説明

エアバッグ装置

【課題】エアバッグの展開力を利用してボンネットフードをポップアップさせつつ、エアバッグの展開自体もスムーズに行なうこと。
【解決手段】 車両のボンネットフード28の下方に設けられ、フロントウィンドウ46上に展開可能なエアバッグ24と、エアバッグ24内部にガスを供給するガス供給手段35と、エアバッグ24の展開力を、ボンネットフード28下面に伝達し、ボンネットフードを上方に変位させるフード変位手段29と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントウィンドウの外側で広がるエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両と障害物等との衝突時に、車両のボンネット上からフロントウィンドウの前面付近に膨張して展開する、いわゆるウィンドウエアバッグという技術が提案されている。そして、このようなウィンドウエアバッグ装置の中には、エアバッグの膨張力を用いてボンネットフードを持ち上げ、その隙間からエアバッグをフロントウィンドウ上に展開する、いわゆるポップアップフード機能を有した装置も提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−308028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ウィンドウエアバッグとして求められる展開力が強すぎて、ボンネットフードが変形してしまい、ウィンドウエアバッグが作動不良を起こすことがあった。ボンネットフードが変形しないように、エアバッグの展開初期の展開力を調整することも考えられるが、それでは、エアバッグの展開遅れが起きたりフード上昇が不安定になるという問題があった。
【0004】
本願発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、エアバッグの展開力を利用してボンネットフードをポップアップさせつつ、エアバッグの展開自体もスムーズに行なうことのできるエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係るエアバッグ装置は、
車両のボンネットフード下方に設けられ、フロントウィンドウ上に展開可能なエアバッグと、前記エアバッグ内部にガスを供給するガス供給手段と、前記エアバッグの展開力を、前記ボンネットフード下面に伝達し、前記ボンネットフードを上方に変位させるフード変位手段と、を備える。このようにフード変位手段を設けたので、適切な力でボンネットフードを上方に変位させることができ、フードの変形を防止しつつも、エアバッグを遅れなく展開させることができる。
【0006】
また、前記フード変位手段は、前記エアバッグの展開力の前後方向成分を、ボンネットフードの下面に対する上方成分の押圧力に変換するので、効率的にボンネットフードをポップアップさせることができる。
【0007】
ここで、前記フード変位手段は、前記ボンネットフードに取り付けられ、前記エアバッグの展開力を受ける受圧部と、前記受圧部に接続され、前記受圧部で受けた力を伝達する伝達部と、前記伝達部と当接することにより、前記ボンネットフードを上方に付勢する当接部と、を含むことを特徴とする。これによれば、簡単な構成で、高品質なエアバッグ装置を実現できる。
【0008】
前記フード変位手段は、前記ボンネットフードの下面に取り付けられ、前記エアバッグの展開力を受けて回動可能な回動部と、回動中の前記回動部と当接することによって、前記回動部の回動力の反力を前記回動部に与える当接部と、を含むことを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、従来のようなエアバッグの展開力の直接ボンネットに伝える構成に比べ、より効果的かつ安定してボンネットフードをポップアップできるエアバッグ装置を実現できる。
【0010】
前記回動部は、前側端部を前記ボンネットフードの車幅方向中央下面に軸支され、前記エアバッグの展開力を受けて前記ボンネットフードの下方に向けて回動可能に取り付けられ、
前記当接部は、前記回動部の下方に設けられ、回動中の前記回動部と当接して、前記回動部の回動力の反力を前記回動部に与え、
前記回動部は、前記当接部から受けた前記反力を前記ボンネットフードに伝達し、前記ボンネットフードを上方に変位させることを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、従来のようなエアバッグの展開力の直接ボンネットに伝える構成に比べ、より効果的にボンネットフードをポップアップできるエアバッグ装置を実現できる。
【0012】
前記回動部は、前記エアバッグの展開力を直接受けて回動する受圧部と、前記受圧部の回動を前記ボンネットフードの車幅方向両端側に伝達する伝達軸と、前記ボンネットフードの車幅方向両端付近で前記伝達軸に固定され、前記伝達軸を中心に回動する両端回動部と、を含み、
前記当接部は、前記両端回動部と当接することによって、前記ボンネットフードの車幅方向両端部を上方に付勢することを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、エアバッグの展開力によってボンネットフードの中央部のみが変形することを防止できる。
