説明

エアバッグ、エアバッグ装置及び車両

【課題】拘束初期におけるエアバッグからの反力の立ち上がりが早いエアバッグ及びエアバッグ装置と、このエアバッグ装置を備えた車両を提供する。
【解決手段】エアバッグ10は、乗員前方の右側において膨張する右半側エアバッグ12と、乗員前方の左側において膨張する左半側エアバッグ14と、該右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の基端側に連通する基端室16とを有する。右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14とは縫目90Sによって縫合されている。各バッグ12,14内は、上部及び下部の開口91,92によって連通している。開口91,92の周縁部同士は縫目91S,92Sによって縫合されている。膨張したエアバッグ10の乗員対向面には上下に延在する凹部13が存在する。開口91は前後方向に長い形状である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時等に乗員を拘束するためのエアバッグ及びエアバッグ装置に係り、特に、左半側エアバッグ及び右半側エアバッグを有し、膨張した状態において、エアバッグの乗員対向面から上面にかけて連続した凹部が形成されるエアバッグ及びエアバッグ装置に関する。また、本発明はこのエアバッグ装置を備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両衝突時等に乗員を拘束するためのエアバッグとして、膨張した状態において、エアバッグの乗員対向面に、上下方向の凹部が形成されるエアバッグが特開2006−103654に記載されている。同公報の0039段落には、車両の前突時に、膨張したエアバッグの該凹部の両側の肩拘束部によって乗員の肩部が拘束され、乗員の頭部は、凹部に進入しつつ拘束される旨記載されている。
【0003】
この特開2006−103654号のエアバッグにあっては、左側の肩拘束部と右側の肩拘束部とは、該肩拘束部の前後方向の縦断面の大きさに近い程の大きな連通孔によって連通している。
【0004】
また、このエアバッグにあっては、同号公報の図2〜4の通り、凹部は乗員対向面から上部にかけて連続して延在する。同号公報図15の通り、膨張したエアバッグの上面はウィンドシールドに当接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−103654号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、膨張した状態において乗員対向面から上面にかけて連続した凹部が形成され、膨張したエアバッグの上面がウィンドシールドに接するエアバッグにおいて、エアバッグによる乗員拘束初期段階のエアバッグからの反力の発生を早めたエアバッグ及びエアバッグ装置と、このエアバッグ装置を備えた車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエアバッグは、車両のインストルメントパネルから乗員に接近するように車両後方へ向って膨張し、助手席乗員の前方に膨張した状態において乗員対向面から上面にかけて連続した凹部が形成されるエアバッグであって、車両前方側に配置された基端室と、該基端室に連なり、乗員前方の左側において膨張する左半側エアバッグと、該基端室に連なり、乗員前方の右側において膨張する右半側エアバッグとを有し、該左半側エアバッグと右半側エアバッグの対面部分同士の上部にそれぞれ開口が設けられ、左半側エアバッグの該開口の周縁部と右半側エアバッグの該開口の周縁部とが縫合されているエアバッグにおいて、該開口は車両前後方向に延在していることを特徴とするものである。
【0008】
膨張状態の該エアバッグの上面からエアバッグ上面の凹部の最底部までの最短距離が5〜80mmであることが好ましい。
【0009】
この開口は、車両後方側が高位となるように延在していることが好ましい。
【0010】
この開口の延在方向の長さaは100〜380mmであり、開口の該延在方向と直交方向の最大幅bは10〜180mmであることが好ましい。
【0011】
前記左半側エアバッグと右半側エアバッグの対面部分同士の下部に第2の開口が設けられ、左半側エアバッグの第2の開口の周縁部と右半側エアバッグの第2の開口の周縁部とが縫合されていることが好ましい。
【0012】
本発明のエアバッグ装置は、かかる本発明のエアバッグと、折り畳まれた該エアバッグを収容したリテーナと、該エアバッグを膨張させるインフレータとを備えたものである。
【0013】
このエアバッグ装置は、折り畳まれたエアバッグを収容したリテーナと、該エアバッグを膨張させるインフレータとを備えたものであってもよい。
【0014】
