説明

インホイールモータシステム

【課題】 インホイールモータシステムの直動ガイドのシール性を向上する。
【解決手段】 車両の駆動輪3と、車軸30と、インホイールモータ5と、前記車軸中心線に対して直交するとともに、互いに直交する2方向に前記インホイールモータを変位自在に支持するとともに、前記インホイールモータの駆動トルクを前記駆動輪に伝達するフレキシブルカップリング4と、前記インホイールモータを前記車軸に対して上下方向に変位可能に支持する直動ガイド20と、を備えるインホイールモータシステムにおいて、前記直動ガイド20と同軸上に前記インホイールモータ5を支持するスプリング27を備え、前記直動ガイド20は、前記インホイールモータに接続する軸状のロッド22と、前記車軸に接続し、前記ロッド表面を摺動する摺動部材23とからなり、前記ロッドと前記スプリングとの間に前記ロッドを覆うダストカバー32を設け、このダストカバーの一端32bの開口径は、前記ロッド22の外径より小さく設定され、ロッドに固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インホイールモータシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のインホイールモータシステムにおいて、インホイールモータを直動ガイドと緩衝機構により、車軸等の懸架装置に弾性支持する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−90696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来技術においては、車両走行時に泥水等に晒される使用環境にあるにもかかわらず、インホイールモータシステムのシール性が考慮されておらず、特にインホイールモータを弾性支持する直動ガイドは、ダストや異物が内部に侵入することにより摺動抵抗が増大し、インホイールモータの上下動の摩擦抵抗の増加を招く可能性があるにもかかわらず、シール性が考慮されていない。
【0004】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、インホイールモータシステムに用いられる直動ガイドのシール性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、車両の駆動輪と、左右の駆動輪を回転自在に連結する車軸と、前記駆動輪内に設置され、駆動輪に伝達される駆動トルクの発生源としてのインホイールモータと、前記車軸中心線に対して直交するとともに、互いに直交する2方向に前記インホイールモータを変位自在に支持するとともに、前記インホイールモータの駆動トルクを前記駆動輪に伝達するフレキシブルカップリングと、前記インホイールモータを上下方向に変位可能に支持する直動ガイドと、を備えたインホイールモータシステムにおいて、前記直動ガイドと同軸上に前記インホイールモータを支持するスプリングを備え、前記直動ガイドは、前記インホイールモータに接続する軸状のロッドと、前記車軸に接続し、前記ロッド表面を摺動する摺動部材とからなり、前記ロッドと前記スプリングとの間に前記ロッドを覆うダストカバーを設け、このダストカバーの一端の開口径は、前記ロッドの外径より小さく設定され、前記ロッドに固定される。
【0006】
第2の発明は、第1の発明において、前記ダストカバーの一端の開口径は、前記ダストカバーが伸縮するバネ定数と前記ダストカバーが最も伸長したときの最大伸長量から演算される力より、前記ダストカバーの一端がロッドを押圧する力と前記ロッド表面の摩擦係数により求まる力が大きくなるように設定される。
【0007】
第3の発明は、第1の発明において、前記ダストカバーの一端が嵌る凹状の環状溝を前記ロッドに形成する。
【0008】
第4の発明は、第1の発明において、前記ダストカバーの他端は、前記摺動部材の外周に嵌合するリングにより摺動部材に固定される。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明では、ダストカバーの一端の開口径をロッドの外径より小さく形成し、ロッドに固定することにより、ダストカバーの一端をロッドの所定位置に固定し、常にロッド表面をダストや異物から覆うことができる。
【0010】
第2の発明では、ダストカバーの一端の開口径は、ダストカバーが伸縮するバネ定数とダストカバーの最大伸長量から演算される力より、他端がロッドを押圧する力とロッド表面の摩擦係数により演算される力が大きくなるように設定されるため、ダストカバーが伸縮しても、確実に一端が所定のロッド位置に留めることができる。
【0011】
第3の発明では、ロッドにダストカバーの一端が嵌る環状溝を形成したので、ダストカバーを確実に所定位置に保持することができる。
【0012】
