説明

エッチング装置及びエッチング方法

【課題】集束イオンビームによりエッチングする際に精度良くエッチング深さを制御する。
【解決手段】ステージ12に電気的に導通させて固定した試料2を集束イオンビームによりエッチングする際に、グランドとステージ12の間に設置した微小電流計13によりエッチング電流を測定する。これにより、測定した電流の大きさ、変化に基づいて試料2の層毎の違いを検出できる。その結果、任意の深さでエッチングを止めて、エッチング深さを制御することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板をエッチングする技術に関し、特に、半導体ヘテロエピタキシャル基板の任意の層においてエッチングを止める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
分子線エピタキシー法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)や有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)を用いることで、原子層レベルにおいて組成や化学量比を変えた化合物半導体をエピタキシャル成長させて、それぞれのヘテロ構造特性に応じて異なる電気伝導・光学応答特性を持つ化合物半導体ヘテロエピタキシャル基板の作製が可能である。このように形成された化合物半導体ヘテロエピタキシャル基板を用いて高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)や半導体レーザなどのデバイスが作製されている。
【0003】
化合物半導体ヘテロエピタキシャル基板を用いて、上記のような電子・光デバイスを作製するための重要な技術が、化合物半導体ヘテロエピタキシャル基板の任意のヘテロ構造層においてエッチングを止める選択エッチング法である。
【0004】
半導体材料をエッチングする方法としては、エッチング液(etchant)を用いるウェットエッチング、気体をイオン化してエッチングを行うドライエッチング、イオンソースを加速して物理的に削り取るミリング等の方法がある。ウェットエッチングは、エッチャントと半導体材料とが化学反応を起こすためにエッチングが進行するものであり、このため一般的に等方的なエッチングであり、かつエッチング速度はかなり速い。また、異方的エッチングが可能な場合も結晶方位に従ってエッチングは進行する(非特許文献1参照)。これに対してドライエッチングは、イオン化したガスを用いて化学的並びに物理的にエッチングを行う手法であり、エッチングは一般的に異方的に進み、かつエッチングの深さ方向の制御が容易である。また、ミリングは分子をイオン化し電場により加速して半導体材料に照射することで物理的に表面を削っていく手法である。ドライエッチングと同様に異方性が大きいがエッチング深さの制御性に関してはドライエッチングほどは高くない。
【0005】
ウェットエッチングは、旧来から使われてきた一般的なエッチング方法ではあるが、エッチングが急速に進行すること、溶液を用いるためにレジストの膨潤による設計寸法との違いが生じること、あるいは、レジスト自体がエッチャントに対する耐性が低い場合が起こる等の問題点がある。このために、ドライエッチングやミリングのような原子・分子の活性種やイオンを用いたエッチング方法が1980年代から主流となった。しかしながら、シリコン並びのシリコン系材料に対しては大きな問題ではないが、III−V族化合物半導体からなるヘテロエピタキシャル基板に対しては大きな損傷を与えるため、加工前の基板よりも電気的・光学的特性が劣化することが報告されている(非特許文献2,3参照)。このために、特性に大きく左右される部位、例えば、二次元電子ガス層のエッチング等には、未だに損傷の少ないウェットエッチングが用いられている。
【0006】
ナノ領域におけるウェットエッチングでは、エッチャントの温度や均一性のゆらぎや被エッチング表面の酸化膜や不純物分布による表面状態の違いがあるために、エッチング速度はかなりばらつく。したがって、ウェットエッチングの制御には、エッチングを何度も中断し、深さ方向を計測しながら、複数回にわたるトライアンドエラーにより適切なエッチング深さを決定する。このため工業的なプロセス確立が難しい。この難点を克服するためにエッチングストップ層をヘテロ構造に挿入する方法もとられているが(非特許文献4参照)、そのようなエッチングストップ層の挿入の難しいヘテロエピタキシャル基板も多い。
【0007】
従来のドライエッチングやミリングは、かなり広い面積における均一なエッチング手法であり、ナノ領域のような非常に限られた狭い領域でのエッチングでは、マイクロ(ナノ)ローディングと呼ばれるエッチング速度の低下が起こる。このために新しく登場してきたのが、ガリウムイオンを用いた集束ビームエッチング(FIB:Focused Ion Beam)である(非特許文献5参照)。絞り(アパーチャ)や光学レンズによりガリウムイオンソースのビーム量を絞ることで数ナノメートルという非常に細いイオンビームを形成し、それによりエッチングを行う方法である。通常のミリングに比べて質量の大きなガリウムを用いることで効率的にエッチングを行うことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M. Tong, et al., "Selective Wet Etching Characteristics of Lattice-Matched InGaAs/InAIAs/InP", J. Electrochem. Soc., October 1992, Vol. 139, No. 10, L91
