説明

インホイールモータ車両用サスペンションシステム

【課題】 インホイールモータ車両に特有の振動を解消したインホイールモータ車両用サスペンションシステムを提供する。
【解決手段】 インホイールモータ装置1と車体2との間に介在したサスペンション3に、弾性支持機構10およびショックアブソーバ11を有する。弾性支持機構10は弾性係数の変更が可能であり、ショックアブソーバ11は減衰力の変更が可能である。モータ7の回転速度が、定められた共振周波数範囲に入るか否かを監視する共振監視手段21を設ける。共振周波数範囲にモータ7の回転数が入ると判定された場合に、弾性支持機構10に弾性係数を変更させる弾性係数制御手段22、およびショックアブソーバ11の減衰力を変更させる減衰力制御手段23を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インホイールモータ車両に特有の振動を解消したインホイールモータ車両用サスペンションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のサスペンションとして、乗り心地や走行性を改善するために、バネ定数や減衰力を可変とし、走行状況に応じて制御する電子制御サスペンションシステムが提案されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】小西淳吉著、日産自動車発行、「電子制御エアサスペンションシステムの開発」,「日産技報23号P17、1987年12月25日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インホイールモータ装置は、その内部に高速回転するモータと、このモータの回転を減速させてホイールに伝達する減速機とを備えている。インホイールモータ装置は、1モータ形式の電気自動車のように、サスペンションを介して支持された車台上にモータを搭載した車両と異なり、サスペンション下にインホイールモータ装置があるため、モータの回転によって次の2種類の振動が生じ、車両にこの振動が伝わって搭乗者が不快に感じる可能性がある。
【0005】
(1)モータロータのアンバランスに起因する機械的な振動
この振動は、モータロータの回転速度に同期する振動であり、回転速度の整数倍の振動である。上記の減速機を備えたインホイールモータ装置では、一般的には、車両走行速度が中速や高速で生じることになる。
(2)モータのコギングトルクによる電気的な振動
この振動は、モータロータの回転数×(磁極数とスロット数の最小公倍数)に同期する。この振動は、車両走行速度が、例えば車庫入れ時のような極低速のときに生じる。
【0006】
上記の各振動は、サスペンションの固有振動数に一致するときに共振して大きくなり、搭乗者が不快に感じる程度の振動となる場合がある。従来のサスペンションシステムは、このようなインホイールモータ車両に特有の振動に対しては考慮されていない。
【0007】
この発明の目的は、インホイールモータ車両に特有の振動を解消したインホイールモータ車両用サスペンションシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のインホイールモータ車両用サスペンションシステムは、車輪5を支持する車輪用軸受6、モータ7、およびこのモータ7の回転を車輪用軸受6に伝える減速機8を有するインホイールモータ装置1と車体2との間に介在したサスペンション3に、弾性支持機構10およびショックアブソーバ11を有するサスペンションシステムであって、
前記弾性支持機構10が駆動源10aによって弾性係数の変更が可能であり、
前記インホイールモータ装置1のモータ7の回転速度を検出するセンサ12と、
このセンサ12で検出した前記モータ7の回転速度が、前記サスペンションの固有振動数と一致する範囲として定められた共振周波数範囲に入るか否かを監視する共振監視手段21と、
この共振監視手段21で前記共振周波数範囲にモータ7の回転数が入ると判定された場合に前記弾性支持機構10の駆動源10aに弾性係数を変更させる指令を与える弾性係数制御手段22と、
を設けたことを特徴とする。
【0009】
この構成によると、共振監視手段21は、モータ7の回転速度が、前記サスペンション3の固有振動数と一致する範囲として定められた共振周波数範囲に入るか否かを監視する。共振監視手段2で共振周波数範囲にモータ7の回転数が入ると判定されると、弾性係数制御手段22は、サスペンション3における弾性支持機構10の駆動源10aに指令を与え、弾性係数を変更させる。モータ7の回転速度が、前記サスペンション3の固有振動数と一致すると共振が生じ、搭乗者が不快に感じる程度の大きな振動となることがあるが、サスペンション3の弾性係数を変更することで、共振を回避でき、搭乗者が感じる程度の大きな振動となることが回避される。
【0010】