第4の発明では、ダストカバーの他端がリングにより摺動部材に固定されるので、ダストカバー他端が摺動部材から離れて、その隙間からダストや異物等がダストカバー内に侵入することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、本発明のインホイールモータシステムの構成図である。本発明のインホイールモータシステムは、タイヤ1とホイール2とからなる駆動輪3と、フレキシブルカップリング4を介して駆動輪3に駆動力を伝達するインホイールモータ5と、左右の駆動輪3を連結する左右方向に伸びる車軸30と、ホイール2を固定するハブ6と、車軸30に固定され、ベアリング7を介してハブを回転自在に接続するナックル14とから構成される。
【0015】
駆動輪3のホイール2は、タイヤ1が取り付くリム部2aと造形処理されるディスク面2bとからなり、ディスク面2bの内面2cにフレキシブルカップリング4を構成するプレート9が固定される。一方、後述するインホイールモータ5を固定する回転側ケース5dがフレキシブルカップリング4の最も内側のプレート11に固定される。
【0016】
またインホイールモータ5は、ナックル14に緩衝機構8を介して接続されており、インホイールモータ5は、フレキシブルカップリング4の作用により、ホイール2の中心線に対して直交するとともに、それぞれもまた直交する2軸方向に変位可能に構成される。
【0017】
フレキシブルカップリング4は、車両左右方向に積層状に設置される3枚の中空円盤状のプレート9〜11と、これらプレートの中で中央に位置する中間プレート10の表裏に、作動方向が互いに直交するように配置されたガイドレール12、13と、中間プレートに対面するプレート9、11に設置され、ガイドレール12、13にそれぞれ係合、摺動するガイド部材12a、13aを備えている。
【0018】
詳しく説明すると、図2に示すようにホイール2側に位置するプレート9のホイール2の内面2cに対する面9aの反対面9bに、180°間隔で取付けられた一対のガイド部材12a、12aが取り付けられる。また中間プレート10の上記プレート9に対面する面10aに一対のガイドレール12、12が取付けられる。そして、ガイドレール12、12がガイド部材12a、12aに係合することにより、中空円盤状のプレート9、10がガイドレール12のガイド方向に互いに相対変位可能に係合されるとともに、中間プレート10の回転がプレート9に伝達される。
【0019】
また、中間プレート10のプレート11に対面する面10bに、前記面10aに設置されたガイドレール12、12に対して90°回転させた位置に一対のガイドレール13、13が取り付けられる。そして、このガイドレール13、13に係合するようにプレート11のプレート10に対面する面11aにガイド部材13a、13aを取り付ける。このように構成することにより、中空円盤状のプレート10、11をガイドレール13方向に互いに相対変位可能に係合するとともに、プレート11の回転が中間プレート10の伝達される。
【0020】
したがって、インホイールモータ5の回転軸がホイール2の回転軸に対してどの方向にも偏心可能に結合されるので、インホイールモータ5の回転軸とホイール2の回転軸とが偏心していてもインホイールモータ5からホイール2へ駆動トルクを効率よく伝達させることが可能となる。
【0021】
インホイールモータ5は、ステータ5aを取り付ける非回転側ケース5bと、非回転側ケース5bの外周側に配置され、ロータ5cを取り付ける回転側ケース5dとから構成される。非回転側ケース5bは、後述するナックル14にモータ取付プレート15及び緩衝機構8を介して接続される。回転側ケース5dは軸受16を介して非回転側ケース5bに対して回転可能に設置されるとともに、フレキシブルカップリング4のプレート11に固定される。このように構成されて、インホイールモータ5に電流が流されるとロータ5cは回転し、この回転がフレキシブルカップリング4を介して駆動輪3に伝達され、車両が駆動される。
【0022】
ホイール2の内面2cの中央にはハブ6が設置され、ハブ6に設けられた図示しないハブボルトがホイール2を貫通して、図示しないホイールナットがハブボルトに螺合してホイール2をハブ6に固定する。なお、ハブ6は、前述の環状円盤状のフレキシブルカップリング4の中央に位置する。
【0023】
ハブ6は、ベアリング7を介してナックル14と互いに回転自在に接続される。ナックル14を構成するナックル取付プレート25には、前記プレート11を取り付けるためのモータ取付プレート15が緩衝機構8を介して接続される。またナックル取付プレート25に車軸30が固定される。なお、車軸30はショックアブソーバとスプリングから構成されるアブソーバアッシ31を介して車体に接続される。
【0024】
