説明

エアバッグ装置

【課題】エアバッグの後方側端部を乗員に接触するのを防止しつつ正常に展開させ、その展開範囲の車両内側壁を確実に覆う。
【解決手段】エアバッグ10の車両後方側端部に、第1の気室33Aと、前方側に隣接する第2の気室33Bとを区画し、両気室33A、33Bの下端部同士を連通部33Cで連通させる。エアバッグ10を、連通部33Cの上側を通って交差する第1と第2の折り目40、41に沿って順に折り返した後、下縁から上縁に向けて折り畳んで車両に取り付ける。膨張展開時には、エアバッグ10が車両の下方に向けて展開して、流入するガスにより第2の気室33Bが膨張し、第2の折り目41の折り返しが解消する。続いて、第1の折り目40の折り返しが解消して第1の気室33A内にガスが流入し、第1の気室33Aが膨張して、エアバッグ10が後方側端部まで膨張展開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載されるエアバッグ装置に関し、特に、折り畳まれた状態のエアバッグが、車両内側壁の上方部に車両前後方向に沿って取り付けられるエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突時や緊急時に前席や後席の乗員を保護するため、車両内の窓部を含む側壁に沿って、乗員との間にエアバッグをカーテン状に展開させる側面用のエアバッグ装置(カーテンエアバッグ装置)が普及している。このエアバッグ装置では、乗員の頭部を中心に確実に受け止めて保護するため、エアバッグの全体を車両内側壁と乗員との間に迅速、円滑に膨張展開させることが要求されている。特に、エアバッグの車両後方側の部分は、車両下方に展開するときに、車両内後部で車室内に突出するピラーガーニッシュに引っ掛かるのを防止するため、ピラーガーニッシュに対して車室内から覆うように展開させる必要がある。
【0003】
そのため、従来、エアバッグに、後端部の端側膨張部と、その前方側に隣接して下端の流入口から端側膨張部にガスを流入させる隣接膨張部とを設け、端側膨張部を、隣接膨張部内の折り目で前方側に折り返した後、エアバッグを下縁側から上縁側に折り畳んだエアバッグ装置が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
この従来のエアバッグ装置は、ガスの発生により、エアバッグが下方に展開した後に、隣接膨張部内の折り目が解消して端側膨張部が車両後方側に向かって展開し、端側膨張部が下側から膨張してピラーガーニッシュを車室内から覆う。ところが、このエアバッグ装置では、隣接膨張部内の折り目がエアバッグの後端に比較的近く設定され、エアバッグの折り返し長さが短いときには、折り目の解消を含む端側膨張部の展開速度が速くなる。その結果、端側膨張部が展開に伴う力で逆側まで展開し、車室内側から車両内側壁側に反転する等して、エアバッグの正常な展開が妨げられ、エアバッグの後方側端部により、その展開範囲内のピラーガーニッシュを覆えない恐れがある。これに対し、エアバッグの折り返し長さを長く設定したときには、その展開する後方側端部が乗員側に大きく侵入して、乗員に接触する恐れが生じる。
【0005】
また、この従来のエアバッグ装置では、エアバッグが車両の下方に展開する途中であり、隣接膨張部が完全に展開する前に、隣接膨張部内の折り目の一部が解消して、流入口から端側膨張部にガスが流入することも考えられる。この場合には、エアバッグの展開途中に端側膨張部が展開を開始するため、端側膨張部がエアバッグの下方への展開終了前に展開して、車室内に突出するピラーガーニッシュの側壁に引っ掛かり、その範囲を車室内側から覆えない恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−67045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、車両の上方から膨張展開するエアバッグの後方側端部を、乗員に接触するのを防止しつつ正常に展開させ、その展開範囲の車両内側壁を確実かつ円滑に覆って乗員を保護することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両内側壁の上方部に折り畳まれた状態で車両前後方向に沿って取り付けられるエアバッグと、エアバッグにガスを供給して車両下方に向けて膨張展開させるインフレータと、を備えたエアバッグ装