本発明の車両は、このエアバッグ装置を搭載してなるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のエアバッグにあっては、左半側エアバッグと右半側エアバッグの上部同士が開口によって連通され、また左半側エアバッグの開口と右半側エアバッグの開口の周縁部同士が縫合されている。本発明のエアバッグが膨張した状態にあっては、乗員対向面から上面にかけて連続して凹部が形成される。車両の前突時には、乗員の頭部が乗員対向面の該凹部に入り込むように受け止められる。また、左半側エアバッグが乗員の左胸を受け止め、右半側エアバッグが乗員の右胸を受け止める。この左右の胸には硬くて強い肋骨が存在する。このエアバッグは、この肋骨を介して乗員を受承し、乗員のエネルギーを吸収する。乗員の胸中央の胸骨付近は該凹部に対峙する。従って、乗員の身体がエアバッグによって受け止められた場合、胸の胸骨付近は、エアバッグからそれ程大きな反力を受けないようになり、この胸骨付近の入力が緩和させる。
【0016】
このエアバッグが膨張し、エアバッグ上面がウィンドシールドに接する場合、エアバッグ上部の凹部(以下、谷部ということがある。)の左右両側の頂部がウィンドシールドに接する。この状態でエアバッグが乗員を受け止めた場合、エアバッグはウィンドシールドに押し付けられ、谷部がウィンドシールドに接近する。本発明では、該開口が前後に細長いものとなっているところから、該谷部が浅いものとなる。そのため、エアバッグが乗員を受け止めたときに、谷部がそれ程上昇しないうちに谷部の最底部もウィンドシールドに当接又は接近し、ウィンドシールドとエアバッグの隙間が無くなり(埋められて)、ウィンドシールドとエアバッグの接触面積が広くなる。この結果、エアバッグが乗員を受け止めた瞬間(以下、拘束開始時ということがある。)からエアバッグが車両前方(ウィンドシールド側)に動きにくくなり、乗員がエアバッグから受ける反力が速やかに増大するようになる。
【0017】
本発明のエアバッグ装置を搭載した車両の助手席乗員が一方、例えば左側に偏って座っている状態において車両が前突した場合、乗員は主としてエアバッグの左室に受け止められ、左室の圧力が右室の圧力よりも高くなる。この左室内の上部のガスが開口を通って右室に流出することにより、乗員の頭部に加えられる入力が緩和される。この説明では、乗員が左側に偏っているものとなっているが、右側に偏っていても同様の効果が奏される。
【0018】
本発明では、上記開口を設けたことにより、左半側エアバッグ及び右半側エアバッグの上部が均等に膨張展開し、エアバッグ内圧も左半側エアバッグと右半側エアバッグとで均等となるという効果も奏される。
【0019】
左半側エアバッグ及び右半側エアバッグの下部同士を連通する第2の開口を設け、該第2の開口の周縁部同士を縫合した場合には、左半側エアバッグ及び右半側エアバッグの下部も均等に膨張展開し、両者の内圧が均等となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態に係るエアバッグの斜視図である。
【図2】図1のエアバッグの略水平断面図である。
【図3】(a)図は図2のIII−III線断面図、(b)図は第1の開口の側面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図1のエアバッグの分解斜視図である。
【図6】図1のエアバッグの膨張時の側面図である。
【図7】エアバッグの特性説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
第1図〜第4図の通り、このエアバッグ10は、乗員前方の右側において膨張する右半側エアバッグ12と、乗員前方の左側において膨張する左半側エアバッグ14と、該右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の基端側に連通する基端室16とを有する。左半側エアバッグ14と右半側エアバッグ12とは、それらの対峙面同士が縫目91S,92Sによって縫合されている。
【0023】
右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14とは、各々の対峙面に設けられた第1の開口91及び第2の開口92によって連通している。第1の開口91はエアバッグ10の上部に設けられ、第2の開口92は下部に設けられている。第1の開口91の開口面積は7500〜50000mm特に20000〜40000mm程度が好適であり、第2の開口92の開口面積は1200〜31400mm特に1900〜20000mm程度が好適である。左半側エアバッグ14の開口91と右半側エアバッグ16の開口91が重ね合わされ、その周縁部同士が縫目91Sによって縫合されている。左半側エアバッグ14の開口92と右半側エアバッグ16の開口92が重ね合わされ、その周縁部同士が縫目92Sによって縫合されている。縫目91S,92Sは、開口91,92を取り巻くように延在している。
