説明

エポキシ樹脂組成物とそれを用いた導電性接着剤および異方導電膜

【課題】ポットライフが短くなるのを防止しながら、エポキシ樹脂の硬化物と、金属電極や無機フィラー等とを、従来に比べて、より一層、強固に密着させることができるエポキシ樹脂組成物と、前記エポキシ樹脂組成物を用いて形成される導電性接着剤、および異方導電膜を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂組成物は、式(1):


〔式中、R1〜R4は、同一または異なって水素原子、またはアルキル基を示す。nは0、1または2である。〕
で表されるイミダゾールシラン型カップリング剤で表面処理した無機フィラーを含有する。導電性接着剤は、さらに導電性フィラーを含有する。異方導電膜は、導電性フィラーとしての、直鎖状または針状の金属粉を、膜の厚み方向に配向させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物と、それを用いた導電性接着剤、および異方導電膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂の耐湿性を向上したり、前記エポキシ樹脂の硬化物の寸法安定性や強度を向上したりするため、エポキシ樹脂に、シリカ、アルミナ、チタニア等の無機フィラーを配合したエポキシ樹脂組成物が、さらに、エポキシ樹脂の硬化剤と、金属粉等の導電性フィラーとを配合して、導電性接着剤として、プリント配線板に半導体素子を実装する用途等に広く用いられている。また、前記導電性接着剤を膜状に成形した、膜の厚み方向の導電抵抗(「接続抵抗」という)が低く、かつ、膜の面方向の導電抵抗(「絶縁抵抗」という)が高い、異方導電性を有する異方導電膜も、同様の用途に広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記導電性接着剤や異方導電膜には、長期に亘って高い接続信頼性を維持するために、接着対象である金属電極や、添加剤である無機フィラーに対する密着性に優れることが強く求められる。その対策の一つとして、エポキシ樹脂組成物中に、カップリング剤を添加することが、一般的に行われており、特に、イミダゾールシラン型カップリング剤は、密着性を向上する効果に優れる上、エポキシ樹脂の硬化を促進する機能をも有しているため、硬化反応の短時間化が要求されるエレクトロニクス関連の分野において、カップリング剤として好適に使用されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−204324号公報(請求項1、段落[0002]〜[0004]、[0007])
【特許文献2】特開平09−12683号公報(請求項1、段落[0003]〜[0005])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、イミダゾールシラン型カップリング剤を、従来のカップリング剤と同様に、直接に、エポキシ樹脂に配合した場合には、前記イミダゾールシラン型カップリング剤中のアルコキシシリル基が、加水分解反応を起こしてアルコールを生成し、生成したアルコールが、エポキシ樹脂のエポキシ基と反応して部分的なポリマー化を進行させるため、エポキシ樹脂組成物の可使時間、いわゆるポットライフが短くなるという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、ポットライフが短くなるのを防止しながら、エポキシ樹脂の硬化物と、金属電極や無機フィラー等とを、従来に比べて、より一層、強固に密着させることができるエポキシ樹脂組成物と、前記エポキシ樹脂組成物を用いて形成される導電性接着剤、および異方導電膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、エポキシ樹脂と、無機フィラーとを含有し、前記無機フィラーが、式(1):
【化1】

〔式中、R1〜R4は、同一または異なって水素原子、またはアルキル基を示す。nは0、1または2である。〕
で表されるイミダゾールシラン型カップリング剤で表面処理されていることを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
