説明

インホイールモータ駆動装置

【課題】組立時間の短縮化を図ることができるインホイールモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】インホイールモータ駆動装置21は、モータ部Aと、筒状の車輪ハブ32、車輪ハブの外周を包囲する円筒形状の外輪側部材22c、およびこれら車輪ハブの外周面と外輪側部材の内周面との間に形成される環状空間に設けられて車輪ハブを回転自在に支持する車輪ハブ軸受33を有する車輪ハブ軸受部ユニットと、一方側へ延びる出力軸28および他方側へ延びる入力軸25を有し入力軸の回転を減速して出力軸に伝達する減速機構であって、出力軸は車輪ハブ32の中心に挿通固定され、入力軸はモータ回転軸35に挿通固定される減速部ユニット101とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪のロードホイールの内空領域に配置されて車輪ハブを駆動するインホイールモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インホイールモータ駆動装置としては従来、例えば、特開2009−52630号公報(特許文献1)および特開2009−174593号公報(特許文献2)に記載のごときものが知られている。特許文献1および特許文献2に記載のインホイールモータ駆動装置は、駆動モータと、この駆動モータから駆動力を入力されて回転数を減速して車輪側に出力する減速機と、減速機の出力軸と結合する車輪のハブ部材とが同軸かつ直列に配置されている。この減速機はサイクロイド減速機構であり、従来の減速機として一般的な遊星歯車式減速機構と比較して高減速比が得られる。したがって、駆動モータの要求トルクを小さくすることができ、インホイールモータ駆動装置のサイズおよび重量を低減することができるという点で頗る有利である。
【0003】
ところで、特許文献1および特許文献2に記載のインホイールモータ駆動装置の製造組立にあっては、外方部材を、車輪ハブと車輪側回転部材とを拡径加締めによって連結固定して、車輪ハブ軸受の内輪を作製する。一方、車輪ハブ軸受の外輪を構成する外方部材を、減速部の外周を構成する円筒形状の減速部ケーシングの一方端面にボルトで固定する。次に、減速部ケーシングの他方端開口部から回転部材、2枚の曲線板、内ピン、外ピン等、各部材を所定の順序で挿入し、減速部の内部でこれら各部材を順次組み立てていく。
【0004】
次の組立工程では、減速部ケーシングの他方端面に円筒形状のモータ部ケーシングの一方端面を固定する。特許文献1に記載のモータ部は、軸線方向一方側および他方側にそれぞれステータを有するアキシャルギャップモータであるため、モータ部ケーシングの他方端開口部から、まず一方側ステータを挿入し、次にロータを挿入し、次に他方側ステータを挿入して、モータ部の内部でこれら各部材を順次組み立てていく。
【0005】
また特許文献2に記載のモータ部は、ラジアルギャップモータであるため、別途、所定の順序で、モータ部ケーシングの他方端開口部から各部材を挿入し、モータ部の内部でこれら各部材を順次組み立てていく。具体的には、減速部ケーシングの他方端面にモータ部ケーシングの一方端面を固定した後、モータ部ケーシングの他方端開口部から、まずステータを挿入して、ケーシングの内周面に当該ステータを固定する。次に、ロータを挿入して、ロータの回転軸を、減速部から突出する回転部材の端部に固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−52630号公報 (段落番号0043〜0044)
【特許文献2】特開2009−174593号公報 (段落番号0058〜0059)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
昨今、製造組立の効率化とコストの低減が強く求められつつある。しかしながら上記従来のようなインホイールモータ駆動装置の製造組立にあっては、以下の点において、改善すべき点がある。つまり、第1に、上記従来のようなインホイールモータ駆動装置の製造組立にあっては、1本の組立ライン上で、減速部およびモータ部の各部材を1部品ずつ順次組み立てなければならず、製造組立に多大な時間を要し、組立の効率化を図ることが困難である。このため、組立時間の点から改善すべき余地があった。
【0008】
第2に、特許文献2に記載のインホイールモータ駆動装置においては、ロータを挿入する際にステータとロータとが吸引し合うため、ロータが軸線に対し傾いてしまうことがないよう、傾きを修正しながら組み立てなければならない。このため、ロータの取付作業の省力化の点から改善すべき余地があった。
【0009】
第3に、特許文献2に記載のインホイールモータ駆動装置においては、モータ部ケーシングの一方端および他方端で軸受を介してロータの両端を両持ち支持することから、両端の軸受をロータの軸線に正確に一致するよう配置しなければならない。したがって、モータ部ケーシングの一方端で軸受の外輪を支持する円盤形状のポンプケーシングと、モータ部ケーシングの他方端で軸受の外輪を支持する円盤形状のリヤカバーとを仮組立して両端の軸受を同時に組み立てなければならず、組立および加工コストが高価になる。このため、ロータ回転軸を支持する軸受の取付作業の効率化の点から改善すべき余地があった。
【0010】
本発明は上述の実情に鑑み、第1に、組立時間の短縮化を図ることができるインホイールモータ駆動装置を提供することを目的とする。第2に、ロータが傾くことなく組み立てることができるインホイールモータ駆動装置を提供することを目的とする。第3に、モータ回転軸の両端部に軸受をそれぞれ取り付けるに際し、容易かつ精度よく、これら軸受を軸線に一致させることができるインホイールモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のため本発明によるインホイールモータ駆動装置は、軸線方向一方側へ延びる筒状のモータ回転軸を有するモータ部と、筒状の車輪ハブ、車輪ハブの外周を包囲する円筒形状の外輪側部材、およびこれら車輪ハブの外周面と外輪側部材の内周面との間に形成される環状空間に設けられて車輪ハブを回転自在に支持する車輪ハブ軸受を有する車輪ハブ軸受部ユニットと、一方側へ延びる出力軸および他方側へ延びる入力軸を有し入力軸の回転を減速して出力軸に伝達する減速機構であって、出力軸は筒状の車輪ハブの中心に挿通固定され、入力軸は筒状のモータ回転軸の軸線方向一方端に挿通固定される減速部ユニットとを備える。
【0012】
