説明

インホイールモータ

【課題】給電ケーブルを引き込むケーブル引込み部のホイール回転軸線方向の寸法が小さくて他の部位との干渉のおそれがなく、端子の接続作業やブラケットの固定作業が容易なインホイールモータを提供する。
【解決手段】ホイールを回転可能に支承するケーシング2と、ケーシング2の内部に配設されてホイールを回転駆動する三相モータと、三相モータに電力を供給する三相の給電ケーブル5U、5V、5Wと、を備えるインホイールモータ1であって、ケーシング2は、三相の給電ケーブルの3個の端末部51U、51V、51Wを引き込んで固定するケーブル引込み部(端子箱3)を有し、第一相および第三相の端末部51U、51Wは第二相の端末部51Vの断面寸法より短い間隔でホイールの回転軸線と平行に配置され、第二相の端末部51Vは第一相および第三相の端末部51U、51Wから回転軸線と直角な方向に変位して配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動輪を構成するホイールの内部に配設されるインホイールモータに関し、より詳細には、モータに電力を供給する給電ケーブルの接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の駆動輪を構成するホイールの内部にモータを配設し、インバータから電力を供給して回転速度制御を行うインホイールモータの開発が鋭意進められている。インホイールモータが実用化されれば、従来の変速装置やデファレンシャル装置、伝達軸などを組み合わせたパワートレーンが不要となり、車両構造が大きく様変わりして、技術革新が進む。最近では、インホイールモータを装備した電気自動車が各種試作され、多くの展示会に出展されて脚光を浴びている。
【0003】
本願出願人は、この種のインホイールモータを装備した電動輪を特許文献1に開示している。特許文献1の電動輪は、ホイールとインホイールモータと給電ケーブルとを備え、インホイールモータはケーシングと回転電機と端子箱とを含み、給電ケーブルがホイールの回転方向の下流側から端子箱に接続されることを特徴としている。この発明によれば、ホイールの内部に氷などの異物が侵入した場合に、異物が給電ケーブルよりも先に端子箱に衝突して粉砕されるため、給電ケーブルの損傷が抑制されるという効果が生じる。
【0004】
特許文献1に限らず、インホイールモータでは、出力トルクが大きく、回転速度の制御が容易で、回転方向の切替が行え、さらには制動時のエネルギ回生が可能な回転電機として三相モータ、特に三相同期モータが多用されている。三相モータへの電力供給は、車載のバッテリを電源としてインバータおよび給電ケーブルを介するのが一般的であり、モータ側にはケーブル引込み部として通常端子箱が設けられている。インホイールモータは、他にブレーキ装置や減速機構を備え、また、アームにより操舵可能かつ揺動可能に支持されるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−96429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、端子箱は略円筒状のケーシングの外周の一部に矩形箱形に突出して設けられ、三相の給電ケーブルは一列に配置されて端子箱に引き込まれ接続されるのが一般的である。給電ケーブルは芯線とシールド編素とを有し、その端末部には、芯線を終端する端子とシールド編素をアースするためのブラケットとが配されている。ブラケットは端末部の断面寸法より大きく、3個のブラケットを一列に配置するために端子箱の寸法が大形化するという問題があった。インホイールモータは、ホイール内という限られたスペースに三相モータだけでなくブレーキ装置や減速機構を配設することが必要であり、またホイールの車両中央側には操舵や揺動を可能とするためのタイロッドやスタビリンクなどの部材が配設されることから、端子箱の大形化は構成上の大きな制約となっていた。