【0007】
請求項1記載の発明によれば、無機フィラーを、あらかじめ、式(1)で表されるイミダゾールシラン型カップリング剤で表面処理することによって、前記イミダゾールシラン型カップリング剤中のアルコキシシリル基を加水分解反応させると共に、前記加水分解反応によって生成するアルコールを除去した状態で、前記表面処理によってイミダゾールシラン型カップリング剤が吸着された無機フィラーを、エポキシ樹脂中に配合することができる。
【0008】
そのため、前記アルコールと、エポキシ樹脂中のエポキシ基とが反応して、ポットライフが短くなる問題が生じるのを防止しながら、無機フィラーに吸着させたイミダゾールシラン型カップリング剤の機能によって、エポキシ樹脂の硬化反応を短時間化すると共に、前記エポキシ樹脂の硬化物と、金属電極や無機フィラー等とを、強固に密着させることができる。
【0009】
無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、チタニア等の、種々の無機フィラーが、いずれも使用可能であるが、特に、請求項2に記載したように、シリカが、無機フィラーとして、エポキシ樹脂の耐湿性を向上したり、前記エポキシ樹脂の硬化物の寸法安定性や強度を向上したりする効果に優れることから、より好適に使用される。
【0010】
イミダゾールシラン型カップリング剤の吸着量は、請求項3に記載したように、無機フィラーに対して0.001〜5重量%であるのが好ましい。前記範囲より吸着量が少ない場合には、イミダゾールシラン型カップリング剤による、エポキシ樹脂の硬化物と、金属電極や無機フィラー等とを、強固に密着させる効果が得られないおそれがある。一方、前記範囲より吸着量が多いと、無機フィラー同士の凝集が生じやすくなり、前記無機フィラーを、エポキシ樹脂組成物中に、良好に分散できないおそれがある。
【0011】
イミダゾールシラン型カップリング剤による、エポキシ樹脂の硬化を促進する作用は、硬化剤として、前記イミダゾールシラン型カップリング剤の、イミダゾール環中の第三アミンと同じ、または類似した反応機構によってエポキシ樹脂を硬化させるアミン系硬化剤を使用した系において、より顕著に発現される。そのため、請求項4に記載したように、硬化剤としてアミン系硬化剤を使用した場合には、エポキシ樹脂の硬化反応を、より一層、短時間化すると共に、前記エポキシ樹脂の硬化物と、金属電極や無機フィラー等とを、より一層、強固に密着させることができる。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物と、導電性フィラーとを含有することを特徴とする導電性接着剤である。請求項5記載の発明によれば、先に説明したように、アルコキシシリル基の加水分解反応によって生成したアルコールを除去した状態で、イミダゾールシラン型カップリング剤が吸着された無機フィラーを、エポキシ樹脂中に配合することができるため、ポットライフが短くなるのを防止しながら、エポキシ樹脂の硬化物と、金属電極や無機フィラー等とを、強固に密着させることができる。そのため、前記導電性接着剤を、例えば、プリント配線板に半導体素子を実装する用途に使用した際には、半導体素子の接着強度を向上させて、長期に亘って、高い接続信頼性を維持することができる。
【0013】
また、請求項6に記載したように、導電性フィラーを、式(1)で表されるイミダゾールシラン型カップリング剤で表面処理すれば、前記導電性フィラーをも、エポキシ樹脂の硬化物と、強固に密着させることができる。そのため、前記導電性接着剤を、プリント配線板に半導体素子を実装する用途に使用した際には、半導体素子の接着強度をさらに向上させて、より一層、長期に亘って、高い接続信頼性を維持することができる。
【0014】