かかる本発明によれば、減速部ユニットを備えることから、減速部ユニットをアッセンブリとして、インホイールモータ駆動装置の組立ラインとは別のラインで組み立てることが可能となる。したがって、インホイールモータ駆動装置の組立ラインで車輪ハブ軸受部ユニットを組み立てながら、別の組立ラインで減速部ユニットを組み立て、次にインホイールモータ駆動装置の組立ラインで車輪ハブ軸受部ユニットと減速部ユニットとを連結することが可能となり、組立時間の短縮化を図ることができる。なおインホイールモータ駆動装置は空冷式であってもよいし、水冷式であってもよい。
【0013】
また本発明によれば、車輪ハブおよび車輪ハブ軸受が、アッセンブリになる車輪ハブ軸受部ユニットの部品であることから、特許文献1および特許文献2に記載のインホイールモータ駆動装置のごとき拡径加締めによって車輪ハブ軸受の内輪を作製する必要がなくなる。したがって、車輪ハブ軸受部ユニットと減速部ユニットを別々の組立ラインで同時平行に組み立てることができる。
【0014】
本発明のインホイールモータ駆動装置において、モータ部に含まれるロータの組み立ては、インホイールモータ駆動装置の組立ラインで一部品ずつ順次組み立ててもよいが、好ましくはロータの組み立ても別のラインで組み立てるとよい。本発明の一実施形態として、モータ部は、モータ部の外郭を形成するモータ部ケーシングと、モータ部ケーシングの内周に固定されるステータと、モータ回転軸およびモータ回転軸の外周に固定されるロータを有し、モータ部ケーシングの内部空間に配置されてステータと対面するロータユニットとを含む。
【0015】
かかる実施形態によれば、ロータユニットを含むことから、ロータユニットをアッセンブリとして、インホイールモータ駆動装置の組立ラインとは別のラインで組み立てることが可能となる。したがって、インホイールモータ駆動装置の組立ラインで車輪ハブ軸受部ユニットと減速部ユニットとを連結する一方、別の組立ラインでロータユニットを組み立て、次にインホイールモータ駆動装置の組立ラインで減速部ユニットとロータユニットとを連結することが可能となり、組立時間の短縮化を図ることができる。なお別の製造方法として、まず減速部ユニットとロータユニットとを連結し、次に車輪ハブ軸受部ユニットと減速部ユニットとを連結してもよい。
【0016】
本発明のロータユニットは様々な実施形態があり、一実施形態としてロータユニットは、モータ回転軸の軸線方向一方端部に取り付けられるとともに、モータ部ケーシングまたは減速部ユニットを収容する減速部ケーシングに連結固定されて、モータ回転軸を回転自在に支持するモータ回転軸支持部材をさらに有する。かかる実施形態によれば、ロータユニットが、モータ回転軸の軸線方向一方端部に取り付けられるモータ回転軸支持部材をさらに有することから、ステータよりも先にロータユニットをモータ部ケーシングの内部に取付固定してロータを回転自在に支持することが可能になる。したがって、ロータが傾くことなくモータ部を組み立てることができる。これにより、ロータの取付作業の省力化を図ることができる。
【0017】
モータ回転軸支持部材は、ブラケット部材であってもよいし、ケーシング内空領域に架設されて軸線直角方向に延びる部材であってもよい。好ましくは、モータ回転軸支持部材は、減速部ケーシングの内部空間とモータ部ケーシングの内部空間とを区画する隔壁と、隔壁の中心に形成されてモータ回転軸の軸線方向一方端部が貫通する中心孔に設けられてモータ回転軸を回転自在に支持するモータ部軸受とを有する。
【0018】
より好ましくは、隔壁は、軸線方向に延びて中心孔を形成する管状部と、管状部の軸線方向一方端に形成されてケーシングの内側に固定される隔壁本体とを有し、モータ部軸受は、管状部の両端部にそれぞれ配設される。かかる実施形態によれば、モータ回転軸が隔壁の中心孔の軸線方向両端部においてモータ部軸受を介して回転自在に両持ち支持されることから、組立作業中これらモータ部軸受は隔壁の管状部によって軸線に正確に一致するよう容易に位置決めされる。したがって、容易かつ精度よく、ロータ回転軸両端部のモータ部軸受を軸線に一致させることが可能となり、モータ部軸受の取付作業の効率化を図ることができる。
【0019】
本発明のインホイールモータ駆動装置に取り付けられる隔壁は、ケーシング内で減速部とモータ部とを区画するものであるが、単なる壁部材であってもよく、あるいは減速部ユニットに駆動されて潤滑油を吐出するオイルポンプが付設されてもよい。ここで好ましくは、オイルポンプから吐出された潤滑油を流す吐出油路およびオイルポンプに潤滑油を供給する吸入油路を隔壁表面または隔壁内部に設ける。
【0020】
本発明のケーシングは、モータ部ケーシングと減速部ケーシングと外輪側部材とをそれぞれ別体で製作し、これらをボルトなどの所定の連結部材で連結固定するものであってもよいが、好ましくは、車輪ハブ軸受部ユニットの外輪側部材は軸線方向一方側に配置され、減速部ケーシングとモータ部ケーシングは一体結合して減速部モータ部共通ケーシングを構成し、該減速部モータ部共通ケーシングは軸線方向他方側に配置され、これら双方のケーシングは所定の連結部材で連結固定される。かかる実施形態によれば、減速部ケーシングとモータ部ケーシングとが一体結合する減速部モータ部共通ケーシングを有することから、組立ライン上で減速部ケーシングとモータ部ケーシングとを連結固定する工数を省略することができ、作業効率が向上する。また、減速部ユニットとモータ部との位置ずれ公差を管理する必要がなくなり、ケーシング内周にステータを取り付ける際、精度よく取り付けることができる。
【0021】
本発明は一実施形態に限定されるものではないが、車輪ハブ軸受部ユニットの外輪側部材と減速部ケーシングは一体結合して車輪ハブ軸受部減速部共通ケーシングを構成し、該車輪ハブ軸受部減速部共通ケーシングは軸線方向一方側に配置され、モータ部ケーシングは軸線方向他方側に配置され、これら双方のケーシングは所定の連結部材で連結固定されてもよい。かかる実施形態によれば、外輪側部材と減速部ケーシングとが一体結合する外輪側部材減速部共通ケーシングを有することから、組立ライン上で外輪側部材と減速部ケーシングとを連結固定する工数を省略することができ、作業効率が向上する。また、車輪ハブ軸受部ユニットと減速部ユニットとの位置ずれ公差を管理する必要がなくなる。
【0022】
好ましくは、車輪ハブ軸受部ユニットの外輪側部材、減速部ケーシング、およびモータ部ケーシングは互いに一体結合してインホイールモータ共通ケーシングを構成する。かかる実施形態によれば、外輪側部材と減速部ケーシングとモータ部ケーシングとが一体結合するインホイールモータ共通ケーシングを有することから、組立ライン上で各部ケーシングを連結固定する工数を省略することができ、作業効率が向上する。また、各ユニット間の位置ずれ公差を管理する必要がなくなる。
【0023】
好ましくは、モータ部は、モータ部の外郭を形成するモータ部ケーシングの端部に取り付けられて、モータ部の内部空間を外界から遮断保護する軽合金製リヤカバーをさらに含む。かかる実施形態によれば、インホイールモータ駆動装置の軽量化を図ることができる。なお、軽合金製とは、アルミニウム合金が考えられる。より好ましくはマグネシウム合金が考えられる。