さらに、3個のブラケットが接近して配置されるため、固定作業が容易でなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、三相の給電ケーブルを引き込んで接続するケーブル引込み部のホイール回転軸線方向の寸法が小さくて他の部位との干渉のおそれがなく、端子の接続作業やブラケットの固定作業が容易なインホイールモータを提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する請求項1に係るインホイールモータの発明は、車両の駆動輪を構成するホイールを回転可能に支承するケーシングと、該ケーシングの内部に配設されて前記ホイールを回転駆動する三相モータと、該三相モータに電力を供給する三相の給電ケーブルと、を備えるインホイールモータであって、前記ケーシングは、三相の前記給電ケーブルの3個の端末部を引き込んで固定するケーブル引込み部を有し、第一相および第三相の端末部は第二相の端末部の断面寸法より短い間隔で前記ホイールの回転軸線と平行に配置され、前記第二相の端末部は前記第一相および前記第三相の端末部から前記回転軸線と直角な方向に変位して配置されていることを特徴とする。
【0009】
なお、第一相〜第三相の表記は、構造的な並び順を説明するためのものであって、電気的な相順を限定するものではない。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1において、三相の前記給電ケーブルの前記端末部はそれぞれ芯線を終端する端子を有し、前記ケーシングの前記ケーブル引込み部は、三相の前記給電ケーブルの前記端末部の前記端子をそれぞれ接続する端子受部をもつ端子台を有し、第一相および第三相の端子は前記ホイールの回転軸線と平行に配置され、第二相の端子は前記第一相および第三相の端子から前記回転軸線と直角な方向に変位して配置されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2において、前記端子台は前記三相モータのステータの外周に設けられ、前記端子台にて前記ステータの外周に導出された前記三相モータの三相の外部端子と三相の前記給電ケーブルの前記端子とがそれぞれ接続されることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項2または3において、三相の前記給電ケーブルの前記端末部はそれぞれシールド編素をアースするブラケットを有し、前記ケーシングの前記ケーブル引込み部は、三相の前記給電ケーブルの前記端末部の前記ブラケットをそれぞれ固定するブラケット固定部を有し、第一相および第三相の前記ブラケット固定部はそれぞれ、第一相および第三相の前記給電ケーブルから前記回転軸線と直角に第二相から遠ざかる方向に変位して配置され、第二相の前記ブラケット固定部は、第二相の前記給電ケーブから前記回転軸線と直角に第一相および第三相から遠ざかる反対方向に変位して配置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか1項において、前記ケーブル引込み部は前記ホイールに一体的に設けられたブレーキロータに隣接して配設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、三相の給電ケーブルの3個の端末部を引き込んで固定するケーブル引込み部において、第一相および第三相の端末部は第二相の端末部の断面寸法より短い間隔でホイールの回転軸線と平行に配置され、第二相の端末部は第一相および第三相の端末部から回転軸線と直角な方向に変位して配置される。つまり、第二相の端末部を変位させることにより、第一相と第三相の端末部を接近させて配置できる。これに対し、従来の給電ケーブルでは、3個の端末部が回転軸線と平行に一列に配置され、第一相と第二相との間、および第二相と第三相との間には、所定の相間間隔が設けられる。したがって、本発明によれば、ケーブル引込み部の回転軸線方向の寸法を従来よりも縮小できる。
【0015】
請求項2に係る発明では、給電ケーブルの端末部の芯線に端子を有し、ケーブル引込み部に端子台を有する態様において、第一相および第三相の端子が回転軸線と平行に配置され、第二相の端子が第一相および第三相の端子から回転軸線と直角な方向に変位して配置される。これにより、第一相と第三相の端末部を接近させて配置でき、ケーブル引込み部の回転軸線方向の寸法を縮小できる。
【0016】
請求項3に係る発明では、端子台が三相モータのステータの外周に設けられ、三相モータの外部端子と給電ケーブルの端子とがそれぞれ接続される。したがって、給電ケーブルから三相モータに至る接続構造を簡素化・コンパクト化できるとともに、接続作業も容易になる。
