説明

エンジンのバルブ制御装置

【課題】位相角を決定した後は、電力を消費することなく、位相角を決定した位相角に保持すること。
【解決手段】クランクシャフトの駆動力が伝達される外筒部10に対し相対回動可能に配置されて、カムシャフトに連結された内筒部12外周に、中間部材14を移動自在に配置し、ソレノイド74またはソレノイド76の通電に伴って、中間部材14が軸方向に移動する過程では、中間部材14の移動に伴う軸方向変位に応答して、ボール46、48が互いに逆方向に移動し、外筒部10とカムシャフト2間の位相が可変に調整され、ソレノイド74、76の非通電に伴って、中間部材14が進角または遅角位置にセットされた後は、外筒部10またはカムシャフト2からのトルク入力に対して、ボール46、48の移動が停止されて、セルフロック状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの吸気バルブ又は排気バルブを開閉させるカムシャフトの回転位相を変化させて、吸気バルブ又は排気バルブの開閉タイミングを制御するエンジンのバルブ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの吸気バルブ又は排気バルブの開閉タイミングを制御するための装置としては、例えば、エンジンのクランクシャフトの駆動力が伝達されるスプロケットと動弁機構を構成するカムシャフトが一体となって回動するように構成されて、スプロケットとカムシャフトとは同期して回転するが、電磁ブレーキ手段により回転ドラムに制動力が作用すると、回転ドラムにはスプロケットに対する回転遅れが生じ、この回転ドラムの回転遅れに連係して、スプロケットに対するカムシャフトの位相が変わる位相可変装置が提案されている(特許文献1参照)。この位相可変装置では、クラッチケースの摩擦材と回転ドラム間の相対摺動部には、カムシャフト内に設けたオイル通路、クラッチケースの半径方向内側に設けたオイル溜まりおよびクラッチケースの内周壁前縁部に設けたオイル導入用の切り欠きを介してエンジンオイルが導入される構造を採用しているので、摩擦材と回転ドラムの相対摺動面を冷却することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−371814号公報(第4頁から第6頁、図1〜図4参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている位相可変装置では、スプロケット本体に対するカムシャフトの位相を変化させるに際して、位相角の初期位置以外では、ねじりコイルばね(リターンスプリング)の弾性力に抗して、電磁クラッチの駆動によって回転ドラムに制動力を作用させなければならず、位相角可変時および位相角を可変にした後(位相角を決定した後)も、電磁クラッチの駆動に伴う電力が常時消費される。しかも、回転ドラムに作用する制動力に応じて中間部材をカムシャフトの軸方向に沿って移動させるために、中間部材にヘリカルスプラインを形成し、スプロケット本体には、中間部材のヘリカルスプラインと噛み合うヘリカルスプラインを形成し、内筒部には、中間部材のヘリカルスプラインと噛み合うヘリカルスプラインを形成し、中間部材の軸方向の移動距離を位相角に変換する位相角変換機構を採用しているので、位相角変換機構が複雑となり、コストアップとなる。
【0005】
本発明は、前記従来技術の課題に鑑みて為されたものであり、その目的は、位相角を決定した後は、電力を消費することなく、位相角を決定した位相角に保持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1に係るエンジンのバルブ制御装置においては、エンジンのクランクシャフトの駆動力が伝達される外筒部と、前記外筒部内周側に相対回転可能に配置されて、前記エンジンの吸気バルブ又は排気バルブを開閉させるカムシャフトに同軸上に連結された内筒部と、前記内筒部外周に前記内筒部の軸方向に沿って移動自在に配置された中間部材と、前記エンジンの運転状態に応じて前記中間部材の前記軸方向における位置を制御する位置制御機構と、前記中間部材の前記軸方向における位置に応じて前記外筒部と前記カムシャフト間の位相を可変に調整する位相調整機構とを備え、前記位相調整機構は、前記外筒部の内周にその軸心と交差する方向に形成され、且つ互いに平行に形成された第1のリード溝群と、前記内筒部の外周のうち前記第1のリード溝群を臨む領域にその軸心と交差し、且つ前記第1のリード溝群と逆方向に形成され、且つ互いに平行に形成された第2のリード溝群と、前記第1のリード溝群と前記第2のリード溝群を摺動路または転動路として、前記摺動路または転動路に摺動または転動自在に挿入された複数の摺動体または転動体と、前記中間部材のうち前記摺動路または転動路との対向面に形成されたガイド溝に摺動または転動自在に挿入されたピースとを含み、前記複数の摺動体または転動体は、前記中間部材に摺動または転動自在に固定され、前記ピースは、弾性力を受けて前記中間部材から離れる方向に付勢され、前記弾性力に伴う移動が前記外筒部または前記内筒部との当接により規制されており、前記ピースと前記ガイド溝との交差角は、0度を超えて摩擦角以下に設定されてなり、かつ前記外筒部または前記カムシャフトからのトルク入力に対して、前記トルクの伝達を阻止し、前記中間部材からの軸方向変位に応答して、前記軸方向変位を周方向変位に変換し、前記周方向変位を前記中間部材の前記軸方向における位置に応じて大きさの異なる変位であって、互いに逆方向の変位として前記外筒部と前記内筒部に付与してなる構成とした。
【0007】
(作用)位相調整機構は、外筒部とカムシャフト間の位相を可変に調整するときにのみ、中間部材からの軸方向変位に応答して、この軸方向変位を周方向変位に変換し、この周方向変位を中間部材の軸方向における位置に応じて大きさの異なる変位であって、互いに逆方向の変位として外筒部と内筒部に付与し、それ以外のとき、すなわち、外筒部とカムシャフト間の位相が決定された後は、外筒部またはカムシャフトからのトルク入力に対して、このトルクの伝達を阻止するので、外筒部とカムシャフト間の位相が決定された後は、外筒部またはカムシャフトからトルクが入力されても、電力を消費することなく、外筒部とカムシャフト間の位相を指定の位相に保持することができ、消費電力を低減することができる。
【0008】
また、中間部材からの軸方向変位が位相調整機構に作用した場合、ピースには弾性力のみが作用するので、ピースがガイド溝に沿ってスライドし、中間部材は内筒部の軸方向に沿って移動し、中間部材と摺動体または転動体の移動に伴って、外筒部と内筒部に対して、中間部材の軸方向における位置に応じて大きさの異なる周方向変位であって、互いに逆方向の周方向変位が付与され、外筒部と内筒部は、摺動体または転動体に対して、互いに逆方向に回転し、外筒部とカムシャフト間の位相が進角側または遅角側に調整される。中間部材が進角位置または遅角位置にセットされ、外筒部とカムシャフト間の位相角が決定された状態にあるときに、外筒部またはカムシャフトからのトルク入力として、外筒部と内筒部間にトルクが作用し、進角または遅角方向にトルクが掛かった場合、ピースは、摩擦力のため、中間部材のガイド溝の中でロックされ、その移動が阻止される。このとき、外筒部と内筒部は、中間部材に対して相対的に動けないので、外筒部と内筒部間にトルクが作用しても、作動せず、自己保持状態(セルフロック状態)となり、外筒部とカムシャフト間の位相を指定の位相に保持することができる。
【0009】
請求項2に係るエンジンのバルブ制御装置においては、エンジンのクランクシャフトの駆動力が伝達される外筒部と、前記外筒部の内周側に相対回転可能に配置されて、前記エンジンの吸気バルブ又は排気バルブを開閉させるカムシャフトに同軸上に連結された内筒部と、前記内筒部の外周に前記内筒部の軸方向に沿って移動自在に配置された中間部材と、前記エンジンの運転状態に応じて前記中間部材の前記軸方向における位置を制御する位置制御機構と、前記中間部材の前記軸方向における位置に応じて前記外筒部と前記カムシャフト間の位相を可変に調整する位相調整機構とを備え、前記位相調整機構は、前記外筒部と前記内筒部との間に互いに直列に挿入されたピースとスプリングを備え、前記中間部材と前記外筒部または前記内筒部は互いにヘリカルスプラインで噛合され、前記ピースは、前記中間部材に形成されたガイド溝内に摺動自在に挿入され、前記ガイド溝内に装着されたスプリングから弾性力を受けて中間部材から離れる方向に付勢され、前記スプリングの弾性力に伴う移動が前記外筒部または前記内筒部との当接により規制され、前記ピースとガイド溝との交差角は、0度を超えて摩擦角以下に設定されてなり、かつ前記外筒部または前記カムシャフトからのトルク入力に対して、前記トルクの伝達を阻止し、前記中間部材からの軸方向変位に応答して、前記軸方向変位を周方向変位に変換し、前記周方向変位を前記中間部材の前記軸方向における位置に応じて大きさの異なる変位であって、互いに逆方向の変位として前記外筒部と前記内筒部に付与してなる構成とした。
