説明

エルゴチオネインの保存

エルゴチオネインとトリメチルアミン吸収剤を含む組成物を提供する。また、処理中にまたは貯蔵に先立って、ヒトの鼻によりトリメチルアミン臭の検出を防止するのに十分な量のトリメチルアミン吸収剤をエルゴチオネインと組み合わせることにより、エルゴチオネインを含有する調製物の処理および/または貯蔵に関連するトリメチルアミンに因る魚臭いアミン臭を防止、低減または最小化する方法も提供する。さらに、魚臭いトリメチルアミン臭を発現した後に、水性エルゴチオネイン含有調製物に関連するメチルアミン臭を改善する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は処理および/または貯蔵中の製品の臭気の変化を改善することを特徴とするエルゴチオネインまたはエルゴチオネイン含有混合物の調製に関する。特に、前記調製は、ヒトの鼻が特に感受性のある痕跡の揮発性化合物の形成を低減または防止する酸および/または二酸化硫黄供与体の添加に関わる。得られる調製物はアルカリまたは長時間にわたる貯蔵などの条件に遭遇した後でも無害な匂いを保持するが、そうでなければ、エルゴチオネイン溶液またはエルゴチオネイン含有混合物は魚臭いアミン臭を生じるであろう。酸および/または二酸化硫黄供与体化合物はまた、臭気の検出後にエルゴチオネイン溶液またはエルゴチオネイン含有混合物に添加してヒトの鼻に感受性のある揮発性痕跡化合物を低減または防止することもできる。
【背景技術】
【0002】
エルゴチオネインは体内に天然に見出される非必須L-アミノ酸である。非常に強い抗酸化剤であり、かつカルニチン類似体であるので好気性ATP産生にも活性を有しうる。真菌類により合成されるが哺乳動物では合成されないので、哺乳動物はこれを食餌から取得しなければならない。哺乳動物はキノコなどの真菌の直接消費によって、またはエルゴチオネインをその根の真菌から取込む穀粒より取得する。合成エルゴチオネインを研究室で調製する方法は、例えば、H. Heath, A. Lawson and C. Rimington. "2-Mercaptoglyoxalanes. Part I. The Synthesis of Ergothioneine(2-メルカプトグリオキサラン 第I部 エルゴチオネインの合成)", J. Chem Soc. (1951) pp 2215 -2217、および米国特許第5,438,151号に記載されている。
【0003】
エルゴチオネインは酸性pHできわめて安定であることが観察されている。pH 5で0.05%溶液は40℃にて60日間加熱後にその濃度の1%以内にとどまる。しかし、アルカリにおける安定性の報告は文献によって雑多である。例えば、Philip Hartman. "Ergothioneine as antioxidant", Methods Enzymol. 186:310-318, 1990 at p. 311 (「...エルゴチオネインの硫黄原子はアルカリに対してきわめて安定である」);H. Heath and G. Toennies. "The preparation and properties of Ergothioneine disulphide", J. Chem. Soc. pages 204-210, (1958) at p. 204 (「その硫黄は沸騰50%水酸化カリウム水溶液により全く影響を受けない」);Oxis International, Inc. Compound Monograph "L-Ergothioneine. Revision III", at p. 4 (「生理学的pHにおいてLE(L-エルゴチオネイン)は自動酸化せず、従って水溶液中非常に安定である」...「強アルカリに対してきわめて安定である」):ならびに、Jinzhu Xu and Jean Claude Yadan. "Synthesis of L-(+)-Ergothioneine", J. Org. Chem. 60:6296-6301, 1995, p. 6296(「これは酸化二量化に対するその安定性を説明する」)を参照されたい。
【0004】
他方においては、米国特許第5,438,151号, column 1, line 40 (「アルカリ媒質におけるトリメチルアンモニウム基の非常に容易なβ-脱離」;Donald Melville. "Ergothioneine. Vitamins and Hormones", 17:155-204, 1959, p. 161 (「エルゴチオネインを50% KOH溶液とともに沸騰するとトリメチルアミンが放出され、黄色の酸C6H6O2N2Sが形成される」)およびp. 165 (「エルゴチオネインの2つの最も特徴的な化学反応は硫黄原子の容易な酸化とアルカリに対するトリメチルアンモニウム基の脆弱性であり、...エルゴチオネインの熱、濃アルカリを用いる処理によるチオールウロカニン酸とトリメチルアミンの形成が既に認めらた」)を参照されたい。
【0005】
エルゴチオネインとその溶液は硫黄が存在するにもかかわらず無臭であり、その理由は、硫黄が臭気の無いチオンコンフォメーション(C=S)であって、腐卵臭を有するスルフヒドリルコンフォメーション(C-SH)でないからである。前記文献はいずれの条件下の貯蔵中のいずれの臭気の発現かを述べていない。実際に、欧州特許第EP0483426号は、皮膚に対して局所施用する脱臭剤中の好ましい成分の1つとしてエルゴチオネインを記載している。本明細書に引用した文献の内容は本明細書に参照によりその全てが組み入れられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,438,151号
【特許文献2】欧州特許第EP0483426号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H. Heath, A. Lawson and C. Rimington. "2-Mercaptoglyoxalanes. Part I. The Synthesis of Ergothioneine", J. Chem Soc. (1951) pp 2215 -2217
【非特許文献2】Philip Hartman. "Ergothioneine as antioxidant", Methods Enzymol. 186:310-318, 1990 at p. 311
【非特許文献3】H. Heath and G. Toennies. "The preparation and properties of Ergothioneine disulphide", J. Chem. Soc. pages 204-210, (1958) at p. 204 (「その硫黄は沸騰50%水酸化カリウム水溶液により全く影響を受けない」)
【非特許文献4】Oxis International, Inc. Compound Monograph "L-Ergothioneine. Revision III"
【非特許文献5】Jinzhu Xu and Jean Claude Yadan. "Synthesis of L-(+)-Ergothioneine", J. Org. Chem. 60:6296-6301, 1995, p. 6296
【非特許文献6】Donald Melville. "Ergothioneine. Vitamins and Hormones", 17:155-204, 1959
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、数か月室温で貯蔵したpH 4.2〜5.0の0.3%エルゴチオネインを含有する化粧製剤を人の皮膚上にこすると魚臭いアミン臭がその人に現れることを観察した。pH 7のさらに希釈な0.001%または0.0005%の溶液による他の化粧製剤も人の皮膚上にこすると魚臭いアミン臭を生じた。しかし、さらに希釈な溶液の場合、その臭気は何人かによって検出され、他の何人かによっては検出されなかった。その臭気は最初と同じ濃度のエルゴチオネインを保持する貯蔵サンプルによって生じた。
【0009】
エルゴチオネインに伴う魚臭いアミン臭は、特に経口医薬品、注射用医薬品、局所用医薬品、化粧品、栄養サプリメント、栄養ドリンク、および他の消費者向け製品の商業化に不利である。
【0010】
当業者は水溶液中の魚臭いアミン臭の除去または予防が特に困難な課題であることがわかっている。米国特許第5,814,233号は、過酸化水素の存在のもとでヒダントイン組成物などのアミドまたはイミド官能基をもつ化合物を用いて水系のメチルアミン臭を改善する方法を記載している。前記特許はさらにコリンをヒダントインおよび過酸化水素と反応させることを提案している。米国特許第5,137,982号および第5,078,913号において、発明者らは、塩化コリンと反応する多塩基酸を用いてトリメチルアミンおよび塩化コリンを含有する溶液から臭気を除去する方法を記載している。記載された酸には硫酸などの強酸が含まれる。米国特許第4,845,289号は約50℃を超える温度で塩化メチルの使用により臭気を除去または低減する方法を記載している。その特許には「これらならびに他の生成物において、反応完了時にしばしば過剰トリメチルアミンが残存し、これは臭気がありかつ望ましくない毒性学上の問題を有する。残存トリメチルアミンは水中の溶解度が高いので水系から完全に除去することは困難であり、そして実質的な量のアミンを除去するためにも不活性ガスによる徹底した洗浄および/または水の除去が必要である。これは時間のかかる、かつエネルギー集中的なプロセスでありうる」と記載している。
【0011】
この問題を取り扱うに当たって、本発明者の最初の仮説はエルゴチオネインが分析法により検出されない2分子間のジスルフィド結合を形成することにより経時的に二量化するというものであった。次いで本発明者は、その二量体は人の皮膚の表面上で反応し、臭気を生じる化合物を放出するという理由付けをした。最も広く知られている魚臭いアミン臭を生じうる人体の成分はコリンであり、これはホスファチジルコリンなどのありふれた皮膚脂質の一成分である。大量のコリンを食事にとる人、またはコリンの代謝に欠陥のある人はその呼気および身体に魚臭いアミン臭を発現する。それ故に本発明者は、反応物おそらくコリンが一人ひとりの皮膚によって相違すると仮定し、それが何故皮膚をこすった後にある人は臭気が検出されそして他の人は検出されないかを説明しうるとした。さらに、反応は皮膚からの数秒間の熱を必要とし、臭気が遅延して現れることを説明しうると理論付けた。
【0012】
しかし本発明者は今回、エルゴチオネインの調製と貯蔵に関連する臭気の源はコリンの存在に関係のないこと、そして従来の当技術分野のどの方法もエルゴチオネインを含有するものの塩化コリンを含有しない製品のヒト皮膚への施用後に生じる臭気の形成を防止するために役立たないことを認識した。
【0013】
本発明は、臭気の形成を防止しておよび/または臭気を消滅してそれにより商業化へのこの障害を取り除く今回発見した実用的な方法を記載する。
【0014】