【0017】
請求項4に係る発明では、給電ケーブルの端末部にシールド編素をアースするブラケットを有し、ケーブル引込み部にブラケット固定部を有する態様において、第一相および第三相のブラケット固定部がそれぞれ、第一相および第三相の給電ケーブルから回転軸線と直角に第二相から遠ざかる方向に変位して配置され、第二相のブラケット固定部が、第二相の給電ケーブから回転軸線と直角に第一相および第三相から遠ざかる反対方向に変位して配置される。これにより、第一相および第三相のブラケットと、第二相のブラケットとが反対方向を向いて固定される。これに対し、従来の給電ケーブルでは、三相のブラケットが一列に並んで同方向に配置され、三相のブラケット固定部が接近している。本発明によれば、回転軸線方向にブラケット3個分の寸法が必要でなくなり、ケーブル引込み部の回転軸線方向の寸法を従来よりも縮小できる。また、三相のブラケット固定部が互いに離隔して配置されるので、ブラケットの固定作業が容易に行える。
【0018】
請求項5に係る発明では、ケーブル引込み部がホイールに一体的に設けられたブレーキロータに隣接して配設される。ここで、ケーブル引込み部は、回転軸線方向の寸法が縮小されるので、ブレーキロータに干渉するおそれが生じない、また、ケーブル引込み部およびブレーキ装置の配置上の自由度が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態のインホイールモータの正面図である。
【図2】図1の実施形態のインホイールモータの斜視図である。
【図3】図1の矢印A方向からみたインホイールモータの側面図である。
【図4】図1〜図3における給電ケーブルの端末部の構造を説明する図である。
【図5】図1〜図3において、三相の給電ケーブルの3個の端末部の配置およびブラケットの固定方法を説明する平面図である。
【図6】図1の矢印A方向からみた端子箱内の接続構造を説明する図である。
【図7】従来のインホイールモータの斜視図である。
【図8】図7において、従来の給電ケーブルの端末部の配置およびブラケットの固定方法を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための形態を、図1〜図6を参考にして説明する。図1は本発明の実施形態のインホイールモータの正面図であり、図2はその斜視図である。また、図3は、図1の矢印A方向からみたインホイールモータの側面図である。なお、図1における紙面手前側が車両の前方、紙面奥側が後方に該当し、紙面上下方向は車両の上下方向にほぼ一致している。
【0021】
実施形態のインホイールモータ1は、図1に示されるように、前輪駆動車の駆動前輪を構成するディスクホイール9内に設けられ、回転軸線CLを中心にしてディスクホイール9を回転駆動する装置である。インホイールモータ1は、図2、図3にも示されるように、ケーシング2、三相モータ4、三相の給電ケーブル5U、5V、5Wなどで構成されている。
【0022】
ケーシング2は、ディスクホイール9と回転軸線CLを共有して略円筒形に形成されている。ケーシング2の上部中央にアッパ被支持部21、下部2箇所にロア被支持部22、23が形成されている。アッパ被支持部21およびロア被支持部22、23は、図略のジョイント部材やアーム部材になどよりフロントサスペンションに連結されている。これにより、インホイールモータ1は操舵可能かつ揺動可能に支持されている。また、ケーシング2の回転軸線CLの一端側(図2の図中右側)には、内部に三相モータ4が組み付けられた後に、カバー24が10本の符号略のボルトで固定される。さらに、図1においてケーシング2の手前側には、略矩形の端子箱3が突出して形成されている。端子箱3は、図1の紙面奥側でケーシング2の内部に連通しており、紙面手前側は図略のカバーが6点で固定されて封じられるようになっている。また、後述するように、端子箱3にはその上面から三相の給電ケーブル5U、5V、5Wが引き込まれており、端子箱3はケーブル引込み部に該当する。
【0023】