【0024】
好ましくは、減速部ユニットは、入力軸の一方端部に設けられる円盤形状の偏心部と、偏心部の外周に相対回転自在に取り付けられて入力軸の回転軸心を中心とする公転運動を行う公転部材と、公転部材の外周部に係合して公転部材の自転運動を生じさせる外周係合部材と、公転部材の外周を包囲する円筒形状であって外周係合部材を保持しモータ部の外郭を形成するモータ部ケーシングまたは減速部ユニットを収容する減速部ケーシングまたは外輪側部材に連結固定される外周係合部材保持部材と、出力軸および公転部材に跨って配設され公転部材の自転運動を取り出して出力軸に伝達する運動変換機構とをさらに有する。かかる実施形態によれば、減速部にサイクロイド減速機構を採用することから、遊星歯車組よりも減速の度合いを大きくすることが可能となる。したがってモータ部に高回転型のモータを採用することができる。
【発明の効果】
【0025】
このように本発明は、筒状の車輪ハブおよび車輪ハブの外周を包囲する円筒形状の外輪側部材を有し車輪ハブを回転自在に支持する車輪ハブ軸受部ユニットと、一方側へ延びる出力軸および他方側へ延びる入力軸を有し出力軸は筒状の車輪ハブの中心に挿通固定される減速部ユニットとを備えることから、車輪ハブ軸受部を1個のアッセンブリにし、減速部を別のアッセンブリにすることが可能になる。したがって、インホイールモータ駆動装置の組立ラインで車輪ハブ軸受部ユニットを組み立てつつ、別の組立ラインで減速部ユニットを組み立てることが可能となり、組立ラインを平行に複数化し組立時間の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施例になるインホイールモータ駆動装置を示す縦断面図である。
【図2】同実施例の減速部を示す横断面図である。
【図3】同実施例のポンプケーシングを取り出して示す正面図である。
【図4】同実施例の減速部ユニットを取り出して示す縦断面図である。
【図5】同実施例のロータユニットを取り出して示す縦断面図である。
【図6】同実施例のリヤカバーを取り出して示す正面図である。
【図7】本発明の変形例になるインホイールモータ駆動装置を示す縦断面図である。
【図8】本発明の他の実施例になるインホイールモータ駆動装置を示す縦断面図である。
【図9】本発明のさらに他の実施例になるインホイールモータ駆動装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施例になるインホイールモータ駆動装置を示す縦断面図である。図2は、同実施例の減速部を示す横断面図である。図3は、同実施例のポンプケーシングを取り出して示す正面図である。図4は、同実施例の減速部ユニットを取り出して示す縦断面図である。図5は、同実施例のロータユニットを取り出して示す縦断面図である。図6は、同実施例のリヤカバーを取り出して示す正面図である。
【0028】
車輪のロードホイール内空領域に配置されて、当該車輪を駆動するインホイールモータ駆動装置21は、駆動力を発生させるモータ部Aと、モータ部Aの回転を減速して出力する減速部Bと、減速部Bからの出力を図示しない車輪に伝える車輪ハブ軸受部Cとを備える。そして、モータ部A、減速部B、車輪ハブ軸受部Cの順に直列かつ同軸に配置される。インホイールモータ駆動装置21は、例えば電気自動車またはハイブリッド駆動車両のホイールハウジング内に取り付けられる。
【0029】
モータ部Aは、外郭を形成する共通ケーシング22abと、共通ケーシング22abに固定されるステータ23と、ステータ23の内側に径方向に開いた隙間を介して対面する位置に配置されるロータ24と、ロータ24の内側に固定連結されてロータ24と一体回転するモータ回転軸35とを有するラジアルギャップモータである。
【0030】
共通ケーシング22abは、円筒形状であり、軸線O方向一方端部(図1の左方)の減速部Bと軸線O方向他方端部(図1の右方)のモータ部Aとに跨って位置する。そして減速部Bの内周面を小径とされ、モータ部Aの内周面を大径とされ、これらの間に環状段差37が形成される。すなわち共通ケーシング22abは、軸線O方向一方端部(図1の左方)で減速部Bの外郭を形成するとともに軸線O方向他方端部(図1の右方)でモータ部Aの外郭を形成するモータ部減速部共通ケーシングである。共通ケーシング22abの内周はモータ部Aでステータ23を支持する。モータ部Aと減速部Bは、共通ケーシング22abの軸線O方向中央部に配設された隔壁38によって区画されている。
【0031】
隔壁38は、軸線O方向に延びてモータ回転軸35が貫通する管状部38pと、管状部38pの軸線方向一方端に形成された円盤形状の隔壁本体38wとを有する。隔壁本体38wの外径は、共通ケーシング22abのモータ部Aにおける内径と略等しい。隔壁本体38wの外周部には、ボルトを挿通するための孔38hが、周方向等間隔に形成される。孔38hにボルト64を挿通して環状段差37に螺合することにより、隔壁38は共通ケーシング22abの内壁面に取付固定される。隔壁38の下部には、モータ部Aの内空領域の下部と、減速部Bの下部に設けられるオイル溜まり53とを連絡する切り欠き部63が形成される。
【0032】
管状部38pの両端部には転がり軸受36a,36bが設けられる。かくしてモータ回転軸35は、モータ部Aの内部に配設され、軸線O上で異なる2個所で回転自在に両持ち支持される。
【0033】
管状部38pの両端から突出するモータ回転軸35の両端部のうち、減速部B側の一方端は、入力軸25に連結固定される。またモータ回転軸35の他方端部の外周には、ロータ24が固定される。
【0034】
共通ケーシング22abの軸線O方向他方端の開口61は円盤形状のリヤカバー39によって封止される。リヤカバー39は軽合金製であり、アルミニウム合金あるいはマグネシウム合金である。アルミニウム合金およびマグネシウム合金は、ともに略同等の引張強度290[MPa]を有する。また、アルミニウム合金の比重は2.67である。これに対し、マグネシウム合金の比重は1.78である。このため、リヤカバー39をマグネシウム合金製とすることにより、一層の軽量化を図ることができる。
【0035】
共通ケーシング22abのうちモータ部Aに含まれるケーシングの内径寸法は、隔壁38の外径寸法と同等以上である。そして開口61の内径寸法も、隔壁38の外径寸法と同等以上である。したがって、開口61から隔壁38を軸線方向一方へ向けて挿入することができる。
【0036】