1つの特定の理論に限定されるものでないが、エルゴチオネインに関係する臭気は中性pHまたは酸性pHでも、溶液中で経時的に微量のトリメチルアミンの形成により引き起こされうると考えられる。トリメチルアミンは強いアンモニア臭を有する気体であるが痕跡量では魚臭いアミン臭を有する。これは腐った魚および他の腐った食品において生じる。ヒトの鼻は微量のトリメチルアミンに感受性があり(臭気閾値=25ppm)、これはおそらく汚染食品を検知して病気を避けるための防衛機構として進化したと思われる。この気体はエルゴチオネイン混合物の水相内で生成して溶解したまま残存する、従って混合物を直接嗅いだときはその臭気はマスキングされる。しかし、エルゴチオネイン混合物を皮膚に施用すると、混合物の水成分は吸収され、皮膚の熱がトリメチルアミンを蒸発させる。これは混合物を皮膚にこすったとき、何故臭気が数秒間後にのみ検出されるかを説明することができる。それ故に、人による臭気認知の変動はその皮膚またはコリン含量の相違の結果でなく、むしろヒト集団における嗅覚感受性、すなわち、痕跡量のトリメチルアミンを検出する能力の有意差のためであると理論付けられる。実際、ヒト集団の5〜7%は全くこれを嗅ぐことができない嗅覚消失と呼ばれる症状である。エルゴチオネイン濃度のHPLC分析はエルゴチオネインの低下またはトリメチルアミンの形成を検出しなかったが、その理由はこの変化がHPLCの検出限界未満の痕跡量であってしかしヒトの鼻のトリメチルアミン検出限界以上であったからである。
【0015】
本発明者によるこの観察は2mM(0.046%)エルゴチオネインを0.1N NaOH(pH 11.5)と10分間沸騰することによって魚臭いアミン臭を再現することにより確認された。臭気はアンモニウム様でなく、全ての人が検出した。この方法は臭気を低減または防止する薬剤および手順を試験するために用いる試験システムになった。
【0016】
本発明者は今回、ある特定のトリメチルアミン吸収剤(結合剤または共役剤と呼んでもよい)は、エルゴチオネインからのトリメチルアミンの形成を防止しかつ形成後のトリメチルアミンと結合して鼻で検出できる気体として逃げるのを防止する両方の能力をもつことを発見した。
【0017】
本発明の一実施形態において、トリメチルアミン結合剤は酸、とりわけ弱酸である。
【0018】
本発明のさらなる実施形態において、トリメチルアミン結合剤は二酸化硫黄であるかまたは水に溶解すると二酸化硫黄を発生する化合物(すなわち、二酸化硫黄供与体)である。二酸化硫黄はトリメチルアミン形成後に結合して、鼻により検出可能な気体として逃げるのを防止することができる。二酸化硫黄は弱酸の共役塩基のように機能することができ、貯蔵中にエルゴチオネインの臭気を防止または軽減する。
【0019】
本発明の第1の態様によれば、エルゴチオネインとその意図する目的に用いるときに治療組成物のトリメチルアミン臭を改善するのに十分な量の少なくとも1種のトリメチルアミン吸収剤とを含むプレブレンドの形態で、エルゴチオネインを治療組成物に供給する改良がなされた、エルゴチオネインを含む含水治療組成物を提供する。
【0020】
本発明のさらなる態様によれば、2mM(w/v)を超える濃度のエルゴチオネインおよびトリメチルアミン吸収剤から実質的に成るプレブレンド組成物を提供する。
【0021】
本発明のなおさらなる態様によれば、エルゴチオネインを含有する調製物の処理または貯蔵に関連して、水溶液中に形成されるトリメチルアミンによる魚臭いアミン臭を改善する方法を提供する。意図するところは、エルゴチオネインに、その含水調製物の処理中におよび/または貯蔵前に、その意図する目的に用いるときに組成物中の魚臭いアミン臭の検出を改善するのに十分な量のトリメチルアミン吸収剤を組み合わせるステップを含む方法である。意図するところはまた、含水調製物中に、臭気の発現後に、ヒトの鼻によるトリメチルアミン由来の魚臭いアミン臭の検出を改善するのに十分な量のメチルアミン吸収剤を導入するステップを含む方法である。トリメチルアミン臭を改善するさらなる方法には、含水エルゴチオネインを含有する調製物を7以下のpHに維持する方法、および含水エルゴチオネインを含有する調製物を25℃以下の温度に維持する方法が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】エルゴチオネインの化学構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に詳しく説明するように、いくつかの好ましい態様において、本発明は調製および/または貯蔵中に無害な臭気を保持するエルゴチオネインおよびエルゴチオネイン含有混合物、ならびに、エルゴチオネインおよびエルゴチオネイン含有混合物中のトリメチルアミン由来の魚臭いアミン臭の形成を防止するかまたは臭気の形成後にエルゴチオネインおよびエルゴチオネイン含有混合物からのトリメチルアミン由来の魚臭いアミン臭を低減し最小化しもしくは実質的に除去する方法を提供する。
【0024】
特に明示して断らない限り、本明細書におけるエルゴチオネインのパーセント濃度の表現は全て、パーセント重量/体積を意味する。
【0025】
エルゴチオネイン含有混合物からの魚臭いアミン臭の形成を低減し、最小化しまたは防止するためにいくつかの方法が存在する。その臭気はエルゴチオネインのレベルを低減することにより最小化することができる。水性媒質において(または非水性極性溶媒、例えば、エタノール、ブチレングリコール、エチレングリコール、エチレングリコール、イソプロパノール、または類似の一価アルコールにおいて)エルゴチオネインを約20μM(0.00046%)未満含有する溶液、例えば、0.00001%以下の溶液は特徴的な臭気を生じない。
【0026】
トリメチルアミン臭の形成はまた、製造中および最終製品において常時、酸性pH、具体的には7.0以下のpHを維持することにより、エルゴチオネインまたはエルゴチオネイン含有混合物の製造中に最小化することができる。pHが低いほど、臭気の形成は少ないようである。アルカリ性の条件(7.0を超えるpHを意味する)は、たとえ短い時間であっても避けるべきである。
【0027】
他の方法においては、トリメチルアミン臭の形成はエルゴチオネインもしくはエルゴチオネイン含有混合物を外界温度、具体的には25℃以上にたとえ短時間であっても加熱することを避けることにより最小化することができる。これが特に該当するのは、水酸化ナトリウムまたは他の強いもしくは弱い塩基がエルゴチオネイン含有混合物中に含有されるかまたは加えられた場合、または混合物がpH>8.0を意味する塩基性である場合である。エルゴチオネインまたはエルゴチオネイン含有混合物の貯蔵にあたっては、その臭気は、混合物を外界温度以下、具体的には約2〜8℃の冷蔵温度、または約-20〜-70℃の冷凍温度を維持することにより最小化するかまたは防止することができる。この場合、エルゴチオネインは、製造工程の最後のステップにおいて、または最終近くのステップにおいて、全ての他の成分を加え終わり、その混合物を冷却しかつpHを適当に調節し終えた後に加える。
【0028】
トリメチルアミン臭は、たとえ得られる混合物を直後に中和するとしても、製造中にエルゴチオネインもしくはエルゴチオネイン含有混合物を水酸化ナトリウムもしくは他の強い塩基に加えるのを避けることにより最小化することができる。
【0029】
トリメチルアミンによる魚臭いアミン臭の形成は、エルゴチオネインもしくはエルゴチオネイン含有混合物にトリメチルアミン結合剤または吸収剤、さらに特に酸を加えることにより最小化するかまたは除去することができる。好ましい酸は弱酸である。弱酸は溶液中で有意な程度までイオン化しない酸である。弱酸に対するKa(ヒドロニウムイオンと共役塩基の濃度の積を未解離酸の濃度で除したものに等しい酸解離定数)は1.8 x 10-16〜55.5である。もし酸が1以上のヒドロニウムイオンを放出できれば、別々のKaを各ヒドロニウムイオンについて計算する。55.5を超えるKaをもつ酸は強酸であり、ほとんど全体が水中で解離している。具体的に好ましい酸は、1.8 x 10-16〜5.5 x 10-1のKaを有する酸、より好ましくは、1.82 x 10-1〜1.62 x 10-12のKaを有する酸である。最も好ましいのはクエン酸である。しかし、本発明に有用な他の弱酸には、限定されるものでないが、他のα-ヒドロキシ酸、例えば、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸および酒石酸;カルボン酸、例えば、酢酸、ブタン酸、蟻酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、シュウ酸、ペンタン酸、プロパン酸;他の有機酸、例えば、糖酸、例えば、アスコルビン酸、およびプリン、例えば、尿酸;無機酸、例えば、ホウ酸、炭酸、クロム酸、シアン化水素酸、フッ化水素酸、亜硝酸、リン酸、硫酸および亜硫酸が含まれ、使用することができる。使用する酸の量は魚臭いトリメチルアミン臭の検出を防止するのに十分でなければならず、当業者は具体的な弱酸に対するこの量を決定することができる。酸の重量のエルゴチオネインの重量に対する比は約1:1〜約6:1の範囲でありうる。それぞれ、好ましくは、その比は約1:1より大きく、例えば、約2:1〜約4:1、そしてより好ましくは、その比は4:1である。
【0030】
魚臭いトリメチルアミン臭の形成を防止し、低減しまたは最小化するのに有用である化合物の特別なカテゴリーには、二酸化硫黄および二酸化硫黄供与体;すなわち、解離すると二酸化硫黄を放出する化合物が含まれる。かかる化合物の例は、亜硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、硫酸水素カリウムまたはメタ重亜硫酸カリウム、および硫酸水素カルシウムである。二酸化硫黄ガスを直接用いることができる。この場合、エルゴチオネインと二酸化硫黄または二酸化硫黄供与体化合物のプレブレンドは、約0.000001〜約45%、好ましくは約0.00001〜約30%、より好ましくは、約0.0001〜約20%エルゴチオネインと、約0.000001〜約90、好ましくは約0.00001〜約60%、そしてより好ましくは約0.0001〜約40%のトリメチルアミン吸収剤とを、水もしくは非水極性溶媒(水またはブチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどであってもよい)の溶液、懸濁液、または乳濁液中に含みうる。好ましい一実施形態においては、約1:4のエルゴチオネイン:メタ重亜硫酸ナトリウムの比が最も好ましい。
【0031】
弱酸を含む酸、および二酸化硫黄または二酸化硫黄放出化合物を魚臭いトリメチルアミン臭の形成を防止または最小化するために用いることができる一方、これらはまた、形成後にその臭気を最小化または除去するために用いることもできる。これは、部分的にまたは全体的に、弱酸および/または二酸化硫黄のトリメチルアミンガスと結合しかつそれをエルゴチオネイン含有混合物内に保持する能力に因ると考えられる。
【0032】
一般的に、酸が弱いほど、その酸はトリメチルアミンとより強く結合し、それ故に、魚臭いトリメチルアミン臭を抑制するのに優れている。酸の弱さはそのKa(酸定数)によって測定される。Kaが小さいほど、酸は弱い。いくつかの普通の酸の表とそれらのイオン化型のそれぞれに対するKaを表1に示す。表記「E-x」(xは数字である)は指数を意味する。例えば、酢酸について1.74 E-5は1.74 x 10-5を意味する。
【表1】