置であって、エアバッグは、車両前後方向の後方側端部に形成された第1の気室と、第1の気室の前方側に隣接し、下端部同士の連通部を介して第1の気室にガスを流入させて膨張させる第2の気室と、連通部の上側を通って第1と第2の気室を横断し、エアバッグの下縁側から上縁側に向かって車両前後方向の後方側に傾斜し、両気室を塞いでガスの流れを遮断可能に設定された折り目とを有し、折り目に沿って折り返されて、下縁から上縁に向けて折り畳まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両の上方から膨張展開するエアバッグの後方側端部を、乗員に接触するのを防止しつつ正常に展開させることができ、その展開範囲の車両内側壁を確実かつ円滑に覆って乗員を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態のエアバッグ装置が備えるエアバッグの要部を模式的に示す正面図である。
【図2】本実施形態のエアバッグの折り畳み手順を示す正面図である。
【図3】本実施形態のエアバッグの他の折り畳み手順を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のエアバッグ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
このエアバッグ装置は、車両内側壁の上方部からエアバッグを側壁に沿って下方に向けて膨張展開させるエアバッグ装置であり、所定状態に折り畳まれた膨張展開可能なエアバッグと、車両緊急時や衝撃検知時等にガスを発生するインフレータとを備えている。以下の実施形態では、エアバッグ(カーテンエアバッグ)を車両側部上方から膨張展開させ、前席から後席までを含む車両側方内側の所定範囲にエアバッグをカーテン状に展開させて、各席の乗員を、頭部を中心に保護する側面用のエアバッグ装置(カーテンエアバッグ装置)を例に採り説明する。
【0012】
図1は、本実施形態のエアバッグ装置が備えるエアバッグの要部を模式的に示す正面図であり、展開状態のエアバッグの概略形状を平面展開図で示している。また、図1では、エアバッグの内部を透視して内部構成も示している。
なお、図1では、横長なエアバッグ10の右側が車両における後方側(リアピラー側)、その逆側(図ではエアバッグ10の左側)が車両における前方側(フロントピラー側)である。また、本実施形態のエアバッグ装置1では、エアバッグ10は、車両側部上方(図ではエアバッグ10の上側)のルーフレール部等(図示せず)に配置及び収納され、ガスの導入により、収納された状態から車両下方に向けてカーテン状に膨張展開する。これにより、エアバッグ10は、車両内の側方窓部を含む車両内側壁(図では紙面奥側に位置)(図示せず)に沿って、その全体を覆うように膨張展開し、乗員と側壁等との間に膨張展開する。
【0013】
エアバッグ10は、図示のように、覆うべき車両内側壁の窓部の形状等に応じた形状の横長な袋状に形成され、上縁に沿って、車両のルーフレール部に取り付けられる複数(図では8つ)の矩形状の上部取付片11を有する。また、エアバッグ10は、車両前方側に向かって突出する略三角形状の突片12を有し、その上縁に、車両のフロントピラー部に取り付けられる前部取付片13が設けられている。エアバッグ10は、各取付片11、13が、それぞれ車両内の所定位置にボルト等からなる固定手段により固定されて、車両内側壁の上方部に車両前後方向に沿って取り付けられ、膨張前の状態では、車両各部に設けられたトリム内等に収納される。その際、エアバッグ10は、後述するように、下縁から上縁(各取付片11、13側)に向けて所定の手順で、主に車両下方に膨張展開可能に折り畳まれ、折り畳まれた状態で車両に取り付けられる。
【0014】
従って、エアバッグ装置1は、非動作時に、エアバッグ10やインフレータを所定状態で収納して車内側を覆う、収納位置に沿ってルーフレール部等に取り付けられるトリムや、エアバッグ10やインフレータを車両に固定する固定手段(それぞれ図示せず)を備えている。エアバッグ装置1は、これら各部とともに車両に搭載され、車両緊急時等には、インフレータを作動させてガスをエアバッグ10に供給し、折り畳まれたエアバッグ10を膨張展開させる。これに伴い、エアバッグ10は、収納状態から膨張してトリムを押し開き、そこから主に車両下方に向かって展開する。
【0015】