また、導電性フィラーとして、請求項7に記載したように、微細な金属粒を多数、直鎖状に繋いだ形状を有する金属粉、または針状の金属粉を使用した場合には、硬化後の導電性を、さらに向上させることができる。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項7に記載の導電性接着剤が膜状に形成され、かつ、導電性フィラーが膜の厚み方向に配向されていることを特徴とする異方導電膜である。請求項8記載の発明によれば、エポキシ樹脂の硬化後に、無機フィラーや導電性フィラーが脱落して、膜の接着強度が低下したりするのを防止しながら、膜の厚み方向に配向させた導電性フィラーによって、硬化後の膜の異方導電性を、これまでよりも向上させることができる。そのため、前記異方導電膜を、プリント配線板に半導体素子を実装する用途に使用した際には、半導体素子の接着強度をさらに向上させて、より一層、長期に亘って、高い接続信頼性を維持することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポットライフが短くなるのを防止しながら、エポキシ樹脂の硬化物と、金属電極や無機フィラー等とを、従来に比べて、より一層、強固に密着させることができるエポキシ樹脂組成物と、前記エポキシ樹脂組成物を用いて形成される導電性接着剤、および異方導電膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
《エポキシ樹脂組成物》
本発明のエポキシ樹脂組物は、エポキシ樹脂と、無機フィラーとを含有し、前記無機フィラーが、式(1):
【化2】

〔式中、R1〜R4は、同一または異なって水素原子、またはアルキル基を示す。nは0、1または2である。〕
で表されるイミダゾールシラン型カップリング剤で表面処理されていることを特徴とするものである。
【0018】
無機フィラーとしては、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al23)、チタニア(TiO2)、マグネシア(MgO)等が挙げられ、特にシリカが好ましい。また、式(1)で表されるイミダゾールシラン型カップリング剤の具体例としては、
1−(2−ヒドロキシ−3−トリメトキシシリルプロポキシプロピル)−イミダゾール、
1−(2−ヒドロキシ−3−トリエトキシシリルプロポキシプロピル)−イミダゾール、
1−(2−ヒドロキシ−3−トリプロポキシシリルプロポキシプロピル)−イミダゾール、
1−(2−ヒドロキシ−3−トリブトキシシリルプロポキシプロピル)−イミダゾール、
1−(2−ヒドロキシ−3−トリエトキシシリルプロポキシプロピル)−2−メチルイミダゾール、
1−(2−ヒドロキシ−3−トリエトキシシリルプロポキシプロピル)−4−メチルイミダゾール、
等が挙げられる。
【0019】
特に、式(1)中のR1、R2が水素原子、R3がメチル基、nが0である、式(1-1):
【化3】

で表される1−(2−ヒドロキシ−3−トリメトキシシリルプロポキシプロピル)−イミダゾールが好ましい。
【0020】
イミダゾールシラン型カップリング剤の吸着量は、先に説明したように、無機フィラーに対して0.001〜5重量%、特に0.1〜5重量%であるのが好ましい。前記範囲より吸着量が少ない場合には、イミダゾールシラン型カップリング剤による、エポキシ樹脂の硬化物と、金属電極や無機フィラー等とを、強固に密着させる効果が得られないおそれがある。一方、前記範囲より吸着量が多いと、無機フィラー同士の凝集が生じやすくなり、前記無機フィラーを、エポキシ樹脂組成物中に、良好に分散できないおそれがある。
【0021】
無機フィラーを、イミダゾールシラン型カップリング剤で表面処理するためには、例えば、前記イミダゾールシラン型カップリング剤を任意の溶媒に溶解して処理液を調製し、前記処理液に、無機フィラーを加えてかく拌した後、ろ過して、イミダゾールシラン型カップリング剤が吸着された無機フィラーを回収すると共に、乾燥させて、溶媒と、アルコキシシリル基の加水分解反応によって生成したアルコールとを除去する方法等が採用される。
【0022】
エポキシ樹脂としては、エポキシ樹脂組成物の用途等に応じて、種々のエポキシ樹脂が、いずれも使用可能である。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール類のジグリシジルエーテル化合物としてのビスフェノール型エポキシ樹脂;ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリアルキレンオキシドのジグリシジルエーテル化合物としての脂肪族エポキシ樹脂や、その側鎖もしくは主鎖を、ゴム、ウレタン、ポリエーテル、ポリエステル等で変性したもの;フェノールノボラック、クレゾールノボラック等のノボラック類のジグリシジルエーテル化合物としてのノボラック型エポキシ樹脂;ポリブタジエン等の共役ジエンポリマーのエポキシ化物;脂環式エポキシ樹脂等の1種または2種以上が挙げられる。