【0033】
商業化のために、本発明の要件に適合する化合物、特に弱酸を選択する上で考慮しうる他の因子には、臭気を最小化し防止しまたは除去するために必要な弱酸の濃度における混合物のpH;混合物の他の化合物との本化合物の適合性;本化合物の副作用;本化合物またはその使用を規制する政府または他の行政機関の規制;本化合物のコスト;混合物の他の成分とのまたは人体の部分との本化合物の副反応;または本化合物の食味、臭気または感触が含まれる。例えば、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの亜硫酸塩を含有する経口製品は、ある人たちに、それ故に、ある原料、中間体製品または最終製品においてアレルギー反応を生じ、本発明の最も好ましい化合物でないかもしれない。他の例として、二酸化ナトリウムは高反応性の気体であり、特徴のある臭気を有し、それ故に、ある環境においては、魚臭いトリメチルアミン臭を最小化し、防止しまたは除去するために用いるのに好ましい化合物でないかも知れない。
【0034】
本発明はエルゴチオネインまたはエルゴチオネイン含有混合物、例えば、純粋のエルゴチオネイン、または製造から得られる、またはある場所から他の場所へのエルゴチオネインの出荷もしくは移動の形態を構成する水性もしくは有機溶液もしくは乳濁液中にエルゴチオネインを含むプレブレンドにおいて使用することができる。プレブレンドは好ましくは、約0.000001〜約45%、好ましくは約0.00001〜約30%、より好ましくは、約0.0001〜約20%のエルゴチオネインと、約0.000001〜約90%、好ましくは約0.00001〜約60%、そしてより好ましくは約0.0001〜約40%のトリメチルアミン吸収剤とを、極性溶媒(水などの極性水性溶媒であってもよい)または水と非極性溶媒、例えば、C1-4一価アルコールまたはC1-4二価アルコール(例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセロール、ブチレングリコール、プロピレングリコール)の溶液、懸濁液または乳濁液中に含むものであって、ここで前記極性溶媒は約10〜約99.99999%(本明細書に記載の全てのパーセントは特に断らない限り重量パーセントである)の範囲の量で存在する。プレブレンドは、安定性を向上するかまたは他の商業的に有利な効果を与える保存剤、酸化防止剤、または他成分などの他の成分を含有してもよい。エルゴチオネイン含有組成物はプレブレンドの剤形で、化粧品、医薬品、またはかかる製品を製剤するために用いるOTC製品の製造業者向けに販売することができる。プレブレンド中にトリメチルアミン吸収剤が存在すると、プレブレンドのならびに意図する目的に用いる化粧品または医薬品または他の製品に製剤するときの不快な臭気を改善する。
【0035】
本発明はまた、完成製品中の水性または有機性の溶液または乳濁液中のエルゴチオネインの調製に用いることができる。これらの製品には、スキンケア製品、消費者製品、一般用医薬品、経口補助食品、栄養補助食品、食品、調味料、または医薬品が含まれる。製品は、局所施用、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射または任意の他の注射により、または経口または経鼻摂取により、または点眼剤もしくは点鼻剤により、または座剤により使用することができる。経口摂取用栄養補助食品には、丸薬、ジュース、セーキ、パワードリンク、強化食品および強化水またはサプリメント添加水が含まれる。
【0036】
エルゴチオネインは本発明に用いる前は純粋な形態であってもよい。エルゴチオネインはプレブレンドの剤形であってもまたは他の化合物との混合物であってもよい。最も好ましい場合、エルゴチオネインは、約2mM(0.046%w/v)以上、例えば、約2mM〜約70mM、好ましくは約3mM以上、例えば、約3mM〜約50mM、そしてより好ましくは、約4mM以上、例えば、約4mM〜約30mMの量のプレブレンド組成物で提供してもよい。エルゴチオネインを組み込む組成物は乳濁液、溶液、懸濁液、ゲル、または無水組成物であってもよい。乳濁液であれば、全組成の重量で約0.1〜95%、好ましくは約0.5〜90%、そしてより好ましくは約1〜85%の水を含む油中水または水中油であってもよい。水溶液、懸濁液またはゲルの剤形であれば、組成物は約10〜約99%の水を含有して残りの成分は1種以上の活性成分であってもよい。エルゴチオネインまたはプレブレンドを、乳濁液の水相または油相に溶解または分散してもよい。好ましい一実施形態においては、エルゴチオネインを水相に溶解または分散させる。本発明の組成物は、エルゴチオネインを極性非水性溶媒、例えばエタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、または非極性油などに溶解または分散した非水または無水の剤形であってもよい。
【0037】
エルゴチオネインを無希釈またはプレブレンドの剤形で組込む本発明の組成物が乳濁液の形態である場合、その組成物は油相を含みうる。油成分は皮膚加湿および保護特性にとって望ましい。好適な油には、本明細書に記載したものに限定されないが、シリコーン、エステル、植物油が含まれる。油は揮発性または非揮発性であってもよく、好ましくは室温にて流動性の液の形態が好ましい。用語「揮発性」は、その油が測定可能な蒸気圧、または20℃で少なくとも約2mm水銀の蒸気圧を有することを意味する。用語「非揮発性」は油が20℃で約2mm水銀未満の蒸気圧を有することを意味する。
【0038】
環状シリコーンは組成物に用いることができる揮発性シリコーンの1つのタイプである。かかるシリコーンは一般式:
【化1】