このようなエアバッグ10は、例えば樹脂を被覆した基布を裁断等して形成した2枚の同形状の基布を重ね合わせ、又は対称形状の1枚の基布を折り重ねて、縁部に沿って互いに縫製や接着する等、対向する基布同士を所定位置で気密状に接合し、その間に膨張部30を形成することで袋状に形成される。
【0016】
本実施形態では、エアバッグ10を、同形状をなす乗員側の表側基布20及び、車両内側壁側の裏側基布21から構成し、それらを重ね合わせて、対向する基布20、21同士を外縁接合部22に沿って接合して形成している。この外縁接合部22は、エアバッグ10の内外を区画して膨張部30の外縁形状を規定する接合部であり、形成すべき膨張部30の外縁部に対応する位置に沿って、基布20、21同士を1周又は複数周縫製等して形成される。これにより、膨張部30を、車両前方側から後方側に順に配置された、それぞれ平面視略矩形状の前部膨張部31、中間膨張部32、及び後部膨張部33と、各膨張部31、32、33を連結するエアバッグ10の上縁に沿う連結部34とからなり、車両の前後方向に連続する袋状に形成している。また、このエアバッグ10では、前部膨張部31、中間膨張部32、及び後部膨張部33を、順に車両前後方向の幅が狭くなるように区画し、それぞれ車両内で乗員を保護すべき範囲に配置して、前部膨張部31により主に前席の乗員を、他の膨張部32、33により主に後席の乗員を保護する。その際、後部膨張部33の後方側の範囲(ここでは、車両内で最後部に位置する上部取付片11よりも後方側の範囲)は、リアピラーのピラーガーニッシュの車室内側に位置する。
【0017】
加えて、このエアバッグ10では、中間膨張部32の上方に、連結部34と連通するガス導入口14を設け、ガス導入口14からインフレータ(図示せず)が発生するガスを内部に導入し、膨張部30に供給して流入させる。ガス導入口14は、エアバッグ10の上縁から基布20、21を上方に突出させ、その縁部に沿って外縁接合部22と連続して接合することで、車両後方側が開口する筒状に形成される。エアバッグ装置1は、このガス導入口14内に、例えばガスの案内部材や整流部材等を挟んで、筒状をなすシリンダタイプのインフレータの一端部(ガス噴出し口)を挿入し、それらをまとめて、クランプ(バンド)(図示せず)により外側から締め付けて固定する。このようにして、ガス導入口14にインフレータを気密状に取り付け、インフレータが発生するガスを、ガス導入口14から連結部34を通して、各膨張部31、32、33に順次流入させ、その全体にガスを供給してエアバッグ10を膨張展開させる。
【0018】
また、エアバッグ10は、対向する基布20、21同士が、膨張部30内に車両前方側から順に設けられた内側接合部23〜28でも縫製等により互いに接合され、それらを挟んで、膨張部30が少なくともその両側に区画されている。この内側接合部23〜28は、それぞれ膨張部30内の終端部が環状に接合されて、車両前後方向に互いに離間して配置され、膨張部30内にガス流路や気室を形成する隔壁としての機能を有する。併せて、内側接合部23〜28は、膨張部30の車両幅方向(図では紙面に直交する方向)の膨張を抑制して展開形状を規制する機能も有し、各目的に応じた所定形状に形成されて膨張部30内の所定位置に1又は複数配置される。
【0019】
ここでは、前部膨張部31内に、上端が外縁接合部22に連結する2つの内側接合部23、24と、両端が内部で終端する内側接合部25とが設けられている。これにより、前部膨張部31は、上端が閉鎖された2つの気室31A、31Bと、上下両側が開いた2つの気室31C、31Dに区画される。一方、中間膨張部32は、上端が外縁接合部22に連結する内側接合部26と、逆U字状の内側接合部27により、上端が閉鎖された2つの気室32A、32Cと、上下両側が開いた2つの気室32B、32Dとに区画され、それらが車両前後方向に沿って交互に配置されている。
【0020】
これらに対し、後部膨張部33は、その車両前後方向の略中央部に設けられた1つの内側接合部28により内部が区画されて、2つの筒状の気室33A、33Bが車両後方側と前方側に並列して配置されている。内側接合部28は、外縁接合部22に連結された上端から、車両下方に向かって車両後方側に傾斜して延び、下端が後部膨張部33内で終端するとともに、下端に形成された環状接合部28Aが、下縁側の外縁接合部22から離れた所定位置に配置されている。後部膨張部33は、この内側接合部28を挟んで、エアバッグ10の車両前後方向の後方側端部に配置された第1の気室(後端気室)33Aと、その前方側に隣接して配置された第2の気室(隣接気室)33Bが、それぞれ上下方向に延びるように平面視矩形状に形成される。また、後部膨張部33には、両気室33A、33Bの下端部(下端又は、その近傍位置)同士を連通させる連通部33Cが設けられている。連通部33Cは、例えば両気室33A、33Bを互いに連通させてガスを流通させる連通孔やガス通路であり、エアバッグ10の下縁近傍に形成される。