【0010】
(作用)中間部材からの軸方向変位が位相調整機構に作用した場合、ピースには弾性力のみが作用するので、ピースがガイド溝に沿ってスライドし、中間部材は外筒部または内筒部と噛み合いながら内筒部の軸方向に沿って移動し、中間部材と転動体の移動に伴って、外筒部と内筒部に対して、中間部材の軸方向における位置に応じて大きさの異なる周方向変位であって、互いに逆方向の周方向変位が付与され、外筒部と内筒部は、中間部材に対して、互いに逆方向に回転し、外筒部とカムシャフト間の位相が進角側または遅角側に調整される。中間部材が進角位置または遅角位置にセットされ、外筒部とカムシャフト間の位相角が決定された状態にあるときに、外筒部またはカムシャフトからのトルク入力として、外筒部と内筒部間にトルクが作用し、進角または遅角方向にトルクが掛かった場合、ピースは、摩擦力のため、中間部材のガイド溝の中でロックされ、その移動が阻止される。このとき、外筒部と内筒部は、中間部材に対して相対的に動けないので、外筒部と内筒部間にトルクが作用しても、作動せず、自己保持状態(セルフロック状態)となり、外筒部とカムシャフト間の位相を指定の位相に保持することができる。
【0011】
請求項3に係るエンジンのバルブ制御装置においては、請求項1または2に記載のエンジンのバルブ制御装置において、前記位置制御機構は、前記内筒部の周囲に前記内筒部と回転可能に配置された複数の回転ドラムと、電磁力を基に、進角時には、前記複数の回転ドラムのうち一方の回転ドラムに制動力を付与して前記内筒部との回転を減速させ、遅角時には、前記複数の回転ドラムのうち他方の回転ドラムに制動力を付与して前記内筒部との回転を減速させる電磁クラッチとを備え、前記各回転ドラムの内周側にはその周方向に沿ってスライド用ランプがそれぞれ形成され、前記各スライド用ランプは、前記中間部材の外周側にその周方向に沿って形成された一対の位置決め用ランプの一方にそれぞれ係合してなる構成とした。
【0012】
(作用)進角制御するに際して、各回転ドラムが中間部材とともに回転しているときに、電磁クラッチを通電状態として、電磁クラッチから電磁力を発生させて、一方の回転ドラムに制動力を付与して一方の回転ドラムの回転を減速させると、中間部材は他方の回転ドラムとともに回転する。このとき、中間部材は、位置決め用ランプが回転ドラムのスライド用ランプに沿って移動するので、内筒部の軸方向に沿って、例えば、カムシャフト側に移動する。この後、電磁クラッチを非通電状態とすると、一方の回転ドラムが再び回転し、中間部材の移動が停止され、中間部材は任意の進角位置に位置決めされる。一方、中間部材が進角位置にあるときに、電磁クラッチを通電状態として、電磁クラッチから電磁力を発生させて、他方の回転ドラムに制動力を付与して他方の回転ドラムの回転を減速させると、中間部材は一方の回転ドラムとともに回転する。このとき、中間部材は、位置決め用ランプが回転ドラムのスライド用ランプに沿って移動するので、内筒部の軸方向に沿って、例えば、カムシャフトから離れる方向に移動する。この後、電磁クラッチを非通電状態にすると、他方の回転ドラムが再び回転し、中間部材の移動が停止され、中間部材は任意の遅角位置に位置決めされる。すなわち、中間部材を任意の進角または遅角位置に移動させるときにのみ電磁クラッチを通電状態とし、それ以外のときには電磁クラッチを非通電状態とすることで、中間部材を任意の進角または遅角位置にセットすることができ、消費電力を低減することができる。
【0013】
請求項4に係るエンジンのバルブ制御装置においては、請求項1または2に記載のエンジンのバルブ制御装置において、前記位置制御機構は、前記内筒部の周囲に前記内筒部と回転可能に配置された複数の回転ドラムと、電磁力を基に、進角時には、前記複数の回転ドラムのうち一方の回転ドラムに制動力を付与して前記内筒部との回転を減速させ、遅角時には、前記複数の回転ドラムのうち他方の回転ドラムに制動力を付与して前記内筒部との回転を減速させる電磁クラッチとを備え、前記中間部材のフランジ部が前記一方の回転ドラムと前記他方の回転ドラムとの間に挿入され、前記各回転ドラムのうち前記中間部材のフランジ部との対向面には、前記中間部材を前記内筒部の軸方向に沿ってガイドするための正リードまたは逆リードのねじ部が形成され、前記中間部材のフランジ部には正リードまたは逆リードのねじ部が形成され、前記正リードのねじ部同士または前記逆リードのねじ部同士が互いには噛み合い状態を維持してなる構成とした。
【0014】
(作用)進角制御するに際して、各回転ドラムが中間部材とともに回転しているときに、電磁クラッチを通電状態として、電磁クラッチから電磁力を発生させて、一方の回転ドラムに制動力を付与して一方の回転ドラムの回転を減速させると、中間部材は他方の回転ドラムとともに回転する。このとき、一方の回転ドラムのねじ部、例えば、正リードのねじ部と、フランジ部の正リードのねじ部との間に速度差が生じ、両者は相対回転できる状態にあり、一方の回転ドラムは減速した状態にある。この結果、中間部材は、相対的に、一方の回転ドラムの正リードのねじ部とフランジ部の正リードのねじ部との噛み合いにより、内筒部の軸方向に沿って、例えば、カムシャフト方向に移動する。この後、電磁クラッチを非通電状態とすると、一方の回転ドラムが再び回転し、中間部材の移動が停止され、中間部材は任意の進角位置に位置決めされる。
【0015】
一方、中間部材が進角位置にあるときに、電磁クラッチを通電状態として、電磁クラッチから電磁力を発生させて、他方の回転ドラムに制動力を付与して他方の回転ドラムの回転を減速させると、中間部材は一方の回転ドラムとともに回転する。このとき、他方の回転ドラムのねじ部、例えば、逆リードのねじ部と、フランジ部の逆リードのねじ部との間に速度差が生じ、両者は相対回転できる状態にあり、他方の回転ドラムは減速した状態にある。この結果、中間部材は、相対的に、他方の回転ドラムの逆リードのねじ部とフランジ部の逆リードのねじ部との噛み合いにより、内筒部の軸方向に沿って、例えば、カムシャフトから離れる方向に移動する。この後、電磁クラッチを非通電状態にすると、他方の回転ドラムが再び回転し、中間部材の移動が停止され、中間部材は任意の遅角位置に位置決めされる。すなわち、中間部材を任意の進角または遅角位置に移動させるときにのみ電磁クラッチを通電状態とし、それ以外のときには電磁クラッチを非通電状態とすることで、中間部材を任意の進角または遅角位置にセットすることができ、消費電力を低減することができる。
【0016】
請求項5に係るエンジンのバルブ制御装置においては、請求項1または2に記載のエンジンのバルブ制御装置において、前記位置制御機構は、前記内筒部の周囲に前記内筒部と回転可能に配置された複数の回転ドラムと、電磁力を基に、進角時には、前記複数の回転ドラムのうち一方の回転ドラムに制動力を付与して前記内筒部との回転を減速させ、遅角時には、前記複数の回転ドラムのうち他方の回転ドラムに制動力を付与して前記内筒部との回転を減速させる電磁クラッチとを備え、前記中間部材のフランジ部が前記一方の回転ドラムと前記他方の回転ドラムとの間に挿入され、前記各回転ドラムのうち前記中間部材のフランジ部との対向面には、前記中間部材を前記内筒部の軸方向に沿ってガイドするための正リードまたは逆リードの溝が形成され、前記中間部材のフランジ部には前記正リードまたは逆リードの溝を摺動路または転動路とする摺動体または転動体が摺動または転動自在に固定されてなる構成とした。
【0017】
(作用)進角制御するに際して、各回転ドラムが中間部材とともに回転しているときに、電磁クラッチを通電状態として、電磁クラッチから電磁力を発生させて、一方の回転ドラムに制動力を付与して一方の回転ドラムの回転を減速させると、中間部材は他方の回転ドラムとともに回転する。このとき、摺動体または転動体と溝、例えば、正リードの溝との間に速度差が生じ、両者は相対回転できる状態にあり、一方の回転ドラムは減速した状態にある。この結果、中間部材は、摺動体または転動体が、一方の回転ドラムの正リードの溝に沿って摺動または転動することにより、内筒部の軸方向に沿って、例えば、カムシャフト方向に移動する。この後、電磁クラッチを非通電状態とすると、一方の回転ドラムが再び回転し、中間部材の移動が停止され、中間部材は任意の進角位置に位置決めされる。
【0018】