前記共振監視手段21は、前記共振周波数範囲として、モータロータ7bの回転速度およびこの回転速度の整数倍の周波数範囲である回転速度同期周波数範囲と、モータロータ7bのコギングトルクによって発生する電気的な振動に対応する周波数範囲であるコギングトルク対応周波数範囲とが設定され、前記回転速度同期周波数範囲およびコギングトルク対応周波数範囲のいずれかにモータ7の回転速度が入る場合に、前記共振周波数範囲に入ると判定するようにしても良い。
これにより、モータロータ7bのアンバランスに起因する機械的な振動と、モータ7のコギングトルクによる電気的な振動のいずれに起因する振動に対しても共振を回避し、搭乗者が感じる程度の大きな振動となることを防止できる。
【0011】
この発明において、前記ショックアブソーバ11が駆動源11aによって減衰力の変更が可能であり、前記共振監視手段21で前記共振周波数範囲にモータ7の回転数が入ると判定された場合に前記ショックアブソーバ11の前記駆動源11aに減衰力を変更させる指令を与える減衰力制御手段23を設けても良い。
ショックアブソーバ11の減衰力は、大きい方が振動低減の観点からは好ましいが、減衰力が大きいと、走行の安定性が得難いことがある。上記のように、共振周波数範囲にモータ7の回転数が入ると判定された場合に、ショックアブソーバ11の減衰力の変更、例えば減衰力の増大を行わせることで、常時はサスペンション3の減衰力を小さくして剛性を確保し、共振によって振動が生じたときだけ減衰力を大きくすることで、振動を低減させることができる。この発明では、共振するモータ回転速度となった場合に、上記のように弾性支持機構10の弾性係数を変化させて共振を回避するが、十分に回避できない場合がある。このように共振が十分に回避できなかった場合に、ショックアブソーバ11の減衰力の低下により、振動を吸収させ、搭乗者が感じる程度の振動となることを防止できる。
【0012】
この発明において、前記サスペンション3が設けられた車両の車速の信号、角加速度の信号、ブレーキ信号、操舵角信号、ショックアブソーバ3のストローク位置の信号のいずれか一つまたは複数の信号から、定められた変更不許可条件に該当するか否かを判定し、この変更不可条件に該当する場合は前記弾性係数制御手段10による制御を不許可とする走行状態対応不許可手段24を設けても良い。前記角加速度は、車両に生じるローリング、ピッチング、ヨーイング等の角加速度である。
一定速度での直線時は、車両にロール等の加速度は発生していないため、弾性係数を変化させても車両姿勢が乱れることはない。しかし、コーナリング中にはロールやヨーイング等の様々の力がかかっているため、弾性係数を大きく変化させた場合に車両姿勢が乱れるだけでなく、コースアウト等の恐れも生じる。そのため、車速やブレーキ操作、操舵角などから車両の条件を検出し、例えば、ある値以上の速度や角加速度の場合には弾性係数変更の制御を行わないようにすることで、車両姿勢が乱れることを防止できる。
【発明の効果】
【0013】
この発明のインホイールモータ車両用サスペンションシステムは、車輪を支持する車輪用軸受、モータ、およびこのモータの回転を車輪用軸受に伝える減速機を有するインホイールモータ装置と車体との間に介在したサスペンションに、弾性支持機構およびショックアブソーバを有するサスペンションシステムであって、前記弾性支持機構が駆動源によって弾性係数の変更が可能であり、前記インホイールモータ装置のモータの回転速度を検出するセンサと、このセンサで検出した前記モータの回転速度が、前記サスペンションの固有振動数と一致する範囲として定められた共振周波数範囲に入るか否かを監視する共振監視手段と、この共振監視手段で前記共振周波数範囲にモータの回転数が入ると判定された場合に前記弾性支持機構の駆動源に弾性係数を変更させる指令を与える弾性係数制御手段とを設けたため、インホイールモータ車両に特有の、モータロータのアンバランスに起因する機械的な振動に対する共振で、搭乗者が不快に感じる程度の大きな振動を生じることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の一実施形態に係るインホイールモータ車両用サスペンションシステムの概念構成を示すブロック図である。
【図2】同サスペンションシステムの動作の流れ図である。
【図3】インホイールモータ装置の一例の断面図である。
【図4】サスペンションの一例の正面図である。
【図5】弾性支持機構の一例の油圧回路図である。
【図6】ショックアブソーバの一例の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。このインホイールモータ車両用サスペンションシステムは、インホイールモータ装置1と車体2との間に介在したサスペンション3と、このサスペンション3の弾性係数および減衰率を制御するコントローラ4で構成される。
【0016】