【0024】
開口91は車両前後方向に細長い形状であり、具体的には、車体を前後方向に縦断する第6図の通り、膨張完了したエアバッグ10の上面がウィンドシールド120に当接した状態において、開口91の長手方向がウィンドシールド120と略平行方向に延在している。
【0025】
第3図(b)の通り、非膨張状態において、第1の開口91の長手方向の長さaと、これと直交方向の最大幅bとの比a/bは2.0〜10.0特に2.5〜6.5程度が好適である。aは100〜380mm、特に120〜280mm程度が好適であり、bは10〜190mm特に20〜110mm程度が好適である。
【0026】
このエアバッグ10が膨張完了した状態にあっては、エアバッグ10の最低部から第1の開口91の面積中心までの高さは、350〜830mmであることが好ましい。エアバッグ10の最低部から第2の開口92の面積中心までの高さは20〜350mm特に55〜200mm程度であることが好ましい。なお、面積中心とは、開口を一様な厚み及び一様な密度を有した板材とみなしたときの該板材の重心の位置である。
【0027】
エアバッグ10が膨張完了した状態にあっては、右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14の乗員対向面から上面部にかけて連続した凹部13が形成される。
【0028】
このエアバッグ10が膨張完了した状態にあっては、第2図の通り、右半側エアバッグ12の乗員側の最先端12tと左半側エアバッグ14の乗員側の最先端14tとの間隔Wは150〜450mm特に170〜430mmであることが好ましい。
【0029】
第3図(a)の通り、エアバッグ10の膨張完了状態であって、エアバッグ10がウィンドシールド120やインパネ、乗員等に当接していない状態において、上面部における凹部13(以下、このエアバッグ10の上面部の凹部13を谷部13ということがある。)のエアバッグ上面からの最小深さ、すなわちエアバッグ10の上面から縫目91Sまでの最短距離dは5〜80mm特に10〜50mmが好適である。
【0030】
この実施の形態では、右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の上下方向の中間付近かつ前後方向の中間付近に、それぞれ、エアバッグ10の左右方向に延在する連結帯93,94(第2図)が設けられている。この連結帯93,94によって右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の膨張時の左右幅を規制することにより、各バッグ12,14の容積を小さくし、インフレータとして出力の小さいものを使用することが可能となる。また、右半側エアバッグ12の最先端部12tと左半側エアバッグ14の最先端部14tとの間隔Wを規制することにより、乗員の肋骨をこれらのエアバッグ12,14によって拘束し、胸骨への負担を小さくする。
【0031】
この実施の形態では、膨張したエアバッグ10の左半側エアバッグ14及び右半側エアバッグ12の外側サイド面の上部を内方に引き込むように連結帯96(第4図)が設けられている。これは膨張したエアバッグ10とAピラーとの干渉防止のためである。96Sはこの連結帯96を逢着する縫目を示す。
【0032】
右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の外側サイド面にはベントホール18が設けられている。
【0033】
このエアバッグ10のパネル構成について第5図を参照して以下に説明する。なお、第5図は、このエアバッグ10を各パネルに分解した分解斜視図である。
【0034】
このエアバッグ10の外殻は、インサイドパネル20とアウトサイドパネル80とで構成されている。
【0035】
インサイドパネル20は、略瓢箪形の細長いパネルであり、第5図の通り、中央で2つ折りされることによりライトサイド20Rとレフトサイド20Lが形成される。このインサイドパネル20は、ライトサイド20Rが右半側エアバッグ12の内側面を構成し、レフトサイド20Lが左半側エアバッグ14の内側面を構成する。インサイドパネル20は、レフトサイド20Lの下辺28、先端辺21、上辺22、折り返し部付近の上辺23、ライトサイド20Rの上辺24、先端辺25、下辺26、及び、該折り返し部付近の下辺27によって全周の辺部が構成されている。
【0036】
アウトサイドパネル80は、右半側エアバッグ12の外側面を構成する右アウト面40と、左半側エアバッグ14の外側面を構成する左アウト面30と、基端室16を構成するためのマウス面50とを有している。
【0037】