三相モータ4は、ケーシング2およびディスクホイール9と回転軸線CLを共有し、ケーシング2の内部に配設されている。三相モータ4は、一般的な三相同期モータであり、ケーシング2のカバー24を取り外した図3に示されるように、ステータ41およびロータ42を有している。ステータ41は略円筒形であり、図には略されているが円周方向に複数のステータコイルが配設され、4箇所の固定孔411〜414でケーシング2に固定されている。ステータ41の外周でかつ端子箱3の内部には、モータ側端子台45が配設されている。モータ側端子台45では、複数のステータコイルから導出された各導体端が三相のコイル端子に集約されている。また、ロータ42は、ステータ41の内周側に僅かな間隙を保持して回転可能に配設されている。
【0024】
ロータ42の回転軸線CL上の出力軸43は、図3の紙面奥側(図1の左側)で図示されていない減速機構の入力側に結合されている。減速機構の出力側は、ディスクロータ91に結合されている。ディスクロータ91の外周側にはブレーキロータ92が設けられており、ブレーキロータ92はケーシング2側に配設された図略のブレーキパッドにより摩擦制動可能とされている。ディスクロータ91の図1の左方には、ディスクホイール9が固定され、ディスクホイール9はインホイールモータ1を覆っている。ディスクホイール9の外周側には図示されていないタイヤが装着されて、駆動前輪が形成されている。
【0025】
三相の給電ケーブル5U、5V、5Wは、バッテリからインバータを介して三相モータ4に三相交流電力を供給するものである。給電ケーブル5U、5V、5Wの一端はインバータに接続され、他端には端末部51U、51V、51Wが形成されて、端子箱3に引き込まれ接続されている。
【0026】
ここで、三相の給電ケーブル5U、5V、5Wの各相端末部51U、51V、51Wは同一形状であるので、U相端末部51Uを図4に例示して説明する。図4は、図1〜図3における給電ケーブル5Uの端末部51Uの構造を説明する図であり、(1)平面図、(2)正面図、(3)ケーブル側から見た図である。U相端末部51Uは、U相端子52U、U相ブラケット54U、U相樹脂成形体56U、U相Oリング59Uなどで構成されている。U相端子52Uは、U相給電ケーブル5Uの芯線を終端する部材であり、金属製の板材に接続孔53Uが設けられて形成されている。U相端子52Uは、U相給電ケーブル5Uの軸線AXから偏心寸法X1だけ離れて軸線AXに平行に配置されている。U相ブラケット54Uは、符号略のシールド編素をアースする部材であり、金属製の板材に固定孔55Uが設けられて形成されている。U相ブラケット54Uは、軸線AXと直交するように配置され、固定孔55Uは軸線AXから離れた位置で固定されるようになっている。
【0027】
U相樹脂成形体56Uは、芯線と端子52Uの接続加工およびシールド編素とブラケット54Uの接続加工が行われたのちに、樹脂を用いた成形加工により形成されたものである。U相樹脂成形体56Uは、端子52Uおよびブラケット54Uとその接続加工箇所などを安定的に保持している。U相樹脂成形体56Uは、軸線AX方向に長く形成され、一端にU相給電ケーブル5U、他端にU相端子52Uが配置されている。U相樹脂成形体56Uの最も太い外径D1を有する中間部57Uには、U相ブラケット54Uが配置されている。さらに、中間部57Uには、円周方向にシール溝58Uが形成されている。シール溝58Uには、U相Oリング59Uが嵌入されている。
【0028】
次に、給電ケーブル5U、5V、5Wから三相モータ4に至る接続構造について詳述する。図2において、端子箱3の上面には内外を連通する符号略の引込み孔が形成されて、給電ケーブル5U、5V、5Wの各相端末部51U、51V、51Wが前述の中間部57U、57V、57Wまで引き込まれている。引込み孔の内周面には、図4で説明したOリング59Uが圧接されて水密性が確保されている。3個の端末部51U、51V、51Wは、端子箱3を上方から見下ろした図5の平面図に示される配置となっている。図5は、図1〜図3において、三相の給電ケーブル5U、5V、5Wの各相端末部51U、51V、51Wの配置およびブラケット54U、54V、54Wの固定方法を説明する平面図である。詳述すると、U相端末部51UおよびW相端末部51Wは、V相端末部51Vの外径D1より短い間隔G1で回転軸線CLと平行に配置されている。一方、V相端末部51Vは、U相端末部51UおよびW相端末部51Wから回転軸線CLと直角な方向(図1で紙面奥側、図3で右方、図5で上方)に変位寸法X2だけ変位して配置されている。