【0039】
[式中、n=3〜6、好ましくは、4、5、または6である]を有する。
【0040】
直鎖の揮発性シリコーン、例えば、一般式:(CH3)3-Si-O-[Si-(CH3)2-O]n-Si(CH3)3[式中、n=0、1、2、3、4、または5、好ましくは0、1、2、3、または4である]を有するものも好適である。
【0041】
環状および直鎖の揮発性シリコーンは、Dow Corning CorporationおよびGeneral Electricを含む様々な商業供給元から入手することができる。Dow Corningの直鎖揮発性シリコーンはDow Corning 244、245、344、345および200液剤の商品名で販売されている。これらの液剤には、ヘキサメチルジシロキサン(粘度0.65センチストーク(略語cst))、オクタメチルトリシロキサン(1.0 cst)、デカメチルテトラシロキサン(1.5 cst)、ドデカメチルペンタシロキサン(2 cst)およびそれらの混合物が含まれる(粘度はいずれも25℃における測定値である)。好ましい環状揮発性シリコーンはシクロペンタシロキサンであり、Dow CorningからDC 345液剤として入手可能である。
【0042】
好適な分枝鎖揮発性シリコーンにはメチルトリメチコン、一般式:
【化2】

【0043】
を有する分枝鎖揮発性シリコーンなどのアルキルトリメチコンが含まれる。
【0044】
メチルトリメチコンは、Shin-EtsuシリコーンからTMF-1.5(25℃にて1.5 cstの粘度を有する)の商品名で購入することができる。
【0045】
非揮発性シリコーンオイル(水溶性および水不溶性の両方)も、本組成物での使用に好適である。かかるシリコーンは、好ましくは、25℃にて約5〜800,000cst、好ましくは20〜200,000cstの粘度を有する。好適な水不溶性シリコーンにはアモジメチコンなどのアミン機能性シリコーンが含まれる。
【0046】
例えば、かかる非揮発性シリコーンは次の一般式:
【化3】

【0047】
[式中、RおよびR'は各独立してC1-30直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和のアルキル、フェニルまたはアリール、トリアルキルシロキシであり、そしてxおよびyは各独立して1〜1,000,000であり;ただし、xまたはyのいずれかの少なくとも1つが存在しかつAはアルキルシロキシ末端単位である]を有しうる。好ましくは、Aはメチルシロキシ末端単位;特にトリメチルシロキシであり、そしてRおよびR'は各独立してC1-30直鎖または分枝鎖アルキル、フェニル、またはトリメチルシロキシ、より好ましくはC1-22アルキル、フェニル、またはトリメチルシロキシ、最も好ましくはメチル、フェニル、またはトリメチルシロキシであり、そして得られるシリコーンはジメチコン、フェニルジメチコン、ジフェニルジメチコン、フェニルトリメチコン、またはトリメチルシロキシフェニルジメチコンである。他の例にはアルキルジメチコン、例えばセチルジメチコンその他が含まれ、ここで、少なくとも1つのRは脂肪族アルキル(C12、C14、C16、C18、C20、またはC22)であり、他のRはメチルであり、かつAはトリメチルシロキシ末端単位であり、ただし、かかるアルキルジメチコンは室温にて流動性の液体である。好ましいのは、Dow Corning CorporationからDC 200/100 cs液剤として購入できるジメチコンである。
【0048】
様々な非揮発性油も本発明の組成物に用いるのに好適である。非揮発性油は一般に25℃にて約5〜10センチストークの粘度を有しかつ25℃にて約1,000,000センチポアズまでの範囲の粘度を有しうる。非揮発性油の例には、限定されるものでないが、エステルおよび炭化水素油が含まれる。
【0049】
好適なエステルはモノ-、ジ-、およびトリエステルである。組成物はこのグループまたはその混合物から選択される1種以上のエステルを含みうる。
【0050】
モノエステルは、式R-COOH(式中、Rは2〜45個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和のアルキル、またはフェニルである)を有するモノカルボン酸と式R-OH(式中、Rは2〜30個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和のアルキル、またはフェニルである)を有するアルコールとの反応により形成されるエステルとして定義される。アルコールと酸の両方は1以上のヒドロキシル基で置換されていてもよい。酸またはアルコールのいずれかまたは両方は「脂肪族の」酸またはアルコールであってもよく、かつ直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和の形態で約6〜30個の炭素原子、より好ましくは12、14、16、18、または22個の炭素原子を有してもよい。本発明の組成物に用いることができるモノエステル油の例には、ラウリル酸ヘキシル、イソステアリン酸ブチル、イソステアリン酸ヘキサデシル、パルミチン酸セチル、ネオペンタン酸イソステアリル、ヘプタン酸ステアリル、イソノナン酸イソステアリル、乳酸ステアリル、オクタン酸ステアリル、ステアリン酸ステアリル、イソノナン酸イソノニルなどが含まれる。
【0051】
好適なジエステルはジカルボン酸と脂肪族もしくは芳香族のアルコール、または少なくとも2つの置換されたヒドロキシル基を有する脂肪族もしくは芳香族のアルコールとモノカルボン酸の反応生成物である。ジカルボン酸は2〜30個の炭素原子を含有してもよく、かつ直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和型であってもよい。ジカルボン酸は1以上のヒドロキシル基で置換されていてもよい。脂肪族または芳香族のアルコールも2〜30個の炭素原子を含有してもよく、かつ直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和型であってもよい。好ましくは、1以上の酸またはアルコールは脂肪族の酸またはアルコールであり、すなわち、12〜22個の炭素原子を含有する。ジカルボン酸はまた、αヒドロキシ酸であってもよい。エステルは二量体または三量体型であってもよい。本発明の組成物に用いることができるジエステル油の例には、リンゴ酸ジイソステアリル、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、セバシン酸ジブチル、ジリノール酸ジセテアリル二量体、アジピン酸ジセチル、アジピン酸ジイソセチル、アジピン酸ジイソノニル、ジリノール酸ジイソステアリル二量体、フマル酸ジイソステアリル、リンゴ酸ジイソステアリル、リンゴ酸ジオクチルなどが含まれる。
【0052】
好適なトリエステルはトリカルボン酸と脂肪族または芳香族アルコールの反応生成物、またはあるいは3個以上の置換されたヒドロキシル基を有する脂肪族または芳香族のアルコールとモノカルボン酸との反応生成物を含む。上記のモノ-およびジエステルについては、酸とアルコールは2〜30個の炭素原子を含有し、かつ飽和または不飽和、直鎖または分枝鎖であってもよく、かつ1個以上のヒドロキシル基で置換されていてもよい。好ましくは、この酸またはアルコールの1以上は12〜22個の炭素原子を含有する脂肪酸またはアルコールである。トリエステルの例には、アラキドン酸、クエン酸、またはベヘン酸のエステル、例えば、トリアラキジン、クエン酸トリブチル、クエン酸トリイソステアリル、クエン酸トリC12-13アルキル、トリカプリリン、クエン酸トリカプリリル、ベヘン酸トリデシル、クエン酸トリオクチルドデシル、ベヘン酸トリデシル;またはトリデシルココエート、イソノナン酸トリデシルなどが含まれる。
【0053】
組成物に用いるのに好適なエステルは、C.T.F.A. Cosmetic Dictionary and Handbook、Eleventh Edition、2006に「エステル」の分類のもとでさらに記載されており、その内容は本明細書に参照によりその全てが組み入れられる。
【0054】
1種以上の非揮発性炭化水素油を組成物中に組み込むことが所望されうる。好適な非揮発性炭化水素油には、好ましくは約20個を超える炭素原子を有するパラフィン系炭化水素およびオレフィンが含まれる。かかる炭化水素油には、C24-28オレフィン、C30-45オレフィン、C20-40イソパラフィン、水素化ポリイソブテン、ポリイソブテン、ポリデセン、水素化ポリデセン、鉱油、ペンタヒドロスクワレン、スクワレン、スクワラン、およびそれらの混合物が含まれる。好ましい一実施形態において、かかる炭化水素は約300〜1000ダルトンの分子量を有する。
【0055】
本発明の組成物に用いることができる界面活性剤には、シリコーン界面活性剤および有機非イオン界面活性剤が含まれる。使用する場合、界面活性剤は、組成物の全重量を基準として、約0.1〜約80%、好ましくは約1〜50%、そしてより好ましくは約5〜約40%の範囲で存在する。
【0056】
好適なシリコーン界面活性剤には、両親媒性を有する、例えば親水基と親油基を含有するポリオルガノシロキサンポリマーが含まれる。これらのシリコーン界面活性剤は室温にて液体または固体であってもよい。
【0057】
使用することができるシリコーン界面活性剤の1つの型は、一般に、ジメチコンコポリオールまたはアルキルジメチコンコポリオールと呼ばれる。この界面活性剤は、約2〜18の範囲の親水性/親油性バランス(HLB)を有する油中水型または水中油型界面活性剤である。好ましくは、シリコーン界面活性剤は、約2〜12、好ましくは約2〜10、最も好ましくは約4〜6の範囲のHLBを有する非イオン性界面活性剤である。用語「親水基」は、オルガノシロキサンポリマー骨格上に置換されるとポリマーの置換された部分に親水性を与える基を意味する。親水性を与えうる基の例はヒドロキシ-ポリエチレンオキシ、ヒドロキシル、カルボキシレート、およびそれらの混合物である。用語「親油基」は、オルガノシロキサンポリマー骨格上に置換されるとポリマーの置換された部分に親油性を与える有機基を意味する。親油性を与えうる有機基の例は、C1-40直鎖または分枝鎖アルキル、フルオロ、アリール、アリールオキシ、C1-40ヒドロカルビルアシル、ヒドロキシ-ポリプロピレンオキシ、またはそれらの混合物である。好適なシリコーン界面活性剤の1つの型は一般式:
【化4】