減速部Bは、外郭を形成する共通ケーシング22abと、モータ回転軸35に連結固定される入力軸25と、入力軸25の回転を減速して出力する出力軸28とを有し、モータ部Aの軸線O方向一方に配置される。具体的には、減速部Bはサイクロイド減速機構である。減速部Bの入力軸25は、軸線Oに沿って延び、モータ部A側へ突出して、突出端がモータ回転軸35の軸線方向一方端に連結固定される。モータ部Aのモータ回転軸35および減速部Bの入力軸25は、一体回転することから、モータ側回転部材とも称する。モータ部Aとは反対側に位置する入力軸25の一方端部は、減速部B内で転がり軸受36cによって支持される。
【0037】
入力軸25の外周には、2枚の円盤形状の偏心部材25a,25bが固定される。モータ回転軸35および入力軸25はインホイールモータ駆動装置21の回転軸線Oと一致して延在するが、偏心部材25a,25bの中心は軸線Oと一致しない。さらに、2つの偏心部材25a,25bは、偏心運動による遠心力で発生する振動を互いに打ち消し合うために、180°位相を変えて設けられている。
【0038】
偏心部材25a,25bの外周には、公転部材としての曲線板26a,26bがそれぞれ回転自在に保持される。波状に屈曲した形状である曲線板26a,26bの外周部は、外周係合部材としての複数の外ピン27が係合する。外ピン27の両端は針状ころ軸受27aを介して、外ピン保持部材45に回転自在に取り付けられる。外周係合部材保持部材としての外ピン保持部材45は曲線板26a,26bの外周を包囲する円筒形状であり、外ピン27を軸線Oと平行に保持する。外ピン保持部材45の外周面は共通ケーシング22abの減速部Bにおける内周面に取付固定される。共通ケーシング22abは、軸線O方向一方側(図1の左方)で円筒形状の外輪側部材22cに連結固定される。
【0039】
共通ケーシング22abの軸線O方向一方側を占める減速部ケーシング(減速部Bの部分)につき説明すると、減速部ケーシングの軸線O方向一方端に内向きフランジ部22uが形成され、減速部ケーシングの軸線O方向他方端に開口66が形成される。減速部ケーシングの内径寸法は、外ピン保持部材45の外径寸法と略同じである。したがって、開口66から外ピン保持部材45を軸線方向一方へ向けて挿入することができる。
【0040】
減速部Bの出力軸28は、回転軸線Oに一致して減速部Bから軸線O方向一方へ突出して車輪ハブ軸受部Cまで延在し、フランジ部28aと軸部28bとを有する。減速部Bに配置されるフランジ部28aの端面には、出力軸28の回転軸線Oを中心とする円周上の等間隔に内ピン31を固定する穴が形成されている。車輪ハブ軸受部Cに配置される軸部28bの外周面には、車輪ハブ32が連結固定されている。減速部Bの出力軸28および車輪ハブ軸受部Cの車輪ハブ32は、一体回転することから、車輪側回転部材とも称する。フランジ部28aに植設された内ピン31は、軸線O方向他方へ向かって突出し、先端部が曲線板26a,26bの径方向中央領域と係合する。フランジ部28aの中心穴28cは、入力軸25の一方端部を受け入れるとともに、転がり軸受36cを介して入力軸25の一端を相対回転自在に支持する。
【0041】
図2を参照して、曲線板26bは、外周部にエピトロコイド等のトロコイド系曲線で構成される複数の波形を有し、一方側端面から他方側端面に貫通する複数の貫通孔30a,30bを有する。貫通孔30aは、曲線板26bの自転軸心を中心とする円周上に等間隔に複数個設けられており、曲線板26bの外周縁と内周縁との間になる径方向中央領域に形成されて、後述する内ピン31を受入れる。また、貫通孔30bは、曲線板26bの中心(自転軸心)に設けられており、曲線板26bの内周になる。曲線板26bは、偏心部材25bの外周に相対回転可能に取り付けられる。
【0042】
すなわち曲線板26bは、転がり軸受41によって偏心部材25bに対して回転自在に支持されている。この転がり軸受41は、内周面が偏心部材25bの外周面に嵌合し、外周面に内側軌道面42aを有する内輪部材42と、曲線板26bの貫通孔30bの内周面に直接形成された外側軌道面43と、内側軌道面42aおよび外側軌道面43の間に配置される複数の円筒ころ44と、周方向で隣り合う円筒ころ44の間隔を保持する保持器(図示省略)とを備える円筒ころ軸受である。あるいは深溝玉軸受であってもよい。内輪部材42は、円筒ころ44が転走する内輪部材42の内側軌道面42aを軸線方向に挟んで向かい合う1対の鍔部をさらに有し、円筒ころ44を1対の鍔部間に保持する。曲線板26aについても同様である。
【0043】
外ピン27は、入力軸25の回転軸線Oを中心とする仮想円上に等間隔に設けられる。外ピン27は、軸線Oと平行に延び、その両端が、減速部Bを収容する共通ケーシング22abの内壁面に嵌合固定されている外ピン保持部材45に保持されている。より具体的には、外ピン27の軸線O方向両端部が、外ピン保持部材45に取り付けられた針状ころ軸受27aによって回転自在に支持されている。
【0044】
曲線板26a,26bが入力軸25の回転軸線Oを中心に公転運動すると、曲線形状の波形と外ピン27とが係合して、曲線板26a,26bに自転運動を生じさせる。また外ピン27の両端に設けられた針状ころ軸受27aにより、外ピン27が曲線板26a,26bの外周面に当接する際、曲線板26a,26bとの摩擦抵抗が低減される。
【0045】
運動変換機構は、出力軸28のフランジ部28aに植設された内側係合部材としての複数の内ピン31と、曲線板26a,26bに設けられた貫通孔30aとで構成される。内ピン31は、出力軸28の回転軸線Oを中心とする仮想円上に等間隔に設けられており、出力軸28の軸線と平行に延び、内ピン31の基端が出力軸28に固定されている。また内ピン31の外周には中空円筒体および針状ころからなる針状ころ軸受31aが設けられている。かかる針状ころ軸受31aにより、内ピン31が曲線板26a,26bの貫通孔30aの内周面に当接する際、曲線板26a,26bとの摩擦抵抗が低減される。
【0046】
内ピン31の先端には、内ピン31を補強する内ピン補強部材31bが圧入で連結固定されている。内ピン補強部材31bは、複数の内ピン31先端同士を連結する円環形状のフランジ部31cと、フランジ部31cの内径部と結合し内ピン31から離れるよう軸線方向に延びる円筒形状の筒状部31dとを含む。複数の内ピン31を補強する内ピン補強部材31bは、曲線板26a,26bから一部の内ピン31に負荷された荷重を全ての内ピン31に均一に分散する。
【0047】
内ピン31は、曲線板26a,26bのうち外周部と入力軸25の軸線との間の径方向部位に設けられた貫通孔30aを貫通する。貫通孔30aは、複数の内ピン31それぞれに対応する位置に設けられる。また、貫通孔30aの内径寸法は、内ピン31の外径寸法(「針状ころ軸受31aを含む最大外径」を指す。以下同じ。)より所定分大きく設定されている。したがって、曲線板26a,26bに設けられた貫通孔30aを貫通して延びる内ピン31は、貫通孔30aとそれぞれ係合する内側係合部材になる。
【0048】