該左アウト面30及び右アウト面40は、それぞれ、先端辺31,41、上辺32,42、及び下辺34,44によって外周の辺縁が構成されている。
【0038】
マウス面50は、左サイド面50A、底面50B、右サイド面50C、上面左サイドを構成する左フラップ50D、上面右サイドを構成する右フラップ50Eを有している。前記左アウト面30の基端側は該左サイド面50Aに連なり、右アウト面40の基端側は該右サイド面50Cに連なっている。このマウス面50は、各サイド面50A,50Cが略三角形となるように折られ、且つ、エアバッグ先端側に向って開放している。
【0039】
このマウス面50は、略長方形状のフラップ50D,50E同士の対向辺51,52、フラップ50D,50Eの後側辺(フラップ後側辺)53,54、フラップ50D,50Eの前側辺55,56、該前側辺55,56に対向する前辺57、及び底面50Bの後側辺(底部後側辺)60によって外縁が構成されている。
【0040】
該フラップ後側辺53,54は、それぞれ左アウト面30及び右アウト面40の上辺32,42に連なり、底部後側辺60の両端側は、それぞれ左アウト面30及び右アウト面40の下辺34,44に連なっている。
【0041】
インサイドパネル20のレフトサイド20L及びライトサイド20Rの上部には、それぞれ、左半側エアバッグ14内と右半側エアバッグ12内とを連通するための第1の開口91が設けられている。また、レフトサイド20L及びライトサイド20Rの下部にも、それぞれ、左半側エアバッグ14内と右半側エアバッグ12内とを連通するための第2の開口92が設けられている。
【0042】
レフトサイド20L及びライトサイド20Rの各開口91,92同士の間には、それぞれ連結帯94の基端が縫目94S(第2図)によって縫着されている。
【0043】
アウトサイドパネル80には、連結帯94に対峙する位置に連結帯93の基端が縫目93S(第2図)によって縫着されている。図示は省略するが、連結帯95の端部も同様にパネル20,80の縫着されている。
【0044】
なお、第5図では、図面を明瞭とするために連結帯93,94,95は図示が省略されている。
【0045】
アウトサイドパネル80の左右方向の中央部にはインフレータ115(第6図)からのガス導入用の開口であるマウス70(第2,3図)が設けられている。
【0046】
このエアバッグ10を製作するには、第5図のように、まずマウス面50のフラップ50D,50Eの対向辺51,52同士を縫合する。第5図の51Sはこの縫合の縫目を示している。
【0047】
次に、インサイドパネル20のレフトサイド20Lとライトサイド20Rとを重ね合わせるようにインサイドパネル20を二ツ折りにし、開口91,92を取り巻く縫目91S,92Sによって両サイド20L,20Rを縫合する。次いでアウトサイドパネル80の左アウト面30とインサイドパネル20のレフトサイド20Lとを対面させ、先端辺21,31同士、上辺22,32同士、下辺28,34同士をそれぞれ縫合すると共に、アウトサイドパネル80の右アウト面40とインサイドパネル20のライトサイド20Rとを対面させ、先端辺25,41同士、上辺24,42同士、下辺26,44同士を縫合する。また、アウトサイドパネル80のマウス面50のフラップ後側辺53,54をインサイドパネル20の折り返し部付近の上辺23付近と縫合し、該マウス面50の底部後側辺60を折り返し部付近の下辺27付近と縫合する。次いで、連結帯93,94の先端同士を縫目95S(第2,5図)によって縫合する。連結帯96についても同様に縫合する。
【0048】
これらの縫合により、エアバッグ10(第1図)を表裏逆にした状態、即ち、縫い合せ代がエアバッグの表側に露出した状態となる。第5図の通り、マウス面50のフラップ前側辺55,56と前辺57とは、まだ縫合されておらず、この状態では開放口Mとなっている。
【0049】
そこで、この開放口Mを通してエアバッグを表裏反転させる。しかる後、この開放口Mを縫目50S(第1,2図)で縫合することにより、第1図のエアバッグ10となる。
【0050】
なお、第2図の通り、基端室16の底面50Bに、インフレータ115(第7図)からのガス導入用の開口(マウス)70が配置される。
【0051】
このエアバッグ10は、2枚のパネル20,80により外殻が構成されるため、縫合の手間が容易である。
【0052】
このエアバッグ10は、車両衝突時に自動車の助手席乗員を拘束するために、助手席用エアバッグ装置に装着される。
【0053】
第6図の通り、該助手席用エアバッグ装置は、インストルメントパネル110内に設置された、エアバッグ10を収容するための容器状のケース(リテーナ)114と、エアバッグ10を膨張させるためのインフレータ115等を備えている。該インフレータ115はリテーナ114に配置されている。エアバッグ10が折り畳まれてこのリテーナ114内に収容されている。そして、このエアバッグ10の折り畳み体を覆うようにケースにリッドが装着されている。該リッドは、エアバッグ10が膨張するときに該エアバッグ10からの押圧力によって開裂するようになっている。第6図の符号120はウィンドウシールドを示す。