図3に示すように、モータ取付プレート15は環状部材で構成され、その外周面15aがインホイールモータ5の非回転側ケース5bの内周面5eに嵌合、固定される。モータ取付プレート15には、車両内側に突出する一対の第1取付部材19が、左右の駆動輪3を連結する車軸30を上下に挟むように取り付けられる。そして、上下の第1取付部材19間に、インホイールモータ5を上下に移動可能に支持する直動ガイド20が設置される。
【0025】
直動ガイド20の構成を図4に示す。直動ガイド20は、円柱状のロッド22と、このロッド22に対して摺動するための2個のリニアベアリング23aを内装する摺動部材23とから構成される。従来、リニアベアリング23aをボールベアリングを用いて構成していたが、本発明では、すべり軸受とすることで小型化及び低コスト化を図ることができる。ロッド22の両端は、前述の一対の第1取付部材19のそれぞれに固定され、さらに、摺動部材23は、ナックル取付プレート25に固定される。このような構成により、インホイールモータ5は、ナックル14及びナックルが固定される車軸30に対して上下に変位可能となる。
【0026】
図3に戻り、車軸30の前方において、上部の第1取付部材19とナックル取付プレート25との間に緩衝装置26が設置される。緩衝装置26のピストンロッド26aが第1取付部材19に固定され、緩衝装置26の外筒26bがナックル取付プレート25に固定される。
【0027】
つまり、直動ガイド20の摺動部材23及び緩衝装置26の外筒26bを固定するナックル取付プレート25は、車軸30に固定される。したがって、ナックル取付プレート25(=ナックル14)と直動ガイド20の摺動部材23と緩衝装置26の外筒26bが、車軸30と一体的に変位する。なお、図3に示すように直動ガイド20には直動ガイド20と同軸に、ナックル取付プレート25を挟んで1対のスプリング27が上下に設置される。ここで、緩衝装置26、スプリング27及び直動ガイド20が緩衝機構8を構成する。
【0028】
このように構成され、インホイールモータ5は、フレキシブルカップリング4及び直動ガイド20の作用により、車軸30に対して相対変位可能に構成されて上下にストロークし、その上下動は緩衝装置26及びスプリング27により減衰される。一方、駆動輪3は、車軸30と一体的にストロークして、その上下動は、車軸30の接続するアブソーバアッシ31によって減衰される。
【0029】
また、インホイールモータ5は、前述のフレキシブルカップリング4を介してホイール2に対して偏心可能に接続するため、インホイールモ−タ5とホイール2との軸心が偏心した状態であっても、インホイールモータ5の駆動トルクをホイール2に伝達することができる。
【0030】
図4と図5は、本発明のダストカバー32を備えた直動ガイド20の構成を説明する図である。
【0031】
図4に示すように、直動ガイド20は、その摺動部材23の外周にスプリング27が設置され、スプリング27は、第1取付部材19とナックル取付プレート25との間に挟持される。本発明は、スプリング27と摺動部材23とロッド22及び第1取付部材19の間に形成されるスペースを利用してダストカバー32を設置し、ダストカバー32をコンパクトに形成しつつ、直動ガイド内に侵入するダストを抑制する点に特徴を有するものである。
【0032】
ダストカバー32のダストカバー部32aは、図4に示すように蛇腹状に樹脂やゴムのような弾性材で形成される。ダストカバー32は、第1取付部材19と直動ガイド20の摺動部材23の端面23bとの間に設置され、リニアベアリング23aとロッド22の摺動面にダストや異物が侵入することを防止する。この時にダストカバー32の長さは、第1取付部材19と摺動部材23の端面23bとの間の長さに応じて伸縮し、第1取付部材19と直動ガイド20の摺動部材23の端面23bとの間の最大長さより、ダストカバー32の自由長が長くなるように設定される。
【0033】
ダストカバー32の他端部32cは、図4に示すように摺動部材23の端面23bに接するように環状に形成され、他端部32cをリング34により摺動部材23の外周に嵌合することで固定される。このようにすれば一層ダストの侵入を防止することができる。
【0034】
図5(a)に示すダストカバー32の一端部32bの開口径は、ロッド22の外径より小さく形成される。したがって、ロッド22によって押し広げられた一端部32bは、元に戻ろうとしてロッド22を押圧する。この押圧する力(緊迫力)とロッド22の表面の摩擦係数により、ダストカバー32の一端部32bがロッド32の表面を摺動する力が求まるが、この摺動力がダストカバー32のダストカバー部32aが伸縮するバネ定数とその最大伸長量により求まる力より大きければ、ダストカバー32の一端部32bはロッド22上を摺動することはなく、所定位置に留まる。したがって、第1取付部材19とダストカバー32とが一体的に変位する場合には、ダストカバー32が常にロッド22の露出部分を覆い、ロッド22表面にダストや異物に付着することを防止できる。