インホイールモータ装置1は、例えば図3に示すように、車輪5を支持する車輪用軸受6と、モータ7と、このモータ7の回転を車輪用軸受6の回転側軌道輪に伝える減速機8とを有する。車輪用軸受6は、固定側軌道輪となる外方部材31と回転側軌道輪となる内方部材32の間に複列に転動体33を介在させたものであり、外方部材31のフランジに車輪6のリムが取付けられる。減速機8は、サイクロイド型の減速機や、遊星型の減速機等であり、例えば1/10以上の高減速比を有する。減速機8の回転は、車輪用軸受6の回転側軌道輪である内方部材32に伝達される。モータ7は、例えば、3相の埋め込み磁石型同期モータ等からなり、ステータ7aは円周方向に並ぶ複数のコイル巻線部で構成されるコイルを有する。前記コイル巻線部間であるスロットの個数が後述のスロット数である。モータ7のロータ7bは、円周方向に並ぶ複数の磁極を有する。モータ7には、そのロータ7bの回転速度を検出する回転速度センサ12が設けられている。これらモータ7および減速機8のハウジングは、互いに一体の、または互いに一体に固定されたインホイールモータハウウジング18を構成しており、車輪用軸受6の固定側軌道輪である外方部材31と一体に結合されている。
【0017】
図1において、サスペンション3は、インホイールモータ装置1を車体2に対して支持するアームやリンク機構等からなる支持部材9の他に、弾性支持機構10およびショックアブソーバ11を有する。サスペンション3の支持部材9は、任意の形式のもので良く、例えば、図4に示すように、上アーム9aと下アーム9bとを、それぞれ車体2とインホイールモータ装置1のインホイールモータハウウジング18とに結合したリンク機構とされる。弾性支持機構10およびショックアブソーバ11は、下アーム9bと車体2との間に設けられている。弾性支持機構10とショックアブソーバ11とは、図4に示すように互いに同心の内周部と外周部とに設けても良く、図1の模式図のように横並びに設けられていても良い。
【0018】
弾性支持機構10は、駆動源10aの駆動によって弾性係数の変更が可能なもの、すなわち電子的な制御で弾性係数の変更が可能なものである。弾性係数の変更を可能とした弾性支持機構10の形式は、例えば、図5と共に後述するエアスプリング形式であっても、また図示は省略するが、非線型等のコイルばねを用い、このコイルばねを支える位置をばね支持部材の移動や交換により変更することで、弾性係数であるばね定数を変更するものであっても良い。
【0019】
ショックアブソーバ11は、駆動源11aによって減衰力の変更が可能なもの、すなわち電子的な制御で減衰力の変更が可能なものである。減衰力の変更を可能とする形式は、図6と共に後述する磁性流体を電磁石で制御することで減衰力を変更するものであっても、また流体の絞り流路の絞りの程度や流路を変更するもの等であっても良い。
【0020】
コントローラ4は、例えばサスペンション3の制御専用のECU(電気制御ユニット)等からなり、マイクロコンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路等によって構成される。コントローラ4は、図1の上部に拡大してブロック図で示すように、その機能達成手段として、共振監視手段21、弾性係数制御手段22、減衰力制御手段23、および走行状態対応不許可手段24が構成されている。
【0021】
共振監視手段21は、モータ7の回転速度センサ12で検出された回転速度が、サスペンション3の固有振動数と一致する範囲として定められた共振周波数範囲に入るか否かを監視し、共振周波数範囲に入ったか否かの判定信号を出力する手段である。共振監視手段21に定める共振周波数範囲は、回転速度同期周波数範囲とコギングトルク対応周波数範囲との2つの範囲があり、そのいずれかの範囲にモータ7の回転速度が入る場合に共振周波数範囲に入ったと判定する。
【0022】
回転速度同期周波数範囲は、モータロータの回転速度およびこの回転速度の整数倍となる周波数を中心とし、これらの各周波数に近い範囲としてある程度の幅を任意に定めて持たせた範囲である。なお、この明細書で言う回転数は回転速度である。
コギングトルク対応周波数範囲は、モータロータのコギングトルクによって発生する電気的な振動に対応する周波数範囲であり、例えば、
(モータロータの回転数)×(磁極数とスロット数の最小公倍数)、
によって定まる周波数を中心とし、この周波数に近い範囲としてある程度の幅を任意に定めて持たせた範囲としても良い。
【0023】
弾性係数制御手段22は、共振監視手段21で前記共振周波数範囲にモータ7の回転数が入ると判定された場合に、弾性支持機構10の駆動源10aに弾性係数を変更させる指令を与える手段である。弾性係数の変更は、弾性係数を高くする変更であっても、低くする変更であっても良く、任意に定めておく。
【0024】
減衰力制御手段23は、共振監視手段21で前記共振周波数範囲にモータ7の回転数が入ると判定された場合に、ショックアブソーバ11の駆動源11aに減衰力を変更させる指令を与える手段である。減衰力の変更は、例えば減衰力の低下である。減衰力の変更の程度は、設計時等の適切な値を求めて任意に定めておく。