【0054】
このエアバッグ装置の作動は次の通りである。
【0055】
このエアバッグ装置を搭載した自動車が衝突した場合、インフレータ115がガス噴出作動する。このインフレータ115からのガスは、まず基端室16を膨張させ、次いで右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14内に流入してこれらを膨張させる。
【0056】
このエアバッグ10にあっては、先に膨張した基端室16は、インストルメントパネル110とウィンドシールド120の間で膨張することで、姿勢が安定する。このため、右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14は、膨張完了時だけでなく膨張途中時でも姿勢が安定する。
【0057】
また、膨張した基端室16から右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14にガスが略均等に供給されると共に、右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14の先端側同士が開口91,92によって連通されているので、該右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14の双方が膨張初期の段階からスムーズに且つ左右略均等に膨張するようになる。例えば、開口91,92が設けられていないと、右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の内圧が不均一となることで該右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の膨張が不均一となり、これによってエアバッグ10の展開挙動が不安定になる可能性があるが、開口91,92を設けることにより、右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ12の不均一な展開及び膨張時の暴れが抑制される。
【0058】
エアバッグ10が膨張完了した状態において、乗員対向面から上面にかけて、左右方向の中央に、凹部13が形成される。乗員対向面にあっては、右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14の間に、上下方向に延在した谷間状の凹部13が形成され、この凹部13が乗員に向って開放している。
【0059】
乗員が助手席の左右方向の中央に座っていたときには、膨張した右半側エアバッグ12が乗員Pの右胸を受け止め、膨張した左半側エアバッグ14が左胸を受け止め、胸骨付近は凹部13に対峙する。このため、胸骨付近に加えられるエアバッグ受承時の入力は緩和される。頭部は、凹部13に入り込んで受け止められる。
【0060】
このエアバッグ10にあっては、上面部における開口91の上側の谷部13の深さd(第3図(a))が小さいものとなる。即ち、第1の開口91が車両前後方向に延在しているところから、エアバッグ10の膨張圧によって谷部13に対し押し上げるようにガス圧が作用したときに、開口91の上下幅が大きく拡大し、開口91の上側における谷部13の深さdが小さくなる。第7図(A)はこのエアバッグ10の上面部のウィンドシールド120との接触状況を模式的に示している。
【0061】
仮に開口91の開口面積は同一であるが、前後方向の長さを上下幅よりも小さくしたエアバッグ10’を同様に膨張させた場合には、第7図(B)のように、谷部13が深いものとなる。これは、エアバッグ膨張時に開口91の前後のインサイドパネル20が開口91の上側方向への膨張変形が規制されるためである。
【0062】
谷部13が浅いエアバッグ10(第7図(A))の場合、乗員を受承したエアバッグ10がウィンドシールド120に押し付けられたときに、谷部13の谷底(縫目91S部分)とウィンドシールド120との距離Lが小さいので谷底が直ぐにウィンドシールド120に接するか近接し、エアバッグとウィンドシールドの接触面積が広くなることで、乗員対向面の車両前方への移動が抑制される。そのため、乗員の拘束開始後に乗員に対し与えられる反力は、第7図(C)の線Aのように早期に立ち上がる(大きくなる)。
【0063】