【非特許文献2】T. Tanimoto, et al., "Dry Etching Damage and Activation Ratio Degradation in δ-Doped AlGaAs/InGaAs High Electron Mobility Transistors", Jpn. J. Appl. Phys., 15 February 1994, Vol. 33, L260
【非特許文献3】H. Linke, et al., "Damage induced by plasma etching: On the correlation of results from photoluminescence and transport characterization techniques", Appl. Phys. Lett., 13 March 1995, Vol. 66, p.1403
【非特許文献4】N. J. Sauer and K. B. Chough, "A Selective Etch for InAIAs over InGaAs and for Different InGaAIAs Quaternaries", J. Electrochem. Soc., January 1992, Vol. 139, No. 10, L10
【非特許文献5】O. Wilhelmi, et al., "Rapid Prototyping of Nanostructured Materials with a Focused Ion Beam", Jpn. J. Appl. Phys., 20 June 2008, Vol. 47, No. 6, p.5010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、集束イオンビームでは、エッチング深さに関しては、二次電子像ないしは二次イオン像を観測することで評価するだけであった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、集束イオンビームによりエッチングする際に、精度良くエッチング深さを制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の本発明に係るエッチング装置は、試料基板に集束イオンビームを照射して加工するエッチング装置であって、試料基板を電気的に導通して固定する、グランドから絶縁された試料ステージと、試料ステージとグランドに接続された電流測定手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
上記エッチング装置において、試料基板は半導体ヘテロエピタキシャル基板であることを特徴とする。
【0013】
上記エッチング装置において、電流測定手段はピコアンペアレベルの微小電流を測定可能な電流計であることを特徴とする。
【0014】
第2の本発明に係るエッチング方法は、試料基板に集束イオンビームを照射して加工するエッチング方法であって、グランドから絶縁された試料ステージに電気的に導通して固定した試料基板の所定の領域を所定の速度でエッチングするステップと、エッチング中に試料ステージとグランドの間に流れる電流を測定するステップと、を有することを特徴とする。
【0015】
上記エッチング方法において、試料基板は半導体ヘテロエピタキシャル基板であって、測定した電流の大きさに基づいてエッチングしている層を同定することを特徴とする。
【0016】
上記エッチング方法において、測定した電流の大きさが最大となる層を二次元電子ガス層として同定することを特徴とする。
【0017】
上記エッチング方法において、所定の領域は一辺が数ミクロンから数十ミクロンであることを特徴とする。
【0018】
上記エッチング方法において、所定の速度は秒速数オングストロームないしはそれ以下の0.5オングストローム毎秒であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、試料基板に集束イオンビームを照射してエッチングする際に、電流測定手段により試料ステージからグランドに流れる電流を測定することで、測定した電流の大きさ、変化に基づいて試料基板の層毎の違いを検出することができるので、任意の深さでエッチングを止めて、エッチング深さを制御することが可能となり、精度良くエッチング深さを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施の形態におけるエッチング装置の構成を示す模式図である。
【図2】エッチング電流とエッチング深さとの関係を示すグラフである。