【0035】
また、一端部32bは、図5(b)、(c)に示すように半円状または四角状の断面を有する凹状の環状溝33を予めロッド22表面に形成しておき、この環状溝33に一端部32bを嵌め込むことによって、より確実に一端部を所定位置に留めることができる。
【0036】
このように本発明のインホイールモータシステムの直動ガイドのダストカバーは、ダストカバー32の一端部32bの開口径をロッド22の外径より小さく形成することにより、ダストカバー32の一端32bをロッド22の所定位置に固定することができ、常にロッド表面をダストや異物から覆うことができる。
【0037】
ダストカバー32の一端部32bの開口径は、ダストカバー32が伸縮するバネ特性とダストカバーの最大伸長量から求まる力より、一端部32bがロッド22を押圧する力とロッド表面の摩擦係数により求まる力が大きくなるように設定されるため、ダストカバー32が伸縮しても、確実に一端部32bが所定のロッド位置に留めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のインホイールモータシステムでは、インホイールモータを変位可能に支持するスプリングを備えた直動ガイドにダストカバーを備えたので、ダストや異物の侵入する環境を走行する車両に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態を示す補助駆動用モータ付き車両の駆動輪の構成を示す図である。
【図2】フレキシブルカップリングの説明図である。
【図3】緩衝機構の構成を示す構成図である。
【図4】ダストカバーの詳細図である。
【図5】ダストカバー一端部の詳細図である。
【符号の説明】
【0040】
1 タイヤ
2 ホイール
3 駆動輪
4 フレキシブルカップリング
5 インホイールモータ
5a ステータ
5b 非回転側ケース
5c ロータ
5d 回転側ケース
6 ハブ
8 緩衝機構
9〜11 プレート
12、13 ガイドレール
12a、13a ガイド部材
14 ナックル
15 モータ取付プレート
19 第1取付部材
19a 凹部
19b 側壁
20 直動ガイド
22 ロッド
23 摺動部材
23a リニアベアリング
25 ナックル取付プレート
26 緩衝装置
27 スプリング
32 ダストカバー
32a ダストカバー部
32b 一端部
32c 他端部
33 環状溝
34 リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪と、
左右の駆動輪を回転自在に連結する車軸と、
前記駆動輪内に設置され、駆動輪に伝達される駆動トルクの発生源としてのインホイールモータと、
前記車軸中心線に対して直交するとともに、互いに直交する2方向に前記インホイールモータを変位自在に支持するとともに、前記インホイールモータの駆動トルクを前記駆動輪に伝達するフレキシブルカップリングと、
前記インホイールモータを上下方向に変位可能に支持する直動ガイドと、
を備えたインホイールモータシステムにおいて、
前記直動ガイドと同軸上に前記インホイールモータを支持するスプリングを備え、
前記直動ガイドは、前記インホイールモータに接続する軸状のロッドと、前記車軸に接続し、前記ロッド表面を摺動する摺動部材とからなり、
前記ロッドと前記スプリングとの間に前記ロッドを覆うダストカバーを設け、このダストカバーの一端の開口径は、前記ロッドの外径より小さく設定され、前記ロッドに固定されることを特徴とするインホイールモータシステム。
【請求項2】
前記ダストカバーの一端の開口径は、前記ダストカバーが伸縮するバネ定数と前記ダストカバーが最も伸長したときの最大伸長量から演算される力より、前記ダストカバーの一端がロッドを押圧する力と前記ロッド表面の摩擦係数により求まる力が大きくなるように設定されることを特徴とする請求項1に記載のインホイールモータシステム。
【請求項3】
前記ダストカバーの一端が嵌る凹状の環状溝を前記ロッドに形成したことを特徴とする請求項1に記載のインホイールモータシステム。
【請求項4】
前記ダストカバーの他端は、前記摺動部材の外周に嵌合するリングにより摺動部材に固定されることを特徴とする請求項1に記載のインホイールモータシステム。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−1314(P2006−1314A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177120(P2004−177120)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】