【0058】
[式中、pは0〜40(2、3、4、13、14、15、16、17、18などの中間および小範囲の全ての数字を含む範囲)であり、かつPEは(-C2H4O)a-(-C3H6O)b-Hであり、ここでaは0〜25、bは0〜25であり、ただし、aとbは両方とも同時に0であることはなく;xとyは各独立して0〜1 x 106の範囲にあり、ただし、これらは同時に0であることはない]を有する。好ましい一実施形態において、x、y、z、a、およびbは、ポリマーの分子量が約5,000〜約500,000、より好ましくは約10,000〜100,000の範囲にあり、そして最も好ましくはほぼ約50,000にあるものであり、このポリマーは一般的にジメチコンコポリオールと呼ばれる。シリコーン界面活性剤の1つの型において、pは長鎖アルキルはセチルまたはラウリルであり、この界面活性剤は、一般的に、それぞれセチルジメチコンコポリオールまたはラウリルジメチコンコポリオールと呼ばれる。
【0059】
いくつかの事例では、ポリマー中の反復エチレンオキシドまたはプロピレンオキシド単位の数も規定され、例えば、PEG-15/PPG-10ジメチコンとも呼ばれるジメチコンコポリオールはシロキサン骨格上に15個のエチレングリコール単位および10個のプロピレングリコール単位を含む置換基を有するジメチコンを意味する。上記一般構造中の1個以上のメチル基を、長鎖アルキル(例えば、エチル、プロピル、ブチルなど)またはエーテル(例えばメチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテルなど)で置換することも可能である。
【0060】
シリコーン界面活性剤の例は、Dow Corningが販売する商品名Dow Corning 3225C処方助剤(CTFA名シクロテトラシロキサン(および)シクロペンタシロキサン(および)PEG/PPG-18ジメチコン);または5225C処方助剤(CTFA名シクロペンタシロキサン(および)PEG/PPG-18/18ジメチコン);またはDow Corning 190界面活性剤(CTFA名;PEG/PPG-18/18ジメチコン);またはDow Corning 193液剤、Dow Corning 5200(CTFA名ラウリルPEG/PPG-18/18メチコン);または、Goldschmidtが販売するAbil EM 90(CTFA名セチルPEG/PPG-14/14ジメチコン);またはGoldschmidtが販売するAbil EM 97(CTFA名ビス-セチルPEG/PPG-14/14ジメチコン);またはAbil WE 09(CTFA名セチルPEG/PPG-10/1ジメチコンを有し、イソステアリン酸ポリグリセリル-4およびラウリル酸ヘキシルも含有する混合物);または信越シリコーンが販売するKF-6011(CTFA名PEG-11メチルエーテルジメチコン);信越シリコーンが販売するKF-6012(CTFA名PEG/PPG-20/22ブチルエーテルジメチコン);または信越シリコーンが販売するKF-6013(CTFA名PEG-9ジメチコン);または信越シリコーンが販売するKF-6015(CTFA名PEG-3ジメチコン);または信越シリコーンが販売するKF-6016(CTFA名PEG-9メチルエーテルジメチコン);または信越シリコーンが販売するKF-6017(CTFA名PEG-10ジメチコン);または信越シリコーンが販売するKF-6038(CTFA名ラウリルPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン)である。
【0061】
しばしば乳化エラストマーと呼ばれる様々な型の架橋したシリコーン界面活性剤も好適である。これらは典型的には、シリコーンエラストマーが、ポリオキシアルキレン化基のような親水性部分を少なくとも1つ含む点を除き、上記の「シリコーンエラストマー」の項に記載のとおりに調製される。典型的には、これらのポリオキシアルキレン化シリコーンエラストマーは、少なくとも1個のケイ素と結合した水素を含むジオルガノポリシロキサンと、少なくとも2個のエチレン不飽和基を含むポリオキシアルキレンとの架橋付加反応によって得られる架橋オルガノポリシロキサンである。少なくとも1つの実施形態において、ポリオキシアルキレン化架橋オルガノポリシロキサンは、任意に白金触媒の存在下で、それぞれケイ素と結合した少なくとも2個の水素を含むジオルガノポリシロキサンと少なくとも2個のエチレン不飽和基を含むポリオキシアルキレンのの架橋付加反応によって得られ、この反応は、例えば、米国特許第5,236,986号および米国特許第5,412,004号、米国特許第5,837,793号および米国特許第号5,811,487に記載されており、これらの内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0062】
本発明の実施形態に用いることができる少なくとも1種のポリオキシアルキレン化シリコーンエラストマーには、Shin-Etsuシリコーンが商品名KSG-21、KSG-20、KSG-30、KSG-31、KSG-32、KSG-33;KSG-210(ジメチコン中に分散したジメチコン/PEG-10/15架橋ポリマー);KSG-310(PEG-15ラウリルジメチコン架橋ポリマー);KSG-320(イソドデカン中に分散したPEG-15ラウリルジメチコン架橋ポリマー);KSG-330(トリエチルヘキサノイン中に分散したPEG-15ラウリルジメチコン架橋ポリマー)、KSG-340(PEG-10ラウリルジメチコン架橋ポリマーとPEG-15ラウリルジメチコン架橋ポリマーの混合物)で販売するものが含まれる。
【0063】
参照によりその全てが本明細書に組み入れられるPCT/WO2004/024798に開示されたようなポリグリセロール化シリコーンエラストマーも好適である。かかるエラストマーには、Shin-EtsuのKSGシリーズ、例えば、KSG-710(ジメチコン中に分散したジメチコン/ポリグリセリン-3架橋ポリマー);またはShin-Etsuの商品名KSG-810、KSG-820、KSG-830、またはKSG-840で販売される、様々な溶媒、例えば、イソドデカン、ジメチコン、トリエチルヘキサノイン中に分散したラウリルジメチコン/ポリグリセリン-3架橋ポリマーが含まれる。Dow Corningが商品名9010およびDC9011で販売するシリコーンも好適である。
【0064】
1つの好ましい架橋シリコーンエラストマー乳化剤は、ジメチコン/PEG-10/15架橋ポリマーであって、そのエラストマー骨格に起因する優れたエステ(審美性)だけでなく、界面活性特性も与える。
【0065】
組成物は1種以上の非イオン有機界面活性剤を含んでもよい。好適な非イオン界面活性剤には、アルコールのアルキレンオキシド、通常エチレンまたはプロピレンオキシドとの反応により形成されるアルコキシル化アルコール、またはエーテル類が含まれる。好ましくは、アルコールは6〜30個の炭素原子を有する脂肪族アルコールである。かかる成分の例には、Steareth 2-100(ステアリルアルコールのエチレンオキシドとの反応により形成され、エチレンオキシド単位の数は2〜100である);Beheneth5-30(ベヘニルアルコールのエチレンオキシドとの反応により形成され、反復エチレンオキシド単位の数は5〜30である);Ceteareth2-100(セチルおよびステアリルアルコールの混合物とエチレンオキシドとの反応により形成され、反復エチレンオキシド単位の数は2〜100である);Ceteth1-45(セチルアルコールとエチレンオキシドとの反応により形成され、反復エチレンオキシド単位の数は1〜45である)などが含まれる。
【0066】
他のアルコキシル化アルコールは、脂肪酸およびモノ-、ジ-または多価アルコールとアルキレンオキシドとの反応により形成される。例えば、C6-30脂肪カルボン酸および多価アルコール(グルコース、ガラクトース、メチルグルコースなどの単糖)とアルコキシル化アルコールの反応生成物である。例には、オレイン酸PEGグリセリル、ステアリン酸PEGグリセリルなどの脂肪酸グリセリルエステル;または反復エチレングリコールの数が3〜1000であるジポリヒドロキシステアリン酸PEGなどのPEGポリヒドロキシアルカノートと反応させたポリマーアルキレングリコールが含まれる。
【0067】
非イオン界面活性剤として好適なものはまた、カルボン酸と、アルキレンオキシドまたはポリマーエーテルとの反応により形成される。得られる生成物は一般式:
【化5】