【0029】
また、端子箱3の上面には、各相端末部51U、51V、51Wの各ブラケット54U、54V、54Wが当接している。U相ブラケット54UおよびW相ブラケット54Wはそれぞれ、U相給電ケーブル5UおよびW相給電ケーブル5Wから回転軸線CLと直角にV相から遠ざかる方向(図5の下方)に向いて配置されている。V相ブラケット54Vは、V相給電ケーブル5Vから回転軸線CLと直角にU相およびW相から遠ざかる反対方向(図5の上方)に向いて配置されている。これにより、各相ブラケット54U、54V、54Wの固定孔55U、55V、55Wは離隔して配置される。
【0030】
この固定孔55U,55V、55Wの位置に相当する端子箱3の上面にはそれぞれ、雌ねじの螺設された図略の固定孔が形成されている。そして雄ねじを有するボルト31U、31V,31Wが、各相ブラケット54U、54V、54Wの固定孔55U,55V、55Wを貫通したのち取付け孔に螺合している。これにより、各相でシールド編素がアースされるとともに、各相端末部51U、51V、51Wが固定される。つまり、各相ブラケット54U、54V、54Wは、電気的なアース材と構造的な固定材を兼ねている。なお、端子箱3側のボルト31U、31V,31Wおよび固定孔は、ブラケット固定部に該当する。
【0031】
また、端子箱3の内部には、絶縁性樹脂材料にて形成された端子台32が固定されている。端子台32は、各相端末部51U、51V、51Wを下方から臨むとともに、前述のモータ側端子台45の外周側に重ねて配置されている。図1および図2に示されるように、端子台32内の同じ高さ位置に、端子受部となるU相ケーブル接続ねじ33U、V相ケーブル接続ねじ33V、およびW相コイル接続ねじ34Wが配置されている。U相およびV相ケーブル接続ねじ33U、33Vは、引き込まれたU相およびV相端末部51U、51Vの各端子52U、52Vの接続孔53U(V相は符号略)を貫通して、端子台32に形成されたねじ孔に螺合している。また、W相コイル接続ねじ34Wは、引き込まれたW相端末部51Wの端子52Wの接続孔を貫通したのち、後述するようにモータ側端子台45まで達して固定されている。
【0032】
ここで、U相端子52UおよびW相端子52Wは、回転軸線CLと平行に配置されている。一方、V相端子52Vは、図3に示されるように、U相端子52UおよびW相端子52Wから回転軸線CLと直角な方向に、変位寸法X3だけ変位して配置されている。変位寸法X3は、V相端末部51VのU相およびW相に対する変位寸法X2から、図4に示される端子52Uの偏心寸法X1の2倍を差し引いた寸法である。V相ケーブル接続ねじ33Vおよびねじ孔は、この変位寸法X3分だけU相およびW相よりも図1の紙面奥側に配置されている。
【0033】
また、端子台32には、W相コイル接続ねじ34Wの下方にV相コイル接続ねじ34Vが配置され、さらにその下方にU相コイル接続ねじ34Uが配置されている。U相コイル接続ねじ34UとU相ケーブル接続ねじ33Uとの間には、途中で90°屈曲したU相バスバー35Uが配設されて、電気的に接続されている。V相コイル接続ねじ34VとV相ケーブル接続ねじ33Vとの間には、途中で90°屈曲するとともに変位寸法X3分だけ段差を有したV相バスバー35Vが配設されて、電気的に接続されている。各相コイル接続ねじ34U、34V、34Wは、上下に並んで水平方向に配置され、図1の紙面奥側でモータ側端子台45の各相のコイル端子にそれぞれ電気的に接続されている。各相コイル接続ねじ34U、34V、34Wを用いた接続構造は、三相で概ね同一であるので、U相を図6に例示して説明する。
【0034】
図6は、図1の矢印A方向からみた端子箱3内の接続構造を説明する図である。モータ側端子台45は、絶縁性樹脂材料にて形成され、その左端面には三相のねじ収容孔46Uが上下に並んで水平方向に形成されている。三相のねじ収容孔46Uは、モータ側端子台45を貫通せず径差を有する段付き袋状とされている。各相ねじ収容孔46Uの大径部分には、各相コイル接続ねじ34Uと螺合する金属製の各相取付ナット47Uがインサート成形により固定されている。各相取付ナット47Uの一面側(図5の左側)に接して、略環状の各相コイル端子48Uが配置されている。また、モータ側端子台45の左端面の上下方向の相間2箇所には、上下一対の断面U字孔状のスロット49が形成されている。