これに対し、谷部13が深いエアバッグ10’(第7図(B))の場合には、乗員の拘束開始後、ウィンドシールド120と谷底の縫目91S部分との距離Lが大きいので、谷底(縫目91S部分)がウィンドシールド120に接するか近接するまでのエアバッグ10’の移動長が第7図(A)の場合よりも大きい。そのため、エアバッグ10’が乗員を拘束開始してから反力が立ち上がるまでの時間が第7図(C)の線Bのように遅れるようになる。
【0064】
本発明のエアバッグ10の場合、乗員拘束初期の反力が向上することで乗員拘束性能の向上が図れる。
【0065】
なお、この実施の形態においては、第3図(a)の通り、縫目92S,94Sと基端室16との間における右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14との間に、上下方向に貫通する空洞部90Vが存在する。この空洞部90Vは、エアバッグ10の膨張完了状態において、その下端側が少なくとも部分的にインパネ110の最後端部110a(第6図)よりも車両後方側に位置するように形成されている。即ち、エアバッグ10の膨張完了状態においては、この空洞部90Vの下端側の開口部が、少なくとも部分的に、インパネ110の最後端部110aよりも車両後方において該エアバッグ10の下面に露呈する。従って、エアバッグ10が膨張するときに、インパネ110の近傍に物体が存在していても、この物体が空洞部90Vに呑み込まれるようになる。
【0066】
上記実施の形態では、右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14とは対称形状となっているが、非対称形状であってもよい。また、右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14の容積は同一であってもよく、異なってもよい。
【0067】
上記実施の形態はいずれも本発明の一例であり、本発明は図示以外の形態をもとりうる。
【符号の説明】
【0068】
10,10’,10A エアバッグ
12 右半側エアバッグ
13 凹部(谷部)
14 左半側エアバッグ
16 基端室
18 ベントホール
20 インサイドパネル
30 右アウト面
40 左アウト面
50 マウス面
80 アウトサイドパネル
91,92 開口
93,94,95 連結帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のインストルメントパネルから乗員に接近するように車両後方へ向って膨張し、助手席乗員の前方に膨張した状態において乗員対向面から上面にかけて連続した凹部が形成されるエアバッグであって、
車両前方側に配置された基端室と、
該基端室に連なり、乗員前方の左側において膨張する左半側エアバッグと、
該基端室に連なり、乗員前方の右側において膨張する右半側エアバッグと
を有し、
該左半側エアバッグと右半側エアバッグの対面部分同士の上部にそれぞれ開口が設けられ、左半側エアバッグの該開口の周縁部と右半側エアバッグの該開口の周縁部とが縫合されているエアバッグにおいて、
該開口は車両前後方向に延在していることを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
請求項1において、膨張状態のエアバッグの上面から該エアバッグ上面の凹部の最底部までの最短距離dが5〜80mmであることを特徴とするエアバッグ。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記開口は、車両後方側が高位となるように延在していることを特徴とするエアバッグ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、非膨張時における前記開口の延在方向の長さaが100〜380mmであり、開口の該延在方向と直交方向の最大幅bが10〜180mmであることを特徴とするエアバッグ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記左半側エアバッグと右半側エアバッグの対面部分同士の下部に第2の開口が設けられ、左半側エアバッグの第2の開口の周縁部と右半側エアバッグの第2の開口の周縁部とが縫合されていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のエアバッグと、折り畳まれたエアバッグを収容したリテーナと、該エアバッグを膨張させるインフレータとを備えたエアバッグ装置。
【請求項7】
請求項6に記載のエアバッグ装置を搭載してなる車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−52716(P2013−52716A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190811(P2011−190811)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】