【図3】ハイブリッド超伝導量子干渉素子の構成を示す図であり、図3(a)はその平面図であり、図3(b)はその断面図である。
【図4】オーミット電極付き縦型量子ドットの構成を示す図であり、図4(a)はその平面図であり、図4(b)はその断面図である。
【図5】オーミット電極付き縦型量子ドットの作製の流れを示す工程表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態におけるエッチング装置の構成を示す模式図である。同図に示すエッチング装置1は、イオンビームを照射するガリウムイオンソース11、試料2を固定するステージ12、およびピコアンペアレベルの微小電流が測定可能な微小電流計13を備える。ステージ12は、グランドから電気的に良好に絶縁されており、微小電流計13は、グランドとステージ12に接続される。試料2は、銀ペーストなどの電気伝導性を持つ材料によりステージ12に固定される。このような構成のエッチング装置1により、集束イオンビームで試料2をエッチングする過程で発生する数十ピコアンペアの微小電流の測定を行い、測定した電流の大きさ、変化に基づいてエッチングを停止する。
【0023】
エッチング時に発生するエッチング電流は、エッチングにより発生する二次電子、ガリウムイオンに起因するイオンなど様々な要因から起因した電流の寄与をすべて含むものである。しかしながら、基本的にエッチングされている材料に固有の電流値を示す。特に、二次元電子ガス層は他の層に比べてキャリア濃度が高いために常に電流の大きさが最大となるので、二次元電子ガス層を容易に同定することができる。二次元電子ガス層の同定が出来れば、そこからの類推により他の層の同定も可能となる。
【0024】
これまでのウェットエッチングで精確なエッチング深さ制御を行うためには、何度もエッチングを途中で止めて深さを段差計で測るという煩雑な作業を必要とした。しかしながら、本発明では、エッチング時に発生するエッチング電流を測定することにより、エッチングしている層を同定することができるので、任意の深さでエッチングを止めることが可能となる。
【0025】
図2は、エッチング電流とエッチング深さとの関係を示すグラフであり、横軸にエッチング時間を示し、縦軸にエッチング電流の大きさを示している。ヘテロエピタキシャル基板の各層の厚さをグラフ中に記載した。図2のグラフから、二次元電子ガス層で電流の大きさが最大となっていることが分かる。この電流の大きさは、ヘテロ基板構造をシミュレーションした結果と良い一致を示す。
【0026】
エッチング速度が速い場合には、このような電流を測定することができないので、エッチング速度としては、1秒間に数オングストローム(1オングストローム=10-10メートル)進む程度にする。エッチング速度を更に遅くした場合、たとえば、1秒間に0.5オングストロームでも電流の観測は可能であるが、エッチングの制御性は若干悪くなる。最適な範囲として、3〜0.5オングストローム毎秒程度と考えられる。
【0027】
エッチングを行う領域が10ミクロン(1ミクロン=10-6メートル)角程度よりも大きな場合は、明瞭な電流が観測しにくいので、エッチング装置1は比較的小さな領域での加工に適している。集束イオンビーム加工法自体が大面積の加工には時間がかかり適していないことから、エッチング装置1における欠点とはならない。集束イオンビーム加工が適切である面積においては問題なく利用できる。
【0028】
以上説明したように、本実施の形態によれば、ステージ12に電気的に導通させて固定した試料2を集束イオンビームによりエッチングする際に、微小電流計13によりステージ12とグランドの間に流れる電流を測定することで、測定した電流の大きさ、変化に基づいて試料2の層毎の違いを検出し、エッチングしている層を同定することができる。その結果、任意の深さでエッチングを止めて、エッチング深さを制御することが可能となる。
【0029】
本発明により、化合物半導体ヘテロエピタキシャル基板のエッチング深さを精密に制御することができる。特に二次元電子ガス層のようにキャリア濃度の高い部位の同定には大きな力を発揮する。このため、二次元電子ガス層の加工が重要となる超伝導−半導体ジョセフソン接合や量子ドットデバイスなどの作製に適している。以下にその応用例を示す。
【0030】
<応用例1>
図3は、超伝導体並びに半導体ヘテロエピタキシャル基板を用いたハイブリッド超伝導量子干渉素子の構造を示す図である。同図に示すハイブリッド超伝導量子干渉素子は、超伝導体31,32が半導体ヘテロ構造の二次元電子ガス33に接続された超伝導体−二次元電子ガス−超伝導体ジョセフソン接合を用いた超伝導量子干渉素子(SQUID:Superconducting QUantum Interference Device)である。二次元電子ガス33の中央部分が取り除かれて、磁束捕捉領域35が形成され、ヘテロ構造体の上に絶縁膜36を介してゲート電極34が形成されている。
【0031】