【0023】
エポキシ樹脂組成物には、エポキシ樹脂の硬化剤が含まれてもよく、前記硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、酸および酸無水物系硬化剤、潜在性硬化剤、紫外線硬化剤等が挙げられる。中でも、先に説明したように、イミダゾールシラン型カップリング剤の、イミダゾール環中の第三アミン部位と同じ、または類似した反応機構によってエポキシ樹脂を硬化させるアミン系硬化剤が好適に使用される。
【0024】
すなわち、イミダゾールシラン型カップリング剤による、エポキシ樹脂の硬化を促進する作用は、硬化剤として、前記イミダゾールシラン型カップリング剤の、イミダゾール環中の第三アミンと同じ、または類似した反応機構によってエポキシ樹脂を硬化させるアミン系硬化剤を使用した系において、より顕著に発現される。そのため、硬化剤としてアミン系硬化剤を使用した場合には、エポキシ樹脂の硬化反応を、より一層、短時間化すると共に、前記エポキシ樹脂の硬化物と、金属電極や無機フィラー等とを、より一層、強固に密着させることができる。
【0025】
アミン系硬化剤としては、例えば、脂肪族ジアミン、脂肪族ポリアミン、芳香環を含む脂肪族ポリアミン、脂環および環状ポリアミン等の脂肪族第一アミン類;芳香族第一アミン類;第三アミン類;変性ポリアミン類;イミダゾール類等が挙げられる。
【0026】
エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、イミダゾールシラン型カップリング剤で表面処理した無機フィラーと、硬化剤とを全て含有する1液タイプとしてもよいし、エポキシ樹脂および無機フィラーを含む主剤と、硬化剤とを分けた2液タイプとしてもよい。このうち、1液タイプのエポキシ樹脂組成物に含有させる硬化剤としては、前記潜在性硬化剤が挙げられる他、他の硬化剤をマイクロカプセル化した硬化剤を用いることもできる。エポキシ樹脂組成物における、前記各成分の含有割合は、前記エポキシ樹脂組成物の用途等に応じて、適宜の範囲に設定することができる。また、エポキシ樹脂組成物には、その用途等に応じて、着色剤その他、各種添加剤を含有させてもよい。
【0027】
前記本発明のエポキシ樹脂組成物においては、あらかじめ、式(1)で表されるイミダゾールシラン型カップリング剤で表面処理することによって、前記イミダゾールシラン型カップリング剤中のアルコキシシリル基を加水分解反応させると共に、前記加水分解反応によって生成するアルコールを除去した状態で、前記表面処理によってイミダゾールシラン型カップリング剤が吸着された無機フィラーを、エポキシ樹脂中に配合することができる。
【0028】
そのため、前記アルコールと、エポキシ樹脂中のエポキシ基とが反応して、ポットライフが短くなる問題が生じるのを防止しながら、無機フィラーに吸着させたイミダゾールシラン型カップリング剤の機能によって、エポキシ樹脂の硬化反応を短時間化すると共に、前記エポキシ樹脂の硬化物と、金属電極や無機フィラー等とを、強固に密着させることができる。
【0029】
《導電性接着剤》
本発明の導電性接着剤は、前記本発明のエポキシ樹脂組成物と、導電性フィラーとを含有することを特徴とするものである。導電性フィラーとしては、Ni、Fe、Co、Cu、Rb、Rh、Pd、Ag、Re、Pt、Au、Al、Zn等の金属、または、前記金属の2種以上の合金からなる粒子等が挙げられる。また、先に説明した無機フィラーや、水酸化アルミニウム、炭酸バリウム、タルク、ガラス等の無機化合物の粒子、あるいは前記金属または合金の粒子の表面を、Cu、Ag、Au、Al等の、導電性に優れた金属または合金からなる、少なくとも1層の被膜で被覆した複合構造を有する粒子も、導電性フィラーとして用いることができる。
【0030】