一方、中間部材が進角位置にあるときに、電磁クラッチを通電状態として、電磁クラッチから電磁力を発生させて、他方の回転ドラムに制動力を付与して他方の回転ドラムの回転を減速させると、中間部材は一方の回転ドラムとともに回転する。このとき、摺動体または転動体と逆リードの溝との間に速度差が生じ、両者は相対回転できる状態にあり、他方の回転ドラムは減速した状態にある。この結果、中間部材は、相対的に、摺動体または転動体が、他方の回転ドラムの逆リードの溝に沿って摺動または転動することにより、内筒部の軸方向に沿って、例えば、カムシャフトから離れる方向に移動する。この後、電磁クラッチを非通電状態にすると、他方の回転ドラムが再び回転し、中間部材の移動が停止され、中間部材は任意の遅角位置に位置決めされる。すなわち、中間部材を任意の進角または遅角位置に移動させるときにのみ電磁クラッチを通電状態とし、それ以外のときには電磁クラッチを非通電状態とすることで、中間部材を任意の進角または遅角位置にセットすることができ、消費電力を低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上の説明から明らかなように、請求項1に係るエンジンのバルブ制御装置によれば、外筒部とカムシャフト間の位相が決定された後は、外筒部またはカムシャフトからトルクが入力されても、電力を消費することなく、外筒部とカムシャフト間の位相を指定の位相に保持することができ、消費電力を低減することができる。また、中間部材からのトルク入力に応答して、外筒部とカムシャフト間の位相を可変に調整し、外筒部とカムシャフト間の位相角が決定されたときには、外筒部またはカムシャフトからのトルク入力に対して、自己保持状態となって、外筒部とカムシャフト間の位相を指定の位相に保持することができる。
【0020】
請求項2に係るエンジンのバルブ制御装置によれば、中間部材からのトルク入力に応答して、外筒部とカムシャフト間の位相を可変に調整し、外筒部とカムシャフト間の位相角が決定されたときには、外筒部またはカムシャフトからのトルク入力に対して、自己保持状態となって、外筒部とカムシャフト間の位相を指定の位相に保持することができる。
【0021】
請求項3に係るエンジンのバルブ制御装置によれば、中間部材を任意の進角または遅角位置に移動させるときにのみ電磁クラッチを通電状態とし、それ以外のときには電磁クラッチを非通電状態とすることで、中間部材を任意の進角または遅角位置にセットすることができ、消費電力を低減することができる。
【0022】
請求項4に係るエンジンのバルブ制御装置によれば、中間部材を任意の進角または遅角位置に移動させるときにのみ電磁クラッチを通電状態とし、それ以外のときには電磁クラッチを非通電状態とすることで、中間部材を任意の進角または遅角位置にセットすることができ、消費電力を低減することができる。
請求項5に係るエンジンのバルブ制御装置によれば、中間部材を任意の進角または遅角位置に移動させるときにのみ電磁クラッチを通電状態とし、それ以外のときには電磁クラッチを非通電状態とすることで、中間部材を任意の進角または遅角位置にセットすることができ、消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施例を示すエンジンのバルブ制御装置の縦断面図である。
【図2】本発明の第1実施例を示すエンジンのバルブ制御装置の正面図である。
【図3】外筒部の背面図である。
【図4】外筒部の断面図である。
【図5】外筒部内周側の展開図である。
【図6】内筒部の斜視図である。
【図7】内筒部の断面図である。
【図8】内筒部の背面図である。
【図9】内筒部外周側の展開図である。
【図10】中間部材の斜視図である。
【図11】中間部材の断面図である。
【図12】中間部材外周側の展開図である。
【図13】回転ドラムの斜視図である。
【図14】回転ドラムの断面図である。
【図15】回転ドラム内周側の展開図である。
【図16】他の回転ドラムの斜視図である。
【図17】他の回転ドラムの断面図である。
【図18】他の回転ドラム内周側の展開図である。
【図19】中間部材と一対の回転ドラムとの関係を説明するための展開図である。
【図20】(a)は、6個のボールと内筒部との関係を説明するための展開図、(b)は、6個のボールと外筒部との関係を説明するための展開図である。
【図21】ピースと中間部材との関係を説明するための要部拡大断面図である。
【図22】ピースと中間部材との関係を説明するための要部拡大正面図である。
【図23】進角または遅角制御が実行されないときのボールとピースとの関係を説明するための模式図である。
【図24】進角または遅角制御が実行されるときのボールとピースとの関係を説明するための模式図である。
【図25】本発明の第2実施例を示す位相調整機構の要部展開図である。
【図26】本発明の第3実施例を示す位相調整機構の要部展開図である。
【図27】本発明の第4実施例を示す位置制御機構の断面図である。
【図28】本発明の第5実施例を示す位置制御機構の断面図である。
【図29】本発明の第6実施例を示すエンジンのバルブ制御装置の縦断面図である。
【図30】本発明の第7実施例を示すエンジンのバルブ制御装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の第1実施例を示すエンジンのバルブ制御装置の縦断面図、図2は、本発明の第1実施例を示すエンジンのバルブ制御装置の正面図、図3は、外筒部の背面図、図4は、外筒部の断面図、図5は、外筒部内周側の展開図、図6は、内筒部の斜視図、図7は、内筒部の断面図、図8は、内筒部の背面図、図9は、内筒部外周側の展開図、図10は、中間部材の斜視図、図11は、中間部材の断面図、図12は、中間部材外周側の展開図、図13は、回転ドラムの斜視図、図14は、回転ドラムの断面図、図15は、回転ドラム内周側の展開図、図16は、他の回転ドラムの斜視図、図17は、他の回転ドラムの断面図、図18は、他の回転ドラム内周側の展開図、図19は、中間部材と一対の回転ドラムとの関係を説明するための展開図、図20(a)は、6個のボールと内筒部との関係を説明するための展開図、(b)は、6個のボールと外筒部との関係を説明するための展開図、図21は、ピースと中間部材との関係を説明するための要部拡大図、図22は、ピースと中間部材との関係を説明するための要部拡大背面図、図23は、進角または遅角制御が実行されないときのボールとピースとの関係を説明するための模式図、図24は、進角または遅角制御が実行されるときのボールとピースとの関係を説明するための模式図、図25は、本発明の第2実施例を示す位相調整機構の要部展開図、図26は、本発明の第3実施例を示す位相調整機構の要部展開図、図27は、本発明の第4実施例を示す位置制御機構の断面図、図28は、本発明の第5実施例を示す位置制御機構の断面図、図29は、本発明の第6実施例を示すエンジンのバルブ制御装置の縦断面図、図30は、本発明の第6実施例を示すエンジンのバルブ制御装置の縦断面図である。
【0025】
これらの図においては、本発明に係るエンジンのバルブ制御装置は、例えば、自動車用エンジンに組み付けられた形態でエンジンオイル雰囲気下で用いられ、クランクシャフトの回転に同期して吸排気バルブが開閉するようにクランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するとともに、エンジンの負荷や回転数などの運転状態によってエンジンの吸気バルブまたは排気バルブの開閉のタイミングを変化させるための装置であって、図1に示すように、エンジンのクランクシャフトの駆動力が伝達される円環状外筒部10と、外筒部10内周側に外筒部10と同軸で且つ外筒部10に対し相対回動可能に配置されて、エンジンの吸気バルブ又は排気バルブを開閉させるカムシャフト2に同軸上に連結された円環状内筒部12と、円環状に形成されて、内筒部12外周に内筒部12の軸方向に沿って移動自在に配置された中間部材14と、エンジンの運転状態に応じて中間部材14の軸方向における位置を制御する位置制御機構16と、中間部材14の軸方向における位置に応じて外筒部10とカムシャフト2間の位相を可変に調整する位相調整機構18とを備えている。内筒部12の内周側にはカムシャフト2の軸方向一端側が嵌合され、このカムシャフト2の軸方向一端側には、カムボルト19が締結されている。カムボルト19は、内筒部12の軸方向一端側に、軸受20、ストッパ21を介して固定されている。軸受20、ストッパ21は、内筒部12の軸方向一端側外周面に固定されており、軸受20の外輪と一体に形成されたフランジ部22には、図2に示すように、略円盤状に形成されたホルダ23が回転自在に配置されている。ホルダ23は、その外周側に120度ピッチで配置された3個の突起23aを備えており、各突起23aは、エンジン本体に固定されるカバー(図示せず)の凹部に挿入され、ホルダ23が周方向に回転するのを阻止するようになっている。
【0026】