このハイブリッド超伝導量子干渉素子は、(1)光露光法を用いて接合の中心となるメサ構造のパターンを形成し、(2)ウェットエッチングによりメサ構造を作製し、(3)電子線露光法を用いて接合の二次元電子ガス33を含む半導体部分のパターンを形成し、(4)ウェットエッチング後、界面処理を行い、超伝導体31,32を斜め蒸着により作製し、(5)保護層(レジスト並びに金属膜)で覆い、損傷を少なくした後に、本発明のエッチング装置により、磁束捕捉領域35の形成を行うことで完成となる。ハイブリッド超伝導量子干渉素子の作製にあたり、磁束捕捉領域35のエッチング深さは素子の特性に大きな影響を与える。これまでのウェットエッチングでは、この深さの制御が非常に難しかったが、本発明を用いればこの制御が非常に簡単になり、特性の揃った素子を製作することが可能となる。
【0032】
<応用例2>
図4は、オーミット電極付き縦型量子ドットの構成を示す図である。同図に示すオーミット電極付き縦型量子ドットは、半導体エピタキシャル基板42に、量子ドット41と、量子ドット41中に形成された二次元電子ガス層43と、二次元電子ガス層43にオーミット接触した電極44とを形成したものである。これまで縦型量子ドット中に形成された二次元電子ガスに直接オーミット接触を取ることは難しかった。これは、これまで述べてきたようにウェットエッチングにおいては、エッチング深さを調節することが難しかったためである。しかしながら、本発明では、エッチング電流の大きさをリアルタイムに測定することで、二次元電子ガス層43の下層にある半絶縁層45において正確にエッチングを止めることができるため、真空を破らずに電極44を形成することが可能となり、オーミット接触が取れる。
【0033】
図5は、オーミット電極付き縦型量子ドットの作製の流れを示す工程表である。
【0034】
まず、電子線レジストを塗布し(ステップS501)、電子線露光機により量子ドット41部位のパターンを形成する(ステップS502)。現像して量子ドット41部位上にマスクを形成する(ステップS503)。
【0035】
続いて、エッチング保護層(タングステン)を蒸着する(ステップS504)。量子ドット41への損傷を防ぐために金属を蒸着し保護層とする過程は重要である。
【0036】
続いて、本発明のエッチング装置により、エッチングをする(ステップS505)。このとき、本発明のエッチング装置は、測定される電流の大きさに基づいて二次元電子ガス層43を同定し、二次元電子ガス層43の下層にある半絶縁層45においてエッチングを停止する。
【0037】
その後、二次元ガスコンタクト層を蒸着して電極44を形成し(ステップS506)、レジストをリフトオフし(ステップS507)、オーミック電極付き量子ドットが完成する。
【符号の説明】
【0038】
1…エッチング装置
11…ガリウムイオンソース
12…ステージ
13…微小電流計
2…試料
31,32…超伝導体
33…二次元電子ガス
34…ゲート電極
35…磁束捕捉領域
36…絶縁膜
41…量子ドット
42…半導体エピタキシャル基板
43…二次元電子ガス層
44…電極
45…半絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料基板に集束イオンビームを照射して加工するエッチング装置であって、
前記試料基板を電気的に導通して固定する、グランドから絶縁された試料ステージと、
前記試料ステージとグランドに接続された電流測定手段と、
を有することを特徴とするエッチング装置。
【請求項2】
前記試料基板は半導体ヘテロエピタキシャル基板であることを特徴とする請求項1記載のエッチング装置。
【請求項3】
前記電流測定手段はピコアンペアレベルの微小電流を測定可能な電流計であることを特徴とする請求項1又は2記載のエッチング装置。
【請求項4】
試料基板に集束イオンビームを照射して加工するエッチング方法であって、
グランドから絶縁された試料ステージに電気的に導通して固定した前記試料基板の所定の領域を所定の速度でエッチングするステップと、
エッチング中に前記試料ステージとグランドの間に流れる電流を測定するステップと、
を有することを特徴とするエッチング方法。
【請求項5】
前記試料基板は半導体ヘテロエピタキシャル基板であって、
測定した電流の大きさに基づいてエッチングしている層を同定することを特徴とする請求項4記載のエッチング方法。
【請求項6】
測定した電流の大きさが最大となる層を二次元電子ガス層として同定することを特徴とする請求項5記載のエッチング方法。
【請求項7】
前記所定の領域は一辺が数ミクロンから数十ミクロンであることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載のエッチング方法。
【請求項8】
前記所定の速度は秒速数オングストロームから0.5オングストロームであることを特徴とする請求項4乃至7のいずれかに記載のエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−219144(P2010−219144A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61572(P2009−61572)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】