特に、微細な金属粒を多数、直鎖状に繋いだ形状を有する金属粉、または針状の金属粉が、導電性フィラーとして好適に使用される。直鎖状または針状の金属粉は、硬化後の導電性接着剤中で、隣接するもの同士が互いに接触して、良好な導電ネットワークを形成しやすいことから、導電性接着剤の導電性を向上させることができる。前者の、直鎖状の金属粉は、例えば、Ni、Fe、Co等の、磁性金属の1種または2種以上のイオンを含む溶液に還元剤を加えることで、前記イオンを還元させて、微細な金属粒として析出させる液相還元法を実施すると共に、それによって析出させた多数の金属粒を、溶液中で、自身の持つ磁性によって鎖状に繋がらせて製造することができる。また、多数の金属粒を直鎖状に繋がらせるためには、前記還元析出反応を、溶液に一定方向の磁場をかけた状態で行うようにすればよい。
【0031】
また、針状の金属粉は、例えば、微小電極表面を多数、備えためっき金型を使用して、前記微小電極表面を陰極とする電気めっきによって、各微小電極表面の平面形状に対応する金属薄膜を形成後、前記金属薄膜を微小電極表面からはく離する電気めっき法等によって製造することができる。
【0032】
前記直鎖状、または針状の金属粉の表面は、先に説明したように、Cu、Ag、Au、Al等の、導電性に優れた金属または合金からなる、少なくとも1層の被膜で被覆してもよい。被覆は、例えば、無電解めっき法、電界めっき法、液相還元法、真空蒸着法等の種々の成膜方法によって形成することができる。導電性フィラーの粒径は、良好な導電性を得ることを考慮すると、前記直鎖状または針状の金属粉の場合、長径Lが0.5μm以上で、かつ、前記長径Lと短径Dとの比で表されるアスペクト比L/Dが2以上であるのが好ましい。
【0033】
導電性フィラーは、硬化前のエポキシ樹脂中に良好に分散させると共に、エポキシ樹脂の硬化物と強固に密着させるため、あらかじめ、カップリング剤で表面処理しておくのが好ましい。カップリング剤としては、例えば、式(2):
【化4】

で表される3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチルブチリデン)プロピルアミン等の、種々のカップリング剤が、いずれも使用可能であるが、特に、エポキシ樹脂の硬化物と、より一層、強固に密着させること等を考慮すると、無機フィラーを表面処理するために使用するのと同じ、式(1)で表されるイミダゾールシラン型カップリング剤で表面処理するのが好ましい。
【0034】
導電性フィラーの含有量は、良好な導電性を得ることを考慮すると、前記導電性フィラー、イミダゾールシラン型カップリング剤等のカップリング剤、エポキシ樹脂、硬化剤等の、導電性接着剤中に含まれる固形分の総量に対して、0.01〜70体積%であるのが好ましい。エポキシ樹脂、および硬化剤の好適な例は、前記と同様である。また、導電性接着剤には、接着性付与剤その他、各種添加剤を含有させてもよい。
【0035】
導電性接着剤は、その使用形態に応じて、液状、ペースト状、ロッド状、膜状等の種々の形状に形成することができる。液状またはペースト状の導電性接着剤を形成するためには、前記各成分に、任意の有機溶媒を加えるか、または、エポキシ樹脂として液状のものを用いればよい。導電性接着剤は、先に説明したように、前記各成分を全て含有する1液タイプとしてもよいし、エポキシ樹脂および表面処理フィラーを含む主剤と、硬化剤とを分けた2液タイプとしてもよい。
【0036】
前記本発明の導電性接着剤においては、無機フィラー、および必要に応じて導電性フィラーを、あらかじめ、式(1)で表されるイミダゾールシラン型カップリング剤で表面処理することによって、先に説明したように、アルコキシシリル基の加水分解反応によって生成したアルコールを除去した状態で、これらのフィラーを、エポキシ樹脂中に配合することができるため、ポットライフが短くなるのを防止しながら、エポキシ樹脂の硬化物と、金属電極やこれらのフィラー等とを、強固に密着させることができる。そのため、前記導電性接着剤を、例えば、プリント配線板に半導体素子を実装する用途に使用した際には、半導体素子の接着強度を向上させて、長期に亘って、高い接続信頼性を維持することができる。
【0037】
《異方導電膜》
本発明の異方導電膜は、導電性フィラーとして、微細な金属粒を多数、直鎖状に繋いだ形状を有する金属粉、または針状の金属粉を用いた前記本発明の導電性接着剤が膜状に形成され、かつ、導電性フィラーが膜の厚み方向に配向されていることを特徴とするものである。
【0038】