【0014】
展開前の折り畳まれたエアバッグを収納する収納ケースの一部が前記回動部として機能することを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、エアバッグ装置を全体としてコンパクトにできる。
【0016】
更に、前記ボンネットフードを上方に変位させる力を低減させる変位力低減機構を備えることを特徴とする。また、前記回動部が前記当接部から受ける前記反力を緩衝する緩衝部材を備えることを特徴とする。
【0017】
これによれば、エアバッグの展開力を抑制することなく、ボンネットフードに伝わる力を低減でき、ボンネットフードの変形を防止できる。
【0018】
前記ボンネットフードの変位量を規制する規制手段を更に有することを特徴とする。これによれば、ボンネットフードが変位しすぎることによる不都合を防止できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、エアバッグの展開力を利用してボンネットフードをポップアップさせつつ、エアバッグの展開自体もスムーズに行なうことのできるエアバッグ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0021】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係るエアバッグ装置を適用した車両22を、前方から見た場合の外観図である。図1は、エアバッグ装置のエアバッグが展開した直後の状態を示している。
【0022】
車両22のエンジンルーム内において、ボンネットフード28の後端裏面付近(車体カウル部)には、エアバッグ24の収納ケース29が取り付けられている。収納ケース29は、車幅方向に延びる略矩形箱状をなしており、通常時はその内部に、エアバッグ24が折り畳まれた状態で収納されている。収納ケース29は、エアバッグ24内部にガスを注入して膨張させるためのガス供給手段としてのインフレータ(図1では不図示)を更に備えている。そして、バンパー付近の歩行者センサ(不図示)によって歩行者との衝突を予測すると、インフレータを駆動し、収納ケース29に収納されたエアバッグ24に対してガスを充填する。これにより、図1に示すようにフロントウィンドウ46の全幅に渡ってエアバッグが広がる。エアバッグ24は、その右展開部44及び左展開部45が、中央展開部47に比べて上方に張り出す形状となっている。なお、収納ケース29は、エアバッグ24がインフレータによって膨張する際に、その膨張力によって部分的に破断し、展開する構造となっている。
【0023】
図2は、車両22の前方部分を上方から見た場合の図である。
【0024】
ボンネットフード28下のエンジンルームには、図2に示すように、サスタワー31、32が、左右両側に設けられている。そして、サスタワー31、32に挟まれる位置に収納ケース29が配置されている。ここで、収納ケース29は、その前側端部29aがボンネットフード28の車幅方向中央下面に取り付けられ、その端部29aを軸にして全体として下向きに回動可能な構成となっている。
【0025】
ボンネットフード28とフロントウィンドウ46との間には、左右のフロントピラーをつなぎ、ワイパーなどを取り付けるためのカウルトップ10が設けられるが、その一部が、収納ケース29の下方に張り出しており、軸29aを中心に回動した収納ケース29が当接する当接部11を形成している。
【0026】
図3は、収納ケース29の構造及び当接部11との関係をより詳しく示す図であり、図2のA−A断面図である。図3(a)は、エアバッグ24の展開前の状態を示しており、図3(b)は、展開後の状態を示している。
【0027】
収納ケース29には、図3のようにインフレータ35が収納されており、そのインフレータ35のガス流出口が、折り畳まれたエアバッグ24(点線で図示)の内部に挿入されている。
【0028】
また、収納ケース29は、ボンネットフード28の下面に取り付けられた回動軸29aと、回動軸29aに接続された底面部29bと、底面部29bの端部に設けられたヒンジ部29cと、エアバッグ24の後方(図中右方向)への展開力を受けてヒンジ部29cを中心を回動可能な受圧部29dとを含む構成となっている。そして、収納ケース29の全体が、回動部として回動軸29aを中心として回動可能となっている。
【0029】
収納ケース29の下方には、当接部11が配置されている。ここでは、当接部11が、カウルトップ10の一部として構成されている場合について図示しているが、本発明はこれに限定されるものはなく、カウルトップ10とは別体であっても良い。
【0030】
衝突を予知し、インフレータ35を駆動して、ガスをエアバッグ24の内部に注入すると、エアバッグ24の前方への展開力が受圧部29dに付与され、受圧部29dがヒンジ部29cを中心として下方に回動する。更に、エアバッグ24の後方への展開力(前方への展開力の反力)が底面部29bに付与され、底面部29bが回動軸29aを中心として下方に回動する。
【0031】