【0025】
走行状態対応不許可手段24は、前記サスペンション3が設けられた車両の車速の信号、角加速度の信号、ブレーキ信号、操舵角信号、ショックアブソーバ11のストローク位置の信号のうちの、いずれか一つまたは複数の信号から、定められた変更不許可条件に該当するか否かを判定し、この変更不可条件に該当する場合は弾性係数制御手段10による制御を不許可とする手段である。この実施形態では、走行状態対応不許可手段24は、前記変更不可条件に該当する場合に、減衰力制御手段23についても制御を不許可としている。
【0026】
前記車速の信号、操舵角信号、角加速度の信号は、車両に設けられた車速センサ15、操舵角センサ16、および加速度センサ17からそれぞれ得ている。ブレーキ信号は、ブレーキペダルの踏み込み量の検出用センサ、またはそのセンサ信号を取り込んで制御を行うECU(図示せず)等から得る。ショックアブソーバ11のストローク位置の信号は、ショックアブソーバ11にセンサ(図示せず)を取付けておいてそのストローク量から信号を得る。
【0027】
上記構成の動作を説明する。図2は、コントーラ4の処理の流れ図である。図1の共振監視手段21は、モータ7の回転数を監視し(図2のステップS1)、定められた共振周波数範囲内であるか否かの判定を行う(S2)。共振周波数範囲から外れている場合は、回転数検出(S1)と共振周波数範囲内が否かの判定(S2)を繰り返しを行う。
判定ステップS2で、共振周波数範囲内であると判定された場合は、走行状態対応不許可手段24により変更不許可条件に該当するか否かを判定し、該当する場合は、回転数の監視ステップS1に戻る。
【0028】
変更不許可条件に該当しない場合は、弾性係数制御手段22によって弾性支持機構10の弾性係数を変更し(S4)、さらに減衰力制御手段23によってショックアブソーバ11の減衰力を変更する(S5)。この変更は、例えば減衰力を低下させる変更とする。
【0029】
モータ7の回転速度が、前記サスペンション3の固有振動数と一致すると共振が生じ、搭乗者が不快に感じる程度の大きな振動となることがあるが、上記のようにサスペンション3の弾性係数を変更することで、共振を回避でき、搭乗者が感じる程度の大きな振動となることが回避される。
【0030】
この場合に、前記共振監視手段21は、前記共振周波数範囲として、モータロータ7bの回転速度およびこの回転速度の整数倍の周波数範囲である回転速度同期周波数範囲と、モータロータ7bのコギングトルクによって発生する電気的な振動に対応する周波数範囲であるコギングトルク対応周波数範囲とが設定してあり、前記回転速度同期周波数範囲およびコギングトルク対応周波数範囲のいずれかにモータ7の回転速度が入る場合に、前記共振周波数範囲に入ると判定する。
そのため、モータロータ7bのアンバランスに起因する機械的な振動と、モータ7のコギングトルクによる電気的な振動のいずれに起因する振動とのいずれに対しても共振を回避し、搭乗者が感じる程度の振動となることを防止できる。
【0031】
前記共振周波数範囲にモータ7の回転数が入ると判定された場合に、上記の弾性支持機構10の弾性係数の変更に加えて、ショックアブソーバ11の減衰力を変更させる。そのため、次の利点が得られる。すなわち、ショックアブソーバ11の減衰力は、大きい方が振動低減の観点からは好ましいが、減衰力が大きいと、走行の安定性が得難いことがある。上記のように、共振周波数範囲にモータ7の回転数が入ると判定された場合に、ショックアブソーバ11の減衰力の変更、例えば減衰力の増大を行わせることで、常時はサスペンション3の減衰力を小さくして走行安定性を確保し、共振によって振動が生じたときだけ減衰力を大きくすることで、振動を低減させることができる。
上記のように、共振するモータ回転速度となった場合に、弾性支持機構10の弾性係数を変化させて共振を回避するが、十分に回避できない場合がある。このように共振が十分に回避できなかった場合に、ショックアブソーバ11の減衰力の低下により、振動を吸収させ、搭乗者が感じる程度の振動となることを防止できる。
【0032】
また、走行状態対応不許可手段24により、車速、角加速度、ブレーキ信号、操舵角信号、ショックアブソーバ3のストローク位置等のいずれかから、定められた変更不許可条件に該当するか否かを判定し、該当する場合は弾性係数の変更や減衰力の変更を不許可とする。そのため、次の利点が得られる。
すなわち、一定速度での直線時は、車両にロール等の加速度は発生していないため、ばね定数等の弾性係数を変化させても車両姿勢が乱れることはない。しかし、コーナリング中にはロールやヨーイング等の様々の力がかかっているため、弾性係数を大きく変化させた場合に車両姿勢が乱れるだけでなく、コースアウト等の恐れも生じる。そのため、車速やブレーキ操作、操舵角などから車両の条件を検出し、例えば、ある値以上の速度や角加速度の場合には弾性係数変更の制御を行わないようにすることで、車両姿勢が乱れることを防止できる。