前記本発明の異方導電膜を製造するには、種々の方法が考えられるが、導電性フィラーとして、前記形状を有する金属粉を、Ni、Fe、Co、Ni−Fe合金(パーマロイ)等の磁性金属で形成するとともに、その表面を、必要に応じて、Cu、Ag、Au、Al等の、導電性に優れた金属または合金からなる、少なくとも1層の被膜で被覆したものを用いて、下記の製造方法によって製造するのが好ましい。
【0039】
すなわち、イミダゾールシラン型カップリング剤で表面処理された無機フィラー、必要に応じて、同じイミダゾールシラン型カップリング剤等で表面処理された導電性フィラー、エポキシ樹脂、および硬化剤等を含み、かつ、溶媒を加えるか、または液状のエポキシ樹脂を使用することで液状としたエポキシ樹脂組成物を調製する。次いで、このエポキシ樹脂組成物を、面と直行する方向に磁場をかけた下地面(例えば、磁石の表面等)の上に、または、この下地面上に展張した離型フィルムの表面に塗布して、導電性フィラーを、磁場の方向に配向させた状態とする。そして、この状態を維持しながら、溶媒を除去するか、あるいはエポキシ樹脂を半硬化させると、導電性フィラーが、膜の厚み方向に配向された本発明の異方導電膜が製造される。
【0040】
また、前記下地面の上に、または、下地面上に展張した離型フィルムの表面に、導電性フィラーを散布して、磁場の方向に配向させた状態で、その上に、導電性フィラーを含まない以外は、前記と同様にして調製した液状のエポキシ樹脂組成物を塗布した後、溶媒を除去するか、あるいはエポキシ樹脂を半硬化させても、導電性フィラーが、膜の厚み方向に配向された本発明の異方導電膜を製造することができる。
【0041】
前記本発明の異方導電膜においては、エポキシ樹脂の硬化後に、無機フィラーや導電性フィラーが脱落して、膜の接着強度が低下したりするのを防止しながら、膜の厚み方向に配向させた導電性フィラーによって、硬化後の膜の異方導電性を、これまでよりも向上させることができる。そのため、前記異方導電膜を、プリント配線板に半導体素子を実装する用途に使用した際には、半導体素子の接着強度をさらに向上させて、より一層、長期に亘って、高い接続信頼性を維持することができる。
【実施例】
【0042】
《エポキシ樹脂組成物》
〈実施例1〉
イミダゾールシラン型カップリング剤としての、式(1-1):
【化5】

で表される1−(2−ヒドロキシ−3−トリメトキシシリルプロポキシプロピル)−イミダゾール〔(株)ジャパンエナジー製のIS−1000〕5重量部を、メチルエチルケトン100重量部に溶解して処理液を調製した。次いで、この処理液105重量部に、無機フィラーとしての、平均粒径5μmのシリカ粒子10重量部を加えて、70℃で2時間、静置した後、ろ過してシリカ粒子を回収し、真空乾燥させて、表面処理フィラーとした。
【0043】
ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂〔ジャパンエポキシレジン(株)製の商品名エピコート(登録商標)1010〕と、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂〔大日本インキ化学工業(株)製の商品名エピクロン850〕と、マイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤〔旭化成ケミカルズ(株)製の商品名ノバキュア(登録商標)HP3941〕とを、重量比で、50/50/40の割合で、エチルセロソルブに溶解し、三本ロールで混練して、固形分濃度60重量%の溶液を調製した。次いで、この溶液に、先の表面処理フィラーを加えて、遠心ミキサーでかく拌してエポキシ樹脂組成物を製造した。エポキシ樹脂組成物における、固形分、すなわち、表面処理フィラーと、エポキシ樹脂と、硬化剤の総量に対する表面処理フィラーの含有量は5体積%とした。
【0044】
〈比較例1〉
シリカ粒子を、イミダゾールシラン型カップリング剤としての、式(1-1)で表される1−(2−ヒドロキシ−3−トリメトキシシリルプロポキシプロピル)−イミダゾールで表面処理せず、前記イミダゾールシラン型カップリング剤を、エポキシ樹脂に、直接に加えたこと以外は、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物を製造した。エポキシ樹脂組成物における、固形分の総量に対するシリカ粒子の含有量は5体積%、イミダゾールシラン型カップリング剤の含有量は5体積%とした。