【0035】
一方、図示されるように、端子台32の右端面から突出するように上下一対の仕切板36が設けられている。仕切板36がスロット49に嵌入することにより、端子台32とモータ側端子台45とが結合される。また、端子台32の図中左右を貫通して三相のカラー保持孔37Uが形成されており、各相カラー保持孔37Uはそれぞれモータ側端子台45の各相ねじ収容孔46Uと正対するようになっている。各相カラー保持孔37Uの内側で各相コイル端子48Uと接して、略円筒状の各相用カラー38Uが配設されている。各相用カラー38Uの長さは各相カラー保持孔37Uよりもわずかに短く、各相用カラー38Uの内径は各相コイル接続ねじ34Uのねじ部の外径よりも大とされている。各相用カラー38Uは、導電性金属である銅合金を基材とし、その表面にスズメッキが施されて形成されている。
【0036】
図5において、U相用カラー38Uの左側端面にはU相バスバー35U、および高さ調整用のスペーサワッシャ39Uが配置されている。そして、図中左方からU相コイル接続ねじ34Uを差し込み、スペーサワッシャ39U、U相バスバー35Uを経て、U相用カラー38Uの内側を通り、U相コイル端子48Uを経て、U相取付ナット47Uに螺合して固定する。すると、U相バスバー35UとU相用カラー38Uとの間、およびU相用カラー38UとU相コイル端子48Uとの間が圧接されて給電経路が確保される。V相では、V相バスバー35VからV相コイル端子に至る給電経路が確保される。W相では、W相給電ケーブル5Wの端子52Wが直接W相用カラーに圧接され、バスバーを介さずにW相コイル端子に至る給電経路が確保される。なお、図5において、端子台32の左側の相間には仕切り壁321が立設されている。これにより、空間距離や沿面距離が確保され、絶縁が確実に行われる。
【0037】
以上説明した接続構造により、三相交流電力は、給電ケーブル5U、5V、5Wから、端子箱3内部の端子台32およびモータ側端子台45を経由し、三相モータ4のステータ41に供給される。
【0038】
次に、実施形態のインホイールモータ1の効果について、図7および図8に例示する従来装置と比較して説明する。図7は従来のインホイールモータ8を説明する斜視図であり、図8はその給電ケーブル5U、5V、5Wの各相端末部51U、51V、51Wの配置およびブラケット54U、54V、54Wの固定方法を説明する平面図である。図7において、端子箱30の上面の符号略の引込み孔は一列に形成されており、三相の給電ケーブル5U、5V、5Wの各相端末部51U、51V、51Wも一列に配置されている。したがって、端子箱30の回転軸線CL方向の最小限の寸法は、給電ケーブルの端末部51Uの外径D1の3倍に相間間隔の2倍を加えた寸法となる。一方、実施形態の端子箱3の最小限の寸法は、図4に示されるように、端末部51Uの外径D1の2倍に間隔G1を加えた寸法となり、外径D1の3倍よりも小さい。したがって、本実施形態によれば、端子箱3の回転軸線CL方向の寸法を従来よりも縮小できる。
【0039】
また、図7では、端子箱30の回転軸線CL方向の寸法を減じるために、三相の端末部51U、51V、51Wを傾斜させる配置を試みたが、結果的に端子箱30の一部Zがブレーキロータ92に干渉して好ましくなかった。本実施形態では、このような干渉のおそれが解消され、また配置上の自由度が大きく、効果は明らかである。
【0040】
また、本実施形態では、給電ケーブル5U、5V、5Wから三相モータ4に至る接続構造のうち接続作業が必要な箇所が端子箱3の内部にまとめられて簡素化・コンパクト化されている。かつ、ケーシング2のカバー24および端子台3のカバーが開いた状態で、接続作業を容易に行える。
【0041】
さらに、従来装置では、図8に示されるように三相のブラケット54U、54V、54Wが同一方向で固定されるため、固定ボルト31U、31V、31Wが接近して配置され、締め付けによる固定作業に苦労していた。本実施形態では、図5に示されるように、V相ブラケットが反対方向に固定されるため、固定用のボルト31U、31V、31Wが互いに離隔して配置される。したがって、ボルト31U、31V、31Wを締め付けてブラケット54U、54V、54Wを固定する作業が容易に行える。
【0042】