【0021】
このエアバッグ10では、気室33A、33Bは、それぞれエアバッグ10の下縁側から上縁側に向かって車両前方側に傾斜して形成されている。また、内側接合部28の下端(環状接合部28A)と外縁接合部22との間の基布20、21を接合せずに、その非接合領域で気室33A、33Bを連通させて連通部33Cを構成している。更に、第2の気室33Bは、上端側から流入するガスにより膨張するとともに、下端側に向かって流れるガスを、下端部同士の連通部33Cを介して、第1の気室33Aに下端部から流入させる。このガスが、第1の気室33A内を下端部から上端側に向かって流れ、第1の気室33A内に充填されて、第1の気室33Aが第2の気室33Bの膨張に続いて膨張する。
【0022】
以上のように構成されるエアバッグ装置1は、車両への取り付け前に、エアバッグ10が、下縁側から上縁側に順に折り畳まれて蛇腹折りされ、或いは、下縁から上縁に向けて車両内側壁側に巻き付けてロール折り(外ロール折り)される等、車両下方に膨張展開可能に、かつ車両へ取り付け可能な形状に折り畳まれる。その際、エアバッグ10は、車両後方側の範囲が、後部膨張部33を中心に第1と第2の折り目40、41に沿ってそれぞれ折り返された後、下縁から上縁に向けて折り畳まれる。これら第1と第2の折り目40、41は、連通部33Cの上側の非連通部(内側接合部28)を通って互いに交差し、それぞれが第1と第2の気室33A、33Bを通過するように、互いに異なる方向に向けて設定される。
【0023】
本実施形態では、第1と第2の折り目40、41は、連通部33Cの上端に位置する上側の縁部(上端部)、即ち、第1と第2の気室33A、33Bを区画する境界の下端であり、内側接合部28の環状接合部28A内で交差するように設定されている。また、第1の折り目40は、エアバッグ10を折り返したときに、連通部33Cを閉鎖して、連通部33Cを介した第2の気室33Bから第1の気室33Aへのガスの流入を遮断可能に、上下方向に傾斜等して設定されている。ここでは、第1の折り目40は、車両の上下方向に比較的近い方向に向けられて、エアバッグ10の下縁側から上縁側に向かって車両前後方向の後方側に傾斜し、環状接合部28Aの下側が、連通部33Cに近い位置に設定されて第2の気室33Bの下縁と交差する。エアバッグ10は、この第1の折り目40で折り返されて、連通部33Cが、環状接合部28Aよりも下側の折り返しにより、第2の気室33B側で閉鎖される。
【0024】
これに対し、第2の折り目41は、第1と第2の気室33A、33Bを横断して延び、エアバッグ10を折り返したときに、両気室33A、33Bを、その長手方向の途中で塞いで両気室33A、33B内のガスの流れを遮断可能に、車両の前後方向に傾斜等して設定されている。ここでは、第2の折り目41は、車両の前後方向に比較的近い方向に向けられて、第1の折り目40と同様に傾斜する。また、第2の折り目41は、環状接合部28Aを挟んだ両側が、それぞれ第1と第2の気室33A、33Bを車両前後方向に横断し、両気室33A、33Bを跨いでエアバッグ10の下縁側に設定されている。加えて、この第2の折り目41は、第2の気室33B内のガスの流れる方向と直交するように、第2の気室33Bの長手方向と直交する方向に設定されている。
【0025】
図2は、このエアバッグ10の折り畳み手順を模式的に示す正面図である。
本実施形態では、まず、エアバッグ10(図1参照)を広げて平らに展開する。次に、第1の折り目40で、エアバッグ10の車両前後方向の後方側端部を前方側に向けて折り返し(図2A参照)、第1の折り目40を挟んだ後方側を前方側に重ね合わせる。続いて、第2の折り目41で、エアバッグ10の下縁側を上縁側に向けて折り返し(図2B参照)、第2の折り目41を挟んだ下縁側を上縁側に重ね合わせる。このように、エアバッグ10を、第1の折り目40と第2の折り目41の順に、それぞれに沿って乗員側(表側基布20側)に折り返した後、エアバッグ10の全体を、下縁から上縁に向けて、車両内側壁側(裏側基布21側)に巻き付けてロール折りして折り畳む。