外筒部10は、図3乃至図5に示すように、駆動軸側の筒体として、スプロケット24が外周側に複数個配列されており、スプロケット24に、エンジンのクランクシャフトの駆動力がチェーンを介して伝達されたときに、クランクシャフトに同期して回転し、この回転に伴う駆動力を位相調整機構18を介して内筒部12に伝達するようになっている。外筒部10の内周側には、位相調整機構18の一要素として、半円形状のリード溝(ボール溝)26が軸心と交差する方向に沿って全周に亘って形成されている。なお、外筒部10に隣接して、小径外筒部28が並設されており、小径外筒部28は内筒部12外周に配置されて、ボルト30によって外筒部10に固定されている。この小径外筒部28は、その外周側にスプロケット32が形成されており、スプロケット32に、エンジンのクランクシャフトの駆動力がチェーンを介して伝達されたときに、クランクシャフトに同期して回転するようになっている。
【0027】
内筒部12は、図6乃至図9に示すように、カムシャフト2側の筒体として構成されており、内筒部12の外周側には大径部34、36が形成され、内周側にはカムボルト挿通孔38、カムシャフト嵌合孔40が形成されている。大径部36には、位相調整機構18の一要素として、互いに交差する、半円形状のリード溝(ボール溝)42、44が軸心と交差する方向に沿って全周に亘って形成されている。リード溝42、44は、外筒部10のリード溝26とともに、ボール46、48の転動路または摺動路を構成するようになっており、リード溝42、44とリード溝26との間には、クランププーリCP側(カムボルト19の頭部側)に3個のボール46が挿入され、ヘッドH側(カムシャフト2側)に3個のボール48が挿入されている(図1参照)。ボール46、48は、位相調整機構18の一要素となる摺動体または転動体として、中間部材14が内筒部12の軸方向に沿って進角位置または遅角位置に移動したときに、この移動に伴う、中間部材14からの軸方向変位に応答して、リード溝42、44とリード溝26に沿って互いに逆方向に移動するようになっている。
【0028】
中間部材14は、図10乃至図12に示すように、小径部50、大径部52を有する筒体として構成され、内筒部12の大径部34、36に、内筒部12の軸方向に沿って移動自在に配置されている。中間部材14の小径部50には、ガイド溝(ボール48を保持したピース82をガイドするための溝)54と、固定孔(ボール46を固定するための孔)56がそれぞれ3個ずつ形成されており、大径部52には、周方向における位相が互いに異なるランプ(位置決め用ランプ)58、60が凸部として、全周に亘って形成されている。ガイド溝54は、図12では全て同一方向に捩れているが、回転方向の反力をキャンセルするために、一部を逆方向に捩じることも可能である。例えば、ガイド溝54のうち1つを他の2つとは逆方向に捩じることで、ガイド溝54を移動するピース82により発生する回転方向における力(ガタ)をキャンセルできる。ランプ58は、180度ごとに傾斜が漸次変化する形状に形成され、ランプ60も同様に、180度ごとに傾斜が漸次変化する形状に形成されている。但し、本構成ではランプ58とランプ60とは位相を90度ずらせている。
【0029】
中間部材14の位置を制御するための位置制御機構16は、環状に形成された回転ドラム62、64と電磁クラッチ66、68とから構成され、電磁クラッチ66、68は、制動板70、72、ソレノイド74、76を備え、各ソレノイド74、76は、エンジンの運転状態を検出して、制御信号等を出力する制御回路(図示せず)に接続されている(図1、図2参照)。
【0030】
回転ドラム62、64は、図13乃至図18に示すように、円筒状に形成されて内筒部12の外周側に配置され、制動板70、72から制動力を受けないときには、回転方向に対する移動が自在とされ、内筒部12の軸方向に対する移動が外筒部10またはストッパ21によって阻止されている。回転ドラム62の内周側には、図13乃至図15に示すように、軸方向における位置が漸次変化するランプ(スライド用ランプ)78が凹部として、180度ピッチで2個形成されている。このランプ78は、中間部材14のランプ58と係合するようになっている。回転ドラム64の内周側には、図16乃至図18に示すように、軸方向における位置が漸次変化するランプ(スライド用ランプ)80が凹部として、180度ピッチで2個形成されている。このランプ80は、中間部材14のランプ60と係合するようになっている。
【0031】
一方、制動板70、72は、それぞれ回転ドラム62、64を囲むように、ボルト71を支点に回動自在に配置されており(図2参照)、ソレノイド74、76がそれぞれ通電されたときに、ボルト71を支点に回動して、回転ドラム62、64に制動力を付与して、回転ドラム62、64の回転を減速させるようになっている。この場合、ソレノイド74は、進角制御時に通電され、ソレノイド76は遅角制御時に通電されるようになっており、ソレノイド74またはソレノイド76を通電することで、中間部材14を進角位置または遅角位置に移動できるようになっている。
【0032】
具体的には、図19に示すように、ソレノイド74とソレノイド76が非通電状態にあるときには、回転ドラム62、64は中間部材14とともに回転し、例えば、吸気バルブの開閉タイミングを制御する場合、アイドリング時には、中間部材14は最遅角位置にある。この後、進角制御するために、回転ドラム62、64が中間部材14とともに回転しているときに、ソレノイド74のみを通電し、制動板70から回転ドラム62に制動力を付与して回転ドラム62の回転を減速させると、中間部材14は回転ドラム64とともに回転する。このとき、中間部材14は、ランプ58が回転ドラム62のランプ78に沿って移動するので、内筒部12の軸方向に沿ってヘッドH側(カムシャフト2側)に移動する。ソレノイド74の通電により、中間部材14は、最進角位置に移動する。中間部材14が最遅角位置から最進角位置に移動する過程で、任意のタイミングでソレノイド74を非通電状態にすると、中間部材14は任意の進角位置に位置決めされる。
【0033】
一方、中間部材14が最進角位置にあるときに、遅角制御するときには、回転ドラム62、64が中間部材14とともに回転しているときに、ソレノイド76のみを通電し、制動板72から回転ドラム64に制動力を付与して回転ドラム64の回転を減速させると、中間部材14は回転ドラム62とともに回転する。このとき、中間部材14は、ランプ60が回転ドラム64のランプ80に沿って移動するので、内筒部12の軸方向に沿ってクランクプーリCP側(カムボルト19の頭部側)に移動する。ソレノイド76の通電により、中間部材14は、最遅角位置に移動する。中間部材14が最進角位置から最遅角位置に移動する過程で、任意のタイミングでソレノイド76を非通電状態にすると、中間部材14は任意の遅角位置に位置決めされる。
【0034】
中間部材14が任意の進角位置または遅角位置にあるときには、中間部材14は、回転ドラム62、64とともに回転することになり、この後、進角制御するときには、ソレノイド74を通電することで、中間部材14を他の進角位置に位置決めでき、また、遅角制御するときには、ソレノイド76を通電することで、中間部材14を他の遅角位置に位置決めできる。
【0035】
ここで、例えば、中間部材14が最遅角位置にあるときには、図20(a)、(b)に示すように、3個のボール46は、中間部材14の固定孔56に固定された状態でクランクプーリCP側(カムボルト19の頭部側)に位置し、3個のボール48は、図21と図22に示すピース82に保持された状態でヘッドH側(カムシャフト2側)に位置している。なお、リード溝26を6個のリード溝26a〜26fで表わし、リード溝42を3個のリード溝42a、42c、42eで表わし、リード溝44を3個のリード溝44b、44d、44fで表わすと、リード溝42a、42c、42eは、リード溝26a、26c、26eに対応し、リード溝44b、44d、44fは、リード溝26b、26d、26fに対応している。
【0036】
ここで、内筒部12と外筒部10の軸方向をそれぞれXとし、内筒部12が矢印Y方向に回転し、外筒部10が矢印Z方向に回転している状態を進角状態として進角制御を行うと、中間部材14がヘッドH側に移動するに伴って、3個のボール46もクランクプーリCP側からヘッドH側に、リード溝26b、44bとリード溝26d、44dおよびリード溝26f、44fに沿って、最大で破線で示す位置まで移動する。逆に、ピース82に保持された、3個のボール48はヘッドH側からクランクプーリCP側にリード溝26a、42aとリード溝26c、42cおよびリード溝26e、42eに沿って、最大で破線で示す位置まで移動する。このとき、中間部材14とボール46、48の移動に伴って、外筒部10と内筒部12に対して、互いに逆方向の周方向変位であって、中間部材14の軸方向における位置に応じて大きさの異なる周方向変位が付与され、外筒部10は、ボール46、48に対して、クランクプーリCP側から見て反時計周りに回転し、内筒部12は、ボール46、48に対して、クランクプーリCP側から見て時計周りに回転し、外筒部10とカムシャフト2間の位相が進角側に調整される。