【0033】
図5は弾性係数制御手段22の具体例を示す。この弾性係数制御手段22は、エアスプリング10Aで構成される。シリンダ室51内に一部が進退自在に挿入されたラム52が、シリンダ室51内の空気圧によって弾性的に支持される。モータ53で駆動されるコンプレッサ54で圧縮された空気は、サプライバルブ55に導かれる。サプライバルブ55をオンオフすることで、エアスプリング10A内の空気流入が調整され、車高調整が行われる。エアスプリング10Aには別置きのサブタンク56が接続され、カットバルブ57のオンオフでシリンダ室51の容積を変えて、バネ定数が変化させられる。サブタンク56を大きくすれば、バネ定数変化は大きくなる。上記モータ53、コンプレッサ54、およびカットバルブ57が、図1の駆動源10aに該当する。バネ定数を変化させる場合は、カットバルブ57のオンオフを切り換える。
【0034】
図6はショックアブソーバ11の具体例を示す。この例は磁性流体を用いる形式である。ラム62の下端のピストン63で仕切られたシリンダ61の上下の油室64,65間に、絞り経路66を介して作動油が出入りすることで、減衰力が得られる。作動油には、磁性体を混ぜた磁性流体が用いられ、ピストン63内の電磁コイル67を介して作動油に電荷をかけることで、作動油そのものの流動抵抗を変化させ、減衰力を変化させる。この場合は、電磁コイル67が請求項で言う駆動源となる。
【符号の説明】
【0035】
1…インホイールモータ装置
2…車体
3…サスペンション
4…コントローラ
5…車輪
6…車輪用軸受
7…モータ
8…減速機
10…弾性支持機構
10a…駆動源
11…ショックアブソーバ
11a…駆動源
21…共振監視手段
22…弾性係数制御手段
23…減衰力制御手段
24…走行状態対応不許可手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を支持する車輪用軸受、モータ、およびこのモータの回転を車輪用軸受に伝える減速機を有するインホイールモータ装置と車体との間に介在したサスペンションに、弾性支持機構およびショックアブソーバを有するサスペンションシステムであって、
前記弾性支持機構が駆動源によって弾性係数の変更が可能であり、
前記インホイールモータ装置のモータの回転速度を検出するセンサと、
このセンサで検出した前記モータの回転速度が、前記サスペンションの固有振動数と一致する範囲として定められた共振周波数範囲に入るか否かを監視する共振監視手段と、
この共振監視手段で前記共振周波数範囲にモータの回転数が入ると判定された場合に前記弾性支持機構の駆動源に弾性係数を変更させる指令を与える弾性係数制御手段と、
を設けたことを特徴とするインホイールモータ車両用サスペンションシステム。
【請求項2】
請求項1において、前記共振監視手段は、前記共振周波数範囲として、モータロータの回転速度およびこの回転速度の整数倍の周波数範囲である回転速度同期周波数範囲と、モータロータのコギングトルクによって発生する電気的な振動に対応する周波数範囲であるコギングトルク対応周波数範囲とが設定され、前記回転速度同期周波数範囲およびコギングトルク対応周波数範囲のいずれかにモータの回転速度が入る場合に、前記共振周波数範囲に入ると判定するインホイールモータ車両用サスペンションシステム。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記ショックアブソーバが駆動源によって減衰力の変更が可能であり、前記共振監視手段で前記共振周波数範囲にモータの回転数が入ると判定された場合に前記ショックアブソーバの前記駆動源に減衰力を変更させる指令を与える減衰力制御手段を設けたインホイールモータ車両用サスペンションシステム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記サスペンションが設けられた車両の車速の信号、角加速度の信号、ブレーキ信号、操舵角信号、ショックアブソーバのストローク位置の信号のいずれか一つまたは複数の信号から、定められた変更不許可条件に該当するか否かを判定し、この変更不可条件に該当する場合は前記弾性係数制御手段による制御を不許可とする走行状態対応不許可手段を設けたインホイールモータ車両用サスペンションシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−95309(P2013−95309A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241108(P2011−241108)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】