【0026】
なお、第1の折り目40は、上記した各条件を満たしつつ、エアバッグ10の車両前後方向の折り返し長さ(折り返された部分の車両前後方向に沿う長さ)(図2Aの長さL)が最も短くなるように、後部膨張部33内の所定位置に設定されている。また、エアバッグ10を折り畳んだ状態で、その長手方向の複数箇所に、折り畳み形状の崩れを防止するための破断可能なラッピング材を適宜巻き付けて、折り畳み作業が終了する。
【0027】
エアバッグ装置1は、このエアバッグ10が、ガス導入口14に取り付けられたインフレータ等とともに、車両内側壁上方部のルーフレール部やフロントピラー部に車両前後方向に沿って取り付けられ、それらをトリム内に収納して車両に搭載される。その後、エアバッグ装置1は、車両の衝突時や緊急時にインフレータを作動させてガスを発生させ、ガスを上記のようにエアバッグ10内(膨張部30)に連結部34を介して供給する。これにより、各膨張部31、32、33内にガスを流入させて膨張させ、エアバッグ10を、その折り畳み形状を解消させつつ、車両に取り付けられた取付片11、13側から、車両の下方向の車室内に向かってカーテン状に膨張展開させる。このようにして、エアバッグ10を、乗員と車両内側壁等との間に膨張展開させ、膨張したエアバッグ10により侵入する乗員を受け止めて、主に頭部を中心に乗員を拘束して保護する。
【0028】
この膨張展開時に、エアバッグ10は、主に折り畳みと逆の順序で展開して折り畳み形状が解消し、まず、全体が車両下方へ向かって展開する。この展開に応じて、ガスが後部膨張部33の第2の気室33Bに上部側から流入し、第2の気室33Bが下方に向けて膨張して、ガスの圧力やエアバッグ10の展開に伴う力が作用して第2の折り目41が展開する。エアバッグ10は、この展開により、第2の折り目41の折り返しが解消して第2の気室33Bが膨張し、ガスが第1の折り目40まで達する。その際、ガスは、第1の折り目40で遮断されるため、第1の気室33Aに直ちには流入せず、第2の気室33Bが下端まで膨張してから、第2の折り目41と同様に、第1の折り目40が展開して折り返しが解消する。これに伴い、エアバッグ10の折り返された後方側端部が車両前方側から後方側に向かって展開し、その範囲がリアピラーのピラーガーニッシュを車室内から覆う。また、連通部33Cを介して、ガスが第1の気室33Aに下端部から上側に向けて流入し、第1の気室33Aがピラーガーニッシュの車室側で膨張して、乗員との間に膨張展開する。
【0029】
このように、本実施形態のエアバッグ装置1では、エアバッグ10が最初に車両下方に展開するときに、エアバッグ10の後方側端部が前方側に折り返されているため、その部分が車室内に突出するピラーガーニッシュに引っ掛かることなく、エアバッグ10の全体が下方に展開する。その際、エアバッグ10の後方側端部の第1の気室33Aと第2の気室33Bを、2つの折り目40、41で重ねて折り返したため、後方側端部がより強固に折り畳まれて、その形状が解消され難くなり、下方への展開時に折り返された状態に確実に維持できる。また、折り目40、41により、気室33A、33B内のガスの流れが複数箇所で遮断されるため、展開初期に、第1の気室33Aにガスが流入するのを効果的に遮断できる。同時に、両折り目40、41を連通部33Cよりも上側を通って交差させるため、第2の気室33Bのガス経路を、折り目40、41により2箇所で閉鎖でき、ガスが連通部33Cに達して第1の気室33Aへ流入するのを、より確実に遮断できる。
【0030】
その結果、エアバッグ10の下方への展開が完了するまで、後方側端部を折り返された状態に維持でき、第1の気室33Aの膨張を遅らせて、ピラーガーニッシュへの引っ掛かりを確実に防止することができる。また、下方への展開後は、エアバッグ10の後方側端部が、ピラーガーニッシュを車室内から覆うように展開するため、膨張展開したエアバッグ10によりピラーガーニッシュを確実に覆うことができ、エアバッグ10の全体を乗員との間に円滑に膨張展開させることができる。更に、エアバッグ10は、第2の折り目41の折り返しが解消して第2の気室33Bが膨張すると、ガスが第1の折り目40まで流れて、第1の折り目40に折り返しを解消する力が作用し、その折り返しが解消して第1の気室33Aが膨張する。このように、第2の気室33Bと第1の気室33Aが、ガスの流れる経路に沿って順に膨張するため、エアバッグ10の後方側端部を、各膨張に応じて正確に展開(膨張)させることができる。