【0037】
一方、中間部材14が、破線で示す進角位置にあるときには、中間部材14の固定孔56に固定された、3個のボール46は、中間部材14が最遅角位置にあるときよりも、ヘッドH側(カムシャフト2側)に位置し、ピース82に保持された、3個のボール48は、中間部材14が最遅角位置にあるときよりも、クランクプーリCP側(カムボルト19の頭部側)に位置している。この状態から遅角制御を行うと、中間部材14がヘッドH側からクランクプーリCP側に移動するに伴って、3個のボール46もヘッドH側からクランクプーリCP側へ移動し、逆に、ピース82に保持された、3個のボール48はクランクプーリCP側からヘッドH側に移動する。このとき、中間部材14とボール46、48の移動に伴って、外筒部10と内筒部12に対して、互いに逆方向の周方向変位であって、中間部材14の軸方向における位置に応じて大きさの異なる周方向変位が付与され、外筒部10は、ボール46、48に対して、クランクプーリCP側から見て時計周りに回転し、内筒部12は、ボール46、48に対して、クランクプーリCP側から見て反時計周りに回転し、外筒部10とカムシャフト2間の位相が遅角側に調整される。
【0038】
ここで、3個のボール46は、中間部材14の孔56内に挿入されて中間部材14に固定されているので、中間部材14とともに移動することになる。これに対して、3個のボール48は、中間部材14のガイド溝54内に挿入されたピース82の溝84内に挿入されているので、ピース82とともに移動することになる。中間部材14のガイド溝54は、図21と図22に示すように、中間部材14の軸心に対して傾斜しており、ピース82の溝84のうち直線部86は、中間部材14の軸方向に対して傾斜している。中間部材14のガイド溝54の延長線とピース82の直線部86の延長線は交差角θで交わっており、交差角θは、摩擦角以下で且つ0度を越える角度に設定されている。
【0039】
このため、中間部材14が任意の進角位置または遅角位置にあって、進角制御または遅角制御が行われないときに、外筒部10またはカムシャフト2からトルクが入力された場合でも、このトルク入力は、図23に示すように、カムシャフト2の軸心(中間部材14の軸心と平行な軸心)Lに対して傾斜したガイド溝54に挿入されたピース82の中のボール48に、ピース82の直線部86に対して直交する力Fを発生させる。ピース82の中間部材14に対する反力として、力Fに平行な力Faが発生する。このとき、力Fを、力Fに平行な成分Faとガイド溝54に直交する成分Fbとに分解すると、力Fに平行な成分Faとガイド溝54に直交する成分Fbとの為す角(θ1−(−θ2))は、ガイド溝54の延長線とピース82の直線部86の延長線との交差角θと同一となる(θ=θ1−(−θ2))。前述の交差角θに関する前提により、ガイド溝54に働く摩擦力Fcは力Fのガイド溝54に平行な成分Fdと同一であり、ピース82は移動できない。これによりボール48も移動できないため、動けなくなり、中間部材14は、任意の進角位置または遅角位置に保持される。
【0040】
一方、中間部材14が任意の進角位置または遅角位置にあるときに、進角制御または遅角制御が行われ、中間部材14が軸方向に変位した場合は、この軸方向変位は、図24に示すように、ピース82に対して、ピース82を下向きに下げる力Fとして作用する。このとき、ピース82の移動(矢印B方向への移動)により、ピース82の直線部86はボール48が中間部材14の動きとは逆方向(矢印C方向)の動きとなるよう誘導する。この結果、中間部材14は、進角制御または遅角制御により、任意の進角位置または遅角位置に位置決めされることになる。
【0041】
本実施例によれば、ソレノイド74またはソレノイド76の通電に伴って、中間部材14が進角位置または遅角位置に移動する過程では、中間部材14の移動に伴う軸方向変位に応答して、ボール46、48が互いに逆方向に移動し、外筒部10と内筒部12に対して互いに逆方向の周方向変位であって、中間部材14の軸方向における位置に応じて大きさの異なる周方向変位が付与され、外筒部10とカムシャフト2間の位相が可変に調整される。
【0042】
一方、ソレノイド74およびソレノイド76の非通電に伴って、中間部材14が進角位置または遅角位置にセットされ、外筒部10とカムシャフト2間の位相角が決定されたときには、外筒部10またはカムシャフト2からのトルク入力に対して、ボール46、48の移動が停止されて、トルク入力の伝達が阻止されるので、外筒部10を含む駆動軸側と内筒部12を含む従動軸側はトルク伝達が非可逆で、自己保持状態(セルフロック状態)となる。
【0043】
すなわち、外筒部10とカムシャフト2間の位相角が決定された後は、カムシャフト2から反力を受けても、電力を消費することなく、外筒部10を含む駆動軸側と内筒部12を含む従動軸側が自己保持状態(セルフロック状態)となり、位相角を決定された位相角に保持することができ、消費電力を低減することができる。
【0044】
また、リターンスプリングの弾性力に抗して、中間部材14を移動させる必要はなく、ソレノイド74またはソレノイド76を通電するだけで、中間部材14を移動させることができるので、リターンスプリングを用いたものよりも消費電力を低減することができる。
【0045】
さらに、中間部材14にランプ58、60を形成するに際して、互いに周方向における位相が異なるように形状としたので、周方向における位相が同一となる形状とする場合よりも、中間部材14全体の軸方向の長さを短くすることができるとともに、装置全体の軸方向の長さを短くすることができる。
【0046】
次に、本発明の第2実施例を図25に従って説明する。本実施例は、ボールの摺動路または転動路となるリード溝をパラレルグルーブ構造としたものであり、他の構成は第1実施例と同様である。具体的には、位相調整機構18Aは、非可逆トルク伝達機構として、外筒部10内周にその軸心と交差する方向に捩れて形成され、各互いに平行に形成された第1のリード溝群(ボール溝群)90と、内筒部12外周のうち第1のリード溝群を臨む領域にその軸心と交差し、第1のリード溝群90と逆方向に捩れて形成され、且つ互いに平行に形成された第2のリード溝群(ボール溝群)92と、第1のリード溝群90と第2のリード溝群92を摺動路または転動路として、摺動路または転動路に摺動または転動自在に挿入された、6個のボール46と、中間部材14のうち摺動路または転動路との対向面に形成されたガイド溝54に摺動または転動自在に挿入されピース94とを備えて構成されている。
【0047】
第1のリード溝群90は、互いに平行な6個のリード溝90a〜90fから構成され、第2のリード溝群92は、互いに平行であって、リード溝90a〜90fとは逆方向に捩れて形成された6個のリード溝92a〜92fから構成され、両者はパラレルグルーブとして形成されている。
【0048】
各ボール46は、摺動体または転動体として、中間部材14の固定孔56内に摺動または転動自在に固定されている。各ピース94は、略長方形形状に形成されてガイド溝54内に摺動自在に挿入され、ガイド溝54内に装着されたスプリング96から弾性力を受けて中間部材14から離れる方向に付勢され、スプリング96の弾性力に伴う移動が外筒部10または内筒部12との当接により規制されるようになっている。このピース94とガイド溝54との交差角θ(ガイド溝54に沿った直線と中間部材14の軸心とのなす角度θ)は、0度を超えて摩擦角以下に設定されている。
【0049】
位相調整機構18Aは、非可逆トルク伝達機構として、外筒部10と内筒部12間にトルクが作用した場合、互いに逆方向に捩れるが、中間部材14と外筒部10または内筒部12との間には相対的な動きが生じ、中間部材14がその軸方向に沿って動こうとするのに対して、外筒部10と内筒部12は回転方向に動こうとする。このとき、中間部材14は、ピース94と外筒部10または内筒部12との摩擦により、外筒部10または内筒部12と共回りしようとするが、ピース94の連れ回りにより、中間部材14は、トルクの掛かった方向(トルクの作用する方向)とは逆の軸方向に動かされようとする。
【0050】
例えば、ソレノイド74およびソレノイド76の非通電状態にあって、中間部材14が進角位置または遅角位置にセットされ、外筒部10とカムシャフト2間の位相角が決定された状態にあるときに、外筒部10またはカムシャフト2からのトルク入力として、外筒部10と内筒部12間にトルクが作用し、進角方向にトルクが掛かった場合(中間部材14がヘッドH側に進む場合)、ピース94は、摩擦力のため、中間部材14のガイド溝54の中でロックされ、中間部材14は、ヘッドH側に進めなくなる。このとき、外筒部10と内筒部12は、中間部材14に対して相対的に動けないので、外筒部10と内筒部12間にトルクが作用しても、作動せず、自己保持状態(セルフロック状態)となる。
【0051】