【0068】
または
【化6】

【0069】
[式中、RCOはカルボン酸エステル基であり、Xは水素または低級アルキルであり、そしてnはポリマーアルコキシ基の数である]を有する。ジエステルの場合、2個のRCO基が同一である必要はない。好ましくは、RはC6-30の直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和のアルキルであり、nは1〜100である。
【0070】
モノマー、ホモポリマー、またはブロックコポリマーのエーテル類もまた非イオン界面活性剤として好適である。典型的には、かかるエーテル類はモノマーアルキレンオキシド、一般にエチレンまたはプロピレンオキシドの重合により形成される。かかるポリマーエーテル類は一般式:
【化7】

【0071】
[式中、RはHまたは低級アルキルであり、そしてnは反復モノマー単位の数でありかつ1〜500の範囲にある]を有する。
【0072】
他の好適な非イオン界面活性剤には、アルコキシル化ソルビタンおよびアルコキシル化ソルビタン誘導体が含まれる。例えば、ソルビタンのアルコキシル化、特にエトキシル化はポリアルコキシル化ソルビタン誘導体を与える。ポリアルコキシル化ソルビタンのエステル化はソルビタンエステル、例えばポリソルベートを与える。例えば、ポリアルコキシル化ソルビタンはC6-30、好ましくはC12-22脂肪酸を用いてエステル化することができる。かかる成分の例には、ポリソルベート20〜85、さらに具体的にはポリソルベート80、オレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、パルミチン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、ステアリン酸ソルビタンなどが含まれる。本発明に用いるのに具体的に好ましいのは、Liposorb O-20としてLipoChemicalsから入手しうるポリソルベート80である。
【0073】
本発明の組成物中に存在してもよい他の化合物には、限定されるものでないが、溶液のpHを調節するバッファーおよび塩;Botanistat PF-64(D-D Chemco、Inc.より入手可能)などの保存剤および抗微生物剤;ビタミンCの形態などのエルゴチオネインの抗酸化能力を回復する薬剤;リポソーム中に封入したDNA修復抽出物などの他の酸化防止剤、例えば、Roxisomes(登録商標)(Arabidposis 抽出物/レシチン/水/フェノキシエタノール)、Ultrasomes(登録商標)(Micrococcus 溶菌液);ビタミンAまたはビタミンEなどのビタミン;アミノ酸およびミネラルなどの必須および非必須栄養分;皮膚を輝かせかつ明るくする化合物、例えば、ウンデシレノイルフェニルアラニン(Sepiwhite MSHとしてSeppicから入手しうる)および桑実抽出物;刺激および炎症を防止および低減する化合物、例えば、Evodiox(Evodia Rutaecapra果実抽出物/ブチレングリコール/フェノキシエタノール);老化を防止または遅くする化合物;紫外線および汚染などの環境侵襲および毒素に対して保護する化合物;疾患または癌を治療する化合物;ならびにワクチンなどの疾患を防止する化合物が含まれる。組成物中に1種以上の保湿剤が含まれることも望ましい。かかる保湿剤は、存在する場合、全組成の約0.001〜25%、好ましくは約0.005〜20%、より好ましくは約0.1〜15%であってもよい。好適な保湿剤にはグリコール、糖類などが含まれる。好適なグリコールは、モノマーまたはポリマー型であり、それにはポリエチレンおよびポリプロピレングリコール、例えばPEG4-200(4〜200個の反復エチレンオキシド単位を有するポリエチレングリコール);ならびにC1-6アルキレングリコール、例えば、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコールなどが含まれる。好適な糖類(そのいくつかは多価アルコールでもある)も好適な保湿剤である。かかる糖類の例には、グルコース、フルクトース、蜂蜜、水素化蜂蜜、イノシトール、マルトース、マンニトール、マルチトール、ソルビトール、スクロース、キシリトール、キシロースなどが含まれる。尿素も好適である。本発明の組成物に用いる保湿剤はC1-6、好ましくはC2-4アルキレングリコール、例えばブチレングリコールであってもよい。本発明の組成物に用いる好ましい保湿剤はグリセリンである。これらの他の化合物は、組成物の重量により約0.0001〜約 40%の範囲で存在しうる。
【0074】
本明細書に掲げてないエルゴチオネインの化合物との混合物も本発明で使用することができる。
【実施例】
【0075】
本発明の範囲をいずれの方法でも制限することを意図せず、次の実施例を本発明の態様とその使用を説明するために提示する。
【0076】
実施例1
クエン酸の有無によるエルゴチオネインの安定性
エルゴチオネインのサンプルを水中で2mMまたは0.046%(w/v)にて0.2%(w/v)クエン酸有りおよび無しの条件で調製してほぼ2ml体積のガラスバイアル中に納め、空気を窒素ガスでパージしてシールした。サンプルを4℃、25℃または40℃にて30または60日間貯蔵し、次いでHPLCにより分析した。各バイアルは1回使用して処分した。各測定は3重で実施してその結果を平均した。エルゴチオネイン濃度の標準曲線を各時点で作製し、各バイエル中のエルゴチオネインの量を定量した。表2の各量は実験開始時の最初のサンプルについて測定した量のパーセントとして表現した。
【表2】

【0077】
クエン酸無しでの30日におけるエルゴチオネインの測定にはいくらかの変動があるものの、60日における試験結果は40℃以下の温度でのインキュベーション中にエルゴチオネインの減少(分解または崩壊)はわずかしかまたは全く無く、エルゴチオネイン濃度の変化に与えるクエン酸の影響は無いことを示す。
【0078】
実施例2
室温貯蔵における魚臭いアミン臭の発現
20μM(0.00046%)〜13mM(0.3%)エルゴチオネイン(w/v)を含有するローションは周囲の室温で長時間貯蔵すると類似の魚臭いアミン臭を発現した。これらの臭気は容器を直接嗅ぐことによって検出されないが、皮膚に施用して数秒間経た後に嗅ぐと検出された。その他のローションでは驚くべきことに検出されなかった。
【表3】

【0079】
手順: 主ビーカー中の相1成分を組み合わせて、おだやかな速度でプロペラ混合をしながら78〜80℃に加熱する。相2成分を組み合わせ、80℃に加熱し、透明かつ均一になるまで混合する。おだやかな速度でプロペラ混合をしながら、相2成分を相1成分に徐々に加える。バッチを40℃に冷却する。次いでプレミックスした相3成分をバッチに加える。25℃に冷却する。バッチは約4.8〜5.2の最終pH、および約180,000〜230,000cpsの粘度を有する。この水とケイ酸マグネシウムアルミニウムベースのローション中の0.3%エルゴチオネインの調製物は、エルゴチオネイン相を40℃溶液に加え、次いで25℃に冷却する製造ステップを含むものであった。製造直後に臭気は無かったが、外界温度の貯蔵で1年未満の後に顕著な魚臭いトリメチルアミン臭を発現した。
【表4】

【0080】
手順: 相1成分を組み合わせ、おだやかな速度でプロペラ混合をしながら78〜80℃に加熱する。カルボマーが完全に分散まで混合する。別々に、相2成分を80℃に加熱し、透明かつ均一になるまで混合する。中間速度でプロペラ混合をしながら、相2と相1に加える。中間速度でプロペラ混合をしながら、相3をバッチに加える。バッチを冷却する。50℃にて、相4をバッチに加え、バッチが濃厚になり始めると混合速度を増加する。30〜35℃にて、相5成分を個別にバッチに加える。加える間、よく混合する。バッチを25℃に冷却し、相6成分を用いてpHを7.0〜7.5に調節する。バッチの最終粘度は約1,125,000〜1,375,000 cpsである。この水とヒドロゲルベースローション中の0.00046%エルゴチオネインの調製物は製造直後に臭気はないが、外界温度で貯蔵のほぼ1年後にわずかな魚臭いトリメチルアミン臭を発現する。
【表5】

