説明

インゴットの切断方法

【課題】切断コストが安価、かつ、高平坦度の切断が可能で、切断時廃棄物が少ないインゴットの切断方法を提供する。
【解決手段】本ワイヤソーを用いたインゴットの切断方法は、ワイヤソーの走行するワイヤに接着剤及び砥粒を順次供給し、乾燥空気を用いて前記接着剤を乾燥させて、砥粒をワイヤ上に固着させ、しかる後、このワイヤに切削液を供給しながら、ワイヤによりインゴットを切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインゴットの切断方法に係り、特に、切断時ワイヤに砥粒を固定する擬似固定砥粒ワイヤを用い、シリコン単結晶や多結晶、その他化合物半導体やセラミックス等のインゴットの切断に適するインゴットの切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン単結晶等のインゴット切断は、水溶性もしくは非水溶性の液中にSiC等の砥粒を分散させた切削液(スラリ)を走行するワイヤ及びインゴットの切断部に供給しながら切断を行なうもので、このように遊離砥粒方式での切断が一般的である(特許文献1)。しかし、この遊離砥粒方式によるインゴットの切断は、切断される基板間に切削液が十分に供給されないため、切断部に温度上昇が生じ、基板の平坦度が低下する問題点があり、さらに、この問題を解決するために、大量のスラリを用いるため、切断の際に多くの廃棄物が生じる問題点がある。
【0003】
そこで、遊離砥粒方式での問題を解決するため、砥粒が予めワイヤに固定された固定砥粒ワイヤを用いた切断方法が提案されている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、この固定砥粒ワイヤ方式は、遊離砥粒方式に比べ、固定砥粒ワイヤの製造コストが割高であるという問題点がある。
【特許文献1】特開平8−323741号公報
【特許文献2】特開平11−10516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した事情を考慮してなされたもので、切断コストが安価、かつ、高平坦度の切断が可能で、切断時廃棄物が少ないインゴットの切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するため、本発明に係るインゴットの切断方法は、ワイヤソーを用いインゴットを複数枚の基板に切断するインゴットの切断方法において、前記ワイヤソーの走行するワイヤに接着剤及び砥粒を順次供給し、乾燥空気を用いて前記接着剤を乾燥させて、前記砥粒を前記ワイヤ上に固着させ、しかる後、このワイヤに切削液を供給しながら、ワイヤによりインゴットを切断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るインゴットの切断方法によれば、切断コストが安価、かつ、高平坦度の切断が可能で、切断時廃棄物が少ないインゴットの切断方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係るインゴットの切断方法の一実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0009】
図1は本発明に係るインゴットの切断方法に用いられるワイヤソーの概念図である。
【0010】
図1に示すように、本ワイヤソー1は、回転自在に設けられた3個の溝付ローラ2(2a、2b、2b)とこれらの溝付ローラ2間に張設されたワイヤ3aからなるワイヤ列3Aを有するローラ機構部4と、ワイヤ3aに押圧されて切断される例えばシリコン単結晶インゴットのようなインゴットWを保持するワーク保持機構部5と、ワークプレート6が取り付けられるワーク送り機構部(図示せず)を具備し、ワーク保持機構部5は上記ワーク送り機構部に移動可能に取り付けられており、ローラ機構部4及びワーク送り機構部は装置架台(図示せず)に取り付けられている。
【0011】
3個の溝付ローラ2(2a、2b、2b)のうち、溝付ローラ2aはローラ駆動モータ(図示せず)により駆動されるドライブローラであり、他の溝付ローラ2b、2bはドリブンローラであり、ワイヤ列3Aのワイヤ3aをドライブローラである溝付ローラ2aの駆動により往復運動させるようになっている。
【0012】
また、インゴットWの両側には、一対の砥粒形成ユニット7、7が設けられている。この砥粒形成ユニット7、7はドリブンローラ2b、2b側から順に、接着剤噴射ノズル7a、砥粒噴射ノズル7b及び乾燥空気噴射ノズル7cを備えている。
【0013】
図2に示すように、この砥粒形成ユニット7、7は、走行し砥粒が固定されていない素材のワイヤ3aに接着剤噴射ノズル7aから接着剤を噴射し、さらに、接着剤が付着されたワイヤ3aに砥粒噴射ノズル7bから砥粒を噴射してワイヤ3aに砥粒を付着させ、乾燥空気噴射ノズル7cから高温乾燥空気を噴射して、切断直前にその場(in−situ)で擬似固定砥粒ワイヤ3を形成するためのものである。
【0014】
さらに、インゴットWと砥粒形成ユニット7、7の間には、一対の切削液供給ノズル8、8が設けられており、切削前の砥粒が固着されたワイヤ3に切削液を供給するようになっている。
【0015】
図1及び図2に示すように、本発明に係るインゴットの切断方法は次のようにして行われる。
【0016】
インゴット例えばシリコン単結晶Wの切削工程時、走行するワイヤ3aと反走行側の砥粒形成ユニット7を作動させ、接着剤噴射ノズル7aから接着剤を素材のワイヤ3aに噴射し、さらに、接着剤上に砥粒噴射ノズル7bから砥粒を噴射して付着させ、さらに、乾燥空気噴射ノズル7cから高温乾燥空気を噴射して、擬似固定砥粒ワイヤ3を形成する。
【0017】
さらに、擬似固定砥粒ワイヤ3に反走行側の切削液供給ノズル8から切削液を供給し、擬似固定砥粒ワイヤ3とインゴットWを相対運動させ、研削作用によって、インゴットWを複数枚のウェーハに切断する。
【0018】
この切断過程において、擬似固定砥粒ワイヤ3は、ワイヤ3aに砥粒が固着された状態になっているため、切断される基板間に十分切削液が供給され、切断部に温度上昇が生じることがなく、基板の高平坦度化が実現し、また、切削液の供給量を減少させることができて、廃棄物の発生を減じることができる。さらに、擬似固定砥粒ワイヤ3は、予めワイヤに固定砥粒ワイヤを固着する固定砥粒ワイヤと異なり、その場でワイヤに砥粒が固着されるので安価であり、切削直前に再生して使用することが可能である。
【0019】
上記実施形態のインゴットの切断方法によれば、擬似固定砥粒ワイヤと切削液を併用することにより、安価なワイヤを用いることにより切断コストが安価、かつ、高平坦度の切断が可能で、切断時廃棄物が少ないインゴットの切断方法が実現される。
【実施例】
【0020】
本発明に係るインゴットの切断方法を用いて、ワイヤ張力25N、擬似固定用砥粒♯1500、ワイヤ速度750m/分にて、切削液として♯1500を用い、加工時間10時間で、直径200mm、長さ約500mmのシリコンインゴットを切断し、切断したシリコンウェーハの平坦度を測定した(実施例)。次に、比較例として、擬似固定砥粒ワイヤを用いず、研削液として♯1500のみを用い、その他は、実施例と条件は同じでシリコンインゴットを切断し、シリコンウェーハの平坦度を測定した(従来例)。また、上記シリコンインゴット1本の加工に用いられる切削液の使用量を実施例と従来例とで比較した。
【0021】
結果を表1に示す。
【表1】