これに対して、中間部材14の軸方向の変位が位相調整機構18Aに作用した場合、ピース94にはスプリング96による弾性力のみしか作用しないので、ピース94はガイド溝54に沿ってスライドし、中間部材14は内筒部12の軸方向に沿って移動することができる。
【0052】
ここで、例えば、中間部材14が遅角位置にあるときに、ソレノイド74の通電により、進角制御を行うと、中間部材14がヘッドH側に移動するに伴って、中間部材14に固定されたボール46も中間部材14とともにヘッドH側に移動する。このとき、中間部材14とボール46の移動に伴って、外筒部10と内筒部12に対して、互いに逆方向の周方向変位であって、中間部材14の軸方向における位置に応じて大きさの異なる周方向変位が付与され、外筒部10は、ボール46に対して、クランクプーリCP側から見て反時計周りに回転し、内筒部12は、ボール46に対して、クランクプーリCP側から見て時計周りに回転し、外筒部10とカムシャフト2間の位相が進角側に調整される。
【0053】
一方、中間部材14が進角位置にあるときに、ソレノイド76の通電により、遅角制御を行うと、中間部材14がヘッドH側からクランクプーリCP側に移動するに伴って、中間部材14に固定されたボール46もヘッドH側からクランクプーリCP側へ移動する。このとき、中間部材14とボール46の移動に伴って、外筒部10と内筒部12に対して、互いに逆方向の周方向変位であって、中間部材14の軸方向における位置に応じて大きさの異なる周方向変位が付与され、外筒部10は、ボール46に対して、クランクプーリCP側から見て時計周りに回転し、内筒部12は、ボール46に対して、クランクプーリCP側から見て反時計周りに回転し、外筒部10とカムシャフト2間の位相が遅角側に調整される。
【0054】
本実施例によれば、ソレノイド74またはソレノイド76の通電に伴って、中間部材14が進角位置または遅角位置に移動する過程では、中間部材14の移動に伴う軸方向変位に応答して、ボール46がリード溝群90、92に沿って移動し、外筒部10と内筒部12に対して、互いに逆方向の周方向変位であって、中間部材14の軸方向における位置に応じて大きさの異なる周方向変位が付与され、外筒部10とカムシャフト2間の位相が可変に調整される。
【0055】
一方、ソレノイド74およびソレノイド76の非通電に伴って、中間部材14が進角位置または遅角位置にセットされ、外筒部10とカムシャフト2間の位相角が決定されたときには、外筒部10またはカムシャフト2からのトルク入力に対して、ボール46の移動が停止されて、トルクの伝達が阻止されるので、外筒部10を含む駆動軸側と内筒部12を含む従動軸側はトルク伝達が非可逆で、自己保持状態(セルフロック状態)となる。
【0056】
すなわち、外筒部10とカムシャフト2間の位相角が決定された後は、カムシャフト2から反力を受けても、電力を消費することなく、外筒部10を含む駆動軸側と内筒部12を含む従動軸側が自己保持状態(セルフロック状態)となり、位相角を決定された位相角に保持することができ、消費電力を低減することができる。
【0057】
次に、本発明の第3実施例を図26に従って説明する。本実施例は、ボールを用いずにヘリカルスプラインを用いたものであり、他の構成は第1実施例または第2実施例と同様である。本実施例における位相調整機構18Bは、非可逆トルク伝達機構として、外筒部10と内筒部12との間にピース94とスプリング96が直列になって挿入されており、中間部材14外周面にはヘリカルスプライン98が形成されている。中間部材14のヘリカルスプライン98は、外筒部10に形成されたヘリカルスプライン(図示せず)と噛み合い可能に形成されている。
【0058】
なお、外筒部10と内筒部12の位置を逆とし、内筒部12に、中間部材14のヘリカルスプライン98と噛み合い可能なヘリカルスプラインを形成することもできる。
【0059】
ピース94は、略長方形形状に形成されてガイド溝54内に摺動自在に挿入され、ガイド溝54内に装着されたスプリング96から弾性力を受けて中間部材14から離れる方向に付勢され、スプリング96の弾性力に伴う移動が外筒部10との当接により規制されるようになっている。このピース94とガイド溝54との交差角θ(ガイド溝54に沿った直線と中間部材14の軸心とのなす角度θ)は、0度を超えて摩擦角以下に設定されている。
【0060】
位相調整機構18Bは、非可逆トルク伝達機構として、外筒部10と内筒部12間にトルクが作用した場合、互いに逆方向に捩れるが、中間部材14と外筒部10または内筒部12との間には相対的な動きが生じ、中間部材14がその軸方向に沿って動こうとするのに対して、外筒部10と内筒部12は回転方向に動こうとする。このとき、中間部材14は、ピース94と外筒部10または内筒部12との摩擦により、外筒部10または内筒部12と共回りしようとするが、ピース94の連れ回りにより、中間部材14は、トルクの掛かった方向(トルクの作用する方向)とは逆の軸方向に動かされようとする。
【0061】
例えば、ソレノイド74およびソレノイド76の非通電状態にあって、中間部材14が進角位置または遅角位置にセットされ、外筒部10とカムシャフト2間の位相角が決定された状態にあるときに、外筒部10またはカムシャフト2からのトルク入力として、外筒部10と内筒部12間にトルクが作用し、進角方向にトルクが掛かった場合(中間部材14がヘッドH側に進む場合)、ピース94は、摩擦力のため、中間部材14のガイド溝54の中でロックされ、中間部材14は、ヘッドH側に進めなくなる。このとき、外筒部10と内筒部12は、中間部材14に対して相対的に動けないので、外筒部10と内筒部12間にトルクが作用しても、作動せず、自己保持状態(セルフロック状態)となる。
【0062】
これに対して、中間部材14の軸方向の変位が位相調整機構18Bに作用した場合、ピース94にはスプリング96による弾性力のみしか作用しないので、ピース94はガイド溝54に沿ってスライドし、中間部材14は、ヘリカルスプライン98が外筒部10のヘリカルスプラインと噛み合いながら内筒部12の軸方向に沿って移動することができる。
【0063】
ここで、例えば、中間部材14が遅角位置にあるときに、ソレノイド74の通電により、進角制御を行うと、中間部材14は、ヘリカルスプライン98が外筒部10のヘリカルスプラインと噛み合いながらヘッドH側に移動する。このとき、中間部材14の移動に伴って、外筒部10と内筒部12に対して、互いに逆方向の周方向変位であって、中間部材14の軸方向における位置に応じて大きさの異なる周方向変位が付与され、外筒部10は、中間部材14に対して、クランクプーリCP側から見て反時計周りに回転し、内筒部12は、中間部材14に対して、クランクプーリCP側から見て時計周りに回転し、外筒部10とカムシャフト2間の位相が進角側に調整される。
【0064】
一方、中間部材14が進角位置にあるときに、ソレノイド76の通電により、遅角制御を行うと、中間部材14は、ヘリカルスプライン98が外筒部10のヘリカルスプラインと噛み合いながらヘッドH側からクランクプーリCP側に移動する。このとき、中間部材14の移動に伴って、外筒部10と内筒部12に対して、互いに逆方向の周方向変位であって、中間部材14の軸方向における位置に応じて大きさの異なる周方向変位が付与され、外筒部10は、中間部材14に対して、クランクプーリCP側から見て時計周りに回転し、内筒部12は、中間部材14に対して、クランクプーリCP側から見て反時計周りに回転し、外筒部10とカムシャフト2間の位相が遅角側に調整される。
【0065】
本実施例によれば、ソレノイド74またはソレノイド76の通電に伴って、中間部材14が進角位置または遅角位置に移動する過程では、中間部材14の移動に伴う軸方向変位に応答して、ヘリカルスプライン98が外筒部10のヘリカルスプラインと噛み合いながら中間部材14が内筒部12の軸方向に沿って移動し、外筒部10と内筒部12に対して、互いに逆方向の周方向変位であって、中間部材14の軸方向における位置に応じて大きさの異なる周方向変位が付与され、外筒部10とカムシャフト2間の位相が可変に調整される。
【0066】
一方、ソレノイド74およびソレノイド76の非通電に伴って、中間部材14が進角位置または遅角位置にセットされ、外筒部10とカムシャフト2間の位相角が決定されたときには、外筒部10またはカムシャフト2からのトルク入力に対して、中間部材14の移動が停止されて、トルクの伝達が阻止されるので、外筒部10を含む駆動軸側と内筒部12を含む従動軸側はトルク伝達が非可逆で、自己保持状態(セルフロック状態)となる。
【0067】
すなわち、外筒部10とカムシャフト2間の位相角が決定された後は、カムシャフト2から反力を受けても、電力を消費することなく、外筒部10を含む駆動軸側と内筒部12を含む従動軸側が自己保持状態(セルフロック状態)となり、位相角を決定された位相角に保持することができ、消費電力を低減することができる。