【0031】
加えて、このエアバッグ装置1では、エアバッグ10の後方側端部を2つの折り目40、41で折り返すため、その範囲を大きく折り返すことなく、ピラーガーニッシュへの接触を防止可能な充分な折り返し量を確保できる。そのため、展開するエアバッグ10の後方側端部が乗員側に大きく侵入せず、乗員への接触を防止できるとともに、エアバッグ10をコンパクトに折り畳んで車両内に適切に配置することもできる。また、エアバッグ10の後方側端部が、2つの折り目40、41で順に折り返しが解消して2段階で展開するため、折り目40、41の解消を含む各展開速度が速くなるのを抑制でき、後方側端部が逆側まで展開して車両内側壁側に反転するのを防止できる。併せて、第2の気室33Bが膨張するときに、両折り目40、41で重ねて折り返された部分は、それらを挟み込む部分とこすれながら展開するため、摩擦により展開速度が緩和されて、速度の上昇を抑制する効果が得られる。これに伴い、エアバッグ10を正常かつ正確に展開させて、後方側端部によりピラーガーニッシュを確実に覆うことができる。
【0032】
以上のように、本実施形態によれば、車両の上方から下方に向けて膨張展開するエアバッグ10の後方側端部を、乗員に接触するのを防止しつつ正常に展開させることができ、その展開範囲の車両内側壁を確実かつ円滑に覆って乗員を保護することができる。また、このエアバッグ装置1では、エアバッグ10を第1の折り目40と第2の折り目41の順に折り返すため、展開時には、第2の折り目41が先に展開して、第1の折り目40の折り返しの解消を遅らせることができ、第1の気室33Aの膨張やピラーガーニッシュへの接触を確実に防止できる。加えて、第1の折り目40は連通部33Cを閉鎖するように、第2の折り目41は第2の気室33Bを塞ぐように、それぞれ設定するため、第1の気室33Aに向かうガスの流れを経路に沿って順に遮断して、第1の気室33A内への流入を効果的に防止できる。
【0033】
ここで、第1の折り目40は、エアバッグ10の車両前後方向の折り返し長さLが最も短くなるように設定するのが望ましい。これにより、エアバッグ10の後方側端部が展開するときに、乗員側に侵入する長さを短くでき、乗員への接触を、より確実に防止できる。また、第2の折り目41を、第2の気室33B内のガスの流れる方向と直交するように設定するときには、ガスの流れを遮断する効果が大きくなり、第1の気室33Aへのガスの流入や膨張の開始を遅らせて、エアバッグ10を一層円滑に膨張展開させることができる。更に、エアバッグ10を下縁から上縁に向けて車両内側壁側に巻き付けてロール折りすることで、エアバッグ10を車両内側壁に沿って展開させることができ、その展開方向を規制しつつ、円滑かつ早期に乗員と車両内側壁との間に展開させることができる。
【0034】
なお、本実施形態では、エアバッグ10を、第1の折り目40で折り返した後、第2の折り目41で折り返したが、逆の順序で折り返すようにしてもよい。
図3は、このようにエアバッグ10を折り畳む手順を示す正面図である。
ここでは、エアバッグ10を、まず、第2の折り目41(図3A参照)に沿って折り返した後、第1の折り目40(図3B参照)に沿って折り返し、エアバッグ10の全体を下縁から上縁に向けて折り畳む。
【0035】
この手順で折り畳んだエアバッグ10は、膨張展開時には、車両下方に展開して第2の気室33Bにガスが流入し、第2の気室33Bが上部から下方に向けて膨張する。これに伴い、第1の折り目40の折り返しが解消して、エアバッグ10の後方側端部が車両後方側に展開するが、第2の折り目41でガスの流れが遮断されるため、第1の気室33Aが膨張せずに、第2の気室33Bが第2の折り目41まで膨張する。続いて、第2の折り目41の折り返しが解消して、第2の気室33Bの全体が展開するとともに、第1の気室33Aにもガスが流入して、下端部から上側に向かって膨張し、その全体が車室内側からピラーガーニッシュを覆うように膨張展開する。
【0036】