ボンネットフード28の下面には予めストッパ30が設けられており、底面部29bの前方端部がストッパ30と当接することによって底面部29bの回動が止まる。一方、受圧部29dは、ヒンジ部29cを中心として回動しながら、当接部11と当接する。これにより、当接部11は、収納ケース29に対して、その回動力の反力を付与する。つまり、収納ケース29は、当接部11から上方への付勢力を受け、これにより、図3(b)に示すようにボンネットフード28をポップアップ(上方に変位)する。
【0032】
なお、ストッパ30に代えて、ヒンジ部29cと、カウルトップ10とを結ぶワイヤを設けても良い。ヒンジ部29cが所定距離以上カウルトップ10から離れないようにすることにより、ストッパ30と同様に、収納ケース29の回動量を制限する機能を実現する。これにより、ボンネットフード28の上方への変位量を規制することができる。
【0033】
以上のような構成により、適切な力でボンネットフードを上方に変位させることができ、フードの変形を防止しつつも、エアバッグを遅れなく展開させることができる。しかし、更に、ボンネットフードを上方に変位させる衝撃力を低減させたい場合に、採ることのできる方策について、図4を用いて説明する。つまり、図4は、ボンネットフードを上方に変位させる力を調整する機構について説明する図である。
【0034】
まず、図4において、底面部29b及び受圧部29dの形状によって決まるレバー長さ(収納ケース29の底面長さ)L1を長くすることによってトルクを小さくすることができる。そしてその場合、L2に示される後面高さを大きくすることによって開口面積を確保することができる。
【0035】
また、図4のように、ストッパ30が収納ケース29と当接する面積を大きくすることによって、ボンネットフード28に局所的に力が加わることを防止でき、ボンネットフード28の変形を防止できる。更に、当接部11に緩衝材12を設けることによっても、収納ケース29が当接部11から受ける衝撃力を小さくすることができ、ボンネットフード28の変形を防止できる。
【0036】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第1実施形態では、収納ケース29が回動することにより、その一部が当接部11と当接して、当接部11から上方への付勢力を受ける構成となっていたが、本実施形態では、収納ケース29の一部がエアバッグ24の展開力を受けて回動すると、その回動が車幅方向両端に設けられたレバーに伝達され、そのレバーがフェンダー上面に取り付けられたプレートに当接することによって、ボンネットフードの両端を優先的にポップアップする。その他の構成及び作用については、第1実施形態と全く同一であるため、同じ構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0037】
図5に示すように、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、サスタワー31、32の間の車幅方向中央部分にエアバッグ24の収納ケース29が取り付けられている。収納ケース29の前方端部は、ボンネットフード28の下面に固定されており、後方端部は、伝達部としての回動軸51を中心に回動可能となっている。回動軸51は収納ケース29から車幅方向両端側に延設されており、その端部には、レバー52、53が取り付けられている。レバー52、53の下方には、左右のフロントフェンダの上面にプレート54、55が取り付けられており、レバー52、53が回動することによりプレート54、55と当接可能となっている。
【0038】
図6は、エアバッグ展開前の収納ケース29の構造及び当接部11との関係をより詳しく示す図であり、図6(a)は、図5のA−A断面図を、図6(b)は、B−B断面図を示している。図7は、エアバッグ展開後の収納ケース29の構造及び当接部11との関係を示す図であり、図7(a)は、図5のA−A断面図を、図7(b)は、B−B断面図を示している。
【0039】
収納ケース29は、エアバッグ24の展開力を直接受けて回動する受圧部29aを含む。そして、受圧部29aの回動をボンネットフード28の車幅方向両端側に伝達する伝達軸としての回動軸51が収納ケース29から、車幅方向両端側に向けて延設されている。ボンネットフード28の車幅方向両端付近には、回動軸51に固定され、回動軸51を中心に回動する両端回動部としてのレバー52と、当接部としてのプレート54とが設けられている。
【0040】
エアバッグ24の展開時には、受圧部29aが、その展開力を受けて後方(図中右方向)に回動する。この際、回動軸51が回動するため、その回動力は、車幅方向両端付近で回動軸51に固定されたレバー52に伝わる。そして、レバー52が回動してプレート54に当接すると、プレート54が、レバー52に対して回動力の反力を付与し、これにより、ボンネットフード28の車幅方向両端部が上方に付勢される。プレート54にはストッパ56が設けられており、レバー52はストッパ56に当接する位置で回動を止める。このような動作によって、図7に示すような状態になり、図7(b)に示すように、ボンネットフード28は、フェンダ57に比べて上方に変位する。
【0041】