筒状部31dは、隔壁38に付設された潤滑油ポンプ51を駆動結合する。複数の内ピン31が出力軸28とともに回転すると、内ピン31に連結された筒状部31dが潤滑油ポンプ51を駆動する。かくしてケーシング22の内部に設けられる潤滑油ポンプ51は、モータ部Aの出力によって駆動され、インホイールモータ駆動装置21の内部に潤滑油を循環させる。
【0049】
隔壁38の隔壁本体38wに設けられた吸入油路52は、潤滑油ポンプ51の吸入口から下方へ向かって延び、下端の吸入油路入口52iが、減速部Bの下部に設けられたオイル溜まり53とを接続する。また隔壁本体38wに設けられた吐出油路54は、一端で潤滑油ポンプ51の吐出口と接続し、他端で共通ケーシング22abのモータ部Aの位置に設けられたケーシング油路55の一端と接続する。
【0050】
ケーシング油路55は、共通ケーシング22abのうちモータ部Aの外周を形成する中空円筒壁の壁内部に形成されている。図1に示す実施例は、水冷式インホイールモータ駆動装置であることから、モータ部Aにおける共通ケーシング22abにはさらに、冷却水が流れる冷却水路62が形成されている。冷却水路62は冷却水入口62iおよび冷却水出口62oを備え、冷却水入口62iから冷却水が供給される。温度上昇した冷却水は冷却水出口62iから流れ出るため、冷却水路62は低温の冷却水で満たされている。これにより冷却水路62はモータ部Aを冷却し、モータ部Aのケーシング油路55を流れる潤滑油は冷やされる。またケーシング油路55の他端は、連絡油路56の外径側端と接続する。
【0051】
連絡油路56は、共通ケーシング22の軸線O方向他端を封止するリヤカバー39の内部に形成されている。連絡油路56の内径側端は、モータ回転軸35に設けられるモータ回転軸油路57と接続する。なお、連絡油路56の内径側端には、リング形状のシール部材56sが軸線Oと同軸に付設されている。シール部材56sは、高速回転するモータ回転軸35の端部外周面を液密に包囲する。
【0052】
モータ回転軸油路57は、モータ回転軸35の内部に設けられて軸線Oに沿って延びる。そして、モータ回転軸油路57の両端のうち減速部Bに近い側の一端が、入力軸25に設けられて軸線に沿って延びる減速部入力軸油路58と接続する。また、減速部Bから遠い側の他端が、上述した連絡油路56の内径側端と接続する。さらにモータ回転軸油路57は軸線方向中央部でロータ油路59の内径側端と接続する。
【0053】
減速部入力軸油路58は、入力軸25の内部に設けられて軸線Oに沿って延び、フランジ部28aと対向する入力軸25の一端まで貫通する。また、減速部入力軸油路58は、偏心部材25a内を径方向外側に向かって延びる潤滑油路58aと、偏心部材25b内を径方向外側に向かって延びる潤滑油路58bとに分岐する。潤滑油路58a,58bの径方向外側端は、転がり軸受41の内側軌道面42aと連通する。
【0054】
ロータ油路59は、モータ回転軸油路57から分岐する油路であり、ロータ24の内部に分岐して設けられる。分岐する一方のロータ油路59の外径側端は、隔壁本体38wへ指向する。分岐する他方のロータ油路59の外径側端は、リヤカバー39へ指向する。
【0055】
補強部材31bを介して出力軸28によって駆動される潤滑油ポンプ51は、吸入油路52を介してオイル溜まり53に貯留した潤滑油を吸入し、吐出油路54に潤滑油を吐出する。吐出油路54からケーシング油路55に流れる潤滑油は、ケーシング油路55を流れる際に冷やされる。
【0056】
次に潤滑油は、連絡油路56と、モータ回転軸油路57と、減速部入力軸油路58とを順次通過し、潤滑油路58a、58bとにそれぞれ分岐して流れ、偏心部材25aに設けられた転がり軸受41と、偏心部材25bに設けられた転がり軸受41とをそれぞれ潤滑する。潤滑油は遠心力の作用によって外径方向へ流れ、さらに曲線板26a,26bと、内ピン31と、外ピン27とを順次潤滑する、かかる軸心給油により潤滑油は、減速部Bの内部を好適に潤滑する。そして、減速部Bの下部に設けられたオイル溜まり53に集まる。かくして潤滑油はモータ部Aおよび減速部Bを循環して流れる。
【0057】
またモータ回転軸油路57から分岐してロータ油路59を流れる潤滑油は、まずロータ24を冷却し、次に隔壁本体38wと衝突してステータ24に達しステータ24を冷却する。同時にリヤカバー39と衝突してステータ24に達しステータ24を冷却する。その後、潤滑油は、モータ部Aの内空領域下部に落下し、切り欠き部63を通過して減速部Bの下部に設けられたオイル溜まり53に集まる。かくして分岐した潤滑油もモータ部Aおよび減速部Bを循環して流れる。
【0058】
車輪ハブ軸受ユニットCは、出力軸28に固定連結される車輪ハブ32と、車輪ハブ32の外周を包囲するする外輪側部材22cと、車輪ハブ32の外周面と外輪側部材22cの内周面との間に形成される環状空間に設けられて車輪ハブ32を回転自在に支持する車輪ハブ軸受33とを有する。また、車輪ハブ軸受ユニットCは、減速部Bの軸線方向一方に配置される。これにより、モータ部A、減速部B、および車輪ハブ軸受ユニットCは、軸線Oに沿って同軸かつ直列に順次配置される。
【0059】
車輪ハブ軸受33は複列アンギュラ玉軸受であって、その内輪が車輪ハブ32の外周面に嵌合固定される。車輪ハブ軸受33の外輪は、円筒形状の外輪側部材22cの内周面に嵌合固定される。車輪ハブ32は、出力軸28の一方端と結合する円筒形状の中空部32aと、減速部Bから遠い側の端部に形成されるフランジ部32bとを有する。フランジ部32bにはボルト32cによって図示しない車輪のロードホイールが固定連結される。
【0060】
上記構成のインホイールモータ駆動装置21の作動原理を詳しく説明する。
【0061】
モータ部Aは、例えば、ステータ23のコイルに交流電流を供給することによって生じる電磁力を受けて、永久磁石または磁性体によって構成されるロータ24が回転する。
【0062】
これにより、ロータ24に接続されたモータ回転軸35は回転を出力し、モータ回転軸35および入力軸25が回転すると、曲線板26a,26bは入力軸25の回転軸線Oを中心として公転運動する。このとき、外ピン27が、曲線板26a,26bの曲線形状の波形と転がり接触するよう係合して、曲線板26a,26bを入力軸25の回転とは逆向きに自転運動させる。
【0063】
貫通孔30aに挿通される内ピン31は、貫通孔30aの内径よりも十分に細く、曲線板26a,26bの自転運動に伴って貫通孔30aの孔壁面と当接する。これにより、曲線板26a,26bの公転運動が内ピン31に伝わらず、曲線板26a,26bの自転運動のみが出力軸28を介して車輪ハブ軸受部Cに伝達される。かくして、貫通孔30aおよび内ピン31は運動変換機構としての役目を果たす。
【0064】