【0068】
次に、本発明の第4実施例を図27に従って説明する。本実施例は、正リードと逆リードのねじを用いて位置制御機構16Aを構成したものであり、他の構成は第1実施例〜第3実施例のうちいずれかの実施例と同様である。本実施例における位置制御機構16Aは、内筒部12の周囲に内筒部12と回転可能に配置された複数の回転ドラム100、102と、進角時には、ソレノイド74を通電して、制動板70の回動により、回転ドラム100に制動力を付与して回転ドラム100の回転を減速させ、遅角時には、ソレノイド76を通電して、制動板72の回動により、回転ドラム102に制動力を付与して回転ドラム102の回転を減速させる電磁クラッチ66、68とを備えており、回転ドラム100と回転ドラム102との間には、中間部材14Aのフランジ部104が挿入されている(中間部材14Aは、中間部材14の軸方向一端側にフランジ部104を形成したものに相当する。)。各回転ドラム100、102のうち中間部材14Aとの対向面には、中間部材14Aを内筒部12の軸方向に沿ってガイドするための正リードのねじ部106または逆リードのねじ部108が形成されている。正リードのねじ部106は、中間部材14Aの正リードのねじ部112と噛み合い、逆リードのねじ部108は中間部材14Aの逆リードのねじ部110と噛み合い状態になっている。
【0069】
ここで、ソレノイド74とソレノイド76が非通電状態にあるときには、回転ドラム100、102は中間部材14Aとともに回転し、例えば、吸気バルブの開閉タイミングを制御する場合、アイドリング時には、中間部材14Aは最遅角位置にある。この後、進角制御するために、回転ドラム100、102が中間部材14Aとともに回転しているときに、ソレノイド74のみを通電し、制動板70から回転ドラム100に制動力を付与して回転ドラム100の回転を減速させると、中間部材14Aは回転ドラム102とともに回転する。このとき、ねじ部106とねじ部112との間に速度差が生じ、両者は相対回転できる状態にあり、回転ドラム100は減速した状態にある。この結果、中間部材14Aは、相対的に、ねじ部106とねじ部112との噛み合いにより、ヘッドH側に移動する。ソレノイド74の通電により、中間部材14Aは、最進角位置に移動する。中間部材14Aが最遅角位置から最進角位置に移動する過程で、任意のタイミングでソレノイド74を非通電状態にすると、中間部材14Aは任意の進角位置に位置決めされる。
【0070】
一方、中間部材14Aが最進角位置にあるときに、遅角制御するときには、回転ドラム100、102が中間部材14Aとともに回転しているときに、ソレノイド76のみを通電し、制動板72から回転ドラム102に制動力を付与して回転ドラム102の回転を減速させると、中間部材14Aは回転ドラム100とともに回転する。このとき、ねじ部108とねじ部110との間に速度差が生じ、両者は相対回転できる状態にあり、回転ドラム102は減速した状態にある。この結果、中間部材14Aは、相対的に、ねじ部108とねじ部110との噛み合いにより、内筒部12の軸方向に沿ってクランクプーリCP側(カムボルト19の頭部側)に移動する。ソレノイド76の通電により、中間部材14Aは、最遅角位置に移動する。中間部材14Aが最進角位置から最遅角位置に移動する過程で、任意のタイミングでソレノイド76を非通電状態にすると、中間部材14Aは任意の遅角位置に位置決めされる。
【0071】
中間部材14Aが任意の進角位置または遅角位置にあるときには、中間部材14Aは、回転ドラム100、102とともに回転することになり、この後、進角制御するときには、ソレノイド74を通電することで、中間部材14Aを他の進角位置に位置決めでき、また、遅角制御するときには、ソレノイド76を通電することで、中間部材14Aを他の遅角位置に位置決めできる。
【0072】
本実施例によれば、正リードのねじ部106、112と逆リードのねじ部108、110同士の噛み合いにより、中間部材14Aを進角または遅角位置に正確に位置決めすることができる。
【0073】
次に、本発明の第5実施例を図28に従って説明する。本実施例は、ボールと逆リードの溝を用いて位置制御機構16Bを構成したものであり、他の構成は第1実施例〜第4実施例のうちいずれかの実施例のものと同様である。本実施例における位置制御機構16Bは、内筒部12の周囲に内筒部12と回転可能に配置された複数の回転ドラム114、116と、進角時には、ソレノイド74を通電して、制動板70の回動により、回転ドラム114に制動力を付与して内筒部12との回転を減速させ、遅角時には、ソレノイド76を通電して、制動板72の回動により、回転ドラム116に制動力を付与して内筒部12との回転を減速させる電磁クラッチ66、68とを備えており、回転ドラム114と回転ドラム1116との間には、中間部材14Bのフランジ部118が挿入されている(中間部材14Bは、中間部材14の軸方向一端側にフランジ部118を形成したものに相当する。)。各回転ドラム114、116のうち中間部材14Bとの対向面には、中間部材14Bを内筒部12の軸方向に沿ってガイドするための正リードのボール溝(右ねじ)122と逆リードのボール溝(左ねじ)120が形成されている。ボール溝120、122は、中間部材14Bのフランジ部118の孔に摺動または転動自在に挿入されたボール124の転動路または摺動路として構成されている。
【0074】
ここで、ソレノイド74とソレノイド76が非通電状態にあるときには、回転ドラム114、116は中間部材14Bとともに回転し、例えば、吸気バルブの開閉タイミングを制御する場合、アイドリング時には、中間部材14Bは最遅角位置にある。この後、進角制御するために、回転ドラム114、116が中間部材14Bとともに回転しているときに、ソレノイド74のみを通電し、制動板70から回転ドラム114に制動力を付与して回転ドラム114の回転を減速させると、中間部材14Bは回転ドラム114とともに回転する。このとき、ボール124とボール溝120との間に速度差が生じ、両者は相対回転できる状態にあり、回転ドラム114は減速した状態にある。この結果、中間部材14Bは、ボール124がボール溝122に沿って転動または摺動することにより、ヘッドH側に移動する。ソレノイド74の通電により、中間部材14Bは、最進角位置に移動する。中間部材14Bが最遅角位置から最進角位置に移動する過程で、任意のタイミングでソレノイド74を非通電状態にすると、中間部材14Bは任意の進角位置に位置決めされる。
【0075】
一方、中間部材14Bが最進角位置にあるときに、遅角制御するときには、回転ドラム114、116が中間部材14Bとともに回転しているときに、ソレノイド76のみを通電し、制動板72から回転ドラム116に制動力を付与して回転ドラム116の回転を減速させると、中間部材14Bは回転ドラム114とともに回転する。このとき、ボール124とボール溝122との間に速度差が生じ、両者は相対回転できる状態にあり、回転ドラム116は減速した状態にある。この結果、中間部材14Bは、相対的に、ボール124がボール溝120に沿って転動または摺動することにより、内筒部12の軸方向に沿ってクランクプーリCP側(カムボルト19の頭部側)に移動する。ソレノイド76の通電により、中間部材14Bは、最遅角位置に移動する。中間部材14Bが最進角位置から最遅角位置に移動する過程で、任意のタイミングでソレノイド76を非通電状態にすると、中間部材14Bは任意の遅角位置に位置決めされる。
【0076】
中間部材14Bが任意の進角位置または遅角位置にあるときには、中間部材14Bは、回転ドラム114、116とともに回転することになり、この後、進角制御するときには、ソレノイド74を通電することで、中間部材14Bを他の進角位置に位置決めでき、また、遅角制御するときには、ソレノイド76を通電することで、中間部材14Bを他の遅角位置に位置決めできる。
【0077】
本実施例によれば、ボール124が、正リードのボール溝122または逆リードのボール溝120に沿って移動することにより、中間部材14Bを進角または遅角位置に正確に位置決めすることができる。
【0078】
次に、本発明の第6実施例を図29に従って説明する。本実施例は、軸受20のフランジ部22の代わりに、フランジ部22の軸方向端部に取り付け部22aが形成された構造のフランジ部22Aを用い、中間部材14外周と取り付け部22aとの間に軸受20を配置し、中間部材14外周に軸受20、フランジ部22Aを介してホルダ23を搭載したものであり、他の構成は第1実施例のものと同様である。なお、本実施例における構造は、第2実施例〜第5実施例のものにも適用することができる。
【0079】
本実施例によれば、中間部材14外周に軸受20、フランジ部22Aを介してホルダ23が搭載されているので、第1実施例のものよりも、内筒部12の軸方向における長さを短くすることができる。