以上説明したような第2実施形態の構成によれば、エアバッグの展開力によってボンネットフードの中央部のみが変形することを防止でき、エアバッグをスムーズに動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエアバッグ装置を適用した車両22を、前方から見た場合の外観図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るエアバッグ装置を適用した車両22の前方部分を上方から見た場合の図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る収納ケース29と当接部11との関係をより詳しく示す断面図である。
【図4】ボンネットフードを上方に変位させる力を調整する機構について説明する図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るエアバッグ装置を適用した車両22の前方部分を上方から見た場合の図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る収納ケース29と当接部11との関係をより詳しく示す断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る収納ケース29と当接部11との関係をより詳しく示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のボンネットフード下方に設けられ、フロントウィンドウ上に展開可能なエアバッグと、
前記エアバッグ内部にガスを供給するガス供給手段と、
前記エアバッグの展開力を、前記ボンネットフード下面に伝達し、前記ボンネットフードを上方に変位させるフード変位手段と、
を備えることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記フード変位手段は、前記エアバッグの展開力の前後方向成分を、ボンネットフードの下面に対する上方成分の押圧力に変換することを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記フード変位手段は、
前記ボンネットフードに取り付けられ、前記エアバッグの展開力を受ける受圧部と、
前記受圧部に接続され、前記受圧部で受けた力を伝達する伝達部と、
前記伝達部と当接することにより、前記ボンネットフードを上方に付勢する当接部と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記フード変位手段は、
前記ボンネットフードの下面に取り付けられ、前記エアバッグの展開力を受けて回動可能な回動部と、
回動中の前記回動部と当接することによって、前記回動部の回動力の反力を前記回動部に与える当接部と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記回動部は、
前側端部を前記ボンネットフードの車幅方向中央下面に軸支され、前記エアバッグの展開力を受けて前記ボンネットフードの下方に向けて回動可能に取り付けられ、
前記当接部は、
前記回動部の下方に設けられ、回動中の前記回動部と当接して、前記回動部の回動力の反力を前記回動部に与え、
前記回動部は、前記当接部から受けた前記反力を前記ボンネットフードに伝達し、前記ボンネットフードを上方に変位させることを特徴とする請求項4に記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記回動部は、
前記エアバッグの展開力を直接受けて回動する受圧部と、
前記受圧部の回動を前記ボンネットフードの車幅方向両端側に伝達する伝達軸と、
前記ボンネットフードの車幅方向両端付近で前記伝達軸に固定され、前記伝達軸を中心に回動する両端回動部と、
を含み、
前記当接部は、前記両端回動部と当接することによって、前記ボンネットフードの車幅方向両端部を上方に付勢することを特徴とする請求項4に記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
展開前の折り畳まれたエアバッグを収納する収納ケースの一部が前記回動部として機能することを特徴とする請求項4、5、または6に記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
更に、前記ボンネットフードを上方に変位させる力を低減させる変位力低減機構を備えることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項9】
更に、前記回動部が前記当接部から受ける前記反力を緩衝する緩衝部材を備えることを特徴とする請求項5に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
前記ボンネットフードの変位量を規制する規制手段を更に有することを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−44323(P2006−44323A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224519(P2004−224519)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】