この運動変換機構を介して、入力軸25と同軸に配置された出力軸28は、曲線板26a,26bの自転を減速部Bの出力として取り出す。この結果、入力軸25の回転が減速部Bによって減速されて出力軸28に伝達される。したがって、低トルク、高回転型のモータ部Aを採用した場合でも、車輪に必要なトルクを伝達することが可能となる。
【0065】
なお、上記構成の減速部Bの減速比は、外ピン27の数をZ、曲線板26a,26bの波形の数をZとすると、(Z−Z)/Zで算出される。図2に示す実施例では、Z=12、Z=11であるので、減速比は1/11と、非常に大きな減速比を得ることができる。
【0066】
このように、多段構成とすることなく大きな減速比を得ることができるサイクロイド減速機構を減速部Bに採用することにより、コンパクトで高減速比のインホイールモータ駆動装置21を得ることができる。
【0067】
次に、上記構成のインホイールモータ駆動装置21の製造方法につき説明する。
【0068】
まず、車輪ハブ付ケーシング準備工程では、外輪側部材22cの軸線O方向一方端に車輪ハブ軸受33を挿通し、車輪ハブ軸受33を介して車輪ハブ32を外輪側部材22cに取り付ける。そして、外輪側部材22cの他方端に形成されたフランジ部22fを、共通ケーシング22abの一方端に形成された内向きフランジ部22uに突き当てて、これらケーシングを仮組しておく。この車輪ハブ付ケーシングは、インホイールモータ駆動装置21の組立ラインで組み立てられる。
【0069】
上記の車輪ハブ付ケーシング準備工程とは別に、減速部ユニット準備工程では、図4に示す減速部ユニット101を準備する。減速部ユニット101は、一方側に入力軸25が配設され、他方側に出力軸28が配設され、入力軸25の回転を減速して出力軸28に伝達する減速部Bの構成部材、すなわち偏心部25a,25b、曲線板26a,26b、内ピン31、針状ころ軸受31a、外ピン27、針状ころ軸受27a、および外ピン保持部材45、がこれら入力軸25と出力軸28との間に配設される。減速部ユニット101は、インホイールモータ駆動装置21の組立ラインとは別の組立ラインで組み立てられる。
【0070】
ここで付言すると、外ピン保持部材45の軸線方向両端には、内向きフランジ部46がそれぞれ形成されている。内向きフランジ部46は、外ピン27の両端をそれぞれ支持する。また、出力軸28に近い側の内向きフランジ部46には、雌ねじ部47が設けられる。
【0071】
次の減速部ユニット取付工程では、共通ケーシング22abの軸線O方向他方端の開口61から減速部ユニット101を軸線O方向一方へ挿入し、車輪ハブ32の中空部32aに減速部ユニット101の出力軸28を連結固定する。そして、外ピン保持部材45の一方側の内向きフランジ部46を共通ケーシング22abの一方側の内向きフランジ部22uに突き当てる、外輪側部材22cのフランジ部22f側からボルト65を挿入し、ボルト65の先端部を雌ねじ部47に螺合する。これにより外輪側部材22cと、共通ケーシング22abと、外ピン保持部材45を連結固定する。かくして、減速部ユニット101をケーシングの内部空間に取り付ける、この減速部ユニット取付工程は、インホイールモータ駆動装置21の組立ラインで行われる。
【0072】
ここで付言すると、所定の連結部材になるボルト65は、外輪側部材22cの他方端に形成されたフランジ部22fおよび共通ケーシング22abの一方端に形成された内向きフランジ部22uを貫通して、外輪側部材22cと共通ケーシング22abを連結固定する。
【0073】
次のモータ部組立工程では、共通ケーシング22abの軸線O方向他方端の開口61から隔壁38、モータ回転軸35、ロータ24、ステータ23等を軸線O方向一方へ挿入してモータ部Aを組み立てる。このモータ部組立工程は、インホイールモータ駆動装置21の組立ラインで行われる。
【0074】
次のモータ部封止工程では、共通ケーシング22abの軸線O方向他方端に形成された開口61を、軽合金製リヤカバー39で封止してモータ回転軸35を外界から遮断保護する。このモータ部封止工程は、インホイールモータ駆動装置21の組立ラインで行われる。
【0075】
かかる製造方法によれば、減速部ユニット101を準備する減速部ユニット準備工程を含むことから、減速部ユニット101をアッセンブリとして、インホイールモータ駆動装置21の組立ラインとは別のラインで組み立てることが可能となる。したがって、組立時間の短縮化を図ることができる。
【0076】
次に、上記構成のインホイールモータ駆動装置21の他の製造方法につき説明する。
【0077】
まず、上述した車輪ハブ付ケーシング準備工程を実行する。
【0078】
次の減速部組立工程では、共通ケーシング22abの開口61から、出力軸28、入力軸25、および入力軸25の回転を減速して出力軸28に伝達する減速部Bの構成部材、すなわち、偏心部25a,25b、曲線板26a,26b、内ピン31、針状ころ軸受31a、外ピン27、針状ころ軸受27a、および外ピン保持部材45、を軸線方向一方へ挿入し、車輪ハブ32の中空部32aに出力軸28を連結固定して共通ケーシング22abの内部空間に減速部Bを組み立てる。かかる組立は、減速部Bの構成部材を1個ずつ順次挿入して組み立ててもよいし、あるいは、上述したように予め組み立てておいた減速部ユニット101を一度に挿入してケーシング22abの内部空間に取り付けてもよい。この減速部組立工程は、インホイールモータ駆動装置21の組立ラインで行われる。
【0079】
上記の減速部組立工程とは別に、ロータ準備工程では、図5に示すロータユニット102を準備する。ロータユニット102は、モータ回転軸35と、中心にモータ回転軸35が貫通する貫通孔38hが形成されてモータ回転軸35を回転自在に支持する隔壁38と、隔壁38から突出するモータ回転軸35の外周に固定されたロータ24とを有する。ロータユニット102は、インホイールモータ駆動装置21の組立ラインとは別の組立ラインで組み立てられる。
【0080】
次のモータ部組立工程では、共通ケーシング22abの開口61からロータユニット102を軸線O方向一方へ挿入し、隔壁38から突出するモータ回転軸35両端のうちロータ24から遠い側の端部35bを減速部Bの入力軸25に連結固定し、隔壁38の外周を共通ケーシング22bの内周に取付固定して、減速部Bよりも軸線O方向他方端側にロータユニット102を取り付ける。次に、共通ケーシング22abの内周面にステータ23を取付固定して、ステータ23をロータ24と対面させる。このモータ部組立工程は、インホイールモータ駆動装置21の組立ラインで行われる。
【0081】
次に、上述したモータ部封止工程を実行する。
【0082】
かかる製造方法によれば、ロータユニット102を準備するロータ準備工程を含むことから、ロータユニット102をアッセンブリとして、インホイールモータ駆動装置21の組立ラインとは別のラインで組み立てることが可能となる。したがって、組立時間の短縮化を図ることができる。