【0045】
〈比較例2〉
イミダゾールシラン型カップリング剤に代えて、式(3):
【化6】

で表される3−アミノプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製のKBM−903〕を同量、使用したこと以外は、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物を製造した。
【0046】
〈硬化率の測定〉
前記実施例、比較例で製造したエポキシ樹脂組成物を、離型処理したPETフィルム上に、ドクターナイフを用いて塗布した後、60℃で30分間、乾燥させて溶媒を除去して、厚み25μmのフィルムを形成した。次いで、このフィルムをPETフィルムからはく離し、2枚の、厚み25μmのフッ素樹脂フィルムで挟んだ状態で、小型プレス装置〔日本アビオニクス(株)製のNA−75〕を用いて、厚み方向にプレスしながら加熱して、エポキシ樹脂を硬化させた。硬化条件は、200℃×5秒間、および200℃×15秒間の2種とした。そして、硬化させたエポキシ樹脂フィルム中に含まれる、未反応のエポキシ基の残存率を、フーリエ変換赤外分光分析法によって測定し、この測定結果から、エポキシ樹脂の硬化率を求めた。
【0047】
〈ポットライフの測定〉
前記実施例、比較例で製造したエポキシ樹脂組成物の粘度を、20℃の条件下、E型粘度計を用いて、1時間ごとに測定し、粘度が、製造直後の値(初期値)の140%以上となるのに要した時間を、各エポキシ樹脂組成物のポットライフとした。結果を、表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表より、カップリング剤として、イミダゾールシラン型カップリング剤を使用すると共に、前記イミダゾールシラン型カップリング剤を、直接にではなく、シリカ粒子を表面処理した状態で加えると、エポキシ樹脂組成物のポットライフが短くなるのを防止しながら、その硬化率を向上できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、無機フィラーとを含有し、前記無機フィラーが、式(1):
【化1】

〔式中、R1〜R4は、同一または異なって水素原子、またはアルキル基を示す。nは0、1または2である。〕
で表されるイミダゾールシラン型カップリング剤で表面処理されていることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
無機フィラーがシリカである請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
イミダゾールシラン型カップリング剤の吸着量が、無機フィラーに対して0.001〜5重量%である請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
アミン系硬化剤が含まれている請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物と、導電性フィラーとを含有することを特徴とする導電性接着剤。
【請求項6】
導電性フィラーが、式(1):
【化2】

〔式中、R1〜R4は、同一または異なって水素原子、またはアルキル基を示す。nは0、1または2である。〕
で表されるイミダゾールシラン型カップリング剤で表面処理されている請求項5に記載の導電性接着剤。
【請求項7】
導電性フィラーが、微細な金属粒を多数、直鎖状に繋いだ形状を有する金属粉、または針状の金属粉である請求項5または6に記載の導電性接着剤。
【請求項8】
請求項7に記載の導電性接着剤が膜状に形成され、かつ、導電性フィラーが膜の厚み方向に配向されていることを特徴とする異方導電膜。


【公開番号】特開2007−204673(P2007−204673A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27156(P2006−27156)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】