【0081】
手順: 相1成分を組み合わせ、中速度のプロペラ混合をしながら78〜80℃に加熱する。別に相2成分を組み合わせ、80℃に加熱する。透明かつ均一になるまで混合する。中速度のプロペラ混合をしながら、相2を相1に加える。バッチを冷却する。50℃にて相3成分をバッチに一度に加え、それぞれを加えた後によく混合する。バッチが濃厚になり始めると混合速度を増加する。25〜30℃にて相4成分をバッチに加える。バッチを25℃に冷却する。バッチの最終pHは約4.6〜5.0である。粘度は約13,500〜16,500cpsである。この0.00046%エルゴチオネインの水、グリセリンおよびシリコーンベースローション中の調製物は、プロセスの最後に25℃にてエルゴチオネインを加える製造ステップを含む。これは外界温度で貯蔵のほぼ1年後にごくわずかな魚臭いトリメチルアミン臭を発現する。
【表6】

【0082】
手順: 主ケトル中の相1成分を組み合わせ、均一になるまで混合する。副ケトルで、相2成分を組み合わせ、40℃に加熱する。非常にゆっくりと相2を相1に加え、よく混合する。添加速度によって乳濁液安定性と粘度が決定する。それ故に、漏斗を用いて相2を相1に導入して速度を制御するのが最も良い。この1キロの実験室バッチでは2.5〜3g/分の速度を用いた。相3成分を一度にゆっくりとバッチに加え、それぞれを加えた後によく混合する。Silversonミキサーに切り替え、1〜3分間、約2500〜3500rpmにて混合する。生成物は約6.2の最終pHと約90,000〜110,000cpsの粘度を有する。この水およびシリコーンベースローション中の0.3%エルゴチオネインの調製物は、NaOHを使わずかつエルゴチオネインをメタ重亜硫酸ナトリウムと共に40℃にて加える製造ステップを含む。これは50℃にて60日間、または外界温度で1年間を超える貯蔵後に、魚臭いアミン臭を発現しなかった。
【0083】
実施例3
水酸化ナトリウムの添加による魚臭いアミン臭の形成
5mlの0.1%(w/v)エルゴチオネイン溶液の4サンプルをスクリューキャップ付きガラス試験管中で調製した。第1の試験管に5mlの水を、第2の試験管に5mlの0.2%(w/v)メタ重亜硫酸ナトリウムを、第3の試験管に4mlの水と1mlの1N水酸化ナトリウムを、そして第4の試験管に5mlの0.2%(w/v)クエン酸を加えた。各サンプルのpHをリトマス試験紙を用いて測定すると、第3のサンプルを除いて全てpH 5であり、第3のサンプルはpHがほぼ10であった。サンプルを10分間煮沸し、そしてそれぞれを1つづつ嗅いだ。水酸化ナトリウムの入った第3の試験管は、長期貯蔵後にエルゴチオネインの特徴である魚臭いアミン臭を有した。他の試験管はいずれもこの臭気が無かった。
【0084】
この実験は、単に水酸化ナトリウムで煮沸する簡単かつ迅速な方法を用いる魚臭いアミン臭の発現を再現した。他成分だけのものはいずれも魚臭いアミン臭を生じなかった。これにより、臭気の形成を阻止しかつ形成後の臭気を抑制する試験方法が可能になった。
【0085】
実施例4
水酸化ナトリウムとの加熱前の、化合物の添加によるトリメチルアミン臭の形成の防止
サンプルを、水中の約0.05%(w/v)エルゴチオネイン、示した濃度の試験サンプル、および0.1N NaOH(ネガティブ対照としてNaOHを省いた第1の試験管を除く)の入ったスクリューキャップ付きガラス試験管中で調製した。各サンプルのpHをリトマス試験紙により測定し、次いでその試験管をキャップで蓋して沸騰水中に10分間置いた。試験管を室温に冷却し、次いでそれぞれ1つづつキャップを外して3人の試験者が嗅ぎ、それぞれ臭気のスコアを決定した。スコアを0(無臭)〜3(強い魚臭いトリメチルアミン臭)のスケールに変換して平均をとった。それぞれの1サンプルを次いで、実施例1の方法によりエルゴチオネイン濃度について試験した。その結果を表7に示す。
【表7】

【0086】
結果は魚臭いアミン臭の発現がエルゴチオネインの濃度の測定可能な変化と無関係であることを示す。臭気の形成は酸、特に弱酸、およびメタ重亜硫酸ナトリウムの使用により防止または低減することができる。
【0087】
臭気の発現は一般にpHの関数であって、臭気の保護は一般に低いpHで生じる。同一のpHにおいて、いくつかの酸は臭気形成に対する保護がより効果的であり、例えば、pH 8.0〜8.5においてホウ酸>酢酸>クエン酸である。同一の濃度において、0.1N NaOHと混合したいくつかの酸は、他の酸より低いpHをもつ溶液を生じる:例えば、リン酸<酢酸<アスコルビン酸<クエン酸<ホウ酸である。これは大雑把に酸強度の順である。弱酸は強酸よりも高いpHで臭気の形成を阻止できるようである。
【0088】
実施例5
水酸化ナトリウムとの加熱後の、化合物の添加による魚臭いトリメチルアミン臭形成の防止
水中の2mM(0.046%w/v)エルゴチオネインと0.1N NaOH(ネガティブ対照としてNaOHを省いた第1のサンプルを除く)の入ったスクリューキャップ付きガラス試験管中で、サンプルを調製した。試験管をキャップして沸騰水浴中に10分間置き、次いで室温に冷却した。試験サンプルを示した濃度まで加え、数分間(例えば、5分間以上)置いた。次いでそれぞれ1つづつキャップを外して3人の試験者が嗅ぎ、それぞれその臭気をスケール0(無臭)〜3(強い魚臭いアミン臭)でスコアを決定し、そして平均した。結果を表8に示す。
【表8】

【0089】
この実験の結果は試験サンプル、とりわけ弱酸、を臭気の形成後に加えて臭気の検出を防止または低減できることを示す。
【0090】
実施例6
二酸化硫黄またはメタ重亜硫酸ナトリウムとの付加生成物の形成による魚臭いアミン臭の防止
実施例4および5は、メタ重亜硫酸ナトリウムをトリメチルアミンの形成前または後に加えると、メタ重亜硫酸ナトリウムが魚臭いトリメチルアミン臭を低減または除去することができたことを示す。しかし、HPLCにより検出されるエルゴチオネインの量は、メタ重亜硫酸ナトリウムの添加後に有意に低下するようであった。さらなる研究は、エルゴチオネインの量の見かけの低下が煮沸なしで室温にて10分間以内に起こったことを示し、これは共有結合反応でないことを示唆した。
【0091】
メタ重亜硫酸ナトリウムは溶液中に二酸化硫黄を生成する。これは容易に硫酸に転化するので有毒でありうる二酸化硫黄ガスの手近な発生源である。二酸化硫黄は同様に弱塩基と作用しトリメチルアミンと結合して水溶性ではるかに低揮発性のトリメチルアミン付加化合物を形成し、これはBright and Fernelius in 1946. J. Russell Bright and W. Conard Fernelius. “Addition compound of sulfur dioxide and trimethylamine(二酸化硫黄とトリメチルアミンの付加化合物)”, Inorganic Syntheses, Volume II, Chapter VI. Ed. W. Conard Fernelius. McGraw-Hill Book Company, Inc. pp. 159-161, 1946に記載されている。
【0092】
メタ重亜硫酸ナトリウムの添加直後のエルゴチオネインの見かけの消失は二酸化硫黄とエルゴチオネインの間の他の可逆的付加生成物の形成によるものであり、これはBalaban and King in 1927. Isidore Elkanah Balaban and Harold King. “Gold and mercury derivatives of 2-thiol-glyoxalines. Mechanism of the oxidation of 2-thiolglyoxalines to glyoxalines(2-チオール-グリオキサリンの金および水銀誘導体:2-チオール-グリオキサリンのグリオキサリンへの酸化機構)”. J. Chem. Soc. (1927) pp 1858-1874に記載されている。この付加生成物は十分高い濃度において黄色を呈する。
【0093】
この化学反応を実証するために、1.25%エルゴチオネイン水溶液で2.5%〜50%の増加量のメタ重亜硫酸ナトリウムを伴うサンプルバイアルを調製した。バイアルを封じ、サンプルの混合を避けた。サンプルをインキュベートし、発色を観察した。溶液を1時間に試験し、405nmの光学密度を2時間に測定した(表9)。メタ重亜硫酸ナトリウムの濃度が増加すると、黄色の強度およびOD405も増加した。
【表9】