【0083】
なお、上述した減速部ユニット準備工程と、減速部ユニット取付工程と、ロータ準備工程と、モータ部組立工程とを組み合わせることにより、組立時間のさらなる短縮化を図ることができる。
【0084】
また上述した製造方法によれば、ステータ23よりも先にロータユニット102を共通ケーシング22ab内部に取付固定することから、ロータ24が傾くことなく組み立てることができる。したがって、ロータ24の取付作業の省力化を図ることができる。
【0085】
さらに上述した製造方法によれば、モータ回転軸35が隔壁38の貫通孔38hの軸線方向両端部において転がり軸受36aおよび転がり軸受36bを介して回転自在に支持されることから、組立作業中これら転がり軸受36aおよび転がり軸受36bは隔壁38の管状部38によって軸線Oに正確に一致するよう容易に位置決めされる。したがって、容易かつ精度よく、ロータ回転軸35両端部の転がり軸受36aおよび転がり軸受36bを軸線Oに一致させることが可能となり、転がり軸受36aおよび転がり軸受36bの取付作業の効率化を図ることができる。
【0086】
また上述した製造方法では、車輪ハブ32の外周に設けられる車輪ハブ軸受33を支持する外輪側部材22cを軸線方向一方側に配置する。また、減速部ユニット101を収容する減速部ケーシングと、開口61を有しロータユニット102およびステータ23を収容するモータ部ケーシングとが一体結合するモータ部減速部共通ケーシング22abを軸線方向他方側に配置する。そして、これら双方のケーシングを連結固定する。これにより、組立ライン上で減速部ケーシングとモータ部ケーシングとを連結固定する工数を省略することができ、作業効率が向上する。また、減速部Bとモータ部Aとの位置ずれ公差を管理する必要がなくなり、共通ケーシング22ab内周にステータ23を取り付ける際、精度よく取り付けることができる。したがって、ロータ24とステータ23の径方向隙間を規定範囲に収めることができる。
【0087】
次に本発明の変形例になるインホイールモータ駆動装置を説明する。図7は本発明の変形例を示す縦断面図である。この変形例につき、上述した実施例と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。この変形例では、冷却水路62に代えて、ケーシングの外周面に多数のフィン22nを形成し、空冷式インホイールモータ駆動装置とする。
【0088】
かかる変形例の空冷インホイールモータ駆動装置21においても、図1に示す実施例と同様、上述した製造方法によって組立ラインを平行に複数化し組立時間の短縮化を図ることができる。
【0089】
次に本発明の他の実施例になるインホイールモータ駆動装置を説明する。図8は本発明の他の実施例を示す縦断面図である。他の実施例につき、上述した実施例と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。他の実施例では、車輪ハブ32の外周に設けられて車輪ハブ軸受33を支持する外輪側部材(車輪ハブ軸受部Cに含まれるケーシング)と、軸線O方向他方端に開口66を有し減速部ユニット101を収容する減速部ケーシング(減速部Bに含まれるケーシング)とが一体結合する減速部車輪ハブ軸受部共通ケーシング22bcを軸線方向一方側に配置する。また、モータ回転軸35を収容するモータ部ケーシング22a(モータ部Aに含まれるケーシング)を軸線方向他方側に配置する。そして、これら双方のケーシングを連結固定してインホイールモータ駆動装置21のケーシングを構成する。
【0090】
かかる他の実施例の空冷インホイールモータ駆動装置21においても、図1に示す実施例と同様、別の組立ラインで減速部ユニット101およびロータユニット102を製作することが可能であり、上述した製造方法によって組立ラインを平行に複数化し組立時間の短縮化を図ることができる。
【0091】
また、図8に示す他の実施例によれば、車輪ハブ軸受部Cに含まれるケーシングである外輪側部材と、減速部ケーシングとが一体結合する減速部車輪ハブ軸受部共通ケーシング22bcを有することから、組立ライン上で外輪側部材と減速部ケーシングとを連結固定する工数を省略することができ、作業効率が向上する。また、車輪ハブ軸受部Cと減速部Bとの位置ずれ公差を管理する必要がなくなる。したがって、外ピン保持部材45を、軸線Oと同軸に取り付ける作業が容易になる。
【0092】
なお図8に示す実施例のインホイールモータ駆動装置21を製造する際、先に、減速部ユニット101を減速部車輪ハブ軸受部共通ケーシング22bcの開口66から軸線方向一方へ挿入して共通ケーシング22bcの内部空間に取り付ける。次に、開口66にモータ部ケーシング22aの軸線方向一方端を突き合わせて、減速部車輪ハブ軸受部共通ケーシング22bcにモータ部ケーシング22aを連結固定してもよい。
【0093】
次に本発明のさらに他の実施例になるインホイールモータ駆動装置を説明する。図9は本発明のさらに他の実施例を示す縦断面図である。さらに他の実施例につき、上述した実施例と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。さらに他の実施例では、インホイールモータ駆動装置21が、軸線O方向一方に配置されて車輪ハブ32の外周に設けられて車輪ハブ軸受を支持する外輪側部材(車輪ハブ軸受部Cに含まれるケーシング)と、軸線O方向中央に配置されて減速部ユニット101を収容する減速部ケーシング(減速部Bに含まれるケーシング)と、軸線O方向他方に配置されて開口61を有しモータ回転軸35を収容するモータ部ケーシング(モータ部Aに含まれるケーシング)とが一体結合するインホイールモータ共通ケーシング22abcを備える。
【0094】
さらに他の実施例の空冷インホイールモータ駆動装置21においても、図1に示す実施例と同様、別の組立ラインで減速部ユニット101およびロータユニット102を製作することが可能であり、上述した製造方法によって組立ラインを平行に複数化し組立時間の短縮化を図ることができる。
【0095】
また、図9に示すさらに他の実施例によれば、外輪側部材と減速部ケーシングとモータ部ケーシングとが一体結合するインホイールモータ共通ケーシング22abcを有することから、組立ライン上で外輪側部材(車輪ハブ軸受部Cに含まれるケーシング)と減速部ケーシングとモータ部ケーシングとを連結固定する工数を省略することができ、作業効率が向上する。また、車輪ハブ軸受部Cと減速部Bとモータ部Aの位置ずれ公差を管理する必要がなくなる。したがって、外ピン保持部材45およびステータ23を、軸線Oと同軸に取り付ける作業が容易になる。
【0096】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0097】