【0022】
表1からもわかるように、擬似固定取付ワイヤと研削液を併用すると、研削液のみによる場合より平坦度が向上することが確認された。
【0023】
また、擬似固定液砥粒ワイヤと研削液を併用することにより、シリコンインゴット1本の加工において、約100kgの研削液の廃棄を削減することができた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るインゴットの切断方法に用いられるワイヤソーの概念図。
【図2】本発明に係るインゴットの切断方法における砥粒固着方法の概念図。
【符号の説明】
【0025】
1 ワイヤソー
2(2a、2b、2b) 溝付ローラ
3 擬似固定砥粒ワイヤ
3a ワイヤ
3A ワイヤ列
4 ローラ機構部
5 ワーク保持機構部
6 ワークプレート
7 砥粒形成ユニット
7a 接着剤噴射ノズル
7b 砥粒噴射ノズル
7c 乾燥空気噴射ノズル
8 切削液供給ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤソーを用いインゴットを複数枚の基板に切断するインゴットの切断方法において、前記ワイヤソーの走行するワイヤに接着剤及び砥粒を順次供給し、乾燥空気を用いて前記接着剤を乾燥させて、前記砥粒を前記ワイヤ上に固着させ、しかる後、このワイヤに切削液を供給しながら、ワイヤによりインゴットを切断することを特徴とするインゴットの切断方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−272499(P2006−272499A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−93936(P2005−93936)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000221122)東芝セラミックス株式会社 (294)
【Fターム(参考)】