【0080】
次に、本発明の第7実施例を図30に従って説明する。本実施例は、軸受20のフランジ部22の代わりに、フランジ部22の軸方向端部に取り付け部22bが形成された構造のフランジ部22Bを用い、外筒部10のフランジ部10aと取り付け部22bとの間に軸受20を配置し、外筒部10のフランジ部10a外周に軸受20、フランジ部22Bを介してホルダ23を搭載したものであり、他の構成は第1実施例のものと同様である。なお、本実施例における構造は、第2実施例〜第5実施例のものにも適用することができる。
【0081】
本実施例によれば、外筒部10のフランジ部10a外周に軸受20、フランジ部22Bを介してホルダ23が搭載されているので、第1実施例のものよりも、内筒部12の軸方向における長さを短くすることができる。
【0082】
前記各実施例によれば、電磁クラッチ66、68として、汎用品ソレノイド74、76を用いることができるので、コスト低減を図ることができる。
【0083】
また、前記各実施例によれば、装置全体が一体構造となり、従来のカバー側に電磁クラッチが付く構造のものよりもハンドリングが容易となる。
【符号の説明】
【0084】
10 外筒部
12 内筒部
14、14A、14B 中間部材
16、16A、16B 位置制御機構
18、18A、18B 位相調整機構
26 リード溝
28 小径外筒部
34、36 大径部
42、44 リード溝
46、48 ボール
50 小径部
52 大径部
54 ガイド溝
56 固定孔
58、60 ランプ
62、64、100、102、114、116 回転ドラム
66、68 電磁クラッチ
70、72 制動板
74、76 ソレノイド
78、80 ランプ
82、94 ピース
84 溝
86 直線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランクシャフトの駆動力が伝達される外筒部と、前記外筒部の内周側に相対回転可能に配置されて、前記エンジンの吸気バルブ又は排気バルブを開閉させるカムシャフトに同軸上に連結された内筒部と、前記内筒部の外周に前記内筒部の軸方向に沿って移動自在に配置された中間部材と、前記エンジンの運転状態に応じて前記中間部材の前記軸方向における位置を制御する位置制御機構と、前記中間部材の前記軸方向における位置に応じて前記外筒部と前記カムシャフト間の位相を可変に調整する位相調整機構とを備え、
前記位相調整機構は、
前記外筒部の内周にその軸心と交差する方向に形成され、且つ互いに平行に形成された第1のリード溝群と、前記内筒部の外周のうち前記第1のリード溝群を臨む領域にその軸心と交差し、且つ前記第1のリード溝群と逆方向に形成され、且つ互いに平行に形成された第2のリード溝群と、前記第1のリード溝群と前記第2のリード溝群を摺動路または転動路として、前記摺動路または転動路に摺動または転動自在に挿入された複数の摺動体または転動体と、前記中間部材のうち前記摺動路または転動路との対向面に形成されたガイド溝に摺動または転動自在に挿入されたピースとを含み、前記複数の摺動体または転動体は、前記中間部材に摺動または転動自在に固定され、前記ピースは、弾性力を受けて前記中間部材から離れる方向に付勢され、前記弾性力に伴う移動が前記外筒部または前記内筒部との当接により規制されており、前記ピースと前記ガイド溝との交差角は、0度を超えて摩擦角以下に設定されてなり、かつ前記外筒部または前記カムシャフトからのトルク入力に対して、前記トルクの伝達を阻止し、前記中間部材からの軸方向変位に応答して、前記軸方向変位を周方向変位に変換し、前記周方向変位を前記中間部材の前記軸方向における位置に応じて大きさの異なる変位であって、互いに逆方向の変位として前記外筒部と前記内筒部に付与してなるエンジンのバルブ制御装置。
【請求項2】
エンジンのクランクシャフトの駆動力が伝達される外筒部と、前記外筒部の内周側に相対回転可能に配置されて、前記エンジンの吸気バルブ又は排気バルブを開閉させるカムシャフトに同軸上に連結された内筒部と、前記内筒部の外周に前記内筒部の軸方向に沿って移動自在に配置された中間部材と、前記エンジンの運転状態に応じて前記中間部材の前記軸方向における位置を制御する位置制御機構と、前記中間部材の前記軸方向における位置に応じて前記外筒部と前記カムシャフト間の位相を可変に調整する位相調整機構とを備え、
前記位相調整機構は、
前記外筒部と前記内筒部との間に互いに直列に挿入されたピースとスプリングを備え、前記中間部材と前記外筒部または前記内筒部は互いにヘリカルスプラインで噛合され、前記ピースは、前記中間部材に形成されたガイド溝内に摺動自在に挿入され、前記ガイド溝内に装着されたスプリングから弾性力を受けて中間部材から離れる方向に付勢され、前記スプリングの弾性力に伴う移動が前記外筒部または前記内筒部との当接により規制され、前記ピースとガイド溝との交差角は、0度を超えて摩擦角以下に設定されてなり、かつ前記外筒部または前記カムシャフトからのトルク入力に対して、前記トルクの伝達を阻止し、前記中間部材からの軸方向変位に応答して、前記軸方向変位を周方向変位に変換し、前記周方向変位を前記中間部材の前記軸方向における位置に応じて大きさの異なる変位であって、互いに逆方向の変位として前記外筒部と前記内筒部に付与してなるエンジンのバルブ制御装置。
【請求項3】
前記位置制御機構は、前記内筒部の周囲に前記内筒部と回転可能に配置された複数の回転ドラムと、電磁力を基に、進角時には、前記複数の回転ドラムのうち一方の回転ドラムに制動力を付与して前記内筒部との回転を減速させ、遅角時には、前記複数の回転ドラムのうち他方の回転ドラムに制動力を付与して前記内筒部との回転を減速させる電磁クラッチとを備え、前記各回転ドラムの内周側にはその周方向に沿ってスライド用ランプがそれぞれ形成され、前記各スライド用ランプは、前記中間部材の外周側にその周方向に沿って形成された一対の位置決め用ランプの一方にそれぞれ係合してなることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンのバルブ制御装置。
【請求項4】
前記位置制御機構は、前記内筒部の周囲に前記内筒部と回転可能に配置された複数の回転ドラムと、電磁力を基に、進角時には、前記複数の回転ドラムのうち一方の回転ドラムに制動力を付与して前記内筒部との回転を減速させ、遅角時には、前記複数の回転ドラムのうち他方の回転ドラムに制動力を付与して前記内筒部との回転を減速させる電磁クラッチとを備え、前記中間部材のフランジ部が前記一方の回転ドラムと前記他方の回転ドラムとの間に挿入され、前記各回転ドラムのうち前記中間部材のフランジ部との対向面には、前記中間部材を前記内筒部の軸方向に沿ってガイドするための正リードまたは逆リードのねじ部が形成され、前記中間部材のフランジ部には正リードまたは逆リードのねじ部が形成され、前記正リードのねじ部同士または前記逆リードのねじ部同士が互いには噛み合い状態を維持してなることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンのバルブ制御装置。
【請求項5】
前記位置制御機構は、前記内筒部の周囲に前記内筒部と回転可能に配置された複数の回転ドラムと、電磁力を基に、進角時には、前記複数の回転ドラムのうち一方の回転ドラムに制動力を付与して前記内筒部との回転を減速させ、遅角時には、前記複数の回転ドラムのうち他方の回転ドラムに制動力を付与して前記内筒部との回転を減速させる電磁クラッチとを備え、前記中間部材のフランジ部が前記一方の回転ドラムと前記他方の回転ドラムとの間に挿入され、前記各回転ドラムのうち前記中間部材のフランジ部との対向面には、前記中間部材を前記内筒部の軸方向に沿ってガイドするための正リードまたは逆リードの溝が形成され、前記中間部材のフランジ部には前記正リードまたは逆リードの溝を摺動路または転動路とする摺動体または転動体が摺動または転動自在に固定されてなることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンのバルブ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate


【公開番号】特開2012−67752(P2012−67752A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238786(P2011−238786)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【分割の表示】特願2008−537340(P2008−537340)の分割
【原出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000227157)日鍛バルブ株式会社 (40)
【Fターム(参考)】