なお、本実施形態では三相の中央に配置されたV相の端末部51Vを回転軸線CLと直角な方向に変位させているが、変位させる相は端に配置されたU相あるいはW相であってもよい。その他、さまざまな応用が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1:本発明の実施形態のインホイールモータ
2:ケーシング
21:アッパ被支持部 22、23:ロア被支持部 24:カバー
3、30:端子箱(ケーブル引込み部)
31U、31V,31W:ボルト(ケーブル固定部)
32:端子台
33U、33V:U相、V相ケーブル接続ねじ
34U、34V、34W:U相、V相、W相コイル接続ねじ
35U、35V:U相、V相バスバー
38U:U相用カラー
4:三相モータ
41:ステータ 42:ロータ 43:出力軸
45:モータ側端子台 48U:U相コイル端子
5U、5V、5W:U相、V相、W相給電ケーブル
51U、51V、51W:U相、V相、W相端末部
52U、52V、52W:U相、V相、W相端子
54U、54V、54W:U相、V相、W相ブラケット
8:従来のインホイールモータ
9:ディスクホイール
91:ディスクロータ 92:ブレーキロータ
D1;給電ケーブルの端末部の外径
X1;端子の偏心寸法
X2:V相端末部の変位寸法
X3:V相端子の変位寸法
CL:ディスクホイールの回転軸線
AX:給電ケーブルの軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪を構成するホイールを回転可能に支承するケーシングと、該ケーシングの内部に配設されて前記ホイールを回転駆動する三相モータと、該三相モータに電力を供給する三相の給電ケーブルと、を備えるインホイールモータであって、
前記ケーシングは、三相の前記給電ケーブルの3個の端末部を引き込んで固定するケーブル引込み部を有し、
第一相および第三相の端末部は第二相の端末部の断面寸法より短い間隔で前記ホイールの回転軸線と平行に配置され、前記第二相の端末部は前記第一相および前記第三相の端末部から前記回転軸線と直角な方向に変位して配置されていることを特徴とするインホイールモータ。
【請求項2】
請求項1において、三相の前記給電ケーブルの前記端末部はそれぞれ芯線を終端する端子を有し、前記ケーシングの前記ケーブル引込み部は、三相の前記給電ケーブルの前記端末部の前記端子をそれぞれ接続する端子受部をもつ端子台を有し、
第一相および第三相の端子は前記ホイールの回転軸線と平行に配置され、第二相の端子は前記第一相および前記第三相の端子から前記回転軸線と直角な方向に変位して配置されていることを特徴とするインホイールモータ。
【請求項3】
請求項2において、前記端子台は前記三相モータのステータの外周に設けられ、前記端子台にて前記ステータの外周に導出された前記三相モータの三相の外部端子と三相の前記給電ケーブルの前記端子とがそれぞれ接続されることを特徴とするインホイールモータ。
【請求項4】
請求項2または3において、三相の前記給電ケーブルの前記端末部はそれぞれシールド編素をアースするブラケットを有し、前記ケーシングの前記ケーブル引込み部は、三相の前記給電ケーブルの前記端末部の前記ブラケットをそれぞれ固定するブラケット固定部を有し、
第一相および第三相のブラケット固定部はそれぞれ、第一相および第三相の給電ケーブルから前記回転軸線と直角に第二相から遠ざかる方向に変位して配置され、第二相のブラケット固定部は、第二相の給電ケーブから前記回転軸線と直角に第一相および第三相から遠ざかる反対方向に変位して配置されていることを特徴とするインホイールモータ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、前記ケーシングの前記ケーブル引込み部は、前記ホイールに一体的に設けられたブレーキロータに隣接して配設されていることを特徴とするインホイールモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−961(P2011−961A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145692(P2009−145692)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】