を表示する表示装置であり、この入力パネル104と表示装置105は、液晶表示画面の表面に透明なタッチスイッチを重合したタッチ入力式表示パネルを使用する。106は、バスラインであり、MPU101のデータ信号,アドレス信号およびコントロール信号を伝送する。
【0013】
印字ヘッド200は、インクジェット記録装置本体100のインク容器107からインク供給ポンプ108によって加圧して供給されるインク109をノズル201からインク109a柱状に噴出する。インクジェット記録装置本体100にある励振電圧発生回路112によって励振信号をノズル201の電歪素子202に与え、一定的な周期で振動させる。これによって、インク柱109aがインクの粒子109bになる。
【0014】
このようにして規則的に発生するインク粒子109bがインク柱109aから分離する時点で、帯電電極203の電圧によって電荷を与える。インク粒子109bを所定の位置に偏向するために、印字用帯電信号発生回路113は帯電信号を発生し、その信号に従って帯電電極203に帯電電圧を印加する。帯電したインク粒子109bは、偏向電極204を通過し、被印字物400の所定位置に付着する。帯電しなかったインク粒子109bは、ガター205に回収される。
【0015】
図2は、印字ヘッド200にある電歪素子202の電圧によって形成されたインク粒子109bの各形状の例である。ノズル201の中の電歪素子はインク柱109aが噴出する方向に機械的な振動が与えられる。振動の力によって、インクの腹部130は丸くなり、括れ部131は細くなって最終的にはインク粒子になる。励振電圧発生回路112の信号に従って電歪素子に電圧をかける。圧力、温度、インク物質の変化などの影響によりインク柱109aの切断点のタイミングが変更し、インク粒子形状が変化することもある。
【0016】
図3は、インク粒子状態のインク粒子109bの分離(インク粒子発生)タイミングと帯電電圧発生タイミングと印字文字の関係を例示している。(a)は、正常な帯電状態で印字された文字の例である。すなわち、インク粒子がインク柱から切断されるタイミングに合わせて帯電電圧を印加することで正常な印字がなされる。(b)は、異常な帯電状態で印字された文字の例である。すなわち、インク粒子がインク柱から切断されるタイミングと帯電電圧を印加するタイミングがずれた関係にある場合印字文字が乱れる。(c)も異常な帯電状態で印字された文字の例である。インク粒子の形成状態が悪い場合、帯電電圧を印加するタイミングが合っていたとしても印字文字は乱れる。このことから、高品質な印字を行うためには、正常なインク粒子形成状態に加えて正しいタイミングで帯電電極へ帯電信号を与える必要がある。インク粒子に対して確実に帯電するために、インクジェット記録装置は現在のインク粒子が発生している位相を正確に把握しておく必要がある。この位相を検出した結果に基づき、帯電電極へ帯電信号を与えるタイミングを調整し、インク粒子に電荷を帯電させている。
【0017】
図4は、位相探索用帯電信号を発生する図である。インクジェット記録装置本体100にある位相探索用帯電信号発生回路114の帯電信号に従って位相を変えた位相探索用帯電電圧を発生させる。この位相探索用帯電電圧で帯電したインク粒子109bはガター204を飛び越えない(ガター204で捕捉できる)程度の偏向量となるような大きさにする。この位相探索用帯電電圧で帯電したインク粒子の電荷量に応じてオートフェーズセンサ206から出力される位相検出信号を増幅回路118で増幅し、位相判定回路119に入力する。
【0018】
増幅回路118から出力する位相検出信号の波形は、位相探索用帯電電圧の発生位相の変更に伴って図5の示すように変化する。位相判定回路119は、このような位相検出信号を入力し、入力した各位相の位相検出信号をスレッシュドレベルと比較して2値化してMPU101に入力する。MPU101は、2値化された位相検出信号が「0」から「1」になった位相をインク粒子109bを帯電させる帯電電圧発生に最適な位相であると判断し、その位相にて印字用の帯電電圧を発生するように印字用帯電信号を制御する。
【0019】
しかし、インクの劣化などによりインクの物性に変化がある場合、インク粒子形成状態が異常になると、その位相検出信号波形は図6の示すように変化する。すなわち、位相判定回路119は、各位相の位相検出信号がスレッシュドレベルより低い電圧となるため最適位相を探索することができない。このような状態では、インク粒子は正しく帯電できず印字不良が発生する。
【0020】
従って、生産前にオペレーターはノズルへ印加する励振電圧を変更しながら、位相検出信号波形を表示装置105で観察し、その波形が異常となりインク劣化の確認メッセージを確認したうえで、インクを交換することで生産前に印字不良を避けることが可能である。
【0021】
この実施の形態のインクジェット記録装置は、位相探索における各位相の位相探索用帯電信号(帯電電圧)に対応して得られる各位相毎の位相検出信号(アナログ信号形態の信号波形)をA/Dコンバータ120によってデジタル信号形態の位相検出データに変換し、MPU101によって適宜な間隔でサンプリング(取得)してメモリ103に記憶して保存し、その後、メモリ103から読み出し、印字不良の原因を特定するための観察に適した波形に加工処理して表示装置105に表示することができるように構成している。ノズルへ印加する励振電圧を変更しながら、その位相検出波形が異常な波形状態になった時にインク劣化の確認メッセージを表示する。
【符号の説明】
【0022】
100…インクジェット記録装置本体、101…MPU、102,103…メモリ、104…入力パネル、105…表示装置、112…励振電圧発生回路、113…印字用帯電信号発生回路、114…位相探索用帯電信号発生回路、119…位相判定回路、120…A/Dコンバータ、200…印字ヘッド、201…ノズル、202…電歪素子、203…帯電電極、204…偏向電極、205…ガター、206…オートフェーズセンサ、300…コンベア、400…被印字物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧インクをノズルから噴出させ、このノズルを一定周期で振動させることによってノズルから噴出したインクをインク粒子に分離すると共に、分離されたインク粒子を帯電電極により帯電させ、帯電したインク粒子を偏向電極により形成される偏向電界中を飛行させることにより偏向して被印字物に文字を印字するインクジェット記録装置において、
インク粒子を位相探索用帯電電圧で帯電させたインク粒子の電荷量に応じた電圧が誘起されるセンサから出力されるアナログ信号形態の位相検出信号をA/Dコンバータでデジタル信号形態に変換してメモリに記憶して保存し、また表示装置に表示するように構成したことを特徴とするインクジェット記録装置
【請求項2】
前記表示装置に位相検出データを所定のしきい値と比較して2値化したデータを表示することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記表示装置に位相検出データに基づいてアナログ形態の波形を生成して表示することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
位相探索用帯電電圧を発生してそのときの位相検知信号波形をメモリに記憶して保存し、また表示装置に表示するようにしたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記位相検出信号波形とインク劣化確認メッセージは、表示装置に表示することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−10229(P2013−10229A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143678(P2011−143678)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】