【0094】
さらに、付加生成物、従ってその黄色は、二酸化硫黄ガスを追い出すことにより全く可逆的であることが観察された。この化学反応を実証するために、1.25%エルゴチオネインと5%メタ重亜硫酸ナトリウムの溶液はキャップした試験管中で室温にて1週間後に強いレモンイェローの色に転じた。キャップを取除いて溶液を次いで3〜4分間振とうし、そして外界大気をその中に通過させてバブリングし、溶解した二酸化硫黄ガスを追い出した。6〜7分間後に、溶液はかすかな黄色を伴いほとんど無色に転じた。HPLCによる溶液のエルゴチオネイン含量の分析は、黄色の形成に伴う濃度の低下および黄色の消失に伴うエルゴチオネイン濃度の部分的回復を示した。それ故に、メタ重亜硫酸ナトリウム付加後のエルゴチオネインの消失は付加生成物の形成に因るのであって可逆的であり、エルゴチオネインが永久に消失したのではない。
【0095】
実施例7
魚臭いアミン臭形成の防止
【表10】

【0096】
手順: 主ケトル中で相1成分を組み合わせ、均一になるまで混合する。副ケトル中で相2成分を組み合わせ、65℃まで加熱する。相2を25℃に冷却し、そして相3成分を用いてpHを6.8〜7.4に調節しかつ透明にする。25℃でプロペラ混合しながら、相2A成分を相2に加える。非常にゆっくりと相2を相1に加え、よく混合する。添加速度によって乳濁液安定性と粘度が決定する。漏斗で加えて速度を制御するのが最も良い(1キロ研究室バッチでは1〜2g/分の速度を用いた)。ゆっくりと相4成分を加え、均一になるまでよく混合する。Silversonミキサーに切り替え、1〜3分間、約2500〜3500rpmにて混合する。生成物は約6.8〜7.2の最終pH、15,000〜20,000cpsの粘度、および1.01±0.02の比重を有する。この0.1%エルゴチオネインの0.2%クエン酸を伴う水およびケイ酸マグネシウムアルミニウムベース中の調製物は、処方を25℃に冷却し終わったときにエルゴチオネインを相に加える製造ステップを含む。製造直後に臭気はなくかつ40℃にて60日間加熱後または外界温度での貯蔵6か月後に臭気を発現しなかった。
【0097】
本明細書において使用する、トリメチルアミンについて「改善する」は、それを低減し、阻止し、防止し、または除去することによりトリメチルアミン臭を改善することを意味し;「治療組成物」は哺乳動物を治療するのに用いる製品を意味し、経口摂取用、局所用または注入可能な製品を含んでもよく;そして「プレブレンド」は溶液、懸濁液、乳濁液または無水組成物の形態であってもよく、プレブレンド中に存在する成分を組み合わせることにより別に形成する組成物であって、次いでそのプレブレンドを治療組成物製剤工程において治療組成物中に組み込むものであることを意味する。用語「実質的に、から成る」の使用により、その組成物または方法は、本発明の基本的かつ新規の特徴に実質的に影響を与えるいずれかの成分またはステップを含まないことを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルゴチオネインとその意図する目的に用いるときに治療組成物のトリメチルアミン臭を改善するのに十分な量の少なくとも1種のトリメチルアミン吸収剤とを含むプレブレンドの形態で、エルゴチオネインを治療組成物に提供する改良がなされた、エルゴチオネインを含む含水治療組成物。
【請求項2】
局所用の、摂取可能な、または注入可能な組成物である、請求項1に記載の治療組成物。
【請求項3】
局所用の化粧または医薬組成物である、請求項2に記載の治療組成物。
【請求項4】
トリメチルアミン吸収剤が約1.8 x 10-16〜55.5の酸解離定数(Ka)を有する弱酸を含むものである、請求項1に記載の治療組成物。
【請求項5】
弱酸が無機酸である、請求項4に記載の治療組成物。
【請求項6】
弱酸がホウ酸、炭酸、クロム酸、シアン化水素酸、フッ化水素酸、亜硝酸、リン酸、硫酸、亜硫酸またはそれらの混合物を含むものである、請求項4に記載の治療組成物。
【請求項7】
弱酸が有機酸である、請求項4に記載の治療組成物。
【請求項8】
有機酸が酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、蟻酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、乳酸、オクタン酸、シュウ酸、ペンタン酸、プロパン酸、尿酸、またはそれらの混合物を含むものである、請求項7に記載の治療組成物。
【請求項9】
弱酸のエルゴチオネインに対する比が約2:1〜約4:1の範囲にある、請求項1に記載の治療組成物。
【請求項10】
2mM(w/v)を超える濃度のエルゴチオネインを含むものである、請求項1に記載の治療組成物。
【請求項11】
トリメチルアミン吸収剤が二酸化硫黄または二酸化硫黄供与体化合物を含むものである、請求項1に記載の治療組成物。
【請求項12】
実質的に、2mM(w/v)を超える濃度のエルゴチオネインおよびトリメチルアミン吸収剤から成るプレブレンド組成物。
【請求項13】
トリメチルアミン吸収剤が約1.8 x 10-16〜55.5の酸解離定数(Ka)を有する弱酸を含むものである、請求項12に記載のプレブレンド組成物。
【請求項14】
弱酸がホウ酸、炭酸、クロム酸、シアン化水素酸、フッ化水素酸、亜硝酸、リン酸、硫酸、亜硫酸またはそれらの混合物を含む無機酸である、請求項13に記載のプレブレンド組成物。
【請求項15】
酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、蟻酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、乳酸、オクタン酸、シュウ酸、ペンタン酸、プロパン酸、尿酸、またはそれらの混合物を含む有機酸である、請求項13に記載のプレブレンド組成物。
【請求項16】
弱酸のエルゴチオネインに対する比が約2:1〜約4:1の範囲にある、請求項13に記載のプレブレンド組成物。
【請求項17】
トリメチルアミン吸収剤が二酸化硫黄または二酸化硫黄供与体化合物を含むものである、請求項12に記載のプレブレンド組成物。
【請求項18】
二酸化硫黄供与体化合物が亜硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、硫酸水素カリウム、メタ重亜硫酸カリウム、または硫酸水素カルシウムである、請求項17に記載のプレブレンド組成物。
【請求項19】
2mM(w/v)を超えるエルゴチオネインを含有する含水調製物の処理および/または貯蔵に関連する魚臭いアミン臭を改善する方法であって、調製物の処理の間、および/または貯蔵に先立ってエルゴチオネインとその意図する目的に用いるときに組成物中の魚臭いアミン臭の検出を改善するのに十分な量のトリメチルアミン吸収剤とを組み合わせるステップを含むものである前記方法。
【請求項20】
トリメチルアミン吸収剤が1.8 x 10-16〜55.5の酸解離定数(Ka)を有する弱酸であり、かつ弱酸のエルゴチオネインに対する比が約2:1〜約4:1の範囲にある、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
弱酸が酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、蟻酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、乳酸、オクタン酸、シュウ酸、ペンタン酸、プロパン酸および尿酸から成る群より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
トリメチルアミン吸収剤が二酸化硫黄または二酸化硫黄供与体化合物である、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
エルゴチオネインとその意図する目的に用いるときに含水調製物中のトリメチルアミン臭を改善するのに十分な量の少なくとも1種のトリメチルアミン吸収剤とを含むプレブレンドの形態で、エルゴチオネインを含水調製物に供給する、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
それに関連する検出しうる魚臭いトリメチルアミン臭を有するエルゴチオネイン溶液または含水エルゴチオネイン含有混合物を処理する方法であって、かかる処理を必要とするエルゴチオネイン溶液またはエルゴチオネイン含有混合物中に、魚臭いトリメチルアミン臭のヒトの鼻による検出を改善するのに十分な量のトリメチルアミン吸収剤を導入するステップを含むものである前記方法。
【請求項25】
エルゴチオネイン溶液またはエルゴチオネイン含有混合物中のトリメチルアミン吸収剤が約1.8 x 10-16〜55.5の酸解離定数(Ka)を有する弱酸を含み、かつ溶液または混合物中の弱酸のエルゴチオネインに対する比が約2:1〜4:1の範囲にある、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
トリメチルアミン吸収剤が二酸化硫黄または二酸化硫黄供与体化合物である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
2mM(w/v)を超えるエルゴチオネインを含有する含水調製物の処理および/または貯蔵に関連する魚臭いアミン臭を改善する方法であって、調製物を7.0以下のpHに維持することを含むものである前記方法。
【請求項28】
2mM(w/v)を超えるエルゴチオネインを含有する含水調製物の処理および/または貯蔵に関連する魚臭いアミン臭を改善する方法であって、調製物を約25℃以下の温度に維持することを含むものである前記方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−516332(P2012−516332A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548039(P2011−548039)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/021125
【国際公開番号】WO2010/088064
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(598100128)イーエルシー マネージメント エルエルシー (112)
【Fターム(参考)】