この発明になるインホイールモータ駆動装置は、電気自動車およびハイブリッド車両において有利に利用される。
【符号の説明】
【0098】
21 インホイールモータ駆動装置、22a モータ部ケーシング、22c 外輪側部材、22ab モータ部減速部共通ケーシング、22bc 減速部車輪ハブ軸受部共通ケーシング、22abc インホイールモータ共通ケーシング、22n フィン、23 ステータ、24 ロータ、25 入力軸、25a,25b 偏心部材、26a,26b 曲線板、27 外ピン、28 出力軸、28a フランジ部、28b 軸部、30a,30b 貫通孔、31 内ピン、31b 補強部材、32 車輪ハブ、32a 中空部、32b フランジ部、33 車輪ハブ軸受、35 モータ回転軸、36a,26b,36c 転がり軸受、37 環状段差、38 隔壁、38w 隔壁本体、38p 管状部、39 リヤカバー、41 転がり軸受、45 外ピン保持部材、51 潤滑油ポンプ、52 吸入油路、53 オイル溜まり、54 吐出油路、55 ケーシング油路、56 連絡油路、57 モータ回転軸油路、58 減速部入力軸油路、58a,58b 潤滑油路、59 ロータ油路、61 開口、62 冷却水路、63 切り欠き部、66 開口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向一方側へ延びる筒状のモータ回転軸を有するモータ部と、
筒状の車輪ハブ、前記車輪ハブの外周を包囲する円筒形状の外輪側部材、およびこれら車輪ハブの外周面と外輪側部材の内周面との間に形成される環状空間に設けられて車輪ハブを回転自在に支持する車輪ハブ軸受を有する車輪ハブ軸受部ユニットと、
一方側へ延びる出力軸および他方側へ延びる入力軸を有し入力軸の回転を減速して出力軸に伝達する減速機構であって、前記出力軸は前記筒状の車輪ハブの中心に挿通固定され、前記入力軸は前記筒状のモータ回転軸の軸線方向一方端に挿通固定される減速部ユニットとを備える、インホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
前記モータ部は、
モータ部の外郭を形成するモータ部ケーシングと、
前記モータ部ケーシングの内周に固定されるステータと、
前記モータ回転軸および前記モータ回転軸の外周に固定されるロータを有し、前記モータ部ケーシングの内部空間に配置されて前記ステータと対面するロータユニットとを含む、請求項1に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
前記ロータユニットは、
前記モータ回転軸の軸線方向一方端部に取り付けられるとともに、前記モータ部ケーシングまたは前記減速部ユニットを収容する減速部ケーシングに連結固定されて、モータ回転軸を回転自在に支持するモータ回転軸支持部材をさらに有する、請求項2に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
前記モータ回転軸支持部材は、前記減速部ケーシングの内部空間と前記モータ部ケーシングの内部空間とを区画する隔壁と、前記隔壁の中心に形成されて前記モータ回転軸の軸線方向一方端部が貫通する中心孔に設けられて前記モータ回転軸を回転自在に支持するモータ部軸受とを有する、請求項3に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項5】
前記隔壁は、軸線方向に延びて前記中心孔を形成する管状部と、前記管状部の軸線方向一方端に形成されて前記ケーシングの内側に固定される隔壁本体とを有し、
前記モータ部軸受は、前記管状部の両端部にそれぞれ配設される、請求項4に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項6】
前記隔壁は、前記減速部ユニットに駆動されて潤滑油を吐出するオイルポンプが付設される、請求項4または5に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項7】
前記車輪ハブ軸受部ユニットの外輪側部材は軸線方向一方側に配置され、
前記減速部ケーシングと前記モータ部ケーシングは一体結合して減速部モータ部共通ケーシングを構成し、該減速部モータ部共通ケーシングは軸線方向他方側に配置され、
これら双方のケーシングは所定の連結部材で連結固定される、請求項3〜6のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項8】
前記車輪ハブ軸受部ユニットの外輪側部材と前記減速部ケーシングは一体結合して車輪ハブ軸受部減速部共通ケーシングを構成し、該車輪ハブ軸受部減速部共通ケーシングは軸線方向一方側に配置され、
前記モータ部ケーシングは軸線方向他方側に配置され、
これら双方のケーシングは所定の連結部材で連結固定される、請求項3〜6のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項9】
前記車輪ハブ軸受部ユニットの外輪側部材、前記減速部ケーシング、および前記モータ部ケーシングは互いに一体結合してインホイールモータ共通ケーシングを構成する、請求項3〜6のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項10】
前記モータ部は、前記モータ部の外郭を形成するモータ部ケーシングの端部に取り付けられて、前記モータ部の内部空間を外界から遮断保護する軽合金製リヤカバーをさらに含む、請求項1〜9のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項11】
前記減速部ユニットは、前記入力軸の一方端部に設けられる円盤形状の偏心部と、前記偏心部の外周に相対回転自在に取り付けられて前記入力軸の回転軸心を中心とする公転運動を行う公転部材と、前記公転部材の外周部に係合して公転部材の自転運動を生じさせる外周係合部材と、前記公転部材の外周を包囲する円筒形状であって前記外周係合部材を保持し前記モータ部の外郭を形成するモータ部ケーシングまたは前記減速部ユニットを収容する減速部ケーシングまたは前記外輪側部材に連結固定される外周係合部材保持部材と、前記出力軸および前記公転部材に跨って配設され公転部材の自転運動を取り出して出力軸に伝達する運動変換機構とをさらに有する、請求項1〜10のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−111059(P2011−111059A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269658(P2009−269658)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】