その際、エアバッグ10の展開途中で、第1の折り目40の折り返しが解消するので、第1の気室33Aが膨張するときに、その範囲が速い速度で展開して車両内側壁側まで展開することがなく、ピラーガーニッシュ等への引っ掛かりを防止できる。このように、エアバッグ10は、第1と第2の折り目40、41に沿って順不同に折り返せばよく、いずれの順序で折り返しても、上記した各効果と同様の効果が得られる。
【0037】
また、エアバッグ10は、第1の折り目40を設けずに、第2の折り目41のみで折り返して折り畳むようにしてもよい。即ち、エアバッグ10は、連通部33Cの上側(ここでは上端部)を通って第1と第2の気室33A、33Bを横断し、両気室33A、33Bを塞いでガスの流れを遮断可能に設定された第2の折り目41に沿って折り返した後、下縁から上縁に向けて折り畳んでもよい。この場合には、上記した蛇腹折りやロール折り等によりエアバッグ10を下縁から上縁に向けて折り畳むことで、第2の折り目41に沿う折り返しが押さえられ、エアバッグ10が下方まで展開して折り畳み形状が解消するまで、第2の折り目41での折り返しが維持される。その結果、第2の気室33Bを途中で塞いでガスの流れを遮断でき、第1の気室33Aへのガスの流入や、それに伴う膨張を遅らせて、ピラーガーニッシュへの引っ掛かりを充分に防止することができる。また、展開時に、エアバッグ10の後方側端部が乗員側に大きく侵入せず、乗員との接触を防止することもできる。なお、このエアバッグ10を、下縁から上縁に向けて車両内側壁側に巻き付けてロール折りして折り畳むときには、第2の折り目41に沿う折り返しを、ロール折りとともに巻き付けて効果的に押さえることができる。併せて、ロール折りの解消に伴い、エアバッグ10が上縁から下縁に向かって順に展開するため、エアバッグ10が下方まで展開するまで、第2の折り目41での折り返しを確実に維持することができる。
【符号の説明】
【0038】
1・・・エアバッグ装置、10・・・エアバッグ、11・・・上部取付片、12・・・突片、13・・・前部取付片、14・・・ガス導入口、20・・・表側基布、21・・・裏側基布、22・・・外縁接合部、23〜28・・・内側接合部、28A・・・環状接合部、30・・・膨張部、31・・・前部膨張部、31A、31B、31C、31D・・・気室、32・・・中間膨張部、32A、32B、32C、32D・・・気室、33・・・後部膨張部、33A・・・第1の気室、33B・・・第2の気室、33C・・・連通部、34・・・連結部、40・・・第1の折り目、41・・・第2の折り目。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両内側壁の上方部に折り畳まれた状態で車両前後方向に沿って取り付けられるエアバッグと、エアバッグにガスを供給して車両下方に向けて膨張展開させるインフレータと、を備えたエアバッグ装置であって、
エアバッグは、車両前後方向の後方側端部に形成された第1の気室と、第1の気室の前方側に隣接し、下端部同士の連通部を介して第1の気室にガスを流入させて膨張させる第2の気室と、連通部の上側を通って第1と第2の気室を横断し、エアバッグの下縁側から上縁側に向かって車両前後方向の後方側に傾斜し、両気室を塞いでガスの流れを遮断可能に設定された折り目とを有し、折り目に沿って折り返されて、下縁から上縁に向けて折り畳まれることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたエアバッグ装置において、
前記折り目が、第2の気室内のガスの流れる方向と直交するように設定されていることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項3】
請求項1に記載されたエアバッグ装置において、
前記折り目が、第1の気室と第2の気室との境界である内側接合部の下端の環状接合部を通っていることを特徴とするエアバッグ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−52875(P2013−52875A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−277652(P2012−277652)
【出願日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【分割の表示】特願2009−47847(P2009